JP3540316B2 - アルミニウム−リチウム合金の機械的特性の改良 - Google Patents

アルミニウム−リチウム合金の機械的特性の改良 Download PDF

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Description

技術分野
本発明は、溶体化熱処理された精錬製造物を、時効の前に一連の多段階引伸し法(multiple step stretching sequence)を施すことによる、アルミニウム−リチウム合金の精錬製造物の機械的特性の改良に関する。
背景技術
多数の産業において、例えば航空産業では、航空機の重量を減少させる効果的な方法の一つは、航空機の建造に使用されるアルミニウム合金の密度を減少させることである。アルミニウム合金の密度がリチウムの添加によって減少できることは、この分野で知られている。しかしながら、アルミニウムを主成分とした合金中のリチウムは他の問題を引き起こす。例えば、アルミニウム合金へのリチウムの添加は、延性や破壊靱性の減少を生じることがある。航空機の構造部材としての使用には、どの合金も優れた破壊靱性と強度特性を持つことが明らかに要請される。
様々なアルミニウム−リチウム合金がアルミニウム協会に登録されている。例えば、1990年に登録されたAAX2094合金とAAX2095合金とは、銅、マグネシウム、ジルコニウム、銀、リチウム、の合金元素と不可避な不純物を含むものである。
1991年7月16日に特許された、Pickens等の米国特許第5,032,359号は、高い強度、高い延性、低い密度、良好な溶接性および良好な常温時効応答性をもつ改良されたアルミニウム−銅−リチウム−マグネシウム−銀合金を開示している。一般には、これらの合金は、本質的に、銅、マグネシウム、または、それらの混合物の2.0〜9.8重量%の合金元素からなり、0.01重量%以上のマグネシウムに、約0.01〜2.0重量%の銀と、0.05〜4.1重量%のリチウムと、ジルコニウム、クロム、マンガン、チタン、ホウ素、ハフニウム、バナジウム、二ホウ化チタン、またはそれらの混合物などの1.0重量%未満の結晶粒精製用添加物とを加える。
航空産業での用途に使用される別の従来技術による合金が、Hunt,Jr等の米国特許第4,648,913号に開示されている。この特許には、0.5〜4.0重量%のリチウム、0〜5.0重量%のマグネシウム、5.0重量%以下の銅、0〜1.0重量%のジルコニウム、0〜2.0重量%のマグネシウム、0〜7.0重量%の亜鉛、最大0.5重量%の鉄、最大0.5重量%のケイ素および残部がアルミニウムと付随的な不純物とを含んで構成される、アルミニウムを主成分とした合金が開示されている。この合金は、強度特性と靱性特性を向上させるために、熱処理と加工処理とが施されたものである。Hunt,Jr等の熱処理と加工処理は、ひずみ硬化と人工時効とを引き起こす溶体化熱処理を含んだものであり、当業者にはよく知られたT8焼戻の典型例である。関連特許としては、Bretz等の米国特許第4,797,165号、第4,897,126号と、Rioja等の米国特許第4,961,792号が挙げられる。
数年に渡る開発の努力にもかかわらず、これらの新しく商品化されたアルミニウム−リチウム合金は、商業的な適用には相対的にはほとんど選択されなかった。このように、アルミニウム−リチウム合金製品の商業的な成果が、わずかなものになった理由の一つは、精錬製造物形態のアルミニウム−リチウム合金には、精錬製造物の機械的特性に横方向に有害に作用する、極めて高度な集合組織を発現させる傾向があるためである。このような機械的特性の限界は、しばしば、本格的な商業用航空機建造用途での、アルミニウム−リチウム合金の実用化を妨げている。
アルミニウム−リチウム合金精錬製造物の横方向の延性のような、貧弱な機械的な特性は、精錬製造物のすべての形態に特有であるが、横方向の貧弱な延性および/または強度は、特にアルミニウム−リチウム押出成形物に顕著である。これらの延性および/または強度の不足は、特に線対称の断面をもつ押出成形製造物に著しい。
