JP3323491B2 - Neuを介して起こる形質転換の抑制方法とそのための組成物 - Google Patents

Neuを介して起こる形質転換の抑制方法とそのための組成物

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、癌遺伝子を介して
起こる形質転換、腫瘍形成および転移を抑制する方法
と、これに関連する遺伝子構成体に関する。特に本発明
は、これまで予後に問題があったヒトの乳房および卵巣
の癌腫の癌遺伝子である、HER−2/c−erb B
−2/neu癌遺伝子が介する腫瘍形成の抑制に関す
る。
【0002】
【従来の技術】ヒトに悪性腫瘍が発生することは、多く
の場合ヒトのゲノムにおける「癌遺伝子」の存在と発現
との間に相関関係があり得ることが過去10年の間に次
第に科学的に分かってきた。これまでに20種類以上の
癌遺伝子が腫瘍形成に関連付けられており、ヒトの癌に
直接的な役割を果たしていると考えられている(Wei
nberg,R.A.,1985)。癌遺伝子と同類で
ある、「プロトオンコジーン」と呼ばれる正常細胞にあ
る遺伝子が突然変異を起こして発現を変えたり、発現産
物が活性化したりすると、癌遺伝子となる場合が多い。
事実、多くのデータが、増殖信号に反応する発現(例え
ば、Campisiら、1983参照)および胚進化の
過程での発現(Mullerら、1982)を含めて、
プロトオンコジーンと細胞増殖とを結びつけている。さ
らに、プロトオンコジーンの多くは、成長因子・増殖因
子、または細胞成長因子レセプターのどちらかと関連が
ある。
【0003】c−erbBは上皮成長因子レセプター
(EGFr)をコードする遺伝子であるが、鳥の赤芽球
症ウイルスの形質転換性遺伝子とよく相同している(D
ownwardら、1984)。このc−erbB遺伝
子は、多くのプロトオンコジーンが属している、チロシ
ンに特異性のあるタンパク質キナーゼ系の1物質であ
る。最近になって、c−erbB−2とも、HER−2
とも、あるいはneu癌遺伝子ともいろいろと呼ばれて
はいるが、結局は1種類である癌遺伝子(以下、簡単に
するためneu癌遺伝子という)と、このc−erbB
遺伝子が類似はしているが、お互いに別個の物質である
ことが分かった。現在ではneu癌遺伝子はヒト女性患
者の乳癌と生殖管癌の病因と密接な関係があることで知
られている。
【0004】neu癌遺伝子は、p185腫瘍抗原をコ
ードするものであるが、化学的に誘発したラット神経膠
腫症のDNAをNIH 3T3細胞にトランスフェクト
して行ったトランスフェクションの研究(Shihら、
1981)によって同定されたものである。p185タ
ンパク質は細胞外膜貫通と細胞内ドメインとを持ち、従
ってその構造は成長因子レセプターの構造と調和してい
る(Schechterら、1984)。ヒトneu遺
伝子は最初、v−erbBプローブとEGF−rプロー
ブに相同しているために単離されたものである(Seb
baら、1985)。
【0005】形質転換性neu癌遺伝子とそれに対応す
る正常細胞遺伝子であるneuプロトオンコジーンの分
子クローンを作ると、neuによりコードされたp18
5タンパク質の膜貫通ドメインで一個のアミノ酸が変わ
ることから生じる単点変異によって、neu癌遺伝子が
活性化するのが分かる(Bargmannら、198
6;Hungら、1989)。
【0006】neu癌遺伝子は、その存在がヒト乳癌と
女性生殖系癌の発生と関連がある点で、医学的に特に重
要である。さらに、この遺伝子の増幅/過剰発現は、こ
れまでもヒト乳癌の再発と残存とに直接的な相関関係を
持ってきた(Slamonら、1987)。従って、n
eu癌遺伝子に関する情報、特にこの遺伝子の存在また
は活性化が原因と考えられる癌の進行を逆行させたり、
抑制したりするのに適用できる情報を発展させること
は、医学にとってきわめて重要な目標である。残念なが
ら現在までのところ、neu癌遺伝子などの癌遺伝子の
存在と結びついた腫瘍形成の発現型をどのようにすれば
抑制できるのか、その方法がほとんど分からなかった。
【0007】広範な研究成果により、正常細胞が多段階
からなる過程を経て腫瘍形成の発現型に転換するとの考
え方が支持されるようになった(例えば、Landら、
1983参照)。二つのDNA腫瘍ウイルス、即ちアデ
ノウイルスとポリオーマウイルスの研究により、先ずこ
の仮定を支持する分子モデルが完成された。アデノウイ
ルスの場合、一次細胞が形質転換するためには初期領域
1A(E1A)と1B(E1B)の両方の遺伝子の発現
が必要であることが分かった(Houwelingら、
1980)。続いて、E1A遺伝子産物が中期領域のT
抗原または活性H−ras遺伝子と協力して一次細胞を
形質転換させ得ることが分かった(Ruley,H.
E.,1985)。これらの観察により、形質転換過程
には多重機能が関与していること、および種々の癌遺伝
子が細胞レベルで似たような機能を発現しているかも知
れないことが示唆されている。
【0008】アデノウイルスのE1A遺伝子は、多くの
興味ある性質を持った数種の関連するタンパク質をコー
ドする。E1Aは、それ自体形質転換で第二の癌遺伝子
を補うことができるばかりでなく、密接に関連する機能
により一次細胞の無限増殖を可能にすることもできる
(Ruley,H.E.,1985)。例えば、E1A
遺伝子産物を一次細胞に導入して血清の存在下で培養す
ると、この細胞は限りなく増殖することができる能力を
獲得することが立証された。
【0009】E1A機能のもう一つの興味ある作用は、
E1A遺伝子産物がアデノウイルスの初期プロモーター
と主要な後期プロモーターを含む各種ウイルスおよび細
胞のプロモーターからの転写を刺激する「トランス活性
化」である。しかながら、トランス活性化はプロモータ
ー全てに対してあるわけではない。いくつかの例では、
E1Aはエンハンサー成分と結びついた細胞プロモター
からの転写を減少させてしまう(Haleyら、198
4)。また最近にいたり、外部からE1A遺伝子を添加
すると、転移力が弱い細胞NM23遺伝子を活性化する
ことによって、rasにより形質転換したラットの胚線
維芽細胞が転移する可能性を低く抑えることができるこ
とも立証された(Pozzattiら、1988;Wa
llichら、1985)。
【0010】E1A遺伝子産物は、この遺伝子が産生す
る二つのmRNAの沈降値に関連して、それぞれ13S
産物、12S産物と呼ばれている。これら二つのmRN
Aは同じ一つの前駆体に由来するが、異なるスプライシ
ングにより形成され、かつそれぞれアミノ酸289個と
243個の関連するタンパク質をコードしている。これ
ら二つのタンパク質には内部にアミノ酸46個の差があ
るが、これらのアミノ酸はS13に独特である。多くの
E1Aタンパク質種をPAGE分析により分析すること
が可能であるが、これらのE1Aタンパク質は、第一次
翻訳産物に多大な翻訳後修飾がおこなわれることにより
形成されると考えられている(Harlowら、198
5)。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、これまで形
質転換の促進に関与するというE1A遺伝子の特徴付け
られてきたが、意外にもE1A遺伝子産物がneu癌遺
伝子の発現を抑制するばかりでなく、neu癌遺伝子の
活性化に伴う腫瘍形成性発現型も抑制するのに実際に役
立ち得るとの本発明者らの発見に関する。この予期せざ
る発見は、neu癌遺伝子を介して起こる癌を処置する
ため、さらに、特にこの癌遺伝子の制御と、一般的には
癌の発現型を、より良く理解するための新規アプローチ
の門戸を開くものである。
【0012】
【課題を解決する手段】従って本発明は、癌遺伝子とし
て作用することでそれ自体が知られている遺伝子である
アデノウイルスE1A遺伝子の産物が、neu癌遺伝子
の形質転換力を抑制するために効果的に使用することが
できるという、驚くべき発見に基づく。従って、本発明
の一般的な意味での特徴は、neu癌遺伝子を介して起
こる細胞の形質転換を抑制する方法に関する。この方法
は、腫瘍形成性発現型を効果的に抑制する様式で、細胞
の形質転換、腫瘍形成または転移の可能性の減少により
示されるように、、およびそのためにE1A遺伝子産物
をこのような細胞に導入する工程を包含する。
【0013】本発明は、以下を提供する。 1. 細胞の形質転換、腫瘍形成および転移の可能性の
減少として現れるような癌遺伝子の発現型の抑制に有効
であるようにして、E1A遺伝子産物を細胞に導入する
ことよりなる、neu癌遺伝子を介して起こる細胞の形
質転換の抑制方法。 2. 上記E1A遺伝子産物をコードするDNAセグメ
ントを導入することにより、該産物が細胞に導入される
項目1に記載の方法。 3. 上記DNAセグメントがE1A遺伝子とそれに関
連するコントロール配列よりなる項目2に記載の方法。 4. 上記DNAセグメントがベクター上に所在する項
目3に記載の方法。 5. 上記ベクターがプラスミドベクターからなる項目
4に記載の方法。 6. 上記ベクターがウイルスベクターからなる項目4
に記載の方法。 7. 上記ベクターがレトロウイルスベクターからなる
項目6に記載の方法。 8. 上記E1A遺伝子産物がE1A 12Sまたは1
3S遺伝子産物からなる項目1に記載の方法。 9. 上記DNAセグメントがE1A 12Sまたは1
3S遺伝子産物の何れかをコードする項目2に記載の方
法。 10. 上記DNAセグメントがE1A 12Sおよび
13S遺伝子産物の双方をコードする項目9に記載の方
法。 11. 上記細胞の腫瘍形成の可能性が抑制される項目
1に記載の方法。 12. 上記細胞の転移の可能性が抑制される項目1に
記載の方法。 13. neu p185膜貫通タンパク質の細胞内含
量を抑制するのに有効であるようにして、E1A遺伝子
産物を細胞に導入することよりなる、neu遺伝子を有
する細胞のneu遺伝子の発現の抑制方法。 14. 上記E1A遺伝子産物をコードするDNAセグ
メントを導入することにより、該産物が細胞に導入され
る項目13に記載の方法。 15. 上記DNAセグメントがE1A遺伝子とその関
連するコントロール配列からなる項目14に記載の方
法。 16. 上記DNAセグメントがベクター上に所在して
いる項目15に記載の方法。 17. 上記ベクターがプラスミドベクターからなる項
目16に記載の方法。 18. 上記ベクターがウイルスベクターからなる項目
16に記載の方法。 19. 上記ベクターがレトロウイルスベクターからな
る項目18に記載の方法。 20. 上記E1A遺伝子産物が12Sまたは13S遺
伝子産物からなる項目13に記載の方法。 21. 上記DNAセグメントがE1A 12Sまたは
13S遺伝子産物の何れかをコードする項目14に記載
の方法。 22. 上記DNAセグメントがE1A 12Sおよび
13S遺伝子産物の双方をコードする項目21に記載の
方法。 23. neu遺伝子を介して起こる形質転換を抑制す
