JP3552272B2 - 免疫化学的簡易アッセイ方法および装置 - Google Patents
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Description
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、分析対象物を含む試料を、簡易に、短時間で、明瞭かつ正確に定性及び定量を行なうことができる免疫化学的方法および装置に関する。
【0002】
【先行技術】
血液、尿等の生体試料中に含まれる微量物質の定性または定量方法として、その感度の高さから免疫学的測定方法が汎用されている。その手法の内、クロマトグラフィーを用いたいわゆるイムノクロマト法は、操作が簡単であり、検定に要する時間も短いため、現在多くの場面、例えば病院における臨床検査、研究室における検定試験等に広く使われている。
【0003】
最も一般的なイムノクロマト法における目的物の検出方法としては、検出すべき物質に種々の標識を付した特異的結合物質をクロマト材上で反応させて検出すべき物質と標識特異的結合物質との複合体(抗原−抗体複合体)を形成させ、これを種々の手段により確認(検出)することが行なわれる。標識としては、放射性同位元素、発色団、蛍光団、酵素等があげられる。検出手段としては、放射線検出器、分光光度計等、または目視が挙げられる。
【0004】
目視によって判定可能なイムノクロマト法による定性分析法及びその装置については、種々の分析対象物について開発され、多くのものが市販され、一般に使用されている。その一例として、妊娠判定装置が挙げられる。
【0005】
イムノクロマト法による定性分析装置は、一般に免疫化学的サンドイッチ法を原理としており、その装置の構成は、おおむね分析対象物を含む試料を添加する部位(試料添加部)、分析対象物を検出するための指標となる標識物質を含む部位(標識物質存在部)、分析対象物を捕捉・検出する部位(検出部)及び余分な試料を吸収除去する部位(吸収部)から成っている。
【0006】
また、目視によって判定可能なイムノクロマト法による定量(半定量)方法及びその装置については、現在開発が進められている段階にある。たとえば、特開平4−351962号公報、特開平5−5743号公報、本願出願人による特願平5−131590号に記載の方法又は装置がある。これらの公報又は出願に記載の方法は、主として完全抗原を分析対象物としており、定性分析と同様に免疫化学的サンドイッチ法を原理としている。その装置の形式としては、上記の試料添加部、標識物質存在部、一つの検出部及び吸収部から成る各ユニットを検出できる分析対象物の濃度(感度)を違えて複数個並列に並べたいわゆるユニット形式(たとえば、特開平4−351962号公報、本願出願人による特願平5−131590号)と、一つのアッセイストリップ上に試料添加部、標識物質存在部、検出できる分析対象物の濃度(感度)を違えた複数の検出部(検出部が直列に並んだもの)及び吸収部から成るいわゆるスティック形式(たとえば、特開平5−5743号公報)のものがある。
【0007】
特開平5−5743号公報には、フィルター、標識化試薬含有部材、及び1又は複数の反応領域を有する多孔性担体を有する免疫測定装置であって、該多孔性担体がその上流端において該フィルターと該標識化試薬含有部材とにより挟まれており、該反応領域が該フィルター及び該標識化試薬含有部材から離れてその下流に位置し、該標識化試薬含有部材が標識された試薬を含有しており、そして該反応領域に捕捉試薬が固定されていることを特徴とする、特異的反応を用いて分析対象物を測定する測定装置が開示されている。反応領域が下流に位置するに従って多くの捕捉試薬を固定することにより、半定量を行うことができるものである。
【0008】
この公報記載の測定装置の試料添加部(試料適用部位)は、図3のc)に示すようにクロマト材(多孔性担体)の上流端の下側に標識化試薬含有部材を配置し、上側にフィルターを配置したことを特徴とするものである。このような試料添加部及び標識物質存在部(標識化試薬含有部材)の構造により、従来の方法よりも鋭敏に分析対象物の定量(半定量)が行えるとするものである。
【0009】
【発明が解決すべき課題】
上記従来の定性又は定量(半定量)分析方法では、標識物質が存在する部位からの標識物質の溶出が、添加された試料のクロマト材への流出速度より遅いことがあり、分析対象物と標識物質とが同期してクロマト材上を移動しないため、分析対象物を検出する際にパターンが不明瞭となりやすい。すなわち、試料が分析対象物の検出部位を通過した後も標識物質が徐々に溶出されて検出部位まで移動してくるため、時間の経過とともに検出部での発色が強くなったり、クロマト材上の検出部以外の部分で薄い発色が見られたりする。これらの現象は、しばしば定性又は定量(半定量)の結果を不確実にする。
【0010】
また、上記特開平5−5743号公報記載の装置の試料添加部のような構成を採用することにより、アッセイ結果は従来の装置による場合よりは明瞭となるが、判定パターンは未だ不明瞭さを残すものである。
【0011】
そこで、本発明はイムノクロマト法によるアッセイにおいて、分析対象物を含む試料とそれを検出するための標識物質を同期してクロマト材上を移動させて短時間に明瞭かつ確実なアッセイ結果を得ることができる手段を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記目的を達成するための手段を鋭意検討した結果、標識物質を含有する部材に標識物質の溶出を促進させることができる素材からなる部材(標識物質溶出促進部材)を積層させることにより分析対象物を含む試料とそれを検出するための標識物質を同期してクロマト材上を移動させることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0013】
すなわち、本発明は、クロマト法による免疫化学的定性又は定量(半定量)分析であって、分析対象物を含む試料により判定の指標となる標識物質が溶解されて分析対象物及び標識物質がクロマト材上の判定結果を読み取る部位(検出部)まで移動し、視覚により分析結果を判定することを含むアッセイ方法において;標識物質を含有する部材(以下、標識物質含有部材という)に標識物質含有部材と同等又はそれ以上の目の粗さをもつ素材からなる部材(以下、標識物質溶出促進部材という)を積層することを特徴とする免疫化学的簡易アッセイ方法を第一の要旨とする。
【0014】
さらに、本発明は、上記目的を達成できる分析対象物を含む試料を添加するための試料添加部(A)、標識された分析対象物に対する特異的結合物質又は標識された分析対象物又はその化学的変性物(標識物質)がクロマト移動しうる状態で存在する標識物質存在部(B)、分析対象物に特異的に結合し得る物質が固定化されて存在する1又は2以上の検出部(C)及び添加された試料及び検出部(C)に結合されない標識物質を吸収除去する吸収部(D)を含むクロマト法による免疫化学的簡易定性又は定量(半定量)分析装置において;
標識物質存在部(B)を構成する標識物質含有部材(b)に標識物質含有部材(b)と同等又はそれ以上の目の粗さをもつ素材からなる標識物質溶出促進部材(i)を積層させ、さらに標識物質溶出促進部材(i)に試料添加部(A)を構成する部材(a)を接触させてなることを特徴とする免疫化学的簡易アッセイ装置を第二の要旨とする。
【0015】
なお、本明細書中において「標識物質が溶解されて」いる場合における「溶解」とは、試料により標識物質が湿潤した際に標識物質がクロマト移動しうる状態となることを意味している。
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の方法又は装置による定性又は定量分析の分析対象物となりうるものとしては、大きく分けて完全抗原とハプテン(不完全抗原)とがある。
【0017】
ここに完全抗原とは、それ自体で抗体産生を誘起する能力(免疫原性)を有する抗原物質をいい、主として分子量の大きいペプチドホルモン類等がこれに含まれる。ハプテン(不完全抗原)とは、抗体と結合できるが、それ自身では抗体産生を誘起する能力を有しないものをいい、比較的分子量の小さい(分子量1000以下程度)ペプチド類等がこれに含まれる。なお、ハプテンは、適当な担体、例えばウシ血清アルブミン等の蛋白に結合させると、抗体産生能を獲得する。 以下にこれらの具体例を示すが、ここに記載されたものに限定されるわけではない。
【0018】
完全抗原の例:
(1) ペプチドホルモンの例
1) 成長ホルモン(GH)、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、メラミン細胞 刺激ホルモン(MSH)、プロラクチン、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、黄体形成ホルモン(LH)、卵胞刺激ホルモン(FSH)、オキシトシン等の下垂体ホルモン
2) カルシトニン、副甲状腺ホルモン等のカルシウム代謝調節ホルモン
3) インシュリン、プロインシュリン、膵ホルモン
4) ガストリン、セクレチン等の消化管ホルモン
5) アンギオテンシン、ブラジキニン等の血管に作用するホルモン
6) ヒト胎盤性性腺刺激ホルモン(hCG)、ヒト胎盤催乳ホルモン(hPL) 等の胎盤ホルモン
(2) その他の物質の例
1) 前立腺性酸性フォスファターゼ(PAP)、前立腺特異抗原(PSA)、アルカリ性フォスファターゼ、 トランスアミナーゼ、乳酸脱水素酵素(LDH)、トランスアミナーゼ、トリプシン、ペプシノーゲン等の酵素
2) α−フェトプロテイン(AFP)、ガン胎児性抗原(CEA)等のガン特異 物質
3) 免疫グロブリンG(IgG)、フィブリン−フィブリノーゲン分解産物(F DP、D−ダイマー)、抗トロンビンIII(ATIII)、トランスフェリン等の血清蛋白成分
4) リュウマチ因子、セロトニン、ウロキナーゼ、フェリチン、サブスタンスP 等の物質
その他生体成分およびそれらの代謝産物等の多くの物質が挙げられる。
【0019】
ハプテン(不完全抗原)の例:
(1) ステロイド系ハプテン
1) エストロン、エストラジオール、エストリオール、エステトロール、エクイ リン、エクイレニン等の卵胞ホルモン
2) プロゲステロン、プレグナンジオール、プレグナントリオール、19−ノル −エチステロンおよび酢酸クロルマジノン等の天然または合成黄体ホルモン
3) テストステロン、デヒドロエピアンドロステロン、ジヒドロテストステロン 、アンドロステン、エチオコラノロン等の男性ホルモン
4) コルチゾール、コルチゾン、デオキシコルチコステロン、アルドステロン、 テトラヒドロコルチゾール等の副腎皮質ホルモン
5) ビタミンD類、コレステロール、コール酸、デオキシコール酸、ケノコール 酸等の胆汁酸、強心性ステロイド、サポニン、サポゲニン等のその他のステロイド類
(2) 生理活性アミン類
1) エピネフリン、ノルエピネフリン、ドーパミン、エフェドリン等のカテコー ルアミンおよびそれらの代謝産物
2) モルヒネ、コデイン、ヘロイン、塩酸モルヒネ、コカイン、メスカリン、パ パベリン、ナルコチン、ヨヒンビン、レセルピン、エルゴタミン、ストリキニーネ等の生理活性アルカロイド類
3) LSD、アンフェタミン、メタンフェタミン、メプロバメート等のアミノ基 含有向精神薬類
(3) その他の例
1) TRH、LH−RH等の抗原性を有しない低分子ペプチド類
2) ジヨードサイロニン、トリヨードサイロニン、サイロキシン等の甲状腺ホル モン類
3) プロスタグランジンE2、プロスタグランジンE3、プロスタグランジンF1α等のプロスタグランジン類
4) ビタミンA、ビタミンB類(ビタミンB1、B2、B6、B12等)、ビタミンE、ビタミンK等のビタミン類
5) ペニシリン、アクチノマイシン、クロロマイセチン、テトラサイクリン等の 抗生物質類
6) その他生体内に存在する成分、生体内に投与された薬物およびその代謝産物 等。
【0020】
本発明の方法又は装置において、試料(検体)となり得るものとしては、上記分析対象物を含有するものであれば何でもよいが、尿、血清、血漿、血液、唾液、羊水等の生体試料が主に挙げられる。
【0021】
分析対象物の定性又は定量の指標となる標識は、直接標識または間接標識のいずれであってもよい。直接標識は、検定結果を目視によって観察でき、追加の処理または工程を必要としない点で好ましい。間接標識の場合には、アッセイ終了後に標識を視覚化するための処理、工程または装置が必要である。
【0022】
直接標識に用いることができる標識物としては、金属ゾル、着色ラテックス粒子、色指示薬、リボゾームに含有されている着色物質、各種染料、各種顔料等の色素類、炭素ゾルのような非金属ゾル、ルミノール誘導体、アクリジニウムエステル等の化学発光物質、フルオレセイン、ローダミン等の蛍光物質等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0023】
間接標識に用いることができる標識物としては、ペルオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、ウレアーゼ、グルコースオキシダーゼ等の各種酵素等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0024】
直接標識による場合には、肉眼での色調観察、色濃度、発光強度、蛍光強度等の測定により、間接標識の場合には、使用した酵素によりその酵素の基質あるいはクロモーゲンの変化によって得られる色濃度、発光強度等を測定することにより検出を行なう。
