JP3514927B2 - クラッチのスリップ制御装置およびその製造方法 - Google Patents

クラッチのスリップ制御装置およびその製造方法

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JP3514927B2 JP28136096A JP28136096A JP3514927B2 JP 3514927 B2 JP3514927 B2 JP 3514927B2 JP 28136096 A JP28136096 A JP 28136096A JP 28136096 A JP28136096 A JP 28136096A JP 3514927 B2 JP3514927 B2 JP 3514927B2
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、車両用の自動変
速機におけるトルクコンバータに内蔵されているロック
アップクラッチのように入力側の要素と出力側の要素と
を機械的に直接連結するクラッチをスリップ制御する装
置およびその装置の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】最近では、車両用自動変速機のトルクコ
ンバータにロックアップクラッチを内蔵し、所定の車速
以上の低スロットル開度時にこれをスリップ制御するこ
とが行われている。すなわち入力側の部材と出力側の部
材とに所定の回転数差が生じるようにロックアップクラ
ッチをいわゆる半係合状態とすることにより、エンジン
のトルク変動による振動や低周波数のこもり音を遮断す
る一方、トルクコンバータの滑りを可及的に防止して動
力伝達効率を高くし、燃費の向上を図っている。
【0003】このようなロックアップクラッチのスリッ
プ制御は、スロットル開度あるいは車速などの走行状態
に応じて目標スリップ回転数を設定し、実際のスリップ
回転数が目標値に一致するようにロックアップクラッチ
の係合油圧をフィードバック制御している。図5はその
スリップ制御系のブロック図であり、制御対象(ロック
アップクラッチ)Pは状態量に関連するパラメータで表
される特性を有しており、その特性に応じた観測量(ス
リップ回転速度)yを出力する。この観測量yと外乱w
との偏差がなくなるようにコントローラ(操作量指令値
演算手段)Cが演算を行い、その演算結果である操作量
指令値uを制御対象Pに出力する。
【0004】しかしながら、ここで対象としているロッ
クアップクラッチのスリップ制御系は、スリップ回転速
度などの状態量の値、すなわち制御を行おうとする動作
領域に応じて動作特性が変化する特徴がある。その一例
を図6に示してある。この図6の例は、ロックアップク
ラッチの係合圧を制御するリニアソレノイドバルブのデ
ィーティ比を段階的に増大させた場合の例である。
【0005】スリップ回転数の小さい動作領域I では、
スリップ回転数をその目標回転数に増大させるように制
御した場合、応答の遅れのためにスリップ回転数がゆっ
くり増大する。これに対してスリップ回転数が中程度の
動作領域IIでは、目標スリップ回転数に増大させる制御
を行った場合、応答の遅れが殆どないものの、制御実行
当初にスリップ回転数が目標値より若干大きくなり、不
安定傾向を示す。さらにスリップ回転数の大きい動作領
域III では、制御実行当初のスリップ回転数の立ち上が
りが大きくなって不安定傾向が顕著になる。
【0006】従来、このスリップ制御系を制御ゲインを
固定させた固定コントローラCによって制御する場合、
動作特性の変化をプラント変動と見なし、この変動を許
容するコントローラをロバスト制御理論に基づいて導出
していた。すなわち、先ず各動作領域ごとにモデルの同
定を行い、基準となるモデルに対する変動の大きさの周
波数特性を調べる。図7はその一例を示しており、図6
に示す動作領域I を基準モデルに採り、動作領域II,II
I の変動の大きさの周波数特性を調べる。なお、図7に
おいてΔはゲイン、W1 はロバスト安定性(相補感度)
に関する重みづけ関数である。そして、ロバスト安定性
に関する要求を表す重みづけ関数を全ての周波数領域に
おいて変動より大きくなるように設定し、この重みづけ
関数に基づいた設計をHインフィニティ制御手法によっ
て行っていた。この種の制御装置およびその製造方法
