JP3632986B2 - 過給機付エンジンにおけるhcの排出量算出方法およびバルブタイミング設定方法 - Google Patents
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Description
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、過給機付エンジンにおいて吸・排気弁の開弁オーバラップ期間中の新気の吹き抜けに伴って排出されるHCの排出量を算出する方法と、それに基づくバルブタイミングの設定方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
最近、自動車のエンジン等の性能評価、設計等のため、コンピュータを用いた解析、計算により各種状態量等を求めるような方法が提案されている。例えば、特開平3−95681号公報には、エンジンとスタータとをバネ要素と振動要素とからなる振動系に置き換え、振動系をモデル化して、固有振動数の解析、モーダル質量等の演算、既に知られている振動系の単体特性の利用などにより、振動特性を求めるようにしたシミュレーション方法が示されている。
【0003】
また、文献「マツダ技報(1988 NO6)」には、シリンダ、サージタンク、エアクリーナおよびこれらの間の吸気管等からなるエンジンの吸気系につき、各部の圧力、温度、流量等をコンピュータシミュレーションにより求める方法が示されている。この方法は、上記吸気系を管モデル、容器モデル、境界モデル等のサブモデルの組合せとしてモデル化し、その各サブモデルについて状態量の演算を行なう。例えば、管モデルについては壁面摩擦係数、曲がり損失、管壁との熱交換等を考慮した質量、運動量、エネルギーの各保存式を基にして、管を等分割した各分割点での状態量から微少時間後の状態量を求め、容器モデルについてはエネルギー平衡式に基づいて容器内の状態量の変化等を求めるというような演算を行なう。そして、各モデルについての演算を、相互に演算値を反映させつつ状態量が収束するまで繰返し行なうようにしている。
【0004】
このようにコンピュータを利用した解析、演算により各種状態量などを求めるようにすると、設計段階において諸元の設定、変更等を行なう場合に、その都度試作して試験的に状態量を調べるようにする必要がなく、エンジン等の評価およびそれに応じた諸元の決定等を机上で簡単に行なうことができる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、吸気通路に過給機を設けた過給機付エンジンでは、排気弁の開弁期間と吸気弁の開弁期間とがオーバラップする開弁オーバラップ期間中に、過給機により加圧された新気が燃焼室に送り込まれることで燃焼室内の掃気作用が得られるという利点がある反面、新気の一部が排気ポートに吹き抜けて、その吹き抜け新気に含まれる燃料により、HC排出量が増加する可能性がある。そして、新気の吹き抜け量には、開弁オーバラップ期間の長さが関係するため、掃気性をもたせつつ新気の吹き抜けによるHC排出量の増大を抑えるように、吸・排気弁のバルブタイミング(開弁オーバラップ期間の長さ)を適正に設定することが要求される。そして、設計段階等でこのような要求を満足すべく検討を行なうためには、新気の吹き抜けによるHC排出量を調べる必要がある。
【0006】
従来、このような場合にHC排出量を計算で精度良く求める方法が開発されておらず、試作機についてHC排出量を実測しているのが実情である。しかし、設計段階でバルブタイミングや吸気系の諸元等を種々変更してHC排出量を調べようとすると、その都度試作して測定装置により実測を行なう必要があり、その作業が非常に面倒なものとなる。
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑み、設計段階などでバルブタイミング等を種々変更して新気の吹き抜けによるHC排出量を調べるような場合に、その都度実測を行なう必要がなく、計算によって簡単に、しかも精度良くHC排出量を求めることができる過給機付エンジンにおけるHCの排出量算出方法を提供し、またこの方法を利用してバルブタイミングを机上で容易に設定することができるバルブタイミング設定方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
請求項1に係る過給機付エンジンにおけるHCの排出量算出方法は、吸気ポート近傍に燃料を噴射するインジェクタを有する過給機付エンジンにおける吸・排気弁の開弁オーバラップ期間中のHC排出量を算出する方法であって、燃焼室形状を含むエンジン諸元およびエンジン回転数を含むエンジン作動条件を設定することにより吸・排気ポートの圧力および温度を求め、この求められた圧力および温度と上記エンジン諸元および上記エンジン作動条件に基づき、上記開弁オーバラップ期間中の排気ポートへ新気の吹き抜け量と燃焼室への吸気の充填量とを計算して、上記充填量に対する上記吹き抜け量の割合である吹き抜け割合を計算し、一方、実機での燃焼室からのHC排出量を上記設定されたエンジン作動条件と同一条件で実測しておき、同一条件下での上記吹き抜け割合の計算値と上記HC排出量の実測値との対比を上記エンジン作動条件を変更して少なくとも 2 組行うことで上記吹き抜け割合とHC排出量との対応関係を示す相関特性を求め、この相関特性から各種のエンジン作動条件下でのHCの排出量を算出するようにしたものである。
【0009】
この方法において、吸気ポートにおける上記インジェクタより下流の部分の容積を新気量に換算した値と、上記新気吹き吹け量の計算値とを比較し、この新気吹き吹け量が上記インジェクタ下流の容積の換算値よりも大きい場合には、インジェクタ下流の容積の換算値を新気吹き抜け量とすることが好ましい(請求項2)。
【0010】
また、上記排気ポートへの新気の吹き抜け量を、吸気ポート、燃焼室および排気ポートにわたる新気と既存ガスとの混合状態の推移について三次元解析を行なうことにより求めることが好ましい(請求項3)。
【0011】
この請求項3の発明において、上記吸・排気ポートの圧力および温度を一次元解析により求めるとともに、排気ポートへの新気の吹き抜け量を求めるための三次元解析を開弁オーバラップ期間中のみ行なうことが好ましい(請求項4)。
【0012】
さらに、上記三次元解析に基づき、排気ガス中の新気割合と燃焼室内ガス中の新気割合との比を近似式で与え、その後にHC排出量の演算を行なうときには上記近似式を用いて吹き抜け割合を一次元解析による計算で求めることが好ましい(請求項5)。
【0013】
請求項6に係るバルブタイミング設定方法は、請求項1乃至5のいずれかに記載のHCの排出量算出方法により求めたHC排気量と吸・排気弁のバルブタイミングとを対比させて、各種バルブタイミングにおけるHC排出量を調べ、これに基づいてバルブタイミングを設定するようにしたものである。
【0014】
【作用】
請求項1に係るHCの排出量算出方法によると、上記開弁オーバラップ期間中の新気の吹き抜け量と充填量との割合である吹き抜け割合が演算により求められる。そして、この吹き抜け割合だけではHC排出量の絶対値がわからないが、この吹き抜け割合の計算値とHC排出量の実測値との対比に基づいて吹き抜け割合とHC排出量との相関特性が求められ、この相関特性から上記吹き抜け割合の計算値に応じてHC排出量が計算で簡単に、かつ精度良く求められる。上記HC排出量の実測は、相関関係を求める際に行なわれるだけであって、相関特性が求められた後は実測を必要とせずにHC排出量が計算される。
【0015】
この方法において、請求項2記載のようにすると、HC排出量に関与しないインジェクタ上流からの新気が上記吹き抜け量に含まれている場合にその分が上記吹き抜け量の計算値から除外されることとなり、これより、上記相関特性が精度良く求められることとなる。
【0016】
また、請求項3記載のようにすると、三次元解析により新気の吹き抜け量が精度良く求められ、これに伴い、上記吹き抜け割合および上記相関特性が精度良く求められることとなる。
【0017】
