JP3560768B2 - 炭素系湿式摩擦材の製造方法 - Google Patents
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Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、相対する摩擦面間に潤滑油などの油液が介在する湿式状態で使用される炭素系の湿式摩擦材の製造方法に係り、特にクラッチや差動制限装置(LSD)などの駆動伝達装置に用いられる摩擦材として好適な摩擦性能をバランス良く付与することのできる炭素繊維を主成分とする炭素系湿式摩擦材の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、炭素繊維を主成分とする摩擦材としては、炭素繊維基材を樹脂結合材または炭素結合材で結合した複合組織の材料が開発されている。例えば、特開昭50−72050号公報には1つの支持材料、および、有機樹脂バインダーを含浸した炭素繊維ウエブを含む1つの摩擦層、から成る、可動部分間の力の伝達用油中運転用摩擦要素が、特開昭62−21528号公報には炭素繊維のような繊維状物質および結合剤を含む組成物を加圧加熱成形後、350〜1000℃で非酸化性雰囲気中で加熱する摩擦材の製造法が、また特公昭60−54270号公報には炭素繊維織物をフラン樹脂等で固めた成形物を焼成して得られる炭素材に、コールタールまたはコールタールおよび/またはピッチとフラン樹脂とを含浸させたのち焼成し、含浸、焼成を繰り返し、且つ少なくとも1回は2300℃以上で焼成して得られた動的摩擦係数が0.1〜0.40、摩耗量が100×10−4mm/面/停止以下である炭素繊維強化炭素摩擦材が提案されている。
【0003】
このほか、特公平2−37492号公報には、連続多孔度を有する炭素繊維の支持体に熱分解炭素の被膜を形成して前記連続多孔度が15〜85%の範囲にあるエネルギー吸収用摩擦アセンブリーが、特公平2−40890号公報には、炭素繊維で織って形成される網目状織布と、化学的蒸着(CVD) 処理によって前記炭素繊維の表面にのみ炭素被膜を施し、炭素被膜形成後も網目状織布が多孔性を保持している湿式摩擦材料が開示されている。
【0004】
湿式摩擦材は、使用時に潤滑油などの油状成分が常に摩擦面間に介在することが要求される関係で、摩擦材自体が有する油液の保持能力が耐焼付け性および耐摩耗性に大きな影響を与える。このため、摩擦材の組織内部に油液を吸蔵保持するための適度の気孔や空隙を保有させることが必要となる。ところが、炭素繊維基材に炭化性の樹脂類やピッチなどの結合材を被着成形したのち非酸化性雰囲気中で焼成炭化する方法で得られる炭素繊維複合炭素材(C/C材)は、結合材成分が揮散した後の気孔が多く耐摩耗性の低下や摩擦特性を変動させ、同時に炭素繊維の弾性率が増大することにより組織が脆弱化してハンドリング性を損ねる欠点がある。また、C/C複合系の摩擦材は製造工程の加熱硬化および焼成炭化段階で結合材成分から発生する縮合水や分解ガスがマトリックス組織中に吸蔵されて発泡現象を生じ、この状態で炭化が進行する関係で炭化過程で材質組織に亀裂や破損が発生したり、得られる摩擦材の強度が極端に低下して正常な摩擦特性の付与が困難となる問題がある。
【0005】
一般的に、炭素繊維を主成分とする炭素系の湿式摩擦材では、摩擦係数レベルの保持及び安定性は主に炭素繊維部が担っており、衝撃的な負荷に対してはマトリックス部が大きな影響をもっている。しかしながら、炭素繊維強化炭素材(C/C材)は焼成炭化過程で発生する縮合水や分解ガスによりマトリックス部に空隙が生じるために充分な強度特性を得ることが難しい。したがって、単にC/C材で摩擦材を構成したのでは摩擦係数と耐摩耗性との摩擦性能をバランスよく付与することが困難である。
