JP3656152B2 - 量子コンピュータにおける量子ビット素子構造および量子相関ゲート素子構造 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、量子コンピュータにおける量子ビット素子構造および量子相関ゲート素子構造に関し、さらに詳細には、量子力学の原理に基づいた量子計算を行うチューリング型の量子コンピュータを構成する際に必要とされる、量子コンピュータにおける量子ビット素子構造および量子相関ゲート素子構造に関する。
【0002】
【発明の背景】
近年、古典力学に基づいた既存のデジタル・コンピュータに対して、量子力学の原理に基づいた量子計算を行う量子コンピュータの概念が提唱されてきている。
【0003】
こうした量子コンピュータを実現するためには、現在のデジタル・コンピュータのビットの概念に相当する量子ビットを実現するための量子ビット素子と、2個の量子ビットの演算を行う量子相関ゲート素子とが必要であることが現在までに判明している。
【0004】
ここで、以降の説明の理解を容易にするために、量子ビットならびに量子相関ゲートについて説明しておくこととする。
【0005】
古典力学の原理に基づく既存のデジタル・コンピュータにおいては、“0”と“1”による「ビット」に対して、アンド(AND)やオア(OR)などの論理ゲートを作用させることによって、加算やフーリエ変換などの演算を行うことのできる回路を構築するようになされている。こうした「ビット」に対応する概念として、量子コンピュータにおいては「量子ビット」という概念が導入されている。
【0006】
物質のミクロな性質を支配する量子力学によれば、電子などの粒子(この明細書においては、電子について説明する。)の状態は、いろいろな状態の重ね合わせで表される。即ち、量子力学においては、とりうることのできる状態が2つしかない場合には、そのエネルギーが大きい方の状態を「|1>」と表すとともに、そのエネルギーが低い方の状態を「|0>」と表すことにすると、電子の状態は|1>と|0>との重ね合わせ状態にあるものと言うことができる。こうした概念を、従来のビットに利用するのが、量子ビットの考え方である。
【0007】
即ち、“0”か“1”かが確定的な従来のビットに対して、量子ビットでは、量子ビットの状態は“0”か“1”かのどちらとは言えず、ある確率で“0”の状態があり、また、ある確率で“1”の状態があると言えるだけである。即ち、このような状態が、重ね合わせ状態と称されているものである。
【0008】
従って、量子ビットの物理的実態は、|1>と|0>との2つの量子準位を備えた2準位系であると言える。
【0009】
また、量子相関ゲートとは、上記したような2個の量子ビットの演算を行って量子ビットを操作するゲートであるが、その演算とは図1に示すようなものである。
【0010】
即ち、量子相関ゲートは可換であり、ある状態の2個の量子ビットに作用して、他の状態の2個の量子ビットを得ることができるようにしたものである。
【0011】
具体的には、図1(a)に概念的に示すように、量子相関ゲートは、量子相関ゲートによる作用を受ける前の2個の量子ビットのうちの一方(2個の量子ビットのうちの基準となる量子ビットであり、以下、「コントロールビット」と称する。)の状態を「A」とするとともに、量子相関ゲートによる作用を受ける前の2個の量子ビットのうちの他方(2個の量子ビットのうちの「コントロールビット」による影響を受ける量子ビットであり、以下、「ターゲットビット」と称する。)の状態を「B」とすると、量子相関ゲートの作用を受けた後の2個の量子ビットとして、図1(b)の真理値表に概念的に示すように、量子相関ゲートによる作用を受ける前のコントロールビットの状態と同じ状態たる「A」と、量子相関ゲートによる作用を受ける前のコントロールビットの状態たる「A」とターゲットビットの状態たる「B」との排他的論理和「X」を得ることができるものである。
【0012】
