JP3597919B2 - 多周波発振用複合振動子及びそれを用いた発振器 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、例えばATカット水晶振動子の様なエネルギー閉じ込め振動子を一枚の同一基板上に多数配置した構造を持った複合振動子に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、携帯無線機として、携帯電話機や類似の公衆通信回線にアクセス可能な無線電話機の普及が著しい。これらの無線機においては多数のチャネルに対応するため、多周波実装されることが多くなってきている。特に公衆回線にアクセスする無線機においては、同時送受信を実現するために、送信と受信と異なった周波数を使用することから、シンプレックス方式に比べてて更に多くのチャネル発振器が必要となる。このように多数の、例えば、数十チャネルや数百チャネルのチャネル周波数を発生する為の手段としては、従来、VCO(周波数電圧可変発振器)を含むPLL(位相同期回路)を使用し、基準周波数に周波数精度を同期させた周波数シンセサイザーが用いられている。しかし、この周波数シンセサイザイーは、消費電流が大きい上に、広い帯域に対応し得るVCOを使用せざるを得ないことから、信号純度(C/N )が悪いなどの欠点を持っていることは周知の通りである。
一方、水晶振動子を用いたいわゆる水晶発振器が、上記の欠点を解決できることはよく知られているが、従来の水晶発振器を数十乃至数百個実装することは、回路構成の小型化に反する結果をもたらすため、到底、小型化の要請の強い近年の無線機に適用することは不可能である。
【0003】
この問題を解決するために従来、図9に示すように、一枚の圧電基板上に複数の圧電振動子を構成し、小型化を志向しようとした試みは幾つか有った。例えば、図9は、36ケ の周波数の発振を目的として、6×6個の振動子を二次元的に並べたものである。即ち、ATカット水晶基板4の上面の主面には、36ヶの励振電極E1ijを、横軸方向に6個(i=1 から6 )リード線にて連結したものを、縦軸方向に6組み(j=1 から6)並べると共に、一組目の駆動線として、横軸方向に6本(j=1 から6)に分けて、それぞれ駆動線部S1j で結線されており、上面の外部引き出し部T1j(j=1 から6)に接続されている。同様に、ATカット水晶基板の下面の主面には、同じく36ヶの励振電極E2ijが、上面の励振電極E1ijと同様に、共に圧電振動を駆動する為に、互いに対向する様に配されている。そして、二組目の駆動線として、縦軸j 方向に6本(i=1から6)に分けて、それぞれ駆動線部S2i で結線されており、下面の外部引き出し部T2i に接続されている。
図10は、前記図9の複合振動子の中の一つの要素圧電振動子の部分を取り出して図示したもので、ATカット水晶基板4の上面の主面に横軸方向に駆動線部R1j が接続された励振電極E1ijが配され、下面の主面には、縦軸方向に駆動線部S2i が接続された励振電極E2ijが配されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述した従来の複合振動子は、“無数のスプリアス”の発現の悪影響により、実用に供するのが困難であった。
即ち、所望の交点の要素圧電振動子の共振を得るために、一組目の駆動線(以後、横軸駆動線と言う)の外部引き出し部T1j と二組目の駆動線(以後、縦軸駆動線と言う)の外部引き出し部T2i を選ぶと、勿論、所望の交点の要素圧電振動子の共振は得られるものの、後述するようにその交点以外の要素圧電振動子の共振のレスポンスも現れてしまう。従って、結果として、無数のスプリアスが発現することになり、所望の発信周波数が得られず、目的以外のスプリアス発振周波数へのジャンプ現象が惹起され、実用にならなかった。
【0005】
また、従来のシンセサイザ方式の発振器においては、消費電流が大きく、しかも、CNが劣化するという問題があった。その原因を考えると、PLLシンセサイザでは、所望の周波数を発振させるための発振器に消費される電流の他に、基準周波数に周波数精度を引き込むためのPLL(位相同期回路)に流れる電流が非常に多いからである。
