JP3579713B2 - 高表面積を有するセラミックス多孔質膜の製造方法 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
本発明は、透明かつ表面積の高い多孔性のセラミックス膜材料の製造に関するものであり、さらに詳しくは、酸化チタンや酸化アルミニウム等のセラミックスを基板上に多孔質かつ膜厚を厚く成膜することで、ラフネスファクター(基板の面積に対する膜内部の実表面積比)を著しく高くすることのできるセラミックス多孔質膜材料の新規製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ゾル・ゲル法でセラミックスの薄膜を作製する場合、一般的にはディップコーティング法を利用する。ゾル・ゲル法に基づくディップコーティング法は、金属アルコキシド等を含むコーティング溶液を用いて大面積の基板全体わたって均一なコーティングを比較的容易に行うことができる。また、コーティングされたセラミックスの種類を変えることで、基板に機械的、化学的保護、光学的特性、電磁気的特性、触媒特性のような新しい機能特性を与えることができる有用な方法である。
【0003】
従来の方法において開発されたセラミックス多孔質膜は、表面に孔径の揃った細孔を有することが特徴であった(特開平8−196903,特開平8−245278,特開平10−259074)。しかし、これらの方法は、膜厚が薄い薄膜の作製には適していたが、μmオーダーの膜を作製するためにはコーティング操作を10数回以上繰り返す必要があり、厚い膜を作製することは事実上困難であった。したがって、膜自身は多孔質であるが、膜厚が薄いことにより膜の実表面積を表すラフネスファクターが低いと言うことになる。また、一般的なディップコーティング法においても、薄膜の作製には適しているが、厚膜の作製には適していない。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、セラミックスを基板上に多孔質かつ膜厚を厚く成膜する方法を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、溶媒やポリエチレングリコールの添加方法を工夫した特定のセラミックスのゾル溶液を基板にコーティングした後、加熱焼成することによって、膜内部に多数の細孔を有し、かつ表面積の高いセラミックス多孔質膜が製造でき、しかも、添加するポリエチレングリコールの添加量を変化させることにより表面積及び膜厚を制御できることを見いだし、本発明をなすに至った。
本発明は、上記に鑑み、膜内部に多数の細孔を有し、さらに膜厚が厚いことの相乗効果により高い表面積を有し、触媒や触媒担体、吸着材料、脱臭・消臭材料、徐放性材料、センサーなどとして優れた特性を有するセラミックス多孔質膜及びその簡便で経済的な製造法の提供を目的とするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段により構成される。
(1)内部に多数の細孔を有し、1回のディップコーティング操作により膜厚が0.15〜0.77μm、かつ膜厚1μmあたりのラフネスファクターが69〜170の高表面積を有する、透明で、均一で耐久性に優れたセラミックス多孔質膜を製造する方法であって、
1)金属アルコキシドをポリエチレングリコールを含む水に滴下するか、金属アルコキシドを水に滴下し、沈殿が得られた後にポリエチレングリコールを添加し、加水分解して得られる沈殿を酸又はアルカリを添加して加熱し、解膠することにより、均一なゾル溶液を調製する、
2)ポリエチレングリコールの添加量を1−10g/100ml溶液に調整する、
3)上記均一なゾル溶液を基板上にディップコーティングし、乾燥し、ポリエチレングリコールが焼失する温度の400℃以上で加熱処理して上記特性を有するセラミックス多孔質膜を作製する、
ことを特徴とするセラミックス多孔質膜の製造方法。
(2)添加するポリエチレングリコールの添加量を変化させることにより表面積及び膜厚を制御することを特徴とする前記(1)記載のセラミックス多孔質膜の製造方法。
(3)1回のコーティング操作で、最大0.77μmの膜厚を有する膜を作製することを特徴とする前記(1)記載のセラミックス多孔質膜の製造方法。
(4)ディップコーティング・加熱処理の操作を繰り返して膜厚を増加させることを特徴とする前記(1)記載のセラミックス多孔質膜の製造方法。