【0025】
本発明において、視覚により分析結果を判定するとは、上記直接及び間接の標識物を用い最終的に肉眼で観察(目視)してイムノクロマトのパターンを判定することをいう。
【0026】
本発明における標識物質は、上記標識と結合した物質であるが、分析対象物の種類(抗原か抗体か、完全抗原かハプテンか等)その測定法の原理により異なる。例えば、分析対象物が完全抗原であり、測定原理が免疫学的サンドイッチ法の場合、標識物質は分析対象物に対する特異的結合物質(例えば抗体)に上記標識物を結合したもの、分析対象物がハプテンである場合(測定原理は競合法)には、分析対象物ハプテン又はその化学的変成物に上記標識物を結合したもの等が挙げられる。
【0027】
ここで、ハプテンの化学的変性物とは、分析対象物ハプテンを化学的に変性させたものであり、分析対象物ハプテンの存在下に、分析対象物ハプテンに対する抗体と競合的に結合し得るハプテンに化学的修飾を加えた物質をいう。
【0028】
本発明の標識物質を含有する部材(以下、標識物質含有部材という)とは、標識物質がクロマト移動しうる状態で保持されている部材をいい、保持されている標識物質は、分析対象物を含む試料溶液により溶解されて標識物質含有部材からクロマト材へ移動し、分析対象物とともに定性又は定量結果を読みとる部位(以下、検出部という)へ移動する。標識物質含有部材は検出部が存在するクロマト材と同じ、すなわち標識物質存在部がクロマト材上に存在していてもよいし、クロマト材とは別の部材であってもよいが、クロマト材とは別の部材とした方が好ましい。下記に説明する標識物質溶出促進部材の効果がより発揮されうるからである。
【0029】
本発明において、標識物質含有部材と同等又はそれ以上の目の粗さをもつ素材からなる部材(以下、標識物質溶出促進部材という)とは、試料添加部に添加された分析対象物を含む試料溶液が毛細管現象により標識物質存在部を構成する標識物質含有部材に移行するのを助け、標識物質含有部材に含浸されている乾燥状態の標識物質の溶解速度を高め、標識物質がクロマト移動可能な状態になるのを速めて分析対象物と標識物質が同期してクロマト移動することを助ける働きを有するものであり、標識物質含有部材と同一の素材又はそれより目の粗い素材からなる。
【0030】
標識物質溶出促進部材は、濾材の目の粗さを表す規格である平均流孔径(mean flow pore size)で、10μm以上の素材が好ましく、より好ましくは30〜50μmの素材である。上記範囲の平均流孔径をもつ素材としては、グラスファイバー、織布、不織布等が好ましく、特にボロシリケート・グラスファイバーが好ましい。
【0031】
標識物質溶出促進部材の素材は、標識物質含有部材の素材と同等又はそれよりも平均流孔径の大きい(目が粗い)ものを用いる方が好ましい。その理由は、積層された標識物質溶出促進部材に試料が均一かつ速やかに浸透することにより、試料による「標識物質溶出促進部材」→「標識物質含有部材」→「クロマト材」の流れが促進され、標識物質含有部材から標識物質存在部(B)物質の再溶解→クロマト移動が速まるためと考えられる。
【0032】
標識物質溶出促進部材と標識物質含有部材の素材の組み合わせとしては、グラスファイバーとセルロース濾紙又はガラス繊維濾紙が好ましい。
【0033】
また、標識物質含有部材と標識物質溶出促進部材は同一の素材からなっていてもよく、この場合は、両者共にグラスファイバー、織布又は不織布等が好ましく、両者共にボロシリケート・グラスファイバーであることが特に好ましい。
【0034】
次に本発明の装置について図1のa)に即して説明する。図1のa)に示した装置は本発明の装置の基本例である。
【0035】
本発明の装置は、試料添加部(A)、標識物質存在部(B)、検出部(C)、吸収部(D)を含むクロマト型の免疫化学的定性又は定量装置であって、標識物質存在部(B)を構成する標識物質含有部材(b)の上に標識物質溶出促進部材(i)を積層させ、さらに標識物質溶出促進部材(i)に試料添加部(A)を構成する部材(a)を接触させてなることを特徴とするものである。
【0036】
次に本発明の装置であって、半定量分析を目的とする場合の各部の構成について説明する。
なお、本発明は、標識物質存在部(B)の特定の構成を特徴とするものであり、その他の部位及び本発明の上記構成以外に付加される部位については特に制限はない。本発明の特徴部分以外の部位又は付加される部位については、定性分析か定量分析かにより異なり、分析対象物に応じた構成を適宜選択すべきである。また、本発明の装置は、定量(半定量)分析の場合に図1に示されるようないわゆるスティック形式にもユニット形式にも応用し得るが、スティック形式の装置の方がより本発明の効果が端的に発揮される。
【0037】
試料添加部(A)
試料添加部の材質は、セルロース濾紙、ガラス繊維、ポリウレタン、ポリアセテート、酢酸セルロース、ナイロン、綿布等の均一な特性を有するものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0038】
試料添加部は、添加された分析対象物を含む試料を受入れるだけでなく、試料中の不溶物粒子等を濾過する機能をも兼ねるので、セルロース濾紙、ガラス繊維濾紙等の濾過機能をも有する材質のものが好ましい。
【0039】
分析の際、試料中の分析対象物が試料添加部の材質に非特異的に吸着し、分析の精度を低下させることを防止するため、試料添加部を構成する材質は、予め非特異的吸着防止処理して用いることが特に好ましい。非特異的吸着防止処理としては、例えば、不活性蛋白による処理、界面活性剤による処理等がある。不活性蛋白による処理は、例えば、材質を0.1〜10%牛血清アルブミン(BSA)0.1Mトリス緩衝液(pH6〜9)溶液、0.1〜10%脱脂粉乳0.1Mトリス緩衝液(pH6〜9)溶液、および/または0.1〜10%カゼイン溶液などに浸し、37℃1時間または4℃一昼夜放置後、トリス緩衝液で洗浄後乾燥させることからなる。界面活性剤による処理は、例えば、材質を非イオン性界面活性剤であるツイーン20またはトリトンX100の0.01〜1%溶液に浸し、そのまま乾燥することからなる。分析対象物、試料の種類によるが、不活性蛋白による処理と界面活性剤による処理を合わせて行なってから使用するのが好ましい。
【0040】
標識物質存在部(B)
本発明における特徴部分である標識物質存在部(B)は、標識物質含有部材(b)及び標識物質溶出促進部材(i)から構成される。
【0041】
標識物質溶出促進部材(i)の素材については前述の通りであり、標識物質溶出促進部材(i)を構成する素材に分析対象物及び標識物質が非特異的吸着するのを防止する処理をした後、乾燥させて作成する。
【0042】
本発明において用いられる標識物質含有部材(b)を構成する素材は、前述の標識物質溶出促進部材(i)と同一又は異なる素材を用いることができ、その素材としては、例えば、セルロース濾紙、ガラス繊維濾紙、不織布、フラスファイバー等が挙げられ、標識物質含有部材(b)と標識物質溶出促進部材(i)の素材の好ましい組み合わせについては前述の通りである。
【0043】
標識物質含有部材(b)は、分析対象物及び標識物質が非特異的吸着するのを防止する処理をした後、標識物質の一定量を含浸し、乾燥させて作成する。
【0044】
検出部(C)
検出部(C)は、通常クロマト材(g)の一部に検出用物質を固定化させて作製する。
検出用物質の固定化方法には、検出用物質をクロマト材(g)の一部に物理的または化学的結合により直接固定化させる方法と、検出用物質をラテックス粒子などの微粒子に物理的または化学的に結合させ、この微粒子を多孔性のクロマト材(g)の一部にトラップさせて固定化させる間接固定化方法がある。いずれの方法も用いることができるが、本発明の装置においては、不溶化の均一性、感度調整の容易さ等から直接固定化の方が好ましい。
【0045】
検出部を構成する材質(通常はクロマト材(g)である)は、多孔性ニトロセルロース膜、多孔性セルロース膜、ナイロン膜、ガラス繊維、不織布、布等、またはこれらに検出用物質結合用の活性基の有るものが好ましく、特に多孔性ニトロセルロース膜および活性化ナイロン膜が好ましい。
【0046】
クロマト材(g)への検出用物質の固定化の形状は、特に限定されるものではなく、いかなる形状であってもよいが、クロマト先端部に対し、標識物質の検出が均一となるクロマト材(g)を横断した線形が特に好ましい。
【0047】
なお、クロマト材(g)は、検出用物質を固定化後、不活性蛋白による処理等により非特異的吸着防止処理をして用いるのが好ましい。
【0048】
吸収部(D)
吸収部(D)は、添加された試料がクロマト移動により物理的に吸収されると共に検出部(C)に不溶化されない未反応標識物質等を吸収除去する部位であり、セルロース濾紙、不織布、布、セルロースアセテート等吸水性材料が用いられる。
【0049】
添加された試料のクロマト先端部が吸収部(D)に届いてからのクロマトの速度は、吸収材の材質、大きさなどにより異なるので、その選定により分析対象物の測定に合った速度を設定することができる。
【0050】
以上、本発明の装置の各部位の構成について説明したが、装置の製造に際し各部の材質、大きさ、厚さ等のファクターによりクロマト速度(液の流れ速度)が異なる。従って、分析対象物の種類及び測定原理に応じて最も好適に定性又は定量分析が行ない得るようにこれらのファクターは、適宜選択し設定すべきである。
【0051】
本発明の方法及び装置はいかなるイムノクロマト法による定性又は定量(半定量)分析にも応用することができ、本発明を応用することにより、従来より短時間に、明瞭かつ確実な分析結果を得ることができる。
【0052】
【実施例】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明する。
【0053】
実施例1:尿中エストロゲン(ハプテン)のイムノクロマトによる半定量における本発明の応用例
1−a)エストリオール−16−グルクロナイド−BSAの製造
エストリオール−16−グルクロナイド(以下、E316Gという)(帝国臓器製薬社製)40mgをジメチルホルムアミド1.0mlに溶解し、これに4℃以下でトリ−n−ブチルアミン20.6μlを添加した後、イソブチルクロロカーボネート11.2μlを加え30分間撹拌した。これに予めウシ血清アルブミン(以下、BSAという)(バイオセル社製)117mgを2.8mlの水に溶解したものに1NNaOH溶液150μlを加えた後、ジメチルホルムアミド2.0mlを加え、8℃に保たれた液を混合した。次いで、これを8℃で撹拌し、1時間後に1NNaOH溶液16.6μlを加え、さらに3.5時間撹拌した後、セファデックスG−25で未反応のE316G及びトリ−n−ブチルアミン等の低分子試薬を除去した。さらにこれを透析(精製水に対し)した後、凍結乾燥すると、エストリオール−16−グルクロナイド−BSA(以下、E316G−BSAという)が得られた。この抗原の凍乾末につてのコーベル反応により、BSA1モル当たりE316G27〜30モルの結合が確認された。
【0054】
1−b)抗E 3 16Gモノクローナル抗体の製造
上記1−a)で製造したE316G−BSA25μgを完全フロインドアジュバントとともにBALB/Cマウス(6〜8週令)に3週間おきに皮下投与し、最後に50μgを静脈注射した。
【0055】
最終免疫から3日後にマウスの脾臓を摘出して、脾細胞を採取し、デルベコのモディファイド最少基本培地(以下、D’MEMという)で3回洗浄した後、細胞数を算定して、その2×103個をマウスミエローマ細胞P3−NS−1/1−Ag4−1(以下、NS−1という)1×107個と混合して遠心し細胞を集めた。このペレットに37℃に温めておいたポリエチレングリコール溶液(PEG−100:4.25%、DMSO:1.5%含有D’MEM)を1ml加え、1分間遠心管をゆっくり回転させて細胞融合を行った。37℃のD’MEMを30秒毎に2mlずつ10回加えた後遠心分離し、ペレットを20%ウシ胎児血清含有RPMI−1640培地でNS−1として5×104個/0.2mlとなるように懸濁し、96ウエルマイクロプレートに0.2mlずつ分注し、5%CO2培養器で培養した。24時間後各ウエルの上清の半量を捨て、HAT培地(ヒポキサンチン・アミノプテリン・チミジン、10%ウシ胎児血清含有RPMI−1640培地)を0.1ml加え、その後3〜4日毎に半量をHAT培地交換を行いながら2週間培養した後、増殖したウエル中の培養上清の抗体活性を測定した。
【0056】
活性の認められたウエルの細胞をBALB/Cマウス胸腺細胞を含む10%ウシ胎児血清含有RPMI−1640培地で希釈し、限界希釈法によりスクリーニングを行って10株のモノクローナル抗体産生融合細胞を得た。各2×106個以上の細胞をプリスタン0.5mlを予め投与したBALB/Cマウスに腹腔内投与し、腹水腫瘍を作らせて腹水を得た。この腹水を硫安分画及びアフイゲル−プロテインAマプスキットにより精製し、凍結乾燥して白色粉末の抗E316Gモノクローナル抗体を得た。
【0057】
1−c)E 3 16G−RSAの製造
上記1−a)と同様の方法でE316Gとウサギ血清アルブミン(以下、RSAという)(マイルス社製)を用いて、E316G−RSAを製造した。
【0058】
1−d)金コロイド標識E 3 16G−RSAの製造
