JP3599131B2 - 光学的素子 - Google Patents
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Description
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、有機発光物質を用いた光学的素子(特に、発光素子等の光学的電子材料)に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
有機発光物質を用いた発光素子として、1987年にコダック社より、オキシン錯体を用いた例(Appl. Phys. Lett., 51 (12), 21 Sept. 1987)が報告されて以来、ディスプレイ等への応用を目指した基礎研究が盛んに検討されている。
【0003】
しかしながら、視認性は十分なものではなく、同一素子から複数の色調を発生させるためには複雑な層構成(多層構造)が必要であった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上記のような従来技術の実情に鑑みてなされたものであって、同一素子において、高い電子輸送性を有する材料を用い、単純な層構成により色調を変化させることのできる有機EL(エレクトロルミネセント)素子を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するために、本発明者は、長期に亘って鋭意検討を重ねた結果、アルミニウムに配位子が2つ結合した錯体が高い電子輸送性を有し、印加電圧によって発光色が異なる素子が得られるとの知見を得るに至った。
【0006】
本発明はかかる知見に基づいて完成されたものであって、ホール輸送層と、発光層及び/又は電子輸送層との積層構造を有する光学的素子において、前記発光層及び/又は電子輸送層に、下記の一般式〔I〕で表されるアルミニウム錯体(アルミニウムに配位子が2つ結合した錯体)が含有されており、印加電圧の上昇に伴って、前記発光層及び/又は電子輸送層から前記ホール輸送層へと発光部位が変化することを特徴とする光学的素子に係るものである。
一般式〔I〕:
Al(L−O)2X
[但し、この一般式〔I〕において、
L−Oは、同一分子内にヒドロキシル基及び芳香族性の窒素原子(N)を有しかつ 下記の構造式(A)で表される化合物に由来し、この化合物中のヒドロキシル基 の水素原子が抜けて配位する配位子であり、
Xは、ハロゲン原子(F、Cl、Br、I等:以下、同様)、アルコキシ基又はフ ェノキシ基等の対アニオンである。
構造式(A):
【化3】
(但し、この構造式(A)において、
R 1 及びR 2 は、基又は原子団であり、
R 1 は、芳香族性の窒素原子(N)に隣接する原子及び/又はR 2 の一部と共同して環 を形成してもよく、
R 2 は、芳香族性の窒素原子(N)及び/又はこれに隣接する原子と共同して環を形 成している。)]
【0008】
また、配位子L−Oが下記の構造式(B)で表されるo−ヒドロキシフェニルベンズオキサゾール又はその誘導体に由来するものであってよい。
構造式(B):
【化4】
(但し、この構造式(B)において、
R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9及びR10は、水素原子、ハロゲン原子、水酸基 、ニトロ基、カルボキシル基、カルボニル基、アミノ基、アミド基、スルホン酸基、及 びこれらの原子又は基で置換された若しくは非置換のアルキル基、アリール基及び複素 芳香族基から選ばれ、互いに同一であるか或いは異なっていてもよい。)
【0009】
配位子Lは、同一分子内にヒドロキシル基、芳香族性の窒素原子を有し、亜鉛やアルミニウム(これらは一般に比色分析用に用いる。)に対して錯体形成能がある化合物に由来するものであれば、いずれの化合物でもよく、上記の構造式(B)、例えば後述する実施例に記載のo−ヒドロキシフェニルベンズオキサゾールに限定されるものではない。
【0010】