そして、現在までのところ、こうした量子ビットならびに量子相関ゲートを実現することのできる実際的な構成は知られておらず、その案出が強く望まれていた。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記したような要望に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、量子ビットならびに量子相関ゲートを実現することのできる、量子コンピュータにおける量子ビット素子構造および量子相関ゲート素子構造を提供しようとするものである。
【0014】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明のうち請求項1に記載の量子コンピュータにおける量子ビット素子構造は、第1の量子準位をもつ第1の量子ドットと、上記第1の量子準位とは異なる第2の量子準位をもつ第2の量子ドットとを有し、トンネル効果により上記第1の量子ドットと上記第2の量子ドットとの間を電子が自由に移動可能なように、上記第1の量子ドットと上記第2の量子ドットとを近接して配置し、さらに、電子が1個だけ存在するようにして、上記第1の量子準位と上記第2の量子準位とのエネルギー差に共鳴した電磁波を照射して量子ビットの操作を行うようにしたものである。
【0015】
また、本発明のうち請求項2に記載の量子コンピュータにおける量子ビット素子構造は、本発明のうち請求項1に記載の量子コンピュータにおける量子ビット素子構造において、上記第1の量子ドットおよび上記第2の量子ドットを半導体材料により構成したものである。
【0016】
また、本発明のうち請求項3に記載の量子コンピュータにおける量子相関ゲート素子構造は、第1の量子準位をもつ第1の量子ドットと、上記第1の量子準位より下の第2の量子準位をもつ第2の量子ドットとを有し、トンネル効果により上記第1の量子ドットと上記第2の量子ドットとの間を電子が自由に移動可能なように、上記第1の量子ドットと上記第2の量子ドットとを近接して配置し、さらに、電子が1個だけ存在するようにした第1の量子ビット素子構造と、第3の量子準位をもつ第3の量子ドットと、上記第3の量子準位より下の第4の量子準位をもつ第4の量子ドットとを有し、トンネル効果により上記第3の量子ドットと上記第4の量子ドットとの間を電子が自由に移動可能なように、上記第3の量子ドットと上記第4の量子ドットとを近接して配置し、さらに、電子が1個だけ存在するようにした第2の量子ビット素子構造とを有し、上記第1のビット素子構造と上記第2のビット素子構造とを、上記第1の量子ドットと上記第3の量子ドットとが対向するとともに、上記第2の量子ドットと上記第4の量子ドットとが対向するように配置し、上記第1の量子ドットと上記第3の量子ドットとが電気的に接続され、上記第2の量子ドットと上記第4の量子ドットとが電気的に接続され、さらに、上記第1の量子準位と上記第2の量子準位との準位差と、上記第3の量子準位と上記第4の量子準位との準位差とが異なるように設定されたものである。
【0017】
また、本発明のうち請求項4に記載の量子コンピュータにおける量子相関ゲート素子構造は、本発明のうち請求項3に記載の量子コンピュータにおける量子相関ゲート素子構造において、上記第1の量子ドットと上記第3の量子ドットとを第1の可変コンデンサを介して容量的に接続し、上記第2の量子ドットと上記第4の量子ドットとを第2の可変コンデンサを介して容量的に接続したものである。
【0018】
また、本発明のうち請求項5に記載の量子コンピュータにおける量子相関ゲート素子構造は、第1の量子準位をもつ第1の量子ドットと、上記第1の量子準位より下の第2の量子準位をもつ第2の量子ドットとを有し、トンネル効果により上記第1の量子ドットと上記第2の量子ドットとの間を電子が自由に移動可能なように、上記第1の量子ドットと上記第2の量子ドットとを近接して配置し、さらに、電子が1個だけ存在するようにした第1の量子ビット素子構造と、第3の量子準位をもつ第3の量子ドットと、上記第3の量子準位より下の第4の量子準位をもつ第4の量子ドットとを有し、トンネル効果により上記第3の量子ドットと上記第4の量子ドットとの間を電子が自由に移動可能なように、上記第3の量子ドットと