JP3622302B2 - プロセス安全性評価手順作成装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、プロセス安全性評価手順作成装置に関する。詳しくは本発明は、プロセスの危険度評価を効果的かつ効率的に行なうための解析手段を構築するための装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
化学プロセスその他の危険性を内包するプロセスの構築或いは運用に際してはその危険度を評価することが決定的な重要性を有している。プロセスの危険度を評価するための手法は種々開発されているが、主なものを上げると次のようなものがある。
先ず定性的手法として、異常事象想定解析法(What if)、チェックリスト法、イベントツリー法(ET)、危険・運転性解析法(HAZOP)が挙げられ、半定量的手法として故障モード影響解析法(FMEA)が挙げられ、また定量的手法としてフォールトツリー解析法(FTA)が挙げられる。
【0003】
一般にプロセスの危険度を客観的に評価し、適切な安全対策を評価するには定量的(確率論的)な評価を行う必要がある。定量的手法としては一般にFTAが用いられるが、トップ事象としての災害と原因となる初期事象との複雑な関係を正確に表現することは極めて難しく、熟練者の膨大な労力を必要とする。そのため、航空機産業及び原子力産業を除く一般の産業分野においては、適用されないか、ごく部分的な適用に留まっているのが現状である。米国労働安全法(OSHA規制)では何れかの方法によるプロセスの安全性評価が義務付けられているが、HAZOPを中心にした定性的評価に留まっているのが現実である。
【0004】
What if 法は、プロセスの特徴を概念的に捉えるのには簡便な方法であるが、詳細な解析を行うことは不可能である。
チェックリスト法は、比較的容易に適用できるので広く用いられているが、チェックポイントは点の羅列であるので、精密に表現すればするほど多数のチェックポイントを必要とする。また、定性的評価に留まり、システム的評価は困難である。
【0005】
HAZOP、ET、FMEA等の定性的ないし半定量的手法は、FTAにおける因果関係(シナリオ)を明らかにするために用いる手段としても、一般に用いられている。その理由は、必ずしもこれらの定性的手法が十分な機能を有しているためではなく、主として他に適当な方法がないことによっており、各々次のような得失を持っている。
【0006】
HAZOPはプロセスラインの中間事象である状態量(温度・圧力・流量・組成等)の、定常状態からの「ずれ」を起点に、「ずれ」に関するガイドワードから、その原因と結果を明らかにして行く方法である。しかし、原因を抽出するという演繹的発想と、結果を導くという帰納的発想とを同時に要求するので、実行者の思考を混乱させ、多大なストレスを与える。また、配管毎に中間事象をとらえて実行するので、同じ原因が何度も繰り返し出現することとなり、無駄な時間を要する。さらに必ずしも原因から最終結果までのシナリオが十分には抽出できないので、効率的手法とは言えない。また、起因となる中間事象の原因によっては拡大シナリオ及びその防護手段が異なることが実際の化学プロセスではよくあることであるが、HAZOPではそれを正確に表現することが出来ない。そのため定量的評価を行うためのフォールトツリー(FT)への展開も容易ではない。利点としては、プロセスの上流から下流に向かって組織的に網羅的に進めて行くため、抜けが少ないと言われている。
【0007】
ETは、ある初期事象から結果に至る事象の繋がりを明らかにして行く手法であり、シナリオを明らかにし、どのような事故が発生する可能性があるかを把握することができる。しかし、防護機能をキーとする二枝分枝のツリー構造であり、プロセス状態の変化を表現する手段がなく、少し複雑なシナリオとなるとツリーが膨大なものとなって分析者に過大な労力をかけると共に分析結果を他者が理解するのは容易でないという欠点がある。また定量的評価を行うためのFTへの展開のベースとして、事象の整理には便利であるが、FT展開にはなお工夫と熟練が必要であって、確率評価には労力を要する。
【0008】
FMEAは原因となる個々の故障モードと事故との相互関係を明らかにして行く方法であり、リスクレベルの評価を半定量的に行うことが出来る。しかしFMEAは機械システムのように原因と事故との因果連鎖が短い設備には有効であるが、化学プロセスのようにある故障が巡り巡って別の機器の事故に繋がるような因果連鎖の長い設備には不十分な手法である。また化学プラントで重要とされるヒューマンファクターを考慮しにくいという欠点もある。
