JP2933234B2 - バテライト型炭酸カルシウムの安定化方法 - Google Patents

バテライト型炭酸カルシウムの安定化方法

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Description

【発明の詳細な説明】 〔産業上の利用分野〕 本発明はバテライト型炭酸カルシウムの安定化方法に
関し、更に詳しくは、高温安定性、経時安定性が良好
で、且つ化粧料、紙、印刷インキ、塗料用の顔料、ゴ
ム、プラスチック、等の填料、歯磨用研磨材等の多用途
に有用な、バテライト型炭酸カルシウムの安定化方法に
関する。
〔従来技術と問題点〕
炭酸カルシウムはその原料となる石灰石が日本国内で
豊富に産出するため安価なこと、白色度が高いこと、無
毒であること、各種粒度の物が容易に得られることなど
から、ゴム、プラスチック用の充填剤、塗料、インク用
の本質顔料、紙すきこみ用の填料、紙コート用顔料、医
薬、化粧品、食品、農業用などの添加剤として多方面の
分野に利用されている。
この炭酸カルシウムは一般に石灰石を機械的に粉砕
し、該粉砕物を分級することにより、各種グレードに類
別し調製される重質炭酸カルシウムと、石灰石を高温で
焼成して得られる生石灰と水を反応させて石灰乳を調製
後、石灰乳中に石灰石焼成時発生する炭酸ガスを導通さ
せ炭酸カルシウムを合成する炭酸ガス化合プロセス、石
灰乳に炭酸ソーダを反応させる石灰ソーダプロセス、塩
化カルシウムに炭酸ソーダを反応させるソーダプロセス
等の化学的方法により調製される沈降製炭酸カルシウム
(合成炭酸カルシウム)の2種に大別される。
炭酸カルシウムは、結晶構造上六方晶系のカルサイト
型結晶、斜方晶系のアラゴナイト結晶、及び擬六方晶系
のバテライト型結晶の三種の同質異像がよく知られてい
る。その内カルサイト型炭酸カルシウムが最も安定であ
り、次にアラゴナイト型炭酸カルシウムが準安定結晶型
であるとされている。
これに対しバテライト型炭酸カルシウムは、非常に不
安定な結晶であり、加熱、摩砕などの物理的処理により
カルサイト型やアラゴナイト型に転位しやすく、常温の
水中においても長期間放置することにより、容易にカル
サイト型炭酸カルシウムに転位すると言われている。従
って、自然界に存在し、産出する炭酸カルシウムはほと
んどがカルサイト型であり、炭酸カルシウムの原料とな
る石灰石、チョークはカルサイト型合である。アラゴナ
イト型炭酸カルシウムとしては、わずかに真珠、珊瑚等
が例示できるのみである。バテライト型炭酸カルシウム
は天然界では存在が知られておらず、化学合成によって
のみ、その存在を知られているにすぎない。
以上のような理由により、前述したような各種工業用
用途に利用される炭酸カルシウムは、その大半がカルサ
イト型炭酸カルシウムであり、製紙コーティング用顔料
としてわずかにアラゴナイト型炭酸カルシウムが使用さ
れているが現状である。しかし乍ら、前述したカルサイ
ト型炭酸カルシウムの内、重質炭酸カルシウムはその製
法上の理由から、粒度分布がブロードであり、且つ一定
以上の微細度を有する炭酸カルシウムは現在の粉砕分級
技術では製造できないという欠点を有している。
また、沈降製炭酸カルシウムの内カルサイト型炭酸カ
ルシウムは、通常一次粒子が凝集又は集合し二次粒子
(一次粒子の凝集体粒子)を形成しやすい性質を有して
いるため、湿式粉砕機等による湿式粉砕等の後加工を行
わない条件で、まったく二次粒子を含有しない沈降製炭
酸カルシウムを製造することは、従来の炭酸化技術では
不可能であるという欠点を有している。更に沈降製炭酸
カルシウムの内アラゴナイト型炭酸カルシウムは、通常
柱状あるいは針状形態を有する粒子形をしており方向性
を有しているため、その使用用途は制限され、特殊用途
以外には使用できないという欠点を有している。
