JP2803070B2 - 抗血栓性医用材料および人工器官 - Google Patents
抗血栓性医用材料および人工器官Info
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- JP2803070B2 JP2803070B2 JP8014781A JP1478196A JP2803070B2 JP 2803070 B2 JP2803070 B2 JP 2803070B2 JP 8014781 A JP8014781 A JP 8014781A JP 1478196 A JP1478196 A JP 1478196A JP 2803070 B2 JP2803070 B2 JP 2803070B2
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Description
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、新規な生体適合性材
料、特に、人工血管、人工臓器、カテーテル等に使用さ
れる抗血栓性、組織適合性に優れた抗血栓性医用材料お
よびそれを用いた人工器官、人工血管に関するものであ
る。
料、特に、人工血管、人工臓器、カテーテル等に使用さ
れる抗血栓性、組織適合性に優れた抗血栓性医用材料お
よびそれを用いた人工器官、人工血管に関するものであ
る。
【0002】
【従来の技術】近年、医療のめざましい進歩と共に、直
接血液と接触する個所に各種医療用器具、例えば人工血
管、血管カテーテル、体外循環血液回路、人工臓器など
が広く用いられるようになってきた。これらの直接血液
と接触する個所に用いられる医療用器具は、耐久性など
物理的性質が良好であることは勿論のこと、さらに、抗
血栓性、組織適合性等の生体適合性に優れたものである
ことが要求される。従来、例えば、人工血管において
は、8mm以上の口径の広い人工血管として、多孔性ポ
リエステルにより形成されたものと、多孔性ポリテトラ
フルオロエチレンにより形成されたものが使用されてい
る。ポリエステル製の人工血管は、人工血管移植後に血
管基材を覆う内皮細胞が有する天然の抗血栓性を利用し
ている。つまり、人工血管を形成する多孔性ポリエステ
ルへの組織侵入性を利用している。よって、この人工血
管では内面に生体組織が付着しやすく、人工血管の内面
への新生内膜の形成が速く、このため、人工血管を形成
する多孔性ポリエステルのグラフト内への生体組織の侵
入、人工血管の器質化が良好であり長期の組織修復が優
れている。さらに、形成された新生内膜が人工血管内面
に強固に成育するため、その剥離が少なく、長期にわた
る開存性を有するという特徴を有している。また、多孔
性ポリテトラフルオロエチレンを用いた人工血管は、そ
の材質の有する抗血栓性を利用するものであり、初期の
抗血栓性に対して優れた効果を有している。
接血液と接触する個所に各種医療用器具、例えば人工血
管、血管カテーテル、体外循環血液回路、人工臓器など
が広く用いられるようになってきた。これらの直接血液
と接触する個所に用いられる医療用器具は、耐久性など
物理的性質が良好であることは勿論のこと、さらに、抗
血栓性、組織適合性等の生体適合性に優れたものである
ことが要求される。従来、例えば、人工血管において
は、8mm以上の口径の広い人工血管として、多孔性ポ
リエステルにより形成されたものと、多孔性ポリテトラ
フルオロエチレンにより形成されたものが使用されてい
る。ポリエステル製の人工血管は、人工血管移植後に血
管基材を覆う内皮細胞が有する天然の抗血栓性を利用し
ている。つまり、人工血管を形成する多孔性ポリエステ
ルへの組織侵入性を利用している。よって、この人工血
管では内面に生体組織が付着しやすく、人工血管の内面
への新生内膜の形成が速く、このため、人工血管を形成
する多孔性ポリエステルのグラフト内への生体組織の侵
入、人工血管の器質化が良好であり長期の組織修復が優
れている。さらに、形成された新生内膜が人工血管内面
に強固に成育するため、その剥離が少なく、長期にわた
る開存性を有するという特徴を有している。また、多孔
性ポリテトラフルオロエチレンを用いた人工血管は、そ
の材質の有する抗血栓性を利用するものであり、初期の
抗血栓性に対して優れた効果を有している。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかし、上記の多孔性
ポリエステルを用いた人工血管では、その内径が大きい
場合には、移植直後より内面に血栓が付着し、その後、
内皮細胞がその表面を覆って天然の血管と同様な表面構
造を形成する。このため、天然の抗血栓性を得ることが
できる。しかし、細径、特に5mm以下の人工血管で
は、付着した血栓により人工血管が閉塞し易く、使用で
きないという問題点を有していた。また、上記の多孔性
ポリテトラフルオロエチレンを用いた人工血管では、使
用している材質が、生体に不活性なものであることよ
り、組織修復が非常に遅れる傾向がある。つまり、多孔
性内壁内に生体組織が入りにくいので、新生内膜がグラ
フトの中央部に形成されにくく、器質化が遅れるととも
に、人工血管の外面側に形成される生体組織と内面側に
形成される生体組織との結合も不十分なものとなり、移
植された人工血管の両端吻合部より成育しつづけてきた
新生内膜が、剥離しやすいものとなる。この剥離物は、
血栓形成の原因となる。また、人工血管移植後、血流末
梢側吻合部付近で部分的に新生内膜のもりあがり(肥
厚)が起こり、長期的には閉塞することがあった。
ポリエステルを用いた人工血管では、その内径が大きい
場合には、移植直後より内面に血栓が付着し、その後、
内皮細胞がその表面を覆って天然の血管と同様な表面構
造を形成する。このため、天然の抗血栓性を得ることが
できる。しかし、細径、特に5mm以下の人工血管で
は、付着した血栓により人工血管が閉塞し易く、使用で
きないという問題点を有していた。また、上記の多孔性
ポリテトラフルオロエチレンを用いた人工血管では、使
用している材質が、生体に不活性なものであることよ
り、組織修復が非常に遅れる傾向がある。つまり、多孔
性内壁内に生体組織が入りにくいので、新生内膜がグラ
