JP3226178U - 医療用シート - Google Patents

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Abstract

【課題】生体内の末梢神経損傷部位の周囲に巻きつけたり、留置したりすることにより、炎症性細胞の傷害作用から神経を保護し、神経の瘢痕化を抑制して、神経再生を促進する医療用シートを提供する。【解決手段】脂肪族ポリエステルを含有する繊維で形成された不織布からなり、空隙率が60〜80%である、細胞浸潤抑制作用を有する医療用のシートである。神経損傷に対する治療効果を有する薬剤等を含有させることができる。また、時間の経過により自然に消滅する生分解性を有する不織布からなり、生体内に適用した後に除去する必要がない。【選択図】図1

Description

本考案は、細胞浸潤抑制作用を有するシートに関し、さらには、末梢神経損傷治療における神経保護及び/又は神経再生促進作用を有する医療用のシート(以下、単に「本シート」ということがある。)に関する。
外傷、手術、疾患等により組織に損傷が加わり炎症が生じると、損傷部位や炎症細胞から発痛物質や発痛増強物質、炎症性サイトカイン等が放出され、自発痛が発生し、さらに軸索反射を介して炎症反応をさらに惹起し、炎症と疼痛が持続することになる。損傷した末梢神経においては、その損傷の程度により、軸索の断裂を伴わない一過性伝導傷害であり、完全回復する場合、軸索は断裂しているが、シュワン管や周膜の連続性が保たれており、徐々に神経が再生される場合、軸索、神経上膜が断裂し肉眼的に連続性が無いか、あっても瘢痕により軸索の連続性が失われており、自然回復しない場合に分類される。これらのうち、自己の回復力により自然治癒しない末梢神経損傷については、損傷した神経の端々縫合術による治療が基本であるが、回復までに長期間を要すると、筋組織に不可逆的な変化を生じるため、神経軸索の再生を促進させることが重要である。しかしながら、上述の通り、損傷部位においては炎症反応が惹起されており、マクロファージ等の炎症性細胞による神経の瘢痕化が、神経再生促進を妨げる要因の一つとなっている。従って、末梢神経損傷の治療において、炎症性細胞による神経の瘢痕化を抑制することは重要な課題となっている。
特許文献1には、自律神経などの比較的細い神経線維を再生させるための生分解性材料からなる神経再生シートが開示されているが、神経再生促進のために炎症性細胞による神経の瘢痕化を抑制することについては記載も示唆も全くされていない。
特開2010−115393号公報
本考案は、生体内の末梢神経損傷部位の周囲に巻きつけたり、留置したりすることにより、炎症性細胞の傷害作用から神経を保護し、神経の瘢痕化を抑制して、神経再生を促進する医療用シート(本シート)を提供することを課題とする。さらに本シートには、神経再生の促進作用を高めるために、神経損傷に対する治療効果を有する薬剤等を含有させることができる。本シートは、時間の経過により自然に消滅する生分解性を有する不織布からなるものであり、生体内に適用した後に除去する必要がないものである。
本考案者らは、上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、以下の各考案により上記課題を達成することができることを見出した。
[1]脂肪族ポリエステルを含有する繊維で形成された不織布からなり、空隙率が60〜80%である、細胞浸潤抑制作用を有するシート。
[2]厚みが40〜70μmである、前記[1]に記載のシート。
[3]重量が0.5〜10mg/cm2である、前記[1]又は[2]に記載のシート。
[4]密度が100〜1000mg/cm3である、前記[1]〜[3]のいずれかに記載のシート。
[5]前記繊維の平均繊維径が500〜1500nmである、前記[1]〜[4]のいずれかに記載のシート。
[6]前記繊維が少なくとも2箇所以上の分子量の領域に極大値が存在する分子量分布を有するものである前記[1]〜[5]のいずれかに記載のシート。
[7]前記分子量の領域の少なくとも一箇所が、滅菌処理前の数平均分子量として1000〜7000の領域である、前記[6]に記載のシート。
[8]前記分子量の領域の少なくとも一箇所が、滅菌処理前の数平均分子量として40000〜140000の領域である、前記[6]又は[7]に記載のシート。
