JP3684167B2 - ヘドルおよび織機 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本願発明は、手織機などの織機において複数本のたて糸を昇降させることにより、それら複数本のたて糸間に杼口を開口させるのに用いられるヘドル(綜絖)、およびこのヘドルを備えた織機に関する。
【0002】
【従来の技術】
手工芸の分野においては、市販されている布地に加工を施すことにより種々の作品を製作するに止どまらず、布地そのものを手織機を用いて趣のあるように作製することが行なわれている。このような場合に利用される従来の手織機のヘドルの一例を図17に示す。同図に示されたヘドルH1は、昇降式のものであり、枠体90に複数の羽根91が一定ピッチで取り付けられている。たて糸Wは、羽根91どうしの間のスリット92と羽根91に設けられた穴93とに挿通される。スリット92は穴93よりも縦幅が大きい。したがって、たとえば図18に示すように、ヘドルH1を上昇させたときには、穴93に挿通するたて糸W(Wa)をスリット92に挿通するたて糸W(Wb)よりも上昇させて、シャトル(杼)を通すための杼口94を開口させることができる。図示説明は省略するが、上記とは反対に、ヘドルH1を下降させたときには、たて糸Waをたて糸Wbよりも下降させることができる。
【0003】
従来のヘドルの他の例を図19に示す。同図に示されたヘドルH2は、回転式のものであり、複数本のたて糸Wを通すための複数種類の有底状の凹溝95A〜95Dを有している。複数の凹溝95A,95Bどうし、および複数の凹溝95C,95Dどうしは、1つずつ交互に並んだ列状に配され、かつ異なる深さとされている。このヘドルH2においては、同図に示すように、凹溝95A,95Bにたて糸Wを通すと、このたて糸Wは、凹溝95A,95Bの深さに応じて高さが相違することとなり、凹溝95Bに進入しているたて糸W(Wd)の方が凹溝95Aに進入しているたて糸W(Wc)よりも高くなる。これに対し、図20に示すように、このヘドルH2を回転させると、たて糸W(Wc,Wd)は、凹溝95C,95Dに進入する。すると、上記とは逆に、たて糸W(Wc)の方がたて糸W(Wd)よりも高くなる。このような原理により、たて糸Wを1本ずつ交互に昇降させて、たて糸W間に杼口を開口させることができる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来のものでは、次に述べるような不具合があった。
【0005】
まず、図17に示したヘドルH1においては、穴93が微小であるとともに、スリット92の横幅も狭いことに加え、これらの穴93やスリット92にたて糸Wを通すには、それらの部分に対してたて糸Wをその先端から通す必要がある。したがって、その作業は非常に面倒なものとなっていた。また、たて糸Wとしては、複数の穴93やスリット92に挿通させるための先端を有するように予め適当にカットされたものを複数本準備しておくといった必要も生じ、この点においても不便を生じていた。さらに、ヘドルH1は、図17に示したような中間高さに加えて、このヘドルH1をそれよりも上昇させた状態および下降させた状態の計3段階の高さに設定する必要があり、そのためにはユーザがヘドルH1を手で持ち、その上げ下ろしを行なう必要がある。したがって、この作業も面倒なものとなっていた。さらに、図18に示すように、ヘドルH1を上昇させた場合、たて糸Wa,Wbのそれぞれの高さの差の最大値hは、ヘドルH1の上昇量と略同一に過ぎない。したがって、杼口94を大きく開口させる上で改善の余地があった。上記した最大値hは、スリット92の縦幅の1/2である。このため、杼口94の開口幅を大きくしようとすれば、スリット92の縦幅を大きくする必要があり、ヘドル全体の大型化および重量の増加を招く不具合もあった。
【0006】
一方、図19に示したヘドルH2においては、凹溝95A〜95Dのそれぞれの上部が開放状態にあるため、それらの凹溝に対してはたて糸Wをその先端部から通す必要はない。したがって、上述のヘドルH1と比べて、たて糸の通し作業が容易化される。また、たて糸Wを適当にカットしておく必要も無くすことができる。さらに、たて糸Wの昇降は、ヘドルH2を回転させればよいため、その操作性も前述のヘドルH1と比べて良好となる。ところが、このヘドルH2においては、凹溝95A〜95Dの各開口が開放したままであるために、ヘドルH2を回転させたときにこれらの凹溝95A〜95Dからたて糸Wが外れてしまう虞れが大きくなっていた。とくに、たて糸Wを上昇させるための凹溝95B,95Cは、その深さを浅くする必要があるため、この凹溝95B,95Cからたて糸Wが外れてしまう可能性が高くなっていた。また、このヘドルH2においては、たて糸Wの昇降幅は、凹溝95A,95Bどうし、および凹溝95C,95Dどうしの深さの差に過ぎない。したがって、前述したヘドルH1と同様に、ヘドル全体の大型化を抑制しつつ、杼口の上下開口幅を大きくとることが難しいものとなっていた。
