JP3635872B2 - ハイブリッド車制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、エンジンと、該エンジンに連結され、エンジン回転数を決定するための第1の回転電機及び車両の駆動力を決定するための第2の回転電機を含む動力変換手段と、前記第1及び第2の回転電機を駆動するためのインバータ装置と、該インバータ装置に電気的に接続された蓄電装置とを備えるハイブリッド車に適用される制御装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、この種のハイブリッド車として、特開平7−135701号公報やドイツ国4407666号明細書が提案されている。特開平7−135701号公報のハイブリッド型車両では、エンジンと、第1モータ及び第2モータと、第1,第2,第3の回転要素からなるギヤユニットとを備え、第1モータ又は第2モータのいずれかを回転数制御してエンジン回転数を決定し、他方をトルク制御して車両の駆動力を決定していた。こうした構成によれば、エンジンを最高効率点で運転することができ、しかもエンジンの発生トルクがそのまま車両の駆動力として使用できるため、エンジンの発生エネルギが効率良く伝達できる。
【0003】
また、ドイツ国第4407666号明細書のハイブリッド型車両では、第1モータの内側ロータと第2モータのロータとが直結されており、エンジンにより第1モータの外側ロータを駆動し、第1モータの内側ロータと外側ロータとを電磁的に結合して発電することで、エンジンの出力トルクを電磁伝達できるように構成していた。かかる場合、第1モータの発電エネルギを利用してさらに第2モータでトルクをアシストすることができるため、エンジンの発生エネルギが効率良く伝達できる。
【0004】
これらのハイブリッド型車両は、エンジンと駆動系との間に、2つの回転電機を有する動力伝達手段を設けることにより、エンジンを最大効率点で運転していた。その結果、エンジンの発生エネルギを電気伝達のみでなく、機械伝達或いは電磁伝達によるエネルギ伝達を兼ね備えることができ、走行状態が変わってもエネルギ伝達効率を高くすることができる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上述のハイブリッド型車両においては、エンジンに第1モータが連結されているため、エンジンを第1モータで始動させることができる。つまり、始動のためのスタータモータが廃止できるという長所がある。しかしながら、同ハイブリッド型車両においては第1及び第2モータからなる動力伝達手段の構成により、第1モータでエンジンを始動するとその始動時に第1モータのトルクが車両の駆動軸に反力として発生し、車両が前進或いは後退してしまうという問題が生じる。
【0006】
また、第1モータによるエンジン始動時には所定のトルクを発生させるが、エンジンの燃焼による始動完了時には、第1モータがエンジンにより回動されるために、エンジンと第1モータとのトルクバランスが崩れる。かかる場合、第1モータの制御トルクとエンジンの発生トルクとが干渉し、トルク制御をそのまま継続すると第1モータのトルクによりエンジン回転数が過剰に上昇してしまう。そのため、始動完了時においてエンジン回転数がオーバーシュートしてしまい、始動フィーリングが悪化する。さらにこの場合、第1モータにトルクを発生させるために、蓄電装置の電気エネルギを必要以上に使用することとなりエネルギ効率が悪化する。
【0007】
本発明は、上記従来の問題に着目してなされたものであって、その目的とするところは、エンジン始動時においてエンジンと回転電機とのトルクバランスを好適な状態に保ち、車両の挙動を安定させることができるハイブリッド車制御装置を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために本発明のハイブリッド車制御装置では、エンジンと、該エンジンに連結され、エンジン回転数を決定するための第1の回転電機及び車両の駆動力を決定するための第2の回転電機を含む動力変換手段と、前記第1及び第2の回転電機を駆動するためのインバータ装置と、該インバータ装置に電気的に接続された蓄電装置とを備えるハイブリッド車に適用され、例えばアクセルペダルやブレーキペダルやシフトレバーの操作情報といった車両運転情報に応じてエンジンの出力トルクを制御すると共に、そのエンジンのトルク制御量とエンジン特性に対応する当該エンジンの目標回転数とに基づいて第1の回転電機に発生させる第1のトルク指令値と第2の回転電機に発生させる第2のトルク指令値とを演算し、該演算した各トルク指令値にて第1及び第2の回転電機を制御することを前提としている。
【0009】
かかる構成では、第1の回転電機はエンジンの目標回転数に従いその回転数が制御される。このとき、エンジン特性に対応させつつエンジンの燃費やエミッションが最良の状態となるエンジン動作点でエンジンの運転が維持でき、高効率なエンジン作動を実現することができる。また、こうした構成において、車両駆動トルクは、第1の回転電機に発生するトルクと第2の回転電機により発生するトルクとの合計となり、車両運転情報に基づき適正に制御される。このとき、第1の回転電機に発生するトルクはエンジンの出力トルクとバランスし、エンジンの出力トルクは車両駆動トルクの一部として電磁的に伝達される。そのため、効率の良いエネルギ伝達が実現できることになる。
【0010】
そして、請求項1に記載の発明ではその特徴として、エンジンの始動当初において前記第1のトルク指令値にエンジン始動状態に応じた始動トルク値を設定すると共に、該設定した第1のトルク指令値との和の絶対値が所定値以下になるよう前記第2のトルク指令値を設定する(始動トルク値設定手段)。この場合、第1及び第2のトルク指令値の和の絶対値を所定値以下とすることは、その和の値を「0」を含む微小範囲内で制限することであり、車両駆動力を発生させずにエンジンの始動を行わせることを意味する。
【0011】
上記構成によれば、エンジン始動時においてエンジンと回転電機とのトルクバランスが好適な状態に保たれ、車両の挙動を安定させることができるようになる。その結果、第1の回転電機(第1モータ)のトルクが車両の駆動軸に反力として作用して車両が前進或いは後退したり、エンジンの始動完了時にエンジン回転数が過上昇したりするなどの従来装置の不具合が解消できる。
【0012】
また、前記始動トルク値設定手段にて設定される始動トルク値としては、
・請求項2に記載したように、エンジンの回転数の上昇に伴い減少する特性値を設定したり、
・請求項3に記載したように、エンジンの温度の上昇に伴い減少する特性値を設定したりしてもよい。
【0013】
上記請求項2に記載の発明によれば、エンジン始動時におけるエンジン回転数のオーバーシュートが抑制でき、始動フィーリングが向上する。また、エンジン始動時に必要以上のエネルギが使用されることはなく、結果としてエネルギ利用率が向上する。
【0014】
さらに上記請求項3に記載の発明によれば、請求項2に記載の効果に加えて次のような効果が得られる、つまり、エンジンの冷間始動時など、意図しないフリクショントルクが作用するような場合にも、エンジンを適切に始動させることができる。また、エンジンの暖機過程においても好適な状態が維持できる。
【0015】
請求項4に記載の発明では、主としてエンジン運転状態に基づく燃料噴射制御を実施するための第1の制御装置と、その第1の制御装置に対してエンジンのトルク制御量を指令すると共に前記インバータ装置の駆動を制御するための第2の制御装置とを備えるハイブリッド車制御装置であって、エンジンの始動当初において、前記第1の制御装置がエンジン始動状態に応じて前記第1の回転電機の始動トルク値を演算し、前記第2の制御装置が第1の制御装置による前記演算結果を取り込んでその値を第1のトルク指令値として設定すると共に当該第1のトルク指令値との和の絶対値が所定値以下になるよう前記第2のトルク指令値を設定する。
【0016】
この場合、ハイブリッド車制御システムにおける各種制御を第1及び第2の制御装置が司ることにより、請求項1にて説明したように、エンジン始動時においてエンジンと回転電機とのトルクバランスを好適な状態に保ち、車両の挙動を安定させることができる。また、上記の如く第1及び第2の制御装置の役割を分担することで、例えばエンジンが変更されても一方の制御装置(第1の制御装置)の仕様を変更するだけで対処でき、双方の制御装置の仕様変更が強いられることはない。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明にかかる一実施の形態について説明する。先ずその概要を略述すれば、本実施の形態のハイブリッド車制御システムでは、エンジンと、該エンジンに連結され、エンジン回転数を決定するための第1の回転電機及び車両の駆動力を決定するための第2の回転電機を含む動力伝達手段(動力変換手段)と、前記第1及び第2の回転電機を駆動するためのインバータ装置と、該インバータ装置に電気的に接続された蓄電装置とを備える。またさらに、エンジンの燃料噴射制御や電子スロットル制御を実施するエンジン制御装置と、そのエンジン制御装置に対してトルク制御量(車両駆動パワー要求値Pv* )を指令すると共にインバータ装置の駆動を制御するハイブリッド制御装置とを備える。
【0018】
そして、本制御システムでは、例えばアクセルペダル、ブレーキペダル及びシフトレバーの操作情報といった車両運転情報に基づいてエンジンの出力トルクを制御すると共に、その際のトルク制御量(車両駆動パワー要求値Pv* ,車両駆動トルク指令値Mv* )とエンジン特性に対応するエンジンの目標回転数(エンジン回転数指令値Ne* )とに基づいて第1及び第2の回転電機に発生させるトルク値を制御するようにしている。次に、本制御システムの構成を図面を用いて詳細に説明する。
【0019】
図1は、本実施の形態におけるハイブリッド車制御システムの概要を示す構成図であり、同図のエンジン1は4気筒4サイクルガソリン内燃機関により構成されている。エンジン1には出力軸2が設けられ、この出力軸2は後述する動力伝達手段12に駆動連結されている。エンジン1の吸気管3には、公知の燃料噴射電磁弁4が気筒毎に独立して設けられている。また、吸気管3には、吸入空気量を調整するためのスロットル弁5が設けられており、このスロットル弁5の開閉動作は吸入空気量調節手段を構成するスロットルアクチュエータ6により制御されるようになっている。
【0020】
さらに同図に示すシステムでは、以下のセンサ群を備える。つまり、運転者により操作される図示しないアクセルペダルには公知のアクセルセンサ7が配設され、同センサ7はアクセルペダルの踏み込み操作量に対応するアクセル開度信号を電圧信号にて出力する。また、運転者により操作される図示しないブレーキペダルには公知のブレーキセンサ8が配設され、同センサ8はブレーキペダルの踏み込み操作量に応じたブレーキ信号をON/OFF信号で出力する。シフトスイッチ9は、図示しないシフトレバーによる複数のシフト位置を検知するものであって、本実施の形態では駐車(P)、後退(R)、中立(N)、前進(D)等のシフト信号をON/OFF信号でパラレル出力する。始動スイッチ10は、図示しない公知のiGキースイッチに内蔵されており、始動の有無に応じたON/OFF信号を出力する。
【0021】
また、動力伝達手段12は、第1の回転電機2000及び第2の回転電機3000を備えてなるものであり、その詳細な構成は後述する。動力伝達手段12の出力は、公知の差動ギヤ装置20を介して車両左右の駆動輪30に伝達されるようになっている。
【0022】
エンジン制御装置13は、車両を駆動するためにエンジン1に発生させる車両駆動パワー要求値Pv* を後述するハイブリッド制御装置16より入力し、この入力値に基づいてスロットルアクチュエータ6を駆動する。また、エンジン1に搭載された図示しないエンジン運転状態センサの信号に基づいて燃料噴射電磁弁4の開弁時間を制御すると共に、図示しない点火装置の点火タイミングを決定して点火装置を駆動する。これら燃料噴射制御や点火制御によりエンジン1の燃焼状態が制御される。さらに、エンジン制御装置13は、車両駆動パワー要求値Pv* 通りにエンジン1が運転されるようその内部で演算したエンジン回転数指令値Ne* をハイブリッド制御装置16に出力する。
