JP3669212B2 - ベルト定着器 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、電子写真技術を用いて用紙等の記録材にトナー画像を形成することのできるプリンター、ファクシミリ、複写機等の画像形成装置に用いられる定着器、より詳しくは加熱される定着ベルトを用いたベルト定着器に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に、電子写真技術を用いて用紙等の記録材上にトナー画像を形成する画像形成装置は、回転駆動される感光体と、この感光体に露光して表面に静電潜像を形成する露光手段と、前記静電潜像を現像してトナー画像となす現像手段と、そのトナー画像を記録材に転写させる転写手段と、この転写手段によりトナー画像が転写された記録材を通過させつつ加熱して記録材上にトナー画像を定着させる定着器とを有している。
【0003】
定着器は、通常、加熱される回転体と、これに圧接されている回転体とを有しており、これら両回転体によって、通過する記録材を挟圧しつつ加熱し、記録材上のトナー画像を記録材上に溶融定着させるようになっている。
このような定着器においては、2つの回転体に周速差があると、その挟圧部(圧接部)を通過する記録材上のトナー画像に擦れが生じて画像が乱れることから、2つの回転体とも駆動するということはなされておらず、一方の回転体のみを駆動し、他方の回転体はこれに従動させる構成が採用されている。
また、加熱される回転体がローラであると、その初期的な加熱に長時間を要することから、加熱される回転体を無端ベルト(定着ベルト)として、その初期的加熱時間を短縮したベルト定着器が知られている。
【0004】
図8はベルト定着器の第1例を示す図である(特開平9−138600号公報)。
このベルト定着器は、無端状の耐熱ベルト6と、このベルト6をその内側から支持するローラ7a,7bと、ベルト6を加熱するローラ8と、ベルト6の外周面に接する加圧ローラ9とを有しており、加圧ローラ9がモータMで矢印a方向に回転駆動され、ベルト6が加圧ローラ9に従動する。
トナー画像が形成された記録材は、ベルト6と加圧ローラ9との圧接部Nに矢印bで示すように供給され、圧接部Nを通ることでトナー画像が加熱溶融されて記録材上に定着させられる。
図9はベルト定着器の第2例を示す図である(特開平8−334997号公報)。
このベルト定着器は、回転駆動される定着ローラ2と、ヒータを内蔵した加熱ローラ3との間に定着ベルト1を巻掛け張架し、定着ベルト1を介して定着ローラ2に加圧ローラ4を圧接させ、この圧接部Nに、トナー画像Tが形成された記録材Sを図示矢印方向に通し、前記トナー画像Tを加熱溶融して記録材S上に定着させるようになっている。
また、この定着器は、記録材上のトナーが定着ベルト1の表面に転移してしまうという現象(いわゆるオフセット現象)を防止するために、定着ベルト1の表面に離型剤としてシリコーンオイル等の離型オイルを塗布するオイル塗布ローラ5を備えている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
図8に示した従来のベルト定着器では、回転駆動される加圧ローラ9とこれに従動するベルト6との圧接部Nに、比較的滑り易い記録材、例えば、合成樹脂製シートが供給されると、この滑り易い記録材の介在によって、駆動側の加圧ローラ9と記録材との間および/または記録材と従動側のベルト6との間でスリップが生じ、そのために加圧ローラ9とベルト6との間に周速差が生じ、結果として安定した定着動作がなされなくなってしまうおそれがある。
同様に、図9に示した従来のベルト定着器では、定着ローラ2で駆動されるベルト1とこれに従動する加圧ローラ4との圧接部Nに、比較的滑り易い記録材が供給されると、この滑り易い記録材の介在によって、駆動側のベルト1と記録材との間および/または記録材と従動側の加圧ローラ4との間でスリップが生じ、そのためにベルト1と加圧ローラ4との間に周速差が生じ、結果として安定した定着動作がなされなくなってしまうおそれがある。
