JP3193996B2 - ヘテロ構造評価方法 - Google Patents

ヘテロ構造評価方法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、ヘテロ構造を有する
電子・光素子において、電流−電圧特性を測定して、素
子特性に影響を与える膜厚ゆらぎ,ポテンシャルゆら
ぎ,ポテンシャル分布ゆらぎ,単結晶性ゆらぎ(以下構
造ゆらぎと総称する)を評価するヘテロ構造の評価方法
に関する。
【0002】
【従来の技術】デバイスの性能向上のために、ヘテロ構
造を用いた様々な構造が提案されているが、ヘテロ構造
における構造ゆらぎは、デバイスの性能に大きな影響を
及ぼす。特に、素子の動作速度高速化のために量子効果
を用いた素子構造では、ヘテロ構造の大きさ(層厚)が
電子波長と同等であるため、素子特性は構造ゆらぎに非
常に敏感であり、ナノメータスケールの構造ゆらぎが素
子の性能を著しく劣化させるといわれている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】そこで、構造ゆらぎの
ない素子構造を形成する技術を確立することが不可欠で
あり、そのためには、構造ゆらぎを高精度で評価する技
術が必要である。ヘテロ構造の界面分析法には、ヘテロ
構造を構成する各薄膜形成後の表面形状を走査型トンネ
ル顕微鏡(STM)や原子間力顕微鏡(AFM)を用い
て評価して、ヘテロ構造の各界面構造を間接的に予想す
る方法がある。しかし、この方法では、素子作製後の界
面構造を精密に定めることはできないという問題があ
る。
【0004】一方、表面下に形成された界面の分析方法
には、フォトルミネッセンス(PL)、カソードルミネ
ッセンス(CL)、フォトルミネッセンス励起(PL
E)などが用いられてきた。これらの方法は、いずれも
障壁層に挟まれた量子井戸構造中に束縛された励起子の
ルミネッセンスや吸収を利用しているため、構造を形成
する層のうち、量子井戸層の構造のゆらぎの評価には適
用できるが、他の障壁層を含む全ての層の構造ゆらぎの
評価を行うことはできない。また、入出力プローブのサ
イズや、励起子の測定中の拡散効果などにより分解能が
決まっており、その値はサブμmスケールにとどまって
いる。
【0005】また、表面下に形成された界面を評価する
技術としては、STM技術を応用した弾道電子放射顕微
鏡(BEEM)があり、ショットキー接合界面の構造ゆ
らぎがナノメータスケールの分解能で測定できる。しか
し、このBEEMでは、探針−試料間距離を定めるため
に用いているトンネル電流の一部(10%以下)を界面
評価の信号に利用するため、構造に流せる電流が微小な
値に限られている。従って、BEEMが適用できる構造
は、単一接合などの単純な構造に限られ、多層の薄膜で
形成されるヘテロ構造の評価に応用するには困難が多
い。
【0006】この発明は、以上のような問題点を解消す
るためになされたものであり、ヘテロ構造中の構造的な
ゆらぎを、高精度でナノメータスケールの分解能を有し
て評価できるようにすることを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】この発明のヘテロ構造評
価方法は、波動性により流れる電流が支配的である電圧
範囲において、ヘテロ構造にその構造を横切るように電
圧を印加し、この印加する電圧値を変化させたときの電
流値の変化を計測し、この電流値が極大値となった前後
を含む電圧範囲における電流値の変化の具合により、ヘ
テロ構造を構成する各層の構造上の変化を評価すること
を特徴とする。また、この発明のヘテロ構造評価方法
は、波動性により流れる電流が支配的である電圧範囲に
おいて、測定対象のヘテロ構造にその構造を横切るよう
に電圧を印加し、この印加する電圧値を変化させたとき
の電流値の変化を計測し、この電流値が極大値となった
前後を含む電圧範囲における電流値の変化の具合を、基
準となるヘテロ構造による電流値の変化と比較すること
で、ヘテロ構造を構成する各層の構造上の基準となるヘ
