JP3259957B2 - 歯周病治療剤 - Google Patents

歯周病治療剤

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は医薬,殊にインカドロン
酸又はその塩を有効成分として含有する歯周病治療剤で
あって,ヒトの歯周組織への局所注射用であることを特
徴とする医薬に関する。
【0002】
【従来の技術】歯周病は慢性歯肉炎が進行し,炎症が歯
肉以外の歯周組織に波及した疾患で,歯周組織の進行性
の破壊を伴う。臨床的には歯肉の慢性炎症,歯周ポケッ
トからの出血,歯槽骨退縮などを認め,破壊の進行によ
り歯の動揺や移動が生じ,終局的には歯が自然脱落する
か、抜歯の必要が生じることが知られている。歯周病の
治療としては原因物質であるプラークおよび歯石の除
去,歯肉再付着を目的としたルートプレーニングや歯周
外科手術による変性壊死組織の除去などが行われている
(医歯薬出版株式会社発行 歯周治療学(第2版)215
〜226頁 (1992年))。歯周病に対する薬物治療には,
歯周炎関連細菌の除去を目的としてテトラサイクリン系
抗生物質が主に使用されている。しかし,歯周病の重要
な臨床像である歯槽骨退縮に直接作用する薬剤は現在の
ところ存在せず,このような作用を有する薬剤は歯周病
の新規治療薬としての有用性が期待される。
【0003】ビスフォスフォネート(以下,BP)は生
体内で安定なピロリン酸の構造類縁体であり,異所性石
灰化抑制作用や骨吸収抑制作用などの生物学的作用を有
する。BPは悪性腫瘍に伴う高カルシウム血症,骨Page
t病,骨粗鬆症などの治療薬として既に臨床で使用され
ているが,その薬理作用より,歯周病による歯槽骨吸収
への作用も期待される。BPはラットにおいて歯周組織
破壊抑制作用が報告されている(J. Dent. Res. 11, 14
30-1433 (1988))ほか,第2世代のBPであるアレンド
ロネートがサルおよびイヌ歯周病モデルにおいて,経口
投与で歯槽骨破壊を抑制したことが近年報告されている
(J. Periodontol. 63, 825-830 (1992);J Periodonto
l. 66(3), 211-217 (1995))。また,インカドロン酸二
ナトリウム(incadronate disodium;化学名:disodium
cycloheptylaminomethylenediphosphonate monohydrat
e;以下インカドロネートと略記する)は強力な骨吸収
抑制作用を有する第3世代のBPであり(特公平7−6
29号公報),ハムスター歯周病モデルにおいて歯槽骨
退縮抑制作用を(歯科基礎医学会雑誌 36(5), 510-519
(1994)),またイヌ歯周病モデルにおいて歯槽骨退縮抑
制およびアタッチメントレベル改善作用を、それぞれ皮
下あるいは経口投与にて発現することが既に報告されて
いる(J. Periodont. Res. 33, 196-204 (1998))。
【0004】この様な,経口投与,皮下注射並びに静脈
注射等の全身投与の場合は,歯槽骨患部に薬効を発現す
る濃度のBPが移行することによって骨吸収抑制作用が
発現すると考えられるが,同時に他の組織へも同様にB
Pが移行することによって,殊に全身の骨組織において
も同様に骨吸収抑制作用を発現し、好ましくない作用が
発現する可能性がある。一方,BPを局所に投与する試
みがなされており,例えば,リセドロネートの第一臼歯
に隣接する骨膜付近への局所投与,並びに,パミドロネ
ートの口蓋側粘膜下への局所投与が,ラット臼歯の実験
