以下に、この考案に係る同圧多軸加圧装置の実施態様を、図面を参照しつつ説明することにする。
図1には、この考案の一実施態様である同圧多軸加圧装置1が示されている。
同圧多軸加圧装置1は、押棒2と、ハウジング3と、貫通孔4と、非圧縮性流体5と、収容部6とを備えている。
押棒2は、応力によりその軸線に沿って移動可能であり、複数設けられて成る棒状部材である。押棒2は、同圧多軸加圧装置1を用いて成形体を作製するときに、被加圧物である粉体に対して圧力を加える部材であり、図1における下方向に押棒2の軸線に沿って移動することにより粉体に対する加圧力を発生することになる。各押棒2の軸線は、互いに平行になるように設置されており、通常は押棒2の軸線が同圧多軸加圧装置1の設置面に対して垂直になるように設置される。なお、この考案に係る同圧多軸加圧装置においては、押棒を設ける数は複数本であれば特に制限されない。
この考案に係る同圧多軸加圧装置が圧力を加える対象である被加圧物としては、粉体の成形に用いられる材料であれば良く、例えば小麦粉、砂糖及び混合薬等の粉体を挙げることができ、流動性を有し、多少の水分、又はバインダ等を含む粉体が好ましい。
押棒2は、軸線に直交する断面形状が円形であり、全体形状が略円柱形状である。なお、この考案に係る同圧多軸加圧装置においては、後述のハウジングの形状、又は作製する成形体の形状等に応じて、押棒の形状を多角柱形状等に変更することもできる。
押棒2の材料としては、非圧縮性流体5及び被加圧物によって不可逆的な変質を生じることが無く、かつ成形体を作製するときの応力によって破断しない材料であれば良く、例えば金属、セラミックス、又はプラスチック等を用いることができる。また、押棒2の太径部7と細径部8とは同一の材料により形成されていても良く、異なる材料により形成されていても良い。
押棒2は、それぞれ太さの異なる太径部7と細径部8とが、接続手段9により接続されることにより形成されて成る。押棒2の大きさ、つまり押棒2の太さ及び長さとしては、成形体の大きさ、同圧多軸加圧装置1の設置領域、及び後述のハウジング3の大きさ等に応じて適宜設定することができる。
更に、同圧多軸加圧装置1においては太径部7がハウジング3内に挿入され、かつ細径部8が粉体を押圧するようになっているが、この考案に係る同圧多軸加圧装置においては、押棒の一端部がハウジング内に挿入され、かつ粉体を押圧可能である限り太径部及び細径部の位置関係に制限は無く、太径部が粉体を押圧し、かつ細径部がハウジング内に挿入されるようにしても良い。
この考案に係る同圧多軸加圧装置においては、この考案の目的を達成することができる限り押棒に太径部及び細径部を設けなくても良く、一端部から他端部まで一定の太さであっても良い。
押棒2における太径部7と細径部8とを接続する接続手段9の接続態様としては、図1には螺合である態様を示したが、特に限定されることは無く、例えば嵌合、接着、又は溶着等を採用することができる。なお、接続手段9は、太径部7と細径部8とが着脱可能であるのが好ましい。太径部7と細径部8とが着脱可能であると、例えば細径部8が挿入される後述の収容部6の大きさに応じて細径部8を取り替えるだけで良い。
押棒2において、太径部7の自由端部が一端部10であり、細径部8の自由端部が他端部11である。
太径部7の一端部10の近傍でかつ太径部7の周側面には、押棒2の軸線に直交する方向でかつ外側に張り出すようにして、鍔部12が設けられている。更に、太径部7及び鍔部12に密着するように、パッキン13が付設されている。また、押棒2の一端部10には、有底円筒体である内部筒体14の底面部が固定部材15により固定されている。鍔部12及びパッキン13は、非圧縮性流体5が後述のハウジング3から漏出しないように、ハウジング3内を液密状態に保持することができる部材である。なお、鍔部12、パッキン13、及び内部筒体14については、後述のハウジング3の説明と共に詳述する。
