JP3667470B2 - 酸性カルボキシペプチダーゼ活性の測定法及び測定試薬 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、酸性カルボキシペプチダーゼ活性の測定法及び測定試薬に関するものである。
さらに詳しくいえば、本発明は、アミノ末端側が分子量の大きい保護基で保護されたペプチドを基質とし、酸性条件下においてカルボキシ末端のアミノ酸から順次遊離していく酸性カルボキシペプチダーゼの活性を迅速に、かつ正確に測定する方法及びその測定試薬に関する。
【0002】
【従来の技術】
酸性カルボキシペプチダーゼ(以下ACPaseという)は、酸性条件下(pH3〜6)において、タンパク質やポリペプチドのカルボキシ末端からアミノ酸単位で分解する酵素であり、該ACPaseは、例えば醸造過程あるいは醸造物などにおけるアミノ酸の生成量に深く関係することから、醸造、食品工業などにおいては、該酵素活性を測定することは極めて重要とされている。
従来のACPase活性の測定としては、Cbz−Glu−Tyrで表される合成基質を用い、同酵素によってカルボキシ末端から切断され遊離したアミノ酸(チロシン)量を、ニンヒドリン法によって測定し、その活性値を求める方法(注釈編集委員会編「第四回改正国税庁所定分析法注解」第226頁、日本醸造協会(1993年)参照)が一般的である。
しかしながら、この方法においては、麹の抽出液のようにアミノ酸が多く混在する試料では、そのまま測定することが困難であり、試料は予め必ず透析して該アミノ酸を除去しなければならず、その透析に、例えば一昼夜などの長時間を要すること、またニンヒドリン反応の際に煩雑な操作を要すること、などの欠点がある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、このような従来のACPase活性の測定法が有する欠点を克服し、アミノ酸が混在する試料においても、該アミノ酸を除去するための透析をすることなく簡便な操作で、迅速かつ高感度に試料中のACPase活性を測定し得る新規なACPase活性の測定法、及びACPase活性測定試薬を提供することを目的としてなされたものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】
これまで、ACPase含有試料に合成ペプチドを基質として加え、酸性カルボキシペプチダーゼの作用により該基質のカルボキシ末端から遊離するアミノ酸量を酵素法により定量し、試料のACPase活性を測定する方法は知られていない。
本発明者らは、ACPase活性測定の際、ACPase含有試料に、特定の構造を有する合成ペプチド基質(以下、単にペプチド基質という)を加えて反応させ、該基質のカルボキシ末端のアミノ酸を遊離させ、その遊離したアミノ酸を酵素法により測定することにより、ACPase活性を高感度で測定できることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、酸性カルボキシペプチダーゼ含有試料に、一般式、R−X−Y (1)
(式中、Rはアミノ末端保護基、Xは1個以上のアミノ酸残基、Yはカルボキシ末端のアミノ酸残基をそれぞれ意味する)で表されるペプチドを基質として加え、酸性カルボキシペプチダーゼの作用により該基質のカルボキシ末端から遊離するアミノ酸量を酵素法により定量することを特徴とする酸性カルボキシペプチダーゼ活性測定法であり、また、一般式、R−X−Y (1)
(式中、Rはアミノ末端保護基、Xは1個以上のアミノ酸残基、Yはカルボキシ末端のアミノ酸残基をそれぞれ意味する)で表されるペプチド基質、酸性カルボキシペプチダーゼの作用により該ペプチド基質のカルボキシ末端から遊離するアミノ酸にアルカリ条件下で特異的に作用する酵素、及び発色系に用いる酵素又は酵素と発色剤を含有してなる酸性カルボキシペプチダーゼ活性測定試薬である。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0005】