【0006】
そこで、本出願人は炭素繊維を基材として油状成分の吸蔵保持性に優れる湿式炭素系摩擦材の製造方法として、クロスピッチ幅が0.7〜3.0mmの炭素繊維平織クロスに、炭化性の熱硬化性樹脂液とカーボンブラックを配合した混練物を被着して熱硬化し、得られたCFRPの硬化シートを所定形状に裁断加工したのち金属支持板に接合することを特徴とする炭素系湿式摩擦材の製造方法、更にCFRPの硬化シートを非酸化性雰囲気中で800℃以上の温度により焼成炭化処理し、得られたC/C板に再び炭化性の熱硬化性樹脂液とカーボンブラックを配合した混練物を被着して熱硬化し、これを金属支持板に接合することを特徴とする炭素系湿式摩擦材の製造方法を開発し、特開平9−71665号公報として提案した。
【0007】
更に、本出願人は炭素系湿式摩擦材について研究を進めた結果、高度の摩擦係数ならびに耐摩耗性をバランスよく兼備する炭素系湿式摩擦材の製造方法としてクロスピッチ幅が0.7〜3.0mmの炭素繊維平織クロスに熱硬化性樹脂溶液を含浸して35〜50%の樹脂分を被着させ、加熱硬化して得られた細孔直径0.1〜300μm における気孔率が0.5〜35%の硬化シートを所定形状に裁断加工した後、金属支持板に接合することを特徴とする湿式摩擦材の製造方法を提案(特願平8−165398号)した。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本出願人は引き続き炭素系湿式摩擦材について研究を進めた結果、気孔率を特定した炭素繊維複合硬化樹脂シート(CFRPシート)及び/又は炭素繊維複合炭素シート(C/Cシート)とを交互に金属支持板に接合することにより、摩擦性能をバランスよく向上できることを見出し、炭素繊維平織クロスに熱硬化性樹脂溶液を含浸して加熱硬化したCFRPシートを基材とし、該基材をセグメント状に加工して、その気孔率が10%未満のセグメント状CFRPシート基材と、気孔率が10〜20%のセグメント状CFRPシート基材とを、交互に金属支持板に接合する方法、及び、CFRPシートをセグメント状に加工したのち、非酸化性雰囲気中800℃以上の温度で焼成炭化処理したC/Cシートを基材とし、その気孔率が10%未満のセグメント状C/Cシート基材と、気孔率が10〜20%のセグメント状C/Cシート基材とを、交互に金属支持板に接合する方法、更に、セグメント状CFRPシート基材と、セグメント状C/Cシート基材とを、交互に金属支持板に接合し、一方の基材の気孔率を10%未満、他方の基材の気孔率を10〜20%とする、炭素系湿式摩擦材の製造方法を開発し、特願平9−38304号として提案した。
【0009】
本発明者らは、上記特願平9−38304号の技術を改良し、CFRPシート基材を用いることなく簡便な手法により、摩擦性能の向上を図ることができることを確認した。本発明はこの知見に基づいて完成したものであり、その目的はクラッチや差動制限装置(LSD)などの駆動伝達装置に用いられる摩擦材として好適に用いることができる高度の摩擦係数ならびに耐摩耗性をバランスよく兼備する炭素系湿式摩擦材の製造方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するための本発明による炭素系湿式摩擦材の製造方法は、炭素繊維クロスに熱硬化性樹脂溶液を含浸し、加熱硬化したのち非酸化性雰囲気中800℃以上の温度で焼成炭化処理して得られた気孔率が10〜20%の炭素繊維複合炭素シート(C/Cシート)に、再度熱硬化性樹脂溶液を含浸し、加熱硬化して気孔率が10%未満のシート基材を作製し、該シート基材を所定形状に加工して金属支持板に接合することを構成上の特徴とする。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明の炭素系湿式摩擦材を構成する炭素繊維としては、ポリアクリロニトリル系、レーヨン系、ピッチ系等の各種原料から製造された平織、朱子織、綾織などのクロスが用いられる。なお、用いる炭素繊維クロスは、濡れ性を改善するための表面処理を施したものであってもよい。
