JP3677410B2 - 液体クロマトグラフ質量分析装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は液体クロマトグラフ質量分析装置、特に液体クロマトグラフから流出する分離された試料成分を大気圧下でイオン化し、それによって生成されたイオンを質量分析する液体クロマトグラフ質量分析装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
液体クロマトグラフ質量分析装置(LC/MS)は液体中の微量有機化合物を成分毎に分離しイオン化して質量分析する装置であり、環境中の有害微量成分の定量、定性分析や、医学、薬学、化学等の広い分野における物質の定性、定量分析に応用されている。
【0003】
液体クロマトグラフ(LC)は大気圧下で水やメタノールなどの有機溶媒を取り扱う機器である。一方、質量分析計ないしは装置(MS)は真空ポンプにより真空排気された高真空装置である。そのため、液体クロマトグラフと質量分析計の結合は相性の悪いものであった。しかし、大気下でLCからの流出液を噴霧イオン化する大気圧イオン化法の出現により実用的なLC/MSが実現した。
【0004】
大気圧イオン源には、高電界中に微細な霧を噴霧してイオン化するエレクトロスプレイイオン化(ESI)と、噴霧された液滴を加熱乾燥させた後、高電圧が印加された針電極から発生するコロナ放電とその後のイオン分子反応によりイオン化を行なう大気圧化学イオン化(APCI)が良く知られている。液体クロマトグラフ質量分析装置の一般的な測定においては、液体クロマトグラフから毎分1ml程度の流量の溶媒(水や水と有機溶媒との混合溶液等を含めて溶媒と呼ぶこととする)が大気圧イオン源及び質量分析装置に供給される。質量分析装置の真空ポンプは質量分析に必要な高真空(<10ー3Pa)を与えるために流出液の蒸気の大部分を吸引排気する。液体クロマトグラフ質量分析装置の真空排気系には、閉鎖系の真空機器の場合とは異なり、大気圧から流入する大量の蒸気圧の高いガスを常時排気しなければならないという大きな負荷が常時かかっている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
液体クロマトグラフ質量分析装置では大量の溶媒(流量1から2ml/min)が噴霧され、イオン化されて質量分析計に送り込まれる。1mlの溶媒を気体に換算すると、200℃、一気圧において約2リットルにもなる。そのため、高真空の質量分析計と大気圧の大気圧イオン源の間に、油回転ポンプ(RP)などで排気される中間圧力室を設け、これにより、質量分析計及び大気圧間の圧力差の軽減とイオンの効率的な移送を可能にしている。
【0006】
この油回転ポンプは2リットル/分もの溶媒を排気し続けている。したがって、LC/MS測定を数ヶ月継続すると、油回転ポンプで排気された中間圧力室に置かれた電極や細孔表面上に流出液中の不揮発性成分や高沸点化合物が付着し堆積する。これらの堆積物は、電極の加熱や、イオンや電子の衝撃等により重合を開始し、次第に絶縁性の強固な膜を形成する。その結果、この絶縁膜上に電荷が蓄積する所謂チャージアップ現象が生じる。このチャージアップが起きるとイオンは正常な軌道を通らなくなり、もはや安定なLC/MS測定は不可能になる。
【0007】
油回転ポンプは質量分析計に導入される大量の水や有機溶媒の蒸気を排気する。長時間溶媒を排気し続けると油回転ポンプの真空油は溶媒を大量に溶かし込み変質してくる。油回転ポンプは動作時50℃から100℃の高温になっているため、真空油に溶け込んだ溶媒の蒸気圧も高くなる。そのため、油回転ポンプはその溶媒の蒸気圧より低い圧力に排気することが困難になる。その結果、質量分析計の真空が不安定になったり、もはや高真空を維持できなくなる。
【0008】
すなわち、LC/MS装置を長時間使用すると電極系の汚れや油回転ポンプの油の汚れが装置の安定な測定を妨げることになる。この場合、測定者は装置を停止して、電極系のクリーニングや油回転ポンプの油の交換を行なってきた。質量分析計を高真空に排気するために真空ポンプとして油回転ポンプとともにターボ分子ポンプが一般的に用いられるが、このターボ分子ポンプも定期的に装置を止めてオーバーホールを実施する。いずれにしても、装置の停止、クリーニング、再起動、真空排気のためには1日程度必要になる。
【0009】
