JP3668405B2 - ごみ焼却炉の制御方法及び装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、一般廃棄物および産業廃棄物を焼却処理するごみ焼却炉の制御方法及び制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
ごみ焼却炉の燃焼制御技術に関して、特開平11‐72219号公報及び特開平11‐72220号公報はクロロベンゼン類又はダイオキシン類の濃度を計測し、その濃度と酸素濃度、炉内温度に基づいて焼却炉へのごみの供給量及び空気量の過不足を判定し、ごみの供給量及び空気量を調整することを開示する。
【0003】
クロロベンゼン類はCOに比べダイオキシンとの相関が強く、また、少なくとも1種類のダイオキシンを直接計測することでより正確にダイオキシン総量又は毒性係数を乗じた毒性等量(TEQ:Toxic Equivalents)を求めることができる。
【0004】
特開平11‐237023号公報は燃焼炉で発生したクロロベンゼン類を測定する手段と制御量を制御する手段、パラメータ制御手段を有する燃焼装置を開示する。
【0005】
上記の従来技術はCOを指標としたダイオキシン抑制制御に比べ、より低レベルにダイオキシンを抑制制御ができる利点がある。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、ダイオキシン濃度と空気量及びストーカ速度との相関関係は非常に複雑である。例えば、同じように空気量を増加させた場合であっても、ごみ質の違い、炉内の燃焼状態の違いにより、ダイオキシンが減少する場合もあれば増加する場合もある。更に、ごみの燃焼においては、例えば、燃焼が激しくなることによってさらに燃焼が加速するといったポジティブフィードバックがあるため、現時点の空気量を増加させるなどの操作量の変更がしばらく後の炉内の燃焼状態を大きく変化させる恐れがある。したがって、時間的に少し先の状態を考慮した制御が必要となる。従来の方法ではこのような複雑さを全て考慮して、ファジー制御等の非線型制御アルゴリズムを構築することは非常に難しく、かつ長時間を要する。
【0007】
また、ダイオキシン類又はダイオキシン前駆物質を計測する場合、対象とする物質によってダイオキシン類又はダイオキシン前駆物質の濃度に大きなばらつきがあり、一般に前者は後者に比べ1000分の1程度の低い濃度である。したがって、これら低濃度の物質を計測する場合、現時点では計測装置の検出限界のため数秒オーダーのリアルタイム計測は困難であり、一定時間(10分〜1時間程度)に排出された排ガス中のダイオキシンを濃縮して計測する等の工夫が必要となる。したがって、計測間隔も10分〜1時間程度となり、その計測値を利用した一般的なフィードバック制御は困難とある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は上記課題を解決する有効な制御方法及び制御装置を提供する。
【0009】
発明は、ごみ焼却炉の排ガス中における芳香族系有機塩素化合物の少なくとも1種を含む指標成分の濃度と前記ごみ焼却炉の操作量との因果関係をモデル化した指標成分濃度推定モデルを有し、前記指標成分濃度推定モデルを利用してごみ焼却炉の操作量を決定する制御方法であって、前記排ガス中におけるダイオキシン前駆体の濃度の計測値に基づき、前記指標成分濃度推定モデルのモデルパラメータを推定モデルの出力値が計測値と一致するように変更し、該変更された前記指標成分濃度推定モデルに基づいて前記操作量を決定するごみ焼却炉の制御方法である。
又、前記排ガス中におけるダイオキシン前駆体の濃度の計測値及び前記焼却炉の運転状態を表す状態量の計測値に基づき、前記指標成分濃度推定モデルのモデルパラメータを推定モデルの出力値が計測値と一致するように変更し、該変更された前記指標成分濃度推定モデルに基づいて前記操作量を決定することが好ましい。
【0010】
