JP3554902B2 - 多針刺繍ミシン - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は多針刺繍ミシンに関する。
【0002】
【従来の技術】
図7の(A)に示すように、ベッドの上方に設けた針棒保持枠3hには針棒の上下動を案内する為のガイド孔3ahを穿設し、上記ガイド孔3ahに針棒4hを上下動自在に挿通させる。その上記針棒4hの上方には針棒を押し下げるための上下動自在な駆動部材を配設する。上記針棒にはそれを上昇させる為のばね15hを付設する。上記針棒保持枠3hの下面における上記ガイド孔3ahの周縁は針棒4hの上昇を停止させるためのストッパ3bhとし、針棒の下部に備わっている針止め11hが上記ストッパ3bhに当接して上記針棒4hの上昇を所定の上限位置で停止させるようにしている(例えば特許文献1:特開平4−224789号公報参照)。
【0003】
このようなミシンでは、上記針棒保持枠3hに保持された針棒4hを、上記駆動部材により押し下げ、その後上記ばね15hによって押し上げると共にその上昇を上記ストッパ3bhに対する上記針止め11hの当接によって所定の上限位置で停止させ、それらを繰り返すことにより、ベッド上で横動させる布に対して縫製を行うことが出来る。しかもその縫製の場合、針棒4hをガイド孔3ahによるガイドによって正確な上下動軌跡で上下動させることが出来るので、正確な針目の形成が出来る。更に、針棒が上昇したとき、それは所定の上限位置で停止されて駆動部材との連繋が断たれるので、駆動部材を針棒の上方から側方に退避させて目飛びと称される操作を行ったり、或いは多針ミシンの場合には、針棒保持枠を横動させて他の針棒を駆動部材の下に位置させる操作を行ったりすることが出来る。
【0004】
又異なるタイプのミシンとして、図8の(A)に示すように、ベッドの上方に設けた針棒保持枠3kには針棒の上下動を案内する為のガイド孔3akを穿設し、上記ガイド孔3akに針棒4kを上下動自在に挿通させる。その上記針棒4kの上方には針棒を押し下げるための上下動自在な駆動部材を配設する。上記針棒にはそれを上昇させる為のばねを付設すると共に、針棒4kの上昇を所定の上限位置で停止させる為の上昇規制手段を付設する。更にそれに加えて、上記針棒4kに対しては、下端に布の浮き上がり防止用の布押えを備えさせた布押え支持体18kを相対的な上下動を自在に装着する。その装着の構成は、布押え支持体18kにおける基材20kに付設したガイド部材22kに上下動方向を案内する為の案内孔22akを設けて、該案内孔22akに上記針棒4kを挿通させる。そして上記針棒4kと上記布押え支持体18kとの間には、針棒4kの下降に伴い布押え支持体18kを連動的に下降させるための連動用のばねを介設し、更に、上記ガイド部材22kの下面における上記案内孔22akの孔縁を係合部材とし、針棒4kの下部に備わっている針止め11kを上記係合部材と係合して布押え4kを上昇させる引上部材としている(例えば特開平3−242195号公報参照)。
【0005】
このようなミシンでは、針棒4kを下降させるとき上記連動用のばねによって布押えも下降し、一方針棒を上昇させる時には、上記針止め11kが上記ガイド部材22kの下面に当接して布押えを連動的に持ち上げるから、駆動機構が針棒駆動用の一つで足りる特長がある。しかも上記布押えの上下動は針棒でガイドする構成であるから、針棒の上下動方向と布押えの上下動方向とは正確に一致し、その結果、布に対する布押えの押え位置と布に対する針の刺さり位置との位置関係を常に正しく維持することができ、適正な縫製を継続できる特長がある。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上記前者のミシンでは、上記針棒の上下動を円滑に行わせるために上記ガイド孔3ahと針棒4hとの摺動部に潤滑油を注した場合、その量がちょっと多いと、注した潤滑油が垂れ下がってきて上記ストッパ3bhの下面に油膜62ができる。するとミシンが高速作動を行う場合において針棒4hが上昇するとき、上記図7の(A)に示される状態から(B)に示されるように当部材11hが上記ストッパ3bhに当接した際に上記の油膜62を強く叩き、その油膜となっている潤滑油を符号62aで示す如く飛び散らせて縫製中の布を汚してしまう問題点があった。
