JP3042487B2 - 電気泳動装置 - Google Patents

電気泳動装置

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JP3042487B2
JP3042487B2 JP10016606A JP1660698A JP3042487B2 JP 3042487 B2 JP3042487 B2 JP 3042487B2 JP 10016606 A JP10016606 A JP 10016606A JP 1660698 A JP1660698 A JP 1660698A JP 3042487 B2 JP3042487 B2 JP 3042487B2
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、核酸、蛋白、糖等を分
離分析する電気泳動装置に関し、特にDNA(核酸)等
の検出、DNAの塩基配列の解析等に好適な電気泳動装
置に関する。
【0002】
【従来の技術】蛍光標識された試料を電気泳動により分
子量分離し解析する電気泳動装置としては、例えば蛍光
体を標識物にしたDNAの塩基配列決定装置がある。塩
基配列決定方法は、周知のサンガー(Sanger)ら
のジデオキシ法による。分子量分離は、ポリアクリルア
ミドゲル等を使った電気泳動で行う。通常は2枚のガラ
ス板の間に作成した平板上のポリアクリルアミドゲルを
使用して電気泳動を行うが、近年、キャピラリー内にゲ
ル(キャピラリーゲル)を作成して電気泳動を行うキャ
ピラリーゲル電気泳動法が開発されている。キャピラリ
ーゲル電気泳動法では、一般にキャピラリーの径が小さ
いためにゲルの体積当たりの表面積が大きく、ジュール
熱の放散が容易であるため、高電圧を印加することがで
き、高速に分離することができ、有用な方法である。キ
ャピラリーゲル電気泳動法の第1の従来例として、「ニ
ュークレイック アシッド リサーチ」誌、第18巻、
第1415〜1419頁(1990年)(Nuclei
c Acid Research、18、1415〜1
419(1990))に記載の方法がある。図19に示
すように、内径75μmのキャピラリーを使用し、9k
Vの高電圧を印加し、DNA断片等の高速及び高分離検
出を図っている。この方法の検出部では、キャピラリー
の軸とレーザ光の照射軸とを、垂直方向から25度程度
傾斜させ、レーザ光をキャピラリーの中心部に直径約2
0μmに集光して照射し、生じる蛍光をバンドパス干渉
フィルタ等で分光して検出している。なお、図19は上
記従来例記載の装置図を基にわかりやすく書き直してあ
る。さらに、第2の従来例として、「ジャーナル オブ
クロマトグラフィー」誌、第516巻、第61〜67
頁(1990年)(Journal of Chrom
atography、516、61〜67(199
0))に、キャピラリーゲル電気泳動法によってDNA
の塩基配列を決定する方法が記載されている。この方法
では、内径が50μmのキャピラリーを使用してDNA
断片を分子量分離している。本例での測定装置は基本的
には「サイエンス」誌、第242巻、第562〜564
頁(1988年)(Science、242、562〜
564(1988))に記載されているものである。
「サイエンス」誌記載の装置図に、判り易くするため、
記載内容に基づいて、レーザ光源やシースフロー用のポ
ンプ等を加えた装置構成を図20に示した。DNA断片
の検出は、分子量分離された分離液を石英製フローチャ
ンバー(内形250μm×250μm)に導き、EDT
Aを含むトリス−ほう酸緩衝液をシース液として液体ク
ロマトグラフィー用ポンプによりフローさせてシースフ
ロー状態にし、フローチャンバーのほぼ中心部を流れる
分離液に対して、レーザ光を直径10μm程度に集光し
て照射し、分光フィルタ等を通してDNA断片からの蛍
光を検出している。なお、第3の従来例である、1つの
泳動路で塩基配列を決定する方法として、例えば「ネイ
チャー」誌、第321巻、第674〜679頁(198
6年)(Nature、321、674〜679(19
86))等に記載されているように、DNA断片の末端
塩基の種類毎に、4種の異なる最大蛍光波長を有する蛍
光体(フルオレセイン、4−クロロ−7−ニトロベンゾ
−2−オキサ−1−ジアゾール(NBD)、テトラメチ
ルローダミン、テキサスレッド(モレキュラプローブ社
製品))で標識し、分子量順に泳動されてくる断片をレ
ーザ光で励起して、4種のバンドパス干渉フィルタによ
って各々の蛍光を分離して蛍光検出し、塩基配列を決定
する方法がある。このように、キャピラリーゲル電気泳
動では、通常1本のキャピラリーのみを使用し計測をお
こなっている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】キャピラリー電気泳動
装置では、試料の微量化等に伴い、検出の高感度化が望
まれている。さらに、処理能力の向上、例えば同時処理
できる試料数の増大が望まれている。一般に電気泳動状
態での蛍光測定では、目的とする蛍光体自体からの蛍光
の他に、背景光として、ゲルによる励起光の散乱光(レ
ーリー散乱など)及び蛍光、ゲルの支持体つまりキャピ
ラリーの内壁及び外壁での散乱光、あるいはキャピラリ
ー自体からの蛍光が生じる。そのため、バックグラウン
ドレベルが高くなり、検出感度の低下を招くことにな
る。つまり、高感度な蛍光検出を達成するには、このよ
うな背景光をいかに除去するかが重要な課題となる。ま
た、処理能力を向上させるには、泳動速度をより速くす
ること、また泳動路であるキャピラリーを複数本同時に
泳動し、計測することが必要であり、これらをいかに達
成するかが重要な課題となる。第1の従来例では、バン
ドパス干渉フィルタ等により励起光(散乱光)を除去
し、蛍光成分を分離して検出する第1の対策と、キャピ
ラリーの軸をレーザ光の照射軸と蛍光集光軸とを含む平
面に対して垂直から25度程度傾斜させる第2の対策の
2つの対策により、より高感度な蛍光検出を図ってい
る。しかし第1の対策では、干渉フィルタの特性上散乱
光を完全に除去することは困難である。加えて、ゲル及
びガラス製チューブ自体からも微弱ながらも蛍光が生じ
ることがあり、バンドパス干渉フィルタ等では十分に背
景光を除去することは困難である。第2の対策では、キ
ャピラリーを傾けることで、蛍光集光用レンズに入射す
る散乱光そのものを低減させることができ有効な方法で
あるが、キャピラリーは断面が円形でありその径が小さ
いために散乱光強度が大きいこと、さらに散乱光はすく
なからず全方向に放射されること、加えてゲル及びガラ
ス製チューブ自体からの蛍光を低減することはキャピラ
リーを傾けることではできないこと等から、背景光を十
分に除去することは困難である。以上の観点から、背景
光の除去が十分とはいえず蛍光を高感度に検出すること
は難しい。なお、本従来例はキャピラリーが1本であ
り、複数の試料の同時処理の方法については記載も示唆
もされてもいない。単純に図19の装置を複数使用する
ことが考えられるが、レーザ光源や検出器、光学部品等
も複数個必要であり、装置が大きく高価になり現実的で
はない。さらに、キャピラリーを複数本並べて単一のレ
ーザ光で全てのキャピラリーを照射することも考えられ
うるが、レーザ光等の光をキャピラリーに照射すると、
キャピラリーの断面が円形であるためその界面で光の屈
折・散乱が生じ、キャピラリーを通過する光は広く拡散
するため、この構成を達成することは現実的にできな
い。つまり、キャピラリーが1本の場合は問題ないが、
複数本のキャピラリーを連続的に照射する場合、キャピ
ラリーを通過する度に次のキャピラリーに照射される光
強度が極端に弱くなり、蛍光測定が困難になる。以上の
ことから、本従来例を複数の試料の同時処理に適用し、
処理能力の向上させることは困難である。
【0004】第2の従来例は、キャピラリーゲル電気泳
動でキャピラリー及びゲルによる散乱光を効果的に除去
できる方法である。つまり、キャピラリーゲル端をシー
スフローチャンバーのサンプル注入口とすることで、キ
ャピラリーゲル外に試料液を導出させ、シースフロー下
で蛍光測定を行うため、キャピラリーの界面での散乱光
並びにゲルからの散乱光及び蛍光の発生がなくなる。ま
た、シースフローチャンバーでは、試料液はそのほぼ中
心を層流状態で流れ、シースフローチャンバーの内壁と
接触しないため、シースフローチャンバーからの散乱光
と試料からの蛍光とを空間的に分離することができ、蛍
光強度を高感度に検出することができる。しかし、シー
スフローを形成するために、トリス−ほう酸緩衝液をシ
ース液として液体クロマトグラフィー用ポンプ等でシー
スフローチャンバー内に一定流量で常時フローさせる必
要がある。そのため、装置的に高価で、複雑になる等の
問題がある。また、シースフローチャンバーは、シース
液注入部が太く、シースフロー部である蛍光測定部が細
いという複雑な形状であり、シースフローチャンバーの
製作が難しく、高価である。さらに第1の従来例と同様
に、本従来例では複数の試料の同時処理については記載
も示唆もされていない。単純に図20の装置を複数使用
することは装置が大きく高価になり現実的ではない。ま
た、複数のシースフローチャンバーを使用し、各シース
フローチャンバーにキャピラリーを配置し、単一のレー
ザ光を照射することも考えられうる。この場合、レーザ
光はキャピラリーを照射しないため、キャピラリーによ
る光の屈折・散乱がない。しかし、各キャピラリー毎に
シースフローチャンバーがあるため、キャピラリーとキ
ャピラリーとの間隔を空間的に狭めることは困難であ
り、その結果シースフローチャンバー部が大きくなって
しまい、複数のシースフローチャンバーを使用すると、
装置が大型化し、高価になるという問題がある。さらに
複数のシースフローチャンバー内を流れる試料液束の全
てを同一の条件で照射するには、レーザ光を細く絞るこ
とができない。なぜなら、レーザ光の焦点深度は照射ス
ポットサイズと関連し、照射スポットサイズが小さくな
るとその焦点深度は浅くなるのに対し、複数のシースフ
ローチャンバー内を流れる試料液束間の間隔が広いため
である。以上のことから、本従来例を複数の試料の同時
処理に適用し、処理能力の向上させることは困難であ
る。本発明の目的は、上記した従来技術の問題点を解決
し、電気泳動により分離される試料の蛍光測定または光
吸収測定を高感度で簡便に行うことのできる電気泳動装
置、及び、複数の試料の同時処理を簡便に行うことので
きる電気泳動装置を提供することにある。また、本発明