発明は、ごみ焼却炉の操作量を入力とし、前記ごみ焼却炉の排ガス中のダイオキシン濃度と相関関係がある指標成分の中の少なくとも1成分の濃度を出力し、前記入力値と前記出力値動的な関係をモデル化した指標成分濃度推定モデルを有し、前記指標成分濃度推定モデルに一定時間先までの操作パターンを入力し、前記指標成分濃度推定モデルから出力された一定時間先までの指標成分濃度の予測値により前記ごみ焼却炉の操作量を決定する制御方法であって、前記排ガス中におけるダイオキシン前駆体の濃度の計測値に基づき、前記指標成分濃度推定モデルのモデルパラメータを変し、該変更された前記指標成分濃度推定モデルに基づいて前記操作量を決定することを特徴とするごみ焼却炉の制御方法である。
又、前記ダイオキシン前駆体の濃度の計測値及び前記焼却炉の運転状態を表す状態量の計測値に基づき、前記指標成分濃度推定モデルのモデルパラメータを変更し、該変更された前記指標成分濃度推定モデルに基づいて前記操作量を決定することが好ましい。
【0012】
発明は、前記指標成分の濃度の計測値に基づき、前記指標成分濃度推定モデルのモデルパラメータを逐次変更することが好ましい
【0013】
本発明は、ごみ焼却炉の排ガス中のダイオキシン濃度と相関関係がある指標成分の中の少なくとも1成分の濃度を計測する排ガス分析装置と、前記ごみ焼却炉の操作量と上記指標成分の濃度動的な因果関係をモデル化した指標成分濃度推定モデルを用いて該ごみ焼却炉の操作量を決定する操作量探索手段と、前記排ガス分析装置で計測されたダイオキシン前駆体の度に基づき、前記指標成分濃度推定モデルの出力値が前記排ガス分析装置で計測された濃度と一致するように、前記指標成分濃度推定モデルのモデルパラメータを変更するモデル調整手段とを有するごみ焼却装置の制御装置である。
前記ごみ焼却炉の状態量のうち、前記指標成分以外の状態量を計測する状態量センサを有し、前記排ガス分析装置で計測された前記指標成分濃度及前記状態量センサで計測した計測値に基づき、前記指標成分濃度推定モデルの出力値が前記排ガス分析装置で計測された濃度と一致するように、前記指標成分濃度推定モデルのモデルパラメータを変更するモデル調整手段を有することが好ましい。
【0015】
本発明は、ごみ焼却炉の排ガス中のダイオキシン濃度と相関関係がある指標成分の中の少なくとも1成分の濃度を計測する排ガス分析装置と、前記ごみ焼却炉の状態量のうち、ダイオキシン前駆体以外の状態量を計測する状態量センサと、前記ごみ焼却炉の操作量と上記指標成分の濃度の動的な因果関係をモデル化した指標成分濃度推定モデルと、前記指標成分濃度推定モデルに一定時間先までの操作パターンの候補を入力し、前記指標成分濃度推定モデルから出力された一定時間先までの前記指標成分の濃度の予測値により前記ごみ焼却炉の操作量を決定する操作量探索手段と、前記排ガス分析装置で計測された前記ダイオキシン前駆体の濃度及び前記状態量センサで計測した計測値に基づき、前記指標成分濃度推定モデルの出力値が前記排ガス分析装置で計測された濃度と一致するように、前記指標成分濃度推定モデルのモデルパラメータを変更するモデル調整手段とを有することを特徴とするごみ焼却装置の制御装置である。
【0016】
上記の指標成分は、炭化水素類及び芳香族系有機塩素化合物の中の少なくともひとつであることが好ましい。前記の芳香族系有機塩素化合物とはクロロフェノール類、クロロベンゼン類、ダイオキシン類等である。
【0017】
また、前記指標成分が炭化水素類と芳香族系有機塩素化合物の中の少なくともひとつである場合、前記排ガス分析装置は、前記排ガスを大気圧下でイオン化する大気圧イオン化手段と、前記大気圧イオン化手段でイオン化された排ガス中の、前記指標成分の質量分析を行う質量分析手段とを有する排ガス分析装置であってもよい。更に、排ガス分析装置は排ガス中の指標成分を濃縮する排ガス濃縮手段を備えていてもよい。
【0018】
【発明の実施の形態】
【0019】
【実施例1】