これに対して、バテライト型の炭酸カルシウムの場合
は、その形態的な特徴からして、他の2結晶型と比べて
比較的分散性が良好であり、大きな粗大凝集体を含有し
ないとされているため、紙、塗料、あるいはゴム、プラ
スチック用の顔料、填料として用いた場合、塗工性の改
善、充填性の向上等の効果が期待でき、ひいては製品の
物理強度、光沢性、白色度、あるいは印刷特性の向上に
つながると考えられる。
以上の観点から、従来よりバテライト型炭酸カルシウ
ムを工業的に製造するための方法が種々検討されてお
り、かかる方法として、例えば マグネシウム化合物を含む水酸化カルシウム懸濁液に
炭酸ガスを導入し、ある一定の炭酸化率に達した時点で
縮合リン酸あるいはそのアルカリ金属塩を添加すること
によって、球状炭酸カルシウムを得る方法(特開昭60−
90822)、 塩化カルシウム等の水溶性カルシウム塩と炭酸塩をア
ルカリ水溶液中で複分解反応を起こさせる方法(特公昭
45−32532、特開昭55−95617、特公昭57−60294)、 カルシウム塩中にアンモニア等のアルカリ共存下で炭
酸ガスを吹き込む方法(特公昭43−25148、特公昭48−3
5159、特開昭54−150397)、 炭酸ガスに対して一定割合以上の亜硫酸ガスを含んだ
混合ガスを一定温度以下で石灰乳と反応させる方法(特
公昭54−17719)、 カルシウムイオンを含む溶液と炭酸イオンを含む溶液
とを混合し、該混合液に反応初期段階から物理的衝撃を
与える方法(特開平1−108117)、 等が提案されている。
しかし乍ら、上記公知の方法で得られるバテライト型
炭酸カルシウムは、共に、前述したような高温条件下、
長期貯蔵条件下において非常に不安定であるため、バテ
ライト型炭酸カルシウムを高い含有量で調製するために
は、該公知の方法における炭酸化反応終了後、バテライ
ト型炭酸カルシウムを早急に溶媒と分離する必要があ
り、またアセトン等の溶剤を用いた洗浄による水分の強
制除去、あるいは低温で嵌装しなければならない等の、
不経済な制限、制約があった。
更にはこれら公知の方法で炭酸化調製されたバテライ
ト型炭酸カルシウムを前述のような方法で粉末化し、高
純度のバテライト型炭酸カルシウム粉末を調製し得たと
しても、該バテライト型炭酸カルシウム粉末を各種工業
用製品の顔料、填料等に使用した場合、工業製品の製造
工程中の過酷な環境変化、あるいは工業製品の長期在庫
期間中に、該バテライト型炭酸カルシウムがカルサイト
型炭酸カルシウムやアラゴナイト型炭酸カルシウムに変
質転位してしまい、バテライト型炭酸カルシウム本来を
良好な分散性等の機能が消滅し、これを使用して調製さ
れた工業製品自体の商品価値を著しく低下せしめる危険
性が有った。
この不安定なバテライト型炭酸カルシウムの欠点を補
うための検討も、各方面で検討されており、例えば特開
昭57−92520には、水溶性カルシウム塩と炭酸塩との水
溶液反応により球状のバテライト型構造をもつ炭酸カル
シウムを製造するに際し、カルシウム以外の2価カチオ
ンを添加することを特徴とする水に安定な球状炭酸カル
シウムの製造方法が、特開昭64−65015には、水溶性ス
ルホン化ポリマーが全反応溶液に対し500〜20万ppm溶存
している水系中で、水溶性炭酸塩と水溶性カルシウムを
特定比率範囲内で反応せしめることによる安定な球状炭
酸カルシウムの製造方法が提供されている。
しかし乍ら、これらの方法によって調製されたバテラ
イト型炭酸カルシウムは、安定化対策を施していない従
来の方法によって調製されたバテライト型炭酸カルシウ
ムと比較した場合、安定化改善の傾向は見られるもの
の、例えば前者(特開昭57−92520)で得られる純度100
%のバテライト型炭酸カルシウムは、80℃の水中におい
て7時間でその純度が90%まで低下しており、また後者
(特開昭64−65015)で得られる純度100%のバテライト
