JP3718829B2 - 新規な有機シリコン高分子、キラル低分子認識用有機シリコン高分子及び光学活性な有機シリコン高分子ミクロ凝集体と凝集体の製造法 - Google Patents

新規な有機シリコン高分子、キラル低分子認識用有機シリコン高分子及び光学活性な有機シリコン高分子ミクロ凝集体と凝集体の製造法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、前記式1で表されるポリシラン側鎖中にフェニル基及びエーテル酸素を持つアキラルで光学不活性な新規な有機シリコン高分子、前記式2で表されるポリシラン側鎖中にフェニル基及びエーテル酸素を持つアキラルで光学不活性な有機シリコン高分子からなるキラル低分子認識用有機シリコン高分子、前記式2で表される有機シリコン高分子に低分子のキラル化合物が非共有結合による相互作用をして共存する光学活性を示す高分子ミクロ凝集体及び該高分子ミクロ凝集体の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
側鎖にエナンチオピュアなキラル置換基を有する有機シリコン高分子〔特にポリ(アルキル−p−(S)−2−メチルブトキシフェニルシラン)〕は、キラル基を持ちながら室温、分子分散状態では円二色(CD)不活性である。しかし良溶媒/貧混合溶媒中でポリシランミクロ凝集構造を形成すると顕著なCD吸収が出現し、さらに溶媒の極性や温度変化によりCD強度や符号がスイッチンク(正負に変わる現象)するユニークな現象があることを見出し、これらのキラル化合物の集合状態と光学活性特性とに関する報告を、本発明者等がしている(特願平11ー294519号)。
【0003】
一方、アキラルで光学不活性な特定の構造を持った高分子がキラル低分子を認識する特性を持つことは既に知られている。前記アキラルで光学不活性な高分子のキラル低分子を認識する特性は、該高分子が持つ極性基とキラル低分子との一分子同士が相互作用をして分散した状態で光学活性が発現するものであることが報告されている(J.Am.Chem.Soc.1997,119,6345-6359、文献A:Nature |VOL 399|3 JUNE 1999|www.nature.com,449-451、文献B)。すなわち、文献Bには、カルボキシル基を持ったアキラルで光学不活性なポリ(4−カルボキシフェニル)アセチレンとキラルアミノアルコールとから光学活性なマクロ分子ヘリカル構造を発現させることができたこと、該ヘリカル構造の発現後アキラルアミノアルコール低分子で、前記キラルアミノアルコールを置換しても、前記誘起された光学活性が保持される、すなわち前記光学活性のマクロ分子ヘリカル構造が記憶されていることが説明されている。
しかしながら、前記公知の方法では、アキラルで光学不活性な高分子とキラル低分子化合物との相互作用が強くなければならない。従って、アキラルで光学不活性な高分子はカルボン酸基やボロン酸基などの強い極性基を導入することが必要である。また、認識される基質側(キラル低分子側)も当然に前記高分子の極性基と相互作用する強い極性基を有するアミノ酸やアミノアルコール類などである必要がある。更に、これらは、光学活性を示す条件が溶液状態であるため、温度などの影響を受けやすく、光学活性も不安定であるという不都合があった。
【0004】
近年、化学物質などが光学特性(分子不斉)の違いにより必要とする特性の現れ方に違いがあることが多くの分野で解明され、研究の分野に限らず、効率的な目的物の製造の面からも、キラル分子認識特性等、光学活性を持つ材料が注目されて来ている。前記キラル分子認識特性はコンビナートケミストリーにおけるキラル物質の特定に、また、製造の面では光学活性物質の分離用カラムや充填材として注目されている。そして、このような分野では、前記分離特性を示す高分子化合物が注目されている。
