JP3547492B2 - 偏波共用アンテナ - Google Patents

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
この発明は移動通信や構内無線などに利用されるアンテナなどに関する。
【0002】
【従来の技術】
移動通信や構内無線において、電波伝搬の経路途中に、屋外においては建物などの構造物による反射や散乱、屋内においては壁、床、天井からの反射や事務機器などによる散乱が常時発生しており、送信電波の特性が著しく変化する要因が非常に多く存在する。ここで特に問題となるのは、送信電波の偏波特性が劣化してしまうことである。例えば、直線偏波の場合、垂直偏波で送信していても反射や散乱により交差偏波成分(この例では水平偏波成分)が発生し、偏波特性が劣化する。また、円偏波の場合、例えば送信側で右旋円偏波を出していても、反射があった場合には偏波成分が反転し、左旋円偏波成分に変化してしまい、右旋円偏波成分は無くなってしまうようなことが生じる。このような状況において、受信アンテナがいくら偏波特性の良いものでも、送られてくる電波の偏波が変化してしまっていれば良い受信特性は得られない。この他、受信アンテナが移動体用や携帯用であった場合には、送られてくる電波の偏波と受信アンテナの偏波を一致させることは現実的には難しい。この場合にも、やはり、いくら良い偏波特性の受信アンテナを用いても良い受信特性は得られない。
【0003】
このような問題を解決する手段として、従来方式として偏波ダイバーシティ方式が提案されている。図16にその概念図を示す。偏波ダイバーシティでは、直交する二つの偏波成分の電波を個々に受信するアンテナ1,2を設ける。例えば、ここでアンテナ1を垂直偏波成分を受信するアンテナ、アンテナ2を水平偏波成分を受信するアンテナとする。いま、仮に、入射する電波が垂直偏波であればスイッチ3をA側に、入射する電波が水平偏波であればスイッチ3をB側に接続することにより、二つの直交偏波の受信が可能になる。しかし、この場合の問題は、入射する電波が水平、垂直の二つの成分を同等にもつもの(垂直から45度傾いた直線偏波や円偏波の場合がそうである)である場合、スイッチによりどちらか一方の成分しか選択できない訳であるから、受信電力の半分が損失となってしまうことになる。この場合、受信効率の劣化が生じる。このような問題を避けるためには、予測される電波の偏波に対応するアンテナを全て設けなければならず、アンテナが非常に大きな複雑なものになってしまう懸念がある。この他に、偏波ダイバーシティは、常に各偏波成分の受信強度をモニターし、一番大きな受信強度をもつ偏波成分を選択するような制御系を構成することが必要であり、アンテナ(受信機)全体の構成が複雑になる問題がある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
以上述べたように、反射や散乱がよく発生している状況で利用される受信用のアンテナにおいて、送られてくる電波の偏波特性の劣化に対処する方法として、偏波ダイバーシティ方式が従来から用いられているが、この方式では受信効率が悪くなったり、アンテナが大きくなったり制御系が複雑になる問題点があった。本発明では、以上の問題点を解決し、制御が簡単な方式により、どのような偏波成分をもつ電波が送られてきても常に効率良く受信できるアンテナを提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するため、本願の第1発明の偏波共用アンテナは、複数のアンテナ素子より構成され、前記複数のアンテナ素子は異なる偏波成分の電波を受信可能なものであり、前記複数のアンテナ素子の中のどれかを参照アンテナとし、前記複数のアンテナ素子の中で前記参照アンテナ以外のアンテナ素子はPLL回路に接続され、前記PLL回路では前記参照アンテナにより受信された電波から生成される参照信号と同相になるように各アンテナ素子の受信電波の位相を変化させ、合成器により前記複数のアンテナ素子の受信電波を合成したことを特徴とする。
【0006】
そして、この第1発明の偏波共用アンテナにおいて、第1の従属的技術は、前記複数のアンテナ素子により受信された電波が、各々乗算器に接続され、前記乗算器において局部発振器からの搬送波と各アンテナにおいて受信された電波を乗算し、前記乗算器からの乗算出力信号をPLL回路に入力したことを特徴とする。
【0007】
第2の従属的特徴は、前記複数のアンテナ素子は、直交する偏波を同時に受信するものであることを特徴とする。