【0009】
米国労働安全法(OSHA規制)で義務づけられたため、米国では上記HAZOP、ET、FMEAの中で比較的取り扱いが化学プラントに適しているHAZOPを中心にした定性的評価が、その欠点にも関わらず産業界に広く適用されているが、その適用後においても労力とストレスといった欠点のために、プロセス改造等に際しての再評価についても困難なものとなっている。
【0010】
我が国においては、法的義務づけがなく、各企業の自主的取り進めに委ねられているが、上記の定性的評価すら、その膨大な労力のため十分に実施されていないのが実状である。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
産業界における、定量的危険度評価の目的は、保険料査定のようにプラント全体の事故確率を求めることではなく、原因事象から災害に至るシナリオをプロセスシステム及びその運転思想のトポロジー(因果連鎖関係)に忠実に抽出し、その一つ一つの定量的評価を行うことで、トポロジーの妥当性確認と改善を行うことであって、この目的を効率的に達成する手法と手段が待ち望まれていたのである。具体的には、HAZOP、ET、FMEA等の解析手法の欠点を解消し、プロセスの安全性評価に適した定性的解析手法であって、さらにこの手法による解析結果を容易に定量的評価を行うためのFTに展開でき、定量的評価を行うことのできる手法、ならびにこれら新手法を容易に実現するコンピュータソフトウエアの開発が産業界で待ち望まれていた。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明は上記従来技術の現状に鑑みてなされたものであって、プロセスの安全性評価に適した定性的解析手法及び定量的評価手法の開発を容易に行うことを可能にする装置を提供するものである。
【0013】
本発明の要旨は (1)対象とするプロセス中の設備機器の名称を入力するための機器名入力手段と、
(2)設備機器毎に、予め設定されたガイドワードに従って機能不全モードを設定するための機能不全モード設定手段と、
(3)プロセスにおける発生事象とプロセスにおける運転操作との応答関係を表現するように、生起する発生事象毎に、対話形式で(i)発生事象認知手段、(ii)発生事象回復動作、及び(iii)後続して生起し得る発生事象から成る事象−操作連鎖単位を入力するための事象 操作連鎖入力手段と、
(4)各機能不全モードを起点にして、事象操作連鎖入力手段から入力された事象−操作連鎖単位の集積に基づいて、運転思想トポロジーを表現する危険性シナリオを生成するための危険性シナリオ生成機能と、
(5)運転思想トポロジーに基づいて、危険性シナリオの各段階の発生事象を、機能不全モードから、頂上事象として最終的に発生する事故に至る発生事象の連鎖として、それぞれ1つの階層に設定した事象の樹として表すための階層設定手段と、
(6)発生事象回復動作を、各々の階層のAND事象として設定するための回復動作失敗事象設定手段と、
(7)階層設定手段及び回復動作失敗事象設定手段によって構築される、機能不全モードから事故事象に至る論理構造を、フォールトツリーに表すための作図機能と、を含むことを特徴とするフォールトツリー構築装置に存する。
【0014】
また、本発明の他の要旨は、上記に記載のフォールトツリー構築装置において、さらに回復動作失敗事象のフォールトツリー下位構造を、発生事象認知手段の故障とヒューマンエラーファクターまたは発生事象回復動作のシステム論理構造とから構築するための、回復動作フォールトツリー入力手段を含むことを特徴とするフォールトツリー構築装置、に存する。また、上記に記載のフォールトツリー構築装置において、さらに
(3)予め発生事象回復動作の種類別に作成した回復動作フォールトツリーを記憶しておくための回復動作フォールトツリー記憶機能と、
(2)記憶された回復動作フォールトツリーを必要時に選択してフォールトツリーに組み込むためのフォールトツリー挿入機能と、を含むことを特徴とするフォールトツリー構築装置もまたその要旨とする。
【0015】
本発明のさらに他の要旨は、上記フォールトツリー構築装置において、さらに(1)(a)該フォールトツリー構築装置で構築されるフォールトツリーに、予め作成された故障確率データベース及びヒューマンエラー確率データベースから確率データを転記するための確率データ収集機能、
及び/又は
(b)上記フォールトツリーに、故障確率データ及びヒューマンエラー確率データを入力するための確率データ入力手段と、