前記従来技術において、光学活性を示す基を導入した高分子化合物を製造する技術が報告されているが、光学活性の基を持った高分子の製造には、モノマーの製造などに効率的な製造の面(コストの面を含めて)での技術的困難性がある。また、前記アキラルで光学不活性な高分子を用いて光学活性を示す生成物を得る技術においては、認識するキラル低分子化合物は強い極性のものに限られること、モノマーは側鎖に強い極性基を持つものを設計し、製造することが必要であり実用性から考えると十分なものとは言えないという不都合があった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題第1は、原料の製造及び高分子の合成の面での前記実用性の不都合が改善され、且つ、従来認識できなかったキラル低分子を認識できる、キラル分子の認識を非共有結合の比較的弱い相互作用によって認識でるアキラルで光学不活性な高分子を見出すことであり、第2は、前記特性を持つ新規な高分子を創製することであり、第3は、該各高分子とキラル低分子とにより、従来の温度に対して不安定であった光学活性の不都合を改善した新規な光学活性な高分子ミクロ凝集体を提供すること、及び該凝集体の製造方法を提供することである。
前記課題を解決すべく、種々の高分子のキラル低分子認識について検討する中で、ポリシランの側鎖の、フェニル基に結合するエーテル結合のような弱い極性基が、キラル低分子を認識して、光学活性な機能を発現させるミクロ凝集体構造を発現させることができることを発見し、前記各課題を解決した。
【0006】
キラル置換基を側鎖にもたない光学不活性な有機ポリシラン類に、外部から種々のキラル低分子種を、それぞれの物質に対して良溶媒の存在下に配合(ドープ)し、前記有機ポリシラン類の貧溶媒、例えばメタノールの共存下で高分子有機シリコンミクロ凝集体構造を形成させると、該凝集体構造により誘起される顕著なCD特性が観測されることを見出した。これにより、該有機シリコン高分子は、キラル低分子と非共有結合による相互作用する共存下で光学活性な高分子ミクロ凝集体を形成させる、該キラル低分子認識用材料として有用であることを見出した。さらに、光学活性が誘起された有機シリコン高分子凝集体は、添加したキラル分子の不斉を識別しCDの符号を反映させることができること、キラルアルコール類を添加したケースでは、キラルアルコールのOH基とキラルセンターとの距離に依存した特異なCD特性として偶奇効果(これらの間の炭素の数が奇数か偶数かによりCD特性の発現に顕著な差がある現象)が見られることなどを発見した。これらの材料の光学活性の特性は、将来的に前記注目技術の光学異性体分離カラム、キラルセンシンク材料、化学刺激に応答する光スイッチ、メモリ、コンビナートケミストリーなどの幅広い分野での応用が期待される。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明の第1は、下記の式1で表されるアキラルで光学不活性な有機シリコン高分子である。
【0008】
【化3】
Figure 0003718829
【0009】
(式中、R1は炭素数が1以上10以下の炭化水素鎖からなる基、R2は炭素数が2以上10以下の直鎖炭化水素又は炭化水素鎖がO、N、又はS原子で結合する直鎖であり、Siに結合したフェニル基のメタ又はパラ位にOを介して結合している基。nは10〜100000の範囲である)
好ましくは、式1の有機シリコン高分子において、R2が炭素数2〜4のアルキル基であることを特徴とする前記光学不活性な有機シリコン高分子である。
【0010】
本発明の第2は、下記の式2で表されるアキラルで光学不活性な有機シリコン高分子と前記光学不活性な有機シリコン高分子の良溶媒からなる、キラル低分子と非共有結合による相互作用する共存下で光学活性な高分子ミクロ凝集体を形成する前記光学活性な高分子ミクロ凝集体前駆体組成物である。
【0011】
【化4】
Figure 0003718829
【0012】
(式中、R1は炭素数が1以上10以下の炭化水素鎖からなる基、R2は炭素数が1以上10以下の直鎖炭化水素又は炭化水素鎖がO、N、又はS原子で結合する直鎖であり、Siに結合したフェニル基のメタ又はパラ位にOを介して結合している基。nは10〜100000の範囲である)好ましくは、式2の有機シリコン高分子において、R2が炭素数1〜10のアルキル基であることを特徴とする前記光学活性な高分子ミクロ凝集体前駆体組成物である