又後者のミシンでは、針棒4kと布押えのガイド部材22kとの相対的な上下動を円滑に行わせる為にそれら両者間に潤滑油を注した場合、その量が多いと、ガイド部材22kの下面に潤滑油の油膜63ができ、ミシンが高速作動を行う場合において針止め11kがガイド部材22kに当接するときに上記針止め11kがその油膜を強く叩き、潤滑油を符号63aで示す如く飛び散らせて布を汚す問題があった。
【0007】
本願発明の多針刺繍ミシンは上記従来技術の問題点(技術的課題)を解決する為に提供するものである。
第1の目的は、駆動部材により針棒を下降させ、その後針棒をばねにより上昇させると共にそれを所定の上限位置で停止させることを繰り返して、布に対する縫製を行うようにした多針刺繍ミシンを提供することである。
第2の目的は、上記の場合、針棒の上下動を正確にガイドして布に正確な針目を形成できるようにした多針刺繍ミシンを提供することである。
第3の目的は、上記針棒のガイドのためのガイド孔と上記針棒との間の潤滑の為にそこに潤滑油を注し、しかもその状態で針棒を高速で上下動させても、注した潤滑油の飛び散りが元々生じない様にすることによって、布を潤滑油で汚す心配なく縫製できるようにした多針刺繍ミシンを提供することである。
第4の目的は、針棒を上昇させたとき、針棒と駆動部材との連繋を断つ為に、針棒が所定の上限位置まで上昇した状態においてその上昇を停止させることが出来るようにした多針刺繍ミシンを提供することである。
第5の目的は、上記のようにガイド孔と針棒との間に潤滑油を注してもそれの飛び散りの問題が元々生じないようにすることによって、安心して潤滑油を注すことが出来るようにした多針刺繍ミシンを提供することである。
第6の目的は、針棒を上下動させるだけでもって、それと連動的に布押えを上下動させられるようにした多針刺繍ミシンを提供することである。
第7の目的は、上記布押えの上下動を針棒でガイドすることによって、布に対する布押えの押え位置と布に対する針の刺さり位置との位置関係を正しく保持した状態で縫製できるようにした多針刺繍ミシンを提供することである。
第8の目的は、上記布押えのガイドのためのガイド部材と上記針棒との間の潤滑の為にそこに潤滑油を注し、しかもその状態で針棒を高速で上下動させても、注した潤滑油の飛び散りが元々生じない様にすることによって、布を潤滑油で汚す心配なく縫製できるようにした多針刺繍ミシンを提供することである。
第9の目的は、上記のように針棒とガイド部材との間に潤滑油を注してもそれの飛び散りの問題が元々生じないようにすることによって、安心して潤滑油を注すことが出来るようにした多針刺繍ミシンを提供することである。
他の目的及び利点は図面及びそれに関連した以下の説明により容易に明らかになるであろう。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本願発明における多針刺繍ミシンは、縫製を行うべき布を受ける為のベッドには針落ち孔を備えさせると共に上記ベッドの上方には、ベッドに連なる基枠に対して横動自在に取付けた針棒保持枠を備えさせ、上記針棒保持枠には針棒案内用の複数のガイド孔を並設すると共にそれら複数のガイド孔には複数の針棒を夫々上下動自在に挿通させ、さらに、上記夫々の針棒にはそれらの各針棒を上昇させる為のばねを夫々付設すると共に、上記複数の針棒がばね力により夫々上昇する上限位置は、上記針棒保持枠の夫々のガイド孔の周縁における各下面に対して、夫々の針棒の下部に備えさせる針止めの上側の部材を夫々当接させることによって上記複数の針棒の上限位置を同じように定めている多針刺繍ミシンにおいて、