請求項4記載のようにすると、吸・排気ポートの圧力および温度が一次元解析による計算で簡単に、かつ精度良く求められるとともに、一次元解析と比べると計算が複雑な三次元解析は、上記開弁オーバラップ期間についてだけ行なえばよいこととなる。
【0018】
請求項5記載のようにすると、上記近似式が与えられた後は、これを用いた一次元解析により上記吹き抜け割合が計算されることにより、計算が簡略化され、計算時間が短縮される。
【0019】
請求項6に係るバルブタイミング設定方法によると、上記のHCの排出量算出方法が利用されて、バルブタイミングの設定が容易に行なわれることとなる。
【0020】
【実施例】
図1は過給機付エンジンを模式的に示し、この図において、エンジンの各シリンダ1には吸気通路2および排気通路3が接続され、各シリンダ1の燃焼室4に吸気通路下流端側の吸気ポート5および排気通路上流端側の排気ポート6が開口している。上記吸気通路2には過給機7が設けられ、図示の例では機械式過給機が設けられている。さらに吸気通路2にはインタークーラ8、サージタンク9等が設けられ、また吸気ポートの近傍に燃料噴射を行なうインジェクタ10が配設されている。
【0021】
図2は燃焼室4およびポート部分を模式的に示し、この図において、吸気ポート5および排気ポート6には、各ポートを開閉する吸気弁11および排気弁12が設けられている。そして、一般に知られているように、排気行程で排気弁12が開かれ、これに続く吸気行程で吸気弁11が開かれるが、両者の開弁期間は一部オーバラップしている。また、この図では新気15を点描で表わすとともに、上記吸・排気弁11,12の開弁オーバラップ期間中の新気15の流れを矢印で示している。
【0022】
この図に示すように、過給機付エンジンでは、上記開弁オーバラップ期間中に、過給機7で加圧されて燃焼室4に送り込まれる新気15の一部が排気ポート6に吹き抜けることがある。この場合、吸気弁11周辺から燃焼室4に流入した新気が排気ポート6に向かう流れとしては、燃焼室4中央部を通って直線的に排気ポート6側に向かう流れのほかに、燃焼室4外周側や吸気弁11の下方等をまわって排気ポート6に向かうような流れもあり、三次元的なものとなる。
【0023】
本発明の方法では、上記のようなオーバラップ期間中の新気15の移動、分布を数値流体力学(CFD)で解析し、とくに上記のように排気ポート6側への新気15の流れが三次元的なものであることを考慮し、三次元CFDプログラムによって解析することにより、上記オーバラップ期間中の排気ポート6への新気吹き抜け量と燃焼室4への吸気の充填量とを求めて、上記充填量に対する新気15の吹き抜け量を計算により求めることとする。なお、上記充填量については、一次元解析で求めることもできる。
【0024】
上記三次元CFDによる解析にあたっては、エンジン諸元を設定するとともに吸・排気ポート5,6の圧力、温度を予測し、これらに基づいて解析、演算を行なう。この際、望ましくは、吸・排気系のすべてについて一次元CFDによる解析を行なうことにより、吸・排気ポート5,6の圧力、温度を計算し、これを境界条件として上記三次元解析を開弁オーバラップ期間において行なう。なお、上記吸・排気ポート5,6の圧力、温度(境界条件)の予測値として一定の値を設定しておき、三次元CFDによる解析をエンジンの1サイクルにわたって行なうようにしてもよい。ただし、三次元解析は一次元解析と比べると計算が複雑であって、エンジンの1サイクルにわたって三次元解析を行なうと計算量が膨大になり、演算処理時間が増大するため、上記のように一次元解析で求めた値を境界条件として、三次元CFDを開弁オーバラップ期間だけ行なうことが好ましい。
【0025】
上記一次元CFDのプログラムとしては、エンジンおよび吸・排気系の諸元に基づき過給圧の計算が可能なプログラムを用いる。
【0026】
また、上記三次元CFDのプログラムとしては、吸・排気バルブおよびピストンの作動を取扱うことができること、吸気と排気の2種類のガスの混合を考慮することができること、バルブを通過する各々のガスの時間的変化がわかることの各条件を満足するプログラムを用いる。このような三次元CFDプログラムは既に開発されているものである。
【0027】
このプログラムを用いた開弁オーバラップ期間中の三次元解析の手法の概略を説明すると、解析にあたっては、図3に示すように、吸気ポート5、燃焼室4および排気ポート6にわたって解析のための三次元メッシュを設定する。そして、この三次元メッシュの各部位についてそれぞれ、新気と既存ガス(燃焼室内残留ガスおよび排出ガス)との混合割合の一定微少時間毎の変化を、繰返し計算していく。これにより、開弁オーバラップ期間中の微少時間毎の各時点における新気の分布状態を解析、演算することができる。
【0028】
図4はこのような三次元解析により調べた開弁オーバラップ期間内の新気15の分布状態の変化を示しており、開弁オーバラップ期間の途中の時点から時系列的に図4(a)、(b)、(c)の順に新気15の分布状態が変化し、排気ポート6の新気ガス濃度が次第に増加する。そして、排気ポート部分の新気分布状態の変化から一定微少時間毎の新気吹き抜け量を求め、これを時間で積分することにより、開弁オーバラップ期間中の新気の吹き抜け量を計算することができる。
【0029】
HC排出量算出方法の全体の手順については、図5および図6に示す。
【0030】
図5に示す手順を説明すると、先ず、燃焼室形状等のエンジン主要諸元および吸・排気系の諸元を含むエンジン諸元を設定する(ステップS1)。次に、バルブタイミングおよびエンジン回転数等のエンジン作動条件を与える(ステップS2)。続いて、エンジン諸元等に基づき、上記一次元プログラムによる吸・排気系全体についての解析により、吸・排気ポート5,6の圧力および温度を計算する(ステップS3)。
【0031】
次に、上記三次元プログラムにより、上記一次元解析結果を境界条件として、開弁オーバラップ期間だけ三次元解析を行なう(ステップS4)。そして、上記開弁オーバラップ期間中の新気の吹き抜け量および充填量を求め、吹き抜け割合(新気吹き抜け量/充填量)を計算する(ステップS5)。
【0032】
この場合に、吸気ポート5における上記インジェクタ10より下流の部分の容積を新気量に換算した値と、上記の三次元解析で求めた新気吹き吹け量とを比較し、この新気吹き吹け量が上記インジェクタ下流の容積の換算値よりも大きい場合には、インジェクタ下流の容積の換算値を新気吹き抜け量とする。このようにしているのは、後述の吹き抜け割合とHC排出量との対応関係を確保するためである。すなわち、新気吹き吹け量が上記インジェクタ下流の容積の換算値よりも大きくなった場合は、インジェクタ上流からの新気も吹き抜けていることになるが、開弁オーバラップ期間中にHCが排出されるのはインジェクタから噴射されて下流側の新気と混合した燃料が吹き抜けることによるものであることから、インジェクタ上流からの新気はHC排出量には関与せず、これを含めた新気吹き抜け量はHC排出量に対応しなくなる。このため、新気吹き抜け量のうちでインジェクタ上流からの新気分は除くようにしているのである。
【0033】
上記ステップS2〜ステップS5の処理は、バルブタイミングおよびエンジン回転数等を変更して複数回繰返し、つまり、複数種のエンジン作動条件においてそれぞれ、上記三次元解析等を行なって吹き抜け割合を計算する。
【0034】
一方、実機についてHC排出量の実測を行なっておく(ステップS6)。この実測もエンジン作動条件を変えて複数回行ない、最低限2回行なう。
【0035】
そして、上記ステップS2〜ステップS5の処理を複数回繰返した後には、同一エンジン作動条件下における上記吹き抜け割合の計算値と上記HC排出量の実測値との対比に基づき、図7に示すような上記吹き抜け量とHC排出量との対応関係を示す相関特性を求める(ステップS7)。つまり、上記吹き抜け量とHC排出量とは直線的な対応関係を有するので、同一エンジン作動条件下での吹き抜け割合計算値とHC排出量実測値とを1組として、複数組(少なくとも2組)の吹き抜け割合計算値とHC排出量実測値とを対比すれば、図7に示すような相関特性を求めることができる。そして、この相関特性を、例えば関数式等の形で記憶する。
【0036】
