JP3629915B2 - 後2軸車両のスタビリティファクタ導出方法及び目標ヨーレイト設定方法 - Google Patents

後2軸車両のスタビリティファクタ導出方法及び目標ヨーレイト設定方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、後2軸車両において、その旋回特性の指標を得るためのスタビリティファクタ導出方法及び目標ヨーレイト設定方法に関する。
【0002】
【関連する背景技術】
例えば、特開平6−239216号公報には、車両の旋回運動制御に好適した制動力制御装置が開示されている。この公知の制動力制御装置にあっては、車両の走行時、ヨーレイトフィードバック制御を実行するにあたり、検出した車速V及び前輪操舵角δに基づいて定常円旋回における車両のスタビリティファクタAとヨーレイトの関係式から目標ヨーレイトγを算出するものとなっている。そして、車両の制動力は、検出した実ヨーレイトを目標ヨーレイトに一致させるべく制御されている。
【0003】
具体的には、上述した公知のヨーレイトフィードバック制御技術によれば、車両の目標ヨーレイトγは、次式(1)から算出される。
【0004】
【数6】
Figure 0003629915
【0005】
なお、L:前後輪車軸間距離である。
ここで、車両のスタビリティファクタAは、理論的には次式(2)より定義される。
【0006】
【数7】
Figure 0003629915
【0007】
なお、m :車両質量
:車両重心点と前輪車軸間の距離
:車両重心点と後輪車軸間の距離
:前輪のコーナリングパワー
:後輪のコーナリングパワー
である。このようなスタビリティファクタは、車両の旋回特性を決定付ける重要な指標であり、車両の旋回運動を制御するにあたって重要な要素となるものである。また、車両のスタビリティファクタは、車両諸元としてのL,L,L及びK,Kが決定されれば、これら諸元に基づき上式(2)から一義的にその理論値が定まる。
【0008】
実際のヨーレイトフィードバック制御にあたって、上式(1)のスタビリティファクタAに式(2)から得た理論値をそのまま適用することは可能であるが、このような理論値、つまり、車両諸元から得られるデータとしてのスタビリティファクタと、実際の制御対象車両に固有のスタビリティファクタとの間には誤差が生じている場合が多い。
【0009】
そこで、このような誤差を補償した車両のスタビリティファクタを求めるためには、実際の車両を定常円旋回走行させ、この定常円旋回時の車速、前輪操舵角及び実ヨーレイトをそれぞれ検出し、そして、これら検出値に基づき上式(1)から逆算によりスタビリティファクタを求める方法がより好適しているものと考えられる。
【0010】
上述した方法によれば、実車に即したスタビリティファクタを容易に求めることができる。また、実際の目標ヨーレイトの設定にあたっては、このようにして求めたスタビリティファクタが適用されている。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上式(1)に示す車両のスタビリティファクタとヨーレイトとの関係は、前後輪の車軸がそれぞれ1軸ずつの車両について、その力学的運動モデルを2輪モデルとしたときの定常円旋回の運動方程式から得られるものである。しかしながら、車軸が前1軸・後2軸である車両にあっては、前後の車軸間距離Lを具体的に1つの値にて特定することができず、このため上式(1)の関係をそのまま適用することはできない。この点、前の車軸と後2軸の中間位置(例えばトラニオン中心)との間の距離を代替的に車軸間距離Lとすることも考えられるが、このようなLの値は2輪モデルのLの値との等価性に欠けるため、上式(1)によっても高精度に車両のスタビリティファクタを求めることはできない。
【0012】
また、目標ヨーレイトは車両のスタビリティファクタに基づいて設定されるものであるが、スタビリティファクタの精度が低ければ、もはや的確な目標ヨーレイトを設定することは困難である。
