JP3595420B2 - 二層シリンダライナ及びその製造方法 - Google Patents
二層シリンダライナ及びその製造方法 Download PDFInfo
- Publication number
- JP3595420B2 JP3595420B2 JP28010796A JP28010796A JP3595420B2 JP 3595420 B2 JP3595420 B2 JP 3595420B2 JP 28010796 A JP28010796 A JP 28010796A JP 28010796 A JP28010796 A JP 28010796A JP 3595420 B2 JP3595420 B2 JP 3595420B2
- Authority
- JP
- Japan
- Prior art keywords
- layer material
- cylinder liner
- liner
- outer layer
- inner layer
- Prior art date
- Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
- Expired - Fee Related
Links
Images
Classifications
-
- F—MECHANICAL ENGINEERING; LIGHTING; HEATING; WEAPONS; BLASTING
- F02—COMBUSTION ENGINES; HOT-GAS OR COMBUSTION-PRODUCT ENGINE PLANTS
- F02B—INTERNAL-COMBUSTION PISTON ENGINES; COMBUSTION ENGINES IN GENERAL
- F02B3/00—Engines characterised by air compression and subsequent fuel addition
- F02B3/06—Engines characterised by air compression and subsequent fuel addition with compression ignition
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は内燃機関等の往復動機関に使用されるシリンダライナのうち、材質の異なる筒状の外層材と筒状の内層材とを組合わせてなる二層シリンダライナ及びその製造方法に関する。
【0002】
【発明が解決しようとする課題】
図8は、大型ディーゼル機関用シリンダライナの従来の一例を示す外観図である。
かかるシリンダライナ1は、内面1aがピストンリング(図示せず)と摺接し、外面1bが冷却水と接しており、従来、一般に普通鋳鉄、ダクタイル鋳鉄(球状黒鉛鋳鉄)等の一体鋳造にて製作されていた。
【0003】
かかる鋳鉄製一体型シリンダライナの材質の一例として、C(炭素)=4〜5%、Si(珪素)=3〜5%、Mn(マンガン)=1〜2%、P(リン)=1%、Fe(鉄)=残部から成る高リン系鋳鉄ライナがある。
また、この一体型シリンダライナは、鋳放し後、500〜600℃の残留応力除去の熱処理(SR処理)を施している。
【0004】
しかしながら、前記従来の一体型鋳鉄シリンダライナにあっては、次のような問題点を抱えている。
【0005】
(1)かかる一体型鋳鉄ライナにあっては、大型(シリンダ内径1000mmクラス)で厚肉(ライナ壁厚さ150〜200mm程度)のライナの場合、鋳造後の冷却速度が不均一となるため、鋳物組織が不均一となり、強度低下部分が発生することが多々である。
このため、高強度を必要とする大出力エンジンに使用するには、満足な強度が得られ難い。
【0006】
(2)また、該シリンダライナは、内面をピストンリングが摺動するため、高い耐摩耗性と耐焼付性を必要とするが、従来の一体型鋳鉄ライナでは、鋳造性及び鋳造の品質の制約から、かかる性質を充分に備えたものを製作するのは困難な面があった。
【0007】
さらには、前記一体型鋳鉄ライナは、鋳造性の面からC(炭素)=3〜4%の含有が限界であり、特に構成成分を変化させたり、熱処理によって硬さや片状黒鉛組織を調整することは困難で、高強度が要求される大型高出力エンジンに対応できる材料強度の確保に困難な面がある。
【0008】
本発明は前記従来技術の課題に鑑みて、摺動面が高い耐焼付性、耐摩耗性を有するとともに、母材が従来の鋳鉄製ライナを大幅に上廻る強度を有し、かつ製造コストが低減されたシリンダライナであって、大型ディーゼル機関用として好適なシリンダライナを提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明はかかる技術的課題を解決するために、筒状の外層材の内側に、内周にピストンの摺動面が形成される筒状の内層材を固定してなる二層シリンダライナであって、
前記外層材は、炭素鋼、低合金鋼等の溶接可能な鋼材にて構成され、