【0023】
インバータ装置14は、第1の回転電機2000及び第2の回転電機3000を駆動する装置であって、ハイブリッド制御装置16から入力される第1の回転電機2000及び第2の回転電機3000のそれぞれのトルク指令値である第1及び第2のトルク指令値Mm1*,Mm2*に基づき、第1の回転電機2000及び第2の回転電機3000のそれぞれの出力トルクMm1 ,Mm2 を制御すると共に、第1の回転電機2000及び第2の回転電機3000のそれぞれの回転情報Nm1 ,Nm2 をハイブリッド制御装置16に出力する。蓄電装置15は電池により構成されており、インバータ装置14に接続されている。
【0024】
ハイブリッド制御装置16はハイブリッド車を総合的に制御するための装置であり、前記したセンサ群、すなわちアクセルセンサ7、ブレーキセンサ8、シフトスイッチ9及び始動スイッチ10に接続されている。そして、ハイブリッド制御装置16は、これらセンサ群より入力されるアクセル開度信号、ブレーキ信号、シフト信号及び始動信号に基づいて車両駆動パワー要求値Pv* を演算すると共に、同Pv* 値をエンジン制御装置13に送信する。また、同制御装置16は、エンジン制御装置13から送信されるエンジン回転数指令値Ne* を受信する。さらに、ハイブリッド制御装置16は、第1の回転電機2000及び第2の回転電機3000のそれぞれのトルク指令値である第1及び第2のトルク指令値Mm1*,Mm2*を演算してインバータ装置14へ送信すると共に、インバータ装置14から第1の回転電機2000及び第2の回転電機3000のそれぞれの回転情報Nm1 ,Nm2 を受信する構成となっている。
【0025】
次に、図2を用いて動力伝達手段12の詳細な構成を説明する。
動力伝達手段12はエンジン1に接続されており、本実施の形態では差動ギヤ装置20と一体化されている。動力伝達手段12は、その内部に入出力の回転数を調整するための第1の回転電機2000と、入出力のトルクを調整するための第2の回転電機3000と、出力を減速伝達するための減速伝達部4000とを備える。なおここで、エンジン1と動力伝達手段12との間のジョイント及び差動ギヤ装置20と駆動輪30との間のジョイント等の構成は省略している。エンジン1の出力軸2はエンジン1の駆動と共に回転駆動し、図示されないジョイント等を介して動力伝達手段12の入力軸2001にエンジン出力を伝達する。
【0026】
また、動力伝達手段12は、入力軸2001に一体的に設けられた第1の回転子2010と、第2の回転子2310と、固定子に相当するステータ3010とを有する。ステータ3010は回転磁界を作る巻線3011及びステータコア3012より構成されている。また、第1の回転子2010も回転磁界を作る巻線2011及びロータコア2012を有しており、ブラシホルダ2610、ブラシ2620、スリップリング2630及びリード部2660を介して外部から給電を受けている。ここで、リード部2660は、シャフト2213外周のモールド等からなる絶縁部2650に埋設されている。
【0027】
第2の回転子2310には、円環状のロータヨーク2311とその内周面にN,S極を作るべく周方向に等間隔に配置された磁石2220とが設けられており、ロータコア2012及び巻線2011と共に第1の回転電機2000を構成する。また、第2の回転子2310には、円環状のロータヨーク2311の外周面上にN、S極を作るべく周方向に等間隔に配置された磁石2420が設けられており、前記ステータコア3012及び巻線3011と共に第2の回転電機3000を構成する。ここで、ロータヨーク2311の内周面或いは外周面に設けられた磁石2220及び2420は、それぞれリング2225及び2425等により第2の回転子2310に固定されている。
【0028】
また、第2の回転子2310のロータヨーク2311は、ロータフレーム2331,2332及びベアリング2510,2511を介してハウジング1710,1720に対して回転可能に配設されている。一方、第1の回転子2010は、シャフト2213(入力軸2001)及びベアリング2512,2513を介して第2の回転子2310のロータフレーム2331,2332に対して回転可能に配設されている。
【0029】
第2の回転子2310の一端は、ロータフレーム2332を介してハウジング1710よりもエンジン1側に向けて外部へ延出しており、その先端部にはセレーション2332aが形成されている。このロータフレーム2332のセレーション2332aは、減速伝達部4000の小ギヤ4010に噛合している。さらに、この小ギヤ4010はギヤ4020を介して差動ギヤ装置20に連結されている。なお、ギヤ4020は、ベアリング4040を介してエンジン等の固定部に固着された軸部4030に回転可能に支持されている。
【0030】
ギヤ4020は、差動ギヤ装置20内の大ギヤ4100に噛合して動力伝達手段12からの回転力を減速すると共に、その回転力を差動ギヤ4120,4130を介して駆動輪30へ伝達する。なお、前記大ギヤ4100は、差動ギヤ装置20内に配設された差動ギヤボックス4110に形成されている。これら一連の歯車(ギヤ)は、図2に示すように、エンジン1と動力伝達手段12のハウジング1710の側面との間の隙間に配置されるように構成されている。すなわち、エンジン1から動力伝達手段12に向けて回転力が入力される入力軸2001(シャフト2213)と、動力伝達手段12から負荷出力側へ回転力を出力する出力軸に相当するロータフレーム2332の先端部とは、同一の側に配置される構成となっており、動力伝達手段12の小型化が図られている。
【0031】
また、回転センサ2911,2912は公知のレゾルバ等により構成され、このレゾルバを構成するコイルの対向位置には永久磁石2911a,2912aが配設されている。そして、回転センサ2911,2912は、第1の回転電機2000及び第2の回転電機3000のそれぞれの回転情報として、第1の回転子2010及び第2の回転子2310のそれぞれの回転位置θ1 ,θ2 並びに回転数Nm1 ,Nm2 をステータ(固定子)3010を基準として検出する。なお、符号1730を付す部材は、ブラシホルダ2610及び回転センサ2911を収納するためのカバーケースである。
【0032】
次に、エンジン制御装置13の詳細な構成について図3を用いて説明する。
図3において、エンジン1の回転検出器1301は公知の構成を有し、エンジン1の図示しないクランク軸が1回転する毎に12パルスの角度信号と1パルスの基準信号とを出力する。吸入空気量センサ1302は吸気管3に設けられており、エンジン1に吸入される空気の量に応じてベーン開度が変化し、その変化量をポテンショメータの検出値として出力する。つまり、吸入空気量センサ1302は、エンジン1が吸入する空気量を単位時間当たりの体積で吸気量信号として検出する。
【0033】
冷却水温センサ1303は公知のサーミスタ型センサであり、エンジン1の冷却水温度を抵抗変化として検出しその検出値を冷却水温信号として出力する。吸気温センサ1304は公知のサーミスタ型センサであり、吸入空気量センサ1302に付設されている。同吸気温センサ1304は、エンジン1に吸入される空気の温度を抵抗変化から検出しその検出値を吸気温信号として出力する。空燃比センサ1305は、エンジン1の図示しない排気管集合部に設けられており、排気の空燃比を空燃比信号として電圧で出力する。これらのセンサの各信号並びに始動スイッチ10の始動信号は、エンジン制御装置13に入力される。
【0034】
制御ユニット1306は、公知のマイクロコンピュータや燃料噴射電磁弁4の駆動回路などから構成され、エンジン回転検出器1301の角度信号及び基準信号、吸入空気量センサ1302の空気量信号、冷却水温センサ1303の冷却水温信号、吸気温センサ1304の吸気温信号、空燃比センサ1305の空燃比信号等に基づいて燃料噴射電磁弁4の開弁信号を生成する。通信回路1307は、例えば調歩同期式通信が実現できる公知の回路であって、制御ユニット1306に接続されている。
【0035】
スロットルアクチュエータ駆動回路1308は、制御ユニット1306に接続されると共に、端子1314,1315を介してスロットルアクチュエータ6に接続されている。また、出力端子1309,1310,1311,1312には、制御ユニット1306の開弁信号の出力が接続されると共に、燃料噴射電磁弁4が接続されている。通信端子1313には、通信回路1307及びハイブリッド制御装置16が接続されている。
【0036】
次に、エンジン制御装置13内の制御ユニット1306に記憶されている制御プログラムについて、図4及び図5のフローチャートを用いて説明する。
図4に示すプログラムは、エンジン制御装置13内の制御ユニット1306により実行されるメインプログラムであり、iGキースイッチが投入されることで起動される。図4において、先ず最初のステップS5000では、制御ユニット内蔵の入出力ポートの初期化やRAMの変数領域の設定及びスタックポインタの初期化を行う。
【0037】
その後、ステップS5001〜S5005では、前記の各種センサの検出信号に基づいたエンジン1の運転状態信号を読み込み、これらの各種信号を制御ユニット1306内蔵のRAMの変数領域に格納する。すなわち、
・ステップS5001では、エンジン回転検出器1301の角度信号に基づくエンジン回転数Neを取り込み、
・ステップS5002では、吸入空気量センサ1302の空気量信号に基づく吸入空気量Qを取り込み、
・ステップS5003では、冷却水温センサ1303の冷却水御信号に基づく冷却水温Twを取り込み、
・ステップS5004では、吸気温センサ1304の吸気温信号に基づく吸気温Taを取り込み、
・さらに、ステップS5005では、空燃比センサ1305の空燃比信号に基づく空燃比A/Fを取り込む。
【0038】
その後、ステップS5006では、前記ステップS5001で取り込んだエンジン回転数Neと前記ステップS5002で取り込んだ吸入空気量Qとから回転当たりの吸気量Qoを演算し(Qo=Q/Ne)、その演算結果を内蔵RAMの変数領域に格納する。また、ステップS5007では、前記ステップS5004で取り込んだ吸気温Taに基づき、制御ユニット1306に内蔵のROMのテーブル領域に記憶されている吸気温補正係数マップを検索して、吸気温補正係数fTHAを求める。吸気温補正係数マップは例えば図6に示す公知のものであって、吸入空気量センサ1302にて検出した吸入空気量Qを単位時間当たりの質量として変換する係数が一次元マップとして設定されている。
【0039】
次に、ステップS5008では、前記ステップS5003にて取り込んだ冷却水温Twに基づき、ROMのテーブル領域に記憶されている暖機補正係数マップを検索して、暖機補正係数fWLを求める。暖機補正係数マップは例えば図7に示す公知のものであって、エンジン1の冷却水温度Twに対する暖機補正係数fWLが一次元マップとして設定されている。その後、ステップS5009では、前記ステップS5005にて取り込んだ空燃比A/Fに基づき、A/Fフィードバック補正係数fA/Fを演算する。fA/F値の演算は、A/F検出値を目標値に一致させるようにした公知のものであり、その詳細な説明は省略する。ステップS5010では、前記ステップS5006で求めた回転当たりの吸気量Qoと前記ステップS5007にて求めた吸気温補正係数fTHAとから基本噴射時間Tpを演算する(Tp=K・Qo・fTHA)。なお、演算の際の係数Kは、燃料噴射電磁弁4の開弁時間と燃料噴射量との関係を決定する定数である。
【0040】
次に、ステップS5011では、上記ステップS5010にて求めた基本噴射時間Tpと暖機補正係数fWLとA/Fフィードバック補正係数fA/Fとに基づき、燃料噴射電磁弁4の開弁時間である噴射時間TAUを演算する(TAU=Tp・fWL・fA/F+Tv)。なお、Tvは無効噴射時間で、燃料噴射電磁弁4の時定数による遅れ時間であって燃料量に寄与しない時間である。
