JP3701198B2 - 環状癒合を高めた縫合リング - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
(発明の分野)
本発明は、一般に、医療用具に関し、特に、改良された縫合リングを有する人工心臓弁に関し、この縫合リングは、この人工心臓弁を心臓に移植したとき、周囲の組織との弁癒合を促進し、弁装着手順を改良し、そして弁の安定性を高める。
【0002】
【従来の技術】
(発明の背景)
人工心臓弁は、損傷した心臓弁または病んだ心臓弁を交換するのに、使用されている。脊椎動物では、心臓は、中空の筋肉質臓器であり、これは、以下の4個のポンプ室を有する:左および右心房および左および右心室であって、各々は、それ自体の一方向弁を備えている。生来の心臓弁は、大動脈弁、僧帽弁(または二尖弁)、三尖弁および肺動脈弁として、識別されている。人工心臓弁は、これら生来の弁のいずれかと交換するのに使用できるが、大動脈弁または僧帽弁の修復または交換は、それらが圧力が最大となる心臓の左側にあるので、最も一般的である。
【0003】
2種類の主要な心臓弁交換品(すなわち、人工心臓弁)が公知である。一方は、機械型心臓弁であり、これは、一方向の血流を与えるために、ボールおよびケージ装置または旋回機械栓を使用する。他方は、組織型または「バイオプロテーゼ」弁であり、これは、天然組織弁小葉部で構成されており、この小葉部は、生来のヒトの心臓弁のものと酷似して作用し、可撓性の心臓弁小葉部(これらは、一方向血流を保証するために、互いに対して密封する)の自然な作用を模倣している。両方の種類の人工弁では、弁本体(機械的)またはステント(組織型)上にて生体適合性の布で被覆した縫合リングは、交換する特定の弁の環帯にこの弁を装着するためのプラットホームを提供する。
【0004】
心臓弁は、その中の房を分離し、それぞれ、その間の環帯に取り付けられている。これらの環帯は、緻密な繊維質のリングを包含し、これらは、心房および心室の筋繊維に直接または間接のいずれかで装着されている。弁交換操作では、損傷のある小葉部が切除され、そしてこれらの環帯は、交換弁を受容するような形に整えられる。理想的には、この環帯は、比較的に健康な組織を提供し、これは、外科医により、取り除いた弁から残ったオリフィスへと突出している均一なレッジ(ledge)へと形成できる。しかしながら、外科手術に課せられる時間的および空間的な制約により、しばしば、得られる環帯の形状は、縫合リングの装着には不完全となる。さらに、この環帯は、石灰化され得るだけでなく、これらの小葉部および全環帯の壊死組織切除、または硬化組織の除去により、さらに大きなオリフィスおよび範囲が明確でない環状レッジ(そこに、この縫合リングを装着する)が生じる。要約すれば、得られる環帯の外形は、生来の弁を切除した後、大きく変わってしまう。
【0005】
この弁の通常の配置は、環帯内であり、その弁本体は、この縫合リング/縫合の組み合わせにより生じるあらゆる密封を高めるために、また、弁周囲の漏れの可能性を少なくするために、この環帯の最狭部内に深く位置している。外科医は、漏れを防止するために、少なくとも30の単純縫合または20のさし縫い縫合を使用することを報告している。さし縫い縫合は、より時間がかかり、また、本質的に、1個の結び目を用いてこの組織を通して針を二重通過させることを包含する。
【0006】
これらの4個の弁は、各心室を、その付随した心房から、または上行動脈(左心室)または肺動脈(右心室)から分離する。この弁の切除後、この環帯は、一般に、レッジを包含し、これは、各個の室間のオリフィスへと伸長して、それを規定している。人工弁は、この環状レッジの上流側または下流側に装着され得るが、その中での大きな収縮の妨害を回避するために、これらの心室の外側で装着され得る。それゆえ、例えば、左心室では、人工弁は、(左心房中の)僧帽環帯の流入側、または(上行動脈中の)大動脈環帯の流出側に位置づけられる。僧帽環帯および大動脈環帯の異なる構造のほかに、その装着縫合糸に加えられる圧力も同様に、異なる。これらの縫合糸が使用中に受ける最大圧力は、この弁を閉じるとき、この流れサイクルの半分の逆流である。収縮期では、左心室は、収縮して、身体の循環系を通じて血液を押し、そして僧帽弁は、140mm Hgまでの圧力により、強制的に閉じられる。人工僧帽弁は、この心室とは反対の環帯の流入側に装着されるので、これらの縫合糸は、直接的に張りつめた状態で、配置される。対照的に、動脈弁での上行大動脈の逆流圧は、ずっと低く、いずれの場合でも、この背圧は、装着している縫合糸が張りつめた状態ではないように、この人工弁を大動脈環帯に押し付ける。最終的な結果として、僧帽弁がより確実に装着されているように注意を払わなければならず、また、組織での「チーズワイヤ」効果を回避するために、動脈および僧帽の両方の移植における縫合に関連して、外科用綿撒糸が慣習的に使用される。外科用綿撒糸とは、生体適合性の繊維の小片であり、これは、各個々の縫合糸に装着され、張りつめた状態で置いた縫合糸が組織に切り込まないように、この縫合糸と組織との間の縫合糸ループ内に、配置されている。
【0007】
当然のことながら、人工心臓弁の移植には、機械弁または生体人工弁(すなわち、「組織」弁)のいずれにしても、天然心臓組織の繊細な性質、手術野の空間的制約および確実で信頼できる移植を達成するという重要性を考えると、多大な技術および集中力が必要である。この弁自体が、長い弁寿命を助長して心臓の周囲の生理学的な構造に対する影響が最小になる特性を有することも、同様に重要である。
【0008】
これらの環帯の一様ではない性質を考えると、この縫合リングの設計および縫合リングを適切な位置に固定する方法は、多分、人工心臓弁移植の最も重大な局面である。従って、最適な縫合リングの設計は、この弁環帯組織との補完性が高い構造と、外科医の移植処置を簡単にする弁装着プラットホームとの間の調和を考慮している。従来の縫合リングの設計は、広く変わり、非常に多いものの、本発明の設計がなされるまで、改良した構造/組織適合性と、便利で「外科医に適した」縫合プラットホームとを効果的に調和させる試みは、大部分は、不成功であった。
【0009】
従来の縫合リングの多くは、その中にある弁のための潜在的オリフィス開口部を大きくするために、殆ど空間を占めないように設計されている。従来の縫合リングの一例は、Campbellらの米国特許第5,397,348号で見られ、これは、硬質(solid)PTFEフェルトリング(これは、直角三角形の断面形状を有する)から製造された縫合リングを開示している。この縫合リングは、機械弁に取り付けられ、このリングの一面は、この弁を通る流れ方向に垂直に伸長しており、それゆえ、直角三角形の名称となる。このPTFEフェルトリングは、直角三角形形状に一致する布に包まれている。このCampbell特許の図1で示すように、僧帽位置に移植したとき、この直角三角形の斜辺は、この弁環帯中の組織と噛み合う。
【0010】
