JP3238995B2 - 水素吸蔵合金の特性評価方法 - Google Patents

水素吸蔵合金の特性評価方法

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  • Investigating Or Analyzing Materials Using Thermal Means (AREA)

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、水素を可逆的に吸収、
放出することが可能な水素吸蔵合金に関し、特にジーベ
ルツ装置を用いて水素吸蔵合金の特性を評価する方法に
関するものである。
【0002】
【従来の技術】水素吸蔵合金は、化石燃料の代替となる
新たなエネルギー源として注目を浴びており、特に、エ
ネルギー変換機能等の優秀性から、種々の応用システム
が研究されている。ところで、水素吸蔵合金と水素の平
衡反応は、水素圧力−組成(水素吸収量)等温曲線で評価
される。水素圧力−組成等温線(P−C−T曲線)は、図
9に示す如く、勾配の急な水素固溶領域(α相)及び金属
水素化合物領域(β相)を有すると共に、両者の間に挟ま
れた平坦なプラトー領域を有している。このP−C−T
曲線を測定することによって、個々の水素吸蔵合金の特
性を把握することが出来る(特開昭60-251238、化学技術
研究所報告第80巻第11号,35〜45頁)。
【0003】P−C−T曲線の測定は、従来より図8に
示す如きジーベルツ装置を用いて行なわれている。試料
(2)が充填された試料容器(3)は恒温槽(7)に収容され
ており、該試料容器(3)はバルブ(4)を介してガスホル
ダー(1)と連結されている。又、ガスホルダー(1)とバ
ルブ(4)を連結する配管には、バルブ(5)を介して水素
導入・排気管(13)が連結され、ガスホルダー(1)内の圧
力は圧力センサー(6)によって測定される。
【0004】上記ジーベルツ装置を用いたP−C−T曲
線の測定は次の工程〜の実行によって行なわれる。 工程 両バルブ(4)(5)を開いて水素導入・排気管(1
3)からガスを排出し、系内を真空とする。 工程 バルブ(4)を閉じて水素導入・排気管(13)から
ガスホルダー(1)へ水度ガスを導入した後、バルブ(5)
を閉じる。 工程 バルブ(4)を開き、ガスホルダー(1)内の水素
ガスを試料(2)に吸収せしめる。これに伴って、ガスホ
ルダー(1)内のガス圧は徐々に低下する。 工程 充分な時間が経過して、ガス圧が一定、即ち平
衡状態となった後、バルブ(4)を閉じて、工程へ戻
る。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、ジーベ
ルツ装置を用いた従来のP−C−T曲線の測定による特
性評価方法においては、バルブの開閉操作を頻繁に行な
う必要があるため、測定の自動化が困難であり、然もガ
スリークの危険性が高い問題があった。又、測定前の真
空排気条件(排気温度、排気時間、真空度)によって試料
中の水素吸収量の原点が変動するため、測定結果の再現
性に乏しい問題があった。
【0006】特に、近年、実用化が進んでいるNi−H
2電池の水素負極として用いられる水素吸蔵合金におい
ては、平衡水素圧力が0.5atm以下となり、水素吸
収域の圧力範囲が広いため、特性評価のために、広範囲
に亘る圧力変化を正確に測定する必要がある。しかし、
一般的な圧力ゲージを用いた測定では、圧力範囲の増大
に伴って測定誤差が増大し、測定結果の再現性が著しく
悪化する。本発明の目的は、ジーベルツ装置を用いた特
性評価方法において、バルブの開閉操作を省略して、測
定の自動化を容易とすると共に、平衡水素圧力が低い場
合にも、測定結果の再現性を高めることである。
【0007】
【課題を解決する為の手段】本発明に係る水素吸蔵合金
の特性評価方法は、水素吸蔵合金の試料が収容された一
定容積の系内にて、試料温度を変化させつつ系内の圧力
を測定し、この過程における圧力−温度曲線に基づい
て、試料の特性を評価するものである。
【0008】具体的には、試料温度Tsを変化させる際
の温度範囲の設定は、試料となる水素吸蔵合金が温度一
定で水素を放出する場合の圧力Pと水素吸収量Cの関係
