JP3673941B2 - ユーカリ属植物及びアカシア属植物の挿し穂、並びにユーカリ属植物及びアカシア属植物の挿し木方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ユーカリ属植物又はアカシア属植物の商業用苗木を挿し木により生産する場合において、ユーカリ属植物又はアカシア属植物の採穂母樹から挿し穂を採取した後より長い期間生存し続けることが可能なユーカリ属植物又はアカシア属植物の挿し穂と、該挿し穂から高い成功率で発根させて育成された挿し木苗と、高い成功率で増殖させることが可能な挿し木方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
硫酸アルミニウムは、製紙工業(サイジング用)、媒染剤、染色、水の浄化、医薬品(収斂剤)などに用いられる。また、硫酸アルミニウムとアルカリ金属とが作る複塩であるカリウムミョウバン、アンモニウムミョウバンなどは、硫酸アルミニウムと同様の用途がある。
【0003】
これらのアルミニウム塩化合物は、バラなどの切り花の品質保持剤としても用いられ、生け水で繁殖する微生物やコロイド粒子を凝集、沈降させる効果がある。また、水に添加してpHを下げることも微生物の繁殖防止に有効である。(土井元章、農業及び園芸、71(11)、1996、p1205-1211)
【0004】
例えば、ハナモモの切り枝をショ糖10%と硫酸アルミニウム1000ppmの水溶液に生け、暗黒下(温度20℃以上、相対湿度90以上)で水溶液につけたまま促成を行うと、水道水のみで促成処理を行った場合よりも吸水量が増えて枝重が増加するとともに出荷後の開花率が向上することが知られている。(松倉一弘・今村有里、園芸学会近畿支部秋季大会講演要旨、1997)
【0005】
一方、硫酸アルミニウムなどのアルミニウム塩化合物を土壌酸度調整剤として施用した場合、施用量の増加に伴ってpHは低下し、土壌pHを4.7〜5.0にすると、ジャガイモの後作への影響や生育抑制を懸念することなく、ジャガイモそうか病の発病が抑制される効果がある。(田村元ら、日本土壌肥料学会講演要旨集、1996)
【0006】
ところで、アルミニウムは土壌中に平均7%存在する土壌の主成分の一つであるが、酸性土壌(pH5.5以下)において、アルミニウムのごく一部がイオンの形態として溶出され、ほとんどの植物に毒性を示す。(馬建鋒、農業及び園芸、74(5)、1999、p605-610)
【0007】
アルミニウムイオン(Al3+)は根の伸長成長を阻害することが発見されている。水耕栽培による実験的条件では、アルミニウムイオンは数〜数十μM(約0.1〜1mg/l)の濃度でコムギ、オオムギなどの根の伸長成長を阻害するように、極めて微量でも植物に致命的な影響を与える。(横田聡、化学と生物、37(3)、1999、p186-188)
【0008】
アルミニウムはO2 −ドナーを含む化合物(たとえばカルボキシル基やリン酸基を含む化合物)などと強い結合能力を持っているため、重要な生体物質(例えば細胞壁や細胞膜を構成する高分子物質、タンパク質、核酸など)と結合する性質を持っている。したがって、アルミニウムはタンパク質の量的及び質的な変化を引き起こすこと、すばやく細胞壁と結合すること、カルシウムイオンチャンネルの阻害を数分のうちに起こすこと、などが知られている。(馬建鋒、農業及び園芸、74(5)、1999、p605-610)
【0009】
以上のように、植物の生育と複雑に関係しているアルミニウムであるが、今まで挿し木に用いる場合にどのような効果があるかについては全く知られていなかった。
【0010】
そこで本発明者らは、パルプ材や緑化樹木として近年世界的に植えられているユーカリ属植物及びアカシア属植物の挿し木苗生産にアルミニウム塩化合物が用いられるかどうかを鋭意検討した。
【0011】