フトの中央部に形成されにくく、器質化が遅れるととも
に、人工血管の外面側に形成される生体組織と内面側に
形成される生体組織との結合も不十分なものとなり、移
植された人工血管の両端吻合部より成育しつづけてきた
新生内膜が、剥離しやすいものとなる。この剥離物は、
血栓形成の原因となる。また、人工血管移植後、血流末
梢側吻合部付近で部分的に新生内膜のもりあがり(肥
厚)が起こり、長期的には閉塞することがあった。
【0004】よって、細径の人工血管としては、初期に
は抗血栓性を有し、生体組織が厚く付着することを防止
し、さらに、早期に新生内膜の形成が行われることが必
要となる。しかし、新生内膜の形成、成育といった細胞
の増殖性と抗血栓性とは現時点では相反する傾向にあ
り、抗血栓性を持たせるということは、血小板の凝集を
極力抑制させることが一般的であり、血小板は細胞が増
殖するために必要な要素を多く含有しており、特に、そ
の要素は血小板内のα顆粒中に多く含まれている。しか
し、このα顆粒は血小板が凝集しないと放出されないも
のといわれている。したがって、現状では、抗血栓性と
新生内膜の形成、成育といった細胞の増殖性の両者の性
質を有するものはなかった。
は抗血栓性を有し、生体組織が厚く付着することを防止
し、さらに、早期に新生内膜の形成が行われることが必
要となる。しかし、新生内膜の形成、成育といった細胞
の増殖性と抗血栓性とは現時点では相反する傾向にあ
り、抗血栓性を持たせるということは、血小板の凝集を
極力抑制させることが一般的であり、血小板は細胞が増
殖するために必要な要素を多く含有しており、特に、そ
の要素は血小板内のα顆粒中に多く含まれている。しか
し、このα顆粒は血小板が凝集しないと放出されないも
のといわれている。したがって、現状では、抗血栓性と
新生内膜の形成、成育といった細胞の増殖性の両者の性
質を有するものはなかった。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明の目的は、初期に
は抗血栓性を有し、生体組織の厚い付着および血栓の形
成を防止し、さらに、早期に新生内膜の形成が行われ、
かつ、その剥離がなく、形成された新生内膜により長期
的に抗血栓性作用を発揮できる抗血栓性医用材料および
それを用いた人工血管、カテーテル、人工臓器などの人
工器官を提供するものである。
は抗血栓性を有し、生体組織の厚い付着および血栓の形
成を防止し、さらに、早期に新生内膜の形成が行われ、
かつ、その剥離がなく、形成された新生内膜により長期
的に抗血栓性作用を発揮できる抗血栓性医用材料および
それを用いた人工血管、カテーテル、人工臓器などの人
工器官を提供するものである。
【0006】上記目的を達成するものは、高分子材料に
より形成された基材と、該基材の表面に形成されたフィ
ブリン層を有し、該フィブリン層の表面層のみが加水分
解されたフィブリン層部分となっている抗血栓性医用材
料である。そして、前記加水分解されたフィブリン層部
分は、前記フィブリン層の表面にプラスミンを接触させ
ることにより形成されたプラスミンによる加水分解フィ
ブリン層部分であることが好ましい。そして、前記基材
は、多孔性基材であることが好ましい。また、前記フィ
ブリン層は、前記基材表面にてフィブリノーゲンをトロ
ンビンにより加水分解させることにより形成したもので
あることが好ましい。
より形成された基材と、該基材の表面に形成されたフィ
ブリン層を有し、該フィブリン層の表面層のみが加水分
解されたフィブリン層部分となっている抗血栓性医用材
料である。そして、前記加水分解されたフィブリン層部
分は、前記フィブリン層の表面にプラスミンを接触させ
ることにより形成されたプラスミンによる加水分解フィ
ブリン層部分であることが好ましい。そして、前記基材
は、多孔性基材であることが好ましい。また、前記フィ
ブリン層は、前記基材表面にてフィブリノーゲンをトロ
ンビンにより加水分解させることにより形成したもので
あることが好ましい。
【0007】また、上記目的を達成するものは、上記の
抗血栓性医用材料により、少なくとも血液と接触する面
が形成されている人工器官である。そして、前記人工器
官は、例えば、人工血管、カテーテル、人工臓器であ
る。また、上記目的を達成するものは、高分子材料によ
り形成された管状体と、該管状体の内表面に形成された
フィブリン層を有し、該フィブリン層の表面層のみが加
水分解されたフィブリン層部分となっている人工血管で
ある。
抗血栓性医用材料により、少なくとも血液と接触する面
が形成されている人工器官である。そして、前記人工器
官は、例えば、人工血管、カテーテル、人工臓器であ
る。また、上記目的を達成するものは、高分子材料によ
り形成された管状体と、該管状体の内表面に形成された
フィブリン層を有し、該フィブリン層の表面層のみが加
水分解されたフィブリン層部分となっている人工血管で
ある。
【0008】そこで、本発明の抗血栓性医用材料を図面
に示した実施例を参照して説明する。本発明の抗血栓性
医用材料1は、高分子材料により形成された基材2の表
面に、少なくとも表面が加水分解されたフィブリン層3
を有している。そこで、第1図を参照して説明する。
に示した実施例を参照して説明する。本発明の抗血栓性
医用材料1は、高分子材料により形成された基材2の表
面に、少なくとも表面が加水分解されたフィブリン層3
を有している。そこで、第1図を参照して説明する。
【0009】第1図は、本発明の抗血栓性医用材料の一
実施例の断面図である。この抗血栓性医用材料1では、
高分子材料により形成された基材2の表面に、フィブリ
ン層3が設けられるとともに、このフィブリン3の表面
は加水分解された部分4となっている。本発明において
基材の形成に用られる高分子材料1としては、例えば、
ナイロン、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレ
ン、ポリウレタン、シリコン、ポリテトラフルオロエチ
レンなどの機械的性能の優れた合成高分子材料、あるい
は、天然血管、尿管等、生体に由来する組織、器官等を
用いることができる。また、合成高分子材料を用いる場
合は、フィブリンとの固着性の点から、その多孔質物が