上記針落ち孔の上方位置には、上記基枠に対して固定的に備えさせた受部材を配置し、一方、上記複数の針棒において上記針棒保持枠の複数のガイド孔から上方に向けて突出している状態にある夫々の上部には当部材を夫々備えさせ、 上記受部材における上記当部材に対向させる下側の形状は、上記針棒保持枠を回動させて針棒を交代させる際に、側方位置にある針棒に係わる当部材が受部材の下に導入できるように、上記当部材に対向させる側の形状を円形又は斜面に形成し、かつ、上記上限位置にある上記複数針棒の上記当部材の高さ位置に対する上記受部材の高さ位置は、上記針棒保持枠を回動させて針棒を交代させる際に、側方位置にある針棒に係わる当部材の上面が受部材の下に導入できる範囲で、しかも針棒に係わる当部材が受部材の下に導入された状態で、 上記針棒保持枠の下面と、上記針落ち孔の上方位置にきた針棒の下部に備えさせる上記針止めの上側部材との間に、上記針棒保持枠の下面に油膜があったとしてもその油膜を叩いて潤滑油を飛散させない隙間が形成されるように低い高さ位置にしたものである。
【0009】
【作用】
駆動部材の下降により針棒はガイド孔に案内されて下降する。駆動部材が上昇すると、上記針棒は上記ガイド孔に案内された状態で、ばねにより押し上げられ、所定の上限位置まで上昇したところで当部材がストッパに当接して上昇が停止する。これらの動作が繰り返させてベッド上の布に対する縫製が行われる。上記ガイド孔と針棒との間への潤滑油の注油は針棒の上下動を円滑化する。
【0010】
【実施例】
以下本願の実施例を示す図面について説明する。図1において、符号1〜6はミシンの一例として示す多針刺繍ミシンにおける周知の部材を示し、1は多針刺繍ミシンのベッドで、特にベッドの一部を成している針板を示し、1aは針落ち孔を示す。2は釜である。3は多針刺繍ミシンにおけるベッドの基枠3c(保持枠3が取付けられている一部分のみを図示する)に横動自在に付設(一例として回動自在に付設)した針棒保持枠である。4は保持枠3に設けた針棒保持用のガイド孔3aに上下動自在に装着した針棒で、複数本例えば5本を備えている(図1(A)では3本のみを示す)。5は上記針棒4に沿わせて上記保持枠3に上下動自在に備えさせた布押え体、6は針棒の駆動部材で、針棒叩きとも称されるものであり、図示外の周知の昇降機構によって所定の上昇位置と下降位置との間を上下動するようになっている。その上昇位置は、所定の上限位置まで上昇した針棒4との連繋を断つためにそれよりも高く設定してあり、下降位置は、針をベッド1の下に到達させて針に装填されている糸をベッドの下の釜に掛からせ得る位置に設定してある。8は針棒4の上下動に布押え体5を連動させる為の連動機構を示す。
【0011】
上記針棒4及びそれに関連する構成について説明する。針棒4は下端に針止め11を備え、それに縫製用の針12が止着してあり、一方上端には駆動部材6の当接を受ける為の受部材13が止着してある。14は針棒4の上端部に取付けたばね座、15は針棒4を上昇させる為のばねで、保持枠3の一部に構成したばね座16と上記ばね座14との間に介在させた圧縮コイルばねを例示する。このばね15は、針棒4がその上下動範囲の上限位置にある状態(図1の(B)及び図2の(A)の状態)で例えば700〜800gのばね力を有し、下限位置にある状態(図2の(C)の状態)では、針棒4及び布押え体5の重量を持ち上げ且つ針を布43から引き抜くに足るばね力、例えば1.5〜2〜3Kgのばね力を有する。
従って、ばね15によって持ち上げられ、上限位置にある状態の複数の針棒4、4は、図1(A)の両側に存在する針棒4、4の状態から明らかなように(上記特許文献1の場合(図7(B))と同様に)、針棒保持枠3の下面3bにおけるガイド孔3aの周縁が、針棒4の上昇を上限位置にて停止させる為の面となっているので、針棒の下部に備わっている針止め11が上記下面3bに当接し、上記針棒4の上昇は所定の上限位置で停止する。ここでの停止状態においては、周知のように(上記特許文献1にも記載されているように)、針棒を選択するために保持枠3を横に向けて回動させた状態においても、上記ばね15の持上力の影響を受けて複数の針棒4、4は上下動することなく(上下動してガタガタと雑音を出すこともなく)、安定した樹立状態に維持される。