が、特開平7−198035号公報に記載されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら制御ゲイ
ンを固定させた固定コントローラにおいては、ロバスト
安定性と応答性とは、互いに背反する特性であり、許容
すべき変動が大きい場合、すなわちロバスト安定性に関
する要求が高い場合には、制御系設計が保守的となり、
応答性が劣化する不都合が生じる。図6に示す例につい
て説明すれば、動作領域III での安定性を高くするよう
に設計すると、動作領域I での応答性が悪くなる。
【0008】この発明は、上記の事情を背景にしてなさ
れたものであり、ロバスト安定性および応答性に優れた
ロックアップクラッチのスリップ制御装置およびその製
造方法を提供することを目的とするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段およびその作用】上記の目
的を達成するために、請求項1に記載した発明は、クラ
ッチの実際のスリップ回転速度を検出するスリップ回転
速度検出手段を備え、該実際のスリップ回転速度が目標
スリップ回転速度に一致するようなクラッチの操作量指
令値を求め、この操作量指令値に応じてスリップ状態を
調整する制御装置であって、スリップ制御に関連する状
態量を検出する状態量検出手段と、前記状態量をパラメ
ータとし、操作量指令値と実際のスリップ回転速度との
入出力動特性を表現する状態方程式モデルを用い、該制
御対象の状態方程式モデルでは考慮できない前記スリッ
プ状態を調整する系の特性変動を、該特性変動をもたら
す要因ごとに測定し、該複数の要因による特性変動の全
体的特性を第1の重みづけとして近似的に把握し、スリ
ップ状態をフィードバック制御する系が前記特性変動に
対して安定であり、かつ前記実スリップ回転速度の前記
目標スリップ回転速度への追従特性を確保するための条
件として、前記目標スリップ回転速度から実際のスリッ
プ回転速度までの前記状態量に依存して連続的に変化す
る係数を有する状態方程式モデルにおける前記状態量に
前記第1の重みづけを施すとともに、前記目標スリップ
回転速度から制御量偏差までの前記状態量に依存して連
続的に変化する係数を有する状態方程式モデルにおける
前記制御量偏差に応答性を確保するために設けられた第
2の重みづけを施し、かつ前記目標スリップ回転速度か
ら操作量指令値までの前記状態量に依存して連続的に変
化する係数を有する状態方程式モデルにおける前記操作
量指令値に操作量増大を防ぐために設けられた第3の重
みづけを施して設定された状態量に依存して連続的に変
化する係数を演算する係数演算手段と、目標スリップ回
転速度と実際のスリップ回転速度との偏差量を求める制
御量偏差演算手段と、前記係数演算手段で演算された係
数、前記状態量および前記制御量偏差に基づいて、操作
量指令値を求める操作量指令値演算手段とを備えている
ことを特徴とするものである。
【0010】したがって請求項1の発明によれば、クラ
ッチの制御量指令値は、係数および状態量ならびに制御
量偏差に基づいて演算して求められる。ここで係数は、
状態量をパラメータとし、かつ操作量指令値と実際のス
リップ回転速度との入出力動特性を表現する状態方程式
モデルを用い、該状態方程式モデルでは考慮できない特
性変動の要因や応答性さらには操作量の増大を抑制する
要因に配慮して、クラッチのスリップ状態をフィードバ
ック制御する系の安定性および応答性を充足するように
演算され、状態量に応じて連続的に変化するものであ
る。したがって操作量指令値は、状態量に応じて連続的
に変化するフィードバック制御系の動特性を含んだ値と
なる。すなわち該動特性に応じて操作量指令値が変化す
ることになる。その結果、フィードバック制御系が、状
態量に応じて動特性を変化させるものであっても、応答
性および安定性の良好なクラッチのスリップ制御を行う
ことができる。
【0011】また請求項2の発明は、目標スリップ回転
速度と実際のスリップ回転速度とが一致するようにクラ
ッチの操作量指令値を出力し、該出力された操作量指令
値に応じてスリップ状態を調整するスリップ制御装置の
製造方法であって、スリップ制御に関連する状態量と前
記実スリップ回転速度と前記操作量指令値とを時系列デ
ータとして測定し、前記状態量に関連するパラメータと