【0008】
第3の従属的特徴は、前記アンテナ素子として、平面アンテナを用いたことを特徴とする。
【0009】
第4の従属的特徴は、前記PLL回路から位相信号を取り出し、この信号から移相器を制御する信号を生成し、前記移相器は送信用に設けられた複数のアンテナ素子間に位相差を与えるものであることを特徴とする。
【0010】
第5の従属的特徴は、複数のアンテナ素子より構成され、前記複数のアンテナ素子は異なる偏波成分の電波を受信可能なものであり、前記複数のアンテナ素子において受信した同じ偏波成分の受信信号を合成器により合成し、前記合成器の出力の一つから参照信号を生成し、前記合成器の他の出力はPLL回路により前記参照信号と位相を同期させ、前記合成器からの出力信号を合成器により合成したことを特徴とする。
【0011】
本願の第2発明の偏波共用アンテナは、複数のアンテナ素子より構成され、前記複数のアンテナ素子は異なる偏波成分の電波を受信可能なものであり、前記複数のアンテナ素子の中のどれかを参照アンテナとし、前記複数のアンテナ素子の中で前記参照アンテナ以外のアンテナ素子はPLL回路に接続され、前記PLL回路では前記参照アンテナにより受信された電波から生成される参照信号と同相になるように各アンテナ素子の受信電波の位相を変化させ、この同相になった信号をハイブリッド回路に入力し、前記ハイブリッド回路の出力信号の一つから第二の参照信号を生成し、前記ハイブリッド回路の他の出力は第二のPLL回路に入力され、前記第二のPLL回路では前記第二の参照信号と同相になるように前記ハイブリッド回路の出力信号の位相を変化させ、前記ハイブリッド回路からの出力信号を合成器により合成したことを特徴とする。
【0012】
そして、この第2発明の偏波共用アンテナにおいて、第1の従属的特徴は、前記参照アンテナは、異なる偏波成分を受信する複数のアンテナ、もしくは異なる偏波成分を同時に受信するアンテナで構成することを特徴とする。
【0013】
第2の従属的特徴は、前記参照アンテナは、異なる偏波成分を受信する複数のアンテナ、もしくは異なる偏波成分を同時に受信するアンテナで構成され、前記異なる偏波成分の受信信号の中の信号強度の大きいものから参照信号を選択するスイッチを設けたことを特徴とする。
【0014】
【作用】
本願の第1発明の偏波共用アンテナでは、複数のアンテナ素子を設け、このアンテナが異なる偏波成分を受信することができる。各アンテナ素子はPLL(Phase Lock Loop )回路に接続されており、このPLL回路を参照アンテナの受信電波の位相を参照信号として動作させることにより、各アンテナで受信した電波を参照アンテナの受信電波の位相と同相にすることができる。ここで、この同相になった各アンテナ素子および参照アンテナの受信電波を合成器により合成することにより、効率良く電波を受信することができる。
【0015】
本願の第2発明の偏波共用アンテナでは、本願の第1発明の偏波共用アンテナと同様に、PLL回路を参照アンテナの受信電波の位相を参照信号として動作させることにより、各アンテナで受信した電波を参照アンテナの受信電波の位相と同相にすることができ、更に、この同相になった信号をハイブリッド回路に入力し、ハイブリッド回路の出力信号の一つから第2の参照信号を生成し、また、そのハイブリッド回路の他の出力は第二のPLL回路に入力され、ハイブリッド回路からの二つの出力信号は常に同相、同振幅になるので、受信効率を無駄無くなるように合成することができる。
【0016】
【実施例】
本発明の実施例を以下に図面を用いて説明する。
【0017】
図1は、本発明の実施例である偏波共用アンテナの構成を示す図である。この偏波共用アンテナは二つのアンテナ素子21,22で構成され、この二つのアンテナ素子は違う偏波の電波を受信するものとする。例えば、どちらのアンテナも直線偏波の電波を受信し、図2に示すように垂直偏波(V偏波)、水平偏波(H偏波)の各々の方向から45度傾いた方向で、互いに直交する成分の偏波で動作するものとする。アンテナ素子としては、同じように動作するアンテナを直交した偏波に対応するように配置(具体的には空間的に90度回転して配置)すればよい。アンテナの方式としては、どのようなものを用いてもよいが、その一例として、マイクロストリップアンテナを用いた例を図3に示す。ここで、裏面に導体膜(地導体)をもつ誘電体基板50の上面に方形パッチ51,53を導体膜により形成し、この方形パッチ51,53をマイクロストリップ線路52,54で図3のように給電することにより、図2に示すような偏波成分で動作するアンテナが形成できる。ここで方形パッチ51はアンテナ素子21、方形パッチ5はアンテナ素子22に各々対応する。このようなマイクロストリップ系の平面アンテナを用いることにより、アンテナを小型・薄型化できる。