また、発光層及び/又は電子輸送層には、アルミニウム錯体が単一種又は複数種含有されていてよい。この場合、アルミニウム錯体と共に螢光色素が含有されていてよい。
【0011】
本発明による光学的素子は、具体的には、透明電極と、ホール輸送層と、発光層及び/又は電子輸送層と、陰極とがこの順に、基体上に積層されている。そして、エレクトロルミネセント素子として構成されるのに好適である。その他、光通信機器、光起電装置(バッテリー用)、感光体、撮像装置等としての応用も考えられる。
【0012】
また、素子の安定性を高めるために、素子の一部又は全体を保護層で被覆してもよい。また、色度を調整するために、カラーフィルタを組み込んでもよい。
【0013】
本発明では、アルミニウム錯体を発光層又は電子輸送層、或いはその両方に含有させるのがよく、錯体単独、複数の種類の錯体の混合、或いは下記構造式(C)のDCM(4−ジシアノメチレン−6−(p−ジメチルアミノスチリル)−2−メチル−4H−ピラン)、キナクリドン等の螢光色素と混合して用いてもよい。
【0014】
構造式(C):
【化5】
【0015】
また、電極、ホール輸送層、発光層、電子輸送層のそれぞれの厚さは、素子の動作電圧等を考慮して決められるものであり、後述の実施例に限定されるものではない。また、素子の各層の作製法も通常の真空蒸着法、ラングミュアブロジェット(LB)蒸着法をはじめ、ディップコーティング法、ポリマースピニング法、真空気体蒸着法、有機分子線エピタキシ法(OMBE)が採用可能である。
【0016】
また、発光波長を調整するために、ホール輸送剤又は電子輸送剤中に螢光色素を混合して用いてもよい。
【0017】
なお、本発明のアルミニウム錯体は、次の方法によって製造することができる。
【0018】
即ち、下記の一般式〔II〕で表されるアルミニウム塩と、下記の一般式[III〕で表される化合物とをアルコール中で反応させることを特徴とする、下記の一般式〔I〕で表されるアルミニウム錯体の製造方法である。
一般式〔II〕:
AlX’3
(但し、この一般式〔II〕において、X’はアニオンである。)
一般式[III〕:
LOH
(但し、この一般式[III〕において、Lは配位子となる基である。)
一般式〔I〕:
Al(L−O)2 X
(但し、この一般式〔I〕において、Lは前記したものと同じ、Xはアニオンである。)
【0019】
この製造方法においては、アルコール(溶媒)がアルミニウム錯体を安定させ、目的物を良好に得ることができる。こうしたアルコールとして炭素数1〜12の低級アルコールを使用することができる。このような反応溶媒は、金属塩及び配位子の溶解度を考慮し、単核のアルミニウム錯体の生成量が最大になるように選ばれるものであって、アルコール類であれば、特にエタノールに限定するものではなく、メタノール、プロパノールといったアルコール類を用いることができる。
【0020】
また、このアルコールの使用量は、反応物質に対して重量比で1〜1000倍であるのがよい。反応温度はアルコールの沸点程度がよい。
【0021】
ここで、後述する実施例においては、反応溶媒としてエタノールを用い、金属塩として塩化アルミニウムを用いた。但し、金属塩は、溶媒への溶解度を考慮して決められるものであり、塩化物に限定するものではない。
【0022】
また、一般式[III〕の化合物から水素原子を引き抜いて錯塩化するために、アルカリを一般式[III〕の化合物に対して1〜100 当量以上添加して反応を行うのがよい。配位子から水素引き抜きを行うためにアンモニア水を用いるが、十分に水素の引き抜きが起これば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウムといった他のアルカリを用いることもできる。
【0023】
図1には、本発明に基づく有機発光素子としての有機EL素子10の一例を示す。このEL素子10は、透明基板(例えばガラス基板)6上に、ITO(Indium tin oxide)透明電極5、ホール輸送層4、発光層3、電子輸送層2、陰極(例えばアルミニウム電極)1を例えば真空蒸着法で順次製膜したものである。
【0024】