【0041】
その後、ステップS5012では、燃料カットをすべきか否かを示すフラグfCUTの状態を判別する。そして、燃料カットすべきであれば(fCUT=1の場合)、ステップS5012を肯定判別してステップS5013に進み、噴射時間TAUを「0」にクリアした後ステップS5014に進む。また、燃料カットをしないのであれば(fCUT=0の場合)、ステップS5012を否定判別して直接ステップS5014に進む。ステップS5014では、前記ステップS5011にて求めた噴射時間TAUに基づき、燃料噴射電磁弁4を駆動するための噴射信号を発生して出力する。ステップS5015では、iGキースイッチの状態をチェックし、投入されていれば(ステップS5015がNOの場合)、ステップS5001に戻って上述の動作を繰り返して実行する。iGキースイッチがOFFであれば(ステップS5015がYESの場合)、本プログラムを終了する。
【0042】
図5に示すプログラムはエンジン制御装置13内の制御ユニット1306により実行される割り込みプログラムであり、前記図3の通信回路1307が通信データを受信すると起動される。図5において、先ずステップS5100では、図3に示す通信回路1307及び通信端子1313を介してハイブリッド制御装置16から送信される車両駆動パワー要求値Pv* を読み込む。次のステップS5102では、ハイブリッド制御装置16から送信された車両駆動パワー要求値Pv* に基づいてエンジン始動中であるか否かを判別する。具体的には、前記Pv* 値が16進数表示の「0FFFFH」であるか否かを判別する。そして、Pv* =0FFFFHであれば、エンジン始動中であると判断してステップS5110に進む。なおここで、「0FFFFH」のPv* データは、エンジン始動時であることを表す情報データとして用いられる。
【0043】
ステップS5110では、エンジン始動時において当該エンジン1が完爆に至ったか否かをチェックする。具体的には、例えばエンジン回転数Neが所定のアイドル回転数Neidl (例えば600rpm)を上回るかどうかといった条件や始動開始から所定時間が経過したかどうかといった条件により完爆を判断する。また続くステップS5112では、ステップS5110のチェック結果に基づき完爆か否かの判別を行う。このとき、完爆せずにアイドル回転していなければ(ステップS5112がNOの場合)、ステップS5114に進んでエンジン回転数指令値Ne* に始動続行のための情報データである「0FFFEH」をセットし、その後ステップS5118に進む。
【0044】
また、完爆してアイドル回転していれば(ステップS5112がYESの場合)、ステップS5116に進んでエンジン回転数指令値Ne* に始動完了のための情報データである「0FFFFH」のデータをセットし、その後ステップS5118に進む。ステップS5118では、エンジン始動時のアイドル状態を維持するためにスロットル開度θTHを「0」とし、すなわちスロットルアクチュエータ6による吸入空気量調節量THを「0」とし、その後ステップS5124に進む。
【0045】
一方、前記ステップS5102にてPv≠0FFFFHである旨が判別されると(当該ステップがNOの場合)、エンジン始動中でないと判断してステップS5104に進む。ステップS5104では、車両駆動パワー要求値Pv* が「0」であるか否かを判別し、Pv* =0であれば(YESの場合)、ステップS5120に進んでエンジン回転数指令値Ne* に「0FFFFH」のデータをセットする。続くステップS5122では、吸入空気量調節量THを「0」(スロットル開度θTH=0)とし、その後ステップS5124に進む。
【0046】
また、ステップS5104にてPv* ≠0であれば(NOの場合)、次のステップS5106では、予め記憶されているエンジン1の燃費率マップにより当該エンジン1の動作点を決定し、その動作点に応じてエンジン回転数指令値Ne* を演算する。燃費率マップには、例えば図8に示す特性に基づいて、エンジン出力トルクMeとエンジン回転数Neとをパラメータとするエンジン1の燃費率(g/kWh)のデータが二次元マップとして記憶されている。すなわち、エンジン出力トルク指令値Me* が決定されれば、燃費率が最良となるエンジン動作点(例えば図8のC点)が求められ、この動作点に対応する回転数がエンジン回転数指令値Ne* として算出されることになる。
【0047】
さらに、続くステップS5108では、上記のエンジン動作点に対応するスロットル開度θTHをスロットル開度マップにより求め、そのマップ値に基づいてスロットルアクチュエータ6の吸入空気量調節量THを演算する。スロットル開度マップは、例えば図9に示すエンジン特性に基づき作成されている。図9において、横軸のエンジン回転数Neはエンジン1の最大回転数で正規化されており、縦軸のエンジン出力トルクMeはエンジン1の最大出力トルクで正規化されている。そして、同スロットル開度マップには、上記エンジン出力トルクMeとエンジン回転数Neとをパラメータとするスロットル開度θTHのデータが二次元マップとして記憶されている。従って、当該ステップS5108では、前記ステップS5106にて演算したエンジン回転数指令値Ne* とエンジン出力トルク指令値Me* とに基づいてスロットル開度目標値θTH* が求められ、このスロットル開度目標値θTH* から吸入空気量調節量THが演算されるようになっている。スロットル開度目標値θTH* から吸入空気量調節量THへの変換は、予め求められ且つ記憶されているスロットル特性(スロットルアクチュエータ6の特性)に基づき行われる。
【0048】
上記の通りのNe* 値及びTH値の演算後において、ステップS5124では、前記ステップS5108,S5118,S5122で求めた吸入空気量調節量THに基づいてスロットルアクチュエータ6を制御する。さらに、続くステップS5126では、前記ステップS5106,S5114,S5116,S5120で求めたエンジン回転数指令値Ne* を図3の通信回路1307を介してハイブリッド制御装置16に送信する。
【0049】
その後、ステップS5128では、エンジン始動時において完爆前であるか否か、すなわち始動途中であるか否かをその時のエンジン回転数指令値Ne* のデータに基づき判別する。具体的には、Ne* =0FFFEHであるか否かを判別する。Ne* =0FFFEHであれば、始動途中であるとみなし、ステップS5128を肯定判別してステップS5130に進む。ステップS5130では、始動トルク指令値Msta*をマップ検索にて算出する。次のステップS5132では、始動トルク指令値Msta*を図3の通信回路1307を介してハイブリッド制御装置16に送信する。
【0050】
なおNe* ≠0FFFEHであれば、エンジン始動時の完爆後である、すなわち始動が完了しているとみなし、前記ステップS5128を否定判別する。以上の処理を実施した後、割り込みプログラムが起動する前のメインプログラムに戻る。
【0051】
ここで、前記ステップS5130にて実行される始動トルク指令値Msta*のマップ検索について図22を用いて説明する。図22は、エンジン回転数Neに対する始動トルク指令値Msta*の特性を示すマップであって、エンジン回転数Neが上昇するにつれて始動トルク指令値Msta*が減少し、所定のエンジン回転数Ne0 にて「0」となる特性を有する。このNe0 値は、上述した完爆を判定するためのNeidl 値よりも大きい値であり(例えばNe0 =900rpm)、仮にNe>Neidl となっても完爆判定されない場合には、Ne=Ne0 の時点で始動トルク指令値Msta*が「0」に規制されるようになっている。
【0052】
要するに、前記ステップS5130では、前記図4のメインプログラムにおけるステップS5001で取り込んだエンジン回転数Neに基づき、図22のマップを参照しながら始動トルク指令値Msta*を検索する。なお図22の特性の縦軸の値は、始動最大トルクで正規化しているが、実際のマップにはトルクに比例する値が記憶されている。
【0053】
次に、インバータ装置14の詳細な構成について図10を用いて説明する。
図10において、インバータ装置14には、蓄電装置15のプラス端子及びマイナス端子に接続される主電源入力端子1401,1402と、第1の回転電機2000に内蔵されたU,V,W各相の巻線に接続される出力端子1403,1404,1405と、第2の回転電機3000に内蔵されたU,V,W各相の巻線に接続される出力端子1406,1407,1408とが設けられている。またその他に、動力伝達手段12に内蔵された回転センサ2911に接続される接続端子1409と、同じく動力伝達手段12に内蔵された回転センサ2912に接続される接続端子1410とが設けられている。これら接続端子1409,1410はそれぞれ、励磁信号及び回転子位置信号(sin信号,cos信号)用に使用し、差動構成となっている。また、通信端子1411は、ハイブリッド制御装置16との間でシリアル通信が実施可能な公知の構成を有する。なお、主電源入力端子1401, 1402間には入力コンデンサ1412が接続されている。
【0054】
IGBTモジュール1413,1414,1415,1419,1420,1421は、IGBT素子(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ素子)とフライホイールダイオードとが各2個ずつ内蔵された公知の構成を有する。その構成をIGBTモジュール1413について説明すると、当該モジュール1413の端子C1は一方の主電源入力端子1401に接続され、端子E2は他方の主電源入力端子1402に接続されている。また、端子C2及び端子E1は出力端子1403に接続され、第1の回転電機2000のU相巻線を駆動する構成となっている。IGBTモジュール1413と同様に、IGBTモジュール1414, 1415はそれぞれ、第1の回転電機2000のV相巻線及びW相巻線を駆動する構成となっている。また、IGBTモジュール1419, 1420,1421はそれぞれ、第2の回転電機3000のU相巻線、V相巻線及びW相巻線を駆動する構成となっている。
【0055】
さらに、本インバータ装置14には、電流センサ1416,1417,1422,1423が設けられている。同電流センサは例えばクランプ型でホール素子を用いた非接触タイプのセンサからなり、各々に出力端子1403,1405,1406,1408に流れる電流を検出しその検出値を電圧信号で出力する。より詳細には、電流センサ1416は、第1の回転電機2000のU相巻線を流れる電流を検出し、電流センサ1417は、第1の回転電機2000のW相巻線を流れる電流を検出する。また、電流センサ1422は、第2の回転電機3000のU相巻線を流れる電流を検出し、電流センサ1423は、第2の回転電機3000のW相巻線を流れる電流を検出する。
【0056】
一方のゲート駆動部1418は、IGBTモジュール1413〜1415に内蔵されている個々のIGBT素子のゲートを駆動する公知の構成を有し、また他方のゲート駆動部1424は、IGBTモジュール1419〜1421に内蔵されている個々のIGBT素子のゲートを駆動する公知の構成を有する。
【0057】
信号処理部1425は、動力伝達手段12に内蔵された回転センサ2911の検出信号を処理する回路からなり、詳細は示さないが約7kHzの正弦波の励磁信号を接続端子1409から出力する。また、回転センサ2911からの回転子位置信号(sin信号,cos信号)を接続端子1409から入力して回転子位置を求め、この回転子位置の情報を10ビットパラレルで出力する。また他方の信号処理部1426も同様に、動力伝達手段12に内蔵された回転センサ2912の検出信号を処理する回路からなり、回転センサ2912からの回転子位置信号(sin信号,cos信号)を接続端子1410より入力して回転子位置を求め、この回転子位置の情報を10ビットパラレルで出力する。
【0058】