【0012】
炭素繊維クロスに含浸する熱硬化性樹脂溶液としては、例えばフェノール系樹脂、フラン系樹脂、エポキシ系樹脂あるいはこれらの混合樹脂等の高炭化性の熱硬化性樹脂液をメタノール、エタノール、エーテル、アセトン等の適宜な有機溶媒に溶解した溶液が用いられる。熱硬化性樹脂溶液の濃度は炭素繊維クロスに被着させる樹脂量との関係で調整されるが、均一に含浸させるためには低粘度であることが好ましい。
【0013】
熱硬化性樹脂溶液を炭素繊維クロスに含浸する方法としては、塗布、浸漬などの常用の手段が適用され、炭素繊維クロスに含浸する樹脂量は目標とする気孔率との関係で調整する。所定量の樹脂分を含浸した炭素繊維クロスは風乾し、有機溶媒を揮散除去してプリプレグシートを得たのち、加熱硬化する。加熱硬化はプリプレグシートを耐熱性の金属板、セラミック等の平板に挟持して適宜な加圧下に保持しながら加熱炉内に設置し、10℃/hr以下、好ましくは5℃/hr以下の昇温速度で200〜300℃の温度に加熱し、適宜時間保持することにより行われる。
【0014】
プリプレグシートを加熱硬化した炭素繊維複合樹脂シートは、窒素、アルゴン等の非酸化性雰囲気に保持された加熱炉中で800℃以上の温度に加熱して焼成炭化処理することにより炭素繊維複合炭素シート(C/Cシート)が得られる。焼成温度が800℃未満の低い温度では熱硬化性樹脂の炭化が不完全となり強度が低下する。このようにして炭素繊維クロスに含浸する熱硬化性樹脂の被着量を制御することにより、10〜20%の気孔率を有するC/Cシートを得ることができる。C/Cシートの気孔率が20%を越えるとC/Cシートの強度が低下して摩耗量が多くなり摩擦材としての機能が低下する。一方気孔率が10%を下回ると、C/Cシートに含浸する熱硬化性樹脂溶液の含浸量が少なくなり、脆化し欠けが発生し易くなる。
【0015】
次いで気孔率が10〜20%のC/Cシートに、再び熱硬化性樹脂溶液を含浸して、10℃/hr以下、好ましくは5℃/hr以下の昇温速度で200〜300℃の温度に加熱して樹脂成分を硬化処理することにより、気孔率が10%未満の熱硬化性樹脂含浸C/Cシートを得て、シート基材とする。シート基材の気孔率が10%を越えると、含浸樹脂量が少ないために摩耗量が増大し、良好な摩擦性能を付与することができなくなる。また、シート基材が厚くなると、摩擦力の作用時に摩擦材に蓄積される熱量が多くなり、摩擦材の温度上昇に伴い金属支持板からの剥離や相手板の表面性状を損なうために、摩耗量が許容される範囲内で薄いことが望ましく、シート基材の厚さは2mm以下であることが更に好ましい。
【0016】
このシート基材はドーナツ状あるいはセグメント状等の所定の形状に打ち抜きまたは裁断加工したのち、鉄板等の金属支持板に一体に接合される。接合は樹脂質の接着材を介して熱圧する方法で行われるが、予め金属支持板の表面をショットブラストして粗面化したのち含浸した熱硬化性樹脂と同一の樹脂バインダーを被覆し、シート基材を熱圧接合することが望ましい。接合後は乾燥して炭素系湿式摩擦材が製造される。
【0017】
このように、本発明は気孔率が10〜20%の範囲にあるC/Cシートに、熱硬化性樹脂を含浸充填して気孔率を10%未満に緻密化することにより、摩擦係数および摩耗量をバランスよく備え、優れた摩擦性能を有する炭素系湿式摩擦材を製造することが可能となる。
【0018】
【実施例】
以下、本発明の実施例を比較例と対比して具体的に説明する。
【0019】