細径部8における他端部11の下端面16は、同圧多軸加圧装置1を使用するときの被加圧物である粉体を押圧する面であり、押棒2の軸線に直交する方向に設けられた平坦面である。なお、この考案に係る同圧多軸加圧装置において、押棒の下端面は、粉体を押圧することができる限り、作製する成形体の形状、特に成形体の被押圧面の形状に応じて変更可能であり、押棒2の軸線に直交する方向に設けられた平坦面に代えて、例えば凹凸面、曲面又は押棒の軸線に対して斜めに形成される平坦面等であっても良い。
続いて、ハウジング3は、押棒2の一端部10を収容する複数のシリンダ17を有している。更に言うと、同圧多軸加圧装置1におけるハウジング3は、図1に示されるように、筒部18と底部19と止栓20とから成る。
筒部18は、シリンダ17が貫設されており、シリンダ17の内部に流体を投入可能になっている。同圧多軸加圧装置1のシリンダ17は円筒状の貫通孔として形成されている。これにより、同圧多軸加圧装置1においては、押棒2の鍔部12及びパッキン13が、シリンダ17の内壁面21を、押棒2の軸線及びシリンダ17の軸線に沿って移動可能なようになっている。
同圧多軸加圧装置1には、押棒2と同数のシリンダ17が設けられている。各シリンダ17の軸線は、互いに平行であり、シリンダ17内に挿入される押棒2の軸線と一致している。つまり、押棒2の鍔部12、パッキン13、及び内部筒体14がシリンダ17内を押棒2の軸線に沿って移動すると、押棒2は、平行に移動することになる。
底部19は、筒部18に固定配置されている。詳述すると、同圧多軸加圧装置1には、押棒2及びシリンダ17と同数の挿通孔22を有する底部19が、板状部材として設けられている。底部19は、ハウジング3を設置したときに筒部18の下側に位置する面に、適宜の固定手段により固定されている。底部19に設けられた挿通孔22は、各挿通孔22の軸線が平行になるように設けられた貫通孔である。挿通孔22は、押棒2の太径部7が挿通可能な孔である。なお、挿通孔22の内径は、太径部7の周側面が挿通孔22の壁面に摺動することができるように、太径部7の直径に応じて決定すると良い。よって、押棒2は挿通孔22及びシリンダ17内を摺動するので、各挿通孔22の軸線と、各押棒2の軸線と、各シリンダ17の軸線とは平行である。
なお、挿通孔22の内径は、押棒2の鍔部12における最も外側に張り出した部位の長さよりも小さく形成されている。これにより、同圧多軸加圧装置1を図1のように設置して静置したときに、鍔部12が底部19、特に挿通孔22の開口部に当接することになるので、押棒2がシリンダ17及び挿通孔22から抜け落ちることがない。
なお、底部19の外表面であって挿通孔22の開口部には、押棒2の周側面に摺接するようにしてダストシール23が配置されている。ダストシール23は、押棒2がシリンダ17内に押し込まれていないときに押棒2の周側面に付着したいわゆるダストが、押棒2がシリンダ17内に押し込まれたときにシリンダ17内に封入されることになる非圧縮性流体に、混入することを防止可能な部材である。非圧縮性流体内へのダストの混入を防止することにより、ダストに起因するシリンダ内の圧力変調を防止することができるので、この発明に係る同圧多軸加圧装置の加重の正確性が向上することになる。ダストシール23としては、例えば押棒2の周側面に密着するような弾性ゴムを用いることができる。
止栓20は、シリンダ17から非圧縮性流体が漏出するのを防止可能なシリンダ17の密封手段である。止栓20は、シリンダ17の開口部であって、底部19及び押棒2によって液密に封止されている開口部とは反対側の開口部と、シリンダ17の外周面に貫設されて成る横穴24とに設置されている。横穴24は、シリンダ17の開口部以外にシリンダ17の内外を連通せしめる貫通孔であり、例えば非圧縮性流体の出し入れに使用することができる。
止栓20は、被加圧物に対して加えた応力の反作用により非圧縮流体を介して止栓20に作用する圧力によってシリンダ17の一開口部及び横穴24から脱離しない程度に固定されていれば良く、例えばシリンダ17の一開口部及び横穴24に対して嵌合、螺合、接着、溶着及び適宜の固定手段による固定された態様を採用することができる。
