JP3553673B2 - 環境調査用試験片および試験方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は環境調査用試験片およびこれを用いた環境調査方法に係る。より詳しくは、大気中に存在する窒素酸化物NOを捕集し、その概量を試験片の「色変化」および「色の濃淡」により環境中に存在するNOの分析、判断でき、また適切の分析装置を用いることで詳細な濃度を知ることができる環境調査用試験片に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、パーソナルコンピュータ、ワードプロセッサ、電話機、POS、ATM等の電子機器の小型化が進み、配線基板の配線ピッチが狭くなり、コネクタ等の実装密度が高くなっている。これらの電子機器は最近屋外、ないしは軒下等屋外に準じた環境で使用される機会が多くなっている。しかし、通常これらの機器はオフィス環境内の移動を想定して設計されているものが多いと思われ、過酷な環境に適応できないことが懸念される。
【0003】
また、自動販売機、無線設備、各種制御設備など屋外で使用されている電気機器も、環境の悪化により次第に過酷な環境で使用されており、さまざまな障害が起こしている。
とりわけ、環境問題として大気中に存在するNO,COxおよびSOによる環境汚染が問題となっている。特にNOは自動車や工場からの排ガスなどが発生源となっており、自然界ではNO(NO+NOの総称)の濃度は数ppb であるのに対して、大都市部では最高100ppb 、平均でも50ppb に達し、大きな社会問題となっている。
【0004】
本出願人には、先に出願した「雰囲気調査方法」(特開昭63−305232号公報)や「環境中の窒素酸化物の測定方法」(特願平4−46897号公報)等において、HS,SO,NO,Cl系ガス、湿度等の有害ガスを任意の場所で平均的濃度を簡単にモニターできる方法を開発、開示した。
この方法は、環境中に有害ガスが存在している場合、上記出願に述べたような何種類かの金属試験片を適当なケースに入れ、30日間、対象の環境に放置する。その結果、硫化水素はAg板に、水分はFeに、といったように、特定のガスは特定の金属と反応する。このとき、各金属に発生した腐食生成物は、独特の発色を示す。例えば硫化水素環境に放置したAgは青色に、また湿度環境に放置したFeは茶色に変化する。また、発色の濃淡は、環境中に存在する濃度に依存するが、本質的な色変化に変わりはない。すなわち、低濃度の硫化水素環境に放置したAgは、低濃度でも青色である。
【0005】
これにより、特別な知識が無くても、金属の色変化、およびその色の濃淡から、環境中に存在するガス種およびおおまかな濃度を判定できる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記で説明したガス種のうち、「環境中の窒素酸化物の測定方法」(特願平4−46897号公報)で開示した材料では、NOを捕集することはできるが、試験片による色変化による環境判断という目的は十分に達成できなかった。また、粉体成形材料や単体金属板を加工する等といった方法は製造工程が複雑であり、安定した量産もやや難があった。また、一つずつ加工するため、手間がかかり、コスト的にも割高であった。
【0007】
そこで、本発明はNOの概量を色変化で調べることができ、簡易に作製できる環境測定用試験片とこれを用いた試験方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段及び作用】
本発明は、「色変化による環境判断」という課題を達成するため、金属基板上に金属薄膜等の無機薄膜を堆積させた。
これは、もともとNOあるいは、SO,NHなどを捕集できる能力のあるCuやZnなどの金属板を基板とし、その上にAgやPtなどの金属、特にAg,Pt,Auなどの貴金属を真空製膜により堆積させる。金属板と金属薄膜は異なる金属がよい。真空成膜法は蒸着、スパッタ、CVDなどいずれでもよい。
【0009】
Cu,Zn,Mgなどの卑金属に貴金属を接触させると、NO,SO,NHあるいはそれと水が電解質として作用し(酸、塩基)、卑金属をアノード、貴金属をカソードとした電気化学反応が起こるため、Cu,Zn,Mgなどの卑金属によりNO,SO,NHなどを捕集する能力が向上する。