(P−C−T曲線)において、該水素吸蔵合金の用途に応
じた水素吸収量が得られることとなる圧力範囲を設定す
ることによって行なう。
【0009】例えば、温度上昇開始時における温度及び
圧力は、水素吸蔵合金の実際の用途において水素放出開
始点となる値に設定し、これを原点とする。そして、温
度上昇終了時における温度Ts及び圧力Pは、水素吸蔵
合金の実際の用途においてP−C−T曲線上の水素放出
完了点の温度及び圧力との関係において、下記数2で表
わされるVan't Hoffの関係式が同一の係数A及びBに下
に成立することとなる値、或いはその近傍値に設定され
る。
【0010】
【数1】lnP=A/Ts+B
【0011】
【作用】一定容積の系内に水素吸蔵合金の試料を収容
し、例えば水素吸収状態から試料温度を上昇させると、
水素吸蔵合金は系内へ徐々に水素を放出し、これに伴っ
て系内の圧力が上昇する。この過程で、温度と圧力の関
係を測定し、図5に示す様に測定結果をグラフ化する。
この圧力−温度曲線は試料毎に固有のものであり、圧力
−温度曲線によって試料を特定することが出来る。そし
て、圧力−温度曲線の比較によって、試料の特性を評価
することが出来る。又、測定開始時の試料温度及び圧力
と、測定終了時の試料温度及び圧力から、水素ガスの状
態方程式に基づいて水素放出量を算出することが出来
る。この水素吸収量の比較によって、試料の水素吸放出
についての特性の優劣を評価することが出来る。
【0012】ここで、試料温度Tsを変化させる際の温
度範囲の設定として、水素吸蔵合金の実際の用途におけ
る水素吸収量と同一の水素吸収量が得られることとなる
圧力範囲を設定すれば、水素吸蔵合金が実際に応用され
た場合の水素吸収、放出過程の特性を前記圧力−温度曲
線によって評価することが出来る。
【0013】
【発明の効果】本発明に係る水素吸蔵合金の特性評価方
法は、ジーベルツ装置を用いて実施することが可能であ
り、この際、活性状態の試料が配置された系内をバルブ
で仕切った状態のまま昇温すればよく、バルブの開閉操
作を行なう必要はない。従って、測定の自動化が容易で
ある。又、系内を仕切ったまま昇温する過程における圧
力上昇は、従来のP−C−T曲線測定の場合と比べて僅
かであり、水素吸収状態を圧力上昇の原点とすることに
よって、精度の高い圧力測定が可能である。従って、測
定結果に高い再現性が得られる。
【0014】
【実施例】図1は、ジーベルツ装置を応用した本発明の
測定装置を示しており、ジーベルツ装置自体の構成は従
来と同様である。試料容器(3)が収容された恒温槽(7)
には、ヒータ(8)及び温度センサ(9)が配置されおり、
ヒータ(8)による加熱制御は、温度センサ(9)からの検
出信号に基づいて、温度コントローラ(10)が行なう。こ
れによって、試料温度は所定の昇温速度で上昇すること
になる。
【0015】又、温度センサ(9)による温度検出信号
と、圧力センサー(6)による圧力検出信号は、マイクロ
コンピュータからなる演算処理回路(11)へ送られ、後述
の演算処理が施されて試料(2)の特性が評価される。そ
の結果は、プリンターやディスプレイ等の出力装置(12)
から出力される。
【0016】以下、上記測定装置を用いた本発明の実施
例について説明する。合金試料として、MmNi3.2
1.0Al0.2Mn0.6合金を用いた。尚、本合金はNi
−H2電池用の水素吸蔵合金であって、図6に示す如く
水素吸収時のP−C−T曲線は、平衡水素圧力が1at
m以下となる低圧領域まで伸びており、従来のP−C−
T曲線測定においては、この広い圧力範囲を高精度で測
定することが困難であったものである。
【0017】本合金を300μm程度の粒径に粉砕した
後、その内の5.0gを採取し、これを試料容器(3)に
封入して活性化処理を施した。活性化処理としては、先
ず試料(2)を80℃まで昇温し、バルブ(4)(5)を開い
て水素導入・排気管(13)からロータリーポンプにて系内
全体を真空排気した。次に、水素導入・排気管(13)から
10atmの水素ガスを系内に導入し、その後、試料温
度を室温まで下げて、試料に水素を吸入せしめた。以上
の試料の昇温、真空排気、試料の降温、及び水素ガス加
圧を5回繰り返して、活性化処理を終えた。
