JP3530941B2 - 低ガス放出及び低2次電子放出材料 - Google Patents

低ガス放出及び低2次電子放出材料

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JP3530941B2 JP2002073192A JP2002073192A JP3530941B2 JP 3530941 B2 JP3530941 B2 JP 3530941B2 JP 2002073192 A JP2002073192 A JP 2002073192A JP 2002073192 A JP2002073192 A JP 2002073192A JP 3530941 B2 JP3530941 B2 JP 3530941B2
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大介 藤田
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この出願の発明は、低ガス放
出及び低2次電子放出材料に関するものである。さらに
詳しくは、この出願の発明は、超高真空環境下で稼動す
る電子分光器の感度、精度の向上が図れる機器用材料と
して、また、超高真空及び極高真空構造材料として有望
視される低ガス放出及び低2次電子放出材料に関するも
のである。
【0002】
【従来の技術とその課題】超高真空及び極高真空を効率
的かつ迅速に発生させるために、窒化ホウ素を被覆した
ステンレス鋼に代表されるガス放出のより小さい材料が
開発されつつある。このような低ガス放出材料の一つと
して、配向性が高く、しかも多層構造を有するグラファ
イトが表面に析出し、被覆されたニッケルが提案されて
いる。このニッケルは、通称、C固溶Niと称され、h-BN
(六方晶窒化ホウ素)に匹敵する表面安定性を有すると
ともに、より低温での析出、表面被覆が可能であるとい
う利点を有する。
【0003】しかしながら、その反面、ニッケル単体は
強磁性体であり、非磁性が要求される装置、具体的に
は、オージェ電子分光、X線光電子分光、真空紫外光電
子分光、エネルギー損失電子分光などの電子分光器には
適用しにくいという難点がある。電子分光器に適用した
場合、2次電子が放出されることによる迷走電子の発生
がバックグラウンドノイズを増大させ、計測の感度、精
度に支障をきたす。このため、低ガス放出ばかりでな
く、2次電子放出のより低い材料の開発が望まれる。
【0004】この出願の発明は、このような事情に鑑み
てなされたものであり、超高真空環境下で稼動する電子
分光器の感度、精度の向上が図れる機器用材料として、
また、超高真空及び極高真空構造材料として有望視され
る低ガス放出及び低2次電子放出材料を提供することを
解決すべき課題としている。
【0005】
【課題を解決するための手段】この出願の発明は、以上
の課題を解決するものとして、炭素を固溶させた銅−ニ
ッケル合金の表面に、配向した多層グラファイト薄膜が
析出していることを特徴とする低ガス放出及び低2次電
子放出材料(請求項1)を提供する。
【0006】またこの出願の発明は、銅−ニッケル合金
は、銅を35重量%〜80重量%、ニッケルを65重量%〜20重
量%含有し、炭素の固溶量が0.05重量%〜0.6重量%である
こと(請求項2)を一態様として提供する。
【0007】以下、実施例を示しつつ、この出願の発明
の低ガス放出及び低2次電子放出材料についてさらに詳
しく説明する。
【0008】
【発明の実施の形態】この出願の発明の低ガス放出及び
低2次電子放出材料は、前記の通り、炭素を固溶させた
銅−ニッケル合金の表面に、配向した多層グラファイト
薄膜が析出している。ニッケル(Ni)には、炭素(C)は0.5
重量%まで固溶することができるが、このCの固溶によっ
ても非磁性とはならない。これに対し、銅(Cu)と合金化
させた銅−ニッケル合金(Cu-Ni合金)は非磁性材料で
あるが、このCu-Ni合金にCが固溶する可能性はこれまで
に知られていない。従来、Cが固溶可能な金属、すなわ
ち、炭化物を形成せず、Cが十分な量で固溶することが
できる金属は、Ni、コバルト(Co)、パラジウム(Pd)、白