前記実スリップ回転速度との積および該パラメータと前
記操作量指令値との積との関係式と前記時系列データと
に基づき、前記状態量に依存して連続的に変化する係数
を有する制御対象の状態方程式モデルを同定し、該制御
対象の状態方程式モデルでは考慮できない前記スリップ
状態を調整する系の特性変動を、該特性変動をもたらす
要因ごとに測定し、該複数の要因による特性変動の全体
的特性を第1の重みづけとして近似的に把握し、スリッ
プ状態をフィードバック制御する系が前記特性変動に対
して安定であり、かつ前記実スリップ回転速度の前記目
標スリップ回転速度への追従特性を確保するための条件
として、前記目標スリップ回転速度から実際のスリップ
回転速度までの前記状態量に依存して連続的に変化する
係数を有する状態方程式モデルにおける前記状態量に前
記第1の重みづけを施し、前記目標スリップ回転速度か
ら制御量偏差までの前記状態量に依存して連続的に変化
する係数を有する状態方程式モデルにおける前記制御量
偏差に応答性を確保するために設けられた第2の重みづ
けを施し、前記目標スリップ回転速度から操作量指令値
までの前記状態量に依存して連続的に変化する係数を有
する状態方程式モデルにおける前記操作指令値に操作量
増大を防ぐために設けられた第3の重みづけを施して、
前記フィードバック制御する系の操作量指令値を求める
ための前記状態量に依存して連続的に変化する係数を決
定する方法である。
【0012】したがって請求項2の発明によれば、制御
対象の状態方程式モデルが、状態量に応じて連続的に変
化する係数を有したものとして設定され、その係数が、
該状態方程式モデルでは考慮できない特性変動の要因や
応答性さらには操作量の増大を抑制する要因に配慮して
設定される。そのため制御対象の状態方程式モデルを、
状態量に応じて特性が変動するものとして設定でき、そ
の結果、応答性および安定性に優れたクラッチのスリッ
プ制御装置を得ることができる。
【0013】
【発明の実施の形態】つぎにこの発明を具体的に説明す
る。制御対象の動特性が動作領域(状態量)に応じて変
動する場合、制御の安定性と応答性とを同時に満足する
ためには、図1に示すように、動作領域に応じてコント
ローラを切り換えることが有効であると考えられる。そ
の場合、各動作領域においては、動作領域に応じた動特
性変化を考慮する必要はなく、設計時に考慮すべき変動
を小さくすることができる。その結果、各動作領域内に
おいては応答特性の向上を図ることができる。なお、図
1において、符号100は状態量検出手段、符号101
は係数演算手段、符号102はその係数に応じて制御ゲ
インを変化させる操作量指令値演算手段(コントロー
ラ)、符号103は制御対象(クラッチ)、符号104
は制御量偏差演算手段をそれぞれ示す。
【0014】しかしながら動特性は出力であるスリップ
速度の値(状態量)に応じて連続的に変化するものであ
り、コントローラを動作領域に応じて不連続的に切り換
える場合には、その切り換え境界付近における安定性が
損なわれる。また領域ごとに設計された複数の固定コン
トローラのゲインを補間などの手法によりスリップ速度
の値に応じて連続的に変化させる場合には、コントロー
ラのゲインが時間的に変化することによる影響で固定コ
ントローラの設計の際の設計仕様が満足されず、安定性
や応答性の少なくともいずれかが不十分になるおそれが
ある。
【0015】そこでこの発明では、ゲインスケジュール
ドHインフィニティ制御手法を採用して制御装置を構成
する。このゲインスケジュールドHインフィニティ制御
手法は、安定性や応答性などの要求仕様を満足させつ
つ、動作領域に応じてゲインを連続的に切り換えるコン
トローラを導出する手法である。この手法は、LPVシ
ステムと称される次式によって記述されるようなプラン
トのみに適用可能であり、ゲインスケージュールドHイ
ンフィニティ制御手法を適用する際には制御系設計で用
いられる拡大プラントをこの形式で記述する必要があ
る。
【0016】
【数1】 ただし、xは拡大プラントの状態量、wは外乱、uは操
作量、yは観測量である。またθi は時変パラメータで
あり、 θ1 +θ2 +…+θr =1 という制約条件が常に課せられている。
【0017】そこでこの発明にかかるスリップ制御装置
の製造方法では、制御対象の特性変化に影響する状態量