【0018】
次に図1に示した給電回路の構成、動作について説明する。アンテナ素子22を参照アンテナとし、このアンテナ素子に周波数変換器24を接続し、アンテナ素子22で受信した偏波の電波は周波数変換される。また、アンテナ素子21にはPLL(Phase Lock Loop :位相同期ループ)回路23が接続される。PLL回路23では、周波数変換されたアンテナ素子22での受信電波を参照信号として、この信号の位相とアンテナ素子21で受信された電波の位相が一致するようにループ回路が動作するものである。この結果、アンテナ素子21,22で受信した電波は同相になり、合成器25でこの二つの電波を合成することにより二つの受信電波がお互いに強め合うかたちで合成されることになる。ここで合成器は二つのアンテナ素子からの電波を同じ比で合成する。アンテナに入射する電波の偏波の条件により、本発明の偏波共用アンテナは次のように動作する。
【0019】
[1]入射電波が直線偏波であり、V偏波もしくはH偏波である場合:
この場合には、アンテナ素子21,22で受信された電波は、その振幅が同じであり、この位相差が0度(V偏波入射の場合)もしくは180度(H偏波入射の場合)となる。この位相差がPLL回路により同相になるので、二つのアンテナ素子からの電波は同相合成され、電波の受信強度、S/N比は向上する。
【0020】
[2]入射電波が円偏波の場合:
入射電波が右旋円偏波、左旋円偏波のどちらの場合にも、アンテナ素子21,22で同振幅の電波が受信され、その位相差は90度となる。上記の場合と同様に、この位相差はPLL回路により同相となり、二つのアンテナ素子からの電波は同相合成され、電波の受信強度、S/N比は向上する。
【0021】
以上説明したように、本発明の偏波共用アンテナは、円偏波、直線偏波(V,H偏波)の受信のどちらにも利用できる。従って、以下のような効果が期待できる。
【0022】
・本発明の偏波共用アンテナは、直線偏波、円偏波の共用アンテナとして利用できる。例えば、わが国では放送衛星(BS)による衛星放送が円偏波であり、通信衛星(CS)による衛星放送が直線偏波を用いている。ここに本発明の偏波共用アンテナを用いれば、ただ一つのアンテナにより直線偏波も円偏波も受信可能となり、経済性の点で非常に効果が大きいと言える。
【0023】
・移動通信は円偏波を用いていることが多いが、屋外の環境での通信を行う場合に建物などによる反射、散乱の影響を受けやすい。ここで問題となるのは、円偏波の場合は反射などにより偏波方向が逆転してしまう現象が起き、アンテナを正偏波だけで動作するものを用いていると、ビル影などの反射波しか受信できない場所では送信電波を受信することができない。しかし、本発明のアンテナでは、円偏波の偏波方向に関係なく電波を受信でき、移動通信などで使われる反射、散乱など電波伝搬環境の悪い場所でも良好な受信特性が得られるので、非常に有効である。
【0024】
・PLL回路は、自動的の同相合成を行い、同相合成のための制御系の必要も無い。従って、アンテナ構成が簡単になり、低コスト化、製造工程の簡単化などの点で好都合である。
【0025】
図1で示した実施例において、次のような変更を行っても本発明の効果は同じである。
【0026】
・参照アンテナとして、どちらの偏波を受信するアンテナを選択しても、全く動作および効果は同じである。
【0027】
・アンテナ素子の動作する偏波方向は、受信する電波の偏波方向に関係する。一般的には、受信する電波の直交する偏波成分に対して45度傾いた方向に二つのアンテナ素子の動作させる偏波方向を選べばよい。また、左旋、右旋の二つの円偏波成分だけを共通に受信するだけでよい場合には、二つのアンテナ素子の偏波方向は互いに直交していればどのような方向の偏波を選んでもよい。
【0028】
・参照信号を増幅するための増幅器を設けてもよい。この場合、アンテナ素子22で受信した電波の電力レベルを低下させることなく、参照信号を抽出することができるので、受信強度の劣化が少なく有効である。
【0029】