前述のHunt,Jr等の米国特許第4,648,913号と、関連するYoung等の米国特許第4,790,884号、Rioja等の米国特許第4,861,391号では、溶体化熱処理、引き押しおよび時効処理が、アルミニウム−リチウム合金の様々な機械的特性を改良するものとして開示されている。Hunt,Jr等の特許では、溶体化熱処理と焼入れとがなされた製造物は、量的に3%より大きな延伸量か、3%より大きな延伸に相当する加工効果で、単式の延伸処理にかけられる。しかしながら、これらの様式のT8焼戻処理は、横方向に満足な機械的特性を供給するには不充分である。以下に記載するように、従来実施されてきたこれらの様式の使用では、不満足な水準の延性と強度になることは、明白である。このように、航空機建造用途への使用を容易にするために、アルミニウム−リチウム合金精錬製造物の高い強度と延性とを達成するための改良された処理技術を提供するという要求が高まっていた。
この要求に応えて、本発明は、溶体化熱処理と時効との間で複数の引伸し処理を施すことにより、横方向のアルミニウム−リチウム合金の機械的特性を改良する方法を提供する。従来のT8焼戻処理をこのように修正することによって、これらの種類の合金の横方向の機械的特性を改良することは、上記いずれの先行技術も、開示、または、明瞭に示唆してはいない。
上記Rioja等の特許は、アルミニウム−リチウム合金の2段階の時効方法を開示している。時効処理の一方、または、両方の前に、約1〜8%の間の量の引伸し処理が行われてもよい。
前述のYoung等の特許では、リューダース線を形成せず引き伸ばすことのできる、アルミニウム−リチウム合金のフラット・ロール製品を作製する方法が開示されている。この方法では、フラット・ロール製品は引伸す前に予備的に時効が行われる。溶体化熱処理の後で、熱による予備時効処理の前に、随意に、制御された冷間加工を採用してもよい。
Young等の特許やRioja等の特許のいずれも、精錬製造物の溶体化熱処理と、焼入れ処理と、所定の強度水準までの時効との間の一連の多段階引伸し法を用いて、アルミニウム−リチウム合金精錬製造物の横方向の機械的特性を改良することを開示、または、明瞭に示唆してはいない。
発明の開示
アルミニウム−リチウム合金精錬製造物の横方向の機械的特性を改良する方法を提供することが本発明の第1の目的である。
本発明の別の目的は、アルミニウム−リチウム合金押出成形物、特に、種々の、線対称断面をもつ押出成形物、の横方向の強度と延性を改良する方法を提供することである。
本発明の更に別の目的は、溶体化熱処理され、焼入れされた精錬製造物を時効の前に一連の多段階引伸し法にかけて、改良された延性と張力と降伏応力とを示すアルミニウム−リチウム合金精錬製造物を提供することである。
本発明のその他の目的と利点は、以下の説明から明らかになる。
上記の目的と利点との達成するために、本発明は、溶体化熱処理、ひずみ硬化および時効のステップを含む、アルミニウム−リチウム精錬製造物を製造する従来の方法の改良を含んで構成される。本発明の方法では、溶体化熱処理され、焼入れされたアルミニウム−リチウム精錬製造物の横方向の強度と延性は、複数の引伸しステップで、溶体化熱処理され、焼入れがなされた製造物を1〜20%の間の変形量で引き伸ばすことで、改良される。引き伸ばされた製造物は、その後、最終製造物が横方向に増大した強度と延性とを持つように、所定の強度水準まで時効処理される。
本発明の方法による1つの形態において、複数の引伸しステップは、等しい量のパーセント変形(縮小)で実行される。たとえば、それぞれが1.5%の変形量を得る4つの引伸しステップを、所定の精錬製造物に合計で6%の変形量を得るように用いてもよい。
本発明の方法による別の形態では、少なくとも2つの、複数の引伸し処理は、変形量のパーセントが等しくない。この形態では、たとえば、1つの引伸しステップは、3.5%の変形で実行され、第2の引伸しステップは2.5%の変形を得るので、冷間加工の合計が6%の変形に等しくなる。
本発明の方法は、また、横方向に改良された強度水準と延性とを有するアルミニウム−リチウム合金精錬製造物を製造する。本発明の方法は、特に、複雑な、または、線対称の断面を有する押出成形物のようなアルミニウム−リチウム精錬製造物に関するものである。
【図面の簡単な説明】
本発明に伴う図面について説明する。
図1は、本発明の方法の第1の形態により処理されたアルミニウム−リチウム精錬製造物の斜視図である。
