JP2016190052A - 生体活動測定装置および光検出器 - Google Patents

生体活動測定装置および光検出器 Download PDF

Info

Publication number
JP2016190052A
JP2016190052A JP2016118405A JP2016118405A JP2016190052A JP 2016190052 A JP2016190052 A JP 2016190052A JP 2016118405 A JP2016118405 A JP 2016118405A JP 2016118405 A JP2016118405 A JP 2016118405A JP 2016190052 A JP2016190052 A JP 2016190052A
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
detection
life activity
light
cell
living body
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Pending
Application number
JP2016118405A
Other languages
English (en)
Inventor
安東 秀夫
Hideo Ando
秀夫 安東
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Individual
Original Assignee
Individual
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Individual filed Critical Individual
Publication of JP2016190052A publication Critical patent/JP2016190052A/ja
Pending legal-status Critical Current

Links

Abstract

【課題】空間分解能および時間分解能の向上を図りながら生体の活動状態もしくはその変化を測定または制御することができる方法等を提供する。【解決手段】本発明の生体活動測定方法または生体活動制御方法等によれば、指定波長帯内の波長を含む電磁波を生体に照射し、この生体内における局所領域での当該電磁波に関連する特性を検出する、あるいは当該電磁波に関連する特性を利用して局所領域での生体活動の制御をする。ここで「指定波長帯」は、生体の活動状態あるいはその変化を検出または制御するために利用する現象に基づいて定まる。そしてこの「局所領域」は、一または複数の細胞から構成される領域である。【選択図】図56