・図3のように、直交する偏波に対応するアンテナ素子を別々に設けるのではなく、一つのアンテナから二つの偏波成分を取り出すような構成にしても構わない。図4には、その例を示す。ここで、地導体をもつ誘電体基板58の上面に方形パッチ55を構成し、給電線路56,57を図のように設ける。このような構成にすることにより、給電線路56においてはアンテナ素子22に対応する偏波成分、給電線路57においてはアンテナ素子21に対応する偏波成分が各々受信できる。このような構成により、アンテナが半分の大きさになる。言葉を換えると、受信効率が大きくできる。アンテナの小型化、高利得化に対して効果が大きい。
【0030】
・二つの偏波を同時に受信するアンテナの例として、図5、図6に示すような近接結合型アンテナを用いてもよい。図5には断面図、図6には上面図を各々示す。ここでアンテナは、誘電体基板60,61を積層して構成され、誘電体基板60の上面には放射素子62、下面にはマイクロストリップの給電線路63,65、誘電体基板61の下面には地導体64を設ける。図6に示すように、給電線路63,65を互いに垂直な方向から給電することにより、二つの偏波の同時受信が行える。このようなアンテナは、誘電体基板をただ重ねるだけでよく、層間で線路を接続する必要もないので、製作が容易である。また、図3、図4で示した方式に比較してアンテナの整合が比較的簡単にとれるので、反射損失のないアンテナを簡単につくることができる。
【0031】
・同様に、図7、図8、図9に示すようなスロット結合給電型アンテナを用いてもよい。図7には断面図、図8には上面図、図9にはスロットと給電線路の様子を各々示す。ここでアンテナは、誘電体基板66,67を積層して構成され、誘電体基板66の上面には放射素子68、下面には地導体71を設け、そこにスロット69,70を切る。誘電体基板67の下面には給電線路72,73を図9に示すように設ける。このような構成により、二つの偏波の同時受信が行える。上記アンテナと同様に、誘電体基板をただ重ねるだけの簡単な方法で製作可能であり、スタブなどを簡単に構成できるため整合も簡単にとれる、地導体を境にしてアンテナと給電線路を分離でき、給電系の構成、例えばアクティブデバイスなどを組み入れる場合に都合がよい。
【0032】
・図1では受信の場合のみを考えた構成を示したが、本発明の偏波共用アンテナは送受共用する場合にも応用できる。図10には、その場合の構成例を示す、直交する偏波成分の送受信を行うアンテナ素子21,22には分波器40が接続され、受信と送信が分離される。ここで受信回路43は、図1で示した回路と構成、動作が同じであり、自動的に二つの偏波成分の同相合成を行う。このときに、二つのアンテナの受信電波にどのような位相を与えれば同相合成されるかは、PLL回路より情報が得られる。例えば、後述するようなPLL回路の構成では、ループフィルタ出力やVCO(電圧制御発振器)の出力周波数(位相)が設定する位相に対応する情報となる。これを位相信号として、送信回路45への入力信号として出力させる。送信回路45では、二つのアンテナへ電波を分配する分配器に所定の位相差をつけて送信するように、どちらかのアンテナに対して移相器44を接続する。移相器44を制御する信号(制御電圧など)は、受信回路からの位相信号を信号変換器46により変換された信号を用いる。信号変換器46は、例えばループフィルタからの出力電圧を移相器への制御電圧に変換するようなものを考えればよい。ここで、先に述べたように、受信した偏波と同じ偏波を合成するためには、二つのアンテナ素子から放射される偏波成分の間の位相差を0度、±90度、180度のどれかに設定できればよいことになる。つまり、移相器は2ビットで動作する簡単な構成のもので十分である。以上のような構成により、送受において、直線偏波、円偏波のどちらにも対応できる偏波共用アンテナが実現できる。ここで、移相器などによる挿入損失を補償するために増幅器などが組み入れられても構わない。
【0033】
・本発明の偏波共用アンテナはアレー化が可能であり、その構成例を図11に示す。ここでアンテナ素子81,82,83,84は直交する直線偏波成分が同時に受信できる方式であり、給電点85,87,89,91で同一の偏波成分、給電点86,88,90,92で先の偏波に直交する同一の偏波成分が受信できるものとする。各偏波成分を合成器93,94で各々合成する。合成後の各偏波成分は、図1の構成と同様に、一方の偏波成分は周波数変換器24に接続され、PLL回路への参照信号を生成し、もう一方の偏波成分はPLL回路23に接続され、参照する偏波成分に位相が同期される。この後、合成器25により二つの偏波成分が同相合成される。このような構成により直線偏波、円偏波を共用するアンテナが実現でき、アレー化により受信利得を向上させることができる。