テロ構造からの変化を評価することを特徴とする。そし
て、この発明のヘテロ構造評価方法は、波動性により流
れる電流が支配的である電圧範囲において、測定対象の
ヘテロ構造の第1の領域でその構造を横切るように電圧
を印加し、この印加する電圧値を変化させたときの電流
値の変化である第1の変化を計測し、波動性により流れ
る電流が支配的である電圧範囲において、測定対象のヘ
テロ構造の第2の領域でその構造を横切るように電圧を
印加し、この印加する電圧値を変化させたときの電流値
の変化である第2の変化を計測し、第1および第2の変
化の中で、それぞれ極大となった前後を含む電圧範囲に
おける電流値の変化の具合同士を比較することで、ヘテ
ロ構造を構成する各層の構造上の変化の分布を評価する
ことを特徴とする。
【0008】
【作用】ヘテロ構造の構造ゆらぎに応じて、ヘテロ構造
中の電子波の干渉条件の違いが有り、これを、電圧を掃
引して印加したときの電流値の変化により検出する。
【0009】
【実施例】以下、この発明の実施例を説明する前に、こ
の発明の概要について説明する。この発明は、電子の波
動性を利用するものである。ヘテロ構造中の各場所で
は、構造ゆらぎのために電子波の干渉条件には構造ゆら
ぎに応じた違いが生じている。この干渉条件の違いを検
出することにより、構造ゆらぎを評価する。具体的に
は、ヘテロ構造をその波動性により透過する電子による
電流の、ヘテロ構造への印加電圧依存性を、電子の透過
確率が極大になる電圧Vp を少なくとも1つ含む電流−
電圧特性を示すヘテロ構造で、0≦Vs ≦V0 (ただし
p ≦V0 )の範囲の印加電圧Vs において電流を測定
し、異なる場所で測定した結果と比較する。
【0010】同一印加電圧においては、電流に寄与する
量の中で構造ゆらぎが電流に及ぼす影響が含まれるのは
主に透過確率であり、透過確率の値は極大値近傍で特に
大きく変化する性質を持つ。このことから、比較の方法
として例えば、電流の比を採用すると、構造ゆらぎ、つ
まり干渉条件の違いに応じた電子の透過確率の違いの効
果が主に反映されることになる。また、原子間力顕微鏡
などを微小領域での測定方法として評価に応用する場
合、電流の比をとることには、ヘテロ構造以外の影響、
例えば、接触抵抗などの影響を相殺できる利点もある。
【0011】以上説明したように、電流の比から、測定
した異なる場所におけるヘテロ構造を構成する薄膜間で
の構造ゆらぎとその大きさの分析が行える。電子波の広
がりはドブロイ波長(数十nm)程度であるから、本発
明では、ナノメータスケールの分解能での分析が可能で
ある。
【0012】以下この発明の1実施例を図を参照して説
明する。 実施例1.本実施例では、図1に示す2つのAlAsか
らなる障壁層1,2と、InGaAsからなる井戸層3
とから構成された共鳴トンネル構造(RTD構造)にお
いて、障壁層1,2の幅のゆらぎが±1分子層(以下、
1MLと呼ぶ)別個に存在する単一構造ゆらぎの評価
に、本発明を適用した。なお、4,5は電極層、6,7
は電極である。初めに、RTD構造の示す電流−電圧特
性(以下I−V特性と呼ぶ)について説明する。
【0013】RTD構造に電子が電流層4から入射され
た場合、障壁層1における波動関数の反射により、トン
ネル効果により透過する(トンネルする)電子の透過確
率は大抵の場合0に近い。しかし、特定の電子波干渉条
件(以下、共鳴条件という)が満たされる場合、つま
り、障壁層1,2や井戸層3の層厚などにより決まる位
相差相当の行路差が、入射電子のドブロイ波長の半分の
値の場合、RTD構造による反射電子波は打ち消され、
電子の透過確率は1に近づく。特に、RTD構造への印
加電圧が0の場合には、透過確率が1になる共鳴条件が
ある。
【0014】そして、その印加電圧がVs (>0V)の
場合には、RTD構造から出射される電子速度とRTD
構造に入射される電子速度とが異なるため、RTD構造
全体から反射される電子が常に存在するので、その透過
確率が1よりわずかに減少した値となることが知られて