【0012】
上記布押え体5及びそれに関連する構成について説明する。布押え体5は、針棒の上下動方向と平行な方向に上下動するようにした布押え支持体18と、その布押え支持体18によって支持された布押え19とから構成している。20は布押え支持体18における基材で、昇降杆となっており、丸棒をもって構成し、上記平行な方向への上下動を可能にする為に、上部に備えたガイド部21を後述の部材36に対し上下動自在に挿通すると共に、下部にはガイド部材22を付設してそれに形成した案内孔22aに針棒4を上下動自在に挿通させてある。又該基材20の中間部は、針棒4を中心とした布押え体5の回転の阻止の為に、保持枠3に平面形状をU字状に形成したガイド部26,27に対して上下動自在に嵌合させてある。27aは布押え体5の下降を停止させる為の受部で、上記ガイド部27の上面をもって構成した例を示す。28は布押え体5の下降を停止させる為の停止部材で、基材20に上下への位置替調節可能に取付けてある。29は受部27aと停止部材28との金属同士の接触による耳障りな音の発生を防止するための無音部材で、基材20に周設したゴム製のOリングを例示する。次に、上記布押え19は上記布押え支持体18に対する付設のために上記ガイド部材22と一体形成した例を示し、下部には布の浮上阻止用の押え部である布当部23を備えている。24は針12を貫通させるための透孔である。次に30は保持枠3に対するガイド部材22の衝突による衝撃音を緩和する為の無音部材で、後述のストッパ44或いはそれに対する当部材42が万が一破損してそれらによる針棒4の上昇の停止が行われなかった場合に、所期の目的を果たすために設けたものである。31はガイド部材22に対する針止め11の衝突による衝撃音を緩和するための無音部材で、後述の引上部材37或いはそれとの係合部材40が万が一破損してそれらによる布押え体5の引上が行われなかった場合に、所期の目的を果たすために設けたものである。
【0013】
次に上記連繋機構8について説明する。35は針棒4の上端部に取付けた連繋体で、上記ばね座14と一体形成のものを例示する。36は後述のばね39を取付ける為のばね取付部としてのばね受けで、ばね39に押し縮め力を及ぼす為の部材である。37は布押え体5に引き上げ力を及ぼす為の引上部材を示す。連繋体35におけるこれらのばね取付部36や引上部材37は何れも別体構成のものを上記針棒4に取付けてもよい。38は上記基材20に取付けたばね取付部としてのばね受、39は針棒4の下降に伴い布押え支持体18を連動的に下降させるための連動下降手段として例示するばねで、布押え体5に布の浮き上がり阻止用の付勢力を与える為のものでもあり、ばね受36とばね受38との間に介在させた圧縮コイルばねを例示する。このばね39は、図2の(A)及び(B)の状態では、布押え体5に何等の付勢力をも及ぼす必要がないので、この状態では例えば付勢力0g(それよりも大きく、0〜100g〜200g程度でもよい)であり、図2の(C)の状態では、布の浮き上がりを阻止するに必要なだけの付勢力例えば200g〜600g程度(縫製する布の目のつまり具合や厚さによって異なる。布が皮革などの場合2Kg程度でもよい)の付勢力を及ぼし得るものを用いるとよい。40は引上部材37の引上力を受けるための係合部材を示し、上記ばね受38と一体に形成したものを例示するが、別体形成のものを基材20に取付けてもよい。41は金属製の引上部材37と金属製の係合部材40との金属同士の接触による騒音の発生を防止するための無音部材で、基材20に周設したゴム製のOリングを例示する。上記引上部材37と上記係合部材40とにより、針棒4の上昇に伴い布押え支持体18を連動的に上昇させる為の連動上昇手段を構成している。
【0014】