本発明は上述した事情に基づいてなされたもので、その目的とするところは、後2軸車両であっても、スタビリティファクタ及び目標ヨーレイト等の車両旋回特性の指標を簡便且つ高精度に得ることができるスタビリティファクタ導出方法及び目標ヨーレイト設定方法を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するため、請求項1の後2軸車両のスタビリティファクタ導出方法は、前1軸・後1軸車両で一般的に使用されるスタビリティファクタの導出式からスタビリティファクタAを算出するに際して、車両諸元としての各車軸間距離L1,L2,L3及び後輪に対する前輪のコーナリングパワー比に関する定数Xに基づいて等価車軸間距離Lを設定するものとしている。
【0014】
従って、請求項1のスタビリティファクタ導出方法によれば、上述した導出式、つまり、前1軸・後1軸車両で一般的に使用されるスタビリティファクタとヨーレイトとの関係式に適用可能な等価車軸間距離Lが特定されるので、実際の車両を旋回走行させて検出した車速V、前輪操舵角δ及び実ヨーレイトγ、そして、設定した等価車軸間距離Lに基づいて、この関係式から後2軸車両のスタビリティファクタAが算出される。
【0015】
請求項2のスタビリティファクタ導出方法にあっては、定数Xは後輪に対する前輪のコーナリングパワー比の代表的値として定義されている。この場合、スタビリティファクタの算出に際し、定数Xの値は前輪及び後輪のタイヤコーナリングパワー特性を考慮して適切な値に設定される。
また、請求項3の目標ヨーレイト設定方法は、請求項1と同様の方法によりスタビリティファクタAを導出した後、車両の走行時、検出した車速V、前輪操舵角δ、そして、導出したスタビリティファクタA及び既に設定した等価車軸間距離Lに基づき目標ヨーレイトγを設定するものとなっている。この場合でも、上述した関係式から後2軸車両の目標ヨーレイトγが設定される。
【0016】
そして、請求項4の目標ヨーレイト設定方法にあっては、定数Xは後輪に対する前輪のコーナリングパワー比の代表的値として定義されている。この場合、スタビリティファクタの算出及び目標ヨーレイトの設定に際して、定数Xの値は前輪及び後輪のタイヤコーナリングパワー特性を考慮して、一定の適切な数値に設定される。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の後2軸車両のスタビリティファクタ導出方法及び目標ヨーレイト設定方法について具体的に詳述する。
図1を参照すると、後2軸車両の一例として、後2軸式のトラック1が概略的に示されている。すなわち、このトラック1は、その前車軸afが1軸である一方、後車軸は2軸タイプとなっている。前車軸afに対応する前輪Fは、運転者によるハンドル操作に応じて操舵可能な操舵車輪である。また、後2軸のうち後前軸afr、つまり、前方の後車軸は、図示しないエンジンから駆動系を介して動力の伝達を受ける駆動軸となっており、この後前軸afrに対応する前方後輪FRは、駆動力を発生する駆動輪である。これに対し、後後軸arr、つまり、後方の後車軸はデッド軸であり、この後後軸arrに対応する後方後輪RRは単なる遊動輪である。つまり、このトラック1の駆動方式は、いわゆる6×2方式となっている。ただし、本発明が適用される後2軸車両は、当該トラック1のみに限定されるものではなく、その他の後2軸車両であってもよい。
【0018】
ここで、本発明のスタビリティファクタ導出方法及び目標ヨーレイト設定方法について説明する前に、後2軸車両の運動方程式から得られるヨーレイトとスタビリティファクタとの関係について説明する。
図2を参照すると、後2軸車両における旋回時の力学的運動モデルが示されている。なお、この運動モデルは、車両のトレッドを無視した後2軸車両に等価的な線形3輪モデルである。同図に示すモデルにおいて、車速をV、前輪操舵角をδ、実ヨーレイトをγ、車体スリップ角をβ、そして、各車輪F,FR,RRのタイヤに働くコーナリングフォースをそれぞれY,Yr1,Yr2とすると、後2軸車両の横方向の運動は次式(3)で表される。
【0019】
【数8】
Figure 0003629915
【0020】
なお、m:車体質量である。
また、車両の重心点Pgから各車輪F,FR,RRの車軸までの距離をそれぞれL,Lr1,Lr2とすると、車両の重心点Pg回りのヨーイング運動は次式(4)で表される。
【0021】
【数9】
Figure 0003629915
【0022】
なお、I:車両のヨーイング慣性モーメントである。
ここで、各車輪F,FR,RRのタイヤスリップ角β,βr1,βr2は、それぞれ、
β=β+L・γ/V−δ
βr1=β−Lr1・γ/V
