JP3097992B2 - 超電導ウィグラのビームチャンバと内槽の支持方法および構造 - Google Patents

超電導ウィグラのビームチャンバと内槽の支持方法および構造

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JP3097992B2 JP08340514A JP34051496A JP3097992B2 JP 3097992 B2 JP3097992 B2 JP 3097992B2 JP 08340514 A JP08340514 A JP 08340514A JP 34051496 A JP34051496 A JP 34051496A JP 3097992 B2 JP3097992 B2 JP 3097992B2
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、超電導ウィグラの
内槽とビームチャンバの支持方法に関し、特に低温ボア
とシールドボアと常温ボアからなる3層構造を有するビ
ームチャンバにおける各層間の偏芯と、内槽に対するビ
ームチャンバ全体の偏芯を防止するとともに、内槽への
侵入を抑制するビームチャンバと内槽の支持方法と支
持構造に関する。
【0002】
【従来の技術】超電導ウィグラは、電子ビームが通るビ
ームチャンバと、電子ビームに強力な磁場を作用させる
ためビームチャンバを挟んで配設される超電導コイル
と、超電導コイルを冷却して超電導を維持するためのク
ライオスタットから構成される。クライオスタットは液
体ヘリウムを満たした内槽と液体窒素シールド層と外槽
からなり、外槽が屋内床等に固定される。一般に、外槽
から内槽と液体窒素シールド槽が吊下されている。ま
た、それぞれの槽の間に真空層を形成して熱の伝達を抑
制して液体ヘリウムの蒸発を抑えている。
【0003】ビームチャンバは、超電導コイル群で形成
される磁極の間に、電子ビームの方向に沿って超電導コ
イルを収納するクライオスタットを貫通するように配設
されている。ビームチャンバの構造は通常、図7に断面
を示すように、低温ボア、熱シールドボア、および常温
ボアの3層構造を有する。低温ボアはクライオスタット
内槽に固定され、常温ボアはベローズのようなフレキシ
ブル部材を介して外槽に取り付けられて、リニアックや
電子蓄積リングなどから供給される電子ビームを導く真
空配管と接続される。また、熱シールドボアは液体窒素
シールド槽にサーマルアンカ板等を介して取り付けられ
る。ボア相互の間を真空にしておき、電子ビームが通過
する常温ボアの熱の伝達をボア間の真空層と、中間的な
温度を有する熱シールドボアによって遮断するようにな
っている。
【0004】超電導コイルによる磁場を電子ビームに有
効に印加するため磁極間ギャップは極力小さくすること
が必要なため、各層ボア間のギャップは通常1〜2mm
程度が選択される。このように、ボア間ギャップを極め
て小さくせざるを得ないため、ビームチャンバ組立施工
上の寸法誤差や冷却に伴なうクライオスタット構成材相
互の熱収縮差によって各層ボア間の接触、または超電導
コイル群の磁場中心とビーム中心間の偏芯等が生じて、
ウイグラー運転やビームオペレーション、放射光発生に
支障をきたすことがある。
【0005】このような各層ボア間の接触や磁場中心と
ビーム中心間の偏芯をなくすため、厳密な寸法精度を確
保する組立施工と相侯って、クライオスタット構成材相
互の熱収縮差をできるだけ少なくする対策が従来から採
用されている。たとえば、内槽両端の鏡板や内槽胴体の