【0034】
・図1の構成例では、参照アンテナに周波数変換器を接続し、他の出力をPLL回路の参照信号としているが、PLL回路の方式によっては参照アンテナで受信した信号をそのまま参照信号としても本発明の効果は同様である。この場合周波数変換器は省略できる。
【0035】
図1により本発明の基本的な動作原理および構成について述べた。次に、より具体的かつ詳細な構成について述べる。
【0036】
図12は、本発明の実施例を示す偏波共用アンテナのより具体的かつ詳細な構成を示す図である。アンテナ素子の方式については具体的な方式などについて前述しているので、ここでは回路部分の詳細について説明する。二つのアンテナ素子21,22については前述のとおりである。ここで各アンテナには挿入損失などによる雑音特性の劣化を防ぐため最初にLNA26を各々接続する。次に、帯域通過フィルタ27を接続し、受信した電波の周波数成分の中で所望の成分だけを取り出す。次にミクサ28を接続し、局部発振器30からの搬送波と受信信号の乗算を行い、受信信号をIF(中間周波数)帯に下げる。このように受信信号の周波数を下げることにより、これ以降の回路構成が低損失、低コストかつ簡単に構成することが可能になる。ミクサ28の直後には、イメージの周波数成分を取り除くためのフィルタ29(このフィルタは帯域通過フィルタでもローパスフィルタでも構わない)を接続し、更にIF帯での信号増幅を行うためのLNA31を接続する。この後の受信信号は、図1で説明したように、一方の偏波成分は周波数変換器24、もう一方の偏波成分はPLL回路23に接続され、合成器25において同相合成される。周波数変換器24は、局部発振器37、ミクサ38、フィルタ39により構成され、前段でIF帯への変換を行ったのと同じように周波数変換する。PLL回路23においては、VCO(電圧制御発振器)34の搬送波と受信信号がミクサ32において乗算され、その乗算出力をフィルタ33により取り出す。ここで、VCOを制御することにより、乗算出力の位相が周波数変換器の出力の位相と同じになるようにする。そのため、周波数変換器24の出力の一部を参照信号として取り出し、この参照信号の位相と乗算出力の位相を位相比較器36により比較し、位相比較器36からの出力信号をループフィルタ35に入力することにより、VCO34を駆動するための電圧出力を生成する。このループ系は、二つの信号の位相が同じになった場合に定常状態となる。仮に、アンテナに入射する偏波方向が変化しても、PLL回路により自動的に同相合成されることになる。
【0037】
本発明の効果は先に述べたとおりであるが、図12に示したような構成においては更につぎのような効果が期待できる。
【0038】
・最初の段階で、共通の局部発振器30の搬送波をもとに周波数変換することにより、回路構成を簡単化できる。低コスト化などの点で都合が良い。
【0039】
・ここで、局部発振器30が周波数を変化できるもの(例えばVCOにする)にすることにより、チューニング機能を付加することができる。このような構成にすることにより、複数のチャネルから所望のチャネル成分を取り出すことができ、そのチャネルの周波数において最適な同相合成ができるので、特性と実用の両方の点で都合が良い。また、PLL回路を狭帯域で動作させるようにすればよいので、その回路構成が簡単になり、動作も早くなる利点もある。
【0040】
ところで、図1に示した本発明の実施例では、入射する電波と二つのアンテナ素子で受信できる偏波成分の関係が図2のようになっており、二つのアンテナ素子で受信できる電波の振幅値が同じである必要があった。この理由は、合成器における合成比を1:1としているからであり、もしここで二つの電波の実際の振幅が1:1になっていなければ(図2の例では入射電波の偏波方向がV偏波もしくはH偏波にはなっていない場合がそうである)、その振幅の差に対応する量が無駄となってしまう(S/N比が十分とれなくなってしまう)。このような場合、二つのアンテナにおける受信電力比に応じて合成器の合成比を設定できればよいが、入射波が任意の場合にはこの合成比を最適に設定したり、調整することは困難である。このような問題点を解決する手段として、以下に本発明の第二の実施例を示す。
【0041】