このCampbell特許により代表される設計は、多数の重大な欠点がある。例えば、このPTFEフェルトリングの硬質である性質は、不規則な形状の環帯とは容易に適合せず、本来の剛直性を導入し、これは、通常の心臓の鼓動作用中に、環帯組織に応力を加えたとき、この縫合リングがこの組織と共に曲がる性能を制限する。この可撓性の欠如または低い従順性は、順に、この縫合リングを装着するのに使用する縫合糸に加えられる負荷を高め、漏れの問題または環帯組織に対する損傷を引き起こすおそれがある。例えば、過度に堅い縫合リングは、縫合間の弁周囲の漏れを防止するために、適切な位置で、かなり固く縫合しなければならない。この余分な張力は、環帯組織を締め付け得、その結果、褥瘡潰瘍形成(decubitous ulceration)を生じる。
【0011】
この本来の剛直性(低い従順性)はまた、所定の患者に対して適切なサイズの縫合リング/弁を選択するとき、誤差の許容範囲を著しく狭くする。もし、選択したサイズが、僅かに大きいなら、このPTFEフェルトリングが容易に圧縮できないことから、この弁を充分に装着するために、環帯組織を過度に変形する必要がある。同様に、もし、選択したサイズが、僅かに小さいなら、このPTFEフェルトリングが容易に伸展できないことから、装着を成し遂げるために、この組織および縫合糸に過度の緊張が生じる。結果として、患者の弁環帯と正確に合致する弁サイズの選択には、外科医の多大な留意および精度が必要である。残念なことに、全体的なオリフィスサイズに基づいて、標準的なサイズ決めの器具が提供されることが多くなっており、最適でない形状の環帯を正確に測定し得ない場合がある。それゆえ、外科医は、適切な弁サイズを選択する際に、情報に基づいた判断をしなければならない。
【0012】
このPTFEフェルトリングの剛直性と直角三角形の形状との組み合わせにもまた、欠点がある。例えば、この弁環帯組織は、典型的には、その直線状斜辺に合致する断面を有さず、また、このPTFEフェルトリングの固有の堅く嵩張った性質を考えると、形を整えた環状断面の不規則で非線形の形状に充分に適合する様式で、このリングの斜辺縁部を曲げるのに充分な可撓性がない。このことは、再度、弁周囲の漏れおよび組織損傷を生じるおそれがある。
【0013】
この剛直性/直角三角形形状の組み合わせはまた、この弁を環帯組織へと縫合(または他の装着方法、例えば、ステープリング(stapling))するための充分な縫合リング断面積を与える際に、限定要因となる。この縫合リングの周囲の材料の環帯は、縫合プラットホームとして供されるが、半径寸法が比較的に狭く、このことにより、この縫合糸と共に、外科用綿撒糸を使用する必要が生じる。明らかに、外科用綿撒糸の使用は、弁移植に必要な時間および複雑性を高める。直角三角形の縫合リングの環帯は、半径方向に非常に狭いので、その縫合ループは、環帯先端に近い環帯組織の比較的に薄い部分を通過し、そこで、外科用綿撒糸を使用しなければならない。
【0014】
狭い縫合リングにより起こる移植の問題は、従来の人工弁の多くでは、この弁本体から縫合リングの内部へと外向きに伸長している剛性構造により、悪化する。例えば、Campbellの圧縮可能な堅くしたリングを参照せよ(米国特許第5,397,348号)。この構造は、さらに、この縫合リングでの縫合糸の配置を、その放射状に外部の領域に限定する。さらに、より大きな縫合プラットホームを提供するために、この縫合リングの環帯を大きくするか、または、この斜辺の断面角を少なくとも大きくするように試みたとしても、このPTFEフェルトリングの堅い性質は、剛直性および嵩張りの望ましくない上昇を起こすにすぎない。このような結果は、次いで、単に、縫合リングの剛直性および低い従順性に関連して既に述べた問題を増幅する。
【0015】
【発明が解決しようとする課題】
上述のことを考えると、既存の縫合リングの明らかな欠陥に向けて改良した縫合リングが必要であり望ましいことは、明白である。すなわち、このリングの環帯組織に対する適合性を高めた設計であって、同時に、この弁を装着するのに外科医が使用する手法を簡単にする高度な設計が必要とされている。
【0016】
【課題を解決するための手段】
(発明の要旨)
本発明の縫合リングは、周囲の環帯組織へと深く通過できるように、大きな放射状プロフィールで設計されており、そしてこのリング材料へと深く通過できるように、その弁本体の近くに多くの材料を有し、両方の因子により、使用する縫合糸の数を少なくすることができる。この縫合リングは、周囲の組織の運動とうまく協同するように、従って、各縫合糸に必要な張力を少なくするように、非常に従順性かつ弾性である。さらに、サイズの増大および新規な形状により、環帯内での弁の配置の際に、大きな可撓性が得られる。要約すると、本発明は、外科医に適し、漏れを防止する際にさらに確実であり、また、さらに可撓性である縫合リングを提供する。
【0017】
本発明は、従来技術で明らかな欠陥を検討したが、これには、この縫合リングの癒合特性を改良すること、および弁環帯に人工心臓弁を装着する外科的手順を簡単にすることが含まれる。このことに関して、本発明は、環帯の生理学的および解剖学的な特性を補完する新規で進歩性のある縫合リングの形状および構造上の構成を提供し、また、煩雑な縫合法の必要性を少なくする装着プラットホームを提供する。
【0018】
本発明に従って、縫合リングが提供され、これは、弾性材料から製造した縫合糸貫通性のリング部材を包含し、これは、隣接セルまたは空隙を規定する複数のリブを有し、これらは、このリング部材の弾性を高める。このリング部材は、環帯組織との癒合領域を与える縫合リングを生じるような半径幅を有し、外科用綿撒糸のように負荷分散装置なしで、この縫合リングを環帯組織に装着可能にするのに、充分に大きい。
【0019】
さらに、本発明の縫合リングは、環帯組織に過度に応力を加えることなく、この縫合リングと組織との間での充分な癒合領域を保証するために、弾性リング部材と新規なリング部材構造とを組み合わせる。僧帽弁移植の場合には、本発明は、滑らかな外形にした融合または癒合面を包含し得、これは、僧帽弁環帯と一致する。大動脈弁移植の場合には、本発明は、外向きに伸長している癒合面を包含し得、これは、充分な癒合距離を保証するために、特定の半径距離で伸長する。
【0020】
本発明のさらに他の目的および利点は、本発明の現在好ましい実施態様の以下の詳細な説明を読んで理解すると、当業者に明らかとなる。
【0021】
【発明の実施の形態】
(好ましい実施態様の説明)
添付の図面と関連して以下で述べる詳細な説明は、本発明の現在好ましい実施態様の説明として意図しており、本発明を構成または利用し得る唯一の形態を表わす意図はない。この説明は、例示の実施態様と関連して、本発明の構造および機能を述べている。
【0022】
本発明に従った人工心臓弁用縫合リングの好ましい実施態様は、この説明および図面で開示されている。この説明および図面は、僧帽弁交換および大動脈弁交換の両方において、本発明を使用するための情報を包含する。しかしながら、このような説明および図面は、例示のためにすぎず、限定する目的ではない。当業者は、本発明の縫合リングが、他の種々の用途で使用され得ることを理解する。
