JP2922374B2 - 原子力プラント事故対応支援システム - Google Patents

原子力プラント事故対応支援システム

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JP2922374B2
JP2922374B2 JP4347173A JP34717392A JP2922374B2 JP 2922374 B2 JP2922374 B2 JP 2922374B2 JP 4347173 A JP4347173 A JP 4347173A JP 34717392 A JP34717392 A JP 34717392A JP 2922374 B2 JP2922374 B2 JP 2922374B2
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は原子力プラントに係わ
り、特に緊急停止が必要なスクラム事故発生時の対応処
置を行う原子力プラント事故対応支援システムに関す
る。
【0002】
【従来の技術】原子炉プラントにおいて原子炉そのもの
や関連施設にトラブル(いわゆるスクラム事故)があっ
たときには、自動的に原子炉の核反応を緊急停止させる
ことにより重大事故に至るのを防ぐようになっている。
【0003】従来、このようなスクラム事故に対して
は、いわゆる決定論的な安全評価に基づく対応がなされ
ている。すなわち、スクラム事故が発生してある状態に
なった場合には、その状態に応じた種類のスクラム信号
が発せられ、このスクラム信号に応じて必要な措置が採
られる。
【0004】例えば、1次冷却系配管の破断等により原
子炉冷却水の一部が喪失して水位が低下するような場合
には、これを示すスクラム信号が発せられ、この信号に
応じて自動的に制御棒を挿入することにより中性子を吸
収させ、核分裂の緊急停止が図られる。一方、核反応は
停止したとしても燃料棒が水面上に露出しておれば、そ
の燃料棒に残った熱により炉心が溶融して放射性物質が
漏れ出るおそれがあるので、これに応じていわゆるEC
CS(緊急用炉心冷却システム)が作動し、炉心に冷却
水が注入されるようになっている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】このように、従来のシ
ステムでは、ある事象に応じてスクラム信号が発せられ
これに対し原子炉緊急停止装置やECCS等の対応措置
が作動するものの、その対応措置が完全には実行され
ず、あるいはまったく実行されなかった場合には、その
結果として生じた次の状態に応じたスクラム信号が発せ
られるまで、システムは自律的に何らかの措置を講ずる
ようにはなっていなかった。
【0006】すなわち、上記した例において、第1スク
ラム信号に応じて制御棒挿入の指令がなされたにもかか
わらず、何らかの理由により制御棒のすべてまたは一部
の挿入が行われなかった場合には、単に、この制御棒挿
入の不作動の事実がアラームとして表示されるのみで、
これを運転員が確認して対応措置を講ずるしかなく、自
動的な作動確認及び措置が行われるようにはなっていな
かった。この場合、不作動の結果生ずる次の状態に対し
ては、新たなスクラム信号が発せられるものの、この状
態では既に手遅れの場合が少なくない。また、スクラム
事故発生時においては、制御盤には、制御棒不作動のア
ラーム表示のほか他の多数のアラーム表示も表示される
ため、いわゆるパニック状態となり、極めて短時間内に
運転員がこれに対応する正しい措置を判断するのは不可
能に近い。
【0007】このように、従来の事故対応システムで
は、スクラム事故が例えば米国のスリーマイル原子力発
電所や旧ソ連のチェルノブイリ原発事故の場合のような
設計基準事象を超える領域のシビアアクシデントに発展
する可能性を完全には排除できないという問題があっ
た。
【0008】この発明は、かかる課題を解決するために
なされたもので、スクラム事故がシビアアクシデントに
発展するのを効果的に回避することができる原子力プラ
ント事故対応支援システムを得ることを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明の第1の原子力プ
ラント事故対応支援システムは、原子力プラントにおけ
るスクラム事故発生時に原子炉に挿入して該原子炉を緊
急停止する制御棒を有し、該原子炉の緊急停止を監視す
る原子力プラント事故対応支援システムであって、前記
制御棒の挿入による前記原子炉の緊急停止とは異なる複