1−c)で作製したE316G−RSAを精製水に溶解して2mg/ml溶液を調製した。コロイド金溶液(金コロイド粒径10nm、アマシャム社製)8.0mlに0.2MK2CO330μlを加えてpH7.6に調整したのち、E316G−RSA溶液100μlを添加し、室温で10分間撹拌後0.1%PEG6000溶液を40μl加え、10分間撹拌した後、15000rpm、4℃、60分間遠心分離した。得られた沈殿に0.3%BSA、0.25%PEG6000含有0.1M Tris緩衝液(pH7.6)を4.0ml添加して均一に懸濁させた後、15000rpm、60分間遠心分離を行ない、同様な洗浄操作を2回くり返した後、得られた沈殿に0.3%BSA、0.25%PEG6000、4%シュークロース、0.1%NaN3含有0.1M Tris緩衝液(pH7.6)0.8mlを加えて均一に懸濁させて金コロイド標識E316G−RSA溶液を得、標識物質存在部(B)の作製まで4℃に保存した。
【0059】
1−e)試料添加部(A)の製造
クロマトグラフィー用濾紙(アドバンテック東洋社製、No.585、厚さ0.85mm)をカットして10×50mmの濾紙片を作製し、これを、5%脱脂粉乳(全国酪農連合会)含有0.1Mトリス緩衝液(pH8.2)溶液に浸漬して37℃1時間インキュベーション後、0.1Mトリス緩衝液(pH8.2)にて1回洗浄後、5%BSA(バイオセル社製)含有0.1Mトリス緩衝液(pH8.2)に浸漬した。37℃、1時間インキュベーション後、0.1%BSA0.1Mトリス緩衝液(pH8.2)にて1回洗浄、液切り後、0.05%ツイーン20、0.1%BSA、1%シュークロース含有0.1Mトリス緩衝液に浸した後、液切りして凍結乾燥を行い、試料添加部(A)を構成する部材(a)として用いた。
【0060】
1−f)標識物質存在部(B)の製造
(f−1)標識物質溶出促進部材(i)の調製
ボロシリケートグラスファイバー(Borosilicate Glass Fiber、平均流孔径:39μm)(LYPORE、Grade9254、Lydall社製)をカットして10×50mmの短冊とし、これを10%脱脂粉乳含有0.1Mトリス緩衝液(pH8.2)に浸漬して37℃、90分間インキュベーション後、0.1Mトリス緩衝液(pH8.2)にて2回洗浄後、5%BSA含有0.1Mトリス緩衝液(pH8.2)に浸漬した。37℃、1時間インキュベーション後、0.1%BSA含有0.1Mトリス緩衝液(pH8.2)に浸した後、液切りして室温で乾燥させ、標識物質溶出促進部材(i)及び標識物質含有部材(b)を調製するたもの部材として用いた。
【0061】
(f−2)標識物質含有部材(b)の調製
1−d)で作製した金コロイド標識E316G−RSA溶液を同量の30%シュークロース含有0.1%NaN3溶液で希釈し、10×20mmの上記(f−1)で得られた部材に120μlをしみ込ませて凍結乾燥を行ない、標識物質含有部材(b)を作製した。これを半定量装置作製時に5×2mmに切断し、5×5mmの標識物質溶出促進部材(i)2枚にて上下から挟んで使用した(1−h)。
【0062】
1−g)検出部(C)の製造
ニトロセルロース膜(クロマト材(g))(ザルトリウス社製、孔径8μm)を30×100mmの大きさに切断し、カマグ・リノマット(Cammg Linomat)IVを用いて1−b)で作製した抗E316Gモノクローナル抗体の0.15、0.2、0.3及び0.4mg/ml溶液(50μg/mlBSA含有50mMトリス緩衝液、pH8.2)の各10μlを一端から12、14、16及び18mmの位置に順次線型にスプレイ後、25℃、湿度80%の恒温恒湿器中に25分間放置し、次いで0.1Mトリス緩衝液(pH8.2)に5%脱脂粉乳(全国酪農連合会)を溶解した溶液、次いで5%BSA溶液に浸漬してブロッキングした後、1%サッカロース、1%マンニトール含有0.1Mトリス緩衝液にて洗浄し、室温に放置して乾燥させ、4つの検出部位を含む検出部(C)とした。
【0063】
1−h)半定量装置の製造
1−g)で製造した検出部(C)を含むニトロセルロース膜の幅100mmを5mm幅で切断して5×30mmの短冊状とした(以下、検出部(C)の抗体低濃度固定側を上流と呼ぶ)。また1−e)で製造した試料添加部(A)用濾紙片も切断して8×10mmの短冊を作製した。
【0064】
図1のa)に示すように、支持体(e)であるプラスチック板に両面粘着テープ(f)を貼り、図中のイ)、ロ)部に粘着面を露出させた。イ)部のクロマト材(g)接触部側に1−h)で製造した標識物質溶出促進部材(i)(5×5mm)を貼り、次に上記1−g)で製造した検出部(C)を含むニトロセルロース膜の短冊(クロマト材(g))(5×10mm)の上流側が標識物質溶出促進部材(i)と2mm重なるようにプラスチック板(E)の上にのせた。さらにそのクロマト材(g)の上流端が1−h)で製造した標識物質含有部材(b)(5×2mm)と1mmの重なりをもつように標識物質含有部材(b)をクロマト材(g)の上にのせ、標識物質含有部材(b)を挟むようにもう1枚の標識物質溶出促進部材(i)をのせ、その上に上記試料添加部(A)の短冊状濾紙片(8×10mm)をのせて前記両面粘着テープ(f)の粘着部イ)で固定した(図1のd)。
【0065】
最後にクロマトグラフィー用濾紙(アドバンテック東洋社製、No.585)の8×15mm濾紙片を吸収部(D)として、検出部(C)のニトロセルロース膜(クロマト材(g))の短冊の下流端から3mmの重なりをもって両面粘着テープ(f)のロ)部の粘着面に固定した。
【0066】
1−i)測定
(i−1)男子尿による測定
E316Gをエストリオール換算で0、12.5、25、50及び100ng/mlの各濃度になるように男子尿に溶解させて試料を調製した。この試料について1−h)で作製した半定量装置の試料添加部(A)に各濃度の飼料100μlずつを添加して試験を行った。
【0067】
試料中のエストリオールは試料により溶解された金コロイド標識E316G−RSAと共にクロマト移動により検出部(C)へ移動して順次上流から下流の固定化抗E316Gモノクローナル抗体と競合的に反応し、未反応標識物質が吸収部(D)に移動後、検出部(C)における呈色バンドを観察した。
【0068】
本装置における検出感度は、標識物質存在部(B)における金コロイド標識E316G−RSAの保持量と検出部(C)に固定化された各抗E316Gモノクローナル抗体とにより、両者の反応が最上流の検出部では12.5ng/ml、以下順次下流の検出部では25、50、100ng/mlのエストリオールにより阻止できるように設定した。
【0069】
表1に本定量測定の結果を示す。表1中、(a)欄には検出部における呈色バンドの数、(b)欄にはバンドの形成が認められた場合を(+)、認められなかった場合を(−)と表示した判定パターンを示した。
【0070】
【表1】
【0071】
表1の結果から、各試料について設定した検出感度通りの半定量結果(パターン)が得られたことがわかる。
また、試料添加からアッセイ終了までの時間は、およそ3分であった。その後、放置しておいても判定パターンには全く変化は見られなかった。
【0072】
(i−2)婦人尿による測定
次に月経周期の各時期に採尿した正常婦人尿各3例について表2(a)欄に観察された呈色バンドの数、(b)欄に呈色バンドが形成された場合を(+)、形成されなかったばあいを(−)と表示した判定パターン、(c)欄に本法による半定量値、(d)欄にラジオイムノアッセイ(RIA)による定量値を示した。
【表2】
【0073】
表2の結果から、本法による半定量値はRIAによる定量値とよく一致していることがわかる。婦人尿を試料とする上記半定量も(i−1)の男子尿の場合と同様に測定時間は3分であり、その後放置しても判定パターンに変化は見られなかった。
【0074】
実施例2:尿中プレグナンジオール(ハプテン)の半定量における本発明の応用例
2−a)プレグナンジオール−3−グルクロナイド−BSAの製造
プレグナンジオール−3−グルクロナイド(以下、P−diol 3Gという)とBSAを用いて実施例1の1−a)と同様の方法でP−diol 3G−BSAを製造した。
【0075】
2−b)抗P−diol 3Gモノクローナル抗体の製造
上記2−a)で製造したP−diol 3G−BSAを用い、実施例1の1−b)と同様な方法で4株の抗P−diol 3G抗体産生融合細胞株を得た。モノクローナル抗体は、2×106個の細胞を予めプリスタンを0.5ml腹腔内投与したBALB/Cマウスの腹腔に移植して腹水を採取し、この腹水をP−diol 3G−BSAと結合させたセファロース4B(ファルマシア社製)を用いたアフィニティークロマトグラフィーにより精製し、抗P−diol 3Gモノクローナル抗体を得た。
【0076】
2−c)プレグナンジオール−3−グルクロナイド結合ビニルメチルエーテル無
水マレイン酸共重合体の製造
(c−1)P−diol 3G−リジン誘導体の製造
P−diol 3G99mg、p−ベンジルオキシカルボニルリジンメチルエステル・トルエンスルホン酸塩140mgをDMF12mlに溶かし、氷冷下撹拌しつつジフェニルホスホリルアジド65mg、ついでトリエチルアミン0.056mlを加えたのち、実施例1の1−b)と同様にして下記構造式
【化1】
で表わされる目的のP−diol 3G−リジン誘導体100mg(対理論収率58%)を得た。
【0077】
(c−2)P−diol 3G結合ビニルメチルエーテル無水マレイン酸共重合体の製造
上記(c−1)で得たP−diol 3G−リジン誘導体38mgをメタノール3mlに溶かし、パラジウム黒10mgを加え、常温常圧で水蒸気流中で撹拌する。2時間で反応を終了し触媒を濾去し、濾液を減圧濃縮し、残渣にジエチルエーテルを加えて目的物26.6mgを粉末として得た。この生成物をビニルメチルエーテル無水マレイン酸共重合体(以下、PVMMAという)100mgとともにDMF(ジメチルホルムアミド)6mlに加温溶解したのち、DCC(ジシクロヘキシルカルボジイミド)4mgを加え、室温で4日間放置した。反応液を透析し、プレグナンジオール含量0.46mg/ml(硫酸発色による定量)のP−diol 3G結合ビニルメチルエーテル無水マレイン酸共重合体(以下、P−diol 3G PVMMAという)の溶液30mlを得た。
【0078】
2−d)着色ラテックス標識P−diol 3G PVMMAの製造
赤色アミノ化ポリスチレンラテックス(固形分10%、日本合成ゴム社製、粒径0.37μm)0.5mlにN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)・精製水(1:1)で調製した10%トリエチルアミン溶液12mlを加えて懸濁させ、15分撹拌後、遠心分離した。沈殿をDMF・水(1:1)10mlで2回、精製水10mlで1回遠心洗浄後、精製水0.5mlに懸濁させ、2−c)で製造したP−diol 3G PVMMAの溶液0.63ml(プレグナンジオール0.29mg相当)に1mlの精製水を加えて混合し、次いで1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩7.5mgを加え、撹拌下、一夜反応を行った。反応終了後、遠心分離して得た沈殿をグリシン緩衝液10mlで3回遠心洗浄を繰返した後、30%サッカロース、0.1%ヤギ血清アルブミン(以下、GSAという)(マイルス社製)含有グリシン緩衝液10mlに懸濁し、P−diol 3G PVMMA結合着色ラテックスを製造した。
【0079】
2−e)試料添加部(A)の製造
クロマトグラフ用濾紙(アドバンテック東洋社製、No.526)をカットして10×50mmの濾紙片を作製し、実施例1−e)と同様の方法により試料添加部(A)を製造した。
【0080】
2−f)標識物質存在部(B)の製造
(f−1)標識物質含有部材(b)を製造するための部材及び標識物質溶出促進部材(i)の製造
ボロシリケート・グラスファイバー濾紙(Borosilicate Glass Fiber、平均流孔径:35μm)(LYPORE、Grade9818、Lydall社製)をカットして10×50mmの短冊とし、実施例1−f)と同様の方法により処理して標識物質含有部材(b)を製造するたもの部材及び標識物質溶出促進部材(i)とした。
【0081】
(f−2)標識物質含有部材(b)の製造
2−d)で作製した着色ラテックス標識P−diol 3G PVMMA懸濁液を10×20mmにカットした上記(f−1)で得た標識物質含有部材(b)を製造するたもの部材に120μl含浸させ、室温にて乾燥させた。これを半定量装置作製時に5×2mmにカットして標識物質含有部材(b)とし、5×5mmの標識物質溶出促進部材(i)を積層させて使用した(2−h)。
【0082】
2−g)検出部(C)の製造
ニトロセルロース膜(cellulose nitrate on Mylar、孔径8μm、ザリトリウス社製)を30×100mmの大きさに切断し、カマグ・リノマットIVを用いて2−b)で作製した抗P−dial 3Gモノクローナル抗体の0.5、1.0、1.5及び3mg/ml溶液(50μg/mlBSA含有50mMトリス緩衝液、pH8.2)の各10μlを一端から12、14、16及び18mmの位置に順次線型にスプレイ後、実施例1−g)と同様の方法で処理して4段階の検出感度の検出部位を有する検出部(C)を作製した。
【0083】
なお、ここで使用したニトロセルロース膜(cellulose nitrate on Mylar)とは、プラスチック板上で直接ニトロセルロース繊維を一体成形したものである。これを使用することにより、試料溶液による濡れによってクロマト材がの膨張による歪みを防止することができる。