そして、陽極である透明電極5と陰極1との間に直流電圧7を選択的に印加することによって、透明電極5から注入されたホールがホール輸送層4を経て、また陰極1から注入された電子が電子輸送層2を経て、それぞれ発光層3に到達して電子−ホールの再結合が生じ、ここから所定波長の発光8が生じ、透明基板6の側から観察できる。
【0025】
そして、発光層3に本発明に基づくアルミニウム錯体を含有させるが、これは実際には、実質的にアルミニウム錯体のみからなる層(但し、複数種のアルミニウム錯体の併用が可能)であってよいし、或いはアルミニウム錯体に螢光物質を添加した層であってもよい。また、アルミニウム錯体と他の発光物質であるアントラセン、ナフタリン、フェナントレン、ピレン、クリセン、ペリレン、ブタジエン、クマリン、アクリジン、スチルベン等を併用してよい。こうしたアルミニウム錯体又は螢光物質等との混合物は、電子輸送層2に含有させることができる。
【0026】
図2は、図1の例において発光層3を省略し、電子輸送層2に上記のアルミニウム錯体又は螢光物質との混合物を含有させ、電子輸送層2とホール輸送層4との界面から所定波長の発光18が生じるように構成した有機EL素子20を示す。
【0027】
なお、上記において、ホール輸送層4には、例えば、ポルフィリン系化合物、アミン系芳香族化合物が使用可能である。陰極1としては、低仕事関数の金属又は合金であるAl、Mg、Mg−Al合金、Mg−Ag合金、Al−Li合金、Caが使用可能である。
【0028】
図3には、本発明に基づく有機EL素子の具体例を示す。即ち、各有機層(ホール輸送層4、発光層3又は電子輸送層2)の積層体を陰極1と陽極5との間に配するが、これらの電極をマトリクス状に交差させてストライプ状に設け、シフトレジスタ内蔵の制御回路30、31によって時系列に信号電圧を印加し、交差位置にて発光させるように構成している。従って、このような構成により、ディスプレイとしては勿論、画像再生装置としても使用可能となる。なお、上記のストライプパターンを赤(R)、緑(G)、青(B)の各色毎に配し、フルカラー又はマルチカラー用として構成することができる。
【0029】
【実施例】
以下、本発明を実施例について更に詳細に説明する。
【0030】
実施例1
塩化アルミニウム 1.33gと、2−(o−ヒドロキシフェニル)−ベンズオキサゾール(これをB−OHと表す。) 4.22g(2倍モル)とを50mlのエタノール中で加熱溶解し、10分間還流した。これにアンモニア水10mlを滴下し、滴下終了後、更に30分還流を続けた。
【0031】
反応終了後、放冷し、濾別により固体を収集した。この固体を水、エタノールで順次洗浄し、淡黄色固体を得た。この固体を真空昇華によって精製し、 1.2gのアルミニウム錯体を得た。
【0032】
図4には、TOF マススペクトル(Finnigan Mat社製のVision2000で測定)の分子量 400〜800 の領域での測定結果を示した。
【0033】
図4から、Al(B−O)2 に対応する分子量 445に親ピークが現れていることが分かる。また、対アニオンとしてハロゲン(塩素)、アルコール(エタノール)が検出された。
【0034】
この材料を用い、真空蒸着法により、図2に示した如きITO(透明電極)/TPD(ホール輸送層)/アルミニウム錯体(発光層)/Mg−Ag(陰極)の構造を有する有機EL素子を作製した。TPDの膜厚は50nm、アルミニウム錯体の膜厚は50nmであった。ここで、TPD(N,N’−ビス(3−メチルフェニル)1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン)は下記構造式(D)で表される。
【0035】
構造式(D):
【化6】
【0036】
なお、上記の真空蒸着の条件は次の通りであった。
【0037】
このEL素子での発光スペクトルを図5〜図8に示した。これによれば、印加電圧9V(図5)、12V(図6)では、 500nmの青緑の発光が得られ、アルミニウム錯体層(発光層)で発光が起きている。印加電圧を15V(図7)、18V(図8)と増大させるに伴い、 430nmの紫っぽい青色の発光が付加的に得られる(全体として両主要波長の混色が観察される)が、これは、ホール−電子の再結合がホール輸送層として用いたTPDで起きていることを示し、上記のアルミニウム錯体の電子輸送能が大きいことを示すものである。