ユーカリ属植物(Eucalyptus spp.)及びアカシア属植物(Acacia spp.)には合計500種以上が知られ、オーストラリアを中心とするオセアニア地域に自生する(「Forest Trees of Australia 」, Thomas Nelson Australia & CSIRO, Melbourne, 1984, p.193-549)。地球環境の観点から天然生広葉樹材の供給の減少が見込まれる一方、広葉樹パルプ材の需要の増加が見込まれる状況において、このユーカリ属植物及びアカシア属植物の多くが成長性に優れるために、植林樹種としての重要性が認識されてきている。
【0012】
さらに薪炭材の生産を目的として、世界各地特に発展途上国で盛んに植林されている(「Environmental Management: The Role of Eucalypts and Other Fast Growing Species」, P. J. Kanowski, Proceedings of the Joint Australian/Japanese Workshop held in Australia, CSIRO Publishing, October 1995, P1-3)。
【0013】
またユーカリ属植物及びアカシア属植物は共に、我が国の緑化樹や園芸樹としても注目されている(例えば「緑化樹としてのユウカリ類」、石川健康著、造林緑化技術研究所、1980)。これらユーカリ属植物及びアカシア属植物の生産性を更に高めるために、例えばブラジルでは成長性に加えて、紙パルプ産業においては重要な因子である容積重やパルプ収率を指標に育種が行なわれ、大きな成果が出ている。(千葉茂、林木の育種、 No.145、1987、p21-24 )
【0014】
一般の商業苗木には実生苗と挿し木などによるクローン苗があり、実生苗は親木の形質をそのまま継承せずまた形質に変異が大きいが、育種された親木のクローン苗を用いると親木の優れた形質をそのまま受け継ぐため、生産性が向上する。クローン苗を生産する方法には、挿し木・接ぎ木・取り木・組織培養などの方法があるが、挿し木以外は操作が煩雑であるためコストが高くて実生苗と価格の面で競合できず、特殊な事例を除き一般の林業でクローン苗を使うことは極めてまれである。
【0015】
挿し木は最も簡便なクローン苗生産技術であり、南米・欧州・東南アジア・南アフリカなどではユーカリ属植物及びアカシア属植物の挿し木苗が事業的に植林されている。ユーカリ属植物の挿し木の従来技術は、「Eucalypt Domestication and Breeding 」(Oxford University Press Inc., New York, 1993)の237〜246ページに詳しく記されている。すなわち、台切りなどによって切り株から萌芽した枝から1〜4節、2〜8枚の葉を含む穂木を切り出し、一般的には葉の一部を切除して挿し穂を調製する。挿し穂はベンレートなどの殺菌剤溶液に浸漬したのち、基部に発根促進剤であるインドール酪酸などのホルモン粉剤をつけるかあるいはホルモン溶液に基部を浸す。その後挿しつけ穴を開けた挿し木培土に挿し穂を挿し付ける。
【0016】
育苗ポット、プラグトレーなどに充填される挿し木培土には、バーク、砂、木屑、ピートモス、バーミキュライト、パーライト、くん炭などとその混合物が挙げられるが、適度な透水性と保水性を有する素材であればこれらのいずれでも良い。通気と保湿のバランスが発根の成否を左右する。挿し穂が腐敗することを避けるためには、有機物は含まない方が良く、殺菌処理した培土を用いることが好ましい。必要であれば挿し付け後の殺菌剤散布も行う。施肥は通常行わないかあるいは緩効性の粒状のものを培土に混ぜておくか、液肥として潅水の時に与える。発根のためには、適度な温度、高い湿度、空気の循環が必要であるため、ミストスプレー、細霧、ポリエチレンシートなどでの覆い、日覆、ボトムヒートなどの技法が組み合わされて用いられる。日照時間は月に400時間程度でより良い結果をもたらす。
【0017】
しかし、ユーカリ属植物の中でも、発根する能力は樹種・産地・クローン系統間でもばらつきが大きく、発根する能力が高い樹種・系統であっても、採穂母樹の樹齢を経るにしたがって、発根が困難になる場合がある。また、採穂母樹からの萌芽枝など若返りを図った挿し穂を挿し木する場合も、発根が困難な樹種・系統が存在する。アカシア属植物もこれと同様である。