型炭酸カルシウムは、20℃の水中において30日程度の安
定性が例示されているにすぎず、例えば200℃以上の高
温域で使用される合成樹脂の填料として、あるいは更に
高温域で調製されるエンジニアリングプラスチックの填
料としてこの種のバテライト型炭酸カルシウムを使用す
る場合は満足な結果は得られない。
以上のような事情により、完全に安定なバテライト型
炭酸カルシウムの製造方法は未だ確立されておらず、各
種バテライト型炭酸カルシウムの生成方法が提案されて
いるにもかかわらず、バテライト型炭酸カルシウムの工
業的規模での製造は行われていないのが現状である。
〔問題点を解決するための手段〕
本発明者らは、上記実情に鑑み、化粧料、紙、印刷イ
ンキ、塗料用の顔料、ゴム、プラスチック、等の填料、
歯磨用研磨材等の多用途に有用な、高温安定性、長期経
時安定性が極めて良好なバテライト型炭酸カルシウムを
得るべく鋭意検討の結果、特定の組成を有する表面処理
剤をバテライト型炭酸カルシウムに表面処理することに
より、良好な高温安定性及び長期経時安定性を有するバ
テライト型炭酸カルシウムが得られることを見出し、本
発明を完成した。
即ち、本発明は、下記(ア)及び(イ)の重合物及び
共重合物から選ばれる少なくとも1種をバテライト型炭
酸カルシウムに表面処理することを特徴とする、バテラ
イト型炭酸カルシウムの安定化方法。
(ア)α、βモノエチレン性不飽和カルボン酸の重合物
又は共重合物であって、該重合物又は共重合物中に存在
する全カルボキシル基の1〜99%が未中和のカルボキシ
ル基である重合物又は共重合物、 (イ)α、βモノエチレン性不飽和カルボン酸と、該
α、βモノエチレン性不飽和カルボン酸と重合性を有す
る単量体との共重合物であって、該共重合物中に存在す
る全カルボキシル基の1〜95%が未中和合のカルボキシ
ル基である共重合物 を内容とするものである。
本発明における、α、βモノエチレン性不飽和カルボ
ン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸
等から選ばれるα、β不飽和モノカルボン酸、マレイン
酸、イタコン酸、フマール酸等から選ばれるα、β不飽
和ジカルボン酸を挙げることができ、これらは単独又は
2種以上組み合わせて用いられる。
また、α、βモノエチレン性不飽和カルボン酸と重合
性を有する単量体としては、特に制限はないが、 (a)アクリル酸メチル、エチル、プロピル、イソブチ
ル、2−エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、エチ
ル、プロピル、イソブチル、2−エチルヘキシル等のア
クリル酸アルキルエステル及びメタクリル酸アルキルエ
ステル、 (b)メトキシエチルアクリレート、メトキシエチルメ
タクリレート、エトキシエチルアクリレート、エトキシ
エチルメタクリレート等のアルコキシ基を有するアクリ
レート及びメタクリレート、 (c)シクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメ
タクリレート等のシクロヘキシル基を有するアクリレー
ト及びメタクリレート、 (d)2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロ
キシエチルメタクリレート等のα、βモノエチレン性不
飽和ヒドロキシエステル、 (e)ポリエチレングリコールモノアクリレート、ポリ
エチレングリコールモノメタクリレート等のポリアルキ
レングリコールモノアクリレート及びモノメタクリレー
ト、 (f)酢酸ビニル、ステアリン酸ビニル等のビニルエス
テル、 (g)スチレンビニルトルエン等のビニル系芳香族、 (h)アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽
