JP3575770B2 - 血漿由来製剤 - Google Patents
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Description
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は糖鎖抗原の特定された血漿成分を含有する血漿由来製剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
通常輸血に際し、ABO式血液型の判定は必須であり、その不適合は輸血そのものに危険をもたらし、臨床症状としては軽度のアレルギー反応から、ショック、腎不全、播種性血管内凝固など重篤な症状を呈することもまれではない。
ABO式血液型は赤血球の表面にあるABH(O)糖鎖抗原の違いによって決定される。
一方、血漿成分採取装置の開発に伴い、血漿成分は、成分輸血や、血友病や感染症の治療薬の原料として使用されるようになってきた。遺伝的血液病である血友病は血液凝固因子のうち、先天的に第VIII因子、又は第IX因子活性が低下しているため出血性素因をもたらす伴性劣性遺伝疾患であり、第VIII因子欠乏による血友病Aの場合は第VIII因子濃縮製剤の、第IX因子欠乏による血友病Bの場合にはプロトロンビン複合製剤の補充療法が行われている。また、皮膚、粘膜出血を特徴とし、出血時間の延長と第VIII因子活性の低下を示す男女両性に出現する常染色体優性の遺伝的出血症であるフォンビルブランド(vW)病の場合は、血漿中のフォンビルブランド因子(vWF)の量的あるいは質的異常のため、血小板による一次止血が障害され、その治療として、新鮮血漿の補充療法が行われている。
このvWFは、血小板の内皮下組織粘着に大きな役割を果すことで知られている血漿糖タンパク質で、血液凝固第VIII因子のキャリアーである〔チタニ( Titani ) ら、トレンズ イン バイオケミカル サイエンシーズ(T.I.B.S.)、第13巻、第94〜97頁(1988)、ギルマ( Girma )ら、ブラッド( Blood )、第70巻、第605〜611頁(1987)〕。またvWFは、分子量0.5〜20×106 Daのマルチマーとして循環し、270kDaのサブユニットから成る〔前出T.I.B.S.、チョペック( Chopek ) ら、バイオケミストリー( Biochemistry ) 、第25巻、第3146〜3155頁(1986)〕。成熟サブユニットの完全なアミノ酸配列は明らかにされ〔チタニら、バイオケミストリー、第25巻、第3171〜3184頁(1986)〕、また糖タンパク質の限定タンパク分解によって得た断片や、各ドメインに特異的な抗体を使用して、ヘパリン〔フジムラ( Fujimura ) ら、ジャーナル オブ バイオロジカル ケミストリー( J.Biol.Chem.)、第262巻、第1734〜1739頁(1987)〕、血小板膜糖タンパク質〔プロウ( Plow ) ら、プロシーディングス オブ ザ ナショナル アカデミー オブ サイエンシーズ オブ ザUSA( Proc.Natl.Acad.Sci.USA)、第82巻、第8057〜8061頁(1985)、アンドリュース( Andrews )ら、バイオケミストリー、第28巻、第8326〜8336頁(1989)〕、コラーゲン〔タカギ( Takagi ) ら、ジャーナル オブ バイオロジカル ケミストリー、第264巻、第6017〜6020頁(1989)〕、血液凝固第VIII因子〔ホスター( Foster ) ら、ジャーナル オブ バイオロジカル ケミストリー、第262巻、第8443〜8446頁(1987)〕等への結合ドメインがそれぞれ同定されている。
【0003】
本発明者らは先にvWFは、サブユニット当り12個のN結合オリゴ糖鎖と10個のO結合オリゴ糖鎖を有し、これは全重量の約15%に相当することを報告した〔前出バイオケミストリー、第25巻、第3171〜3184頁(1986)〕。vWFの糖鎖部分の機能的役割はいまだ未解明であるが、タンパク質分解酵素に対する耐性〔フェデリシ( Federici ) ら、ジャーナル オブ クリニカル インベスチゲーション( J.Clin.Invest.)、第74巻、第2049〜2055頁(1984)〕、マルチマー化〔ワグナー( Wagner ) ら、ジャーナル オブ セル バイオロジー( J.Cell.Biol.)、第102巻、第1320〜1324頁(1986)〕、血小板〔ソデツ( Sodetz ) ら、ジャーナル オブ バイオロジカル ケミストリー、第253巻、第7202〜7206頁(1978)、ゴウデマンド( Goudemand )ら、スロンボシス ヘモスタス( Thrombos.Haemostas)、第53巻、第390〜395頁(1985)、フェデリシら、ブラッド、第71巻、第947〜952頁(1988)〕、あるいはコラーゲン〔ケスラー( Kessler) ら、スロンボシス リサーチ( Thrombos.Res. )、第57巻、第59〜76頁(1990)〕との相互作用に関与すると示唆されている。またアシアロvWFがリストセチンのような補助因子の存在しないところで血小板凝集を誘因するところから、vWFの糖鎖部分は、糖タンパク質のコンホメーションに影響すると考えられる〔デ マルコ( De Maro )ら、ジャーナル オブ クリニカル インベスチゲーション、第68巻、第321〜328頁(1981)〕。更にある種のvW病において、活性の無い糖鎖欠損vWFが報告されている〔グラルニク( Gralnick ) ら、サイエンス( Science )、第192巻、第56〜59頁(1976)〕。
【0004】
vWFの糖鎖構造の詳細については明らかでは無く、今までのところ、その90%がvWFである、ヒト血液凝固第VIII因子/vWF複合体において、二本鎖及び四本鎖複合型N結合糖鎖が2種、O結合糖鎖が一種決定されているのみである〔デベイレ( Debeire )ら、フェブス レターズ(FEBS Lett. ) 、第151巻、第22〜26頁(1983)、サモル( Samor )ら、ヨーロピアン ジャーナル オブ バイオケミストリー( Eur.J.Biochem. ) 、第158巻、第295〜298頁(1986)、サモルら、グリココンジュゲート ジャーナル(Glycoconjugate J. ) 、第6巻、第263〜270頁(1989)〕。本発明者らは、先に西洋ワサビのパーオキシダーゼ(HRP)結合レクチンを使用した一連の研究で、表1に示す様に、市販の第VIII因子濃縮物より、精製したvWFが、ハリエニシダ( Ulex europaeus ) アグルチニンI(UEA−I)と結合活性を有することを見出した〔マツイ( Matsui ) ら、バイオケミカル
アンド バイオフィジカル リサーチ コミュニケーションズ( Biochem.Biophys.Res.Commun. )、第178巻、第1253〜1259頁(1991)〕。
【0005】
【表1】
【0006】
なお、ConAはコンカナバリンA、WGAは麦芽( Wheat germ ) 凝集素、RCA120 はトウゴマ( Ricinus communis ) 凝集素、PNAはピーナッツ凝集素を示し、表1中ではHRP結合物を意味する。
【0007】
約10μgの各糖タンパク質、約3μgのvWFを各HRP−レクチンのドットブロットアッセイに使用し、+はHRP−レクチン結合性有、−は結合性無を示す。UEA−Iは血液型H(O)型構造のオリゴ糖に強い親和性を示すことが知られており、vWFは下記式(化1)の糖鎖を有することが示唆される。
【0008】
【化1】
Fα1 → 2Gβ1 → 4GNβ1 →
【0009】
(なお以下の各化学式中Fはフコース、Gはガラクトース、GNはN−アセチルグルコサミンを示す)
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者らが明らかとした血漿成分中の血液型H(O)型糖鎖抗原の存在の可能性は、血漿成分の臨床使用上、重要な問題を提起するものであり、そのため、該抗原の構造を特定する必要がある。
本発明の目的は上記現状にかんがみ、血漿成分の血液型糖鎖抗原を特定し、臨床使用上、安全な、管理された血漿成分を含有する血漿由来製剤を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明を概説すれば、本発明の第1の発明は精製されたフォンビルブランド因子を有効成分として使用する血漿由来製剤に関し、血漿由来製剤において、a)A型糖鎖抗原及びH(O)型糖鎖抗原、b)B型糖鎖抗原及びH(O)型糖鎖抗原、c)A型糖鎖抗原、B型糖鎖抗原及びH(O)型糖鎖抗原、d)H(O)型抗原より成る群より選択される糖鎖抗原を実質上一種含有する精製されたフォンビルブランド因子を有効成分として使用することを特徴とする。また、本発明の第2の発明も血漿由来製剤に関し、精製されたフォンビルブランド因子を有効成分として使用する血漿由来製剤において、血漿中のA型糖鎖抗原及びB型糖鎖抗原を除去した血漿成分より調製されてなることを特徴とする。
【0012】
血漿成分、例えばvWFは、市販の第VIII因子濃縮物より、前出バイオケミストリー、第25巻、第3146〜3155頁(1986)記載の方法により、セファロース( Sepharose )CL−4B、ゼラチン−セファロース( gelatin−Sepharose )、アグマチン−セファロース( agmatine−Sepharose ) 、高濃度Ca++下でのセファロースCL−4B等を用い高度に精製することができる。次に該精製物のヒドラジン分解を行い、vWFのN結合糖鎖をポリペプチド部分から定量的に分離することができる。分離した糖鎖のN−アセチル化後、例えばNaB3 H4 を用い、該糖鎖の標識化を行う。標識化N結合糖鎖のpH5.4での高圧ろ紙電気泳動により、図1に示す様にvWFのN結合糖鎖は中性分画(N)、2酸性成分(A−1及びA−2)に分離される。なお図1はvWFのN結合糖鎖の電気泳動図であり、横軸は泳動距離、縦軸は放射活性を示す。N、A−1、A−2の量比は14:56:30であり、A−1は1シアル酸、A−2は2シアル酸を含有する。
【0013】
N結合糖鎖構造は、例えば次の様にして決定することができる。すなわち、N結合糖鎖標識物をシアリダーゼ処理し、アシアロ糖鎖を調製し、次いで該調製物をレクチン結合カラム、例えばConAカラム、インゲン豆( Phaseolus vulgaris ) のエリスロフィトヘマグルチニン(E−PHA)カラム、ヨウシュチョウセンアサガオ( Datura stramonium )凝集素(DSA)カラム、RCA120 カラム、UEA−Iカラム等で処理することにより、糖鎖構造に応じ、図2に示すA〜Lの成分に分画することができる。すなわち、図2はアシアロ糖鎖より各種レクチンカラムを用いて、N結合糖鎖を分別した経過を示す図であり、図中α−mGはα−メチルグルコシド、α−mMはα−メチルマンノシド、Lacはラクトース、GN2 はジ−N−アセチルキトビオースを示す。A〜Lのモル比は2.8:6.9:59.9:0.8:0.8:1.1:5.2:0.8:1.5:2.9:6.3:11.0であり、A、B、D、E、Lについてはバイオ−ゲルP−4カラムにより、それぞれA1、A2、B1、B2、D1〜D4、E1、E2、L1〜L3に分別される。
【0014】
図3はアシアロ糖鎖及びA〜Lのバイオ−ゲルP−4カラムによる溶出パターンであり、縦軸は放射活性、横軸は溶出時間を示し、図中の矢印はグルコースオリゴマーの溶出位置を示す。
【0015】
次に、各種のエキソグリコシダーゼ、例えばα−ガラクトシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、β−N−アセチルヘキソサミニダーゼ、β−N−アセチルグルコサミニダーゼ、α−N−アセチルガラクトサミニダーゼ、α−マンノシダーゼ、β−マンノシダーゼ、α−L−フコシダーゼ、α1→2−L−フコシダーゼ等による分画されたN結合糖鎖の逐次分解分析、及び各フラクションのメチル化分析により各N結合糖鎖の構造が決定される。
【0016】
下記式(化2)にA1の構造を示す。A1のモル比%は全体の2.2%であり、H(O)型構造を有する。なお以下の各化学式中Mはマンノース、GNOTはN−〔 3H〕アセチルグルコサミニトール、±は残基が糖鎖中の70%以上に存在することを示す。
【0017】
【化2】
【0018】
下記の式(化3)、(化4)にA2中の2成分、A2−1、A2−2の構造を示す。(化3)はA2−1の構造であり、A2−1のモル比%は全体の0.5%であり、A型構造を有する。なお以下の各化学式中GaNはN−アセチルガラクトサミンを示す。
【0019】
【化3】
【0020】
下記式(化4)はA2−2の構造であり、A2−2のモル比%は全体の0.1%であり、B型構造を有する。
【0021】
【化4】
【0022】
下記式(化5)にB1の構造を示す。B1のモル比%は全体の5.5%であり、H(O)型構造を有する。
【0023】
【化5】
【0024】
下記の式(化6)、(化7)にB2中の2成分、B2−1、B2−2の構造を示す。
(化6)はB2−1の構造であり、B2−1のモル比%は全体の1.2%であり、A型構造を有する。
【0025】
【化6】
【0026】
下記式(化7)はB2−2の構造であり、B2−2のモル比%は全体の0.2%であり、B型構造を有する。
【0027】
【化7】
【0028】
下記式(化8)にCの構造を示す。Cのモル比%は全体の59.9%であり、前出フェブス レターズ、第151巻、第22〜26頁(1983)に報告の構造と一致する。
【0029】
【化8】
【0030】
下記式(化9)にD1〜D4の一般構造式を示す。D1はn=1で、モル比%は全体の0.3%であり、D2はn=2で、モル比%は全体の0.2%であり、D3はn=3で、モル比%は全体の0.2%であり、D4はn=4で、モル比%は全体の0.1%である。
【0031】
【化9】
【0032】
下記式(化10)にE1の構造を示す。E1のモル比%は全体の0.4%である。
【0033】
【化10】
【0034】
下記式(化11)にE2の構造を示す。E2のモル比%は全体の0.4%である。
【0035】
【化11】
【0036】
下記式(化12)にFの構造を示す。Fのモル比%は全体の1.1%であり、H(O)型の構造を有する。
【0037】
【化12】
【0038】
下記式(化13)にGの構造を示す。Gのモル比%は全体の5.2%である。
【0039】
【化13】
【0040】
下記式(化14)にHの構造を示す。Hのモル比%は全体の0.4%であり、H(O)型の構造を有する。
【0041】
【化14】
【0042】
下記の式(化15)、(化16)にI中の2成分、I1、I2の構造を示す。I1のモル比%は全体の1.1%であり、H(O)型の構造を有する。I2のモル比%は全体の0.4%である。
【0043】
【化15】
【0044】
【化16】
【0045】
下記の式(化17)、(化18)にK中の2成分、K1、K2の構造を示す。K1のモル比%は全体の4.3%である。K2のモル比%は全体の1.4%であり、H(O)型の構造を有する。
【0046】
【化17】
【0047】
【化18】
【0048】
下記式(化19)にL1の構造を示す。L1のモル比%は全体の5.1%である。
【0049】
【化19】
【0050】
下記の式(化20)、(化21)にL2中の2成分L2−1、L2−2の構造を示す。L2−1のモル比%は全体の2.1%であり、前出ヨーロピアン ジャーナル オブ バイオケミストリー、第158巻、第295〜298頁(1986)に報告の構造と一致する。L2−2のモル比%は全体の0.9%である。
【0051】
【化20】
【0052】
【化21】
【0053】
下記の式(化22)、(化23)にL3中の2成分L3−1、L3−2の構造を示す。L3−1のモル比%は全体の0.6%であり、L3−2のモル比%は全体の0.2%である。
【0054】
【化22】
【0055】
【化23】
【0056】
以上、市販の血漿製剤より精製されたvWFのアシアロN結合糖鎖の構造が決定される。これらのうち(化1)のH(O)型糖鎖構造を有するN結合糖鎖のモル比%は全体の11.7%であり、本発明者らが先に見出していたUEA−IのvWFへの結合は、これらの糖鎖構造によるものである。また下記の式(化24)、(化25)のA型、B型糖鎖構造を有するN結合糖鎖が血漿糖タンパク質の糖鎖として初めて見出され、(化24)のA型糖鎖構造を有するN結合糖鎖のモモ比は全体の1.7%、(化25)のB型糖鎖構造を有するN結合糖鎖のモル比は全体の0.3%である。
【0057】
【化24】
【0058】
【化25】
【0059】
また、この精製vWFをSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動後、PVDF膜に転写した場合、該vWFは抗A血清、抗B血清、抗HレクチンのUEA−Iと、それぞれ反応性を示す。なお、該PVDF膜を有機溶媒で脱脂処理しても反応性は消失しないが、前もってエンドグリコシダーゼFで処理したvWFが転写されている場合、該vWFは反応性を失っていた。
【0060】
A、B、O、AB型ドナー由来血漿に抗vWF抗体を加え、vWFを免疫沈降させ、該vWFをSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動後、PVDF膜に転写した場合の、各ドナー由来vWFの抗Aモノクローナル抗体、抗Bモノクローナル抗体、抗HレクチンのUEA−Iとの反応性を表2に示す。
【0061】
【表2】
表 2
───────────────────────────────────
血漿ドナー 抗Aモノクローナル 抗Bモノクローナル UEA−I
血液型 抗体 抗体
───────────────────────────────────
A + − +
B − + +
O − − +
AB + + +
───────────────────────────────────
【0062】
(表中+は反応性有、−は反応性無を示す)
A型ドナーの血漿からは、A型糖鎖抗原及びH(O)型糖鎖抗原を有するvWF、B型ドナーの血漿からは、B型糖鎖抗原及びH(O)型糖鎖抗原を有するvWF、O型ドナーの血漿からは、H(O)型糖鎖抗原を有するvWF、AB型ドナーの血漿からはA型糖鎖抗原、B型糖鎖抗原、H(O)型糖鎖抗原を有するvWFが得られる。
【0063】
以上、本発明により、糖鎖抗原の特定された、血漿由来製剤が提供される。該血漿由来製剤中には、糖鎖抗原の特定された血漿成分、例えばvWF、α2 −マクログロブリン等の血漿糖タンパク質が少なくとも1種含有されている。ABH(O)糖鎖抗原の特定された血漿成分は、例えば各血液型ドナー由来血漿の混合物、該混合物より調製された血漿製剤等より、例えば抗A、抗B抗体固定カラム、レクチン固定カラム等を用いて調製することができる。また、各血液型ドナー血漿別に適宜、調製してもよい。調製された糖鎖抗原の特定された血漿成分は、必要に応じて、賦形剤や担体と共に、常法により製剤化し、使用することができる。