【0007】
本願発明は、このような事情のもとで考え出されたものであって、たて糸のセッティング作業やたて糸の昇降作業を容易に行なうことができるとともに、ヘドル全体の大型化を抑制しつつ杼口の上下開口幅も大きくとることができるようにすることをその課題としている。
【0008】
【発明の開示】
上記の課題を解決するため、本願発明では、次の技術的手段を講じている。
【0009】
本願発明の第1の側面によって提供されるヘドルは、たて糸を通すための複数の凹溝が第1の方向に並んで形成されたヘドルであって、上記複数の凹溝に通されたたて糸を保持可能な複数の第1および第2の保持手段を具備しており、かつ上記各第1および第2の保持手段は、このヘドルが上記第1の方向に延びる軸心周りに揺動したときに、上記各第1および第2の保持手段の一方が上昇するとともに他方が下降するように、上記第1の方向に交差する第2の方向において間隔を隔てているとともに、上記各凹溝を挟んで互いに対向する第1および第2の壁部を有しており、上記第1および第2の保持手段は、上記第1の壁部から上記第2の壁部に向けて突出し、かつ先端部と上記第2の壁部との間にたて糸通過用の隙間を形成する第1の突起と、この第1の突起よりも上記凹溝の奥部に位置し、かつ上記第1および第2の壁部の間をその全幅にわたって横切る第2の突起と、を含んでいることを特徴としている。
【0010】
このような構成によれば、次のような効果が得られる。
【0011】
第1に、ヘドルを揺動させたときには、上記第1および第2の保持手段にそれぞれ保持された複数のたて糸の一方が上昇するとともに、他方は下降する。したがって、たて糸間に形成される杼口の上下開口幅は、上記たて糸の上昇量と下降量との総和となり、杼口を大きく開口させることができる。このように杼口を大きく開口させることができれば、たて糸間によこ糸を通す作業が容易化される。また、上記のような原理により、杼口の上下開口幅を大きくとることができれば、従来技術と同一幅で杼口を開口させようとする場合に、ヘドル全体を従来技術のものよりも小型にし、かつその軽量化をも図ることが可能となる。
【0012】
第2に、上記各凹溝に通されたたて糸は、上記第1および第2の保持手段に保持されるために、従来の回転式のものとは異なり、ヘドルを揺動させたときに、たて糸が上記各凹溝から不用意に外れにくくなる。
【0013】
第3に、たて糸の昇降はヘドルの揺動により行なわせることができるために、従来の昇降式のものとは異なり、作業者がヘドルを持ち上げて移動させるといった必要をなくし、その操作性も良好なものにすることができる。
【0014】
第4に、上記各凹溝にたて糸を通す場合には、従来の昇降式のものとは異なり、各凹溝に対してたて糸をその先端から通す必要はなく、その作業性が良好となり、また各凹溝にたて糸を通すための準備として、たて糸を複数本のたて糸にカットしておくといった必要も無くすことができる。
【0020】
第5に、上記各凹溝にたて糸を通すときに、上記隙間をこのたて糸が通過するようにすれば、このたて糸を上記第1および第2の突起との間に進入させることができる。たて糸が上記第2の突起よりも上記凹溝の奥部に進行することは適切に阻止されるため、上記たて糸を上記第1および第2の突起の間に適切に保持させることができる。上記たて糸が上記各凹溝の外方に抜け出ることは、上記第1の突起によって妨げられる。
【0021】
本願発明の他の好ましい実施の形態においては、上記第2の壁部には、上記第1の突起の先端部が一部進入する凹部が設けられているとともに、上記第1の突起には、上記凹溝に進入してきたたて糸を上記凹部に向けてスライドさせる傾斜面が形成されている。
【0022】