図1に示す同圧多軸加圧装置1は、ハウジング3が筒部18、シリンダ17及び底部19から成るが、この考案に係る同圧多軸加圧装置においては、ハウジングが複数の押棒の一端部を収容し、かつシリンダ内で後述の非圧縮性流体に作用する応力を分散することができる限り、各部材同士が一体化されていても良い。シリンダと非圧縮性流体とについては後述する。
また、この考案に係る同圧多軸加圧装置において、筒部、底部及び止栓の材料としては、非圧縮流体を液密に封入することができ、かつ被加圧物から受ける反作用の応力により変形又は破断しない材料であるのが好ましく、例えば金属、セラミック、及び強化プラスチック等を挙げることができる。
この考案に係る同圧多軸加圧装置において、ハウジングにおけるシリンダの数は、押棒の数よりも多ければ良い。なお、押棒の数よりもシリンダの数が多い場合、押棒が挿入されないシリンダには、シリンダの一開口部に付設される底部に挿通孔を設けないこととしても良い。
ハウジングの全体形状、並びにシリンダ、筒部、底部及び止栓等の形状については、特に制限は無いが、非圧縮性流体から受ける応力で破断し難い形状であるのが好ましく、例えばシリンダの円筒形状等を挙げることができる。
同圧多軸加圧装置1においては、鍔部12とパッキン13とがシリンダの内周面に摺動可能であるので、シリンダ17の内壁面21と、止栓20と、押棒2に固定されるパッキン13及び鍔部12とによって形成される空間(以下、「シリンダ内部空間」と称することがある。)が液密状態に保持される。もっとも、鍔部及びパッキンに代えて、シリンダ内部空間を液密状態に保持することのできる適宜の封止部材を用いるのであれば、鍔部及びパッキンを設ける必要はない。内部筒体14は、周側面である側壁38に側孔37が設けられて成る有底円筒体である。内部筒体14の外径は、シリンダ17の内径に比べて若干小さく形成されている。よって、側壁38の外表面はシリンダ17の内壁面21には接触しておらず、内部筒体14がシリンダ17内を円滑に移動することができる。更に、内部筒体14がシリンダ17内を移動するときには、側孔37を非圧縮性流体5が通過可能であるので、内部筒体14の移動の妨げになることは無い。また、図1における上方向にシリンダ17内が移動すると、内部筒体14の開口部である側壁38上端は、止栓20の下端面に当接するようになっている。側壁38の上端が止栓20の下端面に当接すると、内部筒体14が固定されている押棒2は、上方向に移動することができなくなる。つまり、側壁38の上端は、押棒2の移動距離を規制することができるようになっている。
前記貫通孔4は、任意のシリンダ17と隣接するシリンダ17との間の内壁面21に設けられ、隣接するシリンダ間で連通可能な孔である。例えば、図1に示す同圧多軸加圧装置1において、左方に位置するシリンダ17は、貫通孔4によって、中央に位置するシリンダ17と、図面の奥側と手前側とに位置するシリンダ(図示せず)との間で連通している。
更に、シリンダ17内には非圧縮性流体5が封入されている。詳述すると、非圧縮性流体5は、前記シリンダ内部空間に封入されており、シリンダ内部空間が液密状態に保持されているので、ハウジング3外に漏出することが無い。
非圧縮性流体5が封入されてなるシリンダ内部空間は貫通孔4によって隣接するシリンダ内部空間と連通しているので、全てのシリンダ内部空間が同じ非圧縮性流体5を共有していることになる。
よって、例えば同圧多軸加圧装置1において、被加圧物から受ける反作用の応力により、図1の左方に位置する押棒2が左方に位置するシリンダ17の上方に向かって押し込まれたときに、ハウジング3は押棒2の鍔部12、パッキン13、及び止栓20により液密状態に保持されているので、左方に位置するシリンダ内部空間で減少した体積分の非圧縮性流体5が隣接するシリンダ内部空間に流入する。つまり、押棒2の移動で非圧縮流体5の移動を生じることにより、シリンダ17内の圧力は常に分散されている。