図1に本発明の第1の実施例を示す。本実施例はごみ焼却炉1と制御装置2からなる。ごみ焼却炉1は、ごみを燃焼させる燃焼炉と燃焼炉から排出された排ガスを処理する排ガス処理設備からなっている。制御装置2は排ガス分析装置21、状態量センサ22、指標成分濃度推定モデル23、モデルパラメータ調整手段24、最適操作量探索手段25よりなる。
【0020】
排ガス分析装置21、状態量センサ22は計測手段であるが、本実施例では制御装置2の一部とした。
【0021】
ごみ焼却炉1では投入したごみを乾燥、燃焼させる。その結果、ごみは焼却灰と排ガスとなる。焼却灰は随時燃焼炉から搬出され、排ガスはごみ焼却炉1内に設置された排ガス処理装置12に送られて処理される。
【0022】
排ガス分析装置21では、燃焼ガス中の指標成分の濃度を計測する。本実施例ではダイオキシン全駆体であるクロロフェノールの濃度を計測した。
【0023】
状態量センサ22では、排ガスのO 濃度、CO濃度、HCL濃度を計測する。また、燃焼炉内の各所の温度やガス流量を計測する。
【0024】
指標成分濃度推定モデル23は、モデルの入力の中にストーカ速度、燃焼空気量などごみ焼却炉の操作量が入っており、出力の1つがクロロフェノール類の濃度となっているモデルである。その他の入力項目にはごみ組成などの境界条件、排ガス中の濃度などの状態量などがある。また、排ガス中の濃度などの状態量は、モデル出力としてモデルを構築してもよい。
【0025】
モデルパラメータ調整手段24は排ガス分析装置21で計測したクロフェノールの濃度及び状態量センサで得た計測値に基づき、指標成分濃度推定モデルのモデルパラメータを変更する。
【0026】
最適操作量探索手段25では、指標成分濃度推定モデル23に操作量の候補を入力し、モデル出力であるクロフェノール濃度が最も小さくなる操作量を探索する。探索した操作量をごみ焼却炉1の操作量の指令値としてごみ焼却炉1に渡される。
【0027】
ごみ焼却炉では、投入されるごみ質の変動などにより、操作量とクロロフェノール類の関係が変化する可能性がある。本実施例のように操作量とクロロフェノール類の濃度の関係を表わす指標成分濃度推定モデル23を逐次修正することにより、モデルが実炉の状態をより正確に模擬できる。したがって、このモデルを利用して操作量を決定することでクロロフェノール類が小さくなる操作量を見つけることが可能となり、ダイオキシン類の排出を抑制するごみ焼却炉の運転制御が可能となる。
【0028】
次に、本実施例の制御装置2についてより詳細に説明する。
【0029】
まず、排ガス分析装置2について説明する。排ガス分析装置2では、クロロフェノール類の濃度を計測した。クロロフェノール類は排ガス中の微量成分であるため、採取したガスを安定にかつ一定流量でモニタ部に送り込む必要がある。また、途中でクロロフェノール類が吸着したり凝縮して損失することがないようにしなければならない。したがって、その前処理は通常のガス分析装置とは異なったものになる。
【0030】
高精度未燃分計測装置の構成を図2に示す。
【0031】
高精度未燃分計測装置は主に3つの部位より成り立っている。採取された試料ガスを搬送し、前処理するガス前処理部221、採取した試料ガス中からクロロフェノール類を検出するモニタ部222、さらに検出、取得したデータを処理するデータ処理部223である。ガス前処理部221は全体をヒーターにより100度〜200度程度に加熱され、排ガス中の不純物や非灰を取り除く。モニタ部222に送り込まれた試料ガスは、大気圧化学イオン源222aに送り込まれ、コロナ放電により試料ガス中のクロロフェノール類を選択的にかつ高い効率でイオン化を行い、中間圧力室等を経て質量分析部222bで質量分析し、クロロフェノール類を検出(モニタ)する。本実施例では、大気圧化学イオン源により負にイオン化した。なお、指標物質が炭化水素類の場合は正にイオン化する。検出された信号はデータ処理部223に送られ、必要に応じて検量線から濃度に換算される。
【0032】