このように相関関係を求めた後は、ステップS7で対比した値以外でも吹き抜け割合の計算値に応じて上記相関特性からHC排出量を求めることができるので、各種のエンジン作動条件下での吹き抜け割合の計算値に応じてHC排出量を求める(ステップS8)。
【0037】
また、上記三次元解析に基づく処理としては、上記ステップS5,S7,S8の処理の他に、三次元解析結果の傾向を一次元プログラムに取り込むようにする処理(ステップS9)を行なうことが好ましい。この処理としては、上記三次元解析に基づき、開弁オーバラップ期間中の各種時点における排気ガス中の新気割合と燃焼室内ガス中の新気割合との比を求めて、この比とクランク角との対応関係を近似式で与え、この近似式を定める値をマップとして記憶する。
【0038】
この処理を具体的に説明する。図8に示すような開弁期間中のクランク角に対応した排気ガス中の新気割合Raおよび燃焼室内の新気割合Rbは、上記三次元解析で求めることができる。ここで、排気ガス中の新気割合Raとは(排気バルブを通過する新気量)/(排気バルブを通過する全ガス量)であり、燃焼室内の新気割合Rbとは(燃焼室内の新気量)/(燃焼室内の全ガス量)である。
【0039】
上記排気ガス中の新気割合Raと燃焼室内の新気割合Rbとの比(Ra/Rb)をとると、この比とクランク角との関係は図9に示すごとく線ab、線bcからなるような形に近似させることができ、近似式で表すことができる。この近似特性(点a,b,cの値)はバルブタイミング、エンジン回転数等によって変化する。そこで、数種類のエンジン作動条件下で行なった三次元解析に基づき、上記比(Ra/Rb)についての傾向を求め、近似式を定める点a,b,c等のデータをマップとして取り込むことにより、エンジン作動条件等に応じてこのマップから近似式が得られるようにする。
【0040】
このようにすると、その後は三次元解析を行なう必要がなく、図6に示すように一次元プログラムによる解析で近似的に上記吹き抜け割合を計算することが可能となる。
【0041】
この図6に示す手順を説明すると、先ず、燃焼室形状等のエンジン主要諸元および吸・排気系の諸元を含むエンジン諸元を設定する(ステップS11)。次に、バルブタイミングおよびエンジン回転数等のエンジン作動条件を与える(ステップS12)。
【0042】
次に、一次元解析により、過給圧の計算等を行なうとともに、上記の図5のステップS9の処理で一次元プログラムに取り込まれたデータからエンジン作動条件等に応じて得られる近似式を用い、吹き抜け割合を計算する(ステップS13)。そして、この吹き抜け割合に応じ、上記の図5のステップS7の処理で求められた相関特性から、HC排出量を算出する(ステップS14)。
【0043】
以上のようなHC排出量算出方法によると、上記吹き抜け割合が演算により求められ、とくに図5に示す手順が実行されるときには、ステップS4での三次元解析により新気の吹き抜け量が精度良く求められ、従って吹き抜け割合が精度良く計算される。また、この吹き抜け割合だけでは、HC排出量の絶対値がわからないが、この吹き抜け割合の計算値とHC排出量の実測値との対比に基づいて吹き抜け割合とHC排出量との相関特性を求めている(ステップS7)ので、この相関特性から上記吹き抜け割合の計算値に応じてHC排出量を計算で簡単に、しかも精度良く求めることができる。
【0044】
この場合、上記相関関係を求めるために上記HC排出量の実測(ステップS6)を行なってはいるが、上記相関特性を求めた後は、この相関特性を用いて計算だけでHC排出量を求めることができ、バルブタイミング等を変えて新たにHC排出量を求めるときに、その都度HC排出量の実測を行なう必要がない。
【0045】
さらに、図5に示す手順の中で、ステップS9の処理により三次元解析結果の傾向を一次元プログラムに取り込むようにしておけば、その後に新たにHC排出量を求めるときには、一次元解析によるだけでHC排出量を計算することができ、計算時間を短縮することができる。この場合、排気ガス中の新気割合Raと燃焼室内の新気割合Rbとの比についての近似式を用いることにより、精度の良い近似値が得られる。
【0046】
また、このようなHC排出量算出方法を利用して、適正なバルブタイミングの設定を容易に行なうことができる。このバルブタイミング設定方法を図6中に例示する。
【0047】
この図6中に示す例では、HC排出量の計算を各種のエンジン作動条件、とくに各種のバルブタイミングにおいて行ない、それぞれのバルブタイミングとHC排出量とを対比させて、バルブタイミングとHC排出量との関係等を調べる。そしてこれに基づき、例えばHC排出量が要求値を満足するようなバルブタイミングを選択することにより、適正なバルブタイミングを設定する(ステップS15)。
【0048】
なお、上記の図5および図6に示す方法の中で、一次元解析により吸・排気ポートの圧力、温度等を求める方法のついての内容は本発明で限定するものではないが、過給圧の計算が可能な方法の一例を、図1および図10〜図12によって以下に説明する。なお、図では吸気系について示すが、排気系も吸気系に準じて解析等を行なえばよい。
【0049】
この方法においては、例えば図1に示す吸気系のシミュレーションモデルを次のように設定する。すなわち、エンジンの各シリンダ1を含めた吸気系を過給機7を除く吸気系モデルと過給機モデルとに分ける。そして、吸気系モデル(破線で囲った部分)は、上記吸気通路2の各部の吸気管を表す管モデルと、インタークーラ8、サージタンク9、各シリンダ1等を表す容器モデルと、管と容器との境界部分のモデル等のサブモデルからなるものとする。また、過給機モデルは、図10に示すように、過給機7を吸入部側と吐出部側の2つの容器7a,7bにモデル化し、つまり吸入側の容器7aと上流側の吸気管との接続部分を表す吸入側モデル21と、吐出側容器7bと下流側の吸気管との接続部分を表す吐出側モデル22とに分ける。
【0050】
図11は上記シミュレーションモデルによる演算処理の概略手順を示し、この手順としては、先ず吸気系モデルおよび過給機モデルにおける各部の圧力、温度等の状態量の初期値を設定する(ステップS21)。次に、時間経過を想定するための時間設定(ステップS22)を行なった上で、吸気系状態量演算処理として、上記各管モデルについての演算処理(ステップS23)と、上記各容器モデルについての演算処理(ステップS24)と、管と容器との境界部分のモデルについての演算処理(ステップS25)とを行なう一方、過給機モデルについての過給機状態量演算処理(ステップS26)を行なう。そして、これらステップS23〜S26の各演算処理を行なうと、ステップS22に戻って時間設定により一定微小時間だけ経過した時点を想定した上で、再びステップS23〜S26の各演算処理を行なう。このようにして、各状態量が収束するに至るまで、一定の微少な想定時間間隔で上記各演算処理を繰り返し行なう。
【0051】
上記ステップS23の演算処理では、管モデルにつき、壁面摩擦係数、曲がり損失、管壁との熱交換等を考慮した質量、運動量、エネルギーの各保存式を基にして、管を等分割した各分割点での状態量から微少時間後の状態量を求めるというようにして、管内の各部の圧力、温度等の状態量を求める。ステップS24では、容器モデルにつき、エネルギー平衡式に基づいて容器内の状態量の変化等を求めるというような演算を行なう。
【0052】
また、上記ステップS25では、管端部分、管と容器と境、容器部分の間でのエネルギー、質量の各保存式等を用い、さらに管モデルの状態量との相関関係等を考慮して連立方程式を立てることにより、管端の状態量を求める。
【0053】
これらの演算処理については、前記の文献「マツダ技報(1988 NO6)」にも示されている。
【0054】
また、前記のステップS26の過給機状態量演算処理では、図10に示す過給機モデルを用いるとともに、予め調べられた過給機単体の特性のデータを利用する。この過給機単体の特性のデータは、予め使用する機械式過給機を定常流試験することによって得られる。つまり、機械式過給機を試作してその吸入側および吐出側に可変絞りを取付け、過給機を種々の回転数で作動させ、かつ絞りを種々変えた場合についてそれぞれ、圧力比(吐出圧力と吸入圧力との比)、吐出流量、温度変化量(吐出側温度と吸入側温度との差)等を計測に基づいて求め、これらの関係を調べる。これにより、種々の過給機回転速度における圧力比と吐出流量との関係、およびこれらと上記温度変化量との関係を表す図13のような過給機特性データのマップを得る。