この考案に係る同圧多軸加圧装置において非圧縮性流体としては、応力を受けても体積が不変である又は体積の変化が無視できる流体であれば良く、例えば機械油、液状ポリブタジエン、液状ポリイソプレン又は水等を用いることができる。なお、シリンダに封入される非圧縮性流体として好ましいのは、油圧用オイルである。また、シリンダ内は、空気などが混入していない非圧縮性流体で満たされる態様が好ましい。
この考案に係る同圧多軸加圧装置において連通孔の数、形状及び大きさは、少なくとも非圧縮性流体が連通孔を介して隣接するシリンダ間を流通することができれば良く、特に制限されない。なお、連通孔の態様としては、非圧縮性流体が連通孔を介して隣接するシリンダ間を流通するときに、非圧縮性流体の流通を妨げるような連通孔の数、形状及び大きさでないのが好ましく、非圧縮性流体の組成及び粘度等を考慮して決定すると良い。
また、連通孔の位置は、シリンダ内に非圧縮性流体を封入した上で適宜の被加圧物を加圧する場合に、被加圧物に対してかける荷重の中で最大の荷重をかけたときに押棒が反作用を受ける方向に押し込まれる位置、つまり押棒の移動し得る範囲の上死点よりも止栓側に位置するように設けておけば良い。これにより、押棒が最大までシリンダ内に押し込まれても、押棒の端部、例えば内部筒体、パッキン及び鍔部等が連通孔の設けられた位置に差し掛からないこととなり、非圧縮性流体が底部側に漏出しない。よって、同圧多軸加圧装置の使用時においてもハウジングの液密状態が保持される。
なお、同圧多軸加圧装置1のように、シリンダ17の一開口部に配置された止栓20の下端面に貫通孔4の一部が接する程度であると、押棒2が図1における上方に移動してもパッキン13及び鍔部12等が貫通孔4の設けられた位置にまで達し難いので好ましい。
続いて、収容部6は、押棒2の他端部11を挿入可能でかつ被加圧物を収容可能である。同圧多軸加圧装置1においては、上型25と下型26とから複数の収容部6が一体的に形成されている。詳述すると、上型25は、塊状体であり、軸線が平行に成るように複数の貫通孔である挿入部27が設けられている。下型26は、上型25の挿入部27における一方の開口部を閉鎖するようにして、上型25に係合される板状部材である。
上型25と下型26とは着脱自在であるのが好ましく、例えば被加圧物を押棒2によりおうあつするときには上型25と下型26とを固定しておいて、収容部6から成形体を取り出すときには上型25と下型26との固定状態を解除することができれば、成形体を取り出し易くなる。
挿入部27は、押棒2の細径部8が挿入可能に形成されており、その軸線に直交する断面が円形の貫通孔である。なお、挿入部27の軸線と押棒2の軸線とは一致している。
上型25及び下型26の材料としては、被加圧物を介して押棒2から受ける応力によって変形及び破断しない材料であると良く、例えば金属、セラミック又はプラスチック等を用いることができる。また、上型25及び下型26の形状としては、挿入部27が所望の成形体の形状に応じて形成されている限り外形には特に制限が無く、同圧多軸加圧装置1の態様以外にも、例えば下型が板体であり、上型が円筒体である態様等を採用することもできる。
この考案に係る同圧多軸加圧装置において収容部の大きさ及び形状としては、所望の成形体の大きさ及び形状に応じて設定される。また、収容部の数は、少なくとも押棒と同数であれば良い。
図1に示す同圧多軸加圧装置1は、ハウジング3が上方に配置され、ハウジング3から押棒2が下方に向けて突出し、ハウジング3及び押棒2の下方に収容部6が配置されており、収容部6の設置面に対して垂直方向に被加圧物を押圧するが、この考案に係る同圧多軸加圧装置においては、被加圧物が収容部から溢出しない程度に同圧多軸加圧装置全体を傾斜又は横倒しにして設置しても良い。なお、同圧多軸加圧装置1は、押棒2の下端面16が被加圧物を直接押圧する態様であるが、押棒の下端面と被加圧物の表面との間に挿入部とほぼ一致する大きさの板体を付設することによって、同圧多軸加圧装置1の上下が逆になるように設置しても、収容部から被加圧物である粉体が抜け落ちることが無い。
