JP3572590B2 - 金属表面の再溶融処理方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、アルミニウム合金鋳物などの一部の金属表面層を局部的に改質するための再溶融処理方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
シリンダーヘッドのような複雑な形状の部材は、通常鋳造によって成形される。
ところが、鋳造品はポロシティーなどの内部欠陥を含むと共に、組織が粗大であることから鍛造、プレス加工成形品などに比べて、疲労強度の高い製品が得られない。
鋳物製品の疲労強度を向上させるには、内部欠陥を少なくすると共に、結晶粒を微細化すれば良い。そして、結晶粒を微細化するには、凝固時の冷却速度を大きくすれば良いが、冷却速度を大とすると、湯流れ、湯廻りなどの鋳物の成形性が阻害されるだけでなく、内部欠陥が内部に凍結されて残留することもある。
【0003】
アルミニウム合金製シリンダーヘッドの製造において、鋳造により一旦成形した後、特に疲労強度が要求される部位をTIGアーク、レーザービーム、電子ビーム又はプラズマアークなどの高密度加熱エネルギーで照射してその表面層を再溶融し、引続き急冷凝固させることにより、局部的に改質する方法が特開昭61−193733号公報に提案されている。この局部的な表面改質方法は、「再溶融処理」又は「リメルト処理」と呼ばれる。
【0004】
特開平3−471号公報には、アルミ合金の突合せ継ぎ手TIG溶接において、アーク長さと溶込み深さがほぼ反比例する第1領域、第1領域より長いアーク長で溶込み深さがアーク長で殆ど変動しない第2領域及び第2領域より長いアーク長で溶込み深さがアーク長にほぼ比例する第3領域が得られるようなほぼ定電流特性の溶接電源を用い、アーク長が第1〜第3両域の内少なくとも2つ以上の領域に交互に入るように、周期的にアーク長を変化させるTIG溶接の制御方法が記載され、この方法では、溶接電流を一定としたままで溶込み深さの制御が可能となる。
【0005】
リメルト処理には通常TIGアーク溶融が用いられる。これは装置が安価であることと、溶融時のブローホール発生が少ないためである。しかし、TIGアーク溶融によるリメルト処理には寸法精度が悪いという問題があり、特にシリンダーヘッドのように複雑な形状の部品は、バルブシートやウォータージャケットによって寸法が拘束されるため、TIGアーク溶融の表面形状と深さについて高い精度が要求される。
【0006】
図4に、シリンダーヘッドにおけるリメルト処理部の状況を示す。22は排気口、23は吸気口、24はプラグ穴であり、25がリメルト処理を行う表面の形状を示す。リメルト処理部には、例えば図中A,B,C,D点に、表面の形状以外に深さについての寸法拘束(深さの規格)がある。即ち、熱影響を受ける度合いにより改質層の深さが規定され、図4においては、熱影響の一番大きい弁間部であるA部が一番深くまで溶融させる必要があり、以下、D,C,Bの順となる。よって溶込み深さは、A>D>C>Bとなるように制御する必要がある。
【0007】
図5は、従来のリメルト処理方法による処理部の深さに関しての規格とリメルト処理を実施した結果の状況を示す。
図5Aは処理前の状態を示し、図5Bは処理後の状態を示す。
図5Aにおいて、26はTIGトーチ、27は溶接ワイヤー又は消耗性溶接棒であり、被処理母材28に対し29に示す直線状の軌跡を描いてリメルト処理を行なう。
この際、リメルト処理部の深さは、溶接環境(アース位置、アース板の材料)、溶接条件(TIGトーチ速度、印加電圧、電流、溶接棒の投入量等)のバラツキとリメルト溶接ロボットへのティーチインの誤差、被処理母材のセッティング誤差等により変化してバラツキを生じ、処理後のリメルト処理部の深さの形状は図5Bに示すようになる。
【0008】
図5Bにおいて、30はリメルト処理されて母材が局部的に改質された部分を示し、一点鎖線31で示す箇所が図4においてA部またはD部に相当する位置であって深さの規格で最も深く要求される箇所であり、また32は処理後の加工で除去される部分を示す線である。eで示す範囲が深さの寸法規格で拘束される範囲であり、gは規格で決められた最低限の深さの寸法である。eで示す範囲がリメルト処理により必要な深さの公差の範囲を示す。被処理母材28が局部的に改質された部分30において、33に示す線は再溶融層の範囲の最も深い位置を示し、連続してリメルト処理を繰り返す量産を行なうと、その深さのバラツキは前記の線より浅い方向へdの範囲に入っていることを示す。
【0009】
ここで問題は、fの範囲が発生することであり、この部分は寸法規格で決められた範囲を逸脱して、処理の深さが浅いものが量産では発生していることを表わし、これは量産処理品のなかには一定の比率で処理深さの不足している不良品が含まれていることを示すものである。
したがって、従来リメルト処理の工程での全数検査は不可避となり、発生不良品に対する処置に多くのコストを要している。
ただし、dの値はeの値より小さいので、リメルト処理の深さのバラツキの平均値が深い方へ変移すれば、全てが規格値に入ることを示唆している。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、量産工程での処理で発生するリメルト処理深さの不足による不良品の発生及びこれ伴う多大なコストの発生を防止し、TIGアークを用いる効率的なリメルト処理方法を提供することを目的とするものである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明は、金属表面にTIGアークを印加してその表面層を再溶融し、引続く急冷凝固により表面層を改質する方法において、被処理表面層の深い処理深さを要する部位に予め該部位が最低限必要とする処理深さ又はそれより浅い深さの凹部を形成し、TIGアークの移動を行なうに際し、前記凹部を形成した部位においてはTIGアークを他の部位より被処理表面に近ずけて再溶融処理を行なう金属表面の再溶融処理方法である。