【0013】
本発明の第3は、上記式2で表されるアキラルで光学不活性な有機シリコン高分子に低分子のキラル化合物が非共有結合による相互作用をして共存する光学活性を示す高分子ミクロ凝集体である。好ましくは、式2の有機シリコン高分子において、R2が炭素数1〜10のアルキル基であることを特徴とする前記光学活性を示す高分子ミクロ凝集体である。
【0014】
本発明の第4は、前記式2で表されるアキラルで光学不活性な有機シリコン高分子と低分子のキラル化合物とを両者の良溶媒の存在下で、該有機シリコン高分子に対して貧溶媒である溶媒を共存させ、該アキラルで光学不活性な有機シリコン高分子と該低分子のキラル化合物とを非共有結合による相互作用の下に凝集させることにより光学活性に変化させることを特徴とする光学活性を示す高分子ミクロ凝集体の製造方法である。好ましくは、式2の有機シリコン高分子において、R2が炭素数1〜10のアルキル基であることを特徴とする請求項7に記載の光学活性を示す高分子ミクロ凝集体の製造方法である。
【0015】
【本発明の実施の態様】
本発明をより詳細に説明する。
A.本発明で用いられるアキラルで光学不活性な有機シリコン高分子化合物は式1の構造の新規化合物及び式2の構造の、特にSiに結合するフェニル基のメタ又はパラ位にアルコキシを持つこと、及びR1がO等の極性を示す原子を持たない炭化水素、特に脂肪族アルキル基であることに特徴がある。キラル低分子認識能は、ポリシラン自体の構造にも大さく依存する(極性基のベクトル)。最適な不斉認識には、前記したようにポリシラン側鎖中にエーテル酸素、フェニル基が必要であり、側鎖の混雑度(オルト又はメタ配位、アルキル基の大きさ等)立体的バランスなども重要なファクターである。
そのようなポリマーとして、式2において、R1=n−ヘキシル基でありR2=メチル基であるもの(化合物1)は公知である。
本発明では、新たに、式1に含まれる新規なポリマーである化合物2〜5を合成した。また、式2のポリマーにおけるキラル分子認識部位、構造などを知るために、化合物6(エーテル酸素を含まない。参考例1で使用。)のポリマーを合成し、また、公知の有機シリコン高分子(式2のR1がエーテル酸素を含む。化合物7)を用いて高分子ミクロ凝集体を製造し、その光学活性を調べた。
【0016】
B.ミクロ凝集体の製造方法は基本的には以下の工程によりなる。
1.有機シリコン高分子を良溶媒に溶解させる。その際の高分子の上限の濃度は該高分子の溶解度の限界までである。好ましい良溶媒としてはトルエン、テトラヒドロフラン(THF)、クロロホルムなどを挙げることができる。
2.前記有機シリコン高分子の良溶媒溶液にキラル低分子を混合して混合溶液を調製する。
3.有機シリコン高分子に対して貧溶媒(高い貧溶媒度)でありキラル低分子は溶解する溶媒を、前記混合溶液にゆっくり滴下し、室温にて撹拌する。該貧溶媒の滴下によって特定のキラル配置が誘起された光学活性な有機シリコン高分子ミクロ凝集体が生成する。
【0017】
4.前記製法の変形としては、
a.混合溶媒を貧溶媒に滴下する方法。
b.有機シリコン高分子のみを良溶媒に溶液させ、これをキラル低分子を溶解させた前記有機シリコン高分子対して貧溶媒である溶液に滴下する方法、又は滴下する溶液を反対にする方法。
要は、有機シリコン高分子ミクロ凝集体が生成する時点では、有機シリコン高分子、良溶媒、キラル低分子及び前記有機シリコン高分子対する貧溶媒が、有機シリコン高分子とキラル低分子とが相互作用の下に有機シリコン高分子ミクロ凝集体が生成するように共存させることである。
該有機シリコン高分子対する貧溶媒としては、メタノールを好ましいものとして挙げることができる。
本発明の凝集体は、微結晶または液晶構造に類似しており、デバイス構築を考える上でより実用化レベルに近いといえる。
【0018】
C.式1の新規化合物2−5の合成、及び参考例1に用いる化合物6の合成について示す。
下記に前記新規化合物のモノマーを得る共通の反応式を示す。(以下の反応において、Phは、フェニレン基を表す。)