好ましい。多孔質物としては、延伸法、固液層分離法な
どにより形成したものが好ましい。
実施例の断面図である。この抗血栓性医用材料1では、
高分子材料により形成された基材2の表面に、フィブリ
ン層3が設けられるとともに、このフィブリン3の表面
は加水分解された部分4となっている。本発明において
基材の形成に用られる高分子材料1としては、例えば、
ナイロン、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレ
ン、ポリウレタン、シリコン、ポリテトラフルオロエチ
レンなどの機械的性能の優れた合成高分子材料、あるい
は、天然血管、尿管等、生体に由来する組織、器官等を
用いることができる。また、合成高分子材料を用いる場
合は、フィブリンとの固着性の点から、その多孔質物が
好ましい。多孔質物としては、延伸法、固液層分離法な
どにより形成したものが好ましい。
【0010】そして、この多孔性基材を用いた実施例の
断面図を第2図に示す。このような多孔性基材を用いる
と、第2図に示すように、基材の細孔内にフィブリンが
入り込んで、フィブリン層を形成するため、基材とフィ
ブリン層との固着性がより、良好となる。また、基材と
して、人工血管に好適に使用できる管状体5、特に、高
分子材料により形成された多孔性管状体5を用いた場合
の断面図を第3図に示す。この管状体においても、第2
図に示すものと同様に、管状体の細孔内にフィブリンが
入り込んで、フィブリン層3を形成するため、基材とフ
ィブリン層との固着性が良好である。そして、フィブリ
ン層3は、精製フィブリノーゲン、プラズマ、あるいは
クリオプレシピテイトの中から選ばれた少なくとも1種
を出発材料として形成される。なお、クリオプレシピテ
イトは、血漿を凍結、冷却遠心を繰り返してフィブリノ
ーゲン濃度を高めて得られたものである。そして、フィ
ブリン層3の少なくとも表面を加水分解された層4を形
成する方法として、蛋白分解酵素によりフィブリン層を
処理することが考えられる。そして、蛋白分解酵素とし
ては、プラスミンが好適に使用できる。
断面図を第2図に示す。このような多孔性基材を用いる
と、第2図に示すように、基材の細孔内にフィブリンが
入り込んで、フィブリン層を形成するため、基材とフィ
ブリン層との固着性がより、良好となる。また、基材と
して、人工血管に好適に使用できる管状体5、特に、高
分子材料により形成された多孔性管状体5を用いた場合
の断面図を第3図に示す。この管状体においても、第2
図に示すものと同様に、管状体の細孔内にフィブリンが
入り込んで、フィブリン層3を形成するため、基材とフ
ィブリン層との固着性が良好である。そして、フィブリ
ン層3は、精製フィブリノーゲン、プラズマ、あるいは
クリオプレシピテイトの中から選ばれた少なくとも1種
を出発材料として形成される。なお、クリオプレシピテ
イトは、血漿を凍結、冷却遠心を繰り返してフィブリノ
ーゲン濃度を高めて得られたものである。そして、フィ
ブリン層3の少なくとも表面を加水分解された層4を形
成する方法として、蛋白分解酵素によりフィブリン層を
処理することが考えられる。そして、蛋白分解酵素とし
ては、プラスミンが好適に使用できる。
【0011】フィブリンは、フィブリノーゲンをトロン
ビンの作用により限定分解し、フィブリノペプチドAお
よびBを遊離して生成されるものである。具体的に説明
すると、フィブリノーゲンは、酵素トロンビンによっ
て、加水分解され、その構成ペプチド鎖のうちAα鎖か
らフィブリノペプチドA(FPA)、Bβ鎖からフィブ
リノペプチドB(FPB)を放出し、フィブリンモノマ
ーとなる。フィブリンモノマーは、凝固重合し、不安定
フィブリンポリマー(可溶性フィブリンポリマー)とな
る。さらに、トロンビンによって水解、Ca2+イオンに
よって活性化された活性型第XIII因子によって、Ca2+
イオンの存在下でフィブリン分子間のγ鎖間が架橋(リ
ジン残基とグルタミン残基の間のイソペプチド結合)
し、強固な安定フィブリンポリマー(不溶性フィブリン
ポリマー)となる。本発明におけるフィブリン層3は、
この不溶性フィブリンポリマーにより形成されている。
ビンの作用により限定分解し、フィブリノペプチドAお
よびBを遊離して生成されるものである。具体的に説明
すると、フィブリノーゲンは、酵素トロンビンによっ
て、加水分解され、その構成ペプチド鎖のうちAα鎖か
らフィブリノペプチドA(FPA)、Bβ鎖からフィブ
リノペプチドB(FPB)を放出し、フィブリンモノマ
ーとなる。フィブリンモノマーは、凝固重合し、不安定
フィブリンポリマー(可溶性フィブリンポリマー)とな
る。さらに、トロンビンによって水解、Ca2+イオンに
よって活性化された活性型第XIII因子によって、Ca2+
イオンの存在下でフィブリン分子間のγ鎖間が架橋(リ
ジン残基とグルタミン残基の間のイソペプチド結合)
し、強固な安定フィブリンポリマー(不溶性フィブリン
ポリマー)となる。本発明におけるフィブリン層3は、
この不溶性フィブリンポリマーにより形成されている。
【0012】そして、このフィブリン層3を加水分解す
るために用いられるプラスミンは、蛋白質分解酵素であ
り、基質がフィブリンおよびフィブリノーゲンであり、
フィブリンの43番目のリジンと44番目のトリプトフ
ァンの間を切断するものと言われている。そして、フィ
ブリンのプラスミン分解産物は、抗トロンビン作用を有
している。フィブリン層3が上記のプラスミンにより処
理されることにより、その少なくとも表面が加水分解さ
れ、加水分解された部分の状態は、フィブリンを構成し
ているα,β,γ鎖がプラスミンにより消化を受けた残
余物(加水分解部分、フラグメントX,Y,D,E)と
未だに消化を受けていない部分(未加水分解部分)が混
在する状態となっているものと考えられ、上記の加水分
解部分は、プラスミンとの接触表面であるフィブリン層
の表面層に多く存在するものと考えられる。加水分解部
分と未加水分解部分の存在割合、またフラグメントの存
在割合、さらに加水分解部分と未加水分解の存在形態
は、プラスミンの処理時間、プラスミンの酵素活性によ
り変化するものと思われる。