制御ユニット1427は、例えば公知のシングルチップマイクロコンピュータを主体として構成され、通信端子1411から入力される第1のトルク指令値Mm1*(第1の回転電機2000のトルク指令値)と、第1の回転電機2000の回転子位置(信号処理部1425の出力)と、第1の回転電機2000のU相巻線及びW相巻線を流れる電流(電流センサ1416,1417の出力)とに基づき、内蔵のROMに記憶されているプログラムにより公知のベクトル制御を実施して第1の回転電機2000を第1のトルク指令値Mm1*通りに制御する。また、同じく制御ユニット1427は、通信端子1411から入力される第2のトルク指令値Mm2*(第2の回転電機3000のトルク指令値)と、第2の回転電機3000の回転子位置(信号処理部1426の出力)と、第2の回転電機3000のU相巻線及びW相巻線を流れる電流(電流センサ1422,1423の出力)とに基づき、内蔵のROMに記憶されているプログラムにより公知のベクトル制御を実施して第2の回転電機3000を第2のトルク指令値Mm2*通りに制御する。
【0059】
さらに、制御ユニット1427は、通信端子1411から入力される第1のトルク指令値Mm1*(第1の回転電機2000のトルク指令値)と、第2のトルク指令値Mm2*(第2の回転電機3000のトルク指令値)との情報に基づき、ゲート駆動部1418,1424をOFFさせることができる構成となっている。
【0060】
図11及び図12は、インバータ装置14内の制御ユニット1427内蔵のROMに記憶されている制御プログラムを示すフローチャートであり、これらのフローはそれぞれメインプログラム及び割り込みプログラムとして制御ユニット1427により実行される。
【0061】
図11に図示するメインプログラムは、車両のiGキースイッチがONされることでスタートする。先ずステップS5200では、制御ユニット1427に内蔵されたRAMに割り付けた変数やスタック及び入出力ポートなどの汎用レジスタを初期化する。特に、後述する第1の回転電機2000のd軸電流指令値im1d* 及びq軸電流指令値im1q* と、第2の回転電機3000のd軸電流指令値im2d* 及びq軸電流指令値im2q* とを「0」に初期化する。
【0062】
ステップS5202では、制御ユニット1427に内蔵された通信ポートのステータスを読み込み、通信ポートにデータが受信されたか否かを表すフラグを取り込む。その後、ステップS5204では、データが受信されたか否かを判別し、データが受信されていなければ直接ステップS5220に進む。データが受信されていれば、ステップS5206に進み、受信したデータである第1のトルク指令値Mm1*及び第2のトルク指令値Mm2*を取り込み、内蔵RAMの変数領域に格納する。
【0063】
次に、ステップS5208では、前記ステップS5206にて記憶した第1のトルク指令値Mm1*が「0FFFFH」であるか否かを判別する。ここで、Mm1*=0FFFFHのデータは、第1の回転電機2000への通電をOFFすることを意味しており、このMm1*値は後述するハイブリッド制御装置16の制御プログラムにて設定される(本実施の形態では、図17に示すPレンジプログラム)。従って、Mm1*=0FFFFHであれば(ステップS5208がYESの場合)、ステップS5210でゲート駆動部1418をOFFするようにシャットダウン信号を出力する。
【0064】
また、Mm1*≠0FFFFHであれば(ステップS5208がNOの場合)、ステップS5212に進み、前記ステップS5206にて記憶した第1のトルク指令値Mm1*に基づき、第1の回転電機2000の各相巻線に流す電流の指令値としてd軸電流指令値im1d* 及びq軸電流指令値im1q* を演算する。このd軸及びq軸電流指令値im1d* ,im1q* は、図示していない公知の回転子の界磁方向とそれに直交する方向とに座標を設定したd−q軸座標系におけるそれぞれの電流成分に相当する。このとき、第1のトルク指令値Mm1*と、前回処理時に演算された第1の回転電機2000の回転数Nm1 (後述のステップS5224による演算値)と、ROMに記憶されている第1の回転電機2000のインダクタンスLや一次抵抗Rなどのモータ定数とにより公知のベクトル演算が実施され、d軸及びq軸電流指令値im1d* ,im1q* が求められるようになっている。
【0065】
さらに、ステップS5214では、前記ステップS5206にて記憶した第2のトルク指令値Mm2*が「0FFFFH」であるか否かを判別する。ここで、Mm2*=0FFFFHのデータは、第2の回転電機3000への通電をOFFすることを意味しており、このMm2*値は後述するハイブリッド制御装置16の制御プログラムにて設定される(図17に示すPレンジプログラム)。従って、Mm2*=0FFFFHであれば(ステップS5208がYESの場合)、ステップS5216でゲート駆動部1424をOFFするようにシャットダウン信号を出力する。
【0066】
また、Mm2*≠0FFFFHであれば(ステップS5214がNOの場合)、ステップS5218に進み、前記ステップS5206にて記憶した第2のトルク指令値Mm2*に基づき、第2の回転電機3000の各相巻線に流す電流の指令値としてd軸電流指令値im2d* 及びq軸電流指令値im2q* を演算する。このd軸及びq軸電流指令値im2d* ,im2q* は、図示していない公知の回転子の界磁方向とそれに直交する方向とに座標を設定したd−q軸座標系におけるそれぞれの電流成分に相当する。なお、d軸及びq軸電流指令値im2d* ,im2q* も公知のベクトル演算により算出されるようになっている。
【0067】
その後、ステップS5220では、第1の回転電機2000の回転情報である第1の回転子2010の回転数Nm1 を信号処理部1425より取り込んでそのデータを内蔵メモリに格納する。また続くステップS5222では、第2の回転電機3000の回転情報である第2の回転子2310の回転数Nm2 を信号処理部1426より取り込んでそのデータを格納する。
【0068】
また、ステップS5224では、前記取り込んだ回転数Nm1 ,Nm2 から第1の回転電機2000の回転数Nm1 を新たに算出する。つまり、第1の回転電機2000は第1の回転子2010と第2の回転子2310とを含む構成であり、前記ステップS5220で取り込んだ第1の回転子2010の回転数Nm1 はステータ(固定子)3010を基準とした回転数であることから、次の数式(1)により第1の回転電機2000の回転数Nm1 が算出される。
【0069】
Nm1 =Nm1 −Nm2 ・・・(1)
その後、ステップS5226では、前記ステップS5224で算出した第1の回転電機2000の回転数Nm1 及び前記ステップS5222で取り込んだ第2の回転電機3000の回転数Nm2 を通信端子1411からハイブリッド制御装置16に送信する。さらに、ステップS5228では、車両のiGキースイッチがOFFされたか否かを判別し、OFFされていなければステップS5202に戻り、OFFされていれば本プログラムを終了する。
【0070】
次に、図12に示すフローチャートを用い、割り込みプログラムを説明する。本割り込みプログラムは、所定の時間間隔のタイマ割り込みで起動する構成となっており、起動後先ずステップS5300では、電流センサ1416,1417の出力である第1の回転電機2000のU相線電流i1u及びW相線電流i1wと、電流センサ1422,1423の出力である第2の回転電機3000のU相線電流i2u及びW相線電流i2wとを読み込み、制御ユニット1427の内蔵RAMの変数領域に格納する。また、ステップS5302では、第1の回転電機2000における第1の回転子2010の回転子位置θ1 及び第2の回転電機3000における第2の回転子2310の回転子位置θ2 を読み込んで、制御ユニット1427の内蔵RAMの変数領域に格納する。なおこのとき、第2の回転子2310の回転子位置θ2 は第2の回転電機3000の回転子位置と同一である。
【0071】
その後、ステップS5304では、第1の回転子2010と第2の回転子2310との相対回転位置を演算し、その演算結果を第1の回転電機2000の回転子位置θ1 とする(θ1 =θ1 −θ2 )。
【0072】
また、ステップS5306では、図示しない公知の回転子の界磁方向とそれに直交する方向とに座標を設定したd−q軸座標系におけるそれぞれの電流成分である第1及び第2の回転電機2000,3000のd軸電流及びq軸電流(i1d,i1q,i2d,i2q)を演算する。つまり、上記U相線電流i1u及びW相線電流i1wと回転子位置θ1 とに基づき、第1の回転電機2000の巻線に流れる三相交流電流をd−q軸座標系のd軸電流i1d及びq軸電流i1qに変換すると共に、上記U相線電流i2u及びW相線電流i2wと回転子位置θ2 とに基づき、第2の回転電機3000の巻線に流れる三相交流電流をd−q軸座標系のd軸電流i2d及びq軸電流i2qに変換する。
【0073】
次に、ステップS5308では、制御ユニット1427の内蔵RAMの変数領域に格納されているd軸電流指令値im1d* ,im2d* 及びq軸電流指令値im1q* ,im2q* と、前記ステップS5306で演算したd軸電流i1d,i2d及びq軸電流i1q,i2qとに基づいて、d軸成分とq軸成分毎にそれぞれの電流偏差ε1d,ε2d,ε1q,ε2qを演算する。
【0074】
その後、ステップS5310では、前記ステップS5308で演算した電流偏差ε1d,ε1qと第1の回転電機2000の電気的定数とに基づいて、第1の回転電機2000に印加する電圧のd−q軸成分であるd軸電圧指令値V1d* 及びq軸電圧指令値V1q* を演算する。また、同じくステップS5310では、前記ステップS5308で演算した電流偏差ε2d,ε2qと第2の回転電機3000の電気的定数とに基づいて、第2の回転電機3000に印加する電圧のd−q軸成分であるd軸電圧指令値V2d* 及びq軸電圧指令値V2q* を演算する。
【0075】
ステップS5312では、第1の回転電機2000のd軸電圧指令値V1d* 及びq軸電圧指令値V1q* から三相交流の相電圧指令値V1u* ,V1v* ,V1w* を演算すると共に、第2の回転電機3000のd軸電圧指令値V2d* 及びq軸電圧指令値V2q* から三相交流の相電圧指令値V2u* ,V2v* ,V2w* を演算する。そして、ステップS5314では、この相電圧指令値V1u* ,V1v* ,V1w* ,V2u* ,V2v* ,V2w* について例えば10kHzを変調周波数とするパルス幅変調(PWM)の演算を行う。そして最後に、ステップS5316で、制御ユニット1427に内蔵のPWMレジスタに、前記ステップS5314での演算結果を書き込んで本プログラムを終了する。
【0076】
次に、ハイブリッド制御装置16の詳細な構成について図13を用いて説明する。
図13において、ハイブリッド制御装置16は、各種センサ等の信号を入力するための入力端子1600,1601,1602,1603を有する。より具体的には、入力端子1600にはアクセルセンサ7が接続されており、アクセル信号が同端子1600に入力される。入力端子1601にはブレーキセンサ8が接続されており、ブレーキ信号が同端子1601に入力される。入力端子1602にはシフトスイッチ9が接続されており、シフト信号が同端子1602に入力される。また、入力端子1603には始動スイッチ10が接続されており、始動信号が同端子1603に入力される。
【0077】
またさらに、ハイブリッド制御装置16の通信端子1604,1605にはそれぞれエンジン制御装置13及びインバータ装置14が接続されており、制御に必要な情報を相互に通信できる構成となっている。
【0078】
アナログ信号入力部1610は、演算増幅器を含む公知の電圧増幅回路より構成され、入力端子1600から入力されるアクセル信号を所定の電圧レベルに増幅する。デジタル信号入力部1620は、比較器或いはトランジスタを含む公知のデジタル信号入力回路にて構成され、入力端子1601から入力されるブレーキ信号、入力端子1602から入力されるシフト信号、及び入力端子1603から入力される始動信号をTTLレベルの信号に変換する。
【0079】