図1の同圧多軸加圧装置1を俯瞰したときの一部切欠断面図を、図2に示す。
図2に示されるように筒部18には、3行3列に配置される9つのシリンダ17が設けられている。更に、任意のシリンダ17は、図2における縦横に隣接する別のシリンダ17と、貫通孔4を介して連通している。鍔部(図2には図示せず)と、パッキン(図2には図示せず)と、内壁面21と、止栓20とで形成されるシリンダ内部空間は、非圧縮性流体5で満たされている。よって、非圧縮性流体5は、任意のシリンダ内部空間は、図2における縦横に隣接する別のシリンダ内部空間と貫通孔4を介して、非圧縮性流体5を共有している。
同圧多軸加圧装置1においては、止栓20の中心と内部筒体14の中心とを通るシリンダ17の軸線が全て平行であり、押棒(図2には図示せず)から非圧縮性流体5に対して、シリンダ17の軸線に沿って応力が加わることになる。
この考案に係る同圧多軸加圧装置においては、この考案の目的を達成することができる限り、押棒、ハウジング、貫通孔、非圧縮性流体、及び収容部以外の部材を付設することもできる。
ここで、同圧多軸加圧装置1の使用方法及びその作用について、図3〜9を参照しつつ説明する。
図3に示すプレス装置28は、図1に示した同圧多軸加圧装置1と、同圧多軸加圧装置1を駆動する他の部材とを備えている。詳述すると、同圧多軸加圧装置1を駆動する他の部材としては、押圧力発生部29、上部固定金具30、案内部材31、下部固定金具32、案内棒33及び支持部材34を挙げることができる。また、収容部6における下型26には、挿入部27と同数の基部35を付設した。なお、図3〜9に示す同圧多軸加圧装置1においては、図1に示した同圧多軸加圧装置1の各部材に付した番号と同様の番号を用いることとする。
押圧力発生部29は、図3における上下方向に移動することができる。また、押圧力発生部29は上部固定金具30に接続されていると共に、上部固定金具30は同圧多軸加圧装置1におけるハウジング3に接続されている。よって、押圧力発生部29が図3における上下方向に移動すると、押圧力発生部29、上部固定金具30及びハウジング3は、一体的に上下方向に移動することになる。押圧力発生部29の移動は、手動及び電動のいずれであっても良い。
下部固定金具32は、プレス装置28の設置面に載置される部材である。また、案内棒33は、プレス装置28の設置面に対して垂直に下部固定金具32から立設している。案内部材31は、上部固定金具30に固定的に取り付けられて成る筒状部材である。案内部材31には、案内棒33が挿通している。更に、上部固定金具30と下部固定金具32とは、相互に平行に配置される板状部材である。よって、例えば押圧力発生部29が図3における上下方向に移動すると、案内部材31が案内棒33の周側面を摺動することになり、上部固定金具30と下部固定金具32とが平行状態を維持しつつ、押圧力発生部29、上部固定金具30及びハウジング3が一体的に上下方向に移動することになる。
支持部材34は、下部固定金具32に取り付けられており、下部固定金具32近傍において収容部6を着脱自在に支持する部材である。下部固定金具32において支持部材34が取り付けられる位置は、押圧力発生部29が図3における下方向に移動しすることにより、ハウジング3が下方向に移動したときに、収容部6の挿入部27にハウジング3から突出する押棒2の他端部11に挿入することができるように決定すると良い。
基部35は、収容部6における下型26に組み込まれる部材であって、その一部が挿入部27内に挿入される。基部35の形状等については、所望の成形体の形状に応じて決定すると良い。基部35を設けることにより、下型26の着脱を容易にすることができるので好ましい。