次に信号純度(C/N) について説明する。数十チャネルから数百チャネルのアンテナ周波数を周波数シンセサイザー方式で達成するためには、その周波数範囲を網羅する広い周波数に亘って発振可能なVCO(周波数電圧可変発振器)が不可欠である。しかし、このVCO(周波数電圧可変発振器)は、広い周波数範囲での発振を可能とさせる為に、使用されるインダクタンス素子としての誘電体共振器および周波数可変のための容量素子としての電圧容量可変ダイオードの両方とも、そのQ値が低く、高く取れないことは良く知られていることである。その結果として、この周波数シンセサイザー方式の信号純度(C/N) を、例えば水晶発振器方式の場合と比較すると、所望の周波数の近傍ノイズも遠傍ノイズ(ノイズ・フロワー)も10dB程度以上劣化していることが周知である。
本発明は、上記課題を解決するために成されたものであって、各要素圧電振動子にそれぞれ直列に電気的抵抗素子を接続することによって、選択した振動子以外の励振を抑え、スプリアスの少ない多数波発振用複合振動子を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成する為、請求項1の発明は、一枚の圧電基板に複数の要素圧電振動子を配置した複合圧電振動子であって、圧電基板の第1の主面には互いに交叉しないように複数本の駆動線が配置され、第2の主面には互いに交叉しないように配置した複数本の駆動線が配置され、圧電基板の両主面には圧電基板を挟んで相対向するように各要素圧電振動子を構成するための励振電極が配置され、各励振電極はいずれか1本の駆動線と電気的抵抗素子を介して夫々接続されていることを特徴とする。請求項2の発明は、前記電気的抵抗素子の抵抗値を、夫々の前記要素圧電振動子の等価抵抗値に対して10分の1倍から20倍の値に設定したことを特徴とする。請求項3の発明は、請求項1、又は請求項2記載の複合振動子と発振回路とを備えた圧電発振器において、前記複合振動子のそれぞれの主面の駆動線のいづれかを選択し前記発振回路と接続するためのスイッチ手段を設けたものであり、該スイッチ手段を介して複合振動子の端子が電気的に接地されていないことを特徴とする。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下、図示した実施例に基づいて本発明を詳細に説明する。なお、以下の説明では次の順番で説明する。
1. 従来の複合圧電振動子でのスプリアス発生の原因
2. 本発明におけるスプリアス軽減法
3. 圧電振動子としての具現化方法
≪従来の複合圧電振動子でのスプリアス発生の原因≫
まず、従来の複合圧電振動子において、無数のスプリアスが発生する理由を説明する。説明に先立ち、各図に示す要素圧電振動子の添え字i,j の意味を整理しておく。ここで要素圧電振動子 EXi,jとは、上面に配された横軸方向の駆動線(外部引き出し部T1j に対応)のj 番目の駆動線S1j と、下面に配された縦軸方向の駆動線(外部引き出し部T2i に対応)のi 番目の駆動線S2i の交点にある要素圧電振動子のことである。
【0008】
ある一つの横軸駆動線S1j の外部引き出し部T1j と、ある一つの縦軸駆動線S2i の外部引き出し部T2i とから成る一対の端子から見た等価回路は図11に示す通りとなる。図11の左側の要素圧電振動子EXi,j は、目的とする選ばれた要素圧電振動子である。しかし、この目的とする要素圧電振動子EXi,j の他に、別の圧電振動子による共振レスポンスがスプリアスとして現れる。即ち、横軸駆動線S1j により横軸方向に、縦軸駆動線S2i により縦軸方向に、それぞれの要素圧電振動子が電気的に接続されているために、選択された要素圧電振動子EXi,j を中心として、無数の共振レスポンスが現れる。
【0009】
以下に、この無数の共振レスポンスが現れる原理を、図12の複合圧電振動子の結線概念図を用いて説明する。今、図中の横軸駆動線S1j に対する外部引き出し部T1j と縦軸駆動線S2i に対する外部引き出し部T2i が要素圧電振動子EXi,j を選択するために選ばれている場合を考える。例えば、点線で示すように選択した要素圧電振動子以外の振動子を励振する経路が存在する。この例では、外部引き出し部T1j から横軸駆動線S1j 、縦軸駆動線S2i を介して、順に要素圧電振動子EXi+1,j 、要素圧電振動子EXi+1,j−1 、要素圧電振動子EXi,j−1 と3ヶの要素圧電振動子を通って外部引き出し部T2i に至る経路が存在し、スプリアスの原因となる。このような経路は、上述した以外にも、色々な経路を取るものがあり得る。更には、この他に5ヶ以上の要素圧電振動子を通る経路も同様に存在し、更に複雑な組み合わせのスプリアスが発生する。