【0023】
(僧帽弁縫合リング)
図1aおよび1bを参照すると、本発明の第一の実施態様は、一般に、人工僧帽弁MVと共に使用するために設計された縫合リング10を包含する。縫合リング10は、一般に、リング部材またはステント12を包含し、これには、環状スポンジ14が装着できる。織布材料16は、一般に、ステント12および環状スポンジ14を覆う。縫合リング10は、僧帽環帯での移植に、特に適していることに注目すべきである。何故なら、それが、その環帯の特定の解剖学的構造に一致しており、また、それと共に、図示した機械弁以外の弁が使用され得るからである。それゆえ、MVとは、機械的であろうとバイオプロテーゼであろうと、僧帽弁を意味する。
【0024】
この縫合リング(弁MVを取り除いた)を通る血流方向は、図1bに示される。本明細書中で使用する「近位」との用語は、その上流側または流入側にある装置の末端または縁部を意味し、また、「遠位」との用語は、装置の下流側または流出側にある装置の末端または縁部を意味する。この装置の近位末端は、PEとの文字により示され、また、この装置の遠位末端は、DEとの文字により示される。僧帽縫合リング10は、その流出末端(すなわち、遠位末端DE)から、流入末端(すなわち、近位末端PE)へと放射状に拡張していることに注目せよ。これは、僧帽弁MVが、左心房の側面から、僧帽環帯の流入側に移植されるからである。
【0025】
本発明の好ましい実施態様によれば、ステント12は、ポリアセタール材料から構成され、その一例は、DELRIN(E.I.DuPont DeNemours & Co., Inc.Wilmington Delawareの登録商標)である。当業者が理解するように、ステント12は、種々の他の高分子材料(例えば、ポリアセタール、ポリエステル、超高分子量ポリエチレン、ポリスルホン、ポリイミド、ポリエーテルケトン(polyether keytone)(例えば、PEEK)、液晶ポリマー(例えば、LCP)、および/または炭素繊維複合材料)から構成され得る。このリング部材は、あるいは、生体適合性の金属または金属合金(例えば、チタンElgiloyまたはジルコニウム)から形成され得る。
【0026】
針貫通性の織布材料16は、好ましくは、生体適合性の織物材料または編物材料(例えば、ポリエステルまたは他の適切な材料)を包含する。この織布は、生体適合性を改良するために、種々の化学物質/被覆(例えば、ヘパリン、化学結合ヘパリン、炭素被覆など)で処理または被覆され得る。
【0027】
環状スポンジ14は、生体適合性の弾性材料(好ましくは、シリコーンゴム)から構成される。針貫通性の環状スポンジ14は、好ましくは、以下で記述のように、複数のセルまたは空隙40(これは、図2bで、最もよく示されている)を包含し、そして縫合糸を用いて、ステント12および織布材料16と組み立てられる。さらに特定すると、ステント12は、複数の開口部17(好ましくは、2列の外周列)を包含し、これらを通って、針および縫合糸が通され得る。ステント12は、まず、スポンジ14に装着され、次いで、織布材料16は、内向きに突出している環状リブ19(図1aを参照)(これは、組み立てたリングを弁本体に固定するために、使用される)を除いて、両者を包み込み、そして完全に被覆する。このような組み立て手順は、米国特許出願第08/688,672号(これは、1996年7月29日に出願され、「SUTURE RINGS FOR ROTATABLE ARTIFICIAL HEART VALVES」の表題であり、その内容は、本明細書中で参考として援用されている)で記述されている。他の縫合リングアセンブリは、もちろん、適切であり得る。
【0028】
さらに特定して、図2a〜2cを参照すると、環状スポンジ14は、突出した断面形状を有し、これは、寸法Hを有する円周内面30、寸法Wを有する放射状表面32、寸法hを有する円周外面34、および滑らかな外形の融合面(blending surface)36(これは、この内面および外面の底端間で、伸長している)により、特徴付けられる。外面34は、実質的に、内面30よりも小さく、それにより、スポンジ14の外向きに伸長しているフランジの周囲を規定する。内面30および外面34は、望ましくは、平行かつ軸方向に配置されているが、他の形状は可能である。複数の放射状に配向したリブ38は、前記表面間に伸長して、このスポンジの内部を、複数のセル40(これは、円周状に配列され、望ましくは、一様に間隔を空けて配置されている)に分割する。図示した実施態様では、面を有する個々の壁は、内面30、外面34および融合面36を規定しているのに対して、細長い頂面32は、リブ38の頂端により規定され、そしてセル40に対して、実質的に開いている。好ましい実施態様では、内面30の寸法Hは、およそ4.57mmであり、細長い頂面32の寸法Wは、およそ4.32mmであり、外面34の寸法hは、およそ1.57mmであり、そして滑らかな外形の融合面36は、およそ4.45mmの実質的に一定の半径Rを有する。環状スポンジ14の全直径Dは、図2aで示されるが、一般に、縫合リング10を受容する環帯のサイズにより、決定される。これらの寸法は、例示的なものとしてのみ示されており、他の寸法または範囲は、使用され得る。
【0029】
形成された融合面36は、一定半径の曲線、または数個の異なる曲率半径を有する複合曲線、または曲率半径が絶えず変化している非球面曲線でさえあり得る。融合面36は、望ましくは、生来の僧帽弁を切除した後の、僧帽環帯の理想的な形状にできるだけ近く似せている。
【0030】
セル40と組み合わせたスポンジ14の軟質材料は、非常に従順性の縫合リングを提供して、特に、外面34のフランジにて、その変形を容易にする。このような従順性により、スポンジ14は、形を整えた僧帽環帯と一致でき、また、その弁オリフィスと環帯との比を最大化できるようになる。セル40もまた、針による縫合リング10の貫通をさらに容易にし、また、この針の先端の鈍化(これは、硬質のPTFEリングを用いると、時々、起こる)を緩和する。
【0031】
(僧帽リングの構成)
図3a〜cは、種々のサイズの環帯のための機械弁Vについて、本発明の僧帽弁縫合リングの種々の構成を図示している。先に確認した特徴(例えば、ステント12およびスポンジ14)は、同じ番号で示されている。図3aは、23mmと29mmの間の直径を有する小さな僧帽環帯で使用するための縫合リング10’を示す。その繊維被覆は、典型的には、その流入側の長片16aおよび流出側の短片16bを包含し、これらの2個の断片は、ステント12の外側で、重なり合っている。2つの摩擦制御隆起42は、ステント12の内側に設けられており、そして弁本体Vに対して、この繊維を押し付けるために、供される。図3bは、およそ31mmの直径を有する僧帽環帯で使用される縫合リング10’’を示す。この構成は、ステント12とスポンジ14との間にスペーサースリーブ44が介在され縫合されていること以外は、図3aの縫合リング10’と同じである。このスリーブ44を大きな直径のスポンジ14と組み合わせると、このアセンブリは、大きな環帯に適合可能になる。さらに、この繊維被覆は、流入片16a、流出片16bおよびスポンジ保持片16c(これは、スポンジ14を包囲し、このスポンジ14は、その内側で固定されている)を包含する。最後に、図3cは、33mmの環帯で使用するための弁Vおよび縫合リング10’’’を示している。この構成は、さらに大きなスペーサースリーブ46以外は、図3bの縫合リング10’’と同じである。