和ニトリル、 (i)マレイン酸モノメチル、イタコン酸ジブチル等の
不飽和ジカルボン酸エステル、 (j)メチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等
のビニルエーテル、 (k)ブタジエン、イソブテン、エチレン、プロピレ
ン、n−ブテン、n−ペンテン、シクロブテン等の共役
ジエン、鎖状オレフィン、環状オレフィン が好ましく用いることができ、これらは単独又は2種以
上組み合わせて用いられる。
本発明に用いられ(ア)、(イ)の表面処理剤におい
て、未中和のカルボキシル基の量が重合物又は共重合物
に存在する全カルボキシル基の1%未満の場合、バテラ
イト型炭酸カルシウムと化学的に結合するカルボキシル
基の絶対量が不足するため、バテライト型炭酸カルシウ
ムの安定化効果は得られず、本発明の目的は達成されな
い。また、上記(ア)の表面処理剤において、未中和の
カルボキシル基の量が99%を超える場合、又は(イ)の
表面処理において、未中和のカルボキシル基の量が95%
を超える場合は、バテライト型炭酸カルシウムと化学的
に結合するカルボキシル基の量が過剰となるため、表面
処理剤のバテライト型炭酸カルシウム粒子間への分散性
が著しく阻害されるため、バテライト型炭酸カルシウム
の安定性効果が低下しやすく、かりにバテライト型炭酸
カルシウムの安定性が達成できたとしても、カルボキシ
ル基が多過ぎるため、一つのポリマーが複数のバテライ
ト型炭酸カルシウム粒子間に複雑に絡み付き、その結果
としてバテライト型炭酸カルシウム一次粒子が複雑に凝
集した粗大凝集体を生成することになり、バテライト型
炭酸カルシウムの本来の良好な分散性が消失することに
なり、工業製品への利用等の実用上の点から好ましくな
い。更にまた、上記(イ)の表面処理剤におけるα、β
モノエチレン性不飽和カルボン酸が共重合全体にしめる
割合は、バテライト型炭酸カルシウムと結合するカルボ
キシル基の総量の観点から2重量%以上が好ましい。
更にまた、上述の(ア)、(イ)の重合物又は共重合
物中に存在する全カルボキシル基の内の中和されたカル
ボキシル基は、該重合物又は共重合物がバテライト型炭
酸カルシウムの表面処理剤としての機能を充分発揮でき
る意味から、アルカリ金属、アンモニウム、アミンから
選ばれる少なくとも1種の塩であることが好ましい。
本発明に使用する重合物、共重合物等の表面処理剤の
数平均分子量は、構成成分の種類、構成比等によって変
わるが、通常500〜200000、より好ましくは1000〜10000
0程度のものが有効である。数平均分子量が500未満の場
合、バテライト型炭酸カルシウムの安定効果がとぼし
く、また200000をこえる場合、本発明のバテライト型炭
酸カルシウムの安定化は達成されるものの、バテライト
型炭酸カルシウム粒子の粒子間凝集が大きくなり、本来
良好なバテライトの分散性を著しく損なうことになり好
ましくない。
本発明の表面処理剤の表面処理量は、バテライト型炭
酸カルシウムに対し、0.01重量%〜10重量%が好まし
く、0.01重量%未満の場合はバテライト型炭酸カルシウ
ムの安定性が充分でなくなる場合があり、一方、10重量
%をこえる場合は表面処理剤が多量に必要となり不経済
である。
以上の様に、上述した(ア)、(イ)から選ばれる重
合物及び共重合物の少なくとも1種を、バテライト型炭
酸カルシウムに表面処理することにより、高温安定性が
良好で且つ経時安定性の良好なバテライト型炭酸カルシ
ウムを得るという、本発明の目的は達成される。
しかし乍ら、安定化されたバテライト型炭酸カルシウ
ムを、高度な分散性が要求される工業用途、例えばビデ
オテープ等の原料となるポリエステルフィルムのブロッ
キング防止材等の分野に利用しようとする場合、従来公
知のバテライト型炭酸カルシウムでは満足した結果が得
られにくく、このような用途には、カルシウム化合物を