の目的は、DNA塩基配列計測に好適で、操作性・安全
性がよく、高感度で高スループットの電気泳動装置を提
供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため
に、電源によって電圧を印加された陰極電極槽と陽極電
極槽の間に設けた試料分離部がキャピラリーから成る泳
動路である電気泳動装置において、(1)それぞれの一
端がそれぞれ陰極電極槽または陽極電極槽に接続された
1対または複数対のキャピラリーのそれぞれの他端を光
学セル中にその軸をほぼ一致させ一定の間隙を保持して
対向させて配置して光学セルを貫通する泳動路を形成
し、外部から光学セル内にシース液を注入して流し、試
料分離部である上流側の泳動路のキャピラリー端から泳
動される試料をシースフロー状態にして対向するキャピ
ラリーに導き、この間隙部を光学検出部とし、光学検出
部に光源から光照射して試料を検出するように、あるい
は、(2)一端が電極槽に浸されている複数のキャピラ
リーを光学セル中に終端させ、外部から光学セル内にシ
ース液を注入して流すことにより、各キャピラリーを泳
動する試料をシースフロー状態で光学セル中をフローさ
せ、シースフロー部を光学検出部とし、光学検出部に光
源から光照射して試料を検出するように電気泳動装置を
構成する。また、(3)一端が電極槽に浸されている複
数本のキャピラリーの他端を光学セル内に適当な間隔を
もって一直線上に並ぶように保持し固定し、光学セル内
に水溶液から成るシース液を流し込み、各キャピラリー
の末端の近傍及びその下部にシースフローを形成させ
て、各キャピラリーを泳動する試料をシースフロー状態
で光学セル中をフローさせ、注入したシース液を光学セ
ルから排出し、励起光源部の光を、光学セル内の一直線
上に並んだ複数本のキャピラリーの末端の直下部に、上
記の直線にほぼ並行に照射し、各々のキャピラリーから
泳動流出する試料から蛍光を生じさせ、生じる複数の蛍
光の像を各々分割し、分割された像が各々異なる波長域
の光成分を有するように、分割手段の前部または後部に
分光フィルタを各々配置し、分割した像を結像させ、結
像した像を検知する電気泳動装置を構成する。
【0006】なお、(1)の構成において、複数のキャ
ピラリー対によって形成される複数の光学検出部を光学
セル中に配置する。さらに、複数本のキャピラリー対に
よる複数の光学検出部が一直線上に位置するように複数
のキャピラリー対を光学セル中に整列して配置し、全て
の光学検出部を同時に照射するように励起光をこの直線
に沿って照射し、上記複数の光学検出部で同時に蛍光測
定を行ない、(2)の構成において、複数のキャピラリ
ーによって形成される複数の光学検出部を一直線上に位
置するように前記複数のキャピラリーを光学セル中に整
列して配置し、全ての光学検出部を同時に照射するよう
に励起光を上記直線に沿って照射して各キャピラリーを
泳動する試料から発せられる蛍光を同時に検出する。ま
た(3)の構成では、(1)と同様に、泳動分離用のキ
ャピラリーと同数または同数以上で、泳動分離用のキャ
ピラリーと同じの間隔をもってその端を一直線上に保持
し、泳動分離用のキャピラリー末端とレーザ光照射軸と
を含む平面内の近傍に配置した中空キャピラリーを介し
て光学セルから水溶液を排出する構造としてもよい。各
々のキャピラリーを泳動する複数の試料からの像を、多
面体のプリズムを用いて分割する構造とする。像を4つ
に分割してそれぞれを同時に検出する構造としてもよ
い。複数本のキャピラリーを各々泳動する試料からの蛍
光像または各々分割された蛍光像は、同時に検出器に結
像させ、その強度を同時に計測する。試料から発光する
蛍光等は、レンズで集光した後、分割し、結像させる構
成とし、また、円筒レンズで一方向を集光した後、分割
し、結像させて検出してもよい。
【0007】また、(1)および(2)および(3)の
構成において、以下のように各部を構成してもよい。試
料分離部はキャピラリーゲルで構成し、シース液はキャ
ピラリー内部の緩衝液と同等の成分とし、また、試料の
変性剤を含ませることもできる。また、複数本のキャピ
ラリーを保持する手段と、光学セルとが脱着可能である
ようにし、光学セル内部に、キャピラリー保持具を指定
した位置に保持するための挿入ガイドを設けることもで
きる。光学セル内部への水溶液の注入は、水溶液を含む
シース液容器を光学セルの外部に設け、その液面を光学
セルより排した液の面より高い位置に配置し、落差によ
り行うこと、または、上部が開放している光学セルを使
用し、光学セル内部に水溶液を流し込む手段が、水溶液
を含むシース液容器を光学セルの外部に設け、その液面
を光学セル内の排水口より高い位置に配置し、落差によ
り行ってもよい。光学セル内の液面がほぼ一定に成るよ
うに制御する機構を設けることもできる。これは、光学
セルの上部が開放しており、光学セル内の液面を検知す
る機構と、液面の低下時にシース液容器内の水溶液をバ
ルブを介して補給する機構によって構成できる。光学検
出部では試料の蛍光または光吸収を測定する。また、励
起光源部をレーザ装置とし、また少なくとも2種類のレ
ーザ装置とし、これらのレーザ光を同軸にして1本にし
てもよい。生じる蛍光などの像は、二次元検出器によっ
て検出できる。また、複数本のキャピラリーの各々への
試料の注入は同時に行う。泳動下流側の電極はシース液
の排出される容器内だけでなく、光学セル内部、または
シース液容器内部とすることもできる。この泳動下流側
の電極はその電位が0V(接地)、またはその絶対値が
他方の泳動上流側の電位の絶対値に比べて小さい値とす
る。また、試料が泳動される下流側の電極槽内に溜る水
溶液の液面がほぼ一定になるようにし、槽に過剰の水溶
液を排する機構を設けてもよい。さらに、多数本のキャ
ピラリーを泳動する試料から発する蛍光の両端の長さの
二次元検出器の受光サイズに対する比が3以下、つまり
全体としての像倍率が1/3倍以上とする。また隣合う
キャピラリーとの間隔がキャピラリーサイズの10倍以
下とするのが望ましい。電気泳動では、試料が泳動され
る下流側の電極の数が1個で、試料の注入側の電極の数
が泳動分離用キャピラリーの本数に一致する構造とする
のが望ましい。さらに、泳動分離用のキャピラリー内部
を流れる電流値をキャピラリー毎に測定し、表示する機
構を設ける。その電流値はそれぞれ2値化して表示して
もよい。また、泳動分離用キャピラリーには、少なくと
も光学セル内部に保持される側の端近傍の内面をシラン
化処理し、ゲルを充填することで、少なくとも光学セル
内部に保持される側の端近傍のゲルをキャピラリー内壁
と化学的に結合させてもよい。
【0008】
【作用】電気泳動装置の構成(1)または(3)では、
それぞれの一端がそれぞれ陰極電極槽または陽極電極槽
に接続された1対または複数対のキャピラリーのそれぞ
れの他端を光学セル中にその軸をほぼ一致させ一定の間
隙を保持して対向させて配置するので、光学セルの一部
を貫通する泳動路を形成できる。外部から光学セル内に
シース液を注入して流すので、試料分離部である上流側
の泳動路のキャピラリー端から泳動される試料をシース
フロー状態にして対向するキャピラリーに導くことがで
き、上流側のキャピラリーと下流側のキャピラリーとを
連続的に試料が電気泳動することができ、しかも上流側
のキャピラリーと下流側のキャピラリーとの軸上の間隙
部のみに試料を確実に電気泳動させることができる。こ
の間隙部を光学検出部とし、光源から光学検出部への光
照射をキャピラリーの無い液中で行なうことができ、試
料の蛍光または光吸収等の光学計測を行うことができ
る。これにより、キャピラリーまたはキャピラリーゲル
による散乱光及び蛍光の発生を回避することができ、高
感度な蛍光または光吸収計測が可能となる。このよう
に、複数のキャピラリーを光学セル中に軸をほぼ一致さ
せ一定の間隙を保持して対向させることにより、試料分
離部である上流側のキャピラリーと、光学検出部である
間隙部とを簡便に構成することができる。しかも下流側
に対となるキャピラリーを配置することで、試料の泳動
路を正確に規定することができ、光源から光照射を容易
にかつ確実にすることができ、また蛍光等の受光をも容
易にかつ確実にすることができる。また、シース液及び
試料液は下流側のキャピラリー内部のみを通って光学セ
ル外部に流出するが、キャピラリーはその径が小さいた
め、光学セルに注入するシース液の流量を少なくするこ
とができ、シース液量の低減が可能となる。シース液の
流量は光学セルの寸法によらず、キャピラリーの内径に
よって規定されるため、通常のシースフローチャンバー
のようにシース液の注入部の内部の断面積を太くし、シ
ースフロー部の断面積を細くするような形状に光学セル
を調整する必要がなく、角形の光学セルを使用できるの
で、光学セルを容易に、しかも安価に作製することがで
きる。このように、複数のキャピラリー対によって形成
される複数の光学検出部を光学セル中に近接して配置す
ることができ、装置の小型化が達成できる。光学セルも
1個、シースフローを形成させる配管も1個で済むため
安価に、しかも容易に装置を構成できる。また各キャピ
ラリーから泳動される試料は、光学検出部を通過する際
に、各キャピラリー毎にシースフロー状態となり、シー
ス液の流れはすべて同じ条件となるため、そのフロー速
度等のシースフロー状態は各キャピラリー毎に均一にな
り、光学検出の精度を向上させることができる。光学セ
ルの内部は、複数のキャピラリー対を保持するため、そ
の断面積が大きくなるが、シース液等は下流側の各キャ
ピラリーを通って流れ出るため、シース液が流れる実効
的な断面積はキャピラリーの内径面積の総和となり、光
学セル自体の断面積に比べて微小になる。そのため、シ
ース液の流量は少なくて済み、シース液量の低減が可能
となり、装置の小型化を図ることができる。
【0009】1個の光学セル中に、複数の光学検出部を
一直線上に位置するように複数のキャピラリー対を整列
して配置し、励起光をこの直線に沿って照射するので、
全ての光学検出部を同時に照射することができ、複数の
光学検出部での蛍光測定を同時に行うことができる。ま
た、複数の光学検出部が互いに液体を介して連結するた
め、励起光がキャピラリー等による光散乱を受けずに各
光学検出部を照射することができ、励起光を効率良く各
光学検出部に導くことができ、高精度に蛍光を検出する
ことができる。なお、光の検出器として2次元のTVカ
メラ等を使用すれば、複数の光学検出部の蛍光像を同時
に受光することができる。1個の光学セル中に、複数の
