JP3584288B2 - 生体計測装置 - Google Patents
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Description
【発明が属する技術分野】
この発明は、生体組織を近赤外光の定常光源により照明しながら生体に刺激を提示し、該刺激提示に対応して変化する前記生体組織を透過及び/又は散乱して検出される近赤外光を計測する又は計測して解析する生体計測システムに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、生体を光によって計測、診断する技術が利用されている。生体組織に対する透過性の良い波長800nm前後の光である近赤外光を用いて、生体組織の生理学的情報、特に血液の酸素化度や組織内血液量の定量的な情報を得ることができる。前記近赤外光の生体組織を透過する透過光あるいは散乱光を測定することにより、生体の光吸収と光散乱という光減衰の原因となる2つのパラメータを算出し、これらパラメータの解析により前記情報を得るものである。
【0003】
この近赤外線を用いた生体機能測定においては、通常光ファイバー等から任意の近赤外領域の波長の光を生体に照射して、その反射光を検出することで、生体機能を測定する。この波長域に吸収を持つ生体物質は血液中のヘモグロビンであり、当該光が吸収される状況を計測することによって、血液に関係した生体情報を測定することができる。この場合には、光の吸収による信号変化は、光の散乱による信号変化に対して十分大きい。単一の波長による測定で血液量の変化という生体機能情報をとらえることができる。また血液はその酸素状態によって異なる光吸収を示すため、複数の波長による光吸収を測定することによって生体の酸素状態という機能情報をとらえることもできる。
【0004】
脳機能の測定対象としては、血液に基づく情報(血液量、血流量、酸素状態等)以外に脳の電気的活動変化がある。この電気的な情報は、神経細胞同士の情報の伝達に、電気的なパルスを介して行われていることに基づくものと考えられる。この電気的な情報の伝達時間はミリ秒単位で行われ、秒単位での前記血液の変化情報に比して著しく速いものである。fMRIでは信号を検出するのに数秒間という一定の時間を要するため対応ができない。
【0005】
一方で、生体の光散乱変化が主に脳の電気的活動変化と相関があり、光散乱パラメーターの算出によって電気信号を類推することができるとの報告がある。この光散乱変化は定常光源だけでは算出できず、超短パルス光源や高速強度変調光源などを用いた計測システムによって計測する。脳の電気信号は数ミリ秒のオーダーで変化するため、これらの信号を捕捉できるようなシステム構成となっていた。これら装置から、光散乱パラメータを得るためには生体内において光の伝播を記述する輸送方程式を解く方法が提唱されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、前記輸送方程式を解くことは容易ではないので、近似式である光拡散方程式を解いて得るが、光拡散方程式は光の散乱パターンを等方散乱で近似する。つまり、散乱係数と角度パラメータとの積を、等価散乱係数という値に置き換える。前記光散乱パラメータは、一般には光拡散方程式のパラメータである等価散乱係数を意味する。この等価散乱係数と吸収係数との2つをパラメータとする光拡散方程式の時間領域もしくは周波数領域の解に、それぞれに該当する測定値をフィッティングすることで、光散乱パラメータを算出できる。しかし、これらの場合にはフィッティング計算が可能なくらいのSN比の良いデータを得ないと、前述の方程式に代入して求めることはできないので、実際はSN比向上のために数秒程度の加算が必要になってしまうために、実時間計測では、ミリ秒程度の脳機能変化には対応できないとの問題がある。
【0007】
また、超短パルス光源や高速強度変調光源を用いた計測システムから得られる結果から光散乱パラメータを算出する場合、時間や周波数、距離の関数として表された光拡散方程式の無限媒体での解であるグリーン関数に境界条件を考慮して、半無限媒体として解いた解析解を、得られた測定値にフィッティングさせて光散乱パラメータを得る方法があるが、実際の形状とは大きく異なる単純な形状での境界条件の基でしか解析解は得られないという問題点があった。
【0008】