従来は、真空度が悪化したり、測定が不安定になったり、感度低下が現れてから、測定者は装置を停止して、保守操作を行なってきた。測定の最中に、測定を中断しクリーニング等を行なうのは、単に中断時間が必要とされるばかりではない。往々にして、一連の定量測定などをやり直ししなければならない場合が多い。
【0010】
トラブルが発生してからの保守操作ではなく、予め保守を行なうことが望ましい。そのため、装置の取扱説明書の中に、装置の運転時間が3ヶ月程度過ぎた場合、電極のクリーニングや油回転ポンプの油交換を推奨していた。 しかし、測定が混雑してくると、保守時期を忘れがちになり、結果としてトラブルに伴う不良データを取得する結果となる。また、推奨保守作業間隔3ヶ月も、一般的な測定(1日8時間測定)をしている場合のもので、24時間自動測定等を行なっている場合は、当然保守間隔は短くなる。逆に測定頻度の少ない場合、長期の休暇が入った場合、保守間隔は長くなる。しかし、取扱説明書にもその記載がなく、測定者は正確な保守間隔は知り得なかった。
【0011】
本発明の目的は、行われるべき装置の保守についてその保守が必要な時期を明確し、それによって装置の保守を確実に行うことを可能にするのに適した液体クロマトグラフ質量分析装置を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明は上記目的を達成するために、基本的には次のような課題解決手段を提案する。
【0013】
液体クロマトグラフからの流出液を大気圧下で噴霧イオン化し質量分析計で質量分析する液体クロマトグラフ質量分析装置において、
液体クロマトグラフ質量分析装置を構成する電極等のクリーニングまたは真空ポンプの油交換など装置の保守作業の後から開始された真空排気時間を積算し、記憶する手段とあらかじめ設定された保守作業間隔時間と該積算真空排気時間との差分を求める手段と、該積算真空排気時間時間、保守作業間隔時間、差分の内少なくとも一つ以上を外部表示装置に出力する手段を備えて成る。
【0014】
また、真空排気時間の代わりに、液体クロマトグラフから流出液が送り込まれている積算時間、液体クロマトグラフから送り込まれる流出液の積算容積、イオン化している積算時間を指標にすることもできる。
【0015】
保守作業時間に達した場合、外部記憶装置に保守作業の指示を出力したり、警報を出す事により測定者に知らせる事が出来る。
【0016】
また、一日の排気時間、送液時間、送液容積、イオン化時間の平均を求め、この平均値と保守終了日と保守間隔から、次の保守予定日を求め、表示する。
【0017】
【発明の実施の形態】
図1は本発明にもとづく液体クロマトグラフ質量分析装置の一実施例の概略構成を示す。図1に示される液体クロマトグラフ質量分析装置は液体クロマトグラフ(LC)1、質量分析部(MS)4、その両者を接続するLC/MSインターフェイス部12、制御及びデータ処理部5、表示装置6、及び真空排気系13を含む。LC/MSインターフェイス部12は高電圧電源7から高電圧が印加される大気圧イオン源2と、該イオン源及び質量分析部4間に接続されて、油回転ポンプ8により排気される中間圧力室3とを含む。真空排気系13は中間圧力室3を排気する油回転ポンプ8並びに質量分析部4を排気するターボ分子ポンプ9及び油回転ポンプ10を含む。図では、中間圧力室3及び質量分析部4を排気するのに別々の油回転ポンプ8及び10が用いられているが、そのいずれか1個の油回転ポンプが用いられるようにしてもよい。
【0018】
制御及びデータ処理部5は液体クロマトグラフ1、高電圧電源7並びに真空排気系13の各ポンプ8〜10を制御するように接続され、また質量分析部4からのイオン検出信号を処理し、その結果を表示装置6に表示するように接続される。
【0019】
図2は図1に示される実施例の詳細構成を示す。同図を参照するに、液体クロマトグラフ1においては、分離用カラムには溶離液が溶離液供給源から供給され、したがって試料が分離用カラムに注入されると、試料中の成分は互いに分離され、分離用カラムから流出する。
【0020】
このようにして液体クロマトグラフ1から流出する、分離された試料成分を含む流出液は配管21を通ってLC/MSインターフェース12の大気圧イオン源2に導入される。その流出液は、高電圧電源7から高電圧が印加された噴霧ノズル22から、噴霧ガスの噴出の助けにより微細に帯電した液滴(噴霧流)23として大気中に噴霧される。噴霧された液滴23は高電界に沿って大気中を飛行して更に微細化され、イオンが大気中に放出される。これがエレクトロスプレイイオン化(ESI)である。