両脇を外槽から単純に吊り下げて超電導コイルを含む内
槽の重量を支持する方法を用いるときは、温度変化によ
る支持材の熱収縮がそのまま低温ボアと常温ボアの軸芯
位置の偏差となるので、熱収縮の少ないインバー等の金
属を使用する。しかしながら、金属材料を使用すること
は、支持材を伝導して内槽に伝達される伝導入熱が無視
できず、しかも熱収縮を完全にゼロにはできない。
【0006】このような問題を解消するため、内槽の両
脇を外槽の内側上下に対称的に支持材を張って重量を支
持する方法がある。図8はこの方法を説明する一部断面
図である。鉄ヨークと超電導磁石を収納した内槽の両脇
に鍔を設け、この鍔を挟んで上下方向に対称の位置に当
たる外槽内壁に支持梁を設けて、鍔を上下対称に支持梁
から引っ張るようにしている。この方法によれば、支持
材に生じる熱収縮は上下方向に互いに逆方向になるため
に相殺されて、内槽のレベルに変化はない。しかしこの
支持方法では、温度が約300Kの外槽と4.2Kの内
槽との間に支持材を張るため支持材中の温度分布が大き
くなる。このため、支持材中に重量支持による引張り応
力と同程度あるいはそれ以上の大きな熱応力が発生し強
度上の不利を有する。
【0007】また、熱収縮の少ないインバー等の金属材
料を支持材として、液体窒素シールド槽に固定されたサ
ーマルアンカを介して温度定点を与え、この支持材によ
り内槽と液体窒素シールド槽の重量を外槽から支持し、
かつ液体窒素シールド槽両端に設けたサーマルアンカ円
板によりビームチャンバ内の熱シールドボアと熱的に接
続すると共にその位置を中心軸に対して同心に支持する
方法がある。図9はこの方法を実施した超電導チャンバ
の一部切り欠き側面図、図10は端部サーマルアンカ円
板との接続状態を説明する一部拡大側面断面図である。
この方法では、常温ボアの位置が外槽により規定し、低
温ボアの位置を支持材により外槽に対して規定し、熱シ
ールドボアの位置をサーマルアンカ円板により液体窒素
シールド槽の中心に規定するから、これらが一旦正しく
位置調整されれば、低温ボアと熱シールドボア間および
常温ボアと熱シールドボア間の相対熱収縮差は支持材全
長にわたる熱収縮以下に抑えられるが、サーマルアンカ
円板を用いるため組立の際に熱シールドボア位置の微調
整が困難である。
【0008】また、図11は熱伝導率が比較的小さいF
RPなどの材料を折り返して支持材とし、一端を内槽
に、他端を常温ボアに固定する方法を示す。支持材は図
12に示すように常温ボアに固定されるフランジを中心
にしてここから4方に延伸する腕を有するFRP板と、
低温ボアに固定されるフランジを中心にして4方に延伸
する腕を有するFRP板を腕の先端位置で連結柱により
接続したものである。液体窒素シールド槽にフレキシー
ルドを介して固定される端部サーマルアンカ円板に支持
材の腕先端に止めた連結柱を固定し、2つのフランジを
それぞれ常温ボアと低温ボアに固定することにより各ボ
アの軸芯を同じ位置に保持して、相互の偏芯を防止す
る。この方法によれば、低温ボアと常温ボアの実効的な
熱収縮差をゼロにすることはできるが、内槽固定側の支
持材と常温ボア固定側の支持材では周囲温度が著しく異
なり熱収縮に差が生じるため、図13に表示したよう
に、内槽固定側に反りが生じて連結柱付近でせん断応力
が発生し、中間固定部の耐久性を損ねる。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】そこで、本発明が解決
しようとする課題は、低温ボア、熱シールドボア、およ