前記内層材は、摺動性能の良好なC(炭素)−Si(珪素)−Fe(鉄)系の鋳鉄系材料を前記外層材に粉体プラズマ肉盛溶接して構成されたことを要旨とする二層シリンダライナを提案する。
【0010】
具体的には前記二層シリンダライナにおいて、前記内層材の鋳鉄系材料を、少なくともC(炭素)=4.5〜5.5%、Si(珪素)=2〜3%、Mn(マンガン)≒1.0%、銅(Cu)≦1.0%、P(リン)≦1.0%、Cr(クロム)<1.0%、Fe(鉄)=残部にて構成することを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、前記のように構成された二層シリンダライナの製造方法として、炭素鋼、低合金鋼等の溶接可能な鋼材により、筒状の外層材を成形し、該外層材の内周に、少なくともC(炭素)=4.5〜5.5%、Si(珪素)=2〜3%、Mn(マンガン)≒1.0%、銅(Cu)≦1.0%、P(リン)≦1.0%、Cr(クロム)<1.0%、Fe(鉄)=残部にて構成された鋳鉄系材料の粉末をプラズマ肉盛溶接により肉盛りして、内層材を形成することを特徴とする二層シリンダライナの製造方法を提案する。
【0012】
かかる発明によれば、摺動性能の良好な鋳鉄系材料の粉体プラズマ肉盛溶接により内層材を形成したので、高い耐焼付性を有する内層材が得られるとともに、該内層材の厚さを摩耗代程度の薄肉として高強度の鋼材からなる外層材を強度部材としたことにより、従来の鋳鉄製シリンダライナに較べ、均一な組成で、かつこれの2倍以上の高強度を有するシリンダライナが得られる。
【0013】
従って、シリンダライナの厚さを従来の鋳鉄製ライナの約1/2と薄肉化することができ、ライナの軽量コンパクト化及び低コスト化が実現でき、熱応力の低下も得られ、さらなる耐久性の向上が得られる。
【0014】
尚、前記発明(第1発明)において、前記外層材及び内層材からなる二層ライナの下方に、内周に摺動面を有する鋳鉄材からなる下部ライナをボルト等により固着してなる二層式シリンダライナとすることもできる。
【0015】
かかる手段によれば、高強度、高い摩耗性及び耐焼付性を必要としないライナ下部を安価な鋳鉄材とすることができるので、さらに低コストのシリンダライナが得られる。
【0016】
さらに本発明の第2発明として、
前記プラズマ肉盛溶接施工後のシリンダライナを熱処理炉内において、900〜950℃にて{ライナ肉厚(mm)/25(mm)}時間保持後、炉冷却する黒鉛化処理を施し、次いで、該シリンダライナについて、500〜600℃にて{ライナ肉厚(mm)/25(mm)}時間保持後、炉冷却する残留応力除去処理を施すようにした二層シリンダライナの製造方法を提案する。
【0017】
かかる発明によれば、外層材の内面に粉体プラズマ肉盛溶接により、内層材を形成したシリンダライナを、熱処理炉内で上記条件により、黒鉛化処理することにより、片状黒鉛組織を20%以上に増大せしめた内層材とすることができ、これによりピストンリングとの摺動面の摺動性能が著しく向上し、耐摩耗性、耐焼付性が著しく改善される。
【0018】
また、かかる製法によれば、要求される耐摩耗性や耐焼付性に合わせて、片状黒鉛量を調整することができる。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但し、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がないかぎりは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0020】
図1は本発明の第1実施形態に係るシリンダライナの要部断面図、図2は変形例を示す要部断面図、図3(表)は上記第1実施形態にかかるシリンダライナの成分構成及び機械的性質を従来のシリンダライナと比較した表である。
図1において、1はシリンダライナであり、筒状の外層材21の内側に筒状の内層材22が固着された構造となっている。
22aはピストンリング(図示せず)と摺接する摺動面(内面)、25はシリンダライナ中心線である。
【0021】
前記外層材21は炭素鋼、低合金鋼等の溶接可能で炭素鋼と同等あるいはそれ以上の強度(引張強さ、耐力、伸び等)を有する鋼材からなり、機械加工により所定の形状に成形される。
【0022】
また、前記内層材22は、図3に示すような高C(炭素)−高Si(珪素)−高Fe(鉄)系の鋳鉄系肉盛金属の粉末体を、前記外層材21の内面に、低希釈溶接法である粉体プラズマ肉盛溶接により、円周方向に多パス連続溶接するか、あるいは長手方向(軸方向)に筋盛り多パス溶接して固着する。
【0023】
前記内層材22の肉盛溶接後、機械加工(研削、ホーニング等)により、内面即ち摺動面22aを所定の寸法に仕上げる。
かかる最後仕上後の内層材22の厚さtが、シリンダライナ1の最大摩耗量程度か、それを若干上廻る程度の薄肉とし、大型ディーゼル機関用シリンダライナの場合、3〜5mm程度が好適である。