る組成物の製造におけるE1A遺伝子または遺伝子産物
の使用。 24. neu遺伝子が介する形質転換を抑制する組成
物の製造において、E1A遺伝子産物をコードする遺伝
子セグメントを使用することよりなる項目23に記載の
使用。 25. 上記遺伝子セグメントがE1A遺伝子とそれに
関連するコントロール配列からなる項目24に記載の使
用。 26. 上記DNAセグメントがベクター上に所在する
項目25に記載の使用。 27. 上記ベクターがプラスミドベクターからなる項
目26に記載の使用。 28. 上記ベクターがウイルスベクターからなる項目
26に記載の使用。 29. 上記ウイルスベクターがレトロウイルスベクタ
ーからなる項目28に記載の使用。 30. 上記DNAセグメントがE1A 12Sおよび
13S遺伝子産物の双方をコードする項目24に記載の
使用。
【0014】
【発明の実施の形態】一般に、E1A遺伝子産物が腫瘍
形成性発現型の監察される抑制に直接的な効果があるこ
とが提唱される点において、例えばウイルスを介して遺
伝子をトランスフェクトすること、DNAトランスフェ
クションさらには遺伝子産物を微量注射法により直接導
入するなどの任意の好都合な方法でE1A遺伝子産物を
細胞内に導入することにより、本発明の目的を達成する
ことが出来ると考えられる。これらの方法は、例えばn
eu癌遺伝子の抑制の研究での適切な研究手段となるこ
とが提唱される。しかし、疾患治療が意図される場合に
は、neuの抑制に必要なE1Aタンパク質の特定ドメ
インをコードするDNAセグメントを細胞内に導入す
る、選択したE1A遺伝子産物を導入することが必要で
ある。
【0015】いずれにせよ、これまでにE1A遺伝子産
物の広範囲な特徴づけが確立しているし、また遺伝子そ
のもののクローンも既に作られているので(例えば、B
erkら、1978参照)、本発明を実施しようとする
当業者は、すぐにでも出発原料、即ちE1A産物と遺伝
子を入手することが出来る。遺伝子そのものを用いて遺
伝子産物を導入する場合、最も簡便な導入方法は、E1
A遺伝子とこれに関連するコントロール配列を取り入れ
ている組換えベクターを使用することである。E1Aコ
ントロール配列(即ち、E1Aプロモーター)を使用す
ることは好ましいことではあるが、処理すべき細胞の遺
伝子型と相容性を持つ限り他のコントロール配列を使用
してもよい。有用な他のプロモーターの例を挙げれば、
SV40早期プロモーター、レトロウイルスからのLT
R(長末端反復)プロモーター、アクチンプロモーター
(actin promoter)、熱ショックプロモ
ーター、メタロチオネインプロモーターなどがある。
【0016】E1A遺伝子の導入については、ベクター
構成体を用いて、E1A遺伝子を患部の細胞に輸送する
ことが望ましいことが提唱される。このためには普通、
構成体が乳房あるいは生殖系どちらかの細胞に到達しな
ければならないことは言うまでもない。ウイルスベクタ
ーを使ってE1A配列を輸送し、効果的に腫瘍あるいは
まだ腫瘍化していない組織に感染させることによりEI
A遺伝子を導入すれば、最も好ましくこの目的を達成す
ることができることが提唱される。これらのベクター
は、レトロウイルスあるいはワクシニアウイルスである
ことが好ましい。これらのベクターは、従来から所望の
配列を細胞に輸送することに高い実績があり、且つ感染
効率が高い傾向があることから好ましい。アデノウイル
スなどの他のウイルスベクターは、ワクシニアウイルス
やレトロウイルスよりも遥かに大きいゲノムを持ってい
るため、望ましくない。
【0017】少なくとも出発点としては、特に望ましい
ベクターとして、ロバート(Robert)らが198
5年に発表したpSVXE1A−Gと呼ぶE1A含有レ
トロウイルスベクターが挙げられる。このベクターはS
V−40の早期プロモーターによって制御されているE
1A遺伝子を含有してなるものである。この構成体は、
直接使用して本発明を実施しても良いし、あるいは上記
で挙げたより望ましい他のプロモーター導入の出発点と
して使用してもよいことが提唱される。
【0018】本発明者の研究により12Sおよび13S
E1A遺伝子産物のどちらによってもneu遺伝子の
発現を抑制できることが立証されており、この二つの産
物を入れ換えて使用したり、あるいは両者を併用するこ
とによって、本発明を実施することができることが提唱
される。12Sおよび13Sのいずれの産物も本質的に
は同一の遺伝子配列から誘導されたもので、スプライシ
ングのみが異なっているだけであるから、E1A遺伝子
そのものが使われている場合には、単に野生型E1A遺
伝子を直接使用することが最も便利である。しかしなが
ら、野生型E1A遺伝子の全部を使わないで、E1A遺
伝子のある領域のみを使用してもよいことが意図され
る。E1A遺伝子構成体を受け取る細胞に不必要なDN
Aを導入しないように、neu遺伝子を抑制するのに必
要な最小の領域のみを使用することが、最も望ましいこ
とが提唱される。
【0019】一般に、形質転換、腫瘍形成および転移の
可能性の低減度を測定する技術は当該分野において周知
である。例えば、DNA合成が細胞増殖能のよい尺度と
なっているところから、処理された細胞と処理されてい
ない細胞のDNA合成量を測定・比較することが最も簡
単な検定方法である。さらに、形質転換の尺度として形
質転換細胞と未転換細胞の軟寒天上で増殖する能力を比
較することが広く行われている。従って、neu癌遺伝
子を介しておこる形質転換の抑制に用いられるE1A産
物の能力の測定には、上記二つの検定技術の何れかを用
いるのが好都合であり得る。
【0020】また、neu癌遺伝子を介しておこる腫瘍
形成あるいは転移の可能性の抑制度を評価することを所
望する場合に、検定方法がまた利用可能である。腫瘍形
成の可能性については、ヌードマウスを用いる生体内
(in vivo)検定により処理細胞の腫瘍形成能力
を評価するのが、最も便利でしかも最も信頼性の高い指
標である。同様にしてヌードマウスを用い、例えば処理
された細胞が実験用マウスの肺に転移性結節を作る能力
を測定することによって、転移の可能性を評価すること
もできる。
【0021】本発明者らによって、E1A遺伝子産物が
neu遺伝子の発現が直接後の抑制により機能すること
が観察されており、従って本発明はさらにneu遺伝子
の発現や過剰発現を抑制する方法に関する。これらの実
施態様の方法では、細胞中のneu p185膜貫通タ
ンパク質の含量を抑制するようにE1A遺伝子産物を患
部細胞に導入する方法を含むものとする。p185の発
現の抑制は既存の多数の方法で容易に評価することがで
きるが、その中で最も便利な方法はゲル電気泳動分析に
よりp185の減少量を測定する方法である。上記で形
質転換に関連して開示したこれらのさらなる実施態様に
E1A遺伝子またはその産物を導入する同じ手段を適用
することができる。
【0022】(発明の詳細な説明)neu癌遺伝子は、
もともとラットの神経芽/膠芽腫から同定された形質転
換性遺伝子である(Shinら、1981)。後年にな
り、活性化されたneu癌遺伝子、およびその正常細胞
遺伝子である正常neu遺伝子の両方のクローンがラッ
トとヒトの遺伝子ライブラリーから作られるようになっ
た(Bargmannら、1986;Coussens
ら、1985;Hungら、1986;Yamamot
oら、1986)。neu遺伝子は上皮成長因子レセプ
ター(EGF−r)と関連はするが、これとは別個のも
のである185KDa膜貫通タンパク質(p185)を
コードする。neuによりコードされたp185および
EGF−rは、リガンド結合、膜貫通および細胞内キナ
ーゼのドメインを含め、全体の構造組織がEGF−rで
あり、しかも広範な配列が互いに相同性を有し、特にチ
ロシンキナーゼドメインのアミノ酸の80%以上が同一
である。最近になって、neuによりコードされたp1
85タンパク質のリガンドがラットの細胞で機能的に同
定され、さらにヒト乳癌細胞から単離された。このこと
によって、neuによりコードされたp185タンパク
質が、正常ならびに悪性の細胞増殖と細胞成長(Lup
uら、1990;Yardenら、1989)にどのよ
うな機能を果たすのかについてよりよく理解できるであ
ろう。
【0023】活性化されたneu癌遺伝子の膜貫通ドメ
インではアミノ酸が1個だけ置換し、正常な遺伝子と比
べてチロシンキナーゼ活性が昂進している。neuプロ
トオンコジーンが増幅すると、単点の変異によって、癌
遺伝子の活性化が促進されることが認められている(H
ungら、1989)。ヒトの原発性乳癌と卵巣癌の2
5〜30%では、ラットneu癌遺伝子と相同のHER
−2またはc−erbB2と呼ぶヒトホモログが増幅/
過剰発現となっていることが証明されている(Hung
ら、1988;Slamonら、1987)。neuが
過剰発現がない患者と比較すると、neuが過剰発現と
なっている乳癌患者の全体的生存率は有意に低く、およ
び再発までの時間も短くなっていることを示し、neu
の過剰発現を予後を知る要素ととして用いることができ
るかも知れないことを示唆する(同上)。また、ヒトn
eu遺伝子の増幅/過剰発現は、乳癌患者の転移陽性を
示すえき窩リンパ節の数と相関することが認められてい
る(同上)。これらの研究成果から、neu癌遺伝子が
悪性腫瘍の形質転換および転移に重要な役割を果たして
いることが示唆されている。
【0024】アデノウイルスのE1A遺伝子の主要な機
能は、ウイルス感染が許容されている間に、宿主細胞の
転写系を修飾してアデノウイルスの早期領域全体を形質
転換させ、宿主細胞の無限増殖を引き起こすことにより
他のアデノウイルス遺伝子を活性化させることにある
(Berkら、1986)。E1Aタンパク質によって
非アデノウイルス遺伝子の転写が活性化されたり、抑制
されたりすることの両方が報告はされているが(Bor
relliら、1984;Henら、1985;Lil
lieら、1989;Sassome−Lorsiら、
1987;Steinら、1987)、多くの症例でど
のような機能的意義を持ち、どのような生理学的インパ
クトがあったのかは、明らかではない。興味あること
は、体外からE1A遺伝子を与えると、最近になってク
ローニングされおよび細胞の転移抑制遺伝子として特徴
づけされている細胞nm23遺伝子が活性化されて、r
asにより形質転換したラットの胚腺維芽細胞(RE
F)の転移の可能性が減ることが立証されたことである
(Pozzaatiら、1988)。さらに、E1A遺
伝子がトランスフェクトされると、分泌されているプロ
テアーゼ遺伝子の転写レベルでの発現が抑制されて、そ
してヒト腫瘍細胞の転移が阻止されることも認められて
いる(Liotta,1989)。
【0025】本発明者らは、neu遺伝子のプロモータ
ー活性に対するE1A遺伝子産物の効果を研究し、E1
Aタンパク質がヒト、ラット何れのneu癌遺伝子の転
写レベルでの発現を抑制できることを見いだした。ne