βr2=β−Lr2・γ/V
となる。
【0023】
また、各コーナリングフォースY,Yr1,Yr2は、それぞれ、
=−K・β=−K・(β+L・γ/V−δ)
r1=−Kr1・βr1=−Kr1・(β−Lr1・γ/V)
r2=−Kr2・βr2=−Kr2・(β−Lr2・γ/V)
となる。なお、K,Kr1,Kr2はそれぞれ、各車輪F,FR,RRのコーナリングパワーである。
【0024】
従って、これらβf,βr1,βr2及びYf,Yr1,Yr2をそれぞれ式(3),(4)に代入して纏めると、
【0025】
【数10】
Figure 0003629915
【0026】
【数11】
Figure 0003629915
【0027】
がそれぞれ得られる。
上式(5),(6)に定常円旋回の条件dβ/dt=0,dγ/dt=0をそれぞれ代入し、両式からβを消去して1つの式に纏めた後、式をγについて解けば、後2軸車両のヨーレイトγを表す式、
【0028】
【数12】
Figure 0003629915
【0029】
が得られる。
上式(7)から表されるように、後2軸車両の場合、前軸と後軸との車軸間距離が定量的な1つの値に特定されないため、式(1)のようなヨーレイトとスタビリティファクタの簡単な関係式は得られない。(この点、公知のように前後各1軸車両の場合、2輪モデルにおける重心点から前軸までの距離Lと後軸までの距離Lの和を車軸間距離Lとして式(1)を容易に得ることができる。)そこで、本発明の発明者は、上式(7)において、先ずKr1=Kr2=Kとおき、そして、K=X・Kとして表し、式(7)を以下のように変形して、式(1)との関連から後2軸車両のヨーレイトとスタビリティファクタとの関係を見出すよう試みた。なお、Xは後述する定数として設定される。
【0030】
すなわち、式(7)は、上記Kr1=Kr2=K及びK=X・Kとする置き換えにより次式(8)の形式に変形し得る。
【0031】
【数13】
Figure 0003629915
【0032】
更に、式(1)との関連において、上式(8)中、K及びL,Lr1,Lr2が含まれる部分をそれぞれ、
【0033】
【数14】
Figure 0003629915
【0034】
【数15】
Figure 0003629915
【0035】
とおけば、上式(8)を次式(11)
【0036】
【数16】
Figure 0003629915
【0037】
の形式、つまり、式(1)と同様の形式にて表すことができる。発明者は、後2軸車両のヨーレイトγを上式(11)にて表したとき、
A:2輪モデルに等価的なスタビリティファクタ
L:2輪モデルに等価的な前後車軸間距離
であるとすれば、図2に示される後2軸車両の3輪モデルを2輪モデルと等価的に扱うことが可能であることに着目した。
【0038】
更に発明者は、上式(10)から定量的にLの値、つまり、等価車軸間距離を得るため、以下の検討を行った。
先ず、式(10)をLについて表せば、
【0039】
【数17】
Figure 0003629915
【0040】
となる。
ここで、L,Lr1,Lr2はそれぞれ定量値であるが、図2に示されるように車両の重心点位置を考慮しなければその値を求めることができない。そこで、L+Lr1=L,L+Lr2=L,|Lr1−Lr2|=L(=L−L)とすれば、等価車軸間距離Lは、
【0041】
【数18】
Figure 0003629915
【0042】
と表すことができる。なお、上述したL,L,Lは、図1の軸距寸法にも示されるように、
:前車軸と後前車軸との車軸間距離
:前車軸と後後車軸との車軸間距離
:後前車軸と後後車軸との車軸間距離
であり、車両の重心位置に無関係な一定の物理量である。
【0043】
また、定数Xは、式(8)を得る過程において定義したように、具体的には、後輪に対する前輪のコーナリングパワー比の代表的値、つまり、
X=K/Kr1=K/Kr2
である。
式(13)から明らかなように、定数Xを一定の値に設定すれば、車両諸元としてのL,L,Lから等価車軸間距離Lの値を具体的に特定することができるものと考えられる。
【0044】