光学検出部を一直線上に位置するように複数のキャピラ
リー対を整列して配置し、複数のキャピラリー対の間隔
を近接させることができ、装置を小型に、安価に構成す
ることができるだけではなく、上記の直線上の両端の光
学検出部間の長さを短くすることができる。両端の光学
検出部間の長さが短くなれば、励起光をレンズ等で細く
絞っても、すべての光学検出部をほぼ同等の光ビーム径
で照射することができる。例えば、レーザ光を焦点位置
で100μm径程度に絞ったとき、その前後約10mm
程度に渡ってレーザ光径が100μm程度になる。外径
200μmで内径100μmのキャピラリーを400μ
m毎に並べると、焦点の前後約10mm程度の内側に5
0本程度配置することができ、これらを同等の光ビーム
径・光ビーム強度で照射することができる。これより、
励起光を細く絞った状態で各光学検出部を光照射でき、
蛍光強度を増大させることができ、高感度に試料を検出
することができる。
【0010】なお、試料分離部をキャピラリーゲルで構
成して容易に分子量分離ができる。また、下流側のキャ
ピラリーを中空のキャピラリーとし、シース液等を効率
良く流すことができる。下流側にはキャピラリーそのも
のではなくても同等の動作を行いうるもの、例えば平板
に上部キャピラリー数に相当する孔や溝を形成させたも
のを使用できる。シース液を、キャピラリー内部の緩衝
液と同等の成分とすることで、間隙部つまり光学検出部
での電気の流れを確保することができ、試料の電気泳動
を可能にする。さらに、キャピラリー内部と外部の緩衝
液の組成が同等であるため、キャピラリー内部の緩衝液
が光学セル内部に流れでて組成が変動することを防ぐこ
とができ、電気泳動での試料の分離能を損なわない。ま
た、試料が一本鎖のDNA等の場合には、シース液に変
性剤を含ませることもできる。この場合、試料DNAが
間隙部つまり光学検出部を泳動する際に再結合すること
を防ぐことができ、測定精度が向上する。キャピラリー
内部に閉じ込めたの変性剤が光学セル内へ漏れでる可能
性が少なくなり、電気泳動での試料の分離能を損なわな
い。また、シース液の光学セルへの注入は、シース液容
器内のシース液の液面を下流側電極槽内の液面よりも高
い位置に配置することで、落差により簡便にシース液を
フローさせることができ、シース液を機械的にフローさ
せる必要が無く、簡便で安価な装置構成となる。さら
に、ポンプ等を使用する場合に発生する脈流が無くなる
ため、安定したシースフローが可能になり測定精度が高
まる。なお、シース液の流量は、シース液容器内のシー
ス液の液面と下流側電極槽内の液面の落差を変えること
で容易に調整することができる。光学セルは、キャピラ
リーを取り付けた際に密封される形状の他、上部が開放
している形状のセルを使用するとキャピラリー保持具の
取付けが簡便にできる。このとき、シース液容器の液面
を光学セル内の排水口より高い位置に配置することで、
前述と同様の効果が得られる。また、光学セル内の液面
を検知する機構と、液面の低下時にシース液容器内の水
溶液をバルブを介して補給する機構を設け、光学セル内
の液面がほぼ一定になるように制御し、脈流の少ない安
定したシースフローが達成でき、簡便で安価に装置を構
成できる。光学検出部では、試料の蛍光または光吸収の
どちらでも測定することができる。なお、間隙部の間隙
距離は特に規定されないが、0.1mmから3mm程度
とするのが好ましい。一般に、間隙部の間隙距離を短く
すればするほど試料が間隙空間を泳動しやすくなるた
め、基本的に間隙長は短い方が好ましい。しかしなが
ら、装置を組立てる上で、間隙長が短すぎるとその調整
が難しくなるため、通常現実的には0.1mm以上が好
ましい。ただし、0.1mm以下に設定することも可能
であって、その限界は、間隙部でのレーザ光等の励起光
束の幅により決定される。また逆に、間隙部の間隙距離
を長くすると、試料が拡散しやすくなる。間隙長が3m
m程度であれば、試料が正常に泳動することを確認し
た。つまり、間隙長を0.1mmから3mm程度とする
ことで、試料を簡便に効率よく電気泳動させることがで
きる。また、キャピラリー対を光学セル内部に保持し電
気泳動させることにより、試料はキャピラリーとキャピ
ラリーとを結ぶ線上を泳動し、光学セル内面と接触しな
いため、試料のセル内面への吸着、及びセル内面からの
散乱光の影響を除去することができ、検出感度の向上を
図ることができる。
【0011】また各々のキャピラリーを泳動する複数の
試料からの像を、多面体のプリズム等を用いて分割し、
それぞれが異なる波長域の光成分を通すように分光フィ
ルタを用い、1試料から複数の情報を容易に得ることが
できる。特に、像をDNAの塩基種の数である4つに分
割すれば、それぞれの塩基種に対し別々の蛍光体で標識
しDNA塩基配列を効率よく決定できる。複数本のキャ
ピラリーを各々泳動する試料からの蛍光像または各々分
割された蛍光像は、同時に二次元検出器に結像させその
強度を同時に計測することで、キャピラリーの本数に選
らずに高速に計測することが可能になる。また、光学セ
ル内部に、キャピラリー保持具を指定した位置に保持す
るための挿入ガイドを設け、複数本のキャピラリーと光
学セルとが脱着可能とすることでキャピラリーの取付
け、取扱等の操作性が向上する。また、励起光源部をレ
ーザ装置とし、また少なくとも2種類のレーザ装置と
し、これらのレーザ光を同軸にして1本にして照射する
ことで、DNA断片への励起を効率良く行うことができ
る。泳動分離用の複数本のキャピラリーの本数に等しい
電極を設け、複数の試料液に各々キャピラリーと電極を
浸し、同時に電圧を印加して複数本のキャピラリーの各
々への試料の注入を同時に行うことにより、試料の注入
が容易に、かつ一度の操作でできることになり、従来の
ように1本単位で行う場合に比較して、時間の短縮、操
作性の向上が図れ、さらに、泳動分離用のキャピラリー
内部を流れる電流値をキャピラリー毎に測定することが
可能になる。キャピラリー内部を流れる電流値は、キャ
ピラリーの状態を知るのに有効であり、例えば、ゲルの
破損等による分離の不良をあらかじめ予測できる。電流
値の表示は、2値化のレベルを任意に設定し、電流値を
2値化して通常の泳動電流以下のときにランプが点灯す
るように表示するので、キャピラリーゲルの破損等がモ
ニタでき、ゲルキャピラリーの交換、再計測を行う必要
性を効率よく判断でき使い勝手の向上が図れる。
【0012】さらに、光学セル内部に保持する隣合うキ
ャピラリーとの間隔がキャピラリーサイズの10倍以下
とし、検出する蛍光像の全体としての像倍率を1/3倍
以上とすることで、平板ゲル方式と比べ受光立体角を増
大させることかでき、同じ量の蛍光体に対する検出感度
の向上が図れる。電気泳動装置の構成(2)または
(3)の一部の構成では、一端が電極槽に浸されている
複数のキャピラリーを光学セル中に終端させ、外部から
光学セル内にシース液を注入して流すことにより、各キ
ャピラリーを泳動する試料が各々シースフロー状態で光
学セル中をフローすることになり、シースフロー部を光
学検出部とし、電気泳動装置の構成(1)と同様にし
て、各々のキャピラリーを泳動する試料を別々に測定す
ることができ、電気泳動装置の構成(1)と同様の作用
を得る。電気泳動装置の構成(1)に関して説明した関
連するその他作用は、電気泳動装置の構成(2)につい
ても同様である。
【0013】
【実施例】以下、実施例により本発明をより詳細に説明
する。 〔実施例1〕本実施例では、蛍光標識したDNA断片を
電気泳動により分子量分離し、蛍光によって検出を行
う。標識用の蛍光体として、フルオレセイン・イソチオ
シアネート(FITC)を使用する場合について説明す
る。試料である蛍光標識したDNA断片としては、DN
A断片の一部に蛍光体で標識したもの等が使用できる。
例えば、周知のサンガー(Sanger)らのジデオキ
シ法により、蛍光標識したプライマーを使い、DNAポ
リメラーゼ反応を行うことで調製する。つまり、プライ
マーとして、FITCが結合したプライマー(標識プラ
イマー)を使用し、鋳型の一本鎖DNAに標識プライマ
ーを加えてアニールし、一本鎖DNAに標識プライマー
を結合させる。次にdATP、dTTP、dCTP、d
GTP及びddATPを加え、DNAポリメラーゼ反応
を行わせる。以上の操作で、末端がAの種々の長さの蛍
光標識DNA断片を得る。これを試料とする。まず、装
置構成について説明する。図1に、本実施例の電気泳動
装置の電気泳動部及びレーザ光照射系の構成図を示す。
図2に、電気泳動装置の蛍光検出系の構成図を示す。電
気泳動装置は試料分離部となるキャピラリーを20本並
べて、複数の試料を同時に計測する構成とする。試料分
離部として、20本のシリカ製のキャピラリー1a、1
b、1c、1d……、1tを使用する。これらは各々内
径100μm、外径375μm、長さ40cmのシリカ
製の同じキャピラリーとする。さらにそれらと同じ内外
径を有する長さ10cmの20本のシリカ製のキャピラ
リー2a、2b、2c、2d、……、2tを使用する。
キャピラリー1a〜1tには、変性剤の尿素を含むポリ
アクリルアミドゲルを充填したキャピラリーゲルを作成
する。まず、キャピラリー内部を洗浄し、シランカップ
リング処理する。次いで、脱気した3.84%のアクリ
ルアミド、0.16%のビスアクリルアミド、7Mの尿
素、2mMのEDTAを含むトリス、ほう酸緩衝液にテ
トラメチルエチレンジアミン、過硫酸アンモニュウム溶
液を加えキャピラリーに注入して重合させ、アクリルア
ミドゲルを作成する。キャピラリーはシランカップリン
グ処理されているため、アクリルアミドゲルとキャピラ
リーとは化学的に結合しており、泳動時にキャピラリー
からゲルがはみでることがない。
【0014】キャピラリー2a〜2tは、それらの内面
が正の電荷を有するように処理する。まず、キャピラリ
ーに3−(2−アミノエチルアミノプロピル)トリメト
キシシラン溶液を注入して反応させ、110℃で熱処理
して、キャピラリー内面をアミノシラン化して正の電荷
を有するようにする。このようにすることでキャピラリ
ー2a〜2tの各々の内部の電気浸透流の向きが負極か
ら正極の向きになり、アクリルアミドゲルを充填したキ
ャピラリー1a〜1tでの試料の泳動方向(負極→正
極)と、キャピラリー2での試料の移動方向(負極→正
極)が一致し、試料の泳動を確実にすることができる。
以上のキャピラリー1a〜1t及び2a〜2tのそれぞ
れの一端を、光学セル内部に対向させて、一定の間隙を