数の序列化された原子炉緊急停止手段と、前記制御棒の
挿入による前記原子炉の緊急停止が不完全なとき、前記
序列化された原子炉緊急停止手段の最上位の原子炉緊急
停止手段による前記原子炉の緊急停止を指令する緊急停
止指令手段と、該指令された原子炉緊急停止手段による
前記原子炉の緊急停止が適切になされているか否かを判
定する緊急停止判定手段とを備え、前記緊急停止指令手
段は、前記緊急停止判定手段により前記指令された原子
炉緊急停止手段による前記原子炉の緊急停止が適切にな
されていないと判定されたとき、該指令された原子炉緊
急停止手段の次の順位の原子炉緊急停止手段を前記最上
位の原子炉緊急停止手段として該原子炉緊急停止手段に
よる前記原子炉の緊急停止を指令する手段であることを
要旨とする。こうした本発明の第1の原子力プラント事
故対応支援システムにおいて前記原子炉を冷却する複数
の序列化された原子炉冷却手段と、前記制御棒による前
記原子炉の緊急停止がなされたとき、前記序列化された
原子炉冷却手段の最上位の原子炉冷却手段による前記原
子炉の冷却を指令する冷却指令手段と、該指令された原
子炉冷却手段による前記原子炉の冷却が適切になされて
いるか否かを判定する冷却判定手段とを備え、前記冷却
指令手段は、前記冷却判定手段により前記指令された原
子炉冷却手段による前記原子炉の冷却が適切になされて
いないと判定されたとき、該指令された原子炉冷却手段
の次の順位の原子炉冷却手段を前記最上位の原子炉冷却
手段として該原子炉冷却手段による前記原子炉の冷却を
指令する手段であるものとすることもできる。
【0010】本発明の第2の原子力プラント事故対応支
援システムは、圧力管型重水炉を用いた原子力プラント
においてスクラム事故が発生した場合の対応処置を支援
するためのシステムであって、(i) スクラム信号に応答
して制御棒を原子炉内に全挿入する旨の指示を行う制御
棒緊急挿入指示手段と、(ii)この制御棒緊急挿入指示手
段の指示に応答して制御棒の挿入が開始されたか否かを
検出する制御棒挿入検出手段と、(iii) この制御棒挿入
検出手段が制御棒の挿入開始を検出しなかったとき、中
性子吸収用の硼酸水を原子炉内に緊急注入する旨の指示
を行う硼酸水緊急注入指示手段と、(iv)この硼酸水緊急
注入指示手段の指示に応答して硼酸水の注入が開始され
たか否かを検出する硼酸水注入検出手段と、(v) 硼酸水
注入検出手段が硼酸水注入の開始を検出しなかったと
き、中性子減速材としての重水を原子炉から排出する旨
の指示を行う重水排出指示手段と、(vi)原子炉の冷却状
態を評価する冷却状態評価手段と、(vii) この冷却状態
評価手段による評価の結果、原子炉の冷却状態が安全圏
を逸脱したと判断したとき、原子炉冷却水喪失事故発生
時に炉心に冷却水を注入するために設けられた非常用炉
心冷却システムを作動させる旨の指示を行う非常用炉心
冷却システム作動指示手段と、(viii)この非常用炉心冷
却システム作動指示手段に応答して前記非常用炉心冷却
システムが作動したか否かを監視し、前記非常用炉心冷
却システムが作動せず、あるいは作動が完全でないと
き、前記非常用炉心冷却システムと別個に設けられた予
備用冷却水供給システムを作動させる旨の指示を行う予
備用冷却水供給システム作動指示手段と、を具備するこ
とを特徴とするものである。
【0011】本発明の第2の原子力プラント事故対応支
援システムにおいて、前記冷却状態評価手段が、原子炉
水位及び所定の計測情報と最小限界熱流束比(MCHF
R)との関係をまとめた知識ベースを参照して原子炉冷
却状態を評価することを特徴とするものとすることもで
きる。
【0012】
【作用】本発明の第1の原子力プラント事故対応支援シ
ステムでは、緊急停止指令手段が、制御棒の挿入による
前記原子炉の緊急停止が不完全なときに制御棒の挿入に
よる原子炉の緊急停止とは異なる複数の序列化された原
子炉緊急停止手段のうちの最上位の原子炉緊急停止手段
による原子炉の緊急停止を指令し、緊急停止判定手段
が、この指令された原子炉緊急停止手段による前記原子
炉の緊急停止が適切になされているか否かを判定する。
緊急停止指令手段は、緊急停止判定手段により指令され
た原子炉緊急停止手段による原子炉の緊急停止が適切に
なされていないと判定されたときには、この指令された
原子炉緊急停止手段の次の順位の原子炉緊急停止手段を
最上位の原子炉緊急停止手段としてこの原子炉緊急停止
手段による原子炉の緊急停止を指令する。こうした本発