図2は、本発明の方法の第2の形態により処理されたアルミニウム−リチウム120゜パイ型押出成形物の斜視図である。
図3は、本発明の方法の第3の形態により処理されたアルミニウム−リチウム合金溝型押出成形物の斜視図である。そして、
図4は、本発明の方法による形態の、従来技術の方法による形態に対する比較グラフであり、引張による伸びと引張降伏応力とに関するグラフである。
発明を実施するための最良の形態
本発明は、アルミニウム−リチウム精錬製造物、特に、低い水準の横方向の延性と強度を有する押出成形物の欠点を克服する。従来のT8焼戻処理にかけられたアルミニウム−リチウム精錬製造物は、横方向の強度と延性の増大に関しては、わずかな利点しか達成できない。この貧弱な延性と強度とが、これらのタイプのアルミニウム−リチウム合金精錬製造物を、航空機の構造部材のような商業的な応用に十分に活用されることを妨げている。
本発明は、改良された横方向の延性と強度とを有するアルミニウム−リチウム合金精錬製造物を製造する。この延性と強度との改良は、合金精錬製造物の縦方向と横方向との間の、強度と伸び量との差の減少という結果を生じる。よって、本発明により処理されたアルミニウム−リチウム合金精錬製造物は、異なる方向におけるのと同様に、精錬製造物の厚さ全体に渡って、より高い引張応力と降伏応力とを提供する。
本発明の方法は、特に押出成形製造物に、とりわけ、線対称または低い縦横比の断面を有する押出成形製造物に適合する。これらのタイプの精錬製造物では、貧弱な横の延性、および/または、強度は、よりいっそう明白である。これらのタイプの押出成形製造物に本発明の処理を施すと、強度と延性とを高めるための従来の方法を用いたときには達成できない、強度と延性とを改良できる。このように、本発明の方法により処理されたアルミニウム−リチウム合金精錬製造物は、最小限の設計強度と伸びとが有効に増大すので、商業的な応用にとってより魅力的なものである。
最も広い意味では、本発明は、従来のT8焼戻処理の改良である。従来の実施では、アルミニウム合金精錬製造物は溶体化熱処理をされ、焼入れされ、ひずみ硬化され、そして、所望の強度水準に至るまで時効処理される。従来技術のひずみ硬化ステップは、1〜14%の変形量の単一の引伸しとアンロードステップとを含む。
従来の実施からの改良点として、溶体化熱処理と焼入れステップと時効ステップとの間に複数の引伸しステップを用いたアルミニウム−リチウム合金精錬製造物のひずみ硬化が、横方向の強度と延性とを改良することが認識されていた。一連の多段階引伸し法によって行われる冷間加工の合計量は、1〜20%の間の変形量の範囲である。より好ましい冷間加工の合計量は、約2〜14%の間の変形量の範囲である。最も好ましい冷間加工の合計量は、3〜10%の間の変形量の範囲である。
本発明方法の1つの形態では、アルミニウム−リチウム合金精錬製造物は、各引伸しステップが等しい量の冷間加工を行う複数の引伸しステップにかけられる。たとえば、6%変形量の冷間加工の目標は、3%変形量の2つの引伸しステップで達成される。
本発明方法の別の形態では、所望の冷間加工の目標量を達成するために、複数の引伸しステップで、等しくない量の冷間加工が行われる。たとえば、8%変形量の冷間加工の目標は、4%変形の1つのステップと、2%変形の2つのステップの3つのステップに分割できる。あるいは、5%の冷間加工の目標は、2%の変形量の一方のステップと、3%の変形量の他方のステップとの2つに分割できる。
本発明方法は、T8焼戻処理にかけられたときに、所望の強度特性に到達できるどのようなアルミニウム−リチウム合金製造物にも適用できると考えられる。たとえば、アルミニウム−リチウム−銅、または、アルミニウム−リチウム−マグネシウムのような三元合金に、本発明方法を施すことができる。また、ジルコニウム、銀、および/または亜鉛等の付加的な合金元素を加えた、あるいは加えていないアルミニウム−リチウム−銅−マグネシウム合金のような、他のもっと複雑な合金にも、本発明は利用できる。これらのタイプの合金は、鉄やケイ素や他の不可避な不純物等のアルミニウム−リチウム合金中に見られる不純物も含む。