び常温ボアの3層構造を有するビームチャンバをクライ
オスタット内に収納した超電導ウィグラにおいて、極低
温冷媒の消費を抑えるとともに、冷却に伴ない発生する
クライオスタット構成材相互の熱収縮量の差などを起因
とするビームチャンバの各層ボア間の偏芯をなくし、超
電導コイルとビーム中心間の偏芯をほぼ完全に解消する
ビームチャンバ支持方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するた
め、本発明の超電導ウィグラのビームチャンバ支持方法
は、特に磁場を発生する超電導磁石と、液体ヘリウムな
どの極低温冷媒を収納した内槽と液体窒素などの中低温
冷媒を収納したシールド槽とこれらを断熱的に内蔵する
外槽とからなるクライオスタットと、内槽と接する低温
ボアとシールド槽と接続される熱シールドボアと電子ビ
ームの通過する常温ボアの3層構造を有し超電導磁石に
よる磁場を貫通するビームチャンバとを備えた超電導ウ
ィグラを対象として、熱伝導率が小さくかつ熱収縮率を
ゼロに近づけることができるロッドで内槽を外槽から吊
り下げて支持し、内槽の中心軸から放射状に張った複数
のスポークでシールド槽を内槽と同軸的に支持すること
を特徴とする。
【0011】なお、内槽を外槽から吊り下げて支持する
ためのロッドはカーボンFRPを用いることが好まし
く、特に熱収縮率をゼロに近づけるような角度で交差す
るカーボン布を強化材に使用したカーボンFRPを用い
ることがより好ましい。また、内槽の中心軸から放射状
に張るスポークをシールド槽と内槽の間に形成される真
空層内に設置することが好ましい。また、スポークの端
部で支持長を調整することにより低温ボアに対する熱シ
ールドボアの位置を調整できるようにすることができ
る。
【0012】また、上記課題を解決するため、本発明の
超電導ウィグラのビームチャンバと内槽の支持構造は、
内槽とシールド槽と外槽を有するクライオスタットと、
低温ボアと熱シールドボアと常温ボアの3層構造を有し
超電導磁石により生成した磁場を貫通するビームチャン
バとを備えた超電導ウィグラにおいて、内槽を外槽から
吊り下げて支持する熱伝導率が小さくかつ熱収縮率をゼ
ロに近づけることができる複数のロッドと、内槽の中心
軸とシールド槽の外殻の間に放射状に張られてシールド
槽を内槽と同軸的に支持する複数のスポークを備えるこ
とを特徴とする。
【0013】本発明の超電導ウィグラのビームチャンバ
と内槽の支持方法によれば、超電導磁石を収納した内槽
を熱伝導率が小さい材料からなるロッドにより外槽から
吊り下げるため、常温の外槽から極低温の内槽に伝達す
る熱量が少なく、例えば液体ヘリウム等冷媒の冷熱消費
を抑制して冷媒の補充間隔を延長できる。また熱収縮率
をゼロに近づけることができるロッドを用いるため、内
槽の外槽に対する相対的位置が変化しにくく、この内槽
の中心軸から放射状に張ったスポークでほぼ点対称にシ
ールド槽を支持するため、シールド槽の位置調整が容易
でしかもスポークの温度分布が相似的になり熱収縮量が
対称位置にあるスポークごとに相殺され、軸芯位置にあ
る熱シールドボアの位置が低温ボアに対して変化しな
い。
【0014】なお、内槽を外槽から吊り下げて支持する
ためのロッドとして、金属材料なみの引張り強度を持ち
しかも冷却に伴う熱収縮が殆どゼロでありかつ熱伝導率
の小さいカーボンFRPを用いることにより、重量負荷
に対する信頼性を確保しながら冷却によっても超電導コ
イルの磁場中心とビーム中心軸間に偏芯が発生せずしか
も内槽への伝導入熱が大幅に低減する吊り下げ支持を行