【発明の実施の形態】
先ず、本発明に用いられる測定試料としては、ACPaseを含有するものであればよく、特に制限はないが、具体的には微生物の固体培養の抽出液および液体培養液、植物の抽出液、あるいは動物の体液や組織及びそれらの抽出液などが用いられる。試料が固体の場合には、一旦精製水又は適当な緩衝液に溶解又は懸濁させるのがよい。また必要により、不溶物をろ過などの操作で除去してもよい。
【0006】
本発明に用いられるペプチド基質としては、前記一般式(1)において、Rは分子量の大きいアミノ末端の保護基であり、例えばベンジルオキシカルボニル基(Cbz)、t−ブトキシカルボニル基(Boc)などが挙げられる。またXは、1個以上のアミノ酸残基を意味し、アミノ酸が長鎖になるにつれて試料中に混在する酸性プロテアーゼの作用によりペプチド基質内部が切断されやすくなるので、例えばロイシン、グルタミン酸、チロシンなどの1個のアミノ酸の残基であることが好ましい。さらにまた、Yはカルボキシ末端のアミノ酸残基であり、例えばチロシン、ロイシン、アラニン、サルコシン(Sar)などの残基が挙げられる。これらのうち、Yがサルコシンであるものを用いれば、米麹抽出液などの測定試料中にはサルコシンが殆ど混在しないので、ブランク値が高くならず好ましい。そして本発明に用いられる前記一般式(1)で表される好適なペプチド基質の具体例としては、例えばCbz−Glu−Tyr、Cbz−Tyr−Leu、Cbz−Tyr−Ala、Cbz−Phe−Leu−Sarなどが挙げられる。
なお、Cbz−Phe−Leu−Sarは、後述するように通常のペプチド合成法によって合成することができる。
【0007】
また、ACPaseの作用によりカルボキシ末端から遊離するアミノ酸量を、酵素法によって定量する方法としては、例えば該遊離したアミノ酸をアルカリ条件下で、その遊離アミノ酸に特異的に作用する酵素と反応させて生成する生成物を発色定量する方法が用いられる。そして前記した遊離したアミノ酸に特異的に作用する酵素としては、前記一般式において、Yが、サルコシンの場合;例えばサルコシンオキシダーゼ、チロシンの場合;例えばチロシナーゼ、チロシンジカルボキシラーゼなど、ロイシンの場合;例えばロイシンデヒドロゲナーゼなど、アラニンの場合;例えばアラニンデヒドロゲナーゼなどが挙げられる。いずれの酵素についても、その給源は特に限定されるものではなく、市販のものを用いることができる。
【0008】
前記の発色定量する方法の例としては、遊離したアミノ酸に特異的に作用する酵素(例えば該アミノ酸がチロシンであればチロシナーゼなど)を加えて反応させ、生成した発色性物質の発色量を測定し、アミノ酸量に換算する方法(直接定量法)、あるいは、遊離したアミノ酸に特異的に作用するオキシダーゼ系酵素(例えば該アミノ酸がサルコシンであればサルコシンオキシダーゼ)を加えて反応させ、発生した過酸化水素の量を定量し、アミノ酸量に換算する方法、遊離したアミノ酸に特異的に作用するデヒドロゲナーゼ系酵素(例えば該アミノ酸がロイシンであればロイシンデヒドロゲナーゼなど)を加えて反応させ、生成したNADHの量を発色定量するか、あるいは生成したNH3を化学的発色法で定量し、アミノ酸量に換算する方法(間接定量法)、遊離したアミノ酸に特異的に作用する酵素を加えて反応させ、生成した物質(例えばピルビン酸など)に特異的に作用するオキシダーゼ系やデヒドロゲナーゼ系の酵素を働かせ、前記の間接定量法の方法と同様にして定量する方法(間接2段階定量法)、などの公知の方法が挙げられる。そして遊離したアミノ酸によって、これらの方法を適宜選択して用いることができる。
【0009】