いる。また、ある決まった構造の障壁層,井戸層から構
成されるRTD構造においては、入射する電子の波長に
より共鳴するかどうかが決まり、入射する電子がそのR
TD構造において共鳴する条件を満たす波長なら、トン
ネル透過確率が1に近づき、印加電圧が0なら1にな
る。
【0015】すなわち、電子は、その共鳴条件を満たす
波長となるエネルギーをもっているとき、共鳴条件を満
たした特徴的なトンネル効果(共鳴トンネル効果)によ
りRTD構造をトンネルする。このような共鳴トンネル
効果では、光学における共振器による波長の選択透過性
と同様に、電子波の多重反射による干渉効果で決まるト
ンネル透過性に、電子波が共鳴条件を満たしているかど
うかの違いが顕著に現れている。従って、共鳴条件を与
える印加電圧Vs =Vp においては、電子のトンネル透
過確率が急激に1に近づき、共鳴条件をわずかでもはず
れると、トンネル透過確率は急激に0に近づく。
【0016】このため、RTD構造を流れる電流I0
印加電圧Vs =Vp の場合に極大値をもつ、図2に示す
ようなI−V特性を示す。前述したように、RTD構造
に印加している電圧を変えることは、入射電子のエネル
ギー分布の最大値を与えるエネルギーを変えることにな
り、すなわち入射電子の波長分布の最大値を与える波長
を変化させることになり、印加電圧を変化させていけ
ば、共鳴条件となる点が、測定した電流値の変化の中に
現れてくる。
【0017】図3は、RTD構造をもつ素子の断面図で
あり、1はAlAsからなる厚さLb1=11ML(分子
層)の障壁層、2はAlAsからなる厚さLb2=11M
Lの障壁層、3はインジウムの組成比が0.2のInG
aAsからなる厚さLw =18MLの井戸層、4,5は
n型の不純物が導入されたGaAsからなる電極層、
6,7は電極であり、障壁層1,2と井戸層3とを基準
構造とするRTD構造を有している。そして、8,9は
電極層4,5からのn型不純物の拡散によるRTD構造
への侵入を防ぐための厚さ5MLのGaAsからなるス
ペーサである。
【0018】この基準構造から、障壁層1,2または井
戸層3の厚さが1ML増減した場合の電流Iと基準構造
における電流I0 の比の印加電圧Vs 依存性(以下、I
/I0 −V特性と呼ぶ)の計算結果を図4〜6に示す。
図4は、高エネルギー側の障壁層1の厚さを1ML増減
した場合のI/I0 −V特性の計算結果を示し、41は
1ML増加した場合の計算結果を示し、42は1ML減
少した場合の計算結果を示す。
【0019】また、図5は、低エネルギー側の障壁層2
の厚さを1ML増減した場合のI/I0 −V特性の計算
結果を示し、51は1ML増加した場合の計算結果を示
し、52は1ML減少した場合の計算結果を示す。そし
て、図6は、井戸層3の厚さを1ML増減した場合のI
/I0 −V特性の計算結果を示し、61は1ML増加し
た場合の計算結果を示し、62は1ML減少した場合の
計算結果を示す。
【0020】これらの図4〜6から分かるように、主に
p /2を境にしてI/I0 −V特性が変化することが
分かる。Vs <Vp /2の印加電圧範囲では、主に障壁
層1,2の厚さのゆらぎの影響が現れる。例えば、障壁
層1,2が1ML薄くなると、図4,5に示すように、
この範囲では、I/I0 の値は約3倍になる。これに対
して、井戸層3の厚さが1ML増減しても、図6に示す
ように、この範囲ではI/I0 の値は約1で、IはI0
と変わらない値である。
【0021】これらのことは、上述の範囲では、フェル
ミ準位と共鳴準位のエネルギー差が大きいため共鳴トン
ネル効果は生じず、電子はあたかも単一障壁をトンネル
するようにふるまうことに起因する。
【0022】一方、Vp /2<Vs <Vp の印加電圧範
囲では、主に井戸層3の厚さのゆらぎの影響が顕著に現
れる。例えば、井戸層3が1ML厚くなると、図6に示
したように、この範囲ではI/I0 の値は100倍にな
る。また、Vp /2<Vs <Vp の印加電圧範囲では、
2つの障壁層1,2のどちらの層厚がゆらいだかによっ