的移動モデルに有効であることが報告されている(J. D
ent. Res. 73(8) 1478-1484 (1994);Orthod. Waves 57
(5) 307-317 (1998))。しかしながら,現在まで,ヒト
において臨床的に利用可能なBPの局所投与用歯槽骨退
縮抑制剤は全く報告がない。実際、ラットとヒトでは歯
周組織の形状,大きさ、刺激性等に違いがあり,上記の
ラットの知見からヒトの歯周組織周辺への好適な局所投
与濃度、投与量、投与方法等を予測することは困難であ
った。特開平7-502506号には、アレンドロネートの歯周
病治療剤が開示されるが、その主たる投与方法は経口若
しくは静脈注射による全身投与である。局所投与につい
ては、歯及び歯肉の炎症部位に直接添付できる旨の記載
があるが、投与量、投与部位等の具体的開示は全くな
く、単に可能性を示唆しているに過ぎない。しかも、こ
の歯及び歯肉の炎症部位に直接添付する方法では、歯槽
骨への薬剤移行性が低いばかりか、唾液とともに経口的
に全身投与される可能性が示唆され、歯槽骨選択的な投
与は到底期待できないものであった。また,アミノ基を
有するBPは局所刺激性を有するとの報告もあり(Lanc
et,348, N0.9023, 345-346 (1996); Br.Med.J.,295, N
o.6609, 1301-1305 (1987)),即ち、ヒトでBPの歯周
組織周辺への局所投与による歯周病の治療が実際に可能
であるか否かは全く不明であった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】歯槽骨選択的な骨吸収
抑制作用を有し,投与方法が簡便で,ヒトでの臨床的実
用性の高い,BPを有効成分とする歯周病治療用の局所
投与用医薬の創製が切望されている。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者等はヒトに類似
する歯周組織を有するイヌ歯周病モデルにて,インカド
ロネートを用い,局所投与用歯周病治療剤について検討
を行った。しかし、全身投与時の有効歯槽骨内濃度と同
等の歯槽骨内濃度を与える局所投与量では良好な治療効
果を得られず,これは、イヌの歯周組織がラット等の齧
歯類と比べてBPによる局所刺激性の影響を受けやすい
ためと推定された。よって、イヌと同様の歯周組織を有
するヒトではこの局所刺激性のためにBPを含有する歯
周組織への局所投与用医薬の創製は困難と予想された。
しかしながら、本発明者等が更に検討を行ったところ、
全身投与時の歯槽骨濃度から予想される投与量より、は
るかに少ないインカドロネートの歯周組織局所注射によ
り、意外にも良好な歯槽骨退縮抑制作用を発現しうるこ
とを知見し、本発明を完成した。
【0007】すなわち,本発明は,3.33〜100μ
g/mLの濃度のインカドロン酸二ナトリウムを有効成
分として含有する、ヒトの歯周組織局所注射用である歯
周病治療剤、特に歯槽骨退縮抑制剤に関する。本発明の
歯周病治療剤としては、好ましくは、投与部位1箇所当
たりの注入量が、100〜300μLである医薬、及
び、投与部位1箇所当たりのインカドロン酸又はその塩
の投与量が0.5μg〜15μgである医薬である。そ
して、歯槽粘膜刺入法による歯周組織局所注射用である
医薬が特に好ましい。また、上記歯周病治療剤を含有す
る歯科用カートリッジにも関する。
【0008】
【発明の実施の形態】以下,本発明を詳細に説明する。
本発明者等は,先にイヌの歯周病モデルにおいて,イン
カドロネートの経口投与が用量依存的に歯槽骨退縮抑制
作用を有していることを確認し,その好適な投与量は1.