【0021】
ESIにより生成したイオンは噴霧ガスと共に大気圧イオン源2と中間圧力室3の間を隔てる隔壁に設けられて加熱された細管24(又は細孔(図示なし))を経て、油回転ポンプ8aにより排気されている中間圧力室3に導入される。イオンは中間圧力室3の内部に形成された電界に沿って移動し、中間圧力室3と質量分析部4を隔てる隔壁に設けられたスキマ−の頂点に形成された細孔26からターボ分子ポンプ9と油回転ポンプ8aにより高真空に排気された質量分析部4に導入される。イオンはアインツエルレンズ27により収束され、質量分析計28(四重極質量分析計、イオントラップ質量分析計、磁場型質量分析計、飛行時間型質量分析計など)に導入されて質量分析され、検出される。その検出されたイオン検出信号は制御及びデータ処理部5に送られ、必要な処理が行われる。処理により得られたマススペクトルやマスクロマトグラム等のデータは外部表示装置6に導入され、表示される。
【0022】
中間圧力室3に導入された大部分の溶媒(水や有機溶媒)はイオンとは別に拡散し、真空排気系13の油回転ポンプ8aにより排気される。質量分析部4に導入された少量の溶媒も真空排気系13のターボ分子ポンプ9と油回転ポンプ8aにより排気される。すなわち、質量分析部4に導入された溶媒は全て油回転ポンプ8aを経て排気される。
【0023】
液体クロマトグラフ質量分析装置の電極等のクリーニングや油回転ポンプの油交換のためにはLC/MS装置を停止させる。装置を一旦大気圧に戻した後、LC/MSインターフェイス部12を取り外し、クリーニングを行なう。油回転ポンプ8aについては、古い油を新しい油と交換する。クリーニングの済んだLC/MS装置を再度組み込む。ここで、測定者が制御及びデータ処理装置5に保守作業の完了を入力する。
【0024】
制御及びデータ処理装置5に内臓されている記憶装置には、液体クロマトグラフ質量分析装置の行われるべき保守についての予め定められた保守間隔決定指標が予め記憶されているとともに、実測された保守間隔決定指標が記憶される。
【0025】
図1及び2に示される実施例の場合、予め定められた保守間隔決定指標は真空排気系13による、装置の保守作業終了から次に行われるべき保守開始までの排気時間をベースとする値(時間)(Temax)を、実測された保守間隔決定指標は真空排気系13による、装置の保守作業終了から現時点までの積算された(すなわち合計の)排気時間(Te)を示すものとする。
【0026】
前述のように、測定者が制御及びデータ処理装置5に保守作業の完了を入力すると、制御及びデータ処理装置5は内蔵されている記憶装置に記憶されている実測された積算排気時間をクリアし(零にすること)、真空排気系13に排気開始を指示する。これと同期して制御及びデータ処理装置5に内蔵されている電子タイマにより排気時間(Te)の経時計測(積算)が開始され、実測された排気時間は制御及びデータ処理装置5の記憶装置に記憶される。
【0027】
LC/MSインターフエース部12の電極のクリーニングや油回転ポンプの真空油交換は3ヶ月から半年に1回程度である。そのため、保守間隔決定指標(Temax)は2200時間から3000時間程度の値となり、この値は予め定められた値として制御及びデータ処理装置5内の記憶装置に予め記憶されている。TemaxからTeを減算した差分ΔTeが次の保守までの時間となる。この差分はデータ処理装置5に内蔵された演算装置により演算して求められる。
【0028】
表示装置6には、排気の経過時間(積算時間)(Te)、保守間隔決定指標(Temax)及び差分(ΔTe=TemaxーTe)が表示される。その表示は、パラメータ表示ウインドウ中に行ってもよいし、あるいはデータの上部等に行ってもよい。このように表示を行えば、クリーニングなどの保守作業の時期を測定者は明確に把握するできる。
【0029】
更に、たとえば差分Δ(Te)が168時間(1週間)を切った場合、0となった場合、更に負となった場合など、注目度が増すにしたがってその注目度に対応して色が変わるような表示を行ってもよい。たとえば、差分が0及び負となった場合、その差分を、差分が正の場合と異なる色で表示する等である。もちろん、特に警戒を要する場合は、ランプを点滅させたり、警告音を発生させたりしてもよい。更に、差分を、経過時間(積算時間)がわかる円グラフやバーグラフで表示するようにしてもよい。
【0030】