【0032】
(僧帽環帯、サイジングおよび移植)
図4aは、直径Xを有する僧帽環帯48を、断面で概略的に図示している。僧帽環帯48の良好に規定されたレッジは、必要な組織切除範囲に依存して変わり得るが、典型的には、図10aで示した大動脈環帯よりも、顕著である。図4bは、弁寸法測定器50を示し、これは、僧帽縫合リング10に似た形状にされ、そして測定する環帯内に配置されている。適切な寸法測定器が見つかると、移植のために、対応する大きさの弁が選択される。図4cは、移植用に環帯48に配置したときの、機械弁MVおよび本発明の縫合リング10を示している。
【0033】
(僧帽リングの利点)
複数のセル40に起因して高くなった弾性と独特の断面形状との組み合わせにより、図5aで最もよく示されているように、僧帽環帯48との癒合を高めかつ向上した縫合リング10が得られる。環帯に装着された縫合リングを図示している図5aのような断面は、単なる概略であり、正確な寸法は、縮尺され得ないことに注目すべきである。実際、図2cで示されるスポンジ14の断面は正確であるが、図5aで見える断面は、正確ではない。
【0034】
滑らかな外形にした融合面36および多セル(multi−celled)スポンジ14の従順性のために、縫合リング10は、実質的な癒合面24を得るために、融合面36の実質的に全てにわたって、環帯組織48と接触できる。さらに、癒合の向上は、組織を過度に変形または圧縮することなく、達成される。この相当に大きな癒合領域は、向上した弾性と共に、環帯組織を損傷することなく、心臓のポンピングの間、この弁の安定性を改善する。それはまた、この弁を環帯内にてより良好に密封して、弁周囲の漏れの可能性を打ち消す。
【0035】
外科用綿撒糸なしで人工僧帽弁を装着するために、外科医が、僧帽環帯組織の約4mm(放射状に測定した)の最小「咬合(bite)」(この上に、縫合糸が導入され固定される)を付けなければならないことは、当業者に分かる。このような距離は、環帯組織がこの縫合リングの外面34に触れる場所から、この組織が縫合リング10の基部またはその近くで終わる場所までで、測ることができる。このような咬合が、先行技術のリングを用いて利用できたとしても、この組織と協同して変形して、各縫合糸に対する応力を低下させる可撓性および弾性があるものは、なかった。本発明の僧帽リング10は、さらに大きな形状と組み合わせて、このような従順性および弾性を与え、それにより、外科用綿撒糸を用いない装着を可能にする。
【0036】
さらに、この独特の構成はまた、その負荷を分散するための外科用綿撒糸を使用することなく、縫合リング10の内周に極めて近接した心室組織縫合糸20および/またはこの縫合糸の外周にさらに向かう心房組織縫合糸22の両方の導入を可能にするのに充分な面積の縫合プラットホームを生じる。事実上、この環帯へのこの縫合糸の高まった「咬合」(これは、さらに大きな癒合面積24により、生じる)により、この強靱な環帯組織それ自体が、この「チーズワイヤ」効果と戦うことが可能となり、それにより、外科用綿撒糸が未然に回避される。その代わりに、この縫合プラットホームは、依然として、外科用綿撒糸なしでまたはそれを使用して、より従来的な水平さし縫い縫合またはランニング縫合を可能にする。
【0037】
好ましい実施態様では、外科医は、この弁の回りの適正な密封を依然として保証しつつ、使用する縫合糸の数を減らすことができる。望ましくは、縫合リング10を僧帽環帯に固定するためには、約20本の単一縫合糸で充分である。これは、30本の単一縫合糸が必要であった先行技術の設計に対して33%の低下に相当し、20本のさし縫い縫合糸が必要な設計に対して50%の低下に相当する(実際、単一縫合糸の通過数を2倍にする)。縫合糸の数を少なくしても、縫合リング10の形状および特性は、引き続く弁周囲の漏れに対して、充分な保護を与える。この魅力的な特徴の組み合わせは、内部スポンジ14の弾性的特性およびリング10の形状およびサイズにより、容易になる。これらの縫合糸は、その緊張時の応力をうまく分散するために、この環帯により深く通過させられ、かつこの縫合リングにも深く通される。各縫合糸間では、縫合リング10は、滑らかであろうと凸凹であろうと、この環帯組織を形作る。この環帯の「抱きかかえ」(hugging)は、このような応力を吸収する可撓性で弾性の内部スポンジのために、心臓の鼓動およびこの弁の運動に打ち負かされることがない。要約すれば、軟質リング10は、この環帯にうまく一致することから始まり、そして少なくとも織布16への組織の内側への成長(ingrowth)が、提供される良好な密封に取って代わるまで、この適合を維持する。
【0038】
これらの利点は、この縫合リング10を図3bで図示した先行技術の縫合リング52と比較すると、さらに明らかに分かる。この先行技術の縫合リング52は、硬質のテフロンフェルトまたは布フィルターにより特徴付けられ、そしてほぼ直角三角形の形状を有する。この直角三角形は、頂面54、内面56および直線状縁斜辺58(これは、頂面54および内面56と接続する)を包含する。
【0039】
この硬質の充填剤の限られた弾性に起因して、環帯48と接触する縁部58は、直線状縁部であり、そして縫合リング52の寸法、縫合リング52および組織48の寸法は、本発明の縫合リング10により得られるものと同じ有利な程度まで、癒合しない。事実、先行技術の縫合リング52に対する癒合領域60は、本発明の縫合リング10から生じる癒合領域24よりも、相当に小さい。また、もし、癒合領域60を高めるように試みたなら、組織48は、この組織を潜在的に傷つけるように、過度に圧縮し変形する。
【0040】
さらに、先行技術の縫合リングは、外科用綿撒糸を使用することなく縫合糸28を導入できるようにするのに充分な縫合プラットホームを提供しない。小さな癒合領域60は、この弁の安全な装着を確保するために、この縫合リングとの充分な界面を提供しない。外科用綿撒糸は、これらの負荷を分散するために必要であり、それにより、この小さな組織/縫合リング界面に負荷が集中するのを防止する。
【0041】
(大動脈弁縫合リング)
図6aおよび6bを参照すると、本発明の第二の実施態様は、一般に、大動脈人工弁AVと共に使用するために設計された縫合リング110を包含する。また、弁AVは、多数の型のものであり得、そして単に例として、機械弁として示されている。上述の僧帽弁設計と同様に、縫合リング110は、一般に、環状スポンジ114が装着されたリング部材112を備える。織布材料116は、一般に、リング部材112および環状スポンジ114を覆う。これらの部品の各々に使用される材料は、上述の僧帽弁型の説明に記述のものと同じである。
