JP3712780B2 - 船舶の推進機関 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、広くは船舶の推進機関に関し、特に二軸船において主機関台数を高出力機関一機とした一機二軸船における両推進軸間の伝達トルクの不平衡から生じる過大トルクの制御を目的とする。
【0002】
【従来の技術】
船舶の推進機関に関しては、主機関一機に対し推進軸を介して一台のプロペラに結合される一機一軸方式が一般に採用されている。
しかし、船舶の高速化に対応するためには高出力機関の採用と併せ推進効率を考慮すると、プロペラ回転数の低下と共に外径寸法の増大が要求される。
【0003】
特に、プロペラ外径寸法については、限られた船体要目の中で適切な没水率を確保するためには、自ずから外径寸法の増大には限界があり、その対応としてプロペラを複数にし、それぞれに主機関を配置した二機二軸方式が採用される。
【0004】
その結果、主機関を含めた関連機器類、船内での据付け、艤装工数の増加による船価の上昇を招くことになる。
また、船体形状の制約から主機関を船体の船首方向である中央寄りに配置せざるを得ないことから貨物船等では船艙容積の縮小を余儀なくされる。
【0005】
これらの弊害を解消する方策として、高出力機関一機により複数のプロペラを駆動する一機二軸方式が考案された。
この一機二軸方式について、貨物船の船艙容積の拡大を目的としたものが、特開平3−132497に開示されている。
【0006】
これは、図7に示すように、主機関3が船体後方の中心線上に、出力軸4を船首方向に向けて配置され、出力軸4の船首側には、減速機7が配置され、主機関3の回転数を減速すると共に、動力を左右の軸に振分ける。減速機7の左右出力軸は船尾方向に向けて出され、中間シャフト5a及びプロペラシャフト5を介して,プロペラ9に結合されている。
【0007】
そして、通常、主機関3は減速機7の船首方向に向けて配置されるのに対して、この提案では主機関3を船尾方向に配置し、その余剰スペースを船艙容積として有効利用したことに特徴がある。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
一機二軸方式を採用した場合、左右プロペラへの動力の振分けは、従来実施されている技術を基に配置を考慮すると歯車装置により行うのが一般的である。
その場合、主機関とプロペラは機械的に結合された状態となり、動力はほぼ2分されてプロペラに伝達されるため、推進軸の設計強度は主機関出力の1/2に耐えられるものであればよい。
【0009】
しかし、プロペラの吸収馬力は船体の挙動により同一回転数においても様々に変化する。
特に、旋回時及び波浪中のプロペラの浮き沈み等では左右プロペラの吸収馬力は同一とはならず、従って、左右推進軸への伝達トルクに不平衡が生じることが考えられる。
【0010】
その結果、一方の推進軸に設計強度以上の過大トルクが加えられる恐れがある。このトルクの不平衡はプロペラによって誘発されるものであり、主機関自体では制御できない。
【0011】
対策として、プロペラの翼角が可変な可変ピッチプロペラを採用し、その翼角を制御することでトルクの上昇を抑制する方法が考えられる。また、プロペラの翼角が固定された固定ピッチプロペラを使用し、推進軸系の強度を左右それぞれ主機関最大出力相当の伝達トルクで設計し、トルク不平衡にたいし十分な強度を持たせることも可能であるが、いずれも製造コストを考慮すれば得策とは言えない。
【0012】