参考までに図2に金属の化学的性質とイオン化列を表にして示す。
【0010】
真空製膜により得られる薄膜は、一般にバルクよりも化学的に活性であることが多く、そのためにガスを吸着しやすい。また、バルクは薄膜よりもポーラスなため、ガスが膜構造の内部まで侵入できる。
真空製膜による製法のメリットは、安定した同一品種のものが、多量に量産できることにある。身近では、コンパクトディスクが真空製膜により製造されており、原価は高々数100円である。
【0011】
本方法のNO検出のメカニズムは、以下のように説明できる。NOガスおよび湿度としての水分は図1のように金属板(例えばCu)1の上層薄膜(例えばAg)2を透過し、硝酸を生成しながら界面に達する。ここで、本発明のポイントとして、二つの金属を接触させることにより、電気化学的な作用等により、金属板と金属薄膜(CuとAg)の界面でそれぞれが腐食し、それぞれの金属が生成する硝酸塩(硝酸銅と硝酸銀)を含む腐食生成物4の色変化が干渉して独特の変色が現れる。これは図1(ウ)の電気化学反応に相当すると考えられる。従って、硝酸を電解質として電気化学反応を行ない有色の反応生成物(硝酸塩)を生成しうる金属電極となる金属であれば本発明の目的に使用しうる。
【0012】
金属薄膜はガス透過性で、厚さが400nm以下、より好ましくは20〜400nmの範囲内、さらに好ましくは100〜200nmの範囲内であることが好ましい。
この環境調査用試験片は測定すべき環境中に置き、所定期間後に、試験片中に生成したNOあるいはSO,NHなどにもとづく腐食生成物を調べる。本発明の目的からは試験片の変色により環境中のNOあるいはSO,NHなどの概量を知ることができるが、例えば、高感度反射IR法(FT−IR RAS分析)などにより腐食生成物の量をより精密に分析することもできる。
【0013】
【実施例】
(実施例1)
図1に示すような構成の試験片を作製した。基板には純度99.99%の無酸素Cuを40×5mm×0.5tに加工したものを用いた。
この基板の上に、電子ビーム真空蒸着法によりAgを2000Å堆積させたものを試験片とした。
【0014】
また、NOと反応して得られた腐食生成物中に、硝酸の存在を確認するため、FT−IR RAS法を用いた。
疑似環境装置は、適当な容器にガスおよび湿度を導入できるようにしたものを用いた。濃度調整は、ボンベのガス圧を減圧し、マスフローコントローラや希釈装置を用いた。
【0015】
作製した試験片を疑似環境装置に入れ、一週間毎に試験片を取り出し、色変化およびFT−IR RAS法による分析を行った。疑似環境装置内の環境は、屋外一般環境に準じて、疑似環境はNO濃度50ppb 相対湿度90%とした。
この結果から、試験片は時間の経過とともにAg色から次第に黄緑色に変色して行くことが確認された。
【0016】
例としてAg膜厚2000Åの試験片を4週間放置したFT−IR RAS分析の結果を図3に示す。この結果から、1420,1340cm−1に試験片がNOを捕集し、腐食生成物としてHNO塩が含まれていることが確認できる。
図4は、上記の定性分析の結果から、図3のHNO塩に対応する1200〜1600cm−1の吸光度を積分して面積とし、面積強度に変換した。この結果から、時間の経過とともに強度が増加しており、定量性があることを示している。
【0017】
一方、図5はNOと面積強度の関係を示したものである。これは、前述の疑似環境装置内で、試験片を一定濃度、一定期間放置して得られた面積強度とNO濃度の関係をプロットして得られた検量線である。
図6は川崎市中原区富士通工場内に同環境試験片を放置したFT−IR RASの結果を示す。この分析結果から、環境中にSOに由来するピークが1115cm−1に確認できるが、NOに由来する1420、および1340cm−1とは完全に分離されており、定性および定量分析を行う上で妨害されていない。また、外観の変色は、疑似環境での放置試験と同様、時間の経過とともにAg色が次第に黄緑色に変色する。
【0018】