保持するように固定し、試料を光学的に検出する。ここ
では蛍光により試料を検出するため、光学セルとして蛍
光セルを使用する。つまり、上記キャピラリー1a〜1
t及び2a〜2tのそれぞれの一端を角形の石英製蛍光
セル4(外形:幅36mm×奥行4.5mm×長さ3m
m、内形:幅30mm×奥行2mm×長さ3mm、:幅
は図の横方向(キャピラリー1a→1tの並び方向)、
奥行は図の紙面に対して垂直方向、長さは図の縦方向
(各キャピラリーの1→2の試料泳動方向))内部に配
置する。配置方法は、キャピラリー1aとキャピラリー
2aとが同軸になるように、しかも、1mmの長さの間
隙部3aを形成して対向させる。キャピラリー1bと2
b、1cと2c、1dと2d……、1tと2tも同様
に、各々同様の間隙部3b、3c、3d……、3tとを
形成するように配置する。キャピラリーの光学セル内へ
の固定は、ふっ素樹脂、例えば四ふっ化エチレン樹脂製
の平板状のブロックに0.6mm間隔で20箇所の垂直
孔を設けたマルチキャピラリー保持具5a及び5bを使
用する。つまり、マルチキャピラリー保持具5aの20
箇所の垂直孔に1本ずつキャピラリー1a〜1tを差し
込み、またマルチキャピラリー保持具5bの20箇所の
垂直孔に1本ずつキャピラリー2a〜2tを差し込み、
キャピラリー1aと2a、1bと2b、1cと2c、1
dと2d……、1tと2tとがそれぞれ同軸になるよう
にマルチキャピラリー保持具5aと5bを蛍光セル4の
上部と下部に密着させて固定する。さらに間隙部3a〜
3tを光学検出部、ここでは蛍光検出部とするため、各
々の間隙部3a〜3tが1直線上に整列するように、石
英製蛍光セル4内でのキャピラリー1a〜1t及び2a
〜2tの長さ等を調整する。なお、キャピラリー1a〜
1t及びキャピラリー2a〜2tのそれぞれの他端は、
緩衝液(トリス、ほう酸、EDTA、尿素を含む緩衝
液)を入れた陰極側電極槽6及び陽極側電極槽7に浸
す。蛍光セル4には、その内部をシース液で満たすため
のシース液注入口8が設けられており、四ふっ化エチレ
ン樹脂製のチューブ9を介してシース液容器10内のシ
ース液11が注入できる構造としている。シース液に
は、トリス、ほう酸、EDTA、尿素を含む緩衝液を使
用し、キャピラリー1a〜1tのキャピラリーゲル内の
緩衝液と同じ成分とし、キャピラリーゲルの構成成分の
蛍光セル4内への漏れ出しを防止するようにする。
【0015】また、キャピラリー1a〜1t及びキャピ
ラリー2a〜2tを内部に配置した状態の蛍光セル4内
を、シース液で満たし、シース液容器10内のシース液
11の液面を陽極側電極槽7内の緩衝液の液面より高く
配置することで、シース液はキャピラリー2a〜2tを
通って陽極側電極槽7内に流れる。この状態では、蛍光
セル4内及びキャピラリー2a〜2tの内部がシース液
つまり緩衝液で満たされ、またキャピラリー1a〜1t
もキャピラリーゲルで満ちており、陰極側電極槽6と陽
極側電極槽7の間に直流高電圧電源12により直流電圧
を印加することで、例えばキャピラリー1aと間隙部3
aとキャピラリー2aを貫くように電流が流れ、試料を
電気泳動させることができる。また、シース液容器10
内のシース液11の液面を陽極側電極槽7内の緩衝液の
液面より高く配置することで、キャピラリー2a〜2t
の内部をシース液が流れでることになり、各々のキャピ
ラリー2a〜2tの上部、即ち間隙部3a〜3tの各々
を中心とした流れが生じる。そこでキャピラリー1a〜
1tから泳動されてくる試料は、キャピラリー2a〜2
tの上部の流れに沿って、各々間隙部3a〜3tをシー
スフロー状態で通過し、各々のキャピラリーに導かれ、
陽極側電極槽7側に泳動される。キャピラリー2a〜2
tはその内部が正の電荷を有するように処理しており、
キャピラリー2a〜2t内の電気浸透流はキャピラリー
1a〜1tから陽極側電極槽7の方向になり、間隙部へ
の液の逆流が無く、シース液を安定に陽極側電極槽7方
向に流すことができ、特にシース液の流量が少ない場合
でも安定にシース液を陽極側電極槽7方向に流すことが
できる。
【0016】電気泳動は、陰極側電極槽6と陽極側電極
槽7の間に直流高電圧電源12により直流電圧を印加す
ることで行う。電圧印加により、キャピラリー1aとキ
ャピラリー2aを流れる電流は主に間隙部3aを中心に
流れ、同様にキャピラリー1bと2b、1cと2c、1
dと2d……、1tと2tを流れる電流は主に各々間隙
部3b、3c、3d……、3tを中心に流れる。さらに
上述のように、キャピラリー1a〜1tから泳動されて
くる試料は、キャピラリー2a〜2tの上部の流れに沿
って、各々間隙部3a〜3tをシースフロー状態で通過
し、各々のキャピラリーに導かれる。つまり、各々のキ
ャピラリー及び間隙部を泳動する試料は、隣の間隙部を
泳動する試料と接触せずに泳動し、各々の間隙部を泳動
する試料を分離して蛍光計測することができる。また、
試料は蛍光セル4の内面にも接触しないため、蛍光セル
への試料の吸着の影響が無く、また蛍光セル面での散乱
光をスリット等で空間的に除去することができ、高感度
な蛍光測定が可能になる。試料である蛍光標識DNA断
片の導入は、陰極側のキャピラリー1aの端を一時的に
試料液に浸し、試料液と陽極側電極槽7の間に6kVの
電圧を20秒間程度印加することで行う。その後キャピ
ラリーの端を元の陰極側電極槽6に戻す。この操作をキ
ャピラリー1b〜1tの各々について行い、キャピラリ
ー1a〜1tのキャピラリーゲル内に試料を注入する。
なお、試料の注入は、上記のように1本ずつ順番に行っ
ても良いし、またキャピラリー1a〜1tをそれぞれ試
料液に浸し、同時に電圧を印加することで行っても良
い。試料の電気泳動による分子量分離は、陰極側電極槽
6と陽極側電極槽7の間に6kVの直流電圧を印加して
行う。キャピラリー1a〜1tの各々に注入された試料
は、各々キャピラリー1a〜1tのキャピラリーゲル内
を陰極側から陽極側に向かって分子量分離されつつ泳動
され、各々間隙部3a〜3tを通過する。間隙部3a〜
3tを通過する試料の検出は、標識用の蛍光体であるF
ITCを励起するために波長488nmのアルゴンレー
ザ光を使用し、レーザ光が、1直線上に整列させた間隙
部3a〜3tを同時に、またほぼ同じ条件で照射するよ
うにレーザ光軸を調整して照射し、発する蛍光を計測す
ることで行う。つまり、アルゴンレーザ光源20の波長
488nmのレーザ光21をレンズ22により絞って照
射し、間隙部3a〜3tを通過する蛍光標識DNA断片
を励起する。ビーム径が約0.7mmのレーザ光を使用
し、焦点距離が100mmのレンズ22を使用し、間隙
部3a〜3tの中間に焦点を合わせる。この場合、焦点
でのレーザ光のスポットサイズは150μm程度で、そ
の焦点深度は約20mmである。間隙部3aから間隙部
3tまでの距離は、キャピラリー1aからキャピラリー
1tまでの距離に等しく、本例の場合0.6mm×19
つまり約12mmである。つまり、レーザ光は間隙部3
a〜3tの20箇所をほぼ同一のスポットサイズで照射
しており、またそのスポットサイズがキャピラリーゲル
の太さ(100μm)とほぼ同等となる。以上のよう
に、レーザ光のスポットサイズをキャピラリーゲルの太
さとほぼ同等の大きさにでき、また全ての間隙部をほぼ
同一のスポットサイズで照射するように、光源とレンズ
系を選定することにより、間隙部3a〜3tを泳動する
蛍光標識DNA断片を均一にしかも効率良く励起するこ
とができる。
【0017】間隙部3a〜3tを泳動する蛍光標識DN
A断片からの蛍光はレーザ光照射方向と垂直方向から検
出する。その構成図を図2に示した。DNA断片から発
せられた蛍光30は、干渉フィルタ32で散乱光などの
背景光等を除去し、レンズ33で、CCDカメラ等の二
次元検出器34に結像する。二次元検出器34はコント
ローラ35により制御されて間隙部3a〜3tの蛍光像
を検出し、コンピュータ等のデータ処理装置36で各間
隙部3a〜3t毎の蛍光強度の時間変化を連続的に、し
かも全ての間隙部を同時に計測し、それらの結果をモニ
タ37に表示し、プリンタ38に出力し、またメモリ3
9に保存する。これにより、1a〜1tの各キャピラリ
ー毎に分子量分離された泳動パターンを同時にかつ連続
的に測定することができる。なお、本例の場合、間隙部
の蛍光像は一次元上に並ぶため、CCDカメラのような
や二次元検出器のかわりに、ホトダイオードアレイ等の
一次元検出器をも使用することができる。また干渉フィ
ルタ32には、FITCからの蛍光を効果的に検出する
ために、500nm〜540nmの波長域を通過するバ
ンドパス干渉フィルタを使用する。また、間隙部3a〜
3tの像が二次元検出器の受光面に全て結像するよう
に、レンズ33の像倍率を設定する。本実施例では間隙
部は基本的に緩衝液であるため、レーザ光は、キャピラ
リー等の散乱を受けずに間隙部を伝播する。そのため、
複数のキャピラリーを泳動する試料を同時に、均質に、
効率的に光照射することができる。また、キャピラリー
やキャピラリーゲルによる散乱光や蛍光などの背景光を
大幅に低減することができ、高感度に蛍光を検出するこ
とが可能になる。背景光の低減効果としては、例えば間
隙部を形成させることなく、被覆を除去したキャピラリ
ーそのものにレーザ光を照射して蛍光検出する場合と比
べて、本実施例のように間隙部で蛍光計測を行うと、検
出される背景光強度が1/10程度以下になり、より低
濃度の試料を検出できるようになる。また、複数の間隙
部を1直線上に整列させることで、すべての間隙部を同
時にしかも簡単にレーザ光で照射することができ、簡便
な装置構成とすることができる。また、複数のキャピラ
リー対を1個の光学セルに保持できることにより、光学
セルが1個で済み、シース液の注入に要する配管も1系
統で済む。またシースフローは間隙部近傍でのみ生じる
ため、各間隙部での流速はすべての間隙部でほぼ同等と
なり、間隙部間での再現性が高い。そのため、泳動路間
のバラツキが少なく、また、光学セルも本実施例のよう
に単純な構造の光学セルで十分であり、通常のシースフ
ローチャンバのように複雑な形状の光学セルを使用する
必要が無く、全体的に、簡便な装置構成となる。本実施
例では、隣合うキャピラリー間の間隔は0.6mmに設
定した。このようにキャピラリー対を一定の間隙を保持
して対向させることにより、試料の泳動する位置を規定
することができ、複数のキャピラリー(及び間隙部)を
近接して配置することができ、光学セルを小型化するこ
とが可能である。また、このことにより、レーザ光をよ