て、I/I0 の印加電圧依存性が異なっている。
【0023】このことは、それぞれの障壁の高エネルギ
ー側における電子分布の状況が共鳴条件近傍では異なる
ことに起因している。上述の印加電圧範囲において、障
壁層1の高エネルギー側にはフェルミ分布に従って電子
が分布し、特にフェルミ準位近傍では、電子の分布関数
は電子のエネルギー増加に従って1から0に変化してい
る。従って、フェルミ準位と共鳴準位のエネルギー差が
ほとんどない場合、障壁層1をトンネルして共鳴準位ま
で到達する電子数には、障壁層1の高エネルギー側のフ
ェルミ準位近傍での電子分布変化の影響が強く現れる。
このため、障壁層1の1ML程度の増減による透過確率
変化の効果は、これに埋もれて現れにくくなる。従っ
て、Vp 近傍では、I/I0 の値が1に近づいて、見か
け上障壁層1の層幅ゆらぎの影響が検出されなくなる。
【0024】一方、上述の印加電圧範囲において、障壁
層2の高エネルギー側には共鳴準位があり、この準位は
非常に狭い準位幅を持つ。従って、共鳴準位にいる電子
が障壁層2をトンネルする場合の電子数には、共鳴準位
近傍での電子分布変化の影響がほとんどないため、障壁
層2の1ML程度の増減による透過確率変化の効果が強
く現れる。この結果、フェルミ準位と共鳴準位のエネル
ギー差がほとんどない場合、すなわちVp 近傍でも、0
<Vs <Vp /2の場合と同様に障壁層2の層幅のゆら
ぎの影響が検出される。図4〜6より、〜Vp を越えた
ところでは、それぞれのI/I0 −V特性が複雑化す
る。
【0025】RTD構造における単一構造ゆらぎに起因
する図4〜6に示したI/I0 値の変化を以下の表1に
まとめた。
【0026】
【0027】表1から、以下に示すことが判明する。ま
ず、0<Vs <Vp /2では障壁層厚さのゆらぎの有/
無が分かる。また、Vp /2<Vs <Vp では、井戸層
厚さのゆらぎの有/無が分かる。そして、0<Vs <V
p /2でゆらぎが判明した障壁層が、2つの障壁層のう
ちどちらであるかを検出可能である。従って、基準構造
の電流I0 と、評価対象の構造の電流Iとを比較するこ
とにより、RTD構造を構成する3つの層のそれぞれに
ついて、基準構造からの層数ゆらぎ分布を、1ML単位
で各々分離して別個に判別できる。
【0028】実施例2.この実施例2では、図3に示し
た2つの障壁層1,2と井戸層3からなるRTD構造に
おいて、障壁層1,2の幅と井戸層3の幅のゆらぎが同
時に存在する複合ゆらぎの場合について説明する。図3
に示した基準構造から、井戸層3の厚さが1ML増加し
た場合に加え、障壁層1または障壁層2が1ML減少し
た場合のI/I0 −V特性の計算結果を図7に示す。
【0029】図7より、主に、Vp /2を境にして、I
/I0 −V特性が変化することが分かる。0<Vs <V
p /2の印加電圧の範囲では、主に障壁層厚のゆらぎの
影響が現れる。例えば、障壁層1が1ML薄くなると、
I/I0 の値は約3倍になる。一方、、井戸層3厚さが
1ML増加してもI/I0 の値はほとんど1でIはI0
と変わらない値である。これらは、フェルミ準位と共鳴
準位のエネルギー差が大きいため、共鳴トンネル効果は
生じず、電子があたかも単一障壁をトンネルするように
ふるまうからである。
【0030】一方、Vp /2<Vs <Vp の印加電圧範
囲では、おもに井戸層3の厚さのゆらぎの影響が現れ
る。例えば、井戸層3が1ML厚くなると、I/I0
値は約100倍になる。また、Vp /2<Vs <Vp
印加電圧の範囲では、井戸層3に加えた障壁層1,2の
厚さのゆらぎがどちらであるかによって、I/I0 の値
の印加電圧依存性が異なっている。これは、それぞれの
障壁の高エネルギー側における電子分布の状況が、共鳴
条件では異なることに起因している。
【0031】障壁層1の高エネルギー側にはフェルミ分
布に従って電子が分布し、特にフェルミ準位近傍では、
電子の分布関数は電子のエネルギー増加に従って1から
0に変化している。従って、フェルミ準位と共鳴準位の
エネルギー差がほとんどない場合、障壁層1をトンネル