特に、図9に示したベルト定着器では、ベルト1の表面に離型オイルが塗布されるので、上記スリップが助長される。また、ベルト1の表面に塗布されたオイルは前記圧接部Nの端部N’に徐々に侵入し、当該端部N’における定着ローラ2と加圧ローラ4との摩擦力を低減させるので、上記スリップがより一層助長されることとなる。
本発明の目的は、以上のような問題を解決し、安定した定着動作がなされるベルト定着器を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために請求項1記載のベルト定着器は、加熱される定着ベルトと、この定着ベルトに圧接される回転体とを有し、これら定着ベルトと回転体のうち一方が駆動され、他方が従動し、トナー画像が形成された記録材を、前記定着ベルトと回転体との圧接部の中央部に通して、前記トナー画像を加熱溶融し記録材上に定着させる定着器であって、
前記定着ベルトが、前記圧接部の円周方向長さよりも短い網目の網状体、または布からなるベルト基体と、このベルト基体の幅方向における中央部の少なくとも表面側に被覆された高離型材料からなる表層とを備え、かつ両端部において前記ベルト基体の露出部が形成されていることを特徴とする。
請求項2記載のベルト定着器は、請求項1記載のベルト定着器において、前記定着ベルトの表面に離型オイルを塗布するオイル塗布手段が設けられているとともに、前記網状体を形成する糸体のうち少なくともベルト幅方向に伸びる糸体が、複数本の細線の集合体として構成されていることを特徴とする。
請求項3記載のベルト定着器は、請求項2記載のベルト定着器において、前記表層をなす高離型材料は、離型オイルの浸透性を有する材料であることを特徴とする。
【0007】
【作用効果】
請求項1記載のベルト定着器によれば、トナー画像が形成された記録材が、一方が駆動され他方が従動する、加熱される定着ベルトとこの定着ベルトに圧接される回転体との圧接部の中央部を通過することにより、前記トナー画像が加熱溶融されて記録材上に定着させられる。
そして、前記定着ベルトは、前記圧接部の円周方向長さよりも短い網目の網状体、または布からなるベルト基体と、このベルト基体の幅方向における中央部の少なくとも表面側に被覆された高離型材料からなる表層とを備え、かつ両端部において前記ベルト基体の露出部が形成されているので、前記表層はトナー画像の定着面を形成するとともに、前記ベルト基体の露出部は、前記回転体に対する高グリップ部を形成することとなる。
したがって、上記定着ベルトと回転体との圧接部の中央部に、比較的滑り易い記録材が供給され、この滑り易い記録材の介在によって、駆動側の定着ベルト(または回転体)と記録材との間および/または記録材と従動側の回転体(または定着ベルト)との間でスリップが生じそうになったとしても、前記高グリップ部の作用によって駆動側の定着ベルト(または回転体)に対する従動側の回転体(または定着ベルト)の従動性が向上し、定着ベルトと回転体とが略同一の周速で回転することとなる。このため、上記スリップが防止され(少なくとも著しく生じ難くなり)、結果として安定した定着動作がなされることとなる。したがってまた、記録材上のトナー画像に擦れが生じにくくなって画像乱れがほとんど生じなくなる。
しかも、前記高グリップ部は、ベルト基体自体の両端部に露出部を形成するだけで構成されているので、ベルト基体にこれと別体の高グリップ部材を設ける場合に比べて強度的に優れたものとなり、信頼性が向上する。また、ベルト基体に別途高グリップ部を設けたり形成する場合に比べて定着ベルトの製造が簡単になる。
【0008】
請求項2記載のベルト定着器によれば、請求項1記載のベルト定着器において、前記定着ベルトの表面に離型オイルを塗布するオイル塗布手段が設けられているので、オフセット現象が生じ難くなる。
前述したように、定着ベルトの表面に離型オイルが塗布される構成とすると、このオイルが定着ベルトと回転体との圧接部の端部に徐々に侵入して行くこととなるが、この請求項2の定着器によれば、圧接部の両端部にはベルト基体が露出しており、このベルト基体は布、または、少なくともベルト幅方向に伸びる糸体が複数本の細線の集合体となっている網状体で構成されているので、圧接部の端部に侵入していったオイルは、ベルト基体の露出部において、その布または網状体における複数本の細線の集合体からなる糸体へ浸透することとなる。