(2)入力された発生事象に対して、コモン事象を設定するためのコモン事象設定機能と、
(3)上記(1)及び(2)によって設定されるデータから、頂上事象の発生確率を計算する演算機能と、
を付加したことを特徴とするフォールトツリー解析装置、に存する。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の各装置は何れも、HAZOP、ET、FMEA等の従来の解析手法の欠点を解消し、プロセスの危険度評価に適した、本発明者らの発案になる定性的解析手法(以下、新HAZOPという)にその基礎をおいている。
【0017】
新HAZOPは、発想の起点を設備機器の故障という初期事象に置き、全て帰納的発想で取り進める。手順としては次のように取り進める。
(1)全ての設備機器をフローシートに従って網羅的に取り上げる。
(2)取り上げた対象設備についてガイドワードに従って機能不全モードを設定する。
(3)機能不全モードから引き起こされるシナリオを、
・事象の発見方法(アラーム等)
・事象の回復動作...成功・失敗のノード有り(設備の動作、人間の操 作)
・発生する事象
の、質問の繰り返しに答える形で、プロセスシステムと運転思想のトポロジーとして表していく。
【0018】
ここで事象の回復動作は設備又は人間の動作を示すわけであるが、事象を明らかに直接的に回復させるのに有効なものだけに限定して考えるべきではなく、事象に対応する設備・人間の動作を広く拾っておくべきである。化学プロセスでは、直接的に回復に寄与しないと思われる動作でも、その成功・失敗のノード毎に、後のシナリオが異なることが多いためである。
【0019】
新HAZOPの第1の特徴は、従来のHAZOPが、プロセスの正常状態からのずれを起因事象として、その原因と結果とを二方向に向かって演繹的・帰納的に抽出する手法であったのに比べ、発想の起因事象をプロセス状態を制御する機器の機能不全事象とすることにより、その結果を一方向的(帰納的)に抽出できることとした点である。これは特に分析対象を化学プロセスプラントに特化した場合に有用性が大きく、このことにより分析者の労力、ストレスを大きく軽減することができる。
【0020】
新HAZOPの第2の特徴は、従来のHAZOPの表記方法がフリーフォーマット(自由表記)に近いものであったが、新HAZOPでは、「事象の発見方法」、「事象の回復動作」、「発生する事象」という3つのフェーズを記号化して、この記号の連鎖で全てのシナリオを表記するようにした点である。特に化学プロセスの事故シナリオ及びそれに対する防護機能或いは運転思想は、この記号化したトポロジーにより明確に表現できる。即ち従来のHAZOPが発想の起点となる起因事象は定義するものの、拡大シナリオ抽出の発想方法については何ら規定していないが、新HAZOPは特に化学プロセスプラントの特徴を研究した結果として、上記3フェーズのトポロジーに基づいて拡大シナリオ抽出の発想方法を規定したものである。これにより従来、分析者の知識・能力の個人差に大きく左右された分析結果が、分析者によらず、同レベルの分析結果が得られるようになり、また分析者にかかるストレスを軽減できる。
【0021】
新HAZOPの第3の特徴は、上記トポロジー表記法を使って表現した事故シナリオは、機械的アルゴリズムにより確率的評価が実施可能なFTに近いところまで自動的に変換できる点である。即ち従来のHAZOPでは定性的評価しかできなかったのであるが、新HAZOPでは確率的な定量的評価を一貫システムとして取り扱うことが可能となる。従来のFTというものは、事故事象を頂上事象としてその原因を演繹的にツリー上に表現するものであるが、そのツリーの作成手順及び発想方法は規定されていない手法であり、それがFTが広く普及しない理由であったが、新HAZOPにより特に化学プロセスプラントに関してはその問題が解決されるのである。
【0022】
本発明のプロセス安全性評価手順作成装置、フォールトツリー構築装置及びフォールトツリー解析装置は何れも上記の新HAZOPにその基礎を置くものであり、新HAZOPの具体的な適用を容易に実行するための装置である。これらの装置は何れも所定の機能をハード的又はソフト的に備えたコンピュータとして構成することができる。
【0023】