るために用いられるプラスミンは、蛋白質分解酵素であ
り、基質がフィブリンおよびフィブリノーゲンであり、
フィブリンの43番目のリジンと44番目のトリプトフ
ァンの間を切断するものと言われている。そして、フィ
ブリンのプラスミン分解産物は、抗トロンビン作用を有
している。フィブリン層3が上記のプラスミンにより処
理されることにより、その少なくとも表面が加水分解さ
れ、加水分解された部分の状態は、フィブリンを構成し
ているα,β,γ鎖がプラスミンにより消化を受けた残
余物(加水分解部分、フラグメントX,Y,D,E)と
未だに消化を受けていない部分(未加水分解部分)が混
在する状態となっているものと考えられ、上記の加水分
解部分は、プラスミンとの接触表面であるフィブリン層
の表面層に多く存在するものと考えられる。加水分解部
分と未加水分解部分の存在割合、またフラグメントの存
在割合、さらに加水分解部分と未加水分解の存在形態
は、プラスミンの処理時間、プラスミンの酵素活性によ
り変化するものと思われる。
【0013】プラスミンによる加水分解はフィブリン層
の表面層全体に行われることが好ましいが、必ずしも全
体でなくてもよい。また、フィブリン層は、少なくとも
血液と接触する表面層部分が加水分解されていればよ
い。また、プラスミンにより処理されたフィブリン層
は、処理前に比べて膨潤する傾向がある。そして、本発
明の抗血栓性医用材料は、フィブリン層とその少なくと
も表面層が加水分解されたフィブリン層部分を有するこ
とにより、高い抗血栓性と生体適合性を有している。特
に、細胞の増殖が良好であり、細胞が伸展した結果、コ
ラーゲンを産生し、全体として均質な新生内膜を形成さ
せることができる。すなわち、形成された新生内膜は、
加水分解されたフィブリン層上で増殖、伸展し、フィブ
リン層を内膜細胞自らが産生したコラーゲン層に置換さ
れることにより、容易に剥離しない被膜を形成する。し
たがって、新生内膜によって、被覆された部位には、当
初存在していた加水分解されたフィブリン層は存在せ
ず、新生内膜細胞が産生したコラーゲン層が存在するよ
うになる。
の表面層全体に行われることが好ましいが、必ずしも全
体でなくてもよい。また、フィブリン層は、少なくとも
血液と接触する表面層部分が加水分解されていればよ
い。また、プラスミンにより処理されたフィブリン層
は、処理前に比べて膨潤する傾向がある。そして、本発
明の抗血栓性医用材料は、フィブリン層とその少なくと
も表面層が加水分解されたフィブリン層部分を有するこ
とにより、高い抗血栓性と生体適合性を有している。特
に、細胞の増殖が良好であり、細胞が伸展した結果、コ
ラーゲンを産生し、全体として均質な新生内膜を形成さ
せることができる。すなわち、形成された新生内膜は、
加水分解されたフィブリン層上で増殖、伸展し、フィブ
リン層を内膜細胞自らが産生したコラーゲン層に置換さ
れることにより、容易に剥離しない被膜を形成する。し
たがって、新生内膜によって、被覆された部位には、当
初存在していた加水分解されたフィブリン層は存在せ
ず、新生内膜細胞が産生したコラーゲン層が存在するよ
うになる。
【0014】そして、本発明におけるフィブリン層およ
びその加水分解部分を設けることは、本発明者らが、人
工血管の具備すべき条件を見いだすために、血管内膜傷
害モデル動物を作製し、経時的な組織修復過程を詳細に
検索したところ、内膜が傷害を受け露出した内弾性板上
には一時的にフィブリン層が形成され、閉塞することな
く、わずか1週間で新生内膜細胞に置き換わっている知
見を得、その間、炎症性細胞によるフィブリンの修飾が
示唆される所見を得、これらの知見に基づいて、酵素に
より修飾されたフィブリンを血液と直接接触させ、実際
に早期に新生内膜が出現することを知見したことにより
想起したものである。そして、この抗血栓性医用材料
は、種々の血液接触面を有する医療器具に使用すること
ができる。例えば、血液接触面を有する人工器官である
人工血管、長期的に体内に留置されるカテーテル、人工
透析器、人工肺などの人工臓器、さらには埋込型の人工
臓器などが考えられる。
びその加水分解部分を設けることは、本発明者らが、人
工血管の具備すべき条件を見いだすために、血管内膜傷
害モデル動物を作製し、経時的な組織修復過程を詳細に
検索したところ、内膜が傷害を受け露出した内弾性板上
には一時的にフィブリン層が形成され、閉塞することな
く、わずか1週間で新生内膜細胞に置き換わっている知
見を得、その間、炎症性細胞によるフィブリンの修飾が
示唆される所見を得、これらの知見に基づいて、酵素に
より修飾されたフィブリンを血液と直接接触させ、実際
に早期に新生内膜が出現することを知見したことにより
想起したものである。そして、この抗血栓性医用材料
は、種々の血液接触面を有する医療器具に使用すること
ができる。例えば、血液接触面を有する人工器官である
人工血管、長期的に体内に留置されるカテーテル、人工
透析器、人工肺などの人工臓器、さらには埋込型の人工
臓器などが考えられる。
【0015】そして、本発明の抗血栓性医用材料1は、
次のようにして製造できる。まず、高分子材料により基
材を作成する。基材2としては、フィブリン層3が基材
内部まで形成でき、形成されるフィブリン層3が固定さ
れるものであることが好ましい。この点より、多孔質基
材が好適である。また、フィブリン層形成における出発
材料であるフィブリノーゲン溶液、あるいはトロンビン
溶液との親和性を高めるため基材が親水性を有するもの
とすれば、より好適にフィブリン層3を固定することが
できる。
次のようにして製造できる。まず、高分子材料により基
材を作成する。基材2としては、フィブリン層3が基材
内部まで形成でき、形成されるフィブリン層3が固定さ
れるものであることが好ましい。この点より、多孔質基
材が好適である。また、フィブリン層形成における出発
材料であるフィブリノーゲン溶液、あるいはトロンビン
溶液との親和性を高めるため基材が親水性を有するもの
とすれば、より好適にフィブリン層3を固定することが
できる。
【0016】そして、精製フィブリノーゲン、プラズ
マ、あるいはクリオプレシピテイトなどを用いて、フィ
ブリノーゲン溶液を作成する。そして、上記の基材をト