して共鳴準位まで到達する電子数には、障壁層1の高エ
ネルギー側のフェルミ準位近傍での電子分布変化の影響
が強く現れる。このため、障壁層1の1ML程度の増減
による透過確率変化の効果は、これに埋もれて現れ難く
なる。従って、Vp 近傍では、I/I0 の値が井戸層3
の1MLのゆらぎのみの場合の値に近づいて、見かけ
上、障壁層1の幅のゆらぎによる影響が検出されなくな
る。
【0032】一方、上述の印加電圧範囲において、障壁
層2の高エネルギー側には共鳴準位があり、この準位は
非常に狭い準位幅を持つ。従って、共鳴準位にいる電子
が障壁層2をトンネルする場合の電子数には、共鳴準位
近傍での電子分布変化の影響がほとんどない。このた
め、障壁層2の1ML程度の増減による透過確率変化の
効果が強く現れる。この結果、共鳴準位のエネルギー差
がほとんどない場合、すなわち、Vp 近傍でも、0<V
s <Vp /2の場合と同様に、障壁層2の層幅ゆらぎの
影響が残り、これがI/I0 の値が井戸層3の厚さゆら
ぎにの影響によるI/I0 の値と、障壁層2の厚さゆら
ぎの影響によるI/I0 の値の積に近い値になる結果と
して現れている。
【0033】この実施例2における、RTD構造の複合
構造ゆらぎに起因する、図7に示した、電流値比の変化
を表2にまとめた。
【0034】
【0035】表2から、以下に示すことが判明する。ま
ず、0<Vs <Vp /2では障壁層厚さのゆらぎの有/
無が分かる。また、Vp /2<Vs <Vp では、0<V
s <Vp /2でゆらぎが判明した障壁層が、2つの障壁
層のうちどちらであるかを検出可能である。従って、基
準構造の電流I0 と、評価対象の構造の電流Iとを比較
することにより、RTD構造を構成する層の複合構造ゆ
らぎがある場合の基準構造からの構造ゆらぎが、1ML
単位で各々分離して別個に判別できる。
【0036】なお、上記実施例では、この発明をRTD
構造に適用した例について説明したが、これに限るもの
ではない。波動性によりヘテロ構造を透過する電子の電
流密度(キャリアによる電流密度)のヘテロ構造への印
加電圧依存性が測定可能な、任意のヘテロ構造について
も適用可能である。例えば、単一ヘテロ接合,単一障壁
構造,多重結合量子井戸構造,多重トンネル障壁構造
の、構造ゆらぎ評価にも適用できる。
【0037】実施例3.以下、この発明の第3の実施例
について説明する。この実施例3では、高空間分解能を
有するI−V測定法を用いて、RTD構造の微小領域の
I−V特性測定を行い、ナノメータスケールの微小領域
におけるRTD構造の素子構造ゆらぎの面内分布を測定
した例を示す。ここでは、図8に示すような、原子間力
顕微鏡を応用した測定系を用いてRTD構造の評価を行
った。
【0038】図8は、原子間力顕微鏡を応用した測定系
の構成を示す構成図であり、同図(a)において、1a
は図3に示した障壁層1,2と井戸層3からなるRTD
構造、10は2次元方向に走査可能な導電性探針、11
は電圧源、12は導電性探針10に流れる電流値を測定
する電流計であり、他の符号は図3と同様である。そし
て、電流計12の測定した電流値によって、図8(b)
に示すような、電流分布のイメージが得られる。
【0039】RTD構造1aに流れる電流値が、導電性
探針10の接触面積に比例するので、導電性探針10の
先端を、例えば、20nm以下の径とすることにより、
ナノメータスケールの微小領域のI−V特性の測定が可
能である。例えば、過剰に電圧を印加して素子の導電性
探針10の下の素子の部分を破壊したあと、その位置か
ら10〜20nm横に移動した場所では正常なRTDの
I−V特性が測定できる。このことからも、10〜20
nmの面内分解能で電流分布が測定できることが分か
る。
【0040】この実施例のRTD構造1aとしては、I
nの組成比が0.2のInGaAsからなる厚さ18M
L(約5.4nm)の井戸層と、これを挾むAlAsか
らなる厚さ11ML(約3.1nm)の障壁層とから構
成されているものを用いた。また、印加電圧Vs =0.