次に針棒4の上昇を所定の上限位置(ベッド1と針12の下端との間に布を捌くための空間を確保することのできる位置)で規制する為の規制手段について説明する。42は針棒4の上昇停止を所定の上限位置で行うようにするために針棒4に備えさせた当部材で、上記連繋体35と一体形成した例を示すが、それとは別体形成したものを針棒4に取付けても良い。44は上記当部材42を受止めて針棒4の上昇を上記上限位置で停止させる為のストッパで、基枠3cに固定的に取付けてある。該ストッパ44は、一端をミシンの基枠3cに取付けた取付片45に対して図1、図2に示されるような外周が円形の受部材46の中心部を止具47でもって回動自在に取付けて構成した例を示す。上記受部材46は上記当部材42を受止める際の音や衝撃を緩和するために、柔軟な材料例えばウレタンゴムで形成している。
【0015】
次に針板1上の布43に対する上記構成のミシンの縫製動作を図2に基づき説明する。(A)の状態から駆動部材6が下降し、受部材13に当接して針棒4をばね15の付勢力に抗して下降させる。針棒4の下降に伴い引上部材37が下降し、布押え体5はばね39を介して下方に押される。その結果、布押え体5は針棒4と一体に下降する。
【0016】
上記のようにして、針棒4と布押え体5が一体的に下降する過程においては、針棒4の上下動範囲の途中位置において、(B)のように停止部材28が受部27aに受止められて布押え体5の下降が停止する。この状態では布押え体5における布当部23が布43に当たり、布43を針板1に沿わせた状態にする。上記布押え体5の下降停止の場合に生ずる騒音は次の理由で小さい。即ち、ばね39としては前述のように非常に弱い付勢力のものが用いてあるので、下降動作を行う針棒4からばね39を介して布押え体5に加わる力は小さい。従って上記停止部材28は布押え体5の下降速度をもって上記受部27aに当接するのみである。この為、その当接の際のエネルギーは小さく、当接によって発せられる騒音は小さい。尚この場合、無音部材29の存在によって上記騒音を一層小さくできる。上記布押え体5の下降が停止した状態は、基材20に対する停止部材28の上下位置を予め調節しておくことにより、布当部23が布43の上面に軽く触れている状態にしたり、布43をしっかりと針板1に押さえ付ける状態にしたりすることができる。
【0017】
上記(B)の状態となった後も駆動部材6による針棒4の下降は継続して行われ、(C)のように針12が布43を貫通してその上下動範囲の下限位置(下死点とも呼ばれる)まで至る。この場合、ばね39に付勢力を蓄積させる働きをするばね受36の下降により、ばね39は図の如く押し縮められ、そのばね39の押し縮め状態での付勢力によって布押え体5は上記下降した位置に保持される。
【0018】
次に駆動部材6が上昇を開始すると、針棒4はばね15の付勢力によって上記駆動部材6の上昇に追随して上昇を行う。この場合、針棒4がその上下動範囲の下半部(例えば本例では、針棒4の上下動範囲の下限位置から、(B)のように針12の下端が布当部23の透孔24の上側に出るまでの範囲を言う)を上昇する過程で針12は布43から引き抜かれる。又この過程ではばね39に蓄積された付勢力により下向きに付勢されている布押え体5の布当部23は布43の浮き上がりを防止し、布43からの針12の引き抜きが確実に行われる。そして(B)のように針12が布43から引き抜かれると、引上部材37は係合部材40と係合する。
【0019】
上記引上部材37が係合部材40と係合する場合の詳細を図3に基づき説明する。図3の(A)及び(B)に示す状態から針棒4が上昇して、(C)に示す如く上記引上部材37が係合部材40と係合する時、(D)に示す如く針止め11とガイド部材22との間(厳密には針止め11上の無音部材31とガイド部材22との間)には隙間G1が出来ている。従って、ガイド部材22の案内孔22aと針棒4との間の潤滑の為に該箇所に注された潤滑油がガイド部材22の下面に油膜を形成していても、針止め11(無音部材31)はその油膜を叩くことはなく、潤滑油の飛散は生じない。
【0020】
上記のように引上部材37が係合部材40と係合した後、針棒4がその上下動範囲の上半部(上下動範囲の上記下半部を除いた残りの上側の範囲)を上昇する過程では、布押え体5は針棒4と一体に上昇を行い、図2の(A)の如く針棒4が上限位置に至ると、当部材42がストッパ44に受止められて針棒4の上昇が停止し、布押え体5も同様に停止する。