明の第1の原子力プラント事故対応支援システムの一態
様では、制御棒による前記原子炉の緊急停止がなされた
ときに、冷却指令手段が、原子炉を冷却する複数の序列
化された原子炉冷却手段のうちの最上位の原子炉冷却手
段による原子炉の冷却を指令し、冷却判定手段が、この
指令された原子炉冷却手段による原子炉の冷却が適切に
なされているか否かを判定する。冷却指令手段は、冷却
判定手段によりこの指令された原子炉冷却手段による原
子炉の冷却が適切になされていないと判定されたときに
は、この指令された原子炉冷却手段の次の順位の原子炉
冷却手段を最上位の原子炉冷却手段としてこの原子炉冷
却手段による原子炉の冷却を指令する。
【0013】本発明の第2の原子力プラント事故対応支
援システムでは、スクラム信号に応答して制御棒緊急挿
入指令が発せられたにもかかわらず、制御棒緊急挿入が
行われなかった場合には、硼酸水緊急注入指令が発せら
れ、さらに、これに応答して、硼酸水注入が行われなか
った場合には、重水ダンプ指令が発せられる。一方、原
子炉の冷却状態が安全圏を逸脱した場合には、非常用炉
心冷却システムの作動指令が発せられる。この指令に対
して非常用炉心冷却システムが不作動または不完全作動
の場合には、予備用冷却水供給システムの作動指令が発
せられる。
【0014】本発明の第2の原子力プラント事故対応支
援システムの一態様では、原子炉の冷却状態は、原子炉
水位及び所定の計測情報と最小限界熱流束比(MCHF
R)との関係をまとめた知識ベースを参照して評価され
る。
【0015】
【実施例】以下実施例につき本発明を詳細に説明する。
【0016】図1は本発明の一実施例における原子力プ
ラント事故対応支援システムを表わしたものである。こ
のシステムには、各種の操作スイッチや作動表示ラン
プ、及び各種のアラーム表示ランプを備えた制御盤13
が設けられ、計算機11からの起動・停止指令に応じて
原子力プラント設備14を制御する一方、原子力プラン
ト設備14から得られる各種の計測データを計算機11
に送出するようになっている。
【0017】計算機11には、原子力プラント設備14
の作動状態をリアルタイムで表示するとともに、作動予
測状態をリアルタイム以上の速さで表示するCRT(デ
ィスプレイ装置)12、上記各種の計測データのうちの
事故状態及び必要な事故対応措置に関係するキーを格納
した指標格納部15、及び上記指標格納部15内の各指
標と後述する最小限界熱流束比(MCHFR)との関係
をまとめた知識ベース16が接続され、以下に述べる6
つのサブシステム21〜26を駆使して制御盤13に各
種の指令を送出するようになっている。
【0018】以下、各サブシステムについて説明する。
【0019】(1)安全施設作動準備常時確認システム
21 本サブシステムは、事故発生時に使用する可能性のある
安全施設の準備状態、すなわち各部のポンプ、弁、電
源、水源等の安全施設が正常に作動若しくは使用可能な
状態になっているか否かを常時確認するためのシステム
であり、具体的には、主として以下の各施設が確認の対
象となる。
【0020】原子炉緊急停止系 原子炉緊急停止系としては、制御棒緊急挿入系、硼酸水
緊急注入系、及び重水緊急ダンプ系がある。このうち、
制御棒緊急挿入系は、全制御棒を原子炉に挿入すること
により原子炉を停止させるためのものであり、硼酸水緊
急注入系は中性子をよく吸収する硼酸水(ポイズン)を
原子炉に注入することにより原子炉を停止させるための
ものである。また、重水緊急ダンプ系は、中性子速度を
減速して核分裂を起こしやすくする重水を原子炉から急
速に排出することにより原子炉を停止させるためのもの
である。
【0021】確認方法としては、例えば硼酸水緊急注入
系については、硼酸水貯蔵タンクの圧力や水位をチェッ
クすることにより行われる。
【0022】冷却水供給系統 冷却水供給系統としては、急速(蓄圧)注水系、高圧注
水系、低圧注水系の3系統からなる非常用炉心冷却系
(ECCS)と隔離冷却系及び補給水供給系がある。
【0023】確認方法としては、急速(蓄圧)注水系は
蓄圧器の圧力と水位、高圧注水系、はポンプと復水貯蔵
タンク水位、低圧注水系はポンプと復水貯蔵タンク水位
と蒸気放出プール水位をそれぞれチェックすることで行
われる。また、隔離冷却系の作動準備確認は、ポンプと
復水貯蔵タンク水位、補給水供給系はポンプと補給水貯
蔵タンク水位のチェックにより行われる。
【0024】水源 水源としては、蒸気放出プール、復水貯蔵タンク、及び