【0024】
図3は前記内層材22の構成成分及び機械的性質を示す。
図3に示されるように、かかる内層材22に使用する鋳鉄系粉末材料の構成成分は、C(炭素)=4.5〜5.5%、Si(珪素)=2〜3%、Mn(マンガン)≒1.0%、銅(Cu)≦1.0%、P(リン)≦1.0%、Cr(クロム)<1.0%、Fe(鉄)=残部が好適である。
【0025】
図2は本発明に係る二層シリンダライナの変形例を示す。
この例では、ライナを上下に2分割し、高い耐摩耗性、耐焼付性が要求される。
上部ライナ1Aに、図1のものと同様前記外層材21とその内面に粉体プラズマ肉盛溶接された内層材22とよりなる2層ライナとし、摺動性能のみを要求される下部には鋳鉄下部ライナ23を採用し、両者を円周方向等間隔に配置された複数本のボルト26により固定している。
尚、かかるライナの摺動面22a、23aは上、下部ライナ1A、23をボルト26にて固定した後、同時加工にて仕上げる。
【0026】
以上のようにして製造された二層シリンダライナは、外層材21として高強度の鋼材を使用し、これの内面に内層材22として鋳鉄系の粉末材料をプラズマ肉盛溶接したので、肉盛溶接によって徐々に内層の摺動部(内層材22)所定厚さtまで形成して行く溶接方法によるので、溶接歪及び残留応力が少なくなるとともに、ライナの寿命が用途に応じて耐摩耗性の異なる材料を使用して肉盛溶接したライナを得ることができる。
【0027】
そして、かかる二層シリンダライナは、上記摺動特性に加えて、摺動面22aを構成する内層材22を最大摩耗代がそれを若干上廻る程度の薄肉とし、高強度の外層材21を強度部材としたので、引張強さのσB=60Kg/mm2と、従来の鋳鉄ライナの2倍以上の高強度を有することとなる。
従って、シリンダライナの厚さを従来のものの1/2とすることができ、ライナの軽量コンパクト化、低コスト化及び熱応力の低減が可能となる。
【0028】
また、内層材22の肉盛溶接は、低希釈溶接法の採用による1層肉盛溶接が可能であるため、所定厚さつまり、前記のような最大摩耗量に対応する厚さ、あるいはそれを若干上廻る厚さtの厚肉の肉盛が可能となり、しかも肉盛溶接工数が少なくて済む。
【0029】
図4は、本発明の実施形態に係る二層シリンダライナの試験品A、B、Cと従来の単層鋳鉄ライナの耐摩耗性の比較実験結果を示す。
図4に明らかなように、本発明に係る試験品A、B、Cのうち、改良された試験品B、Cは、従来のライナDに較べ、高い耐摩耗性を有する。
【0030】
図5は、上記試験品A、B、Cと従来のものDとの耐焼付性(焼付面圧)の実験結果を示す。
図においてZが実用可能な焼付面圧線(400Kg/cm2)であるが、各試験品A、B、Cは、1,100〜1,200Kg/cm2と、従来のものDを上廻る高い焼付面圧即ち、耐焼付性を備えている。
【0031】
図6は、本発明の第2実施形態に係る二層シリンダライナの要部断面図を示す。
この実施形態に係るシリンダライナ1においては、外層材31は前記第1実施形態と同じく、炭素鋼、低合金鋼等の溶接可能な鋼材からなる。
【0032】
また、前記外層材31の内面には、C(炭素)=4.5〜5.0%、Si(珪素)=3%、Mn(マンガン)=1.0%、銅(Cu)=1.0%、Fe(鉄)=残部の成分構成からなる高C−高Si−高Fe系の鋳鉄材料を、粉末にし、円周方向に粉体プラズマ肉盛溶接を施して固着する。
【0033】
そして、図7に示されるように、前記のようにして、外層材31の内面、内層材32が溶接されたシリンダライナ1を熱処理炉41内に収納し、900〜950℃で、{ライナ肉厚(mm)/25(mm)}時間、大型シリンダライナの場合は、4〜5時間保持後、炉冷却することにより、黒鉛化処理を行う。
これにより、オーステナイト残存組織の分解をなしてバーライト化するとともに、片状黒鉛組織を20%以上に増大せしめて、耐摩耗性、耐焼付性を向上させる。尚、図7において、42は加熱源である。
【0034】
次いで、溶接部の残留応力除去のため、600〜650℃で{ライナ肉厚(mm)/25(mm)}時間、大型シリンダライナの場合は、4〜5時間保持後、炉冷却するSR処理を行う。その後、摺動面に機械加工を施して仕上げる。
これにより、要求される耐摩耗性や耐焼付性に合わせて片状黒鉛量を調整することができる。
【0035】
かかる黒鉛化処理によって、ピストンリングとの摺動面32aが形成される内層材32は、その片状黒鉛組織が20%以上に増大せしめられ、該摺動面32aにおけるピストンリングとの摺動性能が、上記処理を施されない、従来のものに較べて大幅に向上し、耐焼付性、耐摩耗性が著しく改善される。
【0036】
【発明の効果】
以上詳述したごとく、本発明によれば、鋼製の外層材の内面に、例えば図3に示すような、高C−高Si−高Fe系の鋳鉄系材料を粉末プラズマ肉盛溶接して内層材を形成するので、高い耐焼付性、耐摩耗性を有する摺動面が得られるとともに、内層材の厚さを薄肉とし、高強度の鋼材からなる外層材を強度部材とすることが可能となり、これにより、従来の鋳鉄製ライナの半分の肉厚で以って同等の強度を有する軽量コンパクトでかつ低コストのシリンダライナを得ることができる。