実施例1〜5、比較例1〜4
炭素繊維クロスにはポリアクリロニトリル系炭素繊維の6k(6000本) と12k (12000本)を編組した平織クロスを用いた。熱硬化性樹脂溶液としてはフェノール樹脂初期縮合物をエタノールに溶解した溶液を用い、樹脂濃度を変えて塗布して炭素繊維に充分に含浸させたのち24時間風乾してエタノールを揮散除去するとともに予備硬化した。このようにして得た被着樹脂量の異なるプリプレグシートを異なる枚数で積層して厚さの異なる積層シートを黒鉛質平板で挟持して10kgf/cm2 の面圧を掛けながら熱圧プレスにより5℃/hr の昇温速度で250℃に加熱し、2時間保持して加熱硬化した。次いで、窒素ガス雰囲気に保持された電気炉に入れ、25℃/hrの昇温速度で1000℃に加熱し、5時間保持して焼成炭化処理した。このようにして気孔率の異なるC/Cシートを作製した。
【0020】
このC/Cシートに樹脂濃度の異なるフェノール樹脂初期縮合物のエタノール溶液を再び含浸し、予備硬化したのち10kgf/cm2 の面圧を掛けながら熱圧プレスにより5℃/hr の昇温速度で250℃に加熱し2時間保持して加熱硬化して気孔率の異なるシート基材を作製した。このシート基材を打ち抜き裁断して、外径80mm、内径50mmの摩擦ライニングシートを作製し、ショットブラストした鉄製の金属支持板(外径80mm、内径50mm、厚さ1.0mm )にフェノール樹脂初期縮合物をバインダーとして60kgf/cm2 の圧力下に220℃の温度に加熱し、2.5分間保持して熱圧接合し、試験用の炭素系湿式摩擦材を製造した。
【0021】
各摩擦材について下記の条件で定速型試験機により湿式摩擦試験を行い、得られた摩擦係数および摩耗量を用いたC/Cシート及びシート基材の気孔率と対比して表1に示した。
湿式摩擦試験条件
摩擦材の相手板;鋼材SK5(直径80mm)
回転数;20rpm
押付け圧力;20kgf/cm2
潤滑油;ハイポイドギア油(75W−90)
摩擦試験は5時間連続して行い、摩擦係数は30分毎の値の平均値として、また摩耗量は摩擦板の厚み(90°毎の4点)をマイクロメーターで測定し、4点の平均値を試験前後の厚みの差で示した。また、気孔率は水銀ポロシメータを用いて測定した。
【0022】
【表1】
【0023】
表1の結果から、気孔率が10〜20%のC/Cシートに熱硬化性樹脂溶液を含浸して気孔率が10%未満のシート基材を用いて製造した実施例1〜5の摩擦材は良好な摩擦係数を保持し、摩耗量も低位にあることが判る。また、シート基材の厚さが2mm以下では相手板を変色させることもない。しかしながら、比較例1、3、4の摩擦材では摩耗量が多く、摩擦係数とのバランスが充分でないことが認められる。また、比較例2では良好な摩擦係数を保持し、摩耗量も低位にあるものの欠けが発生した。
【0024】
【発明の効果】
以上のとおり、本発明の炭素系湿式摩擦材の製造方法によれば、炭素繊維クロスに熱硬化性樹脂溶液を含浸、加熱硬化し、焼成炭化した炭素繊維複合炭素シート(C/Cシート)の気孔率を10〜20%に設定し、このC/Cシートに再度熱硬化性樹脂溶液を含浸、加熱硬化して気孔率を10%未満としたシート基材を所定形状に加工した摩擦ライニングシートを金属支持板に接合するので、C/Cシートの空隙中を樹脂成分が適度に充填、緻密化し、摩擦係数や耐摩耗性をバランス良く付与することが可能となる。したがって、摩擦板を薄く、全体的に摩擦システムのコンパクト化を図ることも可能である。
【発明の属する技術分野】