と実スリップ回転速度および操作量指令値との時系列デ
ータから状態量に依存する係数を有する状態方程式モデ
ルを同定し、同定されたモデルに安定性と応答性との制
御仕様を満足させるための重みを負荷することにより、
(1)式の形式に拡大プラントを設定する。具体的に
は、以下のとおりである。 〈ステップ1〉(1)式においてr=2とし、θ1 ,θ
2 =1−θ1 を制御対象の特性変化に影響を与える状態
量の関数として与え、プラントを
【0018】
【数2】
【0019】
【数3】 という離散系の形式で同定する。ただし、(Asi,Bs
i,Cs )は可観測標準形式とする。なお、この同定は
任意の次数で行うことができるが、ここでは、次数を2
として同定手法の詳細な説明を行う。2次の場合、
(2),(3)式は、以下のように記述することができ
る。
【0020】
【数4】
【0021】
【数5】 ここで、(5)式を(4)式に代入すると、
【0022】
【数6】
【0023】
【数7】 となり、さらに(6)式を1ステップシフトして(7)
式に代入すると
【0024】
【数8】 となる。結局、(8)式を1ステップシフトして整理す
ると、
【0025】
【数9】 となる。ここで
【0026】
【数10】 という変換を施すと、(9)式は、
【0027】
【数11】 と記述できる。結局、実験結果の入出力時系列データを
用い、(11)式が成立するようにαij,βijを最小自
乗法などで求めることにより、(2),(3)式のプラ
ントを同定することができる。 〈ステップ2〉離散システムとして同定されたプラント
についての(2),(3)式を連続システム
【0028】
【数12】
【0029】
【数13】 に変換し、次のような拡大プラントを設定する。
【0030】
【数14】
【0031】
【数15】
【0032】
【数16】 ただし、 Aw ,Bw ,Cw ,Dw :相補感度に関する重みづけ
(第1の重みづけ関数) γ:感度に関する定数重み(第2の重みづけ関数) d:操作量に関する定数重み(第3の重みづけ関数) ε:低周波数領域における目標値追従を図るための1次
フィルタの折れ点周波数である。この拡大プラントのブ
ロック線図を図2に示してある。なお、図2において符
号105はフィルタを示す。
【0033】以上の手法により(1)式の形式の拡大プ
ラントが設定されるため、ゲインスケジュールドHイン
フィニティ制御の手法により、以下の形式のコントロー
ラが導出される。
【0034】
【数17】
【0035】
【数18】 このコントローラは、低周波数領域における目標値追従
を図るための1次フィルタと直列に結合した後で離散時
間システムに変換され、デジタルコンピュータによって
実現される。
【0036】車両のトルクコンバータに内蔵されたロッ
クアップクラッチのスリップ制御を行う制御装置を上記
の手法によって構成した例を図3に示してある。図3に
おいて、符号1は車両用自動変速機におけるトルクコン
バータを示し、エンジン(図示せず)に連結されたフロ
ントカバー2と一体のポンプインペラ3に対向してター
ビンランナ4が配置されている。このタービンランナ4
は自動変速機の入力軸5に連結され、またこの入力軸5
にはロックアップクラッチ6が連結されている。このロ
ックアップクラッチ6はフロントカバー2の内面に対向
して配置され、油圧によってフロントカバー2の内面に
接触・離隔するように構成されている。さらにポンプイ
ンペラ3とタービンランナ4との間には、一方向クラッ
チ7を介して所定の固定部に連結したステータ8が配置
されている。
【0037】前記ロックアップクラッチ6を挟んでフロ
ントカバー側の油室が解放側油室9とされ、ロックアッ
プクラッチ6を挟んで解放側油室9とは反対側の油室が
係合側油室10とされている。そして解放側油室9から
油圧を供給するとともに係合側油室10から排圧するこ
とにより、ロックアップクラッチ6がフロントカバー2
の内面から離れて解放状態となり、また反対方向に油圧
を供給・排出することによりロックアップクラッチ6が
フロントカバー2の内面に押し付けられて係合状態とな
る。さらにこの解放側油室9と係合側油室10との間の
油圧の圧力差を適宜に制御することによりロックアップ
クラッチ6がフロントカバー2に対して滑り状態で接触
させられ、いわゆるスリップ制御するように構成されて
いる。