【0037】
また、請求項4のように構成すれば、上記に加えて内層材の片状黒鉛組織を20%以上に増大せしめることが可能となって、高い耐焼付性、耐摩耗性を有するシリンダライナが得られる。
【0038】
以上のように本発明によれば、大型ディーゼルエンジン用シリンダライナに適合できる高い強度、耐焼付性及び耐摩耗性を有し、かつ従来の鋳鉄製ライナと同程度のコストで以って製造できるシリンダライナを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施形態に係る二層シリンダライナの要部縦断面図である。
【図2】上記第1実施形態の変形例を示す図1応当図である。
【図3】上記第1実施形態における内層材の成分構成例を示す表である。
【図4】上記第1実施形態におけるシリンダライナの耐摩耗性比較線図である。
【図5】上記第1実施形態におけるシリンダライナの耐焼付性比較線図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係る二層シリンダライナの要部断面図である。
【図7】上記第2実施形態における熱処理要領図である。
【図8】従来の単層鋳鉄製シリンダライナを示す外観図である。
【符号の説明】
1 シリンダライナ
1A 上部ライナ
21、31 外層材
22、32 内層材
22a、23a、32a 摺動面
23 下部ライナ
【発明の属する技術分野】
本発明は内燃機関等の往復動機関に使用されるシリンダライナのうち、材質の異なる筒状の外層材と筒状の内層材とを組合わせてなる二層シリンダライナ及びその製造方法に関する。
【0002】
【発明が解決しようとする課題】
図8は、大型ディーゼル機関用シリンダライナの従来の一例を示す外観図である。
かかるシリンダライナ1は、内面1aがピストンリング(図示せず)と摺接し、外面1bが冷却水と接しており、従来、一般に普通鋳鉄、ダクタイル鋳鉄(球状黒鉛鋳鉄)等の一体鋳造にて製作されていた。
【0003】
かかる鋳鉄製一体型シリンダライナの材質の一例として、C(炭素)=4〜5%、Si(珪素)=3〜5%、Mn(マンガン)=1〜2%、P(リン)=1%、Fe(鉄)=残部から成る高リン系鋳鉄ライナがある。
また、この一体型シリンダライナは、鋳放し後、500〜600℃の残留応力除去の熱処理(SR処理)を施している。
【0004】
しかしながら、前記従来の一体型鋳鉄シリンダライナにあっては、次のような問題点を抱えている。
【0005】
(1)かかる一体型鋳鉄ライナにあっては、大型(シリンダ内径1000mmクラス)で厚肉(ライナ壁厚さ150〜200mm程度)のライナの場合、鋳造後の冷却速度が不均一となるため、鋳物組織が不均一となり、強度低下部分が発生することが多々である。
このため、高強度を必要とする大出力エンジンに使用するには、満足な強度が得られ難い。
【0006】
(2)また、該シリンダライナは、内面をピストンリングが摺動するため、高い耐摩耗性と耐焼付性を必要とするが、従来の一体型鋳鉄ライナでは、鋳造性及び鋳造の品質の制約から、かかる性質を充分に備えたものを製作するのは困難な面があった。
【0007】
さらには、前記一体型鋳鉄ライナは、鋳造性の面からC(炭素)=3〜4%の含有が限界であり、特に構成成分を変化させたり、熱処理によって硬さや片状黒鉛組織を調整することは困難で、高強度が要求される大型高出力エンジンに対応できる材料強度の確保に困難な面がある。
【0008】
本発明は前記従来技術の課題に鑑みて、摺動面が高い耐焼付性、耐摩耗性を有するとともに、母材が従来の鋳鉄製ライナを大幅に上廻る強度を有し、かつ製造コストが低減されたシリンダライナであって、大型ディーゼル機関用として好適なシリンダライナを提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明はかかる技術的課題を解決するために、筒状の外層材の内側に、内周にピストンの摺動面が形成される筒状の内層材を固定してなる二層シリンダライナであって、
前記外層材は、炭素鋼、低合金鋼等の溶接可能な鋼材にて構成され、
前記内層材は、摺動性能の良好なC(炭素)−Si(珪素)−Fe(鉄)系の鋳鉄系材料を前記外層材に粉体プラズマ肉盛溶接して構成されたことを要旨とする二層シリンダライナを提案する。
【0010】
具体的には前記二層シリンダライナにおいて、前記内層材の鋳鉄系材料を、少なくともC(炭素)=4.5〜5.5%、Si(珪素)=2〜3%、Mn(マンガン)≒1.0%、銅(Cu)≦1.0%、P(リン)≦1.0%、Cr(クロム)<1.0%、Fe(鉄)=残部にて構成することを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、前記のように構成された二層シリンダライナの製造方法として、炭素鋼、低合金鋼等の溶接可能な鋼材により、筒状の外層材を成形し、該外層材の内周に、少なくともC(炭素)=4.5〜5.5%、Si(珪素)=2〜3%、Mn(マンガン)≒1.0%、銅(Cu)≦1.0%、P(リン)≦1.0%、Cr(クロム)<1.0%、Fe(鉄)=残部にて構成された鋳鉄系材料の粉末をプラズマ肉盛溶接により肉盛りして、内層材を形成することを特徴とする二層シリンダライナの製造方法を提案する。