u遺伝子とE1A遺伝子とは共に、形質転換性遺伝子と
してよく知られており、上記の所見からneuにより形
質転換した細胞に対してE1Aタンパク質が転写を抑制
することによって形質転換抑制作用を示すのではない
か、との興味ある疑問を持つに至った。
【0026】この疑問を追求するため、本発明者らは生
物機能検定系を開発し、この系によってE1Aの効果を
検討した。neuにより形質転換したB104−1−1
細胞にElA遺伝子を導入して、E1A遺伝子産物を安
定に発現する誘導体を作り、これらの細胞をB−E1A
細胞と名づけた。次いで、neuにより形質転換した親
細胞のB104−1−1細胞株とB−E1A細胞株とを
ヌードマウスに注射した後、双方の形質転換した発現型
を比較した。その結果、E1A遺伝子産物はneu癌遺
伝子が介する細胞の形質転換と転移を抑制する作用を有
するとの劇的な所見を得た。
【0027】次に述べる実施例により、本発明者らはn
eu遺伝子の発現を抑制するE1A遺伝子の能力(実施
例1)、およびneu遺伝子が介する腫瘍形成(実施例
II)、neu遺伝子が介する転移(実施例III)を
立証する。本発明の代表例としてこれらの実験を開示す
るものであるが、当業者は、これらの実施例を修正およ
び改変を作っても、その多くは本発明の趣旨と範囲内に
あることを理解すべきである。
【0028】
【実施例】(実施例1:アデノウイルス5 ElA遺伝
子産物によるneuプロトオンコジーンの転写抑制)こ
の実施例は、アデノウイルスE1A 12Sおよび13
S産物がneuプロモーターの転写活性を抑制するのに
効果があることを立証する本発明者らによって行われた
研究に関する。特に、この抑制のためにはE1Aタンパ
ク質の保存領域2(CR2)が必要であることを示す。
さらに、これらの研究がneuプロモーターの上流領域
のシス作用性(cis−acting)DNAエレメン
トのためE1A遺伝子産物がプロモーターをトランス阻
止(trans inhibition)することがで
きることが示唆された。 1.材料と方法 a.プラスミド 本研究で組換え体を使用したことは既に述べた。pE1
A(Changら、1989;Hearingら、19
85)は、E1A領域遺伝子のみを発現するプラスミド
である。pE1A12SとpE1A13Sは、それぞ
れ、12S E1Aタンパク質と13S E1Aタンパ
ク質を発現する(Hearingら、1985)。pE
1A−d1343(Hearingら、1985)では
E1A遺伝子コード配列中で塩基対2個がフレームシフ
ト欠失している(アデノウイルスヌクレオチド配列の6
21および622位)。pE1A−d1346(Hea
ringら、1985)では、ヌクレオチド859−9
07(48塩基対)がフレーム内欠失しているため、E
1Aタンパク質のCR2内でアミノ酸16個が欠失して
いる。pE1AprはE1Aプロモーター(E1Aキャ
ップ部位に関する−499から+113)のみを含む。
pE2A−CAT(Chungら、1989)は、クロ
ラムフェコール・アセチルトランスフェラーゼ(CA
T)レポーター遺伝子と融合したE2早期プロモーター
を含むレポータープラスミドである。pRSV−CAT
はラウス肉腫ウイルス(RSV)LTR(long t
erminal repeat)により制御されたCA
T遺伝子を含むレポータープラスミドである。pE1
B、pE2およびpE3はそれぞれ、E1B、E2およ
びE3遺伝子を発現するプラスミドである。pNeuE
coR1−CATは、ラットのneuプロモーター2.
2キロベース(kb)とCAT遺伝子と結びついた上流
配列を含む。この実験で用いたneuプロモーターの欠
失変異株は、図3と図4aの注釈で説明する。pRSV
−β−galにはβ−ガラクトシダーゼ遺伝子と結びつ
いたRSV−LTRが含まれているが、これはトランス
フェクト効率の内部コントロール(対照)として用いた
ものである。
【0029】b.細胞培養 公知の方法により細胞を培養した(Hungら、198
9;Matinら、1984)。子ウシ血清とウシ胎仔
血清おのおの10%を加えたダルベッコ改良型イーグル
培地(DMEM)によりラット1およびSK−BR−3
細胞を増殖した。
【0030】c.DNAトランスフェクション トランスフェクション(transfection)は
すべて、Andbrsonらが改良したGraham−
Van der EBのリン酸カルシウム沈澱法(Hu
ngら、1989;Andersonら、1979;A
usubelら、1987))によって行った。トラン
スフェクト毎に、トランスフェクトの24時間前に、ラ
ット1(Rat−1)の細胞8×105個またはSK−
BR−3の細胞2×106個(2×10cm皿)を接種
した。同一の実験においてサンプル間で9DNAトラン
スフェクト量は、概量の担体DNA(pSP64)を添
加することにより一定(最高、30μg)に保った。
【0031】d.CAT検定 トランスフェクトの40時間後、細胞抽出物を調製し
た。細胞溶解液の一部は、同時にトランスフェクトした
pRSV−β−galプラスミド由来のβ−ガラクトシ
ダーゼ活性について検定した。CAT検定(Gorma
nら、1982)はすべて、トランスフェクト効率の内
部コントロールに対して規格化した。CAT検定によっ
て、細胞抽出物中の[14C]クロラムフェニコールのア
セチル化をモニターする。[14C]クロラムフェニコー
ルとその産物は薄層クロマトグラフィ(TLC)により
分離して、オートラジオグラフィで目視検査をする。T
LC紙のスポットおのおの切り取って、それらの放射能
を液体シンチレーション分光測定により検定し、CAT
の相対活性を計算した。各実験は、再現ができるように
して少なくとも3回繰り返し、数回の実験のうち代表的
なものを示す。
【0032】e.免疫ブロット トランスフェクトの40時間後、SK−BR−3細胞の
溶解液を調製し、そして公知の方法(Matinら、1
984)で免疫ブロットを実施した。ヒトneu遺伝子
産物に対するmAB−3モノクローナル抗体[p185
タンパク質]は、オンコジーンサイエンス社(Onco
gene Science)から購入した。 2.試験結果 a.アデノウイルス5(AD5)E1A産物によるne
uの転写抑制 neuプロモーターと上流配列を含むDNAセグメント
2.2kbをCAT発現ベクターと融合させて、pNe
uEcoRI−CATプラスミドを形成した。ラット1
細胞を用いた一過性発現の検定(図1A)においては、
pNeuEcoR1−CATを、E1A遺伝子を発現す
るプラスミドであるpE1Aと共に同時トランスフェク
トすると、CAT活性が顕著に減少するのが認められ
た。ところが、プラスミドベクターであるpSP64と
同時トランスフェクトしてもCAT活性に効果はなかっ
た。同時トランスフェクトされたE1Aプロモーターが
細胞の転写因子を滴定するためにneuプロモーターか
らの転写が減少したのかも知れない可能性を消去するた
め、E1Aプロモーターのみを含む欠失変異株pE1A
prを、pNeuEcoR1−CATと共に同時トラン
スフェクトしたが、CAT活性に対する効果は認められ
なかった。RSV LTRにより制御されているCAT
遺伝子を含むレポータープラスミドはE1Aに反応せ
ず、CATの発現が減少したのはE1Aによる転写が全
般的に減少したためではないことを示している。
【0033】平行して行った実験において、pE1Aと
pE2A−CAT(E2早期プロモーターに割り込まれ
たCAT遺伝子)を同時トランスフェクトして、E1A
産物がE2A転写系の転写を刺激するか否かの検定を行
った。その結果では、同一のpE1A濃度範囲内でne
uの抑制とE2Aプロモーターのトランス活性化(tr
ansactivation)が起こったことが認めら
れた。他のアデノウイルス早期遺伝子がneuプロモー
ターを抑制するか否かを見るため、アデノウイルス早期
遺伝子の一つ一つを発現するプラスミドを、pNeuE
coR1−CATと共に同時トランスフェクトしたが、
E1B、E2またはE3だけではCAT活性に変化はな
かった。これらアデノウイルスの早期遺伝子の中では、
E1A遺伝子のみがneuプロモーターの抑制物質とし
て機能することが示唆されている。
【0034】b.neu抑制はE1A濃度依存性で、そ
してE1A保存領域2を必要とする E1A遺伝子産物とneuプロモーターとの相互作用を
さらに検討するため、pNeuEcoR1−CATと共
に同時トランスフェクトすべきpElAを1:1、2:
1、3:1および4:1の比で増量して行った(図2
a)。neuプロモーターで指向される遺伝子の発現は
pE1A濃度に依存しながら阻止されること、およびp
E1A:pNeuEcoR1−CATの比が1:1と低
くとも50%の抑制が起こることが認められた。
【0035】Ad5 E1A遺伝子は、おのおのアミノ
酸243個と289個の長さを持つタンパク質をコード
する12Sと13SのmRNAという2つの重要な産物
をスプライシングによって産生する(Moranら、1
987)。上記で見た抑制はどのE1A遺伝子産物が原
因であるかを検討するため、12Sと13SのE1A遺
伝子産物(pE1A−12SまたはpE1A−13S)
のどちらかを発現する組換え体プラスミドを用いた以外
は上記と同様にして実験を行った。図2bとcで示すよ
うに、12Sおよび13S産物の双方に濃度依存性のn
eu転写抑制効果を認めた。
【0036】E1A遺伝子産物には、3つの高い保存性
を持つ領域、すなわちCR1,CR2およびCR3があ
る(Moranら、1987;Van Damら、19
89)。CR1とCR2は12Sにも、13Sにも存在
しているが、CR3は13S産物独特のものである。1
2Sそのものはneuを効果的に抑制できるのだから、
本発明者らは、CR3が無くともE1Aによるneu転
写の抑制は可能であると考えられる。
【0037】さらに、E1Aタンパク質のCR1または
CR2がneuの効果的な抑制に必要であるか否かを確
認するため、欠失変異株pE1Ad1343とpE1A
d1346を用いて、平行実験を行った(Hearin
gら、1985)。pE1Ad1343変異株のE1A
コード配列では塩基対2個が欠損しているため、E1A
産物の3つの保存領域全部がフレームシフトになってい
て、無傷で残っているのはN末端のアミノ酸40個だけ
である。pE1Ad1343変異株をpNeuEcoR
1−CATと共に同時トランスフェクトしたが、CAT
活性に対する効果は認められなかった。pE1Ad13
46変異株にはフレーム内欠失があるためCR2でアミ
ノ酸16個が欠損しているが、CR1は保存されてい
た。この変異株はneu転写を発現することはできなか
った(図2d)。本発明者らは、E1A遺伝子産物のC
R2が、効果的にneu転写を抑制するのに必要である
との結論を得た(図2e)。
【0038】c.E1A抑制に反応するneuプロモー
ター中の標的DNAエレメントの局在 E1A産物の転写抑制を媒介するneuプロモーター中