データ処理部223では、質量分析部222がらの信号を増幅器223aにより増幅し、さらに必要であれば演算器223bで演算処理する。
【0033】
次に状態量センサ22について説明する。
状態量センサ22は、排ガス中のガス成分センサ、燃焼炉内の各所の温度センサ、各所のガス流量センサなどからなっている。ガス成分センサは、排ガス分析装置2で計測した微量成分以外の排ガス中のガス成分濃度を計測する。本実施例では、O2濃度、CO濃度、HCL濃度を計測した。また、温度センサは燃焼炉内、燃焼炉出口、ストーカ下部等に設置されており、それぞれ、炉内ガス温度、炉内出口ガス温度、ストーカ温度を計測する。ガス流量センサは、各ストーカ毎の空気流量、排ガスの総空気流量等を計測する。
【0034】
次に指標成分濃度推定モデル23について説明する。本実施例では、モデルの枠組みとして3層の階層型ニューラルネットワークを利用した。モデルの入力にはストーカ速度、燃焼空気量、燃焼空気温度などのごみ焼却炉の操作量と、ボイラ蒸発量、排ガス中O2濃度の状態量を選択した。また、モデル出力はクロロフェノール類の濃度1つとした。このモデルの入力と出力の関係はモデル内部の重み係数によって決定される。重み係数は蓄えられた過去の運転実機データを教師データとし、バックプロパゲーション法により決定した。
【0035】
次にモデルパラメータ調整手段24について説明する。本実施例では、指標成分濃度推定モデル23をニューラルネットワークで構築したため、モデルパラメータの調整は新しい運転データによる再学習により実施する。すなわち、投入されるごみ質の変動などにより、モデルから出力されるクロロフェノール濃度と排ガス分析装置21で計測したクロロフェノール濃度の偏差が、ある基準値よりも大きくなった場合、偏差が大きくなっている時間のデータを利用してニューラルネットモデルの重み係数を再度決定する。重みの決定方法は通常の学習と同様バックプロパゲーション法による。
【0036】
最後に最適操作量探索手段25について説明する。最適操作量探索手段25では指標成分濃度推定モデル23に操作量の候補を入力し、モデル出力であるクロロフェノール濃度が目標値以下となる操作量を探索する。本実施例では指標成分濃度推定モデル23に試行錯誤的に操作量の侯補を入力して探索した。ただし、予めモデルの各入力が出力に与える影響(感度)を解析しておき、感度の高い入力を変更して、最適な操作量を探索してもよい。また、山登り法、遺伝アルゴリズムなどの最適値探索アルゴリズムを利用してもよい。
【0037】
このようにして探索した操作量はごみ焼却炉1の操作量の指令値としてごみ焼却炉1に渡される。
【0038】
【実施例2】
次に本発明の第二の実施例について説明する。第二のが第一の実施例と異なる点は、指標成分濃度推定モデル23、モデルパラメータ調整手段24、最適操作量探索手段25である。以下にこれらについて説明する。
【0039】
第二の実施例の指標成分濃度推定モデル23の概要を図3に示す。本実施例のモデルは、ストーカ上のごみを模擬したごみモデル、ごみ上部のガス領域を模擬したガスモデル、ボイラおよび炉壁の伝熱を模擬した伝熱モデルからなる。ごみモデルは、ごみ移送方向に対してn分割されている。本実施例では、乾燥ストーカ、及び後燃焼ストーカ上のごみを4分割、燃焼ストーカ上のごみを8分割し、合計16のごみモデルとした。また、ガスモデルはごみモデルからの流入ガスが反応する一次燃焼領域のガスモデルと二次燃焼領域のガスモデルからなり、本実施例では一次燃焼領域のガスモデルが4つ、二次燃焼領域のガスモデルが1つとした。以下にごみモデルとガスモデルの詳細について説明する。
【0040】
各ごみモデルは以下の仮定をして、物質収支式および熱収支式に基づきモデル化した。
1)ごみは水分、揮発分、チャー(固定炭素分)、灰分の4成分に別れている。
2)各ごみモデル内の温度は同じである。
3)ごみ中から蒸発した水分および揮発した揮発分は一次空気とともに二次燃焼領域に持ち込まれる。