【0012】
かかる発明によれば、摺動性能の良好な鋳鉄系材料の粉体プラズマ肉盛溶接により内層材を形成したので、高い耐焼付性を有する内層材が得られるとともに、該内層材の厚さを摩耗代程度の薄肉として高強度の鋼材からなる外層材を強度部材としたことにより、従来の鋳鉄製シリンダライナに較べ、均一な組成で、かつこれの2倍以上の高強度を有するシリンダライナが得られる。
【0013】
従って、シリンダライナの厚さを従来の鋳鉄製ライナの約1/2と薄肉化することができ、ライナの軽量コンパクト化及び低コスト化が実現でき、熱応力の低下も得られ、さらなる耐久性の向上が得られる。
【0014】
尚、前記発明(第1発明)において、前記外層材及び内層材からなる二層ライナの下方に、内周に摺動面を有する鋳鉄材からなる下部ライナをボルト等により固着してなる二層式シリンダライナとすることもできる。
【0015】
かかる手段によれば、高強度、高い摩耗性及び耐焼付性を必要としないライナ下部を安価な鋳鉄材とすることができるので、さらに低コストのシリンダライナが得られる。
【0016】
さらに本発明の第2発明として、
前記プラズマ肉盛溶接施工後のシリンダライナを熱処理炉内において、900〜950℃にて{ライナ肉厚(mm)/25(mm)}時間保持後、炉冷却する黒鉛化処理を施し、次いで、該シリンダライナについて、500〜600℃にて{ライナ肉厚(mm)/25(mm)}時間保持後、炉冷却する残留応力除去処理を施すようにした二層シリンダライナの製造方法を提案する。
【0017】
かかる発明によれば、外層材の内面に粉体プラズマ肉盛溶接により、内層材を形成したシリンダライナを、熱処理炉内で上記条件により、黒鉛化処理することにより、片状黒鉛組織を20%以上に増大せしめた内層材とすることができ、これによりピストンリングとの摺動面の摺動性能が著しく向上し、耐摩耗性、耐焼付性が著しく改善される。
【0018】
また、かかる製法によれば、要求される耐摩耗性や耐焼付性に合わせて、片状黒鉛量を調整することができる。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但し、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がないかぎりは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0020】
図1は本発明の第1実施形態に係るシリンダライナの要部断面図、図2は変形例を示す要部断面図、図3(表)は上記第1実施形態にかかるシリンダライナの成分構成及び機械的性質を従来のシリンダライナと比較した表である。
図1において、1はシリンダライナであり、筒状の外層材21の内側に筒状の内層材22が固着された構造となっている。
22aはピストンリング(図示せず)と摺接する摺動面(内面)、25はシリンダライナ中心線である。
【0021】
前記外層材21は炭素鋼、低合金鋼等の溶接可能で炭素鋼と同等あるいはそれ以上の強度(引張強さ、耐力、伸び等)を有する鋼材からなり、機械加工により所定の形状に成形される。
【0022】
また、前記内層材22は、図3に示すような高C(炭素)−高Si(珪素)−高Fe(鉄)系の鋳鉄系肉盛金属の粉末体を、前記外層材21の内面に、低希釈溶接法である粉体プラズマ肉盛溶接により、円周方向に多パス連続溶接するか、あるいは長手方向(軸方向)に筋盛り多パス溶接して固着する。
【0023】
前記内層材22の肉盛溶接後、機械加工(研削、ホーニング等)により、内面即ち摺動面22aを所定の寸法に仕上げる。
かかる最後仕上後の内層材22の厚さtが、シリンダライナ1の最大摩耗量程度か、それを若干上廻る程度の薄肉とし、大型ディーゼル機関用シリンダライナの場合、3〜5mm程度が好適である。
【0024】
図3は前記内層材22の構成成分及び機械的性質を示す。
図3に示されるように、かかる内層材22に使用する鋳鉄系粉末材料の構成成分は、C(炭素)=4.5〜5.5%、Si(珪素)=2〜3%、Mn(マンガン)≒1.0%、銅(Cu)≦1.0%、P(リン)≦1.0%、Cr(クロム)<1.0%、Fe(鉄)=残部が好適である。
【0025】
図2は本発明に係る二層シリンダライナの変形例を示す。
この例では、ライナを上下に2分割し、高い耐摩耗性、耐焼付性が要求される。
上部ライナ1Aに、図1のものと同様前記外層材21とその内面に粉体プラズマ肉盛溶接された内層材22とよりなる2層ライナとし、摺動性能のみを要求される下部には鋳鉄下部ライナ23を採用し、両者を円周方向等間隔に配置された複数本のボルト26により固定している。