金(Pt)などしか知られていない。したがって、この出願
の発明の低ガス放出及び低2次電子放出材料は、配向し
た多層グラファイト薄膜が表面に析出する下地材とし
て、Cを固溶させたCu-Ni合金を採用した点において、非
常に技術的に意義のあるものといえる。
【0009】Cを固溶させたCu-Ni合金表面に析出してい
る配向した多層グラファイト薄膜は、安定した薄膜であ
り、大気曝露によっても酸化せず、したがって、電子の
衝突にともなう酸化膜の分解が防止されており、ガス放
出量を低減する。このグラファイト薄膜は、CがCu-Ni合
金に固溶していることから、図1に示したように、真空
中での熱処理により炭素が容易に再析出し、たとえ剥離
などした場合でも分解することなく自己修復可能となっ
ている。再生方法としては、真空下における300℃以上4
00℃以下のベーキング処理が例示される。熱処理によ
り、Cの表面拡散が促進され、剥離などの損傷部分が被
覆される。
【0010】また、グラファイト薄膜は、図1に示した
ように、電子線入射による2次電子放出量を低減し、電
子分光器で測定するスペクトル上でのバックグランドノ
イズを低減することができる。したがって、高感度、高
精度の電子分光計測が可能となる。
【0011】このようなこの出願の発明の低ガス放出及
び低2次電子放出材料は、たとえば次のようにして作製
することができる。
【0012】炭素を固溶させた銅−ニッケル合金(C固
溶Cu-Ni合金)の作製については、たとえば、溶解法、
合金作製後にCを固溶させる拡散固溶法などが考えられ
る。拡散固溶法は、真空中において合金と高純度炭素粉
末を接触させ、高温に所定時間保持する熱処理により、
合金内部に炭素を拡散固溶させるというものである。こ
の拡散固溶法には、熱処理時の設定温度、保持時間によ
り炭素の固溶濃度を適宜調整することができるという利
点がある。
【0013】Cu-Ni合金は、非磁性材料であるために、C
uを35重量%〜80重量%、Niを65重量%〜20重量%含有する
ものとするのが好ましい。標準的な組成は、Cu45±5%-N
i55±5%である。このようなCu-Ni合金として、たとえば
コンスタンタン合金が例示される。また、Cu-Ni合金に
は、非磁性材料を満足する範囲内で、上記コンスタンタ
ン合金に一般に添加されるマンガン(Mn)が2重量%以下添
加されていてもよい。
【0014】以上のCu-Ni合金に固溶可能なC量は、0.05
重量%〜0.6重量%である。また、この範囲内の固溶量で
あれば、C固溶Cu-Ni合金表面に前述したグラファイト薄
膜が十分に析出可能である。
【0015】C固溶Cu-Ni合金表面へのグラファイト薄膜
の析出は、真空加熱法により達成される。具体的は、C
固溶Cu-Ni合金の表面を電解研磨法、電解複合研磨法、
バフ研磨法などにより平坦化した後、清浄な、1×10-6T
orr以下の高真空中で300℃以上800℃以下の温度範囲に
保持する。これにより、C固溶Cu-Ni合金の表面には、c
軸などの方向に配向した多層グラファイト薄膜が析出す
る。加熱時間は、Cの固溶量及びCの拡散速度に依存し、
拡散速度は温度により大きく異なる。一般には、高温で
の加熱の場合、短時間とすることができる。
【0016】このようにして作製することのできるこの
出願の発明の低ガス放出及び低2次電子放出材料は、超
高真空及び極高真空構造材料として有効であり、ガス放
出がきわめて低く、超高真空、極高真空へ到達するまで
の時間の削減が可能となる。また、真空中で稼動する電
子分光器の電極材料としても有効であり、グラファイト
薄膜の低2次電子放出性により、電子分光器の内部で発
生する迷走電子などからのノイズを低減することがで
き、電子分光器の高感度化、高精度化が実現可能とな
る。さらに、この出願の発明の低ガス放出及び低2次電
子材料は、上記電子分光器以外の電子発生機器にも適用
が期待される。
【0017】
【実施例】コンスタンタン合金(Cu44-Ni55-Mn1wt%)の板
状材料に対して拡散固溶法により炭素を約0.1wt%固溶さ
せた。具体的には、図2に示した装置を用いて行った。
排気孔を有する蓋付きのグラファイト製坩堝(1)内に
高純度グラファイト粉末(2)とコンスタンタン合金試