の標的DNAエレメントの位置決定するため、機能性C
AT遺伝子と結びついたneuプロモーターの1部を含
む1連の5’欠失構成体を、pE1Aと共にラット1細
胞に同時トランスフェクトした(図3a)。コントロー
ル(対照)のプラスミドベクターpSP64またはpE
1Aを1:2の比で同時トランスフェクションをする
と、これらプロモーターフラグメントおのおのに駆動さ
れたCAT遺伝子に一過性発現を認めたが、これを図3
bに示す。最小のプロモーターフラグメントを含んだp
NeuXhoI−CATだけがE1Aによって抑制され
なかった。明かに、StuI−Xho I制限フラグメ
ント内の部位の活性がE1Aによる抑制に対して感受性
を持っているのである。このStu I−Xho I制
限フラグメントは、E1Aによる抑制に対して感受性で
ある。このStu I−Xho I制限フラグメントの
位置は、neuの転写開始部位に関して−198と−5
9の間である。本発明者らは、E1Aによる抑制に反応
する標的DNAエレメントは、この139bpのStu
I−Xho Iフラグメント内に存在するとの結論を
得た。
【0039】d.トランス作用性(Transacti
ng)因子が関与していることの立証 E1A産物によるこの抑制がトランス作用による過程で
あるか否かを検討するため、本発明者らは、pSP64
中にクローン化されたStu I−Xho I制限フラ
グメントのみを含む第三の組換え体、pSP64/St
u−Xhoを同時トランスフェクトすることにより、抑
制の消去を試みた。同時トランスフェクションでは、p
NeuEcoR1−CATの転写がpE1Aにより抑制
されたが、pSP64/Stu−Xhoを増量するとn
eu転写の抑制が濃度に依存しながら軽減された(図4
a)。これとは対照的に、pSP64中にクローン化さ
れたEcoRI−XBA I制限フラグメント含むpS
P64/RI−Xbaを同時トランスフェクトしたとき
は、抑制解除が認められなかった。pSP64/Stu
−Xho:pNeuEcoR1−CATの比が4:1で
あるとき抑制解除が効果的であった(図4a,第六番目
のレーン)。このことは、E1Aによるneuの抑制に
関与する転写因子に対して、Stu I−Xho Iフ
ラグメントがneuプロモーターと有効に競合できるこ
とを示唆している。これらの結果から、neuプロモー
ターにおけるE1A抑制に対する標的は、このプロモー
ターのStu I−Xho Iフラグメント内のシスD
NAエレメントであることを確認している。さらにま
た、この転写の抑制は、DNAエレメントと、E1A産
物あるいはE1A産物と相互作用をするかまたはこれに
誘導されたいくつかの細胞転写因子のどちらかとの間の
相互作用が関与している可能性もある。
【0040】e.SK−BR−3細胞中のヒトneu発
現の抑制 ラットneuプロモーター配列のStu I−Xho
Iフラグメントと、これに対応するヒトneuプロモー
ターの配列とを比較すると86%を超えて相同である
(Talら、1982)。ヒトneu遺伝子の転写レベ
ルも同様のメカニズムを経てE1Aにより抑制され得る
と考えられた。その通りであるとすれば、ラットneu
プロモーターのStu I−Xho Iフラグメントを
同時トランスフェクトすれば、E1Aによる生じるヒト
neuの抑制を軽減できるかもしれない。
【0041】この可能性の検討のため、レセプター細胞
としてヒトneu mRNAとp185タンパク質を過
発現することで知られているヒト乳癌の細胞株SK−B
r−3(Krausら、1987)を用いて同時トラン
スフェクション実験を行った。SK−BR−3細胞の溶
解液の免疫ブロット実験を行ったところ、E1Aを導入
するとヒトneu遺伝子産物の発現物であるp185タ
ンパク質は減少した(図4b、第一番目と第四番目のレ
ーンとを比較せよ)。pSP64/R1−Xbaプラス
ミドとpE1Aとを4:1の比で同時トランスフェクト
したがp185の発現のE1Aによる抑制を消去するこ
とはできなかった。同じ比率でpSP64/Stu−X
hoとpE1Aを同時トランスフェクトしたところE1
Aによる抑制が軽減された。
【0042】一過性トランスフェクトは最高の効率でも
50%しか達成されないことはよく知られている(Ch
enら、1988)。トランスフェクトされなかったS
k−Br−3細胞の残り50%は依然として高レベルの
p185タンパク質を産生し、これがE1Aを介してp
185を抑制する場合、高率のバックグラウンドとな
る。従って、neuがコードする内因性のp185を一
過性トランスフェクトしたE1Aが抑制するのを免疫ブ
ロットで検定してもCAT検定ほど劇的な結果を得るこ
とはできなかった。しかしながら、小さな差を再現性よ
く見いだすことができた。E1Aは、この結果の最も良
い解釈は、ラットneuプロモーターのStu I−X
ho Iフラグメントに相当するヒトneuプロモータ
ーのシス作用性DNAエレメントを標的にすることによ
り、ヒトneuプロモーターを転写レベルで抑制し得る
ということである。
【0043】f.TGGAATG配列はE1Aが介する
抑制に重要な部位である 報告によると、サルのウイルス40(Borrell
ら、1984)、ポリオーマウイルス(Velcich
ら、1986)、免疫グロブリン重鎖(Henら、19
85)およびインシュリン遺伝子(Steinら、19
87)の、エンハンサーが介する転写の活性化を、E1
Aが抑制する。これらの遺伝子のエンハンサー配列を比
較すると、E1Aに反応する成分のコア配列となる可能
性があるコンセンサス配列(次式に示す)が明らかにな
る。
【0044】
【0045】しかしながら、これまでにこの見方を支持
する実験データがなかった。ラットneuプロモーター
のStu 1−Xho 1のうちE1Aに反応する成分
から、コンセンサス配列と合致するTGGAATG配列
が見いだされる。ヒトneuプロモーターの対応する領
域でも同一の配列が存在している(Talら、198
7)。したがって、TGGAATG配列はE1Aが誘発
する抑制に重要な目標配列であると考えられる。
【0046】この可能性を検討するため、TGGAAT
G配列を含むラットneuプロモーターの20マー・オ
リゴヌクレオチドを合成した(図5)。このオリゴヌク
レオチドはE1Aによるneu抑制に関与する転写因子
に対して、neuプロモーターと効率よく競合し、抑制
解除効果を認めたが(図5、第二番目のレーン)、これ
に反し非相同の22マー・ランダムオリゴヌクレオチド
には抑制解除効果がなかった(図5、第三番目のレー
ン)。これらのデータにより、20マー・オリゴヌクレ
オチドはE1Aが誘発する阻止に必要な重要配列を含む
ことが実験的に立証された。この20マー・オリゴヌク
レオチドのTGGAATG配列は、E1Aによって抑制
され得る他の遺伝子のエンハンサー配列中のコンセンサ
ス配列に似ているので、この7bpの配列はE1A効果
を媒介する重要な配列である可能性もある。
【0047】3.考察 これまでに述べた結果は、同時トランスフェクト系にお
いて、E1A遺伝子産物がneu発現の転写レベルを抑
制したことを示している。さらに、CR2の一部(アミ
ノ酸120〜136)が欠損するとE1A産物からne
u発現の抑制効果が失われることも立証された。アデノ
ウイルスE1AのCR2領域の欠失部分は、これと同じ
モチーフの構造がパポーバウイルス大腫瘍抗原、v−と
c−ミック・オンコプロテイン(v− and c−m
yc oncoproteins)、ヒトのパピローマ
ウイルスのE7形質転換タンパク質および酵母有糸分裂
調節DCD25遺伝子産物にも存在している(Figg
eら、1988)。同じモチーフをコードするこの領域
は、E1A、サルのウイルス40大腫瘍抗原およびヒト
のパピローマウイルス16 E7がヒトの網膜芽細胞腫
遺伝子産物、RBタンパク質に特異的に結びつくために
も必要である(Whyteら、1988;Whyte
ら、1989)。
【0048】これらの試験でさらに、オリゴヌクレオチ
ドの配列が、neuプロモーターの上流領域でE1Aが
誘発した抑制を仲介することを明らかにした。TGGA
ATG配列は、ラットとヒトのneuプロモーター間で
保存されていて、機能的な重要性が示唆されている。ま
たこの配列は、E1Aにより転写レベルで抑制され得る
他の遺伝子のコンセンサス配列と一致している。これら
の所見を総合して考えると、このタイプのE1Aを介す
る抑制には共通するメカニズムが存在する可能性も考え
られる。従来から、E1Aは細胞の転写因子と複合体を
形成していて、従って転写因子が転写にとっては重要な
エンハンサー成分と特異的に結合するのを調整するとさ
れてきた(Mitchellら、1989)。E1Aを
介してneu転写が阻止される原因となっている規定さ
れたDNA配列が同定され、このためこの過程に関与し
ている転写因子も同定することが可能である。
【0049】転移性乳癌患者では、neuプロトオンコ
ジーンが顕著に増幅する。ras癌遺伝子により形質転
換したラット胚細胞を実験的に転移させて、E1A遺伝
子を発現させると、この転移を阻止することができる。
つまり、ラット胚腺維芽細胞の樹立細胞株であるラット
1においてE1A産物がneu転写を抑制できることが
証明されている。さらに、ヒト乳癌細胞SK−BR−3
において、E1A遺伝子を導入するとヒトneu遺伝子
産物であるp185タンパク質の発現が減少した。一
方、Stu I−Xho Iフラグメントを用いて同時
トランスフェクト実験を実施し、抑制解除効果を認めた
が、これは同様の転写抑制メカニズムによりp185タ
ンパク質が減少するものらしいことを示している。
【0050】(実施例II:アデノウイルス5 E1A
遺伝子産物のneu癌遺伝子の形質転換に対する抑制作
用)実施例1においては、一過性トランスフェクト検定
によってアデノウイルス5E1A遺伝子産物がneuプ
ロトオンコジーンの転写を強く抑制することが証明され
た。本実施例においては、neuで形質転換したB10
4−1−1細胞にE1A遺伝子を安定的に導入し、E1
Aが介するneu抑制によって、neuが介する形質転
換活性を抑制できることを証明する。これらの試験にお
いて、E1A産物を発現した細胞では形質転換力と腫瘍
形成力が低減したことが、おのおのの標準的な検定によ
り証明されている。さらにまた、E1A遺伝子産物がn
eu癌遺伝子の発現型の形質転換を負に抑制することが
できることが証明されたが、E1Aは一つの環境では形
質転換させる癌遺伝子として働き、もう一つの環境では
形質転換を抑制する遺伝子として作用する遺伝子の最初
の例であると信じられている。
【0051】B104−1−1細胞株は、変異活性化し
たゲノムneu癌遺伝子を約10〜20コピー持ってい
るNIH3T3のトランスフェクタントであり、形質転
換力と腫瘍形成力が高いことで知られている(Barg
mannら、1986;Sternら、1986)。本
実験では、B104−1−1細胞とコントロール(対