ロンビン溶液に接触させた後、このフィブリノーゲン溶
液を上記の基材に接触させ、基材表面および多孔質基材
であればその内部において、フィブリノーゲンをトロン
ビンにより加水分解させ、基材表面にフィブリン層を形
成させる。次いで、上記のフィブリン層を内面に有する
基材をプラスミン溶液に接触させる。プラスミン処理時
間(プラスミン溶液とフィブリン層との接触時間)は、
プラスミン溶液中のプラスミン濃度によって、相違する
が、1秒〜24時間、好ましくは、5〜15分であり、
例えば、プラスミン溶液が、0.05u/mlであれ
ば、15分程度が好適である。
マ、あるいはクリオプレシピテイトなどを用いて、フィ
ブリノーゲン溶液を作成する。そして、上記の基材をト
ロンビン溶液に接触させた後、このフィブリノーゲン溶
液を上記の基材に接触させ、基材表面および多孔質基材
であればその内部において、フィブリノーゲンをトロン
ビンにより加水分解させ、基材表面にフィブリン層を形
成させる。次いで、上記のフィブリン層を内面に有する
基材をプラスミン溶液に接触させる。プラスミン処理時
間(プラスミン溶液とフィブリン層との接触時間)は、
プラスミン溶液中のプラスミン濃度によって、相違する
が、1秒〜24時間、好ましくは、5〜15分であり、
例えば、プラスミン溶液が、0.05u/mlであれ
ば、15分程度が好適である。
【0017】その後、大豆トリプシンインヒビターある
いは抗線溶剤をプラスミン溶液に加え、酵素反応を止め
た後、生理食塩水にて十分洗浄することにより、表面が
加水分解されたフィブリン層を有する本発明の抗血栓性
医用材料が作成される。
いは抗線溶剤をプラスミン溶液に加え、酵素反応を止め
た後、生理食塩水にて十分洗浄することにより、表面が
加水分解されたフィブリン層を有する本発明の抗血栓性
医用材料が作成される。
【0018】
【実施例】以下、本発明の実施例を具体的に説明する。 (実施例1) <フィブリノーゲン溶液の作成> ヒトフィブリノーゲン製剤(グレードL,Kabi V
itrum社製)を50mlの蒸留水に溶解し、ゼラチ
ン−セルロファンカラム(生化学工業社製)、次いでリ
ジン−セファロース4Bカラム(ファルマシア社製)に
通し、フィブロネクチンおよびプラスミノーゲン(プラ
スミン)を除去後、滅菌済0.20μmフィルターを通
し、濾過滅菌した。濾過滅菌後のフィブリノーゲン溶液
の濃度は、凝固時間測定法[Data−Fi(登録商
標)、Dade社製]にて測定後、凍結乾燥した。凍結
乾燥フィブリノーゲンを20mM CaCl2、2mM
MgCl2、150mM NaClを含む5mM H
epes緩衝液(PH 7.5)でフィブリノーゲン濃
度が30mg/mlとなるよう溶解し、ヒトフィブリノ
ーゲン溶液を作成した。
itrum社製)を50mlの蒸留水に溶解し、ゼラチ
ン−セルロファンカラム(生化学工業社製)、次いでリ
ジン−セファロース4Bカラム(ファルマシア社製)に
通し、フィブロネクチンおよびプラスミノーゲン(プラ
スミン)を除去後、滅菌済0.20μmフィルターを通
し、濾過滅菌した。濾過滅菌後のフィブリノーゲン溶液
の濃度は、凝固時間測定法[Data−Fi(登録商
標)、Dade社製]にて測定後、凍結乾燥した。凍結
乾燥フィブリノーゲンを20mM CaCl2、2mM
MgCl2、150mM NaClを含む5mM H
epes緩衝液(PH 7.5)でフィブリノーゲン濃
度が30mg/mlとなるよう溶解し、ヒトフィブリノ
ーゲン溶液を作成した。
【0019】<基材へのフィブリン層の形成>内径3m
m、長さ30mmのe−PTFEグラフトチューブ(延
伸多孔性チューブ、商品名ゴアテックス、ゴア社製)に
50unit/mlのトロンビン(持田製薬社製)溶液
5mlを圧入し、次いで上記のフィブリノーゲン溶液
2.5mlを圧入し、生理食塩水で十分洗浄後、37℃
で24時間インキュベートし、フィブリン層(厚さ5μ
m)を内面に有する被覆管状体を作製した。また、フィ
ブリンは、e−PTFEグラフトチューブの細孔内にも
入り込んでいた。
m、長さ30mmのe−PTFEグラフトチューブ(延
伸多孔性チューブ、商品名ゴアテックス、ゴア社製)に
50unit/mlのトロンビン(持田製薬社製)溶液
5mlを圧入し、次いで上記のフィブリノーゲン溶液
2.5mlを圧入し、生理食塩水で十分洗浄後、37℃
で24時間インキュベートし、フィブリン層(厚さ5μ
m)を内面に有する被覆管状体を作製した。また、フィ
ブリンは、e−PTFEグラフトチューブの細孔内にも
入り込んでいた。
【0020】<フィブリン層の加水分解処理>上記のフ
ィブリン層を内面に有する管状体を50mMリン酸緩衝
液にて、0.05unit/mlプラスミン溶液(ベー
リンガー・マンハイム山之内社製)を作成し、この溶液
中に37℃,15分間浸漬し、フィブリン層の表面にプ
ラスミン溶液を接触させた。その後、大豆トリプシンイ
ンヒビター(ベーリンガー・マンハイム山之内)を最終
濃度が200μg/mlとなるよう添加し、生理食塩水
にて十分洗浄し、管状体のフィブリン層の表面にプラス
ミン処理された加水分解部分を形成させ、本発明の人工
血管(実施例1)を得た。このプラスミン処理されたフ
ィブリン層は、比較的強固にチューブの内面に固着して
おり、通常の状態では剥離することはなかった。また、
プラスミン処理されたフィブリン層の厚さは20μmで
あり、処理前より膨潤していることがわかった。
ィブリン層を内面に有する管状体を50mMリン酸緩衝
液にて、0.05unit/mlプラスミン溶液(ベー
リンガー・マンハイム山之内社製)を作成し、この溶液
中に37℃,15分間浸漬し、フィブリン層の表面にプ
ラスミン溶液を接触させた。その後、大豆トリプシンイ
ンヒビター(ベーリンガー・マンハイム山之内)を最終
濃度が200μg/mlとなるよう添加し、生理食塩水
にて十分洗浄し、管状体のフィブリン層の表面にプラス
ミン処理された加水分解部分を形成させ、本発明の人工
血管(実施例1)を得た。このプラスミン処理されたフ
ィブリン層は、比較的強固にチューブの内面に固着して
おり、通常の状態では剥離することはなかった。また、
プラスミン処理されたフィブリン層の厚さは20μmで