うことができる。
【0015】カーボンFRPとはカーボン繊維を強化材
とする繊維強化樹脂(FRP)である。低温工学協会編
「超伝導・低温工学ハンドブック」オーム社、平成5
年、p1099に記載されているとおり、繊維強化樹脂
の極低温における熱収縮率は図3に示すような挙動を示
す。図の横軸は絶対温度K、縦軸は室温における長さを
基準として表現した熱収縮率を表す。図には比較のた
め、母材であるエポキシ樹脂や他の繊維により強化した
FRPについても表示されている。グラフから読めるよ
うに、アラミドFRPやカーボンFRPは、温度低下に
伴なって強化繊維と平行の方向に膨張し、強化繊維と垂
直の方向に収縮する特性を持っている。
【0016】このことは繊維方向が適当な角度を持って
交差するアラミド布やカーボン布を強化材に使用すれ
ば、熱収縮率を極めて小さくすることができることを意
味している。図4は、ハルトウィッグにより開示され
た、繊維方向が軸方向に対して±45°の角度で交差す
るカーボン布を強化材に使用したFRPの熱収縮率デー
タを示すグラフである( G.Hartwig "Thermal expansio
n of fibre compsites", Cryogenics,vol.28, No.4, p2
55 (1988))。
【0017】これによれば、293Kから液体ヘリウム
温度域までの熱収縮率は約1/l0000であり、イン
バー材の約1/3である。繊維強化方向と繊維含有率を
さらに最適化したカーボンFRPならば、熱収縮を殆ど
ゼロにできる。カーボンFRPのこの特性を利用するこ
とににより、冷却に伴ない発生する低温ボアと常温ボア
間の偏芯を抑制することができる吊り下げ支持材を得
て、磁場中心とビーム中心間の偏芯を防止することがで
きる。このように、±45°で交差させるなど繊維強化
方向と繊維含有率を最適化したカーボン布を強化材に使
用したカーボンFRPを用いることが特に好ましい。
【0018】一方、カーボンFRPの引張り強度は、代
表的低温用金属材料であるオーステナイト系ステンレス
鋼、インバー等と遜色がない。図5は、アールボーンが
示したカーボン布を強化材に使用したFRPの低温領域
における引張り強度の測定例である( K.Ahlborn "Fati
gue behaviour of carbon fibre reinforced plastic a
t cryogenic temperature", Cryogenics, vol.28, No.
4, p267 (1988))。横軸の絶対温度に対して材料の引張
り強度をGPa単位で縦軸に表している。図中、点線は
母材としたエポキシ樹脂とポリカーボネート樹脂の測定
値を表し、実線Iは1方向カーボン繊維強化エポキシ樹
脂の組成体、実線IIは0°と90°の方向にカーボン繊
維を重ねたポリカーボネート樹脂合板、実線IIIは±4
5°の繊維方向をもつカーボン布を0°の繊維方向と9
0°の繊維方向を持つカーボン布で挟んだ構造を有する
繊維強化エポキシ樹脂、実線IVは0°の繊維方向を持つ
カーボン布と90°繊維方向と±45°繊維方向を有す
るカーボン布を合わせたカーボン繊維強化樹脂組成体の
測定値を表す。
【0019】カーボン繊維強化樹脂の引張り強度は低温
領域においても母材より各段に向上する。その程度は繊
維強化方向に依存し、特に強化繊維と同方向の負荷に対
しては約2GPaあるが、図5の実線IIIや実線IVに見
られるように、熱収縮が極めて小さい±45°交差カー
ボン布を強化材に使用したFRPの引張り強度も約0.