したがって、ベルト基体両端部の表面に存在するオイルの量は僅かなものとなり、結果として圧接部両端におけるグリップ力が確保され、上記スリップが防止されて(少なくとも著しく生じ難くなって)、安定した定着動作がなされることとなる。
すなわち、この請求項2記載のベルト定着器によれば、定着ベルトの表面に離型オイルを塗布するものであるにもかかわらず、安定した定着動作を得ることが可能となる。
請求項3記載のベルト定着器によれば、請求項2記載のベルト定着器において、前記表層をなす高離型材料が、離型オイルの浸透性を有する材料となっているので、この表層の表面に塗布されたオイルは、表層中に浸透し、さらに、ベルト基体をなす布、または、網状体における複数本の細線の集合体からなる糸体へと浸透して、この布または糸体によって保持されることとなる。そして、このようにして保持されたオイルは、前記圧接部においては、その圧力によって布または糸体から滲み出し、さらに表層の表面へと滲み出して表層の表面すなわち定着面にオイルの薄膜を形成することとなる。したがって、定着面におけるオイル膜の均一化が図られ定着されたトナー画像の画質が向上することとなる。
また、前述したようにしてベルト基体の端部に浸透したオイルはベルト基体をなす布または網状体の前記糸体を通じて中央部に還流されることとなるので、オイルの消費量を低減させることができる。
したがってまた、ある程度の時間定着動作がなされないことによって圧接部近くに余剰オイルが溜まろうとしても、このオイルは、前記表層中に浸透し、さらに、ベルト基体をなす布、または、網状体における複数本の細線の集合体からなる糸体へと浸透して、この布または糸体によって保持され、かつその一部は中央部に還流されることとなるので、ある程度の時間定着動作がなされなかった後に、再び定着動作が開始された際、その一枚目の記録材が余剰オイルによって汚れてしまうという自体も生じ難くなる。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は本発明に係るベルト定着器の一実施の形態を示す概略側面図、図2は主要部の概略斜視図である。
【0010】
この定着器100は、加熱される定着ベルト110と、この定着ベルト110に圧接される回転体としての加圧ローラ120とを有し、トナー画像(図示せず)が形成された記録材Sを、矢印S1で示すように定着ベルト110と加圧ローラ120との圧接部Nの中央部N1に通して、トナー画像を加熱溶融し記録材S上に定着させるようになっている。
【0011】
この実施の形態の定着器100は、前記圧接部Nにおいて定着ベルト110を内方から支持するバックアップ部材としてのバックアップローラ130と、定着ベルト110を加熱する加熱手段としての加熱ローラ140とを有しており、定着ベルト110は、バックアップローラ130と加熱ローラ140との間に張架されている。
150はオイル塗布手段としてのオイル塗布ローラであり、定着ベルト110の表面に離型オイルを塗布するようになっている。
これら定着ベルト110および各ローラを回転させるための駆動ローラとしては、オイル塗布ローラ150以外のローラであればどのローラを用いることもできるが、この実施の形態では、加圧ローラ120を駆動ローラとして用いている。
すなわち、加圧ローラ120は、図示しない駆動手段によって図1の矢印方向(反時計方向)に回転駆動され、バックアップローラ130、定着ベルト110、加熱ローラ140、およびオイル塗布ローラ150が従動するようになっている。具体的には、加圧ローラ120に対して定着ベルト110およびバックアップローラ130が圧接されていることにより、定着ベルト110およびバックアップローラ130が加圧ローラ120に従動し、定着ベルト110が加熱ローラ140に巻き掛けられていることにより、加熱ローラ140が定着ベルト110に従動し、定着ベルト110に対してオイル塗布ローラ150が圧接されていることにより、オイル塗布ローラ150が定着ベルト110に従動するようになっている。
