JP2882701B2 - 固体試料直接分析方法 - Google Patents

固体試料直接分析方法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、鉄鋼などの固体試料中
の成分を迅速かつ高精度で定量する直接分析方法に関す
る。
【0002】
【従来の技術】近年、素材の高純度化あるいは付加価値
の転化が進み、製品の特性を左右する素材中成分の定量
が重要となっている。現在これらの成分の分析には、精
度や感度がすぐれて多元素同時分析が可能な高周波誘導
結合プラズマ(以下、ICPと略称する)発光分析法、
あるいは最近ではより高感度な分析を目的としているI
CP質量分析法などが用いられている。しかし、鉄鋼な
どの固体試料を分析するためには、これらの方法では試
料を溶解する必要があり、その前処理に時間を要すると
か、試薬,溶媒により汚染のおそれがあるなどの問題が
ある。
【0003】素材中の成分を直接分析する方法として
は、試料形状や量,導電性の有無を問わない方式の一つ
として、レーザ光照射−気化−ICP質量分析法の検討
が行われている。この方法は試料の前処理による成分の
揮散もなく、多くの元素について迅速な定量分析が可能
である。このレーザ光照射−気化−ICP質量分析法で
は、レーザ光の照射ごとのサンプリング量の変動の影響
を抑えるため、各成分のイオン強度はマトリックスのイ
オン強度との比をとってサンプリング量を補正すること
が、たとえば、論文P.Arrowsmith:「Laser Ablation o
f Solids for Elemental Analysis by Inductively Cou
pled Plasma Mass Spectrometry」(Anal.Chem., 1987,
59, 1437-1444) になど報告されている。
【0004】本発明者らはこの方法に基づき純鉄中の微
量元素の定量を試みたが、その結果の一例を表1に示し
た。なお、表中の元素記号に付した*印はQスイッチモ
ードである。また、サンプリング数はいずれも5個であ
る。
【0005】
【表1】
【0006】この表からわかるように、Co, Niなどの重
金属元素はバックグランド強度の影響がほとんどなく、
マトリックスイオン強度でサンプリング量を補正するだ
けで良好な分析精度を得ることができた。これに対し、
Si, Pなどの軽元素はガスブランクに含まれるN2, NOH
などの分子イオンピークと重複し、正確さと分析精度の
いずれもよくなかった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記のよう
な従来法の課題を解決すべくしてなされたものであっ
て、レーザ光照射−気化−ICP質量分析法を用いても
ガスブランク強度の大きいSi, Pなどの軽元素の正確さ
および分析精度の高い固体試料直接分析方法を提供する
ことを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明は、レーザ光を照
射して固体試料を気化して生成したエアロゾルを、高周
波誘導結合プラズマ質量分析装置に導入して固体試料中
の成分を定量するに際し、マトリックスとアルゴンの両
方のイオン強度を用いて分析対象元素のイオン強度を補
正することを特徴とする固体試料直接分析方法である。
【0009】
【作 用】本発明者らは、上記したレーザ光照射−気化
−ICP質量分析法を用いて、SiやPなどの軽元素の分
析精度を高めるべく鋭意研究・実験を行った結果、バッ
クグランド強度の大きい軽元素を定量する際に単にマト
リックスイオン強度だけでイオン強度を補正すると、バ
ックグランド強度分もサンプリング量で補正してしまう
ので、あらかじめガスブランクにおける目的成分の質量
数のイオン強度を測定し、重複するバックグランド強度
を差し引く必要があることを見出した。そしてこのと
き、サンプリング量の変化の影響を受けることがなく、
プラズマの状態やイオン透過率の変化の影響をよく表し
ていると考えられるアルゴンイオン強度による補正を加
え、バックグランド強度の経時変化を抑えるようにする
ことが重要である。
【0010】通常、ICP質量分析法では、プラズマに
用いるArガスやその中に含まれる不純物ガス、あるいは
大気中の窒素や酸素との分子イオンがバックグランドと
して現れる。レーザ光照射によるサンプリングの場合
は、溶液の場合に比べて水などの溶媒が存在しない分だ
けバックグランドとなるイオン種は少ないが、それでも
図1に示すような分子イオンピークが質量数40以下にお
いて特に顕著に現れ、軽元素分析時の感度および精度に
影響を与える。
【0011】たとえば、Siは同位体比が最も大きい質量
数28においてN2, COなどの分子イオンピークが、また質
量数31のPではNOH の分子イオンピークが現れ、これら
の元素の定量値に影響を与えている。このことから、軽
元素を定量する際にはあらかじめガスブランクにおける
目的成分の質量数のイオン強度を測定し、下記式(数
1)に示すように重複するバックグランド強度を差し引
いた補正値ΔIを求める必要がある。
【0012】
【数1】
【0013】 ここで、IX :測定試料の目的成分Xの強度 IFe:測定試料の57Fe(マトリックス)強度 BX :ガスブランクの目的成分Xの強度 しかし、バックグランド強度BX は、たとえば31Pのそ