上記第4の量子ドットとを近接して配置し、さらに、電子が1個だけ存在するようにした第2の量子ビット素子構造とを有し、上記第1のビット素子構造と上記第2のビット素子構造とを、上記第1の量子ドットと上記第4の量子ドットとが対向するとともに、上記第2の量子ドットと上記第3の量子ドットとが対向するように配置し、上記第1の量子ドットと上記第4の量子ドットとが電気的に接続され、上記第2の量子ドットと上記第3の量子ドットとが電気的に接続され、さらに、上記第1の量子準位と上記第2の量子準位との準位差と、上記第3の量子準位と上記第4の量子準位との準位差とが異なるように設定されたものである。
【0019】
また、本発明のうち請求項6に記載の量子コンピュータにおける量子相関ゲート素子構造は、本発明のうち請求項5に記載の量子コンピュータにおける量子相関ゲート素子構造において、上記第1の量子ドットと上記第4の量子ドットとを第1の可変コンデンサを介して容量的に接続し、上記第2の量子ドットと上記第3の量子ドットとを第2の可変コンデンサを介して容量的に接続したものである。
【0020】
また、本発明のうち請求項7に記載の量子コンピュータにおける量子相関ゲート素子構造は、本発明のうち請求項3、請求項4、請求項5または請求項6のいずれか1項に記載の量子コンピュータにおける量子相関ゲート素子構造において、上記第1の量子ビット素子構造を第3の可変コンデンサを介して第1の単電子トランジスタに接続し、上記第2の量子ビット素子構造を第4の可変コンデンサを介して第2の単電子トランジスタに接続したものである。
【0021】
また、本発明のうち請求項8に記載の量子コンピュータにおける量子相関ゲート素子構造は、本発明のうち請求項3、請求項4、請求項5、請求項6または請求項7のいずれか1項に記載の量子コンピュータにおける量子相関ゲート素子構造において、上記第1の量子ドット、上記第2の量子ドット、上記第3の量子ドットおよび上記第4の量子ドットを半導体材料により構成したものである。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下、添付の図面に基づいて、本発明による量子コンピュータにおける量子ビット素子構造および量子相関ゲート素子構造の実施の形態の一例を詳細に説明するものとする。
【0023】
図2には、本発明による量子コンピュータにおける量子ビット素子構造の実施の形態の一例を示す概念構成説明図が示されている。
【0024】
即ち、本発明による量子コンピュータにおける量子ビット素子構造10は、例えば、ガリウム砒素(GaAs)などの半導体材料により形成された2個の量子ドット12、14より構成されている。つまり、量子ビットの物理的実態は2準位系であるが、本発明による量子コンピュータにおける量子ビット素子構造10においては、2個の量子ドット12、14より2つの量子準位16、18を形成するようになされている。
【0025】
より詳しく説明すると、例えば、ガリウム砒素(GaAs)などの半導体材料により、直径が数十ナノメートル(nm)程度の球体形状や、一辺が数十ナノメートル(nm)程度の方体形状を備えた微小な量子ドットを構成すると、こうした量子ドットには離散化した量子準位が形成されることになる。
【0026】
なお、こうした微小な量子ドットは、例えば、表面ゲート法と称される製造方法や、自己形成法と称される製造方法などにより製造することができる。
【0027】
従って、量子ビットの2準位系として、注目する量子準位をその中に1つだけ有する微小な量子ドットを2つ用意し、これら2つの量子ドットを、量子ビット素子構造10を構成するための量子ドット12、14として用いるものである。
【0028】
なお、これら量子ドット12の量子準位16と量子ドット14の量子準位18とは、互いに異なるように設定されるものであり、この実施の形態においては、図2上右側に位置する量子ドット12の量子準位16の方が、図2上左側に位置する量子ドット14の量子準位18より低いように設定されている。
【0029】