電極のクリーニングと油回転ポンプの油交換はその時期が必ずしも同じである必要はない。また、各ポンプ毎に装置の保守時期を違えてもよい。更に、測定対象、使い方、溶媒の種類により、保守間隔決定指標を変えるようにしてもよい。この場合は、基準になる保守間隔決定指標に溶媒の種類等により係数をかけるようにしてもよい。これは、溶媒の種類や測定対象や使い方に応じた係数をキーボードのような入力装置を用いて入力して、これを制御及びデータ処理装置5の演算装置により基準になる保守間隔決定指標にかけることで実現可能である。
【0031】
一般にLC/MS装置は24時間連続して真空排気が行われる。この場合、保守間隔決定指標Temaxを24で割ったものが保守作業間隔日となる。これと最終保守日D1を加算すれば、次回の保守予定日D3が求まる(D3=D1+Temax/24)。実際は、LC/MS装置の運転が休日などで停止する場合があるため、次回の保守予定日D3は現在の日付D2とΔTe/24の和で求められる(D3=D2+ΔTe/24)。装置が休日、夜間のため停止する場合は、一日の平均真空排気時間(ATe)を求め、差分ΔTeとATeの商から保守までの残存日を求めることができる。この場合、次の保守予定日はD3=d2+ΔTe/ATeで求まる。こういった計算についてはもちろん制御及びデータ処理装置5がこれを行う。
【0032】
図3は表示装置6に画面表示される装置のメンテナンスレポートの一つの例を示す。
【0033】
最終メンテナンス日時は直近の保守が行われた日付(D1)を示す。本日までの連続真空排気時間は保守日から液体クロマトグラフ質量分析装置が運転開始されてきた累積排気時間(Te)を示す。
【0034】
RP(油回転ポンプ)油交換までの残り時間(ΔTe)、RP油交換予定日付(D3)により油回転ポンプの油交換の日時を示すことができる。
【0035】
また、電極のクリーニングまでの残り時間及び予定日の表示により電極クリーニング日時を事前に把握することができる。
【0036】
油交換やクリーニングの日時に達していない場合は、注意、日時を超過している場合は警告を併せ行なえばよい。
【0037】
図中の30は入力装置のマウスのクリック操作等で押すことができるリセット(クリア)ボタンで、これを押せば積算された排気時間(Te)をクリア(リセット)することができるボタンである。このボタンは、電極の汚れにもとづく装置の保守用リセットボタン、各油回転ポンプの油の汚れにもとづく装置の保守用リセットボタン、あるポンプによってはそのポンプの定期的オーバーホールにもとづく装置の保守用リセットボタン等からなっていてもよい。この場合は、それぞれについて、個別に保守間隔決定指標を制御及びデータ処理装置6の記憶装置に予め記憶しおくとともに、実測された保守間隔決定指標を個別に記憶し、そしてそれらの差分を制御及びデータ処理装置6の演算装置でそれぞれ演算して求めるようにすることが望ましい。この場合はまた、図3の表示画面は得られたそれぞれのメンテナンスレポートを含むことが望ましい。
【0038】
図1及び2の実施例では、保守間隔決定指標は排気時間をベースとしている。しかし、電極などの汚れや油回転ポンプの油の汚れは、液体クロマトグラフ1が作動して流出液が中間圧力室3に導入される時間に、より依存する。一般に液体クロマトグラフ質量分析装置は連続真空排気されている。夜間や測定中断のとき等は液体クロマトグラフ1からの流出液は大気圧イオン源2に送出されない。この場合、装置の汚れは少ない。したがって、保守間隔決定指標は真空排気時間でなく液体クロマトグラフ1の動作時間すなわち液体クロマトグラフ1からの流出液が大気圧イオン源2に送られる積算された送液時間をベースとする方が、より正確な保守時期を求めることができる。
【0039】
測定者は保守作業が完了した時点(D1)で、制御及びデータ処理装置5に装置の運転開始を指示する。制御及びデータ処理装置5は液体クロマトグラフの運転時間(TL)をクリアした後、液体クロマトグラフ質量分析装置の真空排気や液体クロマトグラフ1やLC/MSインターフェイス部12の通電を開始する。真空、温度、電源などの準備が完了すると、測定が開始できる状態となる。測定者の指示により、制御及びデータ処理装置5から各ユニットに測定開始が伝達される。液体クロマトグラフ1は運転開始し、流出液を大気圧イオン源2に送り込む。制御及びデータ処理装置5は液体クロマトグラフ1の送液開始に同期して電子タイマをスタートさせる。このタイマーは送液が停止、測定が終了すると停止する。測定が間歇的に行われていても運転時間は積算されて行く。この積算された運転時間(TL)が記憶されるとともに、予め定められ記憶されている保守間隔決定指標である保守作業時間間隔(TLmax)と比較される。TLmaxは先の実施例の場合と異なり、1000時間程度となる。TLmaxとTLとの差分ΔTLとTL、TLmaxを表示装置6に表示すれば保守時期を把握できる。