0mg/kgであることを見出した(前出J. Periodont. Re
s. 33, 196-204(1998))。更に,その際の歯槽骨内の薬
物濃度が約4μg/gであることを確認した。また,ラ
ット歯の移動モデルにおいて,10又は100μg/50μL/
kg(薬物濃度200又は2000μg/mL)のインカドロネ
ート歯肉内(実質的には歯肉近傍)投与において,10μ
g/50μL/kg群(歯槽骨内濃度平均:0.6μg/g)では
効果が見られず,100μg/50μL/kg群(歯槽骨内濃度
平均:14μg/g)では良好な歯の後戻り抑制作用を有
し,また,局所刺激性も肉眼的に観察されないことを知
見した。
【0009】しかしながら上記知見に反して,ヒトと類
似する歯周組織を有するイヌのモデルを用いた試験にお
いて,後記試験例に示すように,経口投与と同程度の歯
槽骨内濃度を与える50μg又は150μg/150μL/site
(site:投与部位1カ所当たり;薬物濃度333又は1000
μg/mL)の歯周組織局所投与では,歯槽骨退縮抑制
作用を発現させることができなかった。しかも,後者で
は著しい局所刺激性が観察され,これはインカドロネー
トの局所刺激性に由来すると考えられた。実際、歯周組
織は微少であり、注入できる薬剤の量は限られることよ
り、局所刺激性を生じない低濃度の注射剤で上記歯槽骨
内薬物濃度を達成することは困難と予想された。
【0010】本発明者等は鋭意検討の結果,意外なこと
に,前記経口投与時の歯槽骨内濃度を達成する量よりは
るかに少ない投与量の局所投与によって,良好な歯槽骨
退縮抑制作用を発現しうることを見出した。すなわち,
インカドロネート濃度0.5〜15μg/150μL,即ち3.33
〜100μg/mLの濃度の場合においてのみ、その局所
刺激性が臨床的に許容しうる程度に低く,かつ,十分な
歯槽骨退縮抑制作用及び歯周病治療作用が発現されるこ
とを見出した。
【0011】ここに、3.33〜100μg/mL、より好ま
しくは10〜80μg/mL、更に好ましくは25〜75μg/
mLの濃度のインカドロン酸二ナトリウム塩を有効成分
として含有する、ヒト歯周組織局所注射用である本発明
の医薬組成物は,投与部位1箇所当たり100〜300μL,
好適には150〜200μL投与することが好ましい。投与は
1患歯あたり,頬側と舌側のいずれか一方,好ましくは
両方(2カ所)行うことが好ましい。これを,単回,若
しくは1日〜数週間間隔で2〜10回投与する。好まし
くは,3日〜14日間隔で2〜10回投与することが好
ましい。より好ましい投与形態は,薬物濃度によって,
適宜選択されるべきであり,低濃度の場合は投与間隔を
狭く,回数を多く,他方高濃度の場合は投与間隔を長
く,回数を少なくすることが好ましい。例えば,1.5μ
g/150μL〜200μL/siteを1患歯あたり2カ所投与
する場合は,1週間間隔で3〜9回投与が,5μg/150
μL〜200μL/siteを1患歯あたり2カ所投与する場合
は,1週間間隔で3〜6回投与が,また,15μg/150
μL〜200μL/siteを1患歯あたり2カ所投与する場合
は,2週間間隔で2〜3回投与することが好ましい。局
所投与方法としては,後記歯槽粘膜刺入法が好適である
が,歯間乳頭刺入法等の他の歯周組織への注射方法を用
いた場合であっても,100〜300μL/siteの局所注射が
可能な方法で有れば、当該濃度における有効性は発現さ
れるものであり,本発明のヒトの歯周組織局所注射に含
まれるものである。
【0012】発明の「インカドロン酸二ナトリウム
」には、この水和物や溶媒和物及び結晶多形の物質も
含まれる。
【0013】更に、本発明者等は,インカドロネートを