8Vの条件で行った。この印加電圧は、素子中のRTD
構造1aにVp /2<Vs <Vp の範囲に含まれる電圧
を印加する電圧である。
【0041】この測定を200nm×200nmの領域
で行った結果得られた電流像を図9に示す。図9におい
て、検出された電流値Iが大きいところが白く示されて
いる。すなわち、電流像は電流値I0 を示す暗部と電流
値Iを示す明部との2つに分かれ、この実施例において
は、両者の比I/I0 は暗部の電流値を1とした場合1
00以上である。
【0042】図9に示した電流像の明部と暗部での電流
比が100倍以上異なり、この結果を表1の計算結果と
比べると、これが井戸層の1MLの差に対応しているこ
とから、この電流像では井戸層厚に1MLのゆらぎ分布
が存在していることが示されている。この測定結果は、
この発明をナノメータスケールのI−V特性測定装置
(原子間力顕微鏡を応用した測定系)に適用したことに
より、200nm×200nm内において10nm〜2
0nmの面内分解能で1MLの層数(層厚)ゆらぎの面
内分布が測定できたことを示す。
【0043】ところで、この実施例3においては、導電
性探針10の先端を20nm程度の径としたので、Al
Asからなる障壁層の層数のゆらぎの面内分布を測定す
ることはできない。AlAsの場合、その1分子層程度
のゆらぎは、5nm×5nm程度の領域の大きさで存在
しており、この大きさが導電性探針10の先端径よりず
っと小さいためである。この実施例における井戸層を形
成するInGaAsの場合、その分子層程度のゆらぎ
が、100nm×100nm近くの大きさの領域の大き
さで主に変化していくので、先端が20nm程度の径の
導電性探針10であれば、その層数のゆらぎの面内分布
を測定できる。
【0044】以上説明したように、この発明を用いるこ
とにより、ナノメータスケールの分解能で、ヘテロ構造
の構造ゆらぎの面内分布測定が可能となる。なお、上記
実施例では、ヘテロ構造を持つ1つの素子内の構造ゆら
ぎの分析について述べたが、これに限るものではない。
この発明では、ヘテロ構造を持つ複数素子の間の構造ゆ
らぎの評価にも適用できることは言うまでもない。ま
た、上記実施例では、半導体薄膜で構成されたヘテロ構
造について述べたが、これに限るものではなく、この発
明は、金属および絶縁体の薄膜を含むヘテロ構造の構造
ゆらぎの評価にも適用できる。
【0045】
【発明の効果】以上説明したように、この発明によれ
ば、ヘテロ構造に印加する電圧を掃引してそのときの電
流値の変化を測定し、この電流値の変化によりヘテロ構
造の評価をするようにした。ヘテロ構造に印加している
電圧を変えることで、入射キャリアのエネルギー分布の
最大値を与えるエネルギーを変えることになり、印加電
圧を変化させていけば、共鳴条件となる点が測定した電
流値の変化の中に現れてくる。この電流値の変化の違い
により、ヘテロ構造を構成する各層の1分子層または1
原子層の膜厚のゆらぎ相当程度の構造ゆらぎを検出可能
である。このため、ヘテロ構造中の構造的なゆらぎを高
精度で、ナノメータスケールの分解能を有して評価でき
るという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】 共鳴トンネル構造の一般的な構成を示す断面
図である。
【図2】 共鳴トンネル効果を示す共鳴トンネル構造へ
の印加電圧と電流との関係を示す特性図である。
【図3】 この発明の1実施例のおける測定対象の共鳴
トンネル構造の構成を示す断面図である。
【図4】 図3の障壁層1の厚さが1ML増減した場合
の電流Iと基準構造における電流I0 の比の印加電圧V