【0064】
以上、詳細に説明したように、本発明により、血液型に留意した血漿由来製剤が提供される。該製剤は血液凝固因子が血液型別に管理されており、長期間、反復使用時においても副作用の危険がなく安全な、また、輸血時の半減期の問題も改善された血漿由来製剤が提供される。
【0065】
【実施例】
以下に本発明の実施例を挙げるが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0066】
実施例1
(1)精製vWFよりのN結合糖鎖の調製及び放射標識化
市販の第VIII因子濃縮物(ハイランドセラピューティクス製)より、前出バイオケミストリー、第25巻、第3146〜3155頁(1986)に記載の方法に準じ、ヒトvWFを精製した。
次に該vWF37.9mgを無水ヒドラジン1mlに懸濁し、9時間のヒドラジン分解を行った後、N−アセチル化を行い、定量的にN結合糖鎖を遊離した。次に該糖鎖の1/6量を、0.05N NaOH 0.8ml中で、30℃、4時間、NaB3 H4 (160MBq)で還元し、糖鎖のトリチウム標識を行い、その後NaBH4 を6mg溶解した0.05N NaOH 0.3mlを加えて、反応を更に2時間続けて、反応を終了した。
結合した放射活性は9.8×106 cpmであった。また残りの5/6量の糖鎖は0.05N NaOH 1.5ml中、30℃、4時間、NaB2 H4 30mgで還元し、メチル化分析用の 2H標識物を調製した。
【0067】
(2)アシアロ糖鎖の調製及びレクチンカラムによる分画
標識化糖鎖のpH5.4での高圧ろ紙電気泳動図を図1に示す。Nは中性画分、A−1は1シアル酸結合物、A−2は2シアル酸結合物であり、図中、矢印1、2、3は標準物質、ラクチトール、シアリルラクチトール、ブロモフェノールブルーのそれぞれの泳動位置を示す。なお図1において、横軸は泳動距離(cm)、縦軸は放射活性を示す。
次にレクチンカラム分画に供するため、糖鎖のシアリダーゼ〔アルスロバクター ウレアファシエンス( Arthrobacter ureafaciens ) 由来:ナカライテスク社製〕処理を行い、アシアロ糖鎖を調製した。なお酵素反応は0.15M酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.0)中、37℃、20時間行った。
【0068】
レクチン アフィニティ クロマトグラフィーは以下のように行った。ConA−セファロースカラム(ファルマシア社製)(0.7×13cm)は30mMNaClを含む10mMトリス−塩酸緩衝液pH7.4を用い、流速12ml/hrで平衡化を行い、25℃中保持した。糖鎖の試料は緩衝液15mlで洗浄したカラムへアプライした。その後、溶出液を10mMα−メチルグルコシドを含む緩衝液15mlとした後、100mMα−メチルマンノシドを含む緩衝液15mlで溶出した。E−PHA−アガロースカラム(E−Yラボラトリーズ社製)(0.7×15cm)は0.15M NaClを含む10mMリン酸ナトリウム緩衝液pH7.2(PBS)を用いて流速12ml/hrで平衡化を行い、25℃中保持した。糖鎖試料をアプライした後、PBS30mlで溶出した。DSA−アガロースカラム(E−Yラボラトリーズ社製)(0.7×18cm)は30mM NaClを含む10mMトリス塩酸緩衝液pH7.4を用いて、流速6ml/hrで平衡化し、4℃中保持した。糖鎖試料をアプライした後、緩衝液20mlで溶出を行い、ジ−N−アセチルキトビオースを含む(2mg/ml)緩衝液5mlで溶出した。UEA−I−アガロース(E−Yラボラトリーズ社製)カラム(0.5×10cm)は流速6ml/hrでPBSによって平衡化し、4℃中保持した。糖鎖試料をアプライした後溶出は6mlのPBSで行った後、50mM L−フコシダーゼを含むPBS5mlで行った。レクチン(RCA120)アフィニティカラム(ホーネン社製)HPLCは、アーカイブズ オブ バイオケミストリー アンド バイオフィジクス( Arch.Biochem.Biophys. )第257巻、第387〜394頁(1987)に報告の本発明者らの方法で行った。
【0069】
ヒトvWFより得られた全アシアロ糖鎖の約71%が、ConA−セファロースカラムに吸着した。このうち約98%が10mMα−メチルグルコシドを含む緩衝液で溶出し約2%が100mMα−メチルマンノシドを含む緩衝液で溶出した。
これらはレクチン(RCA120)アフィニティHPLCによって3つ(A、B、C)と2つ(D、E)の画分に分けられた(図2)。更に画分Aはバイオ−ゲルP−4カラムによってA1、A2、画分Bはバイオ−ゲルP−4カラムによってB1、B2に分けられた(図3)。
ラクトースを含む緩衝液でRCA120−HPLCから溶出されてきた画分Cは全アシアロ糖鎖の59.9%の割合であった(図2)。
全アシアロ糖鎖の0.8%の割合の画分DはRCA120−HPLCカラムを素通りし(図2)、更にバイオ−ゲルP−4カラムによって約3:2:2:1の割合でD1〜D4のピークに分けられた(図3)。
全アシアロ糖鎖の0.8%の割合である画分EはRCA120−HPLCカラムに結合しなかったが、遅れて溶出した(図2)。この画分は更にバイオ−ゲルP−4カラムによりE1とE2に分けられた(図3)。
ConA−セファロースカラムを素通りするアシアロ糖鎖の約6.3%はE−PHA−アガロースカラムから溶出が遅れ(図2)たが、このカラムはR1 、R2 がHか糖であるような下記式(化26)に示す糖鎖にアフィニティーがあり、溶出が遅れた糖鎖は次のDSA−アガロースカラムに吸着しなかったけれど、その次のRCA120−HPLCによって約17:83の割合で2つの画分FとGに分けられた(図2)。
【0070】
【化26】
Gβ1→4GNβ1→2Mα1→6(GNβ1→4)〔R1 →4(R2 →4GNβ1→2)Mα1→3〕Mβ1→4GNβ1→
【0071】
また、アシアロ糖鎖の1.1%を占める分画Fは、バイオ−ゲルP−4カラムにより約15.5グルコースユニットに相当する位置に溶出した(図3)。
画分GはE−PHA−アガロースカラムで遅れて溶出してきた糖鎖の主成分であり、アシアロ糖鎖の5.2%の割合を占め、RCA120−HPLCカラムに結合した。この画分はラクトースを含む緩衝液で溶出した(図2)。
分画Hはアシアロ糖鎖の0.8%の割合であり、ConA−セファロース、E−PHA−アガロース、DSA−アガロースを素通りし、更にRCA120−HPLCカラムも同様に素通りした(図2)。
アシアロ糖鎖の1.5%の割合を占めConA−セファロース、E−PHA−アガロース、DSA−アガロースカラムを素通りする分画IはRCA120−HPLCカラムから遅れて溶出された(図2)。
アシアロ糖鎖の2.9%の割合を占めConA−セファロース、E−PHA−アガロース、DSA−アガロースカラムを素通りした分画JはRCA120−HPLCカラムに結合しラクトースを含む緩衝液で溶出した(図2)。
アシアロ糖鎖の6.3%の割合の画分KはConA−セファロースとE−PHA−アガロースを素通りし、DSA−アガロースカラムからは遅れて溶出されたがRCA120−HPLCカラムには吸着してラクトースを含む緩衝液で溶出された(図2)。この画分のDSA−アガロースカラムへのアフィニティによって、画分Kの糖鎖には下記式(化27)の構造が含まれる。
【0072】
【化27】
Gβ1→4GNβ1→4(Gβ1→4GNβ1→2)M
【0073】
アシアロ糖鎖の17%の割合を占め、ConA−セファロースとE−PHA−アガロースカラムを素通りする画分LはDSA−アガロースカラムとRCA120−HPLCカラムに吸着しそれぞれジ−N−アセチルキトビオース、ラクトースを含む緩衝液で溶出した(図2)。この画分はバイオ−ゲル(Bio−Gel)P−4カラムで、その外側の鎖の部分に3、4、5つのGalβ1→4GlcNAcユニットをもつ、複合型糖鎖の領域に、それぞれ46:43:11の割合で3つの画分L1、L2、L3に分かれた(図3)。
【0074】
(3)メチル化分析及びグリコシダーゼ処理
N結合糖鎖、A1〜E2のConA吸着分画(分画1)、F、GのE−PHA吸着分画(分画2)、H〜L3のConA、E−PHA非吸着分画(分画3)のメチル化分析を行った。結果を表3〜表5に示す。
【0075】
【表3】
【0076】
【表4】
【0077】
【表5】
【0078】
表3〜表5の結果より、C−4,6位が置換されているGlcNAc残基は主たる還元末端残基であり、Gal、Fuc、GlcNAc、GalNAc、Man残基は非還元末端にも存在する。また、Fuc残基をもつトリマンノシルコア構造が主要であり、糖鎖内部のGal残基はC−2,3、C−2、C−3、C−6位に置換がある。N結合糖鎖では検出された2,3,4−トリ−O−メチルガラクチトールがアシアロ糖鎖では検出されないこと、2,3,4,6−O−メチルガラクチトールがアシアロ糖鎖では増加していることにより、N結合糖鎖のシアル酸残基はGal残基のC−6位に主に結合している。Man残基は分画1の糖鎖ではC−2、C−3,6位に置換があり、分画2の糖鎖ではC−2、C−3,4,6位に置換がある。更に、分画3の糖鎖ではC−2、C−3,6、C−2,6、C−2,4位に置換がある。また、非還元末端のGalNAc残基と、C−2,3位に置換があるGal残基は分画1に検出された。また、糖鎖内部のGlcNAc残基はC−4位に限って置換がある。
【0079】
グリコシダーゼによる放射活性をもつ糖鎖(0.5〜100×104 cpm)の消化は次の酵素を用い行った。アルスロバクター ウレアファシエンス由来シアリダーゼは、ナカライテスク社より購入した。α−マンノシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、β−N−アセチルヘキソサミニダーゼは、リー( Li ) らの方法〔メソッズ イン エンザイモロシー( Methods Enzymol. ) 第28巻、第702〜713頁(1972)〕に従って、タチナタマメのひきわりより精製した。Manα1→2Man結合を特異的に切断するアスペルギルス サイトーイ( Aspergillus saitoi ) 由来α−マンノシダーゼ〔ヤマシタ( Yamashita )ら、バイオケミカル アンド バイオフィジカル リサーチ コミュニケーションズ、第96巻、第1335〜1342頁(1980)〕はバイオキミカ エ バイオフィジカ アクタ( Biochim.Biophys.Acta ) 、第658巻、第45〜53頁(1981)、ジャーナル オブ バイオケミストリー( J.Biochem )、第99巻、第1645〜1654頁(1986)に記載の方法に従って、モルシン(盛進製薬社製)より、精製した。
【0080】
Galβ1→4GlcNAc結合は水解するが、Galβ1→3GlcNAc結合や、Galβ1→6GlcNAc結合は水解しないディプロコッカル( Diplococcal )β−ガラクトシダーゼ〔ポールソン( Paulson )ら、ジャーナル オブ バイオロジカル ケミストリー、第253巻、第5617〜5624頁(1978)〕とGlcNAcβ1→2Man結合は水解するが、GlcNAcβ1→4ManやGlcNAcβ1→6Man結合は水解しない。
【0081】
β−N−アセチルヘキソサミニダーゼ〔ヤマシタ( Yamashita )ら、バイオケミカル アンド バイオフィジカル リサーチ コミュニケーションズ、第100巻、第226〜232頁(1981)〕はジャーナル オブ バイオロジカルケミストリー、第252巻、第8615〜8623頁(1977)に記載の方法によって精製した。アチャティナ フリカ( Achatina fulica )より精製したかたつむりのβ−マンノシダーゼと、アクレモニウム エスピー( Acremonium sp. ) 由来α−N−アセチルガラクトサミニダーゼは、生化学工業社より購入した。
グリーンコーヒー豆由来α−ガラクトシダーゼと牛副こう丸α−L−フコシダーゼは、シグマ社より購入した。Fucα1→2Galβ1→よりFuc残基を遊離するがGalβ1→4(Fucα1→3)GlcNAcβ1→と、Galβ1→3(Fucα1→4)GlcNAcβ1→からは遊離しないコリネバクテリウム( Corynebacterium )のα1→2−L−フコシダーゼは宝酒造社より購入した。
【0082】
酵素消化は通常、37℃、20時間トルエン存在下、下記の条件で行った。
タチナタ豆β−ガラクトシダーゼ消化:0.2Mクエン酸−リン酸緩衝液(pH6.0)40μl中、酵素5ミリユニット。α−ガラクトシダーゼ消化:0.2Mクエン酸−リン酸緩衝液(pH6.5)80μl中、25℃、酵素0.1ユニット。タチナタ豆β−N−アセチルヘキソサミニダーゼ消化:0.2Mクエン酸−リン酸緩衝液(pH5.0)50μl中酵素0.5ユニット。ディプロコッカルβ−N−アセチルグルコサミニダーゼ消化:0.2Mクエン酸−リン酸緩衝液(pH5.0)40μl中、酵素5ミリユニット。ディプロコッカルβ−ガラクトシダーゼとディプロコッカルβ−N−アセチルグルコサミニダーゼの混合した酵素による消化:0.2M酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.0)60μl中、各酵素5ミリユニット。α−N−アセチルガラクトサミニダーゼ消化:0.2Mクエン酸−リン酸緩衝液(pH4.5)60μl中酵素0.1ユニット 45時間。タチナタマメα−マンノシダーゼ消化:0.2M酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.5)50μl中酵素1ユニット。かたつむりβ−マンノシダーゼ消化:0.1Mクエン酸ナトリウム緩衝液(pH4.0)50μl中酵素10ミリユニット。牛副こう丸α−L−フコシダーゼ消化:0.1Mクエン酸−リン酸緩衝液(pH6.0)40μl中、酵素20ミリユニット。コリネバクテリウムα1→2−L−フコシダーゼ消化:0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.2)30μl中、33℃ 45時間、酵素0.1ユニット。なお、コリネバクテリウムα1→2−L−フコシダーゼ消化の反応液は複合型糖鎖の還元末端のGlcNAcにα1→6結合しているフコース残基を遊離しなかった。これらの酵素反応後、各反応液は沸騰水浴中で3分間加熱して反応を停止した。
【0083】
図5〜図8にアシアロ糖鎖、及び酵素処理物のバイオ−ゲルP−4溶出パターンをそれぞれ示す。なおバイオ−ゲルP−4はエキストラファインを使用し、各図中の縦軸は放射活性、横軸は溶出時間を示し、図中の矢印はグルコース オリゴマーの溶出位置を示す。
【0084】
(4)糖鎖構造の決定
画分A1はタチナタマメβ−ガラクトシダーゼと、その後のタチナタマメβ−N−アセチルヘキソサミニダーゼの逐次分解で1つのGal残基(図4b実線)と、その後、1つのGlcNAc残基(図4b点線)を遊離させることでより小さな糖鎖に変った。同様の結果がディプロコッカルの酵素を使用することで得られた。更に、画分A1はコリネバクテリウムα1→2−L−フコシダーゼで消化した時、約0.5グルコースユニット溶出位置が移動し、この放射活性のピークは、標準物質の下記式(化28)と同じ位置である約14.5グルコースユニットに相当する位置に溶出した(図4c)。
【0085】
【化28】
Gβ1→4GNβ1→2Mα1→6(Gβ1→4GNβ1→2Mα1→3)Mβ1→4GNβ1→4(Fα1→6)GN0T
【0086】
更に、この放射活性のある糖鎖は、ディプロコッカルβ−ガラクトシダーゼとディプロコッカルβ−N−アセチルグルコサミニダーゼによる逐次分解で、2つのGal残基(図4d実線)と、その後、2つのGlcNAc残基(図4d点線)を遊離し標準物質のトリマンノシル糖鎖下記の式(化29)、(化30)と同じ位置である約8と7グルコースユニットに相当する位置に各約9:1の割合で溶出して主たるピークと小さいピークを与えた(図4d点線)。
【0087】
【化29】
Mα1→6(Mα1→3)Mβ1→4GNβ1→4(Fα1→6)GN0T
【0088】
【化30】
Mα1→6(Mα1→3)Mβ1→4GNβ1→4GN0T
【0089】
更に、この図4d(点線)に示した放射活性のある糖鎖は更にタチナタマメα−マンノシダーゼ、β−マンノシダーゼ、タチナタマメβ−N−アセチルヘキソサミニダーゼ、牛副こう丸α−フコシダーゼを用いた逐次分解によってトリマンノシルコアの構造と同定された。
【0090】
ConA−セファロースに吸着する糖鎖は、C−3、C−4、C−6位に置換のないα−マンノース残基が少なくとも2つ存在する必要があること、ディプロコッカルβ−ガラクトシダーゼはGalβ1→4GlcNAc結合は水解するが、Galβ1→3GlcNAcとGalβ1→6GlcNAc結合は水解しないこと、ディプロコッカルβ−N−アセチルグルコサミニダーゼがGlcNAcβ1→2Man結合は水解するがGlcNAcβ1→4ManとGlcNAcβ1→6Man結合は水解しないことより、図4cの放射活性のある糖鎖は下記式(化31)の二本鎖複合型糖鎖構造をもつことが示された。
【0091】
【化31】
Gβ1→4GNβ1→2Mα1→6(Gβ1→4GNβ1→2Mα1→3)Mβ1→4GNβ1→4(±Fα1→6)GN0T
【0092】
更に、コリネバクテリウムα1→2−L−フコシダーゼはFucα1→2Gal→結合よりフコース残基を遊離するが、Galβ1→4(Fucα1→3)GlcNAcβ1→、Galβ1→3(Fucα1→4)GlcNAcβ1→、還元末端のGlcNAc残基のC−6位に結合したフコース残基をもつ二本鎖複合型糖鎖からは遊離しないこと、画分A1はRCA120−HPLCカラムに結合しない(図2)けれども、酵素消化によってその画分から得られた図4cの放射活性のある糖鎖は吸着し、ラクトースを含む緩衝液で溶出すること、該RCA120−HPLCカラムには、非還元末端のGal残基を2つもつ二本鎖複合型糖鎖が吸着し、ラクトースを含む緩衝液で溶出すること、その上、画分A1の糖鎖は血液型のH(O)構造、すなわち式(化1)の糖鎖に高い親和性があるUEA−I−アガロースカラムに吸着し、50mM L−フコースを含む緩衝液によって溶出したこと等により、Fuc残基は、二本鎖糖鎖の2つの非還元末端Gal残基のうち1つのC−2位に結合しており、β−ガラクトシダーゼとβ−N−アセチルグルコサミニダーゼの逐次分解からGalβ1→4GlcNAcβ1→の外側の二本鎖のうち一本を保護していると決定された。これはConA−セファロースに結合した糖鎖画分のメチル化分析(表3〜表5)より、糖鎖内部の糖の誘導体として、3,4,6−トリ−O−メチルガラクチトール、3,4,6−トリ−O−メチルマンニトール、2,4−ジ−O−メチルマンニトール、3,6−ジ−O−メチル2−N−メチルアセトアミド−2−デオキシグルチトールが検出されることと合致した。これらの結果より、画分A1は式(化2)に示したように血液型のH(O)構造、式(化1)をもつ二本鎖複合型糖鎖を含むと決定した。血液型H(O)構造が画分A1中の糖鎖のManα1→3側にのみ位置しているという事実は以下のようにタチナタマメα−マンノシダーゼの特異性に基づいて確認した。すなわち、タチナタマメβ−ガラクトシダーゼとタチナタマメβ−N−アセチルヘキソサミニダーゼによる消化により、画分A1から得られた放射活性のある糖鎖(図4b点線)をタチナタマメα−マンノシダーゼ消化した時、マンノースは遊離しなかった。この放射活性のある糖鎖は下記の式(化32)、又は(化33)の構造をもつこと、タチナタマメのα−マンノシダーゼは下記式(化34)からMan残基を1つ遊離するが下記式(化35)からは遊離しないことより血液型H構造は式(化2)のように二本鎖のManα1→3の側に存在することが決定された。