あり、処理前より膨潤していることがわかった。
【0021】上記のように表面が加水分解されたフィブ
リン層を有する管状体(実施例1)と、プラスミン処理
をされていないフィブリン層を有する管状体(比較例
1)をそれぞれヘマトキシリン−エオジン染色法によっ
て染色し、光学顕微鏡および電子顕微鏡で観察したとこ
ろ、比較例1の管状体ではe−PTFEの内腔表面に一
層のフィブリン層が認められた。また、実施例1の管状
体でも、同様に層として観察されたが、比較例1の管状
体の有するフィブリン層と比較して、光学顕微鏡による
観察で、やや膨張し、薄く染色性に劣る層が認められ
た。
リン層を有する管状体(実施例1)と、プラスミン処理
をされていないフィブリン層を有する管状体(比較例
1)をそれぞれヘマトキシリン−エオジン染色法によっ
て染色し、光学顕微鏡および電子顕微鏡で観察したとこ
ろ、比較例1の管状体ではe−PTFEの内腔表面に一
層のフィブリン層が認められた。また、実施例1の管状
体でも、同様に層として観察されたが、比較例1の管状
体の有するフィブリン層と比較して、光学顕微鏡による
観察で、やや膨張し、薄く染色性に劣る層が認められ
た。
【0022】(実施例2)基材として、ポリエステル繊
維(75デニール、36フィラメント)を用いて平織り
により成形した多孔性ポリエステルチューブ(内径3m
m、長さ30mm)を用いた以外は、実施例1と同様に
行い、本発明の人工血管(実施例2)を得た。
維(75デニール、36フィラメント)を用いて平織り
により成形した多孔性ポリエステルチューブ(内径3m
m、長さ30mm)を用いた以外は、実施例1と同様に
行い、本発明の人工血管(実施例2)を得た。
【0023】(実施例3) 基材として、ポリエステル製多孔質人工血管であるゴラ
スキー人工血管(株式会社 東機貿社製)(内径3m
m、長さ30mm)を用いたこと以外は、実施例1と同
様に行い、本発明の人工血管(実施例3)を得た。実施
例2および実施例3の人工血管においても、プラスミン
処理されたフィブリン層は、比較的強固にチューブの内
面に固着しており、通常の状態では剥離することはなか
った。そして、実施例1と同様に、実施例2および実施
例3をそれぞれヘマトキシリン−エオジン染色法によっ
て染色し、光学顕微鏡および電子顕微鏡で観察したとこ
ろ、管状体の内面にフィブリン層が確認されたが、比較
例1の管状体の有するフィブリン層と比較して、光学顕
微鏡による観察で、やや膨張し、薄く染色性に劣る層が
認められた。 (比較例3) 実施例2において使用した多孔性ポリエステルチューブ
を、滅菌容器にて、全血5mlに浸した後、5分間静置
し、血液が凝固した後、1000uのヘパリンで抗凝固
処理をした全血5mlをチューブ内腔へ注入し、凝血を
排除した。その後、生理食塩水で内腔をさらに洗浄し、
比較例3の人工血管を得た。
スキー人工血管(株式会社 東機貿社製)(内径3m
m、長さ30mm)を用いたこと以外は、実施例1と同
様に行い、本発明の人工血管(実施例3)を得た。実施
例2および実施例3の人工血管においても、プラスミン
処理されたフィブリン層は、比較的強固にチューブの内
面に固着しており、通常の状態では剥離することはなか
った。そして、実施例1と同様に、実施例2および実施
例3をそれぞれヘマトキシリン−エオジン染色法によっ
て染色し、光学顕微鏡および電子顕微鏡で観察したとこ
ろ、管状体の内面にフィブリン層が確認されたが、比較
例1の管状体の有するフィブリン層と比較して、光学顕
微鏡による観察で、やや膨張し、薄く染色性に劣る層が
認められた。 (比較例3) 実施例2において使用した多孔性ポリエステルチューブ
を、滅菌容器にて、全血5mlに浸した後、5分間静置
し、血液が凝固した後、1000uのヘパリンで抗凝固
処理をした全血5mlをチューブ内腔へ注入し、凝血を
排除した。その後、生理食塩水で内腔をさらに洗浄し、
比較例3の人工血管を得た。
【0024】(比較例4)実施例3において使用したポ
リエステル製多孔質人工血管を、比較例3と同様に処理
し、比較例4の人工血管を得た。
リエステル製多孔質人工血管を、比較例3と同様に処理
し、比較例4の人工血管を得た。
【0025】(実験1)実施例1、比較例1および未処
理のe−PTFEグラフトチューブ(比較例2)ととも
に家兎腹部大動脈(3mmφ)に端々吻合にて移植し、
経時変化について観察した。術中、術後はヘパリン等抗
凝固剤は一切使用せず、比較例2については7例、比較
例1については5例、実施例1については9例行った。
その結果、比較例2のものでは、移植後1カ月経過例で
もグラフト全体が肉眼的に赤色で、組織学的検索の結
果、両吻合部からの細胞のmigration(遊送)
像が認められる部位以外の血液接触面は、血球成分が主
体でその他の細胞は認められず、また、移植後6ケ月経
過例でも新生内膜がほとんど形成されておらず、器質化
が遅延している傾向が認められた。一方、比較例1およ
び実施例1のものでは、移植後15日経過例ですでにグ
ラフト中央部で新生内膜を構成する細胞の存在が認めら
れたが、実施例1の方が良好に器質化が行われていた。
理のe−PTFEグラフトチューブ(比較例2)ととも
に家兎腹部大動脈(3mmφ)に端々吻合にて移植し、
経時変化について観察した。術中、術後はヘパリン等抗
凝固剤は一切使用せず、比較例2については7例、比較
例1については5例、実施例1については9例行った。
その結果、比較例2のものでは、移植後1カ月経過例で
もグラフト全体が肉眼的に赤色で、組織学的検索の結
果、両吻合部からの細胞のmigration(遊送)
像が認められる部位以外の血液接触面は、血球成分が主
体でその他の細胞は認められず、また、移植後6ケ月経
過例でも新生内膜がほとんど形成されておらず、器質化
が遅延している傾向が認められた。一方、比較例1およ
び実施例1のものでは、移植後15日経過例ですでにグ
ラフト中央部で新生内膜を構成する細胞の存在が認めら
れたが、実施例1の方が良好に器質化が行われていた。
【0026】さらに、グラフト壁内での器質化の状態に
ついて観察したところ、比較例2では壁内での細胞侵入
が遅延する傾向にあるのに対し、比較例1、実施例1で