Description

本発明は、人間を含めた動物または植物などの生体内部での高速で変化する動的な生体活動あるいはその変化を非接触(非侵襲)手段により生きたままの状態で測定(in vivo の測定)または制御する測定方法または制御方法などに関する。
生体内部で高速に変化する動的な生体活動の一例として脳・神経系の活動がある。脳内の活動を測定する方法として、従来の代表的な技術として近赤外光を用いた血液中の酸素濃度計測法(以下「先行技術1」という。)およびfMRI(functional MRI)による血液中の酸素濃度分布測定(以下「先行技術2」という。)などが挙げられる。
先行技術1によれば、血液中のヘモグロビンに酸素が吸着した時および酸素を放出した時の近赤外吸収スペクトル変化を利用し、血液中の酸素濃度を測定する(非特許文献1参照)。すなわち近赤外吸収スペクトルにおいて酸素化(酸素分子が吸着した)ヘモグロビンは930[nm]に吸収ピークを持ち、ヘモグロビンが脱酸素化(酸素分子を放出する)すると760[nm]および905[nm]のそれぞれに吸収ピークが現れる。測定用光源(半導体レーザー)として780[nm]、805[nm]および830[nm]のそれぞれの光を頭部に照射し、透過光の強度変化を測定する。それにより、頭部表面より3〜4[cm]の深さの脳組織の信号が得られる。
ところで血液中の酸素濃度変化の測定は、上記の近赤外光を利用する以外に核磁気共鳴現象を使う方法がある。すなわち酸素分子の吸着時から放出時に変化すると、ヘモグロビン分子内の電子状態が変わって磁化率が変化しMRのT2緩和時間を短くする。
先行技術2によれば、この現象を利用して脳・神経系内で酸素の取り込み量が増加した場所(活性化領域)を予測する(非特許文献2および3参照)。そしてこの方法を利用すると、測定結果を計算機処理して頭部内の血液中酸素濃度分布を3次元に表示できる特徴がある。
一方生体内部の動的な生体活動を制御する方法として、薬物療法が知られている。
尾崎幸洋・河田聡編:近赤外分光法(学会出版センター,1996年)第4.6節 立花隆:脳を極める 脳研究最前線(朝日新聞社,2001年)p.197 渡辺雅彦編:脳神経科学入門講座 下巻(羊土社,2002年)p.188
しかし、先行技術1および2によれば、脳・神経細胞の活動状態測定の時間分解能および空間分解能が低い。
当該問題点の理解を容易にするため、まず始めに血液中の酸素濃度計測法が間接的測定であることを説明する。血液中の酸素濃度を計測する根底には、『脳・神経細胞が活性化すると、その活動エネルギー供給のためにヘモグロビンが脱酸素化されるはず』という暗黙の仮定がある。
しかし、B.Alberts他:Essential細胞生物学(南江堂, 1999年)の第4章で説明されているように、脳・神経細胞の活動エネルギーにはATP(Adenosine triphosphate)からADP(Adenosine diphosphate)への加水分解時に発生するエネルギーを利用する。
そして、脳・神経細胞の中に存在するミトコンドリア内で発生するアセチルCoAの酸化反応の中で前記ADPが生成される。さらに脳・神経細胞が血管に直接接している訳では無く、脳・神経細胞と血管との間に介在しているグリア細胞内などを経由して酸素分子が脳・神経細胞内へ伝達される。このように複雑な経路を経て酸素分子の伝達が脳・神経細胞内の活動に関係する。
したがって、血液中の酸素濃度が変化(低下)する現象は、脳・神経系内で同時期に多量の細胞が活性化されている局所領域周辺のみで発生すると考えられる。そのため例えば少数の脳・神経細胞が短期間だけ発火するなど、脳・神経系内での少数細胞の瞬時の変化を観測することは先行技術1および2では難しい。つまり同時期に多量の細胞が活性化されている局所領域しか検出できないので、原理的に空間分解能を高くすることは難しい。このように先行技術1および2は、脳・神経細胞の活動を直接観測するのでは無くあくまで間接測定なために測定精度が悪い。
(時間分解能について)
2010年5月3日に発行された日経エレクトロニクス(日経BP社)p.44の記事によると、脳・神経細胞の活動が活発になった5[s]位後に変化する血液中のヘモグロビン量を先行技術1により検出している。そのため先行技術1を用いた検出では、神経細胞の活動開始からの大幅な遅延が生じる。
また先行技術2によれば、BOLD(Blood Oxygenation Level Dependent)効果が利用されているために上記と同様な状況が発生する。BOLD効果とは、脳活動による神経細胞の活動増加はまず酸素消費の増加をもたらし、その結果脱酸素化ヘモグロビン濃度が微少に上昇し、その数秒遅れで始まる周辺部の毛細血管内での脳血流量の急激な増加は,消費を大きく上回る酸素量を供給するため,酸素化ヘモグロビン濃度を急激に増大させ,fMRI信号の増強とその緩和時間を長くする、という効果である。すなわち先行技術2でも脳活動による脳・神経細胞の活動開始から数秒遅れて生じる酸素化ヘモグロビン濃度の増大を検出するため、先行技術1と同様に検出に数秒の遅れが生じる。
したがって、血液中の酸素濃度を計測する限りは脳・神経細胞の活動開始に対する血液中のヘモグロビン量変化の遅延現象)のため、先行技術1および2のいずれも時間分解能は5[s]程度と非常に低い。
(空間分解能について)
先行技術1の空間分解能は、光源と頭部内部で透過した光の強度変化を測定する光検出器との間隔で決まる(2010年5月3日に発行された日経エレクトロニクス(日経BP社)のp.43に記載)。そして光源と光検出器との間隔が狭くなると、頭部の内部に対する測定光の侵入距離が浅くなる。
したがって、空間分解能を高めるために光源と光検出器との間隔を狭めると、頭部内部の脳・神経系の測定が不可能となる。前述したように頭部表面より3〜4[cm]深さの測定をする場合、光源と光検出器との間隔を約3[cm]離す事になり、空間分解能は3[cm]程度となる。
一方、先行技術2での空間分解能は、電磁波の回折理論から検出用交流磁界(電磁波)の波長で決まり、この検出用交流磁界の波長は加える直流磁界強度で決まる。仮に超伝導磁石を利用して直流磁界強度を上げても技術的限界があるため、空間分解能の理論的上限値が決まってしまう。前述の2010年5月3日に発行された日経エレクトロニクス(日経BP社)のp.42によると、最も空間分解能の高いfMRI装置でも空間分解能は数[mm]に止まると記載されている。
次に、先行技術1に関する生体内への侵入距離について説明する。人の肌の色を見れば明らかなように、可視光は生体表面で乱反射し易く生体内部へ侵入し辛い。前述した例では、780[nm]、805[nm]および830[nm]の光を測定光に用いている。この中で最も波長の長い830[nm]の光は近赤外光と言っても、可視領域に近いため同様に生体内部への侵入距離は短い。その結果、最も深い領域としても前述したように頭部表面から3〜4[cm]の深さの脳組織の状況しか測定できないという問題がある。
そこで本発明は、空間分解能および時間分解能の向上を図りながら生体の活動状態を測定することができる装置等を提供することを課題とする。
本発明の生体活動測定装置は、動物および植物を含む生体の活動状態を非侵襲で測定する生体活動測定装置であって、指定波長帯内に波長が含まれる電磁波を前記生体に対して照射するための発光部と、前記生体の内部における一または複数の細胞から構成される局所領域での前記電磁波に関する特性を検出する検出器を含み、前記生体の活動状態は前記局所領域内の前記細胞の活動に関係することを特徴とする。
本発明の光検出器は、動物および植物を含む生体の活動状態を測定する生体活動測定装置に使用される光検出器であって、前記生体の内部における一または複数の細胞から構成される局所領域での電磁波に関する特性を検出する検出器において、前記電磁波内の波長は指定波長帯内に含まれ、また前記電磁波は前記生体に対して照射され、前記生体の活動状態は前記局所領域内の前記細胞の活動に関係することを特徴とする。
本発明の生体活動測定装置等によれば、指定波長帯に波長が含まれる電磁波が生体に対して照射され、この生体内における局所領域での当該電磁波に関する特性またはその変化の検出が行われる。「指定波長帯」は、生体の活動状態あるいはその変化に関連して発生し得る局所領域内の特定の原子どうしで形成される振動モード間での遷移エネルギーまたは特定の化学シフト量を基準として定められている波長帯である。「局所領域」とは、一または複数の細胞から構成される領域である。
このため本発明によれば、生体の活動状態の変化に応じて迅速または著しく短時間で現出する電磁波に関連する特性が検出されうる。すなわち、時間分解能の向上を図りながら生体の活動状態を測定することができる。また本発明の実施形態として当該電磁波の集束特性を利用して微小な局所領域のみに当該電磁波を照射することで、生体活動の検出または測定の空間分解能が向上する。
脳・神経系における信号伝達経路の概念説明図。 軸索中の信号伝達方法を示す概念説明図。 発火時における神経細胞膜電位と筋細胞膜電位の変化状況を示す説明図。 静止時と発火時における神経細胞膜表面に集まる電荷分布のモデリング。 Clイオン付着前後でのPCLNの構造比較。 PCLNへのClイオン付着有無による吸光特性変化。 GD1aの吸収特性シミュレーションに用いた分子構造モデル説明図。 近赤外光領域での分光特性予測が可能な新規計算方法の流れ説明図。 外部電場中を移動する荷電粒子における外部電場方向と荷電粒子の移動方向間の関係説明図。 外部電磁波に応じて発生する逆対称伸縮振動を形成するC−H−Cl間の関係を表す位置ベクトルの説明図。 水素と炭素の原子核間距離の変化量とトータルエネルギー変化の関係。 水素と炭素の原子核間距離が変化した時の塩素イオン位置変化を示す説明図。 非調和振動に対応した波動関数|m>の分布特性図。 水素と炭素の原子核間距離変化と各原子核の実行電荷量変化の関係。 HOMOと最もエネルギー準位の低い分子軌道における電子分布特性説明図。 水素と炭素の原子核間距離による電気双極子モーメント値の変化。 細胞膜電位変化検出と血液中酸素濃度変化検出間の空間分解能の比較。 細胞膜電位変化検出と血液中酸素濃度変化検出間の時間分解能の比較。 細胞膜電位変化検出と血液中の酸素濃度変化検出間の検出精度比較説明図。 生体活動検出場所のモニター方法を示す第1の原理説明図。 生体活動検出場所の深さ方向でのパターンのモニター方法を示す第1の原理説明図。 生体表面の目印位置をモニターする方法を示す第2の原理説明図。 生体活動検出用光学系に関する第1の実施例の原理説明図(共焦系利用)。 生体活動検出用光学系に関する第1の実施例の動作原理説明図 生体活動検出用光学系の第1の実施例での液晶シャッターパターンと光検出セルの関係 生体活動検出用光学系の応用例に関する原理説明図。 生体活動検出用光学系の応用例における光検出器上の構造説明図。 生体活動検出用光学系の応用例に関する詳細な光学配置説明図。 生体内部での局所的な核磁気共鳴特性変化を高速で検出する方法を示す説明図。 核磁気共鳴特性変化の発生場所検出方法に関する説明図。 生体活動検出部内構造説明図。 生体活動検出部の他の実施例構造説明図。 生体活動検出回路の前段部内の構造説明図。 生体活動検出回路の後段部内の構造説明図。 生体活動検出信号送信部内の構造説明図。 生体活動検出信号の内容を示す概要説明図。 生体活動情報の一例(特定の測定項目に関する測定結果)を示す概要説明図。 生体活動解析に関係するデータベース構築例を示す説明図。 生体活動解析例を示す説明図。 生体活動解析の応用例を示す説明図。 顔の表情と情動反応の関係を示す説明図。 顔面の筋肉の動きから生体活動情報を得る方法の説明図。 生体活動情報に基づいて最適な処理/操作方法を選択する方法の説明図。 生体活動検出部を利用したネットワークシステム概要の説明図。 生体活動測定を利用したサービス方法の一例に関する全体説明図。 生体活動測定を利用したサービス内での起動処理内容の説明図。 本実施例におけるインターフェース対応方法の詳細説明図。 イベント情報付き生体活動検出信号の通信プロトコル説明図(1)。 イベント情報付き生体活動検出信号の通信プロトコル説明図(2)。 イベント情報付き生体活動情報の通信プロトコル説明図(1)。 イベント情報付き生体活動情報の通信プロトコル説明図(2)。 足先の痛みが脳に伝わるまでの信号伝達経路の検出例説明図。 脊柱管狭窄症患者の痛みが脳に伝わるまでの信号伝達経路の検出例説明図。 細胞膜電位変化と血液中の酸素濃度変化を同時に検出する応用例説明図。 生体活動検出時における生体活動検出用照射光の発光パターン説明図 本実施例/応用例における生体活動検出/制御に適正な波長範囲の説明図 酵素による触媒作用に関する量子化学的解釈の説明 ミオシンATPアーゼによるATP加水分解のメカニズム説明図 リシン残基の水素結合相手の違いにより吸収帯波長に変化が生じる理由の説明図 水素結合相手と非調和振動ポテンシャル特性の関係説明図 表情筋の動きに関する検出信号例の説明図 顔面上で収縮する表情筋の場所と表情の関係説明図 生体活動検出部における検出可能範囲と検出対象との配置関係説明図 本応用例における生体活動測定方法1の説明図 本応用例における生体活動測定方法2の説明図 本実施例における生体活動制御装置内の構造説明図 生体活動制御装置の応用例説明図 電圧依存性イオンチャネルのゲート開閉メカニズムと外部からの制御方法説明図 細胞内部での生体活動連鎖の状態説明図 錐体細胞内で記憶作用と忘却作用が発生するメカニズム・モデル 長期記憶形成と長期的な忘却に関する制御方法説明図 PKA内活性部で発生する燐酸化反応のメカニズム・モデル説明図
以下、この発明の一実施形態に係わる 生体活動測定方法、生体活動測定装置、生体活
動情報を利用したサービスおよび生体活動情報転送方法を説明する。まず始めに説明の全容を把握し易いように、以下の説明内容に関する目次を示す。
1〕脳・神経系の活動に関する概説
1.1)動物の脳・神経系システムにおける信号伝達経路
1.2)軸索中の信号伝達方法の説明
1.3)脳・神経系内での信号発生/伝達メカニズムと発火時の膜電位変化状況
2〕神経細胞の発火メカニズムモデル
2.1)細胞膜構造の特徴〔引用情報〕
2.2)神経細胞膜の発生電位に対する電磁気学的解釈
2.3)静止時と発火時における神経細胞膜表面に集まる電荷分布状態のモデリング
2.4)神経細胞膜内外でのイオン濃度分布特性〔引用情報〕
2.5)燐脂質分子構造と予想されるイオン付着場所との関係
2.6)発火時における神経細胞膜外側でのイオン脱着頻度予測
3〕神経細胞の発火モデルと赤外光領域での分光特性変化との関係
3.1)量子化学計算ソフトを用いたシミュレーション方法
3.2)−N(CH3)3部への塩素イオン付着モデルと発火時に発生する吸収帯予測
3.3)ガングリオシドGD1aへのナトリウムイオン脱着時における吸収帯変化予測
3.4)フォスファチジルセリンのカルボキシル基へのナトリウムイオン付着と吸収帯変化予測
3.5)燐脂質分子へのカリウムイオンが及ぼす吸収スペクトルへの影響
3.6)他に予想される発火モデルと吸収スペクトル変化への影響
3.7)発火時における赤外光領域での分光特性変化のまとめ
4〕神経細胞の発火モデルと近赤外光領域での分光特性変化との関係
4.1)近赤外光領域での分光特性予測の計算方法を新規に確立する意義
4.2)近赤外光領域での分光特性予測が可能な新規な計算方法の概説
4.3)基準振動方程式の導入
4.4)調和振動子の波動関数に関する関係式
4.5)吸収遷移確率の定式化
4.6)量子化学計算ソフトを用いたシミュレーション結果との組み合わせ
4.6.1)量子化学計算ソフトを用いたシミュレーション方法
4.6.2)ポテンシャル特性に関するシミュレーション結果
4.6.3)電気双極子モーメントに関するシミュレーション結果
4.6.4)吸収波長と吸収遷移確率の比率に関する理論的予測値
4.7)本実施例における検出可能範囲の検討
5〕神経細胞の発火モデルと核磁気共鳴での分光特性変化との関係
5.1)発火時に核磁気共鳴特性変化が予想される理由およびシミュレーション方法と計算結果
5.1.1)発火時に核磁気共鳴特性変化が予想される理由
5.1.2)量子化学計算ソフトを用いたシミュレーション方法
5.1.3)シミュレーション結果得られた化学シフト量
5.2)本実施例における測定可能範囲の検討
6〕本実施例における生体活動検出/制御方法と生体活動測定方法の技術的特徴
6.1)測定対象となる生体活動内容と生体活動検出/制御方法の特徴
6.1.1)本実施例では非常に多義に亘る生体活動を検出の対象とする
6.1.2)複数の検出手段が本実施例の生体活動検出方法に適用される
6.1.3)表皮近傍から非常に深い位置までの生体内部における生体活動を検出/制御対象とする
6.1.4)検出信号から生体活動情報の生成を行う
6.1.5)生体活動間の関連を利用し、比較的簡潔な検出信号から複雑な活動内容が予測可能
6.2)生体活動検出/制御場所の位置合わせと保持方法
6.2.1)被検出/制御点を含む断面画像を検出して検出位置を設定する方法
6.2.2)生体表面上の特定位置を検出して被検出点位置を予測設定する方法
6.3)生体活動検出用光電変換方法
6.3.1)共焦光学系の活用
6.3.2)結像光学系による空間的変化量または時間的変化量の抽出
6.3.3)核磁気共鳴特性の高速変化を検出する方法
6.3.4)隣接する他の生体活動検出系からの干渉を低減する方法
6.4)生体活動検出回路
6.4.1)生体活動検出部内構造
6.4.2)生体活動検出回路内構造
6.4.3)生体活動検出信号送信部内構造
6.5)生体活動測定方法
6.5.1)生体活動検出信号から得られる情報のまとめ
6.5.2)生体活動情報の内容
6.5.3)生体活動の解析方法
6.5.3.1)生体活動解析の特徴
6.5.3.2)生体活動の解析に関係するデータベースの構築例
6.5.3.3)データベース内に保存されるデータ内容
6.5.3.4)生体活動の解析とデータベースへのフィードバックに関する実施例
6.5.3.5)データベース内の生体活動検出信号を用いた生体活動解析の応用例
6.5.4)他の生体活動測定方法
7〕生体活動検出部を組み込んだ装置またはシステム
7.1)生体活動検出部を組み込んだ一体形装置
7.1.1)生体活動検出部を組み込んだ一体形装置の特徴
7.1.2)生体活動検出部と駆動部を組み合わせた一体形装置の実施例
7.1.3)生体活動検出部と表示部を組み合わせた一体形装置の実施例
7.1.4)生体活動情報に基づく最適な処理または操作方法の選択方法例
7.2)生体活動検出部を利用したネットワークシステムとビジネスモデル
7.2.1)生体活動検出部を利用したネットワークシステム全体の概要
7.2.2)ユーザ側フロントエンドの説明
7.2.2.1)ユーザ側フロントエンドの役割
7.2.2.2)ユーザ側フロントエンドの詳細な機能
7.2.2.3)生体検出系の組み込み形態例とそれを用いた応用例
7.2.3)伝心仲介業者(マインド・コミュニケーション・プロバイダ)の説明
7.2.3.1)伝心仲介業者(マインド・コミュニケーション・プロバイダ)の役割
7.2.3.2)生体活動情報を利用したインターネット・サービスを普及させる仕組み
7.2.3.3)伝心仲介業者(マインド・コミュニケーション・プロバイダ)のビジネスモデル
7.2.4)心のサービス会社(マインド・サービス・ディストリビュータ)の説明
7.2.4.1)心のサービス会社(マインド・サービス・ディストリビュータ)の役割
7.2.4.2)心のサービス会社(マインド・サービス・ディストリビュータ)のビジネスモデル
7.2.4.3)心のサービス会社(マインド・サービス・ディストリビュータ)のサービス例
8〕生体活動検出信号と生体活動情報の通信用プロトコル
8.1)生体活動検出信号と生体活動情報の通信用プロトコルに関する共通部分の特徴
8.2)生体活動検出信号の通信用プロトコル
8.3)生体活動情報の通信用プロトコル
8.4)Web APIに使用される新規コマンドの一例
9〕生命活動の検出または測定を用いた応用例
9.1)生命活動測定の応用例に関する特徴と新規実現可能な独自機能
9.2)生命活動の測定を用いた応用例の広がり
9.3)生体活動検出の医療用診断への応用例
9.3.1)生体内神経伝達経路の探索例
9.3.2)細胞膜電位変化検出と血液中酸素濃度変化検出を組み合わせた診断例
10〕生命活動の測定技術を使った悪用防止方法
10.1)本実施例対象技術使用時の注意点
10.2)転送信号/情報の暗号処理方法
10.3)その他の悪用防止方法
11〕生体活動検出/制御に関する他の応用例
11.1)骨格筋の収縮と弛緩状態を検出/制御する対象となる他の生体活動現象
11.2)酵素による生体内触媒作用の理解に関する基本的な考え方
11.3)ミオシン・ATPアーゼの動作メカニズム
11.4)生体活動検出/制御特性
11.5)生体活動検出方法の特徴
12〕生体活動の制御方法
12.1)生体活動の基本的な制御方法の概説
12.2)生体活動の制御に利用される基本原理の概説
12.3)イオンチャンネルの分子構造とゲート開閉制御方法
12.4)生体活動制御特性
12.5)神経細胞の発火抑制制御
13〕細胞内部での生体活動検出と制御
13.1)細胞内部での生体活動の概観
13.2)相反する生体活動に対する制御方法の考え方
13.3)錐体細胞内での記憶と忘却メカニズム・モデル
13.4)燐酸化酵素(キナーゼ)の反応過程
13.5)カルシニューリンの反応過程
13.6)細胞内部での生体活動検出特性と制御特性
1〕脳・神経系の活動に関する概説
1.1)動物の脳・神経系システムにおける信号伝達経路
まず図1を用いて動物の脳・神経系システムにおける信号伝達経路の概念を説明する。図1は、F. H. ネッター:ネッター医学図譜 脳・神経系I「構造と機能」(丸善
(株),2006年)第8章の記載内容を基に作成した。
神経細胞は概略的には神経細胞体1(黒丸参照)、軸索2(太線参照)およびシナプスボタン(シナプス小頭)3から構成され、神経細胞内では軸索2を経由して信号が伝達される。
外界からの情報の入力部として図1では感覚ニューロンの検出部(終末部)4のみを記載しているが、この部分に視覚、聴覚、味覚または臭覚などの検出部を置き換えてもよい。また脳・神経系システムの最終部では、神経筋接合部5を介して筋肉細胞6の収縮に繋がる。
脳・神経系システムでは、『信号伝達経路が並列回路を構成する』所に大きな特徴がある。
この並列回路の下層部では反射的神経伝達層9が形成され、例えば脊髄反射などの最も原始的な反射反応の処理を行っている。その上部層では例えば視床、小脳、または網様体などを含む神経伝達中継層8が構成されている。この神経伝達中継層8では外界からの情報の入力部(感覚ニューロンの検出部(終末部)4など)または筋肉細胞6と大脳皮質との間での信号伝達を中継するだけで無く、神経伝達中継層8内部でも簡単な情報処理を行う。そして高度な情報処理は中枢神経層(大脳皮質層)7が担う。
このように信号伝達経路が並列回路を構成する結果、中枢神経層(大脳皮質層)7が『意識』すること無く、無意識の間に比較的簡単な情報処理が実行できる。さらに神経筋結合部5を含めた反射的神経伝達層9での活動を観測するだけで、上位の神経伝達中継層8および中枢神経層7の活動をある程度は予測できる。
1.2)軸索中の信号伝達方法の説明
上記軸索2内を信号が伝達する仕組みについて図2を用いて説明する。
軸索2の周囲は髄鞘12に囲まれ、軸索2内部の軸索細胞質14が外側の細胞外液13から隔離されている。細胞外液13ではNaイオンおよびClイオンが多量に分布している。また軸索2が伸びる方向に沿い部分的に髄鞘12の厚みが薄くなったランビエ絞輪15が存在し、このランビエ絞輪15の所に電位依存性Naイオンチャネル11が多く配置されている。
通常の静止時(軸索2内を信号が伝達されない時)には図2の右側のように、電位依存性Naイオンチャネル11の蓋(ゲート)が閉まり、細胞外液13から軸索細胞質14内へのNaイオンの流入は阻止されている。またこのときには髄鞘12の外側(細胞外液13側)には正電荷が集まり、髄鞘12の内側(軸索細胞質14側)には負電荷が集まっている。その結果、軸索細胞質14内は『負電位』になっている。
このような髄鞘12の表面に集まった正負電荷の静電気力により、静止時には電位依存性Naイオンチャネル11の正電荷部(図2内の丸で囲まれた「+マーク」が記載された部分)が軸索細胞質14側に押し付けられている。ところでこの正電荷部には細胞外液13方向へ向かう非常に弱い力が働くと考える。
軸索2内を信号が伝達中に図2の左側で軸索細胞質14内が正電位に向かって上昇して髄鞘12の表面に集まった正負電荷量が減少すると、前記の弱い力が働いて電位依存性Naイオンチャネル11の正電荷部を細胞外液13方向へ移動させる。するとそれに連動して蓋(ゲート)が開き、細胞外液13から軸索細胞質14内へのNaイオンの流入が始まる。その結果として髄鞘12の外側(細胞外液13側)には負電荷が集まり髄鞘12の内側(軸索細胞質14側)には正電荷が集まり、軸索細胞質14内は一時的に『正電位』に変化する。このように軸索内の信号伝達方向16に沿って軸索細胞質14内の一時的に正電位になる領域が移動して、軸索内の信号が伝達される。
1.3)脳・神経系内での信号発生/伝達メカニズムと発火時の膜電位変化状況
1.3節では、図1に示した脳・神経系システムにおける信号発生メカニズムおよび神経細胞間の信号伝達メカニズムについて説明する。そしてその説明の一部として、発火時の神経細胞膜電位の変化状況を説明する。
図1の感覚ニューロンの検出部(終末部)4では、痛覚、温度覚、触覚、圧覚または運
動感覚などを検出する。図3が示すように、上記諸感覚を検出する前の静止時25における感覚ニューロンの終末部4の細胞膜電位20は、負電位である静止膜電位21になっている。そして 渡辺雅彦編:脳・神経科学入門講座 下(羊土社、2002年)p.112によると、痛みを引き起こす炎症または虚血が発生するとpHの低下が起こり、プロトン感受性カチオンチャネルの働きで細胞体内にNaイオンおよびCa2+イオンのうち少
なくとも一方が流入する。
このときに感覚ニューロンの終末部4では『脱分極』が生じ、細胞膜電位20は脱分極電位22まで上昇する。すると感覚ニューロンの検出部(終末部)4の細胞膜内に分布する電位依存性Naイオンチャネル11(図2参照)の蓋(ゲート)が開き、細胞外液13中に存在する多量のNaイオンが細胞体内に流入する。その結果、細胞膜電位20は神経細胞膜の電位変化26に示すように正電位である活動電位23まで上昇する。
感覚ニューロンの検出部(終末部)4で発生した活動電位23は、信号として1.2節で説明した仕組みで軸索2内を伝わる。
次にこの信号がシナプスボタン(シナプス小頭)3まで伝わると、このシナプスボタン(シナプス小頭)3と後ろ側の神経細胞体1または図示して無い樹状突起との間にあるシナプス隙間に神経伝達物質が放出される。するとこの神経伝達物質が、神経細胞体1または樹状突起表面に分布している伝達物質依存性Naイオンチャネル(Ligand−gated Naion channel)と結合する。
この後ろ側の神経細胞体1の表面にある神経細胞の細胞膜電位20は、図3に示すように静止時25には静止膜電位21になっている。この静止膜電位21は、通常−60[mV]から−80[mV]程度に保たれている。そして上記神経伝達物質が結合すると、伝達物質依存性Naイオンチャネルのゲートが開き、細胞外液13中のNaイオンが神経細胞の細胞質内に流入する。その結果、細胞膜電位20は−40[mV]前後の脱分極電位22まで上昇する。
このように脱分極電位22まで上昇すると、1.2節で説明した仕組みで電位依存性Naイオンチャネル11の蓋(ゲート)が開いて多量のNaイオンが流入して発火現象が起こる。そして発火時の細胞膜電位20は神経細胞膜の電位変化26に示すように、+20[mV]から+40[mV]程度の活動電位23まで上昇する。
一度活動電位23まで到達すると、電位依存性Naイオンチャネル11の蓋(ゲート)が閉じて静止膜電位21まで戻る。
この発火期間24は0.5[ms]から2[ms]程度の場合が最も多い。しかし神経細胞の種類により発火期間24に多少のばら付きがある。しかし発火期間24は4[ms]以下の場合が多い。したがって神経細胞における一般的な発火期間24は、0.5〜4[ms]の範囲と言える。
感覚ニューロンの検出部(終末部)4で発生した検出信号は、図1のように複雑な経路を経て最終的に神経筋接合部5に到達する場合が多い。静止時25での筋肉細胞6の細胞膜電位20を表す静止膜電位21は−80[mV]前後と言われている。神経筋接合部5が活性化されると、この神経筋接合部5と筋肉細胞6との間の隙間に神経伝達物質としてアセチルコリンが放出される場合が多い。
するとこのアセチルコリンが筋肉細胞6の筋細胞膜表面に分布する伝達物質依存性Naイオンチャネルおよび伝達物質依存性Kイオンチャネルと結合すると、これらのゲー
トが開きNaイオンおよびKイオンの筋細胞膜透過性が向上する。その結果、細胞膜電位20は筋細胞膜の電位変化27の曲線が示すように脱分極電位22まで上昇する。このときの脱分極電位22は、−15[mV]前後になると言われている。このように筋細胞膜の電位変化27が脱分極電位22に近付くと、筋肉細胞6内部で筋小胞体内のCa2
イオンが放出されて筋収縮が始まる。
2〕神経細胞の発火メカニズムモデル
2.1節と2.4節で従来の公知情報を最初に明示する。次に従来から知られている発火現象に対する電磁気学的な解釈を2.2節で説明した後、2.3節と2.5節で1個の神経細胞内で起こる発火のメカニズムモデルを新たに提案する。ここで説明する神経細胞の発火モデルは2.3節で提案する電荷分布状態モデルの考え方を基本に置いている。
2.1)細胞膜構造の特徴〔引用情報〕
まず細胞膜構造の特徴を説明する。
神経細胞を含めた一般の細胞膜は主に『燐脂質』『糖脂質』『コレステロール』および『膜蛋白分子』から構成されている。イオンチャンネルは、膜蛋白分子に含まれる。燐脂質、糖脂質およびコレステロールは細胞膜内で脂質二重層を形成し、この脂質二重層における外側の層および内側(細胞質側)の層に含まれる分子の種類が異なる非対称的分布を示す。この脂質二重層内での燐脂質および糖脂質の分布例を図4(a)に示す。
当該脂質二重層の外側の層には燐脂質のPhosphatidylcholine(PCLN:フォスファチジルコリン)、Sphingomyelin(SMLN:スフィンゴミエリン)および糖脂質が多く含まれている。これに対して、当該脂質二重層の内側(細胞質側)の層にはPhosphatidylserine(PSRN:フォスファチジルセリン)、Phosphatidylethanolamine(PEAM:フォスファチジルエタノールアミン)およびPhosphatidylinositol(PINT:フォスファチジルイノシトール)が多く含まれている(但しPINTの含有量は比較的少ない)。
図4に示した二重線は『脂肪酸尾部』を表し、これは脂質二重層内で互いに内側を向いて配置されている。
ところで脂質二重層内には、多くの種類の糖脂質が含まれる。その糖脂質の中で特に負電荷を持つGanglioside(ガングリオシド)の含有量が多く、神経細胞の細胞膜ではGangliosideが全脂質重量の5〜10%を占めると言われている。したがって本実施例ではGangliosideを糖脂質の代表分子として扱う。また、哺乳類の神経細胞内には最もGanglioside type D1a(GD1a)の含有量が多いことが報告されている(H. Rahmann 他:Trends in Glycoscience and Glycotechnology Vol.10, No.56(1998)p.423参照)。したがって今後は、GangliosideとしてGD1aを代表例に取って説明を進める。しかしそれに限らず、あらゆる糖脂質に関しても今後の説明内容が適応される。
2.2)神経細胞膜の発生電位に対する電磁気学的解釈
細胞質内は静止時に負電位を持つが、発火時に正電位まで電位が逆転する。そしてこの発火時には神経細胞膜の内側(細胞質側)表面上に正電荷が集まることが知られている(
B.Alberts他:細胞の分子生物学 第4版(Newton Press,2007年)第10章参照)。ところで脂質二重層の電気抵抗は100[GΩ]以上(菅原正雄:バイオニクス Vol.3,No.7(2006) p.38参照)と非常に大きいので
、上記電位変化時には脂質二重層が静電容量として働く。
電磁気学の静電容量理論によると、発火時には脂質二重層を挟んで内側(細胞質側)に一時的に正電荷が集まるが、同時に脂質二重層の外側にも総量の絶対値が等しい負電荷が一時的に集まると予想される。
脂質二重層の静電容量Cは1.0[μFcm]前後となっている(菅原正雄:バイオニクス Vol.3,No.7(2006)p.39参照)。
2.3)静止時と発火時における神経細胞膜表面に集まる電荷分布状態のモデリング
2.2節で説明した電磁気学的な解釈内容を2.1節で示した脂質二重層構造に適応して得られる神経細胞膜表面上の電荷分布状態モデルについて説明する。
表1には、発火時におけるPCLN、SMLN、GD1a、PSRN、PEAMおよびPINTそれぞれの細胞膜の外内でのイオンが付着可能な場所および離脱可能な場所が示されている。
PSRNには水中で>PO2 (燐酸部PO の一部)と−CO2 の負極性になる2領域(官能基)およびNH3 の正極性になる1領域(官能基)が含まれる。したがって
、PSRNはトータルとして水中で負電荷に帯電し易い。その結果、>PO2 、−CO2 およびNH3 の各領域から構成される負電荷領域(図4内の丸で囲まれたマイナス記
号部)が形成され易い。
また、PINTは、水中で>PO の負極性になる領域を1箇所持っている。そのため、PINTも水中で負電荷に帯電し易く、>PO のみから構成される負電荷領域が
形成され易い。
このように神経細胞膜の細胞質側(内側)で静止時に負電荷領域が形成される(図4(a))と、その静電気的な吸引力によって脂質二重層の外側に正電荷が集まり、PCLNまたはSMLNの極性を持った頭部に正電荷領域(図4内の丸で囲まれたプラス記号部)が形成されると考えられる。
次に発火時に神経細胞膜の内側(細胞質側)表面上に正電荷が集まると、図4(b)のようにPEAMあるいはPSRNの極性を持った頭部で正電荷領域が形成される。そのときには神経細胞膜の外側でPCLNまたはSMLN頭部だけで無く、GD1aにも負電荷領域が形成され得ると予想される。
つまり、神経細胞膜表面上で可逆的に負電荷領域および正電荷領域が形成されて神経細胞膜電位が変化すると考えられる。
2.4)神経細胞膜内外でのイオン濃度分布特性〔引用情報〕
神経細胞膜表面上での可逆的な負電荷領域と正電荷領域の形成を担う具体的な媒体(キャリア)について検討する。
表2には、B.Alberts他:細胞の分子生物学 第4版(Newton Press,2007年)第11章内の表11−1に記載された一般的な哺乳類細胞内外のイオン濃度の値が示されている。
この表に拠ると、神経細胞膜の外側ではNaイオンおよびClイオンの濃度が高く、細胞質側ではKイオンの濃度が高い。また、1.2節で説明したように、発火時には外側から細胞質内にNaが流入する。
以上から前記正/負電荷領域の形成を担う媒体(キャリア)として、(1)神経細胞膜の外側表面でのNaイオンまたはClイオンの脱着、および(2)神経細胞膜の細胞質側表面でのKイオンまたはNaイオンの脱着、が考えられる。
ここで水中のH+イオン(ヒドロニウムイオン)またはOHイオンは、上記媒体(キ
ャリア)の候補として否定はできない。しかし、これらの濃度が非常に低い(表2参照)ので、これらのイオンの発火現象への影響は小さいと思われる。
2.5)燐脂質分子構造と予想されるイオン付着場所との関係
2.3節で説明した電荷分布状態モデルにおいて、神経細胞膜表面上での正/負電荷領域の具体的な形態とそれが形成される詳細な場所について2.4節の検討結果とを利用して考察する。
静止時に細胞質側で負電荷領域が形成されると、その静電気力で引き寄せられたNaイオンがPCLNまたはSMLN内の>PO2 領域との間でイオン結合した中性の塩>
PO Naに近い状態を部分的に形成する可能性がある。その結果、>PO NaおよびN(CHが正電荷領域を構成すると考えられる。
一方、表1が示すようにGD1aは水中で負極性になる領域(官能基)として−CO しか持たない。そのため静止時には、GD1aの頭部ではNaイオンとの間でイオン結合した中性塩-CO Naに近い状態が少なくとも部分的には形成されていると予
想される。GD1aは水中で正極性になる領域(官能基)を持たないので、GD1aの頭部では正電荷領域が形成される可能性は低いと思われる。
次に、発火時にはPEAM、PSRNおよびPINTのそれぞれにおける>PO2
域およびPSRN内の−CO2 領域との間でNaイオンまたはKイオンがイオン結
合した中性の塩に近い状態が部分的に構成される可能性がある。そして水中で負極性になる前記領域が電気的に中和されると、それらと PEAMまたはPSRN内の水中で正極
性になる領域−NH3 との組み合わせで正電荷領域を構成すると考えられる。
すると細胞質側で形成される上記正電荷領域からの静電気的斥力により、PCLNまたはSMLN内の中性塩>PO2 Naに近い状態とGD1a内の中性塩-CO Naに近い状態からNaイオンが離脱し易くなる。そして、Naイオンが離脱すると、GD1a内に残された−CO の領域は単体で負電荷領域を構成する。
また、さらに細胞質側の正電荷領域による静電気的引力で引き寄せられたClイオンは、PCLNまたはSMLN内の水中で正極性になる領域−N(CHとの間でイオン結合または水素結合した中性塩−N(CHClに近い状態を部分的に形成する可能性がある。その結果、PCLNまたはSMLN内において−N(CHClおよび>PO から負電荷領域を構成すると予想される。
一方、負電荷領域を形成しないが、PCLNまたはSMLN内の中性塩に近い状態>PO NaからのNaイオンの離脱前にClイオンが付着して−N(CHClの状態を形成し、全体として電気的に中性となる状況も起こり得る。
上記は神経細胞の細胞体内での発火現象を例に取って説明した。しかし、例えば図1に示した神経細胞の軸索2内の信号伝達または神経筋接合部5における筋収縮信号伝達においても、前述した電荷分布状態モデルが適用できると考えられる。
軸索2表面は、図2で説明したように、神経細胞膜よりも遙かに厚い髄鞘12で覆われている。電磁気学の静電容量理論によると静電容量の容量Cは厚みに反比例するので、軸索2内を信号伝達する時に移動するイオンの量に比例して検出信号量も非常に微弱となる。しかし後述する検出方法の工夫により、軸索2内の信号伝搬状況の測定も可能となる。
また神経筋接合部で筋収縮信号が伝達されると、筋細胞膜の膜電位が変化することも知られている(ネッター:医学図譜 脳・神経系I「構造と機能」(丸善,2006年)p
.162参照)。
したがって本実施例は神経細胞体1内での発火の測定に限らず、軸索2内の信号伝達特性の測定および神経筋接合部5の信号伝達に基づく筋肉細胞6の収縮状態に関する測定にも応用できる。
2.6)発火時における神経細胞膜外側でのイオン脱着頻度予測
2.5節での考察結果によると、神経細胞膜外側における発火時の特徴的な変化として、
A〕GD1a内の-CO Na状態からのNaイオンの離脱および
B〕PCLNまたはSMLNにClイオンが付着して−N(CHClの状態が生じる
ことが予想される。
両者の出現頻度に関しては、下記の理由から−N(CHCl状態が形成される確率が比較的高いと考えられる。
(1)-CO Na状態を形成するイオン結合の結合力は相対的に強いので、短時間
ではNaイオンが離脱し辛い。そのためNaイオンの離脱速度は、発火開始時の高速な電位変化に応答し難い。
(2)神経細胞膜外側のNaイオン濃度が高いので(表2参照)、GD1aからNaイオンが実質的に離脱する確率が低下する(一時的にNaイオンが離脱しても再結合し易い)。
(3)GD1aに付着していたNaイオンは、CO Na状態から離脱しても周囲の水分子から構成される籠効果(Cage Effectについてはムーア:物理化学 第4版(東京化学同人,1974年)第9章 第3.8節参照)で、しばらく-CO
領域の近傍に滞在する。この近接状態は電気的に中性なため、負電荷領域の形成には至ら無い。後に静電気的斥力の作用でNaイオンが神経細胞膜表面から離れて負電荷領域が形成されるが、その前にClイオンのPCLNおよびSMLNへの付着が起こり易い。(また発火時に>PO Na状態(表1参照 )からNaイオンが離脱しても、同
様に籠効果が起こると予想される。)
(4)静止時には神経細胞膜の外側表面での多量な正電荷領域の存在が予想される。また表1から、この正電荷領域では−N(CH部分が(他のイオンが付着せずに)露出していると考えられる。したがって発火すると、多数露出していた−N(CH部にClイオンが付着し易い。
(5)中性塩−N(CHClの形成時は、−N(CHを構成する9個の水素原子どれともClイオンがイオン結合または水素結合することができる。したがってClイオンの付着可能な表面積が非常に広い。
(6)神経細胞膜外側のClイオン濃度が高いので(表2参照)、発火時には容易にClイオンが神経細胞膜表面に付着できる。
3〕神経細胞の発火モデルと赤外光領域での分光特性変化との関係
2章で提案した神経細胞の発火モデルを利用し、発火時での赤外光領域における分光特性の変化に関して量子化学計算ソフトを用いてシミュレーション予測を行ったので、その結果を説明する。
3.1)量子化学計算ソフトを用いたシミュレーション方法
量子化学計算ソフトとして、富士通社から発売されているSCIGRESS MO Compact Version 1 Pro(「SCIGRESS」は登録商標)を使用した。この量子化学計算ソフトでは、分子軌道解析に半経験的分子軌道法を採用している所に特徴がある。赤外光領域での分光特性の計算には計算機シミュレーションを2段階に分け、最初に分子構造の最適化を行った後に振動モード解析を行って計算精度を高めた。
構造最適化用のキーワードには「PM3 EF PRECISE EPS=78.4 GNORM=0.00001 LET DDMIN=0.00001 PULAY SA
FE SHIFT=1.00」を設定し、また振動モード解析用のキーワードには「FORCE ISOTOPE EPS=78.4 PM3」を設定した。ここで前記キーワードの簡単な説明を行う。自然界では全体のエネルギーが最小値を取るように、分子を構成する各原子の配置が定まる。そのため最初に水中での(EPS=78.4)分子構造の最適化(EF)を行い、実際の原子配置を予測した。ここでエネルギー値の計算に(A2)式(4.3節)を直接利用すると、膨大な計算時間が掛かる。それで“PM3”と呼ばれる近似法を採用して、計算時間を大幅に短縮させた。そして「FORCE ISOTOPE」により振動モード解析が実行される。他に上記のキーワード設定により計算の収束性と精度を高めた。
計算機シミュレーション結果のまとめを表3に示す。また個々の計算結果について下記に説明する。
3.2)−N(CH部への塩素イオン付着モデルと発火時に発生する吸収帯予測
PCLNへのClイオン付着時の分光特性変化に関する計算結果を説明する。
シミュレーションには化学式1で表わされる分子構造を用いた。
このときの最適化後の構造を図5に示す。図5(a)は、Clイオンが付着した後の状態を、そして、図5(b)はClイオンが付着する前の状態を示している。シミュレーションに用いた分子構造モデルでは、図5(a)に示すように、燐原子Pから最も離れた位置に存在する水素原子Hに隣接させてClイオンを配置した。したがってこのClイオンは、燐原子Pから最も離れた位置の水素原子Hとイオン結合または水素結合をすることになる。−N(CHを構成する9個の中でどの水素原子に隣接してCl
イオンを配置してもよい。
上記の分子構造モデルで計算した吸収スペクトルとして予想される測定データを図6に示す。ここで吸収スペクトル装置の分解能を5[cm−1]に設定して計算を行った。図6の上側がClイオン付着時の吸収スペクトルを示し、下側はClイオンが付着する前のPCLN単体での吸収スペクトルを表す。この上下の吸収スペクトルを比較すると、上側(Clイオン付着時)のみに顕著な吸収帯(矢印で示した部分)が現れている。
この吸収帯の波数は2480[cm−1]、相対的な吸収強度は41.0だった(表3参照)。
次に、SMLNの−N(CH領域にClイオンが付着してイオン結合または水素結合した場合の吸収スペクトル変化に関し、同様にシミュレーションを行った。その結果、Clイオン付着時に現れる吸収帯の波数は2450[cm−1]、相対的な吸収強度は41.0だった。以上から、PCLNおよびSMLNは共に類似した場所に同じ吸収帯が現れることが計算上で確認できた。
Clイオンの付着時に図6に示すような強度が大きな吸収帯が現れる理由を考察する。
表4にClイオンの付着前後での各原子核の実効電荷量変化を示す。
ここで実効電荷量の比較対象となるPCLN内での炭素原子核Cと水素原子核Hの位置は、図5内でCおよびHの記号を記載した場所に相当し、上記の吸収帯に対応したC−H−Cl間逆対称伸縮振動を構成する各原子核を意味する。また、この実効電荷量は、Mullikenの電子数解析結果に基づいて計算した(原田義也:量子化学 下巻(裳華
房、2007年)p.163参照)。
Clイオンが水素原子核Hの近傍に付着してイオン結合または水素結合すると、水素原子核Hの実効電荷量が顕著に増加すると共に 炭素原子核Cの実効電荷量が大幅に減少
する状況を表4は示している。この現象はClイオンの付着により、(1)塩素元素の電気陰性度が水素元素よりも高いため、水素原子核H周辺の電子密度が低下すること、および(2)塩素イオン周辺の余剰電子密度の一部が、炭素原子核Cの周辺に移動するという分子軌道上の変化が原因と考えられる(詳細は4.6.3節で後述する)。
こうして水素原子核Hおよび炭素原子核Cの実効電荷量の変化により、C−H−Cl間逆対称伸縮振動に対応した電気双極子モーメントμの値が増加し、吸収帯強度が増大したと考えられる。
3.3)GD1aへのナトリウムイオン脱着時における吸収帯変化予測
GD1aの-CO 領域にNaイオンが付着した時に発生する吸収帯について、量
子化学計算ソフトを用いたシミュレーションを行った。その結果を以下に説明する。GD1aは複雑な分子構造を持つ。したがって分子構造全体を設定する代わりに、GD1aの
一部を抜粋した分子構造(図7)を用いてシミュレーションした。
Naイオンが付着してイオン結合した時は、-CO Naの骨格部振動に対応し
て波数260〜291[cm−1]の範囲内に複数の吸収帯が現れ、これらの相対的吸収強度範囲は3.50〜7.62だった。その結果これらの平均値は、波数が276[cm−1]、相対的吸収強度が5.24となる(表3参照)。またGD1aに限らず、同じ構造体を持つあらゆる糖脂質に関しても同様な結果が得られると予想される。
3.4)PSRNのカルボキシル基へのナトリウムイオン付着と吸収帯変化予測
PSRNのカルボキシル基−CO にNaイオンが付着した時の分光特性変化に関する計算結果を説明する。上記の分子構造に関して構造最適化を行った結果、カルボキシル基−CO を構成する2個の酸素原子核と等間隔の位置にNaイオンが配置された時が分子全体のエネルギーが最小になることが分かった。またこのときには−C−CO Naの骨格部振動に対応した吸収帯が発生し、その吸収帯の波数は429[cm−1]、相対的吸収強度は20.3だった(表3参照)。
なお、カルボキシル基にNaイオンが付着して−CO Naを構成する部分は同じでも、本節で説明する吸収帯と3.3節で説明した吸収帯では波数と相対的吸収強度が若干異なっている。これはカルボキシル基が直接結合する炭素原子の他の原子との結合状態の違いに拠ると考えられる。つまりGD1aではカルボキシル基が直接結合する炭素原子がベンゼン環の一部を構成している(図7参照)のに対し、PSRNでは対応する炭素原子がアミノ酸の一部を構成している違いがある。
3.5)燐脂質分子へのカリウムイオンが及ぼす吸収スペクトルへの影響
まず始めに、PSRNのカルボキシル基−CO にKイオンが付着した時の分光特性変化に関する計算結果を説明する。
シミュレーションには化学式2で表わされる分子構造を用いた。
カルボキシル基−CO にNaイオンが付着した時の最適化後の分子構造では、2
個の酸素原子核と等間隔の位置にNaイオンが配置されていた(3.4節)。これに比べると今回の最適化後の分子構造では、片方の酸素原子核のみの近傍位置にKイオンが配置されていた。この違いは、Kイオンのイオン半径が大きいためと考えられる。
このとき、−C−CO の骨格部振動に対応した吸収帯が発生し、その吸収帯の波数は118[cm−1]、相対的吸収強度は2.89だった(表3参照)。
また、Kイオン付着による吸収スペクトルへの影響の大きな特徴として、カルボキシル基単体の対称伸縮振動モードに対応し、1570[cm−1]近傍の波数値を持つ吸収
帯の相対的吸収強度が98.0から15.2へと激減する様子をシミュレーション結果が示している。これはカルボキシル基内の片方の酸素原子核近傍に配置されたKイオンが、カルボキシル基の対称伸縮振動を阻害するためと考えられる。
表3内の数値比較で分かるように、Kイオン付着により発生する吸収帯の相対的吸収強度は非常に小さい。これは、Kイオンのイオン半径がNaイオンより大きいことが原因と思われる。
この傾向はKイオンを燐脂質内の>PO 領域(燐酸部PO の一部)に付着させた場合にさらに顕著に現れ、目立った吸収帯の発生は見られなかった。
3.6)他に予想される発火モデルと吸収スペクトル変化への影響
表1および2.5節が示すように、発火時には燐脂質内の>PO 領域(燐酸部PO の一部)へのNaイオンの脱着作用が、神経細胞膜内外で同時に起こり得ると予想される。したがって、仮に>PO 領域へのNaイオン付着により顕著な吸収帯が現れたとしても、その吸収帯強度の変化で発火を検出するのは難しいと考えられる。
またシミュレーションの結果では、どの燐脂質内の>PO 領域へNaイオンを付着させても顕著な吸収スペクトル変化は見られなかった。
3.7)発火時における赤外光領域での分光特性変化のまとめ
表3および3.5節を用いて以上の計算結果をまとめると、発火時には赤外光領域では、(1)波数値2480[cm−1]、429[cm−1]、および118[cm−1]近傍での吸収帯強度の増加、および(2)波数値1570[cm−1]と276[cm−1]近傍での吸収帯強度の減少が起こり得ると考えられる。
4〕神経細胞の発火モデルと近赤外光領域での分光特性変化との関係
4.1)近赤外光領域での分光特性予測の計算方法を新規に確立する意義
一般に吸収波長800〜2500[nm]範囲の電磁波を近赤外光と呼ぶ。分子軌道法を利用した多くの量子化学計算ソフトでは、原子核間の振動解析による基準振動モードの抽出から得られる赤外領域での吸収スペクトルの理論予測が可能である。それに反して既存の量子化学計算ソフトでは、基準振動の結合音および倍音あるいはそれより高次の振動モードへの励起によって生じる近赤外吸収のスペクトル計算は難しい。筆者が知る限りでは、唯一Gaussian 09における振動解析内でのAnharmonicコマンドにより倍音および結合音の吸収波長の計算予測ができる。しかしこの計算でも、吸収帯の強度予測値は得られない。また高次の振動モードへの励起によって生じる吸収帯の波長を知るには、この計算結果からのユーザによる換算計算が必要となり煩雑さは否めない。以上の理由から現状では、例えば3.1節の発火モデルによる近赤外光域での吸収スペクトル変化の計算予測は非常に難しい。
一方、近赤外領域の光は生体透過性を持つため「生体の窓」と呼ばれている(2010年5月3日発行の日経エレクトロニクス(日経BP社)p.43)。したがって近赤外光を用いると、比較的安価な装置で動的な生体活動を非接触(非侵襲)に生きたままの状態で測定できるメリットがある。
上記の状況から、近赤外光領域での吸収スペクトルが予測可能な計算方法を新規提案で
きれば、動的な生体活動が及ぼす近赤外光領域での吸収スペクトル変化への影響を理論的に予測できる。さらに生体内透過性を有する近赤外光を生体の外部から照射することで、生体内部での活動状況を外部から直接測定できる可能性とその測定感度を理論的かつ定量的に初めて予測評価できる。
4.2)近赤外光領域での分光特性予測が可能な新規な計算方法の概説
新たに提案する近赤外領域での吸収スペクトルに対する理論的計算方法には、下記の特徴がある。すなわち
(1)量子力学をベースとしてSchrodinger方程式から摂動論を用いてn倍音
に対する吸収波長とEinsteinの吸収遷移確率を示す関係式を導く
(2)上記関係式を利用するために必要な電気双極子モーメントμの特性とポテンシャル特性を、既存の量子化学計算ソフトによる計算機シミュレーションで算出する
(3)上記計算式と計算機シミュレーション結果を組み合わせてn倍音の吸収帯に対する波長と吸収強度を算出する。
図8を用いて、本実施例における計算方法の概説を行う。
まず対象とする高分子構造に対し、既存の量子化学計算ソフトを利用した計算機シミュレーションによる振動解析計算を行う。そしてその振動解析結果を分析して特定の基準振動に最も関与する場所を抽出する(S3)。ここでこの量子化学計算ソフト上では、基準振動は調和振動として扱われている。
それと平行して量子力学をベースとした関係式の導入を行う。すなわち、対象となる高分子が外部電磁波と相互作用を行う時の高分子全体に関するSchrodinger方程
式を立てる(S1)。
次にBorn−Oppenheimer近似を利用して、高分子内の原子核間の関係のみを表す方程式部分の抽出を行う(S2)。
さらに変数分離法を利用し、ステップ3(S3)で抽出された特定の基準振動に最も関与する原子核間の関係式部分のみを抽出する(S4)。このステップ4において、高分子中で抽出した原子核以外の他原子核の影響をポテンシャル項に繰り込む。
一方既存の量子化学計算ソフトを利用し、ステップ3で抽出された特定の基準振動に最も関与する原子核間の最適な位置からのずれ量のみを固定して高分子の構造最適化を行い、このときの高分子全体のエネルギー変化量をシミュレーションする(S6)。
そして本計算方法ではこの全体のエネルギー変化量がステップ4で抽出されたポテンシャル項に対応すると仮定する。この繰り込み操作により、「量子力学をベースとした関係式の導入処理」と「計算機シミュレーションをベースとした特性解析」とが互いに関連性を持つようになる。
そして上記仮定に基づき、量子化学計算ソフトを用いた計算機シミュレーションによりステップ4で導入した関係式内に含まれるポテンシャル特性値(S6)と電気双極子モーメント特性(S10)を計算する。
ところでステップ4により抽出された関係式内のポテンシャル項には、近似的に4次までの係数κ(非調和項)が含まれている。したがって3次以降の係数値が「0」の時に得られる調和振動の解を基底関数とし、時間に依存しない摂動論を用いて非調和振動に対
する波動関数を導く(S5)。さらにその波動関数のエネルギー固有値間の差分値から、近赤外領域の吸収帯の波長を算出する(S7)。
次に上記非調和振動に対応した波動関数を利用し、時間に依存する摂動論を用いて各非調和振動モードに対応した振幅の時間変化量に関する連立方程式を立てる(S8)。その後、その連立方程式を解いてEinsteinの吸収遷移確率を表す関係式を算出する(S9)。そしてその吸収遷移確率から、各吸収帯間の光吸収量の比率が求まる(S11)。
ここで具体的なn倍音の吸収帯に対する波長と吸収強度の値は、量子力学をベースとしてステップ7とステップ11で導入した関係式内に計算機シミュレーションの結果得られたポテンシャル特性(S6)と電気双極子モーメント特性(S10)を代入して得られる。
計算方法では、化学結合している炭素原子核と水素原子核そしてその水素原子核近傍に付着してイオン結合または水素結合している塩素イオンとの間の非調和な逆対称伸縮振動モード間の遷移を計算して、n倍音の吸収波長と吸収遷移確率を算出する。
非調和な変角振動モード(炭素原子核と水素原子核間の結合方向に対して直交する方向に水素原子核が振動した場合の振動モード)に対応した波動関数と前記逆対称伸縮振動モードに対応した波動関数との積を複合振動モードとして表す関数に設定すると、(a)変角振動モード間の遷移で生じるn倍音の吸収波長と吸収遷移確率および(b)非調和な逆対称伸縮振動モードと非調和な変角振動モードとの組み合わせで生じる結合音の吸収波長と吸収遷移確率も求められる。
4.3)基準振動方程式の導入
まず始めに、図8のステップ1に示した、外部電磁波と相互作用を行う高分子に関するSchrodinger方程式の記述を行う。
図9に示すように、電荷量Qを持つ荷電粒子がX軸上に配置された場合を考える。ここでX軸上の単位ベクトルをeとする。外部電場Ee−i2πνtに逆らって荷電粒子をX軸方向にXだけ移動させた時の仕事量は(A1)式となる。
ここで(E・X)は、ベクトルEとXとの内積を表す。また、ムーア:物理化学(下)(東京化学同人,1974年)p.763を参照すると、外部電磁波と相互作用を表す摂動項は(A1)式で与えられることが分かる。ところで(A1)式には外部電磁波内の磁場との相互作用項が含まれてないが、その項は充分に無視できると原田義也:量子化学 上巻(裳華房,2007年)p.190に記載されている。
対象となる高分子である「塩素イオンが付着したPCLNまたはSMLN」が外部電磁波中に置かれた時のSchrodinger方程式は(A1)式を利用して(A2)〜(
A5)式で与えられる。
但し、h_barは[プランク定数]/2π(ディラック定数)を意味し、eは電気素
量、meは電子の質量を表す。また、N:高分子中に含まれる原子核数、n:高分子中に
含まれる電子数、t:時間、Ma:a番目の原子核の質量、Ra:a番目の原子核の3次元座標、Qa:a番目の原子核の実効電荷(原子核周辺電子によるシールド効果も加味した
Mullikenの電子数解析結果に基づく電荷量)(Mullikenの電子数解析は、原田義也:量子化学 下巻(裳華房,2007年)p.163参照)、ri:i番目の
電子の3次元座標、σi:i番目の電子のスピン座標 をそれぞれ表している。
次に、図8のステップ2で示したBorn−Oppenheimer近似を用いた原子核間の関係のみを示す方程式の抽出を行う。まず 原田義也:量子化学 下巻(裳華房,2007年)p.33に記載されているBorn−Oppenheimer近似を適応させて、(A2)式を満足する波動関数が(A6)式のように近似できると仮定する。
この(A6)式を(A2)式に代入して式の変形を行うと、(A7)式のようにΨnuclのみの式とΨelのみの式に分離できる。
両者の等号で結ばれた値を(A7)式に示すようにW(R,・・,R,t)で表すと、(A7)式から Ψnuclのみが含まれる式として原子核間の関係を示す方程式(A8)が
得られる。
(A8)式において、最適化された電子軌道の影響はW(R,・・,R,t) に集約
される。
さらに図8のステップ4にしたがって、(A8)式から外部電磁波と相互作用を行う特定の基準振動部に対する関係式部分の抽出を行う。これに先立ち、量子化学計算ソフトを用いた計算機シミュレーションによる振動解析結果から特定の基準振動部分の抽出(図8のS3)を事前に行う。既に3.2節で説明したように、PCLNまたはSMLN内のコリン部に塩素イオンが付着してイオン結合または水素結合が発生すると主に『炭素原子核−水素原子核−塩素イオン』との間に逆対称伸縮振動が発生し、これが1個の独立した基準振動を形成する。計算機シミュレーションの結果、この逆対称伸縮振動に関する古典力学的振動の挙動として
〔A〕(質量が相対的に大きいため)塩素イオンの移動量は非常に小さい
〔B〕炭素原子核と水素原子核間の振動方向は、両者間の結合方向とほぼ平行関係にある〔C〕この逆対称伸縮振動では、(質量が最も小さい)水素原子核の移動量が最も大きいの特徴を持つことが分かった。この〔A〕から〔C〕の特徴を反映させ、(A8)式からこの逆対称伸縮振動に関係する方程式を抽出する。
図10に示す位置に逆対称伸縮振動に関与する炭素原子核と水素原子核、塩素イオンが配置されている場合を考える。今PCLNまたはSMLNの重心位置を基準とした炭素原子核と水素原子核の位置ベクトルと質量を R 、R 、M、M とし、両者の重心位置の位置ベクトルを RCH で表わすと(A9)式で表わされる関係が成り立つ。
(A10)式のようにXを定義する。
(A9)式および(A10)式を利用して(A11)式のようにXを定義するとともに、(A12)式のようにXを定義する。
次に上記(A11)式および(A12)式を利用し、前記炭素原子核と水素原子核のペアで構成される電気双極子モーメントμを(A13)式で表わす。
前述したように、QおよびQは周辺電子によるシールド効果も加味しMullikenの電子数解析結果に基づく水素原子核と炭素原子核位置での実効電荷量を表している。すると(A3)式の右辺第3項内に記述される前記水素/炭素原子核と外部電磁波との相互作用項は、(A13)式を利用して(A14)式のように変形できる。
また同様に(A11)式および(A12)式を利用すると、古典力学における前記水素原子核と炭素原子核の運動エネルギーの総和は(A15)式および(A16)式のように変形できる。
ここでMxは、水素原子核と炭素原子核間の相対運動に関する換算質量を表す。したが
って 原田義也:量子化学 下巻(裳華房,2007年)p.405の記載内容に沿って
(A15)式と(A16)式との関係を利用すると、(A3)式の右辺第1項内の該当する水素原子核と炭素原子核に関する部分は(A17)式のように書き換えられる。
(A17)式において、炭素原子核と水素原子核との間の結合方向を X軸に、そして
結合方向に直交する方向をY軸とZ軸に取っている。ここでYとZの値は炭素原子核に対する水素原子核の相対的な変位量であると共に、炭素原子核と水素原子核間の結合方向と直交する方向での水素原子核の相対的な振動成分を表している。一方、(A8)式のW(R,・・,R,t)に関しては、その中から 炭素原子核−水素原子核−塩素イオン 間
の逆対称伸縮振動に関与するポテンシャル成分 W(X)のみを抽出して(A18)式
のように近似する。
そして上記に算出した(A14)、(A17)および(A18)の各式を代入すると、(A8)式右辺のHamiltonianは(A19)〜(A21)式のように変形できる。
前述したように、計算機シミュレーションによる振動解析結果から『炭素原子核−水素原子核−塩素イオン』間の逆対称伸縮振動が1個の独立した基準振動を形成することが分かる。すると炭素原子核と水素原子核の結合方向に沿ったX座標が、1個の独立した基準座標に対応する。したがって 原田義也:量子化学 下巻(裳華房,2007年)p.4
7(16・3・24)式から、(A8)式内のΨnuclは(A22)式のように近似できる。
そして(A19)式から(A22)式を(A8)式に代入して式の変形を行うと、(A23)式で表わされる関係が得られる。
塩素イオンも含めた逆対称伸縮振動に関係する炭素原子核と水素原子核との間の距離Xを変化させると、高分子(PCLNまたはSMLN)全体のエネルギーが最小になる位置へと塩素イオンも含めた他の原子核が移動する。そして炭素原子核と水素原子核間の距離Xが他の原子核へ及ぼす影響が(A23)式内のW(X)に現れる。また同時にW(X)は、炭素原子核と水素原子核間の結合方向の振動に及ぼす塩素イオンも含めた他の原子核の影響も意味している。
次に(A20)式および(A23)式に関係して、(A24)式のような置き換えを行う。
(A24)式で示したポテンシャル関数が、X=Xoで最小値V(Xo)=0を取る場合を考える。V(X)をX=Xo近傍でTaylor展開して4次の項まで近似すると、X=Xoで最小値を取るのでX−Xoの1次項係数は「0」となるため、近似式(A25)式が得ら
れる。
ここで「x」を(A26)式のように定義する。
(A20)式および(A24)-〜(A26)式を(A23)式に代入すると、(A2
7)式が導かれる。
つまり(A2)式から出発して(A27)式を導くプロセスから、外部電磁波による炭素原子核−水素原子核−塩素イオン間で発生する逆対称伸縮振動の励起現象は 『換算質
量Mxを用いた非調和振動子と外部電磁波間の相互作用』 として理論的に説明できる。
4.4)調和振動子の波動関数に関する関係式
(A27)式において(A28)式のように波動関数ψを定義する。
κ=κ=E=0の時には(A27)式から(A29)式が導ける。(A29)式は調和振動子の方程式を表している。
原田義也:量子化学 上巻(裳華房,2007年)p.60(3・6・32)式から、(A29)式の解は(A30)〜(A32)式で与えられる。
(A30)式で表される波動関数系は、下記の規格直交系を形成する。
また(A30)式を変形すると、下記の関係式(A34)式および(A35)式が導かれる。
さらに(A33)式および(A35)式から、整数値mに関して下記の関係式(A36)式および(A37)式が導ける。
4.5)吸収遷移確率の定式化
この節では、まず(A27)式におけるE=0時の波動関数の解を求める。それは図8のステップ5で示した時間に依存しない摂動論を用いた非調和振動に対する波動関数を導く事に対応する。具体的には(A27)式におけるκ+κの項内の値が充分小さな摂動項と見なして、(A30)式を基にした近似解を導く。
原田義也:量子化学 上巻(裳華房,2007年)p.163(9・1・20)式に(A31)、(A34)、(A36)、(A37)の各式を適用し、小出照一郎:量子力学(I)(裳華房,1969年)p.174(10)式を参考にすると、非調和振動時のエ
ネルギー固有値εは(A38)式で与えられる。
非調和振動時のエネルギー固有値εは、(A27)式内でのκの項のみの影響を受けるがκの項の影響を受けないことが(A38)式から分かる。
次に非調和振動に対する波動関数|m>は、原田義也:量子化学 上巻(裳華房,20
07年)p.163(9・1・19)式から次の(A39)式〜(A41)式で与えられる。
(A31)および(A33)〜(A35)の各式を利用して(A39)式を具体的に計算すると、(A42)式が成り立つとした場合、(A43)式により与えられる。
また図8のステップ7で記載したように、非調和振動子が励起される時にエネルギー吸収される吸収光の波長は(A38)式で与えられる非調和振動時のエネルギー固有値ε間の差分値から算出される。すなわち初期状態では 『炭素原子核−水素原子核−塩素イ
オン 間の逆対称伸縮振動は基底状態にあり、エネルギー固有値は(A38)式でのε
になっていると考えられる。波長λmの外部電磁波によってエネルギー固有値εの状態
に励起された場合、光速をC、プランク定数をhで表した時(A44)式で表わされる関係が成立する。
次に、図8のステップ8とステップ9で示したように、時間に依存する摂動論を用いてEinsteinの吸収遷移確率を表す関係式の導入を行う。
(A27)式の解は、(A39)式を利用して(A28)式を参考にすると(A45)式で表わされる。
(A45)式を(A27)式に代入すると、下記の関係式(A46)式が導ける。
ここで時刻t=0における始状態がφX(x,0)=|0>とすると、tが小さい時には(A47)式で表わされるように近似できる。
また、m≧5において(A48)式が成り立つと仮定する。
(A47)式および(A48)式を(A46)式に代入すると(A49)式が得られる。
ここで(A13)式から電気双極子モーメントμはX軸方向を向いて場合、すなわち電気双極子モーメントμが(A50)式で表わされる場合を考える。
この場合、外部電場ベクトルE のX方向成分をEとすると(A49)式の右辺内に
おいて(A51)式のように変形できる。
(A51)式右辺内の各Lに関する関係式は、|0>内に(A42)式と(A43)式を代入した後(A34)式および(A35)式の関係を利用することで(A52)式で表わされる。
次に(A49)式に対して(A39)式と(A51)式を代入し、両辺に左側から<u|(0≦u≦4)を掛けて積分して(A33)の関係式を適用すると、下記の連立方程式(A53)式が得られる。
(A53)式で表される連立方程式を解くことが、図8内のステップ9内の処理に対応する。この連立方程式の解を(A54)式で表現する。
(A54)式の両辺をtで積分するとhν≠ε−εの時には(A54)式内の異なる位相間の干渉によりη(t)=0となる。
一方(A44)式に対応したhν=ε−εの時には下記の式(A55)式が得られる。
そしてW.J.Moore:物理化学下(東京化学同人,1974年)p.763の(17・20)式によると、Einsteinの吸収遷移確率B0mは(A55)式から(A56)式で与えられる。
4.6)量子化学計算ソフトを用いたシミュレーション結果との組み合わせ
4.6節では、図8内で示した「計算機シミュレーションをベースとした特性解析」の詳細な方法とそれにより得られた計算結果を説明すると共に、それと「量子力学をベースとした関係式の導入」で得られた関係式とを組み合わせて得られた『吸収光の波長』と『各吸収帯間の光吸収量の比率』の値を予測する。
4.6.1)量子化学計算ソフトを用いたシミュレーション方法
まず始めに、量子化学計算ソフトを用いたシミュレーションの方法を説明する。
計算に使用した分子構造にはPCLNまたはSMLNの基になるコリン(CHCHCHOHに塩素イオンが付着してイオン結合または水素結合した塩酸塩構造Cl(CHCHCHOHを設定した。ここで上記塩酸塩構造は、水中内で形成されるモデルを採用した。
上記の状態で、塩素イオンに付着された水素原子核とその結合関係にある炭素原子核との距離を変化させる毎に構造最適化を行い、トータルエネルギーの変化またはMullikenの電子数解析結果に基づく各原子核の実効電荷量変化を計算した。
量子化学計算ソフトとして、富士通社から発売されているSCIGRESS MO Compact Version 1 Proを使用した。この量子化学計算ソフトでは、分子軌道解析に半経験的分子軌道法を採用している所に特徴がある。また今回の計算では、構造最適化用のキーワードとしては「PM3 EF PRECISE EPS=78.4 GNORM=0.00001 LET DDMIN=0.00001 ALLVEC」を設定している。このキーワードが示すように、Hamiltonianに「PM3」を設定し、水中での構造最適化計算モデル(EPS=78.4)を使用している。そして計算精度を高める方法
として
(1)キーワード内にPRECISE GNORM=0.00001 LET DDMIN=0.00001を指定したばかりでなく、
(2)最適化された分子構造に対しては振動モード解析を行い、負の波数値が無いことを確かめている。
4.6.2)ポテンシャル特性に関するシミュレーション結果
図11に塩素イオンに付着された水素原子核とその結合関係にある炭素原子核との距離を変化させた時の分子全体のトータルエネルギー変化量を示す。図11から(A27)式において(A57)式のように対応付けられる。
上記の値を(A32)式に代入すると、(A58)式に示されている値を得る。
次に、図11で示したポテンシャル特性におけるα位置とγ位置との間での見かけ上の不連続点の発生原因について説明する。
前述した量子化学計算ソフトを用いた計算機シミュレーションの結果では、水素原子核と炭素原子核間の距離が最適な時のCl(CHCHCHOH構造は図12(a)のようになる。この場合には、炭素原子核C、水素原子核Hと塩素イオンClが比較的直線上に近い配置となっている。その結果、窒素原子核Nとその左側に配置されている炭素原子核C’との間の結合方向の延長線(一点鎖線)よりも下側に塩素イオンClが配置されている。
そして炭素原子核Cと水素原子核Hとの間の距離が最適時よりも広がる場合には、この配置関係が保持されている。一方、炭素原子核Cと水素原子核Hとの間の距離が最適時よりも0.10[Å]以上縮まると図12(b)に示すように、窒素原子核Nとその左側に配置されている炭素原子核C’との間の結合方向の延長線(一点鎖線)上に塩素イオンClの位置が移動するように見える。したがってその影響で、図11のように不連続点が存在するかのように見える。
ところで前述した量子化学計算ソフトによる計算結果を示した図11と図12は、分子内の全ての原子核位置を固定して分子軌道解析を行っている。しかし実際には全ての原子核の配置場所は固定されず、振動モードに基づいた各位置での存在確率分布を有している。したがって量子論に基づき全ての原子核の配置場所に関する存在確率分布まで考慮できれば、図11での見かけ上の不連続特性は解消されて連続特性が得られると考えられる。
(A57)式の値を(A42)式に代入して算出した波動関数|m>を図13に示す。図13でのα位置とγ位置との間の見かけ上の不連続点位置にも基底状態|0>での充分に大きな存在確率振幅が得られている。この状況は、基底状態|0>における塩素イオンClの存在確率分布は、図12の(a)および(b)に示した配置場所を含む比較的広い位置に分布していると予想される。
4.6.3)電気双極子モーメントに関するシミュレーション結果
塩素イオンが付着してイオン結合または水素結合している水素原子核とそれと化学結合している炭素原子核との距離が変化した時の各原子核の実効電荷量変化を図14に示す。図14では、実効電荷量の単位を電気素量eで表している。4.3節内での〔A〕および〔C〕が示すように、この『炭素原子核−水素原子核−塩素イオン』間で発生する逆対称伸縮振動に関する古典力学的振動の挙動は、塩素イオンの移動量が非常に少なく水素原子核の移動量が最も大きくなっている。
したがって、炭素原子核Cと水素原子核Hとの間の距離が小さい時(図14での左側領域)には、塩素イオンClと水素原子核Hとの距離が大きくなる。その結果として塩素イオンClの実効電荷量が「−1」に近く、炭素原子核Cと水素原子核Hの実効電荷量は塩素イオンClが付着する前の値に近い。逆に炭素原子核と水素原子核との間の距離が大きい時(図14での右側領域)には、塩素イオンClと水素原子核Hとの距離が小さくなる。その結果、水素原子核Hの実効電荷量が上昇する代わりに炭素原子核Cの実効電荷量が減少する。そして図14で表示した範囲では炭素原子核Cと水素原子核Hとの間の距離の増加に伴って炭素原子核C の実効電荷量が単調に減少するが、水素原子核Hの
実効電荷量が上昇量は飽和に近付く挙動を示す。
図14のように実効電荷量が変化する理由について、分子軌道解析結果を利用して考察する。
炭素原子核Cと水素原子核Hとの間の距離が最適条件下でのHOMO(Highest
Occupied Molecular Orbital:基底状態において最もエネルギー準位の高い電子の分子軌道)と最もエネルギー準位の低い電子の分子軌道MO(Molecular Orbital)を図15(a)(b)に示す。図15(a)に示したHOMOは、主に塩素イオンClが持つ3Pxの原子軌道AO(Atomic Or
bital)と炭素原子核Cに由来する2Pxの原子軌道AOから形成されている。
ここで図15(a)における赤線で示した領域が分子軌道関数の正振幅側を示し青線で示した領域が分子軌道関数の負振幅側を示しており、分子軌道関数の正振幅から負振幅に切り替わる境界位置ではHOMO電子の存在確率が「0」となる。このHOMO電子の存在確率が「0」となる位置が最適構造時の水素原子核H位置より右側にあることが図15(a)から分かる。
したがって図15(a)において水素原子核Hの位置が右側に移動する(水素原子核と炭素原子核間の距離が増加する)と、その周辺のHOMO電子の存在確率密度が低下するため水素原子核の実効電荷量が増加する。そしてHOMO電子の存在確率が「0」となる位置に水素原子核が近付くと、水素原子核の実効電荷量が飽和する。
一方、図15(b)に示す最もエネルギー準位の低い電子の分子軌道MOは、主に塩素イオンClの原子軌道AO内の3S軌道と水素原子核Hに対応した1Sの原子軌道AOから形成されている。この分子軌道MOに基づく電子の存在確率分布が、炭素原子核Cまで到達している所に大きな特徴がある。
そして図15(b)に示す電子の存在確率分布だけでなく記載を省略したそれ以外の分子軌道MOに基づく電子の存在確率分布も加味して考えると、水素原子核H の位置が右
側に移動する(水素原子核と炭素原子核間の距離が増加する)と、塩素イオンCl周辺の電子の存在確率分布が炭素原子核Cの方に移動する傾向にある。その結果、水素原子核Hの位置が右側に移動する(水素原子核と炭素原子核間の距離が増加する)と、炭素原子核の実効電荷量が低下すると考えられる。
図14で示される水素原子核および炭素原子核の実効電荷量を(A13)式に代入して得られた、電気双極子モーメントμ値の水素原子核と炭素原子核との間の距離の依存性を図16に示す。そして(A50)式における各係数値は、図16から
が得られる。
4.6.4)吸収波長と吸収遷移確率の比率に関する理論的予測値
(A57)式と(A58)式を(A38)式に代入して得られたεを(A44)式に適用して得られた吸収波長λmと対応した波数の値を表5の吸収波長と波数の欄に示す。
表5において基準音(m=1)の波数値が2283[cm−1]となっている。これに対して3.2節では吸収帯の波数値が2465[cm−1](PCLNでの2480[cm−1]とSMLNでの2450[cm−1]の平均値)であり、両者間に若干のずれが生じている。このずれの原因は3.2節の振動解析が調和振動近似で行われていたためであり、非調和項を含めた今回の計算結果の方が精度は高いと予想される。
次に(A57)式から(A59)式を(A43)式と(A52)式に代入してgmuとLを求め、(A53)式で表される連立方程式の解Pから、(A56)式により倍音準位における吸収遷移確率の基準音における吸収遷移確率の比B0m/B01を算出した。その結果を表5の吸収遷移確率比の欄に示す。表5から分かるように、第1倍音の基準音に対する吸収遷移確率比が1/176と第1倍音の吸収強度(吸収遷移確率)が非常に小さいことが分かる。また第2倍音と第3倍音の基準音に対する吸収遷移確率比はそれぞれ1/3480、1/3030とさらに小さいが、最低限測定可能な範囲の吸収強度を有している。また今回の計算結果では第3倍音の吸収強度の方が第2倍音よりも大きく、第3倍音の吸収帯の方が若干第2倍音の吸収帯より若干検出し易いことが分かる。したがって検出装置の工夫により、第2倍音または第3倍音に対応した吸収帯の検出も可能と考えられる。
表5では基底状態から各励起状態へ遷移する時の吸収波長と波数を表している。しかしそれに限らず、特定の励起状態を初期状態とした時の励起状態間の遷移に対応した光吸収を検出してもよい。すなわち炭素原子核-−水素原子核−塩素イオン 間の逆対称伸縮振動における基底状態と複数の励起状態で構成される複数の状態(振動モード)間での任意の遷移エネルギーを基準として定まる波長帯に関する吸収特性変化を検出してもよい。
4.7)本実施例における検出可能範囲の検討
図11から(A57)式で示した値を読み取る過程と図16から(A59)式で示した値を読み取る過程で、大きな読み取り誤差が発生する。そのため、表5で示した理論的予測値と実際の測定値にはある程度のずれが予測される。このような場合のずれ量は、一般的には±2割程度(よくて±1割)と言われている。したがって本実施例に適用される近赤外光波長の下限値は、1.05×(1−0.1)=0.945[μm]、誤差を大きく見積もって1.05×(1−0.2)=0.840[μm]と見積もられる。
しかし、表5で示した第3倍音の光を測定に用いず、第2倍音以下の光のみを測定に使用する場合には、本実施例に適用される近赤外光波長の下限値は1.42×(1−0.1)=1.278[μm]、誤差を大きく見積もって1.42×(1−0.2)=1.136[μm]と見積もられる。
さらに表5で示した第2倍音以上の光を測定に用いず、第1倍音の光のみを測定に使用する場合には、本実施例に適用される近赤外光波長の下限値は2.16×(1−0.1)=1.944[μm]または2.16×(1+0.1)=2.376[μm]、誤差を大きく見積もって2.16×(1−0.2)=1.728[μm]または2.16×(1+
0.2)=2.592[μm]と見積もられる。
次に本実施例に示す測定方法に使用される赤外光波長の上限値について説明する。
赤外光で測定される吸収帯の波長(波数)と分子内の振動との関係は、吸収波長が短い順に(波数値が大きい順に)、官能基など分子内局所領域内の振動、分子内骨格部の振動、分子全体の振動、分子全体の回転となる。
したがって前述した『分子内での局所的な状態変化』を伴う高速で起こる変化は、上記の中で「分子内局所領域内の振動」または「分子内骨格部の振動」を測定することに対応する。
ところで、カルボキシル基へナトリウムイオンが付着してイオン結合した時に発生する振動モードの解析結果は[A]3.3節によると、>C−CO Naの骨格部振動に対応した吸収帯の波数(波長)は260〜291[cm−1](34.4〜38.5[μm])で、[B]3.4節によると、N+−C−CO Na骨格部振動に対応した吸
収帯の波数(波長)は429[cm−1](23.3[μm])だった。
さらにカルボキシル基へカリウムイオンが付着してイオン結合した時に発生する振動モードの解析結果は3.3節によると、[C]C−CO 骨格部振動対応吸収帯の波数(波長)は118[cm−1](84.7[μm])で、D〕カリウムイオン付着により、波数(波長)が1570[cm−1](6.37[μm])の所にあるカルボキシル基−CO の対称伸縮振動が大幅に制限された。
したがって上記の値も本実施例の適用範囲(検出可能範囲)の一部として考慮する必要がある。しかしこの考慮に先立ち[E]3.2節によると−N(CHClの骨格部振動に対応した吸収帯の波数(波長)が2465[cm−1](4.06[μm])〔PCLNでの2480[cm−1]とSMLNでの2450[cm−1]の平均値〕に対して、4.6.4節では2283[cm−1]という若干のずれに対して配慮する必要がある。4.6.4節で説明したように、この若干のずれの原因は「3.1節の振動解析結果が調和振動近似」だったの対し、「4.6.4節非調和項を含めている」ことに起因する。
したがって上記〔A〕から〔D〕に列記した測定波長Lも、計算モデルによって(2465/2283)×Lまで変化し得ると言える。また上記〔A〕から〔E〕に示した値はあくまでも理論予測値であり、前述したように実験測定値との間に最大±2割程度のずれは予想される。したがって上記〔A〕から〔E〕に基づく実験値の下限値はL×(1−0.2)、そして上限値は(2465/2283)×L×(1+0.2)と予想される。
したがって上記の関係式を考慮した場合の、〔A〕から〔E〕の各現象を検出するための本実施例の適用範囲(検出可能範囲)は、
[A]>C−CO Na骨格部振動(3.3節)⇒27.5〜49.9[μm](34.4×0.8≒27.5、(2465/2283)×38.5×1.2≒49.9)
[B]N−C−CO Na骨格部振動(3.4節)⇒18.6〜30.2[μm][C]C−CO 骨格部振動(3.3節)⇒67.8〜110[μm]
[D]−CO の対称伸縮振動(3.3節)⇒5.10〜8.25[μm]
[E]−N(CHCl骨格部振動(3.2節)⇒3.25〜5.26[μm]となる。
以上の内容を総合すると、本実施例の測定方法に使用される赤外光波長は〔C〕の上限
値から、少なくとも110[μm]以下(波数値では91.1[cm−1]以上)が望ましい。
今まで説明した考察内容をまとめると、本実施例で使用する光の波長範囲は最も広い範囲で「0.840[μm]から110[μm]の範囲」/最も狭い範囲で 「2.592
[μm]から110[μm]の範囲」となる。
次に上記の考察結果に、水の吸収波長の影響を加える。生体内部の大部分は、水分子から構成されている。それゆえ電磁波を照射して生体内部の動的な生体活動を測定または検出する場合、水分子の電磁波吸収が大きな問題となる。したがって本実施例では、水分子による吸収が比較的少ない波長領域を利用する工夫を行っている。B.Alberts他:Essential細胞生物学(南江堂,1999)p.68 図2-24に拠ると、動物細胞を構成する(無機イオンも含めた)化学物質の組成は、重量百分率で70%は水分子が占める。また残りの重量百分率30%の中で最も大きいのは蛋白質で15%を占め、RNA6%、イオン/小分子4%、多糖2%、燐脂質2%と続く。一方上記蛋白質は細胞内で存在する立体構造により吸光特性が変化するため、一般的な蛋白質による吸収帯の吸収波長領域を特定するのが難しい。そのため本実施例では、[1]動物細胞内に圧倒的に多量に含まれ、[2]分子構造の安定性から吸光特性が確定しているとの理由から『水分子の吸光特性』に重点的に注目し、水分子による光吸収が比較的少ない波長領域を生体内部の動的な生体活動の検出に利用する。それにより生体活動の検出光が途中で水分子に吸収されることが少なく、比較的安定かつ精度良く生体活動の測定または検出が行える。尾崎幸洋・河田聡編:近赤外分光法(学会出版センター,1996)p.12、p.120、p.122またはp.180に水分子による吸収ピーク波長が記載されているので、ここに記載された数値を使って本実施例の説明を行う。
水分子の対称伸縮振動と逆対称伸縮振動に帰属する吸収帯の中心波長は、それぞれ2.73[μm]と2.66[μm]となっている。またそれより長い波長領域では、水素分子の回転による光吸収が起きる。したがって生体内の動的活動を測定するために本実施例では、上記2.66[μm]より若干短い波長である2.50[μm]を境としてそれより短い波長領域の電磁波を用いた測定(具体的には前述した内容を加味して、0.840[μm]から2.50[μm]の範囲)を行う。
一方、近赤外領域では、水分子の逆対称伸縮振動と変角振動の組み合わせによる結合音に帰属する吸収帯が、中心波長1.91[μm]の所にある。したがって、他の実施例としては、この吸収帯も避けた波長領域の電磁波を測定に利用できる。具体的には、表5に示した第1倍音の光(波長2.16[μm])を測定に利用する。しかし、前述したように、図11と図1からの読み取りに±1割から±2割程度の読み取り誤差が発生する。この読み取り誤差も考慮して、この他の実施例としては波長が2.16×(1−0.05) =2.05[μm]以上で2.16×(1+0.15)=2.48[μm]以下の電磁波を使用する。
さらに水分子の対称伸縮振動と逆対称伸縮振動の組み合わせによる結合音に帰属する吸収帯が、中心波長1.43[μm]の所にもある。したがって他の応用例として、この波長と1.91[μm]との間の波長領域の光(具体的には水分子の吸収帯の中心波長を避けて、1.5[μm]以上で1.9[μm]以下の光)を使うか、この1.43[μm]の波長より短い波長領域の光を使ってもよい。後者に対応した測定用電磁波として、表5に示した第3倍音の光(波長1.05[μm])を利用する。この場合の具体的な使用波長としては、上述した読み取り誤差を考慮して下記の範囲となる。
1.05×(1−0.2) =0.840[μm]以上で1.05×(1+0.3) =1.37[μm]以下。
所で上記波長範囲に限らず、応用例として他の波長範囲を設定しても良い。すなわち下記に説明するように、生体組織内に存在する“酸素濃度指示物質”が吸収する波長領域を避けて範囲を設定しても良い。例えば手のひらや指に近赤外線を照射すると、表面近傍での血管パターンが観測できる。これは血管中に含まれるヘモグロビンが近赤外線を吸収するために起こる。つまり生体の表面近傍に配置された血管の裏側(血管より奥側)領域における生体活動を検出する場合、検出光路途中での血管で検出光が吸収されて検出信号のS/N比が低下する危険性が有る。上記ヘモグロビン以外にもミオグロビンやチトクロムオキシダーゼも近赤外領域に吸収帯を持ち、酸素化状態と脱酸素化状態で近赤外領域の吸収スペクトルが変化するので、酸素濃度指示物質と呼ばれている。また F.F.Jobsis : Science vol.198 (1977) p.1264 - p.1267 に拠ると、上記チトクロムオキシダーゼやヘモ
グロビンは波長範囲0.780[μm]から0.870[μm]に亘って弱い吸収帯を持つと言われている。従って一般的な測定誤差範囲±0.005[μm]を考慮に入れると、本実施例または応用例で使用する検出光の波長を0.875[μm]以上にすれば上記酸素濃度指示物質の影響(光吸収)を受けずに安定に生体活動の検出信号が得られる。そしてこの内容を考慮すると、上述した波長範囲「0.840[μm]から110[μm]の範囲」、「0.840[μm]から2.50[μm]の範囲」あるいは「0.840[μm]以上で1.37[μm]以下の範囲」は「0.875[μm]から110[μm]の範囲」、「0.875[μm]から2.50[μm]の範囲」あるいは「0.875[μm]以上で1.37[μm]以下の範囲」となる。このように生体活動の検出光または制御光の使用波長範囲を規定すると、検出光路または制御光路途中に酸素濃度指示物質が存在しても検出光や制御光が吸収されずに生体活動検出信号のS/N比の確保や安定した生体活動制御が可能となる。
図17、図18および図19は、空間分解能と時間分解能、検出精度の各観点での細胞膜の電位変化検出と血液中の酸素濃度変化検出間の定性的な性能比較イメージを示している。
前記のように、先行技術1の空間分解能は3[cm]のオーダー(図17参照)で、fMRI装置を用いて磁気的に検出する場合の空間分解能は数[mm]オーダーと言われている。そして、図17が示すように、この領域内に配置されている複数の毛細血管28の中を流れる血液中酸素濃度の平均値を検出している。それに比べて細胞膜の電位変化を検出する場合は、前述した検出光の波長オーダーまでの空間分解能を持つ。
しかし、細胞膜の電位変化検出の一例として脳・神経細胞1個毎の発火を検出する場合には、隣接する脳・神経細胞間の平均間隔が実質的な空間分解能に相当する。そして人の大脳皮質内での隣接する脳・神経細胞間の平均間隔20[μm]のオーダーと言われている。
したがって両者の空間分解能は100倍のオーダーの違いがある。その違いのイメージを図17に模擬的に示した。すなわち先行技術1のように近赤外光を利用して血液中の酸素濃度変化を検出する場合には直径3[cm]範囲内の平均値を検出するのに比べ、その中の錐体細胞の細胞体17または星状細胞の細胞体18の1個毎の発火を個別に検出できる。
一方6.3.1節または9.3.2節で後述するように、細胞膜の電位変化を検出する本実施例では図24または図25に記載されている2次元液晶シャッター51内の光透過部56のサイズ(開口径)を適正化させ、コラム単位など複数の脳・神経細胞の集まり単位としての活動状況(コラムなど複数の脳・神経細胞の集まりとしての延べの発火頻度)を検出することもできる。コラムサイズは直径が約0.5〜1.0[mm]、高さが2[
mm]弱の円筒(または直方体)なので、コラム単位での活動を検出するために空間分解能を上記の値まで(あるいはそれ以下まで)自由に変えられる特徴(効果)もある。
(検出単位のサイズ範囲について)
上述したように本実施例での検出単位として、脳・神経細胞の細胞体1個(あるいは軸索内の特定領域)単位または筋肉細胞(あるいは神経節接合部)1個単位から複数の脳・神経細胞(または筋肉細胞)の集まり単位まで幅広い範囲に設定できる所に特徴がある。すなわち生体活動検出場所(被測定点)内において1または複数の細胞から構成される局所領域を検出の1単位に設定し、その検出単位(局所領域)での電磁波に関する特性を検出して生体活動検出を行う。
またこの電磁波とは、本節(4.7節)で説明する範囲の波長を持った近赤外光または赤外光あるいは、5章で説明する核磁気共鳴を利用して検出するために生体活動検出場所(被測定点)に照射される電磁波のどちらでもよい。また核磁気共鳴を利用して検出する場合、連続波CW(Continuous wave)分光光とパルスFT(Fourier Transformation)分光法のどちらを用いてもよい。
本実施例における検出単位(局所領域)のサイズは下記の理由から、検出に利用される電磁波の波長から長さ1[cm]の範囲であり、また10[μm]以上、3[mm]以下が望ましい。そしてこの検出単位(局所領域)に含まれる細胞数で示すと、1個以上1億個以下であり、特に1個以上200万個以下が望ましい。
上記の検出単位(局所領域)のサイズ範囲に付いて説明する。光の回折理論から、電磁波はその波長サイズ(回折限界)まで絞られる。また神経細胞の発火に大きく関わる電位依存性ナトリウムイオンチャネルは、細胞体内の軸索の付け根部分に多く分布することが知られている。そのため1個のみの神経細胞の発火を検出する場合、その細胞体全体に検出光を広く照射するより、この軸索の付け根周辺に集光させた方が検出効率は向上する。したがって本実施例での検出単位(局所領域)のサイズは検出に利用される電磁波の波長以上が望ましい。
次に本実施例における検出単位(局所領域)のサイズに関する上限値を説明する。図41または図42を用いて6.5.4節で後述するように、本応用例として顔面の筋肉の動きから生体活動情報を得る。この場合には、先行技術1で説明された空間分解能(直径3[cm]程度:図17参照)では充分な検出精度が得られない。人間の瞼の幅または唇の幅は1[cm]前後あるので、ある程度以上の検出精度を得るためには検出単位(局所領域)のサイズの上限値は1[cm]に設定する必要がある。また脳・神経細胞間の平均間隔が20[μm]程度なので、この1辺が1[cm]の立方体を検出単位として脳の深部分を測定する場合にはこの検出単位(局所領域)内には(10÷0.02)×(10÷0.02)×(10÷0.02)≒1億個の脳・神経細胞が含まれる事になる。
次に検出単位(局所領域)を前述したコラムの整数倍単位に設定する場合を考える。前述したように1個のコラムの高さ(大脳皮質内の灰白質の厚み)が2[mm]なので、ここに平均して 2÷0.02 = 100個 の脳・神経細胞が並ぶ事になる。巨視的に生体活動を検出する場合、1個の検出単位(局所領域)内に10個程度のコラムの活動まで同時に検出してもよい。この場合には、検出単位(局所領域)の一辺の長さは 101/2
×1≒3[mm]となる。するとこの検出単位(局所領域)内には(3÷0.02)×(3÷0.02)×100≒200万個 の脳・神経細胞が含まれる事になる。さらに検出
単位(局所領域)の一辺(または直径)を0.5[mm]または1.0[mm]に設定すると、(前述したコラムサイズから)1個のコラムの生体活動を検出単位(局所領域)として検出できる。そしてこの時には、1個の検出単位(局所領域)内に含まれる脳・神経
細胞の数は (0.5÷0.02)×(0.5÷0.02)×100≒6万個 または(1
÷0.02)×(1÷0.02)×100≒30万個となる。したがって1個の脳・神経細胞の生体活動からコラム単位までの生体活動を検出する場合には、1個以上そして6万個から30万個以下の細胞から構成される局所領域を検出単位とし、そこでの電磁波に関する特性を検出して生体活動を検出する事になる。
(時間分解能について)
次に近赤外光またはfMRIを用いた血液中の酸素濃度変化検出と本実施例で説明している光学的または磁気的手段による細胞膜の電位変化検出との時間分解能の比較を行う。
前記の先行技術1のように、血液中の酸素濃度変化を検出する限り5[s]程度の遅延
が生じるため本質的に時間分解能が制約される。それに比べて1.3節で説明したように細胞膜の電位変化を検出する場合には、図3で示される0.5〜4[ms]程度の発火期間24内で生じる発火パルス波形を忠実に再現できる時間分解能を持っている。
この違いのイメージを図18(b)に示す。α位置とγ位置にある星状細胞の細胞体18またはβ位置にある錐体細胞の細胞体17が発火して細胞膜の電位が変化すると、3章または4章(本章)で説明したようにイオン吸着(またはイオン放出)による固有の振動モードが発生する。したがって前述した範囲の波長光を照射すると、この光を吸収して固有振動モード間の遷移が生じる。
その結果として図18(b)に示すように、反射光の光量が一時的に低下して反射光量変化401が起きる。図18(b)の例では、経過時間163においてtでα位置にある星状細胞の細胞体18が発火を開始し、それに釣られてγ位置にある星状細胞の細胞体18が発火を開始、そして少し遅れてβ位置にある錐体細胞の細胞体17が発火する様子を示している。ここで図18(b)における1本の「ヒゲ」が「1回の発火」を意味している。このように細胞膜の電位変化を検出する本実施例では時間分解能が非常に高いので、1回毎の発火状況を異なる脳・神経細胞毎に検出できる。
そして発火を開始したtの経過時間163から遅れることおよそ5[s]後のtで波長830[nm]光の反射光量48と波長780[nm]光の反射光量47の変化がゆっくり始まる。
脳・神経細胞が発火した後に(1)細胞体17、18内でのATPの不足、(2)細胞体17、18内での酸素分子の不足、および(3)毛細血管28内での酸素化ヘモグロビンの不足、という全ての現象が継続しない限り血液中の酸素濃度変化が起きないことが分かる。つまり図18(b)のように頻繁に発火が生じる場合のみ、上記の(1)から(3)に至る現象が継続して起きる。
したがって、図19(b)のように希に発火する時には、上記の(1)から(3)が起きず血液中の酸素濃度は変化しない。それゆえ血液中の酸素濃度変化を検出する方法では、生体活動の検出精度が比較的低いと考えられる。それに比べて細胞膜の電位変化を検出する本実施例は図19(b)が示すように1回のみの発火でも検出できるため、光学的手段(近赤外光)と磁気的手段(fMRI)のいずれでも検出精度が飛躍的に向上するという効果がある。
(微弱信号の検出について)
表5内に記載された倍音準位における吸収遷移確率の基準音における吸収遷移確率の比B0m/B01の値から分かるように、本実施形態では非常に微弱な変化信号を検出する。そのため後述するように、本実施形態では生体に照射する電磁波(近赤外光)に予め変
調を掛けている。
そのため、生体内部から戻る検出光に対して、その変調信号に同期した信号成分のみ抽出することで検出信号のS/N比を上げることができる。そして測定対象が変化する時間間隔よりもこの変調周期が長ければ、測定対象の時間変化の検出が難しい。したがって、安定に測定対象の時間変化を測定するためには、変調信号の基準周期を測定対象が変化する時間間隔の1/5以下にする必要がある。
したがって、変調信号の基準周波数としては、5[s]より短い間隔で変化する対象物に対しては、1[Hz]以上(最低でも0.2[Hz]以上)、200[ms]より短い間隔で変化する場合には、25[Hz]以上(最低でも5[Hz]以上)、4[ms]より短い間隔で変化する場合には、1.25[kHz]以上(最低でも250[Hz]以上)の変調を掛ける所に、本実施例一形態の特徴がある。
次に、本実施例一形態における上記変調の基準周波数の上限値と測定対象物の時間変化間隔について説明する。一般に帯域が数百[kHz]までのアナログ信号では、検出回路が発振すること無く安定に動作し易いことが知られている。またこの程度の信号帯域ならプリント基板内のグランドの取り方など実装方法もそれ程注意しなくても安定に動作する。それに比べて動作範囲の帯域が20[MHz]を超えると、検出回路が容易に発振し易くプリント基板内の実装方法にもかなりノウハウが必要となる。本実施例の一形態として0.5〜2[ms]程度の期間の発火を測定する場合には、それ程高速な信号検出は必要としない。そのため、検出用信号帯域を必要最低限まで抑えて回路の安定化および低価格化を図った。
以上の理由から、本実施例一形態では具体的に変調の基準周波数を500[kHz]以下に抑え、測定対象体の時間変化間隔を10[ns]以上(最低でも2[ns]以上)にした。
5〕神経細胞の発火モデルと核磁気共鳴での分光特性変化との関係
5.1)発火時に核磁気共鳴特性変化が予想される理由およびシミュレーション方法と計算結果
5.1.1)発火時に核磁気共鳴特性変化が予想される理由
4.7節に示したように本実施形態では、0.85[μm]以上で50[μm]以下(または0.840[μm]以上で2.50[μm]以下)の波長を持つ電磁波を生体に照射し、前記電磁波に関する生体内部から得られる時間的変化を検出して生体の局所領域内の特性を測定し、その測定結果から動的な生体活動情報を抽出する。それに対して下記に説明する本実施例の他の応用例で、生体の局所領域内での核磁気共鳴特性の時間的変化を検出して動的な生体活動情報を抽出する。
3.2節で説明したようにPCLNまたはSMLN内のコリン部に塩素イオンが付着して近傍の水素原子核との間でイオン結合または水素結合すると、その水素原子核に対する実効電荷量が変化する。この現象は対応する水素原子核周辺の分子軌道が変化することを意味している。したがってそれに対応して前記水素原子核に対する磁気的な遮蔽効果が変化し、核磁気共鳴特性(化学シフト量)の変化が生じると予想される。核磁気共鳴特性(化学シフト量)の時間的変化を検出して動的な生体活動情報を抽出する所に、本応用例の技術的な特徴がある。
5.1.2)量子化学計算ソフトを用いたシミュレーション方法
量子化学計算ソフトとしてGaussian 09(「Gaussian」は登録商標)(Gaussian 09, Revision A.1, M.J.Frisch,
G.W.Trucks, H.B.Schlegel, G. E. Scuseria, M.A.Robb, J.R.Cheeseman, G.Scalmani, V.Barone, B.Mennucci, G.A.Petersson, H.Nakatsuji, M.Caricato, X.Li, H.P.Hratchian, A.F.Izmaylov, J.Bloino, G.Zheng, J.L.Sonnenberg, M.Hada, M.Ehara, K.Toyota, R.Fukuda, J.Hasegawa, M.Ishida, T.Nakajima, Y.Honda, O.Kitao, H.Nakai, T.Vreven, J.A.Montgomery, Jr., J.E.Peralta, F.Ogliaro, M. Bearpark, J.J.Heyd, E. Brothers,
K.N.Kudin, V.N.Staroverov, R.Kobayashi,
J.Normand, K.Raghavachari, A.Rendell, J.C.Burant, S.S.Iyengar, J.Tomasi, M.Cossi, N.Rega, J.M.Millam, M.Klene, J.E.Knox, J.B.Cross, V.Bakken, C.Adamo, J.Jaramillo, R.Gomperts, R.E.Stratmann, O.Yazyev, A.J.Austin, R.Cammi, C.Pomelli, J.W.Ochterski, R.L.Martin, K.Morokuma, V.G.Zakrzewski, G. A.Voth, P.Salvador, J.J.Dannenberg, S.Dapprich, A.D.Daniels, O.Farkas, J.B.Foresman, J.V.Ortiz, J.Cioslowski, and D.J.Fox, Gaussian, Inc. Wallingford CT, 2009)を使用した。
計算に使用した分子構造としてはCl(CHCHCHOHを設定した。また今回の計算の第1ステップでは、キーワードとして「#P RHF/6−31G(d) Opt Freq SCRF=(Solvent=Water,PCM)」を設定して構造最適化を行った。この量子化学計算ソフトの計算結果では、最適化された分子構造は図12(b)に示す構造を示していた。次に計算の第2ステップとして、キーワードに「#P RHF/6−31G(d) NMR SCRF=(Solvent=Water,PCM)」を設定して核磁気共鳴時の化学シフト量を算出した。3.1節で説明したキーワードと比べると、RHF/6−31G(d)が近似法を示し、SCRF=(Solvent=Water,PCM)が水中での分子配置を意味する。ここでこの化学シフト量は、δスケールで表示する。すなわち事前にTetramethylsilane(TMS)の化学シフト量を計算しておき、その値と今回の計算で得られた化学シフト量との差分値で表す(R.M.Silverstein&F.X.Webster:有機化合物のスペクトルによる同定法 第6版(東京化学同人,1999年)4章、4.7節、p.152)。
5.1.3)シミュレーション結果得られた化学シフト量
まず、始めに塩素イオンが付着する前のコリン(CH)CHCHOH内の
メチル基を構成する水素原子核の化学シフト量を計算した。
そして次に塩素イオンClが付着して水素原子核とイオン結合または水素結合した時の該当箇所の化学シフト量は、δ3.43[ppm]からδ3.55[ppm]の範囲だ
った。このように計算機シミュレーション上では、塩素イオンClの付着前後で明らかな化学シフト量の変化が見られる。
5.2)本実施例における測定可能範囲の検討
神経細胞が発火した時に細胞膜の外側に配置されているPCLNまたはSMLNに塩素イオンClが付着すれば、NMIスペクトル上では一時的に(発火の間)δ3.43[ppm]からδ3.55[ppm]の範囲内でピークが現れ、そのピーク面積に対応した量だけδ2.49[ppm]からδ2.87[ppm]の範囲内のピークの面積が減少するはずである。
したがって本実施例の他の応用例では、NMIスペクトルにおけるδ3.43[ppm]からδ3.55[ppm]の範囲内での一時的なピークの増加量もしくはδ2.49[ppm]からδ2.87[ppm]の範囲内の一時的なピークの減少量を測定して発火現象を測定する特徴がある。
ところで計算機シミュレーションの計算結果得られた値は、しばしば実際の測定結果とのある程度のずれが生じる。このずれ量を0.45〜0.49[ppm]程度見越すことができる。その結果、本実施例の応用例はNMIスペクトルにおけるδ2.0[ppm](2.49−0.49)からδ4.0[ppm](3.55+0.45)の範囲内でのピーク面積(またはピーク高さ)の時間的変化(一時的な増減変化)を測定する。
しかし、本実施例の応用例は神経細胞の発火測定に限らず、NMIスペクトル内における特定領域での一時的なピークの増加もしくは減少(時間的変化)を検出し、生体内部で高速に変化する動的な生体活動の測定に適応できる。
なぜなら4.7節の説明した内容を類推すると、生体内部での動的な生体活動の中で短時間に状態が変化する(反応速度が早い)現象には、水素原子核周辺の分子軌道の変化による磁気遮蔽効果の変化が生じる場合が多い。
また、本実施例の応用例では生体活動を測定するため、水中での分子の状態変化を検出する所に大きな特徴がある。したがって本実施例の応用例でも4.7節の説明内容と同様に、NMRスペクトル内での水分子に帰属するピーク位置(化学シフト量)を避けた位置(化学シフト量)で水中での分子の状態変化を検出する工夫を行っている。
単体水分子を構成する水素原子核の化学シフト量は δ0.4[ppm]から δ1.55[ppm]の範囲で、水分子間の水素結合による化学シフト量はδ4.7[ppm]と言われている(R.M.Silvestein& F.M.Webster:Spect
rometric Identification of Organic Compounds, 6th edition(John Wiley & Sons, Inc., 1998) Chapter 4参照)。
ところで、水分子間の水素結合に関与する酸素原子の電気陰性度は、Paulingの計算結果ではフッ素の次に大きい。したがって、酸素原子以外(例えば前述した塩素イオンなど)と水素結合した時の化学シフト量は、上記のδ4.7[ppm]よりも小さくなり、0.2[ppm]のマージンも考慮するとδ4.5[ppm]以下となる。
一方、単体水分子を構成する水素原子核の化学シフト量の上限値はδ1.55[ppm]であるが、水分子のピーク位置を避けた値としては、この値にマージン量0.15[ppm]を加えたδ1.7[ppm]以上に設定する必要がある。上記の検討結果から本実
施例の応用例では、NMRスペクトルにおける化学シフト量としてδ1.7[ppm]以上でしかもδ4.5[ppm]以下の範囲内でのピーク面積(またはピークの高さ)の時間的変化を検出して生体内部での動的な生体活動を測定する所に特徴がある。
このような本実施例の他の応用例でのNMRスペクトルにおけるピーク面積(またはピークの高さ)の時間的変化を検出する場合の対象となる時間変化間隔は、4.7節で説明したように10[ns]以上(最低でも2[ns]以上)で5[s]以下となる。あるいは測定対象に拠っては10[ns]以上(最低でも2[ns]以上)で200[ms]以下、または10[ns]以上(最低でも2[ns]以上)で4[ms]以下となる。
6〕本実施例における生体活動検出/制御方法と生体活動測定方法の技術的特徴
6章では本実施例における生体活動検出方法と生体活動測定方法に関する基本原理と技術的特徴の説明を行う。また同時に、生体活動制御方法でも共通に使われる実施例に付いても説明する。
この6章で説明する基本原理を用いた具体的な実施内容に関しては、7章以降で説明する。
6.1)測定対象となる生体活動内容と生体活動検出/制御方法の特徴
表6に、本実施例での測定対象となる生体活動内容例の一覧を示す。表6では生体表面(表皮)から深くなる順に生体活動の内容例を列記した。またその生体活動内容毎に測定対象となる検出信号の種類とその検出信号を発生させる物理現象およびその検出手段を記載した。
表6から分かるように、本実施例における測定対象となる生体活動に関しては6.1.1節から6.1.3節に示す特色がある。またそれに関連した、本実施例における生体活動測定方法の特徴を6.1.1節から6.1.5節で説明する。
6.1.1)本実施例では非常に多義に亘る生体活動を検出の対象とする
皮膚表面での感覚とは、図1において感覚ニューロンの終末部(感覚部)4で検出される痛覚、温度覚、触覚、圧覚または運動感覚などを意味する。そして、1.3節で説明したように、感覚ニューロンの終末部4の細胞膜電位20は一時的に活動電位23まで上昇する。
また、自律神経系からの指示信号伝達に拠って汗線および毛細血管のうち少なくとも一方の拡張と収縮が生じる。このときの信号伝達メカニズムは、1.3節図1で説明した神経筋接合部5から筋肉細胞6への信号伝達と基本的には同じで、上記拡張または収縮へ向けた指示信号の伝達時には細胞膜電位20が脱分極電位22へ変化する(図3参照)。
したがって、汗腺および毛細血管のそれぞれの拡張または収縮時には、細胞膜電位変化が検出できる。一方毛細血管内を流れる血液の血流量が増加すると、局所的に体温が上昇する。その毛細血管周辺で上昇した体温が皮膚表面にも伝わるため、サーモグラフィーによる間接的な測定も可能となる。それのみならず毛細血管内の血流量が変化すると血管中での近赤外光の吸収量の変化または単位体積当たりの酸素化ヘモグロビンまたは脱酸素化ヘモグロビンの量が変化するので、その変化を近赤外光により検出できる。
ところで上述したサーモグラフィーとは、皮膚表面から放出される赤外線を赤外線カメラにより測定する方法または測定装置を意味する。ここで黒体輻射の原理によると皮膚表面から放出される赤外線の中心波長は皮膚表面の温度により変化する(温度が高い程短波長側にずれる)ので、この赤外線の中心波長から皮膚表面の温度が予想できる。そしてこのサーモグラフィーにより被測定物の2次元状の温度分布を測定することができる。
次に、表6が示すように、骨格筋は比較的生体表面近くに分布している。特に顔の筋肉は皮膚の直下に存在する。これらの骨格筋が収縮する時には、細胞膜電位の変化が生じる(1.3節)。心電図は心臓内にある横紋筋の収縮と弛緩時に生じる電位変化を測定している。ここで、心電図では電極を直接肌表面に接触させて電位変化を測定するのに対し、本実施例では『非接触』で測定する所に特徴がある。また後述する本実施例に示す測定方法の利用により非接触による(着衣のままでの)心電図測定が可能となり、被測定者の負担を大幅に軽減できる。
さらにこの骨格筋が活動すると、同時に発熱作用が伴う。するとその熱が生体表面の皮膚に伝わるため、上述したサーモグラフィーを用いても骨格筋の活動を間接的に測定できる。また骨格筋の活動には酸素および栄養分(エネルギー源)の供給が必要となる。そしてその結果として、骨格筋周辺の血液中(毛細血管内)の酸素濃度変化も生じる。
上記骨格筋位置より若干深い領域で筋肉または関節内部での痛みまたは移動量感知などを感知するが、これも図1の感覚ニューロン終末部4での検出が行われ、局所的な電位変化が生じている。
また、それよりも深い部分では、自律神経からの指示信号伝達による内臓器官の活動制御が行われている。これも汗腺または毛細血管の膨張/収縮制御と同様に細胞膜の電位変化の形で信号伝達される。ここで内視鏡またはカテーテルの挿入を利用した測定を前提とし、内臓器官の位置を表面近くに記した。
そして、図1が示す脊髄から脳幹、大脳辺縁系、大脳基底核を経由して大脳皮質に至る信号伝達経路では、細胞膜電位の局所的変化の検出により信号伝達状況を測定できる。特
に2.5節で説明したように軸索内を伝達する信号経路を追跡すれば、脳内に限らず体内の詳細な信号伝達経路とその働きが明らかになる。
6.1.2)複数の検出手段が本実施例の生体活動検出方法に適用される
2章で説明した発火または信号伝達メカニズムモデルに基づき3章および4章で説明した波長範囲の電磁波(近赤外光または赤外光)を用いて細胞膜電位20の変化(図3)を検出する方法が、表6内の信号発生の物理現象と検出手段欄に記載された『脳・神経系での細胞膜電位変化』を示している。
また、2章で説明した発火および信号伝達メカニズムモデルに基づき5章で説明した範囲の化学シフト量に対応した核磁気共鳴における分光特性変化を検出する方法が、表6内の『fMRIでの活性化神経細胞分布』の測定を意味している。
上記の本実施例説明で初めて提案した上記検出手段に限らず、本実施例では他の既存の検出手段を使用してもよい。すなわち先行技術1を、表6における『血液中の酸素濃度変化』の検出が示している。
また、表6における『fMRIでの酸素濃度変化』の検出が先行技術2に対応する。
そして、表6における『サーモグラフィーによる温度変化』が「赤外線分光法を利用したイメージング技術(赤外線カメラを含む。)」を意味し、さらに表6における『血液中での近赤外光吸収量変化』が「近赤外光を利用したイメージング技術(血管パターンを用いた個人認証への応用等)」のことを言っている。
表6に示す検出手段の傾向として、表皮からの深さが比較的浅い場ところでの生体活動を検出する場合には赤外光および近赤外光のうち少なくとも一方を利用している。それに対して表皮からの深さが比較的深い場ところでの生体活動検出には核磁気共鳴(fMRI)を利用する傾向がある。ところで先行技術2では、相対的に空間分解能が低い。したがって深部での神経細胞間の信号伝達および情報処理活動などの高度な測定を行う場合には、時間分解能と空間分解の高さからfMRIでの活性化神経細胞分布の方が適している。
6.1.3)表皮近傍から非常に深い位置までの生体内部における生体活動を検出/制
御対象とする
表6が示すように、本実施例では表皮近傍から非常に深い位置までの生体内部における生体活動の検出または生体活動の制御を対象としている。これには、生体内部における3次元空間内での特定場所からの生体活動検出信号の抽出技術あるいは特定場所への選択的な生体活動制御技術が必要となる。
それを実現する本実施例の第1段階として、生体内部における『生体活動検出/制御場所の位置合わせとその保持』を行うために(1)3次元に配置された生体内の構造内容(生体を構成する全部品配置)の解釈と(2)(1)の解釈結果に基づく、3次元内での測定対象物位置の割り出しと位置合わせ制御を行う。
そして、第2段階として(3)(2)で指定された位置での『生体活動検出信号の抽出』または『局所的な生体活動制御』の操作を行う。ここで上記の第1段階と第2段階は時系列的順番にしたがって実施してもよいし、同時に実施してもよい。
ここで上記(1)と(2)の操作の中で行う『生体活動検出/制御場所の位置検出』を
以降では『第1の検出』と呼ぶ。本実施例ではこの第1の検出に、後述する波長範囲を持った電磁波(または光)を利用する(具体的な内容は、6.2節で説明する)。
また上記(3)の操作を以降では『第2の検出』と呼ぶ。そしてこの第2の検出には、特定波長の電磁波もしくは特定の化学シフト量に対応した電磁波を含む電磁波を利用する(この具体的な内容は、6.3節で説明する)。
したがって、以上の説明を言い換えると、「本実施例では生体内部における生体活動の検出または制御に関して、『電磁波の検出を行う第1の検出』と、『特定波長の電磁波もしくは特定の化学シフト量に対応した電磁波を含む電磁波を検出する第2の検出』または『特定波長の電磁波を含む電磁波を用いた制御』から構成され」ており、第1の検出結果に基づいて第2の検出または制御を行うことになる。この具体的な手順は、第1の検出により3次元内での測定/制御対象物位置の割り出しを行い、その割り出した生体内の位置から第2の検出により生体活動に関する検出信号を得るまたはその割り出した位置に対して特定波長を含む電磁波を照射して局所的に生体活動を制御する事になる。しかしそれに限らず本実施例では、[1]第1の検出により3次元内での測定/制御対象物位置の割り出しを行い、[2]その割り出した生体内の位置から第2の検出により生体活動に関する検出信号を得た後、
[3]その検出信号に基づいて(照射する電磁波の強度を変えて)局所的に生体活動を制御してもよい。
このように、生体活動検出/制御場所の位置検出と位置制御を行うための第1の検出と実際の生体活動検出を行う第2の検出を組み合わせた。
本実施例では生体活動検出を行う第2の検出または制御とは別に生体活動検出場所の位置検出と位置制御をする第1の検出を行うため、第2の検出を行う測定部(後述する生体活動検出部)をユーザの体に直接装着せず、ユーザから離れた位置に固定できる。そのため生体活動検出を意識せずにユーザが自由に動き回れるので、ユーザの負担が大幅に緩和されると共に大きく利便性が向上する。