図13は本発明の第二の実施例を示す偏波共用アンテナの構成を示す図である。二つの互いに直交する偏波成分の受信が行えるアンテナ素子101,102を設ける。ここで直交する偏波成分は、直線偏波における直交する偏波成分であってもよいし、右旋と左旋の円偏波でもよい。また、先の実施例で示したように、二つの偏波成分を同時に受信できるアンテナ方式を利用しても構わない。この二つのアンテナ素子のうちの片方のアンテナを参照アンテナとする(図13ではアンテナ素子102)。この参照アンテナは、周波数変換器103に接続され、周波数変換される。この周波数変換された信号の一部はPLL回路への参照信号となる。もう一方のアンテナ素子101にはPLL回路104が接続され、参照アンテナ側の参照信号の位相と同期するようにループ回路が動作する。この結果、二つのアンテナ素子からの受信電波は同じように周波数変換され、同相となっている。これらの信号をハイブリッド回路105に接続する。ハイブリッド回路としては、マイクロストリップ線路を用いた方式がアンテナ全体の小型化、薄型化に都合良く、具体的にはブランチライン型、ラットレース型、1/4波長分布結合型などが利用できる。このハイブリッド回路の動作は、同相で入力された二つの信号から等振幅な二つの信号を出力することであり、同様な動作をするものであれば他のものを用いてもよい。ハイブリッド回路により、同相で入力された二つの信号から等振幅な二つの信号を出力することのできる理由については次のとおりである。ハイブリッドを90度ハイブリッドとして、二つの入力信号の位相成分が零であり、その振幅がa,bである(a,bは実数である)とする。この場合、二つの出力成分は、(a+jb)/√2、(ja+b)/√2となり(ここでj=(−1)1/2 )、この二つの出力信号は同振幅になる。ただ、この二つの出力信号には入力の振幅差に応じた位相差が生じるので、更にPLL回路を用いて同相合成する。つまり、ハイブリッド回路105の二つの出力の一方に周波数変換器107を接続し、その出力の一部を参照信号として取り出し、また、もう一方の出力に対してはPLL回路106を接続し、参照信号の位相を同期させる。このこの結果、二つの信号は常に同相、同振幅になる。この二つの信号を合成比1:1の合成器108により合成することにより、受信効率を無駄無くなるように合成することができ、S/N比を向上できる。なお、ここで周波数変換器やPLL回路の具体的構成については、図12で示したものが利用できる。
【0042】
本発明の第二の実施例では、二つのアンテナ素子で受信する偏波成分が直交していれば(直線偏波でも円偏波でもよい)、いかなる電波が到来しても受信が行える。具体的に示すと以下のようになる。
【0043】
[1]二つのアンテナ素子の受信強度が十分ある場合:
入射電波とアンテナ素子の偏波の関係が、図2に示したような場合や図2の場合から入射電波の偏波方向がずれても二つのアンテナ素子の受信強度が十分な場合については、図13の初段、次段のPLL回路とも正常に動作するので、前述したように同相、同振幅合成が行える。従って、十分な受信強度が得られる。
【0044】
[2]入射電波の偏波がどちらかのアンテナ素子の偏波と完全に一致した場合:この場合、アンテナ素子のどちらか一方の受信強度が零となるためにPLL回路が動作せず、位相同期されないことになる。しかし、PLL回路を通過した信号の位相は不安定となるのではなく、位相が零か最大値に落ち着く(VCOを制御する電圧が最大値が最小値になるので)ことになる。この場合、ハイブリッド回路への入力の一方が零となるが、ハイブリッド回路の出力以降は正常に動作する。従って、このような場合にも受信効率を劣化することなく受信が行えることになる。
【0045】
以上説明したように、本発明の偏波共用アンテナは、円偏波であろうが、直線偏波であろうが、その偏波の方向がどうであろうが、良い受信効率での受信が行える。最初の実施例で示したような効果は当然期待でき、更に以下のような効果も考えられる。
【0046】
・移動通信や構内無線などのように、電波の伝搬経路上に電波を反射させたり、散乱させたりするものがあり、送信電波の偏波成分が変化してしまった場合にも、本発明の偏波共用アンテナは効率良く電波の受信が行える。偏波ダイバーシティのように、どちらか一方の偏波の受信電力を切り落とすことによる電力の損失、S/Nの劣化が無い。違う見方をすれば、より小さなアンテナで所定の受信強度、S/N比が達成できるので、移動体用や携帯用の受信アンテナとして非常に有効である。
【0047】
・携帯用アンテナなどでは、受信アンテナの偏波を正しい方向に向け、常に固定する必要があったが、本発明の偏波共用アンテナはどのような偏波でも受信可能であり、たとえアンテナが動いていてもその動きに伴いPLL回路が同相合成の状態を自動的に追随していくので、非常に便利である。偏波合わせなどの煩わしさが無く、受信レベルの劣化に悩まされることも無いので、携帯用アンテナなどへの応用に非常に効果的である。
