JP3407285B2 - 電解液中の添加剤定量方法 - Google Patents

電解液中の添加剤定量方法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、非鉄金属の電解精製工
程において、電解液中に添加した添加剤、具体的には、
にかわの溶存量を経時的に把握して、電解液に対する添
加剤添加の適正化を図り、最終的に電解精製工程の円滑
なる進行を管理するために利用される電解液中の添加剤
定量方法に関する。
【0002】
【従来の技術】溶製した粗板を陽極に、電解種板を陰極
に、それぞれ配置して行う非鉄金属の電解精製工程にお
いて、陰極より算出する製品陰極板の外観状態を良好に
保つ目的から、電解液中に添加剤を添加する方法が採ら
れている。特に、対象が銅である場合、添加剤として
は、にかわが多く用いられている。古来、電解液中に溶
存するにかわの量を求める方法としては、一般に、電極
反応から得られる信号を利用して終点を検知する電気滴
定法として知られるボルタンメトリー法が採用されてい
る。しかしながら、この方法の実施に際しては、定性的
または半定量的な計測には便利な方法であるものの、濃
度依存性のある分極曲線が濃度に比例するものではな
く、さらに、分極曲線の形状も一定ではない。従って、
この場合、得られた結果から濃度依存性を数式化するこ
とは困難であり,電解液に添加された添加剤の未知なる
溶存量を定量的に把握したい場合に利用する手段として
は、好適な方法とは言えない。
【0003】上記の難点を解決する手段として、電解液
中に溶存しているにかわを適正量に保つために、電解精
製工程において電解液に添加されたにかわの量をハルセ
ル試験などを基にして決定するとともに、一方では、製
品陰極板の仕上がり表面状態を観察することによって、
製品陰極板の製造工程が管理されている。しかしなが
ら、この方法では、製品陰極板の品質改善のために行う
はずの添加剤(にかわ)の添加量決定が、製品陰極板が
一部にせよ形成された後に行われるので、添加量決定前
に形成された製品陰極板が不良であると、製品陰極板の
生産性に大きな影響を及ぼしていた。
【0004】さらに、現在までのところ、電解精製処理
中におけるにかわの消費量については、定量的な解析が
困難であることから、電解液中に溶存するにかわの添加
量を最適状態に保つことは容易ではない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、電解精製処
理を施すに際して、上記の問題点を解決して、定電位に
おける作用電極の電気量の時間的変化を測定するクロノ
クーロメトリ法を用いて、電解液中に溶存する添加剤、
具体的には、にかわの量を定量的に把握出来る計測方法
を提供し、これにより、製品陰極板の外観性状を良好に
管理するする手段を提供して、製品の生産性を向上させ
ることを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者等は上記の課題
を解決するため、研究、開発を重ねた結果、電解液にお
ける分極測定を基にした一連の操作により、前記課題の
解決がされることを見出だし本発明を開示するに至っ
た。本発明においては、電解液中のにかわ濃度を変化さ
せた場合、電極反応速度定数kc (cm/sec)に濃
度依存性が認められ、にかわ濃度を0〜3(mg/l)
の範囲で変化させ、印加電圧を−150(mv)に特定
した場合には、電極反応速度定数kc (cm/sec)
はにかわ濃度にほぼ比例して減少することの認識に本発
明は基づいている。以下に、その詳細を述べる。
【0007】すなわち、本発明は、添加剤の溶存量が既
知である電解精製用電解液を用意し、陰極で生じる分極
を電気量と時間との関係として計測し、電圧印加後の特
定時間と、前記特定時間経過時の分極電気量計測値とか
ら、このときの電極反応速度定数を算出し、その後、添
加剤の溶存量をさらに増量させた複数の電解液を用意
し、これら複数の電解液に対して、前記の分極電気量計
測時に印加したと同じ電圧で電解処理を施し、前記の特
定時間と同一経過時のそれぞれの場合において、それぞ
れの分極電気量を計測し、これらの計測値から、添加剤
の溶存量の異なる3以上の電解液について、これら電解
液の電極反応速度定数をそれぞれ算出し、これらの電極
反応速度定数と添加剤の溶存量の関係から一つの直線回
帰式を求めた後、さらに、添加剤の溶存量が未知の電解
液についての電極反応速度定数を、上記複数の電解液に
ついての電極反応速度定数算出方法と同様にして算出
し、この算出値を前記の直線回帰式に代入し、よって前
記未知の添加剤溶存量を求める方法を提供する。
【0008】また、本発明は、上記の方法を採るに際し
て、電解精製が銅電解精製であり、添加剤がにかわであ