【0084】
2−h)半定量装置の製造
2−g)で製造した検出部(C)を含む幅100mmのニトロセルロース膜(クロマト材(g))を5mm幅に切断して5×30mmの短冊状とし、2−e)で製造した試料添加部(A)用の濾紙片も切断して8×10mmの短冊状とした。図1のb)に示すように、支持体(e)であるプラスチック板の片側全面に両面粘着テープ(f)を貼り、その上に両面粘着テープ(f)の下流端側12mmを残して検出部(C)を含むニトロセルロース膜(クロマト材(g))の短冊(5×30mm)を貼った(図1のd)において右側が上流端である)。次いで、クロマト材(g)の上流端に接触して実施例2−f)で製造した標識物質溶出促進部材(i)(5×5mm)を貼り2−f)で製造した標識物質含有部材(b)(5×2mm)の下流端がニトロセルロース膜(クロマト材(g))の上流端と標識物質溶出促進部材(i)の下流端とのそれぞれ1mmずつと重なるようにのせ、その上にもう1枚の標識物質溶出促進部材(i)(5×5mm)をのせ、さらにその上に試料添加部(A)用短冊状濾紙片(8×10mm)をのせて両面粘着テープ(f)の上流端側の粘着部で固定した。
【0085】
最後にクロマトグラフィー用濾紙(アドバンティック東洋社製、No.585)の8×15mmの濾紙片を吸収部(D)として検出部(C)を含むニトロセルロース膜(クロマト材(g))の下流端に3mmの重なりをもって両面粘着テープ(f)の下流端側の粘着部で固定した(図1のd)。
【0086】
2−i)測定
尿中プレグナンジオールの測定は、妊婦尿7例について行った。2−h)で作製した半定量装置の各試料添加部(A)に試料である妊婦尿をそれぞれ150μl添加して測定を行なった。この半定量測定では、検出感度を呈色バンド4本で2.5μg/ml以下、3本で5μg/ml、2本で10μg/ml、1本で20μg/ml及び0本で40μg/ml以上と設定した。
【0087】
結果を表3に示す。表3中、(a)欄に観察された呈色バンドの数、(b)欄に呈色バンドが形成された場合を(+)、形成されなかった場合を(−)と表示した判定パターン、(c)欄に半定量値、及び(d)欄にラジオイムノアッセイ(RIA)による試料中のプレグナンジオールの定量値を示した。
【0088】
【表3】
【0089】
表3の結果から、各妊婦尿のプレグナンジオールの半定量値は、RIAによる定量値とよく一致していることがわかる。本実施例の半定量の測定時間は、およそ3分であり、その後放置しておいても判定パターンに変化はなかった。
【0090】
実施例3:尿中hCG(ヒト胎盤性性腺刺激ホルモン)定性分析における本発明の応用例
3−a)抗hCGモノクロナール抗体の製造
Balb/cマウスにhCG(10000iu/mg)をコンプリートフロインドアジュバントと共に3週間隔で3回背部皮下投与し、更に3週間後hCGを腹腔内投与した。最終免疫3日後の脾細胞と骨髄腫細胞(NS−1)とを常法により細胞融合を行い、HAT選別後、クローニングを繰返してhCG特異抗体を分泌する融合細胞株ならびにhCG、hLH、hFSHと交差反応するα−サブユニットを認識するモノクロナール抗体を分泌する融合細胞株を得た。
【0091】
各細胞株を予めプリスタン投与したBalb/cマウスの腹腔内に投与し、腹水腫瘍を形成させて腹水を得た。得られた腹水を硫安分画及びアフイゲル−プロテインAマプスキットにより精製し、凍結乾燥して白色粉末のモノクロナール抗体を得た。
【0092】
得られた抗hCG特異的モノクロナール抗体は検出部(C)の作用に用い、α−サブユニットを認識するモノクロナール抗体は標識抗体作製に用いた。
【0093】
3−b)抗マウスガンマグロブリン(γG)抗体の作製
マウスγG(マイルス社製)1mgを1mlの生理食塩水に溶解し、同量のコンプリートフロインドアジュバントで乳化し、成熟家兎の足蹠および皮下に注射した。この注射を1カ月間隔で3回行い、抗体価の上昇を確認後全採血を行い抗血清を得た。この抗血清を56℃、30分間非働化後、硫酸アンモニウムによる塩折、DEAE−セルロースクロマトグラフィー、セファデックスG200(ファルマシア製)によるゲル濾過により精製した後、凍結乾燥して白色粉末状の抗マウスγG抗体を得た。
【0094】
3−c)金コロイド標識抗hCGモノクロナール抗体の製造
上記3−a)で作製した抗hCGモノクロナール抗体(α−サブユニットを認識する抗体)をBSA50μg/ml含有トリス緩衝液(pH8.2)に溶解して200μg/ml溶液を調製した。コロイド金溶液(金コロイド粒径10nm、アマシァム社製)4.0mlに0.2MK2CO3 15μlを加えてpH7.6に調整したのち、前記抗体溶液0.5mlを添加し、室温で10分間撹拌後、0.1%PEG6000溶液を20μl加え、10分間撹拌した後、15000rpm、4℃、60分間遠心分離した。得られた沈殿に0.3%BSA、0.25%PEG6000含有0.1Mトリス緩衝液(pH7.6)を2.0ml添加して均一に懸濁させた後、15000rpm、60分間遠心分離を行い、同様な洗浄操作を2回繰り返した後、得られた沈殿に0.3%BSA、0.25%PEG6000、4%シュークロース、0.05%チメロサール含有0.1Mトリス緩衝液(pH7.6)0.4mlを加えて均一に懸濁させて金コロイド標識抗hCGモノクロナール抗体溶液を得、標識物質存在部(B)の作製まで4℃に保存した。
【0095】
3−d)試料添加部(A)の製造
実施例1−e)で作製した試料添加部(A)を構成する部材(a)を使用した。
【0096】
3−e)標識物質存在部の(B)の製造
(e−1)標識物質溶出促進部材(i)の調製
実施例1−f)、(f−1)にて、ボロシリケートグラスファイバー(平均流孔径:39μm)(LYPORE、Grade 9254、Lydall社製)を処理して作製した標識物質溶出促進部材(i)を使用した。
【0097】
(e−2)標識物質含有部材(b)の調製
実施例2−f)、(f−1)にて、ボロシリケートグラスファイバー(平均流孔径:35μm)(LYPORE、Grade 9818、Lydall社製)を処理して作製した部材を標識物質含有部材(b)の作製に使用した。
【0098】
3−c)で作製した金コロイド標識抗hCGモノクローナル抗体溶液を同量の30%シュークロース含有0.1%NaN3溶液で希釈し、10×20mmの上記部材に120μlしみ込ませて凍結乾燥を行い、標識物質含有部材(b)を作製した。これを定性用装置作製時に5×2mmに切断し、5×5mmの標識物質溶出促進部材(i)を積層して使用した(3−g)。
【0099】
3−f)検出部(C)の製造
ニトロセルロース膜(クロマト材(g))(ザルトリウス社製、孔径8μm)を30×100mmの大きさに切断し、カマグ・リノマット(Cammg Linomat)IVを用いて3−a)で作製した抗hCG特異モノクローナル抗体の0.5mg/ml溶液(50μg/ml BSA含有50mMトリス緩衝液、pH8.2)の10μlをクロマト材(g)の一端から10mmの位置に、次いで3−b)で作製した抗マウスGウサギ抗体の2mg/ml溶液(50μg/ml BSA含有50mMトリス緩衝液、pH8.2)の10μlをコントロールとしてクロマト材(g)の一端から17mmの位置に、順次線型にスプレイ後、25℃、湿度80%の恒温恒湿器中に25分間放置し、次いで実施例1−g)と同様にブロッキング処理、乾燥を行い検出部(C)を作製した。
【0100】
3−g)定性分析用装置の製造
3−f)で製造した検出部(C)を含むニトロセルロース膜の幅100mmを5mm幅で切断して5×30mmの短冊状とした(以下、抗hCG抗体固定側を上流と呼ぶ)。また3−d)で製造した試料添加部(A)用濾紙片も切断して8×10mmの短冊を作製した。
【0101】
図1のc)に示すように支持体(e)であるプラスチック板の片側全面に両面粘着テープ(f)を貼り、その上に両面粘着テープ(f)の下流側9mmを残して検出部(C)を含むニトロセルロース膜(クロマト材(g))の短冊(5×30mm)を貼った(図1のc)において右側が上流端である)。次いで、クロマト材(g)の上流端上に3−e)で製造した標識物質含有部材(b)(5×2mm)をのせ、その上に3−e)で製造した標識物質溶出促進部材(i)(5×5mm)を標識物質含有部材(b)の左端に合わせて積層し、右側は両面粘着テープ(f)の粘着面で固定した。さらにその上に前記試料添加部(A)用短冊状濾紙片(8x10mm)をのせて、両面粘着テープ(f)の上流端の粘着部で固定した。最後に、クトマトグラフィー用濾紙(アドバンテック東洋社製、No.585)の8×15mmの濾過紙片を吸収部(D)として検出部(C)を含むニトロセルロース膜(クロマト材(g))の下流端に3mmの重なりをもって両面テープ(f)の下流端の粘着部で固定した(図1のd)。
【0102】
3−h)hCGの測定
標識物質存在部(B)の構成の違いによる定性分析性能の比較を行うため、3−g)の本発明装置における標識物質溶出促進部材(i)を除いた以外は3−g)で作製したのと同じ定性分析用装置を作製し、対照とした。
【0103】
hCGをそれぞれ0、10、25及び50miu/ml含む試料を男子尿にて調製し、各試料150μlを試料添加部(A)に添加して経時的に呈色バンドの形成を観察した。その結果を表4に示した。
【0104】
【表4】
【0105】
表4の結果から、本発明の標識物質存在部(B)の構成では、試料添加後1分で10miu/mlにおいても呈色バンドの形成が認められ、2分では明瞭な呈色バンドとなった。0miu/mlでは、10分後も呈色バンド非形成であった。
一方対照では、呈色バンドの出現が遅く、10miu/mlでは、5〜10分でもわずかの呈色しか示さず、25miu/mlでは10分、50miu/mlでは5分で明瞭な呈色バンドが認められるようになった。
以上より、定性分析試験においても短時間で高感度且つ高精度の結果が得られ、本発明の効果が顕著に認められた。
【0106】
実施例4:標識物質存在部(B)の構成の違いによる半定量性能(明瞭性、精度)の比較
標識物質存在部(B)の構成の違いによる半定量性能(判定結果の明瞭性及び精度)の比較を実施例1のエストロゲン測定をモデルとして行った。本発明の標識物質存在部(B)の構成は、図1のa)及びその拡大図である図2のa)で示される。比較例である、従来尿中ヒト胎盤性性腺刺激ホルモン(hCG)などの定性イムノクロマトに用いられている標識物質存在部(B)の構成は、図3のa)、b)、c)で示される。なお、試料添加部(A)、標識物質存在部(B)の原材料(素材)による差を防ぐため、比較例の半定量装置は実施例1と同一原材料(素材)を用い、構成のみを図3のa)、b)、c)のように変えて行った。
【0107】
エストロゲン濃度0、12.5、25、50及び100ng/mlの試料の反応パターンの経時的推移と観察結果を表5に示した。
【0108】
【表5】
【0109】
本発明の標識物質存在部(B)の構成では、試料添加後2分で呈色バンド形成の有無は明瞭となり、5分後においても判定パターンに全く変化は認められなかったが、比較例の構成(図3のa、b、c)では、いずれも試料添加後2分では呈色バンド形成の有無は不明瞭であり、経時的に呈色バンドは明瞭となっていくが、本来呈色バンドが形成されないはずの検出部においても、わずかな呈色バンドあるいは明瞭な呈色バンドが認められた。
【0110】
上記の如く、本法の判定パターンは極めて明瞭であり、かつ精度の高いものであった。
【0111】
【発明の効果】
本発明の方法又は装置によれば、イムノクロマト法による定性又は定量(半定量)分析において、分析対象物を含む試料と分析対象物を検出するための標識物質を同期してクロマト材上を移動させて短時間に明瞭かつ確実なアッセイ結果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の標識物質存在部(B)の構成を持つ半定量装置を示す図である。
【図2】本発明の特徴部分である標識物質存在部(B)の拡大図である。
【図3】従来の半定量装置の標識物質存在部(B)の構成を示す図である。
【符号の説明】
A:試料添加部
B:標識物質存在部
C:検出部
D:吸収部
a:試料添加部(A)を構成する部材
b:標識物質含有部材
d:吸収部(D)を構成する部材
e:支持体
f:両面粘着テープ
イ)及びロ):粘着部
g:クロマト材
i:標識物質溶出促進部材
【産業上の利用分野】
本発明は、分析対象物を含む試料を、簡易に、短時間で、明瞭かつ正確に定性及び定量を行なうことができる免疫化学的方法および装置に関する。
【0002】
【先行技術】
血液、尿等の生体試料中に含まれる微量物質の定性または定量方法として、その感度の高さから免疫学的測定方法が汎用されている。その手法の内、クロマトグラフィーを用いたいわゆるイムノクロマト法は、操作が簡単であり、検定に要する時間も短いため、現在多くの場面、例えば病院における臨床検査、研究室における検定試験等に広く使われている。
【0003】
最も一般的なイムノクロマト法における目的物の検出方法としては、検出すべき物質に種々の標識を付した特異的結合物質をクロマト材上で反応させて検出すべき物質と標識特異的結合物質との複合体(抗原−抗体複合体)を形成させ、これを種々の手段により確認(検出)することが行なわれる。標識としては、放射性同位元素、発色団、蛍光団、酵素等があげられる。検出手段としては、放射線検出器、分光光度計等、または目視が挙げられる。
【0004】