料(3)を充填し、そのグラファイト製坩堝(1)を透
明石英管(4)内に封入し、次いで、ターボ分子ポンプ
(5)及びロータリーポンプ(6)により排気して超高
真空とした後、透明石英管(4)を電気炉(7)内で約
1000℃に数日間保持した。
【0018】このようにして作製した炭素がコンスタン
タン合金中に拡散浸透した試料を、まずその表面の平滑
化処理を行い、次いで、10-8Torr〜10-10Torr台の超高
真空中において400℃から700℃までの温度範囲に2時間
加熱処理した。加熱処理後の試料の表面を走査電子顕微
鏡により観察したところ、表面が、図3<a><b>に
示したように、平板状のグラファイトテラス(図3<a
>)と炭素ナノチューブネットワーク(図3<b>)と
により構成されていることが確認された。また、図4に
示したオージェスペクトルの形状観察から、炭素のKLL
スペクトル(C KLL)がグラファイトの状態に一致してい
ることが確認された。このことから、加熱処理後の試料
表面にはグラファイト薄膜が形成されていることが理解
される。また、このグラファイト薄膜は、オージェスペ
クトルにおいて、下地材のCu, Ni LMMオージェピークが
まったく見られず、C KLLオージェピークのみしか見ら
れないことから、厚さ10nm以上であると推測され、多層
となっていると理解される。このように加熱処理後に得
られた表面と加熱処理前の清浄表面とを比較すると、図
4に示されているように、低エネルギー側の2次電子ピ
ークの大きさが異なり、2次電子放出量が約20〜30%程
度減少していることが確認される。
【0019】以上の試料は、また、大気中に5分間曝露
した。その後のオージェスペクトルを示したのが図5で
ある。この図5から確認されるように、多層グラファイ
ト薄膜が表面に形成された試料は、ほとんど変化が見ら
れず、H2O、酸素などの吸着による酸化がほとんど生じ
ていない。このことから低ガス放出性の表面であると評
価される。
【0020】もちろん、この出願の発明は、以上の実施
形態及び実施例によって限定されるものではない。Cu-N
i合金の組成、Cの固溶量及び固溶方法、C固溶後の真空
加熱条件などの細部については様々な態様が可能である
ことはいうまでもない。
【0021】
【発明の効果】以上詳しく説明した通り、この出願の発
明によって、超高真空環境下で稼動する電子分光器の感
度、精度の向上が図れる機器用材料として、また、超高
真空及び極高真空構造材料として有望視される低ガス放
出及び低2次電子放出材料が提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】この出願の発明の低ガス放出及び低2次電子放
出材料の概要を示した模式図である。
【図2】Cの拡散固溶に用いた装置の概略を示した構成
図である。
【図3】<a><b>は、それぞれ、真空加熱後の試料
表面の走査電子顕微鏡像である。
【図4】真空加熱後の試料を真空加熱前の試料と比較し
て示した表面のオージェスペクトルである。
【図5】真空加熱後の試料の大気曝露前後の表面のオー
ジェスペクトルである。
【符号の説明】
1 グラファイト製坩堝 2 高純度グラファイト粉末 3 コンスタンタン合金試料 4 透明石英管 5 ターボ分子ポンプ 6 ロータリーポンプ 7 電気炉
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) H01J 1/35 C23C 1/00

Claims (2)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 炭素を固溶させた銅−ニッケル合金の表
    面に、配向した多層グラファイト薄膜が析出しているこ
    とを特徴とする低ガス放出及び低2次電子放出材料。
  2. 【請求項2】 銅−ニッケル合金は、銅を35重量%〜80
    重量%、ニッケルを65重量%〜20重量%含有し、炭素の固
    溶量が0.05重量%〜0.6重量%である請求項1記載の低ガ
    ス放出及び低2次電子放出材料。
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