アルコールと水の混合媒体系内で炭酸化反応して調製さ
れるバテライト型炭酸カルシウムが好適である。具体的
には、生石灰換算濃度が0.5〜12重量%である生石灰又
は消石灰のメタノール懸濁液に、生石灰(消石灰の場合
は同一モルの生石灰に換算)に対し5〜20倍モル相当量
の水を加え、メタノールと生石灰及び/又は消石灰と水
との混合系を調製後、該混合系に炭酸ガスを導通し、炭
酸化反応系内の導電率変化曲線において、炭酸化反応系
内の導電率が極大点に到達る以前に系内温度を30℃以上
に調製し、炭酸化反応開始から炭酸化反応系内導電率が
100μS/cmに到達するまでの時間を、1000分未満になる
ように調整することにより調製される。
上記方法により調製されたバテライト型炭酸カルシウ
ムの粒径分布は、下記の通りである。
(ア)0.1μm≦DS≦2.0μm (イ)DP3/DS≦1.25 (ウ)1.0≦DP2/DP4≦2.5 (エ)1.0≦DP1/DP5≦4.0 (オ)(DP2−DP4)/DP3≦1.0 但し、 DS :走査型電子顕微鏡(SEM)により調べた平均粒子径
(μm)であり、一次粒子を同一体積を有する球に換算
し、該球の粒子径の平均値を計算し算出する。
DP1:遠心沈降式粒度分布測定機(島津製作所製SA−CP
3)を用いて測定した粒度分布において、大きな粒子径
側から起算した重量累計10%の時の粒子径(μm) DP2:上記方法を用いて測定した粒度分布において、大き
な粒子径側から起算した重量累計25%の時の粒子径(μ
m) DP3:上記方法を用いて測定した粒度分布において、大き
な粒子径側から起算した重量累計50%の時の粒子径(μ
m) DP4:上記方法を用いて測定した粒度分布において、大き
な粒子径側から起算した重量累計75%の時の粒子径(μ
m) DP5:上記方法を用いて測定した粒度分布において、大き
な粒子径側から起算した重量累計90%の時の粒子径(μ
m) なお、バテライト型炭酸カルシウムをさらに高度な利
用分野、例えば5μm以下の厚みを有する様な8mmビデ
オ用のビデオテープのベースフィルム、あるいは1mm前
後の厚みを有する様なコンデンサー用のベースフィルム
等の利用分野に使用するためには下記の物性を有するバ
テライト型炭酸カルシウムがより好ましい。
(カ)0.1μm≦DS≦2.0μm (キ)DP3/DS≦1.25 (ク)1.0≦DP2/DP4≦1.4 (ケ)1.0≦DP1/DP5≦2.5 (コ)(DP2−DP4)/DP3≦0.35 但し、使用する記号の説明は(ア)〜(オ)で前述し
たとおりである。
上記(カ)〜(コ)の要件を共に具備するバテライト
型炭酸カルシウムの製造方法を以下に例示する。
生石灰換算濃度が0.5〜12重量%である生石灰及び/
又は消石灰のエタノール懸濁液に、生石灰(消石灰の場
合は同一モルの生石灰に換算)に対し5〜20倍モル相当
量の水を加え、メタノールと生石灰及び/又は消石灰と
水の混合系を調製後、該混合系に炭酸ガスを導通し炭酸
化反応を行ない、炭酸化反応系内の導電率変化曲線にお
いて、炭酸化反応系内の導電率が極大点に到達する以前
に系内温度を30℃以上に調整し、炭酸化反応開始から炭
酸化反応系内導電率が100μS/cmである点に到達するま
での時間を120分未満になるように調製する。
〔実施例〕
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に詳しく
説明するが、本発明はこれらにより何ら制約を受けるも
のではない。
実施例に使用するバテライト型炭酸カルシウムを下記
の要領で調製した。
バテライト型炭酸カルシウムA: 活性度が82の粒状生石灰(試薬特級)を乾式粉砕機
(コロプレックス、アルピネ社製)で粉砕し、得られた
生石灰粉体をメタノール中に投入し、200メッシュの篩
を用いて粗粒を除去した後、生石灰としての固形分濃度