は早期に壁内への細胞侵入が認められ、また、実施例1
がより優れている傾向にあった。さらに実施例1のもの
では、15日経過後において、管状体内腔表面新生内膜
を構成する細胞が産生したと思われるほぼ均質なコラー
ゲン層により被覆されていた。また、管状体の中央部
分、さらには吻合部においても血栓の付着は全く認めら
れなかった。さらに、実施例1のものでは1ケ月後にお
いて、表面は完全に細胞置換されていた。実験1におい
て示された結果より、実施例の人工血管では、管状体の
両吻合部から細胞が良好に増殖し、伸展した結果、コラ
ーゲンを産生し、管状体内面全体に及ぶ新生内膜が形成
されたことがわかった。
ついて観察したところ、比較例2では壁内での細胞侵入
が遅延する傾向にあるのに対し、比較例1、実施例1で
は早期に壁内への細胞侵入が認められ、また、実施例1
がより優れている傾向にあった。さらに実施例1のもの
では、15日経過後において、管状体内腔表面新生内膜
を構成する細胞が産生したと思われるほぼ均質なコラー
ゲン層により被覆されていた。また、管状体の中央部
分、さらには吻合部においても血栓の付着は全く認めら
れなかった。さらに、実施例1のものでは1ケ月後にお
いて、表面は完全に細胞置換されていた。実験1におい
て示された結果より、実施例の人工血管では、管状体の
両吻合部から細胞が良好に増殖し、伸展した結果、コラ
ーゲンを産生し、管状体内面全体に及ぶ新生内膜が形成
されたことがわかった。
【0027】(実験2)実施例2、実施例3、比較例3
および比較例4の人工血管をそれぞれ家兎腹部大動脈
(3mmφ)に端々吻合にて移植し、人工血管の基材を
変えた場合の経時変化について観察した。術中、術後は
ヘパリン等抗凝固剤は一切使用しなかった。また、移植
に際し、実施例2、実施例3、比較例3および比較例4
の人工血管のいずれにおいても吻合部以外のグラフトか
らの出血は認められなかった。また、吻合性および縫合
性は、e−PTFEを基材として使用した実施例1と比
較してポリエステルの編み物を使用した実施例2の方が
良好であった。また、移植は、実施例2については2
例、実施例3については3例、比較例3については3
例、比較例4については2例行った。その結果、比較例
3および4の人工血管では、移植後1カ月経過前に、閉
塞した例が、比較例3において2例あり、比較例4で
は、1例あった。また、1カ月開存していたものの、赤
色血栓が顕著に認められ、組織学的検索の結果、新生内
膜の形成はわずかに認められるのみで、人工血管のほと
んどの部分が血栓で占められていた。
および比較例4の人工血管をそれぞれ家兎腹部大動脈
(3mmφ)に端々吻合にて移植し、人工血管の基材を
変えた場合の経時変化について観察した。術中、術後は
ヘパリン等抗凝固剤は一切使用しなかった。また、移植
に際し、実施例2、実施例3、比較例3および比較例4
の人工血管のいずれにおいても吻合部以外のグラフトか
らの出血は認められなかった。また、吻合性および縫合
性は、e−PTFEを基材として使用した実施例1と比
較してポリエステルの編み物を使用した実施例2の方が
良好であった。また、移植は、実施例2については2
例、実施例3については3例、比較例3については3
例、比較例4については2例行った。その結果、比較例
3および4の人工血管では、移植後1カ月経過前に、閉
塞した例が、比較例3において2例あり、比較例4で
は、1例あった。また、1カ月開存していたものの、赤
色血栓が顕著に認められ、組織学的検索の結果、新生内
膜の形成はわずかに認められるのみで、人工血管のほと
んどの部分が血栓で占められていた。
【0028】実施例2および3の人工血管では、移植後
1ケ月の時点で、血栓の付着はほとんど認められず、こ
の時点においてすでに人工血管の内表面全面に、新生内
膜を構成する細胞の存在が確認され、さらに、新生内膜
を構成する細胞が産生したと思われるほぼ均質なコラー
ゲン層が確認された。よって、実施例2および3の人工
血管は、管状体の両吻合部から細胞が良好に増殖し、伸
展した結果、コラーゲンを産生し、管状体内面全体に及
ぶ新生内膜が形成されたことがわかった。この実験の結
果、本発明の効果は、使用する基材に影響されることな
く得られることがわかった。
1ケ月の時点で、血栓の付着はほとんど認められず、こ
の時点においてすでに人工血管の内表面全面に、新生内
膜を構成する細胞の存在が確認され、さらに、新生内膜
を構成する細胞が産生したと思われるほぼ均質なコラー
ゲン層が確認された。よって、実施例2および3の人工
血管は、管状体の両吻合部から細胞が良好に増殖し、伸
展した結果、コラーゲンを産生し、管状体内面全体に及
ぶ新生内膜が形成されたことがわかった。この実験の結
果、本発明の効果は、使用する基材に影響されることな
く得られることがわかった。
【0029】
【発明の効果】本発明の抗血栓性医用材料は、高分子材
料により形成された基材と、該基材の表面に形成された
フィブリン層を有し、該フィブリン層の表面層のみが加
水分解されたフィブリン層部分となっているので、初期
には抗血栓性を有し、生体組織の厚い付着および血栓の
形成を防止し、さらに、早期に血液接触部が生体細胞に
置換されるため新生内膜の形成が良好であり、さらにそ
の剥離がなく、形成された新生内膜により長期的に高い
抗血栓性作用を有するものである。よって、この抗血栓
性医用材料は、半永久的な抗血栓性が獲得され、長期間
血液と接触する必要のある人工血管、血管カテーテル、
人工臓器などのへの長期使用が可能となる。
料により形成された基材と、該基材の表面に形成された
フィブリン層を有し、該フィブリン層の表面層のみが加
水分解されたフィブリン層部分となっているので、初期
には抗血栓性を有し、生体組織の厚い付着および血栓の
形成を防止し、さらに、早期に血液接触部が生体細胞に
置換されるため新生内膜の形成が良好であり、さらにそ
の剥離がなく、形成された新生内膜により長期的に高い
抗血栓性作用を有するものである。よって、この抗血栓
性医用材料は、半永久的な抗血栓性が獲得され、長期間
血液と接触する必要のある人工血管、血管カテーテル、
人工臓器などのへの長期使用が可能となる。
【図1】第1図は、本発明の抗血栓性医用材料の一実施