【0055】
これらの関係をマップ化したものである。
【0056】
そして、上記過給機状態量演算処理を具体的には図12に示すように行なう。
【0057】
すなわち、先ず上記過給機モデルのうちの吐出側モデル22につき、容器7b内の圧力Pvoを仮定し(ステップS31)、吐出側の流量Mo を求める(ステップS32)。次いで、上記吸入側モデル21につき、容器7a内の圧力Pviを仮定し(ステップS33)、吸入側の流量Mi を求める(ステップS34)。上記ステップS32,S34に示す各演算処理としては、容器内の圧力Pvo,Pvi、同温度Tvo,Tvi、絞り(容器の管との間)の圧力Pto,Pti、同温度Tto,Tti、同流速uto,uti、同断面積Ato,Ati、管端部分の圧力Ppo,Ppi、同温度Tpo,Tpi、同流速upo,upi、同断面積Apo,Api等の関係につき、境界モデルの演算(ステップS25)と同様の演算を行なう。ただし、上記のように容器内の圧力Pvo,Pviは仮定値である。
【0058】
次に、過給機の吸入流量と吐出流量とは等しいはずであるから、上記ステップS32とステップS34とでそれぞれ求めた上記流量Mo ,Mi が等しいか否かを調べ(ステップS35)、等しくなければ、上記吸入側モデル21における容器7aの圧力Pviの仮定値を変更した上で、改めて吸入側モデル21についての演算処理により吸入側の流量Miを求める。このようにして、上記圧力Pviの仮定値を変更しつつ、ステップS33,S34を繰り返すことにより、上記流量Mo ,Mi が等しくなる状態を探索する。
【0059】
上記流量Mo ,Mi が等しい状態が得られると、演算処理で求められる吐出圧力(吐出側の管端圧力)Ppoと吸入圧力(吸入側の管端圧力)Ppiとから、圧力比Pr を求める(ステップS36)。そして、図13に示す過給機特性データのマップから、上記ステップS36で求めた圧力比と設定した過給機回転速度とに応じた吐出流量Mmap を求め(ステップS37)、上記ステップS32で求めた吐出流量Mo と上記過給機特性データのマップから求めた吐出流量Mmap とを比較する(ステップS38)。つまり、上記吐出流量Moと特性マップによる吐出流量Mmap とが同一過給機回転速度、同一圧力比の条件下で等しいか否かを調べ、等しくなければ、上記吐出側モデルにおける容器の圧力Pvoの仮定値を変更した上で、改めてステップS31〜S38の処理を行ない、Mo =Mmap となるまで、ステップS31〜S38の処理を繰り返す。
【0060】
Mo =Mmap となった場合には、演算処理により求められる吸入側温度(過給機吸入側の管端の温度)Tpiと過給機回転速度、圧力比および吐出流量に応じて図13の特性マップから求められる温度差とに基づき、吐出側温度(過給機吐出側の管端の温度)Tpoを求める(ステップS39)。また、これ以外の管端の状態量である吐出圧力Ppo等については、演算処理(ステップS32およびステップS34)による最終的な演算値をもって決定する(ステップS40)。
【0061】
このような過給機状態量演算処理における吐出側モデルおよび吸入側モデルの演算では、吸気系状態量演算処理における菅モデルの演算が反映されている。また、過給機状態量演算処理により求められた菅端の状態量は、図11に示した各演算処理の繰り返しの中で、次回の菅モデルの演算等に反映される。
【0062】
このようにして、図11中のステップS23〜S25の各処理からなる吸入系状態量演算処理と図12のステップS31〜S40を内容とするステップS26とを、相互に演算結果を刻々と反映させつつ、各状態量が収束する状態に至るまで、繰り返し行う。
【0063】
このような方法により、過給圧(吐出圧力)をおよびその他の状態量を求めることができ、前述の図5の示す手順の中で三次元解析のための境界条件を与えることができる。
【0064】
【発明の効果】
以上のように、本発明のHCの排出量算出方法は、吸気ポート近傍に燃料を噴射するインジェクタを有する過給機付エンジンにおけるエンジン諸元およびエンジン作動条件を設定することにより吸・排気ポートの圧力および温度を求め、この求められた圧力および温度と上記エンジン諸元および上記エンジン作動条件に基づき、開弁オーバラップ期間中の新気の吹き抜け量および充填量を求めて吹き抜け割合を計算し、同一条件下での上記吹き抜け割合の計算値とHC排出量の実測値とを比較して相関特性を求め、この相関特性から各種条件下でのHC排出量を算出するようにしているため、HC排出量の実測を上記相関関係を求めるために行なっておきさえすれば、その後は計算で簡単にかつ精度良く、吸気の吹き抜けによるHC排出量を求めることができる。
【0065】
とくに、上記排気ポートへの新気の吹き抜け量を三次元解析により求めるようにすれば、精度を高めることができる。
【0066】
また、上記三次元解析に基づき、排気ガス中の新気割合と燃焼室内ガス中の新気割合との比を近似式で与え、その後にHC排出量の演算を行なうときには上記近似式を用いて吹き抜け割合を一次元解析による計算で求めるようにすれば、充分に精度を確保しつつ計算を簡略化することができる。
【0067】
また、上記HCの排出量算出方法を利用するバルブタイミング設定方法は、各種バルブタイミングにおけるHC排出量を上記算出方法で求め、これに基づいてバルブタイミングを設定するようにしているため、効果的なバルブタイミングの設定を簡単に行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の方法を適用する過給機付エンジンの一例を示す概略図である。
【図2】燃焼室およびポート部分を模式的に示す図である。
【図3】三次元解析のための三次元メッシュを示す説明図である。
【図4】(a)(b)(c)開弁オーバラップ期間内における燃焼室およびポート部分の新気の分散状態の推移を示す説明図である。
【図5】本発明のHCの排出量算出方法の手順の一例を示す説明図である。
【図6】HCの排出量算出方法の手順の一部およびバルブタイミング設定方法を示す説明図である。
【図7】吹き抜け割合とHC排出量との相関特性を示す図である。
【図8】開弁オーバラップ期間中の燃焼室内の新気割合および排出ガス中の新気割合の変化を示す図である。
【図9】開弁オーバラップ期間中の燃焼室内の新気割合と排出ガス中の新気割合との比を近似的に示す図である。
【図10】過給機モデルを示す図である。
【図11】吸気系状態量の計算方法の一例についての全体手順を示す図である。
【図12】吸気系状態量の計算方法の一例についての一部を示す図である。
【図13】過給機特性データのマップを示す図である。
【符号の説明】
1 シリンダ
5 吸気ポート
6 排気ポート
7 過給機
11 吸気弁
12 排気弁
15 新気
【産業上の利用分野】
本発明は、過給機付エンジンにおいて吸・排気弁の開弁オーバラップ期間中の新気の吹き抜けに伴って排出されるHCの排出量を算出する方法と、それに基づくバルブタイミングの設定方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
最近、自動車のエンジン等の性能評価、設計等のため、コンピュータを用いた解析、計算により各種状態量等を求めるような方法が提案されている。例えば、特開平3−95681号公報には、エンジンとスタータとをバネ要素と振動要素とからなる振動系に置き換え、振動系をモデル化して、固有振動数の解析、モーダル質量等の演算、既に知られている振動系の単体特性の利用などにより、振動特性を求めるようにしたシミュレーション方法が示されている。
【0003】
