JP2699775B2 - 窒化アルミニウム焼結体の製造方法 - Google Patents

窒化アルミニウム焼結体の製造方法

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【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、熱伝導性が良好で、か
つ、酸およびアルカリに対する耐食性に優れ、絶縁基
板、ヒートシンク、半導体用のパッケージ材料等に使用
される窒化アルミニウム焼結体の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】窒化アルミニウム焼結体は高い熱伝導性
と、シリコンに近い熱膨張率を有するため、近年のLS
Iの高集積・高密度化に対応する基板、ヒートシンク、
半導体用パッケージ材料等の素材として有望視されてい
る。
【0003】例えば、窒化アルミニウムが半導体用パッ
ケージ材料として用いられる場合、その概略の製造工程
は次のとおりである。すなわち、窒化アルミニウム原料
粉末に焼結助剤とバインダーを添加して混合し、得られ
た混合体をドクターブレード法等により成形した後、半
導体を搭載する面にタングステンやモリブデン等の導電
性物質を形成して焼成する。また、導電性物質上には、
通常、半導体チップとボンディングするため金めっき等
のめっき処理を施す。
【0004】このようなパッケージ用の窒化アルミニウ
ム焼結体には高い熱伝導性が求められるが、そのために
は、通常、1800℃以上の高温で焼結することが必要であ
り、製造コストが嵩むので、焼結温度を低め、低温で焼
結することが可能な窒化アルミニウム焼結体の開発が望
まれてきた。
【0005】このような要求を満たすことを目的とする
窒化アルミニウム焼結体としては、特開昭61− 11760号
公報に、窒化アルミニウムと希土類アルミニウム酸化物
およびアルカリ土類アルミニウム酸化物からなる焼結体
が開示されている。この焼結体は、1600〜1700℃の低温
で焼結することができ、80〜110 W/m・Kの高い熱伝導
率を示すが、パッケージ用の材料として使用するにあた
り、めっき処理を施す際の酸やアルカリに対する耐食性
に問題があった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、高い熱伝導
性を有し、酸、アルカリに対する耐食性に優れ、しか
も、1700℃以下の低温で、従来よりも短時間で焼結する
ことができ、製造コストを低減することが可能な窒化ア
ルミニウム焼結体の製造方法を提供することを目的とす
る。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者は、窒化アルミ
ニウム焼結体の高い熱伝導性を損なわずに、酸およびア
ルカリに対する耐食性(以下、酸・アルカリ耐食性と記
す)を高めるため、焼結体のミクロ組織構造を詳細に検
討したところ、焼結助剤として加えるカルシウム化合
物、イットリウム化合物およびアルミニウム化合物が、
焼結後にCaYAl3O7相として粒界に50%以上生成すると、
焼結体の酸・アルカリ耐食性が著しく向上し、かつ、高
い熱伝導性を有することを見出した。粒界にCaYAl3O7
を粒界相として50%以上生成させるには、カルシウム化
合物、イットリウム化合物およびアルミニウム化合物を
所定の混合比で混合してやればよく、また、これをあら
かじめ焼成しておけば、焼結助剤として窒化アルミニウ
ムに添加し、焼成して焼結体とする際に、焼成時間を短
縮することができる。
【0008】本発明は、上記の知見に基づいてなされた
もので、その要旨は、下記の窒化アルミニウム焼結体の
製造方法にある。
【0009】カルシウム化合物、イットリウム化合物お
よびアルミニウム化合物を、CaO 、Y203またはAl2O3
換算してモル%で下記 (1)〜(3) 式を満足するように混
合した後あらかじめ1400℃以上の温度域で焼成し、粉砕
したものを、焼結助剤として、窒化アルミニウム粉末に
対し 0.5〜10wt%となるように添加し、造粒、加圧成形
した後、1700℃以下の温度域で焼成することを特徴とす
る窒化アルミニウム焼結体の製造方法。
【0010】 25≦CaO ≦55 ・・・ (1) 10≦Y2O3≦20 ・・・ (2) 35≦Al2O3 ≦65 ・・・ (3) ただし、CaO 、Y203、Al2O3 はモル%で、CaO +Y203
Al2O3 = 100 である。
【0011】