(5)前記(1)から(4)のいずれかの方法で作製されたセラミックス多孔質膜であって、次の工程;1)金属アルコキシドをポリエチレングリコールを含む水に滴下するか、金属アルコキシドを水に滴下し、沈殿が得られた後にポリエチレングリコールを添加し、加水分解して得られる沈殿を酸又はアルカリを添加して加熱し、解膠することにより、均一なゾル溶液を調製する、2)ポリエチレングリコールの添加量を1−10g/100ml溶液に調整する、3)上記均一なゾル溶液を基板上にディップコーティングし、乾燥し、ポリエチレングリコールが焼失する温度の400℃以上で加熱処理して上記特性を有するセラミックス多孔質膜を作製する、により作製された、内部に多数の細孔を有し、1回のディップコーティング操作により膜厚が0.15〜0.77μm、かつ膜厚1μmあたりのラフネスファクターが69〜170の高表面積を有する、透明で、均一で耐久性に優れたセラミックス多孔質膜。
【0006】
【発明の実施の形態】
次に、本発明についてさらに詳細に説明する。
本発明に用いられるセラミックスのゾル溶液は、金属アルコキシドを蒸留水に滴下し、加水分解して得られる沈殿を酸又はアルカリを添加して加熱することにより、沈殿を解膠させて得られる。この際、金属アルコキシドを滴下させる蒸留水にあらかじめポリエチレングリコールを溶解させておくか、あるいは金属アルコキシドを蒸留水に滴下し、沈殿が得られた後にポリエチレングリコールを溶解させることにより、その後の同様な操作によって均一なセラミックスのゾル溶液を得ることができる。従来の方法において、例えば、セラミックスのゾル溶液にポリエチレングリコール等を添加し、これをコーティングする方法が知られているが、一度ゾルが生成した後にポリエチレングリコールを添加しても、ゾルが凝集して沈殿を生成し、均一な溶液を得ることができない。本発明では、ゾルが生成する前にポリエチレングリコールを添加すること、均一なゾル溶液を用いること、が重要である。上記方法で得られた均一なゾル溶液を用いることによって、内部に細孔を多数有し、かつ膜厚が0.15〜0.77μm(1回のディップコーティング操作による)、かつラフネスファクターが69〜170(膜厚1μmあたり)の高表面積を有する耐久性に優れたセラミックス多孔質膜を製造することができる。
【0007】
本発明において、セラミックスのゾル溶液を調製するための金属アルコキシドとしては、全ての金属アルコキシドが用いられ、特に、Ti、Al等のアルコキシドが好適なものとして例示されるが、ゾルを形成するものであれば適宜使用でき、これらに制限されるものではない。
添加する酸又はアルカリとしては、例えば、硝酸、塩酸、アンモニア水が好適なものとして例示される。
コーティング方法としては、例えば、ディップコーティング法、スピンコーティング法、スクリーンプリンティング法、スプレー法などが好適なものとして例示されるが、ポリエチレングリコールを含むゾル溶液を基板上に均一にコーティングできる方法であれば適宜使用でき、これらに制限されるものではない。
加熱の条件は、ポリエチレングリコールが焼失する400℃以上であれば問題は無いが、加熱処理温度の上昇とともに焼結が進行するためにラフネスファクターが小さくなるので、400℃以上で基板と膜との付着性が低くならない限り低い温度が望ましい。
基板としては、例えば、ガラス、ネサガラス、セラミックス、コンクリート、金属などが例示されるが、加熱処理温度に耐えられるものであれば、どのような材質であっても良い。また、その形状も、板状、円筒状、角柱状、円錐状、球状、ファイバー状など、どのような形であっても良い。
【0008】
本発明では、上記方法で得られた均一なゾル溶液を、ディップコーティング法、スピンコーティング法、スクリーンプリンティング法、スプレー法などにより、基板上にコーティングし、液膜をコーティングした基板を乾燥後、400℃以上の温度で加熱処理して成膜する。上記コーティング・加熱処理の操作を繰り返し、膜厚を増加させることができる。
本発明では、ポリエチレングリコールの添加量を、例えば、ゾル溶液100mlあたり1〜10gに調整することにより、1回のディップコーティング操作において膜厚を0.15〜0.77μmに制御でき、また膜厚1μmあたりのラフネスファクターを69〜170に制御できる。
【0009】
本発明により作製されるセラミックス多孔質膜の特性としては、特に、1)膜厚は、1回のディップコーティング操作で0.15〜0.77μmである、2)ラフネスファクターは、膜厚1μmあたり69〜170である、3)基板との付着性が高い、4)膜の透明性が高い、5)膜の均一性が高い、等が示される。
【0010】