目視によって判定可能なイムノクロマト法による定性分析法及びその装置については、種々の分析対象物について開発され、多くのものが市販され、一般に使用されている。その一例として、妊娠判定装置が挙げられる。
【0005】
イムノクロマト法による定性分析装置は、一般に免疫化学的サンドイッチ法を原理としており、その装置の構成は、おおむね分析対象物を含む試料を添加する部位(試料添加部)、分析対象物を検出するための指標となる標識物質を含む部位(標識物質存在部)、分析対象物を捕捉・検出する部位(検出部)及び余分な試料を吸収除去する部位(吸収部)から成っている。
【0006】
また、目視によって判定可能なイムノクロマト法による定量(半定量)方法及びその装置については、現在開発が進められている段階にある。たとえば、特開平4−351962号公報、特開平5−5743号公報、本願出願人による特願平5−131590号に記載の方法又は装置がある。これらの公報又は出願に記載の方法は、主として完全抗原を分析対象物としており、定性分析と同様に免疫化学的サンドイッチ法を原理としている。その装置の形式としては、上記の試料添加部、標識物質存在部、一つの検出部及び吸収部から成る各ユニットを検出できる分析対象物の濃度(感度)を違えて複数個並列に並べたいわゆるユニット形式(たとえば、特開平4−351962号公報、本願出願人による特願平5−131590号)と、一つのアッセイストリップ上に試料添加部、標識物質存在部、検出できる分析対象物の濃度(感度)を違えた複数の検出部(検出部が直列に並んだもの)及び吸収部から成るいわゆるスティック形式(たとえば、特開平5−5743号公報)のものがある。
【0007】
特開平5−5743号公報には、フィルター、標識化試薬含有部材、及び1又は複数の反応領域を有する多孔性担体を有する免疫測定装置であって、該多孔性担体がその上流端において該フィルターと該標識化試薬含有部材とにより挟まれており、該反応領域が該フィルター及び該標識化試薬含有部材から離れてその下流に位置し、該標識化試薬含有部材が標識された試薬を含有しており、そして該反応領域に捕捉試薬が固定されていることを特徴とする、特異的反応を用いて分析対象物を測定する測定装置が開示されている。反応領域が下流に位置するに従って多くの捕捉試薬を固定することにより、半定量を行うことができるものである。
【0008】
この公報記載の測定装置の試料添加部(試料適用部位)は、図3のc)に示すようにクロマト材(多孔性担体)の上流端の下側に標識化試薬含有部材を配置し、上側にフィルターを配置したことを特徴とするものである。このような試料添加部及び標識物質存在部(標識化試薬含有部材)の構造により、従来の方法よりも鋭敏に分析対象物の定量(半定量)が行えるとするものである。
【0009】
【発明が解決すべき課題】
上記従来の定性又は定量(半定量)分析方法では、標識物質が存在する部位からの標識物質の溶出が、添加された試料のクロマト材への流出速度より遅いことがあり、分析対象物と標識物質とが同期してクロマト材上を移動しないため、分析対象物を検出する際にパターンが不明瞭となりやすい。すなわち、試料が分析対象物の検出部位を通過した後も標識物質が徐々に溶出されて検出部位まで移動してくるため、時間の経過とともに検出部での発色が強くなったり、クロマト材上の検出部以外の部分で薄い発色が見られたりする。これらの現象は、しばしば定性又は定量(半定量)の結果を不確実にする。
【0010】
また、上記特開平5−5743号公報記載の装置の試料添加部のような構成を採用することにより、アッセイ結果は従来の装置による場合よりは明瞭となるが、判定パターンは未だ不明瞭さを残すものである。
【0011】
そこで、本発明はイムノクロマト法によるアッセイにおいて、分析対象物を含む試料とそれを検出するための標識物質を同期してクロマト材上を移動させて短時間に明瞭かつ確実なアッセイ結果を得ることができる手段を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記目的を達成するための手段を鋭意検討した結果、標識物質を含有する部材に標識物質の溶出を促進させることができる素材からなる部材(標識物質溶出促進部材)を積層させることにより分析対象物を含む試料とそれを検出するための標識物質を同期してクロマト材上を移動させることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0013】
すなわち、本発明は、クロマト法による免疫化学的定性又は定量(半定量)分析であって、分析対象物を含む試料により判定の指標となる標識物質が溶解されて分析対象物及び標識物質がクロマト材上の判定結果を読み取る部位(検出部)まで移動し、視覚により分析結果を判定することを含むアッセイ方法において;標識物質を含有する部材(以下、標識物質含有部材という)に標識物質含有部材と同等又はそれ以上の目の粗さをもつ素材からなる部材(以下、標識物質溶出促進部材という)を積層することを特徴とする免疫化学的簡易アッセイ方法を第一の要旨とする。
【0014】
さらに、本発明は、上記目的を達成できる分析対象物を含む試料を添加するための試料添加部(A)、標識された分析対象物に対する特異的結合物質又は標識された分析対象物又はその化学的変性物(標識物質)がクロマト移動しうる状態で存在する標識物質存在部(B)、分析対象物に特異的に結合し得る物質が固定化されて存在する1又は2以上の検出部(C)及び添加された試料及び検出部(C)に結合されない標識物質を吸収除去する吸収部(D)を含むクロマト法による免疫化学的簡易定性又は定量(半定量)分析装置において;
標識物質存在部(B)を構成する標識物質含有部材(b)に標識物質含有部材(b)と同等又はそれ以上の目の粗さをもつ素材からなる標識物質溶出促進部材(i)を積層させ、さらに標識物質溶出促進部材(i)に試料添加部(A)を構成する部材(a)を接触させてなることを特徴とする免疫化学的簡易アッセイ装置を第二の要旨とする。
【0015】
なお、本明細書中において「標識物質が溶解されて」いる場合における「溶解」とは、試料により標識物質が湿潤した際に標識物質がクロマト移動しうる状態となることを意味している。
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の方法又は装置による定性又は定量分析の分析対象物となりうるものとしては、大きく分けて完全抗原とハプテン(不完全抗原)とがある。
【0017】
ここに完全抗原とは、それ自体で抗体産生を誘起する能力(免疫原性)を有する抗原物質をいい、主として分子量の大きいペプチドホルモン類等がこれに含まれる。ハプテン(不完全抗原)とは、抗体と結合できるが、それ自身では抗体産生を誘起する能力を有しないものをいい、比較的分子量の小さい(分子量1000以下程度)ペプチド類等がこれに含まれる。なお、ハプテンは、適当な担体、例えばウシ血清アルブミン等の蛋白に結合させると、抗体産生能を獲得する。 以下にこれらの具体例を示すが、ここに記載されたものに限定されるわけではない。
【0018】
完全抗原の例:
(1) ペプチドホルモンの例
1) 成長ホルモン(GH)、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、メラミン細胞 刺激ホルモン(MSH)、プロラクチン、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、黄体形成ホルモン(LH)、卵胞刺激ホルモン(FSH)、オキシトシン等の下垂体ホルモン
2) カルシトニン、副甲状腺ホルモン等のカルシウム代謝調節ホルモン
3) インシュリン、プロインシュリン、膵ホルモン
4) ガストリン、セクレチン等の消化管ホルモン
5) アンギオテンシン、ブラジキニン等の血管に作用するホルモン
6) ヒト胎盤性性腺刺激ホルモン(hCG)、ヒト胎盤催乳ホルモン(hPL) 等の胎盤ホルモン
(2) その他の物質の例
1) 前立腺性酸性フォスファターゼ(PAP)、前立腺特異抗原(PSA)、アルカリ性フォスファターゼ、 トランスアミナーゼ、乳酸脱水素酵素(LDH)、トランスアミナーゼ、トリプシン、ペプシノーゲン等の酵素
2) α−フェトプロテイン(AFP)、ガン胎児性抗原(CEA)等のガン特異 物質
3) 免疫グロブリンG(IgG)、フィブリン−フィブリノーゲン分解産物(F DP、D−ダイマー)、抗トロンビンIII(ATIII)、トランスフェリン等の血清蛋白成分
4) リュウマチ因子、セロトニン、ウロキナーゼ、フェリチン、サブスタンスP 等の物質
その他生体成分およびそれらの代謝産物等の多くの物質が挙げられる。
【0019】
ハプテン(不完全抗原)の例:
(1) ステロイド系ハプテン
1) エストロン、エストラジオール、エストリオール、エステトロール、エクイ リン、エクイレニン等の卵胞ホルモン
2) プロゲステロン、プレグナンジオール、プレグナントリオール、19−ノル −エチステロンおよび酢酸クロルマジノン等の天然または合成黄体ホルモン
3) テストステロン、デヒドロエピアンドロステロン、ジヒドロテストステロン 、アンドロステン、エチオコラノロン等の男性ホルモン
4) コルチゾール、コルチゾン、デオキシコルチコステロン、アルドステロン、 テトラヒドロコルチゾール等の副腎皮質ホルモン
5) ビタミンD類、コレステロール、コール酸、デオキシコール酸、ケノコール 酸等の胆汁酸、強心性ステロイド、サポニン、サポゲニン等のその他のステロイド類
(2) 生理活性アミン類
1) エピネフリン、ノルエピネフリン、ドーパミン、エフェドリン等のカテコー ルアミンおよびそれらの代謝産物
2) モルヒネ、コデイン、ヘロイン、塩酸モルヒネ、コカイン、メスカリン、パ パベリン、ナルコチン、ヨヒンビン、レセルピン、エルゴタミン、ストリキニーネ等の生理活性アルカロイド類
3) LSD、アンフェタミン、メタンフェタミン、メプロバメート等のアミノ基 含有向精神薬類
(3) その他の例
1) TRH、LH−RH等の抗原性を有しない低分子ペプチド類
2) ジヨードサイロニン、トリヨードサイロニン、サイロキシン等の甲状腺ホル モン類
3) プロスタグランジンE2、プロスタグランジンE3、プロスタグランジンF1α等のプロスタグランジン類
4) ビタミンA、ビタミンB類(ビタミンB1、B2、B6、B12等)、ビタミンE、ビタミンK等のビタミン類
5) ペニシリン、アクチノマイシン、クロロマイセチン、テトラサイクリン等の 抗生物質類
6) その他生体内に存在する成分、生体内に投与された薬物およびその代謝産物 等。
【0020】
本発明の方法又は装置において、試料(検体)となり得るものとしては、上記分析対象物を含有するものであれば何でもよいが、尿、血清、血漿、血液、唾液、羊水等の生体試料が主に挙げられる。
【0021】
分析対象物の定性又は定量の指標となる標識は、直接標識または間接標識のいずれであってもよい。直接標識は、検定結果を目視によって観察でき、追加の処理または工程を必要としない点で好ましい。間接標識の場合には、アッセイ終了後に標識を視覚化するための処理、工程または装置が必要である。
【0022】
直接標識に用いることができる標識物としては、金属ゾル、着色ラテックス粒子、色指示薬、リボゾームに含有されている着色物質、各種染料、各種顔料等の色素類、炭素ゾルのような非金属ゾル、ルミノール誘導体、アクリジニウムエステル等の化学発光物質、フルオレセイン、ローダミン等の蛍光物質等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0023】
間接標識に用いることができる標識物としては、ペルオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、ウレアーゼ、グルコースオキシダーゼ等の各種酵素等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0024】
直接標識による場合には、肉眼での色調観察、色濃度、発光強度、蛍光強度等の測定により、間接標識の場合には、使用した酵素によりその酵素の基質あるいはクロモーゲンの変化によって得られる色濃度、発光強度等を測定することにより検出を行なう。
【0025】
本発明において、視覚により分析結果を判定するとは、上記直接及び間接の標識物を用い最終的に肉眼で観察(目視)してイムノクロマトのパターンを判定することをいう。
【0026】
本発明における標識物質は、上記標識と結合した物質であるが、分析対象物の種類(抗原か抗体か、完全抗原かハプテンか等)その測定法の原理により異なる。例えば、分析対象物が完全抗原であり、測定原理が免疫学的サンドイッチ法の場合、標識物質は分析対象物に対する特異的結合物質(例えば抗体)に上記標識物を結合したもの、分析対象物がハプテンである場合(測定原理は競合法)には、分析対象物ハプテン又はその化学的変成物に上記標識物を結合したもの等が挙げられる。
【0027】
ここで、ハプテンの化学的変性物とは、分析対象物ハプテンを化学的に変性させたものであり、分析対象物ハプテンの存在下に、分析対象物ハプテンに対する抗体と競合的に結合し得るハプテンに化学的修飾を加えた物質をいう。
【0028】
本発明の標識物質を含有する部材(以下、標識物質含有部材という)とは、標識物質がクロマト移動しうる状態で保持されている部材をいい、保持されている標識物質は、分析対象物を含む試料溶液により溶解されて標識物質含有部材からクロマト材へ移動し、分析対象物とともに定性又は定量結果を読みとる部位(以下、検出部という)へ移動する。標識物質含有部材は検出部が存在するクロマト材と同じ、すなわち標識物質存在部がクロマト材上に存在していてもよいし、クロマト材とは別の部材であってもよいが、クロマト材とは別の部材とした方が好ましい。下記に説明する標識物質溶出促進部材の効果がより発揮されうるからである。