【0093】
【化32】
Fα1→2Gβ1→4GNβ1→2Mα1→6(Mα1→3)Mβ1→4GNβ1→4(±Fα1→6)GN0T
【0094】
【化33】
Fα1→2Gβ1→4GNβ1→2Mα1→3(Mα1→6)Mβ1→4GNβ1→4(±Fα1→6)GN0T
【0095】
【化34】
R1→2Mα1→6(Mα1→3)Mβ1→4GNβ1→4(±Fα1→6)GN0T
【0096】
【化35】
Mα1→6(R1→2Mα1→3)Mβ1→4GNβ1→4(±Fα1→6)GN0T
【0097】
画分B1は図3Bの下線で示されているが、画分A1から得られた図4b(点線)に相当する、放射活性をもつB1の酵素処理糖鎖を、タチナタマメα−マンノシダーゼで消化したとき、1つのMan残基が遊離されたことを除いて画分B1からは画分A1から得られたのと同様の結果を得た。したがって、画分B1には式(化5)に示すようにManα1→6側に血液型のH(O)型構造をもつ二本鎖複合型糖鎖が含まれる。
また、バイセクトGlcNAc残基をもたないで、Manα1→6側に非還元末端のGalβ1→残基をもつ二本鎖複合型糖鎖は、Manα1→3側にこの構造をもつ糖鎖よりもRCA120−HPLCカラムよりはやく溶出するので、画分A1とB1がそれぞれ二本鎖のManα1→3側とManα1→6側にH(O)型構造をもつということはそれらのRCA120−HPLCカラムの挙動とも合致する。
【0098】
画分A2は図3Aに下線で示されているがタチナタマメβ−ガラクトシダーゼとその後のタチナタマメβ−N−アセチルヘキソサミニダーゼによる逐次分解によって、1つのGal残基(図4e実線)と、1つのGlcNAc残基(図4e点線)を遊離することで、より小さな糖鎖へ移行した。同じ結果がディプロコッカルの酵素を用いても得られた。また、画分A2をα−N−アセチルガラクトサミニダーゼで消化した時、バイオ−ゲルP−4の溶出において、1つのGalNAc残基の遊離に相当する約2グルコースユニット分の移動があった(図4f実線)。また、コリネバクテリウムα1→2−L−フコシダーゼでの消化によって図4fの実線で示された一部の糖鎖からFuc残基を遊離したことを示す、溶出パターンの移動があった(図4f点線)。図4fの点線で示される放射活性をもつ物質の約85%が、図4c中の画分A1から得られた放射活性をもつ糖鎖から得た結果と同じ結果を示した。すなわち、ディプロコッカルβ−ガラクトシダーゼと、その後のディプロコッカルβ−N−アセチルグルコサミニダーゼの逐次分解で、2つのGal残基とその後2つのGlcNAc残基を遊離し(図4gの主ピーク及び図4h実線)、生成物は約9:1の割合で約8と7のグルコースユニットに相当する位置に溶出した。これらはそれぞれFuc残基のあるトリマンノシルコアの糖鎖と、ないものであり図4d(点線)の糖鎖に一致した。
【0099】
一方、図4f中点線で示された放射活性をもつ物質の残り15%からはディプロコッカルの酵素の逐次分解によって1つのGal残基とその後1つのGlcNAc残基を遊離した(図4gの小さいピーク及び図4h点線)。この生成物(図4h点線)はα−ガラクトシダーゼ消化によって1つのGal残基を遊離した(図4i)。図4i中の放射活性のもつ生成物はコリネバクテリウムα1→2−L−フコシダーゼ、ディプロコッカルβ−ガラクトシダーゼ、ディプロコッカルβ−N−アセチルグルコサミニダーゼの逐次分解によって約9:1の割合でFuc残基のあるものとないものの、トリマンノシルコア構造にまで移行した(図4j)。また、画物A2の放射活性をもつ糖鎖はUEA−I−アガロースカラムに吸着しないけれども、α−N−アセチルガラクトサミニダーゼとα−ガラクトシダーゼによる逐次分解の後では、カラムに吸着し、フコースを含む緩衝液で溶出した。
【0100】
以上の結果と、メチル化分析(表3〜表5)より、画分A2の糖鎖は、下記式(化36)という糖鎖のフコースの付いたGal残基にそれぞれ85%と15%の割合でα配位結合したGalNAc残基とGal残基を含み、2つのGalβ1→4GlcNAcβ1→グループのうち1つがβ−ガラクトシダーゼとβ−N−アセチルグルコサミニダーゼの逐次分解を受けることが解明された。
【0101】
【化36】
Gβ1→4GNβ1→2Mα1→6(Fα1→2Gβ1→4GNβ1→2Mα1→3)Mβ1→4GNβ1→4(±Fα1→6)GN0T
【0102】
また、ConA−セファロースに結合した糖鎖分画のメチル化分析より、4,6−ジ−O−メチルガラクチトールのみが他の糖によって2箇所置換されているGal残基の誘導体として検出されたことから画分A2は式(化24)、(化25)の血液型のA型構造、B型構造をそれぞれもつ式(化3)、(化4)の二本鎖複合型糖鎖(A2−1、及びA2−2)と決定された。
【0103】
画分B2は、図3Bの下線で示されているが、画分A1とB1の糖鎖の解析の場合において、画分A2で得られた解析結果を同様の結果が得られた。
したがって、画分B2は式(化6)、(化7)に示すように血液型A型、B型構造をもつ二本鎖複合型糖鎖(B2−1、及びB2−2)と決定された。なお画分A2、B2において、血液型構造が二本鎖のManα1→3側とManα1→6側に結合していることは、既述の場合と同様に、RCA120−HPLCカラムへの挙動により決定した。
【0104】
ラクトースを含む緩衝液でRCA120−HPLCから溶出されてきた画分Cは全アシアロ糖鎖の59.9%の割合であり、図4cの放射活性のある糖鎖と標準物質の下記式(化37)と同じ位置、つまり約14.5グルコースユニットに相当する位置(図3C)にバイオ−ゲルP−4カラムより溶出した。
【0105】
【化37】
Gβ1→4GNβ1→2Mα1→6(Gβ1→4GNβ1→2Mα1→3)Mβ1→4GNβ1→4(Fα1→6)GN0T
【0106】
画分Cの解析からは、画分A1から得られた図4cに示す放射活性をもつ糖鎖について先に述べた結果と同一の結果が得られた。したがってメチル化分析のデータ(表3〜表5)を合せ、画分C中の糖鎖を式(化8)のGalが2つ付加した二本鎖複合型糖鎖と決定した。
【0107】
全アシアロ糖鎖の0.8%の割合の画分DはRCA120−HPLCカラムを素通りし(図2)、バイオ−ゲルP−4カラムによって約3:2:2:1の割合で、D1からD4の4つのピークに分けられた(図3D)。ピークD1〜D4は以下のような結果から、ハイマンノース型糖鎖の式(化9)のn=1:Man6 GlcNAc2 、n=2:Man7 GlcNAc2 、n=3:Man8 GlcNAc2 、n=4:Man9 GlcNAc2 とそれぞれ同定した。
【0108】
まず、第一に、β−ガラクトシドに特異的なRCA120−HPLCカラムを素通りした。第二に、バイオ−ゲルP−4カラムからの溶出位置(図5k)は、それぞれの標準物質の位置と同じであった。第三に、Manα1→2結合を特異的に切断するアスペルギルス サイトーイα−マンノシダーゼ消化によって消化物はすべて各4、3、2、1個のマンノース残基を遊離して、約9グルコースユニットに相当する位置で標準物質の下記式(化38)と同一位置にバイオ−ゲルP−4カラムから溶出した(図5のl実線)。
【0109】
【化38】
Mα1→6(Mα1→3)Mα1→6(Mα1→3)Mβ1→4GNβ1→4GN0T
【0110】
第四に、更にその後、タチナタマメα−マンノシダーゼ消化を行った時、4つのマンノース残基が図5のlの実線で示された放射活性のある物質から遊離し、消化物は、標準物質の下記式(化39)の位置に溶出した(図5のl点線)。
【0111】
【化39】
Mβ1→4GNβ1→4GN0T
【0112】
更に、かたつむりβ−マンノシダーゼ、それに続くタチナタマメβ−N−アセチルヘキソサミニダーゼによる逐次分解によって、標準物質の下記式(化40)、次いでN−アセチルグリコサミニトールと同じ位置に溶出した。
【0113】
【化40】
GNβ1→4GN0T
【0114】
第五に画分AからEの混合物のメチル化分析によってMan残基の誘導体として2,3,4,6−テトラ−O−メチル−、3,4,6−トリ−O−メチル−、2,4−ジ−O−メチル−マンニトールを検出した(表3〜表5)。以上によりD1〜D4の構造を決定した。
全アシアロ糖鎖の0.8%の割合である画分EはRCA120−HPLCカラムに結合しなかったが、遅れて溶出した(図2)。この画分はバイオーゲルP−4カラムより、標準物質の下記の式(化41)、(化42)と、それぞれ同じ位置に約1:1の割合で2つの主要ピークE1とE2に分かれた(図3E)。
【0115】
【化41】
Gβ1→4GNβ1→2Mα1→6(3)〔Mα1→3(6)〕Mβ1→4GNβ1→4(Fα1→6)GN0T
【0116】
【化42】
Gβ1→4GNβ1→2Mα1→6(3)〔GNβ1→2Mα1→3(6)〕Mβ1→4GNβ1→4(Fα1→6)GN0T
【0117】
また、放射活性のある画分E2をタチナタマメβ−N−アセチルヘキソサミニダーゼ消化した時、消化物は1つのGlcNAc残基がはずれたことで放射活性のある画分E1と同じ溶出パターンを示した(図5m点線)。図5m(点線)と放射活性のある画分E1のどちらの物質もタチナタマメα−マンノシダーゼに抵抗性を示すがディプロコッカルβ−ガラクトシダーゼとディプロコッカルβ−N−アセチルグルコサミニダーゼでの逐次分解によって、1つのGal残基と、その後1つのGlcNAc残基を遊離した(図5n、図5のo)。そして約8:2の割合でFuc残基のもつトリマンノシルコア構造と、もたないものとして同定された糖鎖になった(図5のo)。したがって図5mの点線で示された画分E2の消化物は画分E1の糖鎖と同一であった。
【0118】
更にまた、放射活性のある画分E2を、ディプロコッカルβ−ガラクトシダーゼと、その次のディプロコッカルβ−N−アセチルグルコサミニダーゼによる逐次分解を行うと、1つのGal残基と、その後に2つのGlcNAc残基を遊離して、その画分は図5のoの画分と同一の生成物になった。
【0119】
これらの結果とメチル化分析のデータ(表3〜表5)と、ConA−セファロースカラムとRCA120−HPLCカラムの糖鎖アフィニティと、画分A、B中の糖鎖に対するディプロコッカルの酵素とタチナタマメα−マンノシダーゼの特異性に関する結果を合せ、画分Eの糖鎖を式(化10)、及びGal残基の1つ付加した式(化11)の複合型糖鎖と決定した。
【0120】
画分GはE−PHA−アガロースカラムで遅れて溶出してきた糖鎖の主成分であり、全アシアロ糖鎖の5.2%の割合を占めRCA120−HPLCカラムに結合した(図2)。
この画分の主成分はバイオ−ゲルP−4カラムでは標準物質の下記式(化43)が溶出する位置である約15グルコースユニットに相当する位置に溶出した(図3G、図6t)。
【0121】
【化43】
Gβ1→4GNβ1→2Mα1→6(GNβ1→4)(GNβ1→4GNβ1→2Mα1→3)Mβ1→4GNβ1→4(Fα1→6)GN0T
【0122】
タチナタマメβ−ガラクトシダーゼ消化によって、画分Gの放射活性のある画分(図6t)から2つのGal残基が遊離した(図6u実線)。タチナタマメβ−N−アセチルヘキソサミニダーゼ消化を行ったところ図6u(実線)の放射活性のある糖鎖は、約9:1の割合で、Fuc残基のあるトリマンノシルコアとFuc残基のないものの糖鎖になった(図6u点線)。更にまた、放射活性のある画分G(図6t)をタチタナマメ由来酵素とは基質特異性の異なるディプロコッカルβ−ガラクトシダーゼとディプロコッカルβ−N−アセチルグルコサミニダーゼの混合物で消化したところ、標準物質の下記の式(化44)、(化45)と同じ位置にそれぞれ溶出してくる糖鎖に移行した(図6v)。
【0123】
【化44】
GNβ1→2Mα1→6(GNβ1→4)(Mα1→3)Mβ1→4GNβ1→4(Fα1→6)GN0T
【0124】
【化45】
GNβ1→2Mα1→6(GNβ1→4)(Mα1→3)Mβ1→4GNβ1→4GN0T
【0125】
更に、タチナタマメβ−N−アセチルヘキソサミニダーゼ消化において、図6vの物質はFuc残基のあるトリマンノシルコア構造とFuc残基のない構造になり、ディプロコッカルの酵素の混合物は2つのGal残基と、1つのGlcNAc残基を遊離していた。ディプロコッカルβ−ガラクトシダーゼはGalβ1→4GlcNAcを水解するが、Galβ1→3GlcNAcや、Galβ1→6GlcNAcは水解しないこと、また、ディプロコッカルβ−N−アセチルグルコサミニダーゼは下記式(化46)からただ1つのGlcNAc残基を遊離して下記式(化47)が生成すること等や、メチル化分析(表3〜表5)、レクチンカラムへの親和性等から、分画Gの糖鎖を式(化13)のバイオセクトGlcNAcを持った二本鎖複合型糖鎖と同定した。
【0126】
【化46】
GNβ1→2Mα1→6(GNβ1→4)(GNβ1→2Mα1→3)Mβ1→4GNβ1→4(±Fα1→6)GN0T
【0127】
【化47】
GNβ1→2Mα1→6(GNβ1→4)(Mα1→3)Mβ1→4GNβ1→4(±Fα1→6)GN0T
【0128】
アシアロ糖鎖の1.1%の割合を占める画分FはRCA120−HPLCカラムより遅れて溶出し(図2)、バイオ−ゲルP−4カラムにより約15.5グルコースユニットに相当する位置に溶出する(図3F、図5p)。放射活性のある分画をディプロコッカルβ−ガラクトシダーゼ消化したところ、1つのGal残基が遊離したことに相当するピークの移動があった(図5q)。この消化物はディプロコッカルβ−N−アセチルグルコサミニダーゼ消化の影響を受けないけれど、タチナタマメβ−N−アセチルヘキソサミニダーゼ消化を受けた(図5r)。更に、分画F(図5p)をコリネバクテリウムα1→2−L−フコシダーゼ消化を行ったところ1つのFuc残基が遊離し放射活性のある生成物は約15グルコースユニットに相当する位置に溶出し(図5s)、この段階の放射活性をもつ生成物(図5s)からはバイセクトGlcNAc残基をもった二本鎖を含む分画Gから得られた結果と同様の糖鎖解析結果を得た。
【0129】
したがって、バイセクトのGlcNAc残基をもつ二本鎖のGal残基にα1→2結合したFuc残基はディプロコッカルβ−ガラクトシダーゼとタチナタマメβ−N−アセチルヘキソサミニダーゼの逐次分解から2本のGalβ1→4GlcNAcβ1→のうち1本を保護していた。
更にまた、メチル化分析のデータよりE−PHAより遅れて溶出する画分中の糖鎖のGal残基はC−2位にのみ置換があること、ディプロコッカルβ−N−アセチルグルコサミニダーゼが下記式(化48)のManα1→3側からGlcNAc残基を遊離させることはできるが、下記式(化49)のManα1→6側からは遊離しないこと、またE−PHA−アガロースカラムとの相互作用に必要な構造からFuc残基はManα1→3側のGal残基のC−2位に結合しており、一方Manα1→6側のGal残基は糖の置換が無く、分画Fは式(化12)のバイセクトGlcNAc残基をもちManα1→3側に、血液型のH(O)型構造をもつ二本鎖複合型糖鎖と決定された。
【0130】
【化48】
R→GNβ1→2Mα1→6(GNβ1→4)(GNβ1→2Mα1→3)Mβ1→4GNβ1→4(±Fα1→6)GN0T
【0131】
【化49】
GNβ1→2Mα1→6(GNβ1→4)(R→GNβ1→2Mα1→3)Mβ1→4GNβ1→4(±Fα1→6)GN0T
【0132】
分画Hはアシアロ糖鎖の0.8%の割合であり、RCA120−HPLCカラムと同様にConA−セファロース、E−PHA−アガロース、DSA−アガロースカラムを素通りし、図3Hと図6wに示すようなバイオ−ゲルP−4カラムからの溶出パターンを得た。この分画はディプロコッカルβ−ガラクトシダーゼ、ディプロコッカルβ−N−アセチルグルコサミニダーゼ消化に影響を受けなかった。また、図6wの下線で示した放射活性をもつ糖鎖は分画Hの主成分(約60%)であり、コリネバクテリウムα1→2−L−フコシダーゼ消化で、2つのFuc残基を遊離することによって、分画Gと同じ位置に溶出する更に小さい糖鎖になった(図6x)。この段階の生成物(図6x)はディプロコッカルβ−ガラクトシダーゼとディプロコッカルβ−N−アセチルグルコサミニダーゼによる逐次分解に影響を受けた(図6y)。図6xの生成物のうち、約80%は分画Gから得られた結果と同じ結果を得た。
【0133】
更に図6wの下線で示した放射活性のある糖鎖をUEA−Iアガロースにアプライしたところ、カラムに吸着し、フコースを含む緩衝液で溶出された。したがって、2つのFuc残基は、2つのGal残基のC−2位に結合しており、Gal残基を、β−ガラクトシダーゼ消化から保護していた。この結果とメチル化分析のデータ(表3〜表5)とディプロコッカルの酵素の基質特異性と、レクチンカラムの結合のアフィニティより、分画Hは式(化14)の両方の鎖に血液型H(O)型構造をもち、バイセクトのGlcNAc残基をもった二本鎖複合型糖鎖を含むと同定した。
【0134】
分画Iは、バイオ−ゲルP−4カラムによって、約15.5グルコースユニットに相当する主要ピークと、約14グルコースユニットに相当する小さいピークとに、約7:3の比で分けられた(図3I)。主要ピークからは酵素消化によって図5pに示した画分Fから得られたのと同様の結果が得られたけれども、画分Iのディプロコッカルβ−ガラクトシダーゼ消化物(図5qに示した画分Fから得られた放射活性をもつ糖鎖に相当する)は画分Fの消化物とは違ってディプロコッカルβ−N−アセチルグルコサミニダーゼ消化の影響を受けた。これらの結果と、メチル化分析(表3〜表5)E−PHA−アガロースカラムへの親和性、ディプロコッカル酵素の基質特異性より、画分Iの主要成分は式(化15)のバイセクトGlcNAcをもった二本鎖複合型糖鎖であり、Manα1→6側の枝のGal残基のC−2位に結合したFuc残基の影響により、Manα1→3側のGalβ1→4GlcNAcβ1→がディプロコッカルβ−ガラクトシダーゼやディプロコッカルβ−N−アセチルグルコサミニダーゼの作用を受ける。
【0135】