4)十分な温度に達したチャーはごみモデル内で表面燃焼する。
5)灰分は熱を加えても温度が上昇するのみで反応しない。
【0041】
ごみモデルはごみ部と一部空気部に分かれており、それぞれについて物質収支式及び熱収支式を立てる。以下に各モデルのモデル式の一例を示す。
【0042】
(1)ごみ部の物質収支式
【0043】
【数1】
Figure 0003668405
【0044】
(2)ごみ部の熱収支式
【0045】
【数2】
Figure 0003668405
【0046】
(3)一次空気部の物質収支式
【0047】
【数3】
Figure 0003668405
【0048】
(4)一次空気部の熱収支式
【0049】
【数4】
Figure 0003668405
【0050】
ただし、添え字i(i=w,b,c,a)はごみの各成分(w:水分、b:揮発分、c:チャー(固定炭素分)、a:灰分)を表わしている。また、in:各ごみモデルへの流入する量、out:流出量、loss:損失量を表わしている。
【0051】
また、添え字j(j=O,CO,b,ho,n,ch)はガスの各成分(O:酸素、CO:二酸化炭素、b:揮発分、ho:水分、n:窒素、ch:メタン)を表わしている。その他の記号の意味は以下の通りである。
【0052】
G:ごみ移送量[Kg/s]、M:ごみ滞留量[Kg]、R:相変化、および反応による変化量、F:一次空気ガス流量[Kg/s]、H:エンタルピー[J/Kg]、Cp:比熱[J/KgK]、Qw:水の蒸発によって奪われる潜熱[J]、Qb:揮発分の熱分解による吸熱量[J]、Qc:チャーの燃焼による発熱量[J]、Qgr:一次空気がごみに与えた熱量[J]、Q2:ガスモデルがごみに与えた輻射熱[J]、Q3:炉壁がごみに与えた輻射熱[J]、Ko2_c:チャーの燃焼量から酸素消費量を求めるための係数、Kco_c:チャーの燃焼量からCO発生量を求めるための係数である。なお、Q2は各ガスモデルがごみに与えた熱量の総和である。
【0053】
また、ごみの流入量Giinは各ストーカの上流から送られてくるごみの量と組成によって決まる量である。すなわち、乾燥ストーカに対応するごみモデルのごみ流入量は給塵装置から供給されるごみの量と組成から決まる。また、燃焼ストーカに対応するごみモデルのごみ流入量は、乾燥ストーカに対応するごみモデルのごみ流出量と組成から決まる。
【0054】
したがって、各ストーカに対応するごみの組成は、給塵装置から供給されるごみの組成と後段の燃焼状態によって決まる。また、Riはごみ滞留量Miとごみ温度Tによって決まる量である。ここでは、Mi が大きいほどRiは大きく、またごみ温度Tが大きいほどRiは大きくなるような関数でRiを表現した。その一例は式中に示した通りである。
【0055】
ガスモデルは、以下の仮定をしてモデル化した。
【0056】
1)ごみから揮発した揮発分はガスモデル内で燃焼し、CO,CH,HOになる。
2)クロロフェノールの初期濃度はガス状の揮発分に比例して発生する。
3)クロロフェノール及びダイオキシンの濃度は以下の3つの反応により決定される。
反応1:クロロフェノール(PCP)からダイオキシン(DXN)の生成反応2PCP → DXN+nHCL
反応2:クロロフェノールの燃焼反応
PCP+O → nHCL+mHO+kCO
反応3:ダイオキンの燃焼反応
DXN+O → nHCL+mHO+kCO
4)これらの反応の反応速度式は、CH等の速度式と同様とする。
5)上記反応により消費されるO等の変化、反応熱は非常に小さいため、全体の物質収支及び熱収支式には反映しない。
【0057】
以下にガスモデルのモデル式を示す。
【0058】
<物質収支式>
【0059】
【数5】
Figure 0003668405
【0060】
<熱収支式>
【0061】
【数6】
Figure 0003668405
【0062】