ハイブリッド制御装置16の制御を実行する制御ユニット1630は、公知のシングルチップマイクロコンピュータを主体に構成され、制御プログラムやデータが格納されているROM、演算に必要なRAM、アナログ信号を取り込むA/Dコンバータ、シリアル通信機能部などが内蔵されている。この制御ユニット1630は、前記アナログ信号入力部1610及びデジタル信号入力部1620に接続されており、前記アクセルセンサ7の検出結果に基づくアクセル開度ACC、前記ブレーキセンサ8の検出結果に基づくブレーキ状態BRK、前記シフトスイッチ9のシフト信号に基づくシフト位置SFT、及び前記始動スイッチ10のON/OFF信号に基づく始動状態STAを取り込む。
【0080】
通信バッファ回路よりなる通信部1640,1650は同一の構成からなり、一方の通信部1640は制御ユニット1630と通信端子1604との間に設けられ、他方の通信部1650は制御ユニット1630と通信端子1605との間に設けられている。
【0081】
次に、制御ユニット1630に内蔵のROMに格納されている制御プログラムの構成について、図14〜図20を用いて説明する。
図14に示すプログラムは、ハイブリッド制御装置16内の制御ユニット1630により実行されるメインプログラムであり、iGキースイッチが投入されることで起動する。起動後、先ずステップS5400では初期化が行われる。この初期化では、制御ユニット1630に内蔵されている入出力ポートや通信ポートの初期状態の設定、同じく制御ユニット1630に内蔵されているRAMに割り付けられた変数領域のデータの初期設定、並びにスタックポインタの初期設定などが行われる。
【0082】
その後、ステップS5402ではアナログ信号入力部1610から入力されるアクセル信号をA/D変換して、変換後の信号をアクセル開度ACCとして取り込む。次のステップS5404では、デジタル信号入力部1620から入力されるブレーキ信号に対応するブレーキ状態BRKを取り込む。ブレーキ状態BRKは、ブレーキが操作されると”1”となり、ブレーキが操作されなければ”0”となるように論理が構成されている。
【0083】
また、ステップS5406では、デジタル信号入力部1620から入力されるシフト信号に対応するシフト位置SFTを取り込む。シフト位置SFTは、4ビットパラレル信号であり、駐車(P)、後退(R)、中立(N)、前進(D)などの各位置にシフトスイッチ9が操作されれば、それぞれSFT値が”1”、”2”、”4”、”8”となるように論理が構成されている。さらに、ステップS5408では、デジタル信号入力部1620から入力される始動信号に対応する始動状態STAを取り込む。始動状態STAは、iGキースイッチの操作により始動操作されると”1”となり、始動操作されなければ”0”となるように論理が構成されている。
【0084】
その後、ステップS5410では、通信部1650を介してインバータ装置14から第1の回転電機2000の回転数Nm1 を受信し、続くステップS5412では、同じく通信部1650を介してインバータ装置14から第2の回転電機3000の回転数Nm2 を受信する。さらに、ステップS5414では、回転数Nm2 に基づき下記の数式(2)により車速Vを演算する。
【0085】
V=C1 ・Nm2 ・・・(2)
但し、上記数式(2)においてC1 は予め設定されている係数である。
その後、ステップS5416〜S5432では、前記ステップS5406及びS5408で取り込んだシフト位置SFT及び始動状態STAに基づいて、車両状態に応じたハイブリッド制御を実施する。
【0086】
つまり、ステップS5416では、始動状態STAが”1”であるか否かを判別し、STA=”1”であれば、当該ステップを肯定判別してステップS5418に進む。かかる場合、エンジン始動状態であるため、ステップS5418で後述するエンジン始動処理(図15の処理)を実行し、その後ステップS5434に進む。また、前記ステップS5416で始動状態STAが”0”であれば、当該ステップを否定判別してステップS5420に進む。かかる場合には、エンジン始動状態でないため、ステップS5420,S5424,S5428にてシフト位置SFTの判別を行う。
【0087】
ここで、ステップS5420では、シフト位置SFTが”1”であるか否かを判別し、シフト位置SFTが”1”であれば、同ステップを肯定判別してステップS5422に進む。この場合、SFT=”1”であることはシフト位置が駐車(P)位置にあることを意味し、ステップS5422で後述するPレンジの処理(図17の処理)を実行した後ステップS5434に進む。また、前記ステップS5420でシフト位置SFTが”1”でなければ、当該ステップを否定判別してステップS5424に進む。
【0088】
ステップS5424では、シフト位置SFTが”2”であるか否かを判別し、シフト位置SFTが”2”であれば当該ステップを肯定判別してステップS5426に進む。この場合、SFT=”2”であることはシフト位置が後退(R)位置にあることを意味し、ステップS5426で後述するRレンジの処理(図18の処理)を実行した後ステップS5434に進む。また、前記ステップS5424でシフト位置SFTが”2”でなければ、当該ステップを否定判別してステップS5428に進む。
【0089】
ステップS5428では、シフト位置SFTが”4”であるか否かを判別し、シフト位置SFTが”4”であれば当該ステップを肯定判別してステップS5430に進む。この場合、SFT=”4”であることはシフト位置がニュートラル(N)位置にあることを意味し、ステップS5430で後述するNレンジの処理(図19の処理)を実行した後ステップS5434に進む。また、前記ステップS5428でシフト位置SFTが”4”でなければ、当該ステップを否定判別してステップS5432に進む。
【0090】
上記のステップS5420,S5424,S5428が全て否定判別された場合、シフト位置SFTは”8”であるとみなされる。この場合、SFT=”8”であることはシフト位置が前進(D)位置にあることを意味し、ステップS5432で後述するDレンジ処理(図20の処理)を実行した後ステップS5434に進む。ステップS5434では、iGキースイッチがOFFされているか否かを判別し、OFFされていなければ(NOの場合)、ステップS5402に戻って上述の処理を繰り返す。また、iGキースイッチがOFFされていれば(YESの場合)、本プログラムを終了する。
【0091】
次に、上記図14に示すプログラムにおけるステップS5418のエンジン始動処理について、図15のフローチャートを用いて説明する。このエンジン始動処理において、先ずステップS5500では車両駆動トルク指令値Mv* を「0」にクリアすると共に、続くステップS5502では車両駆動パワー要求値Pv* に「0FFFFH(16進数)」をセットする。次のステップS5504では、前記ステップS5502にてセットした車両駆動パワー要求値Pv* を通信部1640に出力することでエンジン制御装置13に送信する。さらに、ステップS5506では、エンジン制御装置13に接続されている通信端子1604を経由して通信部1640からエンジン回転数指令値Ne* を受信する。
【0092】
その後、ステップS5508では、前記受信したエンジン回転数指令値Ne* を判断し、Ne* 値が始動完了を表す「0FFFFH(16進数)」であればステップS5514に進む。ステップS5514では、第1及び第2のトルク指令値Mm1*,Mm2*を「0」にクリアしてステップS5516に進む。
【0093】
一方、前記ステップS5508で判断したエンジン回転数指令値Ne* が始動途中であることを表す「0FFFEH(16進数)」であればステップS5510に進む。ステップS5510では、第1のトルク指令値Mm1*をエンジン制御装置13から通信部1640を介して受信する。なおこの際、第1のトルク指令値Mm1*として受信されるデータは、前記図22のマップにて検索される始動トルク指令値Msta*となる。次のステップS5512では、第2のトルク指令値Mm2*を数式(3)により演算してステップS5516に進む。
【0094】
Mm2*=−Mm1* ・・・(3)
ステップS5516では、第1及び第2のトルク指令値Mm1*,Mm2*(第1及び第2の回転電機2000,3000のトルク指令値)を制御ユニット1630に内蔵の通信ポート及び通信部1650を介してインバータ装置14に送信する。
【0095】
次に、前記図14に示すプログラムにおけるステップS5422のPレンジ処理(駐車時の処理)について、図17のフローチャートを用いて説明する。このPレンジ処理において、先ずステップS5700では、車両駆動トルク指令値Mv* を「0」にクリアし、次のステップS5702では、車両駆動パワー要求値Pv* を「0」にクリアする。その後、ステップS5704では、前記ステップS5702にてセットした車両駆動パワー要求値Pv* をエンジン制御装置13に送信する。
【0096】
さらに、ステップS5706では、エンジン制御装置13に接続されている通信端子1604を経由して通信部1640からエンジン回転数指令値Ne* を受信する。また、ステップS5708では、第1及び第2の回転電機2000,3000の各トルク指令値である第1及び第2のトルク指令値Mm1*,Mm2*にそれぞれ「0FFFFH」のデータを設定する。この場合、「Mm1*,Mm2*=0FFFFH」のデータは、第1又は第2の回転電機2000,3000への通電をOFFさせるための情報として用いられる(前記図11の制御プログラムを参照)。
【0097】
その後、ステップS5710では、第1及び第2のトルク指令値Mm1*,Mm2*を制御ユニット1630に内蔵の通信ポート及び通信部1650を介してインバータ装置14に送信する。
【0098】
次に、前記図14に示すプログラムにおけるステップS5426のRレンジ処理(後退時の処理)について、図18のフローチャートを用いて説明する。このRレンジ処理において、先ずステップS5800では車両駆動トルク指令値Mv* を演算する。この演算は、車速V、アクセル開度ACC、ブレーキ状態BRK及びシフト位置SFTを入力パラメータとしてマップ検索により行われる。つまり、制御ユニット1630に内蔵のROMには、例えば図21(a)に示す特性からなるマップが記憶保持されている。図21(a)は、シフト位置SFTが”R”レンジの場合の特性であって、車速V、アクセル開度ACC及びブレーキ状態BRKをパラメータとする車両駆動トルク指令値Mv* の特性を示す。なお、図21において、車速Vは車両の最高車速で正規化したものであるが、記憶されているマップ値は車速Vの絶対値で検索されるようになっている。
【0099】
さらに、ステップS5802では、車両駆動パワー要求値Pv* を演算する。この演算では、係数Ca 、車両駆動トルク指令値Mv* 及び車速Vに基づき、
Pv* =Ca ・Mv* ・V
といった数式により車両駆動パワー要求値Pv* が求められる。
【0100】
その後、ステップS5804では、前記ステップS5802にて演算した車両駆動パワー要求値Pv* をエンジン制御装置13に送信する。また、続くステップS5806ではエンジン制御装置13に接続されている通信ポートからエンジン回転数指令値Ne* を受信する。さらに、ステップS5808では、第1及び第2の回転電機2000,3000の各トルク指令値である第1及び第2のトルク指令値Mm1*,Mm2*を演算する。この演算は、図16に示すサブルーチンを呼び出すことで実行される。さらに、続くステップS5810では、前記ステップS5808にて演算した第1及び第2のトルク指令値Mm1*,Mm2*を制御ユニット1630に内蔵の通信ポート及び通信部1650を介してインバータ装置14に送信する。
【0101】
ここで、前記ステップS5808で呼び出されるサブルーチンを図16に従って説明する。
先ずステップS5600では、エンジン制御装置13から受信したエンジン回転数指令値Ne* が「0FFFFH」であるか否かを判別する。このステップが肯定判別されればステップS5606に進み、第1のトルク指令値Mm1*を「0」に設定した後、ステップS5608に進む。また、ステップS5600が否定判別されればステップS5602に進み、エンジン回転数指令値Ne* と現在のエンジン回転数Neとに基づいて回転数偏差εi を次の数式(4)により演算する。