本発明は、相対する摩擦面間に潤滑油などの油液が介在する湿式状態で使用される炭素系の湿式摩擦材の製造方法に係り、特にクラッチや差動制限装置(LSD)などの駆動伝達装置に用いられる摩擦材として好適な摩擦性能をバランス良く付与することのできる炭素繊維を主成分とする炭素系湿式摩擦材の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、炭素繊維を主成分とする摩擦材としては、炭素繊維基材を樹脂結合材または炭素結合材で結合した複合組織の材料が開発されている。例えば、特開昭50−72050号公報には1つの支持材料、および、有機樹脂バインダーを含浸した炭素繊維ウエブを含む1つの摩擦層、から成る、可動部分間の力の伝達用油中運転用摩擦要素が、特開昭62−21528号公報には炭素繊維のような繊維状物質および結合剤を含む組成物を加圧加熱成形後、350〜1000℃で非酸化性雰囲気中で加熱する摩擦材の製造法が、また特公昭60−54270号公報には炭素繊維織物をフラン樹脂等で固めた成形物を焼成して得られる炭素材に、コールタールまたはコールタールおよび/またはピッチとフラン樹脂とを含浸させたのち焼成し、含浸、焼成を繰り返し、且つ少なくとも1回は2300℃以上で焼成して得られた動的摩擦係数が0.1〜0.40、摩耗量が100×10−4mm/面/停止以下である炭素繊維強化炭素摩擦材が提案されている。
【0003】
このほか、特公平2−37492号公報には、連続多孔度を有する炭素繊維の支持体に熱分解炭素の被膜を形成して前記連続多孔度が15〜85%の範囲にあるエネルギー吸収用摩擦アセンブリーが、特公平2−40890号公報には、炭素繊維で織って形成される網目状織布と、化学的蒸着(CVD) 処理によって前記炭素繊維の表面にのみ炭素被膜を施し、炭素被膜形成後も網目状織布が多孔性を保持している湿式摩擦材料が開示されている。
【0004】
湿式摩擦材は、使用時に潤滑油などの油状成分が常に摩擦面間に介在することが要求される関係で、摩擦材自体が有する油液の保持能力が耐焼付け性および耐摩耗性に大きな影響を与える。このため、摩擦材の組織内部に油液を吸蔵保持するための適度の気孔や空隙を保有させることが必要となる。ところが、炭素繊維基材に炭化性の樹脂類やピッチなどの結合材を被着成形したのち非酸化性雰囲気中で焼成炭化する方法で得られる炭素繊維複合炭素材(C/C材)は、結合材成分が揮散した後の気孔が多く耐摩耗性の低下や摩擦特性を変動させ、同時に炭素繊維の弾性率が増大することにより組織が脆弱化してハンドリング性を損ねる欠点がある。また、C/C複合系の摩擦材は製造工程の加熱硬化および焼成炭化段階で結合材成分から発生する縮合水や分解ガスがマトリックス組織中に吸蔵されて発泡現象を生じ、この状態で炭化が進行する関係で炭化過程で材質組織に亀裂や破損が発生したり、得られる摩擦材の強度が極端に低下して正常な摩擦特性の付与が困難となる問題がある。
【0005】
一般的に、炭素繊維を主成分とする炭素系の湿式摩擦材では、摩擦係数レベルの保持及び安定性は主に炭素繊維部が担っており、衝撃的な負荷に対してはマトリックス部が大きな影響をもっている。しかしながら、炭素繊維強化炭素材(C/C材)は焼成炭化過程で発生する縮合水や分解ガスによりマトリックス部に空隙が生じるために充分な強度特性を得ることが難しい。したがって、単にC/C材で摩擦材を構成したのでは摩擦係数と耐摩耗性との摩擦性能をバランスよく付与することが困難である。
【0006】
そこで、本出願人は炭素繊維を基材として油状成分の吸蔵保持性に優れる湿式炭素系摩擦材の製造方法として、クロスピッチ幅が0.7〜3.0mmの炭素繊維平織クロスに、炭化性の熱硬化性樹脂液とカーボンブラックを配合した混練物を被着して熱硬化し、得られたCFRPの硬化シートを所定形状に裁断加工したのち金属支持板に接合することを特徴とする炭素系湿式摩擦材の製造方法、更にCFRPの硬化シートを非酸化性雰囲気中で800℃以上の温度により焼成炭化処理し、得られたC/C板に再び炭化性の熱硬化性樹脂液とカーボンブラックを配合した混練物を被着して熱硬化し、これを金属支持板に接合することを特徴とする炭素系湿式摩擦材の製造方法を開発し、特開平9−71665号公報として提案した。