5GPa程度ある。これに対して、代表的低温用金属材
料であるオーステナイト系ステンレス鋼やインバー等の
常温における引張り強度は0.5〜0.6GPaである
から、カーボン布強化FRPは低温用金属材料と比較し
て遜色ない引張り強度を持っている。
【0020】さらに、図6に示した各種材料の熱伝導率
の温度依存性を表したグラフにより、カーボンFRPと
低温用金属材料であるオーステナイト系ステンレス鋼
(SUS304、SUS316)とインバーの熱伝導率
を比較すると、常温から低温域間でカーボンFRPは低
温用金属材料の1/2〜1/10の熱伝導率しか持たな
いことがわかる。なお、他の低温用鉄系合金材料の熱伝
導率もインバー等と似たような値を示す。また、カーボ
ン強化樹脂はアラミド強化樹脂より熱伝導率が低く、本
発明の内槽支持材により適していることが分かる。
【0021】このように、カーボンFRPは低温用金属
材料に対して遜色ない強度を持ちながら、熱伝導率が小
さいので、吊り下げ支持材として低温用金属材料と同程
度の強度的信頼性を確保し、内槽への伝導入熱を数分の
1程度に低減できる。さらに、熱収縮率をゼロにするよ
うに最適化された繊維の交差角度を持つカーボン布を強
化材として使用したカーボンFRPは、熱収縮が極く小
さく組み立て時と操業時における位置変化が無視できる
という利点を有する。
【0022】本発明のビームチャンバと内槽の支持方法
によれば、例えばカーボンFRPのように熱伝導率が小
さくかつ熱収縮率がゼロに近いロッドで内槽を外槽から
吊り下げ支持して内槽の位置を規定した上で、さらに円
筒状内槽両端面のハブから円筒状シールド槽両端面の外
周に向かって内槽中心軸を中心とするように放射状に伸
びる複数のスークワイヤによりシールド槽を内槽に対
して同軸的にリフト支持する。通常、ビームチャンバの
熱シールドボアはシールド槽の端面に設けたサーマルア
ンカ円板などで固定することによりシールド槽外殻から
の相対的な位置を規定しているが、さらに放射状に張っ
たスポークでシールド槽を内槽と同軸的に支持する方法
を併用することにより、冷却に伴う熱シールドボアと低
温ボアの偏芯を防止し間接的に常温ボアの偏芯を抑制す
るとともに、ビームチャンバあるいは内槽と液体窒素シ
ールド槽の組立アライメントにおける微調整を容易にす
ることができる。
【0023】スポークワイヤは同心的に配置された円筒
状の内槽とシールド槽の間に放射状に張り渡されている
ので、熱収縮は各方向について対称的に発生し互いに相
殺されて内槽とシールド槽の軸芯は相対的な偏倚を生じ
ない。熱シールドボアはサーマルアンカ円板を介してシ
ールド槽の中心軸に沿って取り付けられるとともに、低
温ボアもまた内槽の中心軸に沿って取り付けられるので
結局、熱シールドボアと低温ボア間には冷却に伴なう偏
芯は発生しない。
【0024】なお、内槽の中心軸から放射状に張るスポ
ークをシールド槽と内槽の間に形成される真空層内に設
置するようにすれば、スポークは極低温冷媒と中温冷媒
の間の温度差に基づく比較的弱い熱応力を受けるだけで
済むから、従来の低温用金属材料を用いて十分な強度を
確保できる。例えば、液体ヘリウムの温度が4.2Kで
液体窒素の温度が77Kであり両者間の温度差は70°
余りでしかないから、スポークとしてシールド槽と同じ
オーステナイト系ステンレス鋼を用いたときの熱収縮が
約0.028%となり、約55MPaの熱応力に相当す
るに過ぎない。この値はオーステナイト系ステンレス鋼
の常温での降伏強度(300MPa)や引張り強度(6
00MPa)に比べて充分に小さいので、従来技術にお
けるような熱応力による支持材の強度面での危惧はな
い。
【0025】さらに、シールド槽の位置をカーボンFR
P支持材と独立した放射状スポークワイヤエンド部の調
整ナットで調整するようにすれば、内槽とシールド槽の
相対位置が簡単に調整でき、その結果として熱シールド
ボアと低温ボアを精密に同軸位置に配設するような微調
整が可能となった。本発明のビームチャンバと内槽の支
持方法によって、操業時の冷却状態においても低温ボア
