JP3173523B2 - 缶用材料の耐食性評価法 - Google Patents

缶用材料の耐食性評価法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、飲料缶等の容器等に
用いる、内面塗装等によって有機被覆が施こされた塗装
鋼板または缶体等の缶用材料の耐食性評価法に関するも
のである。
【0002】
【従来の技術】従来、行われて来た容器内面に用いる材
料の塗装後または被覆後の耐食性評価法は、官能試験に
近いものが一般的である。例えば、塗装後、クロスカッ
トまたはエリクセン等を行なった後、試験環境への暴露
または浸漬等を行ない、最終的には目視およびテープ剥
離により評価を行なうものである。官能試験的な方法
は、人為誤差などの誤差が大きく、評価が主観的になり
定量的な評価ができない。また、劣化原因の推定等の得
られた結果に対する解析が難しい等の欠点がある。
【0003】実際に容器に内容物を詰めて、経時させ結
果をみる、実缶試験も行われているが、これは結果を得
るまでに時間がかかる欠点がある。
【0004】塗装鋼板に交流を流して耐食性を評価する
方法も数多く提案されている。例えば、J.Electrochem.
Soc.,33,Vol.138,No.1,January(1991)。その大部分は、
容器の内面塗装のように、10μm 以下の膜厚の被膜では
なく、10μm 以上多くは数十μm の厚い膜厚の塗装を対
象にしたものであり、試験材に対して分極等を行わない
浸漬状態で、交流による測定を行ない耐食性の評価が可
能であるとしている。
【0005】容器の内面に用いる材料の塗装後または被
覆後の耐食性評価に交流を用いた例も僅かながら報告さ
れている。これらは、例えば腐食防食討論会 87-A131に
示されるように、試験材の総インピーダンスの変化だけ
で耐食性を評価したものであったり、2nd North Ame. T
in Conf.,(1990) に示されるように、評価の目的が塗装
の有孔度であり、耐食性の評価ではないものである。
【0006】従来示されている例は、数μm 程度の薄い
塗膜を対象にしていないか、試験材に対して分極を行い
ながら交流による測定を行っていないか、または、位相
のずれが45°となる周波数を利用して評価していない
か、のいずれかに該当する。
【0007】また、従来の知見では、通常腐食している
塗装鋼板のアノードとカソードの腐食面積の割合は、ア
ノード1に対してカソード50以上といわれており、この
ような試験材について、交流を用いて測定した場合、劣
化特性 (特にカソード) が再現性良く、評価できるとい
うものであった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】交流を用いた塗装鋼板
の評価法のなかで、劣化塗膜部の抵抗と健全な塗膜部分
の容量であらわされる時定数の示す周波数を利用した評
価法が、感度の高い耐食性評価法であることから、我々
は、容器の内面に用いる材料の塗装後または被覆後の耐
食性評価に、この方法を用いることを試みた。しかしな
がら、アノードとカソードの腐食面積の割合は、1:60
以上と、通常腐食している塗装鋼板と同条件であったに
もかかわらず、再現性のある結果が殆ど得られなかっ
た。
【0009】従って、この発明の目的は、定量的に精度
良く缶用材料の耐食性評価をすることができる評価法を
提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】我々は、試験後の試験
材、および、試験結果を詳細に調査したところ、下記の
知見を得た。即ち、容器の内面に用いる塗装または被覆
による塗膜の膜厚は数μm と非常に薄く、このような場
合、アノード劣化部で容易に塗膜は破壊されることがわ
かった。そのときのアノード劣化部の塗膜の抵抗の大き
さは、カソード劣化部の抵抗に比較して、1/100 以下に
なっていることがわかった。容器内面に用いるような膜
厚数μm の薄い塗装鋼板の場合、面積的には、カソード
に比較して無視できるアノード劣化部が、交流を用いて
耐食性評価を行なう場合、その結果に大きな影響を及ぼ
すのである。
【0011】つまり、容器内面に用いるような膜厚数μ
m の薄い塗装鋼板の耐食性評価は、従来いわれてきたよ
うなアノードとカソードが混在する系にそのまま交流に
よる耐食性評価法を用いることは無理であることがわか
った。
【0012】そこで、試験材を分極して、アノード反応
またはカソード反応の単一の反応だけが、試験材表面で
起こるような状態にしておき、そして、交流を印加して
位相のずれを測定し、塗膜劣化部の抵抗と健全な塗膜部
分の容量であらわされる時定数の示す周波数に対応する
位相のずれが45°となる周波数を利用すれば精度良く耐
食性評価を行なえる。ちなみに周波数が高くなることは
劣化の程度が大きいことを示す。
【0013】この発明は、上述の知見に基づいてなされ
たものである。この発明は、缶用材料として使用される
有機被覆が施こされた鋼板または缶体の試験材を試験溶
液中に作用極として配置し、更に、前記試験溶液中に対
極を配置し、次いで、アノードに分極した状態またはカ
ソードに分極した状態で、前記試験材と前記対極との間
に、振幅が2mVから20mVの範囲内、周波数が0.1 MHz か