より好ましい合金は、主な合金成分として、銅、マグネシウムおよびジルコニウムを含有したアルミニウム−リチウム合金である。この種類の合金の典型的な合金は、アルミニウム協会に登録されたAAX2094合金を含む。この合金は、一般に、約4.4〜5.2%の銅、最高0.10%のマンガン、0.25〜0.6%のマグネシウム、最高0.25%の亜鉛、0.04〜0.18%のジルコニウム、0.25〜0.6%の銀、0.8〜1.5%のリチウムと残部が鉄、ケイ素、不可避な不純物およびアルミニウム、を含有する。もちろん、この合金は、本発明の方法に適合する様々なタイプのアルミニウム−リチウム合金の一例を表している。
改良されたT8焼戻処理により行うためのアルミニウム−リチウム合金精錬製造物の準備は、従来技術分野においてよく知られている。すなわち、合金は、後続の加工処理に適した原料を供給するために予備的に加工または成形されたインゴットまたはビレットとして供給される。本質的な加工処理の前に、合金の原料は、応力の緩和、鋸びきおよび均質化にかけられるのが好ましい。均質化は、900〜1060゜Fの温度範囲で、可溶性の元素が溶解し、金属の内部構造が均質になるのに十分な時間の間、行うことができる。製造物に対する逆効果なしにより長い時間をかけることができるが、好ましい均質化の持続時間は、1〜30時間である。均質化は、また、最終的な粒子構造を制御し、精製するのを助長するために、分散質を凝縮すると考えられる。均質化は、1つの温度か、または、いくつかの温度を利用する複数のステップで行われる。
均質化の後、金属は、シート、プレート、押出成形物、またはその他の原料等の、最終製造物に成形するのに適した原料を製造するために、圧延され、引き伸ばされ、押出成形され、または、その他の加工をされる。
押出成形された原料には、押出成形矩形棒材、溝型押出成形物等が含まれる。一般的には、合金にされたものは、所望の製造物を形成するために、均質化の後に熱間加工される。押出成形には、ビレット温度、シリンダー温度および押出速度が、従来技術で一般に知られたものとして利用される。
加工処理の次に、製造物は、1時間未満から数時間の間、930゜Fから約1030゜Fの温度で、溶体化熱処理される。増大した強度と破壊靱性とを最終製造物に与えるには、通常、合金中の強化相の制御されない凝結を避けるか、または、最小にするために、溶体化熱処理された製造物を素早く焼入れすることもまた必要である。一般的には、この焼入れステップは、200゜Fまたはそれ未満の金属温度への冷水焼入れを含む。その他の焼入れ媒体は、精錬製造物に対する最終的な強度要求に応じて使用される。
本発明の方法の、時効の時間と温度とは、最終精錬製造物における所望の強度水準に応じて変更される。温度は、約250゜Fから360゜Fまでの範囲である。時効の時間は、個々の所望の強度特性に応じて、1時間から数百時間までの範囲である。
本発明方法は、また、更に冷間圧延をするのに適した形状、または、航空機あるいは航空宇宙産業で使用されるような構造部材を含んで構成されるアルミニウム−リチウム精錬合金製造物を製造する。たとえば、シート、プレートまたは押出成形物は、本発明方法を用いて製作できる。以下に述べるように、最終製造物は、増大された横方向の強度と延性とを示す。
本発明方法から得られるアルミニウム−リチウム合金精錬製造物は、従来のT8焼戻処理と比較して、割合にして、100%増加までの横方向の伸びを示す。たとえば、従来の処理がなされたアルミニウム−リチウム合金は、横方向にわずか1%の伸張割合を示すだけである。対照的に、本発明の処理にかけられたアルミニウム−リチウム合金精錬製造物は、横方向に平均2%の伸張割合を示し、従来の処理に対して100%の増加である。同様に、本発明方法にかけられたアルミニウム−リチウム合金精錬製造物では、従来のT8焼戻処理と比較して、引張降伏応力もまた増大する。従って、本発明方法により処理されたアルミニウム−リチウム合金精錬製造物は、設計技師達に、商業的な応用のための引張降伏応力と伸張割合とのより高い限界閾値を提供する。
以下の例は、本発明を説明するために示すものであり、これらに限定されるものではない。これらの例と明細書全体とを通して、表示していない部分は重量によるものである。
例1
合金の選定と鋳造:
以下の組成の合金を、厚さ16インチ×幅45インチの矩形のインゴットに直接チル鋳造した。
合金I
Cu:3.62、Li:1.62、Mg:0.37、Zr:0.15、Fe:0.03、Si:0.03、Al:残部