また、前記の発色定量の具体例としては、例えばサルコシンオキシダーゼなどの過酸化水素発生系においては、生成した過酸化水素にパーオキシダーゼ、4−アミノアンチピリン(4−AA)、2,4−ジクロロフェノール(2,4−DCP)を加えて発色させる方法、また例えばロイシンデヒドロゲナーゼなどのNADH生成系においては、生成したNADHに、1−Methoxy−5−methylphenazinium methylsulfate(1−Methoxy PMS)及び2−Benzothiazolyl−3−(4−carboxy−2−methoxyphenyl)−5−〔4−(2−sulfoethylcarbamoyl)phenyl〕−2H−tetrazolium(WST−4)を加えて発色させる方法、さらにまた、例えばチロシナーゼなどのように、該酵素のみ使用して発色させる方法などの公知の方法が挙げられる。そして、各発色量は、分光光度計(例えば日立社製U−2000型など)を用いて発色物質特有の波長で定量する。
【0010】
次に、ACPase活性を測定するための有利な系としては、試料中のACPaseによりペプチド基質のカルボキシ末端からアミノ酸を遊離させる反応(第1の反応)においては、例えば前記一般式(1)で表されるペプチド基質0.2〜20mM及び酢酸−酢酸ナトリウムなどの緩衝液2〜100mMを含有するpH3〜6の系が挙げられる。
また、遊離したアミノ酸量を酵素法により定量するための反応(第2の反応)において、その遊離アミノ酸に特異的に作用する酵素と反応させて生成物を発色定量するための系としては、リン酸又はトリス・HClなどの0.1〜1.0M緩衝液を含有するpH7〜10の系に、前記した遊離アミノ酸に特異的に作用する酵素又は該酵素と発色剤を含む系が挙げられ、例えば生成した過酸化水素の定量には、パーオキシダーゼ、4−AA、2,4−DCPを含む系、生成したNADHの定量には、1−メトキシPMS及びWST−4を含む系などが挙げられる。また、遊離のアミノ酸がチロシンなどの場合には、チロシナーゼなどの酵素のみを含む系などが挙げられる。
【0011】
次いで、本発明の方法によるACPase活性を測定するのに好適な実施態様を説明する。まず、第1の反応として、前記一般式(1)で表されるペプチド基質を0.2〜20mM、好ましくは0.5〜5mMを酢酸−酢酸ナトリウムなどの緩衝剤と共に、温度25〜45℃、好ましくは35〜40℃、pH3〜6(酸性条件)、好ましくはpH3〜4の条件下で2〜10分間、好ましくは3〜5分間インキュベートする。次に、測定すべきACPaseを含む試料液を加えて急速に攪拌し、温度25〜45℃、好ましくは35〜40℃、pH3〜6(酸性条件)、好ましくはpH3〜4の条件下で少なくとも1分間、好ましくは5〜20分間酵素反応させる。
次に、第2の反応として、例えばリン酸又はトリスなどの緩衝液0.1〜1.0M(反応停止液)を加えてpH7〜10(アルカリ条件)、好ましくはpH7.5〜8.5の条件としてACPaseの酵素反応を停止させた後、温度25〜45℃、好ましくは35〜40℃で、第1の反応で遊離したアミノ酸に特異的に作用する前記した酵素を過剰量若しくは十分量添加し、少なくとも5分間、好ましくは20〜30分間反応させる。この時、必要に応じて、遊離アミノ酸に対応した前記した発色剤、酵素又は補酵素などの適宜な量を同時に添加する。第2の反応後、吸光度を測定し、分光光度計にて400nm〜600nm、好ましくは475nm〜550nmの波長における吸光度を測定し、その測定結果と予め算出しておいたアミノ酸検量線から遊離したアミノ酸の全量を算出し、ACPase活性の計算に用いる。
【0012】