HOPh-X+R2-X+K2CO3 −→ R2OPh-X(X=Cl,Br)(溶媒DMF)
R2OPh-X+Mg −→ R2OPh-Mg-X(X=Cl,Br)(溶媒THF)
R1SiCl3 + R2OPh-Mg-X −→ R2OPhR1SiCl2(溶媒Rt2O)
(DMF=ジメチルホルムアミド、THF=テトラヒドロフラン、Rt2O=ジエチルエーテル)
該モノマーからポリマーの製造には、公知のウルツ(Wurtz)カップリング法を用いればよい。
以下に、新規ポリマー製造用の有機ジクロロシラン類の13C-NMR,29Si-NMR(CDCl3,20),沸点、純度(CGによる)の各データ、ポリマーのデータを示す。
【0019】
化合物2:式1において、R1=n-ヘキシル基、R2=エチル基であるモノマー:
n-ヘキシル-p-エトキシフェニルシランジクロライドの物性。
13C-NMR:14.047,14.688,20.890,22.453,31.272,32.074,63.380,114.449,123.449,135.119,161.612ppm
29Si-NMR:19.298ppm
沸点: 180℃−185℃/0.8mmHg
GC:>98%
ポリマー2;ポリ(n-ヘキシル-p-エトキシフェニルシラン)
収量:0.28g 収率=7.3% 重量平均分子量=50万
【0020】
化合物3:式1において、R1=n-ヘキシル基、R2=プロピル基を得るモノマー:
n-ヘキシル-p-n-プロポキシフェニルシランジクロライドの物性。
13C-NMR:10.475,14.034,20.924,22.466,31.286,32.074,69.415,114.515,123.449,135.106,161.832ppm
29Si-NMR:19.298ppm
沸点:180℃−185℃/0.4mmHg
GC:>98%
ポリマー3;ポリ(n-ヘキシル-p-n-プロポキシフェニルシラン)
収量:0.22g 収率=4.5% 重量平均分子量=77万
【0021】
化合物4:式1において、R1=n-ヘキシル基、R2=プロピル基を得るモノマー:
n-ヘキシル-m-n-プロポキシフェニルシランジクロライドの物性。
13C-NMR:10.535,14.047,20.663,22.453,22.573,31.266,32.067,69.522,117.620,119.196,125.265,129.591,133.984,158.828ppm
29Si-NMR:19.095ppm
沸点:180℃−185℃/0.4mmHg
GC:>98%
ポリマー4;ポリ(n-ヘキシル-m-n-プロポキシフェニルシラン)
収量:0.16g 収率=4.1% 重量平均分子量=14万
【0022】
化合物5:式1において、R1=n-ヘキシル基、R2=n-ブチル基を得るモノマー:
n-ヘキシル-p-n-ブトキシフェニルシランジクロライドの物性。
13C-NMR:13.807,14.047,19.195,20.897,22.453,31.152,31.272,32.080,67.593,114.482,123.382,135.106,161.832ppm
29Si-NMR:19.281ppm
沸点:185℃−200℃/0.5mmHg
GC:>98%
ポリマー5;ポリ(n-ヘキシル-p-n-ブトキシフェニルシラン)
収量:0.23g 収率=6.0% 重量平均分子量=22万
【0023】
化合物6(参考例1):式1のアルコキシ基をn-ブチル基としたもの〔すなわち極性基となるエーテル結合(−O−)の光学活性を示す高分子ミクロ凝集体を生成への寄与を知るための参考例〕。
n-ヘキシル-p-n-ブチルフェニルシランジクロライドの物性。
13C-NMR:13.913,14.047,20.770,22.439,31.272,32.087,33.322,35.739,128.463,129.484,133.383,146.817ppm
29Si-NMR:19.366ppm
沸点:180℃−185 ℃/0.5mmHg
GC:>98%
ポリマー6;ポリ(n-ヘキシル-p-n-ブチルフェニルシラン)