【0048】
・あらゆる偏波の受信に対応できるので、本発明の偏波共用アンテナは使用する偏波の違う複数の無線システムに共通に利用することが可能である。従って、経済的な点で有効であると言える。
【0049】
・本発明の偏波共用アンテナでは、送信側のアンテナの交差偏波特性が悪い場合でも良好な受信特性が得られる。従って、一般的な無線システムを構築する場合に、送信アンテナの偏波特性を厳密に実現する必要が無い。このため、システムの低コスト化に有効であると言える。
【0050】
本発明の第二の実施例において、先の実施例で示したような変更を行っても本発明の効果は同じである。また、本発明の第二の実施例の偏波共用アンテナをアレー化する場合の構成として、以下のような例が考えられる。
【0051】
図14には、第二の実施例の偏波共用アンテナをアレー化した場合の構成の例を示す。複数のアンテナ素子111,112,113,114は直交する偏波成分を同時に受信可能なアンテナであり、給電点115,117,119,121において一方の偏波成分、給電点116,118,120,122において直交するもう一方の偏波成分を各々受信する。このアンテナ素子の中でアンテナ素子114を参照アンテナとする。参照アンテナ114の給電点121,122からの受信信号は各々周波数変換器129,130により周波数変換される。この二つの信号はスイッチ131に入力され、スイッチ131において二つの信号の中の大きな振幅成分をもつものを選択する。この選択された信号を参照信号とする。他のアンテナ素子の給電点115,116,117,118,119,120からの受信信号は各々PLL回路123,124,125,126,127,128に入力し、各PLLL回路では参照信号の位相に各アンテナ素子の各偏波の受信電波の位相を同期させる。ここで、参照信号は参照アンテナの二つの偏波成分の大きい方を用いているので、参照信号が弱いためにPLL回路がうまく動作しないというようなことを防止することができる。更に、参照信号を増幅器を用いて増幅することにより、PLL回路の動作をより確実にすることも可能である。PLL回路123,124,125,126,127,128からの出力信号は、全て同相になっている。この出力信号は、同じ偏波成分毎に合成器132,133により合成される。各合成器においては、入力する信号強度が同じであるので、同じ合成比の合成器を用いる。合成器132,133の出力信号をハイブリッド回路134を入力する。ハイブリッド回路134の二つの出力信号は、図13の例の場合と同様、振幅が同じで、入力信号の振幅差に応じた位相差をもっている。この信号を同相にするために、一方の受信信号には周波数変換器136を接続し、もう一方の受信信号には周波数変換器136からの出力を参照信号とするPLL回路135を接続する。この結果、二つの信号は同相、同振幅になり、これを合成器137により合成する。
【0052】
以上のような構成、動作によって、複数のアンテナ素子において偏波毎に受信された受信信号を互いに強め合うようなかたちで同相合成することが可能になる。アンテナ利得を高くとれるのでS/N比が上がり、遠方からの信号を受信する場合に都合が良い。特に、移動体衛星通信などのように、微小の電波が電波環境の悪い中を伝搬してくるような場合に有効である。また、図14のように本発明の第二の実施例の偏波共用アンテナをアレー化することにより、到来電波がどの方向から来ても常に同相合成され、自動的にアンテナの放射指向性を到来電波の方向へ向けていることになる。従って、移相器などを新たに接続する必要がなく、電子ビーム走査アンテナを簡単に実現でき、非常に有効的である。
【0053】
アレー化の構成方法として、図15のような構成例も考えられる。複数のアンテナ素子201,202,203,204は直交する偏波成分を同時に受信可能なアンテナであり、各アンテナの二つの給電点(アンテナ素子201の給電点205,206、アンテナ素子202の給電点207,208、アンテナ素子203の給電点209,210、アンテナ素子204の給電点211,212は各々互いに直交する偏波成分を受信できるものとする。各アンテナ素子の給電点の一方にはPLL回路213,215,217,219、もう一方の給電点には周波数変換器214,216,218,220が図示するように接続され、PLL回路からの出力信号は周波数変換器からの参照信号の位相に同期される。これらの信号は各々アンテナ素子単位でハイブリッド回路221,222,223,224に接続され、ここからの出力は全て同振幅となる。これらの信号を同相にするために、その一つの信号は周波数変換器232,で周波数変換し、この信号を参照信号として他の信号に対応するPLL回路225,226,227,228,229,230,231を動作させる。この結果、全ての信号は、同相、同振幅となり、これを合成器233により合成する。