ここで上記の『特定波長の電磁波』とは、表6における「脳・神経系での細胞膜電位変化」を検出する場合には、4.7節で説明した「波長が0.840[μm]から50[μm]の範囲内の光」を意味し、表6における「周辺血液中の酸素濃度変化」を検出する場合には「波長が780[nm]および805[nm]または830[nm]の光」を意味する。また、表6での「サーモグラフィーによる温度変化」を検出する場合には、「波長が8.7[μm]周辺の赤外光」を意味する。今、波長が8.7[μm]の根拠を説明する。サーモグラフィーは生体表面から放出される黒体輻射光を検出するが、この黒体輻射光の極大強度波長は放出される生体表面温度に依存する。そして人間の体温に対応した極大強度波長を計算すると8.7[μm]が得られるので、上記の数値を表した。
一方『特定の化学シフト量に対応した電磁波』とは、表6における「fMRIでの活性化神経細胞分布」を検出する場合には、5.2節で説明した「δ1.7[ppm]以上でしかもδ4.5[ppm]以下の範囲内での化学シフト量に対応した電磁波」を意味し、表6における「fMRIでの酸素濃度変化」を検出する場合には「磁化率の変化に対応した化学シフト量に対応した電磁波」を意味する。
ところで本実施例では、生体内から自然に放出される電磁波の中から上記特定波長の電磁波を検出してもよい。しかし自然放出される電磁波では強度が低いため、検出信号のS/N比を大きく取り辛い。その対策として本実施例では、前記特定波長の電磁波もしくは特定の化学シフト量に対応した電磁波を含む電磁波の生体内部への照射を行い、生体内部
から得られた前記照射光を検出して第2の検出を行う。それにより検出信号に対する検出精度を向上できる。さらに4.7節で説明したように、生体へ照射を行う電磁波に対して基準周波数が0.2[Hz]以上で500[kHz]以下の変調を掛けてより一層の検出信号の精度を向上させてもよい。
ところで、第2の検出により生体活動に関する検出信号を得るための生体内の検出対象場所もしくは生体活動制御場所を設定するために行う第1の検出に使用される電磁波の波長は、第2の検出で使用される電磁波の波長と一致させてもよい。しかし本実施例において両者の電磁波の波長域を変えて(すなわち第1の検出に使用される電磁波の周波数分布における最大強度の波長は第2の検出対象となる電磁波が含む上記特定波長または特定化学シフト量とは異なるように設定して)、第1の検出に用いられる電磁波と第2の検出または制御に用いられる電磁波間の干渉を除去させる。この場合には、第1と第2の検出口(信号検出部の入り口)に特定波長光を遮断する色フィルタを配置し、互いの検出に利用される電磁波が反対側への混入を阻止している。
第1の検出と第2の検出または制御で使用する電磁波の波長を変える本実施例における具体的な方法は、可視光に感度を持つカメラを用いて3次元内での測定対象物の位置を検出し、前述した赤外光または近赤外光で生体活動を検出する生体内の水濃度分布をMRIで
測定するかCTスキャンを用いて測定対象物の位置を決定し、その位置の生体活動に関する検出信号をfMRIで検出する生体内の水濃度分布をMRIで測定するかCTスキャンを用いて測
定対象物の位置を決定し、その位置の生体活動に関する検出信号の検出または制御に赤外光または近赤外光を用いる。
ここで、今後の実施例説明に使用する用語の定義を行う。今後は下記の定義にしたがって用語を統一的に使用する。まずある種の電磁波に関する情報(例えば強度、強度変化、位相量、位相変化、周波数値または周波数変化など)を得る操作を『検出』と定義する。そして本説明文中ではこの検出に関して、前述したように『第1の検出』と『第2の検出』の2種類が定義される。また、この第2の検出を狭義的には『生体活動検出』とも呼ぶ。しかし、これに限らず、第1の検出と第2の検出を総称して『生体活動検出』と呼んでもよい。そして、検出の結果得られた信号を『検出信号』、生体活動検出の結果得られた信号を『生体活動検出信号』と本明細書では呼ぶ。
したがって、表6の「信号発生の物理現象と検出手段」欄で記載された物理現象から直接得られる信号は『第2の検出の結果得られる検出信号』に対応するが、ここ以降で用語の解釈に混乱が起きない場合には略して『検出信号』と呼ぶ場合がある。
前記のように、あらゆる生命活動の中で特に物理化学現象を伴い時間と共に状態が変化し得る生命活動を『生体活動』に含める。表6では生体活動の例として脳・神経系の活動に的を絞って説明を行っているが、前記のように本実施例の範囲はそれに限らず、前記生体活動に合致する活動の検出全てが対象となる。あるいは本実施例内では「電磁波を用いて非接触に検出可能な生体の状態もしくは状態変化(時間的な変化または空間的な変化)」を生体活動と定義してもよい。
ところで、表6に示した脳・神経系の活動に的を絞った生体活動の一例として「脳・神経系内の信号伝達(伝達経路または伝達状況)」から始まって「反射反応」、「無意識的活動」、「認知反応」、「認識・判別反応」、「情動反応」、「情報処理」、「思考・思索過程」などが存在するが、これらある種の「統制された高次の生体活動」を『生体活動情報』と定義する(統合失調症患者の症状も、部分的にはある程度統制されているので、統制された高次の生体活動に含める)。
あるいは「(例えば細胞間の)複合作用により活動が生じ、解釈可能または識別可能なこの複合作用に関する情報」を『生体活動情報』とも定義できる。植物または微生物の活動でも、何らかの統制された複合作用を含む場合には生体活動情報に含める。そしてこの生体活動情報を獲得するには、生体内部の動的な生体活動の信号が含まれる生体活動検出信号の内容を解析して生体活動情報を生成する必要がある。この生体活動検出信号から生体活動情報を生成する過程を『生体活動の解析』と呼ぶ。また生体活動検出信号の獲得から生体活動情報を生成する範囲までを『生命活動測定』と呼ぶ場合もある。
また、生体活動に関連した信号を持った特定波長光を含む光または生体活動に関連した信号を持った特定の化学シフト量に関係した電磁波を含む電磁波を受光(受信)し、そこから生体活動検出信号を検出する部分を『信号検出部』と呼ぶ。そして信号検出部内において前記光または電磁波を受けて電気信号に変換する部分を広義の『生体活動検出用光電変換部』と名付け、前記光または電磁波を受けて電気信号に変換する方法を『生体活動検出用光電変換方法』と呼ぶ。また前記信号検出部内における前記光電気変換部で得られた電気信号の増幅から信号処理までを含めた電気的な検出部を『生体活動検出回路』と呼ぶ。
そして一つの実施例として6.3.3節で示す構造を有する生体活動検出用光電変換部では、特定の化学シフト量に関係した電磁波を検出用コイル84で検出(電気信号に変換)する。一方,他の実施例として6.3.1節または6.3.2節で示す構造を有する生体活動検出用光電変換部では、 特定波長光(近赤外光または赤外光)を光電変換する。
そして生体活動検出用光電変換部の実施例の中で、前述した特定波長光を含む光の光電変換のために使用される(光電変換の前段として配置される)光学系を『生体活動検出用光学系』と名付ける。
ところで、本実施例の中では生体活動検出信号のS/N比を大きく取るため、上記の特定波長の(または特定の化学シフト量に関係した)電磁波を所定の基準周波数で変調して測定対象(または検出対象)となる生体に照射する方法もある。この場合の少なくとも上記の特定波長の(または特定の化学シフト量に関係した)電磁波(または光)を発生させる部分を『光源部』と名付ける。そして上記信号検出部と光源部から構成される全体を『生体活動検出部』と呼ぶ。ここで光源部を持たない実施例に関しては、上記生体活動検出部が信号検出部に対応する。ところでここまで説明した各用語間の関係を、図31で図解により示す。そして上記生体活動検出部内の各部分の具体的な動作および機能については、6.4.1節で後述する。
一方、前述した生体活動検出場所の位置合わせとその保持を行うために第1の検出を行う部分を『生体活動検出の位置検出部』あるいは略して『位置検出部』と呼ぶ。そしてさらに前記『生体活動検出部』と前記『生体活動検出の位置検出部』から構成される全体を『生体検出部』と呼ぶ。そしてこの生体検出部内では生体活動検出の位置検出部と生体活動検出部間で信号伝達される。つまりこの節の最初に説明したように、位置検出部での位置検出結果に基づいて生体活動検出部による生体活動の検出が行われる。
6.1.4)検出信号から生体活動情報の生成を行う
6.1.3節で説明した方法で動的な生体活動に関する検出信号は得られる。しかしその検出信号から生体活動情報を得るには、検出信号の解析処理が必要となる。それには蓄積されたデータベースと検出信号を比較して生体活動情報を生成する。
6.1.5)生体活動間の関連を利用し、比較的簡潔な検出信号から複雑な活動内容が
予測可能
表6では測定対象となる生体活動内容毎の検出信号の複雑さが表示されている。そして生体の表皮から見て浅い位置での生体活動は比較的検出信号が簡素で、その検出信号からは比較的容易に生体活動情報の生成が可能と思われる。それに比べ、脊髄から脳幹を経て大脳辺縁系、大脳基底核、大脳皮質に至る領域から得られる検出信号は複雑で、生体活動情報の生成には技術的な難しさが伴う。ところで、図1が示すように、浅い位置での生体活動は深い位置での生体活動と連携している。この関係を利用して本実施例では、比較的浅い位置での生体活動に関する検出信号から深い位置での生体活動情報を予想する所に特徴がある。
具体的一例として表6に記載された毛細血管および筋肉(特に顔の筋肉)の活動を示す検出信号から中枢神経層7(図1)の生体活動情報を予測する方法が上げられる(6.5.4節で後述)。
6.2)生体活動検出/制御場所の位置合わせと保持方法
6.1.3節で説明した第1の検出手段を用いて(1)の3次元内の空間的配置状況を理解し、そしてその結果に基づいて(2)の3次元内で生体活動検出を行う場所または生体活動制御場所(測定対象物の位置)を割り出すと共に位置合わせ制御を行う方法を説明する。
6.2.1)被検出/制御点を含む断面画像を検出して検出位置を設定する方法
本実施例における生体活動の位置検出部の中で使用される、被検出点を含む断面画像を検出する基本原理について図20を用いて説明する。なお図20、図21、図23、図24、図26および図28内で記載された生体活動検出場所(被測定点)30は、本実施例では生体内の局部的に作用される生体活動制御の対象領域にも相当する。この図20上では記載を省略したが、反射形光学顕微鏡のように生体活動検出場所(被測定点)30周辺に対して広域に、対物レンズ31を経由して光(または電磁波)を照射させている。そして、照射された光(または電磁波)は、α、βおよびγの各点が含まれる2次元平面で構成される生体活動検出場所(被測定点)30およびその周辺部で乱反射する。この現象を利用してα、βおよびγの各点が含まれる2次元平面(生体活動検出場所(被測定点)30)上での乱反射光を生体活動検出場所の検出光に利用する。
ところで、生体内部での生体活動検出信号を得る場所あるいは生体活動の制御を行う場所(生体活動検出場所(被測定点)30)を探す(位置検出する)には、まず始めに6.1.3節内の(1)に対応してα、βおよびγの各点が含まれる2次元平面上での生体内構造の解釈(生体を構成する各部品内容の解釈と配置状況の把握)が必要となる。それには従来の光学顕微鏡で表面構造を把握する場合に表面で乱反射する光の強度変化を検出するのと同様に、上記2次元平面上での各点の乱反射光の強度変化を測定する。
しかし、従来の光学顕微鏡と異なり、本実施例では生体内部の特定断面での画像(検出信号パターン)を検出する必要がある。そのため、本実施例では生体内部の断面検出に共焦光学系の特徴を利用する。
すなわち、検出レンズ32の後ろ側焦点位置にピンホール35を配置し、このピンホールを通過した検出光のみを光検出器36で検出する。すると生体活動検出場所(被測定点)30以外の場ところで乱反射して対物レンズ31を通過した光は検出光の光路33途中で非平行光状態になるため、ピンホール35の位置では非常に広いスポット断面(非常に大きなスポット径)を形成し、ほとんどの光はピンホール35を通過できない。
したがって、光検出器36は対物レンズ31と検出レンズ32間の検出光の光路33で平行光状態の検出光しか検出できないため、対物レンズ31の前側焦点面位置から発光する検出光のみが検出できる。したがって、生体活動検出場所(被測定点)30を前記対物レンズ31の前側焦点面位置に一致させることで、生体活動検出場所(被測定点)30のみから得られる検出信号が光検出器36で検出できる。
ここで、対物レンズ31と検出レンズ32間に2軸方向での傾斜可能な反射鏡(ガルバーミラー)34を配置させる。反射鏡(ガルバーミラー)34を傾ける前の状態では、生体活動検出場所(被測定点)30上のα位置から放出される検出光のみが光検出器36上で検出できる。また反射鏡(ガルバーミラー)34を右側に傾けた場合にはγ位置から、そして左側に傾けた場合には β位置から放出された検出光のみが検出できる。
図20では左右方向に傾けた場合を示しているが、それに限らず前後方向に傾けた場合には紙面に垂直な方向にずれた位置から放出される検出光を検出できる。このように反射鏡(ガルバーミラー)34を2軸方向にスキャンニング(走査)させると共にその傾き量に同期して時系列的に光検出器36で検出される光量をモニターすることで、生体活動検出場所(被測定点)30上で乱反射した光から得られる2次元の検出信号パターンが得られる。
次に6.1.3節の(2)に対応し、対物レンズ31の光軸に直交する2次元方向での生体活動検出場所(被測定点)30に対する現在の検出位置のずれ方向とずれ量の検出方法とその補正方法(位置合わせ方法)について説明する。図20に記載した光学系では図示して無いが、対物レンズ31と固定部との間に板バネまたはワイヤーなどの弾力性を持った部材を介在させて、対物レンズ31が3軸方向に移動可能な構造となっている。また図示して無いが対物レンズには3種類のボイスコイルが連結され、3種類のボイスコイルの一部はいずれも固定磁石で生成される直流磁界中に配置されている。それにより個々のボイスコイルに電流を流すと、電磁力の働きで対物レンズ31が3軸中の1軸方向にそれぞれ独立に移動できる。
本実施例では生体活動検出信号の抽出(6.1.3節内で説明した(3)の)対象となる生体活動検出場所(被測定点)30を予め決めておき、そこから得られる検出信号パターンを予め記憶しておく。この検出信号パターンは反射鏡(ガルバーミラー)34の2軸方向でのスキャンニング(走査)と同期した光検出器36からの検出信号として得られ、生体活動検出場所(被測定点)30における乱反射光量分布を表す2次元の画像情報を意味している。次にまず対物レンズ31を生体活動検出場所(被測定点)30に近い適当な場所に配置し、その時に得られる反射鏡(ガルバーミラー)34の2軸方向の傾き量に同期した光検出器36から得られる2次元信号検出パターン(モニター信号)と上記の予め記憶した検出信号パターンとを比較する。
このときパターンマッチング法を利用し、対物レンズ31の光軸に直交する方向での理想的位置(上記予め記憶した検出信号パターンが意味する2次元画像情報における画像の中心位置)に対する現在得られている検出信号パターンが意味する2次元画像情報が示す検出位置ずれ方向およびずれ量を算出する。
このように対物レンズ31の光軸に直交する方向でのずれ方向とずれ量が得られると、対物レンズ31に連結されて一体構造を有する前述のボイスコイルに電流を流して、対物レンズ31を光軸に直交する2軸方向に移動させて生体活動検出場所(被測定点)30の位置合わせを行う。このような電気的なフィードバックを検出期間中連続的に続けて、対物レンズを所定位置(生体活動検出場所(被測定点)30を測定できる場所)に保持する
今度は、対物レンズ31の光軸に沿った方向での生体活動検出場所のモニター検出方法(6.1.3節における(1)と(2)の操作)の説明を行う。基本的な原理は共焦(結像)光学系の特徴を利用して生体内部での深さの異なる複数領域での断面画像を抽出し、事前に記憶した断面画像情報間のパターン一致度を計算して、対物レンズ31の光軸に沿った方向での現在の位置を検出する。以下にその具体的な説明を行う。
まず、生体活動検出場所(被測定点)30におけるα位置から放出された光が、図21に示すようにピンホール35−1のところで集光する場合を考える。するとα位置より深い位置のδ位置から放出された光は、ピンホール35−1より前方に配置されたピンホール35−3のところで集光され、光検出器36−3で検出される。同様にα位置より浅い位置のε位置から放出された光は、ピンホール35−1より後方に配置されたピンホール35−2のところで集光され、光検出器36−2で検出される。光軸に直交させる方向でこれらピンホール35−1から35−3へ向けて配置位置をずらせるように、図21では検出系にグレーティング37を配置して光軸を傾けている。このような光学配置にして反射鏡(ガルバーミラー)34を2軸方向にスキャンニング(走査)させると、対物レンズ31の光軸に直交してδ位置を含む平面上での検出信号パターンが光検出器36−3から得られる。同様に対物レンズ31の光軸に直交してε位置を含む平面上での検出信号パターンが、光検出器36−2から得られる。
一方、事前に生体活動検出場所(被測定点)30およびその手前側と奥側で得られる検出信号パターンを事前に記憶しておく。このときには対物レンズ31が理想位置(生体活動検出場所(被測定点)30を測定できる場所)に配置された時のδ位置とε位置を含む平面上での検出信号パターンだけで無く、さらに大きく奥側と手前側にずれた位置での検出信号パターンも同時に記憶しておく。
そして、これら事前に記憶した検出信号パターンと光検出器36−1から36−3までで得られる検出信号パターンとの比較(対物レンズ31の光軸に直行直交する2次元方向でのずれ量も考慮したパターンマッチング)をすることで、光軸方向での現在の対物レンズ31の位置が指定位置の手前側にあるか奥側にあるかを判断できる。
そして、このパターンマッチング処理では、現在各光検出器36−3、−1、−2から得られている検出信号パターンと事前に記憶した各位置での検出信号パターンの一致度を計算し、その一致度が最も高い所に現在の対物レンズ31が位置していると予想する。
例えば、事前に記憶した検出信号パターンとの一致度を計算した結果、反射鏡(ガルバーミラー)34の2軸方向のスキャンニング(走査)と同期して光検出器36−2から現在得られる2次元に対応した検出信号パターンが事前に記憶した生体活動検出場所(被測定点)30から得られる検出信号パターンに最も一致度が高い場合を考える。
その場合には、図21から、現在の対物レンズ31の場所が生体活動検出場所(被測定点)30に近過ぎることが分かる。そのように検出されると、対物レンズ31に連結されて一体構造を有するボイスコイルに電流を流して対物レンズを光軸に沿って後方に移動させる。そして生体活動検出場所(被測定点)30の測定に最も適した位置に対物レンズ31が設定されると、反射鏡(ガルバーミラー)34の2軸方向のスキャンニング(走査)と同期して光検出器36−1から得られる検出信号パターンが事前に記憶した生体活動検出場所(被測定点)30から得られる検出信号パターンと一致する。
生体活動検出場所(被測定点)30の測定場所から大きく対物レンズ31がずれていて
も、前述したように大きくずれた時の信号パターンを記憶しておけば、その信号パターンとのパターンマッチングを取る(パターンの一致度を計算する)事により対物レンズ31のずれ方向とずれ量が予想できる。
6.2.2)生体表面上の特定位置を検出して被検出点位置を予測設定する方法
6.2.1節で説明した方法では生体活動検出場所(被測定点)30を含む断面パターンを直接検出して被検出点位置を割り出した。他の実施例として生体表面から被検出点位置までの深さが事前に分かっている場合には、3次元内での生体表面位置を検出して自動的に被検出点の位置を予測する方法を提案する。
生体活動の位置検出部46に関する他の本実施例(第2の原理)として新たに提案する、生体表面の目印位置40の生体活動検出部からの相対位置の検出方法を図22を用いて説明する。前提として一般家庭用照明により生体表面を照らし、生体表面41上で乱反射された光を検出に利用する場合を想定する。しかし他の本実施例ではそれに限らず、生体表面41を照明するための特定の光源を備えてもよい。
ここで説明する被検出点の位置を検出するための他の実施例に示した第2の原理は『三角法』の原理を利用する。すなわち図22に示す他の実施例では、生体活動検出部内に複数のカメラ用レンズ42とその後ろに配置された2次元の画像を検出できる複数の2次元光検出器43(CCDセンサなど)が装備されている。そして生体表面の目印位置40から放出された(生体表面の目印位置40で乱反射された)光は、カメラ用レンズ42−1の作用で2次元光検出器43−1上の一点に集光する。同様にカメラ用レンズ42−2の作用で2次元光検出器43−2上の一点に集光する。したがって2次元光検出器43−1と43−2上で結像された生体表面の目印位置40の投影場所から、三角法を用いて生体表面41の生体活動検出部表面からの距離44と生体表面の目印位置40の横方向と奥行き方向での位置を割り出す。
また、図22に示す実施例では、前述した生体活動の位置検出部46と生体活動検出部101が一体保持されている所に特徴がある。このように一体保持されている結果、予め生体活動検出場所(被測定点)30の生体表面からの深さが分かっていれば、生体活動検出部表面45からの生体活動検出場所(被測定点)30までの距離が予想できる。
6.3)生体活動検出用光電変換方法
6.1.3節で説明した第2の検出手段を用いて(3)の生体内の指定された位置から生体活動検出信号を抽出する方法(第2の検出方法)の基本原理を説明する。
6.3.1)共焦光学系の活用
最初の本実施例として、6.2.1節で説明した技術的工夫と同様に共焦光学系の特徴を利用する方法について説明する。この実施例の基本原理は『生体内部の1点から四方に向けて放出された光は、共焦位置または結像位置の1点に再び集光する』という光学原理を応用し、『共焦位置または結像位置の1点に集光した光だけを抽出して、対応する生体内部の1点から放出された光を検出』するところに特徴がある。
上記基本原理に基づいて生体内部の特定位置からの生体活動検出信号を検出するために構成される信号検出部内における生体活動検出用光学系の一実施例を図23に示す。そして図23の生体活動検出用光学系の動作原理を図24と図25に示す。
図23に示す実施例では、生体内部での深さが異なる3平面領域(δ、α、ε)での生体活動を同時に測定可能な光学系になっている。すなわち、対物レンズ31と検出レンズ32で構成される光学系において、生体内部での生体活動検出場所(被測定点)30α位置を含む平面領域に対する結像面位置に2次元液晶シャッター51−1を配置する。この2次元液晶シャッター51−1内では図25(a)に示すように、部分的にピンホール状の2次元液晶シャッター内光透過部56が設定可能になっている。
したがって、2次元液晶シャッター51−1を通過する光の中で、この2次元液晶シャッター内光透過部56の中を通過する光しか透過できない。その結果、この2次元液晶シャッター内光透過部56と共焦関係(結像関係)にある生体活動検出場所(被測定点)30α位置上の一点から放出(または乱反射)された光のみが横方向1次元配列光検出セル54−1と縦方向1次元配列光検出セル55−2に到達可能となる。
したがって、α点を含む2次元平面で構成される生体活動検出場所(被測定点)30αから検出される生体活動検出信号は、横方向1次元配列光検出セル54−1と縦方向1次元配列光検出セル55−1により直接検出される(詳細は後述)。一方生体活動検出場所(被測定点)30αより深い領域に存在しδ点を含む平面領域から構成される生体活動検出場所(被測定点)30δに対する結像面位置に2次元液晶シャッター51−3を配置することで、ここから検出される2次元上の生体活動検出信号は、横方向1次元配列光検出セル54−3と縦方向1次元配列光検出セル55−3で検出される。
さらに、生体活動検出場所(被測定点)30αより浅い領域に存在しε点を含む平面領域から構成される生体活動検出場所(被測定点)30εに対する結像面位置に2次元液晶シャッター51−2を配置することで、ここから検出される2次元上の生体活動検出信号が横方向1次元配列光検出セル54−2と縦方向1次元配列光検出セル55−2で検出される。
図23では生体活動検出場所(被測定点)30から得られる光(または電磁波)の抽出に特定領域の自動開閉が可能な2次元液晶シャッター51を使用している。しかし、それに限らず特定領域の自動開閉が可能な光学部品として、EO(Electrical Optics)またはAO(Acoustic Optics)を用いた2次元変調素子を用いてもよい。またさらに、特定領域の自動開閉が不可能な固定タイプの機械的ピンホールまたはスリットあるいは微少な屈折体または回折素子を使用してもよい。
ところで、図23で示される生体活動検出用光学系が含まれる生体活動検出部(用語の定義は、6.1.3節を参照)と併用され、生体内部での生体活動検出信号を得る場所の検出と位置合わせ制御(6.1.3節で説明した(1)と(2)の操作)には、図20と図21で表示して6.2.1節で説明した『生体内部での断面画像を検出』する方法を採用する。
この生体内部の特定断面位置での2次元の乱反射光量変化パターンを検出すると、その特定断面上での脳・神経細胞内の神経細胞体1および軸索2の位置並びに神経筋接合部5の位置(図1参照)だけでなく、筋肉細胞6およびグリア細胞(Astrocyte)の配置状況まで分かる。
したがって測定対象となる特定断面内で生体活動を検出したい場所(例えば神経細胞体または軸索内の特定位置)から放出(乱反射)された光(または電磁波)を対物レンズ31と検出レンズ32で集め、集光位置(生体活動検出場所(被測定点)30に対する結像位置または共焦位置)でその光を抽出する。
図23で示した生体活動検出用光学系において、生体内部の特定位置からの生体活動検出信号を検出する原理を、図24を用いて詳細に説明する。図24では生体活動検出場所(被測定点)30αから放出(乱反射)された光は2次元液晶シャッター51上でμ地点に集光(結像)するので、この部分だけ局所的に液晶シャッターを開けて2次元液晶シャッター内光透過部56μとする。同様に生体活動検出場所(被測定点)30βから放出(乱反射)された光が集光(結像)するζ地点を2次元液晶シャッター内光透過部56ζとする。
一方、これらとは異なるη位置から放出(乱反射)された光(図24において「波線」で示した検出光の光路33参照)は2次元液晶シャッター51上で非常に大きく広がっているため、大部分は2次元液晶シャッター51で遮光される。そして非常にわずかな光は2次元液晶シャッター内光透過部56μ内を通過するが、ここを通過する光は非常にわずかなため縦方向1次元配列光検出セル55上ではノイズ成分に埋もれてしまう。
上記のように、生体内部の特定断面位置に対する結像面の位置または共焦位置で『特定領域を通過する光もしくは電磁波を選択的に抽出する』ことで生体内部の特定位置からの生体活動検出信号を選択的に抽出できる。したがって特定領域を通過する光もしくは電磁波を選択的に抽出する光学素子の配置場所を変化させて、生体内部での深さ方向が異なる複数領域内での生体活動を同時に検出することも可能である。
その場合には生体内部から得られる光もしくは電磁波を複数に光量分割し、分割した光(電磁波)それぞれの異なる結像面の位置(共焦位置)に上記の特定領域を通過する光もしくは電磁波を選択的に抽出する光学素子を配置する。
図23では、生体活動検出場所(被測定点)30αに対する結像面の位置に2次元液晶シャッター51−1が配置され、生体活動検出場所(被測定点)30δと30εに対する結像面の位置に2次元液晶シャッター51−3と51−2が配置されている。
ところで、図23ではグレーティング37により生体内部から得られる光もしくは電磁波を3方向に進む光(電磁波)に分割しているが、それに限らずグレーティング37の設計方法を変えて5方向に進む光(電磁波)または7方向に進む光(電磁波)に分割できる。また生体内部から得られる光もしくは電磁波の光量分割手段として、他にハーフミラーまたはハーフプリズムもしくは偏光性のミラーまたはプリズムを使ってもよい。
次に、生体活動検出信号を直接得る方法について説明する。図24に示すように2次元液晶シャッター51を用いて生体内の特定の生体活動検出場所(被測定点)30から得られる光もしくは電磁波のみを抽出した後は、集光レンズ52で形成される集光面(再結像面)上に光検出器を配置して光電変換を用いて生体活動検出信号を得る。そしてここにはCCDセンサなどの2次元の光検出素子(光検出アレイ)を配置してもよい。
しかし、例えば表6に示す脳・神経系での細胞膜電位変化の検出に対応して「複数の脳・神経細胞の発火状況変化を1個ずつ同時に時系列的にトレースする」などの生体内部で高速に変化する動的な生体活動の検出を試みる場合、CCDセンサでは応答速度が足りなくなる。
それに対して図23〜図25に示す実施例では、高速な変化を時系列的にトレースが可能な1次元配列光検出セル54、55をマトリックス状に組み合わせて同時かつリアルタイムで2次元上の高速変化を検出できるようにした。具体的には集光レンズ52を通過した光または電磁波を光量分割し、それぞれを横方向1次元配列光検出セル54と縦方向1次元配列光検出セル55へ向ける。図23では集光レンズ52を通過した光の光量分割に
、0次光透過率がほぼ0%で+1次光の透過率と−1次光の透過率の比率がほぼ1対1の特性を持つ光分配用グレーティング53を使用している。しかしそれに限らず、光量分割手段としてハーフミラーまたはハーフプリズムまたは偏光性ミラーまたはプリズムを使用してもよい。
配列方向が互いに傾いた関係にある横方向1次元配列光検出セル54と縦方向1次元配列光検出セル55を組み合わせて生体活動検出信号を得る方法について、図25を用いて説明する。
光検出セルa〜jを1次元方向(横方向)に配列し、各光検出セルa〜j間では互いに独立にしかも同時に信号検出を可能にしている。図示して無いが、各光検出セルa〜jにはそれぞれ独自にプリアンプと信号処理回路が接続されているので、平行して各光検出セルa〜jによる検出光量の高速な変化を時系列的にモニター可能となっている。このように光検出セルa〜j毎の検出光量変化を平行して検出できるため、1箇所のみに生じる非常に高速かつわずかな変化も見逃さずに検出が可能となる。
そして、図25(b)に示す横方向1次元配列光検出セルでは1次元方向での平行した検出光量変化を時系列的に検出できる。またさらにそれとは配列方向が傾いた(非平行関係にある)縦方向1次元配列光検出セルk〜tから得られる検出光量変化の情報を組み合わせて2次元平面内の1点での検出光量変化を抽出できる。
すなわち『互いに独立して同時に信号検出が可能な複数の光検出セル群(横方向1次元配列光検出セル54と 縦方向1次元配列光検出セル55)間の光検出セルの配列方向を
互いに傾けて(非平行)配置し、各光検出セル群から得られる複数の検出信号(それぞれの光検出セルa〜jとk〜tから得られる検出信号)をマトリックス状に組み合わせる』事により、2次元上に構成される生体活動検出場所(被測定点)30内の特定点のみから得られる検出信号の高速な変化を独立かつ連続した時系列として検出できるようにした所に図25に示した本一実施例の特徴がある。
ところで、図25の(b)と(c)では光検出セル群間の光検出セルの配列方向は互いに直交させているが、それに限らず光検出セルの配列方向間が非平行で有れば光検出セルの配列方向間の傾き角は90度から大幅にずれてもよい。
図25を用いて、具体的な説明を行う。まず始めに、図20と図21に示した光学系(6.2.1節参照)を用いて6.1.3節の(1)で示した生体内の構造解析を行った結果、生体活動検出場所(被測定点)30内に5個の脳・神経細胞の細胞体が発見された場合を想定する。そして、次に6.1.3節の(2)で示した位置合わせ制御を行い、測定対象の生体(例えば被験者)が多少動いても連動して対物レンズ31を動かして生体活動を検出する場所を相対的に固定する。
次に、6.1.3節の(3)で示した生体活動信号の抽出操作として、生体活動検出場所(被測定点)30内に存在する5個の脳・神経細胞の細胞体の配置場所に対応した2次元液晶シャッター51上の結像位置で局所的にシャッターを開き、2次元液晶シャッター内光透過部56ζ、θ、λ、μおよびξを形成する。
そして、集光レンズ52の働きで、2次元液晶シャッター内光透過部56ζ、θ、λ、μおよびξのそれぞれを通過した光は横方向1次元配列光検出セル54上では光検出セルb内のζ'点と光検出セルd内のθ'点、光検出セルf内のλ'点、光検出セルh内のμ'点、光検出セルj内のξ'点にそれぞれ集光する。また同様に2次元液晶シャッター内光透
過部56λ、ξ、θ、μおよびζのそれぞれを通過した光は、縦方向1次元配列光検出セ
ル55上では光検出セルl内のλ'点と光検出セルn内のξ'点、光検出セルp内のθ'点
、光検出セルr内のμ'点、光検出セルt内のζ'点にそれぞれ集光する。
例えば、2次元液晶シャッター内光透過部56μの結像位置関係にある脳・神経細胞が発火すると、それに応じてμ'位置での集束光の強度が瞬時に変化する。そしてその結果
として、光検出セルhおよびrからは図3に似た波形の検出信号が得られる。このように横方向1次元配列光検出セル54と縦方向1次元配列光検出セル55内のどの光検出セルから図3に似た波形の検出信号が得られるかを知ることで、生体活動検出場所(被測定点)30内でのどの脳・神経細胞が発火したかが分かる。
そして、後述するように生体活動検出回路内でパルスカウント処理を行って脳・神経細胞毎の特定時間内の発火回数を算出して活性化状態を検出する。
上記では生体活動の検出例として脳・神経細胞の発火(表6における脳・神経系での細胞膜電位変化に対応)を説明したが、それに限らず2次元液晶シャッター内光透過部56に対応した結像位置に軸索2の通り道あるいは神経筋接合部5または筋肉細胞6を設定すれば軸索2内の信号伝搬状況または筋肉への信号伝搬状況を測定できる。
上記に説明した実施例では2次元液晶シャッター内光透過部56ζ、θ、λ、μおよびξのそれぞれのサイズ(開口径)を比較的に小さく設定し、脳・神経細胞内の1個の神経細胞体1若しくは1個の筋肉細胞8、または軸索2若しくは神経筋接合部5など生体活動検出場所(被測定点)30上の小さな領域毎の生体活動を検出している。この実施例に対する他の応用例として、(1)図23において、全ての2次元液晶シャッター51−1、−2、−3の位置を同一の深さ位置(例えば生体活動検出場所(被測定点)30α)に対応した共焦位置または結像位置のみに配置する⇒ 固定された特定の深さ位置に対応した2次元方向での生体活動状況を検出する、(2)図25における2次元液晶シャッター内光透過部56ζ、θ、λ、μおよびξのそれぞれのサイズ(開口径)を広げることで、生体活動検出場所(被測定点)30α上の比較的広い範囲を単位とした生体活動を検出してもよい。この場合には図25(b)(c)上の集光点 ζ'、θ'、λ'、μ'およびξ'でのいずれの1個も、生体活動検出場所(被測定点)30α上の複数の脳・神経細胞に関係した活動信号が含まれる。したがって1個の集光点で1回の発火に対応したパルス信号を検出したとしても、発火した1個の脳・神経細胞の特定はできない。しかし上記集光点での発火に対応したパルス信号の発生頻度を検出することで、生体活動検出場所(被測定点)30α上の複数の脳・神経細胞で構成される特定領域内での活性化状態は検出できる。
この応用例により、(脳・神経細胞1個単位の活動よりも)若干巨視的に生体活動を把握することが可能となる。上記検出方法に対する特定目的の例として、大脳皮質内でのコラム単位の活動検出が上げられる。
2次元液晶シャッター内光透過部56ζ、θ、λ、μおよびξのそれぞれのサイズ(開口径)を広げると、異なる深さ位置にある脳・神経細胞からの発火信号が漏れ込み易いという問題が生じる。ところで人間の大脳皮質の厚みは2[mm]弱であり、深さ方向においてそれより手前側もしくは奥側の位置から発火信号が得られる可能性は低い。したがってこの応用例で大脳皮質の2[mm]厚み範囲内の脳・神経細胞の活動をまとめて検出すれば、(それより手前側もしくは奥側の位置では発火信号が発生しないので)その範囲を超えた異なる深さ位置から発火信号が漏れ込むという問題は解消される。
また大脳皮質は約0.5〜1.0[mm]幅のコラムから構成され、隣接するコラム間での信号伝達は比較的少ないと言われている。したがって上述した2次元液晶シャッター内光透過部56ζ、θ、λ、μおよびξのそれぞれのサイズ(開口径)を1個のコラムサ
イズ(約0.5〜1.0[mm])に合わせて設定することで、コラム単位での活動状態(例えばコラム毎の発火パルス検出頻度特性)を検出できる。
一方、大脳皮質内では、コラム単位での情報処理がなされている部分が多い。したがってこの実施例により、コラム単位での情報処理方法とその内容を初めて詳細に解明できるという効果がある。そして前記に記載した検出方法に加えて(3)1個の2次元液晶シャッター51では、2次元液晶シャッター内光透過部56に対応した位置に配置された1個のコラムに隣接する別のコラムの結像位置ではマスクを掛けて(遮光して)その隣接コラムからの発火信号の検出を防止し、その隣接コラムの結像位置に「別の2次元液晶シャッター51内光透過部56」を合わせ、その隣接コラムからの発火信号を別の光検出セル54、55で検出する、(4)(3)により異なる光検出セル54、55で得られた互いに隣接するコラムからの発火信号を用い、隣接コラムからのクロストーク(検出信号の漏れ込み)を信号の演算処理で除去する、の工夫を行うことで、隣接コラムからのクロストークを除去してコラム単位での信号検出精度が向上するという効果がある。
ところで上記の説明では2次元液晶シャッター内光透過部56に対応した結像位置での被測定物の検出範囲は10〜1000[μm]と比較的狭い領域での検出方法について説明した。それに比べて図23に示した生体活動検出用光学系を用いて表6の周辺血液中の酸素濃度変化を検出する場合には、検出領域をもっと広く設定する必要がある。そしてその広く設定した検出領域の広さに合わせて、2次元液晶シャッター内光透過部56ζ、θ、λ、μおよびξのそれぞれのサイズ(開口径)をさらに広げる必要がある。またこの場合には、図23では示して無いが図23に示す生体活動検出用光学系を複数配置し、検出光の光路33途中に波長が780[nm]、805[nm]および830[nm]の光を選択的に透過させる色フィルタを配置させる。そして波長が780[nm]、805[nm]および830[nm]の光を別々に検出して互いの検出光量の比率を計算する。そしてこの場合の生体活動の検出方法としては、(1)波長が780[nm]、805[nm]および830[nm]の検出光間の検出光量比の時間的変化、あるいは(2)波長が780[nm]、805[nm]および830[nm]の検出光間の検出光量比の事前に測定した値(基準値)に対する検出中に得られた値との比較を行う。
6.3.2)結像光学系による空間的変化量または時間的変化量の抽出
6.3.1節で説明した方法に対する他の応用例として、それ程高い空間分解能が要求されず、簡素化された生体活動検出用光学系を用いて安価かつ容易に(汎用的に)生体活動検出を行う場合に適した生体活動検出用光学系の説明を行う。
以下に説明する生体活動検出用光学系の応用例では、図26に示すように、生体内部の生体活動検出場所(被測定点)30に対する結像位置に光検出器36(の検出部に相当する光検出セルが配置された場所)を配置する。そして、生体(被験者)が動いても常に生体活動検出場所(被測定点)30に対する結像位置に光検出器36が来るように、生体(被験者)の動きに合わせて結像レンズ57を光軸方向に自動的に移動させる。
具体的には、生体(被験者)が動いてその結像位置から光検出器36が外れると、6.2.2節および図22で説明した方法を用いて生体(被験者)の動いた方向と動き量を予想(6.1.3節の(1)および(2)の一部に対応した位置決め操作)する。その結果として必要な補正量が分かると、6.1.3節の(2)の残りの操作に対応した位置合わせ制御として結像レンズ57を光軸方向に自動的に移動させて補正する。
図26の実施例では結像レンズ57が送りモーター(図示して無い)と連動しており、送りモーターの駆動動作に拠って結像レンズ57が光軸方向に沿って移動する。
ところで、図22で説明した測定対象物の位置検出は一般的な可視光を利用する。それに対して生体活動検出用光学系では近赤外光(または赤外光)を用いる。したがって生体活動検出用光学系に測定対象物の位置検出に使用される可視光がノイズ成分として混入しないように、検出光の光路33途中に色フィルタ60が配置されている。
今、生体活動検出場所(被測定点)30上のα位置で脳・神経細胞が発火した場合を考える。脳・神経細胞が発火して図3に示すように細胞膜電位20が変化すると、短時間だけ4.7節で説明した近赤外光(または赤外光)の波長範囲内での光吸収が生じる。そしてその結果、α位置での対応波長光の乱反射強度(もしくは透過光強度)が低下する。図26(a)に示すように光検出器36と生体活動検出場所(被測定点)30が結像位置関係にあると、α位置と共焦(結像)関係にある光検出器36内の光検出セルWだけにそれに対応した生体活動検出信号58が現れる。
もしも生体活動検出場所(被測定点)30から外れたδ位置(例えば生体表面41から見て生体活動検出場所(被測定点)30よりも深い場所)で脳・神経細胞が発火すると、δ位置で乱反射した(もしくはδ位置を透過した)検出光の光路33は光検出器36より前方で一度集光した後、断面スポットサイズの大きな検出光が光検出器36上の広い領域に亘って照射される。その結果、光検出器36内の光検出セルUからXの広い範囲に亘って生体活動検出信号58が検出されるだけで無く、図26(a)と比べて1個の光検出セルで検出される生体活動検出信号58の検出信号振幅が大幅に小さくなる。
したがって、1個の光検出セルのみに検出信号振幅の大きな生体活動検出信号58が得られた場合のみ、生体活動検出場所(被測定点)30上での生体活動が検出されたと解釈して生体活動検出信号58を抽出すればよい。
しかし、図26(b)のように非結像位置で発火した場合には、各光検出セルU〜Xで検出される生体活動検出信号58は多くの場合非常に検出信号振幅が小さいため、検出できずにノイズ成分に埋もれてしまう。
上記では生体活動検出信号58として表6での脳・神経系での細胞膜電位変化を検出する場合を説明した。それに限らず表6の周辺血液中の酸素濃度変化を検出する場合には、図26に示す生体活動検出用光学系を複数配置し、検出光の光路33途中に波長が780[nm]、805[nm]および830[nm]の光を選択的に透過させる色フィルタ60をそれぞれに配置させる必要がある。そして波長が780[nm]、805[nm]および830[nm]の光を別々に検出して、光検出セル毎に検出波長の異なる検出光量の比率を計算する。
そして、図26(a)のように光検出器36の結像位置にある生体活動検出場所(被測定点)30上から生体活動検出信号58が得られる場合には、特定光検出セルからの検出光量の比率が突出して変化する。そのため、周囲の光検出セルと比べて突出した検出光量の比率が発生した検出信号のみを生体活動検出信号58として抽出する。逆に隣接する光検出セルUVW間で検出光量の比率が余り変化しない場合には、図26(b)の状態もあり得るので生体活動検出信号58としては抽出しない。
このように、(A)周囲の光検出セルで得られた検出光量と比較して、特定の光検出セルのみの値(または比率)が大きく変化した(光検出器36上での空間分解能が高い)信号成分を生体活動検出信号58として抽出する。またそれに限らず、(B)各光検出セルでの 波長が780[nm]、805[nm]および830[nm]の検出光間の検出光
量比の時間的変化、あるいは(C)各光検出セル波長が780[nm]、805[nm]
および830[nm]の検出光間の検出光量比の事前に測定した値(基準値)に対する検出中に得られた値との比較によって生体活動検出信号58を抽出してもよい。
また、上記に限らず、図26に示した生体活動検出用光学系を表6のサーモグラフィーによる温度変化測定に応用してもよい。この場合にも、位置合わせ用に図22に示す位置検出用光学系を併用してもよい。つまり図26(a)に示すように生体表面41より深い位置にある生体内部が活性化すると、血流量が増して生体表面41の温度が局所的に上昇する。この生体表面41の温度分布を測定して生体活動検出場所(被測定点)30での活性化状態を間接的に測定する。この場合には、生体表面41の温度分布が生体活動検出信号58として抽出される。
前述した『脳・神経系での細胞膜電位変化』および『周辺血液中の酸素濃度変化』のうち少なくとも一方を検出する場合、図26の光検出器36としては一般的にCCDセンサを使うことができる。ところで生体活動検出場所(被測定点)30上での局所的な高速変化を継続的(時系列的)に検出する場合、CCDセンサでの検出は応答速度が間に合わない。本実施例ではこの場合には2次元上に配置された光検出セル38−01〜−15毎にプリアンプを設置し、全ての光検出セル38−01〜−15での検出光量を同時に並行して検出して、生体活動検出場所(被測定点)30上での局所的な高速変化を継続的(時系列的)に検出する。
その場合の光検出器36上の構造を図27に示す。光検出セル38−01から光検出セル38−05までで構成される光検出セル群は、図25(b)と(c)と同様1次元配列光検出セル列になっている。そして、各光検出セル38−01〜−05には、個々に直接光検出セル38に対応した生体活動検出回路の前段部85が接続されている。
この光検出セル38とその光検出セル38に対応した生体活動検出回路の前段部85は、光検出器36の半導体チップ上でモノリシックな形(同一の半導体チップ上に一緒にパターン形成されている)で形成されている。しかしそれに限らず光検出セル38とその光検出セル38に対応した生体活動検出回路の前段部85が別々の半導体チップで構成され、光検出器36の表面上に並んで配置されるハイブリッドな形で形成されてもよい。
光検出セル38に対応した生体活動検出回路の前段部85の中にはプリアンプおよび簡単な信号処理回路(6.4節で説明するパルスカウント回路など)が組み込まれ、その出力が検出回路前後から出力される検出信号ライン62に繋がっている。このように光検出器36内で光検出セル38毎にその光検出セル38に対応した生体活動検出回路の前段部85が直接接続されているため、非常な微弱な信号に対しても外乱ノイズの影響を余り受けずに安定かつ精度良く生体活動検出信号を抽出できる。
そして、光検出セル38−01から光検出セル38−05までで構成される光検出セル群の隣には、少し離れた位置に光検出セル38−11から光検出セル38−15までで構成される光検出セル群が配置され、それぞれの光検出セル38に対応した生体活動検出回路の前段部85が接続されている。このようにして2次元に配置された光検出セル38−01から光検出セル38−15により、生体活動検出場所(被測定点)30の2次元上に発生する生体活動を高速かつ連続的にそれぞれ独立して検出できる。
図27が示す光検出器36上では、かなり広い領域に光検出セル38に対応した生体活動検出回路の前段部85が配置されている。そして、生体活動検出場所(被測定点)30からの検出光がこの領域に照射されない工夫として、図28に示すように検出光の光路33途中(結像レンズ57と光検出器36との間)にレンチキュラーレンズ68を配置している。レンチキュラーレンズ68とは複数のシリンドリカルレンズ(レンズ表面の一部が
円柱形状を持ったレンズ)が並んだ形状をしており、局所的に検出光の光路33を変更させる働きがある。
ここで、図28では説明を簡素化するため、生体活動検出場所(被測定点)30上の各点から放出された(乱反射したもしくは透過した)検出光の光路33内で結像レンズ57の中心を通る光路のみを示した。この図28でのレンチキュラーレンズ68による光の屈折を利用して、生体活動検出場所(被測定点)30上の各点から放出された検出光は光検出セル38−2から −4には到達するが、各光検出セル38に対応した生体活動検出回
路の前段部85には照射しないようになっている。
ところで、図28に示した実施例では生体活動検出場所(被測定点)30からの光(または電磁波)が、光検出器36の領域内の光検出セル38に対応した生体活動検出回路の前段部85の領域には照射されず光検出セル38の領域のみに照射させるためにレンチキュラーレンズ68を採用している。
しかし、本実施例はそれに限らず、光検出器36内の特定領域のみに光を照射させる他の偏光素子または部分的な遮光素子を光検出器36に到達する前の検出光の光路33に配置してもよい。例えば前述した他の偏光素子として、ブレーズ化した(特定の領域内で傾きを持った)回折素子(例えば0次光と−1次光の透過率が共に0%に近く、+1次光の透過率が100%に近い特性を持った回折格子)を使うこともできる。
6.3.3)核磁気共鳴特性の高速変化を検出する方法
本実施例の他の応用例として、核磁気共鳴特性の高速変化を検出する方法について図29と図30を用いて説明する。
1個の脳・神経細胞が発火するとその細胞膜電位が一時的に変化するので、核磁気共鳴に拠って生じる5.2節で記載した化学シフト量の範囲内での電磁波の吸収(水素原子核内の磁気共鳴による励起)とその直後に発生する励起緩和に基づく電磁波の放出が発生する。
一方、脳・神経系内の特定部位(複数の脳・神経細胞から構成される比較的広範囲な領域)が活性化すると、短時間の間にその特定部位内の複数の脳・神経細胞が発火を繰り返す。そのため1個の脳・神経細胞での単独発火の検出では無く、特定の空間領域内において特定時間範囲での平均化された信号としてMRIまたはfMRIを用いて脳・神経系内の特定部位での活性化状況を生体活動検出信号として検出できる。したがって、6.3.1節または6.3.2節で説明した実施例とは異なる別の実施例では、MRI(Magnetic Resonance Imaging)またはfMRI(functional MRI)を用いて5.2節で記載した化学シフト量の範囲内での局所的な核磁気共鳴特性変化を検出して脳・神経細胞の細胞膜電位変化に対応した生体活動検出信号を検出する。
しかし、この実施例では検出できる生体活動検出信号の時間分解能は、現状のMRIまたはfMRIと同等レベルしか得られない。したがって、先行技術2では時間分解能と空間分解能が低いために1個の脳・神経細胞の単独発火を検出できない。
この問題点を解決して、生体内の核磁気共鳴特性の高速変化が検出できる他の応用例を図29に示す。図29(a)において(超伝導)磁石73と磁界調整用コイル72が設置された面と励起用コイル74が設置された面、2次元配列された核磁気共鳴特性変化検出用セルアレイ71が設置された面の間は、互いに直交するように配置されている。そして
ここでは従来のMRIまたはfMRIと同様に外部からの直流磁束密度の印加に、(超伝導)磁石73を使用している。さらに、検出対象となる生命体の一部(被験者の頭部など)75内での均一な磁束密度を形成するための磁束密度空間分布補正と、5.2節で記載した化学シフト量に合わせた直流磁束密度値の微調整のために磁界調整用コイル72を配置している。この磁界調整用コイル72は、従来のMRI装置またはfMRI装置でも使われている場合がある。
そして、図29で示した応用例で測定の対象となる生命体として、主に人体の特に頭部内の生体活動検出を対象としている。しかしそれに限らず、人体内の心臓などの内臓器官または肢体内部での生体活動の検出を行ってもよい。さらに犬または猫などの哺乳類に限らず、微生物にまで至るあらゆる生命体を検出対象となる生命体の一部75に設定してもよい。
また、この応用例として『励起用コイル74の中を通って検出対象となる生命体の一部(被験者の頭部など)75の出し入れを可能にしている』所に特徴がある。したがって励起用コイル74のサイズを大きくすることで、
例えば、人間のように大きな生命体に対してもその内部の生体活動検出ができる。さらに核磁気共鳴特性の変化を検出する面(2次元配列された核磁気共鳴特性変化検出用セルアレイ71が配置された面)を自由に使えるというメリットも生じる。この状況について以下に説明を行う。生体活動の検出を行うには(超伝導)磁石73および磁界調整用コイル72のそれぞれが作る直流磁束密度が分布している領域内への検出対象となる生命体の一部75を出し入れする必要があり、a)直流磁束密度が分布している領域内への検出対象となる生命体の一部75を設置するためのスペースの確保およびb)検出対象となる生命体の一部75の出し入れ可能な空間の確保が必要となる。
そして、この要求内容は、従来のMRI装置またはfMRI装置でも共通しているが、従来の装置では検出対象となる生命体の一部75の出し入れするための空間を核磁気共鳴特性の変化を検出するために設けられた検出用コイル(図29では図示して無い)側に設ける場合が多い。
ところで、図29の応用例で示すように、直流磁束密度を生成する(超伝導)磁石73側の面には検出対象となる生命体の一部75の出し入れができる空間は無い。そして従来のMRI装置またはfMRI装置のように検出対象となる生命体の一部75の出し入れするための空間を核磁気共鳴特性の変化を検出する面(2次元配列された核磁気共鳴特性変化検出用セルアレイ71が配置された面)側に設定すると、この面の物理的配置に大きな制約が生じて核磁気共鳴特性変化の検出方法の自由度が大幅に奪われてしまう。そのため図29の配置にすることで、核磁気共鳴特性変化の検出方法の自由度が大幅に向上する。
しかし、図29の配置にすると励起用コイル74の一周の長さ(円周)が長くなるため励起用コイル74内の電気的な抵抗値が上がり、励起用コイル74の周波数特性が低下し易いという問題が発生する。この問題を解決するため本応用例では励起用コイル74を構成する線材の断面積を広げて抵抗値を下げる工夫を行っている。
そして、図29に示した応用例では、生体活動の検出のための検出用コイル84の1周長(円周)が励起用コイル74より短い、検出用コイル84をそれぞれ含む複数の核磁気共鳴特性変化検出用セル80を2次元上に配置してアレイ状にする(図29(a)参照)、1個の核磁気共鳴特性変化検出用セル80内に生体活動検出回路の前段85を持たせ、検出用コイル84から得られる検出信号の増幅機能(プリアンプ機能)と前段レベルの信号処理機能を持たせる(図29(b)参照)ところに更なる特徴がある。
ここで、検出用コイル84の1周長(円周)を励起用コイル74より短く設定することで検出用コイル84内の電気的抵抗値を減らして検出用コイル84の信号検出の周波数特性が向上する。それにより高速に変化する生体活動検出信号をより精度良く検出できる。
ところで、従来のMRI装置またはfMRI装置では検出用コイル(図29では図示して無い)の外側にプリアンプを設置したため、検出用コイルとプリアンプとの間のケーブルを通って外乱ノイズが混入していた。それに対して本応用例では1個の核磁気共鳴特性変化検出用セル80内で1個の検出用コイル84毎に得られる検出信号に対するプリアンプ機能と前段レベルの信号処理機能を持たせることで、外乱ノイズの混入を減らして安定かつ精度良く生体活動検出信号が得られる。
この特徴について以下に詳細に説明する。図29(a)で示すように、生体活動の検出信号の一種である核磁気共鳴特性の変化を検出するために設けられた2次元配列された核磁気共鳴特性変化検出用セルアレイ71が検出対象となる生命体の一部(被験者の頭部など)75の紙面上で奥側と(図示して無いが)手前側の両方に配置されている。そしてこの2次元配列された核磁気共鳴特性変化検出用セルアレイ71内では、図29(b)で構造を示す1個の核磁気共鳴特性変化検出用セル80が2次元上に配列されてアレイ構造になっている。
ここで、図29(b)に示すように、生体活動検出回路の前段85に供給される電源ラインとグランドライン81と基準クロック+タイムスタンプ信号の伝送ライン82は、それぞれ検出用コイル84に対して直交するように配置されている。なぜならこのように配置することで、基準クロック+タイムスタンプ信号の伝送ライン82内を流れる伝送信号(基準クロックとタイムスタンプ信号)の検出用コイル84への漏れ込みを防止するだけでなく、電源ラインとグランドライン81での電圧変動が検出用コイル84へ悪影響を及ぼすのを防いでいる。一方本応用例では核磁気共鳴特性変化検出(生体活動検出)タイミングと生体活動検出回路の前段85から出力される生体活動検出信号の出力タイミングを切り替えて、核磁気共鳴特性変化検出(生体活動検出)の検出精度を上げている。しかしそれに限らず図29(b)に示すように生体活動検出信号出力ライン83を検出用コイル84と直交させて配置すると、生体活動検出信号出力ライン83からの出力信号が検出用コイル84へ漏れ込むのを防止できる。その結果として核磁気共鳴特性変化検出(生体活動検出)と生体活動検出信号の出力を同時に行えるため、長時間に亘る核磁気共鳴特性変化検出(生体活動検出)が可能となる。
ところで、1個の脳・神経細胞が発火するとその細胞膜電位が一時的に変化し、核磁気共鳴に拠って生じる5.2節で記載した化学シフト量に対応した電磁波の吸収と放出が発生する。このときの電磁波の吸収/放出特性は図3の発火パターンに対応して変化し、その変化信号が検出用コイル84内で現れる。
図29(b)では図示を省略したが、この検出コイル84の端部は生体活動検出回路の前段85内のプリアンプに直接接続されている。したがって1個の脳・神経細胞内で生じた発火パターンに対応した生体活動検出信号が検出用コイル84内で現れると、前記プリアンプにより信号増幅される。そして増幅されたこの信号は生体活動検出回路の前段85内部で、励起用コイル74から供給される電磁波周波数にチューニングされたバンドパスフィルタ(または検波回路)を通過して、前記化学シフト量に対応した電磁波成分のみが取り出された後、A/Dコンバータ(ANalog to Digital Converter)によりデジタル
変換されてメモリ部内に一時格納される。こうしてバンドパスフィルタ(または検波回路)の働きで検出信号のS/N比は大幅に改善される。しかしこの検出信号は非常に微弱なため、生体活動検出回路の前段85内で一層の検出精度を上げるための信号処理(前段処理)が行われる。
すなわち脳・神経細胞内で生じる発火パターンは図3に示すように予め決まっているので、それに対応した発火パターンを生体活動検出回路の前段85内で記憶しておく。そしてその事前に記憶した発火に対応した検出パターンとメモリ部内に一時格納された検出信号(但しこのときに振幅値の規格化処理を行う)との間で照合時間をずらしながらパターンマッチング計算を行う。そしてパターンマッチングの計算結果が特定値以上になったところで脳・神経細胞の発火が生じたと見なして「検出時刻」と「検出振幅値」をメモリ内に一時保存する。
1.3節で説明したように、図3内での発火期間24は0.5〜4[ms]程度となっている。したがってこの期間での変化を精度良くかつ効率良く信号処理するため、図29(b)の基準クロック+タイムスタンプ信号の伝送ライン82内で伝送される基準クロック周波数は10[kHz]から1[MHz]の範囲が望ましい。そしてこの基準クロック周波数に沿って1ずつインクリメントされた(1回の基準クロックで「1」毎に加算された)カウンタ値としてタイムスタンプ信号が与えられる。またこのタイムスタンプ信号(この2進のカウンタ値が、基準クロックのタイミングに同期してNRZI(Non Return to Zero Inverting)に沿って転送される)と特定回数繰り返される基準クロックが時系列的に交互に配置されて転送される。そしてこのタイムスタンプ信号の先頭ビットが生体活動検出回路の前段85に到達した時刻を「タイムスタンプ信号が示す時刻」として全ての核磁気共鳴特性変化検出用セル80内で同期を合わせる。
まず生体活動検出回路の前段85内では、上記の基準クロック+タイムスタンプ信号の伝送ライン82からの伝送信号に合わせて脳・神経細胞の発火の「検出時刻」と「検出振幅値」をメモリ内に一時保存する。そして特定期間メモリ内で保存された前記情報は、外部から指定されたタイミングで生体活動検出信号出力ライン83上に出力される。
ここで生体活動検出信号出力ライン83上では核磁気共鳴特性変化検出用セル80毎に出力するタイミングが割り当てられ、その予め指定されたタイミング期間に合わせてメモリ内に一時保管された信号が生体活動検出信号出力ライン83上で伝送される。
このようにして生体活動検出信号出力ライン83上に集められた全ての核磁気共鳴特性変化検出用セル80からの信号は、生体活動検出回路内の後段部(図示して無い)で行う(a)統計処理に基づく検出信号の高精度化と高信頼性化と(b)生体内部での発火(または活性化)部位の割り出しに利用される。
まず、始めに上記の最初の処理について説明する。全ての核磁気共鳴特性変化検出用セル80からの信号には、発火の「検出時刻」が含まれている。したがって、正確に発火を検出できた場合には、同時刻に近接する核磁気共鳴特性変化検出用セル80から発火の検出信号が得られる。
したがって、同時刻に近接する核磁気共鳴特性変化検出用セル80から発火の検出信号が得られない場合には、特定の生体活動検出回路の前段85内部で『誤検出』が有ったと見なして検出の対象から外す。このように複数の核磁気共鳴特性変化検出用セル80から得られる信号(発火の検出時刻)を比較処理することにより、検出信号の更なる高精度化と高信頼性化を達成できる。
次に、生体活動検出回路の後段部で行う生体内部での発火(または活性化)部位の割り出し方法について図30を用いて説明する。まず検出対象となる生命体の一部(被験者の頭部など)75内のα位置 にある脳・神経細胞内で発火が起きた時、2次元配列された
核磁気共鳴特性変化検出用セルアレイ71内の各点で検出信号が得られる。ところで電磁
気学によると、このときに核磁気共鳴特性変化検出用セルアレイ71内の各点で得られた信号の検出振幅値は、α位置に存在するダイポールモーメント(点磁荷)が作る磁界の強度分布に対応できる。
すなわち、2次元配列された核磁気共鳴特性変化検出用セルアレイ71上の各点 π、
ρ、σ、υ、ψ で検出される信号の検出振幅値は、それぞれの位置からα位置までの距
離rπ 、 rρ 、 rσ 、 rυ 、 rψの二乗に反比例する。したがって各核磁気共鳴特性変化検出セル80から得られた同時の「検出時刻」における「検出振幅値」を一旦スムージングしてスパイクノイズ成分を除去した後、図30に示した関係を利用すると対象となる生命体の一部(被験者の頭部など)75内での活性化部位が予想できる。
上記の活性化部位の予測は、6.1.3節における(3)の生体活動検出信号の抽出に対応する。したがって、6.1.3節の(1)と(2)で説明した生体活動検出信号の抽出場所の位置合わせもしくは抽出場所の同定が必要となる。この操作に対しては図29で説明した信号検出部をそのまま利用するかもしくは従来のMRI装置を用い、従来のMRI検出方法を用いて生体内の水濃度分布パターンまたは脂肪濃度分布パターンを事前に測定する必要がある。そして従来のMRI検出方法で得られた画像パターンと上記生体活動検出信号の抽出結果を組み合わせて、活性化部位(または発火が頻発する領域)の位置決め(位置の同定)を行う。
そして、信号検出部内に設置された生体活動検出回路の後段部(用語の定義は6.1.3節参照)から、「生体内部での活性化部位信号(活性化領域の場所と範囲信号)」または「各部位毎の設定期間毎の発火回数信号」「活性化部位での発火頻度に基づく、生体内部での信号伝達経路」などが生体活動検出信号として出力される。
6.3.4)隣接する他の生体活動検出系からの干渉を低減する方法
本実施例における生体活動測定方法では、生体活動検出信号量が非常に微量でしかも生体活動検出用照射光115(図31または図32参照)を測定対象物に照射する必要がある。したがって互いに近接した位置に複数の異なる生体活動検出部101が配置された場合には、異なる生体活動検出部101から放出された生体活動検出用照射光115からの影響(干渉)を受ける危険性がある。この干渉を軽減するため本実施例では、個々の生体活動検出用照射光115に識別情報を持たせることで他の生体活動検出用照射光115からの影響の度合いを定量的に測定可能にしている。これにより検出側(図34の後段部の信号処理演算部143内)での演算処理による干渉量の相殺が可能となり、物理的に互いの干渉が有ったとしても生体活動検出に関する高精度を確保できる効果が生まれる。
この個々の生体活動検出用照射光115に識別情報を持たせる方法を説明する。4.7節内の(微弱信号の検出について)で記載した内容および図31または図32を用いて6.4.1節で説明したように、変調信号発生回路113または118を用いて生体活動検出用照射光115に対して予め強度変調を加えている。本実施例では変調方法として、基準周波数とその1.5倍の周波数の2種類のみの周波数の(時系列的な)組み合わせからなるMSK(Maximum Shift Keying)と呼ばれる変調方法を採用する。このMSKを用いて個々の生体活動検出用照射光115に識別情報を持たせる方法を図55(a)に示す。生体活動検出用照射光115の照射期間的には、生体活動検出期間440と生体活動検出部の固有情報明示期間441に照射期間が時間的に分割されている。ここで生体活動検出期間440内では生体活動検出用照射光115は基準周波数のみの単一周波数かつ一定振幅で強度変調されており、この期間内で生体活動検出を行う。また生体活動の制御を行う場合には、この生体活動検出期間440内の特定期間だけ強い連続した(強度変調しない直列的な)生体活動検出用照射光115を照射する。一方生体活動検出部の固有情報明示
期間441内では、MSKに基づいて生体活動検出用照射光115が変調されている。そして生体活動の制御を行う場合でも、この期間内での生体活動検出用照射光115の強度と変調方法は検出時と同じに保たれている。それによりこの生体活動検出部の固有情報明示期間441内での生体活動検出用照射光115を安定に検出できるため、生体活動の検出時期と制御時期を問わずに個々の生体活動検出用照射光115に識別情報を認識できる効果がある。
この生体活動検出部の固有情報明示期間441内における生体活動検出用照射光115の変調状況を図55(b)に示す。同期信号451の期間中ずっと基準周波数の1.5倍の周波数での強度変調期間が続く。したがってこの同期信号451を検出することで生体活動検出部の固有情報明示期間441の開始タイミングが容易に分かる。その後MSK変調に基づく生体活動検出部の製造メーカ識別用ID情報452に対応した基準周波数とその1.5倍の周波数の独自な組み合わせパターンに基づいて生体活動検出用照射光115が発光する。この生体活動検出部の製造メーカ識別用ID情報452を認識することで、生体活動検出部101ではどの製造メーカの生体活動検出部が隣接位置に配置されているかを識別できる。そしてその次に生体活動検出部個々の識別情報453を表す基準周波数とその1.5倍の周波数の独自な組み合わせパターンが現れる。本実施例ではこの生体活動検出部個々の識別情報453として個々の生体活動検出部の製造番号を表示させるが、それに限らず全ての生体活動検出部が異なるパターン(情報)を持っていれば製造番号以外の情報を対応させてもよい。そしてその後ろに製造メーカが設定できる製造メーカ関連の独自情報454がMSK変調に依って表示できるようになっている。
次に異なる生体活動検出部間で干渉が起こった場合の、信号処理的に影響を除去する方法に付いて説明する。異なる生体活動検出部間での発光は同期してないため、生体活動検出部の固有情報明示期間441のタイミングがずれる。したがって自分が発光している生体活動検出期間440の間に他の装置での生体活動検出部の固有情報明示期間441が重なる。この場合には自分が発光している生体活動検出期間440の間に基準周波数の1.5倍周波数で変調された光が漏れ込むため、光の干渉を直ぐに発見できる。さらに同期信号451の期間では基準周波数の1.5倍周波数で強度変調され続けるため、スペクトル解析後の周波数毎の振幅値の比較をすることで漏れ込み量(干渉する度合い)を精度良く検出できる。この検出結果を元に図34に示した後段部の信号処理演算部143内で演算処理することで、他の生体活動検出部101の影響を大幅に除去できる。したがって図55に示すように個々の生体活動検出用照射光115に識別情報を持たせることで、他の生体活動検出部101との間に干渉が生じても安定かつ高精度で生体活動の検出を行える効果がある。
6.4)生体活動検出回路
6.4.1)生体活動検出部内構造
まず、図31を用いて本実施例における生体活動検出部(用語の定義は6.1.3節参照)内の構造を説明する。既に6.1.3節で説明したように、この生体活動検出部101には信号検出部103が含まれている。また実施例によっては、生体活動検出信号を得るために生体内部に照射する生体活動検出用照射光115を発生する光源部102が生体活動検出部101内に含まれる場合がある。しかしそれに限らず、この生体活動検出部101内には他に基準クロックと変調信号発生部104と生体活動検出信号送信部105が含まれてもよい。
また上記信号検出部103は、生体活動検出用光電変換部121と生体活動検出回路122から構成される。そして生体活動検出用光電変換部121内部には、複数の光電変換
セル(光検出セルまたは検出用コイル)87−1〜87−5が含まれている。そして上記生体活動検出回路122は、生体活動検出回路の前段部85と生体活動検出回路の後段部86に分かれている。
さらに各光電変換セル(光検出セルまたは検出用コイル)87−1〜87−5で光電変換されて得られた電気信号が、それぞれ個々に生体活動検出回路の前段部85−1〜85−5に入力される。次に各生体活動検出回路の前段部85−1〜85−5からの出力信号は、生体活動検出回路の後段部86内で統合処理される。
ここで生体内部における局所的な核磁気共鳴の特性変化に基づいて生体活動検出信号を得る場合には、この信号検出部103内は6.3.3節と図29で説明した構造を持つ。またこの場合には、図31における1個の光電変換セル(光検出セルまたは検出用コイル)87は、図29(b)における1個の核磁気共鳴特性変化検出用セル80内の検出用コイル84に相当する。そして図31において1個の光電変換セル(光検出セルまたは検出用コイル)87の出力部に接続された1個の生体活動検出回路の前段部85が、図29(b)における生体活動検出回路の前段部85と同一な要件を意味している。
ところでこの生体活動検出用光電変換部内で特定波長光(近赤外光または赤外光)を光電変換する場合には(6.1.3節内で説明したように)この生体活動検出用光電変換部内に6.3.1節または6.3.2節で説明した生体活動検出用光学系を持つ。そしてこの場合には、図31における1個の光電変換セル(光検出セルまたは検出用コイル)87は、図27から図28に示した光検出セル38または図23から図25に示した横方向1次元配列光検出セル54と縦方向1次元配列光検出セル55に相当する。また図31における1個の生体活動検出回路の前段部85が、図27から図28に示した生体活動検出回路の前段部85と同一な要件を意味している。
次に各生体活動検出回路の前段部85−1〜85−5の出力信号と生体活動検出回路の後段部86での入力間の信号接続方法に関しては、図31に示すように並列な信号線が生体活動検出回路の後段部86に入力されてもよい。しかし、それに限らず6.3.3節で説明したように、同一のバスライン上で生体活動検出回路の前段部85−1〜85−5毎に事前に割り当てられたタイミングに合わせて時系列的にずらしてそれぞれの出力信号を乗せる(同一バスライン上で生体活動検出回路の前段部85−1〜85−5の出力信号を時系列的に多重化させる)方法を採用してもよい。
基準クロックと変調信号発生部104は、基準クロック発生回路117と変調信号発生回路118から構成される。この基準クロック発生回路117から発生される基準クロックの周波数は6.3.3節で説明したように10[kHz]から1[MHz]の範囲が望ましい。しかしそれに限らず、もっと広い範囲で基準クロック周波数を設定してもよい。そしてここで発生される基準クロックに基づき、変調信号発生回路118内で変調信号を発生する。この基準クロックと変調信号発生部104で発生した基準クロックと変調信号は、生体活動検出回路の前段部85に入力され、生体活動検出信号の抽出に利用される。
次に、光源部102内の説明を行う。発光部111として例えばハロゲンランプまたはキセノンランプを用いた場合、幅の広い波長帯の光が発光部111から放出される。したがって効率良く生体活動検出信号を得るため、特定波長光を選択的に抽出して生体活動検出用照射光115に利用する。そのため、発光部111から放出された光に対して波長選択フィルタ116を用いて、4.7節で説明した範囲に含まれる特定波長光を抽出する。ここでこの波長選択フィルタ116としては抽出する特定波長光が固定された光学的色フィルタまたは光学的バンドパスフィルタ(薄膜の光学的な多重干渉を利用)を使用してもよいが、それに限らず抽出する特定波長光を変えられる分光器(例えば回折格子への入射
角を変えた波長分離または音響光学的回折格子を用いた波長分離など)を用いてもよい。
そして波長選択フィルタ116を通過した光に対して光変調器112により光変調を施した光を生体活動検出用照射光115として検出対象となる生体内部に照射する。ここでこの光変調器112にはEO変調器(Electro−Optical Modulator)またはAO変調器(Acousto−Optical Modulator)を使用することができる。またこの光変調器112を駆動する光変調器駆動回路には、変調信号発生回路118で得られた変調信号が入力される。このように生体活動検出用照射光115に光変調を掛けると、生体活動検出回路の前段部85内でこの変調信号に同期した検出信号のみを取り出せるため生体活動検出信号106の検出精度と信頼性が大幅に向上する。
また生体活動検出回路の後段部86からの出力信号は生体活動検出信号送信部105内で所定フォーマットに変換され、生体活動検出信号106として生体活動検出部101から外部に出力される。
図32に、生体活動検出部の他の実施例を示す。この他の実施例では、特に表6の周辺血液中の酸素濃度変化を検出する場合に適している。前記のように、この場合には780[nm]、805[nm]および830[nm]の光に対する生体内部での透過光の強度変化の違いを検出する。したがって780[nm]、805[nm]および830[nm]という互いに波長の異なる生体活動検出用照射光115−1〜115−3を同時に生体内部に照射する。ここで780[nm]、805[nm]および830[nm]の光を発光する発光部111−1から111−3には半導体レーザー素子を利用する。
またそれぞれの発光部111−1〜111−3の発光を制御する発光部駆動回路114−1〜114−3には、それぞれ異なる変調規則に基づいた変調信号が入力される。そのため、基準クロックと変調信号発生部104内では、異なる変調規則に基づいた変調信号を出力する変調信号発生回路118−1〜118−3を持っている。
このように各生体活動検出用照射光115−1〜115−3に対する変調信号を変えることで、互いに異なる波長光の影響(クロストーク)を電気的に除去して信号検出部103内部での生体活動検出信号106の検出精度と信頼性が向上する。
そして信号検出部103内部では3波長光を別々に検出するために、3個の生体活動検出用光電変換部121−1〜121−3がそれぞれ配置されている。ここで図31と同様に各生体活動検出用光電変換部121−1〜121−3内にはそれぞれ複数の光電変換セル87が含まれているが、説明図を簡素化するために記載を省いている。
また各生体活動検出用光電変換部121−1〜121−3で別の波長を持った生体活動検出用照射光115を誤って検出しないように、光入射面上にそれぞれの波長光のみが透過する色フィルタ60−1〜60−3を配置している。また各生体活動検出用光電変換部121−1〜121−3には、それぞれ個々に生体活動検出回路の前段部85−1〜85−3が接続されている。
図32に示した生体活動検出部101を用いた他の応用例について説明する。ここでは互いに波長の異なる複数種類の近赤外光を同時に利用して、脳・神経系での細胞膜電位変化を精度良く検出する。すなわち複数の波長光を生体活動検出場所(被測定点)30に同時に照射し、そこから得られる複数の波長光を別々に検出し、個々の検出結果を比較して検出結果の信頼性を評価する。
表4に示すように、脳・神経細胞が発火した時に第3倍音に対応した光として波長が1.05[μm]近傍の近赤外光と第1倍音に対応した光として波長が2.16[μm]近傍の近赤外光の吸収が起きる。したがって上記に対応して、波長が0.840[μm]から1.37[μm]の範囲にある近赤外光と波長が2.05[μm]から2.48[μm]の範囲にある近赤外光(4.7節参照)の2波長光を生体活動検出場所(被測定点)30に同時に照射する。
そして例えば生体活動検出場所(被測定点)30から得られる波長が0.840[μm]から1.37[μm]の範囲にある近赤外光を生体活動検出用光電変換部121−1内で光電変換して電気信号を発生させ、波長が2.05[μm]から2.48[μm]の範囲にある近赤外光を生体活動検出用光電変換部121−2内で光電変換する。そして原理的には、脳・神経細胞が発火すると生体活動検出回路の前段部85−1と85−2内で同時にパルスカウントされる。
このパルスカウントの同時発生を生体活動検出回路の後段部86でモニターする。もし生体活動検出回路の前段部85−1と85−2内で同時にパルスカウントされ無い場合には、どちらかの前段部85で誤検出または検出漏れが有ったと予想される。したがって生体活動検出回路の前段部85−1と85−2内でのパルスカウントの同時検出性を確認することで、生体活動検出(脳・神経細胞の発火検出)の検出精度と検出信頼性が大幅に向上する。
上記の応用例では複数の波長を有した近赤外光を同時に照射し、前記複数の波長光を個々に検出して同時検出を確認する。しかしそれに限らず、本実施例では多くの波長光を含んだ(パンクロマティックな)近赤外光を生体活動検出場所(被測定点)30に同時に照射してもよい。この場合には、波長が0.840[μm]から1.37[μm]の範囲にある近赤外光と波長が2.05[μm]から2.48[μm]の範囲にある近赤外光を個々に検出する。
上記の応用例はそれに限らず、複数の波長光を用いて複数の生体内現象を検出してもよい。例えば更なる応用例として、互いに波長の異なる光(近赤外光)を同時または時間をずらして生体活動検出場所(被測定点)30に照射し、そこから得られる光に対して波長毎に別々に検出して脳・神経細胞の発火と同時に脳・神経細胞間での信号伝達時に放出される神経伝達物質の検出またはそれに関与する神経回路を予測することができる。
例えば中脳腹側被蓋野から側坐核に投射する中脳辺縁DA路は報酬系回路と呼ばれて快の情動反応を引き起こすが、その信号伝達にドーパミンが使われる(有田秀穂:脳内物質のシステム神経生理学−精神精気のニューロサイエンス−(中外医学社,2006年)p.104)。
また3.2節および4.6.4節のそれぞれの説明と同じ理由から、シナプス隙間内で前記ドーパミンが受容体と結合すると独自の振動モードが発生して特定波長のところで独自の吸収帯が発生する。ところで同じ神経伝達物質でも上記ドーパミンが属するモノアミン類または興奮性神経伝達物質と呼ばれるグルタミン酸、また運動制御または自律神経系に関わるアセチルコリン間では分子構造が異なるため、受容体との結合時に生じる振動モードに対応した吸収帯の波長が異なる。
したがって複数の検出波長光の内で特定波長光を用いて脳・神経細胞の発火を検出し、それと同時または直前か直後に吸収量が増加する光の波長を検出すると、信号伝達に利用された神経伝達物質の検出とその神経回路が予測できる。
5.1.1節で説明した内容から、核磁気共鳴を用いても上記の検出は可能となる。すなわちシナプス隙間内で神経伝達物質が受容体と結合すると、その結合に対応した化学シフト量の所に吸収ピークが現れる。したがって神経伝達物質と受容体との結合で新たに現れた吸収ピークの化学シフト量から、信号伝達に関与した神経伝達物質とそれに関係した神経回路が検出できる。
この場合には検出精度を上げるため、脳・神経細胞の発火の化学シフト量に対応した周波数の電磁波と特定の神経伝達物質と受容体間の結合時の化学シフト量に対応した周波数の電磁波を同時に生体活動検出場所(被測定点)30に照射してもよい。
次に本実施例における更なる応用例を説明する。今までは興奮性神経伝達物質の伝達をきっかけとした脳・神経細胞の発火という活性化度162(図36参照)を高める活動の検出が中心だった。更なる応用例として、この活性化度162を下げる活動の検出方法について説明する。
B.Alberts 他:Essential 細胞生物学(南江堂,1999年)p.400に拠ると、グリシンまたはGABA等の抑制性神経伝達物質が伝達されると、外部から脳・神経細胞内の細胞質側に塩素イオンClが流入する。ところで図3に示すように、細胞膜電位20は静止時25に負の静止膜電位21のため、細胞体内に塩素イオンClを流入させる方向に静電気力は作用しない。しかし表1に示すように脳・神経細胞の内外で塩素イオンClの濃度差が大きいため、この濃度差に対応した浸透圧の働きで塩素イオンClを細胞質側に流入させる。そして、図3における静止膜電位21よりも細胞膜電位20を下げる過分極の状態が発生する。
図4と表2が示すように、神経細胞膜の細胞質側にはアミノ基(−NH )を含むPSRNおよびPEAMが多量に分布している。したがって2.5節で行った考察と同じ理由から、上記の脱分極時には細胞質側に流入した塩素イオンClがPSRNまたはPEAM内のアミノ基とイオン結合または水素結合して−NH Clの状態を形成すると考えられる。そしてその結果として、4章で説明したようにN−H−Cl間の逆対称伸縮振動に基づく新たな吸収帯が発生し、そして5章で説明したようにN−H−Cl内の水素原子核周辺に局在する電子軌道の変化に基づく核磁気共鳴特性上の(特定化学シフト量に対応した)新たな吸収ピークが発生する。
したがって3章〜5章で説明した波長または化学シフト量に対応した周波数を持った電磁波の吸収現象を利用して脳・神経細胞の発火を検出する代わりに、N−H−Cl間の逆対称伸縮振動の1/2/3倍音間遷移に対応した波長またはN−H−Cl内の水素原子核での核磁気共鳴の吸収ピーク(化学シフト量)に対応した周波数を持った電磁波の吸収現象を利用して抑制性神経伝達物質の作用状態および過分極状態を検出できる。
したがって検出対象とする(あるいは検出するために照射する)電磁波の波長もしくは(化学シフト量に対応した)周波数の設定値を変えることで、脳・神経細胞の発火状態を検出する代わりに過分極状態および抑制性神経伝達物質の伝達状態を検出できる。
上記の過分極状態の検出は特定の1波長または特定の1周波数の電磁波のみの検出で行える。さらに上記の波長/周波数を持った電磁波と共に、グリシンまたはGABAが受容体と結合した時に生じる振動モードに対応した吸収帯の波長もしくはその時の化学シフト量に対応した周波数の電磁波を同時に測定すると、過分極状態と抑制性神経伝達物質の伝達状態を同時に測定できる。その結果、非常に複雑な脳・神経細胞系の活動メカニズムを一層詳しく知れる。
またそれに限らず検出に用いる複数波長または複数周波数の組み合わせ(あるいはそれのために生体活動検出場所(被測定点)30に照射する電磁波に含まれる複数の波長または周波数の組み合わせ)により、例えば抑制性神経伝達物質の伝達による過分極状態の生成と発火の関係がより詳しく分かり、神経回路内での信号伝達メカニズムの解明に大きく貢献できる。
6.4.2)生体活動検出回路内構造
図33を用いて、生体活動検出回路の前段部85内の構造を説明する。生体活動検出用光電変換部121内の1個の光電変換セル(光検出セルまたは検出用コイル)87で光電変換されて得られた電気信号は、生体活動検出回路の前段部85内のプリアンプ131により電流−電圧変換される。
そしてバンドパスフィルタ132(あるいは低域遮断フィルタ)により余分なノイズ成分が除去された後、変調信号成分抽出部(同期検波部)133内で同期検波される。ここでは基準クロックと変調信号発生部104内の変調信号発生回路118から得られた変調信号に同期して同期検波が行われ、変調信号に同期した信号成分のみが抽出される。その後はA/Dコンバータ134によりデジタル信号に変換された後、基準クロック発生回路117から得られた基準クロックに同期して前段部内のメモリ部135内に信号データが逐次蓄積される。
この前段部内のメモリ部135内に蓄積された信号データは、前段部の信号処理演算部136内で後述する信号処理が施された後、再度前段部内のメモリ部135内に保存される。また後段部との間の信号転送部137では前段部の信号処理演算部136からの指示に従い、信号処理が施された後の信号データを前段部内のメモリ部135内から読み取って生体活動検出回路の後段部86へ転送する。一方この後段部との間の信号転送部137では、生体活動検出回路の後段部86から必要な信号データを前段部の信号処理演算部136へ転送する働きも持つ。
次に図34を用いて、生体活動検出回路の後段部86内の構造を説明する。後段部との間の信号転送部137から出力された信号データは、前段部との間の信号転送部141を経由して後段部内のメモリ部142内に一時保存される。図34では図示して無いが、この後段部内のメモリ部142内では全ての生体活動検出回路の前段部85−1〜−5(図31と図32参照)から送られる信号データを一括保存している。一方この前段部との間の信号転送部141は、後段部の信号処理演算部143からの必要な信号データを生体活動検出回路の前段部85へ転送する役割も持つ。
そして後段部の信号処理演算部143では後段部内のメモリ部142から必要な信号データを読み取り、更なる信号処理を行った信号データを再度後段部内のメモリ部142に保存する。ここで行われる更なる信号処理の一つは、生体活動の位置検出部46から得られる生体活動検出場所(被測定点)30の位置情報(第1の検出に拠って得られた情報)を利用して演算処理がなされる。
また生体活動検出信号送信部に対する信号転送部144は後段部の信号処理演算部143からの指令に応じ、更なる信号処理が施された後の信号データを後段部内のメモリ部142から読み取り、生体活動検出信号送信部105へ転送する。
ここで上記の一連の処理は、基準クロック発生回路117で生成される基準クロックのタイミングに合わせて実施される。
ところで図33と図34共に、信号データの転送経路を「太字実線」で表し、基準クロックまたはコマンドの転送経路を「細字実線」で区別して表示してある。
ところで前段部の信号処理演算部136と後段部の信号処理演算部143内で行われる信号処理としては、検出の対象となる生体活動の種類により異なる演算処理が行われる。表6の「信号発生の物理現象と検出手段」の欄に記載した内容に沿って、下記に各信号処理演算部136、143内で行われる演算処理内容の概説を行う。
<脳・神経系での細胞膜電位変化>を検出する場合
この場合には、図3に示した細胞膜電位20の変化に対応した生体活動検出信号が得られる。したがって生体活動検出信号としては、『特定の単位時間内で何回細胞膜電位20の変化が生じたかを表すパルスカウント数』が重要となる。そのため、図3に示した細胞膜電位20の変化に対応した生体活動検出信号パターンを前段部の信号処理演算部136内(または前段部内のメモリ部135内)で予め記憶し、前段部内のメモリ部135内に蓄えられた信号データ列に対して『パターンマッチング』の演算処理(パターン一致度の逐次計算)を行う。
そしてパターン一致度が特定値を超えた場合、『1回の発火が生じた』と見なしてパルスカウント数を1だけ加算(インクリメント)する。ここで、1個の光電変換セル(光検出セル)87上で複数の異なる脳・神経細胞からの発火を同時に検出する場合がある。したがって『1回の発火が生じた』と見なした場合には前段部内のメモリ部135内に蓄えられた信号データ列から1回の発火に対応して検出される生体活動検出信号パターン成分を減算処理した後、再度パターンマッチング演算を行う。この処理により、複数の異なる脳・神経細胞からの同時発火が検出できる。
次に後段部の信号処理演算部143では、各光電変換セル(光検出セル)87から得られた特定の単位時間毎の『パルスカウント値』を集計し、その集計結果を生体活動検出信号送信部に対する信号転送部144から直接出力することができる。またそれに限らずパルスカウント値の分布状況を統計解析した結果を出力してもよい。またさらにパルスカウント値が多い領域を脳・神経系における『活性化領域』と見なし、活性化領域の位置情報または活性化領域の時間変化(脳・神経系内における信号伝達経路)などを出力してもよい。
脳・神経系での細胞膜電位変化の検出に図32に示す信号検出部103を用い、波長が0.840[μm]から1.37[μm]の範囲にある近赤外光と波長が2.05[μm]から2.48[μm]の範囲にある近赤外光の2波長光を使用した場合の後段部の信号処理演算部143内での処理方法について説明する。脳・神経細胞内で発火が起きると、生体活動検出回路の前段部85−1および85−2内では同時にパルスカウント値が1加算(インクリメント)される仕組みになっている。
一方本実施例では検出信号が微弱なため、外乱ノイズの影響で生体活動検出回路の前段部85−1および85−2の内の一方のみが発火として誤検出される(パルスカウント値が加算される)危険性も含んでいる。したがって生体活動検出回路の前段部85−1および85−2の内の一方のみが発火として(誤)検出された(パルスカウント値が加算された)場合には、後段部の信号処理演算部143内で誤検出と判定して生体活動検出回路の後段部86から外へ出力しない(生体活動検出信号106の中から削除する)処理を行う。このように脳・神経細胞の発火を多重に検出することで、生体活動検出信号106の検出信頼性が大幅に向上する。
<周辺血液中の酸素濃度変化>を検出する場合
この場合には信号データの空間的変化量または時間的変化量が重要となり、(1)生体活動検出場所(被測定点)30上において隣接する(あるいは周辺に配置された)場所に対応した光電変換セル(光検出セル)87から検出される信号データとの間の差分値算出、(2)同一光電変換セル(光検出セル)87における信号データに関する時間的変化の抽出、(3)事前に記憶された同一光電変換セル(光検出セル)87での信号データとの差分値算出、(4)(1)から(3)までを組み合わせた値の算出、(5)生体活動に関する信号を含んだ互いに異なる波長光に対応した各生体活動検出用光電変換部121−1〜121−3からの信号データ間の比較・計算の演算処理を行う事になる。
(1)の算出には、後段部の信号処理演算部143が一度各光電変換セル(光検出セル)87から検出される信号データを収集し、その結果を前段部の信号処理演算部136へ通知する。
また(2)の演算処理では、前段部内のメモリ部135内に保存された過去の信号データを読み出し、現在の信号データとの間の差分を演算する。
一方(3)の演算処理では、生体活動検出場所(被測定点)30上の各位置から事前に検出された信号データを後段部内のメモリ部142に保存しておく。そして生体活動検出の時点で、生体活動検出場所(被測定点)30上の各位置に対応した前段部の信号処理演算部136にそのデータが転送され、そのデータと現在の信号データ間の差分値が計算される。また(4)に示したように、必要に応じて(1)から(3)までの演算処理によって得られた結果を組み合わせた値(加算値、減算値、積の値または商の値)の算出を行う。
このようにして後段部の信号処理演算部143では『差分値』のデータが収集される。次に上記(5)に示した演算処理について説明する。近赤外光を用いて周辺血液中の酸素濃度変化を測定する場合には、特に図32に示すように異なる3波長光からの信号データが別々に得られる特徴がある。
BOLD効果について前述したように、脳・神経細胞が活性化すると数秒後にはその周辺の毛細血管内で酸素化ヘモグロビン濃度が増加する。また、酸素化(酸素分子が吸着した)ヘモグロビンは 930[nm]に吸収ピークを持ち、ヘモグロビンが脱酸素化(酸
素分子を放出する)すると760[nm]と905[nm]に吸収ピークが現れる。
したがって脳・神経細胞が活性化すると数秒後には780[nm]、805[nm]および830[nm]のそれぞれの波長光の検出光量が変化(例えば780[nm]の検出光量が増加し、830[nm]の検出光量が減少)する。したがって後段部の信号処理演算部143内では、異なる3波長光に対応した各生体活動検出回路の前段部85−1〜−3から出力される信号データ間での比較・計算として減算処理あるいは割り算処理などを行う。
ところで図32では記載を簡略化したが、各生体活動検出用光電変換部121−1〜−3内はそれぞれ複数の光電変換セル(光検出セルまたは検出用コイル)87−1〜−5から構成され、そして各光電変換セル(光検出セルまたは検出用コイル)87−1〜−5には個々に生体活動検出回路の前段部85−1〜−5が接続されている(図31参照)。そのため信号処理演算部143内での異なる3波長光に対応した減算処理あるいは割り算処理は、異なる3波長光において同じ位置(または互いに対応した位置)に配置された光電変換セル(光検出セルまたは検出用コイル)87−1〜−5から得られる信号データ間で行われる。
このような異なる波長光に対応した各生体活動検出用光電変換部121−1〜121−3からの信号データ間で演算処理を行うと、信号データのS/N比が向上して生体活動検出信号106の信頼性が向上する。というのは、被検出対象の生体(被験者など)の動きによって生体活動検出部101に対する生体活動検出場所(被測定点)30の位置が変化し、上記3波長光の検出光量が同時に変化する場合がある。
そしてこの検出光量の変化が生体活動検出回路の前段部85−1〜−3から出力される信号データにノイズ成分として現れる。しかし後段部の信号処理演算部143内で上記の減算あるいは割り算の処理を行うことで、このノイズ成分の影響を大幅に低減して信号データのS/N比が向上する。
また上記(5)に示した各生体活動検出用光電変換部121−1〜121−3からの信号データ間の比較・計算に関する他の実施例を説明する。ここでは各信号データを比較して生体活動検出信号106の検出精度を上げる。具体的には、各信号データ間で同時に発生する検出光量変化の方向対象性または方向非対象性から検出信号の真偽を判定する。具体的には前述したように、毛細血管内での酸素化ヘモグロビン濃度が増加すると、780[nm]の検出光量が増加して830[nm]の検出光量が減少する場合がある。
したがってこの場合には、780[nm]光の検出に対応した生体活動検出回路の前段部85(厳密には酸素化ヘモグロビン濃度が増加した毛細血管部分に対する結像位置に配置された光電変換セル(光検出セルまたは検出用コイル)87で光電変換されて得られた電気信号を処理する生体活動検出回路の前段部85)から出力される信号データは検出光量の増加情報が示される筈である。
また830[nm]光の検出に対応した生体活動検出回路の前段部85から出力される信号データは検出光量の減少情報が示される筈である。そして後段部の信号処理演算部143はこの同時に起こる増加/減少関係を把握し、どちらかの変化が起きない場合または変化の方向が同じ場合には『生体活動検出回路の前段部85で誤検出した』と判断して、この変化状況を生体活動検出信号106から削除処理する。逆に増加/減少関係が同時に発生した場合には、『信頼できる生体活動検出信号106』を見なして生体活動検出回路の後段部86から出力される信号データに加える。
<サーモグラフィーによる温度変化>を検出する場合
この場合には<周辺血液中の酸素濃度変化>と同じ演算処理を行う。但し、異なる3波長光からの信号データ間での割り算処理または減算処理は行う必要が無い。
<fMRIでの酸素濃度変化>を検出する場合
この場合には後段部の信号処理演算部143内で、図30と6.3.3節で説明した方法を用いて活性化部位の予測演算(核磁気共鳴特性変化の発生場所検出)を行う。
ところでいずれの場合にも本実施例では、後段部の信号処理演算部143では上記演算処理を行った後に後述する『生体活動検出領域の規格化処理』を行う。
例えば図26に示す生体活動検出用光学系を利用した場合について説明する。生体活動の検出時には、生体活動検出場所(被測定点)30が移動すると、前述した『第1の検出』(生体活動検出場所の位置検出と位置制御)の結果として結像レンズ57が自動的に光軸方向に移動する。そのため、生体活動検出場所(被測定点)30に対する結像パターンが常に光検出器36上に現れる。
ところで生体活動検出場所(被測定点)30が結像レンズ57の光軸方向に移動すると
、光学的現象として光検出器36上の結像パターンサイズが変化する。また生体活動検出場所(被測定点)30が結像レンズ57の光軸に直交する方向に移動すると、光検出器36上の結像パターンの位置がずれる。その現象に対して本実施例では生命活動測定(生体活動検出信号から生体活動情報を生成する処理)の処理を容易にするため、生体活動検出場所(被測定点)30が移動しても、それに対する光検出器36上の結像パターンの中心位置とサイズを固定した形で生体活動検出信号106を出力する所に特徴がある。
例えば生体活動検出の位置検出部として図22に示す光学系を用いて『第1の検出』を行った場合、生体表面の目印位置40に対する2次元光検出器43−1と−2上の結像パターン位置から、生体活動検出部表面からの距離44(図26における結像レンズ57の光軸に沿った方向での生体活動検出場所(被測定点)30の位置に対応)だけでなく結像レンズ57の光軸に直交する方向での生体表面の目印位置40も分かる。
この情報を生体活動の位置検出部46から受け取ると、図34内の後段部の信号処理演算部143により[A〕結像パターンサイズの変更(サイズの規格化)と[B〕結像パターン中心位置のずらし処理が行われる。
すなわち〔A〕の操作として生体活動検出場所(被測定点)30が標準よりも結像レンズ57に近付いていた場合、後段部のメモリ部142から読み取った信号データの「間引き処理」を行って結像パターンの縮小化を行った結果を再度後段部のメモリ部142内に保存する。逆に生体活動検出場所(被測定点)30が標準よりも結像レンズ57に遠ざかっていた場合には、後段部のメモリ部142から読み取った信号データの「補間処理」を行って結像パターンの拡大化を行った結果を再度後段部のメモリ部142内に保存する。この1実施例としては例えば6.5.4節で後述するように、結像パターンサイズを被験者(ユーザ)の顔サイズに規格化する方法もある。
次に下記の要領で〔B〕の操作を行う。結像パターン中心の位置情報を生体活動の位置検出部46から受け取ると、中心位置情報を後段部のメモリ部142内に保存しておく。そしてその情報に基づき、(結像パターンの)規格化された領域に対する信号データのみを生体活動検出信号送信部に対する信号転送部144から出力する。
6.4.3)生体活動検出信号送信部内構造
図35を用いて生体活動検出信号送信部105内の構造を説明する。図35でも同じく信号データの転送経路を「太字実線」で表し、基準クロックおよびコマンドの転送経路を「細字実線」で区別して表示してある。
本実施例では個人情報保護の観点から、生体活動検出部101から出力される生体活動検出信号106は暗号化されている所に特徴がある。
生体活動検出信号送信部105内では、通信制御部158を経由して外部に生体活動検出信号106が送信される。このときに生体活動検出信号の送信回数(または累計送信時間)検出用カウンタ151により、通信制御部158を経由して外部に生体活動検出信号106が送信された回数(または外部に生体活動検出信号106が送信された累計の送信時間)がカウントされる。
ところで生体活動検出信号送信部105内では、時変鍵発生器152と時変のM系列内ジャンプ数発生器153という2種類の暗号鍵に関する制御回路を持っている。ここで時変鍵発生器152と時変のM系列内ジャンプ数発生器153は共にM系列の乱数発生器で構成されているが、時変のM系列内ジャンプ数発生器153の方が簡易的であり出力ビッ
ト数も一周(一廻り)する数(M値)も大幅に小さい。そしてこのとき変鍵発生器152と時変のM系列内ジャンプ数発生器153の初期値は、生体活動検出部101の製造時に設定される。ところで図示して無いが隠しコマンドにより、このとき変鍵発生器152と時変のM系列内ジャンプ数発生器153および生体活動検出信号の送信回数(または累計送信時間)検出用カウンタ151の値が共に初期値に戻れる仕組みになっている。
時変(生体活動検出信号の送信回数または累計送信時間に依存)のM系列内ジャンプ数発生器153の出力値が変化しない時には、生体活動検出信号の送信回数(または累計送信時間)検出用カウンタ151が1ずつ増加(インクリメント)する度(あるいは通信制御部158を経由して生体活動検出信号106が外部に通信(出力)される累計の送信時間が一定の期間を経過する度)に、このとき変鍵発生器(生体活動検出信号の送信回数または累計送信時間に依存)152の出力値(乱数値)が変化する。
時変(生体活動検出信号の送信回数または累計送信時間に依存)のM系列内ジャンプ数発生器153は、生体活動検出信号の送信回数(または累計送信時間)検出用カウンタ151が特定回数(例えば10回または100回)増加する度(すなわち特定回数だけ外部に生体活動検出信号106が送信される毎あるいは通信制御部158を経由して生体活動検出信号106が外部に通信(出力)される累計の送信時間が特定期間を経過する毎)に出力値が変化する。
このとき変数発生器153の出力値が変化すると、その出力値に応じて時変鍵発生器(生体活動検出信号の送信回数または累計送信時間に依存)152の出力値(乱数値)も変化する。このように時変鍵発生器(生体活動検出信号の送信回数または累計送信時間に依存)152からの出力値(乱数値)は、生体活動検出信号の送信回数(または累計送信時間)検出用カウンタ151の出力値と時変(生体活動検出信号の送信回数または累計送信時間に依存)のM系列内ジャンプ数発生器153からの出力値の組み合わせに応じて変化する。そしてこのとき変鍵発生器(生体活動検出信号の送信回数に依存)152の出力値が、暗号化部154内で暗号化する時の暗号鍵として使用される。
ここで、本実施例における時変鍵発生器(生体活動検出信号の送信回数または累計送信時間に依存)152からの出力値について詳しく説明する。
時変鍵発生器152を構成するM系列の乱数発生器とは、入力ステップ数「i」に応じて異なる乱数値を出力する回路で、最大M個までの異なる乱数値を発生できる。すなわちステップ「0」から「M−1」までは、過去に出力した全ての値とは異なる乱数値が出力される。しかし入力ステップ数が「M」を超えると(一周した後には)、過去に出力した順に乱数値が繰り返して出力される。
本実施例では、生体活動検出信号の送信回数(または累計送信時間)検出用カウンタ151の出力値が変化するタイミングが入力ステップ数「i」が変化するタイミングに対応する。つまり、通信制御部158から生体活動検出信号106が送信される回数が変化する度(あるいは通信制御部158を経由して生体活動検出信号106が外部に通信(出力)される累計の送信時間が特定期間を経過する毎)に入力ステップ数が「i」から「i+1」に変化し、時変鍵発生器(生体活動検出信号の送信回数または累計送信時間に依存)152から出力される乱数値が変化する。
ところで、生体活動検出信号の送信回数(または累計送信時間)検出用カウンタ151が特定回数増加する度(すなわち特定回数だけ外部に生体活動検出信号106が送信される毎 あるいは通信制御部158を経由して生体活動検出信号106が外部に通信(出力
)される累計の送信時間が特定期間を経過する毎)に、時変(生体活動検出信号の送信回
数または累計送信時間に依存)のM系列内ジャンプ数発生器153の出力値が変化する。今この出力値を「j」とする。
そしてこのときには、時変鍵発生器152の入力ステップ数が「i」から「i+j+1」に変化し、時変鍵発生器152からは入力ステップ数「i+j+1」に応じた乱数値が出力される。つまり時変のM系列内ジャンプ数発生器153の出力値が変化した時だけ、時変鍵発生器152におけるM系列内の連続変化の中で前記の出力値「j」だけずれる。
このように時変(生体活動検出信号の送信回数または累計送信時間に依存)のM系列内ジャンプ数発生器153と時変鍵発生器(生体活動検出信号の送信回数または累計送信時間に依存)152の組み合わせに拠って暗号鍵が生成されることで、不正な暗号鍵解読を防止して生体活動検出信号106の外部への転送時の高い安全性が確保できる。
生体活動検出回路122から生体活動検出回路との間の信号転送部155を経由して送信された信号データは、暗号化部154で暗号化処理されて生体活動検出信号送信部内のメモリ部156内に一時保存される。ところで生体活動検出信号106は上記のように暗号化されただけでなく、IP(Internet Protocol)に従った通信フォーマット内に格納されている所に本実施例の特徴がある。
それにより、インターネット上での生体活動検出信号106の送信容易性を向上させている。それを可能にするため、IPアドレス情報が予め記憶されたIP構造生成部(IPアドレス設定含む)が暗号化された信号データを生体活動検出信号送信部内のメモリ部156から読み出し、IP(Internet Protocol)に従った通信フォーマットに直す。IP構造生成部(IPアドレス設定含む)で最終的なフォーマットに生成された生体活動検出信号106は、通信制御部158を経由して外部へ転送される。
6.5)生体活動測定方法
6.1.3節で説明したように本実施例では、生体活動検出部で得られた生体活動検出信号から生体活動の解析を行って生体活動情報を得る。そしてこの一連の動作を総称して生体活動測定と呼ぶ。本節では上記生体活動の解析を中心に生体活動測定方法について説明する。
6.5.1)生体活動検出信号から得られる情報のまとめ
6.3節と6.4節で説明した方法に拠って得られた生体活動検出信号106の暗号を解いて複号した時に得られる情報の内容を図36に示す。図36に示す生体活動検出領域161とは、発火を行う1個の脳・神経細胞の配置場所あるいは複数の脳・神経細胞から構成される特定領域の配置場所を示している。しかしそれに限らず体全体内での神経伝達経路上の場所または脳・神経系の活動を超えた生体活動を行っている生体内特定領域の配置場所を示してもよい。
また図36に記載された活性化度162とは、生体内の各検出領域161における生体活動の活性化の度合いを示している。そして検出対象によりこの活性化度162が、脳・神経細胞の延べ発火回数(パルスカウント数)、毛細血管中の血液の酸素化ヘモグロビン濃度(または脱酸素化ヘモグロビン濃度)またはサーモグラフィーで測定した表面温度(の変化量)分布などに対応する。図36で示した活性化度162の分布特性(特性分布のパターン)は、経過時間163により変化する。
ところで近赤外光または核磁気共鳴特性変化を用いて脳・神経細胞の発火を検出する代
わりに6.4.1節で説明したように抑制性神経伝達物質)の伝達状況または過分極の状況を検出した場合には、特定波長または特定の化学シフト量に対応した周波数を持った電磁波を吸収する局所領域内では活性化度162の値が低くなる。したがって検出対象とする現象に応じた活性化度162方向の変化に注意する必要がある。
したがって後述する『生体活動の解析』では、図36で示させる生体活動検出信号の中から、(1)活性化部位(生体活動検出領域161内での活性化度162の値が指定値を超えた場所)、(2)特定活性化部位における活性化度162の値(活性化の強度)、(3)活性化部位の繋がりパターン(活性化分布特性=図36で示した活性化特性分布)、(4)活性化部位の時間的な繋がり(神経内での信号伝達経路など)および(5)活性化分布の時間変化特性(経過時間163にしたがって活性化分布が変化する特徴)などを利用(抽出)して生体活動の解析を行う。
6.5.2)生体活動情報の内容
本実施例において、時間の経過と共に変化し得る生体内部の活動状態が生体活動情報の対象となる。そして特に『測定時における特定個人または複数者の生体内部の活動状態を人間または機械が解釈可能に(判定または識別可能な形で)示された(または表現もしくは説明された)情報』を『生体活動情報』と呼ぶ。
そしてこの生体活動情報には、生体内での神経活動または精神活動、あるいは精神状態を示す(説明する)情報が含まれる。またこの精神活動または精神状態は特定個人(被験者またはユーザ)固有の情報を示すだけでなく、複数者(複数の被験者またはユーザ)から構成されるグループ(集合体)の特性を示してもよい。
本実施例で生体活動の解析を行って得られる生体活動情報の概念図を図37に示す。
本実施例では、前記生体活動検出信号から複数の『測定項目』に対応した生体活動情報をそれぞれ抽出することができる。そして各測定項目には1個以上の『判定要素171』が定義される。そして生体活動を解析した結果として、特定の測定項目における判定要素171−1〜−3毎の合致度172が図37(a)に示した形で、生体活動検出を行った経過時間163毎に表せる。ここで説明の容易性を考慮し、生体活動の解析結果を図37に示すグラフで表示した。
しかしこれに限らず判定要素171−1〜−3毎の合致度172を数値での表示或いは何らかのアニメーションで表示してもよい。
ところで生体活動は時々刻々と変化するので、判定要素171−1〜−3毎の合致度172も経過時間163に応じて変化する。そしてその変化状況を図37(b)に示す。
図37(b)に示した『イベント173』とは生体活動測定に関わりある情報で、生体活動検出の経過時間163に同期してイベント173の経過時間も同時にタイムライン(経過時間163を示す座標軸)上にマッピングしてある。
ここで意味するイベント173には(1)生命活動測定の対象となる生体の外部から見た状態またはその生体の環境、(2)生体内部の状態および(3)外部から与える生体への刺激などの情報が主に含まれるが、それに限らず生体活動に影響を与える全ての情報が上記イベント173内に含まれる。
上記の「生命活動測定の対象となる生体の外部から見た状態、またはその生体の環境」
は、図38および図39の説明のところで後述する『生体状況または生体環境の観測(S26)』に対応する。ところで『生体活動検出の位置検出部』の1実施例として図22を用いて6.2.2節で説明した方法では、カメラ用レンズ42とその後ろに配置されたCCDセンサなどの2次元光検出器43を使用している。
この場合には、カメラ用レンズ42と2次元光検出器43を利用して被検出点の位置を検出(生体活動検出場所の位置あわせとその保持を行うための第1の検出)すると同時に、生命活動測定の対象となる生体の外部から見た状態、またはその生体の環境を測定する。この生体の外部から見た状態または生体の環境に関する情報の具体的内容としては、「生体活動検出時には一人で居るか? それとも他の人と一緒に居るか?」または「生命活
動測定の対象となる生体(被験者など)は狭い場所に居るか?それとも広い場所に居るか?」などの情報が該当する。また生体活動検出部101内に温度センサまたは湿度センサが内蔵されている場合には、生体活動検出時の温度・湿度情報も上記の「生体の環境」に関する情報となる。
次に上述した「生体内部の状態」に関する情報とは、「姿勢の変化状態または疾病による局部の痛みなど」の情報が含まれる。その中の姿勢の変化状態は、上記と同様に『生体活動検出の位置検出部』で同時に測定できる。一方疾病による局部の痛みなどの情報は、別手段により生命活動測定の対象となる生体である被験者(ユーザ)に入力してもらう。
そして上記最後に列記した「外部から与える生体への刺激」は、図38および図39の説明のところで後述する『生体に対して外部から刺激を与える(S21)』に対応する。この具体例としては針を用いて生体の局部に痛覚を発生させる、またはディスプレー画面上に楽しい(または恐ろしい/悲しい)画像を表示して生体(被験者)に強制的に特定の情動を発生させるなどがある。
この具体例に沿って図37(b)に示したイベント173と各判定要素171−1〜−3との間の関係を以下に説明する。タイムライン上の特定期間だけイベント173−1として生体(被験者)に対して楽しい画像を表示すると「楽しい」という判定要素171−2の合致度172が高くなる反面、「怖い」という判定要素171−3の合致度172は低い状態を保つ。その後でイベント173−2として恐ろしい画像を表示すると、「楽しい」という判定要素171−2の合致度172と「怖い」という判定要素171−3の合致度172が反転する。そして「安心」という判定要素171−1の合致度172は、経過時間163に応じて低下する。
本実施例で設定する測定項目と、各測定項目に対応した判定要素を下記に示す。ここで本実施例に対する応用面での利便性を考慮して、判定項目を設定した。また下記の中で「‥」の前に記載した内容が『測定項目』を示し、「‥」の後に記載した内容が『判定要素171』を意味する。
○体性感覚‥痛覚などを感じる体内の場ところで、体内の各部分が各判定要素171に対応する
○運動制御指令‥体の中の何処を動かすための指令を出しているか体内の動かしたい場所が各判定要素171に対応する
○ 制御意図(TVゲームなど機械の操作意図)‥上/下/左/右への移動、攻撃ショッ
ト、色の変更、特定ボタンの選択
○ 自律神経系反射反応‥内臓器毎、血管/汗線場所毎の交感神経作用系、内臓器毎、血
管/汗管場所毎の副交感神経作用系
○ 覚醒・緊張状態 ‥緊急事態認識、緊張状態、覚醒、弛緩状態、眠気、レム睡眠、ノンレム睡眠
○ 魅力性 ‥所有欲求、引き付けられる、好感、興味対象、無関心、嫌悪、逃避対象
○ 情動反応‥喜、怒、哀(悲)、楽、愛、淋、怖、不安、安心 など
○ 不随意判定(無意識状態)‥好感、嫌悪、懐柔指向、逃避指向、攻撃指向、活性化阻
害領域
○ 認知 ‥視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚
○ 視覚的認識・識別 ‥各種形状、色調、領域識別、各種個体判別
○ 聴覚的認識・識別 ‥音程、リズム、各種単語、文節
○ 想起(表現したい内容または浮かんだイメージ)‥各種単語、各種形状、単語間の連
携形成
○(体調または精神活動の)異常検出‥異常活性部位(場所)、痛覚発生部位(場所)、活性継続時間が長過ぎる部位(場所)
従来技術で測定が不可能だった項目として、本実施例により被験者が意識しない「不随意判定(無意識状態)」または「(体調または精神活動の)異常検出」が可能な事、また「制御意図(思っただけでTVゲームなど機械の操作を行う)」などが可能な所に本実施例の特徴がある。
一方『市場調査』への本実施例の応用を視野に入れ、上記測定項目に「魅力性」を追加している。そして判定要素として「好感」と「嫌悪」が測定項目の「魅力性」と「不随意判定(無意識状態)」内に重複して現れているが、前者が被験者の意識状況下に対して後者は被験者が意識しない内容との違いがある。
6.5.3)生体活動の解析方法
6.5.3.1)生体活動解析の特徴
6.1.3節で説明したように本実施例では、生体活動検出部で得られた生体活動検出信号から生体活動情報を得るために生体活動の解析が必要となる。本実施例で示す生体活動の解析には、下記の3点の特徴がある。これらの特徴とする内容は個別に実施できると共に、同時に組み合わせて実施してもよい。
〔A〕測定対象の生体に対して外部から特定の「刺激」を与えて、生体活動検出信号を検出する。ここでいう「刺激」とは、例えば生体表面の一部に『針』を刺して痛みを与えるとか『電気的に刺激する』などの「物理的刺激」に限らず、『楽しい画面または恐怖の画面を見せる』などの被験者に与える「心理的刺激」も含める。そして本実施例では、『静かな音楽』を聞かせて『心を落ち着かせる』作用も「心理的刺激」の一部とみなす。
〔B〕生体活動検出信号からの解析に、データベースを参照する。
(1)公知文献若しくはWeb情報などの既存情報または(2)過去の生体活動検出信号の蓄積がデータベースとして活用できる。本実施例におけるデータベースは固定されておらず、『学習機能』に基づいて「データベース内容が拡充され向上し続ける」所に特徴がある。
そしてそのデータベースの向上を可能にするため、(a)データベースの保存場所がネットワーク接続可能で、内容の変更容易性が確保される、(b)データベースを参照して得られた生体活動の解析結果をフィードバックする仕組みが、本実施例では備わっている。データベースの参照方法として、6.5.1節内の「○印」で記載した項目に関する『一致度172』(またはパターンマッチング度)を計算する。そしてその計算結果は、図37のように表示することができる。
しかし上記に限らず他のデータベースの参照方法として、多変量解析に利用されるパターン認識の手法または統計解析手法を用いた相関係数の算出あるいはケモメトリックスで利用される重回帰分析、主成分回帰分析、部分最小自乗回帰などを用いてもよい。
[C〕データベースに蓄積されたデータの中から使用用途に適合したデータを抽出し、その抽出されたデータから新たな生体活動情報を生成する。本実施例では、生体活動検出とは異なる時期に生体活動の解析を行うことができる。この場合には、データベースに蓄積された生体活動検出信号のデータを利用して解析を行う。
具体的にはデータベース中に記録されたイベント情報を利用して、特定の使用用途とそれに関連した『測定項目』に適合した生体活動検出信号を抽出し、その抽出信号を使って生体活動情報を生成する。
生体活動の解析方法に関して、特に
○ 生体に外部から「刺激」を与えて生体活動の解析をする場合
○ 生体活動検出信号を蓄積して、生体活動解析に参照するデータベース内容を拡充する
場合
○ データベースを参照して生体活動検出信号から生体活動解析する場合
○ 生体活動の解析結果を利用してデータベース内容にフィードバックを掛ける場合
○ イベント情報を利用してデータベースの中から適正な生体活動検出信号を抽出する場