【0021】
上記当部材42がストッパ44に受止められる場合の詳細を図4に基づき説明する。図4の(A)及び(B)に示す状態から針棒4の上昇が更に継続されて、(C)に示す如く当部材42がストッパ44に当接する時、(D)に示す如くガイド部材22と保持枠3との間(厳密には無音部材31と保持枠3との間)には隙間G2が出来ている。従って、保持枠3のガイド孔3aと針棒4との間の潤滑の為に該箇所に注された潤滑油が保持枠3の下面に垂れ下がってきてガイド孔3aの開口部の周縁3bに油膜を形成していても、ガイド部材22(無音部材30)はその油膜を叩くことはなく、潤滑油の飛散は生じない。
【0022】
上記のような動作を繰り返し行い、布43に対する縫製を行う。
【0023】
次に上記ミシンにおいて、目飛びと称される操作を行う場合には、前記従来技術の欄において示した公報にも記載されているように、駆動部材6が上昇した状態においてそれを針棒4の上方位置から側方に退避させ、その状態で駆動部材6の上下動を行う。そして目飛び操作が済んだならば、再び駆動部材6を針棒4の上方位置に戻す。上記のように駆動部材6を退避させたり戻したりする場合、駆動部材6は、上限位置で上昇が停止された針棒4よりも高い位置にあるため、退避或いは戻す動きを支障無く行うことが出来る。
【0024】
次に上記ミシンにおいて、異なる糸(色或いは太さなど)での縫製を行うための針棒の交代は、駆動部材6が上昇した状態において針棒保持枠3を横に向けて回動させて、針落ち孔1aの直上の針棒4を他の針棒と入れ替わらせることにより行う。この場合、駆動部材6は上限位置で上昇が停止された針棒4よりも高い位置にあるため、その駆動部材6の下での針棒4の横動は何等の支障も無く円滑に行うことが出来る。
尚上記針棒保持枠3の回動により、針落ち孔1aの直上にあった針棒4がそこから側方に移動された場合、その針棒4に関連する当部材42はストッパ44から離れるため、該針棒4は図1の(A)において右側と左側に示されている針棒4,4のように、ガイド部材22が無音部材30を介して保持枠3の下面3bに当接する上限位置にまで上昇する。
しかしこの場合、針棒4の上昇寸法は非常に小さくて当接に際しての衝撃はないため、下面3bに油膜があってもそれを飛び散らせることはない。
【0025】
次に、上記実施例によれば前記目的の他に次の目的も達成できる。即ち、前にも記したように、ばね39は布の浮き上がりを阻止するに足るだけの付勢力を発する非常に弱いばねで足りる故に、針棒4と共に下降される布押え体5を停止させるときの音を非常に小さくして静かな動作を行わせるようにすることが出来る。
【0026】
次に本願の異なる実施態様を説明する。
[a] 上記針棒4の上下動範囲の途中位置にて布押え体5の下降を停止させる停止部材は、上記布当部23をもって構成し、該布当部23が布43を介してベッド(例えば針板1)に当接することによって布押え体の下降を停止させるようにしてもよい。
[b] 上記布押え体5に下向きの付勢力を与える為のばね39は引っ張りばねをもって構成し、一方、針棒4に備えさせたばね取付部36を布押え体5に備えさせたばね取付部38よりも下方に設け、上記ばね39をそれらの間に張設してもよい。
[c] 上記ばね39はその上端を部材36に固着すると共に下端を部材38に固着し、図2の(B)から(A)の状態まで針棒4を上昇させる際に、そのばね39を引上部材として作用させて布押え体5の引上を行ってもよい。その場合、当然のことながら部材37は不要である。
【0027】
次に本願の異なる実施例を示す図5について説明する。この図は針棒の上昇を停止させる為のストッパの構成の異なる例を示すもので、取付片45eに対して受部材46eを固定的に備えさせた例を示すものである。図において、50は針棒の交代の際に側方位置にある針棒4eに係わる当部材42eを受部材46eの下に導く為の導入部で、当部材42eを矢印51のように円滑に導入できるように図示の如き斜面に形成してある。なお、機能上前図のものと同一又は均等の構成で説明が重複すると考えられる部分には、前図と同一の符号にアルファベットのeを付して重複する説明を省略した。(また次図のものにおいても同様の考えでアルファベットのfを付して重複する説明を省略する。)