また測定系には、通常、ペプチド基質由来の遊離アミノ酸のほかに、試料由来の遊離のアミノ酸も混在することが多いが、そのうちのペプチド基質由来の遊離アミノ酸量のみを求めるには、別に対照として、第1の反応において、測定すべきACPaseを含む試料液を、前記反応停止液の添加直前に加える以外は以下前記と同様にして吸光度を測定し、試料由来の遊離のアミノ酸量を求める。そして前述したペプチド基質由来及び試料由来の遊離のアミノ酸の混在状態で求めた吸光度とこの対照の吸光度の差(E)を求めることにより得られる。また、検量線は、ペプチド基質の代わりに各アミノ酸標準溶液を、また試料液の代わりに水を用いて、上記と同様の操作によって作成する。
得られたEから、この検量線により各アミノ酸量を求める。
なお、ACPase活性は、37℃で60分間に各ペプチド基質から1μgの各アミノ酸を生成する単位を1単位とした。
【0013】
【実施例】
以下に、参考例及び実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによってなんら限定されるものではない。
参考例 (ペプチド基質;Cbz−Phe−Leu−Sarの製造の例)
先ずCbz−Phe−Leu−Sar−OMeを、文献「実験化学講座22 有機合成IV 酸・アミノ酸・ペプチド」(日本化学会編、丸善株式会社)第261頁、記載の方法に従い、以下の手順で合成した。
Sar−OMe・HCl(24.4g、176mmol、バッケム社製)をジクロロメタン(300ml)に溶解し、−8℃に冷却して攪拌下にトリエチルアミン(24.6ml、176mmol)を加えた。これにCbz−Phe−Leu(65.9g、160mmol、バッケム社製)を加え、さらに0℃に冷却したジシクロヘキシルカルボジイミド(36.3g、176mmol)のジクロロメタン(150ml)溶液を加え、0℃で1時間、さらに室温で5時間反応させた。反応後、析出したN,N’−ジシクロヘキシル尿素をろ別し、ろ液を分液漏斗に移し、ジクロロメタンを加えて約1lに希釈した後、5%炭酸水素ナトリウム水溶液で3回、水で3回、1M塩酸で3回、さらに水で3回洗浄した。無水硫酸マグネシウムで有機層を乾燥させた後、減圧濃縮して結晶を析出させた。次にこの結晶を熱酢酸エチルで溶解し、不溶物をろ別した後、ろ液を放置することによりCbz−Phe−Leu−Sar−OMeを57.5g(収率72.3%)得た。
【0014】
次いで、前記文献の第274頁に記載の方法に従い、以下の手順でCbz−Phe−Leu−Sar−OMeをけん化によってエステル除去した。すなわち、前記Cbz−Phe−Leu−Sar−OMe(14.4g、29mmol)をメタノール(150ml)とジオキサン(50ml)の混合溶媒に溶かし、これに1M水酸化ナトリウム水溶液(29ml)を滴下した。3時間後、1M硫酸で溶液のpHを注意深く7とし、減圧下で溶媒を留去した。残査に酢酸エチル及び5%炭酸水素ナトリウム水溶液を加え、分液漏斗中で洗浄した。酢酸エチルで3回洗浄した後、1M硫酸で酸性とした。生成した沈殿物を酢酸エチルで抽出し、酢酸エチル層を水で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。溶液を濃縮した後、残査にヘキサンを加え、粗結晶を得た。この粗結晶を酢酸エチルとヘキサンから再結晶させ、Cbz−Phe−Leu−Sar 9.5g(収率67.8%)を得た。
なお、得られた結晶をHPLCで分析した結果、97%の純度であった。
【0015】
実施例1
(ACPase活性の測定<ペプチド基質のYがサルコシンの場合>)
<試料の調製>
測定試料として、蒸し米に黄麹菌(Aspergillus oryzae)を接種して常法により製麹して得た米麹を、「第四回改正国税庁所定分析法注解」の211−4−2に記載の方法(ただし、透析操作を省略した)で抽出して米麹抽出液を得て、この抽出液を原液とした。この米麹抽出原液濃度を1とし、これを希釈して抽出液濃度が0.125、0.25、0.5、0.75、1.0となるように試料を調製した。
<試薬の調製>
ペプチド基質;0.5mM Cbz−Phe−Leu−Sar
(前記参考例と同様にして得たものを使用)