【0012】
【作用】
リメルト処理において、溶込み深さは、次に示す入熱量の影響を受ける。
Figure 0003572590
したがって、入熱量が同一であれば溶込み体積は不変である。
ここで、被処理部に凹部を設け、該凹部ではトーチを凹部のない他の箇所よりは被処理部に近ずけて処理を行なうと、凹部の体積分の溶込み体積が凹部の下方に進出して溶込み深さが増大し、規格値の深さの維持が可能となる。
【0013】
【実施例】
図1は、本発明によるリメルト処理を行なう実施例の説明図で、図1Aは処理前の状態を示し、図1Bは処理後の状態を示す。図1Aにおいて、1は先端にタングステン電極を有するTIGトーチ、2はアルミ合金の溶接ワイヤであり、共に処理の開始位置にある。3で示す線はリメルト処理を行なうに際してTIGトーチ1の描く経路で、処理深さの規格値が設けられている被処理母材4の7で示す線の位置に形成された凹部5とほぼ平行な軌跡を描いて移動しようとするものである。
【0014】
図1Bにおいて、6はリメルト処理されて母材が局部的に改質される溶込み部分を示し、8は処理後の加工で除去される深さを示す線である。cは規格で決められた最低限の深さ、bで示す範囲は深さの規格の範囲であり、aで示す範囲がリメルト処理により生ずる深さのバラツキの範囲を示す。溶込み部分の中で線7で示す位置が、再溶融の範囲のうち最も深いものを示し、連続してリメルト処理を繰り返す量産を行なうと、その深さのバラツキは前記の線より浅い方向へaの範囲に入ることを表わしている。これは規格で決められた処理深さの位置に、予め最低限必要とする処理深さ又はそれより浅い深さの凹部を被処理母材に形成することにより、量産での処理のバラツキを含めても処理深さの規格外となる不良品の発生がないことを表わしている。
【0015】
図2は、本発明によるリメルト処理による溶込み深さの状況を示す。一般に溶込み深さは、前記の式に示す入熱量の影響を受ける。しかし、入熱量が同一であっても、図2A、図2Bに示すように被処理母材9の伝熱、その他の条件により、溶込み形状は10及び11のように変化することもあるが、溶込み体積は不変である。図2C及び図2Dは、処理部にTIGトーチの径より小さくかつ深い凹部12を予め設け、この部分にリメルト処理を施した前後の状況を示す図であり、図2Cは処理前、図2Dは処理後を示す。13で示す線が規格で決められた溶込み必要最低限の形状とすると、14で示す形状が溶込み部分となり、凹部12に相当する体積が溶込み部分の下方へ進出して増加することとなり、12の凹部がなければ不足する深さを達成し、凹部の径がトーチ径より小さければ凹部は溶込み部分に吸収され問題は生じない。
【0016】
図3は、小径の凹部に大径の浅い凹部を付加した例を示す。図3Aは、単一の小径の凹部16による溶込み部分17を示し、図3Bと図3Cは、より深さの少ない小径の凹部とこれより大径で浅い凹部18,20を付加して設け、これらの凹部18,20の部分では、TIGトーチを被処理母材により近けて処理を行うものであり、得られる溶込み部分の19、21の深さは、図3Aの17とほぼ同一となり、これは予め形成する凹部の形状には自由度があることを示す。
【0017】
リメルト処理前の凹部の形成に関しては、対象となる被処理母材が鋳造品であれば、鋳型の形状により凹部を被処理母材に形成し、鋳造品として形成し難い場合は機械加工によりこれを形成するが、鋳造品の場合は小径で深い凹部の形成は不可能であるので、この場合には前記の凹部の形状の自由度を利用することとなる。
【0018】
【発明の効果】
本発明は、表面層を局部的に改質するリメルト処理において、改質する溶込み深さを増大して溶込み深さの不足による不良品の発生を防止し、これに伴う不良コストを削減して効率的なリメルト処理を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例の説明図。
【図2】本発明の溶込み体積の説明図。
【図3】本発明の凹部の効果の説明図。
【図4】処理部の形状、規格の説明図。
【図5】従来の技術の説明図。
【符号の説明】
1 TIGトーチ 2 溶接棒 3 TIGトーチの軌跡
4 被処理母材 5 凹部 6 リメルト処理溶込み部分

Claims (2)

  1. 金属表面にTIGトーチによってTIGアークを印加してその表面層を再溶融するとともに溶接材料を溶かし込み、引続く急冷凝固により表面層を改質する方法であって
    被処理表面層のうち前記TIGトーチの進行方向で部分的に異なる処理深さが要求される部位に予め該部位が最低限必要とする処理深さ又はそれより浅い深さの凹部を形成して再溶融処理を行なう
    ことを特徴とする金属表面の再溶融処理方法。
  2. 請求項1に記載の金属表面の再溶融処理方法であって、
    前記凹部は、前記要求される処理深さに見合った体積を有し、
    前記TIGトーチの移動を行なうに際し、前記凹部を形成した部位においてはTIGトーチを他の部位より被処理表面に近づける
    ことを特徴とする金属表面の再溶融処理方法。
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