補給水貯蔵タンク等があり、それぞれの水位がチェック
される。
【0025】電源 非常用ディーゼル発電機とバッテリーがあり、例えばバ
ッテリーは蓄電容量がチェックされる。
【0026】(2)原子炉緊急停止作動確認・対応シス
テム22 本サブシステムは、スクラム事故発生時に、原子炉停止
装置(制御棒緊急挿入系)の作動を確認するとともに、
原子炉の停止を確認する。仮に上記原子炉停止装置が作
動しなかった場合には、上記した硼酸水緊急注入系や重
水緊急ダンプ系等のバックアップ用の原子炉停止装置
(以下、後備停止系という)を作動させるための指令を
発し、その作動確認をも行う。
【0027】原子炉停止装置の作動は、制御棒の挿入確
認により行われるが、具体的には、制御棒を保持してい
る電磁クラッチの電流が遮断されたか否か、あるいは制
御棒が定点を通過したか否か等のチェックにより行われ
る。ここで定点通過の確認は、制御棒の落下途中の所定
位置に配置されたセンサにより行われる。また、原子炉
の停止は、中性子束及びその変化率のチェックにより確
認されるが、中性子束の状態はCRT12によりリアル
タイムで表示される。
【0028】また、後備停止系のうち、硼酸水緊急注入
系の作動確認は硼酸注入タンクの水位及び流量のチェッ
クにより行われ、重水緊急ダンプ系の作動確認は原子炉
重水水位及び流量のチェックにより行われる。
【0029】(3)原子炉冷却状態評価・対応システム
23 本サブシステムは、指標格納部15内の所定の指標につ
いての計測データを基に、知識ベース16を活用してリ
アルタイム以上の速さで原子炉の冷却状態の評価とその
推移の予測を行い、その評価結果に応じて、上記した非
常用炉心冷却系や隔離冷却系等の冷却バックアップ施設
を作動させるための指令を発するとともに、その作動の
確認を行う。
【0030】原子炉の冷却状態の評価は、上記した最小
限界熱流束比(MCHFR)と原子炉水位で行う。この
MCHFRとは、多数(例えば48本)の燃料チャネル
のうちの予め設定された最高出力燃料チャネルに対する
安全裕度を示す限界熱流束比(CHFR=燃料の熱流束
/限界熱流束)の最小値である。
【0031】具体的には以下のようにして評価を行う。
まず、MCHFRを、EFPD(Effective Full Power
Days) 、中性子束及び最高出力燃料チャネル入口の冷却
水の温度・流量等の指標を基に(関数として)常時評価
しておく。そして、スクラム信号発信後は、スクラム信
号発信前における最高出力燃料チャネルのMCHFRを
初期条件として、知識ベース16を参照して、最高出力
燃料チャネルのMCHFRを評価する。
【0032】ここで、知識ベース16は、以下のような
指標とMCHFRとの関係をまとめた辞書である。
【0033】中性子束とその推移から得られる最高出
力燃料チャネルの出力及びその推移 原子炉入口(例えば、圧力管型重水炉の場合は最高出
力燃料チャネル入口)の冷却水の温度・流量及びそれら
の推移 原子炉の水位・温度及びその推移 原子炉からの冷却水・蒸気の排出量及びその推移 このように、本システムでは、微分方程式を解く等の方
法をとらず、知識ベースを参照して直接MCHFRを得
ることにより原子炉冷却状態を把握するようにしている
ため、極めて迅速に評価が可能であり、また、現実の事
象に先行した予測も可能となる。
【0034】原子炉冷却状態の評価の結果、最高出力燃
料チャネルのMCHFRと原子炉水位が安全領域内にあ
れば特別の対応は行わないが、安全領域を逸脱した場合
には、非常用炉心冷却系作動信号を発信するとともに、
その作動が確実に行われたか否かの確認を行う。非常用
炉心冷却系の作動は急速注水系、高圧注水系、低圧注水
系の順で順次行われ、その作動確認は、急速注水系は蓄
圧器の水位と供給水量、高圧注水系はポンプ作動と復水
貯蔵タンク水位と供給水量、低圧注水系はポンプ作動と
復水貯蔵タンク水位と供給水量をそれぞれチェックする
ことで行われる。
【0035】この確認の結果、非常用炉心冷却系の3つ
の冷却系(急速注水系、高圧注水系、低圧注水系)が不
作動または完全でない場合には、隔離冷却系の作動指令
を発信し、その作動確認をも行う。隔離冷却系の作動
は、所定の優先順位(例えば、蒸気放出プール、復水貯
蔵タンクの順)で冷却水の供給が行われ、その作動確認
は、ポンプ作動、復水貯蔵タンク水位、及び供給水量等
のチェックにより行われる。隔離冷却系が不作動の場合
は、補給水供給系を作動させる。
【0036】なお、MCHFRと原子炉水位による評価