緩衝液;50mM 酢酸緩衝液(pH3.0)
反応停止液;0.5M トリス・HCl緩衝液(pH8.5)
70U/ml サルコシンオキシダーゼ(キッコーマン社製)
70U/ml パーオキシダーゼ
70mg/dl水 4−アミノアンチピリン(4−AA)
0.2% 2−4ジクロロフェノール(2,4−DCP)
<ACPase活性の測定>
50mM酢酸緩衝液(pH3.0)に、Cbz−Phe−Leu−Sarを0.5mMとなるように溶解して得たペプチド基質液0.2mlを、37℃で5分間インキュベートした。これに、ACPaseを含む前記の米麹抽出液を100μl加えて各々反応を開始させ、37℃で20分間インキュベートしてカルボキシ末端のアミノ酸を遊離させた。インキュベート後、ACPaseによる反応を停止させるため、0.5M トリス・HCl緩衝液(pH8.5)を1.0ml加えて反応液のpHをアルカリ条件とした。該反応液に、70U/mlサルコシンオキシダーゼ0.1mlを加えて作用させ、発生した過酸化水素を70U/mlパーオキシダーゼ0.1ml、70mg/dl水 4−AA 0.1ml及び0.2% 2,4−DCP 0.1mlを加えて発色させ、発色量を分光光度計(日立U−2000型)を用いて510nmの吸光度(A)を測定した。
別に対照として、測定試料をトリス・HCl緩衝液の添加直前に加え、以下上記と同様の操作を行い対照の吸光度(B)を測定し、前記の吸光度(A)と対照の吸光度(B)との差(E)(図1における縦軸のy)を求めた。
【0016】
その結果は図1に示すとおりであり、510nmの吸光度(y)と米麹抽出液濃度(x)との間には極めて高い相関を示す直線関係(r=0.996、y=0.0633x+0.0013)が得られた。このことから、本発明によれば、試料中のACPase活性を簡便な操作で、迅速かつ高感度に測定できることがわかる。
なお、前記した従来法(「第四回改正国税庁所定分析法注解」第226頁)と本発明の方法との測定結果の比較をしたところ、rは0.982と極めて高い相関を示す直線関係が得られた。
【0017】
実施例2
(ACPase活性の測定<ペプチド基質のYがチロシンの場合>)
<試料の調製>
実施例1に記載したのと同様にして米麹抽出原液を得て、この米麹抽出原液濃度を1とし、これを希釈して抽出液濃度が0.25、0.5、0.75、1.0となるように試料を調製した。
<試薬の調製>
ペプチド基質;2.0mM Cbz−Glu−Tyr(ペプチド研究所社製)
緩衝液;50mM 酢酸緩衝液(pH3.0)
反応停止液;0.2M リン酸緩衝液(pH7.5)
440U/ml チロシナーゼ(シグマ社製)
<ACPase活性の測定>
50mM酢酸緩衝液(pH3.0)にペプチド基質としてCbz−Glu−Tyrを2.0mMとなるように溶解して得たペプチド基質液1mlを、37℃で5分間インキュベートする。これに、ACPaseを含む前記の米麹抽出液を200μl加えて各々反応を開始させ、37℃で20分間インキュベートしてカルボキシ末端のアミノ酸を遊離させた。インキュベート後、ACPaseによる反応を停止させるため、0.2M リン酸緩衝液(pH7.5)を0.6ml加え反応液のpHをアルカリ条件とした。その後、440U/ml チロシナーゼを100μl添加してペプチド基質から遊離したチロシンを発色性物質であるDOPAキノンに変えることにより定量した。発色量は、分光光度計(日立U−2000型)にて475nmの吸光度(A)を測定した。
別に対照として、測定試料をリン酸緩衝液の添加直前に加え、以下上記と同様の操作を行い対照の吸光度(B)を測定し、前記の吸光度(A)と対照の吸光度(B)との差(E)(図2における縦軸のy)を求めた。なお、ここでの吸光度の差は、米麹抽出液の各濃度における最大値を示すところで求めた。
【0018】