バイオ−ゲルP−4カラムで約14グルコースユニットに相当する位置に溶出する(図3I)小さい方のピークからは酵素消化で分画Gと、ほぼ同様の結果が得られたが、このピークからはディプロコッカルβ−ガラクトシダーゼやタチナタマメのβ−ガラクトシダーゼ消化によって1つのGal残基しか遊離しなかった。
したがって、小さいピーク中の糖鎖はただ1つGal残基をもった二本鎖複合型糖鎖、すなわち、式(化16)、又は下記式(化50)であり、E−PHA−アガロースカラムへの親和性より、小さいピークの糖鎖は式(化16)であると決定した。
【0136】
【化50】
Gβ1→4GNβ1→2Mα1→6(GNβ1→4)(GNβ1→2Mα1→3)Mβ1→4GNβ1→4(±Fα1→6)GN0T
【0137】
画分Kからは図3Kと図6z(実線)に示すようにバイオ−ゲルP−4カラムの溶出パターンが得られた。図6z(実線)中の下線によって示された画分Kの主要な放射活性をもつ画分(90%)はディプロコッカルβ−ガラクトシダーゼ消化で3つ及び2つのGal残基を遊離することによってより小さな糖鎖になった(図6a′実線)。主ピークの溶出する位置は標準物質の下記式(化51)の溶出位置と一致した。
【0138】
【化51】
GNβ1→2Mα1→6〔GNβ1→4(GNβ1→2)Mα1→3〕Mβ1→4GNβ1→4(Fα1→6)GN0T
【0139】
また、ディプロコッカルβ−N−アセチルグルコサミニダーゼ消化によって、図6a′(実線)中の放射活性のある生成物の約75%が、2つのGlcNAc残基を遊離し、下記式(化52)と同じ位置に溶出した(図6b′実線)。
【0140】
【化52】
Mα1→6(GNβ1→4Mα1→3)Mβ1→4GNβ1→4(±Fα1→6)GN0T
【0141】
更に、その後のタチナタマメβ−N−アセチルヘキソサミニダーゼ消化によって、図6b′(実線)中、下線で示された糖鎖は約8:2の割合で、既に述べたようにFuc残基のあるものとないもののトリマンノシルコア構造と同一の糖鎖になった(図6c′実線)。ディプロコッカルβ−N−アセチルグルコサミニダーゼは下記の式(化53)、(化54)からはそれぞれ1残基と2残基のGlcNAcを遊離するので、ここで分析した糖鎖は式(化54)であった。
【0142】
【化53】
GNβ1→6(GNβ1→2)Mα1→6(GNβ1→2Mα1→3)Mβ1→4GNβ1→4(±Fα1→6)GN0T
【0143】
【化54】
GNβ1→2Mα1→6〔GNβ1→4(GNβ1→2)Mα1→3〕Mβ1→4GNβ1→4(±Fα1→6)GN0T
【0144】
これらの結果、及びメチル化分析(表3〜表5)、レクチンカラムの挙動に必要な構造より、画分Kの主要成分の75%は式(化17)の、C−2,4位に枝分かれのあるMan残基をもつ三本鎖複合型糖鎖と決定した。
更にまた、図6z(実線)中下線に示された画分Kの主要な放射活性のある糖鎖(90%)を、牛副こう丸α−フコシダーゼ消化した時、0、1、2残基のFucが遊離し、放射活性をもつ生成物は約16.5グルコースユニットに相当する。標準物質の下記式(化55)と同じ位置に単一ピークとして溶出した(図6z点線)。
【0145】
【化55】
Gβ1→4GNβ1→2Mα1→6〔Gβ1→4GNβ1→4(Gβ1→4GNβ1→2)Mα1→3〕Mβ1→4GNβ1→4GN0T
【0146】
更に、この生成物をディプロコッカルβ−ガラクトシダーゼ、ディプロコッカルβ−N−アセチルグルコサミニダーゼ、タチナタマメβ−N−アセチルヘキソサミニダーゼによって逐次分解すると、各ステップの生成物は3残基のGal、2残基のGlcNAc、1残基のGlcNAcを遊離して標準物質の下記の式(化56)(図6a′点線)、(化57)(図6b′点線)、(化58)(図6c′点線)と同じ位置に溶出した。
【0147】
【化56】
GNβ1→2Mα1→6〔GNβ1→4(GNβ1→2)Mα1→3〕Mβ1→4GNβ1→4GN0T
【0148】
【化57】
Mα1→6(GNβ1→4Mα1→3)Mβ1→4GNβ1→4GN0T
【0149】
【化58】
Mα1→6(Mα1→3)Mβ1→4GNβ1→4GN0T
【0150】
図6z(実線)中、下線で示された画分Kの主成分をUEA−I−アガロースカラムにアプライしたところ、その成分の約25%がカラムに吸着し、フコースを含む緩衝液で溶出し、画分Kの主成分の約25%が血液型のH(O)型構造式(化1)を有する。
【0151】
これらの結果をメチル化分析のデータ(表3〜表5)から、画分K中の糖鎖はC−2,4位に枝分かれのあるMan残基をもつ三本鎖複合型糖鎖を含むこと;鎖のFuc残基は還元末端のGlcNAc残基かGal残基のC−2位か、その両方に結合していること;画分Kの主成分の糖鎖の25%に存在しているGal残基に結合したFuc残基はディプロコッカルβ−ガラクトシダーゼによる水解からGalβ1→4GlcNAcβ1→の3本の外側の鎖のうち1本を保護している(図6a′実線)ことが解明され、画分KのH(O)型構造を有する糖鎖を式(化18)と決定した。
【0152】
画分Lは、バイオ−ゲルP−4カラムで、その外側の鎖の部分に3、4、5個のGalβ1→4GlcNAcユニットをもつ複合型糖鎖の領域に、それぞれ46:43:11の割合で3つの画分L1、L2、L3に分かれた(図3L、図7d′)。
【0153】
画分L1は全アシアロ糖鎖の約5.1%の割合を占め、バイオ−ゲルP−4カラムよりその外側の鎖に3つのGalβ1→4GlcNAcユニットをもつ複合型糖鎖の領域に溶出した(図7d′)。この画分の糖鎖からはディプロコッカルβ−ガラクトシダーゼ(図7e′)、ディプロコッカルβ−N−アセチルグルコサミニダーゼ(図7f′実線)、タチナタマメβ−N−アセチルヘキソサミニダーゼ(図7f′点線)での逐次分解によって3残基のGal、1残基のGlcNAc、2残基のGlcNAcを遊離し、最終的には約8:2の比で、Fuc残基の付いたトリマンノシルコア構造と付かない構造の糖鎖になった(図7f′点線)。これらの結果とメチル化分析のデータ(表3〜表5)と三本鎖複合型糖鎖へのディプロコッカル酵素の基質特異性から画分L1の糖鎖を式(化19)のC−2,6位が置換されたMan残基をもつ三本鎖複合型糖鎖であると決定した。
【0154】
画分L2は全アシアロ糖鎖のおよそ4.7%の割合であり、バイオ−ゲルP−4カラムよりその外側の鎖に4つのGalβ1→4GlcNAcユニットをもつ複合型糖鎖の領域に溶出された(図7d′)。放射活性をもつ画分L2をタチナタマメβ−ガラクトシダーゼ消化したところ、図7g′の下線で示される2つの画分L2aとL2bがそれぞれ4残基と、2〜3残基のGal残基を遊離することによって約44:56の割合で生じた。画分L2aはディプロコッカルβ−N−アセチルグルコサミニダーゼ(図7h′実線)と、その後のタチナタマメβ−N−アセチルヘキソサミニダーゼ(図7h′点線)による逐次分解で1残基のGlcNAcとその後3残基のGlcNAcを遊離した。この逐次分解で画分L2aは標準物質の下記式(化59)と同じ位置に溶出する糖鎖になり、その後約7:3の割合でフコース残基のついたトリマンノシル構造と付かない構造になった。
【0155】
【化59】
GNβ1→6(GNβ1→2)Mα1→6(GNβ1→4Mα1→3)Mβ1→4GNβ1→4(Fα1→6)GN0T
【0156】
ディプロコッカル酵素の基質特異性、メチル化分析(表3〜表5)より、及び以上の結果より該L2aは、L2成分中の四本鎖複合型糖鎖由来であり、該L2成分中の四本鎖糖鎖L2−1の構造を式(化20)と決定した。
【0157】
画分L2bはタチナタマメβ−N−アセチルヘキソサミニダーゼ消化によって図7i′に示すような3つのピークとなった。図7i′中下線で示された糖鎖は3残基のGlcNAcの遊離によるもので画分L2bの3分の1の割合を占めるが、タチナタマメβ−ガラクトシダーゼとその後のβ−N−アセチルヘキソサミニダーゼによる逐次分解によって、1残基のGalと1残基のGlcNAcを遊離し(図7j′実線と点線)、Fuc残基がついたトリマンノシルコア構造と付かないものに約9:1の割合で消化された。したがって、図7i′の下線で示された糖鎖は式(化21)に示したような画分L2に含まれている1つのGalβ1→4GlcNAc1→3繰返し構造をもつ三本鎖複合型糖鎖L2−2由来であった。
【0158】
図7i′中の残りの生成物はタチナタマメβ−ガラクトシダーゼとタチナタマメβ−N−アセチルヘキソサミニダーゼにもはや影響を受けなかった。画分L2の約30%が、UEA−I−アガロースカラムに結合しフコースを含む緩衝液で溶出した。
【0159】
画分L3はアシアロ糖鎖の約1.2%の割合であって、バイオ−ゲルP−4カラムよりその外側の鎖に5つのGalβ1→4GlcNAcユニットをもつ複合型糖鎖の領域に溶出された(図7d′)。タチナタマメβ−ガラクトシダーゼ消化によって2から4残基のGalを遊離し、バイオ−ゲルP−4カラムによって18〜20グルコースユニットの間にブロードなピークとして溶出する糖鎖となった。
画分L3はディプロコッカルβ−ガラクトシダーゼとディプロコッカルβ−N−アセチルグルコサミニダーゼの混合物によって消化したところ、図7k′(実線)で示すように多数のピークになり、その約47%と13%が標準物質の下記の式(化60)、(化61)と同じ位置に溶出する糖鎖となった(図7k′中、下線で示したL3b、L3a)。
【0160】
【化60】
GNβ1→6(GNβ1→2)Mα1→6(GNβ1→4Mα1→3)Mβ1→4GNβ1→4(Fα1→6)GN0T
【0161】
【化61】
GNβ1→6(GNβ1→2)Mα1→6(Mα1→3)Mβ1→4GNβ1→4(Fα1→6)GN0T
【0162】
タチナタマメβ−N−アセチルヘキソサミニダーゼ消化によってL3aとL3bより、それぞれ2残基と3残基のGlcNAcを遊離し、約8:2の割合でFuc残基の付いたトリマンノシルコア構造と付かないものとなった(図7k′点線)。メチル化分析(表3〜表5)、ディプロコッカル酵素の基質特異性と合せ、画分L3中の2成分L3−1、L3−2をそれぞれ式(化22)の2つのGalβ1→4GlcNAcβ1→3繰返し構造をもつ三本鎖複合型糖質、式(化23)の1つのGalβ1→4GlcNAcβ1→3繰返し構造をもつ四本鎖複合型糖質と同定した。
【0163】
実施例2
(1)血液型別血漿成分の調製、分離
(a)A、B、O型血液型別に採血した血液より血漿を調製し、該血漿を0.38%クエン酸ナトリウム添加後、プロテアーゼインヒビター(4mM EDTA、4mM N−エチルマレイミド、100KIUアプロチニン)を加え、−80℃で保存した。次に、各血液型別血漿1μlのSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動を行い、各血漿成分を分離した。α2 −マクログロブリンは180kDaに、vWFは270kDaの位置に泳動、分離した。次に血漿成分を、PVDF膜に移し、抗Aマウスモノクローナル抗体、抗Bマウスモノクローナル抗体〔オルソー社製(IgM)、又はバイオカーブ社製A005(IgG3 )〕、ビオチン−UEA−I(ホーネン社製)とそれぞれ20℃、90分反応させた。なお抗体、レクチンはトリス緩衝生理食塩水(TBS:150mM NaCl、10mMトリス−塩酸、pH7.4)に0.05%のツイーン20を含有させたTW/TBSで希釈し、使用した。血漿成分との特異的結合はホースラディッシュパーオキシダーゼ(HPP)結合2次抗体、又はアビジンを使用し、4−クロロ−ナフトール、H2 O2 を基質とし検出した。
【0164】
A型血液より調製、分離したα2 −マクログロブリン及びvWFはそれぞれ、抗A抗体、UEA−Iと特異的に結合した。
B型血液より調製、分離したα2 −マクログロブリン及びvWFはそれぞれ、抗B抗体、UEA−Iと特異的に結合した。
AB型血液より調製、分離したα2 −マクログロブリン及びvWFは抗A抗体、抗B抗体と結合した。
O型血液より調製、分離したα2 −マクログロブリン及びvWFは抗A抗体、抗B抗体とは結合せず、抗H(O)レクチンと結合した。
【0165】
(b)上記(a)記載のA型血液より調製した血漿(1ml)に抗Aモノクローナル抗体(オルソー社製、マウスIgM)0.5ml、抗α2 −マクログロブリン血清(ダコー社製、ウサギIgG)100μl、抗vWF血清(奈良医大、宮田博士より供与、ウサギIgG)100μlのいずれかを添加し、24時間、4℃に保持した。免疫凝集物を遠心分離後、数回TBSで洗浄し、血漿成分の各免疫凝集物を調製した。100μlのSDS−緩衝液(2%SDS、5%2−メルカプトエタノール、10%グリセリン、50mMトリス−塩酸、pH6.8)に溶解した2〜5μlの免疫凝集物は、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動後PVDF膜に転写した。
【0166】
A型血液より調製した血漿より抗A抗体で凝集した沈殿物の180kDa、270kDaの位置の泳動物はそれぞれ抗A抗体と結合し、抗B抗体とは結合しなかった。なお、抗α2 −マクログロブリン血清で凝集した沈殿物の180kDaの位置の泳動物は抗A抗体と結合し、抗vWF血清で凝集した沈殿物の270kDaの位置の泳動物は抗A抗体と結合した。また、180kDa、270kDaともUEA−Iと結合した。
【0167】
このほか、上記(a)記載のB型、O型、AB型の各血液型血漿より抗vWF抗体で免疫凝集し、各vWF凝集物を調製した。次に、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動後、PVDF膜に転写し、各vWFの抗A抗体、抗B抗体、UEA−Iとの結合性を測定した。
【0168】
B型血液の血漿より分離、調製したvWFは抗B抗体、UEA−Iと結合し、AB型血液の血漿より分離、調製したvWFは抗A抗体、抗B抗体、UEA−Iと結合し、O型血液の血漿より分離、調製したvWFは抗A抗体、抗B抗体とは結合せず、UEA−Iと結合した。
【0169】
同様に、各血液型の血漿より抗α2 −マクログロブリン抗体を用い調製したα2 −マクログロブリンは、抗A抗体、抗B抗体、UEA−Iに対し、上記と同様の結果を示した。
【0170】
なお、前記のA型血液の血漿より抗α2 −マクログロブリン抗体で調製した、免疫凝集物5μl、精製vWF10μgをそれぞれ100mUのエンドグリコシダーゼF(ベーリンガー マンハイム社製)を含む50μlの溶液(50mM酢酸ナトリウム緩衝液、pH6.0、40mM EDTA、2%n−オクチルグルコシド、2%2−メルカプトエタノール、0.1%SDS、0.25%窒化ナトリウム)中で10時間、37℃で反応させ、等量のSDS−緩衝液を添加後、100℃、5分間熱処理を行い、反応を停止した場合、各エンドグリコシダーゼF処理されたα2 −マクログロブリン、vWFはABH(O)血液型抗原性を消失した。
【0171】
(c)血液型A型、B型、O型、AB型の健常人、各10名より採血し、血液型別の血漿を調製した。
次に、20μg/mlの抗vWF抗体〔MBL社製、ヤギIgG:50mM重炭酸ナトリウム緩衝液(pH9.5)〕でELISAプレート(ベクトン アンド ディクソン社製)を24時間、4℃処理し、プレートを抗vWF抗体でプレコートし、次いで1%BSAを含むTBSでブロッキングした。次いで上記の血液型別血漿の段階希釈物を、90分、該プレートと、室温で反応させた。次にプレートをTW/TBSで洗浄後、抗A抗体、抗B抗体(オルソー社製、TW/TBSで1/20に希釈)、ビオチン−UEA−I(5μg/ml)とそれぞれ45分、反応させた。抗体、レクチンとの結合性はオルトフェニレンジアミン塩酸塩、H2 O2 を基質とし、HRP結合の二次抗体、又はアビジンなどを用い測定した。HRPの反応は、暗所で30分行い、硫酸で反応を停止し、490nmの吸光度を測定した。
【0172】
結果を図8に示す。A型血液より分離、調製したvWFは抗A抗体、UEA−Iと結合し、B型血液より分離、調製したvWFは抗B抗体、UEA−Iと結合し、AB型血液より分離、調製したvWFは抗A、抗B抗体、UEA−Iと結合し、O型血液より分離、調製したvWFはUEA−Iと結合した。なお図中、横軸は希釈前の血漿濃度を1とした時の、血漿希釈濃度、縦軸は490nmの吸光度、黒丸印は抗A抗体の結合、白丸印は抗B抗体の結合、黒三角印はUEA−Iの結合をそれぞれ示す。
【0173】
(d)α2 −マクログロブリン(シグマ社)、実施例1−(1)の精製vWFをそれぞれSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動後、PVDF膜に転写した。上記α2 −マクログロブリンは各血液型の混合血漿由来であり、抗A抗体、UEA−Iと結合性を示した。また、抗B抗体とも弱い結合性を示した。また、vWFも同様な結果を示した。このα2 −マクログロブリンを抗A抗体結合カラム、抗A抗体及び抗B抗体結合カラム、抗B抗体結合カラムでそれぞれ処理し、抗B糖鎖抗原、抗A及び抗B糖鎖抗原、抗A糖鎖抗原がそれぞれ除去されたα2 −マクログロブリンを調製した。また同様に該精製vWFも処理し、各糖鎖抗原別のvWFを調製した。
【0174】
(e)各ABO型血液より調製した血漿の混合物を抗A抗体結合カラムに通し、A型糖鎖抗原の除去された血漿を調製した。また、該混合物を抗B抗体結合カラムに通し、B型糖鎖抗原の除去された血漿を調製した。更にまた、同混合物を抗A、抗B抗体結合カラムに通し、A型、B型糖鎖抗原の除去された血漿を調製した。また、抗A抗体、抗B抗体を用いる凝集法により、生じる免疫複合体を除去し、各血漿を調製した。
【0175】
【発明の効果】
本発明により、ABH(O)型糖鎖抗原の特定された血漿由来製剤が提供される。本製剤は長期間、反復使用した場合においても、血液凝固に起因する副作用が生ずることなく、血友病、vW病等の治療、血漿由来成分の輸血等において安全な製剤として有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】vWFのN結合糖鎖の電気泳動を示す図である。
【図2】アシアロ糖鎖のレクチンカラム処理工程を示す図である。
【図3】レクチンカラム処理糖鎖のバイオ−ゲルP−4溶出パターンを示す図である。
【図4】酵素処理前後の糖鎖のバイオ−ゲルP−4溶出パターンを示す図である。
【図5】酵素処理前後の糖鎖のバイオ−ゲルP−4溶出パターンを示す図である。
【図6】酵素処理前後の糖鎖のバイオ−ゲルP−4溶出パターンを示す図である。
【図7】酵素処理前後の糖鎖のバイオ−ゲルP−4溶出パターンを示す図である。
【図8】血液型別血漿由来のvWFの抗A抗体、抗B抗体、UEA−Iとの結合性を示す図である。
【産業上の利用分野】
本発明は糖鎖抗原の特定された血漿成分を含有する血漿由来製剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