【0029】
本発明において、標識物質含有部材と同等又はそれ以上の目の粗さをもつ素材からなる部材(以下、標識物質溶出促進部材という)とは、試料添加部に添加された分析対象物を含む試料溶液が毛細管現象により標識物質存在部を構成する標識物質含有部材に移行するのを助け、標識物質含有部材に含浸されている乾燥状態の標識物質の溶解速度を高め、標識物質がクロマト移動可能な状態になるのを速めて分析対象物と標識物質が同期してクロマト移動することを助ける働きを有するものであり、標識物質含有部材と同一の素材又はそれより目の粗い素材からなる。
【0030】
標識物質溶出促進部材は、濾材の目の粗さを表す規格である平均流孔径(mean flow pore size)で、10μm以上の素材が好ましく、より好ましくは30〜50μmの素材である。上記範囲の平均流孔径をもつ素材としては、グラスファイバー、織布、不織布等が好ましく、特にボロシリケート・グラスファイバーが好ましい。
【0031】
標識物質溶出促進部材の素材は、標識物質含有部材の素材と同等又はそれよりも平均流孔径の大きい(目が粗い)ものを用いる方が好ましい。その理由は、積層された標識物質溶出促進部材に試料が均一かつ速やかに浸透することにより、試料による「標識物質溶出促進部材」→「標識物質含有部材」→「クロマト材」の流れが促進され、標識物質含有部材から標識物質存在部(B)物質の再溶解→クロマト移動が速まるためと考えられる。
【0032】
標識物質溶出促進部材と標識物質含有部材の素材の組み合わせとしては、グラスファイバーとセルロース濾紙又はガラス繊維濾紙が好ましい。
【0033】
また、標識物質含有部材と標識物質溶出促進部材は同一の素材からなっていてもよく、この場合は、両者共にグラスファイバー、織布又は不織布等が好ましく、両者共にボロシリケート・グラスファイバーであることが特に好ましい。
【0034】
次に本発明の装置について図1のa)に即して説明する。図1のa)に示した装置は本発明の装置の基本例である。
【0035】
本発明の装置は、試料添加部(A)、標識物質存在部(B)、検出部(C)、吸収部(D)を含むクロマト型の免疫化学的定性又は定量装置であって、標識物質存在部(B)を構成する標識物質含有部材(b)の上に標識物質溶出促進部材(i)を積層させ、さらに標識物質溶出促進部材(i)に試料添加部(A)を構成する部材(a)を接触させてなることを特徴とするものである。
【0036】
次に本発明の装置であって、半定量分析を目的とする場合の各部の構成について説明する。
なお、本発明は、標識物質存在部(B)の特定の構成を特徴とするものであり、その他の部位及び本発明の上記構成以外に付加される部位については特に制限はない。本発明の特徴部分以外の部位又は付加される部位については、定性分析か定量分析かにより異なり、分析対象物に応じた構成を適宜選択すべきである。また、本発明の装置は、定量(半定量)分析の場合に図1に示されるようないわゆるスティック形式にもユニット形式にも応用し得るが、スティック形式の装置の方がより本発明の効果が端的に発揮される。
【0037】
試料添加部(A)
試料添加部の材質は、セルロース濾紙、ガラス繊維、ポリウレタン、ポリアセテート、酢酸セルロース、ナイロン、綿布等の均一な特性を有するものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0038】
試料添加部は、添加された分析対象物を含む試料を受入れるだけでなく、試料中の不溶物粒子等を濾過する機能をも兼ねるので、セルロース濾紙、ガラス繊維濾紙等の濾過機能をも有する材質のものが好ましい。
【0039】
分析の際、試料中の分析対象物が試料添加部の材質に非特異的に吸着し、分析の精度を低下させることを防止するため、試料添加部を構成する材質は、予め非特異的吸着防止処理して用いることが特に好ましい。非特異的吸着防止処理としては、例えば、不活性蛋白による処理、界面活性剤による処理等がある。不活性蛋白による処理は、例えば、材質を0.1〜10%牛血清アルブミン(BSA)0.1Mトリス緩衝液(pH6〜9)溶液、0.1〜10%脱脂粉乳0.1Mトリス緩衝液(pH6〜9)溶液、および/または0.1〜10%カゼイン溶液などに浸し、37℃1時間または4℃一昼夜放置後、トリス緩衝液で洗浄後乾燥させることからなる。界面活性剤による処理は、例えば、材質を非イオン性界面活性剤であるツイーン20またはトリトンX100の0.01〜1%溶液に浸し、そのまま乾燥することからなる。分析対象物、試料の種類によるが、不活性蛋白による処理と界面活性剤による処理を合わせて行なってから使用するのが好ましい。
【0040】
標識物質存在部(B)
本発明における特徴部分である標識物質存在部(B)は、標識物質含有部材(b)及び標識物質溶出促進部材(i)から構成される。
【0041】
標識物質溶出促進部材(i)の素材については前述の通りであり、標識物質溶出促進部材(i)を構成する素材に分析対象物及び標識物質が非特異的吸着するのを防止する処理をした後、乾燥させて作成する。
【0042】
本発明において用いられる標識物質含有部材(b)を構成する素材は、前述の標識物質溶出促進部材(i)と同一又は異なる素材を用いることができ、その素材としては、例えば、セルロース濾紙、ガラス繊維濾紙、不織布、フラスファイバー等が挙げられ、標識物質含有部材(b)と標識物質溶出促進部材(i)の素材の好ましい組み合わせについては前述の通りである。
【0043】
標識物質含有部材(b)は、分析対象物及び標識物質が非特異的吸着するのを防止する処理をした後、標識物質の一定量を含浸し、乾燥させて作成する。
【0044】
検出部(C)
検出部(C)は、通常クロマト材(g)の一部に検出用物質を固定化させて作製する。
検出用物質の固定化方法には、検出用物質をクロマト材(g)の一部に物理的または化学的結合により直接固定化させる方法と、検出用物質をラテックス粒子などの微粒子に物理的または化学的に結合させ、この微粒子を多孔性のクロマト材(g)の一部にトラップさせて固定化させる間接固定化方法がある。いずれの方法も用いることができるが、本発明の装置においては、不溶化の均一性、感度調整の容易さ等から直接固定化の方が好ましい。
【0045】
検出部を構成する材質(通常はクロマト材(g)である)は、多孔性ニトロセルロース膜、多孔性セルロース膜、ナイロン膜、ガラス繊維、不織布、布等、またはこれらに検出用物質結合用の活性基の有るものが好ましく、特に多孔性ニトロセルロース膜および活性化ナイロン膜が好ましい。
【0046】
クロマト材(g)への検出用物質の固定化の形状は、特に限定されるものではなく、いかなる形状であってもよいが、クロマト先端部に対し、標識物質の検出が均一となるクロマト材(g)を横断した線形が特に好ましい。
【0047】
なお、クロマト材(g)は、検出用物質を固定化後、不活性蛋白による処理等により非特異的吸着防止処理をして用いるのが好ましい。
【0048】
吸収部(D)
吸収部(D)は、添加された試料がクロマト移動により物理的に吸収されると共に検出部(C)に不溶化されない未反応標識物質等を吸収除去する部位であり、セルロース濾紙、不織布、布、セルロースアセテート等吸水性材料が用いられる。
【0049】
添加された試料のクロマト先端部が吸収部(D)に届いてからのクロマトの速度は、吸収材の材質、大きさなどにより異なるので、その選定により分析対象物の測定に合った速度を設定することができる。
【0050】
以上、本発明の装置の各部位の構成について説明したが、装置の製造に際し各部の材質、大きさ、厚さ等のファクターによりクロマト速度(液の流れ速度)が異なる。従って、分析対象物の種類及び測定原理に応じて最も好適に定性又は定量分析が行ない得るようにこれらのファクターは、適宜選択し設定すべきである。
【0051】
本発明の方法及び装置はいかなるイムノクロマト法による定性又は定量(半定量)分析にも応用することができ、本発明を応用することにより、従来より短時間に、明瞭かつ確実な分析結果を得ることができる。
【0052】
【実施例】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明する。
【0053】
実施例1:尿中エストロゲン(ハプテン)のイムノクロマトによる半定量における本発明の応用例
1−a)エストリオール−16−グルクロナイド−BSAの製造
エストリオール−16−グルクロナイド(以下、E316Gという)(帝国臓器製薬社製)40mgをジメチルホルムアミド1.0mlに溶解し、これに4℃以下でトリ−n−ブチルアミン20.6μlを添加した後、イソブチルクロロカーボネート11.2μlを加え30分間撹拌した。これに予めウシ血清アルブミン(以下、BSAという)(バイオセル社製)117mgを2.8mlの水に溶解したものに1NNaOH溶液150μlを加えた後、ジメチルホルムアミド2.0mlを加え、8℃に保たれた液を混合した。次いで、これを8℃で撹拌し、1時間後に1NNaOH溶液16.6μlを加え、さらに3.5時間撹拌した後、セファデックスG−25で未反応のE316G及びトリ−n−ブチルアミン等の低分子試薬を除去した。さらにこれを透析(精製水に対し)した後、凍結乾燥すると、エストリオール−16−グルクロナイド−BSA(以下、E316G−BSAという)が得られた。この抗原の凍乾末につてのコーベル反応により、BSA1モル当たりE316G27〜30モルの結合が確認された。
【0054】
1−b)抗E 3 16Gモノクローナル抗体の製造
上記1−a)で製造したE316G−BSA25μgを完全フロインドアジュバントとともにBALB/Cマウス(6〜8週令)に3週間おきに皮下投与し、最後に50μgを静脈注射した。
【0055】
最終免疫から3日後にマウスの脾臓を摘出して、脾細胞を採取し、デルベコのモディファイド最少基本培地(以下、D’MEMという)で3回洗浄した後、細胞数を算定して、その2×103個をマウスミエローマ細胞P3−NS−1/1−Ag4−1(以下、NS−1という)1×107個と混合して遠心し細胞を集めた。このペレットに37℃に温めておいたポリエチレングリコール溶液(PEG−100:4.25%、DMSO:1.5%含有D’MEM)を1ml加え、1分間遠心管をゆっくり回転させて細胞融合を行った。37℃のD’MEMを30秒毎に2mlずつ10回加えた後遠心分離し、ペレットを20%ウシ胎児血清含有RPMI−1640培地でNS−1として5×104個/0.2mlとなるように懸濁し、96ウエルマイクロプレートに0.2mlずつ分注し、5%CO2培養器で培養した。24時間後各ウエルの上清の半量を捨て、HAT培地(ヒポキサンチン・アミノプテリン・チミジン、10%ウシ胎児血清含有RPMI−1640培地)を0.1ml加え、その後3〜4日毎に半量をHAT培地交換を行いながら2週間培養した後、増殖したウエル中の培養上清の抗体活性を測定した。
【0056】
活性の認められたウエルの細胞をBALB/Cマウス胸腺細胞を含む10%ウシ胎児血清含有RPMI−1640培地で希釈し、限界希釈法によりスクリーニングを行って10株のモノクローナル抗体産生融合細胞を得た。各2×106個以上の細胞をプリスタン0.5mlを予め投与したBALB/Cマウスに腹腔内投与し、腹水腫瘍を作らせて腹水を得た。この腹水を硫安分画及びアフイゲル−プロテインAマプスキットにより精製し、凍結乾燥して白色粉末の抗E316Gモノクローナル抗体を得た。
【0057】
1−c)E 3 16G−RSAの製造
上記1−a)と同様の方法でE316Gとウサギ血清アルブミン(以下、RSAという)(マイルス社製)を用いて、E316G−RSAを製造した。
【0058】
1−d)金コロイド標識E 3 16G−RSAの製造
1−c)で作製したE316G−RSAを精製水に溶解して2mg/ml溶液を調製した。コロイド金溶液(金コロイド粒径10nm、アマシャム社製)8.0mlに0.2MK2CO330μlを加えてpH7.6に調整したのち、E316G−RSA溶液100μlを添加し、室温で10分間撹拌後0.1%PEG6000溶液を40μl加え、10分間撹拌した後、15000rpm、4℃、60分間遠心分離した。得られた沈殿に0.3%BSA、0.25%PEG6000含有0.1M Tris緩衝液(pH7.6)を4.0ml添加して均一に懸濁させた後、15000rpm、60分間遠心分離を行ない、同様な洗浄操作を2回くり返した後、得られた沈殿に0.3%BSA、0.25%PEG6000、4%シュークロース、0.1%NaN3含有0.1M Tris緩衝液(pH7.6)0.8mlを加えて均一に懸濁させて金コロイド標識E316G−RSA溶液を得、標識物質存在部(B)の作製まで4℃に保存した。
【0059】
1−e)試料添加部(A)の製造
クロマトグラフィー用濾紙(アドバンテック東洋社製、No.585、厚さ0.85mm)をカットして10×50mmの濾紙片を作製し、これを、5%脱脂粉乳(全国酪農連合会)含有0.1Mトリス緩衝液(pH8.2)溶液に浸漬して37℃1時間インキュベーション後、0.1Mトリス緩衝液(pH8.2)にて1回洗浄後、5%BSA(バイオセル社製)含有0.1Mトリス緩衝液(pH8.2)に浸漬した。37℃、1時間インキュベーション後、0.1%BSA0.1Mトリス緩衝液(pH8.2)にて1回洗浄、液切り後、0.05%ツイーン20、0.1%BSA、1%シュークロース含有0.1Mトリス緩衝液に浸した後、液切りして凍結乾燥を行い、試料添加部(A)を構成する部材(a)として用いた。
