JP2935735B2 - 培養状態の診断方法 - Google Patents

培養状態の診断方法

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Description

【発明の詳細な説明】 【産業上の利用分野】
本発明は、培養運転が正常に進行しているかどうかを
診断する方法に関する。更に詳しくは、培養液中に異種
菌の混入がなく有用物質の生産菌のみで培養が進行して
いるかをオンラインで定量的に診断する方法に関する。
【従来の技術】
酵素の生産を代表とした微生物による有用物質の発酵
生産においては、培養運転中、正常な培養が進行してい
るかどうかを把握することは非常に重要である。従来、
この培養状態を診断する方法としては、培養槽のpH、温
度、溶存酸素濃度、溶存二酸化炭素濃度、二酸化炭素発
生量、消泡剤量等の挙動が正常培養の標準パターンとど
の程度異なっているかを、熟練したオペレーターが経験
をもとに検討し各種要因の挙動から総合的に診断するこ
とが一般に行われている。また必要に応じて、培養槽か
ら培養液をサンプリングして、濁度測定を始めとした測
定による菌体濃度、あるいは顕微鏡観察による目視検
査、等の結果から培養状態を診断することも行われてい
る。また特開平2−171177号公報には、n元のプロセス
状態量を演算処理することによるプロセス異常監視装置
が開示されている。
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来の培養状態の診断方法には、当該
培養操作を熟知していないオペレーターは正確な診断を
することが困難であること、異常培養の診断基準がオペ
レーター間で異なるため統一的な診断をすることが困難
であること、等の問題があった。また微生物による有用
物質の発酵生産においては、一般に培養時間が約10〜80
時間と長いため、長時間にわたって培養に関する各種因
子の挙動を監視して異常培養を早期に診断することは、
多大の労力が必要であった。 一方、特開平2−171177号公報で開示されているプロ
セス異常監視装置による異常監視は、n元の状態量の標
準値から作成される図形と検出値に基づく図形の歪の程
度を診断する手法であるが、培養状態を時系列的に把握
することが困難であること、および図形の歪の程度から
客観的に異常診断することが困難であること等の問題が
ある。 かかる状況において、本発明は培養運転から得られる
各種要因の測定値をコンピュータで解析計算することに
より、オンラインで迅速かつ継続的に培養状態の診断を
行うことを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、異常培養においては培養運転で得られ
る各種測定値の挙動が正常培養の場合と異なった挙動を
示すため、これら測定値を正常培養の場合の標準値と比
較し、その偏位度から培養状態をオンラインで診断でき
ることを見い出し、本発明を完成するに至った。 すなわち本発明は、培養状態の監視に際し、以下の工
程から構成される培養状態の診断方法を提供するもので
ある。 a.培養液の温度、pH、溶存酸素濃度、溶存二酸化炭素濃
度、菌体濃度、培養槽の排気中の二酸化炭素濃度または
酸素濃度、および培養槽内に添加された消泡剤量、のう
ち少なくとも2種類以上の項目を検出する工程 b.得られた検出値と、検出された項目の一つが二酸化炭
素濃度である場合は計算で求められる発生二酸化炭素の
積算量、の中から選択された2種類以上の各項目の標準
値からの相対偏位量およびその総和X値を計算する工程 c.相対変位量の総和X値と異常培養の基準値であるしき
い値とを比較する工程。 以下に本発明を詳細に説明する。 培養工程の状態を把握するために計器から得られるプ
ロセスデータとしては、培養液の温度、pH、溶存酸素濃
度、溶存二酸化炭素濃度、菌体濃度、排ガス中の二酸化
炭素濃度または酸素濃度、培養槽に添加された消泡剤量
等がある。コンピュータによる計算から二次情報として