照)であるNIH3T3細胞には、アデノウイルス5
E1A遺伝子を発現するE1Aプラスミド(pElA)
か、E1Aコード配列がないE1Aプロモーターのみを
含む誘導体プラスミド(pE1Apr)のどちらかをト
ランスフェクトした。さらに、これらの細胞に、ネオマ
イシン耐性の標識遺伝子を含むpSV2neoプラスミ
ドを同時トランスフェクトした(Southernら、
1982)。
【0052】トランスフェクションは改良型リン酸カル
シウム沈澱法(Chen andOkayama,19
88)により実施した。トランスフェクション毎に、ト
ランスフェクション24時間前にB104−1−1細胞
またはNIH3T3細胞を5×105個(2×10cm
皿)を接種した。これらの細胞と共に、pE1Aプラス
ミドDNAまたはその誘導体であるpE1Aprプラス
ミドDNAを発現するE1Aのいずれかのl0μgと、
pSV2−neoプラスミドDNA 1μgをトランス
フェクトした(Southernら、1982)。トラ
ンスフェクトの約14時間後、細胞を洗い、新鮮な培地
に移してさらに24時間培養して、1:10の比で分割
した。その後細胞をG418 500μg/mlを含む
選択培地で2〜3週間増殖し、クローニング・リング
(cloning rings)を使用してG418耐
性コロニーおのおののクローンを作ってから、大量培養
に移行した。
【0053】このようにして次の三種の安定したトラン
スフェクタントを樹立した。(1)B−E1Aトランス
フェクタント:E1A遺伝子を含むB104−1−1ト
ランスフェクタントである。(2)B−E1Aprトラ
ンスフェクタント:E1Aプロモーター配列を含むB1
04−1−1トランスフェクタントで、この実験ではコ
ントロール細胞株として使用する。(3)N−E1Aト
ランスフェクタント:E1A遺伝子をトランスフェクト
したNIH3T3細胞である。
【0054】細胞の培養は公知の方法によった(Hun
gら、1989;Matinら、1989)。B104
−1−1細胞株とNIH3T3細胞株は、子ウシ血清1
0%を加えたダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)
により、湿潤化5%CO2、37℃の雰囲気下で増殖し
た。B−ElAトランスフェクタントとN−E1Aトラ
ンスフェクタントも、培地にG418(500μg/m
l)を加えたこと以外は同様にして増殖した。
【0055】図6は、この実験で用いた代表的な、安定
したトランスフェクタントをサザンブロット法と免疫ブ
ロット法を使用した処理した分子的な特徴を示すもので
ある。サザンブロット法は、実質的には前報で発表され
た方法(Zhangら、1989)を用いた。即ち、培
養細胞から抽出したゲノムDNAを抽出し、制限エンド
ヌクレアーゼ(EcoR1,Sst1とBamH1のう
ちのどれか)の2倍の余剰量を加えて37℃で一晩消化
した。その後サンプル10μgずつを1%アガロースゲ
ル上での電気泳動により分解し、10×SSC(1.5
m NaCl、0.15M クエン酸ナトリウム)を用
いるナイトラン(Nytran)膜に移した。DNAを
ブロットし、ランダム・プライムド・DNA・ラベリン
グ・キット(Random Primed DNA L
abeling Kit: Boehringer M
annheim Biochemicals,Indi
anapolis,IN)による標識をつけた[32P]
放射性プローブ(1〜5×108CPMμg-1)を使用
して、高ストリンジェント条件(68℃)でハイブリッ
ド形成を行った。ブロットは15分間で2度洗った。洗
いは毎回、室温で2×SSCと0.1%SDSとを用い
て行った。その後さらに、30分間で2度洗った。この
場合の洗いは毎回、68℃で、常に撹伴をしながら、且
つ0.1×SSCと0.1%SDSとを用いて行った。
フィルターは室温で乾燥し、−80℃でコダックx−O
MATTMARフィルムに1〜3日間露出させた。
【0056】免疫ブロット法は、実質的には前報(Ma
tinら、1990)で発表された公知の方法(Tow
binら、1979)を用いた。10cmのプレートで
増殖し、集密的となった細胞をRIPA−B緩衝液(リ
ン酸ナトリウム 20mM,pH7.4,NaCl 1
50mM,EDTA 5mM,トリトン(Trito
n)1%,アプロチニン(Aprotinin)10μ
g/ml,PMSF 2mM,ロイペプチン(Leup
eptin)10μg/mlおよびヨード酢酸4mM)
で溶解したのち、4℃で20分間10×gの遠心分離を
行った。上澄み液のタンパク質濃度をバイオラッドタン
パク検定(Bio−Rad Laboratorie
s,Richmond,CA)により測定した。サンプ
ル50μgずつをSDSポリアクリルアミドゲル電気泳
動(10%)にかけた後、ニトロセルロースフィルター
に移した。TPBS緩衝液(Tween−20 0.0
5%,NaCl 138mM,KCl 2.7mM,N
2HPO4・7H2O 4.3mMおよびKH2PO4
1.4mM)中に脱脂乳3%を溶解したものでニトロセ
ルロースフィルターを室温で1時間処理した後、E1A
タンパク質に対する一次モノクロナール抗体M73(オ
ハイオ州立大学 L.S.Chang博士より恵贈)、
またはneuによりコードされたp185タンパク質に
対する一次モノクローナル抗体mAb−3(Oncog
ene Science Inc.Manhasse
t,NY.から購入)を加えて4℃で一晩インキュベー
トした。さらにニトロセルロースフィルターをTPBS
緩衝液で1回10分間ずつ、3回洗った後、西洋ワサビ
ペルオキシダーゼ(horseradish pero
xidase)に共役のヤギの抗マウス免疫グロブリン
(Bio−Rad Laboratories)の1:
1000希釈液を加えて室温で1時間インキュベートし
た。ニトロセルロースフィルターをTPBS緩衝液で3
回洗った後、西洋ワサビペルオキシダーゼ基質(Kir
kegaard & Perry Laborator
ies,Inc.,Gaithersburg,MD)
を用いて着色反応を実施した。
【0057】外因性のE1A遺伝子またはE1Aプロモ
ーターDNAがトランスフェクタントのゲノムと一体化
しているか否かを確かめるため、E1Aプローブによる
DNAブロット分析を行ったところ、トランスフェクタ
ント外来DNAが完全に取り入れられていることが分か
った(図6a)。この実験の対象としたB−E1Aトラ
ンスフェクタント3種(B−E1A−1,B−E1A−
2およびB−E1A−3)が、異なる転写数のE1A遺
伝子を必要とすることは興味あることである。また、免
疫ブロット法によりE1A検出を試みたところ、B−E
1AとN−E1Aトランスフェクタント双方が実際にE
1Aタンパク質を産生していること、これらトランスフ
ェクタント中のE1Aタンパク質の含量は、アデノウイ
ルスDNAにより形質転換した初代ヒト胚性腎臓の樹立
された細胞株である293細胞株よりも低かったことが
さらに確認された(図6b)。
【0058】E1Aの発現によってneuの発現を阻止
できるか否かを確かめるため、neuによりコードされ
たp185タンパク質の免疫ブロット検定をまたは行っ
たが、実際上どのトランスフェクタントからも西洋ワサ
ビペルオキシダーゼ検出法によりp185タンパク質を
検出することはできなかった(図6c)。しかしなが
ら、より感度が高い125Iタンパク質検出A法を用いる
と、B−E1A−3で、B−E1A−1やB−E1A−
2よりもやや多いp185タンパク質のレベルが検出さ
れ得る。B−E1Aトランスフェクタントからp185
タンパク質がほとんど検出されないところから、neu
遺伝子が欠失していなことを確かめるため、ラットのn
eu遺伝子に関するDNAブロット分析を行った。図6
dに示す通り、E1A遺伝子がゲノム中に取り込みはD
NAのneu遺伝子のDNAレベルを変化させなかっ
た。
【0059】B−E1Aトランスフェクタント3種のう
ち、B−E1A−2とB−E1A−3は、親細胞株であ
るB104−1−1に匹敵する量のneu遺伝子を含ん
でいたが、B−E1A−1のneu遺伝子量は低かっ
た。これは、トランスフェクト細胞株を樹立する過程
で、この細胞株におけるneu遺伝子の1部を失ったの
が理由であると考えられる。図6で示したB−E1Aト
ランスフェクタント3種を選択しさらに形質転換検定を
行うことにした。なぜならば、これらはB−E1Aトラ
ンスフェクタントの相異なる3種の亜種だからである。
(1)B−E1A−1はB104−1−1と較べるとn
eu遺伝子の転写数が少なく、そして、E1A遺伝子の
転写数は多い。(2)B−E1A−2は、neuの量は
B104−1−1と同一であり、そしてE1A遺伝子の
量は高い。(3)B−E1A−3は、neuの量はB1
04−1−1と同じであるが、E1A遺伝子の量は低
い。
【0060】neuによって形質転換した細胞の形質転
換性発現型(transforming phenot
ype)は、通常、形質転換した形態、接触阻止ではな
い増殖パターン、速いDNA合成速度、足場依存性では
ない増殖、ヌードマウス(nu/nu)に腫瘍を誘発す
る能力などを内容とする。neuによって形質転換した
B104−1−1細胞が持つ形質転換をさせる能力に対
するE1A発現の効果を確かめるため、すべての上記の
形質転換パラメータに関して、B−E1Aトランスフェ
クタントとコントロール細胞株を標準プロトコルを用い
て分析した。
【0061】この実験結果のうち、形質転換の程度が高
かったB104−1−1細胞の形態は、pE1Aprを
トランスフェクトしても実質的に変化を生じなかった
が、pE1Aのトランスフェクト後では顕著な変化が認
められた(図7)。B−E1Aトランスフェクタントで
は、形態が形質転換せず平たい形のままであること、増
殖パターンが接触阻止型であることが認められた(図
7)。NIH3T3細胞でE1Aタンパク質を発現させ
たが、単層の形態に有意の変化を認めなかった。この結
果を見ると、E1A遺伝子産物は、neuが形質転換さ
せた細胞の形質転換性形態を有意に逆転させたことが示
唆されている。
【0062】また、細胞増殖の尺度としてDNA合成を
検討し、B−E1Aトランスフェクタントがコントロー
ルと較べて活発にDNAを合成しているか否かを調べ
た。この実験は[3H]チミジンの取入れ検定を使って
行った。これらの研究に関して、細胞は10個のレプリ
カ培養を行った。これは、96ウェルのプレート上で、
1ウェルにつき細胞9×103個を入れ、DMEMに子
ウシ血清10%を加えた培地により培養した。[3H]
チミジン(1μCl)は16時間、40時間および64
時間の各時点でウェルのおのおのに加え、37℃で2時
間インキュベートした。その後、細胞を採集し、細胞の
DNAをガラス繊維フィルターに連結した。各サンプル
の放射能はシンチレーションカウンターで計測し、平均
cpmは複製サンプル10個から計算した。
【0063】DNA合成率は[3H]チミジンの取入れ