尚、かかるライナの摺動面22a、23aは上、下部ライナ1A、23をボルト26にて固定した後、同時加工にて仕上げる。
【0026】
以上のようにして製造された二層シリンダライナは、外層材21として高強度の鋼材を使用し、これの内面に内層材22として鋳鉄系の粉末材料をプラズマ肉盛溶接したので、肉盛溶接によって徐々に内層の摺動部(内層材22)所定厚さtまで形成して行く溶接方法によるので、溶接歪及び残留応力が少なくなるとともに、ライナの寿命が用途に応じて耐摩耗性の異なる材料を使用して肉盛溶接したライナを得ることができる。
【0027】
そして、かかる二層シリンダライナは、上記摺動特性に加えて、摺動面22aを構成する内層材22を最大摩耗代がそれを若干上廻る程度の薄肉とし、高強度の外層材21を強度部材としたので、引張強さのσB=60Kg/mm2と、従来の鋳鉄ライナの2倍以上の高強度を有することとなる。
従って、シリンダライナの厚さを従来のものの1/2とすることができ、ライナの軽量コンパクト化、低コスト化及び熱応力の低減が可能となる。
【0028】
また、内層材22の肉盛溶接は、低希釈溶接法の採用による1層肉盛溶接が可能であるため、所定厚さつまり、前記のような最大摩耗量に対応する厚さ、あるいはそれを若干上廻る厚さtの厚肉の肉盛が可能となり、しかも肉盛溶接工数が少なくて済む。
【0029】
図4は、本発明の実施形態に係る二層シリンダライナの試験品A、B、Cと従来の単層鋳鉄ライナの耐摩耗性の比較実験結果を示す。
図4に明らかなように、本発明に係る試験品A、B、Cのうち、改良された試験品B、Cは、従来のライナDに較べ、高い耐摩耗性を有する。
【0030】
図5は、上記試験品A、B、Cと従来のものDとの耐焼付性(焼付面圧)の実験結果を示す。
図においてZが実用可能な焼付面圧線(400Kg/cm2)であるが、各試験品A、B、Cは、1,100〜1,200Kg/cm2と、従来のものDを上廻る高い焼付面圧即ち、耐焼付性を備えている。
【0031】
図6は、本発明の第2実施形態に係る二層シリンダライナの要部断面図を示す。
この実施形態に係るシリンダライナ1においては、外層材31は前記第1実施形態と同じく、炭素鋼、低合金鋼等の溶接可能な鋼材からなる。
【0032】
また、前記外層材31の内面には、C(炭素)=4.5〜5.0%、Si(珪素)=3%、Mn(マンガン)=1.0%、銅(Cu)=1.0%、Fe(鉄)=残部の成分構成からなる高C−高Si−高Fe系の鋳鉄材料を、粉末にし、円周方向に粉体プラズマ肉盛溶接を施して固着する。
【0033】
そして、図7に示されるように、前記のようにして、外層材31の内面、内層材32が溶接されたシリンダライナ1を熱処理炉41内に収納し、900〜950℃で、{ライナ肉厚(mm)/25(mm)}時間、大型シリンダライナの場合は、4〜5時間保持後、炉冷却することにより、黒鉛化処理を行う。
これにより、オーステナイト残存組織の分解をなしてバーライト化するとともに、片状黒鉛組織を20%以上に増大せしめて、耐摩耗性、耐焼付性を向上させる。尚、図7において、42は加熱源である。
【0034】
次いで、溶接部の残留応力除去のため、600〜650℃で{ライナ肉厚(mm)/25(mm)}時間、大型シリンダライナの場合は、4〜5時間保持後、炉冷却するSR処理を行う。その後、摺動面に機械加工を施して仕上げる。
これにより、要求される耐摩耗性や耐焼付性に合わせて片状黒鉛量を調整することができる。
【0035】
かかる黒鉛化処理によって、ピストンリングとの摺動面32aが形成される内層材32は、その片状黒鉛組織が20%以上に増大せしめられ、該摺動面32aにおけるピストンリングとの摺動性能が、上記処理を施されない、従来のものに較べて大幅に向上し、耐焼付性、耐摩耗性が著しく改善される。
【0036】
【発明の効果】
以上詳述したごとく、本発明によれば、鋼製の外層材の内面に、例えば図3に示すような、高C−高Si−高Fe系の鋳鉄系材料を粉末プラズマ肉盛溶接して内層材を形成するので、高い耐焼付性、耐摩耗性を有する摺動面が得られるとともに、内層材の厚さを薄肉とし、高強度の鋼材からなる外層材を強度部材とすることが可能となり、これにより、従来の鋳鉄製ライナの半分の肉厚で以って同等の強度を有する軽量コンパクトでかつ低コストのシリンダライナを得ることができる。
【0037】
また、請求項4のように構成すれば、上記に加えて内層材の片状黒鉛組織を20%以上に増大せしめることが可能となって、高い耐焼付性、耐摩耗性を有するシリンダライナが得られる。
【0038】
以上のように本発明によれば、大型ディーゼルエンジン用シリンダライナに適合できる高い強度、耐焼付性及び耐摩耗性を有し、かつ従来の鋳鉄製ライナと同程度のコストで以って製造できるシリンダライナを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施形態に係る二層シリンダライナの要部縦断面図である。