[9]前記分子量の領域の少なくとも一箇所が、滅菌処理前の数平均分子量として50000〜130000の領域である、前記[6]又は[7]に記載のシート。
[10]前記分子量の領域が、滅菌処理前の数平均分子量で1000〜7000の領域及び40000〜140000の領域の少なくとも2箇所である、前記[6]〜[9]のいずれかに記載のシート。
[11]前記分子量の領域が、滅菌処理前の数平均分子量で1000〜7000の領域及び50000〜130000の領域の少なくとも2箇所である、前記[6]〜[9]のいずれかに記載のシート。
[12]前記不織布中に含有される脂肪族ポリエステルのうち、最も低分子量側の極大値を有する前記脂肪族ポリエステルを低分子量成分とし、最も高分子量側の極大値を有する前記脂肪族ポリエステルを高分子量成分としたとき、前記不織布中における低分子量成分の含有量と高分子量成分の含有量の和に対する、低分子量成分の含有量の含有質量比が0.01以上0.3以下である、前記[6]〜[11]のいずれかに記載のシート。
[13]前記不織布中に含有される脂肪族ポリエステルのうち、最も低分子量側の極大値を有する前記脂肪族ポリエステルを低分子量成分とし、最も高分子量側の極大値を有する前記脂肪族ポリエステルを高分子量成分としたとき、前記不織布中における低分子量成分の含有量と高分子量成分の含有量の和に対する、低分子量成分の含有量の含有質量比が0.02以上0.2以下である、前記[6]〜[11]のいずれかに記載のシート。
[14]前記脂肪族ポリエステルが、生分解性である、前記[1]〜[13]のいずれかに記載のシート。
[15]前記生分解性の脂肪族ポリエステルが、ポリカプロラクトン、ポリカプロラクトンジオール、ポリ乳酸、ポリグリコール酸又はこれらの共重合体からなる群から選択されるものである、前記[14]に記載のシート。
[16]前記生分解性の脂肪族ポリエステルが、ポリカプロラクトン、ポリカプロラクトンジオール又はこれらの共重合体からなるものである、前記[14]又は[15]に記載のシート。
[17]前記細胞が炎症性細胞である、前記[1]〜[16]のいずれかに記載のシート。
[18]さらに、神経保護及び/又は神経再生促進作用を有する、前記[1]〜[17]のいずれかに記載のシート。
[19]前記神経保護及び/又は神経再生促進作用が神経の瘢痕化の抑制によるものである、前記[18]に記載のシート。
[20]さらに、神経損傷治療薬を含有する、前記[1]〜[19]のいずれかに記載のシート。
[21]前記神経損傷治療薬がビタミンB12である、前記[20]に記載のシート。
[22]前記ビタミンB12がメチルコバラミンである、前記[21]に記載のシート。
[23]前記ビタミンB12の含有量が前記シート1cm2当たり0.03〜0.5mgである、前記[21]又は[22]に記載のシート。
[24]前記ビタミンB12の含有量が前記シート1cm2当たり0.05〜0.3mgである、前記[21]又は[22]に記載のシート。
[25]生体の神経損傷部位の周辺部に埋め込んで使用される、前記[1]〜[24]のいずれかに記載のシート。
[26]生体の神経損傷部位の神経周囲に巻いて使用する、前記[1]〜[24]のいずれかに記載のシート。
[27]前記生体がヒトである、前記[25]又は[26]に記載のシート。
[28]前記[1]〜[27]のいずれかに記載のシートであって、製造後に滅菌処理が施されるものであるシート。
[29]前記滅菌処理が電子線滅菌又はEOG滅菌である、前記[28]に記載のシート。
本考案によれば、末梢神経損傷部位の神経周囲に巻きつけること等により、マクロファージ等の炎症性細胞の浸潤を抑制して神経を保護し、かつ、体液は通すため神経に悪影響を及ぼすような刺激を与えることのない、優れた神経再生促進作用を有するシートが提供できる。
試験例1で製造したシートA及びBの走査型電子顕微鏡写真である。
本考案は、脂肪族ポリエステルを含有する繊維で形成された不織布からなり、空隙率が60〜80%である、細胞浸潤抑制作用を有するシートを提供する。本シートはその細胞浸潤抑制作用により、神経保護及び/又は神経再生促進作用を有する。また、本シートは少なくとも2箇所以上の分子量の領域に極大値が存在する分子量分布を有する生分解性脂肪族ポリエステルを含有する繊維で形成された不織布からなるものとすることができ、優れた生分解性を有すると共に、本シートによる神経保護及び/又は神経再生促進作用の期間を適切な期間に調整することが可能である。本シートに係る不織布とは、繊維シート、ウェブ又はパットで繊維が一方向又はランダムに配向したものをいい、ただし、紙、織物、編み物、タフト及び縮絨フェルトを除くものである。また、個々の繊維は積み重ねられた形態であってもよく、個々の繊維が互いに交絡、融着、接着していてもよく、これらを組み合わせた形態であってもよい。さらに、本シートには神経損傷治療薬等の薬剤を含有させることができる。