【0042】
大動脈弁と共に使用する縫合リング110は、一般に、この僧帽弁に使用する縫合リングと類似している。1つの相違は、スポンジ部材114の形状が、一般に、円錐台型(frusto−conical)であり、それにより、その近位末端PEから遠位末端DEへと実質的に一定の外向きテーパを規定していることである。図1aおよび1bの僧帽弁と対照的に、大動脈縫合リング110は、その流入末端(すなわち、近位末端PE)から流出側(すなわち、遠位末端DE)へと拡張していることに注目のこと。これは、大動脈弁AVが、大動脈環帯の流出側に移植されるからである。さらに、大動脈弁AVの弁本体は、それのための縫合リング110と同様に、大動脈環帯がより小さいために、この僧帽弁におけるよりも小さい直径範囲で、提供されている。
【0043】
図6a、7aおよび7bを参照すると、スポンジ部材114は、壁141およびリブ143により規定される複数のセルまたは空隙139を包含し、これらは、この僧帽弁の縫合14に関して記述したものと殆ど同じ様式で、このスポンジ部材に対して、増加した可撓性を提供する。スポンジ部材114は、3個の表面(すなわち、癒合面140、内部リング面132および頂端142)により規定される突出した三角形の断面の形状を有し、ここで、これらの表面の各々は、それぞれ、角度A、BおよびCにより、分離されている。壁141は、癒合面140および内部リング面132を規定しているのに対して、頂端142は、セル139に対して、開いたままにされる。より大きな弁については、各面の長さおよびそれに付随した角度は、スポンジ114が、突出した三角形領域138(これは、三角形領域144を越えて伸長しており、そうでなければ、スポンジ部材114の断面内にて、直角三角形を規定する)を提供するようにされる。図9bおよび9cで分かるように、三角形領域138は、装着した弁本体の流出側(すなわち、遠位末端DE)を過ぎて突出している。癒合面140は、望ましくは、弁の切除後、大動脈環帯の理想的な形状に似せて成形される。大動脈環帯は、僧帽環帯ほどには著しくなく、そして平面性が低く(lass planar)、ある程度、ホタテ貝の形状である。
【0044】
大柄な患者のためのリング110の好ましい実施態様では、内部リング面132は、およそ6.17mmの長さを有し、そして内部リング面132と癒合面140との間の角度Aは、およそ32.8度である。この癒合面は、内部リング面132を越えて、およそ1.04mmの距離133で伸長し、次いで、約47.2度の角度Cで、頂端142と接続するように、傾斜している。頂端142は、次いで、およそ110度の角度Bで、およそ3.18mmの水平(または放射状)距離136で、内部リング面132に戻って、傾斜している。これらの寸法は、それゆえ、およそ7.88mmの長さを有する癒合面140を生じる。また、これらの寸法は、代表的なものにすぎず、添付の特許請求の範囲を超えて本発明を限定するように解釈すべきではない。
【0045】
一旦、布116が、スポンジ114上に縫合されると、これらの寸法は、この布の厚さ(これは、0.008インチ(0.20mm)と0.014インチ(0.36mm)の間の範囲であり得る)に起因して、それに従って、大きくなる。この好ましい実施態様の縫合リングの全体的に突出した断面領域は、およそ10.968平方mmである。例えば、すぐ前で記述した好ましい実施態様では、内部リング面132は、およそ6.5mmの長さを有し、そして頂端136は、およそ4mmの長さを有する。
【0046】
(小さな大動脈環帯用のリング)
特定の患者(特に、子供)では、大動脈環帯は、極めて小さい。結果として、時には、このような小さな位置へと配置するために特別に合わせたより小さい直径弁および縫合リング(約19mmまたは21mm程度)を使用するのが、有利である。このような小さな環帯直径を用いても、従来のサイズの弁の環帯内配置は、血流を過度に制限する。結果的に、図8aおよび8bを参照すると、直角三角形の形状の断面を有するように設計したが環帯上位置での大動脈環帯との高い癒合を維持するような寸法にしたスポンジ部材214を使用することは、有利である。
【0047】
先の実施態様と共に記述したスポンジと同様に、スポンジ214は、縫合リング210の弾性を高めるために、壁241およびリブ243により規定されたセルまたは空隙239から成る。その突出した断面形状では、スポンジ214は、癒合面238、内部リング面236および頂端232を有するように、設計されている。内部リング面236および癒合面238は、互いに、角度Dで配置されている。
【0048】
頂端232は、先に記述した縫合リング114の対応する水平距離136とほぼ同じ長さであり、そして好ましい実施態様において、その寸法は、およそ3.18mmである。同じ好ましい実施態様では、内部リング面236は、およそ3.68mmの長さであり、角度Dは、およそ40.4度に等しく、それにより、癒合面238に対して、4.865mmの長さが得られる。
【0049】
(大動脈リング設計)
図9a〜cは、種々のサイズにした環帯用の機械弁V上にて、種々の設計の本発明の大動脈弁縫合リング110を図示している。ステント112およびスポンジ114のような、先に同定した特徴は、類似の数を与えられる。図9aは、19mmと21mmの間の直径を有する小さな大動脈環帯で使用するための縫合リング110’を示す。その織布被覆は、典型的には、その流出側にて短片116a、およびその流入側にて長片116bを備える。2個の摩擦制御隆起150は、ステント112の内部に設けられ、そして弁本体Vに対して、短片116aの一端および長片116bの一端を圧縮するのに、役立つ。図9bは、21mmと29mmの間の直径を有する大動脈環帯で使用するための縫合リング110’’を示す。その設計は、スポンジ114が図7bで示したものであって弁本体Vの上に伸長していること以外は、図9aの縫合リング110’と類似している。癒合面151は、このリング軸に対して垂直の平面154とのすくい角152を、10°と20°の間にする。さらに具体的には、すくい角152は、好ましくは、21mmの環帯に対して、10°であり、そして23〜29mmの環帯に対して、20°である。癒合面151は、弁Vの流入末端から約1mmの距離156で、ステント112の軸方向外面と接する。最後に、図9cは、31mmの大動脈環帯で使用するための弁Vおよび縫合リング110’’’を示す。この構造は、約20°の一定のすくい角を除いて、図9bの縫合リング110’’と同一である。また、スポンジ114は、流入末端にて、厚くなった領域158を包含し、これは、より大きな環帯に適合するように、このリングの外形を大きくするのに、役立つ。領域158は、望ましくは、シリコーンスポンジ114にて、一体形成され、そして図9bの小さいリングの軸距離156とほぼ等しい軸寸法を有する。
【0050】
(僧帽環帯、サイジングおよび移植)