と熱シールドボアがビーム中心に対応する外槽の基準位
置からの偏芯を生じないようにできるので、外槽の基準
位置に取り付けるべき常温ボアの両端に偏芯吸収と取り
付け自由度を確保するためのベローズを取り付ける必要
がなく超電導ウィグラの構造が簡単になり、また電子ビ
ーム導入管を常温ボアと同位置になる外槽の基準位置に
直接溶接組み込みすることが可能となった。
【0026】また、本発明の超電導ウィグラのビームチ
ャンバ支持構造によれば、上に述べた本発明のビームチ
ャンバと内槽の支持方法を実施することができるので、
外槽から内槽への熱伝達が少なく、液体ヘリウムなどの
極低温冷媒の消費を抑制して補充間隔を延長でき、組立
て、特に内槽に対するシールド槽の位置調整が容易で、
極低温冷媒による冷却中においても、内槽と外槽の相対
的位置が変化しにくく、内槽または外槽に対するビーム
チャンバの相対的位置関係およびビームチャンバ各層間
の相対的位置関係も変化しにくい。
【0027】
【発明の実施の形態】以下、図面に表した実施例によっ
て本発明に係る超電導ウィグラのビームチャンバの支持
方法および構造を詳細に説明する。図面は、本実施例を
適用して、カーボンFRPを内槽支持材とし内槽からス
ポークワイヤで液体窒素シールド槽をリフト支持した超
電導ウイグラー装置の全体構造を示している。図1は、
本実施例における超電導ウィグラを電子ビームの軌道に
沿って見た一部切り欠き図、図2は図1の超電導ウィグ
ラを電子ビーム軌道と垂直の方向から見た一部断面図で
ある。
【0028】超電導磁石が収納されるクライオスタット
は、円筒状内槽2、それを囲む円筒状シールド槽4、さ
らにその最外殻の外槽6からなる横置き3重円筒構造を
なしている。内槽2には液体ヘリウムが充填され、シー
ルド槽4には液体窒素が充填される。各槽間に真空層を
設けて多層真空断熱がなされており、磁極としての超電
導コイル8と鉄ヨーク10は内槽2内に収納されて冷却
される。常温ボアと熱シールドボアと低温ボアの3層構
造を有するビームチャンバ12が、内槽2の軸芯位置に
配設されて、超電導磁石により形成された強磁場の中心
部を貫通している。
【0029】また本実施例では、超電導コイル8の励磁
のために高温超電導電流リード14を使用している。高
温超電導電流リード14は、下端が内槽2内の液体へリ
ウムとの熱接触により4.2K近傍まで冷却され、上端
が液体窒素シールド槽4と上部サーマルアンカ板16を
介して熱接触して77K近傍まで冷却されて、超電導状
態となる。上部サーマルアンカ板16は内槽2に対する
上部からの輻射入熱を遮断する輻射シールドを兼ねてい
る。高温超電導電流リード14の上端には銅編組線18
が接続されている。銅編組線18は断熱真空中を通って
外槽上部フランジ20に設けた電流導入端子を介してウ
イグラー装置外に設けた図外の励磁用直流電源と繋がっ
ていて、必要時にこの銅編組線18を通して給電するこ
とにより超電導コイル8が励磁される。
【0030】超電導コイル8と鉄ヨーク10を収納する
内槽2の全重量はカーボンFRPロッド22で吊り下げ
支持される。この場合、カーボンFRPロッド22は、
下端で円筒内槽2の端部鏡板24の中心レベル、すなわ
ち磁場中心レベルに設けた支持座26に固定され、液体
窒素シールド槽4の端板に設けた孔をフリーに貫通し、
その上端が外槽6の円筒部の上部に設けた吊り下げ基部
28に固定される。カーボンFRPロッド22はカーボ
ン繊維強化方向と繊維含有率が最適化されて熱収縮率が
殆どゼロになっているため、運転条件における極低温ま
で冷却した場合にも内槽2の位置が変化しない。従っ
て、内槽2の中心軸に沿って貫通固定された低温ボアに
も冷却に伴なう高さ方向の変位は生ぜず、また超電導コ
イルによる磁場中心の電子ビーム中心に対応する基準位
置からの位置ずれはない。
【0031】液体窒素シールド槽4は円筒型をなしてお
り、円筒内槽2の端面に固定されたフランジ30から放
射状に展張した複数のスポークワイヤ32によって、内
槽2と同軸的にリフト支持される。スポークワイヤ32