【0018】続いて、試料を室温(20℃)、水素圧力8
atmの加圧下で水素吸収状態(図6のP点)とし、これ
を水素吸収量の原点とした。この原点は、水素吸蔵合金
が実際にNi−H2電池に応用された場合の充電状態(室
温及び圧力8atm)に相当する。そして、原点の状態
から試料を2℃/minの速度で昇温し、この過程にお
ける試料温度及び水素圧力の変化を測定した。温度上昇
に伴って、試料合金からは、その時の温度に応じて水素
が放出され、系内の圧力が上昇することになる。測定の
結果、図5に示す水素圧力(P)−試料温度(Ts)曲線が
得られた。
【0019】ここで、水素圧力Pの時の水素放出量C
は、例えば理想気体についての状態方程式に基づき、下
記数2によって算出することが出来る。
【0020】
【数2】C=(V/RT)・(201.6/w)・(P−Pi) 但し、Cは合金に対する重量%に換算した水素放出量(w
t%)、Vは試料容器及び配管からなる系内の容積、Rは
気体定数、Tは試料容器及び配管からなる系内系内の水
素ガス温度、wは試料の重量、Piは前記原点における
圧力、Pは試料温度がTsのときの水素圧力である。
【0021】ここで、測定終了点とすべき試料温度の設
定について考察する。Ni−H2電池用の水素吸蔵合金
においては、一般に、前記原点に相当する充電状態(2
0℃、8atm)から水素を放出して、20℃、0.01
atmに相当放電状態に至る。従って、本発明の測定に
おける昇温は、この放電状態に至るまでの水素放出過程
と同等の水素放出量が得られる温度まで行なえばよいこ
とになる。
【0022】例えば図3に示すP−C−T曲線におい
て、充電状態、即ち室温Ta(=20℃)、水素圧力Pa
(=8atm)の状態(図中のa点)から、一定温度で放電
が行なわれて、放電状態、即ち室温Ta(=20℃)、水
素圧力Pf(=0.01atm)の状態(図中のf点)まで
変化したとする。この場合、本発明の測定における昇温
は、f点における水素吸収量と等しい水素吸収量となる
状態(d点)まで行なえばよいことになる。本実施例の水
素吸蔵合金の場合、測定終了点の20℃、0.01at
mでの水素吸収量は0.13wt%である。尚、図3中の
点a、b、c、d及びeは、原点から測定終了点に至る
昇温過程(Ta→Tb→Tc→Td→Te)を示すもので
ある。
【0023】ところで、水素吸蔵合金においては、水素
吸収量が同一であれば、水素圧力Pと試料温度Tsの間
に、下記数3で表わされるVan't Hoffの関係式が成立す
ることが知られている。
【0024】
【数3】lnP=A/Ts+B 但し、A及びBは水素吸収量によって決まる定数であ
る。
【0025】即ち、図3において水素吸収量が同一の点
f、g、h、dでは、図4に示す如くlnPと1/Ts
の間に直線関係が成立する。本実施例の水素吸蔵合金に
おいては、f点でのVan't Hoffの関係式は下記数4で表
わされる。
【0026】
【数4】lnP=5220/Ts+11.4 従って、本発明の測定における昇温過程にて、上記数4
を満たす圧力及び温度(図3中のd点)での水素吸収量
が、Ni−H2電池用の水素吸蔵合金としての容量に相
当し、この時点で昇温を終了することが出来るのであ
る。本実施例の水素吸蔵合金では、例えば系内の容量を
320ccとした場合、測定終了点での水素吸収量は
1.15wt%となる。このとき、試料温度は300℃、
水素圧力は10atmとなる(図5のd点、図6のQ
点)。
【0027】この結果、本合金をNi−H2電池の負極
として用いた場合、1.15wt%の水素量に対応する充
放電が可能であることが評価出来る。尚、実際の測定に
おいては、圧力及び温度の測定が一定のサンプリング周
期で行なわれることから、図3のd点よりも温度が僅か
に上昇したe点にて、測定が終了される。
【0028】図2は、上述の測定方法を実施する場合の
手順を表わしている。先ずステップS1にて水素吸収量
の原点を設定した後、ステップS2にて昇温を開始す
る。そして、ステップS3にて試料温度Ts、水素ガス
温度T、圧力Pの計測を一定のサンプリング周期で行な
い、ステップS4にて、1回の計測が終了する毎に、計
測された圧力Pが上記数3の右辺で計算される圧力(=
