JP3602158B2 - 高周波誘導加熱装置および加熱方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、金属材料を加熱し、金属工学的な調査研究、熱処理およびゾーンリファイニングなどを行う際に用いるのに好適な高周波誘導加熱に関する。
【0002】
【従来の技術】
鋼の連続鋳造を行う際に鋳片の表面および内部の品質を向上させるためには、鋼の凝固途中あるいは凝固後の冷却過程における鋼の温度と歪量、強度との関係を明らかにする必要がある。これらの関係を用いて熱応力解析を行うことにより、鋼の最適冷却条件を見いだし、これを実操業に反映させることが要求されている。
【0003】
しかし、特に固相線温度直上での半溶融状態における鋼の温度と歪量、強度との関係を求めることは、実験室規模の実験においても困難であるため、上記の関係は未だ充分に解明されていない。
【0004】
その主な原因は、固相線温度近傍の高温状態では鋼の温度制御が困難であることにある。
【0005】
鋼の温度と歪量、強度との関係を求めるため、 JIS規格の被加熱材試験片(以下、単に被加熱材または試験片もしくは試料という)を所定温度に加熱して試験片を両端方向に引張り、試験片の伸び量、断面収縮量、荷重の測定が行われている。その際、試験片の温度を変化させて温度と歪量、強度の関係を求めるために、試験片の加熱領域を限定するとともに加熱温度を正確に測定する必要がある。
【0006】
しかし、試験片の加熱部の温度測定、特に試験片の固相線温度近傍の高温状態での測定は、その計測手法が充分に確立されていない。通常、温度測定には熱電対が用いられるが、試験片が小さいため熱電対の固定が困難であるとともに、熱電対と試験片が反応するため、熱電対と試験片の間に耐火物を挟まなければならない。
【0007】
このような方法では、耐火物の熱伝導率が低いため、試験片温度と熱電対による測定温度に差が生じ、試験片の温度を正確に測定することができない。
【0008】
試験片の固相線温度以上の半溶融状態での温度測定法としては、試験片自体の温度に影響を及ぼさない方法を用いる必要があり、今のところ光温度計を用いる方法以外にない。
【0009】
鉄と鋼,vol.64(1978),第14号, p.2148〜2157に示される論文では、試験片を高周波誘導加熱法により所定温度まで昇温し、試験片を引張ることで、伸びと温度および荷重との関係を求め、凝固点直下における鋼の脆化挙動を調査している。
【0010】
ここで用いられている高周波誘導加熱装置は、スプリング状の誘導コイルのみで構成されており、この誘導コイル近傍の試験片を加熱あるいは溶融することができるものである。試験片の温度測定には熱電対が使用されているが、この方法では加熱部の温度を直接測定することが不可能であるため、試験片の加熱部中央から離れた位置の温度を測定することで加熱部の温度を推測している。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
円管をスプリング状または渦巻状に加工して作製した上記のような高周波誘導加熱コイルを用いる場合には、次の▲1▼〜▲5▼の問題がある。
【0012】
▲1▼加熱コイルの中心に試験片を固定し、試験片の加熱部中央から離れた位置に取り付けた熱電対による測定値を用いて、加熱部の温度を制御せざるを得ないため、その正確さは期待しがたく、加熱部温度は推測値に留まる。熱電対と試験片との間に耐火物を挟む場合には、この推測精度はさらに低下する。
【0013】
▲2▼上記の制御を行うには、加熱部中央の温度と熱電対の設置位置の温度との関係を予め求めなければならない。試験片の組成が異なると、その熱伝導率も異なり、両者の温度の関係も変わることになる。このため、試験片の組成毎に予備実験を行う必要があり、実験に時間と費用を要する。
【0014】
▲3▼加熱コイルのみから発生する磁場で試験片を加熱するため、磁場が所望の加熱部領域よりも拡大しやすく、加熱部を厳密に限定することができない。さらに、磁場が試験片の内部まで均等に侵入せず、試験片の加熱部温度が均一とならない。
【0015】
▲4▼このようなコイルでは、コイルに流れる電流を短絡させないため、渦巻の開始点と終了点で円管の直径以上の間隔で段差を付ける必要がある。この箇所においてはコイルから発生する磁場が均等でなくなり、その不均等磁場の作用で加熱される試料に温度分布が生じる。また、コイルが円管であってその内部に冷却水を流すため、ある程度のコイルが直径が必要となる。この場合、円管から放射状に磁場が発生し、試料の加熱領域を厳密に限定することが困難になるのを助長する。
【0016】
▲5▼熱電対に変えて光温度計を用いようとしても、コイルが試験片の加熱部の直ぐ側方に存在するため、試料に直角な位置に光温度計を設置するスペースを取ることができない。光温度計の位置が試料と直角な位置にないと、光温度計と被測温面の距離が一定とならず、放射光温度に分布が生じ、これが測定温度の誤差の原因となる。
【0017】