本発明は、固定ピッチプロペラを使用した一機二軸方式の船舶において、伝達トルクの左右不平衡によって生じる過大トルクを抑制することで、推進軸系の製造コストを最小とすることを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明の船舶の推進機関は、主機関からの出力を分配機を介して一対のプロペラシャフトに伝達する船舶の推進機関において;、上記分配機と各プロペラシャフトの間に介装された、逆転機能を有する油圧式クラッチ及び減速機と、上記各プロペラシャフトの軸トルクの検出手段と、上記クラッチの滑り量検出手段と、上記主機関の回転速度制御手段と、を備えてなり;上記クラッチは上記プロペラシャフトの軸トルクが過大な場合には滑りを生ずるように油圧が設定され;上記回転速度制御手段は、上記プロペラシャフトの軸トルクが上部設定値を越えた場合には、上記主機関の回転速度を操作ハンドルからの指令速度に対して減速させ、また減速させた上記主機関のトルクを、該主機関のガバナに内臓された燃料噴射量制限機構により設定された最大トルクに制限し、その後軸トルクが下部設定値を下回った場合には、減速を解除する機能を有すると共に、上記クラッチの滑り量が設定許容値を越えた場合には、上記主機関の回転速度を所定速度に減速させ、その後滑り量が許容値内に収まった場合には、減速を解除する機能を有している、ことを特徴とするものである。
【0014】
上記構成により、先ず、クラッチの滑り量が設定許容値内に収まっている状態で、プロペラシャフトの軸トルクが上部設定値を越えた場合には、主機関の回転速度を操作ハンドルからの指令速度に対して減速させることによって過大トルクの発生を抑制する。この場合、主機関のトルクはガバナに内蔵された燃料噴射量制限機構により設定された最大トルクに制限される。その結果、プロペラシャフトの軸トルクが下部設定値を下回った時点で、この減速制御を解除し主機関の回転速度を指令速度に復帰させる。
【0015】
更に、急激なトルク上昇によって、上記機能が追従できず、クラッチの滑り量が設定許容値を越えた場合には、主機関の回転速度を所定速度まで減速させて、クラッチの損傷を防止する。その結果、クラッチの滑り量が設定許容値内に収まった時点で、この減速制御を解除して、主機関の回転速度を指令速度に復帰させる。
【0016】
【実施の態様】
以下、本発明の実施の態様の一例を図面により説明する。
図1は本発明の実施の態様の一例を示す全体構成図である。
船体1に対し、船首側に機関室2が、その船尾側に減速機室18が設けられている。
【0017】
機関室2内には、1機の主機関3が、その出力軸4を船尾側に向けて配置されている。
主機関3の伝達トルクは、隔壁17を貫通する接続軸16を介して分配機19に入力される。
【0018】
分配機19では、入力された回転数を一定のまま、トルクのみを左右に分配し、それぞれギヤーカップリング11を介して減速機7に入力される。
減速機7内には、入力回転数を減速する歯車機構と、前進及び後進切替え用の油圧多板式クラッチ7cがそれぞれ一対内蔵され、このクラッチを切換えることにより出力軸7aの回転方向を変えて船の前進または後進を行うことができるようになっている。
【0019】
また、このクラッチは油圧調整によるスリップ機能を併せ持ち、低速の港内速度域において、出力回転数を任意に設定できるようになっている。
出力回転数の制御方法は、港内速度域と、それ以外の航海速度域とに分けられる。
【0020】
低速の港内速度域では、減速機7の入力回転数を常に一定に保持したまま、スリップ機能によりクラッチ油圧を調整することによって、徐々にスリップ量を変化させて、操作ハンドルで設定された目標の出力回転数が得られるようになっている。
【0021】
但し、このスリップ機能の使用は、港内速度域のみに限定される。
なお、上記のクラッチの前進または後進の切換え、及びスリップ機能による出力回転数の制御は、左右プロペラシャフトに対してそれぞれ独立に行えるものであり、その結果、一機二軸機構でありながら二機二軸機構と同等の操船機能が達成されている。
【0022】
一方、航海速度域では、上記のスリップ機能によらず、クラッチは「嵌」の状態のまま、入力回転数を変化させることによって、操作ハンドルで設定された目標の出力回転数が得られるようになっている。
【0023】
但し、この状態で、急激なトルクの増加が発生した場合には、所定の過大トルク値においてクラッチが滑るように、その最大油圧の値が設定されている。
出力軸7aには、中間軸5a及びプロペラシャフト5が接続され、その船尾端にはプロペラ9が固定されている。
【0024】
そして、それぞれの中間軸5aには、トルク検出器21が取付けられ、左右のトルクの平衡状態が常時監視されている。