二酸化炭素の積算量も得られる。 一方、培養過程において異種菌の増殖による異常培養
が進行してくると、一般にこれらの測定値が異種菌が存
在しない正常培養の場合と比較して変化してくる。その
変化の内容は異種菌の種類によって異なるが異種菌の増
殖により、例えばpHの低下、溶存酸素濃度の低下、二酸
化炭素発生量の増大、消泡剤添加量の増大、等が見られ
ることが多い。 正常値から変化する項目は異種菌の種類によって異な
るが、いずれにしても異種菌が存在するとこれらの測定
値のうち少なくとも2項目以上が正常値から変化してく
る場合が多い。 正常培養においては、各測定値の経過は一定パターン
を示す。従って、各測定項目の標準値を時系列的に標準
値としてデータベースに記憶するか、あるいは培養時間
を変数とした関数としてもたすことにより、コンピュー
タに入力される刻々と変化する測定値と標準値の比較が
可能となる。 測定値と標準値の比較においては異種菌の存在によ
り、通常上記項目のなかで2項目以上に変化がみられる
こと、および1項目で比較する場合には測定計器の異常
または測定誤差のため正確な測定値が得られないことが
ある、等の理由から、本発明では少なくとも2種類以上
の項目について測定値と標準値を比較する。言うまでも
なく、測定値と標準値を比較する項目は多いほど異常培
養の判定精度は向上するが、培養槽に装着する計器類が
増えるほど装着計器に起因する異種菌の発生の頻度も増
大するため、比較項目数は培養系の異種菌の発生頻度状
況により決定される。 本発明による培養状態の診断は、複数個の測定項目各
々の測定値と標準値の偏位度の総和X値を求め、異常培
養の基準値であるしきい値を越えたかどうかで行う。例
えば培養温度、pH、溶存酸素濃度の3項目で診断を行う
場合のX値の基本式は(1)式で表わされる。 Xt:時間tにおけるX値 PVT:温度の現在値 SVT:温度の標準値 PVp:pHの現在値 SVp:pHの標準値 PVo:溶存酸素濃度の現在値 SVo:溶存酸素濃度の標準値 A、B、C:重み係数 PVT−SVT:温度の偏位 PVp−SVp:pHの偏位 PVo−SVo:溶存酸素濃度の偏位 しかしながら実際の培養における異種菌による標準値
からの偏位は、測定項目によって、+値と−値をとるこ
とがあり、この場合には単純に加算されたX値では培養
状態の異常を表わすことは出来ない。そのために異常培
養による測定値の標準値からの偏位が+値になるように
以下の処理を行う。 1)異種菌による異常培養に基づく偏位が+値の場合は
そのまま計算。 2)異種菌による異常培養に基づく偏位が−値の場合
は、絶対値に換算する。 3)異種菌でない要因に基づく偏位は0とする(異常値
の内、何が異種菌によるものでないかは当業者に認識さ
れている)。 これら1)〜3)の処理は、それぞれの培養系の特性
から経験的に決定される。たとえば異種菌の増殖による
偏位度の挙動から以下のように各項目について上記基本
式(1)を修正してX値を計算する。 異種菌の増殖により 温度の上昇がある場合は偏位が+値のときは1)、−
値のときは3) pHの低下がある場合は偏位が+値のときは3)、−値
のときは2) 溶存酸素濃度の低下がある場合は+値のときは3)、
−値のときは2) また、A、B、Cの重み係数を適切に設定することに
より、異種菌による各項目の挙動のうち特定項目を強調
して培養状態を判定することも可能である。 以上の処理により異種菌の増殖に起因する各種測定項
目の、正常培養からの偏位度をX値として定量化でき
る。次にこのX値と異常培養を示すX値のしきい値XA
とを比較して異常培養かどうかを診断するが、XA値は培
養運転において一定値を設定してもよく、また培養時間
の関数としてもたしてもよい。 さらにXA値は異常傾向を示す第1のしきい値と、異常
培養を示す第2のしきい値を設定して異常培養の診断を
2段階に行うこともできる。 一方、各種測定項目の現在値と標準値の偏位度の総和
X値をもとめる本手法によれば、種培養液の植菌量不
足、種培養液中の菌数の不足、基質成分の添加量不足、
等による菌体増殖不良による培養状態の診断も可能であ