用いてBPを歯槽骨選択的に移行できる実用的な投与方
法について検討を行った。通常歯周病治療薬で採用され
ている投与方法、例えば,歯肉への添布・貼付は,歯槽
骨へのBPの移行性が低く,歯肉刺激性が懸念され,ま
た,歯周ポケット内投与は,更に歯槽骨から距離が有る
ためより移行性が低く,また,ポケット内から口腔内に
薬剤が漏れ出すことが懸念され、いずれも実用性に乏し
いものであった。本発明者等は、歯槽骨に薬剤を最も移
行させられる方法として、歯槽骨周辺の歯周組織、すな
わち、歯肉、歯槽粘膜、舌下粘膜、口蓋部等への局所注
射が最も好ましいことを知見した。従って、本発明のヒ
トの歯周組織局所注射用医薬組成物は、歯槽骨周辺の歯
周組織へ適宜注射により投与されるものである。しか
し、実際に薬剤を局所注射可能な歯槽骨近傍の歯周組織
は大変小さく、その投与できる容量に限りがあり、また
患者への痛みも懸念されることから、更なる投与方法の
改善が望まれるものであった。
【0014】そこで、本発明者等は、歯科領域の浸潤麻
酔法以外では全く用いられていなかった歯槽粘膜刺入法
を採用することにより,歯槽骨の近傍に1カ所当たり10
0〜300μLのBP含有歯周病治療剤を容易に局所注射す
ることが可能になること、更に、後記するように歯槽骨
選択的に有効量のインカドロネートを移行させることが
でき,しかも、操作が簡便で患者への負担も少なく,良
好な歯槽骨退縮抑制効果又は歯周病治療効果が得られる
ことを知見した。即ち、歯槽粘膜刺入法は、世界で初め
ての臨床的実用性の高い、BP含有歯周病治療剤のヒト
歯周組織への局所投与方法であることを見いだした。よ
って、本発明の剤は歯槽粘膜刺入法によるヒト歯周組織
局所注射用であることが好ましい。
【0015】本発明における「歯槽粘膜刺入法」とは、
歯肉と隣接する可動性の口腔粘膜(図1に示される歯槽
粘膜、あるいは舌下粘膜)部分、好ましくは歯肉との境
付近に、針を垂直ではなく寝かせるようにして刺入し、
歯槽骨の骨膜と歯槽粘膜の間に薬液を注入する方法を意
味する。具体的には、歯の頬側に注射を行う場合は、図
1に示される歯槽粘膜、好ましくは歯肉歯槽粘膜境付近
に、舌側では舌下粘膜、好ましくは顎骨寄りの部分に、
それぞれ針を寝かせるようにして刺入し薬液を注入す
る。針を刺入する角度は、可能な範囲でより水平に近い
方が患者に痛みを与えにくく、また薬液を注入しやすく
有利である。好ましくは粘膜部分に対して10度以下に
寝かした状態で刺入するとよい。但し、上顎の口蓋側で
は、歯槽粘膜若しくはそれに類する可動性の粘膜は無い
ので歯顎部からおよそ1cm離れた部位に針を刺入して
薬剤を注入することになるが、本発明ではこれも本発明
の歯槽粘膜刺入法の一態様として包含する。この歯槽粘
膜刺入法は、水平法あるいは粘膜下注射法とも呼ばれ、
歯科領域で用いられる浸潤麻酔法の1種として従来から
使用されている公知の注射方法である。この方法は、麻
酔薬を歯肉ではなく歯肉−頬移行部などの可動性のある
歯槽粘膜下に注入するため、きわめて簡便な方法で、時
間もかからず、痛みも最初の刺入時の1点だけなので、
実施する医者にも患者にも負担が少ない方法として知ら
れている(医歯薬出版株式会社発行 歯周治療学(第2
版)325〜326頁 (1992年))。当該浸潤麻酔法の1種と
して実施されてきた歯槽粘膜刺入法、水平法あるいは粘
膜下注射法と呼ばれる注射方法は、本発明の「歯槽粘膜
刺入法」の好ましい態様である。医歯薬出版株式会社発
行 歯周治療学(第2版)325〜326頁 (1992年)に歯槽
粘膜刺入法の好ましい操作方法が開示されているので、
その記載を以下に抜粋するが、本発明の歯槽粘膜刺入法
はこの記載に何等限定されるものでは無い。「実施にあ