処理:
鋳造インゴットを、応力緩和と均質化とを含めて、従来通りに処理した。
均質化されたインゴットを、次に、従来の押出成形のパラメータを用いた2穴ダイで、2つの0.5×4インチの断面の矩形棒材に押出成形した。押出成形物10の斜視図を図1に示す。
押出成形された矩形棒材を、溶体化熱処理し、また、室温まで冷水焼入れして、W−焼戻状態にした。
焼戻の手順:冷間加工および人工時効
以下の実験は、従来のT8焼戻処理と、以下実施例Aと呼ぶ本発明の方法の第1の形態との両方を用いて行った。
従来のT8焼戻処理には、1ステップにおけるW−焼戻押出成形物の6%の引伸し、アンロード、および、320゜Fで16時間の時効が含まれる。
本発明の実施例Aは以下の通り:
1. W−焼戻押出成形物を1.5%引伸し、アンロードする、
2. さらに1.5%引伸し、アンロードする、
3. さらに1.5%引伸し、アンロードする、
4. 合計引伸し量を6%にするために、さらに1.5%引伸し、アンロードする、
5. 320゜Fで16時間の時効
機械的特性試験
0.350インチ径の張力試験用試料を、押し出された方向に対して、縦方向(L方向)と横方向(T方向)に精密に作製した。試料のレイアウトの概略図を図1に示し、縦の試料をL1とL2で、横の試料をT1とT2で表す。
機械的特性試験の結果
張力試験の結果を表Iと表IIとに示す。試験結果の信頼性を確実にするために、L方向の試験とT方向の試験との双方について、繰り返し試験を行った。
表Iに、従来のT8焼戻処理(1回のステップで6%の引伸し、および、320゜Fで16時間の時効)によって処理した押出成形物の張力試験の結果を説明する。T方向の引張降伏応力の平均値は僅か81.7ksiであり、T方向の引張延性の平均値は僅か1%である。表IIに、本発明(実施例A)によって処理した押出成形物の張力試験の結果を説明する。T方向の引張降伏応力の平均値は、従来どおりに処理された押出成形物の平均値よりも2.1ksi高い83.8ksiであり、T方向の引張延性の平均値は、従来どおりに処理された押出成形物の平均値の2倍の2%である。図4で表Iと表IIの結果を比較する。実施例Aは、長手横方向の強度と延性との両方を改良した。
Figure 0003540316
Figure 0003540316
例2
合金の選定と鋳造:
以下の組成の合金を、厚さ16インチ×幅45インチの矩形のインゴットに直接チル鋳造した。
合金II
Cu:4.61、Li:1.02、Mg:0.36、Zr:0.13、Fe:0.05、Si:0.03、Al:残部
処理:
鋳造インゴットを、応力緩和と均質化とを含めて、従来通りに処理した。
均質化されたインゴットを、ビレットに機械加工し、従来の押出成形のパラメータを用いて、120゜割れパイ型押出成形物に押出成形した。押出成形物20の斜視図を図2に示す。
押出成形された棒材を、溶体化熱処理し、また、冷水焼入れして、W−焼戻状態にした。
焼戻の手順:冷間加工および人工時効
以下の実験は、従来のT8焼戻処理と、以下実施例Bと呼ぶ本発明の方法の第2の形態との両方を用いて行った。
従来のT8焼戻処理には、1回のステップにおけるW−焼戻押出成形物の6%の引伸し、アンロード、および、290゜Fで36時間の時効が含まれる。
本発明の実施例Bは以下の通り:
1. W−焼戻押出成形物を3.5%引伸し、アンロードする、
2. さらに2.5%引伸し、アンロードする、そして、
3. 290゜Fで36時間の時効
機械的特性試験
0.350インチ径の一対の引張試験用の試料を、縦方向(L方向)に精密に作製し、0.160インチ径の一対の引張試験用の試料を、横方向(T方向)に精密に作製した。試料レイアウトL1、L2、T1およびT2の概略図を図2に示す。
機械的特性試験の結果
例2の張力試験の結果を表IIIと表IVとに示す。試験結果の信頼性を確実にするために、L方向の試験とT方向の試験との双方について、繰り返し試験を行った。