る。この場合は、菌体増殖不良に基づく偏位度が+値に
なり、それ以外の要因による偏位度(例えば異種菌の増
殖等による偏位度)が0になるように、(1)式を修正
して用いればよい。
【発明の効果】
本発明によれば、培養運転の過程において異種菌の増
殖がなく有用物質を生産する正常菌による培養が進行し
ているかどうかの培養状態の診断を、オンラインで定量
的に行うことが可能となる。また培養操作で得られる複
数の測定項目の現在値を各々の測定項目の標準値と比較
し定量化して培養状態を診断するため、オペレーターの
経験的な知見による診断の個人差を生ずることなく、診
断基準を標準化出来る。 また培養運転に関する測定値を常時検討しなくても、
あるいは培養液をサンプリングして液の状態観察・分析
等を行わなくても、培養状態の診断が可能であるため培
養監視の労力が大幅に低減出来る。さらにオンラインで
培養状態の診断が行えるため、異常培養に対して早期に
運転対応をとることが可能となる。
【実施例】
第1図に示す培養装置を用いてセルラーゼ生産菌の培
養を行い、本発明からなる診断法により培養状態の診断
を行った。 ○菌体:バチルスエスピーKSM−635(微工研条寄第1485
号) ○培地:肉エキス(OXOID社)1.5%、酵母エキス(DIFC
O社)0.5%、KH2PO4 0.1%、NaCl 1%、シュクロース1
%、Na2CO3 0.2%(組成は重量%)。 ○培養条件:2.6培養槽に培地を1.3仕込み、24時間
振盪した種培養液30mlを添加した。温度33℃、給気流量
0.52Nl/分、撹拌速度700rpmの一定値で30時間培養し
た。培養液の発泡に応じて消泡剤タンク内のアンチフロ
スF233(第一工業社製)を自動添加した。 ○コンピュータの作用フロー:第2図を参照しながら、
要因としてpH、積算CO2量および消泡剤使用量を用いた
場合について以下に説明する。 S1:第3図〜第5図に示すように標準曲線を決定した
後、その曲線を培養時間の3次関数として表現し、プロ
グラム中に登録する。 S2:判定に用いる第1のしきい値(Zと呼ぶ)と第2の
しきい値(ZZと呼ぶ)を培養時間の3次関数として表現
し、プログラム中に登録する。 S3:pH・排ガス中のCO2濃度・通気量・消泡剤使用量の各
測定器からのデータ読み取り間隔(TINT)入力。 S4:培養を始めてから終了するまでの時間(TEND)をキ
ー・インする。 S5:培養が始まると同時に判定プログラムをスタートさ
せる。 S6:コンピュータのタイマー、pH・積算CO2量・消泡剤使
用量に対応するメモリを初期化する。 S7:タイマーに格納される培養開始からの経過時間(t
と略記)がTINTの整数倍であるかどうか(データ読み取
り時間かどうか)を判断し、そうであればS8に進む。 S8:インターフェイスにデータを送信するコマンド信号
を送る。 S9:S8の信号を受信したインターフェイスは、S3の各測
定器からの電気信号をデジタル信号に変換しコンピュー
タへ送信する。 S10:コンピュータはS9で受信したデータを基に次式によ
りCO2発生速度(CPR)を計算する。 ここに [O2IN:給気中のO2濃度[%]。 大気中の値(=20.99%)に等しい。 [O2OUT:排気中のO2濃度[%]。 排ガス分析計からの出力値。 [CO2IN:給気中のCO2濃度[%]。 大気中の値(=0.03%)に等しい。 [CO2OUT:排気中のCO2濃度[%]。 排ガス分析計からの出力値。 F:給気の流量[Nl/hr]。 流量計からの出力値。 S11:S10で求めたCPRより1ステップ前からの積算CO2
像分Δ∫CO2を次式により計算し、それを加算して現在
の積算CO2量とする。 S12:S1で登録した標準値の式にtの値を代入して現在の
標準値を計算する。 S13:S9で受信した現在のpH、消泡剤量の値およびS11で
計算した現在の積算CO2の値とS12で計算した現在の標準
値より各々の因子について相対偏位量を計算する。 S14:S13で計算した相対偏位量よりX値を計算する。 S15:S14で計算したX値とS2で登録したZとを比較しX