ここで、前輪のコーナリングパワーK及び後輪のコーナリングパワーKr1,Kr2は、それぞれの輪荷重に依存して、使用されるタイヤの特性から決定される変数である。図3には、トラック1に使用されているタイヤについて、輪荷重(W)に対するコーナリングパワー(Cp)の関係を表すタイヤCp特性曲線が示されており、同図から明らかなように、車輪のコーナリングパワーは、輪荷重の増加に伴って増大するものである。従って、トラック1の各車輪に同一仕様のタイヤが使用されているとき、各車輪のコーナリングパワーK,Kr1,Kr2は、それぞれの輪荷重に依存して変化する。
【0045】
一方、前輪及び後輪の輪荷重は、トラック1において設定されている前1軸と後2軸との間の軸重の配分比に基づいて決定される。トラック1に積載される荷物の積載荷重が、この配分比に従って前輪及び後輪に分担されるとき、後輪に対する前輪の輪荷重比は略一定であると考えられる。従って、このような輪荷重比から決定されるコーナリングパワー比もまた、積載荷重に関わらずある程度一定の値をとるものと考えられる。
【0046】
このようなタイヤCp特性を根拠として、上述したコーナリングパワー比の代表的な値に基づき定数Xをある程度一定のものとして取り扱えば、式(13)から等価車軸間距離Lを定量値として特定することができる。そして、等価車軸間距離Lが特定されれば、前1軸・後1軸車両と同様の手法、つまり、ヨーレイトとスタビリティファクタの関係式(11)から、逆算により後2軸車両のスタビリティファクタAを容易に求めることが可能となる。
【0047】
発明者は、以上の理論的な裏付けの下に後2軸車両の運動モデルを等価的に2輪モデルに置き換えることができることを確認し、本発明のスタビリティファクタ導出方法及び目標ヨーレイト設定方法を創案するに至ったものである。
以下、スタビリティファクタ導出方法の実施例について、具体的な工程を挙げて順次説明する。但し、本発明は以下の実施例に挙げる工程のみに限定されるものではない。
【0048】
先ず、最初の工程では、車両諸元としての各車軸間距離が求められる。具体的には、図1に示されるように、前車軸afと後前車軸afrとの車軸間距離L、前車軸afと後後車軸arrとの車軸間距離L及び後前車軸afrと後後車軸arrとの車軸間距離Lに関するデータが収集される。なお、これら各車軸間距離L,L,Lの値は、当該トラック1の設計諸元に基づくデータから容易に得ることができるが、実際にこれらの距離を測定して求めることも可能である。
【0049】
より好適な次の工程として、上述した等価車軸間距離Lを設定する工程が挙げられる。すなわち、この工程では、L,L,L及び定数Xに基づいて、式(13)から等価車軸間距離Lの値が設定される。
このとき定数Xは、上述したように後輪に対する前輪のコーナリングパワー比の代表的値にて設定することができる。実際のトラック1では、1輪あたりの輪荷重が後輪よりも前輪の方がやや大きいことを考慮して、定数Xをコーナリングパワー比の代表的値0.6に設定することができる。なお、本発明の発明者は、式(13)から求められるLの値に対して定数Xの寄与度が小さいことに鑑み、特にコーナリングパワー比の代表的値を求めることなく、この定数Xをある程度の値にて固定可能であることを確認している。具体的には、後輪がダブルタイヤ、前輪がシングルタイヤであるという後2軸式トラックの特性上、例えばXを0.4〜0.7とすることもできる。
【0050】
次の工程としては、車速V、前輪Fの操舵角δ及びトラック1に発生する実ヨーレイトγを検出する工程が挙げられる。この工程は、トラック1を実際に定常円旋回走行させて実行されることが望ましい。この場合、定常円旋回の状況として、例えば、車体に発生する横加速度が重力加速度の0.3倍以下で、トラック1が一定の車速で一定半径の円旋回を行う状況を設定することができる。
【0051】
ここで図4を参照すると、スタビリティファクタ導出方法の実施に好適した装置の概略図が示されている。この装置は、車速を検出する車速検出手段と、前輪操舵角を検出する操舵角検出手段及び車両に発生する実ヨーレイトを検出するヨーレイト検出手段を有しており、具体的には、車速検出手段としての車速センサ10、操舵角検出手段としての操舵角センサ12及び実ヨーレイト検出手段としてのヨーレイトセンサ14等の各種センサを備えている。
【0052】
また、図4に示される装置は、各種センサからの検出信号に基づいて演算処理を実行する演算ユニット16も備えている。この演算ユニット16には、上述した等価車軸間距離Lを設定するための設定ブロック20、次の工程においてスタビリティファクタAを算出するための算出ブロック22及び後述する目標ヨーレイトγを設定するための設定ブロック24等の複数の演算処理ブロックが含まれる。