図5に基づいて上記▲3▼の理由を説明する。図5は、従来の渦巻状の円管加熱コイルのみを備えた誘導加熱装置の場合の、コイルから発生する磁場分布を模式的に示す縦断面図である。図示するように円管2から磁場5が放射状に拡がるため、円管2から離れるにつれ磁束密度が小さくなり、試料6の加熱温度の均一性が低下する。また、磁場5が放射状に広がることから、試料6の温度が均等となる加熱範囲を限定することができない。
【0018】
本発明の目的は、上記のような問題を生じることなく、試験片の所望の加熱部温度の均一さと温度制御の容易さとを同時に達成することが可能な高周波誘導加熱装置と加熱方法を提供することにある。
【0019】
【課題を解決するための手段】
本発明の要旨は、次の(1) の高周波誘導加熱装置と、(2) のこれを用いる加熱方法にある。
【0020】
(1)中央部に被加熱材を挿入するための開孔部を有する1対の導電性円板と、1対の導電性円板の二つの外面部に設けた渦巻状導電性円管の通電加熱コイルとから構成され、1対の導電性円板は、対称かつ平行で対向し、外面部の通電加熱コイルは、それぞれ少なくとも一巻き以上であることを特徴とする高周波誘導加熱装置。
【0021】
(2)上記の高周波誘導加熱装置を用いる加熱方法であって、対向する1対の導電性円板間の距離を変えることにより、被加熱材の加熱範囲を可変とすることを特徴とする高周波誘導加熱方法。
【0022】
ここでいう「渦巻状」とは、平面的な渦巻状を指す。
【0023】
【作用】
本発明の高周波加熱装置を図1に基づいて説明する。図1(a) は加熱装置の構造を概念的に説明するために、便宜的に側面図の一部と縦断面図の一部を省略および合成して示す図である。図1(b) は図1(a) の平面図である。なお、断面のハッチングは便宜上省略してある。
【0024】
本発明の高周波加熱装置は、1対の導電性円板1と加熱コイルである導電性円管2で構成される。円板1の中心には、試料を挿入するための開口部3が設けられ、1対の円板1は距離dを維持して対称かつ平行に配置される。開口部3の形状は通常円形である。
【0025】
図1(a) に示すように、それぞれの円板1の外面部(図では上下)に1巻以上の渦巻形状をした円管2が平面的に取り付けられる。ただし、最も内側の円管のみを円板1に取り付け、外周の円管は円板から浮いている。この取付け方法には溶接、ろう付けなどを用いればよい。
【0026】
この例では図1(b) に示すように、それぞれの円板1の外面部(図では上下)に取り付けられた円管2は上下で連続している。さらに、円板1の一部に切り込み4が設けられている。
【0027】
導電性円板1と導電性円管2の材質は、銅、真鍮、アルミニウム、金めっきをした銅などが望ましい。円板1の厚さは 0.5〜3mm、円管2の直径は3〜8mm、その肉厚は 0.5〜2mmとするのがよい。
【0028】
この円管2に高周波電流を流すことにより、円板1にも電流を流して円板1から磁場を発生させることで、1対の円板に挟まれた領域において開孔部3に挿入された試料の誘導加熱を行う。このとき、円板1の一部に切り込み4が設けられているため、円板1に段差を設けることなく、円板1の電気的な短絡を防止することができる。開口部3の形状が円形であると、印加される磁場中の軸対称性が確保され、試料の加熱温度の均一性も向上する。
【0029】
円管2を1巻以上とすることで、円板1に流れる電流の密度を高め、試料の加熱効率を高めるとともに、加熱可能な最高温度を高めることもできる。さらに、外周の円管を円板1から浮かし、円板1に密着して取り付けられた最も内側の円管に電流を集中させることで、試料の加熱効率が高まる。
【0030】
円板1間の距離dを活用して、試料の加熱状態の観察および光温度計による温度の直接測定が可能となるため、熱電対を用いる不正確な温度測定やこれに基づく温度制御を余儀なくされる条件が消失する。
【0031】
次に、図2に基づいて円板1の効果を具体的に説明する。図2は本発明の高周波誘導加熱装置の円板から発生する磁場分布を、模式的に示す縦断面図である。
【0032】
図示するように、円板1の円形の開孔部3側の端部から磁場5が発生し、円柱形の試料6に印加される。上記の円板1の端部に角(かど)が存在するため電流が円板1の端部に集中し、発生する磁束密度が高まるとともに、図5に示すような磁場5の拡大を防止することができる。
【0033】
円板1が距離dで対をなしているため、相対する円板1同士の相互作用により円板1間の領域に磁場5が集中する。したがって、予め1対の円板1間の距離dを設定することで、試料のうち円板に挟まれた部分のみを均等に加熱することができる。このため、試料の所望加熱部の温度を直接測定することができる光温度計と組合せると、加熱部の正確な温度制御が可能となる。
【0034】
上記の均等加熱が可能であるため、本発明の高周波誘導加熱装置を用いる場合には、1対の円板1間の距離dを変えることにより、容易に試料の加熱範囲を正確に変え、または限定することができるのである。
【0035】