例の断面概略図である。
例の断面概略図である。
【図2】第2図は、本発明の抗血栓性医用材料の他の実
施例の断面概略図である。
施例の断面概略図である。
【図3】第3図は、本発明の人工血管の一実施例の断面
概略図である。
概略図である。
1 抗血栓性医用材料 2 高分子基材 3 フィブリン層 4 加水分解部分 5 多孔性管状体
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (58)調査した分野(Int.Cl.6,DB名) A61L 27/00 A61L 29/00 A61L 33/00
Claims (9)
- 【請求項1】 高分子材料により形成された基材と、該
基材の表面に形成されたフィブリン層を有し、該フィブ
リン層の表面層のみが加水分解されたフィブリン層部分
となっていることを特徴とする抗血栓性医用材料。 - 【請求項2】 前記基材は、多孔性基材である請求項1
に記載の抗血栓性医用材料。 - 【請求項3】 前記加水分解されたフィブリン層部分
は、フィブリン層の表面にプラスミンを接触させること
により形成されたプラスミンによる加水分解フィブリン
層部分である請求項1または2に記載の抗血栓性医用材
料。 - 【請求項4】 前記請求項1ないし3のいずれかの抗血
栓性医用材料により、少なくとも血液と接触する面が形
成されている人工器官。 - 【請求項5】 前記人工器官が、カテーテルまたは人工
臓器である請求項3に記載の人工器官。 - 【請求項6】 高分子材料により形成された管状体と、
該管状体の内表面に形成されたフィブリン層を有し、該
フィブリン層の表面層のみが加水分解されたフィブリン
層部分となっていることを特徴とする人工血管。 - 【請求項7】 前記管状体は、多孔性管状体である請求
項6に記載の人工血管。 - 【請求項8】 前記管状体は、内径が5mm以下である
請求項6または7に記載の人工血管。 - 【請求項9】 前記加水分解されたフィブリン層部分
は、前記フィブリン層の表面にプラスミンを接触させる
ことにより形成されたプラスミンにより加水分解された
フィブリン層部分である請求項6ないし8のいずれかに
記載の人工血管。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP8014781A JP2803070B2 (ja) | 1989-05-22 | 1996-01-02 | 抗血栓性医用材料および人工器官 |
Applications Claiming Priority (3)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP1-129826 | 1989-05-22 | ||
JP12982689 | 1989-05-22 | ||
JP8014781A JP2803070B2 (ja) | 1989-05-22 | 1996-01-02 | 抗血栓性医用材料および人工器官 |
Related Parent Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
---|---|---|---|
JP1249752A Division JP2537091B2 (ja) | 1988-10-28 | 1989-09-26 | 抗血栓性医用材料および人工血管の製造方法 |
Publications (2)
Publication Number | Publication Date |
---|---|
JPH08229117A JPH08229117A (ja) | 1996-09-10 |
JP2803070B2 true JP2803070B2 (ja) | 1998-09-24 |
Family
ID=26350797
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
---|---|---|---|
JP8014781A Expired - Fee Related JP2803070B2 (ja) | 1989-05-22 | 1996-01-02 | 抗血栓性医用材料および人工器官 |
Country Status (1)
Country | Link |
---|---|
JP (1) | JP2803070B2 (ja) |
Families Citing this family (1)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JPWO2004082694A1 (ja) * | 2003-03-20 | 2006-06-22 | コスモテック株式会社 | 細胞治療用材料、及び血管内治療方法 |
Family Cites Families (3)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JPS5439983A (en) * | 1977-09-05 | 1979-03-28 | Hiroyuki Sumi | Antithrombotic material |
JPS59225053A (ja) * | 1983-06-06 | 1984-12-18 | 鐘淵化学工業株式会社 | 人工の血管 |
JPH0732798B2 (ja) * | 1985-12-24 | 1995-04-12 | 住友電気工業株式会社 | 複合構造管状臓器補綴物 |
-
1996
- 1996-01-02 JP JP8014781A patent/JP2803070B2/ja not_active Expired - Fee Related
Also Published As
Publication number | Publication date |
---|---|
JPH08229117A (ja) | 1996-09-10 |
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Date | Code | Title | Description |
---|---|---|---|
LAPS | Cancellation because of no payment of annual fees |