【0028】
次に図6は針棒4fの上下動と布押え体5fの上下動とを夫々個別の駆動機構54,55で行うようにしているミシンにおいて、針棒4fの上昇の停止を当部材42fとストッパ44fとでもって行い、針棒4fの上昇停止の際の油の飛散を防止するようにした例を示すものである。尚57は針棒4fの回転防止手段で、保持枠3fに取付けた回止片58と、針棒4fに取付けられて上記回止片58のスリット59に上下動自在に嵌合させた回止片60とから構成してある。
【0029】
【発明の効果】
以上のように本願発明は、請求項1の構成によって第1〜5の目的を達成し、又請求項2の構成によって第1から9の目的を達成して、油の飛び散りを無くして布の汚損を予め防止した状態で布に対する適正な縫製を行うことが出来る効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】(A)は刺繍ミシンの正面図(部分図)、(B)は縦断面図。
【図2】(A)〜(C)は動作説明用の線描図。
【図3】(A)は図2(C)における3A部分の拡大図、(B)は3B部分の拡大図、(C)は図2(B)における3C部分の拡大図、(D)は3D部分の拡大図。
【図4】(A)は図2(B)における4A部分の拡大図、(B)は4B部分の拡大図、(C)は図2(A)における4C部分の拡大図、(D)は4D部分の拡大図。
【図5】ストッパの異なる例を示す正面図。
【図6】ミシンの異なる例を示す縦断面図。
【図7】(A)、(B)は従来の刺繍ミシンの動作を説明するための断面図。
【図8】(A)、(B)は従来の異なるタイプの刺繍ミシンの動作を説明するための断面図。
【符号の説明】
3 針棒保持枠
3a ガイド孔
4 針棒
42 当部材
44 ストッパ
Claims (1)
- 縫製を行うべき布を受ける為のベッドには針落ち孔を備えさせると共に上記ベッドの上方には、ベッドに連なる基枠に対して横動自在に取付けた針棒保持枠を備えさせ、上記針棒保持枠には針棒案内用の複数のガイド孔を並設すると共にそれら複数のガイド孔には複数の針棒を夫々上下動自在に挿通させ、さらに、上記夫々の針棒にはそれらの各針棒を上昇させる為のばねを夫々付設すると共に、
上記複数の針棒がばね力により夫々上昇する上限位置は、上記針棒保持枠の夫々のガイド孔の周縁における各下面に対して、夫々の針棒の下部に備えさせる針止めの上側の部材を夫々当接させることによって上記複数の針棒の上限位置を同じように定めている多針刺繍ミシンにおいて、
上記針落ち孔の上方位置には、上記基枠に対して固定的に備えさせた受部材を配置し、
一方、上記複数の針棒において上記針棒保持枠の複数のガイド孔から上方に向けて突出している状態にある夫々の上部には当部材を夫々備えさせ、
上記受部材における上記当部材に対向させる下側の形状は、上記針棒保持枠を回動させて針棒を交代させる際に、側方位置にある針棒に係わる当部材が受部材の下に導入できるように、上記当部材に対向させる側の形状を円形又は斜面に形成し、かつ、
上記上限位置にある上記複数針棒の上記当部材の高さ位置に対する上記受部材の高さ位置は、
上記針棒保持枠を回動させて針棒を交代させる際に、側方位置にある針棒に係わる当部材の上面が受部材の下に導入できる範囲で、しかも針棒に係わる当部材が受部材の下に導入された状態で、 上記針棒保持枠の下面と、上記針落ち孔の上方位置にきた針棒の下部に備えさせる上記針止めの上側部材との間に、上記針棒保持枠の下面に油膜があったとしてもその油膜を叩いて潤滑油を飛散させない隙間が形成されるように低い高さ位置にしたことを特徴とする多針刺繍ミシン。
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