【0010】
≪本発明の実施例によるスプリアス軽減法≫
図1は、本発明の多周波発振用複合振動子の構成を示す概要図である。本発明は、各要素圧電振動子EXi,j にそれぞれ直列に電気的抵抗素子Ri,jを接続することが特徴である。これを2組の駆動線S2j,S1i の各交点i,j に結線すると、この電気的抵抗素子が無い場合に比べて、スプリアスを抑圧できる。
スプリアスの共振レスポンスの大きさは、スプリアスに関係する3ヶの要素圧電振動子の周波数の一致の程度がどの位かによって、その大きさが大きく違ってくる。なお、上述したように3個の他にも多数のスプリアスが発生するが、3個の振動子がブランチになったもののスプリアスレベルが最大であり、それ以上の個数のブランチでは、レベルが小さくなるから、取り敢えず3個のブランチについて、検討する。この三つの振動子の周波数の内二つの周波数が、互いに影響し合う範囲内で一致する事態は、しばしば起こるが、これは、複合振動子の製造工程中で周波数調整をしている場合や、完成品を発振器に利用して周波数調整している場合があり得る。また、三つの周波数の内三つともほぼ一致して互いに影響を引き起こす事態は、それほど高い頻度で発生しないが、ひとたび発生すると信頼性を損なうことになるので、これがこの複合振動子の実用化を妨げている原因の一つである。また、要素圧電振動子のインハーモニック・スプリアスが影響する場合も含めて考慮すると、決して無視できない確率で事故が起こることが想定できる。
【0011】
そこで、本発明は、最悪の状況を想定して、スプリアスに関係する三つの要素圧電振動子の周波数が共に一致している場合について考慮する。即ち、この三つ周波数が一致している場合であっても、スプリアスの発生を抑圧し、所望の発振周波数以外の周波数へのジャンプ現象が引き起こらない様にする。この様にしておけば、如何なる場合でも、所望共振レスポンスに比べて、スプリアスの共振レスポンスが十分抑圧される。
その為に、本発明は、以下の手段を取る。即ち、図1に示すように各要素圧電振動子のそれぞれに直列に電気的抵抗素子を挿入する。その結果、図2に示すような等価回路によって表すことができる。
【0012】
即ち、図1に示す構成によれば、各電気的抵抗素子Ri,jの抵抗値が各要素圧電振動子EXi,j に直列に付加接続されているので、横軸駆動線S1j と縦軸駆動線S2i の間に現れる3ヶの要素圧電振動子によって引き起こされる共振レスポンスの経路には、3ヶの電気的抵抗素子Ri+1,j、Ri+1,j−1、Ri,j−1が直列に挿入されることになり、その全体の実効的な抵抗値の増分は、ほぼ3倍になる。
更に、図2を用いて説明すると、各要素圧電振動子の共振抵抗Rri,j は、最悪状態を表現するものであるから、全て同じ値のRrとする。また、電気的抵抗素子の抵抗値も全て同じ抵抗値R とする。
従って、所望の要素圧電振動子の共振抵抗値Rri,j はRrである。また、スプリアスの共振抵抗は、周波数が三つの要素圧電振動子とも一致しているから、3Rr である。一方、本発明では、電気的抵抗素子を各要素圧電振動子に直列に接続しているので全体の合計の共振値は、所望の共振レスポンスに対してRr+Rであり、スプリアスの共振レスポンスに対しては、3Rr+3Rである。
【0013】
ここで、図3に具体的数値の一例を示して、電気的抵抗素子の抵抗値の効果によって、スプリアスの共振レスポンスによる発振を抑止できることを論証する。即ち、典型的な数値例として例えば93MHz のATカット3次オーバートーン水晶振動子の場合の抵抗値Rrは30Ωである。従って所望の要素圧電振動子の共振抵抗は30Ωであるが、スプリアス経路の共振レスポンスの共振抵抗は90Ωとなる。一方、この周波数帯での一般的な発振回路の典型的な負抵抗値は−150Ωであることを考えると、この場合、従来の多周波発振用複合振動子では、所望の要素圧電振動子の共振抵抗も、スプリアスの共振抵抗値も、その絶対値が発振回路の負抵抗値の絶対値より小さいので、いずれの発振も可能となり、所望の要素圧電振動子の発振、スプリアスでの発振、およびその両方の混在する発振が起こる。