このような構成によれば、上記第1の突起は、上記第2の突起と同様に、上記凹溝の全幅にわたって存在することとなり、たて糸を上記第1および第2の突起の間に配置させた場合に、このたて糸が上記第1の突起を越えて上記凹溝の外部に抜け出ることがより確実に防止されることとなる。また、たて糸を上記凹溝内に通すときには、上記第1の突起の傾斜面がたて糸を上記凹部に向けてガイドするため、この凹部と上記第1の突起との間の隙間に上記たて糸を適切に通過させることにより、上記たて糸を上記第1および第2の突起の間に適切に進入させることもできる。
【0025】
本願発明の第2の側面によって提供される織機は、本願発明の第1の側面によって提供されるヘドルを具備していることを特徴としている。
【0026】
このような構成によれば、本願発明の第1の側面によって得られるのと同様な効果が期待できる。
【0037】
本願発明のその他の特徴および利点については、以下に行う発明の実施の形態の説明から、より明らかになるであろう。
【0038】
【発明の実施の形態】
以下、本願発明の好ましい実施の形態について、図面を参照しつつ具体的に説明する。
【0039】
図1〜図3は、本願発明に係る織機の一実施形態を示している。図4〜図8は、本願発明に係るヘドルの一実施形態を示している。
【0040】
図4によく表われているように、本実施形態のヘドルAは、複数枚ずつの2種類のプレート1A,1Bがそれらの厚み方向に交互に並べられ、かつこれら複数枚のプレート1A,1Bが一対のサイドカバー2間に挟み込んで連結された構造を有している。この連結は、たとえば図5によく表われているように、プレート1A,1Bおよびサイドカバー2の底部近傍に設けられた穴10,20にシャフト30を挿通するとともに、このシャフト30の両端に形成されたネジ部にナット31を螺合させて締め付けることによりなされている。サイドカバー2には、略水平状に突出する把手用の凸部21が設けられている。
【0041】
プレート1A,1Bは、たとえば合成樹脂製であり、それらの底部およびその近傍部は、プレート1A,1Bの他の部分よりも厚みtが大きい厚肉部12A,12Bとして形成されている。このため、プレート1A,1Bの厚肉部12A,12B以外の箇所どうしの間には、凹溝32が形成されている。この凹溝32にたて糸Wが通される。
【0042】
複数のプレート1A,1Bとしては、たとえば色彩が異なる2種類のものがあり、たとえばヘドルAの長手方向の中央の凹溝を構成する一対のプレート1A,1Bが、それ以外の複数のプレート1A,1Bとは異なる色彩とされている。このようにすれば、複数の凹溝32のうち、いずれがヘドルAの長手方向中央の凹溝であるのかをユーザは一見して判別できることとなる。もちろん、本願発明においては、上記以外の態様にすることもできる。たとえば、ヘドルAの長手方向中央からその長手方向において一定距離だけ離れるごとに各プレートの色彩が切り替わっていくようなデザインにし、この色彩の切り替わる位置を同方向における寸法の目安にすることもできる。また、たとえば、プレート1A,1Bどうしの色彩を互いに相違させることにより、ヘドルAの長手方向に異なる色彩のプレートが1枚ずつ交互に並ぶ構成とすることもできる。このようにすれば、各凹溝32は互いに色彩が異なる一対のプレートどうしの間に存在することとなり、凹溝32を見易くすることができる。もちろん、本願発明においては、プレート1A,1Bの色彩数を3以上の多色にすることが可能である一方、これとは反対にプレート1A,1Bの全てを同一色に揃えることもできる。
【0043】
図6によく表われているように、プレート1A,1Bの側面視における外周形状は互いに同一とされている。より具体的には、これらのプレート1A,1Bの外周を形成する複数の面としては、上向きの第1面11aと、この第1面11aの長手方向両端から垂れ下がった一対の第2面11b,11cと、これら一対の第2面11b,11cの下端からプレート1A,1Bの底部まで延び、かつプレート1A,1Bの下部になるほど互いの間隔が狭まるように傾斜した一対の第3面11d,11eとがある。プレート1A,1Bの底部は、第3面11d,11eが互いに繋がって丸みを帯びた形状を有している。このようなプレート1A,1Bの形状は、後述するように、ヘドルAの全体を傾かせるのに好適となる。なお、プレート1A,1Bの底部を平面状に面取りした場合には、後述するレール70上においてヘドルAをスライドさせる場合に、その面取りされた部分をレール70に面接触させることによって、ヘドルAの姿勢をより安定させることが可能となる。
【0044】