【0102】
但し、上記数式(4)において、C2 は予め設定されている係数であり、iは演算回数を表す符号である。
【0103】
なおここで、現在のエンジン回転数Neは、図2に示す第1の回転子2010及びエンジン1の出力軸2と同一の回転数である。従って、インバータ装置14から受信した第1及び第2の回転電機2000,3000のそれぞれの回転数Nm1 及びNm2 に基づき、次の数式(5)から現在のエンジン回転数Neが算出されるようになっている。
【0104】
Ne=Nm1 +Nm2 ・・・(5)
回転数偏差εi の演算後、ステップS5604では、第1の回転電機2000に指令する第1のトルク指令値Mm1*を次の数式(6)により演算する。
【0105】
但し、上記数式(6)において、K1 ,K2 ,K3 は予め設定されている係数である。
【0106】
さらに、ステップS5608では、車両駆動トルク指令値Mv* を用い、第2の回転電機3000に指令するトルク指令値Mm2*を次の数式(7)により演算する。
【0107】
Mm2*=Mv* −Mm1* ・・・(7)
このトルク指令値Mm2*の演算後、サブルーチンを呼び出した元のプログラムに戻る。
【0108】
次に、前記図14に示すプログラムにおけるステップS5430のNレンジ処理(ニュートラル時の処理)について、図19のフローチャートを用いて説明する。このNレンジ処理において、先ずステップS5900では、車両駆動トルク指令値Mv* を「0」にクリアし、続くステップS5902では、車両駆動パワー要求値Pv* を「0」にクリアする。その後、ステップS5904では、前記ステップS5902にてセットした車両駆動パワー要求値Pv* をエンジン制御装置13に送信する。
【0109】
さらに、ステップS5906ではエンジン制御装置13に接続されている通信ポートからエンジン回転数指令値Ne* を受信する。また、ステップS5908では、第1及び第2の回転電機2000,3000の各トルク指令値である第1及び第2のトルク指令値Mm1*,Mm2*を共に「0」にクリアし、続くステップS5910では、第1及び第2のトルク指令値Mm1*,Mm2*を制御ユニット1630に内蔵の通信ポート及び通信部1650を介してインバータ装置14に送信する。
【0110】
次に、前記図14に示すプログラムにおけるステップS5432のDレンジ処理(前進時の処理)について、図20のフローチャートを用いて説明する。このDレンジ処理において、先ずステップS6000では車両駆動トルク指令値Mv* を演算する。この演算は、車速V、アクセル開度ACC、ブレーキ状態BRK及びシフト位置SFTを入力パラメータとしてマップ検索により行われる。つまり、制御ユニット1630に内蔵のROMには、例えば図21(b)に示す特性からなるマップが記憶保持されている。図21(b)は、シフト位置SFTが”D”レンジの場合の特性であって、車速V、アクセル開度ACC及びブレーキ状態BRKをパラメータとする車両駆動トルク指令値Mv* の特性を示す。なお、同図21(b)のマップは、基本的に前記図21(a)と同様の構造を有する。
【0111】
さらに、ステップS6002では、車両駆動パワー要求値Pv* を演算する。この演算では、係数Ca 、車両駆動トルク指令値Mv* 及び車速Vに基づき、
Pv* =Ca ・Mv* ・V
といった数式により車両駆動パワー要求値Pv* が求められる。
【0112】
その後、ステップS6004では、前記ステップS6002にて演算した車両駆動パワー要求値Pv* をエンジン制御装置13に送信する。ステップS6006では、エンジン制御装置13に接続されている通信ポートからエンジン回転数指令値Ne* を受信する。さらに、ステップS6008では、第1及び第2の回転電機2000,3000の各トルク指令値である第1及び第2のトルク指令値Mm1*,Mm2*を演算する。この演算は、Rレンジ処理(前記図18のルーチン)と同様に、前記図16のサブルーチンを呼び出すことで行われる。最後に、ステップS6010では、第1及び第2のトルク指令値Mm1*,Mm2*を制御ユニット1630に内蔵の通信ポート及び通信部1650を介してインバータ装置14に送信する。
【0113】
なお因みに、本実施の形態では、ハイブリッド制御装置16の制御ユニット1630による図16の処理が請求項記載の始動トルク値設定手段に相当する。また、エンジン制御装置13が第1の制御装置に相当し、ハイブリッド制御装置16が第2の制御装置に相当する。
【0114】
以上の構成による本実施の形態の動作について、以下には、(イ)始動状態、(ロ)前進走行状態、及び(ハ)後退走行状態に区分して説明する。
(イ)始動状態
先ず、始動状態について説明する。さて、図示しないiGキースイッチが投入されると、エンジン制御装置13とインバータ装置14及びハイブリッド制御装置16に、図示しない12V〔ボルト〕の補機電池より電源が供給される。これにより、エンジン制御装置13内の制御ユニット1306、インバータ装置14内の制御ユニット1427及びハイブリッド制御装置16内の制御ユニット1630がそれぞれのROMに格納した各種プログラムを起動する。
【0115】
この始動当初においてエンジン制御装置13の動作を前記図4のプログラムを参照して説明すれば、かかる場合には、エンジン1が回転していないために空気は吸入されず、その際に取り込まれる吸入空気量Q並びにその際に演算される回転当たりの吸気量Qoは共に「0」になる(図4のステップS5002,S5006)。従って、噴射時間TAUは無効噴射時間Tvのみとなり(ステップS5010,S5011)、噴射信号TAUを出力してもエンジン1には燃料が供給されず(ステップS5014)、エンジン1は停止状態を保持する。
【0116】
また、インバータ装置14では、iGキースイッチの投入により前記図11のプログラムが起動される。そして先ずは、第1及び第2のトルク指令値Mm1*,Mm2*や電流指令値im1d* ,im2d* ,im1q* ,im2q* が「0」に初期化される(図11のステップS5200)。iGキースイッチ投入直後は外部機器との通信が行われないため(ステップS5204がNO)、ステップS5206〜S5218の処理は実行されない。この場合、前記図12のフローチャートで実行される第1及び第2の回転電機2000,3000のトルク制御ではトルクが「0」で制御されることになる。また、図11のステップS5220,S5222で取り込まれる回転数Nm1 ,Nm2 も「0」であるため、第1及び第2の回転電機2000,3000の回転数情報として、「Nm1 =0」及び「Nm2 =0」のデータがハイブリッド制御装置16に送信される(ステップS5226)。
【0117】
一方、ハイブリッド制御装置16では、iGキースイッチの投入により前記図14のプログラムが起動される。そして、iGキースイッチの投入に伴い始動スイッチ10が「ON」になると、始動状態STAが”0”から”1”に移行し、その始動状態STAが取り込まれる(図14のステップS5408)。この時点では、エンジン1は回転しておらず、且つ第1及び第2の回転電機2000,3000もまた回転していないので、インバータ装置14より受信する第1及び第2の回転電機2000,3000の回転数Nm1 ,Nm2 は共に「0」となっている(ステップS5410,S5412)。
【0118】
この場合、始動状態STAが”1”になると(ステップS5416がYES)、始動処理が実行される(ステップS5418)。この始動処理では、前記図15のプログラムにおいて車両駆動トルク指令値Mv* が「0」に設定されると共に、車両駆動パワー要求値Pv* が「0FFFFH(16進数)」に設定されてエンジン制御装置13に送信される(ステップS5500〜S5504)。なお既述した通り、「0FFFFH」のデータは、エンジン1の始動状態を表す情報であり、車両駆動パワー要求値そのものの絶対値ではない。
【0119】
また、エンジン制御装置13では、前記図5の割り込みプログラムにおいて受信割込が発生すると、車両駆動パワー要求値Pv* が受信される(ステップS5100)。このとき、当該Pv* 値がエンジン始動状態を表すデータであるため、ステップS5102が肯定判別され、例えばエンジン回転数Neに基づいてエンジン1の完爆がチェックされる(ステップS5110,S5112)。エンジン1の始動開始当初はエンジン1は回転していないので完爆していない旨が判定され(ステップS5112がNO)、エンジン回転数指令値Ne* に始動続行のための情報データである「0FFFEH」が設定されると共に、吸入空気量調節量THに「0」が設定される(ステップS5114,S5116)。また、スロットルアクチュエータ6が制御されてスロットル弁5が全閉駆動される(ステップS5124)。さらに、エンジン回転数指令値Ne* (=0FFFEH)がハイブリッド制御装置16に送信され(ステップS5126)、始動続行が指令される。
【0120】
この始動途中の状態下において、エンジン制御装置13では、始動を続行するための始動トルク指令値Msta*がマップ検索される。このとき、当初はエンジン回転数Neが「0」近傍であるため、図22に示す最大値付近の始動トルク指令値Msta*が設定され、この設定値がハイブリッド制御装置16に送信される(ステップS5130,S5132)。
【0121】
ハイブリッド制御装置16では、エンジン回転数指令値Ne* が受信されると共に、このNe* 値の情報データから始動完了かどうかが判別される(図15のステップS5506,S5508)。Ne* =0FFFEHであれば、始動完了とは判断されず、始動続行中である旨が判断される(ステップS5508がYES)。そして、エンジン制御装置13から送信される始動トルク指令値Msta*が第1のトルク指令値Mm1*として受信されると共に、
Mm2*=−Mm1*
として第2のトルク指令値Mm2*が演算される(ステップS5510,S5512)。該演算された第1及び第2のトルク指令値Mm1*,Mm2*はインバータ装置14に送信される(ステップS5516)。
【0122】
上記の如く第1及び第2のトルク指令値Mm1*,Mm2*がインバータ装置14に送信されると、当該インバータ装置14では、データ受信の旨が確認され(図11のステップS5204がYES)、第1及び第2のトルク指令値Mm1*,Mm2*が取り込まれてメモリに格納される(ステップS5206)。そして、Mm1*≠0FFFFHであれば(ステップS5208がNO)、第1の回転電機2000に通電する電流指令値としてd軸及びq軸電流指令値im1d* ,im1q* が演算され、この演算値がメモリに格納される(ステップS5212)。また、Mm2*≠0FFFFHであれば(ステップS5214がNO)、第2の回転電機3000に通電する電流指令値としてd軸及びq軸電流指令値im2d* ,im2q* が演算され、この演算値がメモリに格納される(ステップS5218)。
【0123】
こうして演算された電流指令値im1d* ,im1q* ,im2d* ,im2q* に基づき、インバータ装置14では、前記図12に示すプログラムに従って第1及び第2の回転電機2000,3000が制御される。さらに、第1及び第2の回転電機2000,3000の回転数Nm1 ,Nm2 が演算されると共に、当該Nm1 ,Nm2 値がハイブリッド制御装置16に送信される(ステップS5220〜S5226)。
【0124】
以上の動作により、エンジン1は第1及び第2の回転電機2000,3000を制御することで始動され、エンジン回転数Neが上昇するにつれてマップ検索による始動トルク指令値Msta*が下降する。そして、エンジン1のフリクショントルクと始動トルク指令値Msta*とが一致したところでエンジン1が始動回転し、当該エンジン1が燃焼回転するとエンジン制御装置13で完爆の旨が判別される(図5のステップS5112がYES)。つまり、例えばエンジン回転数Neが所定の回転数(アイドル回転数Neidl )に達して完爆条件が成立すると、「Ne* =0FFFFH」がセットされ、それ以降、始動トルク指令値Msta*の設定処理が実施されることはない(Msta*=0となる)。なお因みに、「Ne* =0FFFFH」がセットされる前に、エンジン回転数Neが図22の「Ne0 」に達したことが判断された場合には、その時点で図22の特性に基づき始動トルク指令値Msta*に「0」が設定される。