【0053】
更に、この装置は、演算ユニット16に対し種々のデータを入力可能なデータ入力部26を備えている。このデータ入力部26を介して演算ユニット16に入力された種々のデータは、演算ユニット16内の図示しないメモリに蓄積され、必要に応じて読み出すことができるようになっている。
従って、上述した各車軸間距離L,L,L及び定数Xのデータを予め演算ユニット16に入力しておけば、設定ブロック20では、各車軸間距離L,L,L及び定数Xに基づいて等価車軸間距離Lを設定することができる。
【0054】
トラック1に図4に示される装置を搭載して定常円旋回走行を行えば、このとき車速V、前輪操舵角δ及び実ヨーレイトγを容易に検出することができる。この場合、トラック1を確実に定常円旋回走行させるためには、例えば、自動車テストコース等のクローズドエリア内にてこの工程を実行することがより望ましい。ただし、一般道路上においても本発明を実施することができることはいうまでもない。
【0055】
そして、最終の工程では、検出したV,δ,γ及び設定したLに基づいて、次式(14)
【0056】
【数19】
Figure 0003629915
【0057】
からスタビリティファクタAが算出される。なお、上式(14)は、式(11)を変形してAについて解いたものである。また、図4の装置を適用すれば、1つ前の工程を実行した後、算出ブロック22にて直ちにスタビリティファクタAを算出することもできる。
以上の各工程を経た後、最終の工程にて得られる算出結果は、本発明のスタビリティファクタ導出方法により導出される後2軸式トラック1のスタビリティファクタとなる。
【0058】
上述した実施例のスタビリティファクタ導出方法によれば、後2軸車両のスタビリティファクタを簡便且つ高精度に導出することができる。また、この実施例のように定数Xを後輪に対する前輪のコーナリングパワー比の代表的値にて設定すれば、トラックのように積載される荷物によって車両重量が変化する場合でも、その都度定数Xを設定し直す必要がないので、実用性の面で有利となる。
【0059】
本発明のスタビリティファクタ導出方法は上述した実施例以外にも変形して実施可能である。例えば、車両諸元としてのL,L,Lが既知であり、定数Xが予め固定値にて設定されていれば、上述した各工程を経ることなく、車速V、前輪の操舵角δ及び実ヨーレイトγを検出し、式(14)からスタビリティファクタAを算出するに際して、Lを式(13)から同時に演算することも可能である。
【0060】
次に、本発明の目標ヨーレイト設定方法の実施例について説明する。目標ヨーレイトは、例えば、車両の旋回運動を積極的に制御する際、車両を安定して旋回走行させるための指標となるものであり、車両の一般的な走行状況下においてヨーレイトフィードバック制御を実行するために必要となる。なお、目標ヨーレイト設定方法についても、その実施の形態は以下に挙げる工程だけに限定されるものではない。
【0061】
先ず、最初の工程では、上述した導出方法によりトラック1のスタビリティファクタAが導出される。なお、この工程には、上述した等価車軸間距離を設定する工程が含まれており、この工程にて等価車軸間距離Lの値が適切に設定されていることはいうまでもない。
次の工程では、トラック1の一般的な走行状況、つまり、一般道路交通状況下における車速V及び前輪の操舵角δがそれぞれ検出される。
【0062】
更に、次の工程では、検出されたV,δ、すでに設定されているL及び導出されたAに基づいて、次式(15)からトラック1の目標ヨーレイトγが設定される。
【0063】
【数20】
Figure 0003629915
【0064】
なお、このような目標ヨーレイト設定方法についても、図4に示される装置を用いて好適に実施することが可能である。すなわち、スタビリティファクタAの導出については、すでに述べたように図4の装置を用いることができる。また、この装置を搭載したままトラック1を一般走行させれば、走行時の車速V及び前輪操舵角δを車速センサ10及び操舵角センサ12によりそれぞれ検出することができる。そして、これらセンサ10,12からのセンサ信号、設定ブロック20にて設定した等価車軸間距離L及び算出ブロック22にて算出したスタビリティファクタAに基づいて、設定ブロック24では式(15)に示す演算が実行される。