通常輸血に際し、ABO式血液型の判定は必須であり、その不適合は輸血そのものに危険をもたらし、臨床症状としては軽度のアレルギー反応から、ショック、腎不全、播種性血管内凝固など重篤な症状を呈することもまれではない。
ABO式血液型は赤血球の表面にあるABH(O)糖鎖抗原の違いによって決定される。
一方、血漿成分採取装置の開発に伴い、血漿成分は、成分輸血や、血友病や感染症の治療薬の原料として使用されるようになってきた。遺伝的血液病である血友病は血液凝固因子のうち、先天的に第VIII因子、又は第IX因子活性が低下しているため出血性素因をもたらす伴性劣性遺伝疾患であり、第VIII因子欠乏による血友病Aの場合は第VIII因子濃縮製剤の、第IX因子欠乏による血友病Bの場合にはプロトロンビン複合製剤の補充療法が行われている。また、皮膚、粘膜出血を特徴とし、出血時間の延長と第VIII因子活性の低下を示す男女両性に出現する常染色体優性の遺伝的出血症であるフォンビルブランド(vW)病の場合は、血漿中のフォンビルブランド因子(vWF)の量的あるいは質的異常のため、血小板による一次止血が障害され、その治療として、新鮮血漿の補充療法が行われている。
このvWFは、血小板の内皮下組織粘着に大きな役割を果すことで知られている血漿糖タンパク質で、血液凝固第VIII因子のキャリアーである〔チタニ( Titani ) ら、トレンズ イン バイオケミカル サイエンシーズ(T.I.B.S.)、第13巻、第94〜97頁(1988)、ギルマ( Girma )ら、ブラッド( Blood )、第70巻、第605〜611頁(1987)〕。またvWFは、分子量0.5〜20×106 Daのマルチマーとして循環し、270kDaのサブユニットから成る〔前出T.I.B.S.、チョペック( Chopek ) ら、バイオケミストリー( Biochemistry ) 、第25巻、第3146〜3155頁(1986)〕。成熟サブユニットの完全なアミノ酸配列は明らかにされ〔チタニら、バイオケミストリー、第25巻、第3171〜3184頁(1986)〕、また糖タンパク質の限定タンパク分解によって得た断片や、各ドメインに特異的な抗体を使用して、ヘパリン〔フジムラ( Fujimura ) ら、ジャーナル オブ バイオロジカル ケミストリー( J.Biol.Chem.)、第262巻、第1734〜1739頁(1987)〕、血小板膜糖タンパク質〔プロウ( Plow ) ら、プロシーディングス オブ ザ ナショナル アカデミー オブ サイエンシーズ オブ ザUSA( Proc.Natl.Acad.Sci.USA)、第82巻、第8057〜8061頁(1985)、アンドリュース( Andrews )ら、バイオケミストリー、第28巻、第8326〜8336頁(1989)〕、コラーゲン〔タカギ( Takagi ) ら、ジャーナル オブ バイオロジカル ケミストリー、第264巻、第6017〜6020頁(1989)〕、血液凝固第VIII因子〔ホスター( Foster ) ら、ジャーナル オブ バイオロジカル ケミストリー、第262巻、第8443〜8446頁(1987)〕等への結合ドメインがそれぞれ同定されている。
【0003】
本発明者らは先にvWFは、サブユニット当り12個のN結合オリゴ糖鎖と10個のO結合オリゴ糖鎖を有し、これは全重量の約15%に相当することを報告した〔前出バイオケミストリー、第25巻、第3171〜3184頁(1986)〕。vWFの糖鎖部分の機能的役割はいまだ未解明であるが、タンパク質分解酵素に対する耐性〔フェデリシ( Federici ) ら、ジャーナル オブ クリニカル インベスチゲーション( J.Clin.Invest.)、第74巻、第2049〜2055頁(1984)〕、マルチマー化〔ワグナー( Wagner ) ら、ジャーナル オブ セル バイオロジー( J.Cell.Biol.)、第102巻、第1320〜1324頁(1986)〕、血小板〔ソデツ( Sodetz ) ら、ジャーナル オブ バイオロジカル ケミストリー、第253巻、第7202〜7206頁(1978)、ゴウデマンド( Goudemand )ら、スロンボシス ヘモスタス( Thrombos.Haemostas)、第53巻、第390〜395頁(1985)、フェデリシら、ブラッド、第71巻、第947〜952頁(1988)〕、あるいはコラーゲン〔ケスラー( Kessler) ら、スロンボシス リサーチ( Thrombos.Res. )、第57巻、第59〜76頁(1990)〕との相互作用に関与すると示唆されている。またアシアロvWFがリストセチンのような補助因子の存在しないところで血小板凝集を誘因するところから、vWFの糖鎖部分は、糖タンパク質のコンホメーションに影響すると考えられる〔デ マルコ( De Maro )ら、ジャーナル オブ クリニカル インベスチゲーション、第68巻、第321〜328頁(1981)〕。更にある種のvW病において、活性の無い糖鎖欠損vWFが報告されている〔グラルニク( Gralnick ) ら、サイエンス( Science )、第192巻、第56〜59頁(1976)〕。
【0004】
vWFの糖鎖構造の詳細については明らかでは無く、今までのところ、その90%がvWFである、ヒト血液凝固第VIII因子/vWF複合体において、二本鎖及び四本鎖複合型N結合糖鎖が2種、O結合糖鎖が一種決定されているのみである〔デベイレ( Debeire )ら、フェブス レターズ(FEBS Lett. ) 、第151巻、第22〜26頁(1983)、サモル( Samor )ら、ヨーロピアン ジャーナル オブ バイオケミストリー( Eur.J.Biochem. ) 、第158巻、第295〜298頁(1986)、サモルら、グリココンジュゲート ジャーナル(Glycoconjugate J. ) 、第6巻、第263〜270頁(1989)〕。本発明者らは、先に西洋ワサビのパーオキシダーゼ(HRP)結合レクチンを使用した一連の研究で、表1に示す様に、市販の第VIII因子濃縮物より、精製したvWFが、ハリエニシダ( Ulex europaeus ) アグルチニンI(UEA−I)と結合活性を有することを見出した〔マツイ( Matsui ) ら、バイオケミカル
アンド バイオフィジカル リサーチ コミュニケーションズ( Biochem.Biophys.Res.Commun. )、第178巻、第1253〜1259頁(1991)〕。
【0005】
【表1】
【0006】
なお、ConAはコンカナバリンA、WGAは麦芽( Wheat germ ) 凝集素、RCA120 はトウゴマ( Ricinus communis ) 凝集素、PNAはピーナッツ凝集素を示し、表1中ではHRP結合物を意味する。
【0007】
約10μgの各糖タンパク質、約3μgのvWFを各HRP−レクチンのドットブロットアッセイに使用し、+はHRP−レクチン結合性有、−は結合性無を示す。UEA−Iは血液型H(O)型構造のオリゴ糖に強い親和性を示すことが知られており、vWFは下記式(化1)の糖鎖を有することが示唆される。
【0008】
【化1】
Fα1 → 2Gβ1 → 4GNβ1 →
【0009】
(なお以下の各化学式中Fはフコース、Gはガラクトース、GNはN−アセチルグルコサミンを示す)
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者らが明らかとした血漿成分中の血液型H(O)型糖鎖抗原の存在の可能性は、血漿成分の臨床使用上、重要な問題を提起するものであり、そのため、該抗原の構造を特定する必要がある。
本発明の目的は上記現状にかんがみ、血漿成分の血液型糖鎖抗原を特定し、臨床使用上、安全な、管理された血漿成分を含有する血漿由来製剤を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明を概説すれば、本発明の第1の発明は精製されたフォンビルブランド因子を有効成分として使用する血漿由来製剤に関し、血漿由来製剤において、a)A型糖鎖抗原及びH(O)型糖鎖抗原、b)B型糖鎖抗原及びH(O)型糖鎖抗原、c)A型糖鎖抗原、B型糖鎖抗原及びH(O)型糖鎖抗原、d)H(O)型抗原より成る群より選択される糖鎖抗原を実質上一種含有する精製されたフォンビルブランド因子を有効成分として使用することを特徴とする。また、本発明の第2の発明も血漿由来製剤に関し、精製されたフォンビルブランド因子を有効成分として使用する血漿由来製剤において、血漿中のA型糖鎖抗原及びB型糖鎖抗原を除去した血漿成分より調製されてなることを特徴とする。
【0012】
血漿成分、例えばvWFは、市販の第VIII因子濃縮物より、前出バイオケミストリー、第25巻、第3146〜3155頁(1986)記載の方法により、セファロース( Sepharose )CL−4B、ゼラチン−セファロース( gelatin−Sepharose )、アグマチン−セファロース( agmatine−Sepharose ) 、高濃度Ca++下でのセファロースCL−4B等を用い高度に精製することができる。次に該精製物のヒドラジン分解を行い、vWFのN結合糖鎖をポリペプチド部分から定量的に分離することができる。分離した糖鎖のN−アセチル化後、例えばNaB3 H4 を用い、該糖鎖の標識化を行う。標識化N結合糖鎖のpH5.4での高圧ろ紙電気泳動により、図1に示す様にvWFのN結合糖鎖は中性分画(N)、2酸性成分(A−1及びA−2)に分離される。なお図1はvWFのN結合糖鎖の電気泳動図であり、横軸は泳動距離、縦軸は放射活性を示す。N、A−1、A−2の量比は14:56:30であり、A−1は1シアル酸、A−2は2シアル酸を含有する。
【0013】
N結合糖鎖構造は、例えば次の様にして決定することができる。すなわち、N結合糖鎖標識物をシアリダーゼ処理し、アシアロ糖鎖を調製し、次いで該調製物をレクチン結合カラム、例えばConAカラム、インゲン豆( Phaseolus vulgaris ) のエリスロフィトヘマグルチニン(E−PHA)カラム、ヨウシュチョウセンアサガオ( Datura stramonium )凝集素(DSA)カラム、RCA120 カラム、UEA−Iカラム等で処理することにより、糖鎖構造に応じ、図2に示すA〜Lの成分に分画することができる。すなわち、図2はアシアロ糖鎖より各種レクチンカラムを用いて、N結合糖鎖を分別した経過を示す図であり、図中α−mGはα−メチルグルコシド、α−mMはα−メチルマンノシド、Lacはラクトース、GN2 はジ−N−アセチルキトビオースを示す。A〜Lのモル比は2.8:6.9:59.9:0.8:0.8:1.1:5.2:0.8:1.5:2.9:6.3:11.0であり、A、B、D、E、Lについてはバイオ−ゲルP−4カラムにより、それぞれA1、A2、B1、B2、D1〜D4、E1、E2、L1〜L3に分別される。
【0014】
図3はアシアロ糖鎖及びA〜Lのバイオ−ゲルP−4カラムによる溶出パターンであり、縦軸は放射活性、横軸は溶出時間を示し、図中の矢印はグルコースオリゴマーの溶出位置を示す。
【0015】
次に、各種のエキソグリコシダーゼ、例えばα−ガラクトシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、β−N−アセチルヘキソサミニダーゼ、β−N−アセチルグルコサミニダーゼ、α−N−アセチルガラクトサミニダーゼ、α−マンノシダーゼ、β−マンノシダーゼ、α−L−フコシダーゼ、α1→2−L−フコシダーゼ等による分画されたN結合糖鎖の逐次分解分析、及び各フラクションのメチル化分析により各N結合糖鎖の構造が決定される。
【0016】
下記式(化2)にA1の構造を示す。A1のモル比%は全体の2.2%であり、H(O)型構造を有する。なお以下の各化学式中Mはマンノース、GNOTはN−〔 3H〕アセチルグルコサミニトール、±は残基が糖鎖中の70%以上に存在することを示す。
【0017】
【化2】
【0018】
下記の式(化3)、(化4)にA2中の2成分、A2−1、A2−2の構造を示す。(化3)はA2−1の構造であり、A2−1のモル比%は全体の0.5%であり、A型構造を有する。なお以下の各化学式中GaNはN−アセチルガラクトサミンを示す。
【0019】
【化3】
【0020】
下記式(化4)はA2−2の構造であり、A2−2のモル比%は全体の0.1%であり、B型構造を有する。
【0021】
【化4】
【0022】
下記式(化5)にB1の構造を示す。B1のモル比%は全体の5.5%であり、H(O)型構造を有する。
【0023】
【化5】
【0024】
下記の式(化6)、(化7)にB2中の2成分、B2−1、B2−2の構造を示す。
(化6)はB2−1の構造であり、B2−1のモル比%は全体の1.2%であり、A型構造を有する。
【0025】
【化6】
【0026】
下記式(化7)はB2−2の構造であり、B2−2のモル比%は全体の0.2%であり、B型構造を有する。
【0027】
【化7】
【0028】
下記式(化8)にCの構造を示す。Cのモル比%は全体の59.9%であり、前出フェブス レターズ、第151巻、第22〜26頁(1983)に報告の構造と一致する。
【0029】
【化8】
【0030】
下記式(化9)にD1〜D4の一般構造式を示す。D1はn=1で、モル比%は全体の0.3%であり、D2はn=2で、モル比%は全体の0.2%であり、D3はn=3で、モル比%は全体の0.2%であり、D4はn=4で、モル比%は全体の0.1%である。
【0031】
【化9】
【0032】
下記式(化10)にE1の構造を示す。E1のモル比%は全体の0.4%である。
【0033】
【化10】
【0034】
下記式(化11)にE2の構造を示す。E2のモル比%は全体の0.4%である。
【0035】
【化11】
【0036】
下記式(化12)にFの構造を示す。Fのモル比%は全体の1.1%であり、H(O)型の構造を有する。
【0037】
【化12】
【0038】
下記式(化13)にGの構造を示す。Gのモル比%は全体の5.2%である。
【0039】
【化13】
【0040】
下記式(化14)にHの構造を示す。Hのモル比%は全体の0.4%であり、H(O)型の構造を有する。
【0041】
【化14】
【0042】
下記の式(化15)、(化16)にI中の2成分、I1、I2の構造を示す。I1のモル比%は全体の1.1%であり、H(O)型の構造を有する。I2のモル比%は全体の0.4%である。
【0043】
【化15】
【0044】
【化16】
【0045】
下記の式(化17)、(化18)にK中の2成分、K1、K2の構造を示す。K1のモル比%は全体の4.3%である。K2のモル比%は全体の1.4%であり、H(O)型の構造を有する。
【0046】
【化17】
【0047】
【化18】
【0048】
下記式(化19)にL1の構造を示す。L1のモル比%は全体の5.1%である。
【0049】
【化19】
【0050】
下記の式(化20)、(化21)にL2中の2成分L2−1、L2−2の構造を示す。L2−1のモル比%は全体の2.1%であり、前出ヨーロピアン ジャーナル オブ バイオケミストリー、第158巻、第295〜298頁(1986)に報告の構造と一致する。L2−2のモル比%は全体の0.9%である。
【0051】
【化20】
【0052】
【化21】
【0053】
下記の式(化22)、(化23)にL3中の2成分L3−1、L3−2の構造を示す。L3−1のモル比%は全体の0.6%であり、L3−2のモル比%は全体の0.2%である。
【0054】
【化22】
【0055】
【化23】
【0056】
以上、市販の血漿製剤より精製されたvWFのアシアロN結合糖鎖の構造が決定される。これらのうち(化1)のH(O)型糖鎖構造を有するN結合糖鎖のモル比%は全体の11.7%であり、本発明者らが先に見出していたUEA−IのvWFへの結合は、これらの糖鎖構造によるものである。また下記の式(化24)、(化25)のA型、B型糖鎖構造を有するN結合糖鎖が血漿糖タンパク質の糖鎖として初めて見出され、(化24)のA型糖鎖構造を有するN結合糖鎖のモモ比は全体の1.7%、(化25)のB型糖鎖構造を有するN結合糖鎖のモル比は全体の0.3%である。
【0057】
【化24】
【0058】
【化25】
【0059】
また、この精製vWFをSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動後、PVDF膜に転写した場合、該vWFは抗A血清、抗B血清、抗HレクチンのUEA−Iと、それぞれ反応性を示す。なお、該PVDF膜を有機溶媒で脱脂処理しても反応性は消失しないが、前もってエンドグリコシダーゼFで処理したvWFが転写されている場合、該vWFは反応性を失っていた。
【0060】
A、B、O、AB型ドナー由来血漿に抗vWF抗体を加え、vWFを免疫沈降させ、該vWFをSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動後、PVDF膜に転写した場合の、各ドナー由来vWFの抗Aモノクローナル抗体、抗Bモノクローナル抗体、抗HレクチンのUEA−Iとの反応性を表2に示す。
【0061】
【表2】
表 2
───────────────────────────────────
血漿ドナー 抗Aモノクローナル 抗Bモノクローナル UEA−I
血液型 抗体 抗体
───────────────────────────────────
A + − +
B − + +
O − − +
AB + + +
───────────────────────────────────
【0062】
(表中+は反応性有、−は反応性無を示す)
A型ドナーの血漿からは、A型糖鎖抗原及びH(O)型糖鎖抗原を有するvWF、B型ドナーの血漿からは、B型糖鎖抗原及びH(O)型糖鎖抗原を有するvWF、O型ドナーの血漿からは、H(O)型糖鎖抗原を有するvWF、AB型ドナーの血漿からはA型糖鎖抗原、B型糖鎖抗原、H(O)型糖鎖抗原を有するvWFが得られる。
【0063】
以上、本発明により、糖鎖抗原の特定された、血漿由来製剤が提供される。該血漿由来製剤中には、糖鎖抗原の特定された血漿成分、例えばvWF、α2 −マクログロブリン等の血漿糖タンパク質が少なくとも1種含有されている。ABH(O)糖鎖抗原の特定された血漿成分は、例えば各血液型ドナー由来血漿の混合物、該混合物より調製された血漿製剤等より、例えば抗A、抗B抗体固定カラム、レクチン固定カラム等を用いて調製することができる。また、各血液型ドナー血漿別に適宜、調製してもよい。調製された糖鎖抗原の特定された血漿成分は、必要に応じて、賦形剤や担体と共に、常法により製剤化し、使用することができる。
【0064】
以上、詳細に説明したように、本発明により、血液型に留意した血漿由来製剤が提供される。該製剤は血液凝固因子が血液型別に管理されており、長期間、反復使用時においても副作用の危険がなく安全な、また、輸血時の半減期の問題も改善された血漿由来製剤が提供される。
【0065】
【実施例】