【0060】
1−f)標識物質存在部(B)の製造
(f−1)標識物質溶出促進部材(i)の調製
ボロシリケートグラスファイバー(Borosilicate Glass Fiber、平均流孔径:39μm)(LYPORE、Grade9254、Lydall社製)をカットして10×50mmの短冊とし、これを10%脱脂粉乳含有0.1Mトリス緩衝液(pH8.2)に浸漬して37℃、90分間インキュベーション後、0.1Mトリス緩衝液(pH8.2)にて2回洗浄後、5%BSA含有0.1Mトリス緩衝液(pH8.2)に浸漬した。37℃、1時間インキュベーション後、0.1%BSA含有0.1Mトリス緩衝液(pH8.2)に浸した後、液切りして室温で乾燥させ、標識物質溶出促進部材(i)及び標識物質含有部材(b)を調製するたもの部材として用いた。
【0061】
(f−2)標識物質含有部材(b)の調製
1−d)で作製した金コロイド標識E316G−RSA溶液を同量の30%シュークロース含有0.1%NaN3溶液で希釈し、10×20mmの上記(f−1)で得られた部材に120μlをしみ込ませて凍結乾燥を行ない、標識物質含有部材(b)を作製した。これを半定量装置作製時に5×2mmに切断し、5×5mmの標識物質溶出促進部材(i)2枚にて上下から挟んで使用した(1−h)。
【0062】
1−g)検出部(C)の製造
ニトロセルロース膜(クロマト材(g))(ザルトリウス社製、孔径8μm)を30×100mmの大きさに切断し、カマグ・リノマット(Cammg Linomat)IVを用いて1−b)で作製した抗E316Gモノクローナル抗体の0.15、0.2、0.3及び0.4mg/ml溶液(50μg/mlBSA含有50mMトリス緩衝液、pH8.2)の各10μlを一端から12、14、16及び18mmの位置に順次線型にスプレイ後、25℃、湿度80%の恒温恒湿器中に25分間放置し、次いで0.1Mトリス緩衝液(pH8.2)に5%脱脂粉乳(全国酪農連合会)を溶解した溶液、次いで5%BSA溶液に浸漬してブロッキングした後、1%サッカロース、1%マンニトール含有0.1Mトリス緩衝液にて洗浄し、室温に放置して乾燥させ、4つの検出部位を含む検出部(C)とした。
【0063】
1−h)半定量装置の製造
1−g)で製造した検出部(C)を含むニトロセルロース膜の幅100mmを5mm幅で切断して5×30mmの短冊状とした(以下、検出部(C)の抗体低濃度固定側を上流と呼ぶ)。また1−e)で製造した試料添加部(A)用濾紙片も切断して8×10mmの短冊を作製した。
【0064】
図1のa)に示すように、支持体(e)であるプラスチック板に両面粘着テープ(f)を貼り、図中のイ)、ロ)部に粘着面を露出させた。イ)部のクロマト材(g)接触部側に1−h)で製造した標識物質溶出促進部材(i)(5×5mm)を貼り、次に上記1−g)で製造した検出部(C)を含むニトロセルロース膜の短冊(クロマト材(g))(5×10mm)の上流側が標識物質溶出促進部材(i)と2mm重なるようにプラスチック板(E)の上にのせた。さらにそのクロマト材(g)の上流端が1−h)で製造した標識物質含有部材(b)(5×2mm)と1mmの重なりをもつように標識物質含有部材(b)をクロマト材(g)の上にのせ、標識物質含有部材(b)を挟むようにもう1枚の標識物質溶出促進部材(i)をのせ、その上に上記試料添加部(A)の短冊状濾紙片(8×10mm)をのせて前記両面粘着テープ(f)の粘着部イ)で固定した(図1のd)。
【0065】
最後にクロマトグラフィー用濾紙(アドバンテック東洋社製、No.585)の8×15mm濾紙片を吸収部(D)として、検出部(C)のニトロセルロース膜(クロマト材(g))の短冊の下流端から3mmの重なりをもって両面粘着テープ(f)のロ)部の粘着面に固定した。
【0066】
1−i)測定
(i−1)男子尿による測定
E316Gをエストリオール換算で0、12.5、25、50及び100ng/mlの各濃度になるように男子尿に溶解させて試料を調製した。この試料について1−h)で作製した半定量装置の試料添加部(A)に各濃度の飼料100μlずつを添加して試験を行った。
【0067】
試料中のエストリオールは試料により溶解された金コロイド標識E316G−RSAと共にクロマト移動により検出部(C)へ移動して順次上流から下流の固定化抗E316Gモノクローナル抗体と競合的に反応し、未反応標識物質が吸収部(D)に移動後、検出部(C)における呈色バンドを観察した。
【0068】
本装置における検出感度は、標識物質存在部(B)における金コロイド標識E316G−RSAの保持量と検出部(C)に固定化された各抗E316Gモノクローナル抗体とにより、両者の反応が最上流の検出部では12.5ng/ml、以下順次下流の検出部では25、50、100ng/mlのエストリオールにより阻止できるように設定した。
【0069】
表1に本定量測定の結果を示す。表1中、(a)欄には検出部における呈色バンドの数、(b)欄にはバンドの形成が認められた場合を(+)、認められなかった場合を(−)と表示した判定パターンを示した。
【0070】
【表1】
【0071】
表1の結果から、各試料について設定した検出感度通りの半定量結果(パターン)が得られたことがわかる。
また、試料添加からアッセイ終了までの時間は、およそ3分であった。その後、放置しておいても判定パターンには全く変化は見られなかった。
【0072】
(i−2)婦人尿による測定
次に月経周期の各時期に採尿した正常婦人尿各3例について表2(a)欄に観察された呈色バンドの数、(b)欄に呈色バンドが形成された場合を(+)、形成されなかったばあいを(−)と表示した判定パターン、(c)欄に本法による半定量値、(d)欄にラジオイムノアッセイ(RIA)による定量値を示した。
【表2】
【0073】
表2の結果から、本法による半定量値はRIAによる定量値とよく一致していることがわかる。婦人尿を試料とする上記半定量も(i−1)の男子尿の場合と同様に測定時間は3分であり、その後放置しても判定パターンに変化は見られなかった。
【0074】
実施例2:尿中プレグナンジオール(ハプテン)の半定量における本発明の応用例
2−a)プレグナンジオール−3−グルクロナイド−BSAの製造
プレグナンジオール−3−グルクロナイド(以下、P−diol 3Gという)とBSAを用いて実施例1の1−a)と同様の方法でP−diol 3G−BSAを製造した。
【0075】
2−b)抗P−diol 3Gモノクローナル抗体の製造
上記2−a)で製造したP−diol 3G−BSAを用い、実施例1の1−b)と同様な方法で4株の抗P−diol 3G抗体産生融合細胞株を得た。モノクローナル抗体は、2×106個の細胞を予めプリスタンを0.5ml腹腔内投与したBALB/Cマウスの腹腔に移植して腹水を採取し、この腹水をP−diol 3G−BSAと結合させたセファロース4B(ファルマシア社製)を用いたアフィニティークロマトグラフィーにより精製し、抗P−diol 3Gモノクローナル抗体を得た。
【0076】
2−c)プレグナンジオール−3−グルクロナイド結合ビニルメチルエーテル無
水マレイン酸共重合体の製造
(c−1)P−diol 3G−リジン誘導体の製造
P−diol 3G99mg、p−ベンジルオキシカルボニルリジンメチルエステル・トルエンスルホン酸塩140mgをDMF12mlに溶かし、氷冷下撹拌しつつジフェニルホスホリルアジド65mg、ついでトリエチルアミン0.056mlを加えたのち、実施例1の1−b)と同様にして下記構造式
【化1】
で表わされる目的のP−diol 3G−リジン誘導体100mg(対理論収率58%)を得た。
【0077】
(c−2)P−diol 3G結合ビニルメチルエーテル無水マレイン酸共重合体の製造
上記(c−1)で得たP−diol 3G−リジン誘導体38mgをメタノール3mlに溶かし、パラジウム黒10mgを加え、常温常圧で水蒸気流中で撹拌する。2時間で反応を終了し触媒を濾去し、濾液を減圧濃縮し、残渣にジエチルエーテルを加えて目的物26.6mgを粉末として得た。この生成物をビニルメチルエーテル無水マレイン酸共重合体(以下、PVMMAという)100mgとともにDMF(ジメチルホルムアミド)6mlに加温溶解したのち、DCC(ジシクロヘキシルカルボジイミド)4mgを加え、室温で4日間放置した。反応液を透析し、プレグナンジオール含量0.46mg/ml(硫酸発色による定量)のP−diol 3G結合ビニルメチルエーテル無水マレイン酸共重合体(以下、P−diol 3G PVMMAという)の溶液30mlを得た。
【0078】
2−d)着色ラテックス標識P−diol 3G PVMMAの製造
赤色アミノ化ポリスチレンラテックス(固形分10%、日本合成ゴム社製、粒径0.37μm)0.5mlにN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)・精製水(1:1)で調製した10%トリエチルアミン溶液12mlを加えて懸濁させ、15分撹拌後、遠心分離した。沈殿をDMF・水(1:1)10mlで2回、精製水10mlで1回遠心洗浄後、精製水0.5mlに懸濁させ、2−c)で製造したP−diol 3G PVMMAの溶液0.63ml(プレグナンジオール0.29mg相当)に1mlの精製水を加えて混合し、次いで1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩7.5mgを加え、撹拌下、一夜反応を行った。反応終了後、遠心分離して得た沈殿をグリシン緩衝液10mlで3回遠心洗浄を繰返した後、30%サッカロース、0.1%ヤギ血清アルブミン(以下、GSAという)(マイルス社製)含有グリシン緩衝液10mlに懸濁し、P−diol 3G PVMMA結合着色ラテックスを製造した。
【0079】
2−e)試料添加部(A)の製造
クロマトグラフ用濾紙(アドバンテック東洋社製、No.526)をカットして10×50mmの濾紙片を作製し、実施例1−e)と同様の方法により試料添加部(A)を製造した。
【0080】
2−f)標識物質存在部(B)の製造
(f−1)標識物質含有部材(b)を製造するための部材及び標識物質溶出促進部材(i)の製造
ボロシリケート・グラスファイバー濾紙(Borosilicate Glass Fiber、平均流孔径:35μm)(LYPORE、Grade9818、Lydall社製)をカットして10×50mmの短冊とし、実施例1−f)と同様の方法により処理して標識物質含有部材(b)を製造するたもの部材及び標識物質溶出促進部材(i)とした。
【0081】
(f−2)標識物質含有部材(b)の製造
2−d)で作製した着色ラテックス標識P−diol 3G PVMMA懸濁液を10×20mmにカットした上記(f−1)で得た標識物質含有部材(b)を製造するたもの部材に120μl含浸させ、室温にて乾燥させた。これを半定量装置作製時に5×2mmにカットして標識物質含有部材(b)とし、5×5mmの標識物質溶出促進部材(i)を積層させて使用した(2−h)。
【0082】
2−g)検出部(C)の製造
ニトロセルロース膜(cellulose nitrate on Mylar、孔径8μm、ザリトリウス社製)を30×100mmの大きさに切断し、カマグ・リノマットIVを用いて2−b)で作製した抗P−dial 3Gモノクローナル抗体の0.5、1.0、1.5及び3mg/ml溶液(50μg/mlBSA含有50mMトリス緩衝液、pH8.2)の各10μlを一端から12、14、16及び18mmの位置に順次線型にスプレイ後、実施例1−g)と同様の方法で処理して4段階の検出感度の検出部位を有する検出部(C)を作製した。
【0083】
なお、ここで使用したニトロセルロース膜(cellulose nitrate on Mylar)とは、プラスチック板上で直接ニトロセルロース繊維を一体成形したものである。これを使用することにより、試料溶液による濡れによってクロマト材がの膨張による歪みを防止することができる。
【0084】
2−h)半定量装置の製造
2−g)で製造した検出部(C)を含む幅100mmのニトロセルロース膜(クロマト材(g))を5mm幅に切断して5×30mmの短冊状とし、2−e)で製造した試料添加部(A)用の濾紙片も切断して8×10mmの短冊状とした。図1のb)に示すように、支持体(e)であるプラスチック板の片側全面に両面粘着テープ(f)を貼り、その上に両面粘着テープ(f)の下流端側12mmを残して検出部(C)を含むニトロセルロース膜(クロマト材(g))の短冊(5×30mm)を貼った(図1のd)において右側が上流端である)。次いで、クロマト材(g)の上流端に接触して実施例2−f)で製造した標識物質溶出促進部材(i)(5×5mm)を貼り2−f)で製造した標識物質含有部材(b)(5×2mm)の下流端がニトロセルロース膜(クロマト材(g))の上流端と標識物質溶出促進部材(i)の下流端とのそれぞれ1mmずつと重なるようにのせ、その上にもう1枚の標識物質溶出促進部材(i)(5×5mm)をのせ、さらにその上に試料添加部(A)用短冊状濾紙片(8×10mm)をのせて両面粘着テープ(f)の上流端側の粘着部で固定した。
【0085】
最後にクロマトグラフィー用濾紙(アドバンティック東洋社製、No.585)の8×15mmの濾紙片を吸収部(D)として検出部(C)を含むニトロセルロース膜(クロマト材(g))の下流端に3mmの重なりをもって両面粘着テープ(f)の下流端側の粘着部で固定した(図1のd)。