たっては、まず口唇、あるいは頬を指かミラーで圧排し
て口腔前庭を露出させ、結合組織のゆるやかな可動性の
粘膜(歯槽粘膜)に針を垂直でなく、水平にねかせて、
ほんの数mm刺入する。ここで液の放出をゆっくり開始
して、まず粘膜下に水疱を作り、さらに針をねかせたま
ま遠心へ進めながら放出を続けると堤防状の膨隆ができ
る。(中略)舌側では舌下粘膜の顎骨寄りの部分に刺入
して同様の膨隆を作る。なお、上顎の口蓋側では、可動
粘膜は無いので歯顎部からおよそ1cm離れた部位に1
cm間隔で通常の浸潤麻酔を行う。」
【0016】本発明の医薬組成物は,無菌の水性又は非
水性の溶液剤,懸濁剤,乳濁剤を含有する。水性の液剤
としては,例えば注射用蒸留水及び生理食塩液が含まれ
る。非水溶性の液剤としては,例えばプロピレングリコ
ール,ポリエチレングリコール,オリーブ油のような植
物油,エタノールのようなアルコール類,ポリソルベー
ト80等がある。このような組成物は,さらに防腐剤,
湿潤剤,乳化剤,分散剤,安定化剤,溶解補助剤,等張
化剤(例えば,キシリトール,マンニトール,ソルビト
ール,エチレングリコール)のような補助剤を含んでも
よい。これらは例えばバクテリア保留フィルターを通す
濾過,殺菌剤の配合又は照射によって無菌化されてもよ
く,あるいは無菌下で製造される。これらはまた無菌の
固体組成物を製造し,使用前に無菌水又は無菌の注射用
溶媒に溶解して使用することもできる。好ましい形態と
しては、本発明医薬組成物を含有する歯科用カートリッ
ジ製剤が挙げられる。
【0017】以下,本発明の歯周病治療剤又は歯槽骨退
縮抑制剤の効果,並びに処方例を実施例で示す。なお,
本発明の範囲は以下の実施例により何等限定されること
はない。
【0018】
【実施例】実施例1:イヌ歯周病モデル試験 (方法)糸結紮の前日よりゲインズパックン(AGF)に
水を含ませた軟餌を与えた雌ビーグル犬(1〜2歳,群分
け時体重7.9-13.7kg)30頭を用いた。塩酸キシラジン
(バイエル)およびペントバルビタール麻酔下にて,下
顎左右の第2前臼歯(以下,P2)/第3前臼歯(以下,P
3)間,P3/第4前臼歯(以下,P4)間,P4/第1臼歯
(以下,M1)間の歯肉をメスで切開し,骨膜剥離子でP3
およびP4に歯周ポケットを作製した。P3およびP4の歯頚
部に絹糸(手術用縫合糸ネスコスーチャー(3-0),モ
リタ)を二重結紮し,歯周病モデルを作製した。この
際,P4の歯肉縁部の歯冠の頬側および舌側にデンタルド
リルで固定点を作製した。歯周局所状態(歯石付着状況
および歯周状態)がほぼ均一であったため,歯石除去お
よびブラッシングを実施せず,全身状態(体重および年
齢)により各動物を以下の5群に分けた。1)コントロー
ル群:生理食塩水,2)インカドロネート 0.5μg/site
群,3)インカドロネート 1.5μg/site群,4)インカド
ロネート5.0μg/site群,及び5)インカドロネート 15
μg/site群。
【0019】各群において手術直後より投与を開始し
た。インカドロネート(注射液,山之内製薬(株)製)
は生理食塩水で溶解および希釈し,投与液量が150μL/s
iteとなるように調製した。投与は糸結紮直後,糸結紮
後1および2週の計3回行った。投与はガラス製のマイク
ロシリンジに27Gの注射針をつけて歯槽粘膜刺入法を用
いて実施した。結紮した歯の歯槽粘膜と歯肉との境界部
(歯肉歯槽粘膜境)よりやや歯槽粘膜よりの部位から水
平に注射針を挿入し,歯槽骨の骨膜上と歯槽粘膜の間に
薬剤を150μL注入した。投与を頬側および舌側ともに実
施した(1顎あたり計4カ所,計600μL)。最終投与後13
週に放血致死させ,左右P3およびP4を含む下顎および肋