以下に本発明の実施例を挙げるが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0066】
実施例1
(1)精製vWFよりのN結合糖鎖の調製及び放射標識化
市販の第VIII因子濃縮物(ハイランドセラピューティクス製)より、前出バイオケミストリー、第25巻、第3146〜3155頁(1986)に記載の方法に準じ、ヒトvWFを精製した。
次に該vWF37.9mgを無水ヒドラジン1mlに懸濁し、9時間のヒドラジン分解を行った後、N−アセチル化を行い、定量的にN結合糖鎖を遊離した。次に該糖鎖の1/6量を、0.05N NaOH 0.8ml中で、30℃、4時間、NaB3 H4 (160MBq)で還元し、糖鎖のトリチウム標識を行い、その後NaBH4 を6mg溶解した0.05N NaOH 0.3mlを加えて、反応を更に2時間続けて、反応を終了した。
結合した放射活性は9.8×106 cpmであった。また残りの5/6量の糖鎖は0.05N NaOH 1.5ml中、30℃、4時間、NaB2 H4 30mgで還元し、メチル化分析用の 2H標識物を調製した。
【0067】
(2)アシアロ糖鎖の調製及びレクチンカラムによる分画
標識化糖鎖のpH5.4での高圧ろ紙電気泳動図を図1に示す。Nは中性画分、A−1は1シアル酸結合物、A−2は2シアル酸結合物であり、図中、矢印1、2、3は標準物質、ラクチトール、シアリルラクチトール、ブロモフェノールブルーのそれぞれの泳動位置を示す。なお図1において、横軸は泳動距離(cm)、縦軸は放射活性を示す。
次にレクチンカラム分画に供するため、糖鎖のシアリダーゼ〔アルスロバクター ウレアファシエンス( Arthrobacter ureafaciens ) 由来:ナカライテスク社製〕処理を行い、アシアロ糖鎖を調製した。なお酵素反応は0.15M酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.0)中、37℃、20時間行った。
【0068】
レクチン アフィニティ クロマトグラフィーは以下のように行った。ConA−セファロースカラム(ファルマシア社製)(0.7×13cm)は30mMNaClを含む10mMトリス−塩酸緩衝液pH7.4を用い、流速12ml/hrで平衡化を行い、25℃中保持した。糖鎖の試料は緩衝液15mlで洗浄したカラムへアプライした。その後、溶出液を10mMα−メチルグルコシドを含む緩衝液15mlとした後、100mMα−メチルマンノシドを含む緩衝液15mlで溶出した。E−PHA−アガロースカラム(E−Yラボラトリーズ社製)(0.7×15cm)は0.15M NaClを含む10mMリン酸ナトリウム緩衝液pH7.2(PBS)を用いて流速12ml/hrで平衡化を行い、25℃中保持した。糖鎖試料をアプライした後、PBS30mlで溶出した。DSA−アガロースカラム(E−Yラボラトリーズ社製)(0.7×18cm)は30mM NaClを含む10mMトリス塩酸緩衝液pH7.4を用いて、流速6ml/hrで平衡化し、4℃中保持した。糖鎖試料をアプライした後、緩衝液20mlで溶出を行い、ジ−N−アセチルキトビオースを含む(2mg/ml)緩衝液5mlで溶出した。UEA−I−アガロース(E−Yラボラトリーズ社製)カラム(0.5×10cm)は流速6ml/hrでPBSによって平衡化し、4℃中保持した。糖鎖試料をアプライした後溶出は6mlのPBSで行った後、50mM L−フコシダーゼを含むPBS5mlで行った。レクチン(RCA120)アフィニティカラム(ホーネン社製)HPLCは、アーカイブズ オブ バイオケミストリー アンド バイオフィジクス( Arch.Biochem.Biophys. )第257巻、第387〜394頁(1987)に報告の本発明者らの方法で行った。
【0069】
ヒトvWFより得られた全アシアロ糖鎖の約71%が、ConA−セファロースカラムに吸着した。このうち約98%が10mMα−メチルグルコシドを含む緩衝液で溶出し約2%が100mMα−メチルマンノシドを含む緩衝液で溶出した。
これらはレクチン(RCA120)アフィニティHPLCによって3つ(A、B、C)と2つ(D、E)の画分に分けられた(図2)。更に画分Aはバイオ−ゲルP−4カラムによってA1、A2、画分Bはバイオ−ゲルP−4カラムによってB1、B2に分けられた(図3)。
ラクトースを含む緩衝液でRCA120−HPLCから溶出されてきた画分Cは全アシアロ糖鎖の59.9%の割合であった(図2)。
全アシアロ糖鎖の0.8%の割合の画分DはRCA120−HPLCカラムを素通りし(図2)、更にバイオ−ゲルP−4カラムによって約3:2:2:1の割合でD1〜D4のピークに分けられた(図3)。
全アシアロ糖鎖の0.8%の割合である画分EはRCA120−HPLCカラムに結合しなかったが、遅れて溶出した(図2)。この画分は更にバイオ−ゲルP−4カラムによりE1とE2に分けられた(図3)。
ConA−セファロースカラムを素通りするアシアロ糖鎖の約6.3%はE−PHA−アガロースカラムから溶出が遅れ(図2)たが、このカラムはR1 、R2 がHか糖であるような下記式(化26)に示す糖鎖にアフィニティーがあり、溶出が遅れた糖鎖は次のDSA−アガロースカラムに吸着しなかったけれど、その次のRCA120−HPLCによって約17:83の割合で2つの画分FとGに分けられた(図2)。
【0070】
【化26】
Gβ1→4GNβ1→2Mα1→6(GNβ1→4)〔R1 →4(R2 →4GNβ1→2)Mα1→3〕Mβ1→4GNβ1→
【0071】
また、アシアロ糖鎖の1.1%を占める分画Fは、バイオ−ゲルP−4カラムにより約15.5グルコースユニットに相当する位置に溶出した(図3)。
画分GはE−PHA−アガロースカラムで遅れて溶出してきた糖鎖の主成分であり、アシアロ糖鎖の5.2%の割合を占め、RCA120−HPLCカラムに結合した。この画分はラクトースを含む緩衝液で溶出した(図2)。
分画Hはアシアロ糖鎖の0.8%の割合であり、ConA−セファロース、E−PHA−アガロース、DSA−アガロースを素通りし、更にRCA120−HPLCカラムも同様に素通りした(図2)。
アシアロ糖鎖の1.5%の割合を占めConA−セファロース、E−PHA−アガロース、DSA−アガロースカラムを素通りする分画IはRCA120−HPLCカラムから遅れて溶出された(図2)。
アシアロ糖鎖の2.9%の割合を占めConA−セファロース、E−PHA−アガロース、DSA−アガロースカラムを素通りした分画JはRCA120−HPLCカラムに結合しラクトースを含む緩衝液で溶出した(図2)。
アシアロ糖鎖の6.3%の割合の画分KはConA−セファロースとE−PHA−アガロースを素通りし、DSA−アガロースカラムからは遅れて溶出されたがRCA120−HPLCカラムには吸着してラクトースを含む緩衝液で溶出された(図2)。この画分のDSA−アガロースカラムへのアフィニティによって、画分Kの糖鎖には下記式(化27)の構造が含まれる。
【0072】
【化27】
Gβ1→4GNβ1→4(Gβ1→4GNβ1→2)M
【0073】
アシアロ糖鎖の17%の割合を占め、ConA−セファロースとE−PHA−アガロースカラムを素通りする画分LはDSA−アガロースカラムとRCA120−HPLCカラムに吸着しそれぞれジ−N−アセチルキトビオース、ラクトースを含む緩衝液で溶出した(図2)。この画分はバイオ−ゲル(Bio−Gel)P−4カラムで、その外側の鎖の部分に3、4、5つのGalβ1→4GlcNAcユニットをもつ、複合型糖鎖の領域に、それぞれ46:43:11の割合で3つの画分L1、L2、L3に分かれた(図3)。
【0074】
(3)メチル化分析及びグリコシダーゼ処理
N結合糖鎖、A1〜E2のConA吸着分画(分画1)、F、GのE−PHA吸着分画(分画2)、H〜L3のConA、E−PHA非吸着分画(分画3)のメチル化分析を行った。結果を表3〜表5に示す。
【0075】
【表3】
【0076】
【表4】
【0077】
【表5】
【0078】
表3〜表5の結果より、C−4,6位が置換されているGlcNAc残基は主たる還元末端残基であり、Gal、Fuc、GlcNAc、GalNAc、Man残基は非還元末端にも存在する。また、Fuc残基をもつトリマンノシルコア構造が主要であり、糖鎖内部のGal残基はC−2,3、C−2、C−3、C−6位に置換がある。N結合糖鎖では検出された2,3,4−トリ−O−メチルガラクチトールがアシアロ糖鎖では検出されないこと、2,3,4,6−O−メチルガラクチトールがアシアロ糖鎖では増加していることにより、N結合糖鎖のシアル酸残基はGal残基のC−6位に主に結合している。Man残基は分画1の糖鎖ではC−2、C−3,6位に置換があり、分画2の糖鎖ではC−2、C−3,4,6位に置換がある。更に、分画3の糖鎖ではC−2、C−3,6、C−2,6、C−2,4位に置換がある。また、非還元末端のGalNAc残基と、C−2,3位に置換があるGal残基は分画1に検出された。また、糖鎖内部のGlcNAc残基はC−4位に限って置換がある。
【0079】
グリコシダーゼによる放射活性をもつ糖鎖(0.5〜100×104 cpm)の消化は次の酵素を用い行った。アルスロバクター ウレアファシエンス由来シアリダーゼは、ナカライテスク社より購入した。α−マンノシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、β−N−アセチルヘキソサミニダーゼは、リー( Li ) らの方法〔メソッズ イン エンザイモロシー( Methods Enzymol. ) 第28巻、第702〜713頁(1972)〕に従って、タチナタマメのひきわりより精製した。Manα1→2Man結合を特異的に切断するアスペルギルス サイトーイ( Aspergillus saitoi ) 由来α−マンノシダーゼ〔ヤマシタ( Yamashita )ら、バイオケミカル アンド バイオフィジカル リサーチ コミュニケーションズ、第96巻、第1335〜1342頁(1980)〕はバイオキミカ エ バイオフィジカ アクタ( Biochim.Biophys.Acta ) 、第658巻、第45〜53頁(1981)、ジャーナル オブ バイオケミストリー( J.Biochem )、第99巻、第1645〜1654頁(1986)に記載の方法に従って、モルシン(盛進製薬社製)より、精製した。
【0080】
Galβ1→4GlcNAc結合は水解するが、Galβ1→3GlcNAc結合や、Galβ1→6GlcNAc結合は水解しないディプロコッカル( Diplococcal )β−ガラクトシダーゼ〔ポールソン( Paulson )ら、ジャーナル オブ バイオロジカル ケミストリー、第253巻、第5617〜5624頁(1978)〕とGlcNAcβ1→2Man結合は水解するが、GlcNAcβ1→4ManやGlcNAcβ1→6Man結合は水解しない。
【0081】
β−N−アセチルヘキソサミニダーゼ〔ヤマシタ( Yamashita )ら、バイオケミカル アンド バイオフィジカル リサーチ コミュニケーションズ、第100巻、第226〜232頁(1981)〕はジャーナル オブ バイオロジカルケミストリー、第252巻、第8615〜8623頁(1977)に記載の方法によって精製した。アチャティナ フリカ( Achatina fulica )より精製したかたつむりのβ−マンノシダーゼと、アクレモニウム エスピー( Acremonium sp. ) 由来α−N−アセチルガラクトサミニダーゼは、生化学工業社より購入した。
グリーンコーヒー豆由来α−ガラクトシダーゼと牛副こう丸α−L−フコシダーゼは、シグマ社より購入した。Fucα1→2Galβ1→よりFuc残基を遊離するがGalβ1→4(Fucα1→3)GlcNAcβ1→と、Galβ1→3(Fucα1→4)GlcNAcβ1→からは遊離しないコリネバクテリウム( Corynebacterium )のα1→2−L−フコシダーゼは宝酒造社より購入した。
【0082】
酵素消化は通常、37℃、20時間トルエン存在下、下記の条件で行った。
タチナタ豆β−ガラクトシダーゼ消化:0.2Mクエン酸−リン酸緩衝液(pH6.0)40μl中、酵素5ミリユニット。α−ガラクトシダーゼ消化:0.2Mクエン酸−リン酸緩衝液(pH6.5)80μl中、25℃、酵素0.1ユニット。タチナタ豆β−N−アセチルヘキソサミニダーゼ消化:0.2Mクエン酸−リン酸緩衝液(pH5.0)50μl中酵素0.5ユニット。ディプロコッカルβ−N−アセチルグルコサミニダーゼ消化:0.2Mクエン酸−リン酸緩衝液(pH5.0)40μl中、酵素5ミリユニット。ディプロコッカルβ−ガラクトシダーゼとディプロコッカルβ−N−アセチルグルコサミニダーゼの混合した酵素による消化:0.2M酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.0)60μl中、各酵素5ミリユニット。α−N−アセチルガラクトサミニダーゼ消化:0.2Mクエン酸−リン酸緩衝液(pH4.5)60μl中酵素0.1ユニット 45時間。タチナタマメα−マンノシダーゼ消化:0.2M酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.5)50μl中酵素1ユニット。かたつむりβ−マンノシダーゼ消化:0.1Mクエン酸ナトリウム緩衝液(pH4.0)50μl中酵素10ミリユニット。牛副こう丸α−L−フコシダーゼ消化:0.1Mクエン酸−リン酸緩衝液(pH6.0)40μl中、酵素20ミリユニット。コリネバクテリウムα1→2−L−フコシダーゼ消化:0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.2)30μl中、33℃ 45時間、酵素0.1ユニット。なお、コリネバクテリウムα1→2−L−フコシダーゼ消化の反応液は複合型糖鎖の還元末端のGlcNAcにα1→6結合しているフコース残基を遊離しなかった。これらの酵素反応後、各反応液は沸騰水浴中で3分間加熱して反応を停止した。
【0083】
図5〜図8にアシアロ糖鎖、及び酵素処理物のバイオ−ゲルP−4溶出パターンをそれぞれ示す。なおバイオ−ゲルP−4はエキストラファインを使用し、各図中の縦軸は放射活性、横軸は溶出時間を示し、図中の矢印はグルコース オリゴマーの溶出位置を示す。
【0084】
(4)糖鎖構造の決定
画分A1はタチナタマメβ−ガラクトシダーゼと、その後のタチナタマメβ−N−アセチルヘキソサミニダーゼの逐次分解で1つのGal残基(図4b実線)と、その後、1つのGlcNAc残基(図4b点線)を遊離させることでより小さな糖鎖に変った。同様の結果がディプロコッカルの酵素を使用することで得られた。更に、画分A1はコリネバクテリウムα1→2−L−フコシダーゼで消化した時、約0.5グルコースユニット溶出位置が移動し、この放射活性のピークは、標準物質の下記式(化28)と同じ位置である約14.5グルコースユニットに相当する位置に溶出した(図4c)。
【0085】
【化28】
Gβ1→4GNβ1→2Mα1→6(Gβ1→4GNβ1→2Mα1→3)Mβ1→4GNβ1→4(Fα1→6)GN0T
【0086】
更に、この放射活性のある糖鎖は、ディプロコッカルβ−ガラクトシダーゼとディプロコッカルβ−N−アセチルグルコサミニダーゼによる逐次分解で、2つのGal残基(図4d実線)と、その後、2つのGlcNAc残基(図4d点線)を遊離し標準物質のトリマンノシル糖鎖下記の式(化29)、(化30)と同じ位置である約8と7グルコースユニットに相当する位置に各約9:1の割合で溶出して主たるピークと小さいピークを与えた(図4d点線)。
【0087】
【化29】
Mα1→6(Mα1→3)Mβ1→4GNβ1→4(Fα1→6)GN0T
【0088】
【化30】
Mα1→6(Mα1→3)Mβ1→4GNβ1→4GN0T
【0089】
更に、この図4d(点線)に示した放射活性のある糖鎖は更にタチナタマメα−マンノシダーゼ、β−マンノシダーゼ、タチナタマメβ−N−アセチルヘキソサミニダーゼ、牛副こう丸α−フコシダーゼを用いた逐次分解によってトリマンノシルコアの構造と同定された。
【0090】
ConA−セファロースに吸着する糖鎖は、C−3、C−4、C−6位に置換のないα−マンノース残基が少なくとも2つ存在する必要があること、ディプロコッカルβ−ガラクトシダーゼはGalβ1→4GlcNAc結合は水解するが、Galβ1→3GlcNAcとGalβ1→6GlcNAc結合は水解しないこと、ディプロコッカルβ−N−アセチルグルコサミニダーゼがGlcNAcβ1→2Man結合は水解するがGlcNAcβ1→4ManとGlcNAcβ1→6Man結合は水解しないことより、図4cの放射活性のある糖鎖は下記式(化31)の二本鎖複合型糖鎖構造をもつことが示された。
【0091】
【化31】
Gβ1→4GNβ1→2Mα1→6(Gβ1→4GNβ1→2Mα1→3)Mβ1→4GNβ1→4(±Fα1→6)GN0T
【0092】
更に、コリネバクテリウムα1→2−L−フコシダーゼはFucα1→2Gal→結合よりフコース残基を遊離するが、Galβ1→4(Fucα1→3)GlcNAcβ1→、Galβ1→3(Fucα1→4)GlcNAcβ1→、還元末端のGlcNAc残基のC−6位に結合したフコース残基をもつ二本鎖複合型糖鎖からは遊離しないこと、画分A1はRCA120−HPLCカラムに結合しない(図2)けれども、酵素消化によってその画分から得られた図4cの放射活性のある糖鎖は吸着し、ラクトースを含む緩衝液で溶出すること、該RCA120−HPLCカラムには、非還元末端のGal残基を2つもつ二本鎖複合型糖鎖が吸着し、ラクトースを含む緩衝液で溶出すること、その上、画分A1の糖鎖は血液型のH(O)構造、すなわち式(化1)の糖鎖に高い親和性があるUEA−I−アガロースカラムに吸着し、50mM L−フコースを含む緩衝液によって溶出したこと等により、Fuc残基は、二本鎖糖鎖の2つの非還元末端Gal残基のうち1つのC−2位に結合しており、β−ガラクトシダーゼとβ−N−アセチルグルコサミニダーゼの逐次分解からGalβ1→4GlcNAcβ1→の外側の二本鎖のうち一本を保護していると決定された。これはConA−セファロースに結合した糖鎖画分のメチル化分析(表3〜表5)より、糖鎖内部の糖の誘導体として、3,4,6−トリ−O−メチルガラクチトール、3,4,6−トリ−O−メチルマンニトール、2,4−ジ−O−メチルマンニトール、3,6−ジ−O−メチル2−N−メチルアセトアミド−2−デオキシグルチトールが検出されることと合致した。これらの結果より、画分A1は式(化2)に示したように血液型のH(O)構造、式(化1)をもつ二本鎖複合型糖鎖を含むと決定した。血液型H(O)構造が画分A1中の糖鎖のManα1→3側にのみ位置しているという事実は以下のようにタチナタマメα−マンノシダーゼの特異性に基づいて確認した。すなわち、タチナタマメβ−ガラクトシダーゼとタチナタマメβ−N−アセチルヘキソサミニダーゼによる消化により、画分A1から得られた放射活性のある糖鎖(図4b点線)をタチナタマメα−マンノシダーゼ消化した時、マンノースは遊離しなかった。この放射活性のある糖鎖は下記の式(化32)、又は(化33)の構造をもつこと、タチナタマメのα−マンノシダーゼは下記式(化34)からMan残基を1つ遊離するが下記式(化35)からは遊離しないことより血液型H構造は式(化2)のように二本鎖のManα1→3の側に存在することが決定された。