なお、分配機19の船尾側中央には、継手11aを介して、軸発電機20が配置され、船内の必要電力が供給されるようになっている。
【0025】
次に、制御ブロックを図2に示す。
ブロック図に示すように、主機遠隔操縦装置22内には、クラッチスリップ検出回路22a及びトルク検出回路22bが組込まれている。
【0026】
中間軸5aに取付けられたトルク検出器21によりプロペラ9に伝達されるトルクが常時検出され、電気信号T1としてトルク検出回路22bに入力される。
また、減速機7の内部には入力軸、出力軸にそれぞれ回転検出センサー7d,7eが取付けられ、スリップ検出回路22aに電気信号S1,S2として入力される。
【0027】
検出されたトルクが規定値を越えた場合は、速度設定制御回路を介して、電ー空変換弁23に主機回転数を低下させるように電気信号E1が送られ、空気信号A1に変換した後、ガバナ24に作用し、主機回転数を変化させる。
【0028】
ここで、機関の出力特性について、図4により説明する。
機関の出力トルクは回転数により船用特性と呼ばれる曲線に沿って変化する。
一方、機関の出力トルクは燃料の噴射量に依存し、噴射量が一定であれば機関の出力トルクは回転数が変化してもほぼ一定であり直線に近似できる。
【0029】
従って、トルク不平衡により過大なトルクが推進軸に作用した場合、機関の回転数を下げることにより、燃料の噴射量、即ち機関の出力トルクが減少し推進軸に作用する過大トルクを抑制することができる。
【0030】
但し、旋回のように急激な船体の挙動変化における過大トルクに対しては、機関回転数を調節しても船体の挙動変化に遅れがあるため容易に機関の出力トルクを抑制することが困難な場合がある。
【0031】
そこで、ガバナの制限機構を併用し、回転数の調節と同時に燃料の噴射量も制限する確実なトルク抑制方法を以下に述べる。
図5に機関の燃料噴射量制御機構30を示す。
【0032】
機関3の回転数は、機関に組付けられたガバナ31により制御されるが、目標とする回転数はガバナ入力信号(空気信号)35としてガバナに与え設定する。
ガバナは入力された空気信号35に応じて、その回転数を維持すべく、ガバナ出力レバー33からリンク機構34を介して燃料ポンプ32を駆動し、機関に噴射投入される燃料の量を調節する。
【0033】
次に、ガバナ制御機構について説明する。
ガバナ内には、図6に示すような、予めガバナの入力値に応じて出力値の可動最大量を制限する機構が内蔵されている。
【0034】
この制限値を設定しておくことで、ガバナの入力範囲全域において出力値を抑えることが可能である。
先に述べたように、ガバナの入力、出力はそれぞれ機関の回転数、燃料噴射量(トルク)に相当し、図4に示すようにガバナ入力を変化させることで、機関回転数と燃料噴射量(トルク)の上限を同時に設定できる。
【0035】
また、このガバナの出力特性を機関の出力特性(船用特性)に近似して設定することで、理想的なトルク制御が可能となる。
一方、スリップ検出回路22aでは、入力軸と出力軸との回転数差からクラッチ7cのスリップを検出し、港内操船時の通常のスリップ制御を除き、クラッチがスリップした場合は監視盤モニター25に異常スリップとして警報信号C1を送り可視、可聴警報を発する。
【0036】
次に、図3に、その制御フローを示す。
通常は、操作ハンドルの指令により速度設定制御回路およびクラッチ制御回路を通じて、ガバナで主機関の回転数、またクラッチの「嵌」、「脱]および港内でのスリップ制御が行われる。
【0037】
そして、もし、どちらか一方の1軸当り軸トルクが規定値の110%(主機関最大伝達トルクの50%を規定値とする)を越えた場合は、主機回転数を下げ伝達トルクを減少させる。
【0038】
トルクが規定値の95%を下回った時、または左右軸のトルク差が10%以内で一定時間を経過した時は、操作ハンドル指令と比較しながら指令のガバナ回転設定に戻すように増速する。
【0039】
増、減速度ー連の制御動作は、トルク値を2秒毎に検出しその結果を基に行われ、同時にクラッチの異常スリップを常時監視しながら行われる。