【0038】
実施例2
塩化アルミニウム 1.33gと、8−キノリノール(これをQ−OHと表す。)2.90g(2倍モル)とを50mlのエタノール中で加熱溶解し、10分間還流した。これにアンモニア水10mlを滴下し、滴下終了後、更に30分還流を続けた。
【0039】
反応終了後、放冷し、濾別により固体を収集した。この固体を水、エタノールで順次洗浄し、黄色固体を得た。この固体を真空昇華によって精製し、 1.8gのアルミニウム錯体を得た。
【0040】
TOF マススペクトルからAl(Q−O)2 に対応する分子量に親ピークが現れていることが分かった。また、対アニオンとしてハロゲン(塩素)、アルコール(エタノール)が検出された。
【0041】
この材料を用い、真空蒸着法により、実施例1と同様にITO(透明電極)/TPD(ホール輸送層)/アルミニウム錯体(発光層)/Mg−Ag(陰極)の構造を有する有機EL素子を作製した。このEL素子での発光スペクトルから、印加電圧に応じて発光色が実施例1で述べたと同様に変化することが確認された。
【0042】
比較例1
実施例1において、発光層(電子輸送層)の物質を既述した従来技術で報告されたオキシン錯体:トリス−(8−ヒドロキシキノリン)アルミニウムに変更した以外は同様にして有機EL素子を作製した。
【0043】
このEL素子は、図9に示すように、発光のピークを約 523nmに有し、緑色の発光を示す。従って、実施例1のものに比べて中心波長がより長波長であると共に、同じ素子からは一種の波長のスペクトルしか得られない。
【0044】
【発明の作用効果】
本発明は、上述したAl(L−O)2 Xで表されるアルミニウム錯体を用いているが、この材料は高い電子輸送性を有するため、通常は電子輸送層又は発光層で起きるホール−電子の再結合が、高い印加電圧時には、ホール輸送層中で起きるようになる。このため、低印加電圧時には、電子輸送層の発光(又は電子輸送層中にドープした螢光色素の発光)が得られ、高印加電圧時にはホール輸送層の発光(又はホール輸送層にドープした螢光色素の発光)が得られる。従って、簡単な層構成にも拘らず、印加電圧に応じて同一素子で複数の色調を生ぜしめることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に基づく有機EL素子の一例の概略断面図である。
【図2】本発明に基づく有機EL素子の他の例の概略断面図である。
【図3】本発明に基づく有機EL素子の具体例の平面図である。
【図4】本発明の実施例で得られたアルミニウム錯体のマススペクトル図である。
【図5】本発明の実施例による有機EL素子の印加電圧9Vでの発光スペクトル図である。
【図6】同有機EL素子の印加電圧12Vでの発光スペクトル図である。
【図7】同有機EL素子の印加電圧15Vでの発光スペクトル図である。
【図8】同有機EL素子の印加電圧18Vでの発光スペクトル図である。
【図9】比較例による有機EL素子の発光スペクトル図である。
【符号の説明】
1・・・陰極
2・・・電子輸送層
3・・・発光層
4・・・ホール輸送層
5・・・透明電極(陽極)
6・・・透明基板
7・・・直流電源
8、18・・・発光
10、20・・・有機EL素子
【産業上の利用分野】
本発明は、有機発光物質を用いた光学的素子(特に、発光素子等の光学的電子材料)に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
有機発光物質を用いた発光素子として、1987年にコダック社より、オキシン錯体を用いた例(Appl. Phys. Lett., 51 (12), 21 Sept. 1987)が報告されて以来、ディスプレイ等への応用を目指した基礎研究が盛んに検討されている。
【0003】