また、文献「マツダ技報(1988 NO6)」には、シリンダ、サージタンク、エアクリーナおよびこれらの間の吸気管等からなるエンジンの吸気系につき、各部の圧力、温度、流量等をコンピュータシミュレーションにより求める方法が示されている。この方法は、上記吸気系を管モデル、容器モデル、境界モデル等のサブモデルの組合せとしてモデル化し、その各サブモデルについて状態量の演算を行なう。例えば、管モデルについては壁面摩擦係数、曲がり損失、管壁との熱交換等を考慮した質量、運動量、エネルギーの各保存式を基にして、管を等分割した各分割点での状態量から微少時間後の状態量を求め、容器モデルについてはエネルギー平衡式に基づいて容器内の状態量の変化等を求めるというような演算を行なう。そして、各モデルについての演算を、相互に演算値を反映させつつ状態量が収束するまで繰返し行なうようにしている。
【0004】
このようにコンピュータを利用した解析、演算により各種状態量などを求めるようにすると、設計段階において諸元の設定、変更等を行なう場合に、その都度試作して試験的に状態量を調べるようにする必要がなく、エンジン等の評価およびそれに応じた諸元の決定等を机上で簡単に行なうことができる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、吸気通路に過給機を設けた過給機付エンジンでは、排気弁の開弁期間と吸気弁の開弁期間とがオーバラップする開弁オーバラップ期間中に、過給機により加圧された新気が燃焼室に送り込まれることで燃焼室内の掃気作用が得られるという利点がある反面、新気の一部が排気ポートに吹き抜けて、その吹き抜け新気に含まれる燃料により、HC排出量が増加する可能性がある。そして、新気の吹き抜け量には、開弁オーバラップ期間の長さが関係するため、掃気性をもたせつつ新気の吹き抜けによるHC排出量の増大を抑えるように、吸・排気弁のバルブタイミング(開弁オーバラップ期間の長さ)を適正に設定することが要求される。そして、設計段階等でこのような要求を満足すべく検討を行なうためには、新気の吹き抜けによるHC排出量を調べる必要がある。
【0006】
従来、このような場合にHC排出量を計算で精度良く求める方法が開発されておらず、試作機についてHC排出量を実測しているのが実情である。しかし、設計段階でバルブタイミングや吸気系の諸元等を種々変更してHC排出量を調べようとすると、その都度試作して測定装置により実測を行なう必要があり、その作業が非常に面倒なものとなる。
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑み、設計段階などでバルブタイミング等を種々変更して新気の吹き抜けによるHC排出量を調べるような場合に、その都度実測を行なう必要がなく、計算によって簡単に、しかも精度良くHC排出量を求めることができる過給機付エンジンにおけるHCの排出量算出方法を提供し、またこの方法を利用してバルブタイミングを机上で容易に設定することができるバルブタイミング設定方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
請求項1に係る過給機付エンジンにおけるHCの排出量算出方法は、吸気ポート近傍に燃料を噴射するインジェクタを有する過給機付エンジンにおける吸・排気弁の開弁オーバラップ期間中のHC排出量を算出する方法であって、燃焼室形状を含むエンジン諸元およびエンジン回転数を含むエンジン作動条件を設定することにより吸・排気ポートの圧力および温度を求め、この求められた圧力および温度と上記エンジン諸元および上記エンジン作動条件に基づき、上記開弁オーバラップ期間中の排気ポートへ新気の吹き抜け量と燃焼室への吸気の充填量とを計算して、上記充填量に対する上記吹き抜け量の割合である吹き抜け割合を計算し、一方、実機での燃焼室からのHC排出量を上記設定されたエンジン作動条件と同一条件で実測しておき、同一条件下での上記吹き抜け割合の計算値と上記HC排出量の実測値との対比を上記エンジン作動条件を変更して少なくとも 2 組行うことで上記吹き抜け割合とHC排出量との対応関係を示す相関特性を求め、この相関特性から各種のエンジン作動条件下でのHCの排出量を算出するようにしたものである。
【0009】
この方法において、吸気ポートにおける上記インジェクタより下流の部分の容積を新気量に換算した値と、上記新気吹き吹け量の計算値とを比較し、この新気吹き吹け量が上記インジェクタ下流の容積の換算値よりも大きい場合には、インジェクタ下流の容積の換算値を新気吹き抜け量とすることが好ましい(請求項2)。
【0010】
また、上記排気ポートへの新気の吹き抜け量を、吸気ポート、燃焼室および排気ポートにわたる新気と既存ガスとの混合状態の推移について三次元解析を行なうことにより求めることが好ましい(請求項3)。
【0011】
この請求項3の発明において、上記吸・排気ポートの圧力および温度を一次元解析により求めるとともに、排気ポートへの新気の吹き抜け量を求めるための三次元解析を開弁オーバラップ期間中のみ行なうことが好ましい(請求項4)。
【0012】
さらに、上記三次元解析に基づき、排気ガス中の新気割合と燃焼室内ガス中の新気割合との比を近似式で与え、その後にHC排出量の演算を行なうときには上記近似式を用いて吹き抜け割合を一次元解析による計算で求めることが好ましい(請求項5)。
【0013】
請求項6に係るバルブタイミング設定方法は、請求項1乃至5のいずれかに記載のHCの排出量算出方法により求めたHC排気量と吸・排気弁のバルブタイミングとを対比させて、各種バルブタイミングにおけるHC排出量を調べ、これに基づいてバルブタイミングを設定するようにしたものである。
【0014】
【作用】
請求項1に係るHCの排出量算出方法によると、上記開弁オーバラップ期間中の新気の吹き抜け量と充填量との割合である吹き抜け割合が演算により求められる。そして、この吹き抜け割合だけではHC排出量の絶対値がわからないが、この吹き抜け割合の計算値とHC排出量の実測値との対比に基づいて吹き抜け割合とHC排出量との相関特性が求められ、この相関特性から上記吹き抜け割合の計算値に応じてHC排出量が計算で簡単に、かつ精度良く求められる。上記HC排出量の実測は、相関関係を求める際に行なわれるだけであって、相関特性が求められた後は実測を必要とせずにHC排出量が計算される。
【0015】
この方法において、請求項2記載のようにすると、HC排出量に関与しないインジェクタ上流からの新気が上記吹き抜け量に含まれている場合にその分が上記吹き抜け量の計算値から除外されることとなり、これより、上記相関特性が精度良く求められることとなる。
【0016】
また、請求項3記載のようにすると、三次元解析により新気の吹き抜け量が精度良く求められ、これに伴い、上記吹き抜け割合および上記相関特性が精度良く求められることとなる。
【0017】
請求項4記載のようにすると、吸・排気ポートの圧力および温度が一次元解析による計算で簡単に、かつ精度良く求められるとともに、一次元解析と比べると計算が複雑な三次元解析は、上記開弁オーバラップ期間についてだけ行なえばよいこととなる。
【0018】
請求項5記載のようにすると、上記近似式が与えられた後は、これを用いた一次元解析により上記吹き抜け割合が計算されることにより、計算が簡略化され、計算時間が短縮される。
【0019】
請求項6に係るバルブタイミング設定方法によると、上記のHCの排出量算出方法が利用されて、バルブタイミングの設定が容易に行なわれることとなる。
【0020】
【実施例】
図1は過給機付エンジンを模式的に示し、この図において、エンジンの各シリンダ1には吸気通路2および排気通路3が接続され、各シリンダ1の燃焼室4に吸気通路下流端側の吸気ポート5および排気通路上流端側の排気ポート6が開口している。上記吸気通路2には過給機7が設けられ、図示の例では機械式過給機が設けられている。さらに吸気通路2にはインタークーラ8、サージタンク9等が設けられ、また吸気ポートの近傍に燃料噴射を行なうインジェクタ10が配設されている。
【0021】
図2は燃焼室4およびポート部分を模式的に示し、この図において、吸気ポート5および排気ポート6には、各ポートを開閉する吸気弁11および排気弁12が設けられている。そして、一般に知られているように、排気行程で排気弁12が開かれ、これに続く吸気行程で吸気弁11が開かれるが、両者の開弁期間は一部オーバラップしている。また、この図では新気15を点描で表わすとともに、上記吸・排気弁11,12の開弁オーバラップ期間中の新気15の流れを矢印で示している。