具体的には、量子ドット12の量子準位16と量子ドット14の量子準位18との準位間のエネルギー差Eは、外部の電圧により自由に変えることができるものであり、この実施の形態においては、図2上右側に位置する量子ドット12の量子準位16の方が、図2上左側に位置する量子ドット14の量子準位18よりも低くなるように、外部の電圧により設定されているものである。
【0030】
また、量子ドット12と量子ドット14とは、その間隔Gが、例えば、10オングストローム程度に近接して配置されるものであり、電子がトンネル効果により量子ドット12と量子ドット14との間を自由に移動することができるようになされている。
【0031】
以上の構成において、量子ビット素子構造10内には、例えば、クーロンブロッケード効果を利用して、電子が1個存在するようになされており、その1個の電子は、ある確率で量子ドット12の量子準位16に存在(|0>の状態)したり、ある確率で量子ドット14の量子準位18に存在(|1>の状態)したりするものである。
【0032】
なお、クーロンブロッケード効果とは、電子間のクーロン反発力を利用して、電子を1個だけ量子ドットに蓄えるためのメカニズムである。
【0033】
ここで、ラビ振動の原理を利用することにより、量子ビット素子構造10の量子ビットの操作を行うことができるものである。
【0034】
ここで、ラビ振動とは、2準位系において準位間のエネルギー差に共鳴した電磁波を照射すると、電子の2準位の上か下かに存在する確率が周期的に振動する現象である。
【0035】
従って、量子ビット素子構造10において、例えば、初期状態として、上の量子準位18に電子が存在する確率(P1)が0(P1=0)であり、下の量子準位16に電子が存在する確率(P0)が1(P0=1)であるとすると、量子準位18と量子準位16とのエネルギー差Eに共鳴した電磁波をラビ振動の半周期だけ照射した後には、上の量子準位18に電子が存在する確率(P1)が1(P1=1)となり、下の量子準位16に電子が存在する確率(P0)が1(P0=0)となるものである。
【0036】
即ち、ラビ振動を利用することにより、量子ビットの状態を反転することができることになる。そして、上記した電磁波の照射時間を適当に選択することにより、量子ビットの状態を任意の制御することができるものである。
【0037】
次に、図3ならびに図4を参照しながら、本発明による量子コンピュータにおける量子相関ゲート素子構造の実施の形態の一例について説明する。
【0038】
即ち、図3には、本発明による量子コンピュータにおける量子相関ゲート素子構造の実施の形態の一例の概念構成説明図が示されている。
【0039】
この量子相関ゲート100は、上記した本発明の実施の形態による量子ビット素子構造を2個用いて構成されるものである。
【0040】
具体的には、量子相関ゲート100は、2準位間のエネルギー差が異なる2個の量子ビット素子構造として、2準位間のエネルギー差が大きい第1量子ビット素子構造102と、2準位間のエネルギー差が小さい第2量子ビット素子構造104とを備えて構成されている。ここで、2準位間のエネルギー差が大きい方の第1量子ビット素子構造102の量子ビットをコントロールビットとし、2準位間のエネルギー差が小さい方の第2量子ビット素子構造104の量子ビットをターゲットビットとする。
【0041】
なお、第1量子ビット素子構造102は、上の量子準位106をもつ量子ドット108と、下の量子準位110をもつ量子ドット112とより構成されている。
【0042】
また、第2量子ビット素子構造104は、上の量子準位114をもつ量子ドット116と、下の量子準位118をもつ量子ドット120とより構成されている。
【0043】
また、第1量子ビット素子構造102と第2量子ビット素子構造104とは、例えば、図3に示すように、量子ドット108と量子ドット116とが対向し、かつ、量子ドット112と量子ドット120とが対向するように上下2段に配置されているものである。なお、図3においては、第1量子ビット素子構造102が上段に配置され、第2量子ビット素子構造104が下段に配置されている。
【0044】