だたし、式中に用いた記号は以下の通り。F_in:ガスモデルの流入空気流量[Kg/s]、F_out:ガスモデルの流出空気流量[Kg/s]、V:ガス体積[m]、ρ:密度[Kg/m]、X:ガス濃度[−]、Tg:ガス温度[K]、Q3:ガスモデルからの輻射熱量[J]、QR:ガスモデル内反応熱量[J]。
【0063】
ガスの反応速度定数Kj は、A:頻度因子、E:活性化エネルギー、R:ガス定数、Tg :ガス温度で決まる量である。一般にこれらの値は定数であるが、本実施例では頻度因子Aを次のように仮定した。
A=B×F(二次空気量)
【0064】
すなわち、二次空気量の関数に補正係数Bを掛けた式とした。これは二次空気量による撹拌効果を模擬するものであり、二次空気量が大きくなると頻度因子Aが大きくなる関係とした。また、補正係数Bは炉内の燃焼状態に影響を及ぼすパラメータのうち、二次空気量以外のパラメータを集約した係数である。
【0065】
このようなモデルによりクロロフェノールの濃度を計算すると、ある程度二次空気を入れることにより炉出口のクロロフェノールの濃度は減少するが、ある一定量を超えて二次空気を投入すると、ガス温度が低下するため、炉出口のクロロフェノールの濃度が上昇するというシミュレーション結果が得られる。
【0066】
炉壁モデルは輻射による熱の移動を模擬するモデルである。モデル式は以下に示した通りである。
【0067】
【数7】
Figure 0003668405
【0068】
ここで、Vwall:炉壁の体積[m]、Cpwall:炉壁の比熱[J/m・K]、Twall:炉壁温度[K]、Q4:ごみ、ガスとの輻射熱[J]、Q5:系外への熱損失[J]である。
【0069】
以上は、物理式をベースに構築したモデルの一例である。これらの式はより詳細にしても良いし、また簡略化してもよい。
【0070】
次に第2の実施例におけるモデルパラメータ調整手段24について説明する。モデルパラメータ調整手段24では、ごみ組成と反応定数を調整パラメータとして、実測した指標成分濃度と指標成分濃度推定モデルで推定した値が一致するように調整する。調整パラメータ及び調整対象量を表1に、調整アルゴリズムを図4に示す。
【0071】
【表1】
Figure 0003668405
【0072】
調整は大きく分けると3ステップとなる。第1ステップではごみ組成を調整パラメータとして「炉出口排ガス温度」「蒸発量」を実機データに合わせる。定常状態においてはごみの投入量は一定であるため、「炉出口排ガス温度」「蒸発量」から炉出口の排ガスが持つエンタルピーを求め、エネルギーバランスが取れるようにごみの発熱量すなわち、ごみ組成を調整する。第1ステップでごみ組成を調整することにより、指標成分濃度推定モデル23における炉内のガス温度が実際のガス温度を模擬することができる。
【0073】
第2ステップでは、「排ガスCO濃度」を実機データに合わせる。排ガスCO濃度のモデル出力値が実機データとずれている場合、反応定数の補正係数を調整する。これは、炉内温度が模擬できている場合であっても、その他の要因により反応の進み具合が変化する場合があるためである。
【0074】
第3ステップでは「指標成分濃度」のモデル出力を実機データに合わせる。基本的には第2ステップまでの調整により炉内の燃焼状態が模擬されるため、「指標成分濃度」は一致することが多い。しかし、一致しない場合もある。その原因としては、元々ごみ中に含まれている指標物質の量が変化したことが考えられる。従って、第3ステップでは指標成分初期濃度を調整パラメータとして指標成分濃度を実機データに一致させる。
【0075】
以上のようにモデルパラメータを調整することで、指標成分濃度推定モデル23が実機データを模擬できるようになる。
【0076】
最後に第2の実施例における最適操作量探索手段25について説明する。最適操作量探索手段25では、ごみ焼却装置運転時の操作量を決定する。最適操作量探索手段25の構成は、図5に示したように操作パターン発生部と判定部がある。操作パターン発生部では、ある一定時間の操作量のパターン(以下操作パターンと称する)を発生させる。本実施例での操作パターンは、10分間の操作パターンとした。操作パターン発生部には、例えば以下のような操作パターンがいくつか登録されている。