【図2】上記第1実施形態の変形例を示す図1応当図である。
【図3】上記第1実施形態における内層材の成分構成例を示す表である。
【図4】上記第1実施形態におけるシリンダライナの耐摩耗性比較線図である。
【図5】上記第1実施形態におけるシリンダライナの耐焼付性比較線図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係る二層シリンダライナの要部断面図である。
【図7】上記第2実施形態における熱処理要領図である。
【図8】従来の単層鋳鉄製シリンダライナを示す外観図である。
【符号の説明】
1 シリンダライナ
1A 上部ライナ
21、31 外層材
22、32 内層材
22a、23a、32a 摺動面
23 下部ライナ
Claims (4)
- 筒状の外層材の内側に、内周にピストンの摺動面が形成される筒状の内層材を固定してなる二層シリンダライナであって、
前記外層材は、炭素鋼、低合金鋼等の溶接可能な鋼材にて構成され、
前記内層材は、少なくともC(炭素)=4.5〜5.5%、Si(珪素)=2〜3%、Mn(マンガン)≒1.0%、銅(Cu)≦1.0%、P(リン)≦1.0%、Cr(クロム)<1.0%、Fe(鉄)=残部にて構成された鋳鉄系材料を前記外層材に粉体プラズマ肉盛溶接して構成されたことを特徴とする二層シリンダライナ。 - 前記外層材及び内層材からなる二層ライナの下方に、内周に摺動面を有する鋳鉄材からなる下部ライナをボルト等により固着してなる請求項1記載の二層シリンダライナ。
- 外層材の内側に、内周にピストンの摺動面が形成される内層材を固定してなる二層シリンダライナを製造するにあたり、
炭素鋼、低合金鋼等の溶接可能な鋼材により、筒状の外層材を成形し、該外層材の内周に、少なくともC(炭素)=4.5〜5.5%、Si(珪素)=2〜3%、Mn(マンガン)≒1.0%、銅(Cu)≦1.0%、P(リン)≦1.0%、Cr(クロム)<1.0%、Fe(鉄)=残部にて構成された鋳鉄系材料の粉末をプラズマ肉盛溶接により肉盛りして、内層材を形成することを特徴とする二層シリンダライナの製造方法。 - 前記プラズマ肉盛溶接施工後のシリンダライナを熱処理炉内において、900〜950℃にて{ライナ肉厚(mm)/25(mm)}時間保持後、炉冷却する黒鉛化処理を施し、次いで、該シリンダライナについて、500〜600℃にて{ライナ肉厚(mm)/25(mm)}時間保持後、炉冷却する残留応力除去処理を施す請求項3記載のシリンダライナの製造方法。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP28010796A JP3595420B2 (ja) | 1996-09-30 | 1996-09-30 | 二層シリンダライナ及びその製造方法 |
Applications Claiming Priority (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP28010796A JP3595420B2 (ja) | 1996-09-30 | 1996-09-30 | 二層シリンダライナ及びその製造方法 |
Publications (2)
Publication Number | Publication Date |
---|---|
JPH10103150A JPH10103150A (ja) | 1998-04-21 |
JP3595420B2 true JP3595420B2 (ja) | 2004-12-02 |
Family
ID=17620426
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
---|---|---|---|
JP28010796A Expired - Fee Related JP3595420B2 (ja) | 1996-09-30 | 1996-09-30 | 二層シリンダライナ及びその製造方法 |
Country Status (1)
Country | Link |
---|---|
JP (1) | JP3595420B2 (ja) |
Families Citing this family (2)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
CN100359038C (zh) * | 2003-09-03 | 2008-01-02 | 兰州理工大学 | 泥浆泵缸套内壁喷熔装置及其方法 |
KR102128537B1 (ko) * | 2018-11-20 | 2020-06-30 | 김성규 | 내마모성과 내열성 실린더 라이너 |
-
1996
- 1996-09-30 JP JP28010796A patent/JP3595420B2/ja not_active Expired - Fee Related