の結果、原子炉冷却が過大と評価された場合には、上記
優先順位の逆の順位に従って作動解除が行われる。
【0037】(4)事故同定システム24 本サブシステムは、指標とこれらの組合せの情報を基
に、知識ベース16を活用して自動的に事故の同定を行
う。この同定を行うことにより、事故の対応措置の信頼
度が強化される。
【0038】具体的には、異常や故障が起こった場合に
スクラム信号発信の原因となりうる各機器について、ス
クラム信号発信直前において常用状態と有意差のある計
測データを出力した機器を抽出することで異常・故障機
器の同定を行い、次にこの同定情報(機器に異常・故障
がない場合を含む)と、最初のスクラム信号(第一スク
ラム信号)及び第一スクラム信号に関係する指標(中性
子束や原子炉の圧力等の応答の速い計測情報とその推
移)を基に、知識ベース16を参照して、スクラム信号
発信の原因となった異常・事故を判別する。
【0039】なお、知識ベース16には、事故のタイプ
別に、指標の組合せと応答特性の関係を示す辞書が構築
されている。
【0040】(5)格納容器状態評価・対応システム2
5 本サブシステムは、原子炉を格納している容器(以下、
単に格納容器という)の状態(放射能漏れの有無等)を
評価し、状態に応じて必要なバックアップ供給(ベント
系等)の作動の指令、確認、解除等を行う。
【0041】具体的には、格納容器内の温度、圧力、水
素濃度、放射能及びこれらの推移、及び格納容器周辺の
放射能等の指標を基に、知識ベース16を活用して、自
動的にリアルタイム(現実の事象の進行速度)以上の速
さで評価し、この評価結果に応じて、スプレー系、水素
燃焼系、あるいは圧力逃し弁の作動・確認と解除・確認
とを行う。
【0042】(6)CRT表示システム26 本サブシステムは、指標と指標の組合せの情報を基に、
知識ベース16を活用して、自動的に事故発生後の原子
炉の状態をリアルタイム、予測をリアルタイム以上で表
示するとともに、必要な指示を表示する。
【0043】具体的には、原子炉停止状態の現状、原子
炉冷却状態の現状と予測を含めた推移、格納容器内状態
の現状と予測を含めた推移、及び安全施設の稼働状態等
を把握して表示する。
【0044】以上のような構成の原子力プラント事故対
応支援システムの動作の一例を説明する。ここでは、特
に原子炉停止作動確認・対応システム22(以下、単に
システム22という)の処理内容について図2とともに
説明する。
【0045】何らかのスクラム事故が発生してスクラム
信号が発せられると、システム22は制御盤13に対し
すべての制御棒を挿入するための指令を発する(図2ス
テップS101)。これに応答して制御盤13からプラ
ント設備14に対し制御棒挿入の指示が行われ、システ
ム22に対しその旨の報告が行われると、システム22
はこれを確認する(ステップS102)。
【0046】次に、システム22は、制御棒を保持して
いる電磁石の励磁電流が遮断されたか否かを確認し(ス
テップS103)、遮断されていれば(ステップS10
3;Y)、制御棒挿入の作動開始を確認する(ステップ
S104)。次に、システム22は、各制御棒ごとに設
けられた位置検出センサをチェックして、所定数の制御
棒が落下して定点を通過したか否かを確認する(ステッ
プS105)。この結果、所定数の制御棒の定点通過を
確認したときは(ステップS105;Y)、制御棒の挿
入が行われているものと確認する(ステップS10
7)。さらに、システム22は、最下端部に設けられた
検出センサにより所定数の制御棒が最終位置にまで到達
したか否かを確認し(ステップS107)、到達を確認
したときには(ステップS107;Y)、制御棒挿入が
完了したものと判断する。
【0047】一方、電磁石の励磁電流が遮断されていな
い場合(ステップS103;N)、所定数の制御棒の定
点通過が確認されない場合(ステップS105;N)、
または所定数の制御棒の最終位置への到達が確認されな
い場合には(ステップS107;N)、第一後備停止系
としての硼酸水(ポイズン)注入系の作動指令を発する
(ステップS108)。
【0048】この場合システム22は、ポイズン注入作
動指令の確認をしたのち(ステップS109)、ポイズ
ン注入弁への空気圧を確認し(ステップS110)、こ
れが十分であれば(ステップS110;Y)、ポイズン
注入系が作動したものと判断する(ステップS11
1)。次に、システム22は、ポイズンを貯蔵するポイ
ズンタンクの所定水位位置に設けられた水位検出センサ