発振回路の負抵抗の絶対値は設計により色々の値が取り得、又、圧電振動子の共振抵抗値も同様に設計によりいろいろの値が取り得るが、実際には、圧電発振器の発振回路の負抵抗値の方が、それに用いられる圧電振動子の共振抵抗値に比べて、遥かに大きい場合が多く、その値は、一倍強から数十倍以上に達している。
【0014】
一方、本発明の複合振動子では、電気的抵抗素子を直列に配しており、今、この電気的抵抗素子の抵抗値として40Ωを選ぶと、所望の共振レスポンスでの抵抗値の合計値は70Ωであるが、スプリアスの共振レスポンスでの抵抗値の合計値は210 Ω となる。従って、所望の共振レスポンスでの発振は可能であるが、スプリアスの共振レスポンスでの発振は抑止される。これが電気的抵抗素子の効果の一つである。
周知のように、圧電発振器の発振現象においては、発振回路の負抵抗値の大きさと、それに用いられる圧電振動子の共振抵抗値の大きさとの関係により、負抵抗の絶対値が共振抵抗値より大きい場合には発振現象が発現し、負抵抗の絶対値が共振抵抗値より小さい場合には発振現象が現れない。
【0015】
本発明の複合振動子では、最も異常発振現象の可能性のある経路として3ヶの振動子を通った経路での共振レスポンスでの等価抵抗値(3Rr) に、更に、電気的抵抗素子の抵抗値による増加分(3R)が加算されるので、この合計値を、発振回路の負抵抗の絶対値より大きく設定すればよい。
前記電気的抵抗素子の具体的な一例を示せば、値の決定に際しては、要素圧電振動子の共振抵抗値の典型値およびそのバラツキ、および発振周波数での発振回路の負抵抗値の典型値およびそのバラツキを知った上で決めなければならないが、それらを考慮した上で、複合振動子の要素圧電振動子の共振抵抗の典型値Rrに対して、本発明の電気的抵抗素子の抵抗値R の値を10分の1(0.1Rr) から20倍(20Rr) に設定すればよい。
以上、本発明によれば、電気的抵抗素子を付加することにより、使用される発振回路の負抵抗値に比べて、所望の交点の要素圧電振動子の共振レスポンスの共振抵抗値を小さくし、同時に、不要なスプリアスのレスポンスでの抵抗値を大きくできるので、所望の要素圧電振動子の発振周波数を得ることができると共に、不要なスプリアスの発振現象を抑圧できる。
【0016】
次に、圧電振動子の具体的な構成について説明する。
本発明に係る複合振動子は、一枚の圧電基板上に二次元状に並べた要素圧電振動子を、二つの駆動線即ち、横軸駆動線と縦軸駆動線を選ぶことにより選択し、所望の発振周波数を得るものである。
従って、各要素圧電振動子は、音響的に十分孤立している方が好ましい。孤立させる為の手段の一つには、厚味振動モードや表面波振動モードの場合、要素圧電振動子の部分の厚味を周辺の厚味より必要量厚くしておけば、遮断周波数を持った波動を利用することによって目的を達成することができる。即ち、エネルギー閉込め現象を利用することによって、複数の圧電振動が音響的に結合現象を起こさないようにするものである。これは、遮断周波数の高い周辺部から振動エネルギーが反射して遮断周波数の低い部分に振動エネルギーが集中する現象を利用するもので、振動エネルギーが十分閉じこもっている遮断周波数の低い部分と若干振動エネルギーが漏れ出ている周辺部とからなる。この領域を振動領域と呼ぶ。各要素圧電振動子の振動領域の大きさに対して、各要素圧電振動子の配置間隔が十分大きい場合には、孤立性が保証されていることになる。しかし、小型化の観点からは、この配置間隔は小さくしたいから、振動領域を小さくしなければならない。
この様に孤立現象を起こさせる目的は、二つ以上の要素圧電振動子が音響的に結合現象を起こし、特性の乱れが発生するのを防ぐためであり、それぞれが、孤立した要素圧電振動子であるように構成することが理想である。
また、エネルギー閉込め現象だけでは孤立性が不足である場合や、エネルギー閉込め現象が利用できない波動を用いた場合には、要素圧電振動子の周辺に、更に、スリットを設けてこの孤立性を増強することができる。
【0017】