図1は、本発明のプロセス安全性評価手順作成装置の一例を示す構成図である。図中、1は対象とするプロセス中の設備機器の名称を入力するための機器名入力手段、2は設備機器毎に予め機能不全のガイドワードを設定し記憶しておくための機能不全ガイドワード記憶手段、3は該ガイドワードに従って機能不全モードを設定するための機能不全モード設定手段、4はプロセスにおける発生事象とプロセスにおける運転操作との応答関係を表現するように、生起する発生事象毎に事象−操作連鎖単位を入力するための事象操作連鎖入力手段、5は上記連鎖単位の入力毎に、対話形式で(i)発生事象認知手段、(ii)発生事象回復動作、及び(iii)後続して生起し得る発生事象、を提示させるための事象−操作連鎖質問ガイド記憶手段、6は上記入力された事象−操作連鎖単位からその集積を形成させるための事象−操作連鎖単位集積生成手段、7は上記事象−操作連鎖単位の集積に基づいて、各機能不全モードを起点にして、プロセスにおける機能不全モードと発生事象と運転操作との全体的な因果連鎖関係(「運転思想トポロジー」)を表現する危険性シナリオを生成するための危険性シナリオ生成機能、8は得られた危険性シナリオを記憶しておくための危険性シナリオ記憶手段、9は表示装置、10は印刷装置である。
【0024】
例としてモデル的な化学反応プロセスについて、本発明のプロセス安全性評価手順作成装置を用いて新HAZOPを適用する場合について説明する。
図2は、物質Aと物質Bとを反応させるための反応器31及び周辺機器を示す模式図である。この反応においては、物質Bと物質Aとの比率がある閾値を越える(例えば物質B/物質A>α)と発熱反応が暴走して反応器が圧力上昇しついには破裂する。反応器の温度が一定以上に上昇した場合には物質A,Bの遮断弁32、33を閉止する保護装置が付いている。反応器には安全弁34が付いている。また、暴走時には安全弁よりも遮断弁が先に作動する設定となっている。
【0025】
図1のプロセス安全性評価手順作成装置において、先ず機器名入力手段から特定の機器名(例えば遮断弁XV3)を入力する。
次に予め設定され記憶されたガイドワードに従って機能不全モードを設定する。ガイドワードの例としては、例えば表−1のように、対象機器ごとに機能不全モードを予め抽出しておき、対象設備が決まれば、対応する機能不全モードを順番に網羅的に設定できるようにする。なお、化学プロセスプラントの場合には、使用される機器が汎用化されているので、表−1のように一般化することが特に容易である。
【0026】
【表1】
【0027】
【表2】
【0028】
図2の流量制御弁35(FCV12)の機能不全モードを「開度過大」とする場合について、危険性シナリオを抽出する手順を例示する。発生事象を四角形で表し、この事象の認知(発見)手段を円からの引出線で示し、事象に対する回復(防御)動作(アクション)を菱形で示すこととして、事象操作連鎖入力手段から、「CV開度過大」という初期事象を出発点として、(i)発生事象認知手段、(ii)発生事象回復動作、及び(iii)後続して生起し得る発生事象、の順に繰り返し入力して記述していく。回復動作には成功・失敗のノードが存在するが、失敗の場合は通常、さらに次の発生事象を設定しなければならない。またアクションには安全装置・制御装置・人の操作等を入力し記述する。
【0029】
このような入力作業を繰り返すと、危険性シナリオ生成機能の働きにより、図3のような危険性シナリオを示すフローチャートが完成する。
なおこの危険性シナリオ作成過程において現れた発生事象のリスクレベルを、予め決めた重要度区分に従い分類しておくのが好ましい。
この場合は、例えば、現れた発生事象のリスクレベルを、予め表−2のような重要度区分に従って分類する。分類結果は図3に併記する。
【0030】
【表3】
【0031】
解析結果の図3には、各事故レベルに至るプロセスのトポロジーと、運転操作の思想が全て表現されており、検出機能・防御機能の欠落も一目で理解でき、トポロジーの改善検討も可能なものとなっている。機能不全モードを設定する部分はFMEA的であるが、プロセスに関与する人間の役割が明確である。
【0032】
上記のように本発明のプロセス安全性評価手順作成装置を用いる方法は、発想が帰納的であり作業が早い。HAZOPのようにガイドワードや作表機能を付けた支援システム化(コンピューターソフトウエア化)も容易であり、ソフトウェア化により作業効率はさらに上がる。また危険性シナリオをフローチャートに表すための作図機能は図3に示したものには限定されず、目的に応じて種々の機能を付加することができる。
【0033】
さて上記本発明のプロセス安全性評価手順作成装置による解析結果は容易にFTAに展開することができ、それにより定量評価を行うことができる。そこで上記プロセス安全性評価手順作成装置に
(1)発生事象を各階層に設定した事象の樹として表すための階層設定手段、
(2)発生事象回復動作を各階層のAND事象として設定するための回復動作失敗事象設定手段、及び