図10aは、直径Xを有する大動脈環帯160を、断面で概略的に図示している。大動脈環帯160は、典型的には、図4aで示した僧帽環帯ほどに顕著ではないが、それにもかかわらず、その最も狭いオリフィスにて、基準線162を示す。図10bは、弁寸法測定器164を示しており、これは、図9aの小さな直径の大動脈縫合リング110’に類似の形状にされ、そして測定用に、この環帯内に配置されている。適当な寸法測定器が見出されると、それに対応した大きさにした弁が、移植用に選択される。図10cは、本発明の大動脈弁AVおよび縫合リング110’を示し、これらは、移植用の環帯160に対して、環上に配置されている。
【0051】
(大動脈リングの配置の可撓性)
縫合リング110’’または110’’’でスポンジ114を使用する際の利点の1つは、それが、この環帯組織を損傷することなく、またはこの外科的手順に困難な工程を追加することなく、環内または環上のいずれかで、大動脈弁の配置を適応することにある。環上とは、この弁本体をこの環帯自体の一般に外側に配置することを意味するのに対して、環内位置とは、この弁本体が、実質的に、この環内に伸長していることを意味する。いずれかの用途にて、縫合リング110は、この僧帽弁配置に関して記述したものとほぼ同じように、環帯組織との高い癒合を与える。これらの利点は、図11a〜11dに関して、最も良く議論されている。
【0052】
図11aは、弁の配置前において、大動脈環帯160内の位置での弁寸法測定器166を示す。本発明により、外科医は、寸法測定器166により便利に測定された寸法を採用して、その必要性に応じて、種々の大きさにした弁を選択できるようになる。すなわち、世間一般の通念は、弁周囲での漏れの防止を助けるために、人工弁を環内で配置することを教示している。しかしながら、ある状況では、この漏れの可能性がなければ、環上配置の方が、より好都合であり得る。図11bは、環上位置に配置された機械弁および大動脈リング110’’または110’’’を示す。本発明のリングの有利な形状、従順性、圧縮可能性および弾性のために、それらは、この慣例に従わない位置でさえ、この環帯に一致し、そして漏れのない癒合を提供する。図11cは、環内位置に穏やかに操作した後の同じ弁を示す。最後に、図11dは、環内に配置した本発明の大動脈リング110’’または110’’’を有する小型化弁を示す。この弁は、患者の要求に関する外科医の検査に基づいて、1mmまたは2mm小型化され得る。以前の縫合リングは、堅すぎたか、および/または種々の移植位置(これは、本発明のリング110’’または110’’’が可能にする)の全てに適合するには充分に大きくないかのいずれかであった。
【0053】
(スポンジ圧縮)
次に、図12aおよび12bを参照して、スポンジ114の設定は、環上または環内のいずれかの移植に関連させると、より良く理解される。図12bでは、スポンジ114は、縫合前の環上位置で示されており、それゆえ、このスポンジは、実質的に、少なくとも上端にて、その湾曲していない状態で、見える。図12aでは、スポンジ114は、縫合前の環内位置で示されており、それゆえ、このスポンジは、さらに小さい環帯サイズを考慮するために、湾曲されている。セル139を分割するリブ143は、放射状に内向きに圧縮されており、結果として、偏っている。また、各セルの外周壁141は、凹んだ形状を呈する。この様式の偏向により、この縫合リングは、先に記述したように、この縫合リングに対して有利な弾性を与えることができる。すなわち、一部の従来のリングは、従順性を与えたが、弾性または跳ね返りを与えなかった。本発明のリングは、配置前に、この環帯にうまく適合するだけでなく、環内に配置すると、例えば、この組織と癒合するために、跳ね出る(spring out)。
【0054】
(大動脈リングの利点)
環上位置で配置された縫合リング110(図9bまたは9cの110’’または110’’’)を、図13aで描写する。適当な位置に縫合する前に、この縫合リングは、点線(これは、主な名称と共に部品番号を有する)により示されるように、偏向していない形状を有し、この縫合リングの重要な部分(これは、突出領域138’を含む)が、組織160とは密接に接触していないことを示している。この縫合リングを適当な位置で固定するために、縫合リング110のこの部分は、隣接組織160と噛み合うように引っ張られなければならない。スポンジ114の上昇した従順性のために、これは、この環帯を過度に変形することなく、この縫合リングの実線形状で示されるように、容易に行われる。縫合リング114は、縫合リング110の癒合面151の長さを著しく短くすることなく、そして、過度に伸張されて組織160に引き込まれることなく、この組織と噛み合うように容易に引っ張られる。さらに、縫合リング110の有利な断面領域のために、癒合領域124は、縫合リング110の癒合面151の実質的に全長に沿って、伸長する。さらに、癒合領域124は、縫合リング110がその偏向していない状態である場合に達せられる領域と実質的に等しい。
【0055】
さらに、主に、スポンジ114により決定される縫合リングのジオメトリーのために、縫合リング110の縫合プラットホームは、この縫合リングと外科医が縫合169を導入し得る組織160中の位置との間の距離168が大きくなる。この大きくなった距離は、時には、「咬合」と呼ばれるが、それにより、綿撒糸を使用することなく、この縫合リングをこの環帯へと縫合可能となる。
【0056】
綿撒糸なしで人工大動脈弁を装着するために、外科医が、大動脈環帯組織の約3mm(放射状に測定した)の最小「咬合」(この上に、縫合糸が導入され固定される)を付けなければならないことが、当業者に理解される。このような距離は、大動脈環帯組織がこの縫合リングの周囲に触れる場所から、この組織が縫合リング110の基部またはその近くで終わる場所までで、測定され得る。このような咬合が、従来のリングを用いて利用可能であった場合でさえ、この組織と協同して変形して、各縫合糸に対する応力を低下させる可撓性および弾性があるものは、なかった。本発明の大動脈リング110は、さらに大きな形状で、このような従順性および弾性を与え、それにより、綿撒糸なしでの装着を可能にする。
【0057】
さらに、僧帽リングの実施態様について上で述べたものと同じ利点が、同様に、大動脈弁110に適用できる。さらに具体的には、綿撒糸をなくすこと、および環内または環上で配置する性能と共に、良好なシールを備えた、より少ない縫合が提供される。最後に、リング110の従順性および弾性の性質のために、この弁を移植するとき、各縫合糸には、より少ない張力を加える必要しかなく、それにより、この縫合糸ループ内にて組織が褥瘡性潰瘍を生じる可能性が減少する。
【0058】