によりポイズンタンク内の水位が定点位置を通過したか
否かをチェックし(ステップS112)、通過していれ
ば(ステップS112;Y)、ポイズン注入が実際に行
われていると判断する(ステップS113)。さらに、
システム22は、ポイズンタンクの最下端位置に設けら
れた水位検出センサによりポイズンタンク内の水位が最
低レベルになったか否かをチェックし(ステップS11
4)、なっていれば(ステップS114;Y)、ポイズ
ン注入が完了したものと判断する。
【0049】一方、ポイズン注入弁への空気圧が十分で
ない場合(ステップS110;N)、ポイズンタンク内
の水位が定点位置を通過していない場合(ステップS1
12;N)、またはポイズンタンク内の水位が最低レベ
ルになっていない場合には(ステップS114;N)、
第二後備停止系としての重水ダンプ系の作動指令を発す
る(ステップS115)。
【0050】この場合システム22は、重水ダンプ作動
指令の確認をしたのち(ステップS116)、重水ダン
プ弁の空気圧を確認し(ステップS117)、この減圧
が十分であれば(ステップS117;Y)、重水ダンプ
が作動したものと判断する(ステップS118)。次
に、システム22は、原子炉のカランドリア管を囲む重
水タンクに設けられた水位検出センサにより重水の水位
が定点位置を通過したか否かをチェックし(ステップS
119)、通過していれば(ステップS119;Y)、
重水ダンプが実際に行われていると判断する(ステップ
S120)。さらに、システム22は、重水タンク下端
位置に設けられた水位検出センサにより重水タンク内の
水位が最低レベルになったか否かをチェックし(ステッ
プS121)、なっていれば(ステップS121;
Y)、重水ダンプが完了したものと判断する。一方、重
水ダンプ弁の空気圧が十分でない場合(ステップS11
7;N)、重水の水位が定点位置を通過していない場合
(ステップS119;N)、及び重水タンク内の水位が
最低レベルになっていない場合には(ステップS12
1;N)、重水ドレン弁を開くことにより、重水水位を
低下させて原子炉を臨界未満にする。
【0051】原子炉冷却状態評価・対応システム23に
おいては、上記原子炉供給停止作動確認・対応システム
22の場合と同様に、順次下位のバックアップ装置へバ
ックアップ指令とその確認を行う。すなわち、原子炉冷
却状態の評価の結果、最高出力燃料チャネルのMCHF
Rと原子炉水位が安全領域内にあれば特別の対応は行わ
ないが、安全領域を逸脱した場合には、非常用炉心冷却
系作動信号を発信するとともに、その作動が確実に行わ
れたか否かの確認を行う。非常用炉心冷却系の作動は急
速注水系、高圧注水系、低圧注水系の順で順次行われ、
その作動確認は、急速注水系は蓄圧器の水位と供給水
量、高圧注水系はポンプ作動と復水貯蔵タンク水位と供
給水量、低圧注水系はポンプ作動と復水貯蔵タンク水位
と供給水量をそれぞれチェックすることで行われる。
【0052】この確認の結果、非常用炉心冷却系の3つ
の冷却系(急速注水系、高圧注水系、低圧注水系)が不
作動または完全でない場合には、隔離冷却系の作動指令
を発信し、その作動確認をも行う。隔離冷却系の作動
は、所定の優先順位(例えば、蒸気放出プール、復水貯
蔵タンクの順)で冷却水の供給が行われ、その作動確認
は、ポンプ作動、復水貯蔵タンク水位、及び供給水量等
のチェックにより行われる。隔離冷却系が不作動又は完
全でない場合には、補給水供給系の作動指令を発信し、
その作動確認を、ポンプ作動、補給水貯蔵タンク水位、
及び供給水量等のチェックにより行う。
【0053】このように、本実施例では、スクラム事故
発生時に原子炉緊急停止指令を発した場合に、その指令
に対する現実の作動確認を行いつつ、不作動の場合には
これを早期に検知して次のバックアップ手段を作動させ
ることができる。これと同時に、原子炉冷却状態をリア
ルタイム以上の早さでで評価しつつ、その評価結果に応
じて後備冷却系を作動させることにより、炉心冷却を確
保できる。これにより、スクラム事故発生直後の重要な
初動措置が、運転員の判断に依存せず自動的に極めて迅
速に(例えば数秒以内)採られることとなり、原子炉が
より危険な状態、例えば炉心の溶融等のシビアアクシデ
ントに至るのを未然に防止することができる。
【0054】図3〜図5に圧力管型重水炉における原子
炉冷却に係わる全体ブロックダイアグラムの構成の一例
を示す。原子炉の状態は(1) 中性子束、(2) 原子炉水