次いで、前記超短パルス光源を用いた時間分解計測では、時間原点の決定方法に不確定な面が多いこと、測定で得られる信号強度が小さいために、ノイズから有効な信号を分離してデータを得るためには、何度も加算しなければならないこと、前記フィッティングにおいては有効数字の桁数が少ないという問題点があった。
【0009】
他方、高速強度変調光源を用いた強度変調計測では、時間関数の解析解をフーリエ変換により周波数の関数として得た解析解を測定データにフィッティングさせることにより、光散乱パラメータが得られるが、数ミリ秒のオーダーでの測定のため、前記と同様に、ノイズから有効な信号を分離してデータを得るためには何度も加算しなければならないという問題点があった。
【0010】
さらに、強度変調計測のためのシステムは、前記時間分解計測のためのシステムに比較して、小型で安価に構成できる利点はあるが、前記フィッティングにおける有効数字の桁数は時間分解計測同様に少ないという問題点があった。
【0011】
いずれにせよ、理論から得られる解析解は、光拡散方程式を無限あるいは半無限形状の媒体として実際とは大きく異なる形状のものについてしか得ることができないため、これらから光散乱パラメータを得ても厳密な値が得ることができない。
【0012】
そこで、本発明は、前記従来の問題点を解決するためになされたもので、時間分解計測及び強度変調計測を用いることなく、生体内における電気的活動変化に対応した信号を得ることができ、同時に得られた血行動態変化に対応した信号と合わせて生体の機能変化モニターを行うための生体計測装置及びシステムを提供することを課題とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために本発明は、近赤外光を用いて生体を計測する生体計測装置であって、被験者に連続して1ミリ秒乃至10ミリ秒ずつ刺激を提示する手段、前記生体の生体組織を近赤外光で照射する照射手段、前記生体組織からの反射光を前記刺激と同期して少なくとも1回はサンプリングするサンプリング手段とを有する生体計測装置を提供するものである。ここで、前記サンプリング手段が前記刺激提示の前又は後においてサンプリングしてもよい。
【0014】
また、本願発明に係る装置は、刺激提示時からのサンプリング時間及び算出法から、生体の電気的活動変化由来の信号及び血行動態変化由来の信号の両方を同時に又は分離して求めることができる。すなわち、前記刺激に応じた刺激提示後100ミリ秒以下の間の散乱光をサンプリングした信号を積算して、当該刺激に対する生体組織の電気的活動変化に対応する信号を検出することを特徴とするか、または、前記刺激に応じた刺激提示後の100ミリ秒以上の間の散乱光をサンプリングした信号を用いて、当該刺激に対する生体組織の血行動態変化に対応する信号を検出することを特徴とする。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明に係るシステムは、被験者に刺激を与えるモニター等、同被験者に近赤外線を照射する照射装置、同被験者の生体からの反射光を捕捉するサンプリング装置、信号制御装置、演算記録装置の5つの構成からなる。このシステム自体は、従来の光を用いた生体情報測定装置とほぼ同様であるが、刺激提示方法、信号サンプリング方法、信号制御方法及び演算記録方法を改変して、生体の電気的活動変化に由来する信号及び血行動態変化に対応した信号を捕捉できるようにした。以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。図1は、本発明による生体計測装置の実施形態を説明するための図である。
【0016】
図1に示すように、本発明の実施形態の生体計測装置は、生体の感覚受容器及び/又は神経に連続して数ミリ秒の短時間ずつ刺激を与えると共に、前記生体の生体組織を近赤外光の定常光源で照明する。刺激提示方法としては、被験者に特定の図柄をモニター等で数ミリ秒の短時間表示させたものを見せることが挙げられる。また、生体組織を定常光源で照射する方法としては、光ファイバーを用いて生体に接触させ、光源から近赤外線の範囲の光を照射することが挙げられる。光ファイバーで照射することで、ピンポイントで生体に光照射することができ、生体の特定部位又は複数の部位の生体情報を捕捉することができる。ここで、「生体情報」とは、神経系の電気的活動変化由来の信号及び血行動態変化に対応した信号から得られる情報をいう。