図5の検量線より求めたNO濃度は約50ppb であり、これは川崎市が報告している結果とほぼ一致している。
以上のように、Cu基板/Ag薄膜は、NOの存在を目視で観察でき、分析により定性および定量分析が可能である。
【0019】
(実施例2)
図1に示すような試験片を作製した。基板には純度99.9%のZn板を40×5mm×0.5tに加工したものを用いた。
この基板の上に、真空蒸着法によりAuを1000Å堆積させたものを試験片とした。使用したAu材料は純度99.9%のものを用い、装置内真空度は1×10−9Pa以下とした。
【0020】
このようにして作製した試験片を疑似環境装置中に入れ、実施例1と同様に試験を行った。
その結果、試験片は時間の経過とともに金属光沢を失って次第にオレンジ色に変色していくことが確認された。
図7にFT−IR RAS法で行った分析結果を示す。この結果から、実施例1の時と同様、1420,1340cm−1に試験片がNOを捕集し、腐食生成物としてHNO塩が含まれていることが確認できる。実施例1と同様な結果になる原因としては、得られた腐食生成物はZn(NO)x(推定でx=2)という構成になっていると思われ、FT−IR RAS法ではNO項のなかのNとOの振動をみているためである。
【0021】
図8は、実施例1と同様、図7に対応する1200〜1600cm−1の吸光度を積分して面積として、面積強度に変換した。この結果、時間の経過とともに面積強度が増加しており、定量性があることを示している。
一方、図9はNOと面積強度の関係を示したものである。これは前述の疑似環境装置内で、試験片を一定濃度、一定期間放置して得られた面積強度とNOの関係をプロットして得られた検量線である。
【0022】
以上の方法は、実施例1と同じな手法であり、同様な結果が得られる。従って、この手法の正確性が確認された。
図10は東京都大田区役所一般大気測定局(街頭でNO等の有害ガスを測定している局)に同環境試験片を一カ月間放置したFT−IR RASの結果を示す。この結果から、環境中に由来するピークが1115cm−1で確認され、また1420,1340cm−1にもピークが確認され、これは実施例1と同様である。また、外観の変色は、疑似環境での放置試験と同様、時間と経過とともに変色するが、この場合はオレンジ色が濃くなるという点が異なる。
【0023】
図8のAu/Zn試験片で作製した検量線を用いて、分析より得られた面積強度のより逆算して得られたNO濃度は約50ppb であり、大田区役所が報告しているデータとほぼ一致した。
以上のように、本方法は、特にNOの存在を目視で確認出来、分析により定性および定量分析が可能である。
【0024】
(実施例3)
Cu板/Ag試験片は、上記の手法でNO,SOおよびNHの定性および定量分を同時に測定することが可能である。
疑似環境は、環境基準の上限であるNO50ppb ,SO40ppb 、また環境基準のないNHは20ppb に設定し、湿度90% RHの環境を作製した。この試験片を前実施例と同様、一カ月間放置した。
【0025】
この場合、試験片は複雑な腐食生成物を生成するので、目視観察により定量分析的な環境判断はやや困難である。この場合、濃い青色の変色を示すが、より正確な色判断は別途色見本を作成し、三種のガスのそれぞれの大小を作成している。しかし、FT−IR RASによる分析を行うことで、前の2つの実施例と同様、定性および定量分析が可能である。
【0026】
図11に疑似環境中に放置した試験片を一週間毎に取り出し、FT−IR RASで分析した結果を示す。この結果からもわかるように、NH,SOおよびNOが同時に分析できることを示している。
FT−IR RASによる分析では、1400cm−1付近のN−O振動と、1500cm−1付近のN−H振動はかなり接近しており、量によっては重なる可能性もあるが、ピーク分離という手法を用いて重複したピークを分離することができるので、ピークの判明が不可能な場合を除いては分析、測定には影響ない。図12にその手法の一例を示す。
【0027】
定性的には上記の方法で環境中に存在するガスの分析が可能であるが、定量分析の場合もピークに対応する検量線を作製することにより、定量分析が可能である。
【0028】