本シートに係る不織布に含有される脂肪族ポリエステルとしては、例えば、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリグリセロール酸、ポリヒドロキシアルカン酸、ポリブチレンサクシネート、これらの共重合体、これらの誘導体等の生分解性脂肪族ポリエステルが挙げられ、好ましくは、ポリカプロラクトン又はその共重合体、ポリ乳酸又はその共重合体、ポリグリコール酸又はその共重合体、及びそれらの混合物が挙げられる。
また、上記脂肪族ポリエステルとして、任意のジオール、ヒドロキシ酸、ジカルボン酸等の重合開始剤を用いたものも使用でき、具体的にはプロピレングリコールやジエチレングリコールを重合開始剤に用いたポリ(ε−カプロラクトン)ジオール(単に「ポリカプロラクトンジオール」ともいうことがある。)やフマル酸を重合開始剤に用いたポリ乳酸ジカルボン酸等が挙げられる。本シートに係る不織布に含有される脂肪族ポリエステルとしては、より好ましくは、ポリカプロラクトン、ポリカプロラクトンジオール又はその共重合体、及びそれらの混合物が挙げられる。
また、本シートに係る不織布には、前記脂肪族ポリエステルの少なくとも1種又は複数を含んでいればよく、前記脂肪族ポリエステル以外の生分解性ポリマーとこれら前記脂肪族ポリエステルの共重合体を含んでいてもよい。また、前記脂肪族ポリエステルを複数含む共重合体であってもよい。これらの場合、共重合の形式はブロック共重合、ランダム共重合、交互共重合又はグラフト共重合のいずれであってもよい。
本シートに係る脂肪族ポリエステルは、分子量分布において少なくとも2つ以上の極大値を有してもよく、各々の極大値(分子量分布のピーク)の値は異なる。すなわち、上記脂肪族ポリエステルは、分子量分布において2つ以上のピーク(極大値)を有し、最も低分子量側のピーク(以下「ピークX」ともいう。)と最も高分子量側のピーク(以下「ピークY」ともいう。)の少なくとも2つのピークを有してもよい。なお、本シートに係る分子量分布は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を使用し、移動相としてTHFを用いて、標準ポリエチレングリコール/ポリエチレンオキサイドとの比較により得ることができる。
脂肪族ポリエステルのピークXを構成する比較的低分子量の成分(以下「低分子量成分」ともいう。)は、脂肪族ポリエステル繊維の融解温度をより低くし、及び/又は、脂肪族ポリエステル繊維の結晶性をより低くするものと推測される。これにより、本シートは優れた生分解性を有する。一方、脂肪族ポリエステルのピークYを構成する比較的高分子量の成分(以下「高分子量成分」ともいう。)は、不織布の力学特性を向上させるため、本シートは構造的に優れた安定性を有する。
低分子量成分の分子量としては、特に制限されないが、滅菌処理前の数平均分子量として、例えば、1000〜7000、好ましくは2000〜6000、さらに好ましくは2500〜5000が挙げられる。また、滅菌処理前の重量平均分子量として、例えば、1500〜12000、好ましくは3000〜10000、さらに好ましくは4000〜9000が挙げられる。
一方、高分子量成分の分子量としては、特に制限されないが、滅菌処理前の数平均分子量として、例えば40000〜140000、好ましくは50000〜130000、さらに好ましくは60000〜120000が挙げられる。また、滅菌処理前の重量平均分子量として、例えば、60000〜240000、好ましくは80000〜220000、さらに好ましくは100000〜200000が挙げられる。