図1において、111はバックアップローラ130への巻掛け部における定着ベルト110の表面温度を検出するためのサーミスタである。このサーミスタ111は加圧ローラ120との圧接部Nの上流側に設けられている。
【0012】
バックアップローラ130は、金属製の芯材131と、この芯材131の表面に設けられた比較的肉厚の弾性層132とを有しており、芯材131の軸131aで定着器100のフレームの側板101に対して回転可能に支持されている。加熱ローラ140は、熱伝導性に優れた材料(例えばアルミニウム)でパイプ状に形成されており、その内部に熱源であるハロゲンランプ141が配置されている。この加熱ローラ140は、定着ベルト110の巻掛け部において定着ベルト110を急速に加熱することが可能である。この実施の形態の加熱ローラ140はテンションローラとして構成されており、図示しない適宜の付勢手段で定着ベルト110の張り方向に付勢されている。なお、図1において、143は加熱ローラ140の温度を検出するためのサーミスタである。
【0013】
加圧ローラ120は、パイプ状の熱伝導性に優れた芯材121と、この芯材121の表面に設けられた比較的肉薄で前記バックアップローラ130の弾性層132よりは硬い弾性層122と、この弾性層122の表面に形成された、記録材およびトナーに対する剥離性に優れた表層122aとを備え、芯材121の内部に熱源であるハロゲンランプ123が配置されている。
加圧ローラ120は、定着器100のフレーム側板101に対して回転可能に支持されており、この定着器100が取り付けられる画像形成装置本体(図示せず)に設けられた図示しない駆動手段によって図1の矢印方向(反時計方向)に回転駆動される。なお、加圧ローラ120は、その半径方向へは移動不能に取り付けられており、弾性層122および前記バックアップローラ130の弾性層132の弾性力で、定着ベルト110を介してバックアップローラ130に圧接されている。その圧接部Nは、バックアップローラ130の弾性層132が加圧ローラ120の弾性層122よりも肉厚で柔らかいことから、バックアップローラ130側に凸状に形成される。図1において、124は加圧ローラ120の表面温度を検出するためのサーミスタである。
【0014】
フレーム101には、図示しない画像形成装置の転写部でトナー画像が形成(転写)された記録材Sを定着ベルト110と加圧ローラ120との圧接部(ニップ部)Nの中央部N1に導く、ガイド102が設けられている。また、圧接部Nの下流側には、排紙ローラ対103と、定着後の記録材Sを図示しない画像形成装置の排紙経路に導くガイド104とが設けられている。なお、上記各サーミスタは、図示しない画像形成装置の制御部に接続されており、各サーミスタからの検出温度に応じ、制御部によって前記各熱源123,141への通電量が制御されるようになっている。
【0015】
この実施の形態の主な特徴は定着ベルト110の構造にあるので、それについて説明する。
図3は定着ベルト110を示す図で(a)は概略的な透視斜視図、(b)は図(a)におけるb部の拡大図である。図4(a)は定着ベルト110の側面図、(b)は図(a)におけるb部の拡大図である。なお、これらの図はバックアップローラ130と加熱ローラ140とに張架される前の状態の定着ベルト110を描いてある。
【0016】
定着ベルト110は、耐熱性の網状体からなるベルト基体112と、このベルト基体112の幅方向(図3において左右方向であり各ローラの軸線方向)における中央部112aの少なくとも表面側(図4(b)において右側)に被覆された高離型材料からなる表層113とを備え、かつ両端部においてベルト基体112の露出部112bが形成されている。
【0017】
図3(b)に示すように、ベルト基体112をなす網状体は、その網目112cの円周方向長さL1が前記圧接部Nの円周方向長さL2(図6(a)参照)よりも短くなるように構成されている。網目112cの円周方向長さL1が圧接部Nの円周方向長さL2よりも長くなるように構成すると、後述するグリップ部としての作用が確実には得られなくなるからである。したがって、ベルト基体112は耐熱性を有する布で構成することもできる。