【0054】
以上のような構成、動作によって、前述のアレー方式と同様、複数のアンテナ素子において偏波毎に受信された受信信号を互いに強め合うようなかたちで同相合成することが可能であり、アンテナの高利得化、S/N比の向上がはかれる。前述のアレー方式と同様の効果が期待できることの他に、この方式では全てのアンテナの全ての偏波成分出力が同相合成に寄与する(図14では参照アンテナの受信信号は同相合成されない)ので、アンテナの高利得化に対してより効果的である。
【0055】
【発明の効果】
以上のような構成により、電波伝搬途中で偏波特性が変化してしまうことが考えられる移動通信や構内無線においても、受信効率の高い受信アンテナをつくることができる。また、本発明のアンテナは、受信アンテナの偏波を送信されてくる電波の偏波と合わせて固定するようなことが全く不要であり、移動体や携帯用アンテナなどのように移動、持ち運び、端末が常に動いているような状況が考えられる用途において非常に有効である。ここでPLL回路は参照信号をもとに全く自動的に動作するので、制御系が簡単になり、受信アンテナを操作する側の煩わしさなどが全く存在しない。この他、本発明のアンテナは、直線偏波を使う無線システムでも、円偏波を使うシステムでも関係なく利用することができ、一つの受信アンテナで異なるシステムに対して共通に利用することができるので、経済的な点でも非常に効果的である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例を示す偏波共用アンテナの構成を示す図。
【図2】本発明の実施例におけるアンテナ素子と到来電波の偏波方向の関係を示す図。
【図3】本発明の実施例におけるアンテナ素子の構成を示す図。
【図4】本発明の実施例におけるアンテナ素子の構成を示す図。
【図5】本発明の実施例におけるアンテナ素子の構成を示す断面図。
【図6】本発明の実施例におけるアンテナ素子の構成を示す上面図。
【図7】本発明の実施例におけるアンテナ素子の構成を示す断面図。
【図8】本発明の実施例におけるアンテナ素子の構成を示す上面図。
【図9】本発明の実施例におけるアンテナ素子の構成を示す上面図。
【図10】本発明の実施例における偏波共用アンテナの送受共用化の構成を示す図。
【図11】本発明の実施例における偏波共用アンテナのアレー化の構成を示す図。
【図12】本発明の実施例を示す偏波共用アンテナの構成の詳細を示す図。
【図13】本発明の第二の実施例を示す偏波共用アンテナの構成を示す図。
【図14】本発明の第二の実施例における偏波共用アンテナのアレー化の構成を示す図。
【図15】本発明の第二の実施例における偏波共用アンテナのアレー化の構成を示す図。
【図16】従来における偏波共用アンテナの構成を示す図。
【符号の説明】
1,2,21,22,81,82,83,84 アンテナ素子
3 スイッチ
23 PLL回路
24 周波数変換器
25,45,93,94 合成器
40 分波器
44 移相器

Claims (1)

  1. 複数のアンテナ素子より構成され、前記複数のアンテナ素子は異なる偏波成分の電波を受信可能なものであり、前記複数のアンテナ素子の中のどれかを参照アンテナとし、前記複数のアンテナ素子の中で前記参照アンテナ以外のアンテナ素子はPLL回路に接続され、前記PLL回路では前記参照アンテナにより受信された電波から生成される参照信号と同相になるように各アンテナ素子の受信電波の位相を変化させ、この同相になった信号をハイブリッド回路に入力し、前記ハイブリッド回路の出力信号の一つから第二の参照信号を生成し、前記ハイブリッド回路の他の出力は第二のPLL回路に入力され、前記第二のPLL回路では前記第二の参照信号と同相になるように前記ハイブリッド回路の出力信号の位相を変化させ、前記ハイブリッド回路からの出力信号を合成器により合成したことを特徴とする偏波共用アンテナ。
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