○ データベースから抽出した生体活動検出信号から生体活動解析する場合
を例に取り、生体活動解析時のフローチャートを示しながら次節以降で具体的に説明する。
6.5.3.2)生体活動解析に関係するデータベースの構築例
6.5.3.1節で記述した中で、
○ 生体に外部から「刺激」を与えて生体活動の解析をする場合、
○ 生体活動検出信号を蓄積して、生体活動解析に参照するデータベース内容を拡充する
場合における生体活動解析の手順を図38に示す。
まずは生体活動解析により「生体内の信号伝達経路の探索」を行う方法を例に取って具体的に説明する。脳・神経系における信号伝達経路は図1に示すように並列に複雑な経路を有しているため、従来技術では生体が生きた状態で詳細な信号伝達経路を探索するのは非常に難しかった。
しかし信号の伝達時には、信号伝達経路上にある感覚ニューロン以外の神経細胞体1は必ず発火する特徴がある。そして本実施例ではその特徴を利用し、順次発火する神経細胞体1の場所を探して信号伝達経路の探索を行う。具体的には生体の表皮の一部に『針』を刺して痛感を発生させると、図1に示した感覚ニューロンの検出部(終末部)4が活性化(活動電位が発生)する。次にその信号が、信号伝達経路内で伝搬される。(この体内の信号伝達経路探索の具体的な方法については、図52と図53を用いて 9.3.1節で
詳細に後述する。)
この生体の表皮の一部に針を刺して痛感を発生させる操作が、図38における生体に対して外部から刺激を与える(S21)ステップに対応する。そして6.2節から6.4節で説明した方法により生体活動検出の実施(S22)を行う。またそれと同時に、生体状況の観測または測定対象となる生体を取り巻く環境の観測(S26)も行う。
次にそこで得られた生体活動検出信号に対する特徴部分の抽出(S23)と生体活動検出信号の収集・蓄積(S24)を行う。ここで今回の「信号伝達経路の探索」の場合には、図36における生体活動検出領域161の中で「信号伝達経路上にある神経細胞体が配置された場所」だけが短期間だけ活性化度162が高くなる。そして経過時間163の進行に合わせて、短時間だけ活性化度162が高くなる場所が信号伝達経路に沿って移動す
る。
この場合には、生体活動検出領域161の中での「信号伝達経路上にある神経細胞体が配置された場所」に関する活性化度162の値を加算(または累計)した情報がS24に示すように収集・蓄積される。ところで図36が示すように、生体活動検出信号の内容は経過時間163と共に変化する。このときに経過時間163と共に生体活動検出信号の内容を加算(または累計)した情報を得る処理または経過時間163毎の生体活動検出信号の内容を逐次蓄積する処理が、生体活動検出信号の収集・蓄積の処理(S24)に対応する。一方、短時間だけ活性化度162が高くなる場所が移動する時に現れる特徴が、S23に示す特徴部分の抽出として抽出される。
そしてその次の外部刺激と生体活動検出信号間の相関性抽出ステップ(S25)では、S21で行った刺激場所情報とS23およびS24のステップで得られた生体活動検出信号の収集・蓄積結果と特徴抽出結果が組み合わされる。その結果、『生体へ刺激を与えた場所と、生体内の信号伝達経路との間の相関情報』が得られる(または抽出される)。
そしてその得られた(または抽出された)情報は逐次データベースへ蓄積され、データベースの拡充が行われる(S27)。またこのデータベースへの蓄積と拡充のステップ(S27)として、S21のステップで行った生体に対する刺激内容とS26のステップで得られた生体状況の観測結果と生体を取り巻く環境の観測結果もイベント情報として一緒にデータベース内に保存される。ところで上記の例では『針』を利用して痛感を発生させたが、それに限らず圧感またはかゆみおよび温感、さらに視覚、聴覚、味覚および嗅覚などについても同様な方法で信、伝達経路を詳細に調べることができる。
ここでは測定項目として、6.5.2節で「○印」で示した中の『体性感覚』を中心としたデータベース構築方法について説明したが、それに限らず6.5.2節で示した他の測定項目またはその測定項目内の特定の判定要素171に対応したデータベース構築にも図38の方法を利用できる。この場合には、特定の判定要素171に適した刺激を外部から与え(S21)て生体活動検出(S22)を行い、その結果の収集・蓄積(S24)または特徴抽出(S23)を行う事になる。
例えば図38の方法を利用した他の実施例として、情動反応内の1判定項目または覚醒・緊張状態内の1判定項目に対応する緊急事態認識に対応したデータベース構築方法について説明する。この場合には、図38に示す外部からの刺激(S21)として前述した「心理的刺激」を与えることになる。具体的には生体である被験者にTV画面の中で「事故に遭う直前の映像」または「被験者が喜ぶまたは悲しむ映像」を見せた時の生体活動検出(S22)を行う事になる。それ以降は、前述した方法で生体活動の解析を行う。
6.5.3.3)データベース内に保存されるデータ内容
図38でデータベース構築例を示した。本実施例において、前記データベースには下記の3種類のデータが記録される。それぞれの種類のデータ内容とその用途について説明する。
α)各測定項目内での判定要素171毎の代表的な(特徴を表す)生体活動検出信号とその特徴‥図38を用いて6.5.3.2節で説明したように、『特定の判定要素171に適した刺激を外部から与え(S21)て生体活動検出(S22)を行い、その結果の収集・蓄積(S24)および特徴抽出(S23)を行った結果得られたデータ』が該当する。図39を用いて6.5.3.4節で説明するように、それぞれの目的で得られた各種の生体活動検出信号を分析して生体活動情報を生成する時の参照データに、この情報が利用される。
β)イベント情報が付加された生体活動検出信号‥生体活動検出により得られたあらゆる生体活動信号は、イベント情報を付加して全てデータベース内に逐次保存される。このときには図38のステップS21とステップS26の処理内容が データベースへの蓄積と
拡充ステップ(S27)へ繋がるように、6.5.2節で説明した全てのイベント情報が生体活動検出信号と共にデータベース内に記録される。
図40を用いて6.5.3.4節で説明するように、データベース内に保存された上記のデータは『過去に蓄積された生体活動検出信号を利用して別目的(別用途)で生体活動解析』を行う時に主に利用される。
γ)生体活動の解析の結果得られた生体活動情報‥生体活動の解析の結果得られた生体活動情報も、逐次データベースに保存する。例えば図39でデータベースへのフィードバック情報の生成(S38)を行うなど、上記(α)の内容を修正する時にこの情報を参照する。
δ)特定ユーザ毎の体内の神経活動または精神活動に関係した個人情報‥図40を用いて6.5.3.5節で説明する生体活動解析の結果得られる個人情報で、個人情報保護のために暗号化された状態でデータベース内に保存される。具体例としては、特定ユーザ毎の詳細な脳・神経回路の配線接続内容または内臓内での病気に掛かり易い場所、あるいは性格の傾向性または興味の対象などが含まれる。
6.5.3.4)生体活動の解析とデータベースへのフィードバックに関する実施例
6.5.3.1節で記述した中で、
○データベースを参照して生体活動検出信号から生体活動解析する場合と
○生体活動の解析結果を利用してデータベース内容にフィードバックを掛ける場合
の両方を一度に行った場合の生体活動解析の手順を図39に示す。
そしてこの図39の右半分のフローが主に
○データベースを参照して生体活動検出信号から生体活動解析する場合
の処理手順を示し、左半分のフローが主に
○生体活動の解析結果を利用してデータベース内容にフィードバックを掛ける場合
の処理手順を示している。
図39に示す生体活動解析例では、まず始めに生体活動情報を利用した応用に合わせた測定項目の設定(S31)を行う。ここでいう測定項目の設定(S31)とは、6.5.2節内で「○印」を先頭に羅列記載した各測定項目の中から1種類(もしくはそれ以上)の測定項目を選択する操作を意味する。
次に本実施例で示す生体活動情報を利用した応用として、例えばアンケート調査または市場調査などの調査または接客対応など顧客へリアルタイムで対応処理を伴う場合には、生体(または被験者)に対する外部からの刺激を与える処理(S21)を測定項目の設定(S31)の次に行う。ここで生体(または被験者)へ与える刺激(S21)の内容は、S31で設定された測定項目に連携(関連)している。ところでこの刺激(S21)は「心理的刺激」の場合が多く、具体的には被験者であるユーザに調査対象の製品を提示するとかアンケート画面を表示する処理あるいは(接客対応として)ユーザに問い掛けをする処理が相当する。そしてそれと同時にユーザ(被験者)に対する生体活動検出の実施(S22)を行う。
一方、例えば乳児が泣く原因を調べるとか自分の意志を表現できない人が伝えたい情報を抽出するなどの『現状での生体活動測定』を行う場合には、S21に示した生体に対する外部からの刺激を与えるステップを省き、測定項目の設定(S31)の直後に生体活動
検出(S22)のステップを実施する。
そしてその結果得られた例えば図36に示す形態の生体活動検出信号に対して、データベースS30を参照して計算処理を行う。このときは、S31で設定された測定項目に合わせた参照データをデータベースS30から取り込む。またこのデータベースS30はネットワークサーバー上に構築されており、ネットワーク経由での読み取りまたは修正データのアップデート(データべースS30への書き込み)が可能になっている。そしてS32で行う計算処理は、6.5.1節内で「○印」で記載した観点を中心に判定要素毎に一致度の計算を行う。しかしそれに限らず、6.5.3.1節の〔B〕で説明した方法を用いて計算処理してもよい。そしてそこで得られた生体活動情報に基づいて行われる対処処理(S34)としては、ユーザなどへの生体活動情報の表示またはユーザに対する適正なサービスを提供する。
ここで、S34で行われるユーザへのサービス提供時に2回目の生体活動検出の実施(S35)と、その結果に基づく2回目のデータベースを参照した計算処理(S37)および生体活動情報の生成(S37)を行う所に本実施例の特徴がある。このときに設定される測定項目としては、6.5.2節で記載した測定項目の中で『情動反応』もしくは『不随意判定(無意識状態)』が自動的に選択される。
そしてこのステップS34からS37の処理の目的は、S34で行った対処(ユーザへのサービスなど)がユーザ(被験者)の欲求に合致したかを確認する所にある。ここで前記の対処(S34)の結果がユーザ(被験者)の不満を招いた場合には、データベースのフィードバック情報の生成(S38)を行った後にデータベースの蓄積と拡充(S26)を行う。
そしてデータベースへのフィードバック情報の生成(S38)時には、生体活動情報に基づく対処(S34)に対するユーザの反応(S38に示す2回目の生体活動情報の生成結果)だけでなく、外部から刺激を与えた時(S21)の生体状況または生体環境の観測(S26)を生体活動検出の位置検出部などを用いて(6.5.2節内参照)行った結果も参考にする。さらにデータベースS30内に保存された過去の生体活動情報(6.5.3.3節内に記載された(γ)参照)も見直し、6.5.3.3節内に記載された(α)の情報に対する修正内容を生成する。この結果として一層のデータベースへの蓄積と拡充(S26)が行われ、生体活動の解析の精度または確度が向上する。
また1回目と2回目に行われた生体活動検出(S22、S35)により得られた生体活動検出信号と1回目と2回目に行われた生体活動の解析(S33、S37)により得られた生体活動情報は、生体に対して与えられた刺激(S21)または生体状況または生体環境の観測(S26)の結果などのイベント情報と共にデータベースS30内に蓄積/拡充(S26)される。
6.5.3.5)データベース内の生体活動検出信号を用いた生体活動解析の応用例
6.5.3.1節で記述した中で、イベント情報を利用してデータベースの中から適正な生体活動検出信号を抽出する場合、およびデータベースから抽出した生体活動検出信号から生体活動解析する場合のそれぞれにおける生体活動解析の手順に関する説明を行う。
図38または図39に示す生体活動の解析を繰り返すと、データベースS30上に特定ユーザ(被験者個人)に関する生体活動信号または生体活動情報のデータが蓄積される。それにより、例えばその特定ユーザの興味対象(購入したい好みの商品または趣味など)または性格の傾向性、あるいは体内の弱い(病気に掛かり易い)場所を計算により予測す
るために必要な情報が集まる。したがってデータベースS30上に蓄積された生体活動信号または生体活動情報を利用して独自に生体活動の解析を行い、その特定ユーザの興味対象または性格の傾向性または体内の病気に掛かり易い部位などの神経活動または精神活動に関係した個人情報を算定し、その結果に基づき自主的に(ユーザからの要求が無い状況で)ユーザ個々への適正なサービス提供を提案することが可能となる。そのようなユーザに対する自主的なサービス提供を行うための生体活動の解析方法を図40に示す。
それにはまず始めに、ユーザに対して行う自主的なサービス内容を設定する(S41)必要がある。そのサービス内容の設定に基づき、生体活動情報に関する測定項目が設定(S31)される。
ところで6.5.3.2節または6.5.3.4節で説明したように、過去の生体活動検出信号または生体活動情報はイベント情報と一緒にデータベースS30内に保存されている。したがってまず上記に設定されたサービス内容(S41)または測定項目(S31)に適合したイベント情報内容を検索し、その適合したイベント情報に付随した生体活動検出信号または生体活動情報を選択取得して必要なデータの抽出(S42)を行う。
そしてステップS31で設定された測定項目に基づいて計算処理を行い(S32)、生体活動情報の生成を実施する(S33)。またそれと同時にデータベースS30から抽出した過去の生体活動情報も参考にして対象となる特定ユーザに関する体内の神経活動または精神活動に関係した個人情報の生成(S43)を行い、そこで生成された個人情報を利用してユーザに対する自主的なサービスの提供(S44)を行う。またそれと平行して、ステップ33で新たに得られた生体活動情報またはステップS43で得られた個人情報をデータベースS30に保存し、データベースの蓄積と拡充(S27)を行う。このときには、個人情報の保護の観点から前記個人情報は暗号化してデータベースS30内に保存される。
ステップS43で得た特定ユーザに関する体内の神経活動または精神活動に関係した個人情報と、それに対応して行われるユーザに対するサービスの提供(S44)内容との関係例を以下に示す。
△ユーザの興味対象が分かった場合には、インターネット経由でユーザの欲しい商品を紹介しユーザの要求に応じて購入手配を行う。
△体内の病気に掛かり易い場所が分かった場合には、その場所をユーザに通知して警告し、ユーザに対して生活習慣の改善法または食生活のアドバイスを行う。
△ユーザの性格傾向性が分かった場合には、性格傾向に合わせた占い結果の通知または今後の行動に対するアドバイスを行う。
またそれ以外のサービスとして
△ユーザの性格傾向性が分かった場合には、ユーザの性格に合致した恋人紹介もできる。
またステップS44で行われるユーザへのサービス提供の具体的方法は、
1)まずユーザに上記などのサービスの必要性を問い合わせ
2)ユーザの要求に合わせて上記などのサービスを実施する。
このように本実施例では特定ユーザ個々の特性に合わせた適正なサービス提供が行われるので、ユーザ個々に対する肌理の細かいサービスの提供によりユーザの満足度が向上する。
さらに本実施例によるとユーザの性格傾向性が分かるだけでなく、鬱病初期の症状の判定または自律神経に関わる初期の内臓疾患なども自動的に行うことでユーザの早期治療も
達成できる。
しかし逆にサイコパスまたは犯罪を起こし易い性向など負の面の予測も行えるので、上記実施例の結果得られた個人情報の取り扱いには充分な注意が必要となる。
6.5.4)他の生体活動測定方法
図1に示したように、人間も含めた哺乳類動物の脳・神経系は階層構造を持っている。そして大脳皮質層などの中枢神経層7では非常に複雑な神経回路を形成しているため、そこで検出された生体活動検出信号からは個人情報はおろか生体活動情報の生成すら非常に難しい。
しかし図1が示すように各層間の神経回路は繋がり、それぞれの層間で連携した活動を行う。
したがって大脳皮質層または大脳辺縁系を含む中枢神経層7に関する生体活動情報の獲得の難しさに対する対策として『下位層の生体活動検出信号から生体活動情報を生成して上位層の生体活動情報を予測する』所に他の実施例の特徴がある。
人間または動物の脳の中で扁桃体が情動反応に関して中心的役割を担い、その扁桃体内の領域において中心核で情動反応の発現が起きると言われている(有田秀穂:脳内物質のシステム神経生理学(中外医学社、2006年)p.105)。そしてその中心核からの出力信号は顔面神経運動核に直接入力される(渡辺雅彦編:脳・神経科学入門講座下(羊土社、2002年)p.222参照)。
ここでこの顔面神経運動核は顔面の筋肉に働きかけて顔の表情を制御する。したがって上記中心核内で発現された情動反応は顔の表情に直接現れる。
一方、前記中心核から直接大脳皮質に出力される神経回路は顕著に存在せず、この中心核からの出力信号は例えば扁桃体内の内側核を経由して前頭前野に到達する。しかもこの内側核は扁桃体内の他の領域または視床、視床下部からの信号入力を受ける(渡辺雅彦編:脳・神経科学入門講座下(羊土社、2002年)p.221参照)。
したがってこれらの信号の影響を受けて中心核からの出力信号が若干変化した形で前頭前野に伝わる場合には、前頭前野で認識される感情が中心核で発生する潜在意識下での情動とは若干異なって来る。これは、『本人が意識するよりも顔の表情の方が情動を正確に示す』可能性を示している。
したがって本節で説明する他の実施例では大脳皮質層を含む中枢神経層7からの生体活動検出信号を得る代わりに、顔面神経運動核からの作用で形成される顔面の筋肉の動きを検出し、その検出信号から生体活動情報を生成する所に特徴がある。それにより生体活動の解析が非常に複雑で難しい大脳皮質層または大脳辺縁系)を含む中枢神経層7からの生体活動情報を得る必要無しに、解析が比較的容易な「顔面の筋肉の動き解析」の結果から大脳辺縁系または大脳皮質に関係した情動反応に関係した情報を精度良く獲得できる。
この場合には図22に示した生体表面の目印位置40が、被験者(あるいはユーザ)の顔面位置に相当する。ところで現在は画像認識技術を用いて自動的に被写体の顔の位置を検出する機能を持ったデジタルカメラが存在する。したがってここで説明する他の実施例では生体活動検出の位置検出部(第1の検出を行う部分)内に上記画像認識技術を持たせ、被験者(あるいはユーザ)の顔の位置からの検出信号を生体活動検出信号とする。
またここで説明する他の実施例を実行した場合には、6.4.2節内で説明した「A〕結像パターンサイズの変更(サイズの規格化)」の処理の段階で、結像パターンサイズを被験者(あるいはユーザ)の顔全体を表示するサイズに規格化して後段部のメモリ部142内に保存する。このように被験者の顔の大きさまたは被験者と信号検出部103との間の距離に拠らず被験者の顔サイズを一定に規格化すると、顔内の目または口の位置検出の容易性と精度が向上し、生体活動検出信号からの生体活動情報生成が容易となる。
図41に顔の表情と情動反応の関係を示す。図41(a)に安静時の表情を示し、図41(b)に微笑んだ時、図41(c)に怒った時、図41(d)に困った時の顔の表情を示す(図が巧く無いので分かり辛いが、それぞれの顔の表情を示したつもりである)。被験者(またはユーザ)の気持ちは表情に表れる。このときの顔面上での筋肉の動きを図42内に矢印で示した。図41(b)の微笑んだ時は、眉毛と目の外側の筋肉が下側へ向かって収縮する。また口の外側の筋肉が上向きの外側へ向かって収縮する。そして図41(c)に示す怒った時は、眉毛と上瞼の外側の筋肉が上へ向かって収縮すると共に下瞼の筋肉が下へ向かって収縮する。それと同時に口の外側の筋肉が下向きの外側へ向かって収縮する。一方図41(d)のように困った時は、眉毛の下にある内側の筋肉が内側へ向かって収縮する。またそれと同時に下瞼周辺の筋肉が収縮して下瞼を上の方に引き上げる。このように、顔面の筋肉の収縮と弛緩状況の検出結果が、情動反応などに対応した生体活動情報と関連性を持つ。
図1を用いて1.3節で説明したように、顔面の筋肉の収縮時には神経筋接合部5の活性化(膜電位の変化)とそれに続いて筋細胞膜の電位変化27が発生する。したがって4.7節に示した近赤外光/赤外光または5.2節で示した核磁気共鳴を用いて膜電位の変化を検出できる。
また顔面の筋肉の収縮時にはその周辺の毛細血管内で酸素濃度の変化が生じるので、表6に示すように近赤外光を用いて「周辺血液中の酸素濃度変化検出」が可能となる。
さらに顔面の筋肉が収縮あるいは収縮と弛緩を繰り返すと、筋肉内部から発生した熱が顔面表面に到達して顔面上の皮膚表面の温度が局所的に増加する。したがってサーモグラフィーを用いて顔面の皮膚表面の温度分布を測定しても、顔面の筋肉の活動状況に関して生体活動検出が行える。
7〕生体活動検出部を組み込んだ装置またはシステム
7.1)生体活動検出部を組み込んだ一体形装置
7.1.1)生体活動検出部を組み込んだ一体形装置の特徴
図31または図32に示した生体活動検出部101を組み込んだ一体形装置の実施例に関する特徴について最初に説明する。本実施例における共通な特徴として、
○一体形装置内には、生体活動検出部が組み込まれている
○生体活動検出場所の位置検出(6.1.3節でいう第1の検出)を行う部分が内蔵されている‥上記の生体活動検出場所の位置検出(第1の検出)を行う部分と生体活動検出部との間の配置関係例は、図22に示されている。また生体活動検出場所の位置検出原理は、図20〜図22と6.2節で説明した方法を使う。
○上記生体活動検出場所の位置検出結果が、生体活動検出部にフィードバックされる‥具体的には6.3節で説明したように、生体活動検出場所の位置検出結果に基づいて対物レンズ31または結像レンズ57を移動させる。生体活動検出部へのフィードバックはそれに限らず、他のフィードバック方法を用いてもよい。
○生体活動検出部から得られた生体活動検出信号から生体活動の解析を行う部分を内蔵する‥例えば図38〜図40に示した方法で、具体的な生体活動の解析を行う。ここで多くの場合、メモリ部とCPU(中央処理演算部)との組み合わせで上記生体活動の解析が行われる。
生体活動解析の結果得られた生体活動情報に基づき、特定な処理または操作が行われる
‥上記特定な処理または操作に対応した選択肢は予め複数準備されており、生体活動情報に合わせて最適な選択肢が選択される(詳細内容は7.1.4節で説明する)。
が上げられる。
このように生体活動検出部を組み込んだ一体形装置内で生体活動の解析を行い、そこで得られた生体活動情報に基づいてユーザに対する最適な処理または操作を行う。しかし前記の一連のプロセスと平行して上記一体形装置内で獲得した生体活動検出信号または生体活動情報、そしてユーザに対して行った処理または操作内容をネットワーク経由でサーバー内のデータベースS30(図38〜図40参照)に保存してもよい。
ところで6.5節で説明したように、上記生体活動の解析精度を高めるにはデータベースS30内での豊富なデータ蓄積が必要となる。そのため上記一体形装置を適宜ネットワークへ接続し、アップデートされたデータベースS30に基づく生体活動の解析ソフト(あるいはその中のデータベースS30部分のみでもよい)をダウンロードしてもよい。この場合には一体形装置の購入時にユーザとメンテナンス契約を結び、最新の生体活動解析ソフト(あるいはその中のデータベースS30部分)のダウンロードに対してユーザから代金を徴収するビジネス・モデルも、本実施例に含まれる。また生体活動解析ソフトのダウンロード方法として上記ネットワーク経由を使う代わりに、CD−ROM(DVD−ROMまたはBD−ROM)またはUSBメモリ などの媒体を利用してもよい。
また上記の特定な処理または操作内容として本実施例では、
○駆動部の操作または
○特定の情報提供
を行う。しかしそれに限らず、生体活動情報に基づいて他の処理または操作を行ってもよい。
そしてユーザに対する上記特定の情報提供手段としては、本実施例では
○画面表示、
○音声出力、
○プリントアウト(印刷処理)、および
○データ保存
のいずれかを行う。しかしそれに限らず、他の情報提供手段を用いてもよい。
7.1.2)生体活動検出部と駆動部を組み合わせた一体形装置の実施例
生体活動検出部を組み込んだ一体形装置の中で、7.1.1節で説明した特定な処理または操作として駆動部の操作を行う実施例について説明する。
<生体活動検出部と駆動部を組み合わせた一体形装置の実施例1>
この実施例では生体活動検出部を自動車または船舶、電車、飛行機など乗り物の操縦席に取り付け、危険察知時に短時間で危険回避処理を開始する所に特徴がある。そしてその結果、危険防止による乗り物の安全性が大幅に向上する。
例えば車の運転中に、ドライバーが危険を察知してブレーキを踏むまでに0.1〜0.
4[s]程度の時間の遅れが生じる。そしてこの間の車の移動が、衝突の危険性を高める。したがってこの0.1〜0.4[s]程度の時間遅れを生じずに危険回避処理を開始できれば、安全性は向上する。ところでドライバーが危険を察知して緊張すると、帯状回の前部が急激に活性化すると予想される(リタ・カーター:脳と心の地形図(原書房,1999年)p.285参照)。したがって生体活動検出部により、この帯状回の急激な活性化を検出する。そして生体活動検出部から出力された生体活動検出信号を解析する時の『測定項目』は、6.5.2節内で説明した内容の中で『覚醒・緊張状態』に該当し、その中の判定要素171として『緊急事態認識』に関する合致度172を評価することになる。そしてこの生体活動の解析結果は、エンジンとブレーキの制御回路に出力されている。そして危険察知(判定要素171である『緊急事態認識』の合致度172が特定値を越えた時)直後にブレーキ操作の開始とエンジンブレーキ始動による走行の制動を自動的に行う。ここでこの走行制動操作が、7.1.1節で記載した『特定な処理または操作』の具体例に対応する。
また上記の実施例に限らず、あらゆる輸送手段に生体活動検出部を内蔵させて応用してもよい。
<生体活動検出部と駆動部を組み合わせた一体形装置の実施例2>
この実施例では介護または介助分野あるいは運動支援分野に応用し、『非接触による生体活動検出』の特徴を生かしてユーザの利便性を高める効果を持つ。
例えば従来のHALでは測定部(計18カ所の電極)をユーザの体に装着するための負担が大きいという問題がある。その問題を解決するため、上記の電極の代わりに非接触で生体活動検出が可能な本実施例の生体活動検出部を利用する。
この生体活動検出には、足の筋肉に対する神経筋接合部5の活性化(膜電位の変化)またはそれに続いて発生する筋細胞膜の電位変化27(図1と図3参照)を近赤外光/赤外光を用いて検出する。ここでの生体活動解析時に設定される『測定項目』は、6.5.2節内で説明した内容の中で『運動制御指令』に該当する。そしてこの解析結果が駆動部に直接入力される。このように生体活動検出信号が処理されることで、「ユーザが足の筋肉に力を入れると、その信号を生体活動検出部が検出し、駆動部を制御して足を動かす」という一連の操作が実行される。ところでこの駆動部を制御して足を動かす動作が、7.1.1節で記載した『特定な処理または操作』の他の具体例に対応する。
この実施例では、ズボンのように足を覆う部分にこの生体活動検出部を埋め込む。そして従来のHALのように補強金具(支持金具)を足にベルトで固定する代わりに、自転車のサドルに相当する部分(腰掛け部)にユーザが腰掛けることで脱着の容易性を向上させている。
また上記の実施例に限らず、あらゆる介護または介助分野あるいは運動支援分野で利用される機器内に生体活動検出部を内蔵させて応用してもよい。
そして上記実施例1と2で説明した分野に限定する必要は無く、駆動系を有するあらゆる機器内に生体活動検出部を内蔵させて応用することもできる。
7.1.3)生体活動検出部と情報提供部を組み合わせた一体形装置の実施例
生体活動検出部を組み込んだ一体形装置の中で、7.1.1節で説明した特定な処理または操作として特定情報の提供を行う実施例について説明する。
<生体活動検出部と情報提供部を組み合わせた一体形装置の実施例1>
喉に障害がある人または、重病で体力が衰えて話ができない人とのコミュニケーション手段を提供できれば、本人のみならず周囲の人達も非常に助かる。ここで説明する実施例では、生体活動検出部から得られた生体活動検出信号から『ユーザが頭の中で浮かんだイメージまたは言語』を生成し、その結果を情報提供部によってユーザまたは周囲の人に提示する。それにより従来に無い新たなコミュニケーション手段を提供でき、ユーザと周囲の人との間の密な意志疎通が図れる。
人は後頭葉に視覚野を持ち(F.H.ネッター:ネッター医学図譜 脳・神経系I「構
造と機能」(丸善(株),2006年)第8章参照)、左脳内のブローカーの領域で話す
文章を組み立てると言われている(リタ・カーター:脳と心の地形図(原書房,1999年)p.223参照)。したがってこの視覚野またはブローカーの領域での脳・神経細胞の発火状況(発火分布またはその時間的変化)を検出する。そしてこのときの『測定項目』としては、6.5.2節内で説明した内容の中で『想起(表現したい内容または浮かんだイメージ)』が選択される。
またその中の判定要素171としては、ユーザの頭の中で浮かんだ『具体的な単語』または『単語間の連携形成(単語を繋いだ文章に相当)』 、あるいは『具体的な形状(イ
メージ)』が相当する。特にこの実施例の特徴として、上記判定要素171のグループとして(1)『ユーザが頭の中で浮かんだイメージまたは言語(文章を含む)』の内容と、(2)『ユーザの正誤判定』(正しさを確認する「はい」か、誤りを指摘する「いいえ」)の2種類の生体活動情報を時系列的に生成する必要がある。
具体的な生体活動検出信号の解析方法は図39を用いて6.5.3.4節で行った説明内容に対応する。ここで図39内のステップ33で行う生体活動情報の生成が、上記(1)『ユーザが頭の中で浮かんだイメージまたは言語(文章を含む)』の内容を生成することに対応する。またステップ34に示す『生体活動情報に基づく対処』が、7.1.1節で示した『ユーザに対する特定の情報(= 生体活動情報)の提供』に相当する。この具
体的な方法は、生体活動の解析結果得られた上記(1)の『ユーザが頭の中で浮かんだ(と予想される)イメージまたは言語(文章を含む)』の内容を、ユーザが見える場所に配置したディスプレー上に表示する。そしてその直後に前記の表示内容が正しいか否か(「はい」か「いいえ」か)をユーザの頭の中で思ってもらう。その時にユーザが頭の中で思った内容を再度検出(図39の2回目の生体活動検出の実施(S35)に対応)する。
したがって図39内のステップ37で生成した生体活動情報が、上記(2)の『ユーザの正誤判定結果』を示す。ここでディスプレー上に表示した内容が間違っている場合には、上記のステップを繰り返す。一方ディスプレー上に表示した内容が正しい場合には、情報提供部を用いてこのディスプレー上に表示した内容を周囲の人に提供する。この周囲の人に対する情報提供方法としては、7.1.1節に示したように画面表示に限らず、音声出力またはプリントアウト(印刷処理)、データ保存でもよい。
<生体活動検出部と情報提供部を組み合わせた一体形装置の実施例2>
この実施例は、前述した<生体活動検出部と情報提供部を組み合わせた一体形装置の実施例1>の応用例に当たる。生体活動検出信号を解析して(1)の『ユーザが頭の中で浮かんだイメージまたは言語(文章を含む)』を生成する所までは上記内容と一致する。ところでこの実施例(応用例)では上記獲得した生体活動情報を『ユーザの要求』と見なし、そのユーザ要求に合致したサービス(対応処理/操作)をユーザに提供する所に特徴がある。このユーザへ提供するサービスに対応した処理/操作内容の選択肢としては、例えば
○生体活動情報に「ユーザの喉の乾きまたは空腹感」を含む場合には、「飲み物または食
事の提供」
○生体活動情報に「ユーザの排泄欲求」を含む場合には、「トイレへの介護」
などが上げられる。またこの実施例では、情報提供手段(ユーザが見える場所に配置したディスプレー)には『ユーザに提供予定のサービス内容』を提示し、『そのサービス提供を要求するか否か?』を問い合わせる。そしてユーザがそのサービス提供を要求した場合、
▽駆動部を内蔵しない一体形装置では、情報提供部を用いて周囲の人に『要求内容を表示』し、
▽駆動部を含む一体型装置では、ユーザに要求された『サービスの提供』を行う。
なお上記実施例1と2に限定する必要は無く、情報提供手段を有するあらゆる機器内に生体活動検出部を内蔵させて応用する他の実施例も含まれる。
7.1.4)生体活動情報に基づく最適な処理または操作方法の選択方法例
例えば前述した<生体活動検出部と情報提供部を組み合わせた一体形装置の実施例2>のようにユーザへ提供するサービスに対応した処理/操作内容の選択肢が複数含まれる場合に、最適な処理/操作内容を選択する一つの方法について図43を用いて説明する。
既に図37を用いて6.5.2節で説明したように、指定された『測定項目**』毎に複数の判定要素171−1〜−Nが予め設定されており、生体活動情報内には各判定要素171−Iに対する合致度172を示す値 PIが含まれている。一方ユーザへ提供する
サービス内容の候補として、複数の処理/操作内容178−1〜-Mが予め決まっている
場合を考える。この条件に対して装置側で予め処理/操作内容178−j 毎の判定要素
171−Iに対する重み付け値 HjIを設定する(図43(a))。
そして入力された生体活動情報に対して処理/操作内容178−j毎にΣHji・Pi(HjIとPIを掛けた結果を、i=1からNまで加算した値)を計算し、処理/操作内容178−j の判定値とする(図43(b))。そして最も大きな判定値を示す処理/
操作内容178−jを最適な選択肢として抽出する。
なお本実施例では図43に示した方法に限らず、他の方法を用いて生体活動情報から最適な処理/操作内容178を選択してもよい。
7.2)生体活動検出部を利用したネットワークシステムとビジネスモデル
7.1節では、主に生体活動検出部を内蔵した一体形装置の実施例について説明した。本節では他の実施例として、生体活動検出部を利用したネットワークシステムとそれを応用したビジネスモデルについて説明する。
本節(7.2節)で説明する実施例は、生命活動測定結果(用語の定義は、6.1.3節を参照)に応じて実施するサービス活動に関して、ネットワーク上で
〔A〕生体活動を検出して生体活動検出信号を生成するレイヤー
〔B〕生体活動検出信号を解析して生体活動情報を生成するレイヤー
〔C〕生体活動情報に基づいて適正なサービスを提供するレイヤー
を完全に分離し、さらに
〔D〕各レイヤー間のインターフェース情報を(個人情報漏洩防止を考慮して暗号化した状態にして)ネットワーク(インターネット)経由で伝送可能
にした所に大きな特徴がある。その結果として誰でも、他のレイヤー内での処理方法を知る必要無く特定レイヤー内のみへの新規参入が簡単にできる。このように各レイヤー内へ
の参入障壁が低いため、世界中の誰でも(あるいはどの法人でも)が簡単にインターネット上でのビジネスチャンスを得られる。そして多くの人(または業者)の参加で、ユーザは非常に安価なサービスが受けられる。
7.2.1)生体活動検出部を利用したネットワークシステム全体の概要
本実施例における生体活動検出部101を利用したネットワークシステム全体の概要を図44を用いて説明する。
前述した「〔A〕生体活動を検出して生体活動検出信号を生成するレイヤー」が「ユーザ側フロントエンド」に対応する。そしてこのユーザ側フロントエンドは、生体検出部220を含む生体検出系218とユーザ側の制御系217、ユーザ側の駆動系216から構成されている。また前記生体検出部220内には、生体活動検出部101が含まれている(6.1.3節参照)。しかし本実施例では上記に限定されず、生体活動の検出のみならずユーザに関係したあらゆる情報の収集手段または、生体活動情報に基づいてユーザへの提供サービス244を実行するあらゆるサービス実行手段、およびそれらに関係する制御手段をユーザ側フロントエンドの構成要素として含めてよい。
「〔B〕生体活動検出信号を解析して生体活動情報を生成するレイヤー」での処理を「伝心仲介業者(マインド・コミュニケーション・プロバイダ)211」が担い、「C〕生体活動情報に基づいて適正なサービスを提供するレイヤー」での対応を「心のサービス会社(マインド・サービス・ディストリビュータ)212」が実行する。
また従来のインターネット・レイヤー201の上に独自のマインド・コネクション・レイヤー202を構築した所にも、本実施例の特徴がある。このマインド・コネクション・レイヤー202とは、ハード上は従来のインターネット環境をそのまま利用し、イベント情報付き生体活動検出信号248もしくはその関連情報が転送されるソフト上のネットワーク環境を意味する。つまりこれはインターネット・レイヤー201(インターネット環境)上に形成された生命活動測定に関係したコミュニティーの一種とも解釈でき、ネットワーク環境での特定ドメイン内にこのレイヤーを構築できる。あるいはイベント情報付き生体活動検出信号248もしくはその関連情報が伝心仲介業者(マインド・コミュニケーション・プロバイダ)211が指定したアドレスへ自動転送されるように設定されたソフト的なネットワーク環境を「狭義のマインド・コネクション・レイヤー202」と呼んでよい。
この「狭義のマインド・コネクション・レイヤー202」を具体的に構築するために、誰でも閲覧可能なWeb上のホームページを形成するユーザへの表示画面250内に
(1)ユーザ環境における生体活動検出の可否を判定し、
(2)生体活動検出が可能な場合はイベント情報付き生体活動検出信号248を、伝心仲介業者
(マインド・コミュニケーション・プロバイダ)211が指定したアドレスへ自動転送する
ためのコマンド(例えば8.3節で記載する Send Detection Sign
alコマンド)を埋め込む方法がある。このWeb上ホームページ内への上記コマンドの埋め込みには、例えばJavaScript(「JavaScript」は登録商標)で記述されたWeb API(Application Interface)が利用できる。
したがってインターネット・レイヤー201上のマインド・コネクション・レイヤー202構築方法は、
α)マインド・コネクション・レイヤー202への参加メンバーを募る‥ 伝心仲介業者(マインド・コミュニケーション・プロバイダ)211を始めとした心のサービス会社(マインド・サービス・ディストリビュータ)212と(特定の提供サービス244を受けるために)生命活動の測定を許諾したユーザ213が参加メンバーとなる。
β)心のサービス会社(マインド・サービス・ディストリビュータ)212が提供するインターネット上でのホームページ(ユーザへの表示画面250)内に下記の制御を埋め込む
●生体検出部220を動かして、ユーザ213に対する生体活動検出24を行う
●イベント情報付き生体活動検出信号248を、伝心仲介業者(マインド・コミュニケーション・プロバイダ)211指定のアドレスへ送信する
●イベント情報付き生体活動情報249を心のサービス会社(マインド・サービス・ディストリビュータ)212が指定したアドレスへ送信する
γ)ユーザ213が生体検出系218を所有する‥契約に基づく伝心仲介業者(マインド・コミュニケーション・プロバイダ)211からユーザ213への有償提供
δ)イベント情報付き生体活動情報249に基づきユーザ213への最適なサービスを提供可能な環境を心のサービス会社(マインド・サービス・ディストリビュータ)212が準備する
から構成される。
次に図44を用いてネットワークシステム内での信号/情報の流れを説明する。
ユーザ側フロントエンド内での生体検出系218には生体検出部220が含まれ、その中に生体活動検出部101が配置されている(6.1.3節参照)。そして6.2節〜6.4節で説明した生体活動検出部101によりユーザ213に関する生体活動検出241が行われる。その結果得られたイベント情報付き生体活動検出信号248は、上記コマンド内で指定されたアドレスへ自動転送される。
そしてマインド・コネクション・レイヤー202とインターネット・レイヤー201を経由して転送された上記イベント情報付き生体活動検出信号248から、生体活動解析部227内で6.5節の説明方法によってイベント付き生体活動情報249が生成される。ところで本実施例では暗号化後のイベント付き生体活動情報249はマインド・コネクション・レイヤー202を経由せず、インターネット・レイヤー201(通常のインターネットに使われるネットワーク回線)のみを経由して心のサービス会社(マインド・サービス・ディストリビュータ)212へ転送される。このように心のサービス会社(マインド・サービス・ディストリビュータ)212への転送には、マインド・コネクション・レイヤー202を経由せずインターネット・レイヤー201のみを経由させることで、イベント付き生体活動情報249の転送速度を速めると共に心のサービス会社(マインド・サービス・ディストリビュータ)212の利便性を向上させている。そして心のサービス会社(マインド・サービス・ディストリビュータ)212内で復号化されたイベント付き生体活動情報249の内容に基づき、例えば7.1.4節で説明した方法で選択された最適な提供サービス244をユーザ213が受ける。
そしてユーザ213が提供サービス244を受け取ると、伝心仲介業者(マインド・コミュニケーション・プロバイダ)211に対して対価である使用料金の支払い252をまとめて行う。その後は課金/利益分配処理部232内での操作により、伝心仲介業者(マインド・コミュニケーション・プロバイダ)211から心のサービス会社(マインド・サービス・ディストリビュータ)212へ利益配分253が自動的に行われる。
生体活動検出部を利用したネットワークシステム全体として図44では一人のユーザ213しか記述して無い。しかし本実施例ではそれに限らず、例えばチャットまたはTV会
議システムなどのように心のサービス会社(マインド・サービス・ディストリビュータ)212が仲介して互いに異なる場所に居る複数のユーザ213間でコミュニティーを形成してもよい。この場合には相手の生体活動検出情報249が画面の一部に表示され、相手の時々の気持ちを理解しながらコミュニケーションを持つことができる。従来のテキストを主体としたメール環境またはTV会議では、遠方に居る人に伝える情報量が少ないため誤解または気持ちの行き違いが多発していた。それに比べて本実施例では『相手の時々の気持ち情報』がその強さの度合いと共に送られるため、例えば「どの程度相手が怒っているか?」などが即座に分かり、円滑な人間関係を形成し易くなる。
また本実施例では図44に限らず、生命活動測定に関係した情報(例えば生体活動検出信号248または生体活動情報249など)がネットワークを経由して送信されるあらゆるシステムまたはそれを可能とする装置が本実施例に含まれる。またこの場合には必ずしもユーザ213へのサービス244の提供は必須では無く、ユーザ213へサービス244の提供を行う事無く生命活動測定に関係した情報を送信するシステムまたはそれを可能とする装置で有ってもよい。
7.2.2)ユーザ側フロントエンドの説明
7.2.2.1)ユーザ側フロントエンドの役割
ユーザ側フロントエンドの役割は、『心のサービス会社(マインド・サービス・ディストリビュータ)が作成したユーザへの表示画面250上に予め設定されたWeb API
に従い、ユーザ213の生体活動を検出241すると共にユーザ213とそれを取り巻く環境に関係したイベント情報B242を収集し、その結果をイベント情報付き生体活動検出信号248として伝心仲介業者(マインド・コミュニケーション・プロバイダ)211へ転送する』事にある。
そしてイベント情報付き生体活動情報249に基づいて、心のサービス会社(マインド・サービス・ディストリビュータ)212がユーザ213に対して各種のサービスを提供する。ところでこの心のサービス会社(マインド・サービス・ディストリビュータ)212からネットワーク経由で(インターネット・レイヤー201を経由して)転送される提供サービス244の内容に対応して『ユーザに直接行うサービスの実施』も、ユーザ側フロントエンドの大きな役割となる。
このユーザに直接行うサービス実施の具体的内容として、本実施例では
(1)表示画面制御部225を介してユーザ213への画面表示(または音声出力)による特定の情報提供245、または
(2) インターネット・レイヤー201を経由して(ネットワーク通信によって)遠隔
操作251されたユーザ側駆動系216の動作によるユーザ213へのサービス244提供
などを行う。しかしそれに限らず本実施例では、ユーザから得られた生体活動情報に基づく他のあらゆるサービス提供をこのユーザ側フロントエンドが行ってもよい。
7.2.2.2)ユーザ側フロントエンドの詳細な機能
7.2.2.1節で説明した役割を実行するため、ユーザ側フロントエンドは図44に示す構造をしている。しかし本実施例では図44に示す構造に限らず、7.2.2.1節で説明した役割の一部が実行可能なあらゆる構造を有することができる。
ユーザ側フロントエンド内でのユーザ側の制御系217の具体例としては、パーソナル・コンピューター、携帯端末、携帯電話または通信機能を持ったディスプレー(テレビな
ど)が上げられる。しかしそれに限らず、図44に示した要件の一部を含むあらゆる機器をユーザ側の制御系217と見なしてもよい。
ユーザ側の制御系217内にはインターネット通信制御部223を有し、ネットワーク(インターネット・レイヤー201)を経由してインターネット(Web)上のホームページ情報の収集が可能となっている。そしてこの収集されたホームページ画面は、表示画面制御部225によりユーザ213へ表示できる。ユーザ入力部226に、キーボード、タッチパネルまたはマイク等が装備され、ユーザ213によるキーインまたは手書き入力、音声入力などの入力が可能となっている。
本実施例ではユーザに表示されるホームページ画面には、心のサービス会社(マインド・サービス・ディストリビュータ)212が提供するユーザへの表示画面250が含まれる。ところで図39を用いて6.5.3.4節で説明したように、生体活動検出(S22)を行うための外部からの刺激(S21)に対応したイベント情報A243がこのユーザへの表示画面250内に含まれている場合が多い。したがってユーザ側の制御系217はイベント情報A抽出部224を持っている。ここではインターネット通信制御部223が受信したユーザへの表示画面250の内容を解釈(解読)し、その中からイベント情報A243の内容を抽出して生体検出系218へ転送する。
ところで図44に示したユーザ側フロントエンドの生体検出部220内には生体活動検出部101が装備されているが(各部の名称と機能の関係については6.1.3節参照)、生体検出部220が装備されて無いユーザ環境に対しても心のサービス会社(マインド・サービス・ディストリビュータ)212からユーザへの表示画面250を送付できる。そのため7.2.1節内の(1)で記載したように、『ユーザ環境における生体活動検出の可否を判定』するコマンド(例えば8.3節で記載するCheck Mind Detectionコマンド)がユーザへの表示画面250内のWeb APIに予め設定され
ている。
したがってユーザ側の制御系217内では上記コマンド指示に対応して生体検出部220がユーザ側フロントエンド内に装備されているか否かを調査する。生体検出部220が装備されて無い場合には、ユーザへの表示画面250内設定コマンド(例えば8.3節で記載するChange Mindless Displayコマンド)にしたがって異なる対応画面を表示させる。そしてこの場合には、ユーザ213がユーザ入力部226から入力された情報しか心のサービス会社(マインド・サービス・ディストリビュータ)212に届かないので、インターネット通信制御部223から心のサービス会社(マインド・サービス・ディストリビュータ)212へは検出信号無しのユーザ入力情報254のみが伝送されることになる。
一方ユーザ側フロントエンド内に生体検出部220が装備されている場合には、生体検出系218内の信号/情報多重化部222から出力されたイベント情報付き生体活動検出信号248がインターネット通信制御部223経由で伝心仲介業者(マインド・コミュニケーション・プロバイダ)211へ伝送される。
生体検出系218の形態は、例えばUSB端子など接続端子を経由してユーザ側の制御系217に接続可能な外付け装置の形態を取る場合とユーザ側の制御系217に組み込まれた形態など各種の形態を取ることができる。またそれに限らず、7.2.2.3節で説明する色々な形態が取れる。
生体検出系218の役割は『ユーザ213の生体活動を検出241すると共にユーザの状態またはその環境を観測し、その結果をイベント情報付き生体活動検出信号248とし
てインターネット通信制御部223へ出力』することにある。
ところで図39内ステップ26で実施される生体状況または生体環境の観測結果が図44内に記載したイベント情報B242に相当する。また6.5.2節で説明したように生体活動検出の位置検出部の一部(図22に示すカメラ用レンズ42と2次元光検出器43)を使ってイベント情報B242を収集する場合には、イベント情報B検出部221の一部が生体検出部220内の生体活動検出の位置検出部と兼用される。それ以外のイベント情報B検出部221の具体的な内容として、6.5.2節で説明したように温度センサおよび湿度センサなどが該当する。一方6.5.2節で説明した「ユーザ213に直接入力してもらう生体内部状態に関する情報」は、ここではイベント情報A243に分類する。
そして信号/情報多重化部222では、生体検出部220から出力された(暗号化された)生体活動検出信号とイベント情報B検出部221から出力されたイベント情報B242、イベント情報A抽出部224から出力されたイベント情報A243を多重化(情報合成)してイベント情報付き生体活動検出信号248を生成し、インターネット通信制御部223に送信する。ここで個人情報保護の観点から、イベント情報付き生体活動検出信号248内ではイベント情報A243とイベント情報B242も共に暗号化されている。ところで本実施例では暗号化されたイベント情報A243とイベント情報B242、生体活動検出信号いずれもインターネット・プロトコルの規格に沿って複数のパケットに分割されている。したがって信号/情報多重化部222では、前記パケット単位での多重化による上記信号と上記情報の混合(合成)が行われる。
ユーザ側の駆動系216とは、『生体活動情報249に対応して行うユーザ213(あるいはユーザ213が望む相手)への「駆動系を利用した」サービス244を提供する手段』を示している。また特に『インターネット・レイヤー201(インターネット)を経由して遠隔操作251が可能な駆動部を内蔵した装置』がそれに該当する。ここでユーザ側の駆動系216の具体例としては、「ユーザが使用している部屋内の照明スイッチのオン/オフ」など遠隔操作251が可能な簡単な駆動系から「電動車椅子または電動式ベッド等の駆動部を内蔵した介助装置」「掃除ロボットなど駆動部を内蔵した家事代行装置」など駆動系として高度な駆動機構を有する装置、またはユーザ213の意志を第3者へ伝えるための「プリンター」などが上げられる。しかしこれに限らず、ユーザ213またはユーザ213が望む相手に対して駆動系を利用したあらゆるサービス244の提供手段がユーザ側の駆動系216に含まれる。
7.2.2.3)生体検出系の組み込み形態例とそれを用いた応用例
本節では、図44に示した生体検出系218に関する補足説明とそれが組み込まれた各種形態とそれを利用した応用例について説明する。
生体検出系218内に内蔵されている生体検出部220は図示して無いが6.5.2節で説明したように、例えば図31および図32に示す生体活動検出部101と例えば図20〜図22に示す生体活動検出の位置検出部、およびそれらを接続して統制の取れた制御を行うための接続/制御部から構成されている。
また図44では1個の生体検出系218しか記載して無いが、それに限らず後述するようなそれぞれ異なる形態を有した複数の生体検出系218をユーザ側フロントエンド内に設置できる。
次に生体検出系218が組み込まれた商品形態例とそれを用いた応用例について説明する。
<生体検出系218が外付け装置の形態を取り、ユーザ側の制御系217と接続端子で
接続>
この中の生体検出部220内に組み込まれた生体活動検出部101内の生体活動検出用光学系とそこで使われる光検出器は図26〜図28に示した構造を採用し、6.5.4節で説明したようにユーザの顔面筋肉の動きを検出して、ユーザの情動反応を測定する。またこのときの生体活動検出の位置検出部は図22に示した原理を用いる。そして図22に示した生体表面の目印位置40は、ユーザの顔面位置に相当する。したがってユーザ213がユーザ側の制御系217(例えばパーソナル・コンピューターまたは携帯端末など)を操作する時には2次元光検出器43でユーザ213の顔面が検出できるように、生体検出系218を設置する必要がある。
そして生体活動検出信号248を解析する時の測定項目は、『情動反応』『不随意判定(無意識状態)』または『魅力性』のいずれかを設定する場合が多い(6.5.2節参照)。
上記の条件で測定項目として『魅力性』を設定した場合には、本実施例を『通信販売』または『市場調査』に利用できる。例えば心のサービス会社(マインド・サービス・ディストリビュータ)212が提供するユーザへの表示画面250内で通信販売番組を放送し、新商品を紹介する毎に『魅力性』を判定すれば効率のよい市場調査が行える。さらに特定商品に対してユーザ213が問い合わせした時の「ユーザの本気度」が分かるので、効率良く対応ができる。
一方上記の条件で測定項目として『情動反応』または『不随意判定(無意識状態)』
を設定した場合には、ガイダンスまたは相談/アドバイスなどユーザ213の時々の気分に応じた適切な対応処理が可能となる。例えばユーザ213が初めて見るホームページの操作方法が分からずに動揺または困惑している様子が分かれば、自動的にユーザ213に対するガイダンス画面に切り替わることができ、ユーザ213に対する利便性が大幅に向上する。
<生体検出系218が組み込まれたベビーベッド>
新生児を初めて持つ親にとって、泣きじゃくる新生児に手を焼くことが非常に多い。その時、リアルタイムで(即座に)新生児の状態と対応方法が分かれば、親は非常に助かると共に心のサービス会社(マインド・サービス・ディストリビュータ)212に対して強い信頼感を感じる。本実施例では生体検出系218が組み込まれたベビーベッドに新生児を寝かせて測定を要求すると、自動的に生命活動の測定が行われる。その結果として新生児の状態が予想でき、ユーザに新生児の状態を知らせると共にその対応方法をアドバイスするサービス244が行える。
この場合も、生体検出部220内に組み込まれた生体活動検出部101内の生体活動検出用光学系とそこで使われる光検出器は図26〜図28に示した構造を採用し、またこのときの生体活動検出の位置検出部は図22に示した原理を用いる。図22に示した生体表面の目印位置40は、新生児の頭部に相当する。したがって新生児をベビーベッドに寝かせた時には2次元光検出器43で新生児の頭部が検出できるように、生体検出系218を設置する必要がある。
ところで新生児が泣く原因として
A)病気による局部の痛み 、B)排泄の知らせ 、C)親への愛情(抱擁)要求(甘え)、またはD)空腹または喉の渇きの訴えなどが予想される。ここで体内の局部的な痛みまたは排泄時の違和感が生じると、体性感覚野内が局所的に活性化する(F.H.ネッタ
ー:ネッター医学図譜 脳・神経系I「構造と機能」(丸善(株),2006年)p.166参照)。したがって図38を用いて6.5.3.2節で説明した方法で予め体性感覚野内での活性化パターンと痛みまたは違和感が生じる場所との間の相関データを蓄積しておけば、体性感覚野内での活性化パターンから(A)の痛みの場所または(B)の排泄状態を予想できる。この場合の測定項目には、『体性感覚』を設定する(6.5.2節参照)。
一方6.5.4節で説明したようにユーザの顔面筋肉の動き検出による新生児の情動反応を測定することで、(C)の甘えの感情による親への愛情(抱擁)要求を予想できる。またこの場合の測定項目には、『情動反応』を設定する(6.5.2節参照)。
そして上記(A)〜(C)のいずれにも当てはまらない場合には、消去法の結果として(D)の空腹または喉の渇きの訴えと予想できる。
<生体検出系218が組み込まれた枕または寝室ベッドの頭部>
人間の覚醒時と睡眠時では脳波に違いが現れる。脳波測定の代わりに非接触で行える本実施例の検出方法を用いてユーザの睡眠状態を測定し、『ユーザ213が眠ったら、部屋の照明と音楽を自動的に消し』、『ユーザ213が目覚めたら、自動的に部屋の明かりを付ける』などのサービス244を提供できる。
この場合も、生体検出部220内に組み込まれた生体活動検出部101内の生体活動検出用光学系とそこで使われる光検出器は図26〜図28に示した構造を採用し、またこのときの生体活動検出の位置検出部は図22に示した原理を用いる。そして図22に示した生体表面の目印位置40は、ユーザ213の頭部に相当する。したがってユーザ213が寝た時には2次元光検出器43でユーザ213の頭部が検出できるように、生体検出系218を設置する必要がある。
またこの場合の測定項目には、『覚醒・緊張状態』を設定する(6.5.2節参照)。
そして上記生命活動の測定結果に基づいて部屋の照明と音楽を付けるか消すかの判定には、図43を用いて7.1.4節で説明した方法を使う。
<生体検出系218が組み込まれた出入り口扉または玄関の壁または窓>
防犯に利用できる。この場合には2次元光検出器43で出入り口または玄関入り口に立った人の顔が検出できるように、生体検出系218を設置する必要がある。そして6.5.4節で説明したようにユーザの顔面筋肉の動きを検出して、ユーザの情動反応を測定する(測定項目には『情動反応』を設定する)。それにより出入り口または玄関入り口に立った人が「悪意を持っているか?」または「家の人に危害を加えようとしているか?」が予測でき、防犯に役立つ。
<生体検出系218が組み込まれた路上での防犯カメラ>
上記の例は、一個人宅での防犯対策に役立つ。上記例に対する応用例として、交差点など人が集まる場所に設置された防犯カメラに生体検出系218を組み込み、公共の場での防犯に役立てることができる。すなわち路上を歩いている人の中で殺意またはスリ/万引きなどの悪意を持った人を発見してカメラで追い続けることで、事件の未然防止または事件発生状況の記録が可能となる。その結果、公共の場での治安が向上する。
<生体検出系218が組み込まれた机または椅子>
学校の先生が行う生徒の学習意欲(きちんと先生の話を聞いているかなど)度把握または、会社内の上司が行う部下の勤務効率評価するなどに利用できる。
この場合には2次元光検出器43で机の前または椅子の上に座った人の顔もしくは頭部(帯状回)が検出できるように、生体検出系218を設置する必要がある。また生体検出部220内に組み込まれた生体活動検出部101内の生体活動検出用光学系とそこで使われる光検出器は図26〜図28に示した構造を採用し、またこのときの生体活動検出の位置検出部は図22に示した原理を用いる。そして測定項目には、『情動反応』または『覚醒・緊張状態』を設定する(6.5.2節参照)。『情動反応』の測定の場合には、6.5.4節で説明したようにユーザの顔面筋肉の動きを検出する。一方『覚醒・緊張状態』の測定には、7.1.2節の<実施例1>内で説明したように、帯状回での活性化を測定する。
上記例で示したように、各種装置(または製品)に生体検出系218を組み込んで新たな応用を提供できる。しかし上記例で示した商品形態に限らず、『生命活動を測定するため、人または動物が接近または接触できる場所に設置可能(但し移動も可能)なあらゆる形態』に上記生体検出系218を内蔵できる。
7.2.3)伝心仲介業者(マインド・コミュニケーション・プロバイダ)の説明
7.2.3.1)伝心仲介業者(マインド・コミュニケーション・プロバイダ)の役割
伝心仲介業者(マインド・コミュニケーション・プロバイダ)211の役割は、下記の通り。
〔A〕マインド・コネクション・レイヤー202とインターネット・レイヤー201を経由して送られるイベント情報付き生体活動検出信号248の解析と、その結果得られたイベント情報付き生体活動情報249のインターネット・レイヤー201経由で心のサービス会社(マインド・サービス・ディストリビュータ)212への送信が最も大きく、他には下記の役割がある。
〔B〕ユーザ213から使用料金の支払い252受領と、その中から相当の額を心のサービス会社(マインド・サービス・ディストリビュータ)212への利益分配253
〔C〕心のサービス会社(マインド・サービス・ディストリビュータ)212がユーザへの表示画面250内で下記の処理を行うための技術的サポート
●ユーザ側フロントエンドで生体検出部220またはイベント情報B検出部221を動かしてユーザ213に対する生体活動検出241とイベント情報B242の収集を行う方法●イベント情報付き生体活動検出信号248を伝心仲介業者(マインド・コミュニケーション・プロバイダ)211が指定したアドレスへ送信する方法
●伝心仲介業者(マインド・コミュニケーション・プロバイダ)211から得られたイベント情報付き生体活動情報249に基づき、ユーザ213に最適な提供サービス244を行うために特定の情報提供245が行える次のユーザへの表示画面250を作成・提供する方法
〔D〕心のサービス会社(マインド・サービス・ディストリビュータ)212が提供する上記のユーザへの表示画面250の、他国言語への翻訳‥各国の言語に翻訳されたユーザへの表示画面250をインターネット上で掲載することで、世界中の人がこの心のサービス会社(マインド・サービス・ディストリビュータ)212から提供サービス244が受けられる。
〔E〕ユーザ側の駆動系216を動かすための駆動系への遠隔操作251方法の心のサービス会社(マインド・サービス・ディストリビュータ)212への技術指導または技術サポート
〔F〕マインド・コネクション・レイヤーのメンテナンス業務
上記役割の〔A〕は図44が示すように、伝心仲介業者(マインド・コミュニケーション・プロバイダ)211内の生体活動解析部227が実行し、6.5節で説明した方法で
処理される。このときには、データベース保存領域228内に保存されているデータベースを活用する。
上記役割の〔B〕は課金/利益配分処理部232が対応する。
そして上記役割の〔C〕から〔E〕は、心のサービス会社への技術サポート処理部230が担当する。この場合には〔B〕で説明した「ユーザ213からの使用料金の支払い252→利益配分」のルートとは異なるルートで、サービス会社(マインド・サービス・ディストリビュータ)212から〔C〕から〔E〕に対応した技術サポート費用を徴収する。
一方上記役割の〔F〕は、マインド・コネクション・レイヤーのメンテナンス処理部229が担う。
7.2.3.2)生体活動情報を利用したインターネット・サービスを普及させる仕組み
7.2節の冒頭で7.2.1節の説明前に記載したように、『サービス会社(マインド・サービス・ディストリビュータ)212がマインド・コネクション・レイヤー202に参加する時の技術的負担を軽減』することが生体活動情報を利用したインターネット・サービスを普及させるポイントとなる。そのために技術的に難易度を伴う生体活動検出信号の解析を伝心仲介業者(マインド・コミュニケーション・プロバイダ)211が代行する。
そしてさらに7.2.3.1節内の〔C〕から〔E〕に対応した全面的な技術サポートと〔B〕に相当した煩雑な課金業務も伝心仲介業者(マインド・コミュニケーション・プロバイダ)211が担う。
その結果として世界中の(法人を含めた)誰でもがサービス会社(マインド・サービス・ディストリビュータ)212として参加し、ユーザ213が飛び付く独創的な提供サービス244を立案できる。またビジネス領域を輸送費または人件費が掛からないインターネット・レイヤー201上に設定することで、サービスコストも非常に安く抑えられる。
またユーザ213が上記サービス244を受ける(マインド・コネクション・レイヤー202に参加する)ための条件は、インターネット上で行える『伝心仲介業者(マインド・コミュニケーション・プロバイダ)211との契約‥課金方法の設定と生体検出系218の購入契約を含む』のみなので、ユーザ213の負担も非常に少ない。
その結果、ユーザ213が真に望むサービス244を格安で提供できれば生体活動情報を利用したインターネット・サービスが普及し、マインド・コネクション・レイヤー202が拡大する。
7.2.3.3)伝心仲介業者(マインド・コミュニケーション・プロバイダ)のビジネスモデル
本実施例におけるビジネスモデルでは、『ユーザ213(複数の場合もある)に関する生命活動の測定結果得られた生体活動情報249に基づいてユーザ213へ行う提供サービス244の対価として使用料金の支払い252を受ける』所に特徴がある。また『使用料金の支払い252を伝心仲介業者(マインド・コミュニケーション・プロバイダ)211が一括して受け、そこから伝心仲介業者(マインド・コミュニケーション・プロバイダ)211が心のサービス会社(マインド・サービス・ディストリビュータ)212に対し
利益配分253を行う。
このビジネスモデルを採用すると、心のサービス会社(マインド・サービス・ディストリビュータ)212は「ユーザ213個々からの使用料金徴収」という煩雑な業務から解放されるため、ユーザ213に対して大幅なサービス料の低減が可能となる。
次に一般ユーザ213のマインド・コネクション・レイヤー202への参加方法について説明する。まず始めに一般ユーザ213は伝心仲介業者(マインド・コミュニケーション・プロバイダ)211と契約を結び、課金方法(使用料金の支払い252の方法)またはマインド・コネクション・レイヤー202に関係したサービス内容(心のサービス会社(マインド・サービス・ディストリビュータ)212からどのようなサービスを受けたいか)を決める。そしてこのときユーザ213は伝心仲介業者(マインド・コミュニケーション・プロバイダ)211から購入する生体検出系218とユーザ側の駆動系216の内容を決める。
ユーザ213と伝心仲介業者(マインド・コミュニケーション・プロバイダ)211との契約または購入する生体検出系218とユーザ側の駆動系216の選定は、基本的にはインターネット上で(インターネット・レイヤー202を使って)行うが、それに限らず伝心仲介業者(マインド・コミュニケーション・プロバイダ)211のチェーン店または電気製品の量販店を利用してもよい。またインターネット上で(インターネット・レイヤー202を使って)の課金契約は、ユーザ213側からのキャッシュカード番号とパスワード通知を行うが、銀行口座の自動引き落とし契約を行ってもよい。
ところでユーザ213が既に所有しているパーソナル・コンピューターまたは携帯端末をユーザ側の制御系217として使う場合には、外付け生体検出系218のみを購入してUSBなどの接続端子を用いてユーザ側の制御系217に接続すると共に必要なソフトをパーソナル・コンピューターまたは携帯端末にインストールする。またユーザ213がユーザ側の制御系217まで購入したい場合には、生体検出系218を内蔵したユーザ側の制御系217とユーザ側の駆動系216が接続されたセットを購入する。
ユーザ213が購入手配した上記生体検出系218(またはユーザ側の駆動系216)がユーザ213の手元に届き、必要なセットが完了した時点から、ユーザ213はマインド・コネクション・レイヤー202を利用できる。
ユーザ213からの伝心仲介業者(マインド・コネクション・プロバイダ)211への使用料金の支払い252方法は、課金契約に基づき月額または使用毎にキャッシュカードからの引き落としまたは銀行口座からの自動引き落としとなる。
7.2.4)心のサービス会社(マインド・サービス・ディストリビュータ)の説明
7.2.4.1)心のサービス会社(マインド・サービス・ディストリビュータ)の役割
心のサービス会社(マインド・サービス・ディストリビュータ)212の役割は、
○イベント情報付き生体活動情報249に基づき、最適な提供サービス244の内容を判断し、この提供サービス244をユーザ213に実施する
○インターネット上でユーザ213からのサービス要求を受け付ける
にある。
ユーザ213からのサービス要求を受け付けるために、インターネット(インターネット・レイヤー201)上に掲載する心のサービス会社(マインド・サービス・ディストリ
ビュータ)212のホームページ画面であるユーザへの表示画面250を作成する。この画面はユーザ213に対する生体活動検出24を前提としている。したがって画面表示/切り替え設定部232が生体検出系218を所有しないユーザ213からの検出信号無しの情報254を受け取ると、画面表示/切り替え設定部232がそれに対応したユーザへの表示画面250に表示切り替えを行う。そしてこの場合には伝心仲介業者(マインド・コネクション・プロバイダ)211からのイベント情報付き生体活動情報249の受付を拒否し、ユーザ入力部226を経由して入力される検出信号無しのユーザ入力情報254に対応してユーザへの表示画面250を切り替えてユーザ213に対するサービス244として特定の情報提供245を提供する。
一方ユーザ213が生体検出系218を所有している場合には、イベント情報付き生体活動情報249に基づき、図43を用いて7.1.4節で説明した方法で最適な提供サービス244の方法を選択する。ここで心のサービス会社(マインド・サービス・ディストリビュータ)212が行う提供サービス244の形態は3種類ある。
最初の方法は画面表示/切り替え設定部232がユーザへの表示画面250を切り替えて、ユーザ213に対して特定の情報提供245を行う。
次の方法は駆動系の遠隔操作部233の働きによりユーザ側の駆動系216に対して駆動系への遠隔操作251を行ってユーザ213への提供サービス244を実行する。
最後の方法は直接サービス内容決定部234が働き、ユーザ213に対する提供サービス244として郵送または派遣などの手段により直接的サービス247を行う。例えばユーザへの表示画面250上で流した通信販売の動画に対応して特定商品をユーザ213が発注した場合の商品配送がこれに当たる。あるいはイベント情報付き生体活動情報249によりユーザ213の病変を知り、医者またはヘルパーの派遣もこの直接的サービス247に該当する。
ここで本実施例では適宜ユーザ213の生命活動を測定しているため、ユーザ213の体調変化が起きた直後に早期発見して一命を取り留めるなど生命維持上の大きな貢献ができる。したがって特に一人暮らしの老人などの健康管理または安全確保に役立つ。
7.2.4.2)心のサービス会社(マインド・サービス・ディストリビュータ)のビジネスモデル
心のサービス会社(マインド・サービス・ディストリビュータ)212のビジネスモデルは
『生命活動の測定(生体活動情報249)を利用したサービス244の提供とその対価の徴収』にある。特に伝心仲介業者(マインド・コネクション・プロバイダ)211との契約に基づく技術サポートを受けることで生命活動の測定技術またはWeb APIに関す
る知識を必要とすること無く、『ユーザ213に喜ばれる提供サービス244の立案』だけでビジネスができる特徴がある。
また個々のユーザ213との課金契約は伝心仲介業者(マインド・コネクション・プロバイダ)211が受け持ってくれるので、個々のユーザ213を意識せずに提供サービス244の実施が可能となる。
しかし、この誰もが心のサービス会社(マインド・サービス・ディストリビュータ)212としてマインド・コネクション・レイヤー202に参加できる容易性が逆に危険性を持っている。つまり悪用を企んでこのマインド・コネクション・レイヤー202内に入る
ことが容易でもある。その一例を下記に示す。イベント情報付き生体活動情報249は暗号化された状態でインターネット・レイヤー201内を伝送されるが、心のサービス会社(マインド・サービス・ディストリビュータ)212内では復号化される。したがって心無い心のサービス会社(マインド・サービス・ディストリビュータ)212がユーザ213の個人情報をインターネット・レイヤー201上に流出する危険性がある。
これらの危険を防止するため、伝心仲介業者(マインド・コネクション・プロバイダ)211以外の第3者機関でもイベント情報付き生体活動検出信号248またはイベント情報付き生体活動情報249の活用状況を監視し悪用を防止する必要がある。
7.2.4.3)心のサービス会社(マインド・サービス・ディストリビュータ)のサービス例
図45を用いて心のサービス会社(マインド・サービス・ディストリビュータ)212がユーザ213に対して行う提供サービス244の実施例を、裏で動いている生体検出部220または伝心仲介業者(マインド・コネクション・プロバイダ)211の動作も含めて説明する。
ユーザ213がWeb上で心のサービス会社(マインド・サービス・ディストリビュータ)212が作成したユーザへの表示画面250を開いた時点もしくはその画面250に対して何らかの操作を行った時点で起動処理(S51)が開始される。その直後から生体検出部220が稼動を始め、ユーザ213に対する生体活動検出241を開始する。そしてその結果えられたイベント情報付生体活動情報249に基づくユーザの気持ちに即したインターフェース対応処理(S52)が開始される。その後ユーザ213のリクエストに応じて生体活動検出とイベント情報Bの収集処理(S53)が行われる。ここでの生体活動検出241の具体的方法とその原理は、6.1節〜6.4節で説明した内容に準拠する。そして伝心仲介業者(マインド・コミュニケーション・プロバイダ)211の生体活動解析部227内で生体活動情報の生成処理(S54)が行われる。ここで生体活動情報の生成方法とイベント情報Bの収集方法に関しては、6.5節で説明した内容に準拠する。次にその結果を元に、心のサービス会社(マインド・サービス・ディストリビュータ)212内でユーザに最適なサービス形態の選定(判定)とその実行処理1(S55)が行われる。そしてユーザ213に対する提供サービス244が行われた段階で、図39(2回目の生体活動検出の実施S35)と同様にユーザ213の反応を生体活動検出241し、必要に応じてユーザの気持ちに即したインターフェース対応処理(S52)を実施する。その結果として必要が有った場合には、2度目のユーザに最適なサービス形態の選定(判定)とその実行処理2(S56)を行う。
次に7.2.2.3節で説明した<生体検出系218が組み込まれたベビーベッド>と<生体検出系218が外付け装置の形態を取り、ユーザ側の制御系217と接続端子で接続>を組み合わせた具体的応用例を用いて、図45の実施例に関する詳細内容を説明する。
7.2.2.3節で説明したように、新生児を初めて持つ親が新生児に泣かれて困っている場面を想定する。この親の自宅には生体検出系218が2セットあり、1セットはベビーベッド内に取り付けられている。そして他の1セットはユーザ側の制御系217に対応したパーソナル・コンピューターに接続端子(USB端子)経由で接続された外付け装置で、このパーソナル・コンピューター前に座ったユーザ213の顔面筋肉の動きが検出できるように設置されている。
この親が「新生児が何故泣いているのか?」を知りたくて心のサービス会社(マインド
・サービス・ディストリビュータ)212が開設しているホームページを初めて開いた場面を考える。
ここでユーザへの表示画面250内にはWeb API上でCheck Mind Detectionコマンドが設定されていると共に、生体活動検出が不可能な場合にはChange Mindless Displayコマンドが実行され、生体活動検出が不可能な場合にはDisplay Mind Searching、Start Mind
Searching、Send Detection SignalおよびSend Mind Informationの各コマンドを連続して実行するように設定(8.3節参照)されたと仮定する。
図45に示した起動処理(S51)の具体的内容を図46に示す。まずCheck Mind Detectionコマンドにしたがってユーザ側の制御系217内でユーザ側フロントエンド内に生体検出系があるか?(S61)を確認する。ユーザ側フロントエンド内に生体検出系218が無い場合には、インターネット通信制御部223経由で心のサービス会社(マインド・サービス・ディストリビュータ)212に対して検出信号無しの情報254を送ると共にChange Mindless Displayコマンドにしたがって生体活動検出を行わない表示画面への切り替え(S62)を行う。この切り替え先の画面は、検出信号無しのユーザ入力情報254のみに対応してユーザへの表示画面250が変化する。
一方ユーザ側フロントエンド内に生体検出系218がある場合でも、インターネット通信制御部223経由で心のサービス会社(マインド・サービス・ディストリビュータ)212に対して検出信号があることを通知する。次にCheck Mind Detectionコマンドにしたがって生体検出系218を用いて生体活動検出が可能か?の判定(S63)を行う。これは生体検出部220の検出可能範囲内での被測定対象(ユーザなど)の有無判定と被験者から受ける検出許可判定を意味する。前述したように外付け装置側の生体検出系218はユーザ側の制御系217(パーソナル・コンピューター)の前に座ったユーザ213の顔面筋肉の動きが検出できるように設置され、ベビーベッド側の生体検出系218では新生児をベビーベッドに寝かせた時に2次元光検出器43で新生児の頭部が検出できるように設置されている。しかしユーザ213がユーザ側の制御系217の前に座らず、ベビーベッド内に新生児が居ない場合は、生体活動の検出は不可能となる。本実施例ではユーザ側フロントエンド内において1個の生体検出系218でも可能な場合は、生体活動検出241の処理を開始する。しかし全ての生体検出系218での生体活動検出241が不可能な場合は、その情報をインターネット通信制御部223経由で心のサービス会社(マインド・サービス・ディストリビュータ)212へ通知する。そしてその後、生体活動検出が不可能な状況をユーザに通知する(S64)。この通知方法は、心のサービス会社(マインド・サービス・ディストリビュータ)212が表示するユーザへの表示画面250の中でコメント表示または音声表示する。しかしそれに限らず、生体検出系218が持つ表示機能を利用して通知してもよい。
そしてユーザ213がユーザ側の制御系217の前に座ったことが確認できた場合には、被験者(この場合はユーザ213)に対して生体活動検出を開始してよいか?を問い合わせる。この問い合わせ方法も、心のサービス会社(マインド・サービス・ディストリビュータ)212が表示するユーザへの表示画面250の中でのコメント表示または音声表示を利用する。生体活動検出の被験者であるユーザ213からユーザ入力部226を介して生体活動検出の許可を得た後、Start Mind Searchingコマンドにしたがって外付け装置側の生体検出系218を用いて生体活動検出を開始し(S65)、Display Mind Searchingコマンドにしたがって生体活動の検出をユーザに通知する(S66)。このユーザへ通知する(S66)具体的な方法は、ユーザ
213が見ているホームページ画面(ユーザへの表示画面250)の一部に『Mind Searching by **』のように画面表示するか音声案内を行うが、しかしそれに限らず、生体検出系218が持つ表示機能を利用して通知してもよい(特定色のランプ表示でもよい)。ここで現在説明している実施例のようにユーザ側フロントエンドに複数の生体検出系218が装備されている場合は、『Mind Searching by **』内の『**』を用いた表現により『どの生体検出系218を使って生体活動の検出を行っているか?』がユーザ213に分かるようにする。ところでこの生体活動の検出をユーザに通知する処理(S66)は個人情報保護またはプライバシー侵害の観点から非常に重要となる。というのは生命活動の測定結果(生体活動情報249)は非常に機密性の高い個人情報に該当すると共に個人のプライバシーの侵害にもなる。したがってユーザに通知する(S66)ことで、ユーザ213が退席などの生命活動測定を回避する(ユーザ213の個人情報収集を拒否する)選択肢を持てる効果が生まれる。
次に図45に示したユーザの気持ちに即したインターフェース対応処理(S52)の具体的内容を図47に示す。本実施例では生命活動測定に拠り時々刻々と変化するユーザ213の気持ちを適宜(リアルタイムで)理解することができる。したがってそれを生かし、ユーザ213の気持ちに合わせたユーザ・インターフェースを提供できる所に大きな特徴がある。このユーザ・インターフェースの例として『表示画面の切り替え』の説明をするが、それに限らず『ユーザに聞かせる音楽の適正化』または『音声またはテキストでの表現方法の適正化』『登場させる人物の適正化(性別または年齢の切り替えなど)』など、生命活動の測定結果(生体活動情報249)を利用してユーザ・インターフェース方法を適正化(変化)させるあらゆる方法も本実施例範囲に含まれる。
新しい機械を初めて使う時またはインターネット上で初めて閲覧するホームページを見た時に、ユーザ213は操作方法が分からずに戸惑う場合がある。その時に試行錯誤しながら操作方法を覚えるユーザ213に対しては問題無いが、全く操作方法が分からずに立ち往生するユーザ213に対しては使い方をアドバイスする必要がある。そしてこのアドバイス方法も、自動的に動くアニメーションを用いたガイダンスを示したナビゲーション画面を表示するだけでよい場合と、専用にガイドする人が付いてユーザ213への細かな指導が必要な場合がある。ユーザ213の気持ちに合わせたユーザ・インターフェース提供方法の一例として、操作方法を説明する画面の適正化(適正画面の切り替え方法)について図47を用いて説明する。
7.2.2.3節内の<生体検出系218が外付け装置の形態を取り、ユーザ側の制御系217と接続端子で接続>のところで説明したように、ユーザの顔面筋肉の動きを検出して、ユーザの情動反応を測定すれば時々刻々と変化するユーザ213の気持ちを理解できる。伝心仲介業者(マインド・コミュニケーション・プロバイダ)211から送られて来る情動反応に関するイベント情報付き生体活動情報249を利用して心のサービス会社(マインド・サービス・ディストリビュータ)212が提供する現行のユーザへの表示画面250(現在ユーザ213が閲覧しているホームページ)に関してユーザが画面の操作方法に慣れているか?(S71)を判定する。具体的には6.5.2節で説明したように測定項目に『情動反応』を設定し、その中に存在する判定要素の中で『不安』に関する合致度172の値が判定値以下で『安心』に関する合致度172の値が判定値以上かを調べる。そしてもしユーザが現行の画面の操作方法に慣れている場合には、ユーザに現行の表示画面で操作してもらう(S72)。逆にユーザが画面の操作方法に慣れて無い場合には、ユーザが画面の操作または対応方法に強い不安を感じるか?を判定する(S73)。その具体的な方法は上記と同様に判定要素である『不安』に関する合致度172の値を詳細に調べる。そして『不安』に関する合致度172が標準値よりも低い場合にはそれ程不安を感じて無いと見なし、ユーザ213に対して自動的に動くナビゲーション画面を表示し(S74)、アニメーションを用いたガイダンスによりユーザ213に操作方法を説明す
る。この自動的に動くナビゲーション画面への切り替え(S74)は、心のサービス会社(マインド・サービス・ディストリビュータ)212内の画面表示/切り替え設定部232の操作により実行される。一方『不安』に関する合致度172が標準値よりも高い場合にはユーザ213が強い不安を感じていると見なして、Web の画面上で人が直接対応
する画面を表示し(S75)人との直接対面によりユーザ213に安心して操作方法または対応方法を理解してもらう。このようにユーザ213の気持ちに応じたインターフェースを提供する(インターフェースの内容または方法を変える)ことで、ユーザ213に安心感を与えて気持ち良く利用してもらえる。
ユーザ213に使い方を理解してもらえた段階で、新生児をベビーベッドに寝かせてもらう。するとベビーベッド側の生体検出系218が新生児の存在を自動検知し、Start Mind Searchingコマンドにしたがって生体活動検出を開始する。その後Display Mind Searchingコマンドにしたがって、ベビーベッド側の生体検出系218を用いた生体活動検出をユーザに通知する。
新生児が泣く原因を調査する場合には、前述したように測定項目として『体性感覚』と『情動反応』を設定する。8.3節で後述するように、この測定項目の情報はSend Mind Informationコマンド内のパラメーターとして指定される。ところで心のサービス会社(マインド・サービス・ディストリビュータ)212が作成したユーザへの表示画面250(Web上のホームページ)内には、Web APIとしてこのSend Mind Informationコマンドが設定されている。この情報をインターネット通信制御部223が受けると、この中からイベント情報抽出部224がSend Mind Informationコマンドをイベント情報A243の一部として抽出する。そして信号/情報多重化部222で多重化されて、新生児から検出された生体活動検出信号とこのSend Mind Informationコマンド(もしくはその中のパラメーター情報)がイベント情報付き生体活動検出信号248として伝心仲介業者(マインド・コミュニケーション・プロバイダ)211へ送信される(図45の生体活動検出とイベント情報Bの収集処理(S53)に対応)。
そして図45の生体活動情報の生成処理(S54)では、伝心仲介業者(マインド・コミュニケーション・プロバイダ)211が送られて来たイベント情報付き生体活動検出信号248内に含まれるSend Mind Informationコマンド(もしくはその中のパラメーター情報)内で指定された測定項目に基づいて生体活動検出信号の解析を行う。
次に図45内のユーザに最適なサービス形態の選定(判定)とその実行処理1(S55)では、心のサービス会社(マインド・サービス・ディストリビュータ)が7.2.2.3節内の<生体検出系218が組み込まれたベビーベッド>内に記載された内容に沿って新生児の泣く原因が
A)病気による局部の痛み 、B)排泄の知らせ 、C)親への愛情(抱擁)要求(甘え)、およびD)空腹または喉の渇きの訴えのいずれかを予想する。その結果をユーザへの表示画面250に掲載し、ユーザ213に対して特定の情報提供245の形で通知する。
新生児の泣く原因が(B)から(D)のいずれかの場合には、単にユーザ213に通知するだけで提供サービス244は完了する。しかし新生児の泣く原因が(A)の場合にはその状況をユーザ213に通知すると共に医者への受診など対応方法をユーザにアドバイスする必要がある。この場合には図43を用いて7.1.4節で説明した方法で最適な対応方法を選択し、その結果をユーザ213に通知する。
新生児が病気の可能性がある場合、親(ユーザ213)は動揺する。図45のユーザの
気持ちに即したインターフェース対応処理(S52)とユーザに最適なサービス形態の選定(判定)とその実行処理2(S56)として、最初は最適な対応方法を画面表示する。そしてそれと同時に図47で説明したように親(ユーザ213)の気持ちに合わせて対応方法を適正化する。その選択肢の一つとして、ユーザの希望が有ればインターネット(インターネット・レイヤー201)上で直接小児科医と面談して相談するようにセットしてもよい。このようにユーザ213の気持ちに合わせて対応方法を適正化することで、病気の早期発見が可能になるだけでなくユーザ213に対して大きな安心感を与えられる。
8〕生体活動検出信号と生体活動情報の通信用プロトコル
図44を用いて7章で説明したように、イベント情報付き生体活動検出信号248とイベント情報付き生体活動情報249はネットワーク経由で転送される。このネットワーク通信時に使用される通信プロトコルを本章で説明する。
また7章で説明したように本実施例では、ユーザへの表示画面250(インターネット上でのホームページ画面)上でAPIコマンドが設定される。そして本実施例で初めて使用されるAPIコマンドの内容についても、本章で説明する。
8.1)生体活動検出信号と生体活動情報の通信用プロトコルに関する共通部分の特徴
まず始めに、イベント情報付き生体活動検出信号248とイベント情報付き生体活動情報249の通信プロトコルに関する共通部分の特徴とその効果(「‥」の後に記載)を下記に列記する。
(1)生体活動検出信号と生体活動情報の通信プロトコルの一部で共通構造を持たせ、共有化する‥生体活動検出信号内に含まれる通信プロトコルの一部を生体活動情報の一部として転用可能なため、生体活動情報の生成が容易となる。
(2)生体活動検出信号と生体活動情報にインターネット・プロトコルIPとの互換性を持たせる‥図44を用いて7.2.1節で説明したように、生体活動検出信号248と生体活動情報249共にインターネット・レイヤー201上でインターネット・プロトコルIPにしたがって通信処理を行う。したがって両者共に予めインターネット・プロトコルIPとの互換性を持った構造(通信プロトコル)を持たせることで、図44内 インター
ネット通信制御部223の負担を軽減できる。
(3)共通内容(コンテンツ)毎にまとめたデータグラムを複数定義し、それらを多重化して送る‥インターネット・プロトコルIP内で定義されているデータグラムのフラグメント化方法(多重化)を採用することで、種類の異なる複数の内容(コンテンツ)を生体活動検出信号と生体活動情報内で混在した形での通信が可能となる。
(4)共通内容(コンテンツ)毎に集めたデータグラムを複数定義し、インター・ネット・ヘッダー315内の対応のデータグラム識別情報332により各パケットがどのデータグラムに対応するかの識別を可能にする‥それによりパケット毎に各フラグメントがどのデータグラムに含まれるかが高速で判別できるため、フラグメントからのデータグラムへの再構築が容易となる。
(5)各パケット内のインター・ネット・ヘッダー315にタイムスタンプ情報339を持たせ、パケット間の同期合わせを可能にする‥異なるデータグラム間の同期合わせが非常に容易となる。
(6)生体活動検出信号と生体活動情報共に、イベントデータグラム302の構造を共通化する‥生体活動検出信号内に含まれるイベントデータグラム302の情報をそのまま生体活動情報の一部として転用できるため、生体活動情報の生成が容易となる。
次に生体活動検出信号と生体活動情報の通信用プロトコルの共通部分に関する詳細説明を行う。
図48と図49が示すように、
●生体活動検出信号 では、検出条件データグラム301および1種類以上の検出信号デ
ータグラム303、1種類以上のイベントデータグラム302が定義され、また
図50と図51が示すように、
●生体活動情報 は、生体活動解析条件データグラム305および1種類以上の活動情報
データグラム304、1種類以上のイベントデータグラム302が定義される。
そして図48〜図51が示すように、各データグラムは細かなフラグメント316、317、318、319に分割されてパケット310、311、312、313に収納される。
パケット310、311、312、313内の先頭にはインターネット・ヘッダー315が配置されている。ここで図48と図50が示すように、インターネット・ヘッダー315内の構造は生体活動検出信号内と生体活動情報内共に一致している。そしてインターネット・ヘッダー315内のサービス・タイプ情報331は、このインターネット・ヘッダー315が含まれるパケットが「スループット(通信速度)が高い通信を要求されているか?」あるいは「通信時の高信頼性(通信後のエラー発生頻度が低い)を要求されているか?」 、「通信時の許容遅延時間が短い(通信時の大きな遅延が許されない)か?」
などのパケット通信に要求されるタイプを示している。また対応のデータグラム識別情報332は16ビットで表示され、対応パケット内のデータフラグメントがどのデータグラムに含まれるかを示している。具体的には上位3ビットで、検出条件データグラム301/生体活動解析条件データグラム305/検出信号データグラム303/活動情報データグラム304/イベントデータグラム302のいずれかを示す。そして検出信号パケット313内では、次の2ビットが検出波長λの種別(本実施例では長さの異なる4種類の検出波長光を用いて同時測定が可能)を表す。また残りの下位11ビットで同一検出時刻に対応した検出信号データグラム303に含まれることを示す。ここで実際の検出時刻はタイムスタンプ情報339で同期が取れるので、検出時間が長引いて11ビットで全ての検出時刻が表示できない(オーバーフローする)場合に上記11ビットをサイクリックに繰り返し使うことができる。
一方活動情報パケット314内では、次の2ビットが測定項目の識別情報(本実施例では同時に異なる4種類までの測定項目に関する生体活動情報を抽出できる)を示す。そして残りの下位11ビットで同一測定時刻に対応した活動情報データグラム304に含まれることを示す。ここで実際の測定時刻はタイムスタンプ情報339で同期が取れるので、測定時間が長引いて11ビットで全ての検出時刻が表示できない(オーバーフローする)場合に上記11ビットをサイクリックに繰り返し使うことができる。
次にフラグメント種別情報333とフラグメント位置情報334は、対応するインターネット・ヘッダー315の直後に配置されたデータフラグメント315、316、317、318、319が同一データグラム301、302、303、304、305内の何処に位置するかを示す。具体的にはフラグメント種別情報333が3ビットで構成され、最初のビットは「0」に設定される。そしてその次のビットが「0」の時はフラグメントされており、同一データグラム301、302、303、304、305内に複数のデータフラグメント315、316、317、318、319が含まれることを示す。またこのビットが「1」の場合には、フラグメントされて無いことを示す。さらに次のビットでは同一データグラム301、302、303、304、305内の位置情報を持つ。すなわちこのビットが「0」の時は、同一データグラム301、302、303、304、305内の最後のフラグメントを示す。一方このビットが「1」の時はそれ以外を意味する。そしてフラグメント位置情報334は、対応するインターネット・ヘッダー315の直後に配置されたデータフラグメント315、316、317、318、319が同一データ
グラム301、302、303、304、305内の何番目のフラグメントに対応するかを示す。具体的には、同一データグラム301、302、303、304、305内の最初のデータフラグメント315、316、317、318、319の場合にはフラグメント位置情報334内の値が「0」に設定され、その次に配置されるデータフラグメント315、316、317、318、319ではフラグメント位置情報334内の値が「1」と順次増加して行く。
また送信元アドレス情報335と送信先アドレス情報336は、インターネット・レイヤー201(図44参照)を経由して通信される場合の送信元と送信先のIP(Internet protocol)アドレスを示している。そしてさらに上記インターネット・ヘッダー315では、生体検出部の識別情報または生体検出部の固有アドレス情報338を持っている。ここで図44に示す生体検出部220では、個々の機種にそれぞれ独自な識別情報または固有アドレス情報を持たせている。この情報は機種毎の製造番号を対応させてもよい。そしてこの情報をインターネット・ヘッダー315内に持たせると共に、(同一の機種で検出し、その結果に基づいて測定した場合には)イベント情報付き生体活動検出信号248とイベント情報付き生体活動情報249との間で共通化している。それにより、イベント情報付き生体活動検出信号248とイベント情報付き生体活動情報249の長期に亘る履歴管理が可能となる。