網状体は、例えば、アラミド、ポリイミド、ガラス繊維等からなる糸体114で構成することができる。網状体を形成する糸体114のうち少なくともベルト幅方向(図3において左右方向)に伸びる糸体114aは、複数本の細線の集合体(例えばいわゆるマルチフィラメント)で構成することが望ましい。この実施の形態では、前記糸体114aと、ベルト周方向に伸びる糸体114bの両方とも、複数本の細線の集合体からなる糸体で構成してある。
網状体の端縁部112dは、例えば、図5(a)または(b)に示すような構造で補強することが望ましい。
図(a)に示す構造は、端縁部112dをディッピングして合成樹脂115で被覆し、端縁部112dを補強した構造である。また、図(b)に示す構造は、端縁部112dに補強材として単線(例えばいわゆるモノフィラメント)116を巻き付けまたは付設し、さらにディッピングして合成樹脂115で被覆し、端縁部112dを補強した構造である。
【0018】
表層113は、ベルト基体112の幅方向における中央部112aに高離型材料(記録材およびトナーに対する剥離性に優れた材料)をコーティングすることによって形成してある。この実施の形態では、図4(b)に示すように、網状体からなるベルト基体112の裏面側113bまで高離型材料層が形成されるようにコーティングしてあるが、このコーティングは、表層113の表面113aが平滑面となる程度にベルト基体112の網目(布の場合には布目)112c(図3(b)参照)が高離型材料で埋まるようになされればよい。したがって、例えば図4(b)に仮想線113’で示すように、ベルト基体112の裏面側113bにおいては、このベルト基体112が部分的に露出するようにコーティングしてもよい。ベルト基体112を布で構成した場合には、ベルト基体112の裏面が露出しやすくなる。
また、高離型材料としては、離型オイルの浸透性を有する材料(離型オイルが浸透する材料)を用いることが望ましく、この実施の形態ではそのような材料(例えばシリコーンゴム、フッ素ゴム、フッ素樹脂等)を用いる。
【0019】
この実施の形態による定着器100によれば、次のような作用効果が得られる。
(a)トナー画像が形成された記録材Sが、一方が駆動され他方が従動する、加熱される定着ベルト110とこの定着ベルト110に圧接される回転体としての加圧ローラ120との圧接部Nの中央部N1を通過することにより、前記トナー画像が加熱溶融されて記録材S上に定着させられる。
そして、定着ベルト110は、前記圧接部Nの円周方向長さL2よりも短い網目112cの網状体、または布からなるベルト基体112と、このベルト基体112の幅方向における中央部112aの少なくとも表面側に被覆された高離型材料からなる表層113とを備え、かつ両端部においてベルト基体112の露出部112bが形成されているので、前記表層113はトナー画像の定着面113aを形成するとともに、ベルト基体112の露出部112bは、加圧ローラ120に対する高グリップ部を形成することとなる。
したがって、定着ベルト110と加圧ローラ120との圧接部Nの中央部N1に、比較的滑り易い記録材Sが供給され、この滑り易い記録材Sの介在によって、駆動側の加圧ローラ120と記録材Sとの間および/または記録材Sと従動側の定着ベルト110との間でスリップが生じそうになったとしても、前記高グリップ部すなわちベルト基体112の露出部112bの作用によって駆動側の加圧ローラ120に対する従動側の定着ベルト110の従動性が向上し、定着ベルト110と加圧ローラ120とが略同一の周速で回転することとなる。このため、上記スリップが防止され(少なくとも著しく生じ難くなり)、結果として安定した定着動作がなされることとなる。したがってまた、記録材S上のトナー画像に擦れが生じにくくなって画像乱れがほとんど生じなくなる。