る場合に好ましい結果を示すものであり、具体的には、
電解液が銅電解精製用電解液であり、添加剤がにかわで
あり、電圧印加後の特定時間値が20、50、200、
500msecであり、添加剤の既知なる溶存量がそれ
ぞれ、0、1、2、3mg/lであり、印加電圧が−1
50mvである場合に、好ましい結果が得られる。その
上、本発明は、銅の電解精製におけるにかわ濃度(mg
/l)をXとし、電極反応速度定数kc (cm/s)を
Yとしたとき、直線回帰式がY=−2.03×10-3
+1.26×10-2である場合には、好ましい結果が得
られる。
【0009】本発明は、クロノクーロメトリー法を用い
て、陰極で生じる分極を電気量と時間との関係として計
測するが、クロノクーロメトリー法では、電極にある一
定の電位を与え、その際に流れる電流を積分して、電荷
を時間の関数として測定する電気分析化学的手法をと
る。本発明では、次の段階で測定および計算を行う。 (1)にかわの溶存量が既知の電解液を少なくとも3
種、望ましくは4種以上用意する。 (2)後述の式(数1)において、電気量Q(C)が時
間tの平方根の一次式であることに注目し、これらの電
解液に対し、電圧印加後少なくとも3点、望ましくは4
点以上の特定時間における電気量を測定し、それぞれの
電解液に対し電気量と時間の平方根の回帰式を求める。 (3)各電解液に対し前記回帰式の比例定数から、後述
の式(数1)のλを計算する。 (4)計出されたλに基づいて後述の式(数2)から各
電解液の電極反応速度定数kc を計算する。 (5)前記少なくとも3種、望ましくは4種以上の電解
液について求められた電極反応速度kc を各電解液のに
かわ溶存量に対しプロットし、にかわ濃度検量線とす
る。
【0010】電気量に関し、電荷を実際に測定するに
は、ポテンシオ/ガルバノスタットに接続したデジタル
オシロスコープを使用し、電極に電圧を印加したときの
一定時間内での電流を測定し、それぞれの時間内に測定
された電流の平均値を算出する。さらに、この算出電流
と時間との関係から電気量Q(C)を求める。一方、電
気量Q(C)は次の式(数1)で表される。
【0011】
【数1】
【0012】式(数1)において、各符号はそれぞれ以
下の値を示す。 n :銅イオンの価数 (−) F :ファラデー定数 (c/mol) A :陰極の面積 (cm2) kc :電極反応速度定数 (cm/sec) cO :定数 t :時間 (sec) π :円周率 なお、λは以下に示す式(数2)と式(数3)とで表さ
れる係数(単位:秒の平方根)である。
【0013】
【数2】
【0014】
【数3】
【0015】式(数2)と式(数3)において、各符号
はそれぞれ以下の値を示す。 kc゜ :平衡電位E=E゜における還元方向の拡散係数 DO :酸化体の拡散係数 DR :還元体の拡散係数 α :移動係数 ζ :界面動電位 na :銅イオンの価数 R :気体定数 T :絶対温度 E :起電力 E゜ :標準起電力
【0016】上記の電気量Q(C)と、サンプリング時
間の平方根(秒の平方根)とのプロットを直線回帰する
と、その直線の傾きは次式(数4)のようになる。
【0017】
【数4】
【0018】このようにして求めた回帰式において、回
帰式が時間軸と交わる点(時間t1の平方根)において
は、Q=0となり、λは式(数5)から定数として求め
られる。
【0019】
【数5】
【0020】ここで、λおよびその他の定数を式(数
2)に代入することにより、電極反応速度定数kc (c
m/sec)が求められる。このようにして、既知量の
にかわを溶存させた複数電解液それぞれの電極反応速度
定数kc (cm/sec)を求める。次いで、以上のよ
うに求めた複数の電極反応速度定数kc (cm/se
c)を直線回帰することにより添加物の溶存濃度曲線を
求め、次に、にかわ溶存量が未知の電解液についての電
極反応速度定数kc (cm/sec)を求め、上記の溶
存濃度曲線に照らして、電解液中に溶存するにかわ濃度
を定量する。
【0021】また、この場合、測定試料の採取時間は、
20、50、200、500(msec)とすること
が、より好ましい結果を招くものであることが明らかに
なった。
【0022】
【作用】本発明にては、電圧印加後の特定時間と、前記
特定時間経過時の分極電気量計測値とから、この場合に
おける電極反応速度定数を算出し、その後、添加剤の溶
存量をさらに増量させた複数の電解液を用意し、これら
複数の電解液に対して、前記の分極電気量計測時に印加
したと同じ電圧で電解処理を施し、前記の特定時間と同
一経過時のそれぞれの場合において、それぞれの分極電
気量を計測し、これらの計測値から、添加剤の溶存量の
異なる複数の電解液について、これら電解液の電極反応
速度定数をそれぞれ算出し、これらの電極反応速度定数