増、減速の制御動作は、表示灯により「トルク制御中」として表示される。
【0040】
一方、急激な軸トルクの上昇によって、前述のような燃料噴射量制限機構を併用しても、万一上記のトルクに基づいた制御機能が追従できず、いずれかのプロペラシャフトの軸トルクが規定値の125%を越えた場合には、クラッチがスリップして軸系を保護するように、クラッチの最大油圧が設定されている。
【0041】
この過大トルクによるスリップを放置しておくと、クラッチ損傷の危険があるので、いずれかのクラッチの滑り量が設定許容値を越えた場合には、異常スリップとして警報を発すると同時に、クラッチを保護するために、自動減速信号を速度設定制御回路に送り、主機関を安全な低速域、例えばアイドリング回転数まで減速させる安全機能を備えている。
【0042】
自動減速の結果、クラッチの滑り量が設定許容値内に収まった場合には、操作ハンドルを「SLOW」以下の位置に設定することによって、この自動減速状態は解除される。
【0043】
また、自動減速を行った後も、依然として、クラッチの滑り量が許容値内に収まらない場合には、クラッチを「脱」とする信号を、クラッチ制御回路に送る。この信号によって、操作ハンドルからの指令に拘らず、強制的にクラッチは「脱」となる。
【0044】
この「脱」信号は、操作ハンドルを「NEUTRAL 」の位置に設定することにより解除される。
なお、過大トルク抑制のための主機関回転数制御及びクラッチの異常スリップにおける自動減速にはオーバーライドスイッチが設けられ、船舶の安全を優先すべき非常事態においては、これらの制御、安全機能の全てをキャンセルすることができる。
【0045】
【発明の効果】
以上の通り、本発明は固定ピッチプロペラを使用した一機二軸方式において、左右推進軸にトルク不平衡による過大トルクが発生しても、適切な主機関回転数の制御を行い、トルク上昇を規定値以下に抑制することで、軸強度を最小で設計することができる。
【0046】
また、急激なトルク上昇にに対しては、クラッチをスリップさせ、安全装置として使用することで推進軸系を二重に保護している。
その結果、可変ピッチプロペラ等の高価な推進軸系を採用することなく、推進機構全体が船価に占めるコストを最小にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に関わる推進機構の説明図。
【図2】回転速度制御手段の構成を示すブロック図。
【図3】制御のフローシート。
【図4】機関の出力特性の説明図。
【図5】機関の噴射燃料制御機構の説明図。
【図6】ガバナ入力に対応した出力制限域の説明図。
【図7】従来の一機二軸方式の推進機構の一例を示す説明図。
【符号の説明】
3…主機関,5…プロペラシャフト、7…減速機,7c…油圧式クラッチ、21…トルク検出手段、30…燃料噴射量制御機構。
Claims (1)
- 主機関からの出力を分配機を介して一対のプロペラシャフトに伝達する船舶の推進機関において、
上記分配機と各プロペラシャフトの間に介装された、逆転機能を有する油圧式クラッチ及び減速機と、
上記各プロペラシャフトの軸トルクの検出手段と、
上記クラッチの滑り量検出手段と、
上記主機関の回転速度制御手段と、
を備えてなり、
上記クラッチは上記プロペラシャフトの軸トルクが過大な場合には滑りを生ずるように油圧が設定され、
上記回転速度制御手段は、上記プロペラシャフトの軸トルクが上部設定値を越えた場合には、上記主機関の回転速度を操作ハンドルからの指令速度に対して減速させ、また減速させた上記主機関のトルクを、該主機関のガバナに内臓された燃料噴射量制限機構により設定された最大トルクに制限し、その後軸トルクが下部設定値を下回った場合には、減速を解除する機能を有すると共に、上記クラッチの滑り量が設定許容値を越えた場合には、上記主機関の回転速度を所定速度に減速させ、その後滑り量が許容値内に収まった場合には、減速を解除する機能を有している、
ことを特徴とする船舶の推進機関。
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