【実施例】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は該当実施例によって何ら限定されるものではない。
実施例1
(1)セラミックスのゾル溶液の調製
本実施例では、酸化チタン多孔質膜を作製した。
酸化チタン多孔質膜を作製するためのディップコーティング溶液となるポリエチレングリコールを含有する酸化チタンゾル溶液の作製は、以下のように行った。300mlの蒸留水に所定量のポリエチレングリコール(分子量:2000)を溶解した。このポリエチレングリコール水溶液にチタン酸テトライソプロピル(56.6ml)/イソプロパノール(50ml)溶液を徐々に滴下し、チタンのアルコキシドの加水分解を行った。生成した白色の懸濁液に濃硝酸(2.5ml)を加え、約80℃に加熱してイソプロパノールの除去とともに解膠を行った。引き続き、同じ温度で加熱を続け、ゾル溶液を100mlの体積まで濃縮した。同様にポリエチレングリコールの含有量を変えた溶液を数種類調製した。
【0011】
(2)多孔質膜の作製
作製したコーティング溶液をディップコーティング装置を用いて5mm/minの速度でガラス基板上にコーティングし、乾燥後、500℃の電気炉中で30min加熱処理して酸化チタン膜を作製した。酸化チタン多孔質膜の膜厚及びラフネスファクターの測定を容易にするため、ディップコーティング・加熱処理の操作を3回繰り返し、酸化チタン多孔質膜の膜厚を増加させた。
【0012】
(3)測定方法
作製した酸化チタン多孔質膜の膜厚を測定するため、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、膜の断面観察を行った。
作製した酸化チタン膜の多孔度を評価するために、酸化チタン表面に単分子層吸着するRu色素を酸化チタン膜に吸着させ、その色素の吸着量からラフネスファクターを算出した。ラフネスファクターは、基板の投影面積に対する多孔質膜内部の表面積の比として求められ、多孔質膜の実際の表面積を表す。色素の吸着は色素(シス−ジ(チトシアナト)ビス(2,2’−ビピリジル−4,4’−ジカルボキシレート)Ru(II) )のエタノール溶液(3.0×10−3M)に酸化チタン膜を含浸させ、加熱・還流を1時間行い、エタノールで洗浄後、乾燥させることで行った。色素吸着前後の酸化チタン多孔質膜の透過率を分光器で測定し、色素分子の吸収波長(540nm)における透過率の変化を測定した。この透過率の変化と色素分子のモル吸光係数もとに、ランベルト−ベールの法則から酸化チタン多孔質膜上の色素吸着量を概算した。この色素吸着量と色素分子の大きさ(分子直径:1.4nm)から、酸化チタン膜のラフネスファクターを算出した。
【0013】
(4)結果
酸化チタンゾル(15wt%)溶液は、ポリエチレングリコールを1,3,5,10g/100ml−溶液の濃度で添加した4種類を調製した。これらの溶液を各々用いてディップコーティング法で3回コーティングと500℃での加熱処理を行って酸化チタン膜を作製した。作製した酸化チタン多孔質膜は、いずれの膜も透明で均質な膜であった。
【0014】
それぞれの酸化チタン多孔質膜についてSEMの断面観察を行い膜厚を測定し、ディップコーティング溶液中のポリエチレングリコールの添加量との関係を調べた(図1)。この図から明らかなように、ポリエチレングリコール添加量の増加にともない、酸化チタン膜の膜厚が増加することが確認できた。1 回のコーティング操作で最大約0.8μmの膜厚が得られた。これはポリエチレングリコールの添加によりコーティング溶液の粘度が増加し、ディップコーティング時に基板へ塗布されるコーティング溶液の膜厚が増加したことが原因であると考えられる。一般的なディップコーティングにおいて、コーティング速度を速めるなどしてコーティング溶液の液厚を増加させた場合には、熱処理後の膜にクラックや剥離などが生じることが多々ある。しかし、今回、ポリエチレングリコールを添加したゾル溶液では、液膜及び膜厚が厚いにもかかわらず、均質な膜を作製することができた。
【0015】
作製した酸化チタン膜にRu錯体色素を吸着させ、色素吸着前後の酸化チタン膜の透過率を分光器で測定し、色素吸着量及び色素分子のサイズからラフネスファクターを算出した。図2にポリエチレングリコールの添加量とラフネスファクターの関係を示した。この図から分かるように、ポリエチレングリコールの添加量とともにラフネスファクターが増加した。ポリエチレングリコールの添加効果をより詳細に検討するために、ラフネスファクターを単位膜厚で換算したものも図3に示した。膜厚あたりのラフネスファクターがポリエチレングリコールの添加量とともに増加していることから、ポリエチレングリコールの添加は単に膜厚を増加させるだけではなく、酸化チタン膜の膜構造を多孔化させる効果があると結論される。