図5によく表われているように、複数の凹溝32内には、たて糸Wを保持するための第1および第2の保持部4A,4Bが設けられている。第1の保持部4Aは、図6に示すように、プレート1Bの幅方向一端部の上部近辺に設けられた第1の突起13Aおよび孔15Aと、これに対応するプレート1Aの幅方向一端部の上部近辺に設けられた孔16Aおよび第2の突起14Aとが組み合わされることにより構成されている。第1の突起13Aは、円筒状の突起の一部を斜めに切断したような形状を有しており、この第1の突起13Aの上面13aは、図7によく表われているように、先端部が下がり状の傾斜面とされている。この第1の突起13Aの先端部は、孔16Aに進入している。ただし、孔16Aは、第1の突起13Aよりも大径とされており、この孔16Aの周縁部と第1の突起13Aの先端部との間には、たて糸Wを通過可能とする隙間17が設けられている。孔16Aは、本願発明でいう第1の突起の先端部が一部進入する凹部を構成している。本願発明でいう凹部は、必ずしも貫通孔の態様とされている必要はなく、非貫通状の孔によって構成することもできる。第2の突起14Aの先端部は、孔15Aに比較的密に嵌入している。この第2の突起14Aは、第1の突起13Aの下方にたて糸Wを配置させておくための隙間18を形成するように第1の突起13Aよりも下方に位置しており、かつ凹溝32の横幅全体を横切っている。
【0045】
図6において、第2の保持部4Bは、プレート1Aの幅方向他端部の上部近辺に設けられた第1の突起13Bおよび孔15Bと、これに対応するプレート1Bの幅方向他端部の上部近辺に設けられた孔16Bおよび第2の突起14Bとが組み合わされることにより構成されている。これら第1および第2の突起13B,14Bと孔15B,16Bとのそれぞれの形状やサイズは、第1の保持部4Aを構成する第1および第2の突起13A,14Aと孔15A,16Aと同様である。また、第2の保持部4Bの断面構造も、第1の保持部4Aのそれと同様である。ただし、第2の保持部4Bは、第1の保持部4Aが設けられていない凹溝32内に設けられている。図6を参照してこの点を具体的に説明すると、一対のプレート1A,1B(1A',1B') の間に第1の保持部4Aが設けられている場合、第2の保持部4Bは、それら一対のプレート1A,1B(1A',1B') の間には設けられておらず、プレート1A(1A')とこのプレート1A(1A')を挟んでプレート1B(1B') とは反対に位置するプレート1B(1B") との間に設けられている。また、第2の保持部4Bは、プレート1B(1B') とこのプレート1B(1B') を挟んでプレート1A(1A')とは反対に位置するプレート1A(1A") との間に設けられている。このようにして、第1および第2の保持部4A,4Bは、複数の凹溝32に対して1つずつ交互に設けられている。また、図8によく表われているように、第1および第2の保持部4A,4Bは、複数の凹溝32が並ぶ方向に交差する方向において、適当な間隔Lを隔てている。
【0046】
図1および図2によく表われているように、本実施形態の織機Bは、上述したヘドルAに加え、フレーム5、たて糸巻取部6A、織地巻取部6B、一対のレール70、およびその他の後述する部分を具備して構成されている。
【0047】
フレーム5は、たとえば木製あるいは合成樹脂製であり、一定方向に延びる一対の側板50と、これら一対の側板50どうしを繋ぐ連結板51とを有している。
【0048】
たて糸巻取部6Aは、たて糸Wの余分な部分を巻き取っておくための部位である。このたて糸巻取部6Aは、一対の側板50のそれぞれの長手方向一端部に両端が支持された回転可能な巻取ローラ60Aを具備している。巻取ローラ60Aの両端部には、この巻取ローラ60Aに連れもって回転する一対のアーム61Aが装着されており、これら一対のアーム61Aには、補助バー62Aが支持されている。この補助バー62Aは、たとえばたて糸巻取部6Aと織地巻取部6Bとの間にたて糸Wを張る場合に利用されるものであり、織地巻取部6Bからたて糸巻取部6Aに向けて引っ張られてきたたて糸Wをこの補助バー62Aに掛け廻してからUターンさせることができる。このようにして補助バー62Aにたて糸Wを掛け廻した状態において、巻取ローラ60Aおよび補助バー62Aを回転させれば、たて糸Wをこれらの周りに巻き付けていくことができる。補助バー62Aは、巻取ローラ60Aへの接近および離反が自在となるように、一対のアーム61Aに移動可能に支持されている。
【0049】
巻取ローラ60Aの両端には、回転操作用のノブ63Aが取り付けられている。たて糸巻取部6Aに巻き取られたたて糸Wが不用意に繰り出されることを防止するための手段として、ラチェット歯車64aとラチェット爪64bとからなるラチェット機構64Aも巻取ローラ60Aに付属して設けられている。