ら1MHz の範囲内の交流電圧を印加し、その時、前記対
極で測定される電流の入力した交流に対する位相のずれ
が45°となる周波数のうちで最も高い周波数の大きさを
求め、求めた周波数の値によって前記試験材の劣化の程
度を判断することに特徴を有するものである。
【0014】
【作用】本発明においては、容器等の用途に用いる、内
面塗装等によって有機被覆が施こされた、鋼板または缶
体の試験材を、試験溶液中でアノードに分極した状態、
またはカソードに分極した状態で、交流を用いて評価す
ることにより、再現性の良い評価が可能である。この際
の、分極の程度は、ガス発生領域に達しない程度の分極
とする。望ましくは、アノード反応またはカソード反応
のうちのいずれか一方の反応だけが、試験材表面でおこ
るようになる必要最小限の分極にとどめるのがよい。
【0015】試験材に印加する交流の振幅は、2mV以上
20mV以下とすべきである。20mVを超えると塗膜の破壊
等、系に与える影響が大きくなる。また、振幅2mV未満
では、参照電極による電位変化の測定誤差が大きくな
る。容器内面に用いる塗装または被覆を対象とする場
合、望ましくは振幅5mVから12mVの範囲内とするのがよ
い。
【0016】試験材に印加する交流の周波数は、容器内
面に用いる塗装または被覆の特性から、0.1MHzから1MH
z の範囲内とすべきである。この範囲から外れて測定を
行っても、有意義な結果は得られないばかりでなく、時
間の無駄である。
【0017】評価法としては、交流電圧を試験材、例え
ば塗装鋼板に印加し、その時の試験溶液と接した塗装面
近傍で観察される位相データを利用し、入力した交流に
対する位相のずれが45°となる周波数のうち、最も高い
周波数の大きさ (以下、「f B :Hz」という) で、塗装
鋼板の劣化の程度を判断する評価法を用いる。周波数
(f B :Hz)が高くなることは劣化の程度が大きいこと
を示す。
【0018】入力した交流に対する位相のずれが45°と
なる周波数を用いるのは、下記の理由による。即ち、交
流インピーダンス法では、交流を系に流すので、各周波
数に対して、インピーダンス(抵抗)と位相に関する2
つのデータが同時に得られる。図7はインピーダンス抵
抗と周波数との関係および位相のずれと周波数との関係
の1例を示すグラフである。図7に示す2つのデータで
1組のデータとなる。塗装の状態は、折れ点の示す周波
数の大きさで判断する。しかし、抵抗のデータから周波
数を読み取ることは難しい。折れ点は位相のデータで
は、ずれが45°になる点として示される。別の説明で
は、折れ点は、系の中のコンデンサー成分と抵抗成分の
つり合う点である。コンデンサー成分のみでは位相のず
れは90°となり、抵抗成分のみではそのずれは0°であ
る。位相のずれが45°は、系の抵抗成分とコンデンサー
成分のつり合う点である。
【0019】他の評価法、例えば、総インピーダンスで
評価する方法では、測定感度が低く、複数の試験材の耐
食性の比較や、短時間評価には不向きである。
【0020】更に、位相データでなく、インピーダンス
データで評価する方法では、コンピューターでデータを
処理する場合、データの判読が難しいという欠点があ
る。
【0021】試験溶液としては、実際に容器として使用
される場合に充填される内容物に準じたものを用いる。
【0022】
【実施例】次に、この発明を実施例により、図面を参照
しながら説明する。図1は実施例に使用した試験装置を
示すブロック図である。図1において、1はポテンシオ
スタット、2は対極、3は参照電極、4は作用極(試験
材)、5はセル、6は周波数解析装置(FRA 、FET)、7
はGPIBケーブル、8はコンピューター、そして、9はプ
ロッターである。図2および図3は測定セルを示す説明
図である。図2は、平板形状の試験材を対象にしたも
の、図3は、缶体形状の試験材を対象にしたものをそれ
ぞれ示す。図2において、2は対極、3は参照電極、4
は作用極(試験材)、5はガラスセル、10は循環水出入
口、11はガス出入口、12は試験溶液出入口、13はシリコ
ンラバー、14は試験溶液(電解液)、そして、15は塗装
面である。図3において、2は対極、3は参照電極、4
は作用極(試験材)、14は試験溶液(電解液)、そし
て、16は上下可変スタンドである。参照電極3として、
Ag/AgCl、S.C.E (飽和カロメロ電極)等が使用でき、
特に制限はない。対極2としても、試験材4の1/10より
も大きな面積のものであれば、Pt、カーボン等が使用で
き、特に制限はない。
【0023】ポテンシオスタット1から印加された交流
による電圧変動を参照電極3(Ag/AgCl)を通じて測定
し、カソードに分極した状態で、得られたインピーダン
スおよび位相データをコンピューター8に取り込み処理
し、本発明範囲内の方法によりデータ処理を行ない、入
力した交流に対する対極2で測定される電流の位相のず
れが45°となる周波数のうち、最も高い周波数の大きさ
(f B :Hz)を求めた。その結果を図5および図6に示
す。試験溶液として、1.5 wt.%食塩+1.5 wt.%クエン
酸:70℃を用い、電位はAg/ AgCl参照電極を基準とし
た。比較のため本発明範囲外の方法によってもデータ処
理を行ない周波数(f B :Hz)を求め、比較例とした。