【0022】
この図に示すように、過給機付エンジンでは、上記開弁オーバラップ期間中に、過給機7で加圧されて燃焼室4に送り込まれる新気15の一部が排気ポート6に吹き抜けることがある。この場合、吸気弁11周辺から燃焼室4に流入した新気が排気ポート6に向かう流れとしては、燃焼室4中央部を通って直線的に排気ポート6側に向かう流れのほかに、燃焼室4外周側や吸気弁11の下方等をまわって排気ポート6に向かうような流れもあり、三次元的なものとなる。
【0023】
本発明の方法では、上記のようなオーバラップ期間中の新気15の移動、分布を数値流体力学(CFD)で解析し、とくに上記のように排気ポート6側への新気15の流れが三次元的なものであることを考慮し、三次元CFDプログラムによって解析することにより、上記オーバラップ期間中の排気ポート6への新気吹き抜け量と燃焼室4への吸気の充填量とを求めて、上記充填量に対する新気15の吹き抜け量を計算により求めることとする。なお、上記充填量については、一次元解析で求めることもできる。
【0024】
上記三次元CFDによる解析にあたっては、エンジン諸元を設定するとともに吸・排気ポート5,6の圧力、温度を予測し、これらに基づいて解析、演算を行なう。この際、望ましくは、吸・排気系のすべてについて一次元CFDによる解析を行なうことにより、吸・排気ポート5,6の圧力、温度を計算し、これを境界条件として上記三次元解析を開弁オーバラップ期間において行なう。なお、上記吸・排気ポート5,6の圧力、温度(境界条件)の予測値として一定の値を設定しておき、三次元CFDによる解析をエンジンの1サイクルにわたって行なうようにしてもよい。ただし、三次元解析は一次元解析と比べると計算が複雑であって、エンジンの1サイクルにわたって三次元解析を行なうと計算量が膨大になり、演算処理時間が増大するため、上記のように一次元解析で求めた値を境界条件として、三次元CFDを開弁オーバラップ期間だけ行なうことが好ましい。
【0025】
上記一次元CFDのプログラムとしては、エンジンおよび吸・排気系の諸元に基づき過給圧の計算が可能なプログラムを用いる。
【0026】
また、上記三次元CFDのプログラムとしては、吸・排気バルブおよびピストンの作動を取扱うことができること、吸気と排気の2種類のガスの混合を考慮することができること、バルブを通過する各々のガスの時間的変化がわかることの各条件を満足するプログラムを用いる。このような三次元CFDプログラムは既に開発されているものである。
【0027】
このプログラムを用いた開弁オーバラップ期間中の三次元解析の手法の概略を説明すると、解析にあたっては、図3に示すように、吸気ポート5、燃焼室4および排気ポート6にわたって解析のための三次元メッシュを設定する。そして、この三次元メッシュの各部位についてそれぞれ、新気と既存ガス(燃焼室内残留ガスおよび排出ガス)との混合割合の一定微少時間毎の変化を、繰返し計算していく。これにより、開弁オーバラップ期間中の微少時間毎の各時点における新気の分布状態を解析、演算することができる。
【0028】
図4はこのような三次元解析により調べた開弁オーバラップ期間内の新気15の分布状態の変化を示しており、開弁オーバラップ期間の途中の時点から時系列的に図4(a)、(b)、(c)の順に新気15の分布状態が変化し、排気ポート6の新気ガス濃度が次第に増加する。そして、排気ポート部分の新気分布状態の変化から一定微少時間毎の新気吹き抜け量を求め、これを時間で積分することにより、開弁オーバラップ期間中の新気の吹き抜け量を計算することができる。
【0029】
HC排出量算出方法の全体の手順については、図5および図6に示す。
【0030】
図5に示す手順を説明すると、先ず、燃焼室形状等のエンジン主要諸元および吸・排気系の諸元を含むエンジン諸元を設定する(ステップS1)。次に、バルブタイミングおよびエンジン回転数等のエンジン作動条件を与える(ステップS2)。続いて、エンジン諸元等に基づき、上記一次元プログラムによる吸・排気系全体についての解析により、吸・排気ポート5,6の圧力および温度を計算する(ステップS3)。
【0031】
次に、上記三次元プログラムにより、上記一次元解析結果を境界条件として、開弁オーバラップ期間だけ三次元解析を行なう(ステップS4)。そして、上記開弁オーバラップ期間中の新気の吹き抜け量および充填量を求め、吹き抜け割合(新気吹き抜け量/充填量)を計算する(ステップS5)。
【0032】
この場合に、吸気ポート5における上記インジェクタ10より下流の部分の容積を新気量に換算した値と、上記の三次元解析で求めた新気吹き吹け量とを比較し、この新気吹き吹け量が上記インジェクタ下流の容積の換算値よりも大きい場合には、インジェクタ下流の容積の換算値を新気吹き抜け量とする。このようにしているのは、後述の吹き抜け割合とHC排出量との対応関係を確保するためである。すなわち、新気吹き吹け量が上記インジェクタ下流の容積の換算値よりも大きくなった場合は、インジェクタ上流からの新気も吹き抜けていることになるが、開弁オーバラップ期間中にHCが排出されるのはインジェクタから噴射されて下流側の新気と混合した燃料が吹き抜けることによるものであることから、インジェクタ上流からの新気はHC排出量には関与せず、これを含めた新気吹き抜け量はHC排出量に対応しなくなる。このため、新気吹き抜け量のうちでインジェクタ上流からの新気分は除くようにしているのである。
【0033】
上記ステップS2〜ステップS5の処理は、バルブタイミングおよびエンジン回転数等を変更して複数回繰返し、つまり、複数種のエンジン作動条件においてそれぞれ、上記三次元解析等を行なって吹き抜け割合を計算する。
【0034】
一方、実機についてHC排出量の実測を行なっておく(ステップS6)。この実測もエンジン作動条件を変えて複数回行ない、最低限2回行なう。
【0035】
そして、上記ステップS2〜ステップS5の処理を複数回繰返した後には、同一エンジン作動条件下における上記吹き抜け割合の計算値と上記HC排出量の実測値との対比に基づき、図7に示すような上記吹き抜け量とHC排出量との対応関係を示す相関特性を求める(ステップS7)。つまり、上記吹き抜け量とHC排出量とは直線的な対応関係を有するので、同一エンジン作動条件下での吹き抜け割合計算値とHC排出量実測値とを1組として、複数組(少なくとも2組)の吹き抜け割合計算値とHC排出量実測値とを対比すれば、図7に示すような相関特性を求めることができる。そして、この相関特性を、例えば関数式等の形で記憶する。
【0036】
このように相関関係を求めた後は、ステップS7で対比した値以外でも吹き抜け割合の計算値に応じて上記相関特性からHC排出量を求めることができるので、各種のエンジン作動条件下での吹き抜け割合の計算値に応じてHC排出量を求める(ステップS8)。
【0037】
また、上記三次元解析に基づく処理としては、上記ステップS5,S7,S8の処理の他に、三次元解析結果の傾向を一次元プログラムに取り込むようにする処理(ステップS9)を行なうことが好ましい。この処理としては、上記三次元解析に基づき、開弁オーバラップ期間中の各種時点における排気ガス中の新気割合と燃焼室内ガス中の新気割合との比を求めて、この比とクランク角との対応関係を近似式で与え、この近似式を定める値をマップとして記憶する。
【0038】
この処理を具体的に説明する。図8に示すような開弁期間中のクランク角に対応した排気ガス中の新気割合Raおよび燃焼室内の新気割合Rbは、上記三次元解析で求めることができる。ここで、排気ガス中の新気割合Raとは(排気バルブを通過する新気量)/(排気バルブを通過する全ガス量)であり、燃焼室内の新気割合Rbとは(燃焼室内の新気量)/(燃焼室内の全ガス量)である。
【0039】
上記排気ガス中の新気割合Raと燃焼室内の新気割合Rbとの比(Ra/Rb)をとると、この比とクランク角との関係は図9に示すごとく線ab、線bcからなるような形に近似させることができ、近似式で表すことができる。この近似特性(点a,b,cの値)はバルブタイミング、エンジン回転数等によって変化する。そこで、数種類のエンジン作動条件下で行なった三次元解析に基づき、上記比(Ra/Rb)についての傾向を求め、近似式を定める点a,b,c等のデータをマップとして取り込むことにより、エンジン作動条件等に応じてこのマップから近似式が得られるようにする。