り細く絞って間隙部を照射することも可能になる。また
逆に、同じ光学セル内により多くのキャピラリー対を保
持することができるようになる。本実施例によれば、分
子量分離部が従来と同様のキャピラリーゲルであるた
め、分子量分離特性を損なうことなく、高感度に試料を
検出することができる。
【0018】また、本実施例によれば、液体クロマトグ
ラフィ用ポンプ等の機械的手段を使用せずに緩衝液をフ
ローさせることができるため、装置構成が簡便になり、
安価になる。また、ポンプ等を使用する場合に生じる脈
流が無いため、シース液の流れが安定になり、流速の変
動が少なくなり、間隙部を流れる試料の蛍光強度の変動
が抑えられ、測定精度を高めることができる。なお、シ
ース液の流量はシース液容器内のシース液の液面と泳動
下流側の陽極側電極槽内の緩衝液の液面との落差を変え
ることで容易に調整することができる。また、泳動下流
側のキャピラリーの内径を変えることでも調整すること
ができる。なお、液体クロマトグラフィ用ポンプ等の機
械的手段によりシース液をフローさせることも基本的に
可能である。この場合、流量が直接設定できるという利
点がある。しかし、ポンプの脈流により蛍光強度が変動
しやすくなるため、データ処理において平滑化等の処理
を十分に行う必要がある。
【0019】光学セル内部のシース液は、下流側のキャ
ピラリー2a〜2tを通りセル外に流れ出る。キャピラ
リーは一般にその内径が細いため、そこを流れる流量は
一般に少なくなる。そのため、シース液の液量が低減で
き操作性が向上する。また、本実施例では、キャピラリ
ー2a〜2tの内部が正の電荷を有するように処理し
て、キャピラリー2a〜2t内の電気浸透流の向きをキ
ャピラリー1a〜1tから陽極側電極槽7の方向になる
ようにして、間隙部へのキャピラリー2a〜2tからの
液の逆流が無いようにした。このことより、特にシース
液の流量が少ない場合でも安定にシース液を陽極側電極
槽7方向に流すことができる。なお、キャピラリー2a
〜2tの内径が大きい場合等のようにシース液の間隙部
での流速が大きい場合には、電気浸透流の効果が小さく
なるため、必ずしもキャピラリー2a〜2tの内面の処
理を施す必要はない。本実施例では、シース液及び陽極
側電極槽、陰極側電極槽内の緩衝液には、トリス、ほう
酸、EDTA、尿素を含む緩衝液を使用し、キャピラリ
ーゲルの緩衝液と同じ成分とした。このことにより、キ
ャピラリーゲルの構成成分が蛍光セル4内または電極槽
へ漏れ出ることかなくなり、キャピラリーゲルの再使用
を含めより安定で分離能の良い電気泳動を続けることが
できる。なお、DNAの変性剤である尿素を含まない状
態の緩衝液を使用することもできる。この場合は、キャ
ピラリーゲル内の尿素が時間とともにキャピラリーゲル
から電極槽や蛍光セル内に漏れ出る可能性が有り、繰返
しの使用回数が多少減少するが、尿素を含む緩衝液の場
合と同様の泳動が可能である。
【0020】なお、使用するレーザ装置及び蛍光体は、
アルゴンレーザ及びFITCに限られるものではなく、
任意の蛍光体及び適当なレーザ装置が使用できる。本実
施例では、DNA断片の測定を例にして説明したが、蛋
白、糖等の分析にも当然のことながら使用できる。ま
た、本実施例では2本とも同じ内径のキャピラリーを使
用したが、異なる内径のキャピラリーの組合せも可能で
ある。例えば、上流側のキャピラリーの内径より下流側
のキャピラリーの内径を細くすれば、上流側のキャピラ
リー端から泳動される試料が下流側のキャピラリーに導
入される時に絞られるため、試料液の濃度が高くなり、
より高感度に検出することができるようにもできる。ま
た上流側のキャピラリーの内径より下流側のキャピラリ
ーの内径を太くすれば、上流側のキャピラリー端から泳
動される試料をより容易にかつ確実に下流側のキャピラ
リーに導びくこともできる。さらに、本実施例によれ
ば、励起光をキャピラリー部を透過させることなく試料
からの蛍光を測定できることから、キャピラリーが透明
である必要はない。つまりキャピラリーの被覆を除去す
る必要がないため、取り扱いが容易になる。さらに四ふ
っ化エチレン樹脂や三ふっ化塩化エチレン樹脂などの不
透明なふっ素樹脂製のキャピラリー等種々の材質のキャ
ピラリーを使用することも可能となる。ふっ素樹脂製の
キャピラリーは試料の吸着が少ないため、表面処理等の
処理操作が不必要であり、また破損がないため、操作性
が向上する。また耐薬品性に優れるので、幅広いpH範
囲の溶媒を使用することが可能になる。なお、本実施例
では、複数のキャピラリー対の場合について説明した
が、1つのキャピラリー対だけの場合も同様に、泳動
し、蛍光検出し、試料の分離パターンを測定することが
可能である。この場合は、光検出器として光電子増倍管
等が使用できる。
【0021】〔実施例2〕次に、実施例1の装置を使用
し、DNAの塩基配列を決定する方法について説明す
る。周知のサンガー(Sanger)らのジデオキシ法
により、蛍光標識したプライマーを使い、DNAポリメ
ラーゼ反応を行って蛍光標識DNA断片を調製する。プ
ライマーとして、FITCが結合したプライマー(標識
プライマー)を使用する。まず、一本鎖DNAに標識プ
ライマーを加え、アニール(2本鎖形成)して、一本鎖
DNAに標識プライマーを結合させる。この反応液を4
分割し、それぞれにA、C、G、Tに対応したDNAポ
リメラーゼ反応を行わせる。つまり、標識プライマーの
結合した一本鎖DNAに4種のデオキシヌクレオチド三
りん酸(dATP、dTTP、dCTP、dGTP)と
ターミネータとなるddATPを加えポリメラーゼ反応
を行わせる。この反応により、末端がAの種々の長さの
蛍光標識DNA断片を得る。同様の反応をC、G、Tに
ついても行う。上述のようにして得られる4つのA、
C、G、Tの反応液を、キャピラリー1a〜1tのうち
の4本例えばキャピラリー1a、1b、1c、1dのそ
れぞれに注入する。注入法は実施例1と同様で、A反応
液を1aに、C反応液を1bに、G反応液を1cに、T
反応液を1dに注入する。注入後約6kVの電圧を印加
することで電気泳動させる。波長488nmのアルゴン
レーザ光を励起光として、各ギャップ3a〜3dでの蛍
光強度の時間変化を測定する。DNA断片は分子量の小
さい順に泳動されることから、蛍光ピークの生じたギャ
ップ位置を時間順に解析することで塩基配列が解析でき
る。実施例1の装置は、試料を注入できるキャピラリー
を20本有している。上記のDNA塩基配列決定方法に
よれば、同時に5種類のDNA試料の塩基配列を決定す
ることができる。光学セル内に保持するキャピラリー対
の数を増やせばより多くのDNA試料の塩基配列を決定
することもできる。なお、本実施例では、蛍光体として
FITCの1種を使用している。しかし、同時に2種以
上の蛍光体からの蛍光を検出することも可能である。そ
の場合には、例えば周知のように図2において干渉フィ
ルタ32、レンズ33、検出器34からなる光検出装置
の組を蛍光体の数に一致する数だけ設け、それぞれが別
々の波長域の蛍光を検出するようにしてもよいし、また
は、レンズ33の後に分散プリズムを配置して分光し、
それをカメラ等の二次元検出器に結像させて受光し、泳
動路毎及び波長毎に蛍光強度を測定し、泳動路毎及び蛍
光体毎の蛍光強度を算定するようにしてもよい。
【0022】上記のように、複数の蛍光体を同時に測定
できる装置構成とした場合も、DNAの塩基配列を決定
することができる。つまり、末端塩基の種類毎に、異な
る蛍光体で標識したプライマーを使用し、それぞれDN
Aポリメラーゼ反応を行わせた後、反応液を混合し、電
気泳動させる。そして、間隙部空間を通過するDNA断
片の蛍光を検出し、そのときの蛍光体の種類を識別する
ことで塩基種が同定でき、塩基配列が決定できる。な
お、蛍光体の種類の識別は、4種の蛍光体の蛍光極大波
長での蛍光強度を比較する等により決定することができ
る。この場合は、1対のキャピラリーと間隙部で構成さ
れる泳動路で、DNA試料の塩基配列を決定することが
できる。つまり図1のように複数の泳動路を有する場
合、複数のDNA試料の塩基配列を同時に決定すること
が可能になる。
【0023】〔実施例3〕上記第1の実施例及び第2に
実施例では、蛍光測定により試料を検出する装置につい
て説明したが、吸光度の測定、透過光強度の測定などの
光吸収測定の場合も同様に装置を構成することができ
る。図3に、光吸収測定の場合の電気泳動装置の光照射
系・検出系の部分の構成図を示す。電気泳動部分は、実
施例1の図1と同様の構成とする。試料、例えばDNA
の制限酵素切断断片の導入は実施例1と同様に行い、分
子量分離するための泳動も実施例1と同様に行う。間隙
部3a〜3tを通過するDNA断片に対して、キセノン
ランプやD2ランプ等の光源50の光をモノクロメータ
51を通し、レンズ52で集光し、間隙部3a〜3tを
照射する。照射する光波長は試料の吸収波長に設定する
のが通常であり、例えばDNA断片に対しては、260
nm程度が適当である。DNA断片により光吸収を受け
透過した光は、再びレンズ53で集光されてホトダイオ
ードアレイ等の一次元センサ54で検出する。一次元セ
ンサ54は一次元センサ用のコントローラ55により動
作が制御され、コンピュータ等のデータ処理装置56で
各間隙部毎の泳動パターン等が測定され、それらの結果
はモニタ57に表示、プリンタ58に出力され、またメ
モリ59に保存される。本実施例では、間隙部をキャピ
ラリー間に設け、キャピラリー部を分子量分離部、間隙
部空間を吸光度を測定する光学検出部と分けることで、
照射光は光散乱の極めて少ないシース液中を透過するた
め、キャピラリーやゲル等で散乱されることなく試料を
効率よく照射することができ、高精度な吸光度測定が可
能になる。具体的には、本実施例のように間隙部に光を
入射させた時の透過光強度(試料が通過しない場合で受
光用のレンズの開口数が0.19の場合)を1とする
と、従来のようにキャピラリーを透過させる場合はその
透過光強度が0.6程度に低下する。これはキャピラリ
ー自体及び電気泳動で分子量分離させるための媒体であ
るポリアクリルアミドゲル等のゲルが光の散乱体である
ため、その部分で入射光が散乱され、その結果透過光が
減少するためである。透過光強度が低下することはその
分だけ光検出器等のS/Nが低下することを意味し、測
定精度が低下する。また、従来の場合はキャピラリーの
表面等で散乱や反射した光もその一部が検出されてしま
うが、これらの光は試料を照射することなく(試料によ
る吸収を受けずに)直接検出器に入射する。このような