次に、電気的抵抗素子の構造について説明する。これは、既に述べたように、二つの駆動線により選択した所望の要素圧電振動子のみを発振させるためである。この電気的抵抗素子の配置方法には、例えば、次の二つの方法がある。
一つは、本発明の電気的抵抗素子を振動領域以外の部分に配置する場合であり、この電気的抵抗素子の抵抗値の設定値は、薄膜材料、膜の厚み、膜パターンの長さ、膜パターンの幅を変えることにより、所望の値に設定可能である。また、膜パターンの形状としては、ストレート型やニアンダーライン型等各種の選択が可能である。
【0018】
もう一つの方法は、振動領域の一部又は全部を含んで電気的抵抗素子薄膜を配する場合である。この場合は、電気的抵抗素子としての機能の他に、発生電荷を収集する機能をも併せ持つ。更に、この場合には、インハーモニック・オーバートン・モードの様に発生電荷が反転しているモードでは、その電気的抵抗素子内にて、このインハーモニック・モードを直接消費抑圧する効果も期待できる。
この様に電気的抵抗素子として、集中定数型と分布定数型の両方を提案したが、そのいずれでも、本発明の要素圧電振動子の振動子のインピーダンス特性は、正規の圧電振動子と同様の特性を持つことは言うまでもない。
【0019】
図4(a)は本発明の具体的な一実施例を示す構造図であり、(b)はその断面図である。この例では、両面に電気的抵抗素子を配置する場合を示したが、この抵抗素子はいづれか一面にのみ配置してもよい。
図4(a) に示す例では、93MHz 3次オーバートーンの厚味すべり水晶振動子を3行×3列の9ヶ配した場合を例示する。寸法が10mm(X方向) ×10mm(Z 方向) で, 厚さが約50μm のATカット圧電基板に、1.0mm ×1.0mm の寸法で高さ300nm のメサ部を、X 方向間隔2.4mm 毎に、又、Z 方向間隔2.4mm 毎に、3行×3列の9ヶをフォトエッチング法により配する。
これは、エネルギー閉込め現象を利用して、9ヶの圧電振動が音響的に結合現象を起こし、特性の乱れが発生するのを防ぐために行うもので、それぞれ孤立した要素圧電振動子であるように構成することが目的である。
【0020】
次に、電気的抵抗素子を配する工程について説明する。
メサ加工した圧電基板の主面全体に真空蒸着法等により、Ni−Cr の合金蒸着を膜厚100nm の厚さに成るように形成し、次に、電気的抵抗素子を、フォトエッチング法により、図4(c)の斜線部にて所望の抵抗値が得られるように形成する。この場合、発振回路の負抵抗を−200Ωと想定し、抵抗値は50Ω設定した。
【0021】
次に、圧電振動による発生電荷収集の為の電極と、電気的抵抗素子結線の為のリードと、横軸駆動線形成のために、圧電基板の上面の所要部位にアルミニュームを真空蒸着法等により200nm 付着せしめ、更に、フォトエッチング法等により、9ヶのメサ部を被い0.2mm の駆動線部で結線するとともに、基板端部の外部引き出し部に連結導出する電極パターンを形成する。
【0022】
更に、圧電基板の下面に、同様に、アルミニューム電極を配するが、必要があれば、電気的抵抗素子も形成する。
次に9ヶの振動子の周波数調整作業を膜厚を監視しながら、Ag薄膜を真空蒸着法で付着し目標周波数に近づくように合わせ込む。
実験によれば、周波数を93.500MHz から10kHz ずつ変えた9ヶの周波数に合わせることが可能であり、全ての要素圧電振動子の等価抵抗は、82Ωから154 Ωに分布し、その典型値を100 Ωとすることができた。この例によれば、3ヶの要素圧電振動子の周波数が一致したとしても、全体の抵抗は約300 Ωとなり、想定した発振回路の負抵抗−200Ωよりその絶対値として十分大きな値が得られるので、スプリアスでの発振は起きないことが確認された。
【0023】
図5に、本発明の他の実施例を示す。この実施例では、圧電基板の構造は、前述の図4(a) の場合と同じであるが、電気的抵抗素子の配置位置が図4(b) と違っている。即ち、振動領域の一部又は全部を含んで電気的抵抗素子薄膜を配し、メサ部加工部に、この抵抗薄膜R1i,j 、R2i,j を配したことが特徴的である。従って、この場合振動エネルギーの一番大きいメサ加工部のうち抵抗薄膜が配置されている部分には、アルミニューム電極は配されていない。この場合は、インハーモニック・オーバートン・モードを直接抑圧する効果も併せ持つ。