s 依存性の計算結果を示す特性図である。
【図5】 図3の障壁層2の厚さが1ML増減した場合
の電流Iと基準構造における電流I0 の比の印加電圧V
s 依存性の計算結果を示す特性図である。
【図6】 図3の井戸層3の厚さが1ML増減した場合
の電流Iと基準構造における電流I0 の比の印加電圧V
s 依存性の計算結果を示す特性図である。
【図7】 図3の井戸層3の1ML増加に加えて、障壁
層1または障壁層2が1ML増加した場合のI/I0
V特性の計算結果を示す特性図である。
【図8】 この発明の第3の実施例のおける原子間力顕
微鏡を応用した測定系の構成を示す構成図である。
【図9】 実施例3における測定を200nm×200
nmの領域で行うことで得られた結果を示す電流分布像
を示す特性図である。
【符号の説明】 1,2…障壁層、3…井戸層,4,5…電極層、6,7
…電極。8,9…スペーサ、10…導電性探針、11…
電圧源、12…電流計。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) G01N 27/00 - 27/24 H01L 21/66 G01N 13/00 - 13/24

Claims (3)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 複数の薄膜から構成されたヘテロ構造の
    ヘテロ構造評価方法において、 波動性により流れる電流が支配的である電圧範囲におい
    て、前記ヘテロ構造にその構造を横切るように電圧を印
    加し、 この印加する電圧値を変化させたときの電流値の変化を
    計測し、 この電流値が極大値となった前後を含む電圧範囲におけ
    る電流値の変化の具合により、前記ヘテロ構造を構成す
    る各層の構造上の変化を評価することを特徴とするヘテ
    ロ構造評価方法。
  2. 【請求項2】 複数の薄膜から構成されたヘテロ構造の
    ヘテロ構造評価方法において、 波動性により流れる電流が支配的である電圧範囲におい
    て、測定対象のヘテロ構造にその構造を横切るように電
    圧を印加し、 この印加する電圧値を変化させたときの電流値の変化を
    計測し、 この電流値が極大値となった前後を含む電圧範囲におけ
    る電流値の変化の具合を、基準となるヘテロ構造による
    電流値の変化と比較することで、 前記ヘテロ構造を構成する各層の構造上の前記基準とな
    るヘテロ構造からの変化を評価することを特徴とするヘ
    テロ構造評価方法。
  3. 【請求項3】 複数の薄膜から構成されたヘテロ構造の
    ヘテロ構造評価方法において、 波動性により流れる電流が支配的である電圧範囲におい
    て、測定対象のヘテロ構造の第1の領域でその構造を横
    切るように電圧を印加し、 この印加する電圧値を変化させたときの電流値の変化で
    ある第1の変化を計測し、 波動性により流れる電流が支配的である電圧範囲におい
    て、測定対象のヘテロ構造の第2の領域でその構造を横
    切るように電圧を印加し、 この印加する電圧値を変化させたときの電流値の変化で
    ある第2の変化を計測し、 前記第1および第2の変化の中で、それぞれ極大となっ
    た前後を含む電圧範囲における電流値の変化の具合同士
    を比較することで、 前記ヘテロ構造を構成する各層の構造上の変化の分布を
    評価することを特徴とするヘテロ構造評価方法。
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