試料の存在にかかわらずに検出される光成分があると、
微小な光強度変化が測定しにくくなり、つまり精度の高
い吸光度測定が困難になる。なお、本実施例では、モノ
クロメータ51を通した光を、レンズにより間隙部部に
集光して照射しているが、集光せずにほぼ平行光として
照射し、間隙部を通過した光のみを空間的に分離してそ
の光強度を測定することでも同様に測定が可能である。
【0024】〔実施例4〕上記第1から第3の実施例で
は、キャピラリー対により間隙部を形成したが、間隙部
はキャピラリー対のみによって形成されるものではな
い。例えば、分子量分離部を上記実施例と同じくキャピ
ラリーとし、このキャピラリー端と細孔を有した平板と
で間隙部を形成することもできる。図4に間隙部の構成
図を示す。実施例1と同様に、分子量分離部である20
本のキャピラリー1a〜1tをマルチキャピラリー保持
具5aに保持し、蛍光セル60に固定する。蛍光セル6
0の反対側には内径200μmの細孔61a〜61tを
有する平板62を固定する。キャピラリー1a〜1tの
各々と対向する位置に細孔61a〜61tを設けること
で、間隙部が形成され、シース液を流すことで各々のキ
ャピラリーから泳動される試料を対応する細孔に導くこ
とができる。なお、平板62の下には、液溜め63を配
置し、細孔から流れ入る溶液を一旦溜め、チューブ64
を介して電極槽65に導く。電気泳動は電極槽65とも
う一方の電極槽(図示せず)に電圧を印加することで、
実施例1と同様に行うことができる。レーザ光の照射、
蛍光検出等も同様である。
【0025】〔実施例5〕実施例1に対して、下流側の
キャピラリーを使用せずに、上流側のキャピラリーのみ
を使用し、シース液を流して泳動する方式を構築するこ
ともできる。図5に電気泳動装置の電気泳動部の構成図
を示す。実施例1と同様にキャピラリー1a〜1tのそ
れぞれの一端を、光学セル4内部に各々の先端をそろえ
て保持する。キャピラリーの光学セル内への固定は、ふ
っ素樹脂、例えば四ふっ化エチレン樹脂製の平板状のブ
ロックに0.6mm間隔で20箇所の垂直孔を設けたマ
ルチキャピラリー保持具5aを使用する。つまり、マル
チキャピラリー保持具5aの20箇所の垂直孔に1本ず
つキャピラリー1a〜1tを差し込み、マルチキャピラ
リー保持具5aを蛍光セル4の上部に密着させて固定す
る。蛍光セル4の下部はシール板70と四ふっ化エチレ
ン樹脂製のチューブ71を接続し、チューブ71端を陽
極側電極槽7内に浸し、シース液が流れるように、ま
た、電気泳動が可能なようにする。蛍光セル4には、そ
の内部をシース液で満たすためのシース液注入口8が設
けられており、四ふっ化エチレン樹脂製チューブ9を介
してシース液容器10内のシース液11が注入できる構
造とする。また、シース液容器10内のシース液11の
液面を陽極側電極槽7内の緩衝液の液面より高く配置す
ることで、キャピラリー1a〜1tから泳動されてくる
試料をシース液に包んで蛍光セル4内を流すことができ
る。これらの溶液は最終的に陽極側電極槽7側に導かれ
る。電気泳動は、陰極側電極槽6と陽極側電極槽7の間
に直流高電圧電源12により直流電圧を印加することで
行う。各々のキャピラリーを泳動され出る試料は、キャ
ピラリーの直下では、他のキャピラリーを泳動する試料
と接触せずに光学セル内を泳動し、最終的に陽極側電極
槽7に泳動される。試料の検出は蛍光セル4内のキャピ
ラリー端より500μm下流側の部分をレーザ光照射し
て蛍光を受光する。受光系は実施例1と同様の構成で行
う。本実施例では、基本的にシースフローの形成方法の
部分において実施例1と異なる。本実施例では、光学セ
ル内部の全体をシース液が層流状態で流れる。そのた
め、光学セル内部の位置によってシース液の流速が多少
異なり、また、試料の泳動する路が変化しやすいという
不安定性がある。しかし、感度、装置構成の簡便性等に
おいて実施例1とほぼ同様の効果が得られる。
【0026】〔実施例6〕実施例1記載の装置におい
て、下流側キャピラリーを複数の溝を有する平板とし
て、間隙部を形成することもできる。図6に複数の溝を
有する平板の斜視図を示す。図ではキャピラリー4本に
対応するように4つの溝を有する場合を図示した。蛍光
セルの内部の形状に一致する平板80の片面に4つの溝
81a、81b、81c、81dを形成させる。溝の形
状は分子量分離用のキャピラリーの大きさに対応させ、
例えば、幅300μm、深さ600μmとする。また、
溝と溝との間隔は1mmとする。なお、これらの間隔、
溝の形状は自由に変更しうる。図7に、上記平板を使っ
た電気泳動装置の電気泳動部の蛍光セル部分の断面図の
斜視図を示す。蛍光セル84は、セル内部が幅20m
m、奥行3mm、長さ40mmであり、(石英)ガラス
の板厚が2mmの上下端が開いているフローセル型のも
のを使用する。また図は蛍光セルの手前側のガラス部を
除いた状態を示す。この蛍光セル84内部に平板80を
密着させてはめ込み、溝81a、81b、81c、81
dと蛍光セルのガラスとで形成される4つの流路を形成
させる。また、内径100μm、外形200のキャピラ
リー(実施例1と同様にして内部にゲルを作製する)8
2a、82b、82c、82dをマルチキャピラリー保
持具83により蛍光セル84内部に固定する。キャピラ
リー同志の間隔は1mmとして溝と溝との間隔に一致さ
せ、また各々の溝の中央部にキャピラリーの軸がくるよ
うに調整する。これらはマルチキャピラリー保持具83
に設ける孔等の位置を調整することで対応できる。ま
た、キャピラリー82a、82b、82c、82dの蛍
光セル内部での端を揃え、各キャピラリー端と平板80
とが1mm程度離れるように調整して蛍光セル内部に固
定する。なお、蛍光セルの下部を陽極電極槽内の緩衝液
と接触させるようにすることで電気泳動を可能にする。
また、実施例4または実施例5と同様にチューブを介し
て電極槽と接続させることも可能である。蛍光セル84
には、その内部をシース液で満たすためのシース液注入
口85が設けられており、四ふっ化エチレン樹脂製チュ
ーブ86を介してシース液容器87内のシース液88が
注入できる構造とする。また、シース液容器87内のシ
ース液88の液面を陽極側電極槽内の緩衝液の液面より
高く配置することで、キャピラリー82a〜82dから
泳動されてくる試料をシース液に包んで蛍光セル84内
を流し、各々溝81a〜81dを通して陽極側電極槽に
導くことができる。電気泳動、レーザ光照射、蛍光検出
は、実施例1で説明したのと同様に行うことで、複数の
キャピラリーの各々で分離される試料を、同時に効率良
く検出することができる。本実施例では、下流側をキャ
ピラリーではなく、溝を形成した平板により構成した。
そのため、各々の溝の端面を容易に揃えることができ調
整が容易になる。また、平板を石英ガラスなどとすれ
ば、レーザ光が乱反射して平板にあたってもその部分か
ら蛍光が生じることが無く、蛍光測定が容易になる。
【0027】〔実施例7〕ゲル充填キャピラリーアレイ
を使ったDNAの塩基配列を決定する装置及び方法につ
いて説明する。実施例2と同様の方法により、DNAシ
ーケンシング用の試料(蛍光標識DNA断片)を調製す
る。1本の泳動路(ゲルキャピラリー)で4つの塩基種
を識別するために、A、C、G、T断片毎に異なる蛍光
体を標識したプライマーを使用する。A断片には、蛍光
極大波長が約550nmの蛍光体を標識したプライマー
(プライマーAと略記)を結合させた。同様にC、G、
T断片には、蛍光極大波長が各々約520、575、6
05nmの蛍光体を標識したプライマー(各々プライマ
ーC、プライマーG、プライマーTと略記)を結合させ
た。これらの断片群は最終的に単一容器にいれて混合
し、エタノール沈殿処理の後、脱イオン化ホルムアミド
(1/100量のトリス緩衝液を含む)に溶解させた。
ゲルキャピラリーへの注入前には、90℃で2分間加熱
して熱変性させて断片を1本鎖にし、その後すぐに氷冷
し、注入操作に使用した。なお、蛍光標識をプライマー
にではなく、ターミネータにして試料を調製してもよ
い。次に測定装置について説明する。図8はキャピラリ
ーアレイを構成するためのサブアレイの構成図をであ
り、図9は図8のサブアレイを複数個組み合わせた本実
施例のキャピラリーアレイの構成図をしめす。さらに、
図10はキャピラリーアレイを使ったDNA塩基配列決
定装置の構成図、図11は試料注入部の拡大断面図、図
12はDNA塩基配列決定装置の泳動電流計測・表示部
の構成図、図13は光学セル部近傍の構成を示すための
光学セル断面を含む説明図、図14は蛍光検出・色分離
部の原理構成図、図15は2次元検出器で得られる蛍光
像のイメージ図、図16は使用した蛍光標識プライマー
の蛍光特性と分光フィルタの透過特性図、図17は1本
のゲルキャピラリーを泳動する試料から発する蛍光信号
強度の時間波形の1例(生データ)、図18は解析して
得られたA、C、G、T断片毎の時間波形である。
【0028】内部にゲルを充填したキャピラリーを96
本用い、一端を1直線状に並べた並べたキャピラリーア
レイを作製した。96本を1つの保持具でアレイ状に組
立てると、組立が複雑になり、またキャピラリーの交換
が難しくなるため、キャピラリー8本単位のサブアレイ
を形成し、このサブアレイを12組並べて96本のキャ
ピラリーアレイを構成した。図8に示すように、長さが
わずか異なる8本のキャピラリー90を同一平面上に並
べ、キャピラリーの中心間の間隔が、一端が9mm間
隔、他端が0.5mm間隔になるようにキャピラリー保
持具91及び92でそれぞれ固定し、それらの端の位置
を揃える。9mm間隔に固定されたキャピラリー端90
aは試料注入側端であり、反対側の90bは光学検出側
端である。このサブアレイは図9のように12組組み合
わされ、キャピラリーアレイ107が構成される。12
個のキャピラリー保持具91は同一平面上に12列に並
べるようにエリア・アレイ保持具93で固定し、他端の
キャピラリー保持具92は12個が順番に1直線上に並
ぶようにリニア・アレイ保持具214で固定する。その
結果キャピラリー端90aは同一平面上に8本12列の
格子状に並び、90b側は96本のキャピラリー端が1
直線上に並ぶ。図9では1列目のサブアレイについての
みキャピラリー90をつなげて示した。2〜12列目の
サブアレイについては途中のキャピラリーは省略してあ
る。3〜11列目についてはサブアレイそのものを省略
したが、1列目、2列目、12列目のサブアレイの間に
順番に配置してある。使用したキャピラリーは内径0.