位、(3) 原子炉圧力、(4) 原子炉温度(重水温度)、
(5) CHF、(6) 重水水位及び(7) 重水流量の7項目で
確認する。また、スクラム信号が発信された場合にそれ
ぞれの計測値が正常範囲を逸脱している場合にバックア
ップ動作させる系統・機器を示している。
【0055】一次冷却系の破断がない場合の原子炉の冷
却は余熱除去系を用いるが、その後備系として原子炉浄
化系を使用する。また、圧力管型重水炉では、一次冷却
系による原子炉の冷却手段が喪失した場合でも、減速材
の重水による冷却で燃料の崩壊熱が除去でき、シビアア
クシデントに至ることを防止できるので、原子炉の重水
流量が常に確保できるようバックアップとして重水予備
ポンプ、補給水ポンプに動作信号を発するようにしてい
る。
【0056】
【発明の効果】以上説明したように、本発明の第1の原
子力プラント事故対応支援システムによれば、制御棒の
挿入による原子炉の緊急停止が不完全なときでも緊急停
止指令手段が制御棒の挿入による原子炉の緊急停止とは
異なる複数の原子炉緊急停止手段に順次指令して原子炉
を緊急停止するから、原子炉をより確実にかつ安全に停
止させことができる。また、本発明の第1の原子力プラ
ント事故対応支援システムの一態様によれば、制御棒の
挿入による原子炉の緊急停止がなされたときに、冷却指
令手段が原子炉を冷却する複数の原子炉冷却手段を順次
指令して原子炉を冷却するから、原子炉をより確実にか
つ安全に冷却することができる。本発明の第2の原子力
プラント事故対応支援システムによれば、スクラム信号
発生後、原子炉緊急停止手段の作動状態をリアルタイム
で監視し、上位の原子炉緊急停止手段が不作動または不
完全作動の場合には、自動的に順次下位の原子炉緊急停
止手段を作動させるとともに、原子炉冷却手段の作動状
態をリアルタイムで監視し、上位の原子炉冷却手段が不
作動または不完全作動のとき、自動的に順次下位の原子
炉冷却手段を作動させることとしたので、スクラム事故
発生時の原子炉緊急停止と原子炉冷却を確実に担保する
ことができる。これにより、従来のようにスクラム事故
発生時の初動措置の不手際等によりシビアアクシデント
に発展する等の事態を効果的に回避することができる。
【0057】本発明の第2の原子力プラント事故対応支
援システムの一態様によれば、原子炉の冷却状態を、原
子炉水位及び所定の計測情報と最小限界熱流束比(MC
HFR)との関係をまとめた知識ベースを参照して評価
することとしたので、計測データを基に微分方程式等を
解く方法に比べて極めて短時間で原子炉冷却状態を把握
することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例における原子力プラント事故
対応支援システムを示すブロック図である。
【図2】このシステムにおける原子炉緊急停止作動確認
・対応システムの動作内容を示す流れ図である。
【図3】このシステムにおける原子炉冷却状態評価・対
応システムの動作内容を示す流れ図である。
【図4】このシステムにおける原子炉冷却状態評価・対
応システムの動作内容を示す流れ図である。
【図5】このシステムにおける原子炉冷却状態評価・対
応システムの動作内容を示す流れ図である。
【符号の説明】
11 計算機 12 CRTディスプレイ装置 15 指標格納部 16 知識ベース 21 安全施設作動準備常時確認システム 22 原子炉緊急停止作動確認・対応システム 23 原子炉冷却状態評価・対応システム 24 事故同定システム 25 格納容器状態評価・対応システム 26 CRT表示システム
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 井口 幸弘 福井県敦賀市明神町3 動力炉・核燃料 開発事業団新型転換炉ふげん発電所内 (72)発明者 奥沢 良和 福井県敦賀市明神町3 動力炉・核燃料 開発事業団新型転換炉ふげん発電所内 (72)発明者 桜井 直人 福井県敦賀市明神町3 動力炉・核燃料 開発事業団新型転換炉ふげん発電所内 (56)参考文献 特開 昭63−75691(JP,A) 特開 平3−216592(JP,A) 特開 昭61−260191(JP,A) 特公 昭52−2079(JP,B2) (58)調査した分野(Int.Cl.6,DB名) G21D 3/04 GDD G21C 7/22 G21C 7/26 G21C 9/02 G21C 9/033

Claims (4)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 原子力プラントにおけるスクラム事故発