骨を採材し骨内濃度測定に供した。
【0020】(規格X線撮影による歯槽骨退縮抑制の評
価)被写体に対するX線の照射方向とフィルムの位置を
常に一定に保ち,同一個体の同一部位を反復撮影しても
常に同じ条件のX線写真を得るために,規格X線撮影法
(J. Periodontol. 33,164-171(1962))を採用し
た。今回,左右P3およびP4の歯槽骨の退縮を評価するた
めに,左右下顎骨の切歯とM1の間にアクリル製樹脂を用
いてキャップを形成し,このキャップにフィルムホルダ
ーを組み合わせて固定具を作製した。動物を塩酸キシラ
ジンおよび塩酸ケタミン(ケタラール,三共)麻酔下
に,固定具上のフィルムホルダーにデンタルフィルム
(ウルトラスピードDF58 :コダック)を装着して歯科
用X線撮影装置(スーパマックス70,型式HD-1,モリタ
製作所)で撮影した。なお、歯槽骨頂の高さは、図2に
示す評価方法を用いて測定した。即ち、X線フィルムを
実体顕微鏡(対物×1、接眼×10)下で計測し、X線フィ
ルムにOHPシートをかぶせ、セラミックナイフを用いてO
HPシート上にline a,line b及びline cを記入すること
によりline b及びline c上の各2点,b,b'及びc,c'点
を得た。b-b'及びc-c'間距離をそれぞれ基準点(b及び
c点)から歯槽骨頂までの距離と定義した。歯槽骨退縮
の長さは、個体別の各週の時点におけるb-b'およびc-c'
間距離の和から糸結紮時点におけるb-b'およびc-c'間距
離の和を差し引いて平均した値で表した。
【0021】(臨床スコアの測定) (1)ポケットの深さ(Probing Depth;PD) 歯周ポケットの深さの測定方法は,J. Clin. Periodont
ol. 4,173-190(1977)に従って,4点測定法により実
施した。 (2)歯肉退縮 歯肉退縮の長さは,個体別の各週の時点におけるP4の頬
側と舌側の2カ所について,糸結紮時に作製した歯冠上
の固定点から歯肉縁までの距離を計測し,その平均値と
した。
【0022】(3)アタッチメントレベル(Attachment
Level;AL) アタッチメントレベルとは,歯肉溝底部(ポケット底
部)がどこに位置するかを測定する指標であり,ポケッ
ト底部から歯冠上の固定点までの距離で表した。すなわ
ち,ポケットの深さと歯肉退縮の長さを加えたものをア
タッチメントレベルとした。 (4)歯肉炎指数(Gingival Index;GI) J. Periodontol. 38, 602-610 (1967)に従って,歯肉の
炎症の部位と症状の程度を評価した。 (歯槽骨内濃度及び肋骨内濃度の測定)左第4臼歯につ
いて,ペンチで歯根を引き抜き,顎骨と歯槽骨を含む全
体を上下に2分割し,上部1/2を歯槽骨とした。また,
肋骨内濃度は,解剖後 -40℃で凍結保存しておいた肋骨
骨端部を用いた。これらからカルシウム沈殿法を用いて
インカドロネートを抽出し,HPLC法にて骨内の濃度を測
定した。
【0023】(結果)各データともに,左右の歯をそれ
ぞれ別々の値として計算した。全ての統計解析にはSAS
(EXSAS-STAT)を使用した。歯槽骨退縮抑制作用の結果
を図3に示す。糸結紮後コントロール群ではほぼ経時的
な歯槽骨の退縮が認められ,インカドロネートを投与し
た群ではいずれもこれを抑制し,その作用は5 μg/si
teの用量で最も強かった。
【0024】また、インカドロネートを投与した群では
歯周病の臨床スコアの悪化が抑制された。臨床スコアは
以下の通り。 (1)ポケットの深さ コントロール群では糸結紮後2週をピークとした一過性
のポケットの深さの亢進が認められた。インカドロネー