【0017】
前記照明により前記生体組織を透過及び散乱するそれぞれの近赤外光を、前記刺激に同期して連続してミリ秒以下の短時間でサンプリングし、前記刺激の刺激提示時をスタート時として、数秒又は数分間の所定時間内に得られる信号を積算し、血行動態変化に対応した信号を得る。この変化は血流の変化や血液量の変化に対応したもので、100ミリ秒から数秒を要する。また、この信号は散乱光由来ではなく、主に吸収された光との差分の由来となる。前述したように、血液量の増大はヘモグロビン量が増加することに伴い近赤外線の光が吸収され、照射光に対する反射光が著しく減少する。これにより、血行動態を反映した信号を捕捉できることになる。すなわち、前記血行動態は生理学的に数秒のオーダーで変化するので、生体に提示された各刺激に同期してミリ秒以下のサンプリングを連続して行うサンプリング機構により、数秒間ずつ積算して得られた秒のオーダーで変化する光信号は、血行動態変化に対応する信号である。この血行動態変化に対応したデータは比較的大きいので、必ずしも積算して算出する必要はない。
【0018】
また、前記刺激の各刺激提示時をスタート時として、該各刺激に同期して数ミリ秒間の所定時間内に得られる信号を積算し、生体組織から発生する電気的活動変化に対応した信号を得る。刺激提示を開始して数ミリ秒以内に得られる信号は、血行動態由来の信号ではなく、生体の電気信号変化に由来するものと考えられる。血行動態変化は、心拍に由来するものが大きく、心拍はおよそ1秒に1回程度、速くなっても1秒に数回であるから、ミリ秒のオーダーで変化する光信号変化が示すものは、電気信号変化に対応した信号である。
【0019】
生体組織の光散乱変化は、主に脳の電気的活動変化と相関があるので、神経系の電気信号変化に対応する信号は、生体組織における光減衰パラメータである「吸収と散乱の積」のうち、散乱に由来したものである。従って、前記ミリ秒のオーダーで変化する光信号は、生体組織の電気的活動変化に対応する信号である。この生体の電気信号とは、主に神経細胞での膜電位の変化である。神経細胞から他の神経細胞に信号が伝達する場合には、細胞膜の内外でプラスイオンとマイナスイオンの輸送の変化により膜電位が生じ、これが電気信号となって、他の神経細胞に伝達していく。
【0020】
即ち、本願発明は、定常光源を用い、生体の感覚受容器及び/又は神経への数ミリ秒の連続した刺激に同期した生体組織からの信号を、連続したミリ秒以下のサンプリングにより、数秒オーダーの血行動態変化に対応した信号と、数ミリ秒オーダーの電気信号変化に対応した信号と両方を得る生体計測装置及びシステムである(図1)。
【0021】
次に、本発明による生体計測システムの実施形態について説明する。図1に示すように、本発明の実施形態の生体計測システム(1)は、刺激提示機構(3)、近赤外線の照明機構(4)、サンプリング機構(5)、血行動態変化計測機構(6)、
電気信号変化計測機構(7)、制御機構(8)及びデータ解析装置(9)から構成される。
【0022】
刺激提示機構は、モニター、スピーカー等の被験者の視覚・聴覚等を機能されるものであればよく、主にモニターに図柄を一定時間表示させることが挙げられる。この刺激の提示の1つ1つは数ミリ秒で行い、この刺激提示と生体情報のサンプリングをサンプリング機能(5)で同期させて行う。このような構成を採ることで、1つ1つの刺激に対する生体情報を得ることが出来る。
【0023】
照明機構(4)は、光源を有し、任意の波長の光を照射できるような構成をとる。本願発明では、主に近赤外領域の波長を用い、生体には光ファイバーで、直接生体に接触させて照射させることが挙げられる。サンプリング機構(5)は、生体からの反射光を捕捉するが、照射用の光ファイバーの直近に配設し、照射部位における反射光のみを捕捉できるようにする。照明機構(4)は、定常的に光照射されているのに対し、サンプリング機構(5)は、刺激提示機構(3)の刺激提示と同期して、生体情報を取得する。このような構成とすることで、特定のミリ秒程度の短い時間の刺激に対する、生体からの反射光、すなわち生体情報を取得することができる。
【0024】
尚、特定の刺激に対する生体の反射光が得られればよいので、刺激提示と光照射を同期させてもよい。また、制御機構(8)とデータ解析機構(9)はコンピュータ(10)に備えられているのが好ましいが、コンピュータとは別に備えられているなど、その形態は適宜選択すればよい。