操作パターンA:操作量一定
操作パターンB:二次空気量10%増加
操作パターンC:一次空気量10%減少
【0077】
また、これらのパターンから例えば以下のような新しいパターンを作成する。
操作パターンD:二次空気量10%増加かつ一次空気量10%減少
操作パターンE:t=0〜t=3の間、二次空気量10%増加、t=1〜t=4の間、一次空気量減少
【0078】
これらの操作パターンの候補は指標成分濃度推定モデル23に入力される。指標成分濃度推定モデル23では、それぞれの操作パターン毎にクロロフェノールの濃度の発生パターンを出力し、最適操作量探索手段25の判定部に渡す。
【0079】
判定部では、クロロフェノールの発生パターンから操作パターンの善し悪しを判定する。本実施例では、操作後10分間のクロロフェノール濃度の平均値を評価値とし、評価値がもっとも小さい操作パターンを最適操作パターンとした。ただし、最適な操作パターンの侯補はパターン発生部で発生した操作パターンとのみではない。操作パターンデータベースに過去の運転実績データとして操作パターンとそのときのクロロフェノール発生パターンが蓄えられている場合、操作パターンデータベース中の操作パターンも候補となる。ただし、ここで選択する操作パターンは、「蒸発量、O2濃度など炉内の状態を表わす状態量が現在の焼却炉の状態量と類似しており、かつクロロフェノールの濃度を低減できた操作パターン」という条件を満たすものである。
【0080】
また、操作パターンデータベースに蓄えられている操作パターンは、その操作をした場合のクロロフェノールの発生パターンも同時に蓄えられているため、指標成分濃度推定モデル23を使ってクロロフェノールの発生パターンを計算する必要はない。
【0081】
選択された操作パターンはごみ焼却装置1の各操作量の設定値として、ごみ焼却装置1に送られる。以上はオンラインで、燃焼モデルを利用して操作量を決定する場合であるが、オフラインでいくつかの操作パターンの効果を検討しておいてもよい。また、オフラインでの検討や、オンラインであっても、燃焼モデルの計算が非常に短時間で終了する場合には、GA(遺伝アルゴリズム)などの手法を利用して、最適な操作パターンを求めてもよい。
【0082】
【発明の効果】
以上のように、本発明は、ダイオキシンと相関関係がある指標成分の濃度と操作量の関係を表わすモデルを利用してごみ焼却炉の操作量を決定することにより、短時間に精度よく、低レベルにダイオキシンの発生を抑制できる制御方法及びそれを用いた制御装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例の構成を示す図である。
【図2】排ガス分析装置の概要を示す図である。
【図3】指標成分濃度推定モデルの概要を示す図である。
【図4】モデルパラメータ調整手段の調整アルゴリズムを示す。
【図5】最適操作量探索手段の概要を示す図である。
【符号の説明】
1…ごみ焼却装置、2…制御装置、21…排ガス分析装置、22…状態量センサ、23…指標成分濃度推定モデル、24…モデルパラメータ調整手段、25…最適操作量探索手段、211…ガス前処理部、212…モニタ部、213…データ処理部、212a…大気圧化学イオン源、212b…質量分析部、213a…増幅器、213b…データ処理装置、221…ガス前処理部、222…モニタ部、222a…大気圧化学イオン源、222b…質量分析部、223…データ処理部、223a…増幅器、223b…演算器。

Claims (9)

  1. ごみ焼却炉の排ガス中における芳香族系有機塩素化合物の少なくとも1種を含む指標成分の濃度と前記ごみ焼却炉の操作量との動的な因果関係をモデル化した指標成分濃度推定モデルを利用して前記操作量を決定する制御方法であって、前記排ガス中におけるダイオキシン前駆体の濃度の計測値に基づき、前記指標成分濃度推定モデルのモデルパラメータを変更し、該変更された前記指標成分濃度推定モデルに基づいて前記操作量を決定することを特徴とするごみ焼却炉の制御方法。