【0040】
このようにすると、その後は三次元解析を行なう必要がなく、図6に示すように一次元プログラムによる解析で近似的に上記吹き抜け割合を計算することが可能となる。
【0041】
この図6に示す手順を説明すると、先ず、燃焼室形状等のエンジン主要諸元および吸・排気系の諸元を含むエンジン諸元を設定する(ステップS11)。次に、バルブタイミングおよびエンジン回転数等のエンジン作動条件を与える(ステップS12)。
【0042】
次に、一次元解析により、過給圧の計算等を行なうとともに、上記の図5のステップS9の処理で一次元プログラムに取り込まれたデータからエンジン作動条件等に応じて得られる近似式を用い、吹き抜け割合を計算する(ステップS13)。そして、この吹き抜け割合に応じ、上記の図5のステップS7の処理で求められた相関特性から、HC排出量を算出する(ステップS14)。
【0043】
以上のようなHC排出量算出方法によると、上記吹き抜け割合が演算により求められ、とくに図5に示す手順が実行されるときには、ステップS4での三次元解析により新気の吹き抜け量が精度良く求められ、従って吹き抜け割合が精度良く計算される。また、この吹き抜け割合だけでは、HC排出量の絶対値がわからないが、この吹き抜け割合の計算値とHC排出量の実測値との対比に基づいて吹き抜け割合とHC排出量との相関特性を求めている(ステップS7)ので、この相関特性から上記吹き抜け割合の計算値に応じてHC排出量を計算で簡単に、しかも精度良く求めることができる。
【0044】
この場合、上記相関関係を求めるために上記HC排出量の実測(ステップS6)を行なってはいるが、上記相関特性を求めた後は、この相関特性を用いて計算だけでHC排出量を求めることができ、バルブタイミング等を変えて新たにHC排出量を求めるときに、その都度HC排出量の実測を行なう必要がない。
【0045】
さらに、図5に示す手順の中で、ステップS9の処理により三次元解析結果の傾向を一次元プログラムに取り込むようにしておけば、その後に新たにHC排出量を求めるときには、一次元解析によるだけでHC排出量を計算することができ、計算時間を短縮することができる。この場合、排気ガス中の新気割合Raと燃焼室内の新気割合Rbとの比についての近似式を用いることにより、精度の良い近似値が得られる。
【0046】
また、このようなHC排出量算出方法を利用して、適正なバルブタイミングの設定を容易に行なうことができる。このバルブタイミング設定方法を図6中に例示する。
【0047】
この図6中に示す例では、HC排出量の計算を各種のエンジン作動条件、とくに各種のバルブタイミングにおいて行ない、それぞれのバルブタイミングとHC排出量とを対比させて、バルブタイミングとHC排出量との関係等を調べる。そしてこれに基づき、例えばHC排出量が要求値を満足するようなバルブタイミングを選択することにより、適正なバルブタイミングを設定する(ステップS15)。
【0048】
なお、上記の図5および図6に示す方法の中で、一次元解析により吸・排気ポートの圧力、温度等を求める方法のついての内容は本発明で限定するものではないが、過給圧の計算が可能な方法の一例を、図1および図10〜図12によって以下に説明する。なお、図では吸気系について示すが、排気系も吸気系に準じて解析等を行なえばよい。
【0049】
この方法においては、例えば図1に示す吸気系のシミュレーションモデルを次のように設定する。すなわち、エンジンの各シリンダ1を含めた吸気系を過給機7を除く吸気系モデルと過給機モデルとに分ける。そして、吸気系モデル(破線で囲った部分)は、上記吸気通路2の各部の吸気管を表す管モデルと、インタークーラ8、サージタンク9、各シリンダ1等を表す容器モデルと、管と容器との境界部分のモデル等のサブモデルからなるものとする。また、過給機モデルは、図10に示すように、過給機7を吸入部側と吐出部側の2つの容器7a,7bにモデル化し、つまり吸入側の容器7aと上流側の吸気管との接続部分を表す吸入側モデル21と、吐出側容器7bと下流側の吸気管との接続部分を表す吐出側モデル22とに分ける。
【0050】
図11は上記シミュレーションモデルによる演算処理の概略手順を示し、この手順としては、先ず吸気系モデルおよび過給機モデルにおける各部の圧力、温度等の状態量の初期値を設定する(ステップS21)。次に、時間経過を想定するための時間設定(ステップS22)を行なった上で、吸気系状態量演算処理として、上記各管モデルについての演算処理(ステップS23)と、上記各容器モデルについての演算処理(ステップS24)と、管と容器との境界部分のモデルについての演算処理(ステップS25)とを行なう一方、過給機モデルについての過給機状態量演算処理(ステップS26)を行なう。そして、これらステップS23〜S26の各演算処理を行なうと、ステップS22に戻って時間設定により一定微小時間だけ経過した時点を想定した上で、再びステップS23〜S26の各演算処理を行なう。このようにして、各状態量が収束するに至るまで、一定の微少な想定時間間隔で上記各演算処理を繰り返し行なう。
【0051】
上記ステップS23の演算処理では、管モデルにつき、壁面摩擦係数、曲がり損失、管壁との熱交換等を考慮した質量、運動量、エネルギーの各保存式を基にして、管を等分割した各分割点での状態量から微少時間後の状態量を求めるというようにして、管内の各部の圧力、温度等の状態量を求める。ステップS24では、容器モデルにつき、エネルギー平衡式に基づいて容器内の状態量の変化等を求めるというような演算を行なう。
【0052】
また、上記ステップS25では、管端部分、管と容器と境、容器部分の間でのエネルギー、質量の各保存式等を用い、さらに管モデルの状態量との相関関係等を考慮して連立方程式を立てることにより、管端の状態量を求める。
【0053】
これらの演算処理については、前記の文献「マツダ技報(1988 NO6)」にも示されている。
【0054】
また、前記のステップS26の過給機状態量演算処理では、図10に示す過給機モデルを用いるとともに、予め調べられた過給機単体の特性のデータを利用する。この過給機単体の特性のデータは、予め使用する機械式過給機を定常流試験することによって得られる。つまり、機械式過給機を試作してその吸入側および吐出側に可変絞りを取付け、過給機を種々の回転数で作動させ、かつ絞りを種々変えた場合についてそれぞれ、圧力比(吐出圧力と吸入圧力との比)、吐出流量、温度変化量(吐出側温度と吸入側温度との差)等を計測に基づいて求め、これらの関係を調べる。これにより、種々の過給機回転速度における圧力比と吐出流量との関係、およびこれらと上記温度変化量との関係を表す図13のような過給機特性データのマップを得る。
【0055】
これらの関係をマップ化したものである。
【0056】
そして、上記過給機状態量演算処理を具体的には図12に示すように行なう。
【0057】
すなわち、先ず上記過給機モデルのうちの吐出側モデル22につき、容器7b内の圧力Pvoを仮定し(ステップS31)、吐出側の流量Mo を求める(ステップS32)。次いで、上記吸入側モデル21につき、容器7a内の圧力Pviを仮定し(ステップS33)、吸入側の流量Mi を求める(ステップS34)。上記ステップS32,S34に示す各演算処理としては、容器内の圧力Pvo,Pvi、同温度Tvo,Tvi、絞り(容器の管との間)の圧力Pto,Pti、同温度Tto,Tti、同流速uto,uti、同断面積Ato,Ati、管端部分の圧力Ppo,Ppi、同温度Tpo,Tpi、同流速upo,upi、同断面積Apo,Api等の関係につき、境界モデルの演算(ステップS25)と同様の演算を行なう。ただし、上記のように容器内の圧力Pvo,Pviは仮定値である。
【0058】
次に、過給機の吸入流量と吐出流量とは等しいはずであるから、上記ステップS32とステップS34とでそれぞれ求めた上記流量Mo ,Mi が等しいか否かを調べ(ステップS35)、等しくなければ、上記吸入側モデル21における容器7aの圧力Pviの仮定値を変更した上で、改めて吸入側モデル21についての演算処理により吸入側の流量Miを求める。このようにして、上記圧力Pviの仮定値を変更しつつ、ステップS33,S34を繰り返すことにより、上記流量Mo ,Mi が等しくなる状態を探索する。