しかも、前記高グリップ部は、ベルト基体112自体の両端部に露出部112bを形成するだけで構成されているので、ベルト基体112にこれと別体の高グリップ部材(図示せず)を設ける場合に比べて強度的に優れたものとなり、信頼性が向上する。また、ベルト基体112に別途高グリップ部(図示せず)を設けたり形成したりする場合に比べて定着ベルト110の製造が簡単になる。
【0020】
(b)定着ベルト110の表面に離型オイルを塗布するオイル塗布手段150が設けられているので、オフセット現象が生じ難くなる。
前述したように、定着ベルト110の表面に離型オイルが塗布される構成とすると、このオイルが定着ベルト110と加圧ローラ120との圧接部Nの端部に徐々に侵入して行くこととなる。
この点について、図6および図7を参照して説明する。図6(a)は作用を説明するための側面図、(b)はその部分拡大図、図7(a)は作用を説明するための正面図、(b)はその部分拡大断面図(図6(b)におけるVIIb−VIIb断面図に相当する図)である。
図7(a)(b)においてAで示す範囲は、通紙範囲、すなわち、定着ベルト110および加圧ローラ120に対して記録材Sが接触する範囲である。
図6(b)に示すように定着ベルト110の表面すなわち表層113の表面113aに離型オイルOが塗布されると、このオイルOは、前記通紙範囲Aにおいては記録材Sと接触することによって記録材Sに吸収されあるいは記録材S上に転移されるが、通紙範囲A外においては記録材Sに吸収されずまた転移もしないので、図6および図7に示すように通紙範囲Aの幅方向両側において定着ベルト110と加圧ローラ120との圧接部Nの手前側(通紙方向上流側)に余剰オイルO1として溜まることとなる。このようにして溜まった余剰オイルO1は、圧接部Nに沿ってその両端部N2側へと移動し両端部N2へ徐々に侵入して行くこととなる。両端部N2側へ移動した余剰オイルをO2で示す。
このようなオイルO2に対して何らの方策も講じないとしたならば、定着ベルト110と加圧ローラ120との間のグリップ力が低下してスリップが生じることは前述した通りである。
これに対し、この実施の形態の定着器によれば、圧接部Nの両端部N2にはベルト基体112が露出(112b)しており、このベルト基体112は布、または、少なくともベルト幅方向に伸びる糸体114aが複数本の細線の集合体となっている網状体で構成されているので、圧接部の端部N2に侵入していったオイルは、ベルト基体112の露出部112bにおいて、その布または網状体における複数本の細線の集合体からなる糸体114aへ(この実施の形態では糸体114bにも)浸透することとなる。
したがって、ベルト基体両端部112bの表面に存在するオイルの量は僅かなものとなり、結果として圧接部両端N1におけるグリップ力が確保され、上記スリップが防止されて(少なくとも著しく生じ難くなって)、安定した定着動作がなされることとなる。
すなわち、この実施の形態のベルト定着器によれば、定着ベルト110の表面に離型オイルOを塗布するものであるにもかかわらず、安定した定着動作を得ることが可能となる。
(c)表層113をなす高離型材料が、離型オイルの浸透性を有する材料となっているので、この表層113の表面113aに塗布されたオイルOは、図6(b)に矢印O4で示すように、表層113中に浸透し、さらに、ベルト基体112をなす布、または、網状体における複数本の細線の集合体からなる糸体114a、114bへと浸透して、この布または糸体によって保持されることとなる。そして、このようにして保持されたオイルO5は、前記圧接部N(特に中央部N1)においては、その圧力によって、図6(b)および図7(a)(b)に矢印O6で示すように、布または糸体から滲み出し、さらに表層113の表面113aへと滲み出して表層113の表面113aすなわち定着面にオイルの薄膜O7(図6(b)参照)を形成することとなる。したがって、定着面におけるオイル膜の均一化が図られ定着されたトナー画像の画質が向上することとなる。
また、前述したようにしてベルト基体112の端部112bに浸透したオイルO8(図7(a)(b)参照)は、矢印O9で示すようにベルト基体112をなす布または網状体の幅方向へ伸びる糸体114aを通じて中央部112aに還流されることとなるので、オイルの消費量を低減させることができる。通紙範囲Aすなわち中央部112aにおいてはオイルが記録材に吸収等されることで、オイルの含浸量が端部に比べて少なくなるので、上述したようにして端部からオイルが中央部へと還流されることとなる。