は液体ヘリウムを充填した内槽2と液体窒素を充填した
シールド槽4の間に形成される真空層内に設置されるた
め、両端間の温度差がほぼ70°余りしかなく熱応力は
大きくない。なお、スポークワイヤ32はそれぞれの延
長線が内槽2の軸芯で交わらなくてもよく、ほぼ対称に
取り付けられていて張力が相互に釣り合えば足りる。ス
ポークワイヤ32はオーステナイト系ステンレス鋼等の
低温用金属材料により形成されている。熱シールドボア
はシールド槽4の両端に設けた端板36に固定される円
盤状の端部サーマルアンカ円板34を介してシールド槽
4と同軸的に低温ボア内を貫通して取り付けられる。端
部サーマルアンカ円板34は熱シールドボアをシールド
槽4の軸芯位置に保持すると共に、熱シールドボアを保
冷する役割と併せて内槽2に対する側部からの入熱に対
する輻射シールドの役割を果たす。
【0032】シールド槽4はカーボンFRPロッド22
に拘束されていないので、シールド槽端板36を貫通す
るスポークワイヤ端部の調整ナット38で内槽2とシー
ルド槽4の中心軸の位置調整をすることができる。この
ようにして、低温ボアと熱シールドボアの軸芯位置の微
調整を行ない、微小なボア間ギャップを確保することが
できる。この状態でスポークワイヤ32に若干張力を持
たせて、槽間の偏倚を防止する。カーボンFRPロッド
22と放射状スポークワイヤ32の使用により、低温ボ
アと熱シールドボアの冷却に伴なう偏芯をなくせるの
で、常温ボアは従来の超電導ウイグラ一に常用されてい
た偏芯調整用の両端ベローズが不要となり、外槽端部フ
ランジ40に直接耐真空溶接取り付けがなされている。
このためビームチャンバの端部構造が簡単になり据付調
整も容易になった。
【0033】外槽6の上部フランジ20から内槽2への
液体ヘリウム注入管42や図外の蒸発ガス排出管、シー
ルド槽4への液体窒素注入管44や図外の蒸発ガス排出
管等については、これらの管を熱収縮による応力から解
放するため、管途中で伸縮可能なベローズ継手46が設
けられている。また、液体窒素シールド槽4に対して
は、スポークワイヤ32は縦揺れには対抗できるが横揺
れには対応できないので、外槽6から横揺れ防止用テン
ションワイヤ48を張って対処している。
【0034】なお、本実施例では外槽から内槽を吊下す
るロッドにカーボンFRPを用いたが、アラミドFRP
など、この他の材料でも熱収縮率と熱伝達率が小さく所
定の強度を有すれば使用できる。
【0035】
【発明の効果】以上説明した通り、本発明のビームチャ
ンバと内槽の支持方法と構造により、超電導ウィグラに
おいて、極低温冷却時における極低温冷媒の消費を抑え
ることができると同時に、外槽に取り付けられる常温ボ
アの位置変化が無く、結局ビーム中心に対する内槽の位
置すなわち磁場中心の位置変化がなく、また3層構造を
有するビームチャンバの相対的位置変化もないので、極
低温冷却に伴う電子ビーム走行への悪影響を排除するこ
とができる。さらに、組立時の位置調整が容易であり、
電子ビームを入射する配管との取付構造が簡単になるた
め、製造における経済性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るビームチャンバと内槽の支持方法
を実施した超電導ウィグラの一部切り欠き図である。
【図2】 図1の超電導ウィグラの一部断面図であ
る。
【図3】繊維強化樹脂の常温から極低温にいたる熱収縮
率変化を示すグラフである。
【図4】繊維方向が±45°で交差するカーボン布を使
用したFRPの熱収縮率データを示すグラフである。
【図5】繊維強化樹脂の常温から低温領域にいたる引張
り強度の測定例を示すグラフである。
【図6】各種材料の熱伝導率の温度依存性を表したグラ
フである。
【図7】本発明が対象とするビームチャンバの構造を示
す断面図である。
【図8】従来技術による内槽支持方法の例を示す断面図
である。
【図9】従来技術によるビームチャンバと内槽の支持方
法の別の例を示す断面図である。
【図10】図9の方法により熱シールドボアを支持する