【0125】
そして、エンジン回転数指令値Ne* として「0FFFFH」がハイブリッド制御装置16に送信される。この送信信号を受けて、ハイブリッド制御装置16では、図15のステップS5508にてNe* =0FFFFHである旨が判別され、第1及び第2のトルク指令値Mm1*,Mm2*に「0」が設定される(ステップS5514)。従って、この状態でiGキースイッチの始動スイッチがOFFされると、エンジンはアイドル状態で回転し、車両は停止状態のまま保持されることとなる。
【0126】
(ロ)前進走行状態
次に、シフトレバーを”D”レンジに操作した状態、すなわち前進走行状態について説明する。つまり、シフトレバーを”D”レンジに操作すると、ハイブリッド制御装置16にて取り込まれるシフト位置SFTが”8”となり、Dレンジの処理が実行される(前記図14のステップS5432)。Dレンジ処理の詳細は前記図20に示すプログラムが適用される。このとき、アク
セル開度ACCが「0」であれば始動完了後の状態と同じであるが、アクセルペダルが踏み込み操作されると、Dレンジ処理における車両駆動トルク指令値Mv* がアクセル開度ACCに応じて増大する(図20のステップS6000)。この演算は、制御ユニット1630内蔵のROMのデータ領域に記憶されている図21(b)に示す特性に基づいて実施される。
【0127】
例えば車両が停止している状態からアクセル開度ACCが20%になると(但し、BRK=OFF)、車両駆動トルク指令値Mv* は最大トルク(Mv* =1.0)の20%の値になる。また、このDレンジ処理では、車両駆動トルク指令値Mv* 及び車速Vに応じて車両駆動パワー要求値Pv* が演算される(ステップS6002)。なお、車両が停止している状態では車速V=0であるのため車両駆動パワー要求値Pv* は「0」となる。こうして演算された車両駆動パワー要求値Pv* がエンジン制御装置13に送信される(ステップS6004)。
【0128】
エンジン制御装置13では、前記ハイブリッド制御装置16から送信される車両駆動パワー要求値Pv* を受信する(図5のステップS5100)。このとき、Pv* =0であれば、ステップS5102が否定判別されると共に、ステップS5104が肯定判定される。そのため、エンジン回転数指令値Ne* が「0FFFFH」に設定されると共に、吸入空気量調節量THが「0」に設定される(ステップS5120,S5122)。なおこのとき、吸入空気量調節量THが「0」で制御されるため、エンジン1はアイドル状態のまま維持される。一方、ハイブリッド制御装置16では、車両が停止状態で且つエンジン1がアイドル回転状態であるため、第1の回転電機2000の回転数Nm1 としてエンジン回転数Neと同じ回転数データが受信されると共に、第2の回転電機3000の回転数Nm2 として車両停止時の回転数データ(Nm2 =0)が受信される(図14のステップS5410,S5412)。
【0129】
また、ハイブリッド制御装置16では、Dレンジの詳細プログラムである図20の処理が実行されるが、この際、当初はエンジン制御装置13より受信したエンジン回転数指令値Ne* が「0FFFFH」であるため、図20のステップS6008で呼び出される図16のサブルーチンにおいてステップS5600が肯定判定される。従って、第1のトルク指令値Mm1*が「0」に設定されると共に、第2のトルク指令値Mm2*が車両駆動トルク指令値Mv* と同一の値として設定される(図16のステップS5606,S5608)。この2つのトルク指令値Mm1*,Mm2*はインバータ装置14に送信されて同インバータ装置14にて第1及び第2の回転電機2000,3000がトルク制御される。つまり、エンジン1はアイドル状態のまま保持され、第2の回転電機3000の出力トルクのみで車両が発進加速されることになる。
【0130】
そして、車両が発進して車速Vが生じると、図20に示すプログラムにおいて、ステップS6002で演算される車両駆動パワー要求値Pv* が「0」でなくなり、このパワー要求値Pv* がエンジン制御装置13に送信される(ステップS6004)。
【0131】
エンジン制御装置13では、受信割込みにより図5に示す割込みプログラムが起動し、前記ハイブリッド制御装置16にて演算された車両駆動パワー要求値Pv* が読み込まれメモリに格納される(ステップS5100)。このとき、かかる車両の走行状態下では、図5のステップS5102,S5104が共に否定判定され、ステップS5106の処理が実施される。つまり、図8に示すエンジン特性マップを検索することにより、前記読み込んだ車両駆動パワー要求値Pv* (図8の曲線B)からエンジン1が最も効率良くトルクを出力する動作点(図8の点C)と、その動作点に対応するエンジン回転数指令値Ne* とが決定され、メモリ記憶データが更新される。
【0132】
また、図9に示すエンジン特性マップを検索することにより、前記動作点(図8の点C)を維持するためのスロットル弁5の開度であるスロットル開度目標値θTH* が決定されると共に、このスロットル開度目標値θTH* に基づいて吸入空気量調節量THが演算されてメモリ記憶データが更新される(ステップS5108)。そして、前記演算した吸入空気量調節量THによりスロットルアクチュエータ6が制御されると(ステップS5124)、エンジン1は車両駆動パワー要求値Pv* 通りの出力トルクを発生するようになる(吸入空気量が適正に調節される)。また、エンジン1の出力トルクの発生(スロットル制御)と同時に、エンジン回転数指令値Ne* がハイブリッド制御装置16に送信される(ステップS5126)。このエンジン回転数指令値Ne* は、例えばアクセル開度が20%増大することで現在のエンジン回転数Neに比べて増大した値となる。
【0133】
上記のエンジン回転数指令値Ne* はハイブリッド制御装置16にて受信される(図20のステップS6006)。ハイブリッド制御装置16では、エンジン回転数指令値Ne* に基づいて第1及び第2の回転電機2000,3000のトルク指令値である第1及び第2のトルク指令値Mm1*,Mm2*が演算され、このMm1*値,Mm2*値がインバータ装置14に送信される(ステップS6008,S6010)。
【0134】
このとき、第1及び第2のトルク指令値Mm1*,Mm2*は、既述した通り図16に示すプログラムに基づき演算される。すなわち、ハイブリッド制御装置16では、エンジン制御装置13より送信されたエンジン回転数指令値Ne* と、インバータ装置14より受信した第1及び第2の回転電機2000,3000の各回転数Nm1 ,Nm2 に基づく実際のエンジン回転数Neとから回転数偏差εi が演算され(図16のステップS5602)、この回転数偏差の今回値εi 、前回値εi-1 及び前々回値εi-2 から第1の回転電機2000のトルク指令値である第1のトルク指令値Mm1*が演算される(ステップS5604,数式(6))。
【0135】
その後、インバータ装置14では、ハイブリッド制御装置16から第1のトルク指令値Mm1*が取り込まれ(図11のステップS5206)、このMm1*値に基づいて第1の回転電機2000をトルク制御する。このとき、インバータ装置14が第1のトルク指令値Mm1*にて第1の回転電機2000をトルク制御すると、エンジン1は第1の回転電機2000を負荷として回転することになる。かかる場合、エンジン1が車両駆動パワー要求値Pv* を出力しているので、このパワー要求値Pv* にバランスするように第1の回転電機2000は発電をする。
【0136】
第1の回転電機2000が発電をするとき、第1の回転子2010(図2参照)にはエンジン1を負荷として第2の回転子2310(図2参照)との間で電磁力Mm1 が作用する。そのため、エンジン1の発生トルクの反作用トルク(電磁力)Mm1 が第2の回転子2310に伝達され、さらには減速伝達部4000にもトルク伝達されることになる。この反作用トルクMm1 は、第1の回転電機2000のトルク指令値である第1のトルク指令値Mm1*に等しくなるよう制御される。
【0137】
一方、ハイブリッド制御装置16では、車両駆動トルク指令値Mv* から第1のトルク指令値Mm1*を差し引いて、第2の回転電機3000のトルク指令値である第2のトルク指令値Mm2*が演算される(図16のステップS5608,数式(7))。そして、この第2のトルク指令値Mm2*がインバータ装置14に送信され、当該インバータ装置14では前記Mm2*値に基づいて第2の回転電機3000をトルク制御する。
【0138】
このとき、ステータ3010と第2の回転子2310との間で発生するトルクが第2のトルク指令Mm2*となって当該トルク制御が実施されるため、第2の回転子2310には第1の回転電機2000のトルク指令値である第1のトルク指令値Mm1*と第2の回転電機3000のトルク指令値である第2のトルク指令値Mm2*との合成トルクが作用することになる。すなわち、車両駆動トルク指令値Mv* と同じトルクが第2の回転子2310に伝達され、さらには減速伝達部4000にもトルク伝達される。従って、車両駆動トルク指令値Mv* 通り(Mv* =Mm1*+Mm2*)に車両が駆動されることになる。
【0139】
上記した車両走行時における電力収支を考える。かかる場合、次の数式(8)に示すように、エンジン1により発生しているトルクMeと、第1の回転電機2000の発生トルクMm1 とが釣り合う。
【0140】
Me=Mm1 ・・・(8)
また、エンジン1が発生している電力Peは、エンジン回転数Neとエンジン出力トルクMeとから次の数式(9)に基づき算出される。
【0141】
Pe=C・Ne・Me ・・・(9)
但し、上記数式(9)においてCは予め設定されている係数である。
さらに、第1の回転電機2000の発生電力Pm1 は、当該第1の回転電機2000の回転数Nm1 と発生トルクMm1 とから次の数式(10)に基づき算出される。
【0142】
Pm1 =C・Nm1 ・Mm1 ・・・(10)
但し、上記数式(10)においてCは予め設定されている係数である。
ここで、第1の回転電機2000における第1の回転子2010と第2の回転子2310とは互いに作用、反作用の関係を有することから、第1の回転子2010に発生するトルクMm1 と同一のトルクが第2の回転子2310に発生する。そして、第2の回転子2310に発生するトルクとエンジン回転数Neにより求められる電力は、エンジン1の発生電力Peと第1の回転電機2000の発生電力Pm1 との差であること、並びに前記数式(8)〜(10)を用いることから次の数式(11)にて算出できる。
【0143】
Pe−Pm1 =C・(Ne−Nm1 )・Me ・・・(11)
上記数式(11)は、エンジン1が出力するパワーの一部を第1の回転電機2000にて発電してエネルギを電気変換すると同時に、エンジン1の出力トルクMeが第1の回転電機2000を構成する第1の回転子2010と第2の回転子2310との間で電磁伝達されることを意味する。さらに、第2の回転電機3000を電動作動させ、前記数式(7)で演算される第2のトルク指令値Mm2*に基づくトルクを発生させることで、エンジン1の回転数とは無関係な車速でもって、走行に要求される車両駆動トルク指令値Mv* が発生する。このとき、第1及び第2の回転電機2000,3000とそれを駆動するインバータ装置14とのエネルギ変換効率を無視すると、第1の回転電機2000で発電した電力を第2の回転電機3000に供給することで、蓄電装置15から電力を持ち出さずにエンジン1で発生したエネルギを走行駆動系に伝達し、これにより車両が前進走行できるようになる。
【0144】
(ハ)後退走行状態