そして、量子ドット108と量子ドット116とは、可変コンデンサ122を介して接続されており、量子ドット112と量子ドット120とは、可変コンデンサ124を介して接続されている。
【0045】
さらに、こうした量子相関ゲート素子構造100においては、第1量子ビット素子構造102の量子ドット112には、可変コンデンサ126を介して、第1量子ビット素子構造102による第1ビットの状態を検出するための単電子トランジスタが接続されており、また、第2量子ビット素子構造104の量子ドット120には、可変コンデンサ128を介して、第2量子ビット素子構造104による第2ビットの状態を検出するための単電子トランジスタが接続されている。
【0046】
なお、図3に示す実施の形態においては、単電子トランジスタは、第1量子ビット素子構造102の量子ドット112に可変コンデンサ126を介して接続されるとともに、第2量子ビット素子構造104の量子ドット120に可変コンデンサ128を介して接続されているが、これに限られることなしに、第1量子ビット素子構造102の量子ドット108に可変コンデンサ126を介して接続するようにしてもよいし、第2量子ビット素子構造104の量子ドット116に可変コンデンサ128を介して接続するようにしてもよい。
【0047】
以上の構成において、可変コンデンサ122の容量C1を0(C1=0)に設定するとともに、可変コンデンサ124の容量C2を0(C2=0)に設定すると、第1量子ビット素子構造102と第2量子ビット素子構造104とは互いに電気的に独立した状態となる。
【0048】
従って、上記したラビ振動を利用すれば、第1量子ビット素子構造102のコントロールビットの状態と、第2量子ビット素子構造104のターゲットビットの状態とを、図1(b)の真理値表に示す量子相関ゲートの作用前の状態に設定することができる。
【0049】
図4には、こうした量子相関ゲートの作用前の状態における、第1量子ビット素子構造102の電子のエネルギーと第2量子ビット素子構造104の電子のエネルギーとの合計値を示すエネルギーレベル状態図が示されている。なお、量子準位110と量子準位118とにおける電子のエネルギーのレベルを、基準のレベルAとする。
【0050】
従って、コントロールビットおよびターゲットビットの状態が|0>であるならば、エネルギーレベルは基準のレベルAとなる。
【0051】
また、コントロールビットの状態が|0>であり、ターゲットビットの状態が|1>であるならば、エネルギーレベルはレベルBとなる。
【0052】
さらに、コントロールビットの状態が|1>であり、ターゲットビットの状態が|0>であるならば、エネルギーレベルはレベルCとなる。
【0053】
さらにまた、コントロールビットの状態が|1>であり、ターゲットビットの状態が|1>であるならば、エネルギーレベルはレベルDとなる。
【0054】
ところが、可変コンデンサ122の容量C1を「C1≠0」に設定するとともに、可変コンデンサ124の容量C2を「C2≠0」に設定すると、第1量子ビット素子構造102と第2量子ビット素子構造104とは互いに容量的に結合した状態となる。
【0055】
従って、「C1≠0」および「C2≠0」の場合には、図3に示す状態における第1量子ビット素子構造102の量子準位106、110および第2量子ビット素子構造104の量子準位114、118に関して、互いの電子が対角線上に存在するとき(コントロールビットの状態が|1>であり、かつ、ターゲットビットの状態が|0>である場合およびコントロールビットの状態が|0>であり、かつ、ターゲットビットの状態が|1>である場合)には「C1=0」および「C2=0」の場合と比べてエネルギーはほとんど変化しないが、互いの電子が対角線上に存在しないとき(コントロールビットの状態が|1>であり、かつ、ターゲットビットの状態が|1>である場合およびコントロールビットの状態が|0>であり、かつ、ターゲットビットの状態が|0>である場合)には「C1=0」および「C2=0」の場合よりもエネルギーが上がりことになる。その差分を△Eとすると、「C1≠0」および「C2≠0」の場合には、レベルAはレベルA’に上がり、レベルBはほとんどそのままレベルB’になり、レベルCはほとんどそのままレベルC’になり、レベルDはレベルD’に上がることになる。