本実施例では、インターネット・ヘッダー315内にタイムスタンプ情報339を持たせている。それにより、各データグラム301、302、303、304、305間の同期を取る(タイミングを合わせる)ことが可能となる。このタイムスタンプ情報339は32ビットで構成され、1クロック間隔を1[ms] とした基準クロックのカウント数
で表す。このカウント数がオーバーフローした場合には、再度カウント値「0」からカウントし直す。このようにカウント値が周期的(サイクリック)になっているが、図49に示す検出条件データグラム301内あるいは図51に示す生体活動解析条件データグラム305内の検出開始時間情報352とこのタイムスタンプ情報339との組み合わせにより、絶対時間の算出が可能になっている。そしてこのタイムスタンプ情報339がインターネット・ヘッダー315内に含まれることを示す情報として、オプションタイプ情報337の値が「68」に設定されている。
図49または図51が示すように、イベント情報毎に異なるイベントデータグラム302−1内に格納されている。そして1個のイベントデータグラム302は分割されて、それぞれがイベントパケット312内のイベントデータフラグメント317内に分散配置される。また各イベントの内容は、イベント情報内容348としてそれぞれのイベントデータグラム302内に配置されている。また同一のイベントデータグラム302内では、前記イベント情報内容348の直前にイベント継続期間347が格納される。ここでイベント毎のイベント開始時間は前述したタイムスタンプ情報339で規定されており、このタイムスタンプ情報339とイベント継続期間347の情報の組み合わせによりイベントの終了時刻が算出される。さらにこのイベント継続期間347の直前にはイベント種別情報346が格納されている。本実施例におけるイベントとは、
(A)図44に示すユーザへの表示画面250(Web上のホームページ内容)の中身でイベント情報A抽出部224で抽出されたイベント情報A243
(B)図44に示すイベント情報B抽出部221で抽出されたイベント情報242‥検出時の温度・湿度条件から生体活動検出時のユーザ213(被験者)を取り巻く環境(例えば一人か? 他の人と一緒か?)など
などが含まれ、イベント情報内容348が上記のどの種別に属するかをこのイベント種別情報346が示す。このようにイベントデータグラム302内にイベント種別情報346を持つことで、後でイベント種別毎のイベント情報内容348の選択抽出が容易になるという効果がある。
また図49または図51が示すように、異なるイベント間で共通な情報がイベントデータグラム#0302−0の中に含まれ、イベント情報内容348を含むイベントデータグラム#1302−1‥の先頭位置に配置されている。このイベントデータグラム#0の中身は、発生イベント数情報342またはイベント発信元アドレス情報341などが含まれる。ここでイベント発信元アドレス情報341内には、表示画面のURLなどが記録されている。またさらに、このURLなどで指定された表示画面(Web上のホームページ画面など)上にAPIコマンドが設定されている場合には、この情報が表示画面内で設定されたAPIコマンド343欄内に記録される。
8.2)生体活動検出信号の通信用プロトコル
図48および図49を用いてイベント情報付き生体活動検出信号248の通信用プロトコルの特徴を説明する。
インターネット・ヘッダー315内の送信元アドレス情報335は、図44内のユーザ側の制御系217(パーソナル・コンピューターまたは携帯端末、携帯電話など)が持つIPアドレスに対応する。一方 送信先アドレス情報336は、図44内の伝心仲介業者
(マインド・コミュニケーション・プロバイダ)211から指定されたIPアドレスで、予め決まっている。そしてこれは、生体活動解析部227が配置されている場所のIPアドレスが設定される場合が多い。
イベント情報付き生体活動検出信号248の通信用プロトコルでは、検出条件データグラム301と検出信号データグラム303が定義される。ここで図44の生体検出部220で検出された生体活動検出信号は、上記の1種類以上の検出信号データグラム303内に収納されて転送される。そしてこの検出信号データグラム303は、分散されて検出信号パケット313内の検出信号データフラグメント318内に分散配置される。一方検出条件データグラム301は分割されて、検出条件パケット311内の検出条件データフラグメント316内に分散配置される。
本実施例における生体活動検出では、例えば脳内のニューロン配置または顔面筋肉の配置場所など生体活動検出の種類(被検出対象物)により個々の検出点の位置が異なる。したがって複数存在する検出信号データグラム303の中で最初に配置された検出信号データグラム #0303−0の中で検出点毎の位置情報326を定義する。具体的には最初
の検出点の3次元位置情報を最初に記載し、2番目の検出点の3次元位置情報を次に記載する ‥ などにより、全ての検出点の3次元位置情報を予め定義しておく。
そしてそれ以降に来る検出信号データグラム303では、そこで3次元位置が定義された検出点毎の検出信号の値(例えば発火のパルスカウント数または780[nm]/830[nm]光の光反射量、サーモグラフィーで測定した表面温度、核磁気共鳴によるピーク面積(またはピーク高さ)の値)が検出点毎の活性化分布特定327、328として格納される。
また本実施例では検出に使用される光の波長と測定される時刻T1、T2毎に異なる検出波長λでの検出信号データグラム303を定義している。
図49が示すように検出条件データグラム301内には、ユーザ(被験者)の識別情報351が含まれている。これにより、異なるユーザ(被験者)毎の検出信号の個別管理が可能となる。既に8.1節で検出開始時間情報352の利用方法を説明した。この検出開始時間情報352は、年・月・日・時・分・秒・サブ秒(0.1秒単位)の形式で時間情
報が記録される。また8.1節データイムスタンプ情報339の基準クロック周期を1[ms]と説明した。しかしそれに限らず検出条件データグラム301内タイムスタンプの基準周波数353の欄データイムスタンプの基準周波数を再設定できる。それにより検出信号が高速で変化する場合には基準周波数を高くして検出精度を高め、検出信号の変化が非常に遅い場合には基準周波数を低くして長期間の測定を容易にするなど検出信号の(時間変化)特性に合わせて柔軟な設定が可能となる。次の測定項目354は、6.5.2節で説明した測定項目に対応する。この測定項目354を検出条件データグラム301内に持たせることで、伝心仲介業者(マインド・コミュニケーション・プロバイダ)211内生体活動解析部227(図44)での解析の利便性が向上する。また検出手段355とは、表6における検出手段を示している。さらに検出信号の種類356とは、体内のどの部分に対して具体的にどのような方法で検出しているかを示す。そして次の検出領域の場所情報と検出点配置の設定方法357とは、生体活動検出場所(被測定点)30の位置モニター方法として具体的にどのような方法を採用しているか(例えば6.2.1節で説明した方法を使うか?6.2.2節で説明した方法を使うか?など)を示す。一方検出領域の解像度358と検出信号の量子化ビット数359、検出信号のサンプリング周波数または時間間隔360は、検出信号の検出精度を示している。また検出波長の数情報361から検出波長λでの検出信号データグラム303の数が予想でき、伝心仲介業者(マインド・コミュニケーション・プロバイダ)211内生体活動解析部227(図44)での解析の利便性が向上する。そして10.2節で説明するように、伝心仲介業者(マインド・コミュニケーション・プロバイダ)211が過去からの累計送信回数362の情報を利用して暗号鍵発行業者に対する新たな鍵情報を購入するタイミングを事前に知ることが可能となる。したがって検出条件データグラム301内にこの過去からの累計送信回数362を含むことで伝心仲介業者(マインド・コミュニケーション・プロバイダ)211が適切なタイミングで鍵情報を入手できるため、何回イベント情報付き生体活動検出信号248を転送しても安定して生体活動解析部227での解析(図44参照)が行える。
8.3)生体活動情報の通信用プロトコル
図44が示すように、生体活動情報の通信用プロトコルにおけるインターネット・ヘッダー315内の送信元アドレス情報335は、伝心仲介業者(マインド・コミュニケーション・プロバイダ)211内の生体活動解析部227が持つIPアドレスを示す。一方
送信先アドレス情報336は、心のサービス会社(マインド・サービス・ディストリビュータ)212のIPアドレスとなる。
また生体活動情報の通信用プロトコルでは、生体活動解析条件データグラム305と1種類以上の活動情報データグラム304が定義される。ここで図44の生体活動解析部227内で解析した結果は、1種類以上の活動情報データグラム304内にそれぞれ分けて格納される。また図50が示すように、1個の活動情報データグラム304は分割されて、活動情報パケット314内の生体活動情報フラグメント318内に分散配置される。
一方 生体活動解析部227内で解析が行われた時の共通情報は、生体活動解析条件デ
ータグラム305内に格納される。そして図51が示すように、この生体活動解析条件データグラム305内は分割されて、解析条件パケット310内の解析条件データフラグメント319に分散配置される。
図50が示すように、6.5.2節で説明した測定項目毎に分かれて異なる活動情報データグラム304が設定され、また各時刻T1、T2毎に別の活動情報データグラム304に分かれている。そして同一の活動情報データグラム304内では、同一時刻における判定要素(6.5.2節参照)毎の解析結果を示す合致度が時刻T*の測定A内判定要素毎の合致度377、378として記録される。またそれよりも先行した位置にある活動情
報データグラム #0304−0には、各判定要素毎の合致度377、378に共通な生
体活動検出信号の解析に関する情報を含んでいる。すなわち最初に測定項目の数情報371が明記され、それに合わせて測定項目A、B‥に関係した情報が順次記載されている。具体的には測定項目毎の判定要素数情報372、374と、それに基づく判定要素内容の一覧373、375が記載されている。ここで例えば測定項目Aが6.5.2節内に記載された『覚醒・緊張状態』の場合には、測定項目A内判定要素内容一覧373の内容は『緊急事態認識、緊張状態、覚醒、弛緩状態、眠気、レム睡眠、ノンレム睡眠』を示す。
生体活動解析条件データグラム305内に含まれるユーザ(被験者)識別情報351から過去からの累計送信回数362までの具体的な内容とその効果は、既に説明した検出条件データグラム301内の内容と一致する。ところで生体活動検出信号を解析して生体活動情報を得るために使用される解析ソフトまたはそれに使用されるデータベースは日々進歩(グレード・アップ)を続けている。したがって生体活動解析条件データグラム305がさらに解析ソフトバージョン番号363と解析に使用のデータベースのバージョン番号または最終更新時期364を含むことで、どのグレードで解析したかが分かる。もし非常に低いグレードで解析していた場合には、最新の解析ソフトまたはデータベースを用いて解析し直してデータベースを更新することが可能となる。したがってこの解析ソフトバージョン番号363または解析に使用のデータベースのバージョン番号または最終更新時期364の情報を利用して、データベース内の生体活動情報を最高レベルに更新し続けることが可能となる。
8.4)Web APIに使用される新規コマンドの一例
本実施例においてWeb APIに使用される新規コマンドに関する一例を下記に説明する。
Check Mind Detection‥生体活動検出の可否に関し(1)生体検出系218のユーザ側の有無と、(2)生体検出部220の検出可能範囲内に被測定対象(ユーザなど)が居るかを判定し、その結果をこのコマンド内のパラメーターで指定されたアドレスへ回答する。
Change Mindless Display‥生命活動の測定を必要としない表示画面へ自動変更する。このコマンド内のパラメーターで対応画面のURLを指定する。
Start Mind Searching ‥生体活動の検出を開始する
Display Mind Searching‥ユーザに対して生体活動検出実施中を表示する。このコマンド内のパラメーターで表示サイズまたは表示範囲を指定される。
Send Detection Sigんal‥生体活動検出信号を、このコマンド内のパラメーターで指定されたアドレスへ転送する
Send Mind Information‥解析後の生体活動情報を、このコマンド内のパラメーターで指定されたアドレスへ転送また解析対象の「測定項目」もこのコマンド内のパラメーターで指定する
Display Mind Information‥解析後の生体活動情報をユーザに表示する。また解析対象の「測定項目」または生体活動情報のユーザへの表示形式または表示領域/表示サイズもこのコマンド内のパラメーターで指定する
Start Navigation Display‥ナビゲーター(アニメーション)がガイドする画面を表示する
Start Human Interface‥対人対応画面を表示し、直接人による対面対応を開始する
Start Mind Connection‥他の人に(TV電話)接続し、そこに相手の生体活動情報を表示
また解析対象の「測定項目」または生体活動情報のユーザへの表示形式または表示領域/表示サイズもこのコマンド内のパラメーターで指定する。
9〕生命活動の検出または測定を用いた応用例
9章では、2章から6章に掛けて説明した生命活動の検出または測定を用いた応用例について説明する。最初に応用できる分野の概観を行い、その後に一応用分野である医療分野への応用として生命活動検出を診断に用いる実施例の説明を行う。
9.1)生命活動測定の応用例に関する特徴と新規実現可能な独自機能
脳波計などを用いた脳計測で得られた情報を用いてコンピューターまたは家電、ロボットなどを操作する応用分野を総称して、従来BMI(Brain machine interface)と呼ばれている(2010年5月3日に発行された日経エレクトロニクス(日経BP社)のp.33参照)。ところで本実施例における生体活動検出方法では1個ずつの脳・神経細胞または筋肉細胞の活動(発火または収縮)を検出できるだけでなく、それら間の相互のネットワーク接続状況まで検出できるので、上記の脳波計と比べて検出精度が飛躍的に向上する。したがってこの生体活動検出方法を利用した応用分野をBMIとは違った特徴または機能を提供できるという意味を込めてNEI(Neuron electronics interface)と呼ぶ。またNEIで使用される生体活動検出手段は前記の細胞膜の電位変化検出に限らず、表6に示した他の検出手段を用いてもよい。
7.2.2.3節内の<生体検出系218が組み込まれたベビーベッド>の例と7.2.4.3節内のサービス例で、「泣きじゃくる新生児」の心を理解する方法を説明した。また7.1.3節内の<生体活動検出部と情報提供部を組み合わせた一体形装置の実施例1>のところで「喉に障害がある人または、重病で体力が衰えて話ができない人」とのコミュニケーション手段の提供方法を説明した。さらに6.5.4節と7.2.4.3節内のサービス例で説明したように、顔面の筋肉の動きから人の気持ち(情動)を理解する方法を説明した。このように過去に実現不可能だった『新規なコミュニケーション環境』を提供できる所に、NEI(本応用例が含まれる応用分野)の大きな特徴がある。
『コミュニケーション手段を用いて問題解決に向けた情報を集団内で共有化』できたことが、地球上での「人類の発展」に大きく貢献していると考えられる。そして人類の歴史の中でコミュニケーション手段は、言葉の生起⇒文字の発明⇒印刷技術の発明⇒インターネット基盤の構築 と順を追って発達した。また上記の一連の発達経過と平行して発生し
た、絵画または音楽など芸術の伝承 も一つのコミュニケーション手段とも考えられる。
そして新たなコミュニケーション手段の発達に合わせて、文化または文明が変化した。ここで上記コミュニケーション手段の発達の延長線上に、NEIを位置付けたいと思う。
具体的には、社会が今までの『目先の物品(所有)への執着』または『拝金主義』から脱却し、NEIの普及により『人の心に興味を持つ』社会に移ってくれることを発明者として切に望む。インターネットの発達に伴って世界全体がグローバル社会に移り、世界中の人とのコンタクトが容易となった。ところが今まで育った環境が全く異なった人同士では『相手の心(気持ち)を予測』するのが極端に難しいため、自己主張の応酬または各自のエゴの張り合いに陥り易く、調和性が低下しがちとなる。それに対して、NEIにより顔面の筋肉の動きなどからの他人の気持ち(情動)の解釈結果を即座(会話中)に受け取れれば、それを参考にして相手への対応方法を適正化できる。その結果として、NEIが
社会全体の調和または格差是正に貢献できる可能性がある。
また6.5.4節内で『本人が意識するよりも顔の表情の方が情動を正確に示し得る』と記載したように、本人が意識しない潜在意識下の自分を知る可能性がある。その結果、『自分を深く理解する』ための補助手段としてNEIを役立てることもできる。
しかし上記で得られた人の心の解釈結果に頼り切ってしまうと、『人の心を理解するための悩みまたは熟慮による人格向上の機会』を失う危険性がある。したがって、『NEIをあくまで補助手段』として利用すべきだと考える。
生命活動測定の応用例(NEI)に拠って初めて発揮する(過去に実現不可能だった)独自機能を下記にまとめる。
◎新規なコミュニケーション手段‥上述した内容。認知症老人の気持ちの理解または、動物とのコミュニケーションも可能となる。
◎緊急時の危険回避による安全性の確保‥7.1.2節の<生体活動検出部と駆動部を組み合わせた一体形装置の実施例1>での説明のように、脳が危険を察知した瞬間(手足を動かす前)に自動的に危険回避操作に移れる。危険回避のために「時間との勝負」が必要となる場面に効果を発揮する。
◎人間の高速な神経活動の究明〔被験者に確認できる〕‥従来の針電極を用いた動物実験では測定対象物の意志または思考を確認できないため、実験結果解釈への確証性が乏しかった。また血液中の酸素濃度変化検出方法は、時間分解能が低い(4.7節参照)。したがって9.3節の例のように細胞膜の電位変化検出を利用した本応用例では、高速な神経活動が検出できると共に、被験者とのコミュニケーションで確証を取れるので測定精度が向上する。
◎ユーザの負担を軽減する完全非接触インターフェース‥脳波計のように電極を取り付ける必要が無いので、ユーザの負担が大幅に軽減する。他の応用例としては心臓の筋肉の動き検出に使用し、非接触で心電図の測定をしてもよい。入力にキーボード操作またはペン入力、音声入力が不要なので、装置への入力時に肢体または声帯の行動が規制されない。したがって「話しながら〜」または「手を動かしながら〜」の操作が行える。
◎新たな応用展開または新たなサービス展開へ向けた拡張・発展容易機能‥図44を用い7.2節で説明したように、インターネット・レイヤー201というオープンな世界上でドメイン(マインド・コネクション・レイヤー202)を構成できる。したがってこの場合には、その上に新たな応用展開または新たなサービス展開の構築が非常に容易なため、拡張性または発展性に優れている。
9.2)生命活動の測定を用いた応用例の広がり
本実施例で説明した生体活動測定を利用した応用分野(NEIの対象範囲)を下記にまとめる。
○ 医学の基礎研究‥画像認識または言語処理、思考、情動、記憶のメカニズム解析。体
内情報ネットワーク経路解明(9.3.1節参照)。特に『被験者に確認しながら高速な神経活動を検出できる』特徴(9.1節)を生かした研究に向く。具体的には、人間の言語プロセスのニューロン・ネットワーク・レベルでの研究が上げられる。類人(類人猿)は人が持つ言語能力を持たないので(入来篤史編:言語と思考を生む脳− シリーズ脳科
学(3)−(東京大学出版会、2008年)P.170)、人に対する非接触的かつ非侵襲的方法でしか人間の言語プロセス研究はできない。また血液中の酸素濃度変化の検出では時間分解能が低いため言語プロセスのような高速処理を詳細にトレースできない。したがって上記分野での細胞膜の電位変化検出を利用した研究が威力を発揮する。
またそれに限らず、人間の認識または思考・想起過程での時間的変化の追跡などにも応
用できる。
○生死判定
○医学的診断(予病対応を含む) ‥ 9.3節の例を参照。また本応用例では、自律神経系の異常を早期発見し易い。
○医学治療 ‥ 9.3.2節の例を参照。
○介護支援または援助支援、モビルスーツ‥7.1.2節の<生体活動検出部と駆動部を組み合わせた一体形装置の実施例2>内記載内容参照。
○コミュニケーション手段 ‥ 9.1節で説明した内容に対応。
○管理・監督‥7.2.2.3節の<生体検出系218が組み込まれた机または椅子>内記載内容参照。
図31に示した生体活動検出部101を車の運転席に取り付け、ドライバーが運転中に眠くなる時を察知して目を覚まさせるなどの処理をしてもよい。
○防犯または認証処理‥7.2.2.3節内の<生体検出系218が組み込まれた路上での防犯カメラ>または<生体検出系218が組み込まれた出入り口扉または玄関の壁または窓>での記載内容を参照。また「うそ発見器」の確証情報としても利用できる。
○高速入力処理‥7.1.3節内<生体活動検出部と情報提供部を組み合わせた一体形装置の実施例1>で説明したように、音声入力またはキーインを行わずに高速で文書作成または描画入力を行ってもよい。
○エンタティメント・ゲーム‥7.1.2節内の<生体活動検出部と駆動部を組み合わせた一体形装置の実施例1>で説明したように手足を動かす事無く高速で応答できるので、対戦ゲームまたは高速な移動体(車または飛行機)の操作シミュレーションゲームに向く。
また性格判断または相性診断などのサービスを行ってもよい。
○代行操作‥7.1.3節内<生体活動検出部と情報提供部を組み合わせた一体形装置の実施例2>、7.2.2.3節内の<生体検出系218が組み込まれた枕または寝室ベッドの頭部>で記載された内容を参照。
9.3)生体活動検出の医療用診断への応用例
2章から5章に掛けて説明した原理を用いて非接触または非侵襲に細胞膜の電位変化を検出する本実施例の生体活動検出方法は、非常に高い時間分解能と空間分解能が得られる。そのため上記の生体活動検出を利用して例えば神経細胞の発火状況または筋肉細胞の収縮活動などを検出すると、細胞1個単位までの変調(不具合)を高精度に発見できる。
したがって本実施例の生体活動検出方法あるいは生体活動測定方法を医療分野に応用すれば、最先端の研究を大きく進歩させるだけで無く、精度の高い診断も可能となる。
この生体活動検出方法を医療用診断に応用する2例を以下に説明する。
9.3.1)生体内神経伝達経路の探索例
生体の表皮の一部に『針』を刺して痛感を発生させて感覚ニューロンの検出部(終末部)を活性化(活動電位が発生)させ、その信号が伝わる経路を探索して生体活動解析用のデータベース構築に利用する方法を6.5.3.2節で既に説明した。この生体内の神経伝達経路探索を利用した医療上での診断方法に関して、「脊柱管狭窄症の診断」を一例に取って説明する。
脊椎動物の大部分は脊髄を経由して脳と体の末端部との間で信号伝達が行われる。そし
てこの脊髄は、背骨内部の脊柱管と呼ばれる隙間内に配置されている。もしこの脊柱管狭窄症に掛かると、狭くなったこの脊柱管の内部の一部が脊髄の一部を圧迫するため、下肢部に痛みが発生したように感じられる。しかしこのときの患部は脊柱管の内部で、患者が痛いと感じる下肢部は実は何処も悪く無いという特徴がある。
従来技術ではMRI(Magnetic Resonance Imaging)またはCTスキャン(Computer Tomography SCanning)による脊柱管内の狭くなった領域の発見は可能で有ったが、実際の痛み発生に関与する神経細胞の特定は不可能だった。本応用例により痛みを引き起こす神経細胞単体の特定が可能になるため、診断精度が飛躍的に向上する効果がある。さらに詳細に患部が特定できるため、従来と比べて大幅に治療し易くなる。また仮に治療のため手術が必要となっても、(1個の神経細胞単位で)詳細に患部が予め特定できているため、手術時の患者の肉体的負担を最小限に減らせる効果がある。
図52と図53を用いて、本応用例の診断方法を説明する。ここで図52と図53は共に(a)が痛みの信号が体内で伝達する経路を示し、(b)が腰部での脊髄周辺の断面図を示す。そして(c)は本応用例に拠って検出される生体活動検出信号例を示している。
まず脊柱管狭窄症の原因と症状の一例を、図52(b)と図53(b)に示す。すなわち背骨の後ろ側に配置された椎弓の一部がβの位置で脊髄に接触し、脊髄内の灰白質416の中に存在する神経細胞βが圧迫されて痛感の擬似信号を発生する。この擬似信号が、患者には足先で痛みを感じたように認識される場合の例を取る。
脊柱管狭窄症患者は体の姿勢により下肢部の痛み度合いが変化する特徴がある。ここで多くの場合は「背筋を伸ばす」と痛みが増し、「腰を前に曲げる(猫背になる)」と痛みが緩和される傾向にある。この現象は「背筋を伸ばす」と脊髄413が椎弓415に近付いてβ位置での圧迫が強まり、「腰を前に曲げる(猫背になる)」と脊髄413が椎弓415から離れるためと解釈できる。そしてこの特徴を診断に利用する。
すなわち診断の第1ステップとして脊柱管狭窄症患者に「腰を前に曲げて(猫背になって)」もらい、下肢部の痛み(と思われる症状)が緩和した状態にする。そしてこの状態を保ちながら、本当に足先に痛みを感じた時の痛覚信号の神経内伝達経路を探索する。この探索の最初は、患者が痛いと感じた部分(今回の例では足先のα位置)を『針』で刺激する。ここで図52(a)に示すように針で刺激した表皮部分(足先のα位置)には感覚ニューロンの検出部(終末部)4が存在し、ここで痛覚信号を発生する。そしてここで発生した痛覚信号は脊髄内の灰白質416の中にある神経細胞δと視床412内の神経細胞ηを経由して大脳皮質内の中心後回411内の神経細胞θへ伝わる(図52(a)(b)参照)。
このとき4.7節で指定した範囲の波長を持った光をα、δ、ηおよびθの各点に照射し、そこから得られる反射光量変化401を経過時間163に沿って検出した結果を図52(c)に示す。
1.3節で既に説明したように針で局所的に刺激すると、痛みを引き起こす炎症または虚血がpHの低下を起こし、プロトン感受性カチオンチャネルの働きで細胞体内にNaイオンまたはCa2+イオンが流入する。その結果、感覚ニューロンの終末部4では『脱分極』が生じ、細胞膜電位が脱分極電位まで上昇する。そして2.2節の考察に拠ると、この脱分極時に感覚ニューロンの検出部(終末部)4を構成する細胞膜の外側に負電荷領域が形成されると考えられる。
3章と4章で説明した理由から、この細胞膜の外側に形成された負電荷領域からの反射光量が局所的に低下する。ここで本応用例では、この反射光量変化401を体内で伝搬される痛覚信号(=生体活動検出信号)として検出する。ところで感覚ニューロンの検出部(終末部)4で発生する痛覚信号は連続的では無く、図52(c)に示すような間欠的なパルス状信号となっている。そして図52(c)の例では、α位置に存在する感覚ニューロンの検出部(終末部)4で発生するパルス状の痛覚信号が経過時間163に沿って時刻tおよびtに発生している。
上記感覚ニューロンの検出部(終末部)4で発生する痛覚信号を中継する神経細胞の細胞体δがその中に配置されている脊髄内の灰白質416には、他の神経細胞の細胞体が多数密集している。したがって従来の非接触方法または非侵襲方法を用いた検出技術では空間分解能が低いため、上記痛覚信号を中継する1個の神経細胞の細胞体位置特定は非常に難しかった。それに対して本応用例の生体活動検出は空間分解能が高いので、痛覚信号を中継する1個の神経細胞の場所特定が初めて可能となる。
ここで本応用例では、『痛覚信号を中継する時に神経細胞が発火する』という現象を利用する。そして神経細胞の発火時には上述したのと同じ原理から(痛覚信号を中継する神経細胞の細胞体が配置されている場ところで)局所的な反射光量の低下が起きる。したがって痛覚信号が伝わる時の反射光量変化401が発生する場所を探索することで、痛覚信号を中継する神経細胞(の細胞体の位置)δが検出できる。
ここで発火場所の検出には、図23〜図25を用いて6.3.1節で説明した方法を採用する。またこれと同時に図20と図21を用いて6.2.1節で説明した方法で生体活動検出場所(被測定点)30をモニターする。そしてその結果に基づき対物レンズ31の位置を自動的に補正する(位置ずれ補正用のサーボを掛ける)ため、検出中に被験者が多少動いて生体活動検出場所(被測定点)30がずれても生体活動の検出が継続できる。
具体的には例えば図52(a)および(b)に示すように、痛覚信号を中継する神経細胞(の細胞体が配置されている位置)の候補として γ、δ、ε、ζを仮に設定し、各位
置での経過時間163に沿った反射光量変化401を検出する。
その結果として図52(c)に示すように、α位置に存在する感覚ニューロンの検出部(終末部)4での痛覚信号が発生した時刻tとtからわずかに遅れた時刻tおよびtにδの位置で反射光量の低下を検出できたとする。それに比べて図52(c)のようにγ、εおよびζの各位置では反射光量変化が無かった場合には、痛覚信号を中継する神経細胞(の細胞体が配置された位置)はδ位置にあると予想できる。
δ位置の神経細胞δが発火すると、その痛覚信号は脊髄413内を伝わり視床412内で中継される。そして時刻tとtより遅れた時刻tとtで視床412内の神経細胞ηが発火し、さらにわずかに遅れた時刻tとtで大脳皮質内の中心後回411内の神経細胞θが発火する。そしてそれぞれの発火タイミングは、図52(c)のように反射光量変化401として検出される。
以上の方法により、本当に足先に痛みを感じた時の痛覚信号の神経内伝達経路を探索する。図52に示した応用例では『発火現象を利用して神経細胞の細胞体』の位置を検出している。しかしそれに限らず、本応用例では非接触方法または非侵襲方法で細胞膜電位変化を検出する他の方法にも適用でき、例えば『信号が伝達する時の軸索の経路』を検出してもよい。つまり神経細胞内の軸索中を信号が伝搬する時には局所的に軸索内の細胞膜電位が変化しているので、それを反射光量変化401として検出できる。
次に診断の第2ステップとして脊柱管狭窄症患者に「背筋を伸ばして」もらい、下肢部の痛み(と思われる症状)を激しくさせる。ここで脊髄内の灰白質416内にある神経細胞(の細胞体)βが椎弓415の一部に圧迫されて(図53(b))、時刻t11に擬似信号を発生させた(発火した)場合(図53(c))を想定する。このときに位置αに配置された感覚ニューロンの検出部(終末部)4で痛覚信号が検出されないのに、経過時間163に沿って時刻t11の直後の時刻t12に第1ステップで検出した神経細胞(の細胞体位置)βで反射光量が一時的に低下し、患者が痛みを訴えた(図53(c))とする。ここで得られた図53(c)の反射光量変化401の検出信号から、椎弓415の一部に圧迫されて神経細胞βで発生した擬似信号が神経細胞δに伝わり、「足先が痛む」と誤解させる信号が脳に伝わった(図53(a)(b)参照)という正確な診断が可能となる。
このようにして患部の場所が(細胞1個単位の精度で)正確に分かれば、手術を含めた最も適切な治療を患者に施せる。
ここでは本実施例の一応用例として「脊柱管狭窄症の診断」について説明した。しかしそれに限らず、生体活動検出を用いた生体内における神経伝達経路の探索を他の医学的研究または医療上の診断または治療に応用してもよい。
9.3.2)細胞膜電位変化検出と血液中酸素濃度変化検出を組み合わせた診断例
表6を用いて6.1.1節から6.1.2節で説明した本実施例における生体活動検出に利用される複数の「信号発生の物理現象と検出手段」を組み合わせると、より高度で精度の高い診断が可能となる。この9.3.2節では一つの組み合わせ応用例として『細胞膜電位変化検出と血液中酸素濃度変化検出を組み合わせ』て『認知症の早期発見診断』を行う方法について説明する。しかしそれに限らず、表6に記載した「信号発生の物理現象と検出手段」を他の方法で複数組み合わせて生体活動検出を行って、他の診断への利用または医療分野または脳科学分野での研究を行ってもよい。
老人が認知症になるのは、
[A]脳・神経細胞の死滅(アルツハイマー形)または
[B]脳内血流量の低下
が主な原因と言われている。特に[A]に関しては
○脳・神経細胞の外側にベータアミロイドが付着する現象あるいは
○脳・神経細胞の内側にタウが付着する現象
がきっかけとなって脳・神経細胞の死滅を促進させると考えられている。
現在の認知症の診断では、それぞれ別の測定方法を用いて上記[A]および[B]の診断を行う。
すなわち上記[A]の原因に対する診断として、MRI(Magnetic Resoんance Imaging)またはCTスキャナー(Computer Tomography Scanning)を用いて頭部内での脳・神経細胞の占有容積を調べる。この調べた結果として脳の萎縮が起きていれば、アルツハイマー形の認知症が進行していると判断する。しかし実際に脳の萎縮が生じた後での診断のため、この方法では病気に対する早期発見は難しい。
一方上記[B]の原因に対する診断として、注射により造影剤を体内の血液中に混入させ、造影剤から放出される放射線の分布状況を可視化して脳内の血流量を調べる。またこの方法では造影剤を血管内に挿入するための注射時に痛みが伴うため、診断時の患者への
負担が大きい。
また診断には上記の2種類の検査が必要なため、患者に与える負担も大きくなる。
上記の問題点を解決するため、本応用例では図54に示す装置により脳・神経細胞の細胞膜電位変化と血液中の酸素濃度変化を同時に検出して、上記[A]と[B]の原因に関する診断を同時に行う所に特徴がある。
まず始めに図54に示す装置の構造と採用する検出原理について説明する。
図54では脳・神経細胞の細胞膜電位変化(発火現象または発火頻度)の検出に利用される対物レンズ31の光軸をZ軸423とした時、それと直交関係にあるY軸422上に波長780[nm]の検出用光源424と波長780[nm]光を通過させる色フィルタ425および波長780[nm]光用の光検出器426を配置し、またX軸421上に波長830[nm]の検出用光源427と波長830[nm]光を通過させる色フィルタ428および波長830[nm]光用の光検出器429を配置する。それにより頭部の脳内の同一な生体活動検出場所(被測定点)30に対して光源部102から出射された光と波長780[nm]光、波長830[nm]光を同時に照射すると共に、この同一な生体活動検出場所(被測定点)30から得られた光を個々に検出可能な構造となっている。
すなわちY軸422上に配置された波長780[nm]の検出用光源424から出射した波長780[nm]光は生体活動検出場所(被測定点)30内の毛細血管28内で反射し、同じくY軸422上に配置された波長780[nm]光用の光検出器426で光量検出される。そしてこれにより毛細血管28内を流れる血液の波長780[nm]光に対する相対的な光吸収量が分かる。ところでこの波長780[nm]光用の光検出器426が他の波長の光を検出しないように、他の波長光を遮断し波長780[nm]光を通過させる色フィルタ425が直前に配置されている。同様にX軸421上に配置された波長830[nm]の検出用光源427と波長830[nm]光用の光検出器429の組み合わせにより、生体活動検出場所(被測定点)30内の毛細血管28内での光反射量(およびそれに基づく毛細血管28内を流れる血液の波長830[nm]光の相対的な光吸収量)を検出する。そしてこの波長830[nm]光用の光検出器429が他の波長の光を検出しないように、他の波長光を遮断し波長830[nm]光を通過させる色フィルタ428が直前に配置されている。
そして波長780光用の光検出器426と波長830[nm]光用の光検出器429との検出信号を比較して毛細血管28中を流れる血液中の酸素濃度を検出する。ここで本応用例では外部ノイズ成分を除去して検出精度を上げるため、波長780[nm]の検出用光源424から出射された光と波長830[nm]の検出用光源427から出射された光はそれぞれ別の方式で光量変調されている。そして波長780[nm]光用の光検出器426と波長830[nm]光用の光検出器429から得られた検出信号は、それぞれ図33の変調信号成分抽出部(同期検波部)133のような回路を経て同期検波または変調信号成分のみの抽出が行われる。
図54内で示した範囲の中で、上記に説明した血液中の酸素濃度を検出する検出系以外の検出系が脳・神経細胞の細胞膜電位変化(脳・神経細胞の発火現象または発火頻度)の検出に利用される。
4.7節で説明した範囲の波長を持った生体活動検出用照射光115が光源部102から出射される。そしてこの光源部102内は図31で示した構造を有し、光変調器112により生体活動検出用照射光115が光変調されている。また図54に示した応用例では
、この生体活動検出用照射光115は偏光分離素子438に対して「S波」となる偏光成分を持った直線偏光光となっている。
偏光分離素子438内で反射した生体活動検出用照射光115は、1/4波長板437を通過後には円偏光になる。ここで色フィルタ特性を持った光合成素子434は、生体活動検出用照射光115の波長に対して直進させる光学特性を持つ。その後で生体活動検出用照射光115は、対物レンズ31により生体活動検出場所(被測定点)30近傍に集光する。ところで図54では図示して無いが、この生体活動検出用照射光115は生体活動検出場所(被測定点)30より若干深い位置に集光させる。
この集光場所が、毛細血管28の表面またはグリア細胞表面など巨視的には比較的平坦で乱反射し易い界面表面に一致するように設定する。それにより主にこの界面表面で乱反射した生体活動検出用照射光115が背面側から生体活動検出場所(被測定点)30を通過することになる。
したがって図54右側の丸で囲まれた中に示した生体活動検出場所(被測定点)30は、透過形光学顕微鏡のように背面側から(後ろから)照射される生体活動検出用照射光115の透過光成分が検出される。
また上述したように生体活動検出場所(被測定点)30よりわずかに深い位置で生体活動検出用照射光115を小さなスポットサイズに集光させる代わりに、他の照射方法として(生体活動検出用照射光115内のビーム断面上の異なる位置で互いに位相を変化させる特性を持つ)ランダムフェーズシフターを光源部102内に配置させて生体活動検出場所(被測定点)30でスポットサイズの大きな集束光を形成させてもよい。この場合には生体活動検出場所(被測定点)30内の比較的広い領域が生体活動検出用照射光115で照射され、生体活動検出場所(被測定点)30内の各位置での反射光成分が検出される。
このようにして生体活動検出場所(被測定点)30から得られた反射光は対物レンズ31と色フィルタ特性を持った光合成素子434を通過後、再度1/4波長板437を通過すると、偏光分離素子438に対する「P波」となる偏光成分を持った直線偏光光に変換される。その結果、偏光分離素子438を直進して信号検出部103内に入る。
本応用例における信号検出部103内は、図31に示す構造を持つ。またこのときの検出原理には、図23から図25を用いて6.3.1節で説明した方法を採用する。それにより、図54右側の丸で囲まれた中に示した生体活動検出場所(被測定点)30内の錐体細胞の細胞体17または星状細胞の細胞体18個々の発火状況をそれぞれ独立して個別に検出できる。またそれに限らず6.3.1節で説明したように2次元液晶シャッター51内の光透過部56のサイズ(開口径)を適正化させることで、コラム単位など複数の脳・神経細胞の集まり単位としての活動状況(コラムなど複数の脳・神経細胞の集まりとしての延べの発火頻度)を検出してもよい。
また被験者(患者)が多少動いても生体活動検出場所(被測定点)30が変わらないように、本実施例では自動的に対物レンズ31が移動して補正する構造になっている。このときの相対的な被験者(患者)の移動量と移動方向を生体活動検出場所の位置検出用モニター部432で検出する。この検出に使用されるモニター用光439の波長は、前述した生体活動検出用照射光115の波長または780[nm]、830[nm]のいずれとも異なる値に設定し、色フィルタ利用による別な検出光間の干渉(クロストーク)防止を可能にしている。そして上記のモニター用光439は生体活動検出場所の位置検出用光源431から出射されてビームスプリッタ433を通過後、色フィルタ特性を持った光合成素子434で反射され、対物レンズ31により生体活動検出場所(被測定点)30近傍に集
光される。
そしてここで反射されたモニター用光439は対物レンズ31通過後、再び色フィルタ特性を持った光合成素子434で反射する。そしてビームスプリッタ433で反射後に生体活動検出場所の位置検出用モニター部432で相対的な被験者(患者)の移動量と移動方向が検出される。ところでこの生体活動検出場所の位置検出用モニター部432内の構造は、図20と図21を用いて6.2.1節で説明した方式を採用する。そして6.2.1節で説明した反射鏡(ガルバーミラー)34は、図54内の色フィルタ特性を持った光合成素子434で兼用させる。すなわち前記色フィルタ特性を持った光合成素子434は、2軸方向での傾きが可能な構造となっている。このように1個の色フィルタ特性を持った光合成素子434により
(1)生体活動検出場所(被測定点)30内で集光されたモニター用光439の2次元方向走査と
(2)モニター用光439と生体活動検出用照射光115との間の合成操作と分離操作
を兼用することで図54に示す光学系の小形化と簡素化および光学部品点数低減による低価格化が可能となる。
上記で説明した図54の装置を用いた認知症診断方法を説明する。
まず始めに、図54の装置を用いて健常者を調べた場合について説明する。最初に被験者(今回の場合には健常者)に設問を与え、大脳の活性化を促す。現在認知症の診断には、
「あなたの住んでいる県名(東京「都」でもわざと「県」という)を教えて下さい。」
「100から7を引くと、いくつですか?」
「その数からさらに7を引くと、いくつですか?」
など30個質問し、その正解数で認知症か否か(20問以上正解すれば、健常者と見なされる)を判断する方法が知られている。この設問を利用すれば、多角的に認知症の診断が行える効果がある。しかしそれに限らず、他の方法で大脳を刺激して活性化を促してもよい。
大脳が活性化すると、生体活動検出場所(被測定点)30内の錐体細胞の細胞体17または星状細胞の細胞体18などの発火が頻発に起こる。そしてこの発火現象は、図54内の信号検出部103で検出される。ここで、この信号検出部103では1個ずつの脳・神経細胞の発火を検出している。しかしそれに限らず、前述したように図25(a)に示す2次元液晶シャッター内光透過部56のサイズ(開口径)を広げ、コラム単位など複数の脳・神経細胞の集まり単位で活性化状態(延べ発火頻度)を検出してもよい。
前記のように、脳・神経細胞の活動が活発になった5[s]位後から毛細血管28内を流れる血液中の酸素濃度の変化が起きる(図17を用いた4.7節内の説明を参照)。そしてこの血液中の酸素濃度変化は、波長780[nm]光用の光検出器426と波長830[nm]光用の光検出器429により検出される。
次に上記方法を認知症の診断に用いた場合を説明する。上記のように被験者に設問を与えて大脳の活性化を促しながら、生体活動検出場所(被測定点)30内の活動を検出する。
設問の答えを考えて錐体細胞の細胞体17または星状細胞の細胞体18などの発火が頻発に起こったにも関わらず、その後5[s]を遙かに越えても毛細血管28内を流れる血液中の酸素濃度の変化が起きない場合には、前述した「B]脳内血流量の低下」が生じている可能性がある。さらに認知症の診断に使われる30問の設問中正解の回答が20問よ
り大幅に下回る場合には、「B]脳内血流量の低下に基づく認知症の発症」が示唆される。
今度は設問の答えを考えて血液中の酸素濃度の変化が生じたにも関わらず特定の錐体細胞17または星状細胞18の発火が見られない場合(または特定コラムなど特定領域内に含まれる複数の脳・神経細胞全体としての発火頻度が極端に低い場合)、前述した「A]特定の脳・神経細胞が劣化」している可能性がある。そして30問の設問中正解の回答が20問より大幅に下回る場合には、「A]アルツハイマー形認知症の発症」が疑われる。
特に血液中の酸素濃度が変化して設問に対する回答の正解数が20を越えたにも関わらず特定の脳・神経細胞が全く発火しない場合(または特定コラムなど特定領域内に含まれる複数の脳・神経細胞全体としての発火頻度が極端に低い場合)には、「特定の(または特定領域に含まれる複数の)脳・神経細胞が劣化している可能性があり、将来認知症を発症するかも知れない」状況が示唆される。この場合には、将来に認知症を発症しないための生活環境の改善または脳のトレーニング、あるいは必要に応じた薬物投与 などの『予
病対策』を施すことが可能となる。
また設問に対する正解回答が20問より大幅に下回り、生体活動検出場所(被測定点)30内の全ての脳・神経細胞が発火しないと共に毛細血管28内での血液中の酸素濃度が変化しない場合には、「A]アルツハイマー形認知症の発症」の可能性がある。その理由は、血液中の酸素濃度変化はその周辺の脳・神経細胞の活性化が起きないと発生しないためであり、まずは脳・神経細胞の不活性状態が原因として疑わしい。
以上説明したように、細胞膜電位変化に基づく脳・神経細胞の発火頻度検出と血液中の酸素濃度の変化検出との組み合わせを認知症の診断に利用すると、認知症に掛かる前の早期診断が可能となり予病対策が早期に実行できるという大きな効果がある。また従来は「B]脳内血流量の低下」を確認するために造影剤を血管注射する必要が有ったのに比べ、本実施例では非接触的かつ非侵襲的な方法なので診断時に患者の痛みが伴わず、患者が受診し易い効果もある。さらに同時に同じ場所を測定するため、詳細かつ精密に患部の特定が行えるだけで無く、診断時間の大幅な短縮による患者の精神的負担が減少する。
ところで本応用例では脳・神経細胞の細胞膜電位変化と血液中の酸素濃度変化を同時に検出する方法で有れば図54に示した検出装置の構造に限らず、他の構造または原理を用いた検出装置の構造を取ってもよい。
10〕生命活動の測定技術を使った悪用防止方法
10.1)本実施例対象技術使用時の注意点
表6に記載した検出手段を用いて「非接触」に行う生体活動の測定の応用(NEI)は、9章で記述したように『新たな価値(新規機能または独自効果)』をもたらすと共に、広い応用範囲を持つ。しかしそれとは裏腹に、プライバシー侵害の危険性と個人情報保護が欠如する恐れも内在する。さらに 9.1節で示すように、これに頼り過ぎると人格向
上の妨げにも繋がる。したがって本応用例(NEI)は、『使用者本人と人類と地球の共通な利益』を目指して使用されることが望ましい。
10.2)転送信号/情報の暗号処理方法
プライバシー侵害を防止し、個人情報を保護する最も効果的な方法は、図44のイベント情報付き生体活動検出信号248とイベント情報付き生体活動情報249を暗号化する
ことと考えられる。
伝心仲介業者(マインド・コミュニケーション・プロバイダ)211と心のサービス会社(マインド・サービス・ディストリビュータ)212とは異なる第3者が暗号鍵発行業者(図44には記載して無い)となり、暗号鍵の管理を行う。
ここで『最初に供給される鍵』と『送信回数(または送信時間)が増加すると必要になる鍵』の2種類の鍵で構成される所に本実施例の特徴がある。ここで図35を用いた6.4.3節ではイベント情報付き生体活動検出信号248に関する暗号化方法しか説明して無いが、イベント情報付き生体活動情報249に関しても全く同様な暗号化方法を採用する。
図35を用いて6.4.3節で説明したのと同様に、伝心仲介業者(マインド・コミュニケーション・プロバイダ)211にはイベント情報付き生体活動情報249に関する初回の暗号鍵情報と「時変(生体活動情報249の送信回数または累計送信時間に依存)のM系列内ジャンプ数発生器153に設定する初期値鍵」を教えておく。一方伝心仲介業者(マインド・コミュニケーション・プロバイダ)211にはイベント情報付き生体活動検出信号248に関する初回の暗号鍵情報のみを、そして心のサービス会社(マインド・サービス・ディストリビュータ)212にはイベント情報付き生体活動情報249に関する初回の暗号鍵情報のみを暗号鍵発行業者から通知しておく。そのため特定の送信回数(または送信時間)を超える度に、伝心仲介業者(マインド・コミュニケーション・プロバイダ)211はイベント情報付き生体活動検出信号248の暗号解読のための新たな鍵情報を上記暗号鍵発行業者から購入する必要がある。
同様に特定の送信回数(または送信時間)を超える度に、心のサービス会社(マインド・サービス・ディストリビュータ)212はイベント情報付き生体活動情報249を解読するために新たな鍵情報を上記暗号鍵発行業者から購入する必要がある。
この仕組みにより暗号鍵発行業者は、図44に示す個々の生体検出系218毎の利用頻度を逐次モニターできる。このように『最初に供給される鍵』と『送信回数(または送信時間)が増加すると必要になる鍵』の2種類の鍵を組み合わせることで、より強固にプライバシー侵害の防止と個人情報の保護を実行できる。
10.3)その他の悪用防止方法
生命活動の測定技術を使った各種応用(NEI)に関して悪用を防止して正しく使ってもらうには、『使用目的の公開』を行うことが望ましい。
10.1節の方法を採用すると、暗号鍵発行業者は応用毎の利用頻度を把握できる。そして『送信回数(または送信時間)が増加すると必要になる鍵』を上記暗号鍵発行業者から購入時に、その応用目的を自己申告してもらう。そして暗号鍵発行業者が知り得た応用目的と使用頻度をWeb上で公開し、だれでも閲覧可能にする。このように世界中の人により、このWebページから不正利用を発見し易くする。そして好ましくない応用がなされた場合には、伝心仲介業者(マインド・コミュニケーション・プロバイダ)211または心のサービス会社(マインド・サービス・ディストリビュータ)212への利用差し止め請求を行う。
このようにして、本応用例(NEI)を正しい目的で使用して欲しいと切に望む。
11〕生体活動検出/制御に関する他の応用例
11.1)骨格筋の収縮と弛緩状態を検出/制御する対象となる他の生体活動現象
生体内部で起こる動的な生体活動の一例として1章から5章では主に脳・神経系の発火状態や信号伝達状況を検出する方法に付いて説明した。しかしそれに限らず6.1節や表6に示すように、あらゆる『生体内部での動的な生体活動に対する非接触手段による検出や測定あるいは制御』が本実施例または応用例の対象となる。表6を用いた6.1.1節での説明や図41と図42を用いた6.5.4節の説明では、骨格筋の収縮と弛緩状態の検出に神経筋接合部への信号伝達状態(神経筋接合部5の活性化)の検出を利用していた。上記実施例に対する応用例として11章では実際の骨格筋の収縮状況や弛緩状況を直接検出する方法とその原理に付いて説明する。またその検出原理を利用した骨格筋の収縮/弛緩を制御する方法に付いても説明する。
B.Alberts他:細胞の分子生物学 第4版(Newton Press,20
07年)16章に拠ると、骨格筋が収縮するプロセスは大きく分けて
a]筋肉細胞内へのカルシウム・イオンの放出による骨格筋の収縮を可能にする制御
b]筋肉細胞内のアクチンフィラメントに対するミオシンの移動動作による骨格筋の収縮の2ステップから構成されている。
ところで6.1.1節や6.5.4節で説明した“神経筋接合部への信号伝達(神経筋接合部5の活性化)”は、上記[a]のステップ直前の前段ステップとして発生する。
上記[b]の骨格筋の収縮ステップでは、“ミオシンの変形”→“ミオシン頭部のアクチンフィラメントへの接触”→“接触した状態でミオシン形状が元に戻る” →“ミオシ
ン頭部のアクチンフィラメントからの離脱”が繰り返される。ここでATP(Adenosine triphosphate)の加水分解を利用して上記“ミオシンの変形”が起こる。すなわちミオシンの一部がミオシンATPアーゼという特殊な酵素を含んでおり、ここに燐酸基が直列に3個繋がったATPが結合すると、周囲の水分子1個を組み込みながら1個の燐酸基の結合が外れる。
このように骨格筋の収縮には、“ミオシン頭部のアクチンフィラメントへの接触”が必要となる。所が骨格筋の弛緩時にはトロポミオシンがこの結合部位をふさいで、“ミオシン頭部のアクチンフィラメントへの接触”が阻害されている。それに対して6.1.1節や6.5.4節で説明した“神経筋接合部への信号伝達(神経筋接合部5の活性化)”が起きると、上記[a]ステップとして、この領域に多量のカルシウム・イオンが流入する。この時流入したカルシウム・イオンがトロポニンに結合すると、トロポニンに繋がっているトロポミオシンの位置がずれて“ミオシン頭部のアクチンフィラメントへの接触”が可能となる。このカルシウム・イオンとトロポニンとの結合時には、トロポニンに含まれるアスパラギン酸残基またはグルタミン酸残基の一部を構成するカルボキシル基とカルシウム・イオンCa2+との間のイオン結合が起こると予想される。
11.2)酵素による生体内触媒作用の理解に関する基本的な考え方
次の11.3節でミオシンATPアーゼによるATP加水分解メカニズムの説明をするに当たり、酵素による生体内触媒作用の量子化学的な考え方を先に説明する。
図57(a)は原子Aと原子Bが共有結合している時の、結合性軌道の電子雲密度分布を示す。原田義也:量子化学 下巻(裳華房、2007年)p.55に記載されたHel
lmann−Feynmanの静電定理に拠ると、分子内の1個の原子核Aに働く力は上記結合性軌道を構成する電子の確率密度(電子雲密度)からのクーロン引力と他の原子核
Bからのクーロン斥力との和で表される。つまり原子核AとBの間に分布している電子雲密度と正電荷を持つ原子核A/Bとの間の静電的引力が働いて、原子核AとBとの間の結合が成立している。
次にリシン残基に含まれる4級化アミノ基−NH が原子Aと水素結合した時の結合性軌道の電子雲密度を図57(b)に示す。4級化アミノ基内の窒素原子は正電荷に帯電しているため、原子核Aの周辺に局在する電子雲は静電的引力の影響を受けて4級化アミノ基側に偏在する。そして図15(b) が示すように、この時の分子軌道は窒素原子核周
辺まで到達する。その結果として、原子核AとBの間に分布している電子雲密度が低下する。すると原子核AとBとの間の結合力が低下するため、原子核AとB間の静電的斥力の影響で両者間の距離が広がる。
原子核AとB間の距離が広がった結果、原子核Bが比較的正電荷側に帯電している原子Cに近付いた場合の結合性軌道の電子雲密度分布を図57(c)に示す。この時、原子核Bの周辺に局在していた電子雲が静電気的引力の影響で原子C側に偏在する。この偏在量が大きくなって原子核AとBとの間で電子雲密度が“0”になる場所が発生すると、原子核AとBとの間の静電的斥力の影響で両者間の結合が切れる。この時の分子軌道は原田義也:量子化学 上巻(裳華房、2007年)p.263およびp.290が示すように、
原子核AとBに対する反結合性軌道となっている。
11.3)ミオシンATPアーゼの動作メカニズム
ミオシン内のミオシンATPアーゼの機能を担う活性部位にATPが結合した部分の分子構造がI.Rayment:Journal of Biological Chem
istry vol.271(1996) p.15850に記載されており、その主要部分の抜粋を図58に示す。図58において太実線が共有結合ボンドを、太波線がイオン結合ボンド、そして縦線の横方向連続線が水素結合ボンドを表し、結合性軌道を形成する電子の確率密度分布(電子雲密度分布)の片寄り方向を細実線矢印が表している。ところでATPはアデノシンに3個の燐酸基が直列に繋がった分子構造を持つが、図58では上記アデノシンに1個の燐酸基が結合した状態をまとめてAMP(Adenosine monophosphate)と記述する。ATPの加水分解にはマグネシウムイオンMg
2+が重要な役割を果たし、マグネシウムイオンMg2+の働きにより活性化された水分
子が2個の燐酸基間の結合部に直接働き掛けて結合を切断すると言われている。またミオシン内のミオシンATPアーゼの機能を担う活性部位にはリシンLys185およびアスパラギンAsn235が含まれる。ここで図58内の番号は、蛋白質であるミオシン内のアミノ酸の配列番号を意味している。
ミオシンATPアーゼの機能を担う活性部位にATPが結合すると、その中の酸素原子O5とO2がリシンLys185残基の一部およびアスパラギンAsn235残基の一部と水素結合する。またATP周囲に存在する水分子内の水素原子H1がATP内の酸素原
子O2と水素結合する。一方マグネシウムイオンMg2+は、その水分子内の酸素原子O1
と弱くイオン結合して水分子を活性化する。
それだけで無くマグネシウムイオンMg2+は他の1個の水分子内酸素原子O9とも弱いイオン結合を行と共に、ATP内の2個の酸素原子O3、O8とも弱いイオン結合をすると、それぞれ考えられている。生体内での水環境(pH7前後)の中では、ATPは負電荷に帯電しており、その内のγ燐酸基とβ燐酸基の負電荷量は2個分と1個分に相当すると言われている。
図58では便宜上、O3、O5とO8がそれぞれ1個ずつ負電荷に帯電していると
みなす。そして生体内での水環境(pH7前後)中で正電荷に帯電しているリシンLys185残基と2価のマグネシウムイオンMg2+がそれらと結合することで、全体として
電気的に中和する。このように各分子が立体的に配置されて各種の結合が形成されると、図57(b)で説明したようにATP内の酸素原子O5周辺に局在していた電子の存在
確率密度(電子雲の密度分布)がリシンLys185残基内の水素原子H2を経由してプ
ラスに帯電した窒素原子N1へ向かって移動αする。すると酸素原子O5周辺での電子雲密度の低下を補充するため、燐原子P1と酸素原子O2間の結合性軌道を構成していた電子の確率密度の一部がβ方向へ移動する。
一方ATP内で2個の燐酸基間を結合する酸素原子O2がアスパラギンAsn235残
基内の水素原子H6と水素結合しているため、矢印γが示すように酸素原子O2の周辺に局在していた電子雲密度分布の一部がわずかに水素原子H6を経由して窒素原子N2方向へ移動する。さらに正の2電荷を持つマグネシウムイオンMg2+の周辺での圧倒的な電子雲
密度の不足を補充するため、酸素原子O2周辺から燐原子P2と酸素原子O8を経由して
電子雲密度分布が移動(δ)する。
その結果として酸素原子O2周辺での電子雲密度が大幅に低下するが、この酸素原子O2は水分子内の水素原子H1と水素結合しているため、この水素結合路を利用して電子雲密
度の低下を阻止する。具体的には矢印εが示すように水分子内の酸素原子O1と水素原子
H1間の結合性軌道を形成する電子の確率密度が低下して前記水素結合を形成する電子の
存在確率密度が増加するが、この増加した分が水素原子H1と酸素原子O2間の結合性軌道として働いて水素原子H1と酸素原子O2間で共有結合が形成される。さらにマグネシウムイオンMg2+がその周囲へ向けて周辺の電子雲密度を引き込むため、矢印ζの方向に電
子雲が流れる。
その結果として水分子を構成していた酸素原子O1および水素原子H1間の結合性軌道を形成する電子の存在確率密度が低下し、共有結合から水素結合に変化する。この変化に応じて酸素原子O1および水素原子H1間の距離が広がるが、図58ではその距離変化までの記載は省略する。このように矢印εおよびζの方向に電子雲密度の片寄りが生じると、酸素原子O1周辺の電子雲密度が大幅に低下して水分子が活性化する。すると酸素原子O1は低下した周辺の電子雲密度を補充するため、近接する燐原子P1周辺に局在する電子雲密
度を奪う(η)。
その結果として燐原子P1と酸素原子O1との間で電子雲密度が上昇し、この電子の存在確率密度が燐原子P1と酸素原子O1との間の結合性軌道として働く。それにより燐原子P1と酸素原子O1との間で共有結合のボンドが形成される。一方マグネシウムイオンMg
がその周囲へ向けて周辺の電子雲密度を引き込むため、矢印θの方向にさらに電子雲が流れる。そして上述した矢印β、γ、δ、ηおよびθ方向での電子雲密度の移動が生じて、燐原子P1と酸素原子O2との間の結合性軌道を形成していた電子の存在確率密度が大幅に低下する。その結果として燐原子P1と酸素原子O2との間で図57(c)に示すように電子の存在確率密度が“0”の領域が生まれると、燐原子P1と酸素原子O2間の結合性軌道が反結合性軌道に変化して燐原子P1と酸素原子O2との間の結合ボンドが切れる。
上述したATPの加水分解メカニズムをまとめると、図58(b)に示すように下記の通りとなる。
◎水分子内の酸素原子O1と水素原子H1間の共有結合が水素結合に変わると共に、
ATP内の酸素原子O2と水素原子H1との間の水素結合が共有結合に変わる
◎燐原子P1と酸素原子O2間の結合ボンドが、燐原子P1と酸素原子O1間の結合ボンドに変わるところで図58(b)ではATPの加水分解直後に中心に燐原子P1とP2を持つγ燐酸基とβ燐酸基がそれぞれヒドロキシル基−OHを持つが、体内の水環境(pH7)で
は直ぐにOH間結合が切れる。
上述したATPの加水分解反応は、反応の前後に亘って『γ燐酸基(内の酸素原子O5
)/β燐酸基(内の酸素原子O2とO6)がリシンLys185残基/アスパラギンAsn235残基とそれぞれ水素結合する』という大きな特徴がある。
11.4)生体活動検出/制御特性
11.4節では、骨格筋の収縮と弛緩状態を光学的に検出/測定または制御する時に使用する電磁波(光)の適正な波長範囲に関し、広い視点から検討を行う。既に4.7節で神経細胞の発火状態を検出または測定する時の適正な波長範囲に付いて説明した。ここではまず始めに4.7節で説明した内容をより詳細に検討して、神経細胞の発火状態や骨格筋の収縮と弛緩状態に限らず“生体内部”で起こるより一般的な動的活動に対する非接触手段による検出/測定または制御に適した使用電磁波(光)の波長範囲に付いて検討する。そして次にその一般的な検討結果に基づき、骨格筋の収縮と弛緩状態を検出または制御する時に使用する電磁波(光)の適正な波長範囲に付いて検討する。
本実施例またはその応用例は
[1]“生体内部”で起こる動的な生体活動に対して検出/測定または制御を行う
所に大きな特徴があり、その検出/測定または制御を具現化するために
[2]生体内部での活動時またはその活動の変化時に発生する振動モードであり、その時の分子内での2個以上の特定原子で構成される振動モードと外部電磁場(電磁波)との相互作用に拠る振動モード遷移を検出/測定または制御に利用する所に具体的な特徴がある。
また“生体内部”を通過できる電磁波には近赤外光がふさわしく、特に
[3](水素結合状態にある)水素原子が関与する振動モード間の遷移が近赤外光と相互作用し易い特徴を持つ。他の原子と比べて水素原子が最も軽量なため(古典物理学的に考えた場合は)高速(高い周波数)で振動し易いことがその理由である。したがって上記[3]の特徴を持った実施例またはその応用例は、水分子の吸収が少ない短波長(高周波数)側での近赤外光の吸収量変化検出/測定が容易なため、生体内部の比較的深い領域での生体活動検出/測定または制御が可能となる。
本実施例またはその応用例に関する上記特徴に合致する波長範囲に付いて、まずは[1]“生体内部”の検出/測定または制御が容易な範囲を検討する。可視光では人間の肌を透けて内部は見えず、一般的に波長が0.8μm以下の可視光は生体内を通過し辛い。所が指を閉じた状態で手の平を太陽光にかざした時に指の隙間から赤色光が漏れて見える現象からも、赤色以上の波長光がある程度生体内を通過する状況を理解できる。具体的には0.84μm以上の波長光が生体表面の皮膚を通過して生体内に入り易いことが実験により示されている。一方4.7節で説明したように波長が2.5μmを越える赤外光は生体内の水分子に(その対称伸縮振動、逆対称伸縮振動や水分子の回転の励起エネルギーとして)吸収され易いため、光量減衰により電磁波の透過が難しい。4.7節で説明したように動物細胞を構成する化学物質の中で7割(重量百分率)が水分子を占めるため、水分子の吸収による光量減衰が少ない波長光が生体内を通過できる。したがって“生体内を通過”する電磁波を用いて生体活動の検出/測定や制御を行う場合には、波長が0.84μm(または0.875μm)から2.5μmの範囲を持つ近赤外光を使用することが望ましい。
さらに上述した[1]“生体内部”の検出/測定または制御が容易な波長範囲に付いて詳細に検討する。既に4.7節で説明したように、水分子の結合音に帰属する吸収帯は中
心波長1.91μmと1.43μmの所に存在する。また吸収量はわずかではあるが、中心波長0.97μmの所にも吸収帯が存在する。この情報の出典である尾崎幸洋、河田聡編:近赤外分光法(学会出版センター、1996)のP.12に記載された図2.1.1およびP.180に記載された図4.6.1に示された水の近赤外吸収スペクトルを詳細に検討した。その結果、最大吸収波長0.97μm、1.43μmおよび1.91μmにおける吸光度の半値を示す波長範囲が、図56に示すように0.943〜1.028μm、1.394〜1.523μmと1.894〜2.061μmで与えられることが分かった。つまりこの波長領域が、水による光吸収が大きな波長領域となる。したがって0.84μmから2.5μmの波長範囲の中で、上記の範囲を避けた波長領域が水による光吸収が少ない領域に相当する。すなわち中心波長が0.97μmの吸収帯での光吸収がわずかだ(光吸収の影響が少ない)と見なした場合には、本実施例またはその応用例では図56に示すように2.061μmから2.5μmの間に存在する第1の可能な波長範囲I、1
.523μmから1.894μmの間にある第2の可能な波長範囲IIそして0.84μmから1.394μmの間の第3の可能な波長範囲IIIのいずれかの範囲内に含まれる波長
を有する電磁波を含む電磁波を生体活動の検出/測定または制御に使用するのが望ましい。所で生体活動検出時または制御時に生体組織内に存在する酸素濃度指示物質の影響(光吸収)を除去したい場合(4.7節参照)には、第3の可能な波長範囲IIIの範囲は0.
875μmから1.394μmの間となる。第3の可能な波長範囲IIIの範囲をこのよう
に設定する事で、検出光路途中に酸素濃度指示物質が存在しても検出光が吸収されずに生体活動検出信号のS/N比の確保が可能となる。また中心波長が0.97μmの吸収帯での光吸収を避けたい場合には、さらに1.028μmから1.394μmの間に存在する第4の可能な波長範囲IVと、0.84μmから0.943μmの間(あるいは0.875μmから0.943μmの間)の第5の可能な波長範囲Vを加えたいずれかの範囲内に含
まれる波長を有する電磁波を含む電磁波を使用するのがよい。
当然、上述した生体活動の検出/測定または制御に望ましい電磁波の波長範囲は、4.7節で説明した神経細胞の発火状態の検出または測定にも適用される。次に上記の検討結果に対して
[2]生体内部での活動時またはその活動の変化時に発生する分子内での2個以上の特定原子間で生じる振動モード間の遷移と外部電磁場(電磁波)との相互作用を検出/測定または制御に利用するという本実施例または応用例の特徴を加味して、神経細胞の発火状態の検出または測定に付いて検討する。神経細胞の発火状態の検出/測定時、主にC−H−Clで構成される逆対称伸縮振動モード間遷移の第1倍音に対応した使用波長範囲は4.7節に拠ると2.05〜2.48μmだった。しかしこの波長範囲では、2.05〜2.061μmの範囲で水が大きく吸収する波長領域と重なる。したがってこの重なり領域を避けて、第1倍音に対応した検出/測定に用いられる電磁波は2.061〜2.48μmの波長範囲内に含まれる電磁波を含むことが望ましい。ところで中心波長が0.97μmの吸収帯での水による光吸収が余り問題にならない場合には、4.7節に沿って上記逆対称伸縮振動モード間遷移の第3倍音に対応した検出/測定に用いられる電磁波は0.840〜1.37μm範囲内の波長を持つ電磁波を含むことが望ましい。また上述したように酸素濃度指示物質の影響を除去したい場合には、前記第3倍音に対応した検出/測定に用いられる電磁波は0.875〜1.37μm範囲内の波長を持つ電磁波を含むことが望ましい。しかし高い精度の検出/測定が求められる結果として中心波長が0.97μmの吸収帯での水の吸収の影響を避けたい場合には、0.840μm〜0.943μm(あるいは0.875μm〜0.943μm)と1.028μm〜1.37μmのいずれかの範囲内の波長を持つ電磁波が含まれる電磁波を神経細胞の発火状態の検出/測定に用いることが好ましい。
次に上記[1]生体内部の検出/測定または制御 と行う特徴に[2]振動モード間の
遷移と外部電磁場(電磁波)との相互作用の特徴を加味して骨格筋の収縮と弛緩状態を検
出/測定または制御する場合に付いて説明する。11.1節で説明したように、骨格筋の収縮/弛緩動作には
a]筋肉細胞内へのカルシウム・イオンの放出による骨格筋の収縮を可能にする制御
b]骨格筋の収縮作用
の2ステップから構成されている。したがって、上記2ステップ個々に独立して検出/測定または制御が行える。
最初に上記[a]のステップに関する検出/測定方法または制御方法の説明を行う。11.1節で説明したように上記[a]のステップでは、カルボキシル基とカルシウム・イオンCa2+との間のイオン結合が起こると予想される。この場合には3.5節で説明したように、カルボキシル基単体の対称伸縮振動モードに対応した吸収帯の相対的吸収強度が大幅に低下すると考えられる。したがって本実施例では、
◎カルボキシル基の対称伸縮振動モードに対応した吸収帯の相対的吸収強度の変化(急な低下)を検出して骨格筋の収縮が可能状態にあるか否かを検出または測定し、または
◎振動モードの励起光を照射してカルボキシル基の対称伸縮振動モードのエネルギー準位を上げて、カルシウム・イオンCa2+のカルボキシル基への結合を阻止して骨格筋の収縮/弛緩動作の制御をする。通常はカルボキシル基の対称伸縮振動モードは基底状態(最もエネルギー準位の低い振動状態)になっている。これに第n倍音に相当する励起光を照射すると、カルボキシル基の対称伸縮振動モードの準位が高くなる。カルボキシル基の振動が小さい(エネルギー準位が低い)場合にはカルシウム・イオンCa2+が結合し易い。それに対して振動モードの準位が高くなると、仮にカルシウム・イオンCa2+が一時的に結合したてもその高いエネルギーによりカルシウム・イオンCa2+が振り落とされる(分離する)確率が高まる。すなわち第n倍音に相当する励起光を照射するとカルシウム・イオンCa2+がカルボキシル基へ結合し辛くなり、骨格筋の収縮制御が阻害されて骨格筋が弛緩した状態が続く。
3.5節ではカルボキシル基の対称伸縮振動モードを励起する基準音の波数値しか示して無いので、以下に第n倍音の励起光に対応した波長の説明を行う。ところで下記の説明内容は骨格筋の収縮/弛緩制御に限らず、11.4節内で説明したあらゆる[2]生体内部での活動時またはその活動の変化時に発生する振動モードであり、その時の分子内での2個以上の特定原子で構成される振動モードと外部電磁場(電磁波)との相互作用に拠る振動モード遷移を検出/測定または制御に利用する実施例または応用例に対して共通に適用できる。まず4.5節で説明した、
を用いると、エネルギー準位εからεへ遷移する時に必要なエネルギー量をhνで表すと、
で与えられる。したがって(A・60)式から、基準音と第1倍音、第2倍音の振動数をν、νおよびνとした時、
の関係が成り立つ。そしてここで導かれた(A・60)〜(A・62)式を用いると、非調和振動に基づく基準音と第1倍音、第2倍音の振動数ν、ν およびν から第m−1倍音の波長λm(振動数ν)の値が予想できる。
参考文献を元に(A・60)〜(A・62)式を用いて計算により予測した基準音と
第m−1倍音の波長λmを表7に示す。表7内に記載した数値の中で、(1)を付記した数値は、尾崎幸洋・河田聡編:近赤外分光法(学会出版センター、1996年)P.218〜P.219 から引用した。一方(2)を付記した数値はR.M.Silverst
ein and F.X.Webster:有機化合物のスペクトルによる同定法 第6
版(東京化学同人、1999年)P.100およびP.108からの引用と、3.5節の計算結果を組み合わせた。またカルボン酸イオン基−COO対称伸縮振動の第m−1倍音波長は、基準音波長の値を利用してカルボン酸−COOHのC=O間振動の計算値を外挿して算出した。
体内の水環境(pH=7前後)では大部分のカルボキシル基がカルボン酸イオン基−COOの状態になっている。したがって本実施例におけるカルボキシル基の対称伸縮振動モードに対する第n倍音の励起光は、基本的には表7における“カルボン酸イオン基−COOの対称伸縮振動”の行に対応する。しかしこの水環境下でも一部のカルボキシル基がカルボン酸−COOHの状態を保ち、このC=O部にカルシウム・イオンCa2+が結合する確率はある。したがって本実施例における
a]筋肉細胞内へのカルシウム・イオンの放出による骨格筋の収縮を可能にする制御では両者の波長範囲を組み合わせて
○第2倍音に対応した波長範囲を1.89〜2.15μm
○第3倍音に対応した波長範囲を1.42〜1.63μm
○第4倍音に対応した波長範囲を1.13〜1.31μm とみなす。
さらに4.7節と同様に、上記の値に対して1割弱の測定誤差を見込む。すると上記の下限値は、それぞれ1.89×(1−0.05)=1.80、1.42×(1−0.05)=1.35、1.13×(1−0.05)=1.07となる。同様に上記の上限値は2.15×(1+0.05)=2.26、1.63×(1+0.05)=1.71、1.31×(1+0.05)=1.38となるので±5%の測定誤差を見込んだ時の波長範囲は
○第2倍音に対応した波長範囲を1.80〜2.26μm
○第3倍音に対応した波長範囲を1.35〜1.71μm
○第4倍音に対応した波長範囲を1.07〜1.38μm となるが、
一部重なった部分をまとめると『検出/測定や制御に適した波長範囲は、1.07〜1.71μmと1.80μm〜2.26μm の範囲内』で与えられる。さらにこの範囲から
図56に示した水分子に多く吸収される波長範囲を除外すると、[a]Caとカルボキシル基−COO間の結合に対応した検出/測定と制御に適した波長範囲は1.07〜1.39μm、1.52〜1.71μm、そして2.06〜2.26μmとなる。この波長範囲を、図56に示した。
上記に説明した範囲内の波長を持った電磁波を含む電磁波を生体に照射した場合、本実施例または応用例では
◎上記範囲内の波長を持った電磁波の生体内部での吸収量または吸収量変化により生体活動に関する信号を検出し、その検出信号を処理して生体活動状況を測定
◎上記範囲内の波長を持った電磁波の生体内部での照射量を(一時的に)増加させて生体活動を制御する。すなわち生体活動検出のために体内に照射する電磁波の光量はわずかなため、骨格筋の中で振動モードが励起されるカルボキシル基の割合が少なく生体活動自体に影響は起きない。しかし照射する電磁波の光量を上げると骨格筋内の大部分のカルボキシル基が振動励起するため、そこへのカルシウム・イオンCa2+の結合が阻害されて骨格筋の収縮が不可能となる。
また本実施例または応用例では、生体活動に関する検出/測定と制御を同時に行ってもよい。この場合には、上記範囲内の波長を持った電磁波の生体内部での照射量を小さくして生体活動を検出/測定してその活動状態を確認しながら、(時々照射光量を上げて)生体活動の制御を行う。
次に本実施例または応用例での検出/測定または制御に利用される分子レベルでの活
動の特徴である
[3](水素結合状態にある)水素原子が関与する振動モード間の遷移(本節内での既説明内容)を利用する場合に付いて説明する。
図58が示すように骨格筋内でのATPの加水分解反応時には、リシンLys185残基およびアスパラギンAsn235残基の一部と水素結合が起こる。局所的な電荷量の中和効果によって安定に加水分解反応を起こすには“正電荷を持つアミノ酸残基と負電荷を持つATP間の水素結合”が必要なため、骨格筋内に限らずATPの加水分解時にリシンLys185残基との水素結合が起こる場合が非常に多い。すなわち11.3節で説明したようにpH7の水環境中ではATPは負電荷を持つため、それを電気的に中和させるのにマグネシウムイオンMg2+と共に正電荷を持つアミノ酸残基との局所的結合が必要と
なる。ところで正電荷を持つアミノ酸残基は、上記のリシンLys185残基以外にアルギニン残基しか無く、いずれも正電荷部の外側に水素原子が配置されている。したがって電気的に中和された状態では、この水素原子とATP内の酸素原子間で水素結合が起こる確率が高い。そしてこの水素結合に関与する水素原子自体が他の原子よりも軽量なため、この振動モード間の遷移を利用すると、前述したように生体内部の比較的深い領域での生
体活動検出/測定または制御が容易となる。
リシン残基やアルギニン残基のほんの一部は水分子(中の酸素原子)と水素結合をするが、以下の理由からATP加水分解時に発生する吸収帯と水分子との間の水素結合に由来する吸収帯では中心波長値が異なる。図59(a)はリシンLys185残基の一部がATP内酸素原子と水素結合した場合を示し、図59(b)はリシンLys185残基の一部が水分子内の酸素原子と水素結合した場合を示す。水素結合に関わる水素原子H2と酸
素原子O5またはO10との距離が最適値よりも短くなった場合、水分子は全体が軽く固定
されて無いため酸素原子O10と水素原子H9/H10間の相対的な配置はほとんど変化しな
い。それに比べて水素原子H2と酸素原子O5との距離が最適値よりも短くなると、図59(b)に示すようにATP内の歪みが生じて水素結合しているATPとリシンLys185全体の分子内エネルギーが増加する。
その結果、水素原子H2と酸素原子O5/O10との距離が最適値よりも短くなった時の分子全体のエネルギー増加量は、水分子と水素結合する場合よりもATP内の一部と水素結合する場合の方が大きくなる。
水素結合に関与する分子構造の違いによる非調和振動のポテンシャル特性への影響を図60に示す。図60の横軸が表す電気双極子モーメントを形成する2原子間距離は、図59の例ではリシンLys185残基内水素原子H2と水素結合相手の酸素原子O5/O10間の距離を表す。そして図59(a)の特性を例えば図60での一点鎖線が、図59(a)の特性を波線がそれぞれ対応する。水素結合する2原子間が離れる方向(水素原子H2と
酸素原子O5/O10間の距離が最適値より大きくなる方向)でのポテンシャル特性は、そ
れ程は水素結合に関与する分子構造に影響を受けないと考えられる。逆に水素結合する2原子間が近付く(水素原子H2と酸素原子O5/O10間の距離が最適値より短くなる)と、図59(a)が示すように上記2原子間の距離を長くする方向へ向けてATP内の分子構造に歪みが発生し、その結果としてトータルエネルギー差分値が増加する(図60の一点鎖線の特性を示す)。
また水素結合する2原子間が近付く時にトータルエネルギー差分値が増加すると、図60が示すようにκとκの係数値が共に増加する。すると(A・60)式が示すように、吸収帯の振動数が増加(波長は減少)する。以上の理由から、リシンLys185残基内の一部が水素結合する時の相手がATPか水分子かで、吸収帯の波長が分離する。また上記の説明が示すように、水素結合に関与するアミノ酸残基の違い(例えばリシンLys185残基、アルギニン残基およびアスパラギンAsn235残基の別)に拠っても吸収帯の波長値が変化する。
したがって生体活動時に(一時的に)発生する吸収帯の波長値の違いで、結合に関与する分子の違いを予想して詳細な生体活動(生体内反応)内容の違いまで同定できる所に本実施例または応用例の効果がある。またこの特徴と効果は骨格筋の収縮/弛緩や水素結合に限らず、特定原子の振動モードの(一時的な)変化を伴うあらゆる生体活動(生体内反応)に対して適用できる。さらにこの結合に関与する分子の違いによる波長選択性を12章で説明する生体活動制御に利用すると、適正波長の違いにより他の生体活動への影響が少ないように制御できるため、生体活動制御によって不要に発生する生体内での副作用を小さくできる効果がある。
一方4章および5章で説明した内容との組み合わせから、図60のように非調和振動ポテンシャル特性が変化すると水素結合に関与する水素原子周辺に局在する電子分布特定が変化する。したがって上述した吸収帯の波長値の違いだけでなく、核磁気共鳴時の化学シフト量の違い(5章参照)を用いて特定原子の振動モードの(一時的な)変化を伴うあら
ゆる生体活動(生体内反応)の検出または測定を行ってもよい。
生体活動(生体内反応)時に発生する水素結合に対応した吸収帯の波長値とそれに関与する分子の組み合わせとの詳細な対応は、理論計算と実験値とのデータの蓄積が必要となる。本明細書では厳密な数値の説明をする代わりに、測定誤差や測定環境により生じる検出値のずれも考慮に入れた吸収帯の波長範囲に付いて概略説明をする。ATPの加水分解時に生じる水素結合に対応した振動モード間遷移は構造的には、表7の“第1級アミド−CONHの分子間水素結合時”の行に近い特性を持つ。ここで骨格筋の収縮に対応したATP加水分解時の水素結合にはリシンLys185残基とアスパラギンAsn235残基が関与する(図58)が、ここではアミノ酸残基の違いによる吸収帯の中心波長の変化は比較的小さいとみなす。そしてそれぞれの吸収帯の波長範囲を一緒にまとめて説明する。今4.7節で説明したように測定誤差や測定環境により生じる検出値のずれによるばらつき範囲を±1.5割と見積もると、
1.60×(1−0.15)=1.36、1.62×(1+0.15)=1.86、1.07×(1−0.15)=0.91、1.09×(1+0.15)=1.25となる。したがって以上をまとめると
○第1倍音に対応した吸収帯の波長範囲は、1.36μmから1.86μmの間、
○第2倍音に対応した吸収帯の波長範囲は、0.91μmから1.25μmの間
となる。このように得られた上記範囲に対し、図56に示した水分子に大きく吸収される範囲を除去した残りの範囲は、図56に示すように
○第2倍音に対応した吸収帯の波長範囲は、1.03μmから1.25μmの間
○第1倍音に対応した吸収帯の波長範囲は、1.52μmから1.86μmの間、
で与えられる。
しかし上述した範囲はあくまでも第n倍音の検出範囲しか示して無い。そして近赤外領域では結合音に対応した吸収帯も含まれる。したがって結合音を検出する波長範囲も考慮に入れると、図56に示した水の吸収が少ない第1、第2、第3、第4および第5の波長範囲I〜Vが対象範囲となる。さらにそれに限らず結合音での吸収帯の吸収量が大きく前記水の吸収の影響を余り受けない場合には、望ましい波長範囲は4.7節に示すように0.84μm(あるいは0.875μm)から2.50μmの範囲となる。またATPの加水分解に関しても前述と同様に
◎上記範囲内の波長を持った電磁波の生体内部での吸収量または吸収量変化により生体活動に関する
信号の検出と、その検出信号を処理した生体活動状況の測定
◎上記範囲内の波長を持った電磁波の生体内部での照射量を(一時的に)増加させた生体活動の制御(但し、検出/測定と制御を並行して行ってもよい)が行える。つまり骨格筋を収縮させるのにATPの加水分解反応の直前には、ATP内酸素原子O2、O6およびO5とリシンLys185残基/アスパラギンAsn235残基の一部が水素結合する(
図58)。この時に強い強度の電磁波を照射して、ほとんどの水素結合に関わる水素原子H6、H5およびH2の振動モードを励起状態にする。すると水素原子H6、H5およびH2が励起状態で振動するため、そのエネルギーで水素結合が切れる。その結果として図58に示すような加水分解が可能な分子配列になれないため、ATPの加水分解反応が阻害されて骨格筋が収縮せず弛緩状態が続く。
なお、ここでは主に骨格筋の収縮/弛緩に関する検出/測定または制御を例に取って
説明したが、それに限らず、応用例として『ATPの加水分解』に関するあらゆる生体内活動に関する検出/測定または制御に適用できる。例えばATPの加水分解を利用した動作として細胞の内から外へ向けて特定のイオンをくみ出すイオンポンプの働きや光合成中の炭素固定に対しても前述した方法による検出/測定または制御が可能となる。さらにB.Alberts他:細胞の分子生物学 第4版(Newton Press,2007
年)16章に拠ると、神経細胞の軸索内の物質輸送を含めた細胞内部での物質輸送にモーター蛋白(Motor protein)が利用されるが、このモーター蛋白の移動にATPの加水分解が利用される。したがって生体活動の一例としてこの細胞内部での物質輸送に関しても、前述した方法による検出/測定または制御が可能となる。
11.5)生体活動検出方法の特徴
本節では筋肉の収縮検出にATPの加水分解反応を利用した場合の生体活動検出信号特性およびそれに関係した測定方法に付いて説明を行う。しかしそれに限らず、前節におけるa]筋肉細胞内へのカルシウム・イオンの放出による骨格筋の収縮を可能にする制御の現象を筋肉の検出に利用してもよい。まず生体活動検出の前提として、前節(11.4節)で説明したリシンLys185残基の一部がATP内酸素原子と水素結合した時に発生する吸収帯の中心波長を含む電磁波(光)を筋肉部に照射してその電磁波(光)の吸収状態を検出する。筋肉収縮活動開始前511と筋肉収縮活動時512における電磁波(光)の吸収量変化の違いを図61に示す。筋肉収縮活動開始前511にはリシンLys185残基の一部とATP内酸素原子との水素結合が起きないため、それに対応した吸収帯は発生せず、その中心波長での光吸収量は小さい。その後の筋肉収縮活動時512ではATPの加水分解反応が非同期で起きるため、経過時間による電磁波吸収量が大きく変動する。すなわち筋肉細胞内には非常に多数のミオシンが存在しており、個々のミオシン間でATPの加水分解反応を起こすタイミングが異なる。そして多くのミオシンが同時にATPの加水分解反応を起こした瞬間は電磁波(光)の吸収量が増大する反面、わずかなミオシンのみがATPの加水分解反応を起こさない瞬間は電磁波(光)の吸収量が低下する。したがって図61に示す検出信号特性に対して本実施例では、電磁波(光)吸収変化量の振幅値513に依って筋肉の収縮活動を評価する。しかしそれに限らず特定時間範囲内での電磁波(光)吸収変化量の最大値を利用して筋肉収縮活動量を評価してもよい。
生体活動検出対象として“筋肉の収縮活動”を検出して生体活動を測定する方法として、本実施例では6.5.4節で説明したように“人の顔面の筋肉収縮状況”を検出して被験者の情動反応を測定する。J.H.Warfel:図説 筋の機能解剖 第4版(医学書院、1993)に顔面での表情筋肉の収縮と表情の関係が掲載されており、その抜粋を図62に示す。人は驚いた時に頭頂筋501が収縮し、苦痛を感じた時に皺眉筋502が収縮する。これは、驚いた時に眉毛がつり上がり、苦痛時に眉間にしわが寄る現象に対応する。また笑い顔では頬が上に盛り上がるが、これは笑う時に頬骨筋503が収縮する状況を示している。その反対に悲しみを感じている時は口角下制筋(オトガイ三角筋)505が収縮して口が広がると共に“への字”の形に近付く。一方何か言いたい場面や不満などの気分を表したい時に口をとがらせることがあるが、何か表情を表したい時に口輪筋504が収縮する。逆に無表情の時には下唇下制筋(下唇方形筋)506が収縮する傾向にある。そして疑いとさげすみの気持ちを持った時にオトガイ筋507が収縮して、口の中央が下に下がる。
そしてこの顔面上で収縮する表情筋の場所と感情の関係は、“どの表情筋が収縮するかで情動反応の対応が付く”ことを示唆している。この現象を利用して本実施例では、筋肉の収縮場所と収縮の強さで被験者の情動反応または感情をリアルタイムで測定する所に特徴がある。従来から顔面上での構成部品(目および口)の配置場所や形もしくはその時間的変化などの幾何学的情報で被験者の感情を予測する技術は知られている。しかしこの方法では被験者の元々の顔の作りや測定時の顔面の角度の影響を強く受けるため、測定精度が悪いだけで無く測定に時間が掛かるという課題が有った。それに比べて情動反応または感情を収縮する表情筋の場所や強さで測定するため、瞬時に精度の高い測定が可能となる。また非接触による測定なため、被験者への負担を強いる事無く被験者の自然な状態で測定ができるという効果もある。
さらに本実施例では非接触で測定できるだけで無く、被験者が自由に動き回っても安定に測定を続けられる工夫がなされている。そして被験者が測定中に自由に動き回った場合、例えば図63に示すように生体活動検出対象物(すなわち被験者)の位置522が生体活動検出部における検出可能範囲521の隅の方に移動する場合がある。そのような状況に対して本実施例では、生体活動の位置検出部46から得られる信号を生体活動検出に活用する。既に6.1.3節で説明したように、
■第1の検出に基づいて第2の検出を行う所に本実施例の大きな特徴がある。ここでいう“第1の検出”とは6.1.3節で定義したように“生体活動検出場所の位置検出”を意味し、例えば図22に示した“生体活動の位置検出部46”がその検出を行う。また“第2の検出”とは“生体活動の検出”を意味し、例えば図22の“生体活動検出部101”がその検出を行う。
ところで上記特徴を実施可能にするためには、図64または図65が示すように事前に生体活動検出部101と生体活動の位置検出部46の動作確認(S101)を行い、
■少なくとも生体活動検出場所の位置検出(第1の検出)と生体活動の検出(第2の検出)のいずれかが不可能な場合(S102)には、生体活動検出信号106(図31、図32または図35参照)の出力を行わない(S103)処理をする所にも、本実施例の特徴がある。
例えば図63に示すように、生体活動検出対象物(例えば被験者)の位置522が生体活動検出部における検出可能範囲521内であれば生体活動の検出(第2の検出)が可能である。しかしこの生体活動検出対象物(例えば被験者)の位置522が生体活動検出部における検出可能範囲521の外にはみ出すと、生体活動の検出(第2の検出)は不可能となる。また図31や図32で示すように生体活動検出対象物(例えば被験者)に対して生体活動検出用照射光115を照射して反射される光を検出するが、上記光路の一部が遮光された場合にも生体活動の検出(第2の検出)が不可能となる。同様に図64または図65のS102で示した生体活動の位置検出部46による位置検出が可能で無い場合とは、生体活動の位置検出部46による位置検出可能な範囲の外に生体活動検出対象物(例えば被験者)が移動した場合や検出光路の一部が遮光された場合が該当する。
また上述したように少なくとも第1および第2の検出のいずれかが不可能な場合には生体活動検出信号106の出力を停止する代わりに、図64または図65のS103が示すように例えば“0”などの特定値を出力してもよい。また同時に、生体活動の検出が不可能な状況を“画面表示”または“音声”に依りユーザーに通知(S103)してもよい。
一方6.1.3節では“生体活動検出場所の位置検出(第1の検出)により測定対象物の3次元内での位置の割り出しを行い、その割り出した生体内の位置から生体活動に関する検出(第2の検出)信号を得る”と記載されている。この具体的内容に付いて詳細に説明する。上述した特徴の中で“第1の検出に基づいて”という意味は、
■生体活動検出場所の位置検出(第1の検出)により生体活動検出場所30の奥行き方向の位置を検出することを指し、図64または図65のS104(生体活動の位置検出部46で検出)のステップに対応する。そしてこの具体的方法として、図22を用いて6.2.2節で説明したように『三角法』の原理を用いる。次に前記S104の検出結果として得られた“生体活動検出場所30の奥行き方向の位置情報”(図22における生体活動検出部表面からの距離44に対応)に基づいて生体活動検出部101内に内蔵された対物レンズ31(図23または図24)を光軸方向にずらして生体活動検出に最適な位置へ移動させることが、S105に記載した生体活動検出部101の動作を制御する事に対応する。ところで図22に示すように生体活動の位置検出部46内にもカメラ用レンズ42が内蔵されており、S104で得られた生体活動検出場所30の奥行き方向の位置に合わせて
前記カメラ用レンズ42の最適化がなされる。その結果、生体活動の位置検出部46に内蔵されている2次元光検出器43上で生体表面41に対する鮮明な結像パターンが得られる。このように生体活動の位置検出部46内で鮮明な結像パターンが得られて初めて、後述する生体活動の測定に特化した効率のよい生体活動検出信号106が得られる。
図62を用いて“表情筋の中で収縮する筋肉の場所が分かると情動反応の対応が付き易い”ことを前述した。すなわち図63で示す生体活動検出部における検出可能範囲521内の全領域に亘って筋肉の収縮量を示す生体活動検出信号全てを出力するのでは無く、生体活動検出部における検出可能範囲521の中から“情動反応(あるいは感情表出)に関係する筋肉の場所”を抽出してその筋肉の収縮状況のみを生体活動検出信号106(図31、図32または図35)として出力すれば、その生体活動検出信号106を用いた解析(すなわち生体活動測定)が容易となる。したがって本実施例は
■生体活動検出場所の位置検出(第1の検出)に基づき生体活動検出信号106が出力される所に大きな特徴がある。そして生体活動検出対象物の位置522(図23、図24あるいは図26における生体活動検出場所(被測定点)30と図22に示した生体活動の位置検出部46との相対的位置)と生体活動検出信号106との関係を調べれば、この特徴を実施するか否かの判断が容易に付く。すなわち被験者が同じ感情(情動)を保ったまま位置を移動しても継続的に安定して生体活動検出信号106が出力されていれば、生体活動検出場所の位置検出(第1の検出)に基づいて特定筋肉の場所を追従しながらその筋肉の収縮状況を生体活動検出信号106として出力している(上記特徴を実施している)と判断できる。あるいは生体活動の位置検出部46の検出光路一部を遮光してしばらく経っても(生体活動検出信号106の内部バッファー処理を考慮)信頼性の高い生体活動検出信号106が出力され続けている場合には、上記の特徴を実施して無いと予想できる。
生体活動検出部における検出可能範囲521の中から“情動反応(あるいは感情表出)に関係する筋肉の位置”を抽出する前に、生体活動の位置検出部46内で生体活動検出部における検出可能範囲521内での生体活動検出対象物の位置522の抽出が必要となる。この位置抽出処理には、例えばデジタルカメラなどで用いられている『顔認識技術』と『顔の角度抽出技術』を利用する。この顔認識技術では、例えば人間の顔に特徴的な形状を持った目や口や鼻や耳の位置をパターンマッチングで抽出して“顔と思われる場所”を探す。このように“顔と思われる場所”が分かった後、その中での目や口や鼻や耳と思われる場所を探して顔の角度を予想する。
ところで“情動反応(あるいは感情表出)に関係する各種表情筋の位置”は、図62が示すように目や口の位置から割り出せる。このように2次元光検出器43上の2次元上の結像パターンから“情動反応(あるいは感情表出)に関係する各種表情筋の位置”を割り出す操作が、図64または図65に記載したステップ106の生体活動検出場所30の平面方向の2次元上の位置を生体活動の位置検出部46で検出する方法に該当する。ところで本11.5節では生体活動検出例として各種表情筋の収縮状態の検出を示している。しかし図64または図65に示す実施例はそれに限らず、例えば4章で説明した神経細胞の発火場所の抽出や13章で後述する燐酸化活動に基づく活性化された細胞の位置抽出などあらゆる生体活動の検出と測定に適応できる。