【0018】
このように、パルプ材や緑化樹木として使われるユーカリ属植物及びアカシア属植物のクローン苗を生産する場面において、発根する能力が元来低いか或いは樹齢を経るにしたがって発根する能力が低くなるユーカリ属及びアカシア属の樹種・系統が存在するために、従来から行われてきた挿し木方法では、特に発根させるのが難しいユーカリ属及びアカシア属の樹種・系統のクローン苗を効率的に生産することは極めて難しい。
【0019】
その結果、クローン苗生産を諦めざるをえない樹種・系統の中には、成長や樹形などの形質に優れたものも多く含まれ、産業上の不利益は計り知れず、発根させるのが難しいユーカリ属及びアカシア属の樹種・系統を効率良くクローン増殖する技術が世界的に求められている。特に発根させるが難しいユーカリ属及びアカシア属の樹種・系統のクローン苗を効率的に生産する技術を提供するため、様々な努力が図られてきている。
【0020】
特開平8−252038号公報には、ユーカリ属植物の各器官を無菌的に培養することにより得られた多芽体から得られた茎葉、または無菌的に育成された茎葉を、無機塩類等を含む人工液体培地で湿潤させた多孔性培地支持体に移植し、非無菌下で照明下、湿度及び炭酸ガス存在下にて発根・順化を行うことを特徴とする、ユーカリ属植物クローン苗の大量生産方法が開示されている。しかしながら、この方法は組織培養法によるクローン増殖技術であり、本発明者らが目指す安価で効率の良い挿し木によるクローン苗生産技術とは全く異質の発明である。関連するものとしては、特開平6−133657号公報、特開平7−31309号公報、特開平8−228621号公報、特開平9−172892号公報があるが、これらの発明もすべて組織培養法によるクローン増殖技術である。
【0021】
また、特開平9−285233号公報には、ユーカリ・グロブラス(E. globulus )の組織培養によるクローン苗の生産方法が開示されている。この方法も前記の発明と同様に組織培養法を基本技術としている点で本発明者らが目指す安価で効率の良い挿し木によるクローン苗生産技術とは全く異なる。
【0022】
また、特開平6−98630号公報には、ユーカリ属植物の挿し穂を、植物成長調節剤の一種であるオーキシン類含有溶液またはタルクで希釈したオーキシン類含有粉体(発根促進剤)で処理した後、高湿度下で発根させることを特徴とした挿し木方法が開示されている。しかしながら、この方法は挿し穂を採取した後に植物成長調節剤で処理して発根を促す方法であり、すでにユーカリ属植物の挿し木の従来技術(「Eucalypt Domestication and Breeding 」, Oxford University Press Inc., New York, 1993, p237-246)として確立されているばかりではなく、本発明者らが目指す挿し木方法とは全く異なる。また、挿し穂を採取した後に植物成長調節剤で処理しても、発根させるのが難しいユーカリ属の樹種・系統において必ずしも発根率向上の効果がみられるとは限らない。
【0023】
また、特開平8−280282号公報には、ユーカリ属植物の挿し穂を、水を培地として挿し木する方法が開示されている。しかしながら、この方法は挿し木を行う培地環境に関する発明であり、本発明とは着想点が全く異なる。
さらに、以上に開示されているいずれの方法を用いても、発根させるのが難しいユーカリ属及びアカシア属の樹種・系統のクローン苗や、発根する能力が高い樹種・系統ではあるが樹齢を経たために発根させるのが困難になる採穂母樹からのクローン苗を、安価に効率良く生産できるわけではない。
