JP2890709B2 - 酸化物超伝導体の処理方法 - Google Patents

酸化物超伝導体の処理方法

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Description

【発明の詳細な説明】 産業上の利用分野 本発明は多層のCuO平面を持つ酸化物超伝導体にX線
照射処理を行い、超伝導特性を改善する超伝導体の製造
方法に関する。
従来の技術 1986年ベドノルツとミュラーによって、LaBaCuO超伝
導体が提案され、転移温度がNb3Geの23Kを超えて以来、
様々な酸化物超伝導体が発見された。1988年にはYBaCuO
系の94Kを超えてBiSrCaCuO系(以下Bi系と称する)、Tl
BaCaCuO系(以下Tl系と称する)において転移温度100K
を超える材料が見出された。これらの材料の特徴はいず
れも3層以上のCuO平面を持っていることである。この
ことから超伝導の転移温度はCuO平面の数やCuO平面間の
相互作用によって強く影響されることが分かった(前田
et al.Jpn.J.Appl.Phys.27(1989)L209,シェン et
al.Nature 332(1988)138)。一方、酸化物超伝導体の
転移温度は同時にキャリア濃度にもまた大きく依存し、
キャリアの供給源である酸素濃度と強い相関があること
が分かった。しかし、ある一定の多層平面構造に、最適
のキャリア濃度を与えることは困難であった。
発明が解決しようとする課題 Bi系、Tl系においてはいずれもCuO平面を3層以上単
位格子中に持つ系が実現されている。特に近年、人工格
子形成技術の発展によってこれらの系の薄膜作製が容易
となり、その物性を調べることが可能となった。これら
の系を1気圧の酸素中でアニールすると、転移温度(以
下Tcと称する)はCuO平面が増加するにつれて上昇しCuO
平面数(n)が3の時最大値をとり、Bi系、Tl系ともに
Tc=約120Kの値をとる。しかしこれ以上平面の数を増や
しても逆にTcは低下して行く。したがって通常の酸素ア
ニールではTcはTl2Ba2Ca2Cu3Oxでの125Kで最大値であっ
た。Tcを変化させる要因はCuO平面数だけでなく、酸化
物超伝導体のキャリアの種類と濃度である。例えば1層
のCuO平面を持つTl系においてはTcは導入されるキャリ
ア濃度によって0Kより80Kまで変化する(Y.Shimakawa e
t al.Physica C 157(1989)279))。すなわちTcはあ
る定まったCuO平面数においてその平面数特有のキャリ
ア濃度が存在するときに最大値を示す。しかしながら容
易に試料中の酸素濃度を変化されてキャリア濃度を最適
にすることが困難であったために平面数が多いBi系、Tl
系においてはその研究が遅れていた。
本発明は上記従来の課題を解決するもので、酸化物超
伝導体の薄膜中の酸素を容易に制御できる超伝導体の製
造方法を提供することを目的とする。
課題を解決するための手段 この目的を達成するために本発明の酸化物超伝導体
は、内部の酸素が予め過剰にされた状態において、X線
の照射を受け、前記過剰の酸素が取り出されて行くこと
により、内部の酸素量が所定量に制御されることを特徴
とするものである。また、上記目的を達成するために本
発明の酸化物超伝導体の処理方法は、酸素が予め過剰の
状態にされた酸化物超伝導体に対してX線を照射し、前
記過剰の酸素を酸化物超伝導体から取り出して行くこと
により酸化物超伝導体中の酸素量を所定量に制御するこ
とを特徴とするものである。
作用 酸化物超伝導体は、内部の酸素が予め過剰にされた状
態において、X線の照射を受、前記過剰の酸素が取り出
されて行くことにより、酸素量が所定量に制御される 実施例 以下本発明の一実施例について説明する。
本実施例においては、酸化物超伝導体としてAmB2Ca
n-1CunOxである銅酸化物で、AはBi,Tl,Yおよびランタ
ン系列元素(原子番号57から71)のうち少なくとも一
種、BはIIa属元素のうち少なくとも一種であり、mが
1または2であるものの中から、BiSrCaCuO系(Bi
系)、TlBaCaCuO系(Tl系)を例として説明する。なお
試料としては人工格子作製法によってnが3以上である
Bi系、Tl系の酸化物超伝導体の薄膜を作製した(H.Adac
hiet al.Jpn.j.Appl.Phys.27(1989)L1883)。
銅酸化物超伝導体の薄膜を例えば多元スパッタリング
法で基板上に形成する。この方法ではCaとCuOの原子を
より多く基板に飛来させることにより非平衡的に数多く
のCuO平面を持った酸化物超伝導体の薄膜を作製するこ
とが可能であり、Bi系、Tl系でCuO平面が6(以下CuO平
面の層数をnで表示する)までの系が作製されている。
第1図はTl系、Bi系酸化物超伝導体におけるCuO平面
の層数とTcの関係を示す図である。第1図において、11
はBi系のTc、12はTl系のTcを示している。図に示すよう
にBi系、Tl系ともに1気圧の酸素中でアニールした時、
Tcはn=3で最大値をとりn>3ではTcが低下して行
く。超伝導特性はCuO平面の数だけではなく、その結晶
構造におけるキャリアの濃度に強く依存しているから、
結晶構造を保ったままで容易に試料中の酸素濃度、すな
わちキャリア濃度を最適に調節してやる必要がある。
一般にBi系、Tl系ではキャリア過剰の状態にあるので
このままX線を照射してキャリア濃度を減少させていっ
てもよいのであるが、予め人工的にキャリア過剰の状態
にしておいてX線を照射することによりさらに良い結果
が得られる。n>3であるような熱平衡的にもろい試料