【0038】図3において符号11はリニアソレノイド
バルブを示しており、このリニアソレノイドバルブ11
は、ライン圧を調圧して得られたモジュレータ圧Pmodu
を、電子制御装置12から入力されるデューティ比に応
じて調圧し、その調圧された信号圧Plin をロックアッ
プコントロールバルブ13に出力するよう構成されてい
る。ロックアップコントロールバルブ13はセカンダリ
ーレギュレータバルブ(図示せず)で調圧された油圧を
元圧とし、これを調圧してロックアップリレーバルブ1
4に出力する調圧バルブであり、前記信号圧Plin はス
プールを挟んでスプリング15とは反対側に入力されて
いる。また、この信号圧Plin と同じ端部側に前記解放
側油室9の油圧Poff が加えられ、また反対にスプリン
グ15と同じ側に係合側油室10の油圧Ponが加えられ
ている。すなわちこれらの油圧Plin 、Poff 、Ponな
らびにスプリング15の弾性力によって調圧レベルを適
宜に設定し、その調圧レベルに応じた油圧を出力するよ
うに構成されている。
【0039】さらにロックアップリレーバルブ14は、
ソレノイドバルブ16によって選択的に供給されるライ
ン圧PL を、スプールを挟んでスプリング17とは反対
側の端部に作用させることにより切換動作するバルブで
あって、セカンダリーレギュレーターバルブで調圧され
たレギュレータ圧PClの供給される第1ポート18と、
ロックアップコントロールバルブ13から出力された油
圧の供給される第2ポート19と、解放側油室9に接続
された第3ポート20と、係合側油室10に接続された
第4ポート21とを備えている。
【0040】このロックアップリレーバルブ14の図3
示す状態は、ソレノイドバルブ16をOFF制御して
いる状態であって、第1ポート18が第3ポート20に
連通してレギュレータ圧PClを解放側油室9に供給し、
また第2ポート19が閉じられると共に第4ポート21
がドレインポート22に連通して係合側油室10から排
圧されている。したがって解放側油室9に油圧を供給し
て係合側油室21から排圧しているので、ロックアップ
クラッチ6はフロントカバー2の内面から離されて解放
状態となる。
【0041】これとは反対にソレノイドバルブ16をO
N制御すると、ロックアップリレーバルブ14にはスプ
リング17に対向する方向に油圧が加えられてスプール
が移動するので、第1ポート18が第4ポート21に連
通するとともに第2ポート19が第3ポート20に連通
する。したがって係合側油室10にレギュレータ圧PCl
が供給されるとともに解放側油室9にロックアップコン
トロールバルブ13で調圧された油圧が供給される。そ
のためロックアップコントロールバルブ13の調圧レベ
ルを低くして解放側油室9の油圧を下げれば、ロックア
ップクラッチ6がフロントカバー2の内面に押し付けら
れて係合状態となる。これに対してロックアップコント
ロールバルブ13の調圧レベルを高くすれば解放側油室
9の油圧が高くなるので、ロックアップクラッチ6をフ
ロントカバー2の内面に押し付ける荷重が小さくなり、
その結果、ロックアップクラッチ6はスリップ制御され
る。
【0042】上記のロックアップクラッチ6のスリップ
制御は、エンジン回転数やスロットル開度あるいは車速
などで決まる走行状態に基づいて目標スリップ量を決め
るとともに、実際のスリップ量がその目標スリップ量と
なるようにフィードバック制御することにより行われ
る。具体的には、前記リニアソレノイドバルブ11のデ
ューティ比を目標スリップ量を設定するフィードフォワ
ード値と実際のスリップ量を目標スリップ量に一致させ
るためのフィードバック値とに基づいて決定することに
より実行される。
【0043】前述したようにして設計されたこの発明に
かかるスリップ制御装置の効果の一例を図4に示してあ
る。ここでは、スリップ制御に関連する状態量としてス
リップ回転速度を設定している。図4は、目標スリップ
回転速度を50rpmから250rpmまでの範囲で、
50rpmごとにステップ的に変化させたときの実際の
スリップ回転速度を示したものであり、一点鎖線が目標
スリップ回転速度を示し、また実線が実際のスリップ回
転速度を示し、さらに破線が従来の手法で固定コントロ
ーラとして設計した制御装置によるスリップ回転速度を
示している。
【0044】従来例では、共振周波数付近で振動特性を