これらの利点は、図13bを参照して、うまく理解されるが、これは、環上位置で配置された硬質テフロンフェルトまたは布のいずれかの充填剤から製造される従来の大動脈環状縫合リング170の使用を示す。この従来の縫合リングは、この縫合リングを著しく変形することなく、そして、組織160に対して過度の伸張力を誘導することなく、この縫合リングを下の組織に装着可能にするのに必要な弾性を有しない。さらに、縫合リング170のジオメトリーは、利用可能な癒合領域が既に限定されており、そして、この縫合リングが組織との装着を達成するために変形された場合に、なおさらにそうなるようにされる。見出されるように、癒合領域172は、本発明の縫合リング110を用いて達成される癒合領域124よりも、ずっと小さい。結果として、外科医には、その上に縫合リング170を装着する少量の組織が残され、それによって、綿撒糸の使用が必要となる。
【0059】
環内位置で配置された縫合リング110(図9bまたは9cの110’’または110’’’)は、図14aで描写されている。縫合前では、縫合リング110は、外科医により繊細に操作されて、この環帯へと入れられなければならない(それゆえ、「環内」配置)。何故なら、このような配置のための環帯は、直径が、この縫合リングの外径よりも小さいからである。縫合リング110の高い弾性のために、このような配置は、それを取り囲んでいる環帯組織160を不利に圧縮することなく、そして、癒合領域を緩めるように、この縫合リングを過度に圧縮することなく、達成される。事実、この高い弾性により、縫合リング110は、この環帯組織の外形との良好な適合が可能となり、それにより、この癒合を高める。従って、この縫合リングのジオメトリーと組み合わせた高い弾性により、癒合面151を非偏向状態としたなら得られたであろうものと実質的に同じ癒合領域125が得られる。上述のように、この組み合わせにより、また、外科医が綿撒糸を使用することなく縫合176を導入するための高い咬合174が得られる。
【0060】
この環内配置状況における利点は、図14bを参照して、うまく理解されるが、これは、図13bに関して述べたものと同じ従来の縫合リング170を描写している。縫合リング170の制限された弾性のために、組織160は、このリングを環内位置に配置したときに、過度に圧縮される。これにより、外科医にとって、この弁を配置する工程がさらに困難になる。さらに、縫合リング170のジオメトリーは、図14aの縫合リング110と比較すると、本発明の縫合リング110により得られる癒合領域125よりも著しく小さい癒合領域178を生じる。
【0061】
以下の表Iは、市場で入手できる種々の縫合リングと本発明の縫合リングの一例とのサイズ比較である。これらの縫合リングは、以下の出所を有する:
【0062】
【数1】
Figure 0003701198
【0063】
【表1】
Figure 0003701198
* 「使用できる放射状幅」との用語は、この弁本体またはステント構造(そこを通って、縫合糸が通され得る)から放射状に外向きに伸長している幅である。この用語は、この弁本体またはステント構造に対する縫合通過の任意の妨害(これは、各リングの絶対幅を低下させる)を考慮している。
【0064】
前記従来の縫合リングのいずれも、本発明による大動脈縫合リングの独特のジオメトリーと高い弾性との組み合わせを提供せず、また、この縫合リングと環帯組織との間の高い癒合も与えない。
【0065】
本明細書中で記述し図面で示した例および実施態様は、本発明の現在好ましい実施態様のみを表す図面を示しており、本発明がその物理的な形態をとり得る全ての可能な実施態様を網羅して詳細に記述することを意図している訳ではないことが理解される。
【図面の簡単な説明】
【図1a】 図1aは、本発明による僧帽環帯縫合リングの分解透視図であり、これは、機械弁を想像線で示している。
【図1b】 図1bは、図1aの僧帽環帯縫合の透視組立図である。
【図2a】 図2aは、本発明による僧帽環帯縫合リングで使用されるスポンジの頂部および底部透視図である。
【図2b】 図2bは、本発明による僧帽環帯縫合リングで使用されるスポンジの頂部および底部透視図である。
【図2c】 図2cは、線2c−2cに沿って見た図2bのスポンジの断面図である。
【図3a】 図3aは、機械弁および図1bの僧帽縫合リングの3つの実施態様の一面の概略断面図である。
【図3b】 図3bは、機械弁および図1bの僧帽縫合リングの3つの実施態様の一面の概略断面図である。
【図3c】 図3cは、機械弁および図1bの僧帽縫合リングの3つの実施態様の一面の概略断面図である。
【図4a】 図4aは、僧帽環帯の概略断面図である。
【図4b】 図4bは、図1bの縫合リングの移植に備えた、僧帽環帯での弁寸法測定器の概略断面図である。
【図4c】 図4cは、僧帽環帯にて、図1bの僧帽縫合リングを有する機械弁の概略断面図である。
【図5a】 図5aは、機械弁および図1bの縫合リング(これは、僧帽環帯に配置されている)の一面の概略断面図である。
【図5b】 図5bは、機械弁および先行技術の縫合リング(これは、僧帽環帯に配置されている)の一面の概略断面図である。
【図6a】 図6aは、本発明による大動脈環帯縫合リングの分解透視図であり、これは、機械弁を想像線で示している。
【図6b】 図6bは、図6aの大動脈環帯縫合の透視組立図である。
【図7a】 図7aは、本発明による大動脈環帯縫合リングで使用されるスポンジの透視図である。
【図7b】 図7bは、線7b−7bに沿って見た図7aのスポンジの断面図である。
【図8a】 図8aは、本発明による小さな環帯縫合リングで使用するスポンジのさらに他の実施態様の透視図である。
【図8b】 図8bは、線8b−8bに沿って見た図8aのスポンジの透視図である。
【図9a】 図9aは、機械弁および図6bの大動脈縫合リングの3つの実施態様の一面の概略断面図である。
【図9b】 図9bは、機械弁および図6bの大動脈縫合リングの3つの実施態様の一面の概略断面図である。
【図9c】 図9cは、機械弁および図6bの大動脈縫合リングの3つの実施態様の一面の概略断面図である。
【図10a】 図10aは、大動脈環帯の概略断面図である。
【図10b】 図10bは、図6bで示したものと類似の大動脈縫合リングの移植に備えて、大動脈環帯での弁寸法測定器の概略断面図である。
【図10c】 図10cは、大動脈環帯にて、図6bの僧帽縫合リングを有する機械弁の概略断面図である。
【図11a】 図11aは、環上位置での図6bの大動脈縫合リングの移植に備えて、大動脈環帯でのさらに他の弁寸法測定器の概略断面図である。
【図11b】 図11bは、大動脈環帯の環上位置での図6bの大動脈縫合リングの概略断面図である。
【図11c】 図11cは、大動脈環帯の環内位置での図6bの大動脈縫合リングの概略断面図である。
【図11d】 図11dは、大動脈環帯の環内位置での図6bの小型化大動脈縫合リングの概略断面図である。
【図12a】 図12aは、本発明の縫合リングの織布被覆(これは、圧縮状態で図7aまたは8aで示したものと類似した環状スポンジを図示するために、取り除かれた)を備えた大動脈環帯にて、環内位置で配置された機械弁の平面図である。
【図12b】 図12bは、大動脈弁環帯にて環上位置で配置された機械弁を備えた図12aと類似の頂部断面図であり、これは、比較的に圧縮していない状態で、環状スポンジを示している。