に過剰の酸素を導入してホール濃度を増加させるために
は、酸素イオン打ち込み法や酸素ラディカル照射法が有
効である。高圧酸素処理法ではn>3である試料の構造
を破壊してよりnの少ない構造に変化させる可能性が高
いが、時としては有効である。しかしできる限り高温処
理は避けたほうがよい。
このようにして過剰のキャリヤ濃度を実現すると電気
伝導特性は金属的となり、第2図に示すように普通は超
伝導特性を消去する。なお第2図はBi系酸化物超伝導体
のn=5の試料にX線を照射した時の電気抵抗と温度の
関係を示す図である。
この試料にX線を照射して行くのであるが、X線の吸
収長は約1マイクロメーターであるので膜厚が吸収長以
下では十分にX線の効果がある。我々の薄膜はすべて膜
厚が1マイクロメーター以下であるのでX線を照射する
ことによって過剰濃度の酸素を除去することができる。
次にX線を試料に照射して行くと、第2図に示すよう
にいったん消失した超伝導特性が復活して行く。注意深
くX線を照射して行くとある照射時間でTcは最大とな
り、さらにX線を照射して行くと再びTcは低下し始める
とともに正常状態の電気抵抗率が増加し始め、ついには
超伝導特性を消失して半導体となってしまう。このこと
より、あるCuO平面構造を決めてキャリア濃度を変化さ
せて行くことによりその平面数が実現しうる最大のTcを
与えるようにキャリア濃度を最適に調節することが重要
であることが分かる。
以下に具体的な実施例について説明する。
MgO単結晶(100)面を基板として用い、3種のターゲ
ットを持つDCプレナーマグネトロンスパッタリング法に
よりn>3である多層構造のBi系人工格子を作製した。
スパッタリングに用いた金属ターゲットはBi,SrCu,CaCu
である。スパッタリングガスは(Ar:O2)の比が5:1の混
合ガスであり、スパッタリング電力はBiターゲットが5.
8W、SrCu合金ターゲットが9.2W、CaCu合金ターゲットが
52Wであり、各ターゲットを順次スパッタして原子層を
堆積していき人工格子を作製する。試料の組成や、CuO
平面の数はそれぞれのターゲットのスパッタリング時間
を変化させることによって調整する。現在までにCuO平
面の数が最高n=6の人工格子が実現されており、その
層数とTcとの関係を第3図に示した。なお第3図はBi系
酸化物超伝導体の試料にX線を照射する前後のTcとCuO
平面数の関係を示す図である。第3図の31で示す曲線は
成膜直後の試料のTc、32はX線照射後の試料のTcを示し
ている。第3図の31で示すように、成膜直後ではBi系の
人工格子においてもTcはn=3で最高値を取りTc=110K
となる。n>3ではTcは下がりはじめn=6では超伝導
特性を消失し、半導体となってしまう。TcはCuO平面の
数だけでなくキャリア濃度に強く依存する。一般にBi系
ではホール過剰であるので、特に酸素注入処理はせず、
成膜直後の試料にX線を照射することによって過剰であ
るホール濃度を最適値に調整する。このX線照射はRh管
を用い、50kVで真空中において室温で行なわれた。第3
図の32で示すように、n=3の試料において数分の照射
でTcの最高値121Kが得られた。またいずれの層数におい
ても数分から数十分の照射によってTcの上昇が見られ
た。このように本発明によって、多層構造においてキャ
リア密度が簡単に最適濃度に調整されることが確認され
た。Tl系での試料でもほぼ同様の結果が得られた。
発明の効果 以上のように、本発明によれば、酸化物超伝導体は、
内部の酸素が予め過剰にされた状態において、X線の照
射を受け、前記過剰の酸素が取り出されて行くことによ
り、高温のアニールを必要とせず、室温で結晶構造を保
存した状態で、酸素量が所定量に制御される。このこと
により、キャリア濃度を高精度に決定できる。また本発
明はTcの高温化を達成するための有力な可能性を示した
ものであり、特にこの種の薄膜型酸化物超伝導体の臨界
温度を130K以上に上昇させる可能性が高く、本発明の工
業的価値は高い。
【図面の簡単な説明】
第1図はTl系,Bi系酸化物超伝導体におけるCuO平面の層
数とTcの関係を示す特性図、第2図はBi系酸化物超伝導
体のn=5の試料にX線を照射した時の電気抵抗と温度
の関係を示す特性図、第3図はBi系酸化物超伝導体の試
料にX線を照射する前後のTcとCuO平面の層数の関係を
示す特性図である。
フロントページの続き (58)調査した分野(Int.Cl.6,DB名) H01L 39/00 H01L 39/24 H01L 39/22

Claims (4)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】酸素が予め過剰の状態にされた酸化物超伝
    導体に対してX線を照射し、前記過剰の酸素を前記酸化
    物超伝導体から取り出すことにより、前記酸化物超伝導
    体中の酸素量を所定量に制御することを特徴とする酸化
    物超伝導体の処理方法。
  2. 【請求項2】酸化物超伝導体は、酸素が予め導入される
    ことにより、酸素が過剰の状態になっている請求項1記
    載の酸化物超伝導体の処理方法。
  3. 【請求項3】酸化物超伝導体は、酸素が予め過剰にされ
    て超伝導特性が消去した状態にある請求項1記載の酸化
    物超伝導体の処理方法。
  4. 【請求項4】酸化物超伝導体は、薄膜状に形成され、そ
    の膜厚がX線の吸収長以下であることを特徴とする請求
    項1、2又は3に記載の酸化物超伝導体の処理方法。
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