(3)機能不全モードから事故事象に至る論理構造をFTに表すための作図機能、
を付け加えることによって、本発明のフォールトツリー構築装置が構成される。
【0034】
即ち、例えば図3に示される本発明のプロセス安全性評価手順作成装置による解析結果の骨格はETよりもさらにFTに近い。論理構造はFTの枝に等しいので、容易にFTに展開できるのである。
図4は、本発明のフォールトツリー構築装置の一例を示す構成図である。図中、1〜10は図1におけると同様である。11は発生事象を各階層に設定した事象の樹として表すための階層設定手段、12は発生事象回復動作を各階層のAND事象として設定するための回復動作失敗事象設定手段、13は機能不全モードから事故事象に至る論理構造をFTに表すための作図機能、14は得られたFTを記憶しておくためのFT記憶手段である。
【0035】
図3と同じ事例に図4のフォールトツリー構築装置を適用してFTに展開する場合の例について説明する。
図5は理解を容易にするために図3のチャートを上下逆に書いたものである。実作業上はこのような逆転操作が不要であることは言うまでもない。簡単のため、防御機能のない部分は省略してある。このチャートはまさに初期事象からトップ事象としての事故事象に至る論理構造を示している。図5をFTに展開した結果を図6に示す。図5の四角形、即ち発生事象がそのままFTの骨格になり、図5の菱形、即ち防御機能が、対応する発生事象のAND事象として挿入される。このように非常に単純な操作でFTに展開できる訳であり、コンピュータソフトウエア化も容易である。その際、
(1)回復動作の種類別に作成した回復動作フォールトツリーを記憶しておくための回復動作フォールトツリー記憶機能、及び
(2)記憶された回復動作フォールトツリーを必要時にFTに組み込むためのフォールトツリー挿入機能、
を準備しておくことは作業効率の向上にとって有効である。
【0036】
このようにして得られたFTに基づいてFTAを行って確率評価をするためには、図6における防御機能の失敗について、それを要素に展開すべく若干の手を加えて、図7のようにFTを完成すればよいのである。主要な骨格は既に完成しているので、非常に単純な作業である。回復動作は、一般に、アラーム発見後の人間の対処若しくは計装システムの動作であり、その失敗を表すFTはパターン化されたものとなる。従って、予め数種の部分的FTとして作成・記憶しておき、必要時に引き出してコピーするといったソフトウェアにより、上記作業はさらに容易なものとなる。FTAに各々の確率を当てはめてトップ事象の事故確率を算定することは、公知の方法で容易に行うことができる。この解析作業は本発明のフォールトツリー解析装置によって行うことができるが、それは前記本発明のフォールトツリー構築装置において、さらに
(1)(a)予め作成された故障確率データベース及びヒューマンエラー確率データベースから確率データを転記するための確率データ収集機能、
及び/又は
(b)故障確率データ及びヒューマンエラー確率データを入力するための確率データ入力手段、
(2)コモン事象を設定するためのコモン事象設定機能、及び
(3)上記で設定されるデータから、頂上事象の発生確率を計算する演算機能、を付加したものである。上記においてコモン事象とは、相互に依存性を持ち、同時発生的な要素を含む故障やヒューマンエラーなどを意味し、頂上事象の発生確率を計算する際に考慮に入れる必要があるものである。
【0037】
図8は、本発明のフォールトツリー解析装置の一例を示す構成図である。図中、1〜14は図4におけると同様である。15は回復動作の種類別に作成した回復動作フォールトツリーを記憶しておくための回復動作フォールトツリー記憶機能、16は記憶された回復動作フォールトツリーを必要時にFTに組み込むためのフォールトツリー挿入機能、17は予め作成された故障確率データベース及びヒューマンエラー確率データベースを記憶しておくための確率データ記憶手段、18は上記確率データを転記するための確率データ収集機能及び/又は入力するための確率データ入力手段からなる確率データ設定手段、19はコモン事象を設定するためのコモン事象設定機能、20は上記で設定されるデータから頂上事象の発生確率を計算する演算機能である。
【0038】
なお上記において、確率データの内、回復動作を行う代表的計装システムについて、予め確率値の得られやすい単位部品レベルに展開したフォールトツリー解析によって算定された計装システムの総合故障確率を、必要に応じて用いることとすれば回復動作フォールトツリーを簡便な形に留める上で有用である。
【0039】
【発明の効果】