と添加剤の溶存量の関係から一つの直線回帰式を求めた
後、さらに、添加剤の溶存量未知なる電解液についての
電極反応速度定数を、上記複数の電解液についての電極
反応速度定数算出方法と同様にして算出し、この算出値
を前記の直線回帰式に代入し、よって電解液中に溶存す
る添加剤の未知なる溶存量を求めたので、電解精製中の
電解液に溶存する添加物量を経時的に計測可能にする。
【0023】
【実施例】本発明の実施例について、以下に詳述する。
【0024】銅濃度が49g/lであり、硫酸濃度が1
87g/lであり、液の温度が60℃である電解精製用
の電解液と、電極面積が4cm2 である圧延銅板を陰極
および陽極として用意し、印加電圧として−150mv
を与え、サンプリング時間を20、50、200、50
0msecの4種類に設定し、電解液中に添加する添加
物ににかわを選び、にかわの添加量が0、1、2、3m
g/lの添加量既知の電解液を用いて銅電解精製中の電
極反応速度定数kc (cm/sec)をそれぞれ算出し
た。参照極は銅線であった。この場合、にかわの添加量
が0、1、2、3mg/lである電解液の電極反応速度
定数kc (cm/sec)は、それぞれ、1.27×1
-2、1.08×10-2、7.96×10-3、6.87
×10-3として算出された。
【0025】ここで求めた電極反応速度定数kc (cm
/sec)をY軸に、電解液中のにかわ濃度をX軸にと
ってプロットし、最小二乗法により直線回帰すると、そ
の回帰式、すなわち、電解液中のにかわ濃度の検量線は
次の式にて表される。 Y=−2.03×10-3X+1.26×10-2 この場合に測定され、算出された結果の詳細を表1に示
す。また、にかわの濃度が既知である4種類の電解精製
用電解液の電極反応速度定数kc と、にかわの濃度とに
より求められた回帰線図を図1に示す。
【0026】
【表1】 にかわ濃度 mg/l 0 1 2 3 電 20ミリ秒 1.22 1.20 0.98 0.86 流 50ミリ秒 1.70 1.60 1.24 1.08 A 200ミリ秒 1.88 1.54 1.10 0.94 500ミリ秒 1.68 1.40 1.04 0.90 電 20ミリ秒 0.024 0.024 0.020 0.017 気 50ミリ秒 0.085 0.080 0.062 0.054 量 200ミリ秒 0.38 0.31 0.22 0.19 c 500ミリ秒 0.84 0.70 0.52 0.45 回帰式のY切片 -0.055 -0.044 -0.033 -0.028 回帰式の傾き 1.46 1.20 0.88 0.76 tiの平方根(秒の平方根) 0.152 0.148 0.148 0.148 λ(秒の平方根) 5.81 5.98 6.00 6.00 電極反応速度定数 kc cm/sec 1.27×10-2 1.08×10-2 7.96×10-3 6.87×10-3
【0027】表1中、電流(A)は実測値、電気量
(c)は電流(A)とサンプリング時間(sec)より
求めたものである。また、図1の回帰式は電気量(c)
を縦軸に、かつ、サンプリング時間(秒)の平方根を横
軸にしてプロットしたものである。この場合、前記の検
量線の相関係数は0.99であった。なお、既知量のに
かわを含む電解液を重量分析により分析すると、にかわ
の回収率は概ね添加量の90%であり、ここで用いた検
量液からのにかわの回収率は90%以上であった。
【0028】次いで、電解精製用電解液中のにかわの濃
度が未知なる電解液について、その溶液の電極反応速度
定数kc として1.10×10-2(cm/sec)を算
出し、前記の検量線を用いて濃度が未知なる電解液につ
いてにかわの濃度を測定した場合、図1に示す検量線か
ら、電解精製用電解液中のにかわの濃度として0.81
mg/lを得た。なお、当該電解液の銅濃度は50g/
l、硫酸濃度は188g/l、液温60℃、陰極、陽極
ともに圧延銅板を使用し、電極面積4cm2 、印加電圧
−150mV、参照極は銅線とし、サンプリング時間は
20、50、200、500ミリ秒とした。この場合に
測定され、算出された結果の詳細を表2に示す。
【0029】
【表2】 回帰式のY切片 -0.045 回帰式の傾き 1.22 tiの平方根(秒の平方根) 0.147 λ(秒の平方根) 6.00 電極反応速度定数 kc cm/sec 1.10×10-2 にかわ濃度 mg/l (0.81)
【0030】また、ここで,別途、重量分析法により上
記の電解精製用電解液中のにかわの濃度を測定したとこ
ろ、0.80mg/lを得た。これにより、本発明の適
切なことが明らかにされた。
【0031】[実施例2]別途、にかわの濃度が未知な
る電解精製用電解液を用意して、実施例1と同様な方法
にて、その溶液の電極反応速度定数kc として8.5×