トは糸結紮後2および4週においてポケットの深さの亢進
を1.5μg/site以上の用量で有意に抑制した。 (2)歯肉退縮 コントロール群では経時的に糸結紮による歯肉退縮の亢
進が認められた。インカドロネートは糸結紮後4週以降
において歯肉退縮の亢進を5 μg/site以上の用量で有
意に抑制し,1.5 μg/siteの用量では糸結紮後15週に
おいてのみ有意に抑制した。
【0025】(3)アタッチメントレベル コントロール群ではほぼ経時的に糸結紮によるアタッチ
メントレベルの低下が認められた。インカドロネートは
糸結紮後2週以降においてアタッチメントレベルの低下
を5μg/site以上の用量で有意に抑制し,1.5 μg/s
iteの用量では糸結紮後4および15週において有意に抑制
した。 (4)歯肉炎指数 コントロール群では糸結紮後2週をピークとした一過性
の歯肉炎指数の増悪が認められた。インカドロネートは
糸結紮後2週において歯肉炎指数の増悪を1.5μg/site以
上の用量で有意に抑制した。
【0026】(歯槽骨内濃度及び肋骨内濃度)結果を表
1に示す。5〜15μg/site投与群では,肋骨内のイ
ンカドロネートの濃度は歯槽骨内濃度のほぼ1/10で
あり,本発明の注射剤が歯槽骨選択的なBPの移行を達
成することが確認された。
【0027】
【表1】
【0028】比較例1:イヌ歯周病モデルにおける高用
量局所投与試験 (方法)ビーグル犬(3〜6歳,群分け時体重6.1-12.9
kg)26頭を用いて,a)コントロール群:生理食塩水,
b)インカドロネート50μg/site群及びc)インカドロ
ネート 150μg/site群についてイヌ歯周病モデルにお
ける局所投与試験を行った。投与を糸結紮直後,糸結紮
後2および4週の計3回行い,最終投与後8週で下顎を
採材し骨内濃度測定に供した以外は,実施例1と同様に
して試験を行った。
【0029】(結果)歯槽骨退縮抑制作用,臨床スコア
のいずれも,コントロールとインカドロネート投与群で
有意な差は認められなかった。インカドロネートの歯槽
骨内濃度は5.67及び4.28μg/gboneであった。これ
は,インカドロネート1.0mg/kgを26週間経口投与終了
時(前出J. Periodont. Res. 33, 196-204 (1998))の
歯槽骨内の薬物濃度約4μg/gと同等であった。ま
た,投与部位の粘膜固有層における局所刺激性を観察し
たところ,a)コントロール群では軽度な単核細胞浸潤
が一部で認められ,b)インカドロネート50μg/site
群でも軽度な単核細胞浸潤が一部で認められ,その出現
率及び程度はコントロール群より高かった。一方,c)
インカドロネート 150μg/site群では最終投与後1週
で出血,フィブリン析出,炎症性細胞浸潤,唾液腺及び
筋組織障害が全例において観察され,一部歯肉粘膜の潰
瘍を伴うなど,著しい組織障害が認められた。
【0030】従来の経口投与と同程度の歯槽骨内薬物濃
度を与える局所注射では,歯槽骨退縮抑制作用並びに歯
周病の臨床スコアの悪化抑制作用のいずれも認められな
かった。また,投与部位での炎症が観察されたことか
ら,この局所炎症に起因する骨吸収が生じている可能性
が考えられ,インカドロネートの歯槽骨退縮抑制作用が
当該局所炎症により相殺されている可能性が示唆され
た。
【0031】実施例2:処方例 処方例1 インカドロネート3.3,10.0,33.3又は10
0μgを、生理食塩水に溶解し1mLとし,これを1m
L用歯科用カートリッジに充填して本発明医薬組成物を
含有する歯科用カートリッジを得た。 処方例2 インカドロネート3.3,10.0,33.3又は10
0μgと,等張化剤として、キシリトール42.6m