1mm、外径0.2mm、長さ約35cmのものを使用
し、実施例1と同様にその内部にアクリルアミドゲルを
充填して使用した。ゲル濃度は9%T((アクリルアミ
ド+ビスアクリルアミド)の全溶液量に対する比率)、
0%C(ビスアクリルアミドの(アクリルアミド+ビス
アクリルアミド)に対する比率)とした。本実施例のキ
ャピラリーアレイ107の使用により、96試料の同時
解析が可能になる。
【0029】図10は、DNA塩基配列決定装置の構成
図である。キャピラリーアレイ107は、格子状に並ん
だ端を96穴のウエルを有するマイクロプレート様の上
部個別電極槽104の緩衝液(または、試料液)に挿入
する。なお、図では、キャピラリーアレイ107と上部
個別電極槽104との接続状態は図示していないが、こ
れは図11において説明する。なお、図では、わかりや
すくするために、キャピラリーの本数を96本から20
本に少なくして表示した。直線状に並べたキャピラリー
アレイ107の他端は光学セル103の内部に固定され
る。光学セル103にはシース液容器105からシース
液(緩衝液)をチューブ122とバルブ121を介して
注入し、キャピラリーアレイ107の下部に配置した中
空のキャピラリーアレイ108内部を通って下部電極槽
106に排出される。キャピラリーアレイ107と中空
のキャピラリーアレイ108とは、それぞれの端を対向
させ、2mm離して固定されている。試料を励起するた
めの光源として、2種のレーザ装置を使用した。1つは
波長488nmのアルゴンレーザ装置101であり、も
う1つは波長532nmのYAGレーザ装置102であ
り、これらをミラー109とダイクロイックミラー11
0によりアルゴンレーザ光111とYAGレーザ光11
2を同軸にして、1本のレーザ光113となるようにし
て、光学セル103にレンズ(図示せず)で絞って照射
した。蛍光標識された試料から生じる蛍光は、集光レン
ズ114、4種の分光フィルタ115a〜d、像分割プ
リズム116、結像レンズ117により、2次元検出器
118に結像させ、各試料のDNA断片からの蛍光強度
の時間波形をデータ処理ユニット119で解析する構成
とした。
【0030】キャピラリーアレイ107への試料の注入
について、図11(試料注入部/上部電極槽の拡大断面
図)により説明する。図11は、12個の中の1個のキ
ャピラリー保持具91に保持されるキャピラリーを含む
面の断面図を示す。8穴×12列(合計96穴)の容器
様凹み104a、104b…を有する上部個別電極槽1
04を使用する。例えば、96穴のV底ウエルのマイク
ロプレートや96個のサンプリングチューブを8個×1
2列の格子状に9mm間隔に配置したものが使用でき
る。キャピラリーアレイ107の間隔は上部個別電極槽
104の形状に合致させる必要がある。また容器様凹み
104a、104b…を各々上部電極槽とするため、9
6本の白金電極120a、120b…を、容器様凹みに
対応したキャピラリーアレイ107端と同様に、電極保
持板120により、8本×12列の格子状に配置して固
定した。また、電極保持板120には、それぞれの白金
電極の近傍にはキャピラリーを通すための孔252a、
252b…が設けてある。試料240は凹み104a、
104b…の内部に入れる。上部個別電極槽104の上
部に電極保持板120をスペーサ250をはさんで重
ね、さらにエリア・アレイ保持具93をスペーサ251
をはさんで重ねる構造とする。個々のキャピラリー10
7a、107b…は電極保持板120の孔252a、2
52b…を貫いて試料液240に浸り、同様に個々のキ
ャピラリー別に白金電極120a、120b…も試料液
240に浸る。これらの電極と下部電極槽106内の電
極との間にほぼ同時に電圧を印加して試料240中のD
NA断片をキャピラリー内に注入する。電圧は、100
〜200V/cmの電界強度となるようにし、数秒〜1
0秒程度印加する。例えば5kVで10秒間印加する。
試料注入後は、上部個別電極槽104を取外し、代わり
に緩衝液の入った別の上部個別電極槽104をセット
し、100〜400V/cmの電界強度、例えば7kV
を印加して泳動を続けることで、分子量分離が行われ
る。この構成により、96試料を同時に注入し、次いで
96試料を同時に電気泳動できる。また、試料の注入
は、電極保持板120とエリア・アレイ保持具93つま
りキャピラリーアレイ107を重ねるだけで済み、従来
の平板ゲルの場合のようにピペッティングにより1試料
ずつ手操作で行う必要が無くなり、操作性を大幅に向上
させることができる。
【0031】なお、電界印加時には、図12に示すよう
に個々のキャピラリーを流れる電流値を個別に同時に連
続的に計測し、表示する機構を設けた。上部個別電極槽
104内の電極(120a、120b…)と下部電極槽
106内の白金電極209には泳動電源133により電
圧が印加される。電極120aと泳動電源133の間に
10kΩ程度の抵抗131と電圧計132を図12のよ
うに結線する。電流は電極209→バッファー液245
→キャピラリーアレイ108→光学セル部→キャピラリ
ーアレイ107の個々のキャピラリー107a→容器様
凹み104a内のバッファー液246→電極120a→
抵抗131→端子260とながれる。なお、キャピラリ
ー107aとキャピラリーアレイ108の間には光学セ
ル部等があるが図12では省略した。電圧計132の値
によりキャピラリーを流れる電流値を換算し、その電流
値を二値化手段により二値化して電流表示パネル140
に伝送する。端子261、262も、図12では省略し
たが、同様にそれぞれ電極120b、120cに接続
し、キャピラリー107b、107cをながれる電流値
を二値化して電流表示パネル140に伝送する。以下キ
ャピラリーアレイ107の全てのキャピラリーについて
も同様である。端子270は最後の96本目の端子であ
る。電流表示パネル140には8個×12列の表示ラン
プ140a、140b…が配置され、それぞれキャピラ
リー107a、107b…の電流値を表示する。なお、
抵抗131はキャピラリーゲルの抵抗値に比べて十分小
さい抵抗値のものを選ぶ。通常、100kΩ以下であれ
ば問題はない。また二値化のレベルは適当に調整できる
ようにする。通常泳動電流は、印加電圧、キャピラリー
長などにより異なるが、0.01mA程度である。ゲル
が破損したりすると電流が流れなくなったり、小さくな
ったりする。そこで、例えば0.003mA以下になっ
たときに表示ランプが点灯するようすると、ゲルの破損
などの異常をキャピラリー単位で認識することができ
る。その結果、異常のあるキャピラリーに対する測定結
果の解析を中止するなどの処置を施すことができる。ま
た、本例では、8本単位にキャピラリーをサブアレイ化
しており、破損したキャピラリーのあるユニットのみを
交換することができ、キャピラリーアレイを有効に使用
し続けることができる。このように操作性がよく経済的
な装置構成となる。
【0032】次に、光学セル部近傍の構造を図13によ
り説明する。光学セル103は、箱状の形状であり、筐
体201、アレイガイド202及び205、シース液注
入口203、光学窓204及び206などから構成され
る。なお、図13が記載される紙面の前面及び後面にも
筐体や光学窓があるが、図では省略した。また、筐体2
01、光学窓204及び206の部分は断面を示した。
光学セル103の上部は開放しており、この部分からリ
ニア・アレイ保持具214に固定されているキャピラリ
ーアレイ107を、アレイガイド202及び205に沿
って光学セル内に挿入し、固定する。光学セル103に
はシース液容器105からシース液(緩衝液)がチュー
ブ122とバルブ121を介して注入され、実施例1と
同様に、セル内でシースフローを形成し、キャピラリー
アレイ107の下部に配置した中空のキャピラリーアレ
イ108内部を通って下部電極槽106に排出される。
光学セル103は上部に開放しており、シース液容器の
シース液の液面230とセル内に流れ込んだシース液の
液面231は連動しており、この高さと下部電極槽10
6の液面の高さの差等によってシース液がセル内をフロ
ーすることになる。中空のキャピラリーアレイ108
は、実施例1と同様の内面処理をほどこした内径0.2
mm、外径0.35mm、長さ3cmのものを使用し、
リニア・アレイ保持具215によって、0.5mm間隔
に均等に並べ、光学セル103内部のキャピラリーアレ
イ107端と2mm離し、キャピラリーアレイ107と
108のそれぞれのキャピラリー同士の端が対向するよ
うに固定した。中空のキャピラリーアレイ108及びリ
ニア・アレイ保持具215は光学セル103に固定さ
れ、水漏れなどの無いようにシールされている。また光
学セル103と下部電極槽106は気密性よく密着さ
せ、その内部に溜る液は排出口210からバルブ21
1、チューブ212を介して廃液容器213に捨てられ
る。つまり排出口210の高さを超える液は排されるこ
とになり、下部電極槽106内の液面の高さは、ほぼ一
定となるため。そのため、シース液が流れ込んできても
落差はあまり変化せず、シースフローが安定に形成され
る。またバルブ211を閉じると、下部電極槽106内
がシース液で満ちるため、シース液の流れがとめること
ができ、シース液を有効に使用することができるように
なる。特に、測定を終了し、次の測定まで時間が空くと
きに、この機構は必要になる。本例では、液面230と
231がほぼ一致するが、例えば、液面231の液面セ
ンサを設け、液面の減少に応じてバルブ121を開閉す
る機構をもうけてもよい。この場合、シース液容器10
5を光学セルよりも高い位置に配置することができ、装
置構成が容易になる。
【0033】下部電極槽106には電圧印加用の白金電
極209、その端子台208が設けられておる。ゲルキ
ャピラリーを使う場合、白金電極209には(反対側の
電極に対して)正の電圧を印加する。例えば白金電極1
20aに0V、白金電極209に7kVというような印
加も可能だが、白金電極120aに−7kV、白金電極
209に0V(接地)という電圧印加が安全性を確保す
るため望ましい。これは、シース液全体が白金電極20
9の電圧とほぼ同電位になり、電極209が高電圧状態
になると、シース液容器内、光学セル内、廃液容器内の
シース液がすべて高電圧になり、漏水等による感電、漏
電、絶縁破壊の危険性が増すからである。電極209に
0V(接地)の場合は、試料側が負高電圧になるが、緩
衝液のフローなどは無いため、漏水などが無く、感電、
漏電を容易に防ぐことができるため、装置構成が容易に
できるようになる。また、光学セルの筐体201として
ステンレスなどの金属を使用することも容易になり、加
工性がよくなり、安価に光学セルを作製することかでき
る。なお、電極209は本例のように中空のキャピラリ
ーアレイ108の下部に配置したが、光学セル内または
シース液容器内に配置してもよく、同様の効果がある。
【0034】レーザ光113は光学窓204または20
6をとおって光学セル内に入射し、実施例1と同様にシ
ースフロー状態で泳動するDNA断片を励起し、蛍光を
生じさせる。蛍光発光点220は、図のようにキャピラ
リーのほぼ直下に点状に発生する。ことになる。これら
の像は紙面の垂直方向から光学窓(図示していない)を
通して検出する。なお、レーザ光113はレンズによ
り、絞って照射するが、焦点距離が約150mmのレン
ズを使用することで、キャピラリーアレイの幅(本例の
場合約50mm)全体に渡って均一に照射することがで
きる。また、レーザ光は同軸にしないで照射することも
可能であるが、同軸にした場合、2本のレーザ光が同一
個所を照射するので、それぞれのレーザで励起されるD
NA断片の泳動距離が一定にできるので泳動時間のずれ
がなくなり、解析精度が向上する。また、両方のレーザ
光波長に吸収のある蛍光体の場合、同軸にすると、励起
光強度が実質的に増大するので検出感度が向上する。な
お、1本のみのレーザでも測定は可能である。
【0035】蛍光像の検出について、図14により説明
する。蛍光発光点220から発する蛍光は、集光レンズ
114により集光し、像分割プリズム116により4つ
に分割し、結像レンズ117により、それぞれ結像(2
21a〜b)させる。この際、4種の分光フィルタ11
5a〜dを像分割プリズムの前面(または後面)に配置
することで、それぞれ分割された光が別々の波長成分と
なるようにできる。これは1つの蛍光発光点220につ
いて説明したが、すべての発光点についても同様であ
り、しかもこれら分割が同時に行われる。つまり、レー
ザ光走査や検出器の機械的走査をする場合のように時間
分割されることはなく、蛍光強度の測定間隔が長くなる
ことはなく高速に計測できる。リアルタイムで連続的に
計測することも可能である。また、像分割プリズムの前
に集光レンズを配置することで蛍光の集光効率が向上