有する高スリップ回転速度領域において、振動特性を十
分減衰させるようにスリップ制御装置の係数が設定され
ている結果、振動特性のない低スリップ回転速度領域に
おいて十分な応答特性が得られていない。図4に即して
説明すれば、高スリップ回転速度領域では、破線が一点
鎖線に接近しているが、低スリップ回転速度領域では、
破線が一点鎖線から離れている。
【0045】これに対してスリップ回転速度をスリップ
制御に関連する状態量として設定している本発明例で
は、動作領域に応じて、すなわちスリップ回転数に応じ
て連続的に制御装置の係数が変化し、高スリップ回転速
度領域では十分な応答特性が得られるように動作し、全
領域において十分な安定性および応答性が確保されてい
る。図4に即して説明すれば、全領域において実線が一
点鎖線に接近している。
【0046】なお、上述した説明では、状態量をスリッ
プ回転速度(クラッチの入力側の部材と出力側の部材と
の回転速度の差)としたが、この発明における状態量
は、スリップ制御に関連するものを採用できるのであ
り、湿式クラッチの作動油の温度、クラッチに動力を入
力するエンジンの負荷、トルクコンバータに内蔵したロ
ックアップクラッチであればそのトルクコンバータのタ
ービン回転数(入力回転数)、作動油の劣化の度合い、
クラッチのフェーシング材の劣化の度合いなどの一つも
しくは複数を、スリップ制御に関連する状態量とするこ
とができる。
【0047】またこの発明は、ロックアップクラッチの
スリップ制御に限定されず、任意のクラッチのスリップ
制御に適用することができる。したがってスリップ制御
のための具体的な装置の構成は、図3に示したものに限
定されない。
【0048】
【発明の効果】以上説明したように請求項1の発明の制
御装置によれば、スリップ回転速度などの動作状態の変
化に応じて制御装置の係数が連続的に変化するので、状
態量の変化過程での安定性および応答性を、様々な動作
状態(状態量)において良好に維持することができる。
また請求項2の発明によれば、そのような優れた特性の
コントローラを製造することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の制御装置の基本概念を示すブロック
線図である。
【図2】この発明による拡大プラントを示すブロック線
図である。
【図3】この発明にかかる制御装置をトルクコンバータ
のロックアップクラッチのスリップ制御装置として具体
化して例を示す構成図である。
【図4】本発明例と従来例との安定性および応答性を比
較して示す線図である。
【図5】フィードバック制御を行う従来の固定コントロ
ーラのブロック線図である。
【図6】従来の固定コントローラによる動作領域ごとの
安定性および応答性を測定した結果を示す線図である。
【図7】周波数ごとに制御ゲインを変化させる場合の周
波数と制御ゲインとの関係を示す図である。
【符号の説明】
6 ロックアップクラッチ 11 リニアソレノイドバルブ 12 電子制御装置 100 状態量検出手段 101 係数演算手段 102 装置量指令値演算手段(コントローラ) 103 制御対象(クラッチ) 104 制御量偏差演算手段
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 木挽 康志 愛知県豊田市トヨタ町1番地 トヨタ自 動車株式会社内 (72)発明者 小野 英一 愛知県愛知郡長久手町大字長湫字横道41 番地の1 株式会社豊田中央研究所内 (72)発明者 日比野 良一 愛知県愛知郡長久手町大字長湫字横道41 番地の1 株式会社豊田中央研究所内 (72)発明者 大澤 正敬 愛知県愛知郡長久手町大字長湫字横道41 番地の1 株式会社豊田中央研究所内 (56)参考文献 特開 平7−198035(JP,A) 特開 平8−28685(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) F16H 61/14

Claims (2)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 クラッチの実際のスリップ回転速度を検
    出するスリップ回転速度検出手段を備え、該実際のスリ
    ップ回転速度が目標スリップ回転速度に一致するような