しかしながら、視認性は十分なものではなく、同一素子から複数の色調を発生させるためには複雑な層構成(多層構造)が必要であった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上記のような従来技術の実情に鑑みてなされたものであって、同一素子において、高い電子輸送性を有する材料を用い、単純な層構成により色調を変化させることのできる有機EL(エレクトロルミネセント)素子を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するために、本発明者は、長期に亘って鋭意検討を重ねた結果、アルミニウムに配位子が2つ結合した錯体が高い電子輸送性を有し、印加電圧によって発光色が異なる素子が得られるとの知見を得るに至った。
【0006】
本発明はかかる知見に基づいて完成されたものであって、ホール輸送層と、発光層及び/又は電子輸送層との積層構造を有する光学的素子において、前記発光層及び/又は電子輸送層に、下記の一般式〔I〕で表されるアルミニウム錯体(アルミニウムに配位子が2つ結合した錯体)が含有されており、印加電圧の上昇に伴って、前記発光層及び/又は電子輸送層から前記ホール輸送層へと発光部位が変化することを特徴とする光学的素子に係るものである。
一般式〔I〕:
Al(L−O)2X
[但し、この一般式〔I〕において、
L−Oは、同一分子内にヒドロキシル基及び芳香族性の窒素原子(N)を有しかつ 下記の構造式(A)で表される化合物に由来し、この化合物中のヒドロキシル基 の水素原子が抜けて配位する配位子であり、
Xは、ハロゲン原子(F、Cl、Br、I等:以下、同様)、アルコキシ基又はフ ェノキシ基等の対アニオンである。
構造式(A):
【化3】
(但し、この構造式(A)において、
R 1 及びR 2 は、基又は原子団であり、
R 1 は、芳香族性の窒素原子(N)に隣接する原子及び/又はR 2 の一部と共同して環 を形成してもよく、
R 2 は、芳香族性の窒素原子(N)及び/又はこれに隣接する原子と共同して環を形 成している。)]
【0008】
また、配位子L−Oが下記の構造式(B)で表されるo−ヒドロキシフェニルベンズオキサゾール又はその誘導体に由来するものであってよい。
構造式(B):
【化4】
(但し、この構造式(B)において、
R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9及びR10は、水素原子、ハロゲン原子、水酸基 、ニトロ基、カルボキシル基、カルボニル基、アミノ基、アミド基、スルホン酸基、及 びこれらの原子又は基で置換された若しくは非置換のアルキル基、アリール基及び複素 芳香族基から選ばれ、互いに同一であるか或いは異なっていてもよい。)
【0009】
配位子Lは、同一分子内にヒドロキシル基、芳香族性の窒素原子を有し、亜鉛やアルミニウム(これらは一般に比色分析用に用いる。)に対して錯体形成能がある化合物に由来するものであれば、いずれの化合物でもよく、上記の構造式(B)、例えば後述する実施例に記載のo−ヒドロキシフェニルベンズオキサゾールに限定されるものではない。
【0010】
また、発光層及び/又は電子輸送層には、アルミニウム錯体が単一種又は複数種含有されていてよい。この場合、アルミニウム錯体と共に螢光色素が含有されていてよい。
【0011】
本発明による光学的素子は、具体的には、透明電極と、ホール輸送層と、発光層及び/又は電子輸送層と、陰極とがこの順に、基体上に積層されている。そして、エレクトロルミネセント素子として構成されるのに好適である。その他、光通信機器、光起電装置(バッテリー用)、感光体、撮像装置等としての応用も考えられる。
【0012】
また、素子の安定性を高めるために、素子の一部又は全体を保護層で被覆してもよい。また、色度を調整するために、カラーフィルタを組み込んでもよい。
【0013】
本発明では、アルミニウム錯体を発光層又は電子輸送層、或いはその両方に含有させるのがよく、錯体単独、複数の種類の錯体の混合、或いは下記構造式(C)のDCM(4−ジシアノメチレン−6−(p−ジメチルアミノスチリル)−2−メチル−4H−ピラン)、キナクリドン等の螢光色素と混合して用いてもよい。