したがってまた、ある程度の時間定着動作がなされないことによって圧接部N近くに余剰オイルが溜まろうとしても、このオイルは、前記表層113中に浸透し、さらに、ベルト基体112をなす布、または、網状体における複数本の細線の集合体からなる糸体114a、114bへと浸透して、この布または糸体によって保持され、かつその一部は中央部に還流されることとなるので、ある程度の時間定着動作がなされなかった後に、再び定着動作が開始された際、その一枚目の記録材が余剰オイルによって汚れてしまうという自体も生じ難くなる。
【0021】
【実施例】
さらなる具体例について説明する。
(定着ベルト110に関し)
構造はシームレスベルトとし、ベルト基体112は耐熱性のアラミド繊維からなるマルチフィラメント(糸体)で構成した網状体とする。ベルト基体112の厚さは100μm程度とする。布で構成する場合の厚さも100μm程度とする。
ベルト基体112の幅は、392mm程度とし、その中央部にのみシリコーンゴムを200μm程度の厚さでコーティングして表層113を形成し、両端部に幅27mm程度の露出部112bを形成する。
ベルト基体112の内径はφ60mm程度とする。
【0022】
(加圧ローラ120に関し)
構造は両端部に中空軸部125(図2参照)を有する鉄(SUM24)製の外径φ32mm程度、内径φ22程度のパイプ部121の外周面に弾性層122としてシリコーンゴムを、さらにその外周面に表面層122aとしてフッ素樹脂を被覆した構造とする。
弾性層122のゴム硬度はJIS−A20°程度とし、層厚は1.5mm程度とする。
表面層122aは、フッ素ラテックス塗料を塗布した後、熱硬化させたフッ素ラテックス被膜とする。層厚は60μm程度とする。
中空部に設けるハロゲンランプ123の発熱量は100Vで230W程度とする。
加圧ローラ120の外径は35.2mm程度とする。
軸部124を含むローラ幅(軸線方向長さ)は444.3mm程度とする。
バックアップローラ130に対する押圧荷重は軸部125,125にかけ、片側60Kg(両端総荷重120Kg)程度とする。尚、バックアップローラ130及び加圧ローラ120はフレーム101に定位置固定(軸間距離一定)され、特別の押圧手段は設けない。押圧荷重は、両ローラ120,130の外径の和よりも軸間距離が短くなるようにフレーム101に両ローラ120,130が固定されることにより、両ローラが互いに食い込むことにより生じる。ローラへの荷重作用位置はフレームへの固定位置であり、軸124の軸受であるベアリング(図示せず)の位置となる。
定着ベルト110との圧接部Nの周方向長さL2は11mm程度とする。
【0023】
(バックアップローラ130に関し)
構造は両端部にφ10程度の軸部131aを有するφ26程度の中実の鉄(SUM24)製ローラの外周面に弾性層132としてシリコーンゴムを、さらにその外周面に表面層132aとしてPFA(4弗化エチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合体)を被覆したものとする。
バックアップローラ130の外径は38.5mm程度とし、軸部131aを除くローラ幅は398mm程度とする。
弾性層132の層厚は6.25mm程度とする。ゴム硬度はJIS−A10゜程度とする。
表面層132aは熱収縮性PFA樹脂チューブを用いる。被覆後の層厚は110μm程度とする。
【0024】
(加熱ローラ140に関し)
構造は両端部にφ20程度の軸部144を有する、外径φ28程度、肉厚3mm程度のパイプ状アルミニウム製ローラとする。
軸部144を除くローラ幅は393mm程度とする。
ローラ中空部に配置される発熱手段141はハロゲンランプとする。その発熱量は100Vで695W程度とする。
【0025】
(オイル塗布ローラ150に関し)