表IIIに、従来のT8焼戻処理(1回のステップにおける6%の引伸し、および、290゜Fで36時間の時効)によって処理した押出成形物の張力試験の結果を説明する。横方向の引張降伏応力の平均値は、79.9ksiであり、横方向の引張延性の平均値は2.7%である。表IVに、本発明(実施例B)によって処理した押出成形物の張力試験の結果を説明する。横方向の引張降伏応力の平均値は、従来どおりに処理された押出成形物の平均値よりも1.1ksi高い81.0ksiであり、横方向の引張延性の平均値は、従来どおりに処理された押出成形物の平均値より30%高い3.6%である。図4で表IIIと表IVの結果を比較する。実施例Bは、改良された横方向の強度と延性とを示す。
Figure 0003540316
Figure 0003540316
例3
合金の選定と鋳造:
以下の組成の合金を、厚さ16インチ×幅45インチの矩形のインゴットに直接チル鋳造した。
合金III
Cu:2.55、Li:1.59、Mg:0.34、Zr:0.14、Fe:0.04、Si:0.03、Al:残部
処理:
鋳造インゴットを、応力緩和と均質化とを含めて、従来通りに処理した。均質化されたインゴットを、押出成形のためのビレットに機械加工した。
ビレットを、従来の押出成形のパラメータを用いて、溝型押出成形物に押出成形した。押出成形物30の斜視図を図3に示す。
溝型押出成形物を、溶体化熱処理し、また、冷水焼入れして、W−焼戻状態にした。
焼戻の手順:冷間加工および人工時効
以下の実験は、従来のT8焼戻処理と、本発明の方法の第3の形態との両方を用いて行った。
従来のT8焼戻処理には、1回のステップにおいてW−焼戻押出成形物の3.5%の引伸し、アンロード、および、320゜Fで36時間の時効を含む。
本発明の実施例Bは以下の通り:
1. W−焼戻押出成形物を2%引伸し、アンロードする、
2. さらに1.5%引伸し、アンロードする、そして、
3. 320゜Fで36時間の時効
機械的特性試験
長さ1インチ、断面が0.25×0.25インチの一対の引張試験用の試料を、縦方向(L方向)に精密に作製し、長さ1インチ、断面が0.29×0.25インチの一対の引張試験用の試料を、横方向(T方向)に精密に作製した。試料レイアウトL1、L2、T1およびT2の概略図を図3に示す。
機械的特性試験の結果
張力試験の結果を表Vと表VIとに示す。試験結果の信頼性を確実にするために、L方向の試験とT方向の試験との双方について、繰り返し試験を行った。
表Vに、従来のT8焼戻処理(1回のステップにおいて3.5%の引伸し、および、320゜Fで36時間の時効)によって処理した押出成形物の張力試験の結果を説明する。横方向の引張降伏応力の平均値は72.7ksiであり、横方向の引張延性の平均値は9.0%である。表VIに、本発明(実施例C)によって処理した押出成形物の張力試験の結果を説明する。横方向の引張降伏応力の平均値は、従来どおりに処理された押出成形物の平均値よりも0.3ksi高い73ksiである。横方向の引張延性の平均値は、従来どおりに処理された押出成形物の平均値より1%高い10%である。図4で表Vと表VIの結果を比較する。実施例Cは、横方向の強度と延性との両方を改良した。
Figure 0003540316
Figure 0003540316
上記の例は、本発明による改良されたT8焼戻処理にかけられたアルミニウム−リチウム合金の、横方向の強度と延性とに予想外の向上を示した。これらのタイプのアルミニウム−リチウム合金を、溶体化熱処理と焼入れ処理と時効処理との間に一連の多段階引伸し法にかけることは、横方向の強度と伸張割合とを改良し、これによって、これらの製造物を、航空宇宙産業や航空産業への応用といった使用に対してより適合可能にする。
このように、本発明の目的のどれをも全て満足させ、アルミニウム−リチウム合金精錬製造物のための新しい改良されたT8焼戻処理を提供する、好ましい実施の形態という点から発明を説明した。
本発明の開示内容からの種々の変更、修正および代替が、本発明の意図や範囲から逸脱しない限り、当業者によって予測されうる。従って、本発明は、添付の請求の範囲の文言によってのみ限定される。

Claims (18)

  1. (a)溶体化熱処理と焼入れとをされたアルミニウム−リチウム合金精錬製造物を、複数の引伸しステップで、1%と20%との間の変形量だけ引き伸ばすステップと、
    (b)引き伸ばされた前記精錬製造物を、その強度を増大させるために時効処理することによって、前記複数の引伸しステップが、前記精錬製造物の、前記引伸しの方向に対する横方向の強度と延性とを増大させ、前記引伸しステップは、製造物のいずれの時効処理よりも先に行われるステップと、