プレス装置28により成形体を作製するには、先ず、図4に示すように、収容部6における挿入部27に、粉体である被加圧物36を適量投入する。なお、図4に示す右方の挿入部27、中央の挿入部27、及び左方の挿入部27において、それぞれに投入された被加圧物36は、投入した量と、基部35から被加圧物36の表面までの距離とが相違している。
また、図4に示す状態では、押圧力発生部29は図4における上下方向に移動しておらず、静止状態である。押圧力発生部29が移動していないので、上部固定金具30及びハウジング3も静止状態である。更に、静止状態のハウジング3から突出する押棒2の下端面16は被加圧物36に接触しないように配置されているので、押棒2がシリンダ17内で図4における上方向に押し込まれることが無い。よって、図4に示す状態においては、押棒2は、シリンダ17内に満たされている非圧縮性流体5に鍔部12及びパッキン13を介して、上方向の応力を未だ及ぼしていない。
続いて、図5に示すように、押圧力発生部29を下方向に移動させる。押圧力発生部29が下方向に移動することにより、上部固定金具30とハウジング3とが、案内部材31が摺動する案内棒33に沿って下方向に移動する。
ハウジング3が図5における下方向に移動すると、ハウジング3から突出する押棒2の細径部8が収容部6の挿入部27に挿入される。押棒2の細径部8が挿入部27に挿入された後も押圧力発生部29及びハウジング3の移動を継続すると、複数の挿入部27に投入された被加圧物36の中で、基部35から被加圧物36の表面までの距離が最大に成る被加圧物36、図5においては右方の被加圧物36の表面に、押棒2の下端面16が接触する。なお、図5に示すプレス装置28は、押棒2の下端面16が被加圧物36に接触した状態であるので、押棒2は、シリンダ17内に満たされている非圧縮性流体5に鍔部12及びパッキン13を介して、上方向の応力を未だ及ぼしていない。図5の左方に示す被加圧物36と、中央に示す被加圧物36とは、右方に示す被加圧物36に比べて、基部35から被加圧物36の表面までの距離が小さいので、押棒2は接触していない。
次に、図6に示すように、図5に示した状態から押圧力発生部29を更に下方向に移動させる。この押圧力発生部29の更なる移動により、図6における右方の被加圧物36の表面に右方の押棒2の下端面16が接触したことに続いて、左方の被加圧物36の表面にも左方の押棒2の下端面16が接触する。
図6に示す状態において、左方の被加圧物36の表面には左方の押棒2の下端面16が接触しているだけであるので、左方の被加圧物36に対して押圧力は作用していない。これに対して、ハウジング3が図6の下方向に移動したことにより押棒2も下方向に移動しているので、右方に示す被加圧物36は右方の押棒2によって下方向に押圧されている。
また、図6に示すプレス装置28において、押圧される右方の被加圧物36は、押圧力に対する反作用の応力を押棒2に及ぼすことになる。反作用の応力を受けた右方の押棒2は、シリンダ17内で上方向に押し込まれる。シリンダ内部空間は液密状態に保持されていると共に、隣接するシリンダ内部空間同士が貫通孔4により連通しているので、右方の押棒2が右方のシリンダ17内で押し込まれて右方のシリンダ内部空間の体積が小さくなると、小さくなった体積分の非圧縮性流体5が右方のシリンダ内部空間から隣接するシリンダ内部空間に流入することとなる。
次いで、図7に示すように、押圧力発生部29を更に下方向に移動させて、中央の被加圧物36の表面に中央の押棒2が接触させる。図7に示す状態において、中央の被加圧物36の表面には中央の押棒2の下端面16が接触しているだけであるので、中央の被加圧物36に対して押圧力は作用していない。これに対して、ハウジング3が図6に示す状態よりも下方向に移動したことにより押棒も下方向に移動しているので、右方に示す被加圧物36及び左方に示す被加圧物36は、右方の押棒2及び左方の押棒2によって下方向に押圧されている。