【0007】
更に、本出願人は炭素系湿式摩擦材について研究を進めた結果、高度の摩擦係数ならびに耐摩耗性をバランスよく兼備する炭素系湿式摩擦材の製造方法としてクロスピッチ幅が0.7〜3.0mmの炭素繊維平織クロスに熱硬化性樹脂溶液を含浸して35〜50%の樹脂分を被着させ、加熱硬化して得られた細孔直径0.1〜300μm における気孔率が0.5〜35%の硬化シートを所定形状に裁断加工した後、金属支持板に接合することを特徴とする湿式摩擦材の製造方法を提案(特願平8−165398号)した。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本出願人は引き続き炭素系湿式摩擦材について研究を進めた結果、気孔率を特定した炭素繊維複合硬化樹脂シート(CFRPシート)及び/又は炭素繊維複合炭素シート(C/Cシート)とを交互に金属支持板に接合することにより、摩擦性能をバランスよく向上できることを見出し、炭素繊維平織クロスに熱硬化性樹脂溶液を含浸して加熱硬化したCFRPシートを基材とし、該基材をセグメント状に加工して、その気孔率が10%未満のセグメント状CFRPシート基材と、気孔率が10〜20%のセグメント状CFRPシート基材とを、交互に金属支持板に接合する方法、及び、CFRPシートをセグメント状に加工したのち、非酸化性雰囲気中800℃以上の温度で焼成炭化処理したC/Cシートを基材とし、その気孔率が10%未満のセグメント状C/Cシート基材と、気孔率が10〜20%のセグメント状C/Cシート基材とを、交互に金属支持板に接合する方法、更に、セグメント状CFRPシート基材と、セグメント状C/Cシート基材とを、交互に金属支持板に接合し、一方の基材の気孔率を10%未満、他方の基材の気孔率を10〜20%とする、炭素系湿式摩擦材の製造方法を開発し、特願平9−38304号として提案した。
【0009】
本発明者らは、上記特願平9−38304号の技術を改良し、CFRPシート基材を用いることなく簡便な手法により、摩擦性能の向上を図ることができることを確認した。本発明はこの知見に基づいて完成したものであり、その目的はクラッチや差動制限装置(LSD)などの駆動伝達装置に用いられる摩擦材として好適に用いることができる高度の摩擦係数ならびに耐摩耗性をバランスよく兼備する炭素系湿式摩擦材の製造方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するための本発明による炭素系湿式摩擦材の製造方法は、炭素繊維クロスに熱硬化性樹脂溶液を含浸し、加熱硬化したのち非酸化性雰囲気中800℃以上の温度で焼成炭化処理して得られた気孔率が10〜20%の炭素繊維複合炭素シート(C/Cシート)に、再度熱硬化性樹脂溶液を含浸し、加熱硬化して気孔率が10%未満のシート基材を作製し、該シート基材を所定形状に加工して金属支持板に接合することを構成上の特徴とする。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明の炭素系湿式摩擦材を構成する炭素繊維としては、ポリアクリロニトリル系、レーヨン系、ピッチ系等の各種原料から製造された平織、朱子織、綾織などのクロスが用いられる。なお、用いる炭素繊維クロスは、濡れ性を改善するための表面処理を施したものであってもよい。
【0012】
炭素繊維クロスに含浸する熱硬化性樹脂溶液としては、例えばフェノール系樹脂、フラン系樹脂、エポキシ系樹脂あるいはこれらの混合樹脂等の高炭化性の熱硬化性樹脂液をメタノール、エタノール、エーテル、アセトン等の適宜な有機溶媒に溶解した溶液が用いられる。熱硬化性樹脂溶液の濃度は炭素繊維クロスに被着させる樹脂量との関係で調整されるが、均一に含浸させるためには低粘度であることが好ましい。