【0040】
次回の保守予定日(D3)を求めるには、保守予定日までの測定予定を知る必要がある。これを測定者が入力してもよいが、現在までの平均的な測定時間を基に求める方が簡単である。データ処理装置は1日あ当たりの平均的送液時間ATLを求める。保守予定日は、D3=D1+ΔTL/ATLで求められる。D1は現在の日付である。保守の日付は厳密なものでないため、この算出予定日(D3)で十分実用的である。
【0041】
図4は表示装置6に画面表示される装置のメンテナンスレポートのもう一つの例を示す。本日までのLC送液累積時間は液体クロマトグラフから流出液を送り込んでいる累積送液時間(TL)である。RP油交換予定時間日(D3)はRPの油交換までの残り時間(ΔTL)と一日の液体クロマトグラフの使用時間ATL(例えば8時間/日)との商に現在の日付を加算して求められる。残り時間が負の場合表示を点滅させたり、警告音を発するようにして測定者に注意を喚起する。
【0042】
液体クロマトグラフ1では測定対象により種々の分離用カラムを使用する。分離用カラムを流れる溶離液の流量も分析により大きく変わる。分析により2ml/minの場合もあれば、数μl/minの場合もある。この場合、保守間隔決定指標は既述の実施例におけるような累積排気時間や液体クロマトグラフ1の累積送液時間をベースとするよりも、液体クロマトグラフ1の流出液の容積(V)をベースとする方が電極や油の汚れの指標としては正確である。
【0043】
測定者は電極のクリーニングや真空油の交換を完了し、制御及びデータ処理装置5に運転開始を指示する。制御及びデータ処理装置5は容積Vをクリアし真空排気など装置の運転開始を各ユニットに指示する。真空度、温度、電圧など準備完了すれば、測定が可能になる。液体クロマトグラフ1は、制御及びデータ処理装置5から分析条件を受け取り、溶離液を送り出す。流量(vml/min)と送液時間(T)の積により1測定における流出液の容積(V=v・T)が求まる。導入総容積(ΣV)はVを積算することにより求まる。分析条件が変わってvが変わっても同様である。
保守終了後次の保守まで受け入れられる溶離液の量(積算された流出液の容積)は一般に50リットル程度である。したがって、保守作業終了から次に行われるべき保守開始までの、前記液体クロマトグラフからの流出液の容積をベースとする予め定められ記憶されるべき保守間隔決定指標はその50リットルをベースにして定められ記憶される。ΣVとVmaxとの差分ΔV(ΔV=Vmax−ΣV)を求めれば、後どれだけ流出液を導入できるか判断できる。しかし、このΔVは容積であり、日付と無縁で残りの時間を把握し難い。データ処理装置5はΣVの積算の過程で、1日当たりの平均的な溶離液の流入量(流出液量)(AV)を求めることができる。差分(ΔV)をこのAVで割り算すれば、おおよその保守までの日にちを求めることができる。また、次回の保守日D3も現在の日付(D2)にΔV/AVを加算して求めることができる。平均流入量AVを求めることにより、測定の偏重なども補正した、より正確な保守予定日を求めることができる。
【0044】
図5は表示装置6に画面表示される装置のメンテナンスレポートの更にもう一つの例を示す。溶離液導入量(V)は液体クロマトグラフ1の運転時間(T)と流量(v)の積により求めることができる。総導入量(ΣV)はVの累計として求められる。ΔVを予め1日の平均的な溶離液使用量(AV)で割り算すればRPの油の交換や電極のクリーニングまでの時間を求めることができる。この保守の実施を制御及びデータ処理装置5が管理するため、後程レポート形式で保守の状況を出力することもできる。
【0045】
液体クロマトグラフ質量分析装置で最も汚れが激しい部分は大気圧イオン源2と中間圧力室3の間を隔てる隔壁に設けられた細管25(又は細孔(図示なし))や中間圧力室3と質量分析部4を隔てる細孔26等である。この部分の汚れは、流出液に含まれる無機物質や有機化合物が付着してできたものである。付着した有機化合物はイオン、電子等の照射を受け高分子化し絶縁物質となる。この絶縁物質は電極を取り外し、サンドペーパ等による研磨と洗浄によってのみ取り除くことができる。