【0024】
次に、要素圧電振動子の孤立性が不足の場合には、図6の様に、スリットあるいは空隙8を設ければよい。その断面図を(b)に示す。
又、本発明の適応可能な振動モードとしては、厚味振動モードのみではなく、エネルギー閉込め現象を有する厚味振動モードや表面波振動モードは勿論のこと、全てのエネルギー閉込め効果を有する振動モード全てに、本発明の適応が可能である。
更には、又、エネルギー閉込め効果の期待できない振動モード、例えば、音叉振動モードや、輪郭すべり振動モード、縦振動モード等の輪郭振動モードの場合についても本発明は適用可能であって、それらについての振動の孤立化は、例えば、図7に示すように各要素圧電振動子同士の間に空隙部8(斜線部分)を設けることによって達成することができる。この図7では、音叉振動励振用の電極や各駆動線への結線構造の記載は省略してある。
即ち、本発明は、振動エネルギーを分離独立させる手段としての構造部分があり、尚、且つモノリシック構造で有れば、本発明を適用可能である。
【0025】
また、本発明は、使用される圧電材料としては、水晶、リチュームナイオベート、リチュームタンタレート、リチュームテトラボレート、ランガサイト等の結晶材料や、チタン酸バリューム等の圧電セラミック等のいずれの圧電材料を用いても、本発明を実現できる。この場合、如何なるオーバートーン次数、電極形状が使われていようとも本発明の適用が可能である。
又、本発明に係る振動子を圧電発振器に応用する場合には、従来の振動子と同様に使用すればよいが、更に、図8に示すように、本発明に係る多周波複合振動子の2組の外部引き出し部T1j,T2i のいずれも接地電位に接続しない発信回路形式を用いることによって、浮遊静電容量が要素圧電振動子の並列容量に直接加算されることが軽減されるので良好な発振が得られる。
【0026】
即ち、図8は本発明に係る振動子を使用した発振器の一実施例を示す回路図である。この例に示す実施例は、本発明の複合振動子10、二つの外部引き出し部T1j,T2i に付いての切り替え選択手段11と12と、発振回路部13から成っている。発振回路を構成する増幅素子としては、バイポーラー・トランジスター、電界効果トランジスター、ECL等があるし、それらを集積したゲート発振回路やOPアンプ回路等もある。本実施例では、その一応用回路として、接地電位に接続しない発振回路形式として、例えば反転アンプを用いたコルピッツ回路の例を示す。
【0027】
発振回路部13の二つの容量C1とC2は、コルピッツ発振回路を構成する為の二つの容量を代表してここに集中定数として表してあるが、実際にはこれら浮遊容量の値の合計値よりもこのコルピッツ発振用の最適容量値の方が大きい場合がほとんどであるので、本発明の提案するように浮遊容量を接地電位間に発生させる方式の効果は大きい。
又、実装周波数が多大になり、この浮遊容量の値が、二つの切り替え手段11と12も含めて、浮遊容量が無視できない程度に発生し、この二つの容量C1とC2に加算されるが、所望の発振周波数で最適な容量値よりも大きな値になる場合には、二つのコイルL1とL2の値を調整して全体として、等価的なC1とC2の値を最適値に設定することができる。ここでコイルを付加したことにより、新たに異常発振を生ずる虞があるが、その対策防止として抵抗素子を付加することがあるが、そのことについては説明を省略する。
【0028】
【発明の効果】
本発明は以上説明したように構成するので、以下の効果を発揮する。
第一は、モノリシック構造を採用した小型化を可能とした方式であるため、将来の携帯 無線機等の小型化志向に十分対応できる。
第二に、前もって作り込まれた複数の要素圧電振動子の中から、横軸駆動線および縦軸、駆動線を選ぶことによって、所望の要素圧電振動子の発信周波数を、簡単に、確実に選択することが出来る。
第三に、水晶振動子等の圧電振動子の発振を利用しているので、消費電流が少なく、しかも、C/N の良い高純度の信号源が得られる。
例えば、本発明の複合振動子の基本は要素圧電振動子であるため、従来のPLLシンセサイザ方式の発振器に比べて、信号純度(C/N) として、10dB程度の改善が期待できる。この様な信号純度の改善は携帯無線機の受信感度向上に極めて大きく寄与し、間接的に送信電力を減少せしめ、消費電力の逓減によるバッテテリー使用時間の延長をもたらし得る。