その結果は図2に示すとおりであり、475nmの吸光度(y)と米麹抽出液濃度(x)との間には極めて高い相関を示す直線関係(r=0.998、y=0.1978x+0.005)が得られた。このことから、本発明によれば、試料中のACPase活性を簡便な操作で、迅速かつ高感度に測定できることがわかる。
【0019】
実施例3
(ACPase活性の測定<ペプチド基質のYがロイシンの場合>)
<試料の調製>
実施例1に記載したのと同様にして米麹抽出原液を得て、この米麹抽出原液濃度を1とし、これを希釈して抽出液濃度が0.25、0.5、0.75となるように試料を調製した。
<試薬の調製>
ペプチド基質;0.5mM Cbz−Tyr−Leu(バッケム社製)
緩衝液;50mM 酢酸緩衝液(pH3.0)
反応停止液;0.5M トリス・HCl緩衝液(pH8.5)
6mM NAD+ (ベーリンガーマンハイム社製)
32.3U/ml ロイシンデヒドロゲナーゼ(東洋紡(株)社製)
5mM WST−4(同仁化学研究所社製)
500μM 1−Methoxy PMS(同仁化学研究所社製)
<ACPase活性の測定>
50mM酢酸緩衝液(pH3.0)にペプチド基質としてCbz−Tyr−Leuを0.5mMとなるように溶解して得たペプチド基質液1mlを、37℃で5分間インキュベートした。これに、ACPaseを含む前記の米麹抽出液を30μl加えて各々反応を開始させ、37℃で10分間インキュベートした。インキュベート後、ACPaseによる反応を停止させるため、0.5M トリス・HCl緩衝液(pH8.5)を1.7ml加え反応液のpHをアルカリ条件とした。その後、ペプチド基質から遊離したロイシンの量を定量するため6mM NAD+ 100μl、32.3U/ml ロイシンデヒドロゲナーゼを100μl添加して、ロイシンからNADHを生成させ、生成したNADHを5mM WST−4 100μl、500μM 1−Methoxy PMSを30μl加えて発色定量した。発色量は、分光光度計(日立U−2000型)にて550nmの吸光度(A)を測定した。
別に対照として、測定試料をトリス・HCl緩衝液の添加直前に加え、以下上記と同様の操作を行い対照の吸光度(B)を測定し、前記の吸光度(A)と対照の吸光度(B)との差(E)(図3における縦軸のy)を求めた。
【0020】
その結果は図3に示すとおりであり、550nmの吸光度(y)と米麹抽出液濃度(x)との間には極めて高い相関を示す直線関係(r=0.997、y=0.116x+0.0025)が得られた。このことから、本発明によれば、試料中のACPase活性を簡便な操作で、迅速かつ高感度に測定できることがわかる。
【0021】
実施例4
(ACPase活性の測定<ペプチド基質のYがアラニンの場合>)
<試料の調製>
実施例1に記載したのと同様にして米麹抽出原液を得て、この米麹抽出原液濃度を1とし、これを希釈して抽出液濃度が0.25、0.5、0.75となるように試料を調製した。
<試薬の調製>
ペプチド基質;0.5mM Cbz−Tyr−Ala(バッケム社製)
緩衝液;50mM 酢酸緩衝液(pH3.0)
反応停止液;0.5M トリス・HCl緩衝液(pH8.5)
6mM NAD+ (ベーリンガーマンハイム社製)
128.6U/ml アラニンデヒドロゲナーゼ(シグマ社製)
5mM WST−4(同仁化学研究所社製)
500μM 1−Methoxy PMS(同仁化学研究所社製)
<ACPase活性の測定>
50mM酢酸緩衝液(pH3.0)にCbz−Tyr−Alaを0.5mMとなるように溶解して得たペプチド基質液1mlを、37℃で5分間インキュベートした。これに、ACPaseを含む前記の米麹抽出液を30μl加えて反応を開始させ、37℃で10分間インキュベートしてカルボキシ末端のアミノ酸を遊離させた。インキュベート後、ACPaseによる反応を停止させるため0.5M トリス・HCl緩衝液(pH8.5)を0.5ml加えて反応液のpHをアルカリ条件とした。その後、ペプチド基質から遊離したアラニンの量を定量するため6mM NAD+ を100μl、128.6U/ml アラニンデヒドロゲナーゼを100μl添加して、アラニンからNADHを生成させ、生成したNADHを5mM WST−4 100μl、500μM 1−Methoxy PMSを30μl加えて発色定量した。発色量は、分光光度計(日立U−2000型)にて550nmの吸光度(A)を測定した。