【0014】
構造式(C):
【化5】
【0015】
また、電極、ホール輸送層、発光層、電子輸送層のそれぞれの厚さは、素子の動作電圧等を考慮して決められるものであり、後述の実施例に限定されるものではない。また、素子の各層の作製法も通常の真空蒸着法、ラングミュアブロジェット(LB)蒸着法をはじめ、ディップコーティング法、ポリマースピニング法、真空気体蒸着法、有機分子線エピタキシ法(OMBE)が採用可能である。
【0016】
また、発光波長を調整するために、ホール輸送剤又は電子輸送剤中に螢光色素を混合して用いてもよい。
【0017】
なお、本発明のアルミニウム錯体は、次の方法によって製造することができる。
【0018】
即ち、下記の一般式〔II〕で表されるアルミニウム塩と、下記の一般式[III〕で表される化合物とをアルコール中で反応させることを特徴とする、下記の一般式〔I〕で表されるアルミニウム錯体の製造方法である。
一般式〔II〕:
AlX’3
(但し、この一般式〔II〕において、X’はアニオンである。)
一般式[III〕:
LOH
(但し、この一般式[III〕において、Lは配位子となる基である。)
一般式〔I〕:
Al(L−O)2 X
(但し、この一般式〔I〕において、Lは前記したものと同じ、Xはアニオンである。)
【0019】
この製造方法においては、アルコール(溶媒)がアルミニウム錯体を安定させ、目的物を良好に得ることができる。こうしたアルコールとして炭素数1〜12の低級アルコールを使用することができる。このような反応溶媒は、金属塩及び配位子の溶解度を考慮し、単核のアルミニウム錯体の生成量が最大になるように選ばれるものであって、アルコール類であれば、特にエタノールに限定するものではなく、メタノール、プロパノールといったアルコール類を用いることができる。
【0020】
また、このアルコールの使用量は、反応物質に対して重量比で1〜1000倍であるのがよい。反応温度はアルコールの沸点程度がよい。
【0021】
ここで、後述する実施例においては、反応溶媒としてエタノールを用い、金属塩として塩化アルミニウムを用いた。但し、金属塩は、溶媒への溶解度を考慮して決められるものであり、塩化物に限定するものではない。
【0022】
また、一般式[III〕の化合物から水素原子を引き抜いて錯塩化するために、アルカリを一般式[III〕の化合物に対して1〜100 当量以上添加して反応を行うのがよい。配位子から水素引き抜きを行うためにアンモニア水を用いるが、十分に水素の引き抜きが起これば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウムといった他のアルカリを用いることもできる。
【0023】
図1には、本発明に基づく有機発光素子としての有機EL素子10の一例を示す。このEL素子10は、透明基板(例えばガラス基板)6上に、ITO(Indium tin oxide)透明電極5、ホール輸送層4、発光層3、電子輸送層2、陰極(例えばアルミニウム電極)1を例えば真空蒸着法で順次製膜したものである。
【0024】
そして、陽極である透明電極5と陰極1との間に直流電圧7を選択的に印加することによって、透明電極5から注入されたホールがホール輸送層4を経て、また陰極1から注入された電子が電子輸送層2を経て、それぞれ発光層3に到達して電子−ホールの再結合が生じ、ここから所定波長の発光8が生じ、透明基板6の側から観察できる。
【0025】
そして、発光層3に本発明に基づくアルミニウム錯体を含有させるが、これは実際には、実質的にアルミニウム錯体のみからなる層(但し、複数種のアルミニウム錯体の併用が可能)であってよいし、或いはアルミニウム錯体に螢光物質を添加した層であってもよい。また、アルミニウム錯体と他の発光物質であるアントラセン、ナフタリン、フェナントレン、ピレン、クリセン、ペリレン、ブタジエン、クマリン、アクリジン、スチルベン等を併用してよい。こうしたアルミニウム錯体又は螢光物質等との混合物は、電子輸送層2に含有させることができる。
【0026】