収量:0.19g 収率=4.9% 重量平均分子量=8万
【0024】
【実施例】
実施例
ここに、高分子有機シリコンミクロ凝集体を調製する共通の方法を説明する。
ポリシランを良溶媒であるトル工ンに、濃度;5×10-4mol/Lとなるように溶解する。
前記ポリシラン−トルエン溶液にキラル低分子を溶解させ混合溶液を調製する。
前記混合溶液にメタノールをゆっくり滴下し2分撹拌(室温)し凝集体を形成する。全ての光学活性を示す高分子ミクロ凝集体の製造、及び参考例の凝集体の製造において、トルエン溶液/キラル低分子/メタノールの組成は体積比で30%/50%/20%とした。
CDスペクトルは20℃でUV-Vis/CDスペクトル測定(2mmセル使用)により実施した。
式1のポリマーにキラル低分子を配合して、両者が相互作用する条件の下で得られる高分子ミクロ凝集体の光学活性、すなわちCD強度や符号を測定することにより、配合(ドープ)されたキラル分子の同定、定量が可能である。
特に、複数のポリマーから得られるCD強度や符号の情報を総合することによりより正確な同定が可能となる。、
従って、本発明の式2の有機シリコン高分子は配合されるキラル分子のキラルセンシング機能を持つ、換言すればキラル低分子認識用高分子として有用である、と言える。
【0025】
以下、図面に従って、本発明の具体例を説明する。
化合物1の種々のキラル低分子共存ミクロ凝集体の光学活性特性(円二色吸収係数(Δε))。
1.一級アルコール類共存の光学活性特性
2−メチル−1−ブタノール(2-Me-1-BuOH)、3−メチル−1−ペンタノール(2-Me-1-PenOH)、4−メチル−1−ヘキサノール(4-Me-1-HexOH)(以上図1)、5−メチル−1−ヘプタノール(5-Me-1-HepOH)、及び6−メチル−1−オクタノール(6-Me-1-OctOH)(以上図2)共存の吸収係数(ε)と円二色吸収係数(Δε)の波長との関係を示す。
2.二級アルコール類の認識能
2−ブタノール(2-BuOH)、2−ペンタノール(2-PenOH)、2−ヘキサノール(2-HexOH)(以上図3)、2−ヘプタノール(2-HepOH)、2−オクタノール(2-OctOH)(以上図4)共存の吸収係数(ε)と円二色吸収係数(Δε)の波長との関係を示す。
【0026】
化合物2の種々のキラル低分子共存ミクロ凝集体の光学活性特性(円二色吸収係数(Δε))。
1.一級アルコール類共存の光学活性特性
2−メチル−1−ブタノール(2-Me-1-BuOH)、3−メチル−1−ペンタノール(2-Me-1-PenOH)、4−メチル−1−ヘキサノール(4-Me-1-HexOH)(以上図5)、5−メチル−1−ヘプタノール(5-Me-1-HepOH)及び6−メチル−1−オクタノール(6-Me-1-OctOH)(以上図6)共存の吸収係数(ε)と円二色吸収係数(Δε)の波長との関係を示す。
2.二級アルコール類の認識能
2−ブタノール(2-BuOH)、2−ペンタノール(2-PenOH)、2−ヘキサノール(2-HexOH)(以上図7)、2−ヘプタノール(2-HepOH)、2−オクタノール(2-OctOH)(以上図8)共存の吸収係数(ε)と円二色吸収係数(Δε)の波長との関係を示す。
【0027】
化合物3の種々のキラル低分子共存ミクロ凝集体の光学活性特性(円二色吸収係数(Δε))。
1.一級アルコール類共存の光学活性特性
2−メチル−1−ブタノール(2-Me-1-BuOH)、3−メチル−1−ペンタノール(2-Me-1-PenOH)、4−メチル−1−ヘキサノール(4-Me-1-HexOH)(以上図9)、5−メチル−1−ヘプタノール(5-Me-1-HepOH)及び6−メチル−1−オクタノール(6-Me-1-OctOH)(以上図10)共存の吸収係数(ε)と円二色吸収係数(Δε)の波長との関係を示す。
2.二級アルコール類の認識能
2−ブタノール(2-BuOH)、2−ペンタノール(2-PenOH)、2−ヘキサノール(2-HexOH)(以上図11)、2−ヘプタノール(2-HepOH)、2−オクタノール(2-OctOH)(以上図12)共存の吸収係数(ε)と円二色吸収係数(Δε)の波長との関係を示す。