【0056】
従って、量子相関ゲート素子構造100に対して、「E2+△E」のエネルギーをもつ電磁波をラビ振動の半周期間照射することによって、コントロールビットが|1>のときだけ、ターゲットビットを反転することができ、図3(b)に示す真理値表の動作を実現することができる。
【0057】
なお、コントロールビットとターゲットビットとを単独で操作する必要がある場合には、上記したように「C1=0」および「C2=0」に設定して、コントロールビットとターゲットビットとの間の相互作用を小さくすればよい。
【0058】
そして、量子相関ゲート素子構造100による演算後の量子ビットの状態を観測するには、可変コンデンサ126の容量C3を「C3≠0」に設定するとともに、可変コンデンサ128の容量C4を「C4≠0」に設定して、単電子トランジスタを用いることになる。なお、演算中は単電子トランジスタを用いず、「C3=0」ならびに「C4=0」に設定されているものとする。
【0059】
上記したように、第1量子ビット素子構造102ならびに第2量子ビット素子構造104には、それぞれ1個の電子しか存在しないので、1個の電子の電荷を測定することが必要であり、これは既存のエレクトロメータでは不可能であるので、この実施の形態においては、単電子トランジスタを用いるようにしている。
【0060】
なお、本発明における量子相関ゲート素子を構成する各量子ビット素子における各量子ドットの準位の上下関係、換言すれば、各量子ドットの配置関係は、上記した実施の形態に限定されるものではないことは勿論である。
【0061】
即ち、図3に示すような配置関係に代えて、図5に示すように、第1量子ビット素子構造102と第2量子ビット素子構造104とを、量子ドット108と量子ドット120とが対向し、かつ、量子ドット112と量子ドット116とが対向するように上下2段に配置するようにしてもよい。なお、図5においては、第1量子ビット素子構造102が上段に配置され、第2量子ビット素子構造104が下段に配置されている。
【0062】
そして、量子ドット108と量子ドット120とを、可変コンデンサ124を介して接続し、量子ドット112と量子ドット116とを、可変コンデンサ122を介して接続する。
【0063】
なお、図5示す量子相関ゲート素子構造100においては、第1量子ビット素子構造102の量子ドット108に、可変コンデンサ126を介して、第1量子ビット素子構造102による第1ビットの状態を検出するための単電子トランジスタが接続され、また、第2量子ビット素子構造104の量子ドット120に、可変コンデンサ128を介して、第2量子ビット素子構造104による第2ビットの状態を検出するための単電子トランジスタが接続されている。
【0064】
従って、この図5に示す実施の形態おいては、エネルギーレベル状態図は図6に示すようになる。
【0065】
即ち、「C1≠0」および「C2≠0」の場合には、図5に示す状態における第1量子ビット素子構造102の量子準位106、110および第2量子ビット素子構造104の量子準位114、118に関して、互いの電子が対角線上に存在しないとき(コントロールビットの状態が|0>であり、かつ、ターゲットビットの状態が|0>である場合およびコントロールビットの状態が|1>であり、かつ、ターゲットビットの状態が|1>である場合)には「C1=0」および「C2=0」の場合と比べてエネルギーはほとんど変化しないが、互いの電子が対角線上に存在するとき(コントロールビットの状態が|0>であり、かつ、ターゲットビットの状態が|1>である場合およびコントロールビットの状態が|1>であり、かつ、ターゲットビットの状態が|0>である場合)には「C1=0」および「C2=0」の場合よりもエネルギーが上がりことになる。その差分を△Eとすると、「C1≠0」および「C2≠0」の場合には、レベルAはほとんどそのままレベルA’になり、レベルBはレベルB’に上がり、レベルCはレベルC’に上がり、レベルDはほとんどそのままレベルD’になる。