図2は、図1の例において発光層3を省略し、電子輸送層2に上記のアルミニウム錯体又は螢光物質との混合物を含有させ、電子輸送層2とホール輸送層4との界面から所定波長の発光18が生じるように構成した有機EL素子20を示す。
【0027】
なお、上記において、ホール輸送層4には、例えば、ポルフィリン系化合物、アミン系芳香族化合物が使用可能である。陰極1としては、低仕事関数の金属又は合金であるAl、Mg、Mg−Al合金、Mg−Ag合金、Al−Li合金、Caが使用可能である。
【0028】
図3には、本発明に基づく有機EL素子の具体例を示す。即ち、各有機層(ホール輸送層4、発光層3又は電子輸送層2)の積層体を陰極1と陽極5との間に配するが、これらの電極をマトリクス状に交差させてストライプ状に設け、シフトレジスタ内蔵の制御回路30、31によって時系列に信号電圧を印加し、交差位置にて発光させるように構成している。従って、このような構成により、ディスプレイとしては勿論、画像再生装置としても使用可能となる。なお、上記のストライプパターンを赤(R)、緑(G)、青(B)の各色毎に配し、フルカラー又はマルチカラー用として構成することができる。
【0029】
【実施例】
以下、本発明を実施例について更に詳細に説明する。
【0030】
実施例1
塩化アルミニウム 1.33gと、2−(o−ヒドロキシフェニル)−ベンズオキサゾール(これをB−OHと表す。) 4.22g(2倍モル)とを50mlのエタノール中で加熱溶解し、10分間還流した。これにアンモニア水10mlを滴下し、滴下終了後、更に30分還流を続けた。
【0031】
反応終了後、放冷し、濾別により固体を収集した。この固体を水、エタノールで順次洗浄し、淡黄色固体を得た。この固体を真空昇華によって精製し、 1.2gのアルミニウム錯体を得た。
【0032】
図4には、TOF マススペクトル(Finnigan Mat社製のVision2000で測定)の分子量 400〜800 の領域での測定結果を示した。
【0033】
図4から、Al(B−O)2 に対応する分子量 445に親ピークが現れていることが分かる。また、対アニオンとしてハロゲン(塩素)、アルコール(エタノール)が検出された。
【0034】
この材料を用い、真空蒸着法により、図2に示した如きITO(透明電極)/TPD(ホール輸送層)/アルミニウム錯体(発光層)/Mg−Ag(陰極)の構造を有する有機EL素子を作製した。TPDの膜厚は50nm、アルミニウム錯体の膜厚は50nmであった。ここで、TPD(N,N’−ビス(3−メチルフェニル)1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン)は下記構造式(D)で表される。
【0035】
構造式(D):
【化6】
【0036】
なお、上記の真空蒸着の条件は次の通りであった。
【0037】
このEL素子での発光スペクトルを図5〜図8に示した。これによれば、印加電圧9V(図5)、12V(図6)では、 500nmの青緑の発光が得られ、アルミニウム錯体層(発光層)で発光が起きている。印加電圧を15V(図7)、18V(図8)と増大させるに伴い、 430nmの紫っぽい青色の発光が付加的に得られる(全体として両主要波長の混色が観察される)が、これは、ホール−電子の再結合がホール輸送層として用いたTPDで起きていることを示し、上記のアルミニウム錯体の電子輸送能が大きいことを示すものである。
【0038】
実施例2
塩化アルミニウム 1.33gと、8−キノリノール(これをQ−OHと表す。)2.90g(2倍モル)とを50mlのエタノール中で加熱溶解し、10分間還流した。これにアンモニア水10mlを滴下し、滴下終了後、更に30分還流を続けた。
【0039】
反応終了後、放冷し、濾別により固体を収集した。この固体を水、エタノールで順次洗浄し、黄色固体を得た。この固体を真空昇華によって精製し、 1.8gのアルミニウム錯体を得た。
【0040】
TOF マススペクトルからAl(Q−O)2 に対応する分子量に親ピークが現れていることが分かった。また、対アニオンとしてハロゲン(塩素)、アルコール(エタノール)が検出された。
【0041】