【0086】
2−i)測定
尿中プレグナンジオールの測定は、妊婦尿7例について行った。2−h)で作製した半定量装置の各試料添加部(A)に試料である妊婦尿をそれぞれ150μl添加して測定を行なった。この半定量測定では、検出感度を呈色バンド4本で2.5μg/ml以下、3本で5μg/ml、2本で10μg/ml、1本で20μg/ml及び0本で40μg/ml以上と設定した。
【0087】
結果を表3に示す。表3中、(a)欄に観察された呈色バンドの数、(b)欄に呈色バンドが形成された場合を(+)、形成されなかった場合を(−)と表示した判定パターン、(c)欄に半定量値、及び(d)欄にラジオイムノアッセイ(RIA)による試料中のプレグナンジオールの定量値を示した。
【0088】
【表3】
【0089】
表3の結果から、各妊婦尿のプレグナンジオールの半定量値は、RIAによる定量値とよく一致していることがわかる。本実施例の半定量の測定時間は、およそ3分であり、その後放置しておいても判定パターンに変化はなかった。
【0090】
実施例3:尿中hCG(ヒト胎盤性性腺刺激ホルモン)定性分析における本発明の応用例
3−a)抗hCGモノクロナール抗体の製造
Balb/cマウスにhCG(10000iu/mg)をコンプリートフロインドアジュバントと共に3週間隔で3回背部皮下投与し、更に3週間後hCGを腹腔内投与した。最終免疫3日後の脾細胞と骨髄腫細胞(NS−1)とを常法により細胞融合を行い、HAT選別後、クローニングを繰返してhCG特異抗体を分泌する融合細胞株ならびにhCG、hLH、hFSHと交差反応するα−サブユニットを認識するモノクロナール抗体を分泌する融合細胞株を得た。
【0091】
各細胞株を予めプリスタン投与したBalb/cマウスの腹腔内に投与し、腹水腫瘍を形成させて腹水を得た。得られた腹水を硫安分画及びアフイゲル−プロテインAマプスキットにより精製し、凍結乾燥して白色粉末のモノクロナール抗体を得た。
【0092】
得られた抗hCG特異的モノクロナール抗体は検出部(C)の作用に用い、α−サブユニットを認識するモノクロナール抗体は標識抗体作製に用いた。
【0093】
3−b)抗マウスガンマグロブリン(γG)抗体の作製
マウスγG(マイルス社製)1mgを1mlの生理食塩水に溶解し、同量のコンプリートフロインドアジュバントで乳化し、成熟家兎の足蹠および皮下に注射した。この注射を1カ月間隔で3回行い、抗体価の上昇を確認後全採血を行い抗血清を得た。この抗血清を56℃、30分間非働化後、硫酸アンモニウムによる塩折、DEAE−セルロースクロマトグラフィー、セファデックスG200(ファルマシア製)によるゲル濾過により精製した後、凍結乾燥して白色粉末状の抗マウスγG抗体を得た。
【0094】
3−c)金コロイド標識抗hCGモノクロナール抗体の製造
上記3−a)で作製した抗hCGモノクロナール抗体(α−サブユニットを認識する抗体)をBSA50μg/ml含有トリス緩衝液(pH8.2)に溶解して200μg/ml溶液を調製した。コロイド金溶液(金コロイド粒径10nm、アマシァム社製)4.0mlに0.2MK2CO3 15μlを加えてpH7.6に調整したのち、前記抗体溶液0.5mlを添加し、室温で10分間撹拌後、0.1%PEG6000溶液を20μl加え、10分間撹拌した後、15000rpm、4℃、60分間遠心分離した。得られた沈殿に0.3%BSA、0.25%PEG6000含有0.1Mトリス緩衝液(pH7.6)を2.0ml添加して均一に懸濁させた後、15000rpm、60分間遠心分離を行い、同様な洗浄操作を2回繰り返した後、得られた沈殿に0.3%BSA、0.25%PEG6000、4%シュークロース、0.05%チメロサール含有0.1Mトリス緩衝液(pH7.6)0.4mlを加えて均一に懸濁させて金コロイド標識抗hCGモノクロナール抗体溶液を得、標識物質存在部(B)の作製まで4℃に保存した。
【0095】
3−d)試料添加部(A)の製造
実施例1−e)で作製した試料添加部(A)を構成する部材(a)を使用した。
【0096】
3−e)標識物質存在部の(B)の製造
(e−1)標識物質溶出促進部材(i)の調製
実施例1−f)、(f−1)にて、ボロシリケートグラスファイバー(平均流孔径:39μm)(LYPORE、Grade 9254、Lydall社製)を処理して作製した標識物質溶出促進部材(i)を使用した。
【0097】
(e−2)標識物質含有部材(b)の調製
実施例2−f)、(f−1)にて、ボロシリケートグラスファイバー(平均流孔径:35μm)(LYPORE、Grade 9818、Lydall社製)を処理して作製した部材を標識物質含有部材(b)の作製に使用した。
【0098】
3−c)で作製した金コロイド標識抗hCGモノクローナル抗体溶液を同量の30%シュークロース含有0.1%NaN3溶液で希釈し、10×20mmの上記部材に120μlしみ込ませて凍結乾燥を行い、標識物質含有部材(b)を作製した。これを定性用装置作製時に5×2mmに切断し、5×5mmの標識物質溶出促進部材(i)を積層して使用した(3−g)。
【0099】
3−f)検出部(C)の製造
ニトロセルロース膜(クロマト材(g))(ザルトリウス社製、孔径8μm)を30×100mmの大きさに切断し、カマグ・リノマット(Cammg Linomat)IVを用いて3−a)で作製した抗hCG特異モノクローナル抗体の0.5mg/ml溶液(50μg/ml BSA含有50mMトリス緩衝液、pH8.2)の10μlをクロマト材(g)の一端から10mmの位置に、次いで3−b)で作製した抗マウスGウサギ抗体の2mg/ml溶液(50μg/ml BSA含有50mMトリス緩衝液、pH8.2)の10μlをコントロールとしてクロマト材(g)の一端から17mmの位置に、順次線型にスプレイ後、25℃、湿度80%の恒温恒湿器中に25分間放置し、次いで実施例1−g)と同様にブロッキング処理、乾燥を行い検出部(C)を作製した。
【0100】
3−g)定性分析用装置の製造
3−f)で製造した検出部(C)を含むニトロセルロース膜の幅100mmを5mm幅で切断して5×30mmの短冊状とした(以下、抗hCG抗体固定側を上流と呼ぶ)。また3−d)で製造した試料添加部(A)用濾紙片も切断して8×10mmの短冊を作製した。
【0101】
図1のc)に示すように支持体(e)であるプラスチック板の片側全面に両面粘着テープ(f)を貼り、その上に両面粘着テープ(f)の下流側9mmを残して検出部(C)を含むニトロセルロース膜(クロマト材(g))の短冊(5×30mm)を貼った(図1のc)において右側が上流端である)。次いで、クロマト材(g)の上流端上に3−e)で製造した標識物質含有部材(b)(5×2mm)をのせ、その上に3−e)で製造した標識物質溶出促進部材(i)(5×5mm)を標識物質含有部材(b)の左端に合わせて積層し、右側は両面粘着テープ(f)の粘着面で固定した。さらにその上に前記試料添加部(A)用短冊状濾紙片(8x10mm)をのせて、両面粘着テープ(f)の上流端の粘着部で固定した。最後に、クトマトグラフィー用濾紙(アドバンテック東洋社製、No.585)の8×15mmの濾過紙片を吸収部(D)として検出部(C)を含むニトロセルロース膜(クロマト材(g))の下流端に3mmの重なりをもって両面テープ(f)の下流端の粘着部で固定した(図1のd)。
【0102】
3−h)hCGの測定
標識物質存在部(B)の構成の違いによる定性分析性能の比較を行うため、3−g)の本発明装置における標識物質溶出促進部材(i)を除いた以外は3−g)で作製したのと同じ定性分析用装置を作製し、対照とした。
【0103】
hCGをそれぞれ0、10、25及び50miu/ml含む試料を男子尿にて調製し、各試料150μlを試料添加部(A)に添加して経時的に呈色バンドの形成を観察した。その結果を表4に示した。
【0104】
【表4】
【0105】
表4の結果から、本発明の標識物質存在部(B)の構成では、試料添加後1分で10miu/mlにおいても呈色バンドの形成が認められ、2分では明瞭な呈色バンドとなった。0miu/mlでは、10分後も呈色バンド非形成であった。
一方対照では、呈色バンドの出現が遅く、10miu/mlでは、5〜10分でもわずかの呈色しか示さず、25miu/mlでは10分、50miu/mlでは5分で明瞭な呈色バンドが認められるようになった。
以上より、定性分析試験においても短時間で高感度且つ高精度の結果が得られ、本発明の効果が顕著に認められた。
【0106】
実施例4:標識物質存在部(B)の構成の違いによる半定量性能(明瞭性、精度)の比較
標識物質存在部(B)の構成の違いによる半定量性能(判定結果の明瞭性及び精度)の比較を実施例1のエストロゲン測定をモデルとして行った。本発明の標識物質存在部(B)の構成は、図1のa)及びその拡大図である図2のa)で示される。比較例である、従来尿中ヒト胎盤性性腺刺激ホルモン(hCG)などの定性イムノクロマトに用いられている標識物質存在部(B)の構成は、図3のa)、b)、c)で示される。なお、試料添加部(A)、標識物質存在部(B)の原材料(素材)による差を防ぐため、比較例の半定量装置は実施例1と同一原材料(素材)を用い、構成のみを図3のa)、b)、c)のように変えて行った。
【0107】
エストロゲン濃度0、12.5、25、50及び100ng/mlの試料の反応パターンの経時的推移と観察結果を表5に示した。
【0108】
【表5】
【0109】
本発明の標識物質存在部(B)の構成では、試料添加後2分で呈色バンド形成の有無は明瞭となり、5分後においても判定パターンに全く変化は認められなかったが、比較例の構成(図3のa、b、c)では、いずれも試料添加後2分では呈色バンド形成の有無は不明瞭であり、経時的に呈色バンドは明瞭となっていくが、本来呈色バンドが形成されないはずの検出部においても、わずかな呈色バンドあるいは明瞭な呈色バンドが認められた。
【0110】
上記の如く、本法の判定パターンは極めて明瞭であり、かつ精度の高いものであった。
【0111】
【発明の効果】
本発明の方法又は装置によれば、イムノクロマト法による定性又は定量(半定量)分析において、分析対象物を含む試料と分析対象物を検出するための標識物質を同期してクロマト材上を移動させて短時間に明瞭かつ確実なアッセイ結果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の標識物質存在部(B)の構成を持つ半定量装置を示す図である。
【図2】本発明の特徴部分である標識物質存在部(B)の拡大図である。
【図3】従来の半定量装置の標識物質存在部(B)の構成を示す図である。
【符号の説明】
A:試料添加部
B:標識物質存在部
C:検出部
D:吸収部
a:試料添加部(A)を構成する部材
b:標識物質含有部材
d:吸収部(D)を構成する部材
e:支持体
f:両面粘着テープ
イ)及びロ):粘着部
g:クロマト材
i:標識物質溶出促進部材
Claims (8)
- クロマト法による免疫化学的定性又は定量(半定量)分析であって、分析対象物を含む試料により判定の指標となる標識物質が溶解されて分析対象物及び標識物質がクロマト材上の判定結果を読み取る部位(検出部)まで移動し、視覚により分析結果を判定することを含むアッセイ方法において;
標識物質を含有する部材(以下、標識物質含有部材という)に、平均流孔径が30〜50μmであり且つ標識物質含有部材と同等又はそれ以上の目の粗さをもつ標識物質の溶出を促進する素材からなる部材(以下、標識物質溶出促進部材という)を積層し、さらに試料添加部を構成する部材(以下、試料添加部材という)の一端を標識物質溶出促進部材に接触させ、且つ他の一端を標識物質含有部材が存在する部位(以下、標識物質存在部という)よりも上流側の部位でクロマト材に接触させる、ことを特徴とする免疫化学的簡易アッセイ方法。 - 標識物質溶出促進部材と標識物質含有部材が同一の素材からなることを特徴とする請求項1に記載の方法。
- 標識物質溶出促進部材及び標識物質含有部材がボロシリケート・グラスファイバーであることを特徴とする請求項2に記載の方法。
- 標識物質含有部材が標識物質溶出促進部材に上下から挟まれてなることを特徴とする請求項1に記載の方法。
- 分析対象物が完全抗原又はハプテンである請求項1に記載の方法。
- 分析対象物がエストロゲン又はプレグナンジオールである請求項5に記載の方法。
- 分析対象物がhCGである請求項5に記載の方法。
- 分析対象物を含む試料を添加するための試料添加部(A)、標識された分析対象物に対する特異的結合物質又は標識された分析対象物又はその化学的変性物(標識物質)がクロマト移動しうる状態で存在する標識物質存在部(B)、分析対象物に特異的に結合しうる物質が固定化されて存在する1又は2以上の検出部(C)及び添加された試料及び検出部(C)に結合されない標識物質を吸収除去する吸収部(D)を含むクロマト法による免疫化学的簡易定性又は定量(半定量)分析装置において;
標識物質存在部(B)を構成する標識物質含有部材(b)に、平均流孔径が30〜50μmであり且つ標識物質含有部材(b)と同等又はそれ以上の目の粗さをもつ標識物質の溶出を促進する素材からなる標識物質溶出促進部材(i)を積層し、さらに試料添加部材(a)の一端を標識物質溶出促進部材(i)に接触させ、且つ他の一端を標識物質存在部(B)よりも上流側の部位でクロマト材(g)に接触させてなることを特徴とする免疫化学的簡易アッセイ装置。
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