れを示した表2からわかるように、測定回数の増加にと
もない変動するため、試料のイオン強度が測定開始前の
ガスブランクのイオン強度を下回る場合が生じる。
【0014】
【表2】
【0015】この理由としては、プラズマ状態の変化や
あるいはイオンレンズ系の汚染によりイオン透過率が減
少し、検出されるイオン強度が低下することなどが考え
られる。したがって、補正値ΔIとして試料のイオン強
度から測定前のバックグランド強度を単に差し引くだけ
では、正確な定量値を得ることができないことがわか
る。
【0016】そこで、精度の高いバックグランド強度の
補正方法としては、イオン源がアルゴンプラズマである
ことから、サンプリング量の変化の影響を受けることが
なく、プラズマの状態やイオン透過率の変化をよく表し
ていると考えられるアルゴンイオン強度で補正すること
が必要である。アルゴンイオンとしては、検出感度を考
慮すると、同位体比の小さい質量数38のイオンと2分子
イオンである質量数76(=36+40)のイオンが適してい
る。しかし、ICP質量分析法に特有の質量効果すなわ
ち重元素イオンによる軽元素イオンの散乱が起こり(た
とえば、河口著「ICP質量分析の最近の動向」プラズ
マスペクトロスコピィ,7,153,(1987)参照) 、目的
元素と補正元素の質量数が離れていると、イオン強度の
挙動に差が生じ、補正がうまくできなくなるおそれがあ
るため、目的元素であるPやSiの質量数に近い38Arを用
いることが望ましい。
【0017】この38Arを用いた補正値ΔIArの演算式を
下記式(数2)に示した。
【0018】
【数2】
【0019】ここで、IAr :測定試料の38Ar強度 IAr0 :ガスブランクの38Ar強度
【0020】
【実施例】以下に、本発明の実施例について説明する。
レーザ光照射−気化−ICP質量分析法を用いて純鉄中
の微量元素の定量を行う際に、軽元素であるSiとPにつ
いて本発明法による前出式(数2)を用いて補正した。
その結果を表3に示した。なお、比較のために、ガスブ
ランクの補正のない場合および前出式(数1)による補
正の結果をも同表に併せて示した。測定データのサンプ
リング数はいずれも5個である。また、マトリックスイ
オン強度による補正はすべてについて行った。
【0021】
【表3】
【0022】表3において、上記の元素Si,Pはいずれ
もバックグランド強度が大きいのであることから、ガス
ブランク補正を行わない場合、あるいは式(数1)の補
正のみでは分析精度がよくないが、式(数2)を用いて
38Arイオン強度でバックグランド強度の変化を補正した
本発明法は、明らかに分析精度が向上していることがわ
かる。また、SiについてはNBS 標準試料を用いて調べた
結果、38Arイオン強度の補正により、検出下限が380 pp
m から220 ppm に低減することが確認されている。
【0023】
【発明の効果】以上説明したように本発明によれば、バ
ックグランド強度が大きく、従来のマトリックスイオン
のみによる補正では定量が困難であったSi,Pなどの低
質量数元素について、マトリックスとアルゴンの両方の
イオン強度を用いて分析対象元素のイオン強度を補正す
るようにしたので、サンプリング量およびバックグラン
ド強度の変動によるイオン強度の変化を抑えることが可
能となり、分析精度の向上さらには定量下限の低減を図
ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】バックグランドの質量スペクトルを示す特性図
である。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (56)参考文献 特開 平3−20952(JP,A) 特開 昭64−6351(JP,A) 実開 平3−42554(JP,U) 実開 昭64−23868(JP,U) 「材料とプロセス」、第3巻 (1990)、第5号、第1301頁 (58)調査した分野(Int.Cl.6,DB名) G01N 27/62 - 27/70 H01J 49/00 - 49/48

Claims (1)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 レーザ光を照射して固体試料を気化し
    て生成したエアロゾルを、高周波誘導結合プラズマ質量
    分析装置に導入して固体試料中の成分を定量するに際
    し、マトリックスとアルゴンの両方のイオン強度を用い
    て分析対象元素のイオン強度を補正することを特徴とす
    る固体試料直接分析方法。
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JP2001324476A (ja) * 2000-05-15 2001-11-22 Murata Mfg Co Ltd 誘導結合プラズマ質量分析方法

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「材料とプロセス」、第3巻(1990)、第5号、第1301頁

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