【0016】
一般的に、ゾル・ゲル法による酸化物薄膜の作製において、焼結が起こりにくい比較的低い加熱処理温度では、乾燥過程での溶媒の蒸発痕等の影響により多孔質な膜が得られやすい。これにポリエチレングリコールを添加することにより、ポリエチレングリコールが乾燥過程で溶媒(水)の蒸発後もゲル膜中に留まり、加熱処理過程で残存するポリエチレングリコールが焼失することでより多くの細孔を形成されると考えられる。また、ゲル膜中のポリエチレングリコール残存は、乾燥・加熱処理過程を通して酸化チタン膜の収縮すなわちゾル粒子間の接近を防ぎ、クラックや剥離の無い均質な膜を作ることができると考えられる。
【0017】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明は、ゾル・ゲル法により調製したディップコーティング溶液に予めポリエチレングリコールを添加することにより、透明かつ多孔質な酸化チタン膜等のセラミックス膜を作製することを可能とするものである。本発明によれば、ポリエチレングリコールの含有量を調整することにより、酸化チタン膜等のセラミックス膜の膜厚を1回のディップコーティング操作で、0.15〜0.77μm、及び膜厚1μmあたりのラフネスファクターを69〜170の範囲で制御できる。本発明で開発した酸化チタン膜等のセラミックス膜の作製方法は、光触媒、色素増感太陽電池、センサー材料等の様々な材料に適用できる有望な技術として有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】ポリエチレングリコール添加量と酸化チタン膜の膜厚との関係を示す。
【図2】ポリエチレングリコール添加量と酸化チタン膜のラフネスファクターとの関係を示す。
【図3】ポリエチレングリコール添加量と単位膜厚あたりの酸化チタン膜のラフネスファクターとの関係を示す。
Claims (5)
- 内部に多数の細孔を有し、1回のディップコーティング操作により膜厚が0.15〜0.77μm、かつ膜厚1μmあたりのラフネスファクターが69〜170の高表面積を有する、透明で、均一で耐久性に優れたセラミックス多孔質膜を製造する方法であって、
(1)金属アルコキシドをポリエチレングリコールを含む水に滴下するか、金属アルコキシドを水に滴下し、沈殿が得られた後にポリエチレングリコールを添加し、加水分解して得られる沈殿を酸又はアルカリを添加して加熱し、解膠することにより、均一なゾル溶液を調製する、
(2)ポリエチレングリコールの添加量を1−10g/100ml溶液に調整する、
(3)上記均一なゾル溶液を基板上にディップコーティングし、乾燥し、ポリエチレングリコールが焼失する温度の400℃以上で加熱処理して上記特性を有するセラミックス多孔質膜を作製する、
ことを特徴とするセラミックス多孔質膜の製造方法。 - 添加するポリエチレングリコールの添加量を変化させることにより表面積及び膜厚を制御することを特徴とする請求項1記載のセラミックス多孔質膜の製造方法。
- 1回のコーティング操作で、最大0.77μmの膜厚を有する膜を作製することを特徴とする請求項1記載のセラミックス多孔質膜の製造方法。
- ディップコーティング・加熱処理の操作を繰り返して膜厚を増加させることを特徴とする請求項1記載のセラミックス多孔質膜の製造方法。
- 請求項1から4のいずれかの方法で作製されたセラミックス多孔質膜であって、次の工程;(1)金属アルコキシドをポリエチレングリコールを含む水に滴下するか、金属アルコキシドを水に滴下し、沈殿が得られた後にポリエチレングリコールを添加し、加水分解して得られる沈殿を酸又はアルカリを添加して加熱し、解膠することにより、均一なゾル溶液を調製する、(2)ポリエチレングリコールの添加量を1−10g/100ml溶液に調整する、(3)上記均一なゾル溶液を基板上にディップコーティングし、乾燥し、ポリエチレングリコールが焼失する温度の400℃以上で加熱処理して上記特性を有するセラミックス多孔質膜を作製する、により作製された、内部に多数の細孔を有し、1回のディップコーティング操作により膜厚が0.15〜0.77μm、かつ膜厚1μmあたりのラフネスファクターが69〜170の高表面積を有する、透明で、均一で耐久性に優れたセラミックス多孔質膜。
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