【0066】
従って、量子相関ゲート素子構造100に対して、「E2−△E」のエネルギーをもつ電磁波をラビ振動の半周期間照射することによって、コントロールビットが|1>のときだけ、ターゲットビットを反転することができ、図3(b)に示す真理値表の動作を実現することができる。
【0067】
つまり、本発明における量子相関ゲート素子を構成する各量子ビット素子における各量子ドットの準位の上下関係、換言すれば、各量子ドットの配置関係は、どのようでもかまわないが、ラビ振動の半周期間照射する電磁波のエネルギーは、本発明における量子相関ゲート素子を構成する各量子ビット素子における各量子ドットの準位の上下関係、換言すれば、各量子ドットの配置関係に応じて変化させる必要がある。
【0068】
なお、微小な量子ドットの材料としては、上記したガリウム砒素に限らず、例えば、シリコンなどを用いることができる。
【0069】
また、微小な量子ドットの形成方法としては、上記した表面ゲート法に限らず、例えば、近年急速に研究が進んでいる自己組織化法や、さらには走査トンネル顕微鏡(STM)を用いた原子レベルでの超微細加工技術を利用するようにしてもよい。
【0070】
【発明の効果】
本発明は、以上説明したように構成されているので、チューリング型の量子コンピュータにおける量子ビット素子構造および量子相関ゲート素子構造を固体デバイスで提供することができるようになるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)は量子相関ゲートを概念的に示す説明図であり、(b)は量子相関ゲートの概念的な真理値表である。
【図2】本発明による量子コンピュータにおける量子ビット素子構造の実施の形態の一例を示す概念構成説明図である。
【図3】本発明による量子コンピュータにおける量子相関ゲート素子構造の実施の形態の一例の概念構成説明図である。
【図4】図3に示す量子相関ゲート素子構造に関して、量子相関ゲートの作用前の状態における、第1量子ビット素子構造の電子のエネルギーと第2量子ビット素子構造の電子のエネルギーとの合計値を示すエネルギーレベル状態図である。
【図5】本発明による量子コンピュータにおける量子相関ゲート素子構造の他の実施の形態の一例の概念構成説明図である。
【図6】図5に示す量子相関ゲート素子構造に関して、量子相関ゲートの作用前の状態における、第1量子ビット素子構造の電子のエネルギーと第2量子ビット素子構造の電子のエネルギーとの合計値を示すエネルギーレベル状態図である。
【符号の説明】
10 量子ビット素子構造
12、14、108、112、116、120 量子ドット
16、18、106、110、114、118 量子準位
100 量子相関ゲート素子構造
102 第1量子ビット素子構造
104 第2量子ビット素子構造
122、124、126、128 可変コンデンサ
Claims (8)
- 第1の量子準位をもつ第1の量子ドットと、
前記第1の量子準位とは異なる第2の量子準位をもつ第2の量子ドットと
を有し、
トンネル効果により前記第1の量子ドットと前記第2の量子ドットとの間を電子が自由に移動可能なように、前記第1の量子ドットと前記第2の量子ドットとを近接して配置し、
さらに、電子が1個だけ存在するようにして、
前記第1の量子準位と前記第2の量子準位とのエネルギー差に共鳴した電磁波を照射して量子ビットの操作を行う
ものである量子コンピュータにおける量子ビット素子構造。 - 請求項1に記載の量子コンピュータにおける量子ビット素子構造において、
前記第1の量子ドットおよび前記第2の量子ドットは、半導体材料により構成された
ものである量子コンピュータにおける量子ビット素子構造。 - 第1の量子準位をもつ第1の量子ドットと、前記第1の量子準位より下の第2の量子準位をもつ第2の量子ドットとを有し、トンネル効果により前記第1の量子ドットと前記第2の量子ドットとの間を電子が自由に移動可能なように、前記第1の量子ドットと前記第2の量子ドットとを近接して配置し、さらに、電子が1個だけ存在するようにした第1の量子ビット素子構造と、