3.キラルアミン類、その他のキラル化合物類共存の光学活性特性
1−フェニルエチルアミン(PhEtNH2)、2−アミノ−1−プロパノール(2-Amino-1-propanol)、1−アミノ−2−プロパノール(1-Amino-2-propanol)(以上図13)、2−アミノ−1−ブタノール(2-Amino-1-butanol)、β−シトロネロール(β-Citronellol)(以上図14)、1−フェニルエタノール(PhEtOH)、1−オクチン−3−オール(1-Octyn-3-ol)(以上図15)共存の吸収係数(ε)と円二色吸収係数(Δε)の波長との関係を示す。
【0028】
化合物4の種々のキラル低分子共存ミクロ凝集体の光学活性特性(円二色吸収係数(Δε))。
1.1−フェニルエタノール(PhEtOH)及び1−フェニルエチルアミン(PhEtNH2)、2−ブタノール(2-BuOH)(以上図16)共存の吸収係数(ε)と円二色吸収係数(Δε)の波長との関係を示す。
前記化合物3の種々のキラル低分子共存ミクロ凝集体の光学活性特性と対比すると、アルコキシ基の位置がメタ位よりもパラ位の方がより大きなCD強度を示すことが分かる。これはメタ体では、側鎖基が非常に混雑しておりキラル低分子が入りにくく、Si主鎖自身の折れ曲りが多く、キラル凝集構造をとりにくいなどの要素が考えられる。一方、パラ体は側鎖運動性の自由度が高く、フレキシブルにキラル凝集体配置をとりうる、立体的バランスがよいなどの特徴が有利の働くものと思われる。
【0029】
化合物5の種々のキラル低分子共存ミクロ凝集体の光学活性特性(円二色吸収係数(Δε))。
1.一級アルコール類共存の光学活性特性
2−メチル−1−ブタノール(2-Me-1-BuOH)、3−メチル−1−ペンタノール(2-Me-1-PenOH)、4−メチル−1−ヘキサノール(4-Me-1-HexOH)(以上図17)、5−メチル−1−ヘプタノール(5-Me-1-HepOH)及び6−メチル−1−オクタノール(6-Me-1-OctOH)(以上図18)共存の吸収係数(ε)と円二色吸収係数(Δε)の波長との関係を示す。
2.二級アルコール類の認識能
2−ブタノール(2-BuOH)、2−ペンタノール(2-PenOH)、2−ヘキサノール(2-HexOH)(以上図19)、2−ヘプタノール(2-HepOH)、2−オクタノール(2-OctOH)(以上図20)共存の吸収係数(ε)と円二色吸収係数(Δε)の波長との関係を示す。
【0030】
参考例1
化合物6(参考例1)の1−フェニルエタノール(PhEtOH)、1−フェニルエチルアミン(PhEtNH2)及び2−ブタノール(2-BuOH)共存のミクロ凝集体の光学活性特性である、吸収係数(ε)と円二色吸収係数(Δε)の波長との関係を図21に示す。
式2の有機シリコン高分子化合物に配合した場合に最も強いCDを誘起する、1−フェニルエタノール(PhEtOH)を共存させた場合でも光学活性が誘起されない。前記、本発明のポリマーの構造と対比すると、本発明のポリシラン側鎖中のエーテル酸素が配合されるキラル分子との相互作用に有効に働いているものと推測される。
参考例2
有機シリコン高分子化合物化合物として、ポリ〔ビス(p-n-プロポキシフェニル)シラン〕(すなわち、式1のR1をp-n-プロポキシフェニルとしたポリマー)用いて、キラル分子1−フェニルエタノール(PhEtOH)、1−フェニルエチルアミン(PhEtNH2)及び2−ブタノール(2-BuOH)共存のミクロ凝集体の光学活性特性である、吸収係数(ε)と円二色吸収係数(Δε)の波長との関係を図22に示す。
参考例1と同様に、式2の有機シリコン高分子化合物に配合した場合に最も強いCDを誘起する、1−フェニルエタノール(PhEtOH)を配合した場合でも光学活性が誘起されない。
【0031】
図23に、1級アルコールの不斉認識における、OH基と不斉炭素の距離と(これらの間に存在する炭素の数を横軸として)円二色吸収係数との関係をプロットした。フェニル基の置換基がプロポキシ基の場合とエトキシ基の場合とでは、前記距離に対する相関において極めて顕著な違いを示すことが分かった。