状態を説明する一部拡大側面断面図である。
【図11】従来技術によるビームチャンバ支持方法のさ
らに別の例を示す断面図である。
【図12】図11の方法に用いる支持材の斜視図であ
る。
【図13】図12の支持材の熱変形を説明する断面図で
ある。
【符号の説明】
2 内槽 4 シールド槽 6 外槽 8 超電導コイル8 10 鉄ヨーク 12 ビームチャンバ 14 高温超電導電流リード 16 上部サーマルアンカ板 18 銅編組線 20 外槽上部フランジ 22 カーボンFRPロッド 24 内槽端部鏡板 26 支持座 28 吊り下げ基部 30 フランジ 32 スポークワイヤ 34 端部サーマルアンカ円板 36 シールド槽端板 38 調整ナット 40 外槽端部フランジ 42 液体ヘリウム注入管 44 液体窒素注入管 46 ベローズ継手 48 横揺れ防止用テンションワイヤ
フロントページの続き (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) H05H 13/04

Claims (6)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 磁場を発生する超電導磁石と、該超電導
    磁石を冷却する極低温冷媒を収納した内槽と中低温冷媒
    を収納したシールド槽とこれらを断熱的に内蔵する外槽
    とからなるクライオスタットと、前記内槽と接する低温
    ボアとシールド槽と接続される熱シールドボアと電子ビ
    ームの通過する常温ボアの3層構造を有し前記磁場を貫
    通するビームチャンバとを備えた超電導ウィグラにおい
    て、熱伝導率が小さくかつ熱収縮率をゼロに近づけるこ
    とのできるロッドで前記内槽を前記外槽から吊り下げて
    支持し、前記内槽の中心軸から放射状に張った複数のス
    ポークで前記シールド槽を前記内槽と同軸的に支持する
    ことを特徴とする超電導ウィグラのビームチャンバと内
    槽の支持方法。
  2. 【請求項2】 前記ロッドとしてカーボンFRPを用い
    ることを特徴とする請求項1記載の超電導ウィグラのビ
    ームチャンバと内槽の支持方法。
  3. 【請求項3】 前記カーボンFRPが熱収縮率をゼロに
    近づけるような角度で交差するカーボン布を強化材に使
    用したカーボンFRPであることを特徴とする請求項2
    記載の超電導ウィグラのビームチャンバと内槽の支持方
    法。
  4. 【請求項4】 前記スポークを前記シールド槽と前記内
    槽の中間に形成される空間内に設置することを特徴とす
    る請求項1ないし3のいずれかに記載の超電導ウィグラ
    のビームチャンバと内槽の支持方法。
  5. 【請求項5】 前記スポークの端部で支持長を調整する
    ことにより低温ボアに対する熱シールドボアの位置を調
    整できるようにしたことを特徴とする請求項1ないし4
    のいずれかに記載の超電導ウィグラのビームチャンバと
    内槽の支持方法。
  6. 【請求項6】 磁場を発生する超電導磁石と、該超電導
    磁石を冷却する極低温冷媒を収納した内槽と中低温冷媒
    を収納したシールド槽を断熱的に内蔵する外槽からなる
    クライオスタットと、前記内槽と接する低温ボアとシー
    ルド槽と接続される熱シールドボアと電子ビームの通過
    する常温ボアの3層構造を有し前記磁場を貫通するビー
    ムチャンバとを備えた超電導ウィグラにおいて、前記内
    槽を前記外槽から吊り下げて支持する熱伝導率が小さく
    かつ熱収縮率をゼロに近づけることができる複数のロッ
    ドと、前記内槽の中心軸と前記シールド槽の外殻の間に
    放射状に張られて該シールド槽を該内槽と同軸的に支持
    する複数のスポークを備えることを特徴とする超電導ウ
    ィグラのビームチャンバと内槽の支持構造。
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