その結果を図4に示す。表1に実施例および比較例に用
いた試験材の一覧を示す。
【0024】
【表1】
【0025】図4は比較例を示し、カソード{−0.8V v
s Ag/AgCl (Ag/AgCl 参照電極の平行反応の電位を基準
として試験材を−0.8Vのところに保持)}に分極したも
のの、印加した交流電圧の振幅が30mVあるいは1mVの場
合、または、印加した交流電圧の振幅は本発明範囲内の
10mVであるが分極を行わなかった場合の、試験材の周波
数 (f B :Hz) の経時を示す。図5は実施例を示し、印
加した交流電圧の振幅を10mVとし、試験材をカソード
(−0.8V vs Ag/AgCl 、−1.0V vs Ag/AgCl あるいは−
1.2V vs Ag/AgCl )に分極した状態での、試験材の周波
数 (f B :Hz) の経時を示す。図6は実施例を示し、印
加した交流電圧の振幅を10mVとし、試験材をカソード
(−0.8V vs Ag/AgCl )に分極した状態での、各種試験
材の周波数 (fB :Hz) の経時を示す。図4、図5およ
び図6において、横軸は、浸漬時間 (hr) の対数、縦軸
は、周波数 (f B :Hz) の対数を示す。
【0026】図4より、印加した交流電圧の周波数が2
mV未満または20mVを超えると、周波数 (f B :Hz) は、
不安定になり、浸漬時間とともに劣化の進行する様子
が、明確に評価できないことがわかる。また、図4よ
り、分極を行なわず、アノードとカソードとが混在した
状態で評価を行なうと、やはり良好なデータが得られず
浸漬時間とともに劣化の進行する様子が、明確に評価で
きないことがわかる。
【0027】図5中に示す、、より、分極を行な
った状態で、交流を用いて測定すると、浸漬時間ととも
に劣化の進行する様子が、明確に評価できることがわか
る。、より、本発明範囲内による評価法は、目視に
比較して非常に感度が高いことが示され、従来の官能試
験に比較して本発明評価法が高感度であり、短時間の評
価が可能であることがわかる。また、に示されるよう
に、過度の分極は不適切であることがわかる。
【0028】図6より、本発明範囲内の評価法を用いる
と、種々の異なる材料についても、その耐食性の差を定
量的に評価できることがわかる。
【0029】
【発明の効果】以上説明したように、この発明によれ
ば、容器内面に用いる塗装鋼板において、従来の官能試
験等に比較して、再現性よく、高い感度で、短時間で、
定量的に耐食性評価を行うことができ、かくして、工業
上有用な効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例に使用した試験装置を示すブロック図
【図2】平板形状の試験材を対象にした測定セルの1例
を示す説明図
【図3】缶体形状の試験材を対象にした測定セルの1例
を示す説明図
【図4】交流電圧の振幅がこの発明範囲外、または、分
極を行わないときの、試験材の周波数 (f B :Hz) の経
時を示すグラフ
【図5】この発明の方法による、試験材の周波数 (f
B :Hz) の経時を示すグラフ
【図6】この発明の方法による、各種試験材の周波数
(f B :Hz) の経時を示すグラフ
【図7】インピーダンス抵抗と周波数との関係および位
相のずれと周波数との関係の1例を示すグラフ。
【符号の説明】
1 ポテンシオスタット 2 対極 3 参照電極 4 作用極(試験材) 5 セル(ガラスセル) 6 周波数解析装置(FRA 、FET) 7 GPIBケーブル 8 コンピューター 9 プロッター 10 循環水出入口 11 ガス出入口 12 試験溶液出入口 13 シリコンラバー 14 試験溶液(電解液) 15 塗装面 16 上下可変スタンド。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (56)参考文献 特開 昭62−229056(JP,A) 特開 平4−76447(JP,A) 特開 昭61−294348(JP,A) 材料とプロセス、第4巻第5号、第 1618頁(1991年) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) G01N 27/26 351 G01N 17/02 JICSTファイル(JOIS)

Claims (1)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 缶用材料として使用される有機被覆が施
    こされた鋼板または缶体の試験材を試験溶液中に作用極
    として配置し、更に、前記試験溶液中に対極を配置し、
    次いで、アノードに分極した状態またはカソードに分極
    した状態で、前記試験材と前記対極との間に、振幅が2
    mVから20mVの範囲内、周波数が0.1MHz から1MHz の範
    囲内の交流電圧を印加し、その時、前記対極で測定され
    る電流の入力した交流に対する位相のずれが45°となる
    周波数のうちで最も高い周波数の大きさを求め、求めた
    周波数の値によって前記試験材の劣化の程度を判断する
    ことを特徴とする缶用材料の耐食性評価法。
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