    クラッチの操作量指令値を求め、この操作量指令値に応
    じてスリップ状態を調整するクラッチのスリップ制御装
    置であって、 スリップ制御に関連する状態量を検出する状態量検出手
    段と、 前記状態量をパラメータとし、操作量指令値と実際のス
    リップ回転速度との入出力動特性を表現する状態方程式
    モデルを用い、該制御対象の状態方程式モデルでは考慮
    できない前記スリップ状態を調整する系の特性変動を、
    該特性変動をもたらす要因ごとに測定し、該複数の要因
    による特性変動の全体的特性を第1の重みづけとして近
    似的に把握し、スリップ状態をフィードバック制御する
    系が前記特性変動に対して安定であり、かつ前記実スリ
    ップ回転速度の前記目標スリップ回転速度への追従特性
    を確保するための条件として、前記目標スリップ回転速
    度から実際のスリップ回転速度までの前記状態量に依存
    して連続的に変化する係数を有する状態方程式モデルに
    おける前記状態量に前記第1の重みづけを施すととも
    に、前記目標スリップ回転速度から制御量偏差までの前
    記状態量に依存して連続的に変化する係数を有する状態
    方程式モデルにおける前記制御量偏差に応答性を確保す
    るために設けられた第2の重みづけを施し、かつ前記目
    標スリップ回転速度から操作量指令値までの前記状態量
    に依存して連続的に変化する係数を有する状態方程式モ
    ルにおける前記操作量指令値に操作量増大を防ぐた
    に設けられた第3の重みづけを施して設定された状態量
    に依存して連続的に変化する係数を演算する係数演算手
    段と、 目標スリップ回転速度と実際のスリップ回転速度との偏
    差量を求める制御量偏差演算手段と、 前記係数演算手段で演算された係数、前記状態量および
    前記制御量偏差に基づいて、操作量指令値を求める操作
    量指令値演算手段と、 を備えていることを特徴とするクラッチのスリップ制御
    装置。
  2. 【請求項2】 目標スリップ回転速度と実際のスリップ
    回転速度とが一致するようにクラッチの操作量指令値を
    出力し、該出力された操作量指令値に応じてスリップ状
    態を調整するクラッチのスリップ制御装置の製造方法で
    あって、 スリップ制御に関連する状態量と、前記実スリップ回転
    速度および前記操作量指令値とを時系列データとして測
    定し、前記状態量に関連するパラメータと前記実スリッ
    プ回転速度との積および該パラメータと前記操作量指令
    値との積との関係式と前記時系列データとに基づき、前
    記状態量に依存して連続的に変化する係数を有する制御
    対象の状態方程式モデルを同定し、 該制御対象の状態方程式モデルでは考慮できない前記ス
    リップ状態を調整する系の特性変動を、該特性変動をも
    たらす要因ごとに測定し、該複数の要因による特性変動
    の全体的特性を第1の重みづけとして近似的に把握し、 スリップ状態をフィードバック制御する系が前記特性変
    動に対して安定であり、かつ前記実スリップ回転速度の
    前記目標スリップ回転速度への追従特性を確保するため
    の条件として、前記 目標スリップ回転速度から実際のスリップ回転速度
    までの前記状態量に依存して連続的に変化する係数を有
    する状態方程式モデルにおける前記状態量に前記第1の
    重みづけを施し、 前記目標スリップ回転速度から制御量偏差までの前記状
    態量に依存して連続的に変化する係数を有する状態方程
    式モデルにおける前記制御量偏差に応答性を確保するた
    めに設けられた第2の重みづけを施し、 前記目標スリップ回転速度から操作量指令値までの前記
    状態量に依存して連続的に変化する係数を有する状態方
    程式モデルにおける前記操作指令値に操作量増大を防ぐ
    ために設けられた第3の重みづけを施して、 記フィードバック制御する系の操作量指令値を求める
    ための前記状態量に依存して連続的に変化する係数を決
    定するクラッチのスリップ制御装置の製造方法。
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