【0093】
【化32】
Fα1→2Gβ1→4GNβ1→2Mα1→6(Mα1→3)Mβ1→4GNβ1→4(±Fα1→6)GN0T
【0094】
【化33】
Fα1→2Gβ1→4GNβ1→2Mα1→3(Mα1→6)Mβ1→4GNβ1→4(±Fα1→6)GN0T
【0095】
【化34】
R1→2Mα1→6(Mα1→3)Mβ1→4GNβ1→4(±Fα1→6)GN0T
【0096】
【化35】
Mα1→6(R1→2Mα1→3)Mβ1→4GNβ1→4(±Fα1→6)GN0T
【0097】
画分B1は図3Bの下線で示されているが、画分A1から得られた図4b(点線)に相当する、放射活性をもつB1の酵素処理糖鎖を、タチナタマメα−マンノシダーゼで消化したとき、1つのMan残基が遊離されたことを除いて画分B1からは画分A1から得られたのと同様の結果を得た。したがって、画分B1には式(化5)に示すようにManα1→6側に血液型のH(O)型構造をもつ二本鎖複合型糖鎖が含まれる。
また、バイセクトGlcNAc残基をもたないで、Manα1→6側に非還元末端のGalβ1→残基をもつ二本鎖複合型糖鎖は、Manα1→3側にこの構造をもつ糖鎖よりもRCA120−HPLCカラムよりはやく溶出するので、画分A1とB1がそれぞれ二本鎖のManα1→3側とManα1→6側にH(O)型構造をもつということはそれらのRCA120−HPLCカラムの挙動とも合致する。
【0098】
画分A2は図3Aに下線で示されているがタチナタマメβ−ガラクトシダーゼとその後のタチナタマメβ−N−アセチルヘキソサミニダーゼによる逐次分解によって、1つのGal残基(図4e実線)と、1つのGlcNAc残基(図4e点線)を遊離することで、より小さな糖鎖へ移行した。同じ結果がディプロコッカルの酵素を用いても得られた。また、画分A2をα−N−アセチルガラクトサミニダーゼで消化した時、バイオ−ゲルP−4の溶出において、1つのGalNAc残基の遊離に相当する約2グルコースユニット分の移動があった(図4f実線)。また、コリネバクテリウムα1→2−L−フコシダーゼでの消化によって図4fの実線で示された一部の糖鎖からFuc残基を遊離したことを示す、溶出パターンの移動があった(図4f点線)。図4fの点線で示される放射活性をもつ物質の約85%が、図4c中の画分A1から得られた放射活性をもつ糖鎖から得た結果と同じ結果を示した。すなわち、ディプロコッカルβ−ガラクトシダーゼと、その後のディプロコッカルβ−N−アセチルグルコサミニダーゼの逐次分解で、2つのGal残基とその後2つのGlcNAc残基を遊離し(図4gの主ピーク及び図4h実線)、生成物は約9:1の割合で約8と7のグルコースユニットに相当する位置に溶出した。これらはそれぞれFuc残基のあるトリマンノシルコアの糖鎖と、ないものであり図4d(点線)の糖鎖に一致した。
【0099】
一方、図4f中点線で示された放射活性をもつ物質の残り15%からはディプロコッカルの酵素の逐次分解によって1つのGal残基とその後1つのGlcNAc残基を遊離した(図4gの小さいピーク及び図4h点線)。この生成物(図4h点線)はα−ガラクトシダーゼ消化によって1つのGal残基を遊離した(図4i)。図4i中の放射活性のもつ生成物はコリネバクテリウムα1→2−L−フコシダーゼ、ディプロコッカルβ−ガラクトシダーゼ、ディプロコッカルβ−N−アセチルグルコサミニダーゼの逐次分解によって約9:1の割合でFuc残基のあるものとないものの、トリマンノシルコア構造にまで移行した(図4j)。また、画物A2の放射活性をもつ糖鎖はUEA−I−アガロースカラムに吸着しないけれども、α−N−アセチルガラクトサミニダーゼとα−ガラクトシダーゼによる逐次分解の後では、カラムに吸着し、フコースを含む緩衝液で溶出した。
【0100】
以上の結果と、メチル化分析(表3〜表5)より、画分A2の糖鎖は、下記式(化36)という糖鎖のフコースの付いたGal残基にそれぞれ85%と15%の割合でα配位結合したGalNAc残基とGal残基を含み、2つのGalβ1→4GlcNAcβ1→グループのうち1つがβ−ガラクトシダーゼとβ−N−アセチルグルコサミニダーゼの逐次分解を受けることが解明された。
【0101】
【化36】
Gβ1→4GNβ1→2Mα1→6(Fα1→2Gβ1→4GNβ1→2Mα1→3)Mβ1→4GNβ1→4(±Fα1→6)GN0T
【0102】
また、ConA−セファロースに結合した糖鎖分画のメチル化分析より、4,6−ジ−O−メチルガラクチトールのみが他の糖によって2箇所置換されているGal残基の誘導体として検出されたことから画分A2は式(化24)、(化25)の血液型のA型構造、B型構造をそれぞれもつ式(化3)、(化4)の二本鎖複合型糖鎖(A2−1、及びA2−2)と決定された。
【0103】
画分B2は、図3Bの下線で示されているが、画分A1とB1の糖鎖の解析の場合において、画分A2で得られた解析結果を同様の結果が得られた。
したがって、画分B2は式(化6)、(化7)に示すように血液型A型、B型構造をもつ二本鎖複合型糖鎖(B2−1、及びB2−2)と決定された。なお画分A2、B2において、血液型構造が二本鎖のManα1→3側とManα1→6側に結合していることは、既述の場合と同様に、RCA120−HPLCカラムへの挙動により決定した。
【0104】
ラクトースを含む緩衝液でRCA120−HPLCから溶出されてきた画分Cは全アシアロ糖鎖の59.9%の割合であり、図4cの放射活性のある糖鎖と標準物質の下記式(化37)と同じ位置、つまり約14.5グルコースユニットに相当する位置(図3C)にバイオ−ゲルP−4カラムより溶出した。
【0105】
【化37】
Gβ1→4GNβ1→2Mα1→6(Gβ1→4GNβ1→2Mα1→3)Mβ1→4GNβ1→4(Fα1→6)GN0T
【0106】
画分Cの解析からは、画分A1から得られた図4cに示す放射活性をもつ糖鎖について先に述べた結果と同一の結果が得られた。したがってメチル化分析のデータ(表3〜表5)を合せ、画分C中の糖鎖を式(化8)のGalが2つ付加した二本鎖複合型糖鎖と決定した。
【0107】
全アシアロ糖鎖の0.8%の割合の画分DはRCA120−HPLCカラムを素通りし(図2)、バイオ−ゲルP−4カラムによって約3:2:2:1の割合で、D1からD4の4つのピークに分けられた(図3D)。ピークD1〜D4は以下のような結果から、ハイマンノース型糖鎖の式(化9)のn=1:Man6 GlcNAc2 、n=2:Man7 GlcNAc2 、n=3:Man8 GlcNAc2 、n=4:Man9 GlcNAc2 とそれぞれ同定した。
【0108】
まず、第一に、β−ガラクトシドに特異的なRCA120−HPLCカラムを素通りした。第二に、バイオ−ゲルP−4カラムからの溶出位置(図5k)は、それぞれの標準物質の位置と同じであった。第三に、Manα1→2結合を特異的に切断するアスペルギルス サイトーイα−マンノシダーゼ消化によって消化物はすべて各4、3、2、1個のマンノース残基を遊離して、約9グルコースユニットに相当する位置で標準物質の下記式(化38)と同一位置にバイオ−ゲルP−4カラムから溶出した(図5のl実線)。
【0109】
【化38】
Mα1→6(Mα1→3)Mα1→6(Mα1→3)Mβ1→4GNβ1→4GN0T
【0110】
第四に、更にその後、タチナタマメα−マンノシダーゼ消化を行った時、4つのマンノース残基が図5のlの実線で示された放射活性のある物質から遊離し、消化物は、標準物質の下記式(化39)の位置に溶出した(図5のl点線)。
【0111】
【化39】
Mβ1→4GNβ1→4GN0T
【0112】
更に、かたつむりβ−マンノシダーゼ、それに続くタチナタマメβ−N−アセチルヘキソサミニダーゼによる逐次分解によって、標準物質の下記式(化40)、次いでN−アセチルグリコサミニトールと同じ位置に溶出した。
【0113】
【化40】
GNβ1→4GN0T
【0114】
第五に画分AからEの混合物のメチル化分析によってMan残基の誘導体として2,3,4,6−テトラ−O−メチル−、3,4,6−トリ−O−メチル−、2,4−ジ−O−メチル−マンニトールを検出した(表3〜表5)。以上によりD1〜D4の構造を決定した。
全アシアロ糖鎖の0.8%の割合である画分EはRCA120−HPLCカラムに結合しなかったが、遅れて溶出した(図2)。この画分はバイオーゲルP−4カラムより、標準物質の下記の式(化41)、(化42)と、それぞれ同じ位置に約1:1の割合で2つの主要ピークE1とE2に分かれた(図3E)。
【0115】
【化41】
Gβ1→4GNβ1→2Mα1→6(3)〔Mα1→3(6)〕Mβ1→4GNβ1→4(Fα1→6)GN0T
【0116】
【化42】
Gβ1→4GNβ1→2Mα1→6(3)〔GNβ1→2Mα1→3(6)〕Mβ1→4GNβ1→4(Fα1→6)GN0T
【0117】
また、放射活性のある画分E2をタチナタマメβ−N−アセチルヘキソサミニダーゼ消化した時、消化物は1つのGlcNAc残基がはずれたことで放射活性のある画分E1と同じ溶出パターンを示した(図5m点線)。図5m(点線)と放射活性のある画分E1のどちらの物質もタチナタマメα−マンノシダーゼに抵抗性を示すがディプロコッカルβ−ガラクトシダーゼとディプロコッカルβ−N−アセチルグルコサミニダーゼでの逐次分解によって、1つのGal残基と、その後1つのGlcNAc残基を遊離した(図5n、図5のo)。そして約8:2の割合でFuc残基のもつトリマンノシルコア構造と、もたないものとして同定された糖鎖になった(図5のo)。したがって図5mの点線で示された画分E2の消化物は画分E1の糖鎖と同一であった。
【0118】
更にまた、放射活性のある画分E2を、ディプロコッカルβ−ガラクトシダーゼと、その次のディプロコッカルβ−N−アセチルグルコサミニダーゼによる逐次分解を行うと、1つのGal残基と、その後に2つのGlcNAc残基を遊離して、その画分は図5のoの画分と同一の生成物になった。
【0119】
これらの結果とメチル化分析のデータ(表3〜表5)と、ConA−セファロースカラムとRCA120−HPLCカラムの糖鎖アフィニティと、画分A、B中の糖鎖に対するディプロコッカルの酵素とタチナタマメα−マンノシダーゼの特異性に関する結果を合せ、画分Eの糖鎖を式(化10)、及びGal残基の1つ付加した式(化11)の複合型糖鎖と決定した。
【0120】
画分GはE−PHA−アガロースカラムで遅れて溶出してきた糖鎖の主成分であり、全アシアロ糖鎖の5.2%の割合を占めRCA120−HPLCカラムに結合した(図2)。
この画分の主成分はバイオ−ゲルP−4カラムでは標準物質の下記式(化43)が溶出する位置である約15グルコースユニットに相当する位置に溶出した(図3G、図6t)。
【0121】
【化43】
Gβ1→4GNβ1→2Mα1→6(GNβ1→4)(GNβ1→4GNβ1→2Mα1→3)Mβ1→4GNβ1→4(Fα1→6)GN0T
【0122】
タチナタマメβ−ガラクトシダーゼ消化によって、画分Gの放射活性のある画分(図6t)から2つのGal残基が遊離した(図6u実線)。タチナタマメβ−N−アセチルヘキソサミニダーゼ消化を行ったところ図6u(実線)の放射活性のある糖鎖は、約9:1の割合で、Fuc残基のあるトリマンノシルコアとFuc残基のないものの糖鎖になった(図6u点線)。更にまた、放射活性のある画分G(図6t)をタチタナマメ由来酵素とは基質特異性の異なるディプロコッカルβ−ガラクトシダーゼとディプロコッカルβ−N−アセチルグルコサミニダーゼの混合物で消化したところ、標準物質の下記の式(化44)、(化45)と同じ位置にそれぞれ溶出してくる糖鎖に移行した(図6v)。
【0123】
【化44】
GNβ1→2Mα1→6(GNβ1→4)(Mα1→3)Mβ1→4GNβ1→4(Fα1→6)GN0T
【0124】
【化45】
GNβ1→2Mα1→6(GNβ1→4)(Mα1→3)Mβ1→4GNβ1→4GN0T
【0125】
更に、タチナタマメβ−N−アセチルヘキソサミニダーゼ消化において、図6vの物質はFuc残基のあるトリマンノシルコア構造とFuc残基のない構造になり、ディプロコッカルの酵素の混合物は2つのGal残基と、1つのGlcNAc残基を遊離していた。ディプロコッカルβ−ガラクトシダーゼはGalβ1→4GlcNAcを水解するが、Galβ1→3GlcNAcや、Galβ1→6GlcNAcは水解しないこと、また、ディプロコッカルβ−N−アセチルグルコサミニダーゼは下記式(化46)からただ1つのGlcNAc残基を遊離して下記式(化47)が生成すること等や、メチル化分析(表3〜表5)、レクチンカラムへの親和性等から、分画Gの糖鎖を式(化13)のバイオセクトGlcNAcを持った二本鎖複合型糖鎖と同定した。
【0126】
【化46】
GNβ1→2Mα1→6(GNβ1→4)(GNβ1→2Mα1→3)Mβ1→4GNβ1→4(±Fα1→6)GN0T
【0127】
【化47】
GNβ1→2Mα1→6(GNβ1→4)(Mα1→3)Mβ1→4GNβ1→4(±Fα1→6)GN0T
【0128】
アシアロ糖鎖の1.1%の割合を占める画分FはRCA120−HPLCカラムより遅れて溶出し(図2)、バイオ−ゲルP−4カラムにより約15.5グルコースユニットに相当する位置に溶出する(図3F、図5p)。放射活性のある分画をディプロコッカルβ−ガラクトシダーゼ消化したところ、1つのGal残基が遊離したことに相当するピークの移動があった(図5q)。この消化物はディプロコッカルβ−N−アセチルグルコサミニダーゼ消化の影響を受けないけれど、タチナタマメβ−N−アセチルヘキソサミニダーゼ消化を受けた(図5r)。更に、分画F(図5p)をコリネバクテリウムα1→2−L−フコシダーゼ消化を行ったところ1つのFuc残基が遊離し放射活性のある生成物は約15グルコースユニットに相当する位置に溶出し(図5s)、この段階の放射活性をもつ生成物(図5s)からはバイセクトGlcNAc残基をもった二本鎖を含む分画Gから得られた結果と同様の糖鎖解析結果を得た。
【0129】
したがって、バイセクトのGlcNAc残基をもつ二本鎖のGal残基にα1→2結合したFuc残基はディプロコッカルβ−ガラクトシダーゼとタチナタマメβ−N−アセチルヘキソサミニダーゼの逐次分解から2本のGalβ1→4GlcNAcβ1→のうち1本を保護していた。
更にまた、メチル化分析のデータよりE−PHAより遅れて溶出する画分中の糖鎖のGal残基はC−2位にのみ置換があること、ディプロコッカルβ−N−アセチルグルコサミニダーゼが下記式(化48)のManα1→3側からGlcNAc残基を遊離させることはできるが、下記式(化49)のManα1→6側からは遊離しないこと、またE−PHA−アガロースカラムとの相互作用に必要な構造からFuc残基はManα1→3側のGal残基のC−2位に結合しており、一方Manα1→6側のGal残基は糖の置換が無く、分画Fは式(化12)のバイセクトGlcNAc残基をもちManα1→3側に、血液型のH(O)型構造をもつ二本鎖複合型糖鎖と決定された。
【0130】
【化48】
R→GNβ1→2Mα1→6(GNβ1→4)(GNβ1→2Mα1→3)Mβ1→4GNβ1→4(±Fα1→6)GN0T
【0131】
【化49】
GNβ1→2Mα1→6(GNβ1→4)(R→GNβ1→2Mα1→3)Mβ1→4GNβ1→4(±Fα1→6)GN0T
【0132】
分画Hはアシアロ糖鎖の0.8%の割合であり、RCA120−HPLCカラムと同様にConA−セファロース、E−PHA−アガロース、DSA−アガロースカラムを素通りし、図3Hと図6wに示すようなバイオ−ゲルP−4カラムからの溶出パターンを得た。この分画はディプロコッカルβ−ガラクトシダーゼ、ディプロコッカルβ−N−アセチルグルコサミニダーゼ消化に影響を受けなかった。また、図6wの下線で示した放射活性をもつ糖鎖は分画Hの主成分(約60%)であり、コリネバクテリウムα1→2−L−フコシダーゼ消化で、2つのFuc残基を遊離することによって、分画Gと同じ位置に溶出する更に小さい糖鎖になった(図6x)。この段階の生成物(図6x)はディプロコッカルβ−ガラクトシダーゼとディプロコッカルβ−N−アセチルグルコサミニダーゼによる逐次分解に影響を受けた(図6y)。図6xの生成物のうち、約80%は分画Gから得られた結果と同じ結果を得た。
【0133】
更に図6wの下線で示した放射活性のある糖鎖をUEA−Iアガロースにアプライしたところ、カラムに吸着し、フコースを含む緩衝液で溶出された。したがって、2つのFuc残基は、2つのGal残基のC−2位に結合しており、Gal残基を、β−ガラクトシダーゼ消化から保護していた。この結果とメチル化分析のデータ(表3〜表5)とディプロコッカルの酵素の基質特異性と、レクチンカラムの結合のアフィニティより、分画Hは式(化14)の両方の鎖に血液型H(O)型構造をもち、バイセクトのGlcNAc残基をもった二本鎖複合型糖鎖を含むと同定した。
【0134】
分画Iは、バイオ−ゲルP−4カラムによって、約15.5グルコースユニットに相当する主要ピークと、約14グルコースユニットに相当する小さいピークとに、約7:3の比で分けられた(図3I)。主要ピークからは酵素消化によって図5pに示した画分Fから得られたのと同様の結果が得られたけれども、画分Iのディプロコッカルβ−ガラクトシダーゼ消化物(図5qに示した画分Fから得られた放射活性をもつ糖鎖に相当する)は画分Fの消化物とは違ってディプロコッカルβ−N−アセチルグルコサミニダーゼ消化の影響を受けた。これらの結果と、メチル化分析(表3〜表5)E−PHA−アガロースカラムへの親和性、ディプロコッカル酵素の基質特異性より、画分Iの主要成分は式(化15)のバイセクトGlcNAcをもった二本鎖複合型糖鎖であり、Manα1→6側の枝のGal残基のC−2位に結合したFuc残基の影響により、Manα1→3側のGalβ1→4GlcNAcβ1→がディプロコッカルβ−ガラクトシダーゼやディプロコッカルβ−N−アセチルグルコサミニダーゼの作用を受ける。
【0135】
バイオ−ゲルP−4カラムで約14グルコースユニットに相当する位置に溶出する(図3I)小さい方のピークからは酵素消化で分画Gと、ほぼ同様の結果が得られたが、このピークからはディプロコッカルβ−ガラクトシダーゼやタチナタマメのβ−ガラクトシダーゼ消化によって1つのGal残基しか遊離しなかった。
したがって、小さいピーク中の糖鎖はただ1つGal残基をもった二本鎖複合型糖鎖、すなわち、式(化16)、又は下記式(化50)であり、E−PHA−アガロースカラムへの親和性より、小さいピークの糖鎖は式(化16)であると決定した。