【0024】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、パルプ材や緑化樹木として使われるユーカリ属植物及びアカシア属植物のクローン苗を生産する技術を提供することを目的とするものであり、特に従来から行われてきた挿し木方法では発根させるのが難しいユーカリ属及びアカシア属の樹種・系統のクローン苗や、発根する能力が高い樹種・系統ではあるが樹齢を経たために発根させるのが困難になる採穂母樹からのクローン苗を、効率的に生産する技術を提供することを目的とするものである。
【0025】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成することができる本発明の最大の特徴は、ユーカリ属植物又はアカシア属植物の挿し穂の基部を硫酸アルミニウムなどアルミニウム塩化合物の水溶液に予め浸漬しておき、しかる後に挿し木培土に挿し付けることにより、従来の挿し木方法で挿し付けた場合より挿し穂の腐敗を抑えながらより長く生き続けさせて発根に至らせ、従来から行われてきた挿し木技術では生産が困難とされていたユーカリ属及びアカシア属の樹種・系統の挿し木苗や、発根する能力が高い樹種・系統ではあるが樹齢を経たために発根させるのが困難になった採穂母樹からの挿し木苗の生産を可能にし、しかもその効率を著しく改善し、安価なクローン苗を大量に生産する技術を提供する点にある。
本発明は、以下の各発明を包含する。
【0026】
(1)ユーカリ属植物及びアカシア属植物から選ばれた植物の採穂母樹から得られる挿し穂の基部を,アルミニウム塩化合物の水溶液に浸漬して得られるユーカリ属植物及びアカシア属植物から選ばれた植物の挿し穂。
【0027】
(2)前記アルミニウム塩化合物が、硫酸アルミニウム、硫酸アンモニウムアルミニウム(アンモニウムミョウバン)、硫酸カリウムアルミニウム(カリウムミョウバン)及び乳酸アルミニウムから選ばれた少なくとも一種である(1)項に記載のユーカリ属植物及びアカシア属植物から選ばれた植物の挿し穂。
【0028】
(3)前記アルミニウム塩化合物の水溶液の濃度が10〜1, 000ppmである(1)項又は(2)項に記載のユーカリ属植物及びアカシア属植物から選ばれた植物の挿し穂。
【0029】
(4)前記アルミニウム塩化合物の水溶液に浸漬する時間が1分〜72時間である(1)項〜(3)項のいずれか1項に記載のユーカリ属植物及びアカシア属植物から選ばれた植物の挿し穂。
【0030】
(5)前記ユーカリ属植物及びアカシア属植物から選ばれた植物の採穂母樹の樹齢が、発芽後1年以上を経過していることを特徴とする(1)項〜(4)項のいずれか1項に記載のユーカリ属植物及びアカシア属植物から選ばれた植物の挿し穂。
【0031】
(6)前記(1)項〜(5)項のいずれか1項に記載のユーカリ属植物及びアカシア属植物から選ばれた植物の挿し穂を挿し木培土に挿し付けて発根に至らせることを特徴とするユーカリ属植物及びアカシア属植物から選ばれた植物の挿し木苗の生産方法。
【0032】
(7)前記(6)項に記載の挿し木方法で育成されたユーカリ属植物及びアカシア属植物から選ばれた植物の挿し木苗。
【0033】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
先ず、採穂母樹に用いるユーカリ属植物及びアカシア属植物の種類・形態について説明する。
【0034】
ユーカリ属植物としては、製紙原料用樹種(パルプ材)としてユーカリ・カマルドレンシス(Eucalyptus camaldulensis)、ユーカリ・グランディス(E. grandis)、ユーカリ・グロブラス(E. globulus )、ユーカリ・ナイテンス(E. nitens )、ユーカリ・テルティコルニス(E. tereticornis )、ユーカリ・ユーロフィラ(E. urophylla)等及びこれらを片親とする交雑種やこれらの亜種・変種、及び造園・緑化・観賞用樹種としてユーカリ・グンニィ(E.gunnii)、ユーカリ・ビミナリス(E.viminalis )等が含まれる。さらに詳しくは、「Environmental Management: The Role of Eucalypts and Other Fast Growing Species」( K.G. Eldridge, M.P. Crowe and K.M. Old eds., CSIRO Publishing, 1995)や「緑化樹としてのユウカリ類」(石川健康著、造林緑化技術研究所、1980)に例示される。