20%の生石灰のメタノール懸濁液を調製した。該メタノ
ール懸濁液を湿式粉砕機(ダイノーミルPILOT型、WAB社
製)により解砕処理し、生石灰のメタノール懸濁液分散
体を調製した。
該生石灰のメタノール懸濁液分散体にメタノールを追
加添加し、生石灰濃度が3.0重量%となるように稀釈
し、更に生石灰に対し11倍相当モルの水を添加し、メタ
ノールと生石灰と水の混合系を調製した。200gの生石灰
を含有する該混合系を42℃に調整した後、撹拌条件下該
混合系中に炭酸ガスを生石灰1モル当り0.082モル/min
の導通速度で導通し、炭酸化反応を開始した。炭酸化反
応開始5分後に系内の導電率が極大点に達し、該極大点
における系内温度は45℃になるように調節した。その後
も炭酸化反応を継続し、炭酸化反応開始19分後に系内の
導電率が100μS/cmに達した後で炭酸ガスの供給を停止
し、炭酸化反応を停止した。系内の導電率が100μS/cm
に達した点における系内pHは7.0であった。このように
して、炭酸カルシウムとメタノールと水の混合系を得
た。
上記方法で得られた炭酸カルシウムはX線回折測定の
結果、100%バテライト型の炭酸カルシウムであること
が確認された。又粒度分布及び走査型電子顕微鏡写真測
定の結果、二次凝集がほとんどない分散性良好な炭酸カ
ルシウムであることが確認された。
バテライト型炭酸カルシウムの各種試験方法を、下記
の要領で実施した。
高温安定性試験−1 以下の条件下において示差熱分析を行ない、バテライ
ト型炭酸カルシウムがカルサイト型炭酸カルシウムに転
移する際の発熱ピークから、転移温度を計測した。
試料量:10mg 昇温速度:10℃/min 雰囲気ガス流量:50ml/min 雰囲気ガス:空気及びアルゴン 高温安定性試験−2 バテライト型炭酸カルシウム10gを190mlの水に分散せ
しめ、バテライト型炭酸カルシウムの固形分濃度が5重
量%の水懸濁液を調整後、該水懸濁液を80℃に調整し、
10時間80℃に維持した。10時間後、該水懸濁液を脱水濾
過し、その後105℃にて2時間乾燥し、得られた炭酸カ
ルシウムの結晶型の変化をX線回折により観察した。
経時安定性試験 バテライト型炭酸カルシウム10gを190mlの水に分散せ
しめ、バテライト型炭酸カルシウムの固形分濃度が5重
量%の水懸濁液を調整後、該水懸濁液を20℃に調整し、
密閉容器中で20℃にて100日間保存した。その後容器中
の水懸濁液を脱水濾過し、その後105℃にて2時間乾燥
し、得られた炭酸カルシウムの結晶型の変化をX線回折
により観察した。
実施例1 前述の方法で調製したバテライト型炭酸カルシウムA
とメタノールと水の混合系に、全カルボキシル基の内50
%のカルボキシル基が未中和、残りの50%のカルボキシ
ル基がアンモニウム塩に調製されている分子量8500のア
クリル酸の重合体の部分アンモニウム中和物を表面処理
剤とし、バテライト型炭酸カルシウムに対し2.0重量%
添加し、撹拌条件下表面処理し、その後濾過脱水を行な
い、105℃で2時間乾燥し、炭酸カルシウム粉体を得
た。
X線回折を測定の結果、本実施例で得られた炭酸カル
シウム粉末は、100%バテライト型の炭酸カルシウム粉
末であった。
実施例1で使用した表面処理剤の組成を第1表に示
す。また本実施例で得られたバテライト型炭酸カルシウ
ムの高温安定性試験結果及び経時安定性試験結果を第3
表に示す。
第3表の結果から、本発明の方法により調製された本
実施例1で得られたバテライト型炭酸カルシウムは、後
記比較例で調製された他のバテライト型炭酸カルシウム
と比較し、高温安定性、経時安定性共に良好なバテライ
ト型炭酸カルシウムであることが確認できる。
実施例2〜6 第1表に示された実施例1の表面処理剤組成及び表面
処理量を同表に記載のように変更することを除き、他は
同様の方法で炭酸カルシウムの粉末を調製した。