A/Ts+B)よりも小さいか否かを判断し、NOの場
合はステップS3に戻って次の計測を行なう。YESの
場合は、ステップS5にて水素吸収量(容量)の計算を行
なって測定を終了する。
【0029】上述の如く本発明の測定方法によれば、バ
ルブの開閉は水素の導入時だけで済むため、測定の自動
化が容易である。
【0030】上述の初期活性化から水素吸収量の計算に
至る測定を5回繰り返して再現性を調べたところ、図5
に示すP−Ts曲線及び水素吸収量(容量)について、極
めて高い再現性が確認された。
【0031】次に、上記のMmNi3.2Co1.0Al0.2
Mn0.6合金(A1)、該合金と僅かに組成の異なるMm
Ni3.1Co1.0Al0.2Mn0.7合金(A2)、及び公知の
LaNi5合金(A3)の3種類の試料について、上述の
特性評価を行なって、合金組成の違いによるP−Ts曲
線の違いを調べた。その結果を図7に示す。図示の如
く、組成が大きく異なる合金A1とA3については、P
−Ts曲線に大きな違いが認められる。然も、僅かな組
成差が存在するに過ぎない合金A1とA2の間において
も、P−Ts曲線に明確な違いが現われている。以上の
様に、本発明の水素吸蔵合金の特性評価方法によれば、
合金組成の僅かな相違による特性の相違も、精度良く評
価することが出来る。
【0032】上記実施例の説明は、本発明を説明するた
めのものであって、特許請求の範囲に記載の発明を限定
し、或は範囲を減縮する様に解すべきではない。又、本
発明の各部構成は上記実施例に限らず、特許請求の範囲
に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能であることは
勿論である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る水素吸蔵合金の特性評価方法を実
施するための装置構成を示す図である。
【図2】特性評価手順を示すフローチャートである。
【図3】P−C−T曲線を示すグラフである。
【図4】水素吸収量が同一の場合の水素圧力と試料温度
の関係を表わすグラフである。
【図5】本発明の測定において、昇温過程の水素圧力と
試料温度の関係を示すグラフである。
【図6】Ni−H2電池に用いる水素吸蔵合金の充電状
態と放電状態を示すグラフである。
【図7】組成の異なる合金についての測定結果を表わす
グラフである。
【図8】従来のジーベルツ装置の構成を示す図である。
【図9】従来のP−C−T曲線測定の結果を示すグラフ
である。
【符号の説明】
(1) ガスホルダー (2) 試料 (3) 試料容器 (4) バルブ (5) バルブ (6) 圧力センサー (7) 恒温槽 (8) 加熱ヒータ (9) 温度センサー
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 渡辺 浩志 大阪府守口市京阪本通2丁目18番地 三 洋電機株式会社内 (72)発明者 米津 育郎 大阪府守口市京阪本通2丁目18番地 三 洋電機株式会社内 (56)参考文献 特開 昭64−3549(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) G01N 25/02 C01B 3/00 C22C 19/00 G01N 33/20

Claims (2)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 水素吸蔵合金の試料が収容された一定容
    積の系内にて、試料に活性化処理を施し、続いて試料を
    水素吸収状態とし、試料温度を変化させつつ系内の圧力
    を測定し、この過程における圧力−温度曲線に基づい
    て、試料の特性を評価する水素吸蔵合金の特性評価方
    法。
  2. 【請求項2】 試料温度を変化させる際の温度範囲は、
    試料となる水素吸蔵合金が温度一定で水素を放出する場
    合の圧力と水素吸収量の関係において、該水素吸蔵合金
    の用途に応じた水素放出量が得られることとなる範囲に
    設定される請求項1に記載の水素吸蔵合金の特性評価方
    法。
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