なお、本シートは、その使用目的からして滅菌されることが好ましいが、本シートの製造原料である脂肪族ポリエステルは電子線滅菌により分子量が低下することが判明している。すなわち、当該脂肪族ポリエステルの滅菌前と滅菌後の分子量を比較すると、電子線照射量が20〜30kGyの場合、低分子量成分のものでは5〜10%程度、また、高分子量成分のものでは15〜30%程度の分子量の低下が確認され、特に高分子量成分の分子量の低下が著しいことが判明している。なお、分子量が低下する程度は、数平均分子量において重量平均分子量より5〜10%程度高かった。従って、滅菌処理を施した製品としての本シートに係るピークX及びYにおける分子量については、ピークXは5〜10%程度、ピークYは15〜30%程度、低い値になることが想定される。
本シートに係る不織布の形成に用いられる脂肪族ポリエステルの分子量は、本シートを適用する神経損傷の程度や、適用後に消滅するまでの期間、神経損傷治療薬等の薬剤を含有させる場合はその種類、該薬剤が放出される速度や期間等に応じて適宜好ましいものに設定することができる。低分子量成分と高分子量成分を配合する場合においても、それぞれの成分の分子量やそれらの配合割合は特に限定されるものではなく、本シートの用途や後述する本シートに含有させる薬剤に応じて適宜変更することができる。本シートを末梢神経損傷部位及びその周辺部に埋め込み、又は、神経周囲に巻きつけ、必要に応じて、薬剤の放出期間を充分担保することにより、神経保護・再生というより優れた本考案の効果を発揮させるためには、当該不織布中における低分子量成分の含有量と高分子量成分の含有量の和に対する、低分子量成分の含有量の質量比が、例えば、0.01以上0.3以下であることが挙げられ、0.02以上0.2以下が好ましい。また、上記範囲内であることにより、より優れた均一性を有する(特に、繊維幅が均一である)不織布が得られるため好ましい。
なお、上記脂肪族ポリエステルは、分子量分布において、3つ以上の極大値を有していてもよく、極大値の個数の上限値としては特に制限されない。3つ以上の極大値を有する場合においても、ピークX及びピークYの分子量が各々上記範囲内となることが好ましい。
本シートに係る不織布の繊維における脂肪族ポリエステルの含有量としては特に制限されないが、繊維の全重量に対して、0.01〜100重量%が好ましい。
本シートに係る不織布の繊維の平均繊維径としては特に制限されないが、500〜1500nmであることが好ましく、700〜1300nmがさらに好ましい。平均繊維径が100nm以上であると、本シートは、構造的に優れた安定性を有し、1500nm以下であると、本シートは優れた柔軟性、生分解性、及び細胞浸潤抑制作用を有する。なお、本シートに係る不織布の繊維の平均繊維径については、不織布の走査型電子顕微鏡観察において、10本程度の繊維の長さ方向に略垂直な方向の幅を算術平均して求めることができる。
本シートの重量(単位面積当たりの重量)は特に制限されないが、末梢神経損傷の治療に際して、炎症性細胞による神経の瘢痕化を抑制して、神経を保護し、及び/又は神経再生を促進させる点において、0.5〜10mg/cm2が好ましく、0.8〜5mg/cm2がさらに好ましく、1〜3mg/cm2がより好ましい。
本シートの密度(単位体積当たりの重量)は特に制限されないが、末梢神経損傷の治療に際して、炎症性細胞による神経の瘢痕化を抑制して、神経を保護し、及び/又は神経再生を促進させる点において、100mg〜1000mg/cm3が好ましく、200mg〜800g/cm3がさらに好ましく、250〜600mg/cm3がより好ましい。
本シートの厚みは特に制限されないが、末梢神経損傷の治療に際して、炎症性細胞による神経の瘢痕化を抑制して、神経を保護し、及び/又は神経再生を促進させる点、並びに神経周囲に巻きつける等の神経損傷部への適用の点において、40〜70μmが好ましく、50〜60μmがさらに好ましい。なお、シートの厚みは、3点の厚みをマイクロメータにより測定し、その値を算術平均して求める。
本シートの空隙率は、末梢神経損傷の治療に際して、炎症性細胞による神経の瘢痕化を抑制して、神経を保護し、及び/又は神経再生を促進させる点において、60〜80%が好ましく、65〜75%がさらに好ましい。なお、本シートの空隙率は、本シートの単位面積(1cm2)当たりの重量及び厚み、並びに脂肪族ポリエステルの比重(例:ポリカプロラクトンの場合、1.15g/cm3)より、下記式において算出できる。
空隙率(%)=(厚み−1cm2当たりの重量÷脂肪族ポリエステルの比重)÷厚み×100