【0050】
織地巻取部6Bは、たて糸Wとよこ糸Wo とで織られた織地を巻き取っていくための部位である。この織地巻取部6Bは、たて糸巻取部6Aと同様な構成を有しており、一対の側板50のそれぞれの長手方向他端部に両端が支持された回転可能な巻取ローラ60B、この巻取ローラ60Bの両端に装着された一対のアーム61B、およびこの一対のアーム61Bに支持された補助バー62Bを具備している。また、これらに付属して、回転操作用のノブ63Bやラチェット機構64Bも具備している。これらの部分は、たて糸巻取部6Aのこれらに対応する部分と同様な構成であり、補助バー62Bにたて糸Wを掛け廻した状態において、この補助バー62Bを巻取ローラ60Bとともに回転させると、これらの周りに織地を順次巻き取っていくことが可能となっている。
【0051】
好ましくは、補助バー62Bは、一対のアーム61B間から取り外し可能とされている。このようにすれば、たとえば図11に示すように、たて糸Wを綛状に巻いたときに、この補助バー62Bをそのたて糸Wのループ状の端部内に差し通すことができる。次いで、この補助バー62Bを一対のアーム61Bに再度支持させると、たて糸Wをこの補助バー62Bに掛け廻した状態にセッティングする作業が簡単に行なえることとなる。これと同様に、好ましくは、たて糸巻取部6Aの補助バー62Aも一対のアーム61Aから取り外し可能とされている。
【0052】
一対のレール70は、ヘドルAの支持およびスライドガイドを行なうためのものである。各レール70は、適当な部材を各側板50の内側面に固定して設けることにより構成されており、各側板50の長手方向中間部から織地巻取部6Bの近傍にわたって略水平状に延びている。
【0053】
ヘドルAは、複数の凹溝32をフレーム5の幅方向に並ぶ向きにしつつ、一対のレール70上に載置可能である。このヘドルAは、一対のレール70上への載置やその部分から取り出しなどが自由に行なえるように、織機Bの各部とは独立して取り扱うことが可能である。ヘドルAは、一対のレール70上に載置されている状態においては、このレール70上においてこのヘドルAの底部を支点として、図3の矢印Na方向に傾斜させることが可能である。
【0054】
一対のレール70とたて糸巻取部6Aとの間には、一対の側板50間に掛け渡されたクロスメンバ71aと、このクロスメンバ71aに対して一定の間隔を隔てて各側板50の内向き面に突設された突起71bとが設けられている。これらのクロスメンバ71aと突起71bとは、図3の符号n1に示すように、ヘドルAを非傾斜状態の姿勢で保持させるためのヘドル用の支持部を構成する。
【0055】
次に、織機Bの作用について説明する。
【0056】
まず、たて糸巻取部6Aと織地巻取部6Bとの間に複数本のたて糸Wを略平行に張る必要がある。その際、ヘドルAは、図3の符号n1で示したように、クロスメンバ71aと突起71bとを利用して一定の姿勢に保持させておき、このヘドルAの各凹溝32にたて糸Wを通す。その際、たて糸Wの一部を各凹溝32内において第1の保持部4Aまたは第2の保持部4Bに保持させる。
【0057】
この作業は、たて糸Wを略水平にして凹溝32内にその上方から進入させるだけで行なうことができる。すなわち、図7において、たて糸Wを凹溝32内に進入させると、このたて糸Wは、第1の突起13Aの上面13a上に到達する。すると、この上面13aは傾斜しているため、たて糸Wはこの上面13aによってガイドされ、第1の突起13Aの先端部方向にスライドする。その後は、隙間17を通過してから、第1の突起13Aの下方に到達する。このようにして、たて糸Wは、第1および第2の突起13A,14Aの隙間18内に保持される。たて糸Wは、隙間18内において遊びを有するが、本願発明でいうたて糸の保持は、たて糸を完全に固定させている必要はなく、本実施形態のように、遊びがある状態でたて糸の移動を拘束している状態をも含んでいる。第2の保持部4Bに対するたて糸Wの保持も、上記したのと同様な原理で行なうことができる。凹溝32は、その上部が開口しており、この凹溝32内にたて糸Wを進入させる作業も容易であるから、上記した一連の作業は簡単である。
【0058】