【図13a】 図13aは、機械弁および図9aまたは9cの縫合リング(これは、大動脈弁環帯にて、環上位置で配置された)の片側の概略断面図である。
【図13b】 図13bは、機械弁および先行技術の縫合リング(これは、大動脈弁環帯にて、環上位置で配置された)の片側の概略断面図である。
【図14a】 図14aは、機械弁および図9bまたは9cの縫合リング(これは、大動脈弁環帯にて、環内位置で配置された)の片側の概略断面図である。
【図14b】 図14bは、機械弁および先行技術の縫合リング(これは、大動脈弁環帯にて、環内位置で配置された)の片側の概略断面図である。

Claims (32)

  1. 支持環帯に人工心臓弁を移植するのに使用する大動脈弁縫合リングであって、該縫合リングは、以下を包含する:
    縫合糸貫通性の環状リング部材であって、該環状リング部材は、複数の変形可能壁から形成され、該変形可能壁の一部は、その間で開放セルを規定するように、放射状に整列されており、該環状リング部材は、軸の周りに配向されており、そして該軸に沿って間隔を空けて配置された頂端および底端を有し、該環状リング部材は、以下により規定される三角形断面を有する:軸方向に伸長している内部リング面、該内部リング面の頂端から放射状に外向きに突出している頂面、および該頂面の最外突出部と該内部リング面との間で伸長している癒合面:ここで、該内部リング面と該頂面の該最外突出部との間の半径方向距離は、少なくとも3.18mmである;および
    織布被覆であって、該織布被覆は、該環状リング部材の少なくとも外部を取り囲んでいる、
    縫合リング。
  2. 前記頂面が、前記内部リング面の頂端から、直接的に放射状に外向きに突出している、請求項1に記載の縫合リング。
  3. 前記頂面が、前記内部リング面の頂端から、上向き角度で、放射状に外向きに突出している、請求項1に記載の縫合リング。
  4. 前記上向き角度が、前記軸に関して、110度の角度である、請求項3に記載の縫合リング。
  5. 前記頂面の前記最外突出部が、前記内部リング面の前記頂端の1.04mm上にある、請求項3に記載の縫合リング。
  6. 前記癒合面が、4.865mmの長さを有する、請求項3に記載の縫合リング。
  7. 前記癒合面が、7.88mmの長さを有する、請求項に記載の縫合リング。
  8. 前記癒合面が、その底端から間隔を空けた距離で、前記内部リング面と接合し、ここで、前記内部リング面上の前記変形可能壁が、該癒合面と該底端との間の該距離に沿って、厚さを大きくされた、請求項1に記載の縫合リング。
  9. 前記織布被覆が、生体適合性を改良する化学物質で処理されている、請求項1に記載の縫合リング。
  10. 前記化学物質が、ヘパリンを含有する、請求項9に記載の縫合リング。
  11. 前記環状リング部材が、シリコーンゴムを含有する、請求項1に記載の縫合リング。
  12. 支持環帯に人工心臓弁を移植するのに使用する縫合リングであって、該縫合リングは、以下を包含する:
    縫合糸貫通性の環状リング部材であって、該環状リング部材は、複数の変形可能壁から形成され、該変形可能壁の一部は、その間で開放セルを規定するように、放射状に整列されており、該環状リング部材は、軸の周りに配向されており、そして該軸に沿って間隔を空けて配置された頂端および底端を有し、該環状リング部材は、以下により規定される断面を有する:軸方向に伸長している内部リング面、該内部リング面の頂端から放射状に外向きに突出している頂面、および該頂面の最外突出部と該内部リング面との間で伸長している癒合面:ここで、該癒合面は、少なくとも部分的に、凹面状に曲がっている;および
    織布被覆であって、該織布被覆は、該環状リング部材の少なくとも外部を取り囲んでいる、
    縫合リング。
  13. 前記癒合面が、一定半径の曲線として規定されている、請求項12に記載の縫合リング。
  14. 前記一定半径が、4.45mmである、請求項13に記載の縫合リング。
  15. 前記癒合面が、1個より多い曲率半径を有する複合曲線として、形成されている、請求項12に記載の縫合リング。
  16. 前記癒合面が、曲率半径が絶えず変化している非球面曲線として、形成されている、請求項12に記載の縫合リング。
  17. 前記頂面が、少なくとも3.18mmの距離で、前記内部リング面の頂端から、直接的に放射状に外向きに突出している、請求項12に記載の縫合リング。
  18. 前記頂面が、4.32mmの距離で、放射状に外向きに突出している、請求項17に記載の縫合リング。
  19. 前記癒合面が、前記頂面が放射状に外向きに突出している前記距離と少なくとも同じ大きさである一定半径の曲線として、規定される、請求項17に記載の縫合リング。
  20. 前記織布被覆が、生体適合性を改良する化学物質で処理されている、請求項12に記載の縫合リング。
  21. 前記化学物質が、ヘパリンを含有する、請求項20に記載の縫合リング。
  22. 前記環状リング部材が、シリコーンゴムを含有する、請求項12に記載の縫合リング。
  23. 以下:
    請求項12に記載の縫合リング;
    剛性環状弁本体;および
    該弁本体と該縫合リングとの中間にある環状ステント、
    を包含する、心臓弁。
  24. 前記織布被覆が、前記環状ステントの少なくとも一部および前記環状リング部材を両方とも取り囲み、そして該ステントと該弁本体との間の途中まで伸長している、請求項23に記載の弁。
  25. 前記織布被覆が、2個の断片に分かれており、第一断片が、前記ステントおよび前記環状リング部材の流入末端の回りにあり、そして第二断片が、該ステントの流出末端の回りにある、請求項24に記載の弁。
  26. 前記第二断片の一部が、前記ステントと前記環状リング部材との間で伸長している、請求項25に記載の弁。
  27. 前記第一断片が、前記第二断片より長い、請求項25に記載の弁。
  28. さらに、スペーサースリーブを包含し、該スペーサースリーブが、前記環状ステントと前記環状リング部材との間に配置されている、請求項23に記載の弁。
  29. 前記織布被覆の第一部分が、前記環状リング部材を完全に取り囲んでおり、そして第二部分が、前記環状ステントおよび前記スペーサースリーブを取り囲んでおり、該第二部分が、該ステントと前記弁本体との間および該スペーサースリーブと該環状リング部材との間で伸長している、請求項28に記載の弁。
  30. 前記第二部分が、2個の断片に分かれており、第一断片が、前記ステントおよび前記スペーサースリーブの流入末端の回りにあり、そして第二断片が、該ステントおよび該スペーサースリーブの流出末端の回りにある、請求項29に記載の弁。
  31. 前記第二部分の前記2個の断片が、前記スペーサースリーブと前記環状リング部材との間で重なり合っている、請求項30に記載の弁。
  32. 前記第一断片が、前記第二断片より短い、請求項31に記載の弁。
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