【0013】
熱硬化性樹脂溶液を炭素繊維クロスに含浸する方法としては、塗布、浸漬などの常用の手段が適用され、炭素繊維クロスに含浸する樹脂量は目標とする気孔率との関係で調整する。所定量の樹脂分を含浸した炭素繊維クロスは風乾し、有機溶媒を揮散除去してプリプレグシートを得たのち、加熱硬化する。加熱硬化はプリプレグシートを耐熱性の金属板、セラミック等の平板に挟持して適宜な加圧下に保持しながら加熱炉内に設置し、10℃/hr以下、好ましくは5℃/hr以下の昇温速度で200〜300℃の温度に加熱し、適宜時間保持することにより行われる。
【0014】
プリプレグシートを加熱硬化した炭素繊維複合樹脂シートは、窒素、アルゴン等の非酸化性雰囲気に保持された加熱炉中で800℃以上の温度に加熱して焼成炭化処理することにより炭素繊維複合炭素シート(C/Cシート)が得られる。焼成温度が800℃未満の低い温度では熱硬化性樹脂の炭化が不完全となり強度が低下する。このようにして炭素繊維クロスに含浸する熱硬化性樹脂の被着量を制御することにより、10〜20%の気孔率を有するC/Cシートを得ることができる。C/Cシートの気孔率が20%を越えるとC/Cシートの強度が低下して摩耗量が多くなり摩擦材としての機能が低下する。一方気孔率が10%を下回ると、C/Cシートに含浸する熱硬化性樹脂溶液の含浸量が少なくなり、脆化し欠けが発生し易くなる。
【0015】
次いで気孔率が10〜20%のC/Cシートに、再び熱硬化性樹脂溶液を含浸して、10℃/hr以下、好ましくは5℃/hr以下の昇温速度で200〜300℃の温度に加熱して樹脂成分を硬化処理することにより、気孔率が10%未満の熱硬化性樹脂含浸C/Cシートを得て、シート基材とする。シート基材の気孔率が10%を越えると、含浸樹脂量が少ないために摩耗量が増大し、良好な摩擦性能を付与することができなくなる。また、シート基材が厚くなると、摩擦力の作用時に摩擦材に蓄積される熱量が多くなり、摩擦材の温度上昇に伴い金属支持板からの剥離や相手板の表面性状を損なうために、摩耗量が許容される範囲内で薄いことが望ましく、シート基材の厚さは2mm以下であることが更に好ましい。
【0016】
このシート基材はドーナツ状あるいはセグメント状等の所定の形状に打ち抜きまたは裁断加工したのち、鉄板等の金属支持板に一体に接合される。接合は樹脂質の接着材を介して熱圧する方法で行われるが、予め金属支持板の表面をショットブラストして粗面化したのち含浸した熱硬化性樹脂と同一の樹脂バインダーを被覆し、シート基材を熱圧接合することが望ましい。接合後は乾燥して炭素系湿式摩擦材が製造される。
【0017】
このように、本発明は気孔率が10〜20%の範囲にあるC/Cシートに、熱硬化性樹脂を含浸充填して気孔率を10%未満に緻密化することにより、摩擦係数および摩耗量をバランスよく備え、優れた摩擦性能を有する炭素系湿式摩擦材を製造することが可能となる。
【0018】
【実施例】
以下、本発明の実施例を比較例と対比して具体的に説明する。
【0019】
実施例1〜5、比較例1〜4
炭素繊維クロスにはポリアクリロニトリル系炭素繊維の6k(6000本) と12k (12000本)を編組した平織クロスを用いた。熱硬化性樹脂溶液としてはフェノール樹脂初期縮合物をエタノールに溶解した溶液を用い、樹脂濃度を変えて塗布して炭素繊維に充分に含浸させたのち24時間風乾してエタノールを揮散除去するとともに予備硬化した。このようにして得た被着樹脂量の異なるプリプレグシートを異なる枚数で積層して厚さの異なる積層シートを黒鉛質平板で挟持して10kgf/cm2 の面圧を掛けながら熱圧プレスにより5℃/hr の昇温速度で250℃に加熱し、2時間保持して加熱硬化した。次いで、窒素ガス雰囲気に保持された電気炉に入れ、25℃/hrの昇温速度で1000℃に加熱し、5時間保持して焼成炭化処理した。このようにして気孔率の異なるC/Cシートを作製した。