図64または図65のステップ106で得られた検出結果を生体活動検出信号106に繋げる方法として、2種類の方法がある。まず図64に示す本実施例では、ステップ106の検出結果に基づいて生体活動部101内の検出場所を制御する(S107)。ここでは生体活動検出部における検出可能範囲521内の“情動反応(あるいは感情表出)に関係する各種表情筋の位置”からのみ生体活動検出信号を得るように制御する。すなわちステップ106で得られた“情動反応(あるいは感情表出)に関係する各種表情筋の位置”に対応した場所を図24と図25の2次元液晶シャッター内光透過部56に設定する(6
.3.1節参照)。
その結果、図24の縦方向1次元配列光検出セル55では該当する表情筋の筋肉収縮(ATP加水分解反応)に関連した生体活動検出信号106しか得られない。そしてここで得られた生体活動検出信号106(図31、図32または図34)をそのまま出力(S108)する。本実施例では生体活動検出信号106の抽出方法が非常に簡単なので、生体活動検出部101を安価に製造できると共に高精度の検出信号が得られる効果がある。
一方図65に示した応用例ではS111で示すように生体活動検出部101内では検出領域全面(図63で示す生体活動検出部における検出可能範囲521内の全ての領域を意味する)で生体活動を検出する。またこの場合には生体活動検出部として、図26から図28を用いて6.3.2節で説明した方法を利用する。そして生体活動検出回路の後段部86内の図34に示す後段部の信号処理演算部143内ではS111で得られた生体活動検出信号からS106の検出情報を使って必要な検出信号を抽出して(S112)、必要な生体活動検出信号106(図31または図32参照)として出力する(S113)。この方法を採用した場合には、図62で明示した“情動反応(あるいは感情表出)に関係する表情筋”以外の顔面筋肉の収縮情報も検出信号として得られるので、図34内の後段部の信号処理演算部143内でその検出信号も用いた高度な信号処理が可能となる。したがってこの応用例に示した方法を利用することで、より一層高精度な生体活動の測定が可能となる。
上記顔面上での表情筋が収縮する場所とその収縮量を検出して被験者の情動反応(あるいは感情の動き)を測定する上記実施例を鬱病の予防、早期発見あるいは診断に応用できる。以下にその応用例に付いて説明する。多くの人は憂鬱な気分になると、笑いが減り、積極的な表情表現の回数が減りがちになる。従って図62を使った上述の内容から、健常者でも憂鬱な気分になると頬骨筋503と口輪筋504の収縮回数が減少すると予想される。更に憂鬱な気分が進行するか、あるいはそれをきっかけに悲しい気分を感じると口角下制筋(オトガイ三角筋)505が若干収縮する頻度が増加すると考えられる。そして更に進行すると笑いが大幅に減ると共に無表情に近付くため、頬骨筋503と口輪筋504が弛緩しながら下唇下制筋(下唇方形筋)506の緊張が続く可能性が強い。従って表情筋内の収縮する場所とその収縮量を検出する事で、その時点での憂鬱な気分の深さが予測(測定)できる。更に時系列的に見た鬱的な気分の頻度(例えば鬱的な気分の持続時間や1日あるいは1週間内で鬱的な気分がどの位の時間発生するか)や鬱的な気分の発生頻度の時間変化(直ぐに忘れて元気になるか? 時間経過につれて鬱的状態が進行するか?)
も問題となる。このように
1〕被験者の鬱状態の進行度を時系列的に測定できれば、鬱病の早期発見や検診に役立つ。
またそれだけではなく、本応用例を用いる事で
2〕被験者の心の傾向性に応じた鬱病の予防
が可能となる。つまり比較的深刻に考えがちな人やまじめな性格の人が鬱病に掛かり易い傾向に有る。従って顔の表情をモニターして被験者の心の傾向性を把握する事で、被験者の心の傾向性に応じた鬱病の予防措置を早めに実施できる。具体的方法を以下に説明する。上述したように顔面上での表情筋が収縮する場所とその収縮量を検出して、その時点での被験者の憂鬱な気分の深さ(鬱病の視点から見た進行度)を数値で表す。そして図44を用いて7.2.2.3節で説明した生体検出系218に依って長期的に継続して測定が可能な場合には、その数値で表した憂鬱な気分の深さ(鬱病の視点から見た進行度)の時間的変化を調べる。それにより被験者が“健康な状態”、“少し気分が塞ぎがち”、“心の健康的に要注意”、“軽い鬱状態(=要継続検査)”、“治療が必要”または“かなり重度が高い”などのどの段階に有るかが判定し易く、タイムリーな精神科医による対応が可能となる。
脳波や近赤外光を用いた血液中の酸素濃度計測法を用いて鬱病の診断に用いる試みが従来なされている。しかし上記の方法はいずれも測定装置を患者に接触する必要が有るため、患者への負担が大きいと共に長時間に亘る継続測定が難しいと言う課題が有った。それに対して本応用例は完全な非接触による測定なため、被験者への負担を強いる事無く、長時間に亘る継続測定が容易な効果が有る。
次に図44を用いて7章で説明した生体検出系218を用いた鬱病に対する予防や診断方法に付いて説明する。
< 精神科医の診察室に設置する方法 >
これは生体検出系218を診断装置として活用する方法で、7.1節で説明した一体形装置に対応する。外来の患者をこの生体活動制御装置の前に座ってもらう事で、順次に鬱病の進行度合いが数値で表れる。この数値を利用して、精神科医が治療の効果を数値的に把握できる。
< 患者の身の回りに設置し、時間経過による患者の気分の変化を時系列的に把握する方法 >
7.2.2.3節に記載したように、生体検出系218を机上に配置する、あるいはテレビやパーソナル・コンピューターに隣接して設置した場合を考える。本応用例では被験者に対して生体検出系218を非接触な状態で設置できる。また図64または図65を用いて説明した方法を利用すると、被験者が移動しても自動的に動きに追従できる。従って長時間に亘って患者の気分の変化を時系列的に把握出来る。そして図44を用いて7.2節で説明したように生体検出系218で得られた生体活動検出信号248あるいは生体活動情報249がネットワーク経由でリアルタイムに精神科医または会社の管理者へ転送される。それにより精神科医または会社の管理者は早期な予防処置や鬱病に対する早期発見が可能となる。
上記に基付き鬱病に対する早期発見が可能となると、対応した早期の治療が可能とな
る。また13.2節で説明する応用例により、この鬱病の治療にも貢献できる。
12〕生体活動の制御方法
本実施例では、
[1]外部から生体内部に電磁波を照射して
[2]生体内部の状態を局所的に変化させて
[3]非接触に
生体活動の制御を行う所に特徴がある。
以下にその制御を行う生体活動制御装置の構造や生体活動の制御に利用される基本原理などに付いて説明する。
12.1)生体活動の基本的な制御方法の概説
本実施例で使用する生体活動制御装置の一例を図66に示す。本実施例で使用する生体活動制御装置では、
◎相対的に強度が大きい電磁波を外部から生体内部へ照射し、制御光として利用する
◎0.84μm以上で2.5μm以下の波長範囲内にある電磁波を制御光として利用する◎上記制御光を生体内の特定場所に集光させる
◎生体活動の制御と生体活動の検出を並行して行ってもよい
… 生体内で制御する場ところでの活動状態を検出した後に制御を行うまたは検出しながら制御する
◎制御光の照射と同時に外部からの特定電圧の印加が可能
という特徴がある。
まず本実施例における生体活動制御装置では、生体内部で制御対象となる場所を設定する必要がある。この制御対象となる場ところである検出/制御対象となる生命体の一部600は、図66では便宜上被験者の頭部とし、神経細胞内における発火制御を例に取る。しかしそれに限らず、検出/制御対象となる生命体の一部600は手や足や腰など生体内の任意の場所が対応し、さらに生命体として動物以外に植物、細菌や微生物でもよい。
そしてこの生体活動制御装置では、検出/制御対象となる生命体の一部600の場所のモニターに生体活動検出場所の位置検出用モニター部432が装備されている。この生体活動検出場所の位置検出用モニター部432では、図20〜図22を用いて6.2節で説明した方法でモニターが行われる。また被験者が動物の場合には、検出または制御途中で微妙に動いてしまう。この微少な動きに対しては、対物レンズ31を3軸方向に動かして生体活動検出場所(被測定点)30を追従させる。
具体的には生体活動検出場所の位置検出用モニター部432が最初に生体活動検出場所(被測定点)30の位置を設定した後に検出/制御対象となる生命体の一部600が移動した場合、生体活動検出場所の位置検出用モニター部432がそのずれ量を自動的に検出し、その検出したずれ量に応じて対物レンズ駆動回路605の働きにより対物レンズ31を動かしてずれ量を機械的に補正する。図66に示した実施例では、生体活動の検出または制御に用いる光(電磁波)の光源とは別に生体活動検出場所の位置検出用光源431を持ち、生体活動の検出または制御を行う生体活動検出場所(被測定点)30と同じ場所あるいはその近傍(生体活動検出場所(被測定点)30を含めた多少広域の領域)を照射する。しかしそれに限らず、生体活動の検出または制御に用いる同一の光源を使って生体活動検出場所の位置検出を行ってもよい。
発光部111から放出された生体活動検出/制御用電磁波(光)608はコリメートレンズ606で並行光に変換された後、対物レンズ31により検出/制御対象となる生命体の一部600内の生体活動検出場所( 被測定点 )20上に集光される。このように生体活動検出/制御用電磁波(光)608を集光させることで(1)生体内の局所的な特定場所のみの生体活動の制御が行え、(2)生体活動検出/制御用電磁波(光)608のエネルギーを効率的に使えるという効果が生まれる。
図66では1個の発光部111のみを持つ構造を示しているが、それに限らず複数個の発光部111を具備してもよい。そしてこの複数個の発光部111から放出された生体活動検出/制御用電磁波(光)608を同一の対物レンズ31に通過させれば検出/制御対象となる生命体の一部600内の複数点に同時に集光できるため、複数の異なる生体活動検出場所(被測定点)30での生体活動を同時に制御できる。さらにこの複数個の発光部111の発光をそれぞれ独立に制御することで、複数の異なる生体活動検出場所(被測定点)30での生体活動制御のタイミングをそれぞれ独立に変えることも可能となる。
また図66に示した生体活動制御装置内に生体活動検出部101が装備されており、生体活動の制御と並行して生体活動の検出が行える。それにより、(1)生体活動状態を検出して生体活動検出場所(被測定点)20での制御の必要性を確認してから生体活動の制御が行えるので、生体活動制御の効率が上がる、(2)生体活動の制御をしながらの生体活動検出が可能なため、リアルタイムで生体活動制御の効果が確認でき、生体活動制御の効果が上がる という実施例の効果が生まれる。なお図66の生体活動検出部101内は
、図23〜図28を用いて6.3節で説明した原理を用い、図31〜図35を用いて6.4節で説明した構造を持つ。
ところで図66に示した生体活動制御装置では、生体活動の検出用と制御用で同一の光源(光源部111)で兼用している。それにより(1)必要な部品点数を低減できるため、生体活動制御装置の小形化と低価格化が図れる、(2)生体活動の検出用と制御用で光学系のアライメント(光学調整)を別々に行う必要が無く生体活動制御装置の組立調整が簡易化されるため、生体活動制御装置の低価格化と高信頼性化が図れるという効果がある。この方法の場合には、発光部111から放出される電磁波(光)の光量を時系列的に切り替えて、生体活動に対する検出と制御を時系列的に切り替える。すなわち生体活動の検出時には発光部111から放出される電磁波(光)の光量を減らし、間欠的に実施される生体活動の制御時には発光部111から放出される電磁波(光)の光量を増加させる。この時の発光量の切り替えは、制御部603の指示に基づいて変調信号発生回路118が制御する。そしてこの変調信号発生回路118からの出力信号に応じて発光部駆動回路114が発光部111に供給する電流量を切り替える。
なお上記に限らず、生体活動の検出用と制御用で別の光源を具備してもよい。その場合には、(1)生体活動の制御と検出が同じ時間帯で行えるため、生体活動の検出精度が向上して生体活動の制御効果が一層向上するというメリットがある。図56が示すように、生体活動の検出と制御に適正な波長範囲は一般的に複数の領域(範囲)に分かれている。したがって生体活動の検出用と制御用で別の光源を用いる場合には、それぞれ別の波長範囲(領域)内に含まれる波長を持った電磁波(光)を発光する光源を選択するのが望ましい。
また図66に示す生体活動制御装置では、生体活動検出場所( 被測定点 )20への生体活動検出/制御用電磁波(光)608の照射と同時に外部からの特定電圧の印加が可能な所に特徴がある。このように同時に特定電圧の印加を併用することで生体活動制御をより効率的に行える。ここで生体活動の制御時に発光部111の発光量を増加させるタイミングと特定電圧を印加させるタイミングの同期制御は制御部603が行う。すなわち前記制御部603からの指令信号が出ると、変調信号発生回路604が高電圧高周波発生用電源602を操作して一時的に高電圧を発生させる。そしてこの高電圧が電極端子(板)601-1および-2に印加され、電極端子(板)601-1および電極端子(板)601-2の間に強い電場が発生する。この電極端子(板)601-1および電極端子(板)601-2の間に発生する強い電場の作用は心臓の蘇生に用いられるAED(Automated
Exterんal Defibrillator)に類似している。
ところで図66に示す生体活動制御装置では2個の電極端子(板)601-1と-2の配置関係が固定されており、その間に検出/制御対象となる生命体の一部(被験者の頭部など)600を挿入する形になっている。しかしそれに限らずAEDのように、検出/制御対象となる生命体の一部(被験者の頭部など)600の表面に電極端子(板)601-1
と電極端子(板)601-2を直接密着(または一時的な接着)させてもよい。
また図66に示した生体活動制御装置の応用例を図67に示す。そして生体活動検出/制御用電磁波608を光導波路609に導き、内視鏡やカテーテルのように体内に生体活動検出/制御用電磁波608を照射する所に図67の特徴がある。またこの場合には、生体活動検出場所の位置検出用モニター部432から得られる信号を光導波路駆動回路610に伝達して光導波路609の先端に装備された対物レンズ31の位置を制御する。図67に示すように光導波路609を利用すると、検出/制御対象となる生命体の体内奥深い場所にも生体活動検出/制御用電磁波608を照射して生体活動の制御が可能となるため、制御できる範囲が飛躍的に向上する。
また上記構造に限らず、発光部駆動回路114、発光部111と生体活動検出部101を1個の小さなカプセル内に収納してもよい。この場合には前記カプセルを飲み込むなどの方法で体内に侵入させて体外の制御部と無線で通信し、外部からカプセルの位置制御を行う。図67の応用例では光導波路609の体内挿入時に被験者へ負担が掛かる。それに比べてカプセルを利用することで被験者への負担が大幅に緩和できるだけでなく、長時間に亘って連続して生体活動検出/制御用電磁波608を照射できるため、生体活動の制御効率(例えば治療効率)が大幅に向上する。
12.2)生体活動の制御に利用される基本原理の概説
図66に示す生体活動制御装置または図67に示すその応用例を用いて生体活動の制御に利用される基本原理に付いて最初に説明する。
本実施例または応用例において全てに共通する基本原理として
A]特定の生体活動に関係する電磁波を照射して生体活動の制御をする
所に大きな特徴がある。ここで上記の“特定の生体活動に関係する”とは、生体内で起こる“特定の生体活動に関係する吸収帯”を意味し、本実施例または応用例では前記吸収帯の波長を含む電磁波(光)を生体内へ照射して生体活動を制御する。またここでいう“吸収帯”は、生体内で特定の生体活動が生じた時に発生する吸収帯を示し、特定な生体活動時の特定原子の振動(または振動モードの励起)に関係する。そして上記[A]の特徴と下記に記載する特徴のいずれか一つまたは複数との組み合わせに拠り、生体活動の制御を行う。
B]生体内の特定領域の温度を局所的に上げて、生体内の触媒作用を含めた生体反応を促進させる
… 環境温度の上昇に応じて生体内の触媒作用を含めた生体反応の反応速度が向上する傾向にある。
従来の体全体を暖めたり冷やしたりする治療方法や体全体に広がる薬物の投与では、望ましい生体反応を促進させると同時に望ましくない生体反応も促進されて副作用が発生する場合がある。それに比べて本実施例/応用例では生体活動検出/制御用電磁波(光)608を集光させるので“ 非常に狭い領域のみの温度を局所的に上げられる”ため、希望
しない生体反応を促進し辛いので副作用が起きにくいという効果がある。
この方法において、特定領域の温度を局所的に上げるには“ 水分子を振動 ”させるのが最も効率がよい。したがってこの方法を利用する時の照射光の波長として、“ 水分子
が吸収し易い波長 ”を選択するのが望ましい。すなわちこの場合に望ましい波長範囲は
、図56に示すように下記の通りとなる。
○0.943μm以上で1.028μm以下の範囲
○1.394μm以上で1.523μm以下の範囲
○1.894μm以上で2.061μm以下の範囲
上記のように水分子に熱を吸収させるだけで無く、13.2節で後述するように『特定の生体活動をする部位に選択的に熱を吸収』させてもよい。
C]生体内の触媒作用を含めた特定の生体反応を阻害して生体活動の制御を行う
… 11.4節で説明した“ 骨格筋の収縮動作を阻害して、骨格筋の弛緩状態を保持
する ”のが、上記特徴を利用した一例となる。
D]生体内で発生する一時的な分子間結合を阻害し、化学的な信号伝達経路を遮断する
… 具体的には生体内の信号伝達物質のリガンドと受容体間の一時的な結合を阻害して
生体内での化学的な信号伝達経路を遮断する。
具体的な一例として、生体活動の制御により“ 花粉症を軽症化 ”する方法に付いて説明する。
花粉が鼻の粘膜細胞に付着すると、その粘膜細胞からリガンドであるヒスタミンが放出され、さらにその放出されたヒスタミンが別の細胞表面上のヒスタミン受容体に結合することで花粉症の色々な症状が発症する。ここでヒスタミンがヒスタミン受容体に結合した時にN−H…O間の水素結合が生じると考えられる。したがって11.4節で説明したように前記水素結合時に発生する振動モードを励起させる光を照射(具体的にはこの励起光に合った波長を持った光を発光する発光ダイオードをマスク内に装着)することで、ヒスタミンとヒスタミン受容体間の結合を阻害して花粉症を軽症化する。
他の応用例として、4章で説明した原理を利用してリガンドの一種のアセチルコリンとその阻害効果を持つコリンエステラーゼとの結合を阻止して、体内でのアセチルコリンの効き目を向上させる方法もある。
E]生体内部で拮抗する反応(互いに反対方向に作用する2反応)の一方を阻害または促進させる
… この特徴を主に利用する方法は、13章で説明する。
F]生体を構成する分子構造体の特性を変化させる
… ここでいう“特性”とは
F1)分子構造体の強度、F2)分子構造体の形状、F3)分子構造体内の局所的な構造(破壊含む)のいずれかの特性変化を意味する。
“F2)分子構造体の形状”に関して言えば、特定波長光の照射により酵素の立体構造を変化させることで、その触媒作用を活性状態と不活性状態に切り替える。
また“F3)分子構造体内の局所的な構造(破壊含む)”の一例として、図52と図53を用いて9.3節で説明した方法で体内の神経回路網の繋がりを把握した後、不要な神経回路を形成する軸索部に高強度の生体活動検出/制御用電磁波(光)608を集光させ、そこで発生した熱を利用して軸索を破壊(焼き切る)ことができる。
従来生体活動の検出に使われているfMRI装置は非常に高価なため、簡単に検出/
測定するのが難しい。それに比べて“A]電磁波(光)の照射により生体内の特定原子を振動(または振動モードを励起)させる”のに必要な装置は図66に示すように非常に安価に作れるため、誰でも簡単に生体活動の検出/測定と制御が行える。特に本実施例または応用例では“生体活動検出/制御用電磁波(光)608を集光させることで高い空間分解能を持って生体内の局所的な特定場所のみの生体活動の制御”ができるだけでなく、照射する電磁波(光)の波長選択性を使用することで“特定の生体活動に対してのみ選択的に制御が可能”という技術的意義がある。特に11.4節で説明したように生体活動時に(一時的に)発生する吸収帯の波長値の違いで生体内反応時に(一時的に発生する)結合に関与する分子が異なるので、制御対象となる生体活動に対する波長選択性が非常に高い。それにより他の生体活動への影響が少なく、制御による副作用が起き辛い効果が生まれる。
この技術的意義に付いて、“F3)分子構造体内の局所的な構造(破壊含む)の変化
”を制御させる一例を選び以下に説明する。B.Alberts他:細胞の分子生物学 第4版(Newton Press,2007年)5章および17章に拠ると、遺伝子転
写時にDNAリカーゼが活動し、有糸分裂時に活発な染色体移動が起きる。そしてこのDNAリカーゼの移動や染色体移動時に11.3節で説明したATPの加水分解反応が発生し、その時に11.4節で説明した波長での光吸収が起こると考えられる。特に癌細胞では上記のDNAリカーゼ移動と染色体移動が活発に起こるため、他の細胞と比べてATP加水分解に対応した吸収帯の中心波長を持った光(電磁波)を特に多量に吸収する。したがってこの波長を持った光(電磁波)を強く照射すると、周囲の正常細胞に比べて癌細胞だけが特に多量にこの光(電磁波)を吸収し、癌細胞だけが選択的に高温となって破壊される。ここでもし体全身に強い光(電磁波)を浴びると、特に収縮中の骨格筋も破壊される恐れがある。しかし図66に示した生体活動制御装置は非常に高い空間分解能を持って局所領域のみを照射できるので、不要な部位を誤って破壊する危険性は無い。この方法と薬物投与を組み合わせる方法に付いては、13.2節で後述する。
ところで、前述した“F1)分子構造体の強度を変化”させて生体活動の制御を行う
具体的方法として、電圧依存性イオンチャネルのゲート開閉制御に付いて次節で説明する。
12.3)イオンチャンネルの分子構造とゲート開閉制御方法
図2に示した電位依存性Naイオンチャネル11は図1の神経細胞体1内にも存在し、特に神経細胞体1内の軸索2の付け根近くに多く分布していると言われている。1.2節ではこの電位依存性Naイオンチャネル11の働きを説明するために分かり易い比喩を用いたので、図2に示した図は必ずしも実際の電位依存性Naイオンチャネル11構造を示してはいない。B.Hille:Ion Channels of Excita
ble Membranes 3rd Edition (Sinauer Assoc
iates, Inc., 2001) p.110, Plate 7に電圧依存性イオンチャネルのモデルが記載されており、そのモデルの抜粋を簡素化した構造を図68(a)に示す。ここで図2を用いて1.2節で説明した電位依存性Naイオンチャネル11の“蓋(ゲート)”および“正電荷部”のそれぞれは、図68(a)のゲート615および荷電部616のそれぞれに対応する。
ところで図68(a)が示すように、神経細胞内の細胞質側612と神経細胞の外側に位置する細胞膜の外側611との間を仕切る細胞膜613内にイオンチャネルが埋め込まれている。このイオンチャンネルはアミノ酸が連結して構成する蛋白質でできている。そして図68(b)が示すように蛋白質内では、2個の炭素原子Cと1個の窒素原子とから構成される原子配列が繰り返されてアミノ酸主鎖623を形成する。特に1本のアミノ酸主鎖623線上にある炭素原子Cと二重結合している酸素原子と隣に配置されたアミノ酸主鎖623線上にある窒素原子と共有結合している水素原子との間で水素結合部621を形成する結果、アミノ酸主鎖623が螺旋状の立体構造となるαヘリックス構造を蛋白質の一部が取る場合がある。
ここでアミノ酸残基を図68(b)では“R”で示す。そして図68(a)、(c)および(d)では、蛋白質内でこのαヘリックス構造を持った部分を“円柱”で表現し、各円柱部分にα、β、γそしてδと記号を付ける。ところで1個の水素結合部621自体の結合力はそれ程強くないが、前記αヘリックス構造内の水素結合部621の数が多いため全体の結合力が強くなり、αヘリックス構造を持った円柱部分は非常に強い機械的強度(曲げ応力)を持つ。
図68(a)が示すように静止時にはαおよびβの円柱部分の先端部が閉じて、ゲート615が閉じた状態となる。この静止時でも、[1]細胞質側612と比べて細胞膜の外側611が遙かにイオン濃度が高い、[2]細胞膜613内で電位勾配(波線矢印)を持
つとの理由から正電荷を持ったイオンが細胞質側612に入り込もうとする。しかし上述した円柱部分αおよびβの機械的強度が、その正イオンの流入力を阻止している。また円柱部分αおよびβにそれぞれ連結された円柱部分γおよびδの内部では、アミノ酸残基622に“正電荷”を持った残基が結合されて電荷部616を構成する。この正電荷を持った残基としては、リシン残基かアルギニン残基が予想される。生体内の水環境(pH7近傍)ではヒスチジン残基の正電荷量は微量なため、ヒスチジン残基が寄与するとは考え辛い。
そして静止時には細胞膜613内では波線矢印で示した電位勾配により発生する電場からの静電力で、この荷電部616は細胞質側612に最も近付く場所へ移動する。そして荷電部616の移動により円柱部分γおよびδがねじれて、割れ目614の隙間が広がる。この割れ目614の広がり力が円柱部分αおよびβに伝わって、ゲート615を閉じる力として働くと考えられる。ここで細胞膜613の細胞膜の外側611の表面上に正電荷が溜まり細胞質側612に負電荷が溜まって電位勾配が生じる状況を“分極状態”と呼ぶ。
一方 図68(c)が示すように脱分極状態になって電位勾配が低下すると、静電気力
による荷電部616を細胞質側612に近付ける力が弱まる。すると円柱部分γおよびδのねじれ力が弱まって荷電部616を正規の位置に戻すと共に割れ目614内の隙間が縮まる。そして円柱部分αおよびβが連動して、ゲート615が開く。ゲート615が開くと細胞膜の外側611からNaイオンが細胞質側612に流入して“神経細胞の発火”または“軸索中の信号伝達”が起きる。ここまでの内容は従来から知られている。
それに対して本実施例では静止時に『このイオンチャネルに特定波長の電磁波(光)
を含む電磁波(光)を照射し、円柱部分αおよびβの機械的強度を変化させてゲート615の開閉を制御する』所に特徴がある。本実施例では12.2節で説明したように、[1]生体活動制御装置が安価なため、誰でも簡単に検出/制御が行える、[2]高い空間分解能を持って制御対象部位以外への悪影響を及ぼし難い、[3]波長選択性により他の生体活動に悪影響を及ぼし辛いという効果がある。
前述したようにゲート615の開閉を確実に行うために不可欠な円柱部分αおよびβの機械的強度は、図68(b)内で示された水素結合の結合力により保たれている。このC=O…H−Nタイプの水素結合内で起きる振動モードを励起する電磁波(光)を照射する所に本実施例の特徴がある。励起状態の振動エネルギーが非常に高いため、励起状態の水素結合部621では[1]水素結合力が大幅に弱まるか、[2]水素結合が切れる現象が起きる。その結果として円柱部分αおよびβの機械的強度が大幅に低下して正イオンの細胞質側612の流入力を抑え切れず、図68(d)のようにゲート615が開く。
ここまでは外部電場の併用無しに電磁場(光)照射のみで神経細胞の発火を亢進させる方法に付いて説明した。この応用例として、電磁場(光)照射と併用する外部電場印加のサポートにより一層の高精度で細かく神経細胞の発火や軸索内の信号伝達を制御できる。すなわち図68(a)の分極状態でイオンチャネルのゲート615が閉じて図68(c)の脱分極状態でイオンチャネルのゲート615が開くが、外部から強電場を与えて特定のイオンチャネルに対して分極と脱分極との中間状態(ゲート615が開く直前の電場強度)に設定する。するとこの中間状態にあるイオンチャネルは、円柱部分αおよびβのわずかな機械的強度変化(強度低下)でゲート615が開く。
外部から強電場を与える方法は、図66に示した生体活動制御装置内での高電圧高周波発生用電源602を駆動して電極端子(板)601-1と601-2との間に一時的に高電圧を掛ける。外部電場印加のサポートにより照射する電磁場(光)の光量を大幅に低下で
きるため、生体活動制御による副作用の発生を一層軽減できるばかりでなく、強い電磁場(光)の照射によるイオンチャネルの破壊リスクを低減できる。そのため、外部電場印加のサポートにより生体活動制御時の安全性を大幅に向上できる効果がある。
12.4)生体活動制御特性
イオンチャネルのゲート615開閉による神経細胞の発火制御または軸索内の信号伝達制御のために照射する電磁場(光)に適した波長範囲について説明する。12.3節で説明したように、この場合にはC=O…H−Nタイプの水素結合内で起きる振動モードを励起する必要がある。そしてそのタイプの振動モード励起には、表7の“第2級アミド−CONH−の水素結合部の振動”の行が比較的近い。したがって4.7節あるいは11.4節に示すように測定誤差や測定環境により生じる検出値のずれによるばらつき範囲を±1.5割と見積もると、
1.53×(1−0.15)=1.30、1.67×(1+0.15)=1.92、1.04×(1−0.15)=0.88、1.12×(1+0.15)=1.29となる。したがって以上をまとめると
○第1倍音に対応した吸収帯の波長範囲は、1.30μmから1.92μmの間、
○第2倍音に対応した吸収帯の波長範囲は、0.88μmから1.29μmの間
となる。このように得られた上記範囲に対し、図56に示した水分子に大きく吸収される範囲を除去した残りの範囲は、図56に示すように
○第2倍音に対応した吸収帯の波長範囲は、0.88μmから0.94μmの間および1.03μmから1.29μmの間、
○第1倍音に対応した吸収帯の波長範囲は、1.52μmから1.89μmの間、
で与えられる。しかし上述した範囲はあくまでも第n倍音の検出範囲しか示して無い。しかし近赤外領域では結合音に対応した吸収帯も含まれる。したがって結合音を検出する波長範囲も考慮に入れると、図56に示した水の吸収が少ない第1、第2、第3、第4そして第5の波長範囲I〜Vが対象範囲となる。さらにそれに限らず結合音での吸収帯の吸収量が大きく前記水の吸収の影響を余り受けない場合には、望ましい波長範囲は4.7節に示すように0.84μm(あるいは0.875μm)から2.50μmの範囲となる。
αヘリックスの機械的強度を低下させて生体活動の制御を行う具体例として、12.3節ではイオンチャネル内のゲートの開閉制御に付いて説明した。しかしそれに限らず、応用例として他のαヘリックスの機械的強度を低下させて生体活動の制御を行ってもよい。例えば11.1節で説明したように、骨格筋の中にミオシンが含まれている。そしてこのミオシンの立体構造内にαヘリックスが含まれ、骨格筋収縮時の機械的強度を確保している。したがって骨格筋の収縮時に上述した範囲に含まれる波長光を照射してαヘリックスの機械的強度を低下させることで、筋肉の収縮力を弱めてもよい。
12.5)神経細胞の発火抑制制御
12.3節では、分極状態で電圧依存性Naイオンチャネルのゲート615を開いて発火を亢進させる方法に付いて説明した。本節では、逆に神経細胞の発火を抑制する制御方法に付いて説明する。1.3節で説明したように、シナプス間隙に神経伝達物質が放出されると伝達物質依存性Naイオンチャネルのゲートが開いて脱分極電位22まで達すると、電位依存性Na+イオンチャンネル11の蓋(ゲート)が開いて発火現象が起こる。
このように発火を亢進させる神経伝達物質は興奮性神経伝達物質と呼ばれ、具体的物質名としてはグルタミン酸またはアセチルコリンが対応する。一方その反対に発火を抑制する神経伝達物質は抑制性神経伝達物質と呼ばれ、GABAやグリシンがそれに該当する。
またこの抑制性神経伝達物質を受容するイオンチャネルとしては伝達物質依存性Clイオンチャネルが該当し、これにGABAやグリシンが結合すると塩素イオンClを透過させるゲートが開く。そしてこのClイオンが細胞質側612に流入すると細胞膜613内の電位勾配が上昇する過分極状態が発生する。この過分極状態では細胞膜613内の電位勾配が上昇するため、電圧依存性Naイオンチャネルのゲート615は開き辛くなる。
したがって本応用例では、(抑制性神経伝達物質が放出されない状態において)特定波長を含む電磁波(光)を上記伝達物質依存性Clイオンチャネルにのみ照射してClイオンのゲートを開いて過分極状態を作り、神経細胞の発火を抑制する所に大きな特徴がある。
伝達物質依存性Clイオンチャネル構造は、12.3節で説明した電位依存性Naイオンチャネル11の構造とは大きく異なる。しかし説明の簡素化を目的として、図68を用いて本応用例の動作原理のイメージのみを説明する。伝達物質依存性Clイオンチャネルの基本動作のイメージは以下の通りとなる。すなわち抑制性神経伝達物質が細胞膜の外側611に面した円柱部分γおよびδの一部と結合すると、この円柱部分γおよびδの形状変化をきっかけに円柱部分αおよびβの配置を変えてゲート615を開く。したがって従来は抑制性神経伝達物質が結合しなければゲート615が開いてClイオンの流入は起きない。
それに対して本応用例では抑制性神経伝達物質の結合無しにゲート615を開くことが可能となる。すなわち本応用例では特定波長を含む電磁波(光)をこの伝達物質依存性Clイオンチャネルのみに照射すると、図68(b)を用いて12.3節で説明したように円柱部分α〜δの機械的強度が低下する。その結果、図68(d)に示すようにClイオンの流入圧力を利用して細胞質側612へ流入させることが可能となる。
ここにおいて図66に示すように本応用例を実現する生体活動制御装置では、対物レンズ31を利用して検出/制御対象となる生命体の一部600の仲の生体活動検出場所(被測定点)30の一点に生体活動検出/制御用電磁波608を集光できるので、伝達物質依存性Clイオンチャネルのみに特定波長を含む電磁波(光)(生体活動検出/制御用電磁波608)を照射できる。このように図66に示す生体活動制御装置が高い空間分解能を持つため、選択的に伝達物質依存性Clイオンチャネルのみを制御するという高い制御精度および高信頼性が確保できる。
ところで本応用例において制御前に伝達物質依存性Clイオンチャネルの場所の同定作業が必要となる。それには制御前の事前の生体活動検出操作を行う。本応用例における事前の伝達物質依存性Clイオンチャネルの場所の同定は、
(1)神経細胞形状から抑制性神経伝達物質を放出する神経細胞の探索 および
(2)神経細胞網内の信号伝達経路を探索して伝達物質依存性Clイオンチャネルの場所の探索
の少なくともいずれか一方により行われる。
まず始めに上記(1)に関係した事前探索方法を説明する。前述した興奮性神経伝達物質は主に錐体細胞(細胞体が比較的大きく錐体形状を持つ神経細胞)から放出される場合が多く、抑制性神経伝達物質は顆粒細胞などの星状細胞(細胞体が比較的小さく樹状突起が比較的均一な放射状に延びている神経細胞)から放出される場合が多い。したがって図66に示した生体活動検出場所の位置検出用モニター部432を用いて信号源となる抑制性細胞を探し、そこから出る軸索が延びる状況をトレースして伝達物質依存性Clイオンチャネルの場所を探すことができる。
次に上記(2)に関係した事前探索方法を説明する。まず被験者の特定な意識条件下で図52、図53を用いて9.3.1節で説明した方法で神経伝達網内での信号伝達経路を探索し、意識として抑制的に働いている時のシナプスボタン(シナプス小頭)の位置を抽出する。そしてその該当するシナプスボタン(シナプス小頭)の位置に多数の伝達物質依存性Clイオンチャネルが分布していると想定する。
本応用例は、老人の認知症対策にも応用できる。上述した錐体細胞は大きな細胞体サ
イズを持ち、比較的劣悪な環境下でも生存し易い。それに比べて顆粒細胞などの星状細胞は細胞体サイズも比較的小さく、劣悪な環境下では容易に死滅し易い。そのため高齢に達すると粗暴になる等の認知症障害を発症し易い。本応用例の応用例は、『伝達物質依存性Clイオンチャネルを刺激することで星状細胞を活性化して延命させることで認知症の進行を食い止める』所に特徴がある。
古市貞一:脳科学5 分子・細胞・シナプスからみる脳(東京大学出版会、2008年)p.215 図7.7によると、伝達物質依存性Clイオンチャネルなどの受容体側が活性化(特定の動作)すると、受容体側のシナプス後細胞から(星状細胞などの)シナプス前細胞へ向けた逆方向に(eCB(endocannabinoid)などの)神経伝達物質が伝達される。そしてこの逆方向の神経伝達物質の受容をきっかけに星状細胞が活性化して延命させられる可能性がある。したがって本応用例の応用例に拠ると、上述した方法で伝達物質依存性Clイオンチャネルのゲートを頻繁に開き、その元にある星状細胞が活性化して延命させる。それにより認知症の進行を食い止める効果が生まれる。
13〕細胞内部での生体活動検出と制御
13.1)細胞内部での生体活動の概観
生体内部での動的な生体活動に対する非接触手段による検出や測定あるいは制御方法に関して1章〜5章、11章および12章では、主に1個の細胞全体の活動または複数の細胞から構成される局所領域での活動の検出/測定や制御に付いて説明した。13章では、1個の細胞内での生体活動に対する検出/測定や制御に付いて説明する。
B.Alberts他:細胞の分子生物学 第4版(Newton Press,20
07年)15章のFig.15−16に記載された細胞内信号伝達経路図を基に、信号伝達を中心とした1個の細胞内部での生体活動連鎖の状態説明図を図69に示す。実際の細胞内信号伝達経路は非常に複雑だが、説明のために大幅に簡素化して図示している。1個の細胞の表面(細胞膜613上)には、外部からの信号を伝達する信号伝達物質を受容する各種の受容体A701、B702が配置されている。そして外部からの信号伝達物質がどの受容体(受容体A701および受容体B702のうちいずれか)と結合するかに拠って細胞内で異なる細胞内信号伝達カスケードA703/B704が発生する。そして細胞内信号伝達カスケードA703の先が、細胞内に存在する高分子(主に蛋白質)を燐酸化させる反応連鎖を意味する燐酸化カスケード711に繋がる場合が多い。
しかしそれに限らず、外部からの信号伝達物質の受容体A701への結合が直接燐酸化反応カスケード711に繋がる場合もある。また逆に燐酸化された高分子(主に蛋白質)から燐酸基を奪う脱燐酸化反応712も細胞内で存在し、結果としてこの脱燐酸化反応712が前述した燐酸化反応カスケード711に対する阻害作用713を引き起こす場合がある。ここで自発的に起きる場合以外に前記脱燐酸化反応712は、細胞内信号伝達カスケードB704の発生に拠って活性化される場合もある。そしてこの燐酸化反応カスケード711が起こる結果、例えば細胞外への新たな信号伝達物質の分泌、細胞分裂/細胞死
を意味するアポトーシスあるいは細胞形状変化特定細胞機能の発揮723が発生する場合がある。またそれとは別の経路として、燐酸化反応カスケード711が遺伝子発現721である細胞核内の遺伝子からmRNAへの転写を引き起こす場合もある。そしてここで転写されたmRNAからの情報翻訳により蛋白質合成722が生じ、その結果として特定細胞機能の発揮723が起きる場合もある。
いずれの経路においても燐酸化反応カスケード711が特定細胞機能を発揮723させるきっかけになる場合が多く、細胞内の活動活性化および“燐酸化反応”の頻度には比較的相関がある。したがって、細胞内の燐酸化反応の頻度を細胞内の活性化を図る1つの指標とみなす考え方もある。13.1節では公知例として知られている1個の細胞内部での生体活動連鎖を概説したが、次節からその具体的内容に絡めて本実施例内容に付いて説明する。
13.2)相反する生体活動に対する検出方法と制御方法の考え方
本実施例における生体活動の制御方法の大きな特徴は12.2節で説明した
A]特定の生体活動に関係する電磁波を照射して生体活動の制御をする
にあり、この基本的特徴を細胞内部での生体活動の検出および制御に適用する方法は
○特定波長の電磁波を含んだ電磁波を照射し、生体内部での生体活動連鎖の一部の活動状況を検出する
○特定波長の電磁波を含んだ電磁波を照射し、生体内部での生体活動連鎖の一部の活性度または連鎖反応の効率を変化させて細胞内の生体活動を制御する
所にある。具体的に本実施例または応用例で検出または制御する対象部分を、図69を用いて説明する。まず始めに、細胞内信号伝達カスケードA703/B704の一部の反応を検出または制御する方法がある。
次に13.4節および13.6節において後述するように、燐酸化反応カスケード711の一部の燐酸化反応を検出して該当する細胞の活性化状況を評価(数値化)できる。また同じ波長を含んだ電磁波(光)を利用して燐酸化反応の効率を変化させることもできる。すなわち本実施例では13.6節で後述する方法で燐酸化反応の効率を低下させて細胞内の活動活性化を妨げることが可能となる。一方13.5節および13.6節において後述するように、脱燐酸化反応712の頻度を検出して細胞内の活性化抑制度の評価(数値化)も可能となる。また特定波長を含んだ電磁波(光)を照射して脱燐酸化反応712効率を低下させて燐酸化反応カスケード711の阻害作用713を抑制すると、燐酸化反応カスケード711を活性化させて細胞内の活動活性化を促進することも可能となる。
それ以外の反応の検出または制御対象として蛋白質合成(mRNAの翻訳)722反応の一部を検出または制御してもよい。B.Alberts他:細胞の分子生物学 第4版(Newton Press,2007年)6章のFig.15−16に記載されるように、図69内の遺伝子発現721の反応により遺伝子情報が転写されて作成されたmRNAの先端部には、正電荷を持つ7−メチルグアノシンヌクレオチドからなる“キャップ”が形成されている。そして開始tRNAおよび開始因子と結合したリボソームの小サブユニットがこのキャップ位置を検出して蛋白質合成(mRNAの翻訳)722が開始される。
この蛋白質合成(mRNAの翻訳)722の開始位置検出のために、一時的に前記キャップ内のメチル基が前記小サブユニット側と水素結合すると予想される。この時の水素結合形態は、3.2節で説明した水素結合部−N(CHClのCl部をカルボキシル基に置換した−N(CHOC−と予想され、独自な水素結合形態を持つ。したがって11.4節で説明した理由から、前記の独自な水素結合形態に対応した固有な
吸収帯が発生する。それによりその固有な吸収帯の波長での電磁波(光)吸収量の変化を検出することで、蛋白質合成(mRNAの翻訳)722の開始反応を検出できる。またこの独自な水素結合形態に対応した構成原子(主に水素原子)の振動モードの励起光に対応した波長の光を照射すると、光励起により蛋白質合成(mRNAの翻訳)722の開始位置検出が阻害されると予想できる。したがって前記励起光を照射し続ける間は、蛋白質合成722(mRNAの翻訳)を停止制御できる。
図69を用いて、外部からの信号を伝達する信号伝達物質を受容体A701/B702が受容する説明を行った。ところでこの外部からの信号を伝達する信号伝達物質の中でステロイドホルモン、甲状腺ホルモン、レチノイドやビタミンDなど小形で疎水性の高い信号伝達物質だけは細胞膜613内を拡散して細胞内に入り込み、図69で示した細胞内の生体活動に直接影響を及ぼすことができる。しかし大部分の信号伝達物質は親水性のため、細胞膜613に遮断されて直接細胞内に入り込めない。
したがって従来の生体活動制御の一つである治療を目的とした薬物投与の場合、投与された多くの薬物が細胞膜613を通過して直接細胞内に入り込む代わりに受容体A701/B702に働き掛けて細胞内の生体活動を亢進/抑制する働きをする。そのため多くの薬物療法では生体活動制御に限界があるばかりでなく、予定外の生体活動を引き起こす結果として副作用を発生させる危険が大きい。
それに比べて本実施例または応用例に示すように(近赤外光などの)電磁波(光)は細胞膜613を透過して直接細胞内への侵入が可能なだけでなく、波長選択性を利用して特定の生体活動に対して選択的に作用または検出できる。したがって本実施例または応用例は、従来の薬物療法に比べて生体活動の制御効率が向上するという効果が生まれる。
さらに本実施例では生体活動状況をリアルタイムで検出して制御にフィードバックできる(すなわち生体活動制御の効果を実時間で確認しながら制御できる)ため、生体活動の検出を併用することで制御効率が上がる。
しかし本応用例では特定波長を含む電磁波照射のみによる生体活動制御に限らず、薬物投与と併用して生体活動の制御効果向上および安全性向上を図ってもよい。この応用例に付いて下記に説明する。近年、分子標的治療薬の利用により癌治療に効果が上がっている。前述した受容体A701の一種で酵素連結型受容体と呼ばれる受容体の中に受容体チロシンキナーゼがある。これに外部からの信号を伝達する信号伝達物質の増殖因子などが結合すると、燐酸化反応カスケード711の開始プロセスに相当する自己燐酸化が起こる。その結果、特定細胞機能の発揮723の一形態である細胞増殖機能が亢進される。
また同時に燐酸化反応カスケード711の反応が活性化されて細胞核内の転写因子の活性化に繋がり癌細胞の増殖・浸潤・転移などの作用を促進すると言われている。そして前述した分子標的治療薬は、この受容体チロシンキナーゼに結合して燐酸化反応カスケード711の活動を阻害する。さらにこの分子標的治療薬にモノクロナール抗体薬を使った場合、この癌細胞を自動的に認識して貧食する作用も持つ。しかしこの分子標的治療薬も前述したように直接細胞内に入り込んだ作用はできず、細胞膜表面に存在する受容体チロシンキナーゼに働き掛けるしか手段は無い。当然この受容体チロシンキナーゼは“癌細胞を作る”ためだけに存在してないので、受容体チロシンキナーゼの活動を阻害すれば不要な副作用を併発する。このような現状の問題点に対して本応用例を併用して『分子標的治療薬を癌細胞のみに作用させる』ことが可能となる。この場合には分子標的治療薬と同様に受容体チロシンキナーゼの自己燐酸化反応を検出して『癌細胞の識別』に利用してもよい。
この時には後に13.4節および13.6節で説明するように燐酸化反応時に発生する独自の吸収帯を検出する。一方この燐酸化反応場所の検出の代わりに11.3節、11.4節および12.2節で説明した『癌細胞内で特に活性化されるATPの加水分解反応を癌細胞の識別』に用いてもよい。癌細胞の識別にいずれの方法を利用した場合でも、12.2節で説明したようにその生体活動に対応した波長光を癌細胞が特に吸収する。その結果、周囲の正常細胞に比べて癌細胞だけが選択的に高温となる。抗体反応を含めた多くの生体反応は、周囲の環境温度上昇にしたがって活性化される特徴がある。
したがって前述した分子標的治療薬の抗体反応(貧食作用)を高温環境内で亢進させると、高温となった癌細胞に集中的に分子標的治療薬が働き掛ける事になる。したがって分子標的治療薬と本応用例とを併用することで癌細胞に対して選択的に分子標的治療薬を作用させられるため、治療効果が向上するばかりで無く、分子標的治療薬の投与量が減らせるので副作用を軽減した安全な治療方法の提供が可能となる。
本応用例と薬物療法との併用はそれに限らず、例えば鬱病の治療にも効果が期待できる。鬱病の治療には、セロトニンの再取り込みを阻害する作業機序を持つSSRIが使われる。しかしSSRIには遅効性があり、単なるセロトニンの再取り込み阻害機序だけでは効果の説明が難しい。
それに対して図69での対応を考えた場合、セロトニンの受容体A701への結合をきっかけに何らかの遺伝子発現721や蛋白質合成722が促進されて長期的な神経細胞内の活性化が進むとみなすと、上記SSRIの遅効性を説明できる。したがって鬱病患者にSSRIを投与すると、セロトニンとセロトニン受容体A701との間の結合持続性が保たれて長期に亘り細胞内信号伝達カスケードA703とそれに拠る燐酸化反応カスケード711とが続く。しかし従来の薬物(SSRI)投与だけの場合には、並行して脱燐酸化反応712が発生して燐酸化反応カスケード711に対する阻害作用713として働くため、SSRIのみによる神経細胞内の活性化には限界があると予想される。
その課題に対して本応用例では、薬物(SSRI)投与と並行して脱燐酸化反応712を阻害する生体活動検出/制御用電磁波608(図66)を照射する。この時に照射する生体活動検出/制御用電磁波608は、13.5節および13.6節において後述する波長光を含む必要がある。それにより燐酸化反応カスケード711に対する阻害作用713を持つ脱燐酸化反応712を阻止して燐酸化反応カスケードが活性化されるので、長期的な細胞内活性化が亢進される。このように本応用例にしたがって鬱病に対する薬物治療をサポートできるため、鬱病の治療効果が向上する。
13.3)錐体細胞内での記憶と忘却のメカニズム・モデル
1個の細胞内部での生体活動連鎖経路は実際には複雑を極めるため、図69では乱暴なほど簡素化して説明した。その結果、説明の具体性に乏しかった。13.3節では具体的な応用例として錐体細胞内の記憶と忘却との制御方法に付いて説明する。図70は図69に比べて若干具体的な記述とはなっている。しかし実際の生体内活動は遙かに複雑なため、本節での説明もかなり簡素化した乱暴な説明となっている。
まず始めに古市貞一:脳科学(5)分子・細胞・シナプスからみる脳(東京大学出版会、2008年)のp.46、図3.2およびp.219〜p.224に記載された内容を簡素化して、現在知られている錐体細胞内での記憶に関する長期増強と長期抑圧メカニズムに付いて説明する。図70が示すように、シナプス前細胞とシナプス後細胞の間にはシナプス間隙731が存在する。そしてシナプス後細胞に当たる錐体細胞のシナプス間隙731に面した部分は、樹状突起表面のスパイン735が形成されている。このスパイン上
には受容体A701として他種類の受容体が存在するが、図70ではmGluR受容体741、NMDA受容体742とAMPA受容体743に絞って説明する。
上記AMPA受容体743は12.5節で説明した伝達物質依存性イオンチャネルの一種で、シナプス前細胞からシナプス間隙731へ放出されたグルタミン酸がこれに結合734するとゲート615が開いて細胞質612へ向かってNa+イオンの流入752を起こし、神経細胞内の脱分極を促進させる。したがって錐体細胞の記憶に関する長期増強はスパイン735内のAMPA受容体743の増加が関係し、長期抑圧はAMPA受容体743の減少が関係すると言われている。一方、MNDA受容体742に対してグルタミン酸結合733が起こると同時にAMPA受容体743による脱分極が発生すると、MNDA受容体742の内部を塞いでいたMg2+イオンがシナプス間隙731側に外れてゲート615が開き、細胞質612(神経細胞内)へ向かってCa2+イオンの流入751が発生する。
そして流入するCa2+イオン濃度が低い場合748には、カルシニューリンの活性化761が起きてインヒビター1の脱燐酸化762を起こし、その結果今まで抑制していた蛋白質脱燐酸化酵素1の活性化763が起きてスパイン735上からのAMPA受容体の取り込み764反応が発生する。そしてこのスパイン735上からのAMPA受容体の取り込み764が、錐体細胞における長期的な忘却作用772に関与する。
その反対に流入するCa2+イオン濃度が高い場合747には、CaMキナーゼ(CaM Kinase)の燐酸化753をきっかけに細胞核内での遺伝子発現754によるmRNAの生成755が起こる。ここで元々カルシニューリンはCa2+イオンに対する反応感度が高いため、わずかなCa2+イオンの流入751に対しても蛋白質脱燐酸化酵素1の活性化763に繋がる連鎖反応を起こすが、相対的にこの連鎖反応の頻度は低い。逆にCa2+イオンに対するCaMキナーゼの燐酸化753の反応感度が低い代わりに、一度反応を開始すると反応頻度が高いため、Ca2+イオン濃度の高低の違い747/748であたかも信号伝達経路が切り替わるように見える。
次にmGluR受容体741にグルタミン酸結合732が起きると、PI(3,4,5)Pの生成750をきっかけに燐酸化カスケード758を経て蛋白キナーゼBを活性化758させる。そしてこの蛋白キナーゼの活性化758によりmRNAの翻訳756が開始され、AMPA受容体743が生成される。そしてここで生成されたAMPA受容体743がスパイン735上に挿入757され、錐体細胞の記憶作用771に貢献する。
上記公知なメカニズム・モデルに対して、本実施例では図66に示す生体制御装置を用いて生体活動検出/制御用電磁波608を局所的に照射すると共に外部から電場を掛けて(高電圧印加により)、長期記憶または長期的な忘却に関する制御を行う。本実施例における制御対象724として、図70に示した記憶作用および忘却作用のメカニズム・モデルの中で共通的にNMDA受容体742に対して外部から操作を加える。そして本実施例の長期記憶制御に対しては、カルシニューリンの活性化761を阻害する。
一方本実施例の長期的な忘却制御に対しては、燐酸化反応を阻止することでCaMキナーゼの燐酸化753、燐酸化カスケード758または蛋白キナーゼBの活性化759のいずれかを停止させる。始めに具体的な長期記憶制御方法を図71(a)に示す。説明の便宜上S81からS84の繋がりで記載したが、それに限らずS81からS84を同時に行ってもよい。まず始めの外部電場の形成過程S81では、図66に示す高電圧高周波発生用電源602を動かして電極端子(板)601-1と-2との間に高電圧を加えて検出/制御対象となる生命体の一部(被験者の頭部など)600に外部電場を与える。これにより図70内NMDA受容体74を脱分極状態にする。次の記憶情報の入力S82とは、被験
者に対して映像を見せる、音声を聞かせるあるいは文字を読ませるなどして記憶させるべき情報を入力する。そして上記操作により、被験者内の神経回路網内の一部が一時的に活性化する。その結果、長期記憶に関係したシナプス間隙731内にグルタミン酸が放出されてNMDA受容体742にグルタミン酸が結合733する。もしNMDA受容体74に対して充分大きな電場を与えている場合には、上記入力された記憶情報に関係した神経細胞内全てのNMDA受容体74内でMg2+イオンの離脱を起こすことができる。
しかし記憶情報の入力S82時に記憶に関係する神経細胞以外の経路内でもグルタミン酸の放出がなされている場合がある。したがって本実施例では最低限必要な神経細胞内のみの長期記録制御を行うため、外部電場の形成と生体活動検出/制御用電磁波608の照射とを組み合わせて、特定のNMDA受容体74のみだけCaイオンの流入751をさせる。すなわち電極端子(板)601-1と-2との間に印加する高電圧値を低く抑えて、外部電場の形成S81と記憶情報の入力S82が重なってもNMDA受容体74内でMg2+イオンの離脱が起きないように制御する。そしてこの状況を保持しながら、長期記憶の制御をしたい神経細胞に対してのみ選択的に生体活動検出/制御用電磁波608(図66)を照射する。そして図68(d)を用いて12.3節および12.4節あるいは12.5節で説明したように、NMDA受容体742内のαヘリックスの機械的強度を低下させるS83のに適正な波長を持った電磁波(近赤外光)が生体活動検出/制御用電磁波608内に含まれている必要がある。そしてこの時のCa2+の流入751の量(図70)が少ない場合748でも安定に記憶制御ができるように、次の段階では脱燐酸化経路の阻害S84を行う。それには13.5節および13.6節で後述する波長を含む生体活動検出/制御用電磁波608(図66)を照射して、図70に示すカルシニューリンの活性化761を阻害する。
ところで図66に示す生体活動制御装置では1個の発光部111しか記載されてないが、本実施例に対応した生体活動制御装置は複数個の発光部111を持ち、同一の生体活動検出場所(被測定点)30に対して重ねて照射できる構造となっている。また前述した記憶情報の入力S82により記憶制御したい神経細胞に関するmGluR受容体741でもグルタミン酸結合732が起きるので、図70におけるAMPA受容体743に関するmRNAの翻訳756が実行される。このような方法により長期記憶が形成された後、被験者に対して確認S85の実験を行う。そしてもし長期記憶が形成されてない場合には、設定条件を変えて上記S81からS85までの操作を繰り返す。
次に具体的な長期的な忘却制御方法を図71(b)に示す。説明の便宜上S91からS94の繋がりで記載したが、それに限らずS91からS94を同時に行ってもよい。図70に示すように、錐体細胞内で忘却作用772を起こすために錐体細胞内にCaイオンを流入751させる必要がある。そのための第1ステップである外部電場の形成過程S91では、図66に示す高電圧高周波発生用電源602を動かして電極端子(板)601-
1と-2との間に高電圧を加えて検出/制御対象となる生命体の一部(被験者の頭部など
)600に外部電場を与える。これにより図70内NMDA受容体74をわずかに脱分極状態にする。
次の記憶情報の想起S92とは、被験者が消したい(長期的に忘れてしまいたい)記憶を再度思い起こしてもらう。それにより、忘却したい記憶に関する神経伝達経路上にある神経細胞を活性化させる。もし外部電場の形成過程S91で与える外部電場の強度が強い場合には、NMDA受容体74に対して充分大きな脱分極電位を与える事になる。そのためこの状態で記憶情報の想起S92を行うと、神経細胞に拠る情報伝達網内における記憶情報の想起に関係する神経細胞のNMDA受容体742にグルタミン酸結合733(図70)が起きる結果、NMDA受容体742内でMg2+イオンの離脱によるCa2+イオンの流入751が起こる。そして記憶情報の想起S92に関わる全ての錐体細胞内にCa
2+イオンが流入751すると、特に忘却しては困る重要な記憶までも消去するリスクが高まる。
したがって不要箇所(忘れては困る信号伝達経路)に対しする忘却制御を防止するため、本応用例では外部電場の形成過程S91で与える外部電場の強度を弱く設定する。そしてこの外部電場の形成過程S91だけではNMDA受容体74がそれ程大きく脱分極状態にならないように制御し、記憶情報の想起S92が起きてもNMDA受容体742内でのMg2+イオンの離脱によるCa2+イオンの流入751を防いでおく。この状態において図66に示す生体活動検出/制御用電磁波608を、長期の忘却制御をしたい神経細胞に対してのみ選択的に照射する。
その結果、図68(d)を用いて12.3節および12.4節または12.5節で説明したように、特定のNMDA受容体742に対してのみαヘリックスの機械的強度を低下させるS93。このようにして特定の神経細胞内のみにCa2+イオンを流入751(図70)させる。この時に流入したCa2+イオン濃度が高い場合747でも安定して忘却制御ができるように、13.4節および13.6節において後述する波長を含んだ生体活動検出/制御用電磁波608(図66)を同時に照射する。これにより燐酸化経路(図70における燐酸化カスケード758、蛋白キナーゼBの活性化759あるいはCaMキナーゼの燐酸化753のいずれかの経路)を阻害S94し、安定に長期的な忘却制御を行う。
上述したように、本応用例で使用する生体活動制御装置(図66参照)では、NMDA受容体742内のαヘリックスの機械的強度を低下させるS93ための波長を含んだ生体活動検出/制御用電磁波608の発光部111と、燐酸化経路を阻害S94するための波長を含んだ生体活動検出/制御用電磁波608の発光部111との2種類を持ち、同一の生体活動検出場所(被測定点)30上で重ねて集光できる構造となっている。そして上記S91からS94までの一連の忘却制御が終わった段階で、S95に示した忘却状態の確認を行う。これは被験者に対する口答によるテストなどを利用する。この段階で安定に忘却制御が行われて無い場合には、S91からのS95までの制御を再度実行する。
例えば特に“記憶力の悪さに悩む学生”、“記憶力の衰えを感じる年輩者”または“
悩みが頭から離れずに困っている人”に取って、上述した“外部から記憶を制御”する技術は福音と思われるかも知れない。また例えば物事を悲観的に受け取り易い/前向きに解釈するなどの“心の傾向性”も、神経回路網内での信号伝達経路の選択傾向性との何らかの関連性が予想できる。したがって記憶の制御は、心の傾向性にも影響を及ぼし得る。しかしこの技術は病気の治療やリハビリテーションに役立ててもらい、逆に『健常者が安易にこの技術に頼る』のは望ましくない。健常者が日常的にこの技術に頼り過ぎると堕落への道へ進む危険性がある。実はこの技術を遙かに凌ぐ『記憶を制御する能力』が誰でも備わっている。したがってこの技術に頼るよりは、各自に予め備わった能力を活かして欲しいと筆者は望んでいる。その具体的方法に付いて図70を用いて以下に説明する。しかし図70は、錐体細胞内の活動の一部を抜粋したに過ぎない。実際には遙かに複雑な信号伝達経路が存在する。また脳内には錐体細胞以外の多種多様な神経細胞が存在しているので、下記方法は単なる参考情報でしか無いことを強調したい。
<記憶力を増強する方法>
○繰り返し覚える
… 繰り返すことで、徐々にスパイン735上のAMPA受容体743の量が増す。
○ 他の内容と関連付けて記憶する
… 連想記憶術のように、記憶したい情報とそれに関係する情報(例えば記憶時の周囲環境、対象情報の原因情報、語呂合わせ)とを一緒に記憶する。関連情報の意識刺激で同
一神経細胞内の別のシナプス間隙731にグルタミン酸が放出されて脱分極が発生し、NMDA受容体742内のMg2+イオンが離脱し易くなる場合がある。記憶すべき情報をイメージに変換し、イメージと一緒に記憶する方法も同様な効果が期待できる。
○ 興味や感動を持って情報に接する
… 興味や感動を持つことで同一神経細胞内の別のシナプス間隙731でグルタミン酸が放出されて部分的に脱分極が発生し、その脱分極電位が伝搬される。その結果、記憶したい情報に関連するNMDA受容体742近傍の細胞膜電位が脱分極電位に近付き、NMDA受容体742内のMg2+イオンが離脱し易くなる。
○覚える事に集中する/嫌々覚え無い
… 覚えようとした瞬間に“注意がそれる”とCa2+イオンの流入量751が低下748し、逆に忘却作用772が働く危険性がある。また記憶動作自体に嫌悪感を持つ(嫌々覚えようとする)ことで“嫌悪感の方向に注意がそれる”と、忘却作用772に働く場合がある。
○覚えた内容を一度確認して定着させた後に、別の行動に移る
… 行動を開始直後に注意を逸らされると、元の行動目的を忘れることがある。それは“行動目的を意識する神経回路”と“行動制御する神経回路”とが切り替わったために、行動目的の意識に忘却作用772が働いたためと考えられる。“覚えた内容を一度確認”するわずかな時間でCa2+イオンの流入量751が増加747し、記憶作用771が働く。
○思い出した時にも注意を逸らさない
… 過去に記憶した情報を思い出した時の状態が大切。思い出した瞬間に別の情報が入ると、神経細胞内の信号伝達回路が別に切り替わり、Ca2+イオンの流入量751が低下748する。この状況では、結果的に忘却作用772が働き、逆に忘れるきっかけとなる危険性を持つ。したがって思い出した時には“思い出した記憶を確認”すると、記憶作用771が増強され、忘却作用772が発生し辛い。
<忘れたい記憶を消す方法>
○忘れたい記憶が頭に浮かんだ瞬間に、わざと注意を逸らす
… 注意を逸らす方法として、“別のことを強く考える”、“無関係な行動を開始する”あるいは“無関係な情報を見たり(TVを見る)聞いたりする”などが上げられる。Ca2+イオンの流入量751が増加747する前に神経回路を瞬時に切り替えると、忘却作用772に働く。
○忘れたい記憶が頭に浮かんだ時、それに注意を向けない
… 忘れたい記憶の注視や、“無理に忘れる”努力をすると、その意識が記憶作用771として働く。
13.4)燐酸化酵素(キナーゼ)の反応過程
生体活動の一形態である細胞内の燐酸化反応を起こす過程で独自に発生する吸収帯の中心波長を説明するに当たり、まず図72を用いて燐酸化反応のメカニズム・モデルを説明する。燐酸化反応時の触媒の働きをする燐酸化酵素(キナーゼ)は細胞内で多種多様に存在し、それぞれ燐酸化反応のメカニズムが若干異なる。ここではその代表としてPKA(Protein Kinase A)の燐酸化反応メカニズム・モデルを説明し、異なる燐酸化酵素(キナーゼ)でも共通する特性を抽出する。J.A.Adams:Chemi
cal Reviews vol.101 (2001) p.2274−p.2282に掲載されたPKAの構造と燐酸化作用内容の一部とを抜粋し、さらに簡素化した図を図72に示す。図58を用いて11.3節で説明したATPの加水分解反応と燐酸化反応とを比較すると、
□反応後にγ燐酸基とβ燐酸基との間の結合が切れる部分は共通しているが、
□反応後のγ燐酸基は、ATPの加水分解反応では活性化水分子の一部と結合するのに比
べて燐酸化反応では基質上の活性化されたヒドロキシル基の一部と結合する所が基本的に異なっている。
また、
□ATPの加水分解反応では水分子の活性化にマグネシウムイオンMg2+が関わっているのに比べて燐酸化反応ではヒドロキシル基の活性化に蛋白質から成る燐酸化酵素(キナーゼ)内のカルボキシル基が関わっている所に特徴がある。具体的には図72(b)においてアスパラギン酸Asp166残基の一部であるカルボキシル基内の酸素原子O12が、基質の一部に属するヒドロキシル基内の水素原子H1と水素結合している。ところでATPの加水分解反応のメカニズム・モデルと比較すると、“ヒドロキシル基の活性化”が燐酸化反応の安定化に不可欠と思われる。したがってPKA以外の多くのキナーゼ(燐酸化酵素)による燐酸化反応でも、燐酸化されるヒドロキシル基はカルボキシル基と関わりを持って事前に活性化されることが予想される。したがって本実施例または応用例では13.6節で後述するように、燐酸化反応時に一時的に生じるヒドロキシル基とカルボキシル基との間の水素結合に対応した吸収帯を生体活動(ここでは燐酸化反応)の検出/測定または制御に用いる。
さらにATPの加水分解反応と燐酸化反応との共通点としては、“マグネシウムイオンMg2+およびリシン残基が反応に関わって”いる。生体内の水環境(pH7近傍)の下ではATP状態におけるγ燐酸基(燐原子P1を中心に持つ)は“−2”の負電荷を持ち、β燐酸基(燐原子P2を中心に持つ)は“−1”の負電荷を持つ。したがって燐酸化反応の安定化には、“正電荷を持った金属イオンまたはアミノ酸残基による電気的な中性化”が必要となる。
ところで11.3節でも説明したように、正電荷を持ち得る3種類のアミノ酸の中で生体内の水環境(pH7近傍)の下ではヒスチジンの正電荷量は非常にわずかと言われている。したがって燐酸化反応にはリシン残基またはアルギニン残基が関わる可能性が高い。そしてこの反応に関わる場合には、リシン残基またはアルギニン残基の一部(最も外側に配置されている水素原子)がATP内の酸素原子と水素結合する可能性が高い。したがって本実施例または応用例では、前記リシン残基/アルギニン残基の一部とATP内酸素原子との水素結合に依って発生する吸収帯も生体活動(ここでは燐酸化反応)の検出/測定または制御に利用できる。特に図72に示したPKAに拠る燐酸化反応では、γ燐酸基内の酸素原子O4がリシン残基Lys168内の水素原子H2と水素結合をしている。
次にATPの加水分解反応と比較した時の燐酸化反応の大きな特徴は、“マグネシウムイオンMg2+が水分子を活性化しない”所にある。仮にATP周辺に活性化された水分子が存在したら、β燐酸基との結合が切れた直後のγ燐酸基がこの水分子と結合し、基質一部のヒドロキシル基と結合するためのボンドを失ってしまう。ところで水中ではマグネシウムイオンMg2+は周辺に存在する(比較的負に帯電した)4個の原子と繋がりを持つ傾向にある。したがってマグネシウムイオンMg12+の周辺に水分子の構成原子以外の4個の原子を配置すれば、マグネシウムイオンMg12+は水分子を活性化でき無い。そのため図72に示す燐酸化反応のメカニズム・モデルでは、マグネシウムイオンMg12+は周辺に配置されたγ/β燐酸基に属する2個の酸素原子O3およびO8ならびにアスパラギン酸Asp184残基に属する2個の酸素原子O9およびO10と繋がりを持つ。
図72(a)が示すようにATPがPKA内の活性部に結合すると、ATPの(燐原子P1が中心にある)γ燐酸基内の酸素原子O4がリシンLys168残基内の水素原子H2と水素結合すると考えられる。ところで図15を用いて4.6.3節で説明したように、中間に位置する水素原子を経由して水素結合に関与する原子間で電子の存在確率密度
(電子雲)の移動が生じる。つまり図72(a)の例では、リシンLys168残基内の窒素原子N1が正に帯電しているため、中間の水素原子H2を経由して酸素原子O4周辺に局在していた電子の存在確率密度(電子雲)がα方向に移動する。すると周辺での電子の存在確率密度(電子雲)の低下を補うため、βに示すように燐原子P1周辺から電子の存在確率密度(電子雲)を奪う。
一方マグネシウムイオンMg12+は“+2の正電荷を持つ”(=圧倒的に周辺での電子の存在確率密度が不足している)ので、イオン結合をしている酸素原子O3およびO8を経由して燐原子P1と酸素原子O2との間の結合性軌道を形成する電子の存在確率密度(電子雲)がマグネシウムイオンMg12+の方向へ流れる(γおよびδ)。しかしそれだけの電子雲の移動では、燐原子P1と酸素原子O2との間の結合性軌道を形成する電子の存在確率密度(電子雲)のかなりの量が残っているため、γおよびβ間の燐酸基結合は切れない。したがって燐酸化反応(γおよびβ間の燐酸基結合の切断)を促進させるため、PKAではさらにマグネシウムイオンMg22+を利用する。
ところで前記マグネシウムイオンMg22+は図72で示したγ燐酸基内の酸素原子O5およびアスパラギンAsn171残基内の酸素原子O1だけで無く、記載を省いたがアスパラギン酸Asp184残基内の酸素原子O9およびα燐酸基内の酸素原子と繋がりを持つ。そしてこのマグネシウムイオンMg22+がεのように酸素原子O5を経由して燐原子P1と酸素原子O2との間の結合性軌道を形成する電子の存在確率密度(電子雲)を奪う。その結果として燐原子P1と酸素原子O2との間の結合性軌道を形成する電子の存在確率密度(電子雲)は図57(a)の状態から図57(b)の状態に移り、燐原子P1と酸素原子O2との間の距離が広がる。そして図72に示すように、γ燐酸基が燐酸化予定の基質780に近付く。
一方上述したように、基質780のヒドロキシル基内の水素原子H1は予めアスパラギン酸Asp166内の酸素原子O12と水素結合している。ところで生体内の水環境(pH7近傍)ではアスパラギン酸Asp166内の酸素原子O12は負電荷に帯電している(酸素原子O12の周辺には余剰の電子雲密度が局在している)ので、ζのように水素結合に関与する水素原子H1を経由して余剰電子雲が酸素原子O11側へ移動する。
その結果として基質780内のヒドロキシル基が“活性化”して余剰の電子雲がこの酸素原子O11の周囲に局在する。一方上述したように燐原子P1周辺では電子の存在確率密度(電子雲)が大幅に低下しているので、この酸素原子O11の周囲に局在する余剰電子雲が燐原子P1へ向かって(η方向に)引き寄せられる。そしてこの電子の存在確率密度(電子雲)分布が酸素原子O11と燐原子P1との間の結合性軌道として働き、γ燐酸基が基質780と結合する燐酸化反応が起きる。またこれをきっかけに燐原子P1と酸素原子O2との間に存在する電子の確率密度(電子雲)分布が、図57(b)の状態から図57(c)のように反結合性軌道に変わり、γ燐酸基とβ燐酸基との間の結合が切れる。
以上の一連の燐酸化反応を図72(c)のようにまとめることができる。すなわち燐原子P1から見た場合、酸素原子O2と結合していたボンドが基質780(内の酸素原子O11)側へのボンドに移る。一方基質780のヒドロキシル基内の水素原子H1から見ると、一緒にヒドロキシル基を構成していた酸素原子11とアスパラギン酸Asp166残基内の酸素原子O12との間で共有結合と水素結合が入れ替わった形となる。
PKAの燐酸化反応が生じた場合には図72が示すように、アスパラギン酸Asp1
66内酸素原子O12および基質780側のヒドロキシル基の間で構成する“O11−H1−O12形水素結合”と、リシンLys168残基の一部およびγ燐酸基内酸素原子O4との間で構成する“N1−H2−O4形水素結合”が一時的に発生すること
が分かる。したがってそれぞれの水素結合が起きた時に発生する吸収帯の中心波長での光(電磁波)の吸収量変化を検出することで、どのような生体活動(燐酸化反応)が起きているかが予想できる。本実施例はPKAによる燐酸化反応に限らず、他の細胞内の(あるいは細胞全体に関わる)生体活動の検出も可能となる。例えばPKAとは異なる燐酸化反応の1形態として、Ca2+/カルモジュリン依存蛋白キナーゼの活性化の例を上げることができる。すなわちCa2+イオンが細胞内に流入すると、図69の細胞内信号伝達カスケードA703に対応して上記Ca2+イオンと結合したカルモジュリンが前記Ca2+/カルモジュリン依存蛋白キナーゼ(略してCaM-キナーゼとも呼ぶ)と結合する。
ところでこのCaM-キナーゼは自己燐酸化作用を持ち、CaM-キナーゼ自身を燐酸化して活性化する。この自己燐酸化反応が図69の燐酸化反応カスケード711の初期段階に対応する。そして燐酸化反応カスケード711の次の段階では、この活性化したCaM-キナーゼがCREB(Cyclic AMP response element b
inding protein)のような遺伝子調節蛋白を燐酸化する。さらにこの燐酸化により活性化された遺伝子調節蛋白が作用して図69の遺伝子発現721が開始される。
ところで上記のカルモジュリンは11.1節で説明したトロポニンC(troponin C)と近縁の関係にあると言われている。そしてCa2+イオンが上記のカルモジュリンと結合する時には、このカルモジュリン内のグルタミン酸残基およびアスパラギン酸残基とイオン結合すると言われている。したがって11.1節および11.4節の[a]で説明した内容から、Ca2+イオンがカルモジュリンと結合する時にカルボキシル基の対称伸縮振動モードに対応した吸収帯の相対的吸収強度の変化(急な低下)が生じると予想される。一方本節の前半で説明したように燐酸化反応には基質内ヒドロキシル基の活性化が不可欠なため、ヒドロキシル基とカルボキシル基との間の水素結合に対応した吸収帯の発生も検出される。したがって、[1]ヒドロキシル基とカルボキシル基との間の水素結合に対応した吸収帯波長での光(電磁波)吸収が増加し、[2]カルボキシル基の対称伸縮振動モードに対応した吸収帯波長での光(電磁波)吸収が低下した場合には、上記“カルモジュリン→CaM-キナーゼ”に関係した生体活動が発生していると検出される。
13.5)カルシニューリンの反応過程
図70が示すように、錐体細胞内での忘却作用772にはカルシニューリンの活性化761が関与すると言われている。13.5節では、上記カルシニューリンが活性化761した時に新たに発生する吸収帯の中心波長さと検出され得る波長範囲に付いて説明する。F.Rusnak and P.Merts: Physiol. Rev. vol.80(2000) p.1483−p.1521にこのカルシニューリンの構造とその活性部における脱燐酸化反応のメカニズム・モデルが記載されている。ここでは脱燐酸化反応時にカルシニューリンの一部であるアルギニン残基が燐酸基に含まれる酸素原子と水素結合することが示唆されている。一方11.4節で説明したように、燐酸基に含まれる酸素原子と水素結合する相手がリシン残基かアルギニン残基かで対応する吸収帯の中心波長の値が異なる。したがって生体活動時に発生する吸収帯の中心波長の値を検出した時、アルギニン残基による水素結合が検出された場合には上記カルシニューリンの活性化761による忘却作用772が起きている可能性がある。
13.6)細胞内部での生体活動検出特性と制御特性
図72が示すように、燐酸化酵素(キナーゼ)が活性化されて燐酸化反応が起きると基質780のヒドロキシル基がカルボキシル基と水素結合すると予想される。ところでこの“O11−H1−O12形水素結合”は “水素原子を挟んだ酸素原子間の水素結合”
であり、局所的に見ると水分子間の水素結合の形態に類似している。しかし水分子間の水素結合を担う分子が水分子に対し、燐酸化反応時は水素結合を担う分子(ヒドロキシル基とカルボキシル基)が異なる。したがって図59と図60を用いて11.4節で説明したように、水分子間の水素結合とは異なる波長域に燐酸化反応に対応した吸収帯が発生する。そしてこの吸収帯は、表7における“会合−OHアルコールの分子間水素結合”が生じた時の吸収帯に類似している。今4.7節と11.4節で説明したように測定誤差や測定環境により生じる検出値のずれによるばらつき範囲を±1.5割と見積もると、1.04×(1−0.15)=0.88、1.05×(1+0.15)=1.21、1.50×(1−0.15)=1.28および1.60×(1+0.15)=1.84なので、
○第2倍音に対応した吸収帯の波長範囲は、0.88μmから1.21μmの間
○第1倍音に対応した吸収帯の波長範囲は、1.28μmから1.84μmの間
となる。このように得られた上記範囲に対し、図56に示した水分子に大きく吸収される範囲を除去した残りの範囲は、
○第2倍音に対応した吸収帯の波長範囲は、0.88μmから0.94μmの間と1.03μmから1.21μmの間
○第1倍音に対応した吸収帯の波長範囲は、1.28μmから1.39μmの間と1.52μmから1.84μmの間となるが、
1.21μmから1.28μmの間の隙間は非常にわずかなので波長範囲として繋げられる。したがってヒドロキシル基とカルボキシル基間で水素結合した場合に検出され得る吸収帯の波長範囲は図56に示すように
○0.88μmから0.94μmの間、
○1.03μmから1.39μmの間および
○1.52μmから1.84μmの間
で与えられる。
しかし上述した範囲はあくまでも第n倍音の検出範囲しか示して無い。そして近赤外領域では結合音に対応した吸収帯も含まれる。したがって結合音を検出する波長範囲も考慮に入れると、図56に示した水の吸収が少ない第1、第2、第3、第4そして第5の波長範囲I〜Vが対象範囲となる。さらにそれに限らず結合音での吸収帯の吸収量が大きく前記水の吸収の影響を余り受けない場合には、望ましい波長範囲は4.7節に示すように0.84μm(あるいは0.875μm)から2.50μmの範囲となる。
一方13.4節で説明したように、PKAが関わる燐酸化反応では、γ燐酸基内の酸素原子とリシン残基の一部との間の“N1−H2−O4形水素結合”が一時的に発生する。ところでこのタイプの水素結合は表7における“第1級アミド−CONHの分子間水素結合時”の振動モードに類似している。したがってこの場合に発生する吸収帯の中心波長が検出され得る範囲は11.4節で記載された内容と同様に
○第2倍音に対応した吸収帯の波長範囲は、1.03μmから1.25μmの間
○第1倍音に対応した吸収帯の波長範囲は、1.52μmから1.86μmの間、
で与えられる。しかし結合音に対応した吸収帯の中心波長も考慮に入れると、望ましい波長範囲は4.7節に示すように0.84μm(あるいは0.875μm)から2.50μmの範囲となる。
一方カルシニューリンに依る脱燐酸化反応が生じた場合には、燐酸基内の酸素原子と
アルギニン残基の一部との間で水素結合することが示唆されている。そして図59および図60を用いて11.4節で説明したように、水素結合する相手がリシン残基かアルギニン残基かで発生する吸収帯の中心波長の値が変化する。しかし“吸収帯の中心波長が検出され得る範囲”を考えた場合には両者の範囲はほぼ一致し、表7における“第1級アミド−CONHの分子間水素結合時”の振動モードに対応する。したがってカルシニューリンに依る脱燐酸化反応が生じた時に発生する吸収帯の中心波長が検出され得る範囲は上記
と同様に
○第2倍音に対応した吸収帯の波長範囲は、1.03μmから1.25μmの間
○第1倍音に対応した吸収帯の波長範囲は、1.52μmから1.86μmの間、
であり、しかし結合音に対応した吸収帯の中心波長も考慮に入れた場合には0.84μm(あるいは0.875μm)から2.50μmの範囲となる。
本実施例または応用例の技術的対象は“所定波長を含む電磁波を照射して生体活動の
検出または測定”を行う所にある。したがって本実施例または応用例では上述した生体活動に対応して発生する吸収帯に関する電磁波の吸収量変化の検出に限らず、他の方法を用いてもよい。例えば他の応用例としてfMRIを用いて生体活動を検出または測定してもよい。すなわち燐酸化反応に応じて基質780のヒドロキシル基とカルボキシル基とが水素結合して、一時的に“O11−H1−O12形水素結合”が発生する。この時の中央に存在する水素原子H1の周囲に局在する電子の存在確率密度(電子雲密度)分布は、水分子間で水素結合した時の水素原子周囲の電子の存在確率密度分布と異なる。
ところで水素原子H1の周囲に局在する電子の存在確率分布が核磁気共鳴時の外部磁場に対する磁気的遮蔽効果を持つ(5章参照)ので、燐酸化反応に対応した独自の“化学シフト量”が検出される。また脱燐酸化反応が発生した時も同じように独自の化学シフト量の位置に吸収ピークが発生する。この独自に検出される化学シフト量位置での吸収量変化を測定することで、燐酸化反応あるいは脱燐酸化反応の様子を検出または測定できる。
図69を用いた13.2節の説明で、燐酸化反応カスケード711の一部の活動を電
磁波(光)照射により阻害して燐酸化反応の効率を低下させる方法、あるいは脱燐酸化反応712効率を低下させて燐酸化反応カスケード711を活性化させる方法を明示した。またその具体的な一例として13.3節では、同様な制御により錐体細胞内での記憶作用771または忘却作用772を促進させる方法に付いて説明した。ここでは上記本実施例または応用例の制御方法に関するより詳細なメカニズムの説明をする。
図69の燐酸化反応カスケード711または図70の燐酸化カスケード758やCaMキナーゼの燐酸化753の反応を安定に起こすには、13.4節で説明したように“基質780内ヒドロキシル基の活性化”が必要不可欠となる。またその活性化には前記ヒドロキシル基とカルボキシル基間の水素結合が必要となる。この“ヒドロキシル基とカルボキシル基とが水素結合した時に発生する吸収帯”を検出するためにわずかな量の電磁波(光)を照射しても、上記燐酸化反応への影響はほとんど起きない。しかし前述した
○0.88μm(あるいは0.875μm)から0.94μmの間、
○1.03μmから1.39μmの間および
○1.52μmから1.84μmの間の波長範囲内に存在し、
上記吸収帯に対応した電磁波(光)を多量に照射すると、ヒドロキシル基とカルボキシル基との間の水素結合内での振動モード全てが励起されてしまう。この励起状態の振動モードは高いエネルギーを持つため、それをきっかけにほとんど水素結合が切断される。その結果として“基質780内ヒドロキシル基の活性化”が阻害されて燐酸化反応の効率が大幅に低下させることが可能となる。したがって上記ヒドロキシル基とカルボキシル基との水素結合時に発生する吸収帯に対応した波長の電磁波(光)を多量に照射することで、燐酸化反応カスケード711(図69)を阻害して細胞の活性度を下げる、または記憶作用771(図70)を阻害して忘却作用772を亢進させる制御が可能となる。
一方本実施例または応用例では脱燐酸化酵素のカルシニューリンの触媒作用効率を低下させることも可能となる。カルシニューリンに依る脱燐酸化反応が生じた場合には、燐酸基内の酸素原子とアルギニン残基の一部との間で水素結合する示唆があると前述した。上記アルギニン残基が関与する水素結合に関連した吸収帯の存在を検出するため、わずかな
量の電磁波(光)を照射しても生体活動への影響はほとんど無い。
しかし
○波長範囲として1.03μmから1.25μmの間 または
○波長範囲として1.52μmから1.86μmの間に含まれ、
上記アルギニン残基が関与する水素結合に対応した吸収帯の中心波長を持つ電磁波(光)を多量に照射すると、上記アルギニン残基が関与する水素結合内の振動モードの大部分が励起状態に変化する。またその励起状態のエネルギーが高いため、上記アルギニン残基が関与する水素結合の大部分が切れてカルシニューリンに依る脱燐酸化反応が阻害される。その結果として上記波長が含まれた電磁波(光)を多量に照射すると、脱燐酸化反応712(図69)の阻止により燐酸化反応カスケード711が亢進されて細胞が活性化される、または忘却作用772(図70)を阻害して記憶作用771を亢進させる制御が可能となる。
上記実施例では細胞内の生体活動に関して燐酸化反応および脱燐酸化反応を例にとっ
て生体活動の検出/測定方法および制御方法に付いて説明した。しかし本実施例または応用例ではそれに限らず、細胞内外の生体活動に関連した吸収帯に対応した電磁波(光)を用いて行う他の生体活動の検出/測定方法および制御方法に付いても適用が可能である。
1‥神経細胞体、
2‥軸索、
3‥シナプスボタン(シナプス小頭)、
4‥感覚ニューロンの検出部(終末部)、
5‥神経筋接合部、
6‥筋肉細胞、
7‥中枢神経層(大脳皮質層)、
8‥神経伝達中継層(視床・小脳・網様体など)、
9‥反射的神経伝達層(脊髄反射伝導層など)、
11‥電位依存性Naイオンチャネル、
12‥髄鞘、
13‥細胞外液、
14‥軸索細胞質、
15‥ランビエ絞輪、
16‥軸索内の信号伝達方向、
17‥錐体細胞の細胞体、
18‥星状細胞の細胞体、
19‥グリア細胞、
20‥細胞膜電位、
21‥静止膜電位、
22‥脱分極電位、
23‥活動電位、
24‥発火期間、
25‥静止時、
26‥神経細胞膜の電位変化、
27‥筋細胞膜の電位変化、
28‥毛細血管、
29‥酸素分子の伝達経路、
30‥生体活動検出場所(被測定点)、
31‥対物レンズ、
32‥検出レンズ、
33‥検出光の光路、
34‥反射鏡(ガルバーミラー)、
35‥ピンホール、
36‥光検出器、
37‥グレーティング、
38‥光検出セル、
40‥生体表面の目印位置、
41‥生体表面、
42‥カメラ用レンズ、
43‥2次元光検出器、
44‥生体活動検出部表面からの距離、
45‥生体活動検出部表面、
46‥生体活動の位置検出部、
47‥波長780[nm]の光の反射光量、
48‥波長830[nm]の光の反射光量、
51‥2次元液晶シャッター、
52‥集光レンズ、
53‥光分配用グレーティング、
54‥横方向1次元配列光検出セル、
55‥縦方向1次元配列光検出セル、
56‥2次元液晶シャッター内光透過部、
57‥結像レンズ、
58‥生体活動検出信号、
60‥色フィルタ、
62‥検出回路前段から出力される検出信号ライン、
63‥レンチキュラーレンズ、
71‥2次元配列された核磁気共鳴特性変化検出用セルアレイ、
72‥磁界調整用コイル、
73‥(超伝導)磁石、
74‥励起用コイル、
75‥検出対象となる生命体の一部(被験者の頭部など)、
80‥1個の核磁気共鳴特性変化検出用セル、
81‥電源ラインとグランドライン、
82‥基準クロック+タイムスタンプ信号の伝送ライン、
83‥生体活動検出信号出力ライン、
84‥検出用コイル、
85‥生体活動検出回路の前段部、
86‥生体活動検出回路の後段部、
87‥光電変換セル(光検出セルまたは検出用コイル)、
101‥生体活動検出部、
102‥光源部、
103‥信号検出部、
104‥基準クロックと変調信号発生部、
105‥生体活動検出信号送信部、
106‥生体活動検出信号、
111‥発光部、
112‥光変調器、
113‥光変調器駆動回路、
114‥発光部駆動回路、
115‥生体活動検出用照射光、
116‥波長選択フィルタ、
117‥基準クロック発生回路、
118‥変調信号発生回路、
121‥生体活動検出用光電変換部、
122‥生体活動検出回路、
131‥プリアンプ、
132‥バンドパスフィルタ、
133‥変調信号成分抽出部(同期検波部)、
134‥A/Dコンバータ、
135‥前段部内のメモリ部、
136‥前段部の信号処理演算部、
137‥後段部との間の信号転送部、
141‥前段部との間の信号転送部、
142‥後段部内のメモリ部、
143‥後段部の信号処理演算部、
144‥生体活動検出信号送信部に対する信号転送部、
151‥生体活動検出信号の送信回数(または累計送信時間)検出用カウンタ、
152‥時変鍵発生器(生体活動検出信号の送信回数または累計送信時間に依存)、
153‥時変(生体活動検出信号の送信回数または累計送信時間に依存)のM系列内ジャンプ数発生器、
154‥暗号化部、
155‥生体活動検出回路との間の信号転送部、
156‥生体活動検出信号送信部内のメモリ部、
157‥IP構造生成部(IPアドレス設定含む)、
158‥通信制御部、
161‥生体活動検出領域、
162‥活性化度、
163‥経過時間、
171‥判定要素、
172‥合致度、
173‥イベント、
178‥処理または操作を行う内容、
201‥インターネット・レイヤー、
202‥マインド・コネクション・レイヤー、
211‥伝心仲介業者(マインド・コミュニケーション・プロバイダ)、
212‥心のサービス会社(マインド・サービス・ディストリビュータ)、
213‥ユーザ、
216‥ユーザ側の駆動系、
217‥ユーザ側の制御系、
218‥生体検出系、
220‥生体検出部、
221‥イベント情報B検出部、
222‥信号/情報多重化部、
223‥インターネット通信制御部、
224‥イベント情報A抽出部、
225‥画面表示制御部、
226‥ユーザ入力部、
227‥生体活動解析部、
228‥データベース保存領域、
229‥マインド・コネクション・レイヤーのメンテナンス処理部、
230‥心のサービス会社への技術サポート対応部、
231‥課金/利益分配処理部、
232‥画面表示/切り替え設定部、
233‥駆動系への遠隔操作部、
234‥直接サービス内容決定部、
241‥生体活動検出、
242‥イベント情報B、
243‥イベント情報A、
244‥提供サービス、
245‥特定の情報提供(情報提供サービス含む)、
247‥直接的サービス(郵送/派遣など)、
248‥イベント情報付き生体活動検出信号、
249‥イベント情報付き生体活動情報、
250‥ユーザへの表示画面、
251‥駆動系への遠隔操作、
252‥使用料金の支払い、
253‥利益配分、
254‥検出信号無しのユーザ入力情報、
301‥検出条件データグラム、
302‥イベント・データグラム、
303‥検出波長λでの検出信号データグラム、
304‥活動情報データグラム、
305‥生体活動解析条件データグラム、
310‥解析条件パケット、
311‥検出条件パケット、
312‥イベントパケット、
313‥検出信号パケット、
314‥活動情報パケット、
315‥インターネット・ヘッダー、
316‥検出条件データ・フラグメント、
317‥イベント・データ・フラグメント、
318‥検出信号データ・フラグメント、
319‥解析条件データ・フラグメント、
320‥生体活動情報フラグメント、
326‥検出点毎の位置情報、
327‥時刻T1における検出点毎の活性化度分布特性、
328‥時刻T2における検出点毎の活性化度分布特性、
331‥サービス・タイプ情報、
332‥対応のデータグラム識別情報、
333‥フラグメント種別情報、
334‥フラグメント位置情報、
335‥送信元アドレス情報、
336‥送信先アドレス情報、
337‥オプションタイプ情報(タイプ=68)、
338‥生体検出部の識別情報または生体検出部対応固有のアドレス情報、
339‥タイムスタンプ情報、
341‥イベント発信元アドレス情報(表示画面のURLなど、
342‥発生イベント数情報、
343‥表示画面内で設定された APIコマンド、
346‥イベント種別情報、
347‥イベント継続期間、
348‥イベント情報内容、
351‥ユーザ(被験者)識別情報、
352‥検出開始時間情報(年月日時分秒)、
353‥タイムスタンプの基準周波数、
354‥測定項目、
355‥検出手段、
356‥検出信号の種類、
357‥検出領域の場所情報と検出点配置の設定方法、
358‥検出領域の解像度、
359‥検出信号の量子化ビット数、
360‥検出信号のサンプリング周波数またはサンプリング時間間隔、
361‥検出波長の数情報、
362‥過去からの累計送信回数、
363‥解析ソフトバージョン番号、
364‥解析に使用のデータベースのバージョン番号または最終更新時期、
371‥測定項目の数情報、
372‥測定項目A内判定要素数情報、
373‥測定項目A内判定要素内容一覧、
374‥測定項目B内判定要素数情報、
375‥測定項目B内判定要素内容一覧、
377‥時刻T1の測定項目A内判定要素毎の合致度、
378‥時刻T2の測定項目A内判定要素毎の合致度、
401‥反射光量変化、
411‥大脳皮質内の中心後回、
412‥視床、
413‥脊髄、
414‥椎体(前側)、
415‥椎弓(後側)、
416‥脊髄内の灰白質、
421‥X軸、
422‥Y軸、
423‥Z軸、
424‥波長780[nm]の検出用光源、
425‥波長780[nm]光を通過させる色フィルタ、
426‥波長780[nm]光用の光検出器、
427‥波長830[nm]の検出用光源、
428‥波長830[nm]光を通過させる色フィルタ、
429‥波長830[nm]光用の光検出器、
431‥生体活動検出場所の位置検出用光源、
432‥生体活動検出場所の位置検出用モニター部、
433‥ビームスプリッタ、
434‥色フィルタ特性を持った光合成素子、
437‥1/4波長板、
438‥偏光分離素子、
439‥モニター用光、
440‥生体活動検出期間、
441‥生体活動検出部の固有情報明示期間、
451‥同期信号、
452‥生体活動検出部の製造メーカ識別用ID情報、
453‥生体活動検出部個々の識別情報(製造番号等)、
454‥製造メーカが設定する製造メーカ関連情報、
501‥頭頂筋〔驚き〕、
502‥皺眉筋〔苦痛〕、
503‥頬骨筋〔笑い〕、
504‥口輪筋〔表情表現〕
505‥口角下制筋(オトガイ三角筋)〔悲しみ〕、
506‥下唇下制筋(下唇方形筋)〔無表情〕、
507‥オトガイ筋〔疑いとさげすみ〕、
511‥筋肉収縮活動開始前、
512‥筋肉収縮活動時、
513‥振幅値、
521‥生体活動検出部における検出可能範囲、
522‥生体活動対象物の位置、
600‥検出/制御対象となる生命体の一部( 被験者の頭部など)、
601‥電極端子(板)、
602‥高電圧高周発生用電源、
603‥制御部、
604‥変調信号発生回路、
605‥対物レンズ駆動回路、
606‥コリメートレンズ、
607‥ビームスプリッタ、
608‥生体活動検出/制御用電磁波、
609‥光導波路、
610‥光導波路駆動回路、
611‥細胞膜の外側、
612‥細胞質側、
613‥細胞膜、
614‥割れ目、
615‥ゲート、
616‥荷電部、
621‥水素結合部、
622‥アミノ酸残基、
623‥アミノ酸主鎖、
701‥受容体A、
702‥受容体B、
703‥細胞内信号伝達カスケードA、
704‥細胞内信号伝達カスケードB、
711‥燐酸化反応カスケード、
712‥脱燐酸化反応、
713‥阻害作用、
721‥遺伝子発現(mRNAへの転写)、
722‥蛋白質合成(mRNAの翻訳)、
723‥特定細胞機能の発揮、
724‥制御対象、
731‥シナプス間隙、
732‥グルタミン酸結合、
733‥グルタミン酸結合、
734‥グルタミン酸結合、
735‥スパイン、
741‥mGluR受容体、
742‥NMDA受容体、
743‥AMPA受容体、
747‥Caイオン濃度高い場合、
748‥Caイオン濃度低い場合、
750‥PI(3,4,5)P の生成、
751‥Caイオンの流入、
752‥Naイオンの流入、
753‥CaMキナーゼの燐酸化、
754‥細胞核内での遺伝子発現、
755‥mRNAの生成、
756‥mRNAの翻訳、
757‥AMPA受容体の挿入、
758‥燐酸化カスケード、
759‥蛋白キナーゼBの活性化、
761‥カルシニューリンの活性化、
762‥インヒビター1の脱燐酸化、
763‥蛋白質脱燐酸化酵素1の活性化、
764‥AMPA受容体の取り込み、
771‥記憶作用、
772‥忘却作用、
780‥基質。