また、各々の有機シリコン高分子化合物は、同一のキラルアルコールに対して異なった相互作用を示すことから、これらの特性を総合することにより、キラルアルコールの同定に利用できることが予想される。
図24に、2級アルコールの不斉認識における、アルキル基の大きさ(炭素数、OH基の位置は2位に固定されている。)と円二色吸収係数との関係をプロットした。このことから、CD強度は添加するアルコールの炭素数と相関があることが理解される。また、各々の有機シリコン高分子化合物は、同一のキラルアルコールに対して異なった相互作用を示すことから、これらの特性を総合することにより、キラルアルコールの同定に利用できることが予想される。
図25に、認識できないキラル化合物類と認識可能なキラル化合物(一部)の円二色吸収係数強度列の一覧表を示した。
【0032】
以上の結果から、本発明の式2の有機シリコン高分子はキラルアルコールに対して認識能を持つことが理解される。一般的には、キラルアルコール類の不斉を認識することは非常に困難であるとされている。しかしながら、前記ポリシラン凝集体を用ることにより、ポリシラン中のエーテル酸素(弱い極性基)によるものと考えられるキラルアルコールの認識能を確認できたことは、相互作用をする基の新しい発見にもつながる可能性がある。また、分子分散状態とは異なり、凝集体レベルで分子不斉認識機能を発現させたことは、デバイス構築を指向する上でより現実的である。
【0033】
【発明の効果】
以上述べたように、高分子自体はアキラルで光学活性を持たず、配合されるキラル低分子との相互作用によって形成される高分子ミクロ凝集体に光学活性が誘起されことから、該高分子をキラル低分子の認識に利用でき、且つ従来のキラル低分子により誘起される光学活性の状態が、不安定な分子分散状態であるのに対し、凝集体レベルの安定な状態で分子不斉認識機能を発現させことができ点で、前記に挙げた光学活性物質の利用との関連から見ても、有用であることは明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【図1】 ポリ(n-ヘキシル-p-メトキシフェニルシラン)のキラル一級アルコール類の認識能(波長−円二色吸収係数)
【図2】 ポリ(n-ヘキシル-p-メトキシフェニルシラン)のキラル一級アルコール類の認識能(波長−円二色吸収係数)
【図3】 ポリ(n-ヘキシル-p-メトキシフェニルシラン)のキラル二級アルコール類の認識能(波長−円二色吸収係数)
【図4】 ポリ(n-ヘキシル-p-メトキシシフェニルシラン)のキラル二級アルコール類の認識能(波長−円二色吸収係数)
【図5】 ポリ(n-ヘキシル-p-エトキシフェニルシラン)のキラル一級アルコール類の認識能(波長−円二色吸収係数)
【図6】 ポリ(n-ヘキシル-p-エトキシフェニルシラン)のキラル一級アルコール類の認識能(波長−円二色吸収係数)
【図7】 ポリ(n-ヘキシル-p-エトキシフェニルシラン)のキラル二級アルコール類の認識能(波長−円二色吸収係数)
【図8】 ポリ(n-ヘキシル-p-エトキシシフェニルシラン)のキラル二級アルコール類の認識能(波長−円二色吸収係数)
【図9】 ポリ(n-ヘキシル-p-n-プロポキシフェニルシラン)のキラル一級アルコール類の認識能(波長−円二色吸収係数)
【図10】 ポリ(n-ヘキシル-p-n-プロポキシフェニルシラン)のキラル一級アルコール類の認識能(波長−円二色吸収係数)
【図11】 ポリ(n-ヘキシル-p-n-プロポキシフェニルシラン)のキラル二級アルコール類の認識能(波長−円二色吸収係数)
【図12】 ポリ(n-ヘキシル-p-n-プロポキシフェニルシラン)のキラル二級アルコール類の認識能(波長−円二色吸収係数)
【図13】 ポリ(n-ヘキシル-p-n-プロポキシフェニルシラン)のキラルアミン類、その他のキラル化合物類の認識能(波長−円二色吸収係数)
【図14】 ポリ(n-ヘキシル-p-n-プロポキシフェニルシラン)のキラルアミン類、その他のキラル化合物類の認識能(波長−円二色吸収係数)