【発明の効果】
以上のように、本発明の貴金属薄膜/Cu基板試験片および貴金属薄膜/Zn基板試験片等を用いることで、環境中に存在するNOを、他のガスの影響を受けずに、NOの存在を目視で観察でき、分析により定性および定量分析が可能である。
【0029】
また、この試験片を用いることにより他の妨害ガスとの切りわけを目視観察および分析で行うことができる。
この試験片を用いることで、ある場所での長期的な平均NO濃度を測定でき、大きな社会問題となっているNOによる大気汚染状態を知る上での貴重な試験片を提供でき、地球環境問題への取組に及ぼす効果は絶大である。
【図面の簡単な説明】
【図1】環境測定用試験片及びその作動原理を示す。
【図2】金属の化学的性質とイオン化列を示す。
【図3】実施例の試験片のFT−IR RAS分析の結果を示す。
【図4】実施例における1200〜1600cmの吸光度の面積強度を放置時間に対するプロットを示す。
【図5】環境中のNO濃度とFT−IR RAS分析の面積強度との関係を示す。
【図6】実施例1で実地環境下に放置したCu/Ag試験片のFT−IR RAS分析の結果を示す。
【図7】実施例2のZn/Au試験片のFT−IR RAS分析の結果を示す。
【図8】実施例2の放置期間と面積強度の関係を示す。
【図9】実施例2のNO濃度と面積強度との関係を示す。
【図10】実施例2の実地環境下に放置したZn/Au試験片のFT−IR RAS分析の結果を示す。
【図11】実施例3の複合環境下の試験片のFT−IR RAS分析の結果を示す。
【図12】ピークの分離方法の原理を示す。
【符号の説明】
1…金属板(Cu)
2…金属薄膜(Ag)
4…腐食生成物

Claims (8)

  1. 環境雰囲気中のNO,SO及び/又はNHの概量を調べる環境調査用試験片において、
    前記環境調査用試験片は、CuまたはCu合金、ZnまたはZn合金からなる金属板上に、貴金属からなる金属薄膜を形成した積層構造を有する試験片であって、
    前記金属薄膜は、NO,SO及び/又はNHが前記金属板と該金属薄膜との間の界面まで透過するポーラス構造を有し、
    NO,SO及び/又はNHを含む環境雰囲気中に置いたとき、所定期間で、前記金属薄膜を透過したNO,SO及び/又はNHによって前記金属板に含まれる金属と前記金属薄膜とがそれぞれ腐食され、該腐食により生成する2つの異なる腐食生成物により生じる変色が前記環境雰囲気中のNO,SO及び/又はNHの概量を示すことを特徴とする環境調査用試験片。
  2. 前記金属板がCuであり、前記金属薄膜がAgである請求項1記載の環境調査用試験片。
  3. 前記金属板がZnであり、前記金属薄膜がAuである請求項1記載の環境調査用試験片。
  4. 前記金属薄膜が前記金属板上に真空成膜されたものである請求項1〜3のいずれか1項に記載の環境調査用試験片。
  5. 前記金属薄膜が400nm以下の厚みを有する請求項1〜4のいずれか1項に記載の環境調査用試験片。
  6. CuまたはCu合金、ZnまたはZn合金からなる金属板上に貴金属からなる金属薄膜を形成した積層構造を有する試験片を測定すべき環境雰囲気中に置き、該環境雰囲気中のNO,SO及び/又はNHの概量を調べる試験方法において、
    前記試験片の金属薄膜は、NO,SO及び/又はNHが前記金属板と該金属薄膜との間の界面まで透過するポーラス構造を有し、
    前記試験片は、NO,SO及び/又はNHを含む環境雰囲気中に置いたとき、所定期間で、前記金属薄膜を透過したNO,SO及び/又はNHによって前記金属板に含まれる金属と前記金属薄膜とがそれぞれ腐食され、該腐食により生成する2つの異なる腐食生成物により変色する試験片であり、
    前記試験片を所定期間にわたり環境雰囲気中に置いた後、該試験片の変色を測定して環境雰囲気中のNO,SO及び/又はNHの概量を調べることを特徴とする試験方法。
  7. 前記試験片がCu板上にAg薄膜を真空成膜して成る請求項6記載の方法。
  8. 前記試験片がZn板上にAu薄膜を真空成膜して成る請求項6記載の方法。
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