また、図7に示すプレス装置において、右方の被加圧物36から受けた反作用の応力で右方の押棒2が右方のシリンダ17内で押し込まれると共に、左方の被加圧物36から受けた反作用の応力で左方の押棒2が左方のシリンダ17内で押し込まれるので、非圧縮性流体5は、図6に示す状態よりも大きな応力を受けることとなる。
更に、図8に示すように、被加圧物36の成形体が所望の密度となるまで、押圧力発生部29を更に下方向に移動させる。つまり、図8に示す状態が被加圧物36の押圧が完了した状態である。
なお、図8に示すように、押棒2はシリンダ17内で上方向に押し込まれているが、挿入部27に投入された被加圧物36の質量及び/又は体積に応じて押棒2の押し込まれる距離が変化する。
しかしながら、挿入部27に投入される被加圧物36の表面から基部35までの距離に応じて押棒2の押し込まれる距離にバラつきが生じたとしても、全てのシリンダ内部空間は貫通孔4によって連通しているので、非圧縮性流体5に作用する被加圧物36からの反作用の応力を分散することができる。つまり、非圧縮性流体5が外部からの応力によっては密度が変化しないことと、シリンダ内部空間の体積変化が生じた場合に隣接するシリンダ内部空間に非圧縮性流体5が流出入可能であることとにより、投入される被加圧物36の体積が相違していても、被加圧物36の体積比に応じて非圧縮性流体5が移動しつつ押圧することができるので、得られる成形体の体積は相違しているが、成形体の密度は均一となる。
また、被加圧物36に対して最終的に加える押圧力としては、被加圧物の物理的特徴、化学的特徴、所望の成形体の密度、及び押棒2がシリンダ17内に押し込まれる距離等を考慮して決定されると良く、例えば1〜3000MPaという範囲を挙げることができる。
続いて、図9に示すように、押圧力発生部29を、図4に示す押圧力発生部29の位置にまで移動させる。この押圧力発生部29の移動により、全ての押棒2は被加圧物36に接触しなくなり、かつ押棒2が被加圧物36から反作用の応力を受けなくなる。
また、収容部6の挿入部27には、挿入部27の形状に応じた被加圧物36の成形体が残る。図9に示すように、挿入部27に投入した被加圧物36の質量及び体積に応じて、成形体の軸線長さは相違するが、非圧縮性流体5が隣接するシリンダ内部空間同士で移動したことにより、押棒2から被加圧物36に作用する押圧力を均一化していたので、成形体の密度は均一である。
図1及び2に示すような同圧多軸加圧装置を備えるプレス装置を用いて、被加圧物の質量を変えた複数種の成形体を作製した。更に、各成形体の密度を測定し、密度を比較検討した。
被加圧物としては、塩素酸カリウムを55〜65質量%、硝酸バリウムを19〜27質量%、セラックを7質量%、麻炭を7質量%、デキストリンを4質量%含む粉末を用いることとした。
成形体は、0.7gを秤量した被加圧物と、0.5gを秤量した被加圧物とを、図2に示すようなシリンダ17が9つ設けられた同圧多軸加圧装置1の挿入部27に投入して押圧することによって作製することとした。なお、0.7gの被加圧物を9つの挿入部の内、5つの挿入部に投入し、0.5gの被加圧物を残りの4つの挿入部に投入した。なお、被加圧物の質量は、例えば押棒表面への付着等の理由により、秤量したときに比べて挿入部に投入したときの方が少なくなることがある。
また、被加圧物を押圧する力は、200MPaとした。更に、非圧縮性流体としては、油圧用オイルを用いた。
成形体の密度は、挿入部における投入された被加圧物の軸線長さの最大値である「薬長」を、被加圧物の挿入部への投入後の質量である「薬量」で除した値を採用した。
0.7gの被加圧物を秤量して作製した成形体について、薬量と薬長と密度とを表1に示す。また、0.5gの被加圧物を秤量して作製した成形体について、薬量と薬長と密度とを表2に示す。
表1及び2に示されるように、この考案に係る同圧多軸加圧装置を用いて作製される成形体は、投入される被加圧物の質量が相違していても、非圧縮性流体が押圧力を均一化されるので、密度がほぼ同一になった。