【作用】上記のように、本発明の主な特徴は、カルシウ
ム化合物、イットリウム化合物およびアルミニウム化合
物を所定の割合で混合したものを焼結助剤とすること、
ならびに、この焼結助剤を窒化アルミニウムに添加する
前にあらかじめ焼成することにある。
【0012】カルシウム化合物、イットリウム化合物お
よびアルミニウム化合物をCaO 、Y203またはAl2O3 に換
算してモル%で前記の (1)〜(3) 式を満足するように混
合したものを焼結助剤として用いると、窒化アルミニウ
ム焼結体の粒界相が 50vol%以上のCaYAl3O7化合物を含
むこととなり、1700℃以下の比較的低い温度域で焼成す
ることが可能となる。また、後述するように、この (1)
〜(3) 式を満足する焼結助剤を所定の範囲で添加する
と、焼結体は高い熱伝導性と優れた酸・アルカリ耐食性
を示す。前記 (1)〜(3) 式で示される範囲をはずれる組
成でカルシウム化合物、イットリウム化合物およびアル
ミニウム化合物を添加しても、 CaAl4O7、CaAl2O4 等の
カルシウムアルミニウム化合物や、Y3Al5O12、YAlO3
のイットリウムアルミニウム化合物等が主粒界相として
存在し、1700℃以下の焼成温度では緻密化が十分達成さ
れず、熱伝導率が低下したり、たとえ緻密に焼結できた
としても酸・アルカリ耐食性が劣化する。
【0013】焼結助剤は、通常は、混合、粉砕した後そ
のまま原料(窒化アルミニウム)に添加するのである
が、カルシウム化合物、イットリウム化合物およびアル
ミニウム化合物を前記した所定の割合で混合した後あら
かじめ1400℃以上の温度域で焼成しておくと、焼結助剤
として窒化アルミニウムに添加し、焼成して焼結体とす
る際に、焼成時間を短縮することができる。
【0014】この焼成時間の短縮効果は下記の理由によ
るものと推察される。すなわち、窒化アルミニウムの焼
結は、添加した焼結助剤が相互に反応し、溶融して液相
を生成することにより進行するすることが知られてお
り、この液相の生成が成形体中で局部的な遅れがなく、
均一に生じれば、焼結速度が速められると考えられる
が、カルシウム化合物、イットリウム化合物およびアル
ミニウム化合物からなる焼結助剤をあらかじめ焼成し、
それら相互の反応を進行させておくことにより、焼結過
程での液相の生成を成形体中でより均一に行わせること
ができ、焼成時間が短くてすむことになる。
【0015】カルシウム化合物、イットリウム化合物お
よびアルミニウム化合物を混合した後焼成する温度は、
1400℃以上とすることが必要である。1400℃未満の温度
域ではこれらの化合物相互間の反応が不十分で、窒化ア
ルミニウムの焼結過程での液相の生成を成形体中で均一
に行わせることができず、焼成時間の短縮効果が認めら
れない。この1400℃という温度は、 CaO−Al2O3 −Y2O3
系状態図に示される最も融点の低い組成物(56CaO−7Y2
03−37Al2O3)の液相生成温度が1375℃であることからみ
ても、カルシウム化合物、イットリウム化合物およびア
ルミニウム化合物相互間の反応を進行させるための最低
限の温度であると推察される。
【0016】焼結助剤として添加するカルシウム化合物
としては CaOおよびCaCO3 、イットリウム化合物として
はY2O3、アルミニウム化合物としては Al2O3が好ましい
が、炭酸塩、硝酸塩、水酸化物、フッ化物等を用いても
よい。
【0017】上記のようにあらかじめ焼成した焼結助剤
の添加量は、窒化アルミニウムに対して 0.5〜10wt%と
する。添加量が 0.5%未満では緻密化が不十分で、焼結
体の熱伝導性および酸・アルカリ耐食性がともに劣化
し、10wt%を超えると熱伝導率が低下する。
【0018】焼結助剤を添加し、混合して得た窒化アル
ミニウム粉末は、成形用バインダーを適宜添加して造粒
し、加圧成形した後、1700℃以下の温度域で焼成する。
この本発明方法によれば、従来の焼成温度(1800℃以
上)よりも低い1700℃以下で、しかも従来よりも短時間
で、十分焼成することが可能であり、製造コストを低減
することができる。
【0019】
【実施例1】焼結助剤として、CaCO3 、Y2O3およびAl2O
3 を表1に示すモル%となるように秤量、混合した後、
大気中で1500℃で焼成した。得られた焼結助剤を粉砕し
た後、窒化アルミニウムに対して表1に示す添加量とな
るように窒化アルミニウムに配合し、再び混合した。次
いで、成形用バインダーを窒化アルミニウムに対して1.