Claims (5)

  1. 動物および植物を含む生体の活動状態を非侵襲で測定する生体活動測定装置であって、
    指定波長帯内に波長が含まれる電磁波を前記生体に対して照射するための発光部と、
    前記生体の内部における一または複数の細胞から構成される局所領域での前記電磁波に関する特性を検出する検出器を含み、
    前記生体の活動状態は前記局所領域内の前記細胞の活動に関係することを特徴とする生体活動測定装置。
  2. 請求項1記載の生体活動測定装置において、
    前記細胞が神経細胞であり、
    前記細胞の活動は細胞膜の電位変化に関係することを特徴とする生体活動測定装置。
  3. 請求項1記載の生体活動測定装置において、
    前記細胞が筋肉細胞であり、
    前記細胞の活動は前記筋肉細胞の収縮又は弛緩に関係することを特徴とする生体活動測定装置。
  4. 請求項1記載の生体活動測定装置において、
    前記細胞の活動は細胞内の信号伝達に関係することを特徴とする生体活動測定装置。
  5. 動物および植物を含む生体の活動状態を測定する生体活動測定装置に使用される光検出器であって、
    前記生体の内部における一または複数の細胞から構成される局所領域での電磁波に関する特性を検出する検出器において、
    前記電磁波内の波長は指定波長帯内に含まれ、
    また前記電磁波は前記生体に対して照射され、
    前記生体の活動状態は前記局所領域内の前記細胞の活動に関係することを特徴とする光検出器。
JP2016118405A 2011-11-11 2016-06-14 生体活動測定装置および光検出器 Pending JP2016190052A (ja)