【0035】
アカシア属植物としては、製紙原料用樹種としてアカシア・アウリカリフォルミス(Acacia auriculiformis)、アカシア・マンギウム(A. mangium)、アカシア・メアランシー(A. mearnsii)、アカシア・クラシカルパ(A. crassicarpa)、アカシア・アウラコカルパ(A. aulacocarpa)等及びこれらを片親とする交雑種やこれらの亜種・変種、及び造園・緑化・観賞用樹種としてハナアカシア(A.baileyana)、フサアカシア(A.dealbata)等が含まれる。
【0036】
挿し穂を採取する採穂母樹の形態としては、ポット苗・露地植栽苗のいずれでもよく、自然樹形のもの、剪定をして萌芽枝を育成したもの、さらには実生苗だけでなく挿し木や接ぎ木或いは組織培養などの方法で親木を若返らせたクローン苗のいずれを用いてもよい。
採穂母樹の樹齢は特に問わない。発芽後1年以上を経過したために発根する能力が低くなった採穂母樹を用いることができる。
【0037】
次に、挿し穂の調製方法について説明する。
この過程では、ユーカリ属植物の挿し木の従来技術である「Eucalypt Domestication and Breeding 」(Oxford University Press Inc., New York, 1993)に詳しく記されている方法に従う。すなわち、採穂母樹の枝から1〜4節、2〜8枚の葉を含む挿し穂を切り出し、一般的には葉の一部を切除して挿し穂を調製する。
挿し穂を調製する季節については特に問わないが、春以降新しく伸長成長した枝が固くなった5月〜7月及び9月〜11月が挿し穂の発根能力が高く好ましい。
【0038】
挿し穂を挿し木培土に挿し付ける前に、挿し穂の基部をアルミニウム塩化合物の水溶液に浸漬する。
用いるアルミニウム塩化合物には、硫酸アルミニウム、硫酸アンモニウムアルミニウム(アンモニウムミョウバン)、硫酸カリウムアルミニウム(カリウムミョウバン)、水酸化アルミニウム、乳酸アルミニウム、ラウリン酸アルミニウム、塩化アルミニウム、8−ヒドロキシキノリンアルミニウム塩などがあるが、硫酸アルミニウム、硫酸アンモニウムアルミニウム(アンモニウムミョウバン)、硫酸カリウムアルミニウム(カリウムミョウバン)、及び乳酸アルミニウムの4種が水に対する溶解性の点から特に好ましい。
【0039】
アルミニウム塩化合物の水溶液の濃度は10〜1, 000ppmが良く、さらに100ppmが好ましい。アルミニウム塩化合物の水溶液に浸漬する時間は1分〜72時間が良く、さらに1時間〜24時間が好ましい。
アルミニウム塩化合物の水溶液に、インドール酪酸などの植物ホルモン類、ビタミン類、ショ糖などの糖類、アミノ酸などの含窒素化合物、無機塩類などの発根を促す物質や殺菌剤を添加しても良く、特にショ糖を添加することが好ましい。また、挿し付ける前に、挿し穂の基部に発根促進剤であるインドール酪酸などの植物ホルモン粉剤をつけても良い。
その後、挿し付け穴を開けた挿し木培土に挿し穂を挿し付ける。
【0040】
次に、以上のようにして調製された挿し穂を、挿し木培土に挿し付けて育成する方法について説明する。
育苗ポット、プラグトレーなどに充填される挿し木培土には、バーク、砂、木屑、ピートモス、バーミキュライト、パーライト、くん炭などとその混合物が挙げられるが、適度な透水性と保水性を有する素材であればよい。
挿しつけた挿し穂は、空気の循環があり、適度な温度(10〜30℃)、高い相対湿度(70〜100%)が維持できる環境、例えばミストスプレー、細霧、ポリエチレンシートなどでの覆い、日覆、ボトムヒートなどの技法を組み合わせた環境に置くと良い。
【0041】
【実施例】
以下実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0042】