構造はφ10mm程度の鉄(SUM24)製シャフト151上に、オイル含浸層152aとオイル供給層152bとからなるオイル保持層152、および表面層153を順に積層した構造とする。
オイル塗布ローラ150の外径は36mm程度、軸端部を含まないローラ幅は337〜392mm程度、望ましくは高グリップ部にかからず通紙範囲をカバーする範囲とする。具体的には337mm程度とする。
オイル含浸層152aは、スポンジで構成し、厚さは11mm程度とする。
オイル供給層152bはフェルトで構成し、層厚は2mm程度とする。
表面層153は、多孔質PTFE(4弗化エチレン重合体)樹脂で構成し、層厚は120μm程度とする。
離型剤の材質はジメチルシリコーンオイルとする。粘度(20°Cでの)は、100センチストークス程度とし、含浸させる総量は140g程度とする。
定着ベルト110への当接荷重(押圧荷重)は総荷重0.5以上2Kg以下の範囲で適宜設定し得るが、より好ましくは1Kg程度とする。
オイル塗布ローラ150と定着ベルト110との当接幅(ベルト移動方向に関する長さ)は3mm程度とする。
【0026】
以上、本発明の実施の形態および実施例について説明したが、本発明は上記の実施の形態または実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において適宜変形実施可能である。
【0027】
【発明の効果】
請求項1〜3記載のいずれのベルト定着器によっても、安定した定着動作がなされることとなる。しかも、信頼性が向上し、定着ベルトの製造も簡単になる。
さらに、
請求項2記載のベルト定着器によれば、オフセット現象が生じ難くなるとともに、安定した定着動作がなされることとなる。
請求項3記載のベルト定着器によれば、定着面におけるオイル膜の均一化が図られるとともに、オイルの消費量を低減させることができる。
【0028】
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るベルト定着器の一実施の形態を示す概略側面図。
【図2】主要部の概略斜視図である。
【図3】定着ベルト110を示す図で(a)は概略的な透視斜視図、(b)は図(a)におけるb部の拡大図。
【図4】(a)は定着ベルト110の側面図、(b)は図(a)におけるb部の拡大図である。
【図5】(a)(b)はそれぞれ網状体の端縁部112dの構造例を示す部分拡大切断斜視図。
【図6】(a)(b)はそれぞれ作用説明図。
【図7】(a)(b)はそれぞれ作用説明図。
【図8】従来技術の説明図。
【図9】従来技術の説明図。
【符号の説明】
S 記録材
100 定着器
110 定着ベルト
120 加圧ローラ(回転体)
150 オイルローラ(オイル塗布手段)
N 圧接部
N1 圧接部の中央部
N2 圧接部の端部
112c 網目
112 網状体(ベルト基体)
112a ベルト基体の幅方向における中央部
113 表層
112b ベルト基体の露出部
114 糸体
114a 幅方向に伸びる糸体
Claims (3)
- 加熱される定着ベルトと、この定着ベルトに圧接される回転体とを有し、これら定着ベルトと回転体のうち一方が駆動され、他方が従動し、トナー画像が形成された記録材を、前記定着ベルトと回転体との圧接部の中央部に通して、前記トナー画像を加熱溶融し記録材上に定着させる定着器であって、前記定着ベルトが、前記圧接部の円周方向長さよりも短い網目の網状体、または布からなるベルト基体と、このベルト基体の幅方向における中央部の少なくとも表面側に被覆された高離型材料からなる表層とを備え、かつ両端部において前記ベルト基体の露出部が形成されていることを特徴とするベルト定着器。
- 前記定着ベルトの表面に離型オイルを塗布するオイル塗布手段が設けられているとともに、前記網状体を形成する糸体のうち少なくともベルト幅方向に伸びる糸体が、複数本の細線の集合体として構成されていることを特徴とする請求項1記載のベルト定着器。
- 前記表層をなす高離型材料は、離型オイルの浸透性を有する材料であることを特徴とする請求項2記載のベルト定着器。
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