【図15】 ポリ(n-ヘキシル-p-n-プロポキシフェニルシラン)のキラルアミン類、その他のキラル化合物類の認識能(波長−円二色吸収係数)
【図16】 ポリ(n-ヘキシル-m-n-プロポキシフェニルシラン)の各種キラルキラル低分子の認識能(波長−円二色吸収係数)
【図17】 ポリ(n-ヘキシル-p-n-ブトキシフェニルシラン)のキラル一級アルコール類の認識能(波長−円二色吸収係数)
【図18】 ポリ(n-ヘキシル-p-n-ブトキシフェニルシラン)のキラル一級アルコール類の認識能(波長−円二色吸収係数)
【図19】 ポリ(n-ヘキシル-p-n-ブトキシフェニルシラン)のキラル二級アルコール類の認識能(波長−円二色吸収係数)
【図20】 ポリ(n-ヘキシル-p-n-ブトキシフェニルシラン)のキラル二級アルコール類の認識能(波長−円二色吸収係数)
【図21】 ポリ(n-ヘキシル-p-n-ブチルフェニルシラン)の各種キラルキラル低分子の認識能(波長−円二色吸収係数)
【図22】 ポリ〔ビス(p-n-プロポキシフェニル)シラン〕の各種キラルキラル低分子の認識能(波長−円二色吸収係数)
【図23】 1級アルコールの不斉認識における、OH基と不斉炭素の距離と円二色吸収係数の関係
【図24】 2級アルコールの不斉認識における、アルキル基の大きさ(炭素数、OH基の位置は2位に固定されている。)と円二色吸収係数の関係
【図25】 認識できないキラル化合物類と認識可能なキラル化合物(一部)の円二色吸収係数強度列の一覧表

Claims (8)

  1. 下記の式1で表されるアキラルで光学不活性な有機シリコン高分子。
    Figure 0003718829
    (式中、R1は炭素数が1以上10以下の炭化水素鎖からなる基、R2は炭素数が2以上10以下の直鎖炭化水素又は炭化水素鎖がO、N、又はS原子で結合する直鎖であり、Siに結合したフェニル基のメタ又はパラ位にOを介して結合している基。nは10〜100000の範囲である)
  2. 式1の有機シリコン高分子において、R2が炭素数2〜4のアルキル基であることを特徴とする請求項1に記載の光学不活性な有機シリコン高分子。
  3. 下記の式2で表されるアキラルで光学不活性な有機シリコン高分子と前記光学不活性な有機シリコン高分子の良溶媒からなる、キラル低分子と非共有結合による相互作用する共存下で光学活性な高分子ミクロ凝集体を形成する前記光学活性な高分子ミクロ凝集体前駆体組成物。
    Figure 0003718829
    (式2中、R1は炭素数が1以上10以下の炭化水素鎖からなる基、R2は炭素数が1以上10以下の直鎖炭化水素又は炭化水素鎖がO、N、又はS原子で結合する直鎖であり、Siに結合したフェニル基のメタ又はパラ位にOを介して結合している基。nは10〜100000の範囲である)
  4. 式2の有機シリコン高分子において、R2が炭素数1〜10のアルキル基であることを特徴とする請求項3に記載の光学活性な高分子ミクロ凝集体前駆体組成物。
  5. 請求項3に記載の式2で表されるアキラルで光学不活性な有機シリコン高分子に低分子のキラル化合物が非共有結合による相互作用をして共存する光学活性を示す高分子ミクロ凝集体。
  6. 式2の有機シリコン高分子において、R2が炭素数1〜10のアルキル基であることを特徴とする請求項5に記載の光学活性を示す高分子ミクロ凝集体。
  7. 請求項3に記載の式2で表されるアキラルで光学不活性な有機シリコン高分子と低分子のキラル化合物とを両者の良溶媒の存在下で、該有機シリコン高分子に対して貧溶媒である溶媒を共存させ、該アキラルで光学不活性な有機シリコン高分子と該低分子のキラル化合物とを非共有結合による相互作用の下に凝集させることにより光学活性に変化させることを特徴とする光学活性を示す高分子ミクロ凝集体の製造方法。
  8. 式2の有機シリコン高分子において、R2が炭素数1〜10のアルキル基であることを特徴とする請求項7に記載の光学活性を示す高分子ミクロ凝集体の製造方法。
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