量から換算したが、B−E1Aトランスフェクタント3
種それぞれで異なっていた(図8a)。B−E1A−1
およびB−E1A−2のDNA合成率ははるかに低かっ
たが、このことはこの2種の細胞増殖速度がB104−
1−1細胞のそれと較べて遅かった事実と一致してい
た。このE1Aが誘発した[3H]チミジンの取込みの
減少はB−E1A−3細胞株では劇的ではなかった。こ
のことは、恐らくE1Aタンパク質の含量が低いことが
原因であろう。これらのデータから、E1Aタンパク質
がDNA合成と細胞増殖に対するneu癌遺伝子の効果
を阻止することが出来ることを示唆している。
【0064】足場依存性をもたない増殖に対するE1A
タンパク質の影響を見るため、B104−1−1細胞と
B−E1Aトランスフェクタントが軟寒天で成長できる
か否かを分析した。公知の方法(Matinら、199
0)によりB104−1−1細胞、B−E1Aトランス
フェクタント、NIH3T3細胞およびN−E1Aトラ
ンスフェクタントの軟アガロース中で増殖する能力を測
定した。24個のウェルを持つプレートに、つぎのDM
EM培地を入れ、プレートあたり細胞1×10 3をおい
た。DMEM培地は、子ウシ血清10%を含み、且つ上
層にアガロース0.35%(BRL,Gaithers
burg,MD)、下層にアガロース0.7%の二層か
らなる培地とした。細胞は37℃で3週間インキュベー
トし、プレートを37℃で24時間かけてp−ヨードニ
トロテトラゾリウム・バイオレット(p−iodoni
trotetrazolium violet)(1m
g/ml)で染色し、コロニーを数えた。
【0065】軟寒天による実験結果では、E1Aトラン
スフェクタントはB104−1−1とB−E1Aprト
ランスフェクタントと比較して、コロニー形成を著しく
減少させたことを示している(図8b)。NIH3T3
とN−E1A−1の2つの細胞株はコロニー形成を有意
に変えなかったことは注目に値する。
【0066】新生物の挙動に関する最も厳密な実験的な
試験は、ヌードマウスに注射された細胞が腫瘍を形成す
る能力である。E1Aの効果を吟味する試験のうちで、
neuが介する腫瘍形成をE1Aが抑制するのをin
vivoで試験することが決定的重要性を持つことに鑑
み、ヌードマウスによる実験を行うことにしたものであ
る。腫瘍形成用として、対数増殖期のB104−1−1
細胞、B−E1Aトランスフェクタント、NIH3T3
細胞とN−E1Aトランスフェクタントにトリプシン処
理し、リン酸緩衝液および生理食塩水の混液で2度洗っ
て、250×gで遠心分離した。その後生存可能な細胞
を数えて、リン酸緩衝液および生理食塩水の混液0.1
mlに細胞1×105個を投入した。無菌条件で生後5
〜6週間の、ホモ接合の雌ヌードマウス(Harlan
Sprague DawleyCo.)を保持し、こ
のヌードマウスの脇腹左右側に上記の細胞液を皮下注射
した。指定日毎に、可視の腫瘍塊の有無により腫瘍形成
を記録し、注射後第16日に、長さ、幅、厚さをカリパ
スで計測した値(最長の表面の長さ、幅および腫瘍の厚
み)の積を腫瘍の容量として判定した。腫瘍成長のモニ
ターは、最短16日間、最長2月間行った。
【0067】親細胞のB104−1−1系はヌードマウ
スに皮下注射した場合、注射後第8日までに固形種が形
成された。しかしながら、同一量のE1Aトランスフェ
クタントは、注射後第12〜26日まで腫瘍が形成され
なかったし、またどのマウスでも、腫瘍の大きさはB1
04−1−1細胞によるものより遥かに小さかった(図
9a)。
【0068】また、B−E1A−1トランスフェクタン
トとB−E1A−2トランスフェクタントはいずれも、
ほぼ同量のE1A遺伝子を含有しているのであるが、B
−E1A−1細胞では、遙かに遅くなってから腫瘍が形
成し始めた。これは、この細胞株では、neu遺伝子の
量が低いことが原因であると思われる。他方、B−E1
A−2トランスフェクタントとB−E1A−3トランス
フェクタントとは、B104−1−1と同一量のneu
遺伝子を含んでいるのだが、B−E1A−3の形質転換
抑制効果はB−E1A−2のそれほど強くない。これ
は、B−E1A−3のE1A遺伝子の含量が低いためと
思われる。E1Aを発現させてneu癌遺伝子で作った
腫瘍を抑えるこの実験で、代表的なものは、図9bと1
1aの写真である。注射後第18日でみると、B104
−1−1細胞の注射をうけたマウスは巨大な腫瘍を持っ
ているが、B−E1A−2トランスフェクト細胞を注射
したマウスでは、かなり小型の腫瘍結節しか持っていな
い。予想されていたように、NIH3T3細胞の注射を
受けたコントロールマウスには腫瘍形成を認めなかっ
た。
【0069】ウイルムス腫細胞(Wilm’s tum
or cells)とヒト前立腺癌腫DU145細胞に
関する過去の研究において、ウイルムス腫細胞にクロモ
ソーム11を再導入したり、DU145細胞にRB遺伝
子を戻してやると、腫瘍形成を抑制するが、細胞の形
態、増殖速度、コロニー形成能力には変化が認められな
かったことが報告されている(Weissmanら、1
987;Bookstineら、1990)。これらの
データは、培養の増殖速度とヌードマウスの腫瘍形成は
別個の現象であることを示している。本研究では、B−
E1A−1細胞およびB−E1A−2細胞の増殖速度が
遅く、また腫瘍形成活性が非常に弱いことが認められ
た。しかしながら、増殖速度の遅いことと、[3H]チ
ミジンの取り込みが少ないことだけでは、腫瘍形成の抑
制を説明することはできない。例えば、B−E1A−3
細胞の[3H]チミジンの取り込みと、細胞増殖速度は
Bl04−1−1細胞と似たような水準にあるのだが、
B−E1A−3細胞の腫瘍形成活性は著しく抑制されて
いた。これらを総合してみると、neuが形質転換させ
た細胞の形質転換性特性はすべて、B104−1−1細
胞にE1A遺伝子を導入することによって抑制すること
ができる。
【0070】(実施例III:neuが介する転移のE
IA遺伝子産物による抑制)B104−1−1のB−E
1Aトランスフェクタントを用いて、EIA産物により
neuが介する転移を抑制できることを、立証する追加
実験を実施した。この実験においては、B−E1Aトラ
ンスフェクタント(B−E1A−1〜B−E1A−
5)、ならびに細胞運動、in vitro侵襲と実験
的に作った転移を検定するための負と正のコントロール
としてNIH/3T3とB104−1−1をそれぞれ使
用した。
【0071】この転移実験は、実質的にWexlerが
1966年に発表した方法により実施した。簡単に説明
すると、病原菌なし、生後6週間の雌ヌードマウス(H
arland)を1週間隔離した後本実験で使用した。
1実験あたりマウス7〜10匹毎に1群を作り、尾部を
横に走る静脈に0.1mlあたり1×105個の細胞を
含むPBSを接種し、接種の日を第0日とした。各細胞
株は2つの継代数によって評価した。マウスは注射後第
21日に殺し、墨汁を浸透させてから肺転移数を測定し
た。肺の結節は直径1mmより大きな結節のみを数え
た。さらに調べたが、肺以外の転移を認めなかった。マ
ウスの肺全体の外観の代表的な写真を図11bに示す。
一方、本実験の定量的データを次の表1に示す。
【0072】
【表1】 neuを介する転移を阻止するE1Aの効果は、図11
bに明示されている。さらに、この成果1つだけで本研
究全体を代表できるものである。負のコントロールであ
るマウス、NIH/3T3、E1Aをトランスフェクト
したNIH/3T3(N−E1A)で、転移した肺の結
節を認めたものはなかった。しかしながら、正のコント
ロール(B104−1−1とB−neo)ではすべて、
平均頻度約10で転移性の結節を認めた。これとは対照
的に、実験細胞株(B−E1A−1〜B−E1A−5)
は、頻度範囲1〜3(おのおの10および9のうち)で
転移の可能性を低下させたし、また正のコントロールで
あるマウスの平均結節数は0.1〜0.8.であった。
2つの実験細胞株、B−E1A−1とB−E1A−3に
は、転移が全くなかったことに注目すべきである。
【0073】これまでに、細胞運動が増加すると、転移
の可能性も高くなることが証明されている。したがっ
て、化学誘引剤のフィブロネクチンまたは肝臓洞様毛細
血管の内皮細胞で調節した培地を使って試験細胞の泳動
を測定することにより運動検定を実施した。図10aで
示す通り、化学誘引剤を変えて行った検定においてすべ
てのB−E1Aトランスフェクタントの泳動率は、B1
04−1−1細胞にネオマイシン耐性(neo’)遺伝
子のみをトランスフェクトして形成したB−neo細胞
株の泳動率よりも低かった。N−E1A細胞の泳動率も
低く、NIH3T3細胞のそれに匹敵していた。
【0074】転移過程のもう1つの段階として、組織と
基底膜の侵襲を挙げることができる。in vitro
侵襲検定では、B−neo細胞とB−E1A細胞株との
間には著しい相違があることを示した。B−neo細胞
は、B104−1−1細胞と同様に高い侵襲率を示した
が、B−E1Aトランスフェクタントはマトリゲル(M
atrigel)を侵襲することもできなかった。B−
neo細胞と5種のB−E1A細胞株をヌードマウスの
尾部静脈に注射したところ、肺結節の頻度と数について
劇的な相違があることを認めた(図10bおよび表
1)。5種のB−E1Aトランスフェクタントのうち2
つでは、転移性腫瘍を実験的に作ることは全くできなか
った。残る3種のB−E1A細胞株で実験的に作ること
ができる転移は、B−neo細胞と比較すると非常に低
率であった(P>0.01)。予想していた通り、N−
E1A細胞では転移性の肺結節を作ることはできなかっ
た。これらの結果から、neuによって形質転換された
3T3細胞が転移しようとする場合、E1A遺伝子産物
がneu遺伝子の発現によって転写を抑制することによ
り転移を減少することができるのは明白である。
【0075】図11bで代表される本発明の結果から、
E1A遺伝子産物はneu遺伝子が介する腫瘍形成と形
質転換を抑制するばかりでなく(実施例II)、neu
が介する転移も抑制することが証明された。
【0076】上記のごとく本発明の組成および方法を最
良の実施形態として開示してきたが、当業者にとって明
白なように、本発明の思想、趣旨および範囲から逸脱す
ることなく、本明細書で述べられている組成、方法およ
び方法の段階または段階の配列について変法を適用する
ことができる。より詳しくは、化学的および生理学的に
関連している薬剤により、本明細書で述べている薬剤を
置き換えて、同一あるいは類似の結果を達成することが
可能であることも明白である。当業者にとり明白な上記
の類似する置換物および改良物はすべて、後述の請求の
範囲で定めている本発明の趣旨、範囲および思想の範囲
内にあるものとみなす。
【0077】(参考文献)下記の文献は、ここで採用さ
れた方法、技術、および/または組成物のためのまたは
それらを教示する背景を補い、説明し、提供する限りに