X線回折を測定の結果、本実施例2〜6で得られた炭
酸カルシウム粉末はいずれも100%バテライト型の炭酸
カルシウムの粉末であった。
本実施例で得られたバテライト型炭酸カルシウムの高
温安定性試験結果、及び経時安定性試験結果を第3表に
示す。
第3表の結果から、本発明の方法により調製された本
実施例で得られたバテライト型炭酸カルシウムは共に、
後記比較例で調製された他のバテライト型炭酸カルシウ
ムと比較し、高温安定性、経時安定性共に良好なバテラ
イト型炭酸カルシウムであることが確認できる。
比較例1〜3 第1表に示された実施例1の表面処理剤組成及び表面
処理量を第2表に記載のように変更すること、及び濾過
脱水後の乾燥条件を、25℃で24時間の減圧乾燥に変更す
ることを除き、他は同様の方法で炭酸カルシウムの粉末
を調製した。X線回折を測定の結果、本比較例1〜3で
得られた炭酸カルシウム粉末は、100%バテライト型の
炭酸カルシウム粉末であった。
本比較例で得られたバテライト型炭酸カルシウムの高
温安定性試験結果及び経時安定性試験結果を第4表に示
す。
比較例4 表面処理剤を使用しないこと、及び濾過脱水後の乾燥
条件を、25℃で24時間の減圧乾燥に変更することを除
き、他は実施例1と同様の方法で炭酸カルシウムの粉末
を調製した。
X線回折を測定の結果、本比較例4で得られた炭酸カ
ルシウム粉末は、100%バテライト型の炭酸カルシウム
粉末であった。
本比較例で得られたバテライト型炭酸カルシウムの高
温安定性試験結果及び経時安定性試験結果を第4表に示
す。
比較例5、6 表面処理剤及び表面処理量を、比較例5においてはヘ
キサメタ燐酸ナトリウム1重量%処理に、比較例6にお
いてはステアリン酸ナトリウム1重量%処理に、更に濾
過脱水後の乾燥条件を、25℃で24時間の減圧乾燥に変更
することを除き、他は実施例1と同様の方法で炭酸カル
シウムの粉末を調製した。
X線回折を測定の結果、本比較例5、6で得られた炭
酸カルシウム粉末は、100%バテライト型の炭酸カルシ
ウム粉末であった。
本比較例で得られたバテライト型炭酸カルシウムの高
温安定性試験結果及び経時安定性試験結果を第4表に示
す。
第1表及び第2表中、 名称1:表面処理剤組成中のα、βモノエチレン性不飽和
カルボン酸(その1)の名称 割合1:α、βモノエチレン性不飽和カルボン酸(その
1)の、重合物、共重合物にしめる割合(%) 名称2:表面処理剤組成中のα、βモノエチレン性不飽和
カルボン酸(その2)の名称 割合2:α、βモノエチレン性不飽和カルボン酸(その
2)の、重合物、共重合物にしめる割合(%) 名称3:α、βモノエチレン性不飽和カルボン酸と共重合
された単量体の名称 割合3:α、βモノエチレン性不飽和カルボン酸と共重合
された単量体の、重合物、共重合物にしめる割合(%) 未中和含有量:重合物又は共重合物中に存在する全カル
ボキシル基の内の未中和のカルボキシル基の割合(%) 表面処理量:バテライト型炭酸カルシウムに対して表面
処理された、重合物、共重合物の割合(%) 塩種:重合物又は共重合物中に存在する全カルボキシル
基の内の中和されたカルボキシル基の塩の名称 分子量:重合物、共重合物の数平均分子量 〔作用・効果〕 本発明の表面処理剤でバテライト型炭酸カルシウムを
表面処理することにより、高温安定性、経時安定性が良
好なバテライト型炭酸カルシウムが得られる理由は明確
ではないが、本発明の表面処理剤である重合物、共重合
物には未中和のカルボキシル基が含有されているため、
該表面処理剤をバテライト型炭酸カルシウムに表面処理
することにより、表面処理剤中のカルボキシル基とバテ
ライト型炭酸カルシウムの表面が化学的に強固に結合
し、バテライト型炭酸カルシウムの表面がイオン封鎖さ
れると同時に表面からのカルシウムイオンの溶出が防止
されるため、不安定なバテライト型炭酸カルシウムの粒