この絶縁物の生成を少なくし、保守の間隔を長くするには、中間圧力室3に送り込む溶離液の量を減らすとともに、中間圧力室内の荷電粒子(イオン、電子)の量を減らすことである。測定中はイオンの量を意図的に減らすことはできないから、測定終了時に大気圧イオン化を停止させることがよく行われる。一方、液体クロマトグラフ1は安定化のため停止させない。大気圧イオン化の停止は制御及びデータ処理装置5から信号を高圧電源7に送り、プローブ22への高電圧の供給を停止すればよい。
制御及びデータ処理装置5は高電圧の印加されている累積時間すなわちイオン化が継続している時間を積算し(T)、これと予め定められた保守間隔決定指標(Tmax)とを比較し、差分(ΔT)を求めればよい。表示は前記実施例と同様に行なえばよい。保守予定日(D3)は、1日あたりのイオン化時間ATを求めた後、D3=D1+ΔT/ATで求まる。D1は現在の日付である。
【0046】
装置の汚れと油回転ポンプの汚れは質量分析計に送り込まれる溶離液の量(ΣV)とイオン化している時間(TI)などで決まる。この両者の積を保守間隔決定指標にすることもできる。
実施例においては大気圧イオン化としてエレクトロスプレイ(ESI)が用いられている。本発明はイオン化としてESIの他に大気圧化学イオン化(APCI)、ソニックスプレイイオン化(SSI)など大気圧下で噴霧、イオン化するものであれば採用できる。
【0047】
【発明の効果】
本発明によれば、行われるべき装置の保守についてその保守が必要な時期を明確し、それによって装置の保守を確実に行うことを可能にするのに適した液体クロマトグラフ質量分析装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明にもとづく液体クロマトグラフ質量分析装置の一実施例の概略構成図。
【図2】図1に示される実施例の詳細構成図。
【図3】表示装置に画面表示される装置のメンテナンスレポートの一つの例を示す図。
【図4】表示装置に画面表示される装置のメンテナンスレポートのもう一つの例を示す図。
【図5】表示装置に画面表示される装置のメンテナンスレポートの更にもう一つの例を示す図。
【符号の説明】
1:液体クロマトグラフ、2:大気圧イオン源、3:中間圧力室、4:質量分析部、5:制御及びデータ処理部、6:表示装置、7:高電圧電源、8:油回転ポンプ、9:ターボ分子ポンプ、10:油回転ポンプ、12:LC/MSインターフェイス部、13:真空排気系、21:細管、22:噴霧ノズル(ESIプローブ)、23:液的滴(噴霧流)、25:細管、26:細孔、27:アインツエルレンズ、28:質量分析計。
Claims (4)
- 試料中の試料成分を分離する分離用カラムと溶離液を送液する手段を有する液体クロマトグラフと、該液体クロマトグラフから流出する試料成分を大気圧下でイオン化しイオンを生成する大気圧イオン源と、イオンを質量分析する質量分析部と、前記質量分析部内を排気する排気系とを含む液体クロマトグラフ質量分析装置において、
該液体クロマトグラフ質量分析装置の保守作業終了から次に行われるべき保守開始までの、前記液体クロマトグラフからの流出液の容積を保守間隔決定指標として記憶する手段と、
前記液体クロマトグラフ質量分析装置の前記保守作業終了後の、前記液体クロマトグラフからの流出液の積算された容積を得て、前記保守間隔決定指標及び前記積算された容積、又はそれらの差分の少なくとも一つを表示する手段とを備えていることを特徴とする液体クロマトグラフ質量分析装置。 - 請求項1において、
前記保守間隔決定指標と前記積算された値との差分が0になった場合、警報音を発するようにしたことを特徴とする液体クロマトグラフ質量分析装置。 - 請求項1において、
前記差分を表示する場合、その差分が0又は負となったとき、該差分の表示を、前記差分が正のときと異なる色で行うことを特徴とする液体クロマトグラフ質量分析装置。 - 請求項1において、
1日の流出液の容積の平均値を求め、前記保守間隔決定指標と前記積算された値との差分と、前記平均容積値との商から、次回の保守までの残存日数を求め、更に現在の日付と前記残存日数との加算から次回の保守日を求め前記表示手段に表示することを特徴とする液体クロマトグラフ質量分析装置。
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