【0020】
このC/Cシートに樹脂濃度の異なるフェノール樹脂初期縮合物のエタノール溶液を再び含浸し、予備硬化したのち10kgf/cm2 の面圧を掛けながら熱圧プレスにより5℃/hr の昇温速度で250℃に加熱し2時間保持して加熱硬化して気孔率の異なるシート基材を作製した。このシート基材を打ち抜き裁断して、外径80mm、内径50mmの摩擦ライニングシートを作製し、ショットブラストした鉄製の金属支持板(外径80mm、内径50mm、厚さ1.0mm )にフェノール樹脂初期縮合物をバインダーとして60kgf/cm2 の圧力下に220℃の温度に加熱し、2.5分間保持して熱圧接合し、試験用の炭素系湿式摩擦材を製造した。
【0021】
各摩擦材について下記の条件で定速型試験機により湿式摩擦試験を行い、得られた摩擦係数および摩耗量を用いたC/Cシート及びシート基材の気孔率と対比して表1に示した。
湿式摩擦試験条件
摩擦材の相手板;鋼材SK5(直径80mm)
回転数;20rpm
押付け圧力;20kgf/cm2
潤滑油;ハイポイドギア油(75W−90)
摩擦試験は5時間連続して行い、摩擦係数は30分毎の値の平均値として、また摩耗量は摩擦板の厚み(90°毎の4点)をマイクロメーターで測定し、4点の平均値を試験前後の厚みの差で示した。また、気孔率は水銀ポロシメータを用いて測定した。
【0022】
【表1】
【0023】
表1の結果から、気孔率が10〜20%のC/Cシートに熱硬化性樹脂溶液を含浸して気孔率が10%未満のシート基材を用いて製造した実施例1〜5の摩擦材は良好な摩擦係数を保持し、摩耗量も低位にあることが判る。また、シート基材の厚さが2mm以下では相手板を変色させることもない。しかしながら、比較例1、3、4の摩擦材では摩耗量が多く、摩擦係数とのバランスが充分でないことが認められる。また、比較例2では良好な摩擦係数を保持し、摩耗量も低位にあるものの欠けが発生した。
【0024】
【発明の効果】
以上のとおり、本発明の炭素系湿式摩擦材の製造方法によれば、炭素繊維クロスに熱硬化性樹脂溶液を含浸、加熱硬化し、焼成炭化した炭素繊維複合炭素シート(C/Cシート)の気孔率を10〜20%に設定し、このC/Cシートに再度熱硬化性樹脂溶液を含浸、加熱硬化して気孔率を10%未満としたシート基材を所定形状に加工した摩擦ライニングシートを金属支持板に接合するので、C/Cシートの空隙中を樹脂成分が適度に充填、緻密化し、摩擦係数や耐摩耗性をバランス良く付与することが可能となる。したがって、摩擦板を薄く、全体的に摩擦システムのコンパクト化を図ることも可能である。
Claims (2)
- 炭素繊維クロスに熱硬化性樹脂溶液を含浸し、加熱硬化したのち非酸化性雰囲気中800℃以上の温度で焼成炭化処理して得られた気孔率が10〜20%の炭素繊維複合炭素シート(C/Cシート)に、再度熱硬化性樹脂溶液を含浸し、加熱硬化して気孔率が10%未満のシート基材を作製し、該シート基材を所定形状に加工して金属支持板に接合することを特徴とする炭素系湿式摩擦材の製造方法。
- シート基材の厚さが2mm以下である請求項1記載の炭素系湿式摩擦材の製造方法。
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JP13922497A JP3560768B2 (ja) | 1997-05-14 | 1997-05-14 | 炭素系湿式摩擦材の製造方法 |
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