以上のように本発明では、試料の加熱範囲の限定、試料に対する均等な高磁束密度の印加による温度均一性と加熱効率の向上、直接温度測定による温度制御の正確性の向上および加熱状態の観察が可能である。
【0036】
本発明は、実験室で行う凝固点近傍温度での金属工学的な調査研究以外に、ゾーンリファイニングや鋼管、線材などの金属材料の加熱または熱処理を対象として、規模の大小を問わず生産ラインでも用いることができ、特に厳密な温度制御を必要とする場合に好適なものである。したがって、本発明の装置は図1に示すような縦方向だけでなく、横方向に設置して用いてもよい。
【0037】
【実施例】
図1に示す構造の高周波誘導加熱装置を用いて、次の条件で試料の加熱実験を行った。
【0038】
コイルの印加電力: 15kW
周波数:100kHz
コイルの巻き数:3
円板およびコイルの材質:Cu
円板の寸法:直径φ100 mm、厚さ 1.5 mm
円管の寸法:直径φ5mm
円板間の距離d:10 mm (=試料の加熱部長さ)
試料の形状:直径φ10 mm ×長さ 100 mm
試料の化学組成:C:0.15wt%、Si:0.27wt%、Mn:1.35wt%、
残部:Feおよび不純物
試料の液相線温度:1522℃
固相線温度:1490℃
目標加熱温度:試料中央部で1000℃
温度測定法:光温度計
比較例として、図5に示す従来使用されている渦巻状のコイルのみからなる構造の誘導加熱装置、およびこの渦巻状のコイルに上記の本発明例で用いた円板を1枚取付けた構造の誘導加熱装置を使用する実験も行った。
【0039】
比較例の場合も、試料中央部の目標加熱温度は1000℃とし、比較例の温度測定には熱電対を用い、試料と熱電対との間に厚さ0.3mm のアルミナ製絶縁管を挟んだ。電流および試料などの条件は、本発明例の場合と同じである。
【0040】
図3に加熱された試料の軸方向の温度分布を示す。図3から明らかなように、本発明装置の場合では、試料温度が試料中央部から±5mmの領域、すなわち円板間の距離d:10mmの範囲で1000℃の一定となっている。試料中央部から5mm以上離れると試料温度は急激に低下し、10mm離れた位置で約600 ℃に低下する。このように、設定した加熱領域のみを目標どおりの温度とすることが可能である。
【0041】
円管を渦巻形状に加工しただけの装置の場合では、試料中央部の温度のみは、1000℃とすることができるが、中央部から僅かに離れた位置で早くも温度は低下し始める。したがって、試料の加熱温度を所望の加熱領域内で均一とすることができず、加熱範囲を設定することも困難である。
【0042】
渦巻状の円管に1枚の円板を取付けた装置の場合も、試料の温度分布の傾向は上記の従来の装置を用いた場合と略々同様である。
【0043】
図4は上記の3種類の装置毎の試料温度の測定可能範囲を示す図である。図示するように、本発明の装置を用いると、1対の円板の間隙dを通して光温度計により1600℃まで正確に温度測定が可能である。比較例ではいずれも、試料の加熱中央部がコイルまたは円板で隠されるため光温度計の使用はできず、熱電対の使用のみ可能となる。このため試料の固相線温度以上の測温は不可能であり、試料表面に溶着させた熱電対で測温する方法を用いなければならない。試料を固相線温度以上に加熱すると試料の溶融が始まり、熱電対が表面から脱落してしまう。
【0044】
【発明の効果】
本発明によれば、試験片の加熱範囲の限定、試験片に対する均等な高磁束密度の印加による温度の均一性、直接温度測定による温度制御の正確性を達成することができる。本発明の装置では加熱状態の目視観察を行うこともできる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の高周波誘導加熱装置を示す図である。(a) は加熱装置の構造を概念的に説明する図、(b) は(a) の平面図である。
【図2】本発明の高周波誘導加熱装置の円板から発生する磁場分布を模式的に示す縦断面図である。
【図3】加熱された試料の軸方向の温度分布を示す図である。
【図4】試料の温度測定が可能な温度範囲を示す図である。
【図5】従来の円管加熱コイルのみを備えた高周波誘導加熱装置の場合の、コイルから発生する磁場分布を模式的に示す縦断面図である。
【符号の説明】
1:導電性円板、2:導電性円管、 3:開孔部、4:切り込み、
5:磁 場、 6:試料(被加熱材、試験片)、d:導電性円板間の距離

Claims (2)

  1. 中央部に被加熱材を挿入するための開孔部を有する1対の導電性円板と、1対の導電性円板の二つの外面部に設けた渦巻状導電性円管の通電加熱コイルとから構成され、1対の導電性円板は対称かつ平行で対向し、外面部の通電加熱コイルはそれぞれ少なくとも一巻き以上であることを特徴とする高周波誘導加熱装置。
  2. 請求項1の高周波誘導加熱装置を用いる加熱方法であって、対向する1対の導電性円板間の距離を変えることにより、被加熱材の加熱範囲を可変とすることを特徴とする高周波誘導加熱方法。
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