子表面が安定化し、その結果安定なバテライト型炭酸カ
ルシウムが調製されるものと思われる。
叙上の通り、本発明によれば高温安定性及び経時安定
性に優れたバテライト型炭酸カルシウムが提供される。

Claims (7)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】下記(ア)及び(イ)の重合物及び共重合
    物から選ばれる少なくとも1種をバテライト型炭酸カル
    シウムに表面処理することを特徴とする、バテライト型
    炭酸カルシウムの安定化方法。 (ア)α、βモノエチレン性不飽和カルボン酸の重合物
    又は共重合物であって、該重合物又は共重合物中に存在
    する全カルボキシル基の1〜99%が未中和のカルボキシ
    ル基である重合物又は共重合物、 (イ)α、βモノエチレン性不飽和カルボン酸と、該
    α、βモノエチレン性不飽和カルボン酸と重合性を有す
    る単量体との共重合物であって、該共重合物中に存在す
    る全カルボキシル基の1〜95%が未中和のカルボキシル
    基である共重合物。
  2. 【請求項2】(ア)及び(イ)が下記からなる請求項1
    記載の安定化方法。 (ア)α、βモノエチレン性不飽和カルボン酸の重合物
    又は共重合物であって、該重合物又は共重合物中に存在
    する全カルボキシル基の3〜90%が未中和のカルボキシ
    ル基である重合物又は共重合物、 (イ)α、βモノエチレン性不飽和カルボン酸と、該
    α、βモノエチレン性不飽和カルボン酸と重合性を有す
    る単量体との共重合物であって、該共重合物中に存在す
    る全カルボキシル基の3〜95%が未中和のカルボキシル
    基である共重合物。
  3. 【請求項3】α、βモノエチレン性不飽和カルボン酸と
    重合性を有する単量体が、下記(a)〜(k)から選ば
    れる少なくとも1種の単量体である請求項1又は2記載
    の安定化方法。 (a)アルキル酸アルキルエステル及びメタクリル酸ア
    ルキルエステル (b)アルコキシ基を有するアクリレート及びメタクリ
    レート (c)シクロヘキシル基を有するアクリレート及びメタ
    クリレート (d)α、βモノエチレン性不飽和ヒドロキシエステル (e)ポリアルキレングリコールモノアクリレート及び
    モノメタクリレート (f)ビニルエステル (g)ビニル系芳香族 (h)不飽和ニトリル (i)不飽和ジカルボン酸エステル (j)ビニルエーテル (k)共役ジエン、鎖状オレフィン、環状オレフィン
  4. 【請求項4】α、βモノエチレン性不飽和カルボン酸
    と、該α、βモノエチレン性不飽和カルボン酸と重合性
    を有する単量体との共重合物であって、該α、βモノエ
    チレン性不飽和カルボン酸が共重合物全体にしめる割合
    が2重量%以上である請求項1又は2記載の安定化方
    法。
  5. 【請求項5】バテライト型炭酸カルシウムに表面処理さ
    れる重合物及び/又は共重合物の総量が、バテライト型
    炭酸カルシウムに対し、0.01〜10重量%である請求項1
    又は2記載の安定化方法。
  6. 【請求項6】重合物又は共重合物中に存在する全カルボ
    キシル基のうちの中和されたカルボキシル基が、アルカ
    リ金属、アンモニウム、アミンから選ばれる少なくとも
    1種の塩である請求項1又は2記載の安定化方法。
  7. 【請求項7】バテライト型炭酸カルシウムが、カルシウ
    ム化合物をアルコールと水の混合媒体系内で炭酸化反応
    して調製されるバテライト型炭酸カルシウムである請求
    項1又は2記載の安定化方法。
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