おいて、参照することにより本明細書の一部をなすもの
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85
【0078】
【発明の効果】本発明により、アデノウイルスE1A遺
伝子またはその産物を用いて癌またはその転移を処置す
ることが予想外に可能になった。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1。 (a)neuプロモーターの転写がE
1A遺伝子産物によって抑制されたことを示す。ラット
1(Rat−1)細胞にpNeu−EcoR1−CAT
構成体5μgをトランスフェクトした。この構成体中の
CAT遺伝子は、2.2kb上流領域のDNA配列を含
むneu癌遺伝子プロモーターによって割り込まれてい
る。第一番目のレーンはneuプロモーターの基礎活性
(その相対CAT活性を100%とする)を表す。第二
〜四番目のレーンは、担体であるDNApSP64ベク
ター10μgを同時にトランスフェクトした後のCAT
活性(102%,第二番目のレーン)を表す。第三番目
のレーンはE1Aを発現するプラスミドpE1A(34
%)を表す。第四番目のレーンはE1Aプロモーターの
みを含有するプラスミドであるpE1Apr(98%)
を表す。RSV LTR(10%,第五番目のレーン)
が制御するCAT遺伝子を含有するレポータープラスミ
ドであるRSV−CATのCAT活性は、pE1A 1
0μg(98%,第六番目のレーン)あるいはpE1A
20μg(96%,第七番目のレーン)を同時トラン
スフェクトしても、著しく変化することはなかった。 (b)neuプロモーター活性に対する各種アデノウイ
ルスの早期遺伝子の効果を示す。図に示す通り、pNe
uEcoRI−CATとpSP64ベクターまたは各種
アデノウイルスの早期遺伝子であるE1A,E1B,E
2AとE3を発現するプラスミドを同時にトランスフェ
クトした。相対CAT活性は次の通りである。SP6
4,100%;E1A,35%;E1B,97%;E2
A,99%;E3,102%。RSV−CATは正のコ
ントロール(対照)として使用した。
【図2】図2。(a)は、pE1A、(b)は、pE1
A−13S、 (c)は、pE1A−12S、 (d)
は、pE1Ad1346をそれぞれ増量しながら同時ト
ランスフェクトした場合の、neuプロモーターの一過
性発現を示す。pNeuEcoR1−CAT構成体の量
は固定しておき(5μg)、これと上記の試料構成体
5、10、15および20μgを、ラット1(Rat−
1)細胞に同時トランスフェクトした。トランスフェク
トしたDNAの全量は、担体DNA pSP64の適当
量を添加することにより一定に保った。E1Aをトラン
スフェクトしない場合(上記図2a〜dのにおけるレー
ン0)の相対CAT活性を100%とする。試料構成体
5、10、15および20μgを同時トランスフェクト
したときの相対CAT活性は次の通りである。すなわ
ち、E1Aについては、68%,35%,26%,17
%であり、E1A−13Sについては、72%,48
%,36%,24%であり、E1A−12Sについて
は、66%,46%,28%,21%であり、E1Ad
1346については、102%,103%,99%,1
02%である。(e)neuプロモーターの一過性発現
に対する各種E1A変異体の効果を要約する図である。
各種E1A変異体によりコードされたタンパク質の構造
の概念図を棒グラフに示した。ハッチングの部分はE1
A産物の保存タンパク領域を示す。この棒グラフは一定
のスケールになっていない。
【図3】図3は、neuプロモーターの上流領域におけ
るE1A反応性DNAエレメントの位置を示す。 (a)neuプロモーター5’欠失構成体の概略地図で
ある。これらの構成体はそれぞれCAT遺伝子と融合し
てプラスミドを形成しているが、プラスミドには構成体
を作るときに用いた制限酵素の名をつけてある。 (b)ラット1の細胞にプラスミド5μgとpE1A
(E)または担体DNApSP64(c)10μgとを
同時トランスフェクトした場合、プロモーターフラグメ
ント構成体のおのおのに指示されて発現するCAT遺伝
子の発現量を示す。各トリプレット検定の上に掲げてい
る制限酵素の名は、地図において構成体の名と一致させ
てある。
【図4】図4は、拮抗する量のStu I−Xho I
neuプロモーターフラグメントを同時トランスフェ
クトした場合のneuの抑制解除を示す。 (a)ラット1の細胞に、pNeuEcoR1−CAT
プラスミド5μgをトランスフェクトして、neuプロ
モーター基礎活性を与えた(第一番目のレーン)。これ
にpE1A 5μgを同時トランスフェクトすると、C
AT活性が抑制されてしまうのが第二番目のレーンに示
されている。pSP64でクローンを作ったStu I
−Xho I neuプロモーターフラグメントを含む
プラスミドpS64/Stu−Xhoを、pNeuEc
oR1−CATおよびpE1Aと共に同時トランスフェ
クトした。第三〜六番目のレーンは、pSP64/St
u−Xhoを次第に増量(おのおの5、10、15およ
び20μg)してゆくと拮抗効果が出て来ることを示し
ている。EcoR1−Xbu neuプロモーターフラ
グメントを含有するプラスミドpSP64/R1−Xb
aを、pNeuEcoR1−CATおよびpElAと共
に同時トランスフェクトした。第七〜九番目のレーン
は、pSP64/RI−Xbaを5、10および20μ
g、それぞれ同時トランスフェクトすることによって、
neuプロモーターからCAT活性が出てきたことを示
している。第一〜九番目のレーンの相対CAT活性は、
それぞれ、100%,32%,27%,31%,58
%,79%,38%,31%,24%である。 (b)pNeuEcoRV−CATをトランスフェクト
したSK−BR−3乳癌細胞の細胞溶解液中のp185
タンパク質の免疫ブロット(immunoblot)を
示す。7%SDS/PAGEゲルで、各サンプルからの
タンパク質75μgずつを電気泳動させ、ニトロセルロ
ースフィルターに移した。フィルターには一次抗体mA
b−3を吸着させた。第一番目のレーンは、pElA
5μgをトランスフェクトしたSK−BR−3細胞の溶
解液である。第二番目のレーンは、ElA 5μgとp
SP64/RI−XbaI 20μgを同時トランスフ
ェクトさせたものである。第三番目のレーンは、E1A
5μgとpSP64/Stu−Xho 20μgを同
時トランスフェクトさせたものである。第四番目のレー
ンは、モックトランスフェクション(mock tra
nsfection)後のSK−BR−3細胞の溶解液
である。タンパク質の大きさを右側の標識によって示
す。→はp185タンパク質の位置を示す。バイオラッ
ド・ビデオ・デンシトメーター(Bio−Rad vi
deo densitometer)620型によりp
185タンパク質のバンドを走査して、p185タンパ
ク質の相対含量を測定した。モックトランスフェクショ
ンのサンプル中のp185タンパク質の含量を100%
としたとき、第一〜三番目のレーンのp185タンパク
質相対含量は、それぞれ57%,54%および89%で
あった。
【図5】図5は、コンセンサス配列を含む20マー(2
0−mer)オリゴヌクレオチドの同時トランスフェク
トにより、E1Aを介して起こるneuの抑制が解除さ
れたことを示す。ラット1の細胞にpNeuEcoRV
−CATプラスミド 3μgをトランスフェクトして、
neuプロモーター基礎活性を与えた(第一番目のレー
ン)。これに、pE1A 10μgを同時トランスフェ
クトしたときのCAT活性は、第四番目のレーンに示す
通りである。コンセンサス配列を含む二重鎖の20me
rオリゴヌクレオチド2μg(第二番目のレーン,
「Cons」)とpNeuEcoRV−CATおよびp
E1A(オリゴマーとpNeuEcoRV−CATとの
モル比=35:1)とを同時トランスフェクトすると顕
著な抑制解除が現れる。非相同の22マー(22−me
r)ランダムオリゴヌクオチド2μgとpNeuEco
RV−CATおよびpElAとを同時トランスフェクト
しても、顕著な抑制解除効果は認められなかった(第三
番目のレーン,「None」)。相対CAT活性値は、
3回の実験の平均値である。合成20マー・オリゴヌク
レオチドの上部鎖の配列を同じ頁の下部に示す。アンダ
ーライン部分は、推奨されるE1A反応性の配列であ
る。
【図6】図6。(a)NIH3T3、Bl04−1−1
およびEcoRI−SstIE1A DNAをプローブ
とするこれら細胞のトランスフェクタントのサザンブロ
ットによる分析を示す。指定された細胞株からゲノムD
NA l0μgをとり、EcoRI+SstI制限エン
ドヌクレアーゼによって完全に消化した後、1%アガロ
ースゲルで電気泳動を実施した。DNAをニトラン(N
itran)濾紙に移し、E1Aをプローブとしてハイ
ブリッド形成を行った。左側にDNA標識を示す。 (b)指定された細胞株の細胞溶解液中のE1Aタンパ
ク質の免疫ブロット分析を示す。各サンプルについて1
0%SDS−PAGEで電気泳動させた50μgずつを
ニトロセルロースフィルターに移した。E1Aに対する
一次抗体M73(オハイオ州立大学L.S.Chang
博士より恵贈)をフィルターにいれてインキュベートし
た。図の右側にタンパク質分子量の標識とE1Aタンパ
ク質の位置を示す。293種の細胞から得られた細胞溶
解液25μgを正のコントロールとして用いた。 (c)指定された細胞株の細胞溶解液中の、neuによ
りコードされたp185タンパク質の免疫ブロット分析
を示す。上記(b)の場合と同様にして実験を行った。
一次抗体としては、オンコジーンサイエンス社(Onc
ogene Science Inc.)から購入した
p185に対するmAB−3を用いた。 (d)プローブとしてラットのneuDNAを使用し
た、指定した細胞株のサザンブロット分析を示す。実験
は上記(a)の場合と同様にして行った。DNAの消化
は、Bam HI制限エンドヌクレアーゼによって行っ
た。
【図7】図7は、neuによって形質転換したBl04
−1−1細胞の形態に対するE1A発現の効果を示す。
(a)B104−1−1、(b)B−E1Apr、
(c)N−E1A−1、(d)B−E1A−1、(e)
B−E1A−2、(f)B−E1A−3(倍率は130
倍)。
【図8】図8。 (a)指定した細胞株の[3H]チミ
ジンの取入れを示す。細胞9×103個を96個のマル
チウェルのプレートにおき、ダルベッコ改良型イーグル
培地に10%子ウシ血清を加えて、16、40および6
4時間培養した。細胞は、採集前にDNA合成するもの
に標識するために、1ウェル当り1μCiの[3H]チ
ミジンによる2時間パルス標識を実施した。各サンプル
の放射能は、シンチレーションカウンターにより測定し
た。cpm平均値は複製サンプルにより計算した。 (b)E1Aにより形質転換したB104−1−1とN
IH3T3細胞の足場非依存性増殖を示す。下層の0.