がZより大きければS17に進み、そうでなければS16に進
む。 S16:「正常」な培養状態であると判定する。 S17:S14で計算したX値とS2で登録したZZとを比較しX
がZZより大きければS19に進み、そうでなければS18に進
む。 S18:「異常」な培養状態の傾向があると判定する。 S19:「異常」な培養状態であると判定する。 S20:tとS4で入力したTENDとを比較し、tがTENDより大
きければ終了し、そうでなければS7に戻る。 上記の条件で数回の培養を行った中で、正常培養と異
常培養と診断された例をもとに、本発明からなる診断法
を以下に説明する。 第3〜5図は、それぞれpH、積算CO2、消泡剤使用量
について、測定データ(正常および異常培養)と標準値
の経時変化を示したものである。第3〜5図記載のデー
タおよび標準値をよりX値を計算した結果を第6図に示
す。第1および第2しきい値は経験的に第6図記載の通
り設定した。 第6図から明らかなように、正常培養のX値は培養中
第1しきい値を越えることはなく「正常」と診断され
た。一方、異常培養は培養開始後2時間で第1しきい値
を越え「異常傾向」の診断が下された。さらに、培養開
始後12時間で第2しきい値を越え「異常」の診断が下さ
れた。 正常培養および異常培養と判定された培養液をそれぞ
れ顕微鏡で観察したところ、前者からは培養した菌体の
みが検出され、後者からは培養した菌体と明らかに形状
の異る菌体が検出された。これより本診断法の正当性が
確認された。
【図面の簡単な説明】
第1図は本発明からなる診断法を実施するにあたっての
装置構成図、第2図は第1図記載の装置を用いて診断を
実施するにあたっての診断手順を示すフローチャート、
第3図は実施例に記載の条件で培養を行った場合のpHの
経時変化を示すグラフ、第4図は実施例に記載の条件で
培養を行った場合の積算CO2の経時変化を示すグラフ、
第5図は実施例に記載の条件で培養を行った場合の消泡
剤使用量の経時変化を示すグラフ、第6図は第3〜5図
記載のデータおよび標準値から計算したX値の経時変化
を示すグラフである。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (56)参考文献 特開 平2−171177(JP,A) 特開 平2−167065(JP,A) 特開 昭60−203180(JP,A) 特開 昭49−50989(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.6,DB名) C12M 1/00 - 3/10

Claims (3)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】培養状態の監視に際し、以下の工程から構
    成されることを特徴とする培養状態の診断方法。 a.培養液の温度、pH、溶存酸素濃度、溶存二酸化炭素濃
    度、菌体濃度、培養槽の排気中の二酸化炭素濃度または
    酸素濃度、および培養槽内に添加された消泡剤量、のう
    ち少なくとも2種類以上の項目を検出する工程 b.得られた検出値と、検出された項目の一つが二酸化炭
    素濃度である場合は計算で求められる発生二酸化炭素の
    積算量、の中から選択された2種類以上の各項目の標準
    値からの相対偏位量およびその総和X値を計算する工程 c.相対偏位量の総和X値が、異常培養の基準値であるし
    きい値を超えたときに異常培養と判定する工程。
  2. 【請求項2】相対偏位量の総和X値が、第一のしきい値
    を超えたときに異常傾向と判定し、第二のしきい値を超
    えたときに異常培養と判定する請求項(1)記載の培養
    状態の診断方法。
  3. 【請求項3】測定対象項目の標準値およびしきい値を培
    養時間の関数として適用する請求項(1)または(2)
    に記載の培養状態の診断方法。
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