5 wt%添加して造粒した後、1000kg/cm2の圧力で直径20
mm、厚さ5mm の成形体とした。この成形体をN2雰囲気中
700℃で2時間保持してバインダーを除去し、再度N2
囲気中で1650℃で2時間常圧焼結して窒化アルミニウム
焼結体を得た。
【0020】得られた焼結体について、粒界相中のCaYA
l3O7量を求め、熱伝導率の測定および耐食性試験を行っ
た。
【0021】粒界相中のCaYAl3O7量は、粉末X線解析に
より求め、熱伝導率はレーザーフラッシュ法により測定
した。また、耐食性試験は、焼結体を50℃の1規定NaOH
水溶液、または、90℃の1規定 H2SO4水溶液中に2時間
浸漬して行い、重量減少を測定した。
【0022】測定結果を表1に示す。表1の結果から、
CaO、Y2O3およびAl2O3 が本発明で規定するモル%にな
るような組成の焼結助剤を用い、本発明で規定する量を
添加した実施例1〜5と、実施例6および7では、粒界
相としてCaYAl3O7相が50%以上含まれ、熱伝導率は 100
W/m・Kを超え、かつ優れた酸・アルカリ耐食性を示す
ことがわかる。
【0023】しかしながら、焼結助剤の CaO、Y2O3およ
びAl2O3 のモル%が本発明の範囲から外れる比較例1〜
4では、粒界相中のCaYAl3O7相の比率が小さく、熱伝導
率、耐食性のいずれも劣化した。また、窒化アルミニウ
ムに対する焼結助剤の添加量が本発明で定める範囲より
少ない比較例5および本発明で定める範囲より多い比較
例6では、焼結が不十分で熱伝導性、耐食性がともに劣
化し(比較例5)、あるいは、耐食性は良くても、熱伝
導率が低かった(比較例6)。
【0024】
【実施例2】焼結助剤として、CaCO3 、Y2O3及びAl2O3
の比がモル%で40:10:50となるように秤量、混合した
後、大気中で1450℃で焼成した。得られた焼結助剤を粉
砕した後、窒化アルミニウムにそれに対して5wt%とな
るように添加し、再び混合した。次いで、成形用バイン
ダーを窒化アルミニウムに対して 1.5wt%添加して造粒
した後、1000kg/cm2の圧力で直径20mm、厚さ5mm の成形
体とした(実施例8)。また、同じく CaCO3、Y2O3およ
びAl2O3 のモル比が40:10:50となるように秤量、混合
した後、大気中で1300℃で焼成し、実施例8の場合と同
様の処理をして直径20mm、厚さ5mm の成形体を得た(比
較例7)。さらに、同じく CaCO3、Y2O3およびAl2O3
モル比が40:10:50となるように秤量、混合した焼結助
剤を焼成せずに添加し、その後は実施例8の場合と同様
の処理をして直径20mm、厚さ5mmの成形体を得た(比較
例8)。
【0025】これらの成形体をN2雰囲気中 700℃で2時
間保持してバインダーを除去し、再度N2雰囲気中で1600
℃で2〜8時間常圧焼結して窒化アルミニウム焼結体と
した。
【0026】得られた窒化アルミニウム焼結体の熱伝導
率をレーザーフラッシュ法により測定した。
【0027】測定結果を図1に示す。この図から明らか
なように、焼結体の熱伝導率