本発明により、化学プロセスその他の危険性を内包するプロセスの構築或いは運用に際して決定的な重要性を有している危険度の評価を効果的かつ効率的に行なうための解析手段を構築するための装置が提供され、工業的に極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のプロセス安全性評価手順作成装置の一例を示す構成図である。
【図2】モデル的な化学反応プロセスについての反応器及び周辺機器を示す模式図である。
【図3】危険性シナリオを示すフローチャートの一例を示す図である。
【図4】本発明のフォールトツリー構築装置の一例を示す構成図である。
【図5】図3のフローチャートの変形例を示す図である。
【図6】図5のフローチャートをフォールトツリーに展開した例を示す図である。
【図7】図6のフォールトツリーに確率的評価を加えた図である。
【図8】本発明のフォールトツリー解析装置の一例を示す構成図である。
【符号の説明】
図2において:
31:反応器、 32、33:遮断弁、
34:安全弁、 35:流量制御弁
Claims (5)
- (1)対象とするプロセス中の設備機器の名称を入力するための機器名入力手段と、
(2)設備機器毎に、予め設定されたガイドワードに従って機能不全モードを設定するための機能不全モード設定手段と、
(3)プロセスにおける発生事象とプロセスにおける運転操作との応答関係を表現するように、生起する発生事象毎に、対話形式で(i)発生事象認知手段、(ii)発生事象回復動作、及び(iii)後続して生起し得る発生事象から成る事象−操作連鎖単位を入力するための事象 操作連鎖入力手段と、
(4)各機能不全モードを起点にして、事象操作連鎖入力手段から入力された事象−操作連鎖単位の集積に基づいて、運転思想トポロジーを表現する危険性シナリオを生成するための危険性シナリオ生成機能と、
(5)運転思想トポロジーに基づいて、危険性シナリオの各段階の発生事象を、機能不全モードから、頂上事象として最終的に発生する事故に至る発生事象の連鎖として、それぞれ1つの階層に設定した事象の樹として表すための階層設定手段と、
(6)発生事象回復動作を、各々の階層のAND事象として設定するための回復動作失敗事象設定手段と、
(7)階層設定手段及び回復動作失敗事象設定手段によって構築される、機能不全モードから事故事象に至る論理構造を、フォールトツリーに表すための作図機能と、を含むことを特徴とするフォールトツリー構築装置。 - 請求項1に記載のフォールトツリー構築装置において、さらに回復動作失敗事象のフォールトツリー下位構造を、発生事象認知手段の故障とヒューマンエラーファクターまたは発生事象回復動作のシステム論理構造とから構築するための、回復動作フォールトツリー入力手段を含むことを特徴とするフォールトツリー構築装置。
- 請求項1に記載のフォールトツリー構築装置において、さらに
(1)予め発生事象回復動作の種類別に作成した回復動作フォールトツリーを記憶しておくための回復動作フォールトツリー記憶機能と、
(2)記憶された回復動作フォールトツリーを必要時に選択してフォールトツリーに組み込むためのフォールトツリー挿入機能と、を含むことを特徴とするフォールトツリー構築装置。 - 請求項1〜3の何れか1つに記載のフォールトツリー構築装置において、さらに
(1)(a)該フォールトツリー構築装置で構築される フォールトツリーに、予め作成された故障確率データベース及びヒューマンエラー確率データベースから確率データを転記するための確率データ収集機能、及び/又は(b)上記フォールトツリーに、故障確率データ及びヒューマンエラー確率データを入力するための確率データ入力手段と、
(2)入力された発生事象に対して、コモン事象を設定するためのコモン事象設定機能と、 (3)上記(1)及び(2)によって設定されるデータから、頂上事象の発生確率を計算する演算機能と、を付加したことを特徴とするフォールトツリー解析装置。 - 請求項4に記載のフォールトツリー解析装置において、用いられる確率データの内、発生事象回復動作を行う代表的計装システムについて、予め確率値の得られやすい単位部品レベルに展開したフォールトツリー解析によって算定された計装システムの総合故障確率を、必要に応じて用いることにより回復動作フォールトツリーを簡便な形にとどめる機能を有する、ことを特徴とするフォールトツリー解析装置。
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1995
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