実施例1及び比較例1
40年生ユーカリ・カマルドレンシス(E. camaldulensis)の採穂母樹からその年の春以降新しく伸長成長して固くなった枝を切り出し、下葉を除去して穂先に対となる2枚の葉のみを残した長さ6〜10cmの挿し穂を調製した。挿し穂が含む2枚の葉の先端側約半分を切除して、挿し穂の基部をナイフで切り返した。挿し穂の基部を、硫酸アルミニウムの濃度が100ppm、ショ糖の濃度が2%、ベノミル[メチル−1−( ブチルカルバモイル)−2−ベンゾイミダゾールカーバメート]水和剤(商品名:ベンレート、デュポン社)の濃度が500倍である水溶液に24時間浸漬した。比較例1として、挿し穂の基部を同様に水道水に24時間浸漬した。それらの挿し穂を予めプラグトレーに詰めて湿らせておいたバーミキュライトへ挿し付けた。
【0043】
プラグトレーを温度(23〜25℃)と照度(15,000ルクス)を制御した部屋内のベンチに置き、プラグトレー全体をアクリル製の容器で覆って高い湿度を保った。潅水は2日に1回15分間の底面給水で行った。
挿し付け後7週間が経過した時点で生存と発根の状況を観察した。結果を表1に示す。表中の数字は生存率(%)及び発根率(%)である。
生存率(%)=(挿し付け7週間後に生存している挿し穂数)÷(挿し付けた全挿し穂数)×100、
発根率(%)=(挿し付け7週間後に発根している挿し穂数)÷(挿し付け7週間後に生存している挿し穂数)×100
【0044】
【表1】
【0045】
表1に示すように、40年生のユーカリ・カマルドレンシス(E. camaldulensis)から採取した挿し穂を従来技術にしたがって挿し付けた場合、生存率・発根率共に0%であった(比較例1)。
それに対して、比較例1と同じ採穂母樹から同時期に採取した挿し穂の基部を硫酸アルミニウム100ppmを含む水溶液に24時間浸漬した後に、同一条件下で挿し付けた場合、生存率・発根率共に著しく増加した。
【0046】
実施例2及び比較例2
40年生ユーカリ・カマルドレンシス(E. camaldulensis)の採穂母樹からその年の春以降新しく伸長成長して固くなった萌芽枝を切り出し、下葉を除去して穂先に対となる2枚の葉のみを残した長さ6〜10cmの挿し穂を調製した。挿し穂が含む2枚の葉の先端側約半分を切除して、挿し穂の基部をナイフで切り返した。挿し穂の基部を、硫酸アルミニウム100ppm水溶液(実施例2)、ショ糖2%水溶液(比較例2)、ベノミル[メチルー1−( ブチルカルバモイル)−2−ベンゾイミダゾールカーバメート]水和剤(商品名:ベンレート、デュポン社)500倍希釈液(比較例2)、滅菌水(比較例2)のそれぞれに21時間浸漬した。それらの挿し穂を予めプラグトレーに詰めて湿らせておいたバーミキュライトへ挿し付けた。
【0047】
プラグトレーを温度(23℃)と照度(10, 000ルクス )を制御したグロースキャビネット内のバットに置き、プラグトレー全体をアクリル製の容器で覆って高い湿度を保った。バットの底に潅水マットを敷き、潅水は1週間に1回底面給水で行った。
挿し付け後6週間が経過した時点で生存と発根の状況を観察した。結果を表2に示す。表中の数字は生存率(%)及び発根率(%)である。
生存率(%)=(挿し付け6週間後に生存している挿し穂数)÷(挿し付けた全挿し穂数)×100、
発根率(%)=(挿し付け6週間後に発根している挿し穂数) ÷( 挿し付け6週間後に生存している挿し穂数) ×100
【0048】
【表2】
【0049】
表2に示すように、40年生のユーカリ・カマルドレンシス(E. camaldulensis)から採取した挿し穂の基部を硫酸アルミニウム100ppm水溶液に21時間浸漬した後に、挿し木培土に挿し付けることにより、生存率・発根率共にいずれの比較例2よりも高くなった。
【0050】
実施例3及び比較例3