Also Published As
Publication number | Publication date |
---|---|
JPH10103150A (ja) | 1998-04-21 |
Similar Documents
Publication | Publication Date | Title |
---|---|---|
Barbezat | Advanced thermal spray technology and coating for lightweight engine blocks for the automotive industry | |
Gérard | Application of thermal spraying in the automobile industry | |
CN102257299B (zh) | 可氮化钢活塞环和钢汽缸套及制造它们的铸造方法 | |
KR102048454B1 (ko) | 실린더 라이너 및 이의 제조 방법 | |
US6209881B1 (en) | Cast-iron piston ring | |
US8506727B2 (en) | Piston rings | |
US8882937B2 (en) | Steel material composition for producing piston rings and cylinder sleeves | |
JP3595420B2 (ja) | 二層シリンダライナ及びその製造方法 | |
JPH03229958A (ja) | 内燃機関用クランク軸受部 | |
Barbezat | Material for the plasma spraying of lightweight engine block cylinder bores | |
US5507258A (en) | Pistons for internal combustion engines | |
EP2318668B1 (en) | Cylinder head with valve seat and method for the production thereof | |
EP0356615B1 (en) | Piston ring material and piston ring | |
JPS58217671A (ja) | 転写用溶射皮膜の製造方法 | |
JP3626827B2 (ja) | シリンダライナ | |
JPS58128525A (ja) | 複合ロ−ルの製造法 | |
JPH0143022B2 (ja) | ||
JP3569429B2 (ja) | 内燃機関用ピストンの耐摩環 | |
JPS59100263A (ja) | 溶射ピストンリング | |
JP2000169951A (ja) | 摺動部材の複層溶射皮膜形成方法 | |
JP2000080451A (ja) | 耐摩環用焼結体および耐摩環 | |
JP2001107802A (ja) | 高温耐摩耗性および熱伝導性の優れた冷却空洞付きピストンリング複合耐摩環 | |
JPH03275908A (ja) | カムシャフト及びその製造方法 | |
JPH04175403A (ja) | エンジン用カムシャフト | |
JPS6352703A (ja) | 複合リングロ−ル |
Legal Events
Date | Code | Title | Description |
---|---|---|---|
A131 | Notification of reasons for refusal |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131 Effective date: 20040406 |
|
A521 | Written amendment |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523 Effective date: 20040607 |
|
TRDD | Decision of grant or rejection written | ||
A01 | Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model) |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01 Effective date: 20040810 |
|
A61 | First payment of annual fees (during grant procedure) |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61 Effective date: 20040903 |
|
LAPS | Cancellation because of no payment of annual fees |