一方、上記のようにしてたて糸Wが第1および第2の保持部4A,4Bに保持されると、その後このたて糸Wは、それら第1および第2の保持部4A,4Bから外れにくくなる。すなわち、図7において、隙間18に存在するたて糸Wが上方に抜けるためには、たて糸Wが第1の突起13Aをその上方に向けてのり越える必要がある。ところが、この第1の突起13Aの先端部は、孔16A内に進入しているため、たて糸Wが真上に引っ張られるだけではこの第1の突起13Aを上方に越えることはない。したがって、後述するヘドルAの移動動作時などにおいても、たて糸Wが第1および第2の保持部4A,4Bから不用意に外れないようにすることができる。
【0059】
次いで、織り作業を行なうときには、ヘドルAを一対のレール70上に載せてから、このヘドルAをたて糸Wが延びる方向に揺動させる。図9に示すように、ヘドルAを矢印Nb方向に傾けたときには、第1の保持部4Aが下降し、これに保持されているたて糸W(W1)が下降する。その際、第2の保持部4Bは上昇し、これに保持されているたて糸W(W2)は上昇する。したがって、たて糸W(W1,W2)の昇降差を大きくし、杼口78を大きく開口させることができる。この杼口78には、図2に示したよこ糸Wo が繋がれたシャトル79が通される。杼口78が大きく開口すると、シャトル79およびよこ糸Wo を通す作業が容易化される。
【0060】
図10に示すように、ヘドルAを上記とは反対の矢印Nc方向に傾けたときには、上記とは反対に、たて糸W(W2)が下降するとともに、たて糸W(W1)が上昇する。したがって、この場合においても、杼口78を大きく開口させることができる。既述したとおり、第1および第2の保持部4A,4Bは、複数の凹溝32に対して1つずつ交互に設けられているために、上記動作により、複数本のたて糸Wは、1本ずつ互い違い状に昇降を行なうこととなる。このようにすれば、たて糸Wとよこ糸Wo とを1本ずつ交互に浮沈させて交錯させることができ、平織り組織の織地が簡単に得られる。ヘドルAを図9および図10に示すように揺動させる場合、このヘドルAを持ち上げて移動させるような必要はなく、一定箇所においてこのヘドルAを転がすように傾けるだけでよい。したがって、その操作も容易である。
【0061】
よこ糸Wo の通し作業は、杼口78を1回開口させる都度行なわれる。よこ糸Wo の打ち込みを1回行なう都度、ヘドルAを筬として利用し、そのよこ糸Wo を先に織られている織地に向けて押さえ付ける。この作業は、ヘドルAの姿勢を傾きの無い元の姿勢に戻した後に、図3の矢印Ndに示すように、このヘドルAをそのまま織地に向けてレール70上においてスライドさせることにより行なう。よこ糸Wo には、ヘドルAの複数の第2面11bを接触させることができる。それら複数の第2面11bは、平面状であり、かつ鉛直方向に延びた向きにすることができるために、よこ糸Wo の押さえを適切に行なうことができる。このように、ヘドルAを筬として利用する場合には、ヘドルAをレール70上においてスライドさせればよいから、その作業も簡単に行なうことができる。
【0062】
図12〜図15は、本願発明に係る織機の他の実施形態を示している。これらの図において、上記実施形態と同一または類似の要素には、上記実施形態と同一の符号を付している。
【0063】
図12に示す実施形態においては、たて糸巻取部6AとヘドルAとの間に、たて糸Wをその上下から適当な圧力で挟むためのクランプ機構72が設けられている。このクランプ機構72は、たて糸Wをその下方から支える受部72aと、この受部72aの上方においてバネ72bの弾発力によって下方に付勢されることによりたて糸Wを受部72aに押しつける押圧体72cと、この押圧体72cを支持する支持枠72dとを具備して構成されている。好ましくは、このクランプ機構72の受部72a以外の部分は、たて糸巻取部6Aと織地巻取部6Bとの間にたて糸を張るときなどにおいて、その作業の邪魔にならないように、フレーム5から取り外し可能とされている。クランプ機構72は、たて糸Wがその長手方向に移動することを許容する範囲内の力でたて糸Wをクランプしている。受部72aの上面および押圧体72cの下面は、たて糸Wに損傷を与えず、また複数のたて糸Wの全てを略均一に押圧できるように、ゴムあるいはフェルトなどの比較的軟質な材料により形成されている。
【0064】
このような構成によれば、たて糸Wを織地巻取部6Bに巻き取るときには、クランプ機構72がその巻き取りに対する抵抗力を発揮する。このため、たて糸Wを織地巻取部6Bに巻き取るときには、このたて糸Wがクランプ機構72と織地巻取部6Bとの間において比較的強いテンションで張られることとなり、たて糸Wに緩みを生じ難くすることができる。