本シートの剛軟度を、市販のガーレー式剛軟度試験機を用いて、JIS L1096 A法で測定した。その結果、本シートは非常に柔らかいため、剛軟度が最小読取目盛(例えば0.2mN)未満となり、測定することができなかった。言い換えれば、本シートは剛軟度が測定不可能なほど柔軟性が高いシートである。そのため、本シートは末梢神経損傷部位の神経周囲に巻きつけるように、又は、覆うように留置させて用い易く、また、神経や周辺組織に悪影響を及ぼすような刺激を与えないという利点を有する。
本シートは上記以外の他の成分を含有してもよく、例えば、薬剤が挙げられる。特に、本考案は、さらに神経保護及び/又は神経再生の促進効果を高めるために、神経損傷治療薬を含有するシートを提供することができる。薬剤を含有する本シートは、生体内に留置して、又は、体内に挿入して使用するような医療デバイスに適用した際、不織布の分解に伴って、薬剤を生体内に放出することができる。このような医療デバイスに適用する場合、薬剤を含有する不織布は、生体内で所望の期間不織布の形状を維持し、所望の期間経過後に完全に分解されるといった性状のものにすることができる。生体内で不織布の形状を維持する期間としては、例えば、1〜12ヶ月であってもよく、生体内で完全に分解されるまでの期間としては、例えば、6〜24ヶ月であってもよい。但し、神経損傷の程度や、神経損傷治療薬等の薬剤を含有させる場合はその種類、該薬剤が放出される速度や期間等に応じて、生体内で不織布の形状を維持する期間及び生体内で完全に分解されるまでの期間等を適宜設定して、本シートを設計することができる。
本シートに含有させる薬剤は特に制限されないが、神経損傷治療薬としては、例えば、ビタミンB12(薬学的に許容される塩がある場合は当該塩を含む。以下同じ。)が挙げられる。ビタミンB12には、コバラミン及びその誘導体が含まれる。具体的には、メチルコバラミン、シアノコバラミン、ヒドロキソコバラミン、スルフィトコバラミン、アデノシルコバラミンが挙げられ、メチルコバラミン、シアノコバラミン、ヒドロキソコバラミンが好ましく、メチルコバラミンがより好ましい。ビタミンB12の含有量は特に制限されないが、例えば、本シート1cm2当たり0.03〜0.5mgであることが挙げられ、0.05〜0.3mgが好ましい。薬剤は1種を単独で含有してもよく、2種以上を併せて含有していてもよい。含有させる薬剤は、神経損傷の程度や、薬剤の種類、放出させる期間等に応じて、適宜本シート中の含量を設定することさらにができる。
本シートは、神経損傷部位及びその周辺部に埋め込んで、又は神経周囲に巻きつけて使用することができる。上述したとおり、本シートは柔軟性を有するように成形されているので、使用態様は適宜選択することが可能である。具体的には、例えば周囲が剥離され、神経が露出された状態の神経損傷部位については、本シートを神経周囲に巻きつけるか、覆うように留置するのが好ましい。そのように本シートを損傷した神経に適用することで、神経組織への炎症性細胞の浸潤を抑制し、炎症性細胞の傷害作用による神経組織の瘢痕化を防ぐため、神経の保護及び/又は神経再生を促進することができる。その後、周辺組織を元に戻し皮膚を縫合する。本シートは柔軟に成形されていること、また、本シートは炎症性細胞の浸潤は抑制するが、組織を正常な状態に保つ体液は通すことより、神経損傷部位に留置しても、神経や周辺組織に悪影響を及ぼす刺激を与えない。そのため、本シートは、神経損傷部位の周辺部に埋め込んで使用すること、又は神経に巻きつけることが可能であり、損傷部位の処置後も取り除く必要がない。なお、本シートは滅菌処理を行って使用することが好ましい。滅菌方法は、薬剤が分解されず、シートの形状や物性を損なわない方法を選択することが好ましく、例えば、放射線滅菌法の電子線滅菌又はエチレンオキサイドガス(EOG)滅菌が挙げられる。
本シートは神経保護及び/又は神経再生促進作用を有するので、損傷部での連続性を有する有連続性神経損傷及び損傷部での連続性が絶たれる不連続性神経損傷のいずれも治療対象とすることができる点で非常に有用である。有連続性神経損傷としては、例えば、手根管症候群等の絞扼性神経障害(神経が周囲組織により圧迫を受けている状態)が挙げられる。また、神経縫合後の神経(神経損傷後に直接縫合した状態)、神経剥離術後の神経、神経移植術後の神経(欠損を有する神経損傷部に神経移植を行って連続性を持たせた状態)の再生促進にも、本シートは有効である。また、不連続性神経損傷についても、本シートは単独で、又は人工神経と併用する等により、治療を促進する効果を有する。