【0136】
【化50】
Gβ1→4GNβ1→2Mα1→6(GNβ1→4)(GNβ1→2Mα1→3)Mβ1→4GNβ1→4(±Fα1→6)GN0T
【0137】
画分Kからは図3Kと図6z(実線)に示すようにバイオ−ゲルP−4カラムの溶出パターンが得られた。図6z(実線)中の下線によって示された画分Kの主要な放射活性をもつ画分(90%)はディプロコッカルβ−ガラクトシダーゼ消化で3つ及び2つのGal残基を遊離することによってより小さな糖鎖になった(図6a′実線)。主ピークの溶出する位置は標準物質の下記式(化51)の溶出位置と一致した。
【0138】
【化51】
GNβ1→2Mα1→6〔GNβ1→4(GNβ1→2)Mα1→3〕Mβ1→4GNβ1→4(Fα1→6)GN0T
【0139】
また、ディプロコッカルβ−N−アセチルグルコサミニダーゼ消化によって、図6a′(実線)中の放射活性のある生成物の約75%が、2つのGlcNAc残基を遊離し、下記式(化52)と同じ位置に溶出した(図6b′実線)。
【0140】
【化52】
Mα1→6(GNβ1→4Mα1→3)Mβ1→4GNβ1→4(±Fα1→6)GN0T
【0141】
更に、その後のタチナタマメβ−N−アセチルヘキソサミニダーゼ消化によって、図6b′(実線)中、下線で示された糖鎖は約8:2の割合で、既に述べたようにFuc残基のあるものとないもののトリマンノシルコア構造と同一の糖鎖になった(図6c′実線)。ディプロコッカルβ−N−アセチルグルコサミニダーゼは下記の式(化53)、(化54)からはそれぞれ1残基と2残基のGlcNAcを遊離するので、ここで分析した糖鎖は式(化54)であった。
【0142】
【化53】
GNβ1→6(GNβ1→2)Mα1→6(GNβ1→2Mα1→3)Mβ1→4GNβ1→4(±Fα1→6)GN0T
【0143】
【化54】
GNβ1→2Mα1→6〔GNβ1→4(GNβ1→2)Mα1→3〕Mβ1→4GNβ1→4(±Fα1→6)GN0T
【0144】
これらの結果、及びメチル化分析(表3〜表5)、レクチンカラムの挙動に必要な構造より、画分Kの主要成分の75%は式(化17)の、C−2,4位に枝分かれのあるMan残基をもつ三本鎖複合型糖鎖と決定した。
更にまた、図6z(実線)中下線に示された画分Kの主要な放射活性のある糖鎖(90%)を、牛副こう丸α−フコシダーゼ消化した時、0、1、2残基のFucが遊離し、放射活性をもつ生成物は約16.5グルコースユニットに相当する。標準物質の下記式(化55)と同じ位置に単一ピークとして溶出した(図6z点線)。
【0145】
【化55】
Gβ1→4GNβ1→2Mα1→6〔Gβ1→4GNβ1→4(Gβ1→4GNβ1→2)Mα1→3〕Mβ1→4GNβ1→4GN0T
【0146】
更に、この生成物をディプロコッカルβ−ガラクトシダーゼ、ディプロコッカルβ−N−アセチルグルコサミニダーゼ、タチナタマメβ−N−アセチルヘキソサミニダーゼによって逐次分解すると、各ステップの生成物は3残基のGal、2残基のGlcNAc、1残基のGlcNAcを遊離して標準物質の下記の式(化56)(図6a′点線)、(化57)(図6b′点線)、(化58)(図6c′点線)と同じ位置に溶出した。
【0147】
【化56】
GNβ1→2Mα1→6〔GNβ1→4(GNβ1→2)Mα1→3〕Mβ1→4GNβ1→4GN0T
【0148】
【化57】
Mα1→6(GNβ1→4Mα1→3)Mβ1→4GNβ1→4GN0T
【0149】
【化58】
Mα1→6(Mα1→3)Mβ1→4GNβ1→4GN0T
【0150】
図6z(実線)中、下線で示された画分Kの主成分をUEA−I−アガロースカラムにアプライしたところ、その成分の約25%がカラムに吸着し、フコースを含む緩衝液で溶出し、画分Kの主成分の約25%が血液型のH(O)型構造式(化1)を有する。
【0151】
これらの結果をメチル化分析のデータ(表3〜表5)から、画分K中の糖鎖はC−2,4位に枝分かれのあるMan残基をもつ三本鎖複合型糖鎖を含むこと;鎖のFuc残基は還元末端のGlcNAc残基かGal残基のC−2位か、その両方に結合していること;画分Kの主成分の糖鎖の25%に存在しているGal残基に結合したFuc残基はディプロコッカルβ−ガラクトシダーゼによる水解からGalβ1→4GlcNAcβ1→の3本の外側の鎖のうち1本を保護している(図6a′実線)ことが解明され、画分KのH(O)型構造を有する糖鎖を式(化18)と決定した。
【0152】
画分Lは、バイオ−ゲルP−4カラムで、その外側の鎖の部分に3、4、5個のGalβ1→4GlcNAcユニットをもつ複合型糖鎖の領域に、それぞれ46:43:11の割合で3つの画分L1、L2、L3に分かれた(図3L、図7d′)。
【0153】
画分L1は全アシアロ糖鎖の約5.1%の割合を占め、バイオ−ゲルP−4カラムよりその外側の鎖に3つのGalβ1→4GlcNAcユニットをもつ複合型糖鎖の領域に溶出した(図7d′)。この画分の糖鎖からはディプロコッカルβ−ガラクトシダーゼ(図7e′)、ディプロコッカルβ−N−アセチルグルコサミニダーゼ(図7f′実線)、タチナタマメβ−N−アセチルヘキソサミニダーゼ(図7f′点線)での逐次分解によって3残基のGal、1残基のGlcNAc、2残基のGlcNAcを遊離し、最終的には約8:2の比で、Fuc残基の付いたトリマンノシルコア構造と付かない構造の糖鎖になった(図7f′点線)。これらの結果とメチル化分析のデータ(表3〜表5)と三本鎖複合型糖鎖へのディプロコッカル酵素の基質特異性から画分L1の糖鎖を式(化19)のC−2,6位が置換されたMan残基をもつ三本鎖複合型糖鎖であると決定した。
【0154】
画分L2は全アシアロ糖鎖のおよそ4.7%の割合であり、バイオ−ゲルP−4カラムよりその外側の鎖に4つのGalβ1→4GlcNAcユニットをもつ複合型糖鎖の領域に溶出された(図7d′)。放射活性をもつ画分L2をタチナタマメβ−ガラクトシダーゼ消化したところ、図7g′の下線で示される2つの画分L2aとL2bがそれぞれ4残基と、2〜3残基のGal残基を遊離することによって約44:56の割合で生じた。画分L2aはディプロコッカルβ−N−アセチルグルコサミニダーゼ(図7h′実線)と、その後のタチナタマメβ−N−アセチルヘキソサミニダーゼ(図7h′点線)による逐次分解で1残基のGlcNAcとその後3残基のGlcNAcを遊離した。この逐次分解で画分L2aは標準物質の下記式(化59)と同じ位置に溶出する糖鎖になり、その後約7:3の割合でフコース残基のついたトリマンノシル構造と付かない構造になった。
【0155】
【化59】
GNβ1→6(GNβ1→2)Mα1→6(GNβ1→4Mα1→3)Mβ1→4GNβ1→4(Fα1→6)GN0T
【0156】
ディプロコッカル酵素の基質特異性、メチル化分析(表3〜表5)より、及び以上の結果より該L2aは、L2成分中の四本鎖複合型糖鎖由来であり、該L2成分中の四本鎖糖鎖L2−1の構造を式(化20)と決定した。
【0157】
画分L2bはタチナタマメβ−N−アセチルヘキソサミニダーゼ消化によって図7i′に示すような3つのピークとなった。図7i′中下線で示された糖鎖は3残基のGlcNAcの遊離によるもので画分L2bの3分の1の割合を占めるが、タチナタマメβ−ガラクトシダーゼとその後のβ−N−アセチルヘキソサミニダーゼによる逐次分解によって、1残基のGalと1残基のGlcNAcを遊離し(図7j′実線と点線)、Fuc残基がついたトリマンノシルコア構造と付かないものに約9:1の割合で消化された。したがって、図7i′の下線で示された糖鎖は式(化21)に示したような画分L2に含まれている1つのGalβ1→4GlcNAc1→3繰返し構造をもつ三本鎖複合型糖鎖L2−2由来であった。
【0158】
図7i′中の残りの生成物はタチナタマメβ−ガラクトシダーゼとタチナタマメβ−N−アセチルヘキソサミニダーゼにもはや影響を受けなかった。画分L2の約30%が、UEA−I−アガロースカラムに結合しフコースを含む緩衝液で溶出した。
【0159】
画分L3はアシアロ糖鎖の約1.2%の割合であって、バイオ−ゲルP−4カラムよりその外側の鎖に5つのGalβ1→4GlcNAcユニットをもつ複合型糖鎖の領域に溶出された(図7d′)。タチナタマメβ−ガラクトシダーゼ消化によって2から4残基のGalを遊離し、バイオ−ゲルP−4カラムによって18〜20グルコースユニットの間にブロードなピークとして溶出する糖鎖となった。
画分L3はディプロコッカルβ−ガラクトシダーゼとディプロコッカルβ−N−アセチルグルコサミニダーゼの混合物によって消化したところ、図7k′(実線)で示すように多数のピークになり、その約47%と13%が標準物質の下記の式(化60)、(化61)と同じ位置に溶出する糖鎖となった(図7k′中、下線で示したL3b、L3a)。
【0160】
【化60】
GNβ1→6(GNβ1→2)Mα1→6(GNβ1→4Mα1→3)Mβ1→4GNβ1→4(Fα1→6)GN0T
【0161】
【化61】
GNβ1→6(GNβ1→2)Mα1→6(Mα1→3)Mβ1→4GNβ1→4(Fα1→6)GN0T
【0162】
タチナタマメβ−N−アセチルヘキソサミニダーゼ消化によってL3aとL3bより、それぞれ2残基と3残基のGlcNAcを遊離し、約8:2の割合でFuc残基の付いたトリマンノシルコア構造と付かないものとなった(図7k′点線)。メチル化分析(表3〜表5)、ディプロコッカル酵素の基質特異性と合せ、画分L3中の2成分L3−1、L3−2をそれぞれ式(化22)の2つのGalβ1→4GlcNAcβ1→3繰返し構造をもつ三本鎖複合型糖質、式(化23)の1つのGalβ1→4GlcNAcβ1→3繰返し構造をもつ四本鎖複合型糖質と同定した。
【0163】
実施例2
(1)血液型別血漿成分の調製、分離
(a)A、B、O型血液型別に採血した血液より血漿を調製し、該血漿を0.38%クエン酸ナトリウム添加後、プロテアーゼインヒビター(4mM EDTA、4mM N−エチルマレイミド、100KIUアプロチニン)を加え、−80℃で保存した。次に、各血液型別血漿1μlのSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動を行い、各血漿成分を分離した。α2 −マクログロブリンは180kDaに、vWFは270kDaの位置に泳動、分離した。次に血漿成分を、PVDF膜に移し、抗Aマウスモノクローナル抗体、抗Bマウスモノクローナル抗体〔オルソー社製(IgM)、又はバイオカーブ社製A005(IgG3 )〕、ビオチン−UEA−I(ホーネン社製)とそれぞれ20℃、90分反応させた。なお抗体、レクチンはトリス緩衝生理食塩水(TBS:150mM NaCl、10mMトリス−塩酸、pH7.4)に0.05%のツイーン20を含有させたTW/TBSで希釈し、使用した。血漿成分との特異的結合はホースラディッシュパーオキシダーゼ(HPP)結合2次抗体、又はアビジンを使用し、4−クロロ−ナフトール、H2 O2 を基質とし検出した。
【0164】
A型血液より調製、分離したα2 −マクログロブリン及びvWFはそれぞれ、抗A抗体、UEA−Iと特異的に結合した。
B型血液より調製、分離したα2 −マクログロブリン及びvWFはそれぞれ、抗B抗体、UEA−Iと特異的に結合した。
AB型血液より調製、分離したα2 −マクログロブリン及びvWFは抗A抗体、抗B抗体と結合した。
O型血液より調製、分離したα2 −マクログロブリン及びvWFは抗A抗体、抗B抗体とは結合せず、抗H(O)レクチンと結合した。
【0165】
(b)上記(a)記載のA型血液より調製した血漿(1ml)に抗Aモノクローナル抗体(オルソー社製、マウスIgM)0.5ml、抗α2 −マクログロブリン血清(ダコー社製、ウサギIgG)100μl、抗vWF血清(奈良医大、宮田博士より供与、ウサギIgG)100μlのいずれかを添加し、24時間、4℃に保持した。免疫凝集物を遠心分離後、数回TBSで洗浄し、血漿成分の各免疫凝集物を調製した。100μlのSDS−緩衝液(2%SDS、5%2−メルカプトエタノール、10%グリセリン、50mMトリス−塩酸、pH6.8)に溶解した2〜5μlの免疫凝集物は、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動後PVDF膜に転写した。
【0166】
A型血液より調製した血漿より抗A抗体で凝集した沈殿物の180kDa、270kDaの位置の泳動物はそれぞれ抗A抗体と結合し、抗B抗体とは結合しなかった。なお、抗α2 −マクログロブリン血清で凝集した沈殿物の180kDaの位置の泳動物は抗A抗体と結合し、抗vWF血清で凝集した沈殿物の270kDaの位置の泳動物は抗A抗体と結合した。また、180kDa、270kDaともUEA−Iと結合した。
【0167】
このほか、上記(a)記載のB型、O型、AB型の各血液型血漿より抗vWF抗体で免疫凝集し、各vWF凝集物を調製した。次に、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動後、PVDF膜に転写し、各vWFの抗A抗体、抗B抗体、UEA−Iとの結合性を測定した。
【0168】
B型血液の血漿より分離、調製したvWFは抗B抗体、UEA−Iと結合し、AB型血液の血漿より分離、調製したvWFは抗A抗体、抗B抗体、UEA−Iと結合し、O型血液の血漿より分離、調製したvWFは抗A抗体、抗B抗体とは結合せず、UEA−Iと結合した。
【0169】
同様に、各血液型の血漿より抗α2 −マクログロブリン抗体を用い調製したα2 −マクログロブリンは、抗A抗体、抗B抗体、UEA−Iに対し、上記と同様の結果を示した。
【0170】
なお、前記のA型血液の血漿より抗α2 −マクログロブリン抗体で調製した、免疫凝集物5μl、精製vWF10μgをそれぞれ100mUのエンドグリコシダーゼF(ベーリンガー マンハイム社製)を含む50μlの溶液(50mM酢酸ナトリウム緩衝液、pH6.0、40mM EDTA、2%n−オクチルグルコシド、2%2−メルカプトエタノール、0.1%SDS、0.25%窒化ナトリウム)中で10時間、37℃で反応させ、等量のSDS−緩衝液を添加後、100℃、5分間熱処理を行い、反応を停止した場合、各エンドグリコシダーゼF処理されたα2 −マクログロブリン、vWFはABH(O)血液型抗原性を消失した。
【0171】
(c)血液型A型、B型、O型、AB型の健常人、各10名より採血し、血液型別の血漿を調製した。
次に、20μg/mlの抗vWF抗体〔MBL社製、ヤギIgG:50mM重炭酸ナトリウム緩衝液(pH9.5)〕でELISAプレート(ベクトン アンド ディクソン社製)を24時間、4℃処理し、プレートを抗vWF抗体でプレコートし、次いで1%BSAを含むTBSでブロッキングした。次いで上記の血液型別血漿の段階希釈物を、90分、該プレートと、室温で反応させた。次にプレートをTW/TBSで洗浄後、抗A抗体、抗B抗体(オルソー社製、TW/TBSで1/20に希釈)、ビオチン−UEA−I(5μg/ml)とそれぞれ45分、反応させた。抗体、レクチンとの結合性はオルトフェニレンジアミン塩酸塩、H2 O2 を基質とし、HRP結合の二次抗体、又はアビジンなどを用い測定した。HRPの反応は、暗所で30分行い、硫酸で反応を停止し、490nmの吸光度を測定した。
【0172】
結果を図8に示す。A型血液より分離、調製したvWFは抗A抗体、UEA−Iと結合し、B型血液より分離、調製したvWFは抗B抗体、UEA−Iと結合し、AB型血液より分離、調製したvWFは抗A、抗B抗体、UEA−Iと結合し、O型血液より分離、調製したvWFはUEA−Iと結合した。なお図中、横軸は希釈前の血漿濃度を1とした時の、血漿希釈濃度、縦軸は490nmの吸光度、黒丸印は抗A抗体の結合、白丸印は抗B抗体の結合、黒三角印はUEA−Iの結合をそれぞれ示す。
【0173】
(d)α2 −マクログロブリン(シグマ社)、実施例1−(1)の精製vWFをそれぞれSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動後、PVDF膜に転写した。上記α2 −マクログロブリンは各血液型の混合血漿由来であり、抗A抗体、UEA−Iと結合性を示した。また、抗B抗体とも弱い結合性を示した。また、vWFも同様な結果を示した。このα2 −マクログロブリンを抗A抗体結合カラム、抗A抗体及び抗B抗体結合カラム、抗B抗体結合カラムでそれぞれ処理し、抗B糖鎖抗原、抗A及び抗B糖鎖抗原、抗A糖鎖抗原がそれぞれ除去されたα2 −マクログロブリンを調製した。また同様に該精製vWFも処理し、各糖鎖抗原別のvWFを調製した。
【0174】
(e)各ABO型血液より調製した血漿の混合物を抗A抗体結合カラムに通し、A型糖鎖抗原の除去された血漿を調製した。また、該混合物を抗B抗体結合カラムに通し、B型糖鎖抗原の除去された血漿を調製した。更にまた、同混合物を抗A、抗B抗体結合カラムに通し、A型、B型糖鎖抗原の除去された血漿を調製した。また、抗A抗体、抗B抗体を用いる凝集法により、生じる免疫複合体を除去し、各血漿を調製した。
【0175】
【発明の効果】
本発明により、ABH(O)型糖鎖抗原の特定された血漿由来製剤が提供される。本製剤は長期間、反復使用した場合においても、血液凝固に起因する副作用が生ずることなく、血友病、vW病等の治療、血漿由来成分の輸血等において安全な製剤として有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】vWFのN結合糖鎖の電気泳動を示す図である。
【図2】アシアロ糖鎖のレクチンカラム処理工程を示す図である。
【図3】レクチンカラム処理糖鎖のバイオ−ゲルP−4溶出パターンを示す図である。
【図4】酵素処理前後の糖鎖のバイオ−ゲルP−4溶出パターンを示す図である。
【図5】酵素処理前後の糖鎖のバイオ−ゲルP−4溶出パターンを示す図である。
【図6】酵素処理前後の糖鎖のバイオ−ゲルP−4溶出パターンを示す図である。
【図7】酵素処理前後の糖鎖のバイオ−ゲルP−4溶出パターンを示す図である。
【図8】血液型別血漿由来のvWFの抗A抗体、抗B抗体、UEA−Iとの結合性を示す図である。
Claims (2)
- 精製されたフォンビルブランド因子を有効成分として使用する血漿由来製剤において、a)A型糖鎖抗原及びH(O)型糖鎖抗原、b)B型糖鎖抗原及びH(O)型糖鎖抗原、c)A型糖鎖抗原、B型糖鎖抗原、及びH(O)型糖鎖抗原、d)H(O)型糖鎖抗原より成る群より選択される糖鎖抗原を実質上一種含有する精製されたフォンビルブランド因子を有効成分として使用することを特徴とする血漿由来製剤。
- 精製されたフォンビルブランド因子を有効成分として使用する血漿由来製剤において、血漿中のA型糖鎖抗原及びB型糖鎖抗原を除去した血漿成分より調製されてなることを特徴とする血漿由来製剤。
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