    を含んで構成されることを特徴とする、前記溶体化熱処理と焼入れとをされたアルミニウム−リチウム合金精錬製造物の横方向の強度と延性とを改良する方法。
  2. 前記複数の引伸しステップの各々の変形の割合が等しいことを特徴とする請求の範囲第1項記載の方法。
  3. 前記複数の引伸しステップのうち、少なくとも2つのステップの変形の割合が異なることを特徴とする請求の範囲第1項記載の方法。
  4. 前記複数の引伸しステップが、さらに4つの引伸しステップを含んで構成され、いずれの引伸しステップも1.5%の変形量であることを特徴とする請求の範囲第1項記載の方法。
  5. 前記複数の引伸しステップが、さらに2つの引伸しステップを含んで構成され、一方が3.5%の変形量であり、他方が2.5%の変形量であることを特徴とする請求の範囲第1項記載の方法。
  6. 前記複数の引伸しステップが、さらに2つの引伸しステップを含んで構成され、一方が2%の変形量であり、他方が1.5%の変形量であることを特徴とする請求の範囲第1項記載の方法。
  7. 前記アルミニウム−リチウム合金精錬製造物は、アルミニウム−リチウム−銅合金、アルミニウム−リチウム−マグネシウム合金、アルミニウム−リチウム−銅−マグネシウム合金、アルミニウム−リチウム−銅−マグネシウム−銀合金、アルミニウム−リチウム−銅−マグネシウム−銀−亜鉛合金、アルミニウム−リチウム−銅−マグネシウム−亜鉛合金、アルミニウム−リチウム−マグネシウム−亜鉛合金、アルミニウム−マグネシウム−リチウム−亜鉛−マンガン合金、および、アルミニウム−マグネシウム−リチウム−亜鉛−銀−マンガン合金、から選択されることを特徴とする請求の範囲第1項記載の方法。
  8. 前記アルミニウム−リチウム合金精錬製造物は、アルミニウム−銅−リチウム−マグネシウム合金であることを特徴とする請求の範囲第7項記載の方法。
  9. 前記変形量が2〜14%の間であることを特徴とする請求の範囲第1項記載の方法。
  10. 前記変形量が3〜10%の間であることを特徴とする請求の範囲第9項記載の方法。
  11. 請求の範囲第1項記載の方法によって製造され、その横方向に増大した延性と強度とを有するアルミニウム−リチウム合金精錬製造物。
  12. 請求の範囲第2項記載の方法によって製造され、その横方向に増大した延性と強度とを有するアルミニウム−リチウム合金精錬製造物。
  13. 請求の範囲第3項記載の方法によって製造され、その横方向に増大した延性と強度とを有するアルミニウム−リチウム合金精錬製造物。
  14. 前記精錬製造物は、押出成形物、シート、または、プレートのいずれかであることを特徴とする請求の範囲第11項記載のアルミニウム−リチウム合金精錬製造物。
  15. 前記精錬製造物は、押出成形物、シート、または、プレートのいずれかであることを特徴とする請求の範囲第12項記載のアルミニウム−リチウム合金精錬製造物。
  16. 前記精錬製造物は、押出成形物、シート、または、プレートのいずれかであることを特徴とする請求の範囲第13項記載のアルミニウム−リチウム合金精錬製造物。
  17. (a)溶体化熱処理と焼入れとをされた、銅、マグネシウムおよびジルコニウムを主な合金成分として有するアルミニウム−リチウム合金精錬製造物を、複数の連続した引伸しステップで、1〜20%の変形量だけ引き伸ばすステップと、
    (b)引き伸ばされた前記精錬製造物を、その強度を増大させるために時効処理することによって、前記複数の連続した引伸しステップが、前記精錬製造物の、前記引伸しの方向に対する横方向の強度と延性とを増大させ、前記引伸しステップは、製造物のいずれの時効処理よりも先に行われるステップと、
    を含んで構成されることを特徴とする、前記溶体化熱処理と焼入れとをされた、銅、マグネシウムおよびジルコニウムを主な合金成分として有するアルミニウム−リチウム合金精錬製造物の横方向の強度と延性とを改良する方法。
  18. 前記アルミニウム−リチウム合金が、合金成分として銀を含むことを特徴とする請求の範囲第17項記載の方法。
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