本シートに係る不織布の製造方法としては特に制限されず、公知の方法が使用できる。例えば、生分解性脂肪族ポリエステルと、必要に応じてビタミンB12等の薬剤とを含有する溶液を調製し、例えば、電界紡糸法(エレクトロスピニング法)、セルフアッセンブリー法、フェイズ・セパレーション法等の公知の方法により繊維を作製し、不織布を形成させることにより、本シートを製造することができる。当該溶液(原料溶液)の調製には適当な溶媒を用いることができ、例えば、トリフルオロエタノール(TFE)、1,1,1,3,3,3‐ヘキサフルオロ‐2‐プロパノール(HFIP)、クロロホルム、N,N‐ジメチルホルムアミド(DMF)等が挙げられ、単独で又は混合して用いることができる。なお、原料溶液に使用する溶媒は、紡糸工程で除去されて不織布には残存しない。また、電気伝導度や粘度等の調整のために、各種の添加剤を用いることもできる。より優れた本考案の効果を有する不織布が得られる点で、溶媒としてTFEを用いた電界紡糸法が好ましい。
電界紡糸法では、電界紡糸用組成物に高電圧を印加して帯電させることで繊維を得て、これを堆積させることで不織布を得ることができる。電界紡糸用組成物を帯電させる方法としては、高圧電源装置と接続した電極を電界紡糸用組成物そのもの、又は、容器に接続し、印加する。印加する電圧は特に制限されないが、例えば、10〜50kVが挙げられるが、好ましくは、20〜40kVである。電圧の種類としては、直流又は交流のいずれであってもよい。電界紡糸用組成物の流速は特に制限されないが、0.2〜0.8mL/hが挙げられ、0.4〜0.6mL/hが好ましい。また、ニードルサイズは特に制限されないが、24〜30Gが挙げられ、26〜28Gが好ましい。
以下に実施例に基づいて本考案を詳細に説明するが、本考案の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきものではない。
実施例1.本シートの作製
ゲル浸透クロマトグラフィー法により測定した数平均分子量が101000(n=2の平均値)であるポリカプロラクトン(本実施例では「101kPCL」ともいう。)と、同法より測定した数平均分子量が3865(n=2の平均値)であるポリカプロラクトンジオール(本実施例では「3.9kPCLdiol」ともいう。)を準備した。
101kPCLと3.9kPCLdiolとを(A)9:1及び(B)8:2の割合で、トリフルオロエタノール(TFE)100重量%に対して101kPCLと3.9kPCLdiolの合計濃度が(A)7.2重量%及び(B)8.1重量%となるように各々TFEに溶解させた。さらに、101kPCLと3.9kPCLdiolの合計に対して3%相当のメチルコバラミンを添加して、電界紡糸用組成物を調製した。
調製した上記A及びBの電界紡糸用組成物を電界紡糸装置を用いて紡糸し、不織布からなるシートA及びBを製造した。このとき、噴出装置にはニードル(27G)を用い、ニードルからターゲット電極までの距離は17cm、吐出速度は0.5mL/h、印加電圧は30kVとした。
実施例2.走査型電子顕微鏡観察
実施例1で製造したシ−トA及びBの走査型電子顕微鏡写真を図1に示した。また、シ−トA及びBについて、電子顕微鏡写真から、10本の繊維径を計測した結果、シートAが319.2〜1974.0nmで、シートBが336.5〜1333.0nmであった。各々について、平均繊維径(±標準偏差)を算出した。結果の一例として、各平均繊維径はシートAが933.6(±457.9)nm、シートBが799.0(±328.7)nmであった。
実施例3.細胞浸潤阻害試験
実施例1で製造したシートA及び当該シートを1ヶ月間リン酸緩衝生理食塩液(PBS)に浸漬したシートA’(以下「PBS浸漬シート」ということもある)の各々製造番号が異なる3枚(製造番号1、製造番号2、製造番号3)について、下記の試験方法により細胞湿潤阻害能を確認した。
(1)PBS浸漬シート(シートA’)の作製
本シートを、遮光下、37℃±1℃(成り行き湿度)で、1枚当たり100mLのPBSに1ヶ月間浸漬した。浸漬後のシート及びPBS浸漬液全量をフィルターシステム(製造番号:430770、Corning Incorporated)のフィルター上層部に入れ、緩やかに吸引ろ過した。フィルターシステム上層部の内壁面及びフィルター上のシートを約10mLの滅菌精製水(日本薬局方)を用いて10回緩やかに吸引ろ過しながら洗いこみ、当該シートを滅菌済みの濾紙の上に置いて、クリーンベンチ内で12時間以上自然乾燥させた。