7%寒天の上に0.35%軟寒天を重ねたプレート上
に、細胞1×103個をおいた。コロニー数の計測は、
4週間後行った。各グループ毎に、代表的なプレート
と、3個のサンプルの平均値および標準偏差を表に示
す。
【図9】図9。 (a)B104−1−1,NIH3T
3およびこれらの細胞のトランスフェクタントの腫瘍形
成性の概要を示す。ホモ接合の雌のヌードマウスのおの
おののわき腹左右両側に、生きている細胞1×105
を皮下注射した。腫瘍形成は、所定日毎に腫瘍塊の有無
を目でみて確認した。注射後第16日に、カリパスによ
って腫瘍の縦、横、厚さ(最大の表面長さ、幅および腫
瘍の厚み)を計り、その積を腫瘍容量の推定値とした。
図中、N.D.とあるのは、評価時現在において見あた
らずの意味である。 (b)腫瘍形成研究の代表的な結果である。右から左に
向かって、B104−1−1、B−E1A−2またはN
IH3T3を注射した実験動物であり、注射の18日後
にこの写真を撮影した。
【図10】図10。 (a)E1A遺伝子産物が、ne
uによって形質転換した3T3細胞の細胞運動を抑制し
たところを示す。N−E1Aは、E1Aをトランスフェ
クトしたNIH3T3細胞、B−neoは、ネオマイシ
ン耐性遺伝子をトランスフェクトしたB104−1−1
細胞、B−E1A−1〜5は、B104−1−1細胞に
E1A遺伝子をトランスフェクトすることによって形成
した5個の独立細胞株である。24ウェルクラスタープ
レート(Costar)で細孔サイズ5μmのポリカー
ボネートフィルターをもつトランスウェル・ユニット
(transwell unit)を用いて、運動検定
を実施した。トランスウェルの下部室には次の化学誘引
剤の1つを600μl含有していた。この化学誘引剤と
しては、フィブロネクチン(FN)20μmまたは10
0μmをDMEM/F12培地に溶解したもの、または
肝臓内皮細胞で調製した培地(HSE)、あるいは負の
コントロールとして用いるDMEM/F12だけの培地
であった。細胞(DMEM/F12培地中に3×104
個/0.1ml)を上部室におき、湿潤化5%CO2
囲気下、37℃で6時間インキュベートした。インキュ
べート後、グルタルアルデヒト3%を含有するリン酸緩
衝溶液でフィルターを固定し、Geimsaで染色し
た。各サンプルを3回検定して、フィルターの下部に移
動した細胞の数を数えることにより細胞運動を測定し
た。少なくともフィルター1個当りHPF4つを数え
た。DMEM/F12培地に移動した細胞数を各サンプ
ルから差引いてバックグラウンドを消去した。検定はす
べて3回ずつ行った。 (b)E1A遺伝子産物が、neuにより形質転換した
3T3細胞の侵襲を阻止したところを示す。基本的に
は、公知の方法(Albiniら、1987およびRe
pesh,1989)と同様にして、侵襲の試験管内
(in vitro)検定を行った。基底膜製剤である
マトリゲル(matrigel)をコンボラティブ・リ
サーチ社(Collaborative Resear
ch,Inc.)から購入し、マトリゲルを1:20の
割合でDMEM/F12培地で希釈した溶液0.1ml
を、(運動検定で用いたものと同じ)トランスウェルの
フィルターに塗布した。下部室には化学誘引剤としてH
SEまたは負のコントロールとしてDMEM/F12培
地の何れかを0.6mlを含有させた。細胞(DMEM
/F12培地中に5×104/0.1ml)を上部室に
おき、蒸気を立てた5%CO2雰囲気下、37℃で72
時間インキュベートした。上記(a)の場合と同様にし
て、細胞を固定し、染色して、細胞数の計測を行った。
検定はすべて3回行い、さらにこれを2回繰り返した。
【図10Z】(c)(1)B−neo細胞、(2)N−
E1A細胞、(3)B−E1A−1細胞および(4)B
−E1A−2細胞を注射したマウスの肺の全体像を示
す。E1A遺伝子産物が、neuにより形質転換した細
胞が肺でコロニーを形成するのを抑制した。実験の詳細
については、表1の注釈を参照されたい。
【図11】図11は、E1Aが、neuが誘発したヌー
ドマウスの腫瘍形成と転移を生体内(in vivo)
で抑制したことを示す。 (a)上図では、neu癌遺伝子によって形質転換させ
たNIH3T3細胞株のB104−1−1細胞を注射さ
れた実験動物、下図では、B104−1−1のE1Aト
ランスフェクタントであるB−E1A2細胞を注射され
た実験動物を示す。この写真は注射後第18日に撮影し
たもので、同時に行った他の腫瘍形成実験でも同様の結
果であった。 (b)左図では、B104−1−1細胞を注射したマウ
スの肺の全体像、右図では、E1Aトランスフェクト細
胞であるB−E1A2を注射したマウスの肺の全体像を
示す。マウスには、細胞数1×105個/0.1mlを
PBSで希釈したものを第0日に尾部を横に走る静脈に
接種し、注射後第21日に殺した。肺の腫瘍結節の差を
墨汁(Indiaink)による浸潤後決定し、直径1
mm以上の結節のみをこの検定において計数した。
フロントページの続き (72)発明者 ユー,ディ−ファ アメリカ合衆国、 77030 テキサス、 ヒューストン、グリーンブライア シャ ープ23 7000 (56)参考文献 Proc.Natl.Acad.Sc i.USA,87(1990),p.4499− 4503 (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) A61K 38/00 A61K 35/76 A61K 48/00 A61P 35/00 C12N 15/09 BIOSIS(DIALOG) MEDLINE(STN)

Claims (17)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 細胞の形質転換を処置するための薬学的
    組成物であって、E1A遺伝子またはその産物からなる
    群より選択される、少なくとも1つの成分を含む、薬学
    的組成物。
  2. 【請求項2】 癌形成を処置するための薬学的組成物で
    あって、E1A遺伝子またはその産物からなる群より選
    択される、少なくとも1つの成分を含む、薬学的組成
    物。
  3. 【請求項3】 癌転移を処置するための薬学的組成物で
    あって、E1A遺伝子またはその産物からなる群より選
    択される、少なくとも1つの成分を含む、薬学的組成
    物。
  4. 【請求項4】 前記細胞型質転換、前記癌形成、または
    前記癌転移がneuオンコジーンを介して媒介される、
    請求項1〜3のいずれか1項に記載の薬学的組成物。
  5. 【請求項5】 E1A遺伝子産物をコードするDNAセ
    グメントを含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の
    薬学的組成物。
  6. 【請求項6】 前記DNAセグメントが、E1A遺伝子
    およびそれに関連する制御配列を含む、請求項5に記載
    の薬学的組成物。
  7. 【請求項7】 前記DNAセグメントが、ベクター中に
    配置されている、請求項6に記載の薬学的組成物。
  8. 【請求項8】 前記ベクターがプラスミドベクターを包
    含する、請求項7に記載の薬学的組成物。
  9. 【請求項9】 前記ベクターがウイルスベクターであ
    る、請求項7に記載の薬学的組成物。
  10. 【請求項10】 前記ベクターがレトロウイルスベクタ
    ーである、請求項9に記載の薬学的組成物。
  11. 【請求項11】 前記成分がE1A12Sまたは13S
    遺伝子産物を包含する、請求項1〜3のいずれか1項に
    記載の薬学的組成物。
  12. 【請求項12】 前記DNAセグメントがE1A12S
    または13S遺伝子産物をコードする、請求項5に記載
    の薬学的組成物。
  13. 【請求項13】 前記DNAセグメントがE1A12S
    および13Sの両方の遺伝子産物をコードする、請求項
    5に記載の薬学的組成物。
  14. 【請求項14】 請求項1〜13のいずれか1項に記載
    の薬学的組成物を製造するための方法であって、前記成
    分を、薬学的に受容可能なキャリアと混合する工程を包
    含する、方法。
  15. 【請求項15】 非ヒト細胞型質転換を処置するための
    方法であって、E1A遺伝子またはその産物からなる群
    より選択される少なくとも1つの成分を、被験体細胞に
    適用する工程を包含する、方法。
  16. 【請求項16】 非ヒト被験体における癌形成を処置す
    るための方法であって、E1A遺伝子またはその産物か
    らなる群より選択される少なくとも1つの成分を、該被
    験体に投与する工程を包含する、方法。
  17. 【請求項17】 非ヒト被験体における癌転移を処置す
    るための方法であって、E1A遺伝子またはその産物か
    らなる群より選択される少なくとも1つの成分を、該被
    験体に投与する工程を包含する、方法。
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