  2. ごみ焼却炉の操作量を入力とし、前記ごみ焼却炉の排ガス中のダイオキシンの濃度と相関関係がある指標成分の少なくとも1成分の濃度を出力し、前記入力と出力動的な関係をモデル化した指標成分濃度推定モデルに一定時間先までの操作パターンを入力し、前記指標成分濃度推定モデルから出力された一定時間先までの前記指標成分の濃度の予測値により前記操作量を決定する制御方法であって、前記排ガス中におけるダイオキシン前駆体の濃度の計測値に基づき、前記指標成分濃度推定モデルのモデルパラメータを変更し、該変更された前記指標成分濃度推定モデルに基づいて前記操作量を決定することを特徴とするごみ焼却炉の制御方法。
  3. 請求項1又は2において、前記指標成分の濃度の計測値に基づき、前記指標成分濃度推定モデルのモデルパラメータを逐次変更することを特徴とするごみ焼却炉の制御方法。
  4. ごみ焼却炉の排ガス中のダイオキシンの濃度と相関関係がある指標成分の少なくとも1成分の濃度を計測する排ガス分析装置と、前記ごみ焼却炉の操作量と前記指標成分の濃度動的な因果関係をモデル化した指標成分濃度推定モデルを用いて前記操作量を決定する操作量探索手段と、前記排ガス分析装置で計測された前記指標成分度に基づ前記指標成分濃度推定モデルの出力値が前記排ガス分析装置で計測されたダイオキシン前駆体の濃度と一致するように前記指標成分濃度推定モデルのモデルパラメータを変更するモデル調整手段とを有することを特徴とするごみ焼却装置の制御装置。
  5. ごみ焼却炉の排ガス中のダイオキシン濃度と相関関係がある指標成分の少なくとも1成分の濃度を計測する排ガス分析装置と、前記ごみ焼却炉の状態量のうち、ダイオキシン前駆体以外の状態量を計測する状態量センサと、前記ごみ焼却炉の操作量と記指標成分の濃度の動的な因果関係をモデル化した指標成分濃度推定モデルと、前記指標成分濃度推定モデルに一定時間先までの操作パターンの候補を入力し、前記指標成分濃度推定モデルから出力された一定時間先までの前記指標成分の濃度の予測値により前記ごみ焼却炉の操作量を決定する操作量探索手段と、前記排ガス分析装置で計測された前記ダイオキシン前駆体の濃度及び前記状態量センサで計測した計測値に基づき、前記指標成分濃度推定モデルの出力値が前記排ガス分析装置で計測された濃度と一致するように、前記指標成分濃度推定モデルのモデルパラメータを変更するモデル調整手段とを有することを特徴とするごみ焼却装置の制御装置。
  6. 請求項4において、前記ごみ焼却炉の前記指標成分以外の状態量を計測する状態量センサを有し、前記排ガス分析装置で計測された前記指標成分の濃度及び前記状態量センサで計測した計測値に基づき前記指標成分濃度推定モデルの出力値が前記排ガス分析装置で計測された前記指標成分の濃度と一致するように前記指標成分濃度推定モデルのモデルパラメータを変更するモデル調整手段とを有することを特徴とするごみ焼却装置の制御装置。
  7. 請求項4又は5において、前記排ガス分析装置は、前記排ガスを大気圧下でイオン化する大気圧イオン化手段と、大気圧イオン化手段でイオン化された排ガス中の前記指標成分の質量分析を行う質量分析手段とを有することを特徴とするごみ焼却炉の制御装置。
  8. 請求項4又は5において、前記排ガス分析装置は、前記排ガス中の指標成分を濃縮する排ガス濃縮手段と、前記排ガスを大気圧下でイオン化する大気圧イオン化手段と、大気圧イオン化手段でイオン化された排ガス中の前記指標成分の質量分析を行う質量分析手段とを有することを特徴としたごみ焼却炉の制御装置。
  9. ごみ焼却炉と、請求項4又は5に記載のごみ焼却炉の制御装置を具備することを特徴とするごみ焼却設備。
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