(2)インサートの作製
セルカルチャーインサート(製造番号:CBA−102(Part No.10201)、CELL BIOLABS,INC.)に貼り付けられているメンブランを剥がした。次に、直径約2.5cmの円状に切り出したシートA又はシートA’を、白色ワセリン(健栄製薬(株))を用いて、インサートの底面〜側面を覆うように貼り付け、さらにインサート側面にパラフィルムを巻きつけて各シートを保持した。同様に、陰性対照として、0.4μmポアサイズのメンブランを貼り付けたインサート、及び、陽性対照として、5μmポアサイズのメンブランを貼り付けたインサートを各々3個作製した。
(3)細胞浸潤阻害試験
THP−1細胞(ヒト単球由来細胞株、American Type Culture Collection)の濃度が1.5×106 cells/mLとなるよう、無血清培地(RPMI 1640、10%牛胎児血清(FBS))を用いて細胞浮遊液を調製した。24ウェルプレートの各ウェルに500μLの牛胎児血清(走化性因子)含有培地(RPMI 1640、10%FBS)を入れ、その上に各々のインサート(各3個)を重ね、各インサートの上層に細胞浮遊液100μLを添加した。なお、シートA、シートA’、陰性対照及び陽性対照各々において、インサート上層に無血清培地を添加したものを各1個用意し、ブランクコントロールとした。これらの24ウェルプレートをアルミホイルで遮光し、炭酸ガス培養器(37.0℃、5%CO2)に入れ、18時間培養した。
培養後、位相差顕微鏡を用いて各インサート下層を観察した。インサート上面の細胞浮遊液を除去し、Cell Detachement Solution 400μLを入れた新しい24ウェルプレートにインサートを移し、37.0℃、5%CO2条件下で30分間インキュベートした後、インサート下面に付着した細胞を浮遊させた。次に、当該インサートを除去したウェルに、培養後のプレートに残った浸潤細胞を含む培地を400μL加え、混合した。各混合液180μLを96ウェルプレートに移し、調製した4×Lysis Buffer/Cyquant GR Dye混合液(Cyquant GR Dye:4×Lysis Buffer=1:74)60μLを各ウェルに添加して、室温遮光下で20分間静置した。静置後、各ウェルの混合液について、Excitation/Emission=480/520の条件で、蛍光マイクロプレートリーダー(SpectraMax Gemini XPS、モレキュラーデバイスジャパン株式会社)を用いて蛍光強度を測定し、シートA、シートA’、陰性対照及び陽性対照の細胞数を各々算出した。なお、細胞浸潤阻害試験後に、シートを貼り付けたインサート上層に0.1%メチレンブルー溶液を適量滴下し、インサート側面からのメチレンブルー溶液の漏出が無いことを確認した。結果の一例として、表1にシートAにおける浸潤細胞数、表2にシートA’における浸潤細胞数を示す。
Figure 0003226178
Figure 0003226178
表1から明らかなように、未使用のシートAについては、陰性対照と同様に細胞の透過を抑制した。また、表2から明らかなように、1ヶ月間生体内に埋め込んだことを想定してPBSに浸漬したシートA’については、陰性対照よりも若干細胞を透過させる傾向が見られたが、陽性対照と比較して細胞透過数は1/10以下であったことから、シートA及びシートA’のいずれも細胞の透過を抑制することが確認された。以上の結果より、本シートは末梢神経損傷部の神経及びその周辺部に適用した場合に、マクロファージ等の炎症性細胞の浸潤を抑制することにより神経の瘢痕化を防いで、神経の保護及び/又は神経再生促進作用を発揮することが確認された。さらには、シートAとシートA’の結果を比較することにより、本シートの炎症性細胞に対する浸潤抑制作用については、本シートを生体内に適用した初期に最も強い作用が確認され、生分解性が進むに伴って、徐々にその作用は弱まる傾向にあることが確認された。

Claims (29)

  1. 脂肪族ポリエステルを含有する繊維で形成された不織布からなり、空隙率が60〜80%である、細胞浸潤抑制作用を有するシート。
  2. 厚みが40〜70μmである、請求項1に記載のシート。
  3. 重量が0.5〜10mg/cm2である、請求項1又は2に記載のシート。