実施例3として、2年生ユーカリ・グロブラス(E. globulus )の採穂母樹からその年の春以降新しく伸長成長して固くなった萌芽枝を切り出し、下葉を除去して穂先に対となる2枚の葉のみを残した長さ約10cmの挿し穂を調製した。挿し穂が含む2枚の葉の先端側約半分を切除して、挿し穂の基部をナイフで切り返した。挿し穂の基部を、硫酸アルミニウム100ppmを含む水溶液に3時間浸漬した。
比較例3として、上記と同様に調製した挿し穂の基部を水道水に3時間浸漬した。
【0051】
挿し穂を予めプラグトレーに詰めて湿らせておいたバーミキュライトとピートモスを等量で混合した培土へ挿し付けた。
プラグトレーを潅水マット上に置き、プラグトレー全体をアクリル製の容器で覆って高い湿度を保った。潅水は適宜底面給水で行った。
挿し付け後12週間が経過した時点で生存と発根の状況を観察した。結果を表3に示す。表中の数字は生存率(%)及び発根率(%)である。
生存率(%)=(挿し付け12週間後に生存している挿し穂数)÷(挿し付けた全挿し穂数)×100、
発根率(%)=(挿し付け12週間後に発根している挿し穂数)÷(挿し付け12週間後に生存している挿し穂数)×100
【0052】
【表3】
【0053】
表3に示すように、2年生のユーカリ・グロブラス(E. globulus)から採取した挿し穂を従来技術にしたがって挿し付けた場合、生存率が低く発根率は0%であった(比較例3)。それに対して、比較例3と同じ採穂母樹から同時期に採取した挿し穂の基部を硫酸アルミニウム100ppmを含む水溶液に3時間浸漬した後に、同一条件下で挿し付けた場合、生存率・発根率共に著しく増加した。
【0054】
実施例4及び比較例4
実施例4として、2年生ユーカリ・カマルドレンシス(E. camaldulensis)のクローン採穂園からその年の春以降新しく伸長成長して固くなった萌芽枝を切り出し、下葉を除去して穂先に対となる2枚の葉のみを残した長さ約10cmの挿し穂を調製した。挿し穂が含む2枚の葉の先端側約半分を切除して、挿し穂の基部をナイフで切り返した。挿し穂の基部を、硫酸アルミニウム100ppm、乳酸アルミニウム100ppmを含む水溶液に21時間浸漬した。
比較例4として、上記と同様に調整した挿し穂の基部を、水道水に21時間浸漬した。
挿し穂を予めプラグトレーに詰めて湿らせておいたバーミキュライトへ挿し付けた。プラグトレーを潅水マット上に置き、プラグトレー全体をアクリル製の容器で覆って高い湿度を保った。潅水は適宜底面給水で行った。
挿し付け後10週間が経過した時点で生存と発根と萌芽の状況を観察した。結果を表4に示す。表中の数字は生存率(%)、発根率(%)、挿し穂あたりの平均萌芽本数(本)、及び挿し穂あたりの平均萌芽重量(g新鮮重)である。
【0055】
生存率(%)=(挿し付け10週間後に生存している挿し穂数)÷(挿し付けた全挿し穂数)×100
発根率(%)=(挿し付け10週間後に発根している挿し穂数)÷(挿し付け10週間後に生存している挿し穂数)×100
平均萌芽本数(本)=(挿し付け10週間後に萌芽している芽の総数)÷(挿し付けた全挿し穂数)
平均萌芽重量(g新鮮重)=(挿し付け10週間後に萌芽している芽の総重量)÷(挿し付けた全挿し穂数)
【0056】
【表4】
【0057】
表4に示すように、2年生のユーカリ・カマルドレンシス(E. camaldulensis)のクローン採穂園から採取した挿し穂を従来技術にしたがって挿し付けた場合、生存率が低く発根率は0%であった(比較例4)。それに対して、比較例4と同じクローン採穂園から同時期に採取した挿し穂の基部を硫酸アルミニウム100ppm又は乳酸アルミニウム100ppmを含む水溶液に21時間浸漬した後に、同一条件下で挿し付けた場合、生存率・発根率共に増加し、挿し穂あたりの萌芽も旺盛になった。
【0058】
実施例5及び比較例5
実施例5として、2年生アカシア・アウリカリフォルミス(A. auriculiformis )のクローン採穂園からその年の春以降新しく伸長成長して固くなった萌芽枝を切り出し、下葉を除去して穂先に対となる2枚の葉のみを残した長さ約8cmの挿し穂を調製した。挿し穂が含む2枚の葉の先端側約半分を切除して、挿し穂の基部をナイフで切り返した。挿し穂の基部を、乳酸アルミニウム10〜1, 000ppmを含む水溶液に1分〜72時間浸漬した。