この材料を用い、真空蒸着法により、実施例1と同様にITO(透明電極)/TPD(ホール輸送層)/アルミニウム錯体(発光層)/Mg−Ag(陰極)の構造を有する有機EL素子を作製した。このEL素子での発光スペクトルから、印加電圧に応じて発光色が実施例1で述べたと同様に変化することが確認された。
【0042】
比較例1
実施例1において、発光層(電子輸送層)の物質を既述した従来技術で報告されたオキシン錯体:トリス−(8−ヒドロキシキノリン)アルミニウムに変更した以外は同様にして有機EL素子を作製した。
【0043】
このEL素子は、図9に示すように、発光のピークを約 523nmに有し、緑色の発光を示す。従って、実施例1のものに比べて中心波長がより長波長であると共に、同じ素子からは一種の波長のスペクトルしか得られない。
【0044】
【発明の作用効果】
本発明は、上述したAl(L−O)2 Xで表されるアルミニウム錯体を用いているが、この材料は高い電子輸送性を有するため、通常は電子輸送層又は発光層で起きるホール−電子の再結合が、高い印加電圧時には、ホール輸送層中で起きるようになる。このため、低印加電圧時には、電子輸送層の発光(又は電子輸送層中にドープした螢光色素の発光)が得られ、高印加電圧時にはホール輸送層の発光(又はホール輸送層にドープした螢光色素の発光)が得られる。従って、簡単な層構成にも拘らず、印加電圧に応じて同一素子で複数の色調を生ぜしめることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に基づく有機EL素子の一例の概略断面図である。
【図2】本発明に基づく有機EL素子の他の例の概略断面図である。
【図3】本発明に基づく有機EL素子の具体例の平面図である。
【図4】本発明の実施例で得られたアルミニウム錯体のマススペクトル図である。
【図5】本発明の実施例による有機EL素子の印加電圧9Vでの発光スペクトル図である。
【図6】同有機EL素子の印加電圧12Vでの発光スペクトル図である。
【図7】同有機EL素子の印加電圧15Vでの発光スペクトル図である。
【図8】同有機EL素子の印加電圧18Vでの発光スペクトル図である。
【図9】比較例による有機EL素子の発光スペクトル図である。
【符号の説明】
1・・・陰極
2・・・電子輸送層
3・・・発光層
4・・・ホール輸送層
5・・・透明電極(陽極)
6・・・透明基板
7・・・直流電源
8、18・・・発光
10、20・・・有機EL素子
Claims (6)
- ホール輸送層と、発光層及び/又は電子輸送層との積層構造を有する光学的素子において、前記発光層及び/又は電子輸送層に、下記の一般式〔I〕で表されるアルミニウム錯体が含有されており、印加電圧の上昇に伴なって、前記発光層及び/又は電子輸送層から前記ホール輸送層へと発光部位が変化することを特徴とする光学的素子。
一般式〔I〕:
Al(L−O)2X
[但し、この一般式〔I〕において、
L−Oは、同一分子内にヒドロキシル基及び芳香族性の窒素原子(N)を有しかつ 下記の構造式(A)で表される化合物に由来し、この化合物中のヒドロキシル基 の水素原子が抜けて配位する配位子であり、
Xは、ハロゲン原子、アルコキシ基又はフェノキシ基等の対アニオンである。
構造式(A):
R 1 及びR 2 は、基又は原子団であり、
R 1 は、芳香族性の窒素原子(N)に隣接する原子及び/又はR 2 の一部と共同して環 を形成してもよく、
R 2 は、芳香族性の窒素原子(N)及び/又はこれに隣接する原子と共同して環を形 成している。)] - アルミニウム錯体が単一種又は複数種含有されている、請求項1に記載した光学的素子。
- アルミニウム錯体と共に螢光色素が含有されている、請求項3に記載した光学的素子。
- 透明電極と、ホール輸送層と、発光層及び/又は電子輸送層と、陰極とがこの順に、基体上に積層されている、請求項1に記載した光学的素子。
- エレクトロルミネセント素子として構成される、請求項5に記載した光学的素子。
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