第3の量子準位をもつ第3の量子ドットと、前記第3の量子準位より下の第4の量子準位をもつ第4の量子ドットとを有し、トンネル効果により前記第3の量子ドットと前記第4の量子ドットとの間を電子が自由に移動可能なように、前記第3の量子ドットと前記第4の量子ドットとを近接して配置し、さらに、電子が1個だけ存在するようにした第2の量子ビット素子構造と
を有し、
前記第1のビット素子構造と前記第2のビット素子構造とを、前記第1の量子ドットと前記第3の量子ドットとが対向するとともに、前記第2の量子ドットと前記第4の量子ドットとが対向するように配置し、
前記第1の量子ドットと前記第3の量子ドットとが電気的に接続され、
前記第2の量子ドットと前記第4の量子ドットとが電気的に接続され、
さらに、前記第1の量子準位と前記第2の量子準位との準位差と、前記第3の量子準位と前記第4の量子準位との準位差とが異なるように設定された
ものである量子コンピュータにおける量子相関ゲート素子構造。 - 請求項3に記載の量子コンピュータにおける量子相関ゲート素子構造において、
前記第1の量子ドットと前記第3の量子ドットとは、第1の可変コンデンサを介して容量的に接続され、
前記第2の量子ドットと前記第4の量子ドットとは、第2の可変コンデンサを介して容量的に接続された
ものである量子コンピュータにおける量子相関ゲート素子構造。 - 第1の量子準位をもつ第1の量子ドットと、前記第1の量子準位より下の第2の量子準位をもつ第2の量子ドットとを有し、トンネル効果により前記第1の量子ドットと前記第2の量子ドットとの間を電子が自由に移動可能なように、前記第1の量子ドットと前記第2の量子ドットとを近接して配置し、さらに、電子が1個だけ存在するようにした第1の量子ビット素子構造と、
第3の量子準位をもつ第3の量子ドットと、前記第3の量子準位より下の第4の量子準位をもつ第4の量子ドットとを有し、トンネル効果により前記第3の量子ドットと前記第4の量子ドットとの間を電子が自由に移動可能なように、前記第3の量子ドットと前記第4の量子ドットとを近接して配置し、さらに、電子が1個だけ存在するようにした第2の量子ビット素子構造と
を有し、
前記第1のビット素子構造と前記第2のビット素子構造とを、前記第1の量子ドットと前記第4の量子ドットとが対向するとともに、前記第2の量子ドットと前記第3の量子ドットとが対向するように配置し、
前記第1の量子ドットと前記第4の量子ドットとが電気的に接続され、
前記第2の量子ドットと前記第3の量子ドットとが電気的に接続され、
さらに、前記第1の量子準位と前記第2の量子準位との準位差と、前記第3の量子準位と前記第4の量子準位との準位差とが異なるように設定された
ものである量子コンピュータにおける量子相関ゲート素子構造。 - 請求項5に記載の量子コンピュータにおける量子相関ゲート素子構造において、
前記第1の量子ドットと前記第4の量子ドットとは、第1の可変コンデンサを介して容量的に接続され、
前記第2の量子ドットと前記第3の量子ドットとは、第2の可変コンデンサを介して容量的に接続された
ものである量子コンピュータにおける量子相関ゲート素子構造。 - 請求項3、請求項4、請求項5または請求項6のいずれか1項に記載の量子コンピュータにおける量子相関ゲート素子構造において、
前記第1の量子ビット素子構造は、第3の可変コンデンサを介して第1の単電子トランジスタに接続され、
前記第2の量子ビット素子構造は、第4の可変コンデンサを介して第2の単電子トランジスタに接続された
ものである量子コンピュータにおける量子相関ゲート素子構造。 - 請求項3、請求項4、請求項5、請求項6または請求項7のいずれか1項に記載の量子コンピュータにおける量子相関ゲート素子構造において、
前記第1の量子ドット、前記第2の量子ドット、前記第3の量子ドットおよび前記第4の量子ドットは、半導体材料により構成された
ものである量子コンピュータにおける量子相関ゲート素子構造。
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