    生時に原子炉に挿入して該原子炉を緊急停止する制御棒
    を有し、該原子炉の緊急停止を監視する原子力プラント
    事故対応支援システムであって、 前記制御棒の挿入による前記原子炉の緊急停止とは異な
    る複数の序列化された原子炉緊急停止手段と、 前記制御棒の挿入による前記原子炉の緊急停止が不完全
    なとき、前記序列化された原子炉緊急停止手段の最上位
    の原子炉緊急停止手段による前記原子炉の緊急停止を指
    令する緊急停止指令手段と、 該指令された原子炉緊急停止手段による前記原子炉の緊
    急停止が適切になされているか否かを判定する緊急停止
    判定手段と を備え、 前記緊急停止指令手段は、前記緊急停止判定手段により
    前記指令された原子炉緊急停止手段による前記原子炉の
    緊急停止が適切になされていないと判定されたとき、該
    指令された原子炉緊急停止手段の次の順位の原子炉緊急
    停止手段を前記最上位の原子炉緊急停止手段として該原
    子炉緊急停止手段による前記原子炉の緊急停止を指令す
    る手段である 原子力プラント事故対応支援システム。
  2. 【請求項2】 請求項1記載の原子力プラント事故対応
    支援システムであって、 前記原子炉を冷却する複数の序列化された原子炉冷却手
    段と、 前記制御棒による前記原子炉の緊急停止がなされたと
    き、前記序列化された原子炉冷却手段の最上位の原子炉
    冷却手段による前記原子炉の冷却を指令する冷却指令手
    段と、 該指令された原子炉冷却手段による前記原子炉の冷却が
    適切になされているか否かを判定する冷却判定手段と
    備え、 前記冷却指令手段は、前記冷却判定手段により前記指令
    された原子炉冷却手段による前記原子炉の冷却が適切に
    なされていないと判定されたとき、該指令され た原子炉
    冷却手段の次の順位の原子炉冷却手段を前記最上位の原
    子炉冷却手段として該原子炉冷却手段による前記原子炉
    の冷却を指令する手段である 原子力プラント事故対応支
    援システム。
  3. 【請求項3】 圧力管型重水炉を用いた原子力プラント
    においてスクラム事故が発生した場合の対応処置を支援
    するためのシステムであって、 スクラム信号に応答して制御棒を原子炉内に全挿入する
    旨の指示を行う制御棒緊急挿入指示手段と、 この制御棒緊急挿入指示手段の指示に応答して制御棒の
    挿入が開始されたか否かを検出する制御棒挿入検出手段
    と、 この制御棒挿入検出手段が制御棒の挿入開始を検出しな
    かったとき、中性子吸収用の硼酸水を原子炉内に緊急注
    入する旨の指示を行う硼酸水緊急注入指示手段と、 この硼酸水緊急注入指示手段の指示に応答して硼酸水の
    注入が開始されたか否かを検出する硼酸水注入検出手段
    と、 硼酸水注入検出手段が硼酸水注入の開始を検出しなかっ
    たとき、中性子減速材としての重水を原子炉から排出す
    る旨の指示を行う重水排出(重水ダンプ)指示手段と、 原子炉の冷却状態を評価する冷却状態評価手段と、 この冷却状態評価手段による評価の結果、原子炉の冷却
    状態が安全圏を逸脱したと判断したとき、原子炉冷却水
    喪失事故発生時に炉心に冷却水を注入するために設けら
    れた非常用炉心冷却システムを作動させる旨の指示を行
    う非常用炉心冷却システム作動指示手段と、 この非常用炉心冷却システム作動指示手段に応答して前
    記非常用炉心冷却システムが作動したか否かを監視し、
    前記非常用炉心冷却システムが作動せず、あるいは作動
    が完全でないとき、前記非常用炉心冷却システムと別個
    に設けられた予備用冷却水供給システムを作動させる旨
    の指示を行う予備用冷却水供給システム作動指示手段
    と、 を具備することを特徴とする原子力プラント事故対応支
    援システム。
  4. 【請求項4】 請求項において、前記冷却状態評価手
    段は、所定の計測情報と最小限界熱流束比(MCHF
    R)との関係をまとめた知識ベースを参照して原子炉冷
    却状態を評価することを特徴とする原子力プラント事故
    対応支援システム。
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