Applications Claiming Priority (2)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2011248115 2011-11-11
JP2011248115 2011-11-11

Related Parent Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2012220305A Division JP2013122443A (ja) 2011-11-11 2012-10-02 生体活動測定方法、生体活動測定装置、生体活動検出信号の転送方法および生体活動情報を利用したサービスの提供方法

Publications (1)

Publication Number Publication Date
JP2016190052A true JP2016190052A (ja) 2016-11-10

Family

ID=57245895

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2016118405A Pending JP2016190052A (ja) 2011-11-11 2016-06-14 生体活動測定装置および光検出器

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP2016190052A (ja)

Citations (5)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JPS6072542A (ja) * 1983-09-28 1985-04-24 株式会社島津製作所 光線ct装置
JPH02240545A (ja) * 1989-03-14 1990-09-25 Res Dev Corp Of Japan 光断層像画像化装置
JPH05176917A (ja) * 1991-05-22 1993-07-20 Mitsui Mining & Smelting Co Ltd 光学的血糖値非破壊測定方法および装置
JP2002177282A (ja) * 2000-12-13 2002-06-25 Forestry & Forest Products Research Institute 人体に作用する外的刺激の評価方法
JP2003159239A (ja) * 2001-11-27 2003-06-03 Communication Research Laboratory 生体計測装置

Patent Citations (5)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JPS6072542A (ja) * 1983-09-28 1985-04-24 株式会社島津製作所 光線ct装置
JPH02240545A (ja) * 1989-03-14 1990-09-25 Res Dev Corp Of Japan 光断層像画像化装置
JPH05176917A (ja) * 1991-05-22 1993-07-20 Mitsui Mining & Smelting Co Ltd 光学的血糖値非破壊測定方法および装置
JP2002177282A (ja) * 2000-12-13 2002-06-25 Forestry & Forest Products Research Institute 人体に作用する外的刺激の評価方法
JP2003159239A (ja) * 2001-11-27 2003-06-03 Communication Research Laboratory 生体計測装置

Similar Documents

Publication Publication Date Title
JP2013122443A (ja) 生体活動測定方法、生体活動測定装置、生体活動検出信号の転送方法および生体活動情報を利用したサービスの提供方法
JP2014239871A (ja) 生体活動検出方法、生体活動測定装置、生体活動検出信号の転送方法および生体活動情報を利用したサービスの提供方法
US20220273908A1 (en) Method and apparatus for neuroenhancement to enhance emotional response
US20230380749A1 (en) Method and apparatus for neuroenhancement
JP2018097874A (ja) ユーザインターフェース装置およびサービス提供方法
Devlin et al. Stimulating language: insights from TMS
US20220273907A1 (en) Method and apparatus for neuroenhancement to enhance emotional response
Blank Intervention in the brain: Politics, policy, and ethics
EP3890603A1 (en) Stress disorder training
National Research Council et al. Emerging cognitive neuroscience and related technologies
Filbey The neuroscience of addiction
Jääskeläinen Introduction to cognitive neuroscience
Zhou et al. Connectome‐based prediction of craving for gaming in internet gaming disorder
Mishra et al. Neurophysiological correlates of cognition as revealed by virtual reality: delving the brain with a synergistic approach
Casula et al. Non-invasive brain stimulation for the modulation of aggressive behavior—A systematic review of randomized sham-controlled studies
Spaccasassi et al. Bliss in and out of the body: The (extra) corporeal space is impervious to social pleasant touch
US20210290132A1 (en) Stress disorder training
JP2016190052A (ja) 生体活動測定装置および光検出器
Viruega et al. Breast Cancer: How Hippotherapy Bridges the Gap between Healing and Recovery—A Randomized Controlled Clinical Trial
Kilian et al. Normalized affective responsiveness following deep brain stimulation of the medial forebrain bundle in depression
TWI533841B (zh) 生命活力測定方法,生命活力控制方法,以及有關生命活力資訊的傳送方法
Kolev et al. frontiers REVIEW in Human Neuroscience published: 16 February 2022
Keebler et al. Neuroethics: Considerations for a future embedded with neurotechnology
Lheureux Cues and sensory manipulations to modulate long-range autocorrelations in gait variability among patients with Parkinson's disease
Abdullahi et al. Effects and safety of vagus nerve stimulation on upper limb function in patients with stroke: a systematic review and meta-analysis

Legal Events

Date Code Title Description
A977 Report on retrieval

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A971007

Effective date: 20170307

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20170314

A521 Request for written amendment filed

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20170509

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20171031

A02 Decision of refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A02

Effective date: 20180424