【0025】
制御機構(8)は、刺激提示とサンプリングを同期させるための制御を主に行うための機構である。サンプリングは、数ミリ秒程度で行えるようにして、なるべく短い方がよい。
【0026】
サンプリングされたデーターの内、刺激提示から数十ミリ秒程度の血行動態の変化がみられない初期は、主に血液による光の吸収はないので、電気信号変化計測機構(7)により、電気信号変化のデータの捕捉と解析を行う。サンプリング機構(5)は、生体(2)から得られる光信号をミリ秒以下で連続してサンプリングするものであり、制御機構(8)により制御可能であるものが好ましい。電気信号変化計測機構(7)は、刺激提示機構(3)による各刺激提示時をスタート時として、各刺激に同期して数ミリ秒間サンプリング機構(5)からの信号を積算するものであり、制御機構(8)により制御されている。
【0027】
また、積算された信号はデータ解析機構(9)に送られて解析され、散乱パラメータ等が導出される。この電気信号由来の散乱光は、非常に微弱なので個々のデーターを積算して評価を行う。これにより、安定的なデータを得ることができる。
【0028】
血行動態変化計測機構(6)は、刺激提示機構(3)による刺激提示時をスタート時として、数秒間サンプリング機構(5)からの信号を積算するものであり、制御機構(8)により制御されている。上記の電気信号変化計測機構(7)の解析時間である数ミリ秒単位の計測ではなく、数秒単位の計測となる。刺激提示が血流の変化をさせるのに、ある程度時間がかかるためである。これらのデータは生体からの散乱光を捕捉するのではなく、吸収率の変化を測定するため等により個々のデータは得られやすい。
【0029】
すなわち、本願発明によれば、数ミリ秒単位の刺激を提示し、かつ、この刺激と同期して生体からの反射光をサンプリングすることによって、そのサンプリング時間の長短により、電気信号由来の生体情報及び血行動向由来の生体情報のいずれもを測定、評価することができるものである。
上記を実現するためには、搭載するハードウエア内容が一種類でも良いが、吸収計測用と散乱計測用の二種類のハードウエアを搭載しても良い。動作は一種類の場合を同様である。
【0030】
【発明の効果】
本発明によれば、安定な定常光源を用いて、血行動態変化に対応する信号と生体で発生する電気的活動変化に対応する信号を同時に計測することができ、また前記計測結果から光減衰パラメータ等を導出して、生体に関して機能変化のモニターを行うことも可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による生体計測装置の実施形態を説明するための図である。
【符号の説明】
1 生体計測システム
2 生体
3 刺激提示機構
4 照明機構
5 サンプリング機構
6 血行動態変化計測機構
7 電気信号変化計測機構
8 制御機構
9 データ解析機構
10 コンピュータ
Claims (2)
- 可視域または近赤外域の光を用いて生体を計測する生体計測装置であって、
被験者に連続して1ミリ秒乃至10ミリ秒ずつ刺激を提示する刺激提示手段、
前記生体の生体組織を近赤外光で照射する照射手段、
前記生体組織からの反射光を前記刺激と同期して少なくとも1回はサンプリングするサンプリング手段、
前記刺激提示後100ミリ秒以下の間の検出光をサンプリングした信号を積算して、当該刺激に対する脳神経系の電気的活動変化に対応する信号を検出する手段
とを有する生体計測装置。 - 可視域または近赤外域の光を用いて生体を計測する生体計測装置であって、
被験者に連続して1ミリ秒乃至10ミリ秒ずつ刺激を提示する刺激提示手段、
前記生体の生体組織を近赤外光で照射する照射手段、
前記生体組織からの反射光を前記刺激と同期して少なくとも1回はサンプリングするサンプリング手段、
前記刺激提示後の100ミリ秒以上の間の検出光をサンプリングした信号を用いて、当該刺激に対する生体組織の血行動態変化に対応する信号を検出する手段
とを有する生体計測装置。
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2001
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