し、検出感度の向上が図れる。また集光レンズの代わり
に円筒レンズを使うことも可能である。この場合、1方
向のみの光を集光するので通常の凸レンズを使う場合に
比べて効率は約半分になるが、使わない場合に比べ大幅
に検出感度を向上できる。また像分割プリズムを使う場
合、蛍光発光位置がずれると分割される像の強度の比率
が大きく変動する。平板ゲルを使う場合は、ゲルの発熱
などにより、ゲルに入射したレーザ光が曲がって蛍光発
光位置がずれ、測定精度が低下しやすいという問題があ
るが、本実施例の場合、レーザ光は水溶液中を通るので
レーザ光は曲がることなく一定位置を照射するので従来
に比べ測定精度が向上する。
【0036】また、光学セル内では、キャピラリーが密
に配置されるので、96泳動レーンという多数の場合で
も、その配置の両端の間隔は5cm程度以下となる。そ
のため、像分割プリズムの前に集光レンズや円筒レンズ
などの集光素子を使用することができ、蛍光をより高感
度に検出できる。従来の平板ゲルの場合には、24泳動
レーンでも、その両端の泳動レーンの間隔は30cm程
度であり、像分割プリズムの前に集光レンズを置く場
合、直径30cmのレンズが必要になるなどの理由で現
実的に困難である。本実施例では、キャピラリーアレイ
の幅が約50mmに対して、2次元検出器の受光素子の
幅が約27mmのものを使用した。全体としての像倍率
は約1/2であり、平板ゲル方式の場合は1/10程度
になるのに比べて集光効率がよい。さらに、キャピラリ
ーアレイを20から30本程度と少ない場合は、等倍の
拡大率になり、集光効率が向上し、より高感度化する。
集光効率の低下を防ぐため、キャピラリーアレイでのキ
ャピラリー同士の間隔はキャピラリー径の10倍程度以
下とするのが望ましい。図15は実際に得られる2次元
検出器上での蛍光像のイメージ図であり、20本のキャ
ピラリーアレイの場合である。図の横方向は、キャピラ
リーアレイ(配列)方向であり、縦方向は(色)分割方
向である。96本の場合も同様に、横に96個、縦に4
個の蛍光像が得られる。このようにキャピラリーアレイ
を泳動するすべての試料を、同時に、各々4(色)分割
して計測できる。そこで4種の分光フィルタ115a〜
dをプライマーA、プライマーC、プライマーG、プラ
イマーTの蛍光を透過するように調整することにより、
プライマーA、プライマーC、プライマーG、プライマ
ーTを識別して計測できる。図16は蛍光標識プライマ
ーの蛍光特性と分光フィルタの透過特性図であり、この
ようにそれぞれの蛍光標識プライマーの蛍光極大波長付
近に最大透過率を有する分光フィルタ(但し、励起レー
ザ光の波長を透過しないようにする)を使用し、計測を
行う。
【0037】図17はキャピラリーアレイのうちの1本
のゲルキャピラリーを泳動する試料から発する蛍光信号
強度の時間波形の実測値である。上から分光フィルタ1
15a、b、c、dを透過した蛍光強度の時間波形であ
る。このように1試料/1キャピラリーから4種の蛍光
情報を同時に得ることができる。ただし、図16からわ
かるように、蛍光標識プライマーの蛍光はブロードであ
り、4種の蛍光標識プライマーの蛍光が重なり合ってい
る。そのため、図17の波形は、単一の蛍光標識プライ
マーの信号ではなく複数の蛍光標識プライマーの蛍光の
和として観測されている。例えば、IaはプライマーT
の蛍光に、プライマーG、プライマーA、プライマーC
の蛍光成分が混ざったものである。Ib、Ic、Idに
ついても同様である。蛍光標識プライマーの蛍光特性と
分光フィルタの透過特性と検出器の感度特性を基にこれ
らの影響を補正すると、図18のように上からプライマ
ーT、プライマーG、プライマーA、プライマーC単独
の蛍光強度の時間波形が得られる。これはそれぞれT、
G、A、C断片の泳動スペクトルとなり、この波形から
通常の方法により、DNAの塩基配列が決定できる。本
実施例では、塩基配列決定を96試料同時に行うことが
でき、高スループット化達成できる。具体的には、泳動
速度が200塩基/時間程度であり、全体としてスルー
プットは、20k塩基/時間と平板ゲルを使用する従来
法に比較して10倍以上の高スループット化が達成でき
る。また本実施例についても実施例1に関し記載した同
様の効果がある。また、上記光学セルを実施例1または
実施例4〜6に記載の構造の光学セルとしても上記とほ
ぼ同様にDNAの塩基配列決定のための計測をすること
ができ、また実施例1または実施例4〜6に関し記載し
た同様の効果がある。また本実施例では4分割プリズム
を使用したが、2分割プリズムを使用し、特開平5−1
18991号公報に記載の方法に従って塩基種を識別す
ることにより、DNAの塩基配列が決定できる。なお、
本実施例では、実施例1と同様にキャピラリーアレイの
キャピラリーはその内面をシランカップリング処理し、
ゲルをキャピラリー内壁に化学的に結合させた。この処
理はキャピラリー内壁全面に行なう必要はなく、一部、
つまり光学セル側の端近傍のみでもよい。これによって
光学セル内部のシース液へのゲルのはみ出しを同様に防
ぐことができ、かつ処理が簡単になり、しかもゲルが安
定に調製できる。またゲルには界面活性剤等を添加して
もよい。これらのことは、先に説明した実施例1〜6に
ついても同様に適用できる。
【0038】
【発明の効果】本発明によれば、光学測定をキャピラリ
ーゲル等の試料分離部の外で行うことにより、背景光等
の影響の少ない高感度な蛍光または光吸収計測が可能な
電気泳動装置が実現できる。また、複数の試料を同時に
泳動し、同時に計測することのできる簡便な電気泳動装
置が実現できる。また、操作性・安全性が高く高スルー
プットでDNAの塩基配列決定が可能な装置が実現でき
る。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施例の電気泳動装置の電気泳
動部及びレーザ光照射系の構成図。
【図2】本発明の第1の実施例の電気泳動装置の蛍光検
出系の構成図。
【図3】本発明の第3の実施例の電気泳動装置の光照射
系・検出系の部分の構成図。
【図4】本発明の第4の実施例の電気泳動装置の間隙部
付近の構成図。
【図5】本発明の第5の実施例の電気泳動装置の電気泳
動部の構成図。
【図6】本発明の第6の実施例の複数の溝を有する平板
の斜視図。
【図7】本発明の第6の実施例の電気泳動装置の電気泳
動部の蛍光セル部分を示す図。
【図8】本発明の第7の実施例で使用するキャピラリー
のサブアレイの構成図。
【図9】本発明の第7の実施例で使用するキャピラリー
アレイの構成図。
【図10】本発明の第7の実施例の電気泳動装置の構成
図。
【図11】本発明の第7の実施例における試料注入部/
上部電極槽の拡大断面図。
【図12】本発明の第7の実施例の電気泳動装置におけ
る泳動電流計測・表示部の構成図。
【図13】本発明の第7の実施例の電気泳動装置におけ
る光学セル部の近傍の構成を示す一部断面を含む説明
図。
【図14】本発明の第7の実施例の電気泳動装置におけ
る蛍光検出・色分離部の原理構成図。
【図15】本発明の第7の実施例の電気泳動装置におけ
る2次元検出器で得られる蛍光像のイメージ図。
【図16】本発明の第7の実施例で使用した蛍光標識プ
ライマーの蛍光特性と分光フィルタの透過特性図。
【図17】本発明の第7の実施例による1本のゲルキャ
ピラリーを泳動する試料から発する蛍光信号強度の時間
波形の測定データの一例を示す図。
【図18】図17のデータを解析して得られたA、C、
G、T断片に対する時間波形。
【図19】従来例のキャピラリー電気泳動装置の蛍光測
定部の構成図。
【図20】従来例のキャピラリー電気泳動装置のシース
フローキュベットを使用した蛍光測定部の構成図。
【符号の説明】
1a、1b、1c、1d〜、1t…キャピラリー、2
a、2b、2c、2d〜、2t…キャピラリー、4…蛍
光セル、3a、3b、3c、3d〜、3t…間隙部、5
a及び5b…マルチキャピラリー保持具、6…陰極側電
極槽、7…陽極側電極槽、8…シース液注入口、9…四
ふっ化エチレン樹脂製のチューブ、10…シース液容
器、11…シース液、12…直流高電圧電源、20…ア
ルゴンレーザ光源、21…レーザ光、22…レンズ、3
0…蛍光、32…干渉フィルタ、33…レンズ、34…
二次元検出器、35…コントローラ、36…データ処理
装置、37…モニタ、38…プリンタ、39…メモリ、
50…光源、51…モノクロメータ、52…レンズ、5
3…レンズ、54…一次元センサ、55…一次元センサ
用のコントローラ、56…データ処理装置、57…モニ
タ、58…プリンタ、59…メモリ、60…蛍光セル、
61a〜61t…細孔、62…平板、63…液溜め、6
4…チューブ、65…電極槽、70…シール板、71…
チューブ、80…平板、81a、81b、81c、81
d…溝、84…蛍光セル、82a、82b、82c、8
2d…キャピラリー、83…マルチキャピラリー保持
具、85…シース液注入口、86…チューブ、87…シ
ース液容器、88…シース液、90…キャピラリー、9
0a、90b…キャピラリー端、91、92…キャピラ
リー保持具、93…エリア・アレイ保持具、107…キ
ャピラリーアレイ、214…リニア・アレイ保持具、1
01…アルゴンレーザ装置、102…YAGレーザ装
置、103…光学セル、104…上部個別電極槽、10
4a、104b〜…容器様凹み、105…シース液容
器、106…下部電極槽、107…キャピラリーアレ
イ、107a、107b〜…キャピラリー、108…中
空のキャピラリーアレイ、109…ミラー、110…ダ
イクロイックミラー、111…アルゴンレーザ光、11
2…YAGレーザ光、113…レーザ光、114…集光
レンズ、115a〜d…分光フィルタ、116…像分割
プリズム、117…結像レンズ、118…2次元検出
器、119…データ処理ユニット、120…電極保持
板、120a、120b…白金電極、121…バルブ、
122…チューブ、131…抵抗、132…電圧計、1
33…泳動電源、140…電流表示パネル、140a、
140b〜…表示ランプ、201…筐体、202、20
5…アレイガイド、203…シース液注入口、204、
206…光学窓、208…端子台、209…白金電極、
210…排出口、211…バルブ、212…チューブ、
213…廃液容器、214…リニア・アレイ保持具、2
15…リニア・アレイ保持具、220…蛍光発光点、2
21a〜221d…結像、230…シース液容器のシー
ス液の液面、231…セル内に流れ込んだシース液の液
面、240…試料、245、246…バッファー液、2
50、251…スペーサ、252、253…孔、26
0、261、262、270…端子。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) G01N 27/447 G01N 21/64 JICSTファイル(JOIS) WPI(DIALOG)

Claims (5)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】蛍光標識された試料が泳動する泳動媒体を
    含む複数のキャピラリーと、該複数のキャピラリーのそ
    れぞれの端が内部にほぼ直線上に配置されるセルと、前
    記それぞれの端部の近傍にシースフローを形成するため
    前記セルに流入させ緩衝液を保持する第1の容器
    と、前記セルから流出した前記緩衝液を保持する第2の
    容器と、前記シースフローの中で前記試料に光を照射す
    る光照射手段と、前記光の照射により生じる前記試料か
    ら発する蛍光を検出する光検出手段とを有し、前記セル
    内の液面を前記第2の容器の液面より高く保持して、落
    差を利用して前記緩衝液を流して前記シースフローを形
    成することを特徴とする電気泳動装置。
  2. 【請求項2】請求項1に記載の電気泳動装置において、
    前記セル内の液面の高さをほぼ一定に保持することを特
    徴とする電気泳動装置。
  3. 【請求項3】請求項1に記載の電気泳動装置において、
    前記第2の容器の液面の高さをほぼ一定に保持すること
    を特徴とする電気泳動装置。
  4. 【請求項4】請求項1に記載の電気泳動装置において、
    隣り合う前記複数のキャピラリーの端部の間隔が前記キ
    ャピラリーの径サイズの10倍以下であることを特徴と
    する電気泳動装置。
  5. 【請求項5】請求項1に記載の電気泳動装置において、
    前記複数のキャピラリーを複数の群に分けた各群をそれ
    ぞれ保持するキャピラリー保持手段を有し、該キャピラ
    リー保持手段に保持される各キャピラリーのそれぞれの
    長さが異なることを特徴とする電気泳動装置。
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