【0065】
以上の各工程を経ることで、本発明の目標ヨーレイト設定方法により後2軸式トラック1の目標ヨーレイトγが設定される。
なお、このように設定された目標ヨーレイトγは、ヨーレイトフィードバック制御を用いた車両挙動制御技術に好適に利用される。例えば、車両のヨーイング運動を積極的に制御するヨーモーメント制御技術や、旋回時の横加速度を減少させたり、ロールオーバを抑制する自動減速制御技術、その他、車両の旋回性を高める前後輪操舵制御技術等に広く応用することが可能である。従って、図4に示される装置からは、スタビリティファクタA及び目標ヨーレイトγを上記の各種制御を実行する制御手段に対し出力可能となっている。
【0066】
上述した目標ヨーレイト設定方法によれば、後2軸車両のスタビリティファクタを簡便且つ高精度に導出することができ、求めたスタビリティファクタを用いて目標ヨーレイトを適切に設定することができる。
【0067】
【発明の効果】
以上説明したように、請求項1の後2軸車両のスタビリティファクタ導出方法によれば、簡単な演算式を使用して精度の高いスタビリティファクタを導出することができる。
請求項2のスタビリティファクタ導出方法によれば、車両に固有な定数Xの値を簡便に設定することができる。従って、実車に即したスタビリティファクタを求めることができ、より実用性に優れたスタビリティファクタ導出方法を提供できる。
【0068】
また、請求項3の後2軸車両の目標ヨーレイト設定方法によれば、簡便且つ高精度に導出したスタビリティファクタを用いて目標ヨーレイトを適切に設定することができる。
そして、請求項4の目標ヨーレイト設定方法によれば、車両に固有な定数Xの値を簡便に設定することができる。従って、実車に即して求めたスタビリティファクタを使用して目標ヨーレイトを求めることができるので、より実用性に優れた目標ヨーレイト設定方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】後2軸式トラックの概略図である。
【図2】後2軸車両の運動方程式を説明するためのモデル図である。
【図3】輪荷重とコーナリングパワーの関係を表すタイヤCp特性曲線である。
【図4】本発明の実施に好適な装置の構成概略図である。
【符号の説明】
1 後2軸式トラック
F 前輪
FR 前方後輪(後輪)
RR 後方後輪(後輪)
af 前車軸
afr 後前車軸
arr 後後車軸

Claims (4)

  1. 車速V、前輪の操舵角δ及び車両に発生するヨーレイトγを検出し、
    車両のスタビリティファクタAを
    Figure 0003629915
    なる演算式から算出するに際して、前記Lを
    Figure 0003629915
    但し、L1は前車軸と後前車軸との車軸間距離
    2は前車軸と後後車軸との車軸間距離
    3は後前車軸と後後車軸との車軸間距離
    Xは後輪に対する前輪のコーナリングパワー比に関する定数
    としたことを特徴とする後2軸車両のスタビリティファクタ導出方法。
  2. 前記Xとして、後輪に対する前輪のコーナリングパワー比の代表的値を使用することを特徴とする請求項1に記載の後2軸車両のスタビリティファクタ導出方法。
  3. 車速V、前輪の操舵角δ及び車両に発生するヨーレイトγを検出し、
    車両のスタビリティファクタAを
    Figure 0003629915
    なる演算式から算出しておき、
    車速V及び前輪の操舵角δを検出して、車両の目標ヨーレイトγ*
    Figure 0003629915
    なる演算式から算出するに際して、前記Lを
    Figure 0003629915
    但し、L1は前車軸と後前車軸との車軸間距離
    2は前車軸と後後車軸との車軸間距離
    3は後前車軸と後後車軸との車軸間距離
    Xは後輪に対する前輪のコーナリングパワー比に関する定数
    としたことを特徴とする後2軸車両の目標ヨーレイト設定方法。
  4. 前記Xとして、後輪に対する前輪のコーナリングパワー比の代表的値を使用することを特徴とする請求項3に記載の後2軸車両の目標ヨーレイト設定方法。
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