各種近似を含めて、その効果を想定してみると、仮に、結果として、受信感度が3dB 向上すると、送信電力は半分に出来るので、送信時間が2倍に成ることになる。これは送信時間の延長に明確に貢献していることになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例の複合振動子の等価的回路概念図。
【図2】本発明の一実施例の複合振動子の等価回路図。
【図3】本発明の複合振動子の抵抗値特性の一覧図。
【図4】(a)は本発明の一実施例を示す構造平面図、(b)はその断面図、(c)はその部分拡大図。
【図5】本発明の他の実施例の要素圧電振動子部分の詳細見取り図。
【図6】(a)は本発明の他の実施例の要素圧電振動子部分の見取り図、(b)はそのA−A断面図。
【図7】本発明の他の実施例の見取り図。
【図8】本発明に係る振動子を使用した発振器の構成の一例を示す回路図。
【図9】従来の多周波用複合振動子の構成を示す構造概念図。
【図10】従来の多周波用複合振動子の部分拡大構造図。
【図11】従来の多周波用複合振動子の等価回路図。
【図12】従来の多周波用複合振動子の構成概念図。
【符号の説明】
E1i,j・・・・・・・上面の励振電極,
S1j・・・・・・・・・横軸駆動線,
T1j・・・・・・・・・上面の外部引き出し部,
E2i,j・・・・・・・下面の励振電極,
S2i・・・・・・・・・縦軸駆動線,
T2i・・・・・・・・・下面の外部引き出し部,
5・・・・・・・・・・・圧電基板,
6・・・・・・・・・・・上面の電気的抵抗素子,
7・・・・・・・・・・・下面の電気的抵抗素子,
8・・・・・・・・・・・空隙
Claims (3)
- 一枚の圧電基板に複数の要素圧電振動子を配置した複合圧電振動子であって、
圧電基板の第1の主面には互いに交叉しないように複数本の駆動線が配置され、第2の主面には互いに交叉しないように配置した複数本の駆動線が配置され、
圧電基板の両主面には圧電基板を挟んで相対向するように各要素圧電振動子を構成するための励振電極が配置され、
各励振電極はいずれか1本の駆動線と電気的抵抗素子を介して夫々接続されていることを特徴とする複合圧電振動子。 - 前記電気的抵抗素子の抵抗値を、夫々の前記要素圧電振動子の等価抵抗値に対して10分の1倍から20倍の値に設定したことを特徴とする請求項1記載の複合振動子。
- 請求項1、又は請求項2記載の複合振動子と発振回路とを備えた圧電発振器において、前記複合振動子のそれぞれの主面の駆動線のいづれかを選択し前記発振回路と接続するためのスイッチ手段を設けたものであり、該スイッチ手段を介して複合振動子の端子が電気的に接地されていないことを特徴とする多周波複合圧電発振器。
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JP24247295A JP3597919B2 (ja) | 1995-08-28 | 1995-08-28 | 多周波発振用複合振動子及びそれを用いた発振器 |
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JP24247295A JP3597919B2 (ja) | 1995-08-28 | 1995-08-28 | 多周波発振用複合振動子及びそれを用いた発振器 |
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JPH0964685A JPH0964685A (ja) | 1997-03-07 |
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Family Applications (1)
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-
1995
- 1995-08-28 JP JP24247295A patent/JP3597919B2/ja not_active Expired - Lifetime
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