【0059】
上記流量Mo ,Mi が等しい状態が得られると、演算処理で求められる吐出圧力(吐出側の管端圧力)Ppoと吸入圧力(吸入側の管端圧力)Ppiとから、圧力比Pr を求める(ステップS36)。そして、図13に示す過給機特性データのマップから、上記ステップS36で求めた圧力比と設定した過給機回転速度とに応じた吐出流量Mmap を求め(ステップS37)、上記ステップS32で求めた吐出流量Mo と上記過給機特性データのマップから求めた吐出流量Mmap とを比較する(ステップS38)。つまり、上記吐出流量Moと特性マップによる吐出流量Mmap とが同一過給機回転速度、同一圧力比の条件下で等しいか否かを調べ、等しくなければ、上記吐出側モデルにおける容器の圧力Pvoの仮定値を変更した上で、改めてステップS31〜S38の処理を行ない、Mo =Mmap となるまで、ステップS31〜S38の処理を繰り返す。
【0060】
Mo =Mmap となった場合には、演算処理により求められる吸入側温度(過給機吸入側の管端の温度)Tpiと過給機回転速度、圧力比および吐出流量に応じて図13の特性マップから求められる温度差とに基づき、吐出側温度(過給機吐出側の管端の温度)Tpoを求める(ステップS39)。また、これ以外の管端の状態量である吐出圧力Ppo等については、演算処理(ステップS32およびステップS34)による最終的な演算値をもって決定する(ステップS40)。
【0061】
このような過給機状態量演算処理における吐出側モデルおよび吸入側モデルの演算では、吸気系状態量演算処理における菅モデルの演算が反映されている。また、過給機状態量演算処理により求められた菅端の状態量は、図11に示した各演算処理の繰り返しの中で、次回の菅モデルの演算等に反映される。
【0062】
このようにして、図11中のステップS23〜S25の各処理からなる吸入系状態量演算処理と図12のステップS31〜S40を内容とするステップS26とを、相互に演算結果を刻々と反映させつつ、各状態量が収束する状態に至るまで、繰り返し行う。
【0063】
このような方法により、過給圧(吐出圧力)をおよびその他の状態量を求めることができ、前述の図5の示す手順の中で三次元解析のための境界条件を与えることができる。
【0064】
【発明の効果】
以上のように、本発明のHCの排出量算出方法は、吸気ポート近傍に燃料を噴射するインジェクタを有する過給機付エンジンにおけるエンジン諸元およびエンジン作動条件を設定することにより吸・排気ポートの圧力および温度を求め、この求められた圧力および温度と上記エンジン諸元および上記エンジン作動条件に基づき、開弁オーバラップ期間中の新気の吹き抜け量および充填量を求めて吹き抜け割合を計算し、同一条件下での上記吹き抜け割合の計算値とHC排出量の実測値とを比較して相関特性を求め、この相関特性から各種条件下でのHC排出量を算出するようにしているため、HC排出量の実測を上記相関関係を求めるために行なっておきさえすれば、その後は計算で簡単にかつ精度良く、吸気の吹き抜けによるHC排出量を求めることができる。
【0065】
とくに、上記排気ポートへの新気の吹き抜け量を三次元解析により求めるようにすれば、精度を高めることができる。
【0066】
また、上記三次元解析に基づき、排気ガス中の新気割合と燃焼室内ガス中の新気割合との比を近似式で与え、その後にHC排出量の演算を行なうときには上記近似式を用いて吹き抜け割合を一次元解析による計算で求めるようにすれば、充分に精度を確保しつつ計算を簡略化することができる。
【0067】
また、上記HCの排出量算出方法を利用するバルブタイミング設定方法は、各種バルブタイミングにおけるHC排出量を上記算出方法で求め、これに基づいてバルブタイミングを設定するようにしているため、効果的なバルブタイミングの設定を簡単に行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の方法を適用する過給機付エンジンの一例を示す概略図である。
【図2】燃焼室およびポート部分を模式的に示す図である。
【図3】三次元解析のための三次元メッシュを示す説明図である。
【図4】(a)(b)(c)開弁オーバラップ期間内における燃焼室およびポート部分の新気の分散状態の推移を示す説明図である。
【図5】本発明のHCの排出量算出方法の手順の一例を示す説明図である。
【図6】HCの排出量算出方法の手順の一部およびバルブタイミング設定方法を示す説明図である。
【図7】吹き抜け割合とHC排出量との相関特性を示す図である。
【図8】開弁オーバラップ期間中の燃焼室内の新気割合および排出ガス中の新気割合の変化を示す図である。
【図9】開弁オーバラップ期間中の燃焼室内の新気割合と排出ガス中の新気割合との比を近似的に示す図である。
【図10】過給機モデルを示す図である。
【図11】吸気系状態量の計算方法の一例についての全体手順を示す図である。
【図12】吸気系状態量の計算方法の一例についての一部を示す図である。
【図13】過給機特性データのマップを示す図である。
【符号の説明】
1 シリンダ
5 吸気ポート
6 排気ポート
7 過給機
11 吸気弁
12 排気弁
15 新気
Claims (6)
- 吸気ポート近傍に燃料を噴射するインジェクタを有する過給機付エンジンにおける吸・排気弁の開弁オーバラップ期間中のHC排出量を算出する方法であって、燃焼室形状を含むエンジン諸元およびエンジン回転数を含むエンジン作動条件を設定することにより吸・排気ポートの圧力および温度を求め、この求められた圧力および温度と上記エンジン諸元および上記エンジン作動条件に基づき、上記開弁オーバラップ期間中の排気ポートへ新気の吹き抜け量と燃焼室への吸気の充填量とを計算して、上記充填量に対する上記吹き抜け量の割合である吹き抜け割合を計算し、一方、実機での燃焼室からのHC排出量を上記設定されたエンジン作動条件と同一条件で実測しておき、同一条件下での上記吹き抜け割合の計算値と上記HC排出量の実測値との対比を上記エンジン作動条件を変更して少なくとも 2 組行うことで上記吹き抜け割合とHC排出量との対応関係を示す相関特性を求め、この相関特性から各種のエンジン作動条件下でのHCの排出量を算出することを特徴とする過給機付エンジンにおけるHCの排出量算出方法。
- 吸気ポートにおける上記インジェクタより下流の部分の容積を新気量に換算した値と、上記新気吹き吹け量の計算値とを比較し、この新気吹き吹け量が上記インジェクタ下流の容積の換算値よりも大きい場合には、インジェクタ下流の容積の換算値を新気吹き抜け量とすることを特徴とする請求項1記載の過給機付エンジンにおけるHCの排出量算出方法。
- 上記排気ポートへの新気の吹き抜け量を、吸気ポート、燃焼室および排気ポートにわたる新気と既存ガスとの混合状態の推移について三次元解析を行なうことにより求めることを特徴とする請求項1または2記載の過給機付エンジンにおけるHCの排出量算出方法。
- 上記吸・排気ポートの圧力および温度を一次元解析により求めるとともに、排気ポートへの新気の吹き抜け量を求めるための三次元解析を開弁オーバラップ期間中のみ行なうことを特徴とする請求項3記載の過給機付エンジンにおけるHCの排出量算出方法。
- 上記三次元解析に基づき、排気ガス中の新気割合と燃焼室内ガス中の新気割合との比を近似式で与え、その後にHC排出量の演算を行なうときには上記近似式を用いて吹き抜け割合を一次元解析による計算で求めることを特徴とする請求項3または4記載の過給機付エンジンにおけるHCの排出量算出方法。
- 請求項1乃至5のいずれかに記載のHCの排出量算出方法により求めたHC排気量と吸・排気弁のバルブタイミングとを対比させて、各種バルブタイミングにおけるHC排出量を調べ、これに基づいてバルブタイミングを設定することを特徴とするバルブタイミング設定方法。
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