【0065】
図13に示すクランプ機構72Aは、織機のフレームに取り付けられた支持枠72dと受部72aとの間に、ゴム72eと押圧体72fとが介装された構成を有している。ゴム72eは、押圧体72fと受部72aとの間において適度に圧縮変形している。
【0066】
このような構成によれば、ゴム72eが押圧体72fと受部72aとの間において圧縮に対する反作用としての弾発力を発揮するために、この弾発力を利用して、たて糸Wをゴム72eと受部72aとによって適度な力でクランプさせることができる。したがって、このクランプ機構72Aによっても、図12に示したクランプ機構72と同様な効果を期待できる。このクランプ機構72Aにおいては、クランプ機構72とは異なり、押圧体72fを支持枠72dに固定させればよく、押圧体72fを昇降自在に支持させたり、あるいはバネを利用して押圧体72fを下方に付勢させる必要がないため、全体の構造を簡素にするのに好ましい。
【0067】
図14に示す構成においては、ヘドルAを構成する各プレート1A,1Bの上部に、凹部19が形成されており、第1および第2の保持部4A,4Bに保持されているたて糸Wの一部(符号n1部分)が、ヘドルAの上方および側方から目視できるようにされている。このような構成によれば、複数の凹溝32のそれぞれにたて糸Wが適切に通されているか否かの確認が容易化されるのでより便利となる。
【0068】
図15に示す構成においては、フレーム5の各側板50の上縁部に複数の凸部52が形成されていることにより、これら複数の凸部52どうしの各間には、ヘドルAの凸部21を係合させるための係合用凹部53が設けられている。係合用凹部53は、符号n2,n3に示すように、ヘドルAを一定角度だけ傾斜させたときに、このヘドルAの傾斜状態が保持されるようにヘドルAの凸部21が係入する形状である。また、各凸部52は、符号n4に示すように、ヘドルAを非傾斜状態に起立させたときに、凸部21が引っ掛かりを生じない高さとされている。
【0069】
このような構成によれば、織機を斜めにして使う場合に便利となる。すなわち、織機を使用する際、たとえば各側板50の一端50aをユーザの膝の上に置くとともに、各側板50の他端50bを膝よりも高いテーブル上に置く場合がある。このような使用状態では、織機は斜めになる。その一方、上記構成によれば、ヘドルAを符号n2,n3に示すように揺動させたときには、凸部21が係合用凹部53に係入することにより、ヘドルAはその姿勢を維持し、かつ各側板50の長手方向への不用意な移動も規制された状態となる。したがって、上記したように、織機が斜めにされて使用する場合であっても、ヘドルAが各側板50の一端50aに向けて不用意にスライドしないようにすることができる。上記構成における各係合用凹部53は、本願発明でいう係合手段の一例に相当する。ただし、本願発明でいう係合手段は、これに限定されない。本願発明においては、たとえば係合用凹部は、フレーム5の側板50に直接設けるのではなく、側板50に固定して設けられた別体の部材、あるいは側板50に対して着脱自在に取り付けられる部材に設けた構成とすることもできる。
【0070】
本願発明の内容は、上述した実施形態に限定されない。本願発明に係るヘドルおよび織機の各部の具体的な構成は種々に設計変更自在である。
【0071】
たとえば、ヘドルは、必ずしも複数枚の所定のプレートか一連に並べられたものとして構成されていなくてもよく、たとえば複数の凹溝を形成した単体の部材として構成されていてもかまわない。
【0072】
ヘドルに設けられる第1および第2の保持手段も、上述した第1および第2の保持部4A,4Bに限定されない。たとえば、図16に示すように、プレート1Aのうち、プレート1Bの第1の突起13に対向する箇所には孔が設けられておらず、このプレート1Aと第1の突起13との先端部との間には、たて糸Wを通過させることが可能な細幅の隙間17aが形成されているだけの構造とされていてもかまわない。この場合は、上述した実施形態の場合と比べると、たて糸Wが凹溝32の外部に抜け出し易くなる不利があるが、構造の簡素化などのため、あえてこのような構造を採用してもかまわない。また、同図に示すように、プレート1Bのうち、第2の突起14に対向する箇所に孔を設けることなく、第2の突起14の先端面をプレート1Bの側面に当接させた構成とすることもできる。このように、本願発明でいう第1および第2の保持手段としては、種々の構造を適用することができる。