次に、シフトレバーを”R”レンジに操作した状態、すなわち後退走行状態について説明する。つまり、シフトレバーを”R”レンジに操作すると、ハイブリッド制御装置16が取り込むシフト位置SFTが”2”となって、図14のプログラムのステップS5424が肯定判定され、ステップS5426のRレンジの処理が実行される。Rレンジの処理の詳細は図18に示すプログラムが適用される。
【0145】
なお、図18のプログラムの概要は、上述した前進走行時における図20のDレンジ処理と一致する(但し、ステップ番号のみが異なる)。つまり、Rレンジ処理では、
・第2の回転電機3000の回転方向が逆となる、
・車両駆動トルク指令値Mv* の検索マップの特性として、Dレンジとは異なる図21(a)を用いる、
といった点とが相違するだけでそれ以外はDレンジ処理と一致するため、ここではその説明を省略する。
【0146】
以上詳述した本実施の形態によれば、以下に示す効果が得られる。
(a)本実施の形態のハイブリッド車制御システムでは、第1の回転電機2000はエンジン回転数指令値Ne* (目標回転数)に従いその回転数が制御される。このとき、エンジン特性に対応させつつエンジン1の燃費やエミッションが最良の状態となるエンジン動作点でエンジン1の運転が維持でき、高効率なエンジン作動を実現することができる。また、こうした構成において、車両駆動トルクは、第1の回転電機2000に発生するトルクと第2の回転電機3000により発生するトルクとの合計となり、車両運転情報に基づいて適正に制御されるようになる。このとき、第1の回転電機2000に発生するトルクはエンジン1の出力トルクとバランスし、エンジン1の出力トルクは車両駆動トルクの一部として電磁的に伝達される。そのため、効率の良いエネルギ伝達が実現できることになる。
【0147】
(b)また本実施の形態ではその特徴として、エンジン1の始動当初においてエンジン始動状態に応じた始動トルク指令値Msta*を第1のトルク指令値Mm1*として読み込んで設定すると共に、該設定した第1のトルク指令値Mm1*との和が「0」になるよう第2のトルク指令値Mm2*を設定するようにした(Mm1*+Mm2*=0)。この場合、エンジン始動時においてエンジン1と第1及び第2の回転電機2000,3000とのトルクバランスが好適な状態に保たれ、車両の挙動を安定させることができるようになる。その結果、第1の回転電機(第1モータ)2000のトルクが車両の駆動軸に反力として作用して車両が前進或いは後退したり、エンジン1の始動完了時にエンジン回転数が過上昇したりするなどの従来装置の不具合が解消できる。なお本実施の形態において、エンジン始動状態とは、完爆前のエンジン回転数がそれに相当する。
【0148】
(c)始動トルク指令値Msta*として、エンジン回転数Neの上昇に伴い減少する特性値を与えた。従って、エンジン始動時におけるエンジン回転数Neのオーバーシュートが抑制でき、始動フィーリングが向上する。また、エンジン始動時に必要以上のエネルギが使用されることはなく、結果としてエネルギ利用率が向上する。
【0149】
(d)さらに本実施の形態では、エンジン制御装置13とハイブリッド制御装置16との役割を既述の通り分担したため、例えばエンジン1が変更される場合にもエンジン制御装置13の仕様を変更するだけで対処でき、ハイブリッド制御装置16の仕様変更が強いられることはない。
【0150】
(e)また本実施の形態における動力伝達手段12の構成によれば、その動力伝達手段12の小型軽量化が可能となるため、車両重量が軽量化されてシステム効率を向上させることができる。
【0151】
(f)さらに、本制御システムでは、車両駆動パワー要求量Pv* に応じてエンジンパワーを必要量だけ出力し、エネルギ伝達過程に際して第1及び第2の回転電機2000,3000にてエネルギの授受を行なわせるようにした。そのため、蓄電装置15の充放電が極力抑制され、車両走行時における蓄電装置15の持ち出し量が少なくなる。従って、蓄電装置15の小型化を図ることができ、車両全体の効率が向上する。また、蓄電装置15の持ち出し量が少なくなるため、蓄電装置15として電池を用いてもその電池寿命を向上させることができる。
【0152】
(g)さらに、本実施の形態のハイブリッド車制御システムを搭載した自動車は、現在広く利用されている自動車に比較して画期的に低燃費な自動車として実現することができる。
【0153】
なお、本発明の実施の形態は、上記以外に次のように具体化できる。
上記実施の形態では、エンジン1の始動当初において第1及び第2のトルク指令値Mm1*,Mm2*の和が「0」になるよう各トルク指令値Mm1*,Mm2*を設定したが、この構成を変更してもよい。例えば第1及び第2のトルク指令値Mm1*,Mm2*の和の絶対値が「0」近傍の所定値以下になるよう各トルク指令値Mm1*,Mm2*を設定してもよく、かかる場合にも各トルク指令値Mm1*,Mm2*の絶対値の和を制限することで車両駆動力が発生せずにエンジン1が始動される。
【0154】
上記実施の形態では、始動トルク指令値Msta*として図22の特性を与えたが、これを変更してもよい。つまり、図22では、エンジン回転数Neの上昇に伴い直線的に減少する特性としたが、非線型的に減少する特性としてもよい。或いはNe=Ne0 で始動トルク指令値Msta*を「0」に規制することなく、始動トルク指令値Msta*を単調減少させる特性としてもよい。
【0155】
また、始動トルク指令値Msta*のマップ特性として、エンジン温度をパラメータとして追加してもよい。例えば図23に示すように、エンジン温度に応じて始動トルク指令値Msta*の特性を複数備えるようにする。この場合、エンジン温度が高いほど、始動トルク指令値Msta*が小さくなるような特性を与えたり、エンジン温度に応じてMsta*値の減少の傾きを変更したりすればよい。かかる構成によれば、エンジン1の冷間始動時など、多大で且つ意図しないフリクショントルクが作用するような場合にも、エンジン1を適切に始動させることができる。また、エンジン1の暖機過程においても好適な状態が維持できる。なおエンジン1の温度情報としては、エンジン冷却水の温度やシリンダ部の壁面温度を用いればよい。
【0156】
上記実施の形態では、図2に示す構成にて動力伝達手段12を具体化したが、ドイツ第4407666号明細書に示す構成や、特開平7−135701号公報に示す構成であってもよく、これら他の構成の電力伝達手段でも本発明が適用できる。また、エンジン制御装置13に吸入空気量調節手段(スロットルアクチュエータ6)の駆動機能を内蔵したが、エンジン制御装置13と分離しても本発明の主旨は変わるものではない。
【0157】
蓄電装置15として公知の電池を用いたが、フライホイールバッテリなどでもよいし、或いは電気二重層キヤパシタでもよいし、或いはそれらの併用であってもよい。
【0158】
また、エンジン1として直列4気筒のガソリン内燃機関を用いたが、気筒数は本発明とは無関係であるし、他の内燃機関であってもよい。例えば吸入空気量制御を必要としないガソリンエンジンや、ディーゼルエンジンを本発明のハイブリッド車制御システムに適用してもよい。
【0159】
エンジン制御装置13、インバータ装置14及びハイブリッド制御装置16の間の情報伝達の方法として、公知の調歩同期式の通信手段を用いたが、他の方法であっても本発明の主旨は変わるものではない。また、これら各装置13,14,16のそれ自身の構成や各装置13,14,16に振り分けられた各種演算は、既述の構成に限定されるものではなく、適宜変更して具体化してもよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】発明の実施の形態におけるハイブリッド車制御システムの概要を示す全体構成図。
【図2】動力伝達手段の構成を示す断面図。
【図3】エンジン制御装置の構成を示すブロック図。
【図4】エンジン制御装置による制御のメインプログラムを示すフローチャート。
【図5】エンジン制御装置による制御の割り込みプログラムを示すフローチャート。
【図6】エンジン制御装置に内蔵の吸気温補正係数fTHAの特性図。
【図7】エンジン制御装置に内蔵の暖機補正係数fWLの特性図。
【図8】エンジン制御装置が決定するエンジン動作点を示す特性図。
【図9】エンジン制御装置が決定するスロットル開度目標値を示す特性図。
【図10】インバータ装置の構成を示すブロック図。
【図11】インバータ装置による制御のメインプログラムを示すフローチャート。
【図12】インバータ装置による制御の割り込みプログラムを示すフローチャート。
【図13】ハイブリッド制御装置の構成を示すブロック図。
【図14】ハイブリッド制御装置による制御のメインプログラムを示すフローチャート。
【図15】ハイブリッド制御装置による始動処理プログラムを示すフローチャート。
【図16】ハイブリッド制御装置によるサブプログラムを示すフローチャート。
【図17】ハイブリッド制御装置によるPレンジプログラムを示すフローチャート。
【図18】ハイブリッド制御装置によるRレンジプログラムを示すフローチャート。
【図19】ハイブリッド制御装置によるNレンジプログラムを示すフローチャート。
【図20】ハイブリッド制御装置によるDレンジプログラムを示すフローチャート。
【図21】ハイブリッド制御装置が決定する車両駆動トルク指令値の特性図。
【図22】エンジン制御装置が決定する始動トルク指令値の特性図。
【図23】エンジン制御装置が決定する始動トルク指令値の特性図。
【符号の説明】
1…エンジン、7…アクセルセンサ、8…ブレーキセンサ、9…シフトスイッチ、10…始動スイッチ、12…動力伝達手段(動力変換手段)、13…第1の制御装置を構成するエンジン制御装置、14…インバータ装置、15…蓄電装置、16…第2の制御装置を構成するハイブリッド制御装置、1630…始動トルク値設定手段を構成する制御ユニット、2000…第1の回転電機、3000…第2の回転電機。
Claims (4)
- エンジンと、該エンジンに連結され、エンジン回転数を決定するための第1の回転電機及び車両の駆動力を決定するための第2の回転電機を含む動力変換手段と、前記第1及び第2の回転電機を駆動するためのインバータ装置と、該インバータ装置に電気的に接続された蓄電装置とを備えるハイブリッド車に適用され、
車両運転情報に応じて前記エンジンの出力トルクを制御すると共に、そのエンジンのトルク制御量とエンジン特性に対応する当該エンジンの目標回転数とに基づいて前記第1の回転電機に発生させる第1のトルク指令値と前記第2の回転電機に発生させる第2のトルク指令値とを演算し、該演算した各トルク指令値にて第1及び第2の回転電機を制御するようにした制御装置であって、
前記エンジンの始動当初において前記第1のトルク指令値にエンジン始動状態に応じた始動トルク値を設定すると共に、該設定した第1のトルク指令値との和の絶対値が所定値以下になるよう前記第2のトルク指令値を設定する始動トルク値設定手段を備えることを特徴とするハイブリッド車制御装置。 - 前記始動トルク値設定手段にて設定される始動トルク値は、前記エンジンの回転数の上昇に伴い減少する特性値である請求項1に記載のハイブリッド車制御装置。
- 前記始動トルク値設定手段にて設定される始動トルク値は、前記エンジンの温度の上昇に伴い減少する特性値である請求項2に記載のハイブリッド車制御装置。
- 主としてエンジン運転状態に基づく燃料噴射制御を実施するための第1の制御装置と、その第1の制御装置に対してエンジンのトルク制御量を指令すると共に前記インバータ装置の駆動を制御するための第2の制御装置とを備えるハイブリッド車制御装置であって、
前記エンジンの始動当初において、前記第1の制御装置がエンジン始動状態に応じて前記第1の回転電機の始動トルク値を演算し、前記第2の制御装置が第1の制御装置による前記演算結果を取り込んでその値を第1のトルク指令値として設定すると共に当該第1のトルク指令値との和の絶対値が所定値以下になるよう前記第2のトルク指令値を設定する請求項1に記載のハイブリッド車制御装置。
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