別に対照として、測定試料をトリス・HCl緩衝液の添加直前に加え、以下上記と同様の操作を行い対照の吸光度(B)を測定し、前記の吸光度(A)と対照の吸光度(B)との差(E)(図4における縦軸のy)を求めた。
【0022】
その結果は図4に示すとおりであり、550nmの吸光度(y)と米麹抽出液濃度(x)との間には極めて高い相関を示す直線関係(r=0.996、y=0.4267x+0.0178)が得られた。このことから、本発明によれば、試料中のACPase活性を簡便な操作で、迅速かつ高感度に測定できることがわかる。
【0023】
【発明の効果】
本発明によれば、アミノ酸が混在する試料においても、そのアミノ酸を除去するための長時間を要する透析操作をすることなく、簡便な操作で、迅速かつ高感度に試料中の酸性カルボキシペプチダーゼ活性の測定ができる。したがって本発明は、酸性カルボキシペプチダーゼ活性が最終産物のアミノ酸の生成量に深く関与し、それが味の重要な指標となる特に清酒、醤油などの醸造分野において、極めて有用である。また、本発明は、醸造分野のみならず、食品工業の分野においても利用が可能であり、有意義である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例1のサルコシンオキシダーゼの系による、510nmの吸光度と米麹抽出液濃度との間の関係を示すグラフ。
【図2】 実施例2のチロシナーゼの系による、475nmの吸光度と米麹抽出液濃度との間の関係を示すグラフ。
【図3】 実施例3のロイシンデヒドロゲナーゼの系による、550nmの吸光度と米麹抽出液濃度との間の関係を示すグラフ。
【図4】 実施例4のアラニンデヒドロゲナーゼの系による、550nmの吸光度と米麹抽出液濃度との間の関係を示すグラフ。
Claims (4)
- 酸性カルボキシペプチダーゼ含有試料に、
一般式、R−X−Y (1)
(式中、Rはアミノ末端保護基、Xは1個以上のアミノ酸残基、Yはカルボキシ末端のアミノ酸残基をそれぞれ意味する)で表されるペプチドを基質として加え、酸性カルボキシペプチダーゼの作用により該基質のカルボキシ末端から遊離するアミノ酸量を酵素法により定量することを特徴とする酸性カルボキシペプチダーゼ活性測定法。 - 請求項1記載の一般式(1)中のYが、サルコシン、チロシン、ロイシン又はアラニンのいずれかの残基である請求項1記載の酸性カルボキシペプチダーゼ活性測定法。
- 請求項1記載の一般式(1)中のYが、サルコシン、チロシン、ロイシン又はアラニンのいずれかの残基であり、酵素法により定量する方法が、酸性条件下で酸性カルボキシペプチダーゼの作用により該基質のカルボキシ末端から遊離するアミノ酸量をアルカリ条件下でその遊離したアミノ酸に特異的に作用する酵素を加えて反応させて生成する生成物を発色定量する方法である、請求項1記載の酸性カルボキシペプチダーゼ活性測定法。
- 一般式、R−X−Y (1)
(式中、Rはアミノ末端保護基、Xは1個以上のアミノ酸残基、Yはカルボキシ末端のアミノ酸残基をそれぞれ意味する)で表されるペプチド基質、酸性カルボキシペプチダーゼの作用により該ペプチド基質のカルボキシ末端から遊離するアミノ酸にアルカリ条件下で特異的に作用する酵素、及び発色系に用いる酵素又は酵素と発色剤を含有してなる酸性カルボキシペプチダーゼ活性測定試薬。
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