g,マンニトール51mg,ソルビトール51mg又は
グリシン塩酸塩21mgのいずれかを注射用蒸留水に溶
解し1mLとした。これを,1mL用歯科用カートリッ
ジに充填して本発明医薬組成物を含有する歯科用カート
リッジを得た。 処方例3 インカドロネート7.5,25又は75μgと,等張化
剤として、キシリトール42.6mg,マンニトール5
1mg,ソルビトール51mg又はグリシン塩酸塩21
mgのいずれかを注射用蒸留水に溶解し1mLとした。
これを,1mL用歯科用カートリッジに充填して本発明
医薬組成物を含有する歯科用カートリッジを得た。
【0032】
【発明の効果】本発明のヒトの歯周組織局所注射用医薬
組成物は,従来の全身投与に比して,局所投与すること
により歯槽骨選択的にBPが移行し,全身性の副作用の
少ない歯周病治療剤又は歯槽骨退縮抑制剤として有用で
ある。従って,歯周病に伴う歯槽骨退縮を良好に阻害
し,歯槽骨退縮に伴って生じる歯槽骨骨頂の退縮,歯槽
骨密度の低下を抑制し,また,歯肉炎,出血,歯周ポケ
ットの深さ,アタッチメントレベルの低下等の歯周病の
臨床スコアの悪化を防止する。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は歯肉周辺組織の模式図を示す。
【図2】図2は,実施例1における,歯槽骨頂の高さの
評価方法を示す図である。図中の記号は以下の意味を有
する。line a:P4 と P3 の歯冠頂部を結んだ線、line
b及びline c:P4歯冠部の最近心側およびP3歯冠部の最
遠心側を通るline aに対する垂線、b及びc:line aとli
ne b及びline cとの交点(基準点)、並びに、b'及び
c':歯槽骨頂とline b及びline cとの交点。
【図3】図3は,実施例1における,歯槽骨退縮に対す
るインカドロネートの作用を示す図である。図は糸結紮
後の歯槽骨退縮の長さの平均値±標準誤差を経時的に示
す。凡例中の( )は各群の例数を示す。* および **
はcontrol群に対する有意差を示す(* p<0.05,** p<0.
01,Dunnettの多重比較検定)。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 加納 浩之 茨城県つくば市御幸が丘21 山之内製薬 株式会社内 (72)発明者 本家 弘之 東京都板橋区蓮根3−17−1 山之内製 薬株式会社内 (56)参考文献 国際公開97/29754(WO,A1) J.Dent.Res.,1994,Vo l.73,No.8,pp.1478−86 J.Periodont.Res., 1998,Vol.33,No.4,,pp. 196−204 (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) A61K 31/6615 A61C 5/04 A61M 5/24 A61P 1/02 BIOSIS(STN) CAPLUS(STN) MEDLINE(STN) EMBASE(STN)

Claims (3)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】3.33〜100μg/mLの濃度のイン
    カドロン酸二ナトリウムを有効成分として含有する、ヒ
    トの歯周組織局所注射用である歯周病治療剤。
  2. 【請求項2】歯槽粘膜刺入法による歯周組織局所注射用
    である請求項1に記載の医薬
  3. 【請求項3】請求項1または2に記載の医薬を含有する
    歯科用カートリッジ。
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