10-3(cm/sec)を算出し、前記の検量線を用い
て濃度が未知なる電解液についてにかわの濃度を測定し
た場合、図1に示すように、電解精製用電解液中のにか
わの濃度として1.98mg/lを得た。また、ここ
で,別途、重量分析法により上記の電解精製用電解液中
のにかわの濃度を測定したところ、2.00mg/lを
得た。これにより、本発明の適切なことが明らかにされ
た。
【0032】[実施例3]別途、にかわの濃度が未知な
る電解精製用電解液を用意して、実施例1と同様な方法
にて、その溶液の電極反応速度定数kc として9.7×
10-3(cm/sec)を算出し、前記の検量線を用い
て濃度が未知なる電解液についてにかわの濃度を測定し
た場合、図1に示すように、電解精製用電解液中のにか
わの濃度として1.42mg/lを得た。また、ここ
で,別途、重量分析法により上記の電解精製用電解液中
のにかわの濃度を測定したところ、1.40mg/lを
得た。これにより、本発明の適切なことが明らかにされ
た。
【0033】
【発明の効果】本発明の実施により、製品陰極板の外観
性状に大きく影響を与える電解精製用電解液中に添加さ
れた添加物の溶存量の計測を簡便、かつ、正確に実施可
能としたため、電解精製により得られる製品陰極板の外
観性状の品質管理に貢献するところ大なるものがある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明における電解精製用電解液中に溶存する
にかわ濃度の検量線図を示すグラフである。
フロントページの続き (56)参考文献 特開 昭62−273444(JP,A) 特開 平8−285816(JP,A) 特開 平5−106100(JP,A) 特開 平6−82424(JP,A) 特開 平8−178894(JP,A) 特開 平8−178895(JP,A) 特開 平3−140493(JP,A) 特開 昭59−137853(JP,A) METALLURGICAL TRA NSACTIIONS B,米国,1976 年 9月,Vol.7B,No.3, 333−338 (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) G01N 27/42 JICSTファイル(JOIS)

Claims (4)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 添加剤の溶存量が既知である電解精製用
    電解液を用意し、陰極で生じる分極を電気量と時間との
    関係として計測し、電圧印加後の特定時間と、前記特定
    時間経過時の分極電気量計測値とから、この場合におけ
    る電極反応速度定数を算出し、その後、添加剤の溶存量
    をさらに増量させた複数の電解液を用意し、これら複数
    の電解液に対して、前記の分極電気量計測時に印加した
    と同じ電圧で電解処理を施し、前記の特定時間と同一経
    過時のそれぞれの場合において、それぞれの分極電気量
    を計測し、これらの計測値から、添加剤の溶存量の異な
    る複数の電解液について、これら電解液の電極反応速度
    定数をそれぞれ算出し、これらの電極反応速度定数と添
    加剤の溶存量の関係から一つの直線回帰式を求めた後、
    さらに、添加剤の溶存量が未知なる電解液についての電
    極反応速度定数を、上記複数の電解液についての電極反
    応速度定数算出方法と同様にして算出し、この電極反応
    速度定数と前記の直線回帰式とに基づいて、前記未知な
    る添加剤溶存量を求めることを特徴とする電解液中の添
    加剤定量方法。
  2. 【請求項2】 電解液が銅電解精製用電解液であり、添
    加剤がにかわであることを特徴とする請求項1に記載の
    電解液中の添加剤定量方法。
  3. 【請求項3】 電解液が銅電解精製用電解液であり、添
    加剤がにかわであり、電圧印加後の特定時間が20、5
    0、200、500msecであり、添加剤の既知なる
    溶存量がそれぞれ、0、1、2、3mg/Lであり、印
    加電圧が−150mvであることを特徴とする請求項1
    に記載の電解液中の添加剤定量方法。
  4. 【請求項4】 直線回帰式がY=−2.03×10-3
    +1.26×10-2であることを特徴とする請求項3記
    載の電解液中の添加剤定量方法。
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METALLURGICAL TRANSACTIIONS B,米国,1976年 9月,Vol.7B,No.3,333−338

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