  4. 密度が100〜1000mg/cm3である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のシート。
  5. 前記繊維の平均繊維径が500〜1500nmである、請求項1〜4のいずれか一項に記載のシート。
  6. 前記繊維が少なくとも2箇所以上の分子量の領域に極大値が存在する分子量分布を有するものである請求項1〜5のいずれか一項に記載のシート。
  7. 前記分子量の領域の少なくとも一箇所が、滅菌処理前の数平均分子量として1000〜7000の領域である、請求項6に記載のシート。
  8. 前記分子量の領域の少なくとも一箇所が、滅菌処理前の数平均分子量として40000〜140000の領域である、請求項6又は7に記載のシート。
  9. 前記分子量の領域の少なくとも一箇所が、滅菌処理前の数平均分子量として50000〜130000の領域である、請求項6又は7に記載のシート。
  10. 前記分子量の領域が、滅菌処理前の数平均分子量で1000〜7000の領域及び40000〜140000の領域の少なくとも2箇所である、請求項6〜9のいずれか一項に記載のシート。
  11. 前記分子量の領域が、滅菌処理前の数平均分子量で1000〜7000の領域及び50000〜130000の領域の少なくとも2箇所である、請求項6〜9のいずれか一項に記載のシート。
  12. 前記不織布中に含有される脂肪族ポリエステルのうち、最も低分子量側の極大値を有する前記脂肪族ポリエステルを低分子量成分とし、最も高分子量側の極大値を有する前記脂肪族ポリエステルを高分子量成分としたとき、前記不織布中における低分子量成分の含有量と高分子量成分の含有量の和に対する、低分子量成分の含有量の含有質量比が0.01以上0.3以下である、請求項6〜11のいずれか一項に記載のシート。
  13. 前記不織布中に含有される脂肪族ポリエステルのうち、最も低分子量側の極大値を有する前記脂肪族ポリエステルを低分子量成分とし、最も高分子量側の極大値を有する前記脂肪族ポリエステルを高分子量成分としたとき、前記不織布中における低分子量成分の含有量と高分子量成分の含有量の和に対する、低分子量成分の含有量の含有質量比が0.02以上0.2以下である、請求項6〜11のいずれか一項に記載のシート。
  14. 前記脂肪族ポリエステルが、生分解性である、請求項1〜13のいずれか一項に記載のシート。
  15. 前記生分解性の脂肪族ポリエステルが、ポリカプロラクトン、ポリカプロラクトンジオール、ポリ乳酸、ポリグリコール酸又はこれらの共重合体からなる群から選択されるものである、請求項14に記載のシート。
  16. 前記生分解性の脂肪族ポリエステルが、ポリカプロラクトン、ポリカプロラクトンジオール又はこれらの共重合体からなるものである、請求項14又は15に記載のシート。
  17. 前記細胞が炎症性細胞である、請求項1〜16のいずれか一項に記載のシート。
  18. さらに、神経保護及び/又は神経再生促進作用を有する、請求項1〜17のいずれか一項に記載のシート。
  19. 前記神経保護及び/又は神経再生促進作用が神経の瘢痕化の抑制によるものである、請求項18に記載のシート。
  20. さらに、神経損傷治療薬を含有する、請求項1〜19のいずれか一項に記載のシート。
  21. 前記神経損傷治療薬がビタミンB12である、請求項20に記載のシート。
  22. 前記ビタミンB12がメチルコバラミンである、請求項21に記載のシート。
  23. 前記ビタミンB12の含有量が前記シート1cm2当たり0.03〜0.5mgである、請求項21又は22に記載のシート。
  24. 前記ビタミンB12の含有量が前記シート1cm2当たり0.05〜0.3mgである、請求項21又は22に記載のシート。
  25. 生体の神経損傷部位の周辺部に埋め込んで使用される、請求項1〜24のいずれか一項に記載のシート。
  26. 生体の神経損傷部位の神経周囲に巻いて使用する、請求項1〜24のいずれか一項に記載のシート。
  27. 前記生体がヒトである、請求項25又は26に記載のシート。
  28. 請求項1〜27のいずれか一項に記載のシートであって、製造後に滅菌処理が施されるものであるシート。
  29. 前記滅菌処理が電子線滅菌又はEOG滅菌である、請求項28に記載のシート。
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