比較例5として、上記と同様に調整した挿し穂の基部を、水道水に24時間浸漬した。
挿し穂を予めプラグトレーに詰めて湿らせておいたバーミキュライトへ挿し付けた。プラグトレーを潅水マット上に置き、プラグトレー全体をアクリル製の容器で覆って高い湿度を保った。潅水は適宜底面給水で行った。
挿し付け後8週間が経過した時点で生存と発根と着葉枚数を観察した。結果を表5に示す。表中の数字は生存率(%)、発根率(%)、及び挿し穂あたりの平均着葉枚数(枚)である。
【0059】
生存率(%)=(挿し付け8週間後に生存している挿し穂数)÷(挿し付けた全挿し穂数)×100
発根率(%)=(挿し付け8週間後に発根している挿し穂数)÷(挿し付け8週間後に生存している挿し穂数)×100
平均着葉枚数(枚)=(挿し付け8週間後に着葉している葉の総数)÷(挿し付けた全挿し穂数)
【0060】
【表5】
【0061】
表5に示すように、2年生のアカシア・アウリカリフォルミス(A. auriculiformis )のクローン採穂園から採取した挿し穂を従来技術にしたがって挿し付けた場合、発根率が低く平均着葉枚数が少なかった(比較例5)。それに対して、比較例5と同じクローン採穂園から同時期に採取した挿し穂の基部を乳酸アルミニウム10〜1, 000ppmを含む水溶液に1分〜72時間浸漬した後に、同一条件下で挿し付けた場合、いずれの組合せでも発根率が増加し、概して挿し付け後8週間での挿し穂あたりの平均着葉枚数も多かった。
【0062】
【発明の効果】
本発明により、パルプ材や緑化樹木として使われるユーカリ属植物及びアカシア属植物のクローン苗生産において、挿し穂の基部を硫酸アルミニウムなどアルミニウム塩化合物の水溶液に予め浸漬しておきしかる後に挿し木培土に挿し付けることにより、従来の挿し木方法で挿し付けた場合より挿し穂の腐敗を抑えながらより長く生き続けさせることによって、発根する能力が元来低いか或いは発根する能力が高くても樹齢を経たために発根させるのが困難になった採穂母樹であっても、挿し木によってクローン苗を効率的に生産する技術を提供することが可能となった。
Claims (7)
- ユーカリ属植物及びアカシア属植物から選ばれた採穂母樹から得られる挿し穂の基部を、アルミニウム塩化合物の水溶液に浸漬して得られるユーカリ属植物及びアカシア属植物から選ばれた植物の挿し穂。
- 前記アルミニウム塩化合物が、硫酸アルミニウム、硫酸アンモニウムアルミニウム(アンモニウムミョウバン)、硫酸カリウムアルミニウム(カリウムミョウバン)、及び乳酸アルミニウムから選ばれた少なくとも一種である、請求項1に記載のユーカリ属植物及びアカシア属植物から選ばれた植物の挿し穂。
- 前記アルミニウム塩化合物の水溶液の濃度が10〜1, 000ppmである、請求項1又は2に記載のユーカリ属植物及びアカシア属植物から選ばれた植物の挿し穂。
- 前記アルミニウム塩化合物の水溶液に浸漬する時間が1分〜72時間である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のユーカリ属植物及びアカシア属植物から選ばれた植物の挿し穂。
- 前記ユーカリ属植物及びアカシア属植物から選ばれた植物の採穂母樹の樹齢が、発芽後1年以上を経過していることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のユーカリ属植物及びアカシア属植物から選ばれた植物の挿し穂。
- 請求項1〜5のいずれか1項に記載のユーカリ属植物及びアカシア属植物から選ばれた植物の挿し穂を挿し木培土に挿し付けて発根に至らせることを特徴とする、ユーカリ属植物及びアカシア属植物から選ばれた植物の挿し木方法。
- 請求項6に記載の挿し木方法によって育成された、ユーカリ属植物及びアカシア属植物から選ばれた植物の挿し木苗。
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