【0073】
既述したように、第1および第2の保持手段を、ヘドルの複数の凹溝に対して1つずつ交互に設ければ、たて糸を1本ごと交互に昇降させることができるために、平織り組織の織地を作製するのに好適となるが、やはり本願発明はこれに限定されない。平織り組織とは異なる織地を作製することを目的とて、第1および第2の保持手段の配列を上記とは異なるものにしてもかまわない。
【0074】
上述の実施形態においては、ヘドルAの底部を支点としてヘドルAを傾けることにより、ヘドルAを揺動させているが、本願発明はやはりこれに限定されない。本願発明においては、たとえばヘドルを織機のフレームに適当な軸を用いて支持させることにより、この軸を中心に揺動させるようにしてもかまわない。この場合には、ヘドルがフレームに取り付けられてしまい、ヘドルを水平方向に移動させて筬として利用することが困難となるが、あえてこのような構成を採用することもできる。
【0075】
織機のたて糸巻取部や織地巻取部としては、単に回転可能なローラを1つずつ有するものとして構成されていてもかまわない。その他、本願発明に係る織機は、手織機として構成する場合に好適であるものの、これに限定されず、たとえばヘドルの揺動動作を行なわせるための駆動機構とその動力源とを備えた織機として構成することもできる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本願発明に係る織機の一実施形態を示す斜視図である。
【図2】図1に示す織機の使用状態を示す斜視図である。
【図3】図1に示す織機の概略側面断面図である。
【図4】本願発明に係るヘドルの一実施形態を示す斜視図である。
【図5】図4のV−V断面図である。
【図6】ヘドルを構成するプレートを示す分解斜視図である。
【図7】ヘドルに設けられている第1の保持部の要部断面図である。
【図8】ヘドルの側面断面図である。
【図9】ヘドルの作用説明図である。
【図10】ヘドルの作用説明図である。
【図11】たて糸に補助バーを通す作業を示す斜視図である。
【図12】本願発明の他の実施形態を示す側面断面図である。
【図13】本願発明の他の実施形態を示す要部側面断面図である。
【図14】本願発明の他の実施形態を示す側面断面図である。
【図15】本願発明の他の実施形態を示す側面図である。
【図16】ヘドルに設けられる保持部の他の実施形態を示す要部断面図である。
【図17】従来技術の一例を示す斜視図である。
【図18】図17に示す従来技術の作用説明図である。
【図19】従来技術の他の例を示す断面図である。
【図20】図19に示す従来技術の作用説明図である。
【符号の説明】
A ヘドル
B 織機
W たて糸
Wo よこ糸
1A,1B プレート
4A 第1の保持部
4B 第2の保持部
5 フレーム
6A たて糸巻取部
6B 織地巻取部
12A,12B 厚肉部
13A,13B 第1の突起
14A,14B 第2の突起
15A,15B 孔
16A,16B 孔
17 隙間
32 凹溝
53 係合用凹部
70 レール
72 クランプ機構
Claims (3)
- たて糸を通すための複数の凹溝が第1の方向に並んで形成されたヘドルであって、
上記複数の凹溝に通されたたて糸を保持可能な複数の第1および第2の保持手段を具備しており、かつ、
上記各第1および第2の保持手段は、このヘドルが上記第1の方向に延びる軸心周りに揺動したときに、上記各第1および第2の保持手段の一方が上昇するとともに他方が下降するように、上記第1の方向に交差する第2の方向において間隔を隔てているとともに、
上記各凹溝を挟んで互いに対向する第1および第2の壁部を有しており、
上記第1および第2の保持手段は、
上記第1の壁部から上記第2の壁部に向けて突出し、かつ先端部と上記第2の壁部との間にたて糸通過用の隙間を形成する第1の突起と、
この第1の突起よりも上記凹溝の奥部に位置し、かつ上記第1および第2の壁部の間をその全幅にわたって横切る第2の突起と、
を含んでいることを特徴とする、ヘドル。 - 上記第2の壁部には、上記第1の突起の先端部が一部進入する凹部が設けられているとともに、上記第1の突起には、上記凹溝に進入してきたたて糸を上記凹部に向けてスライドさせる傾斜面が形成されている、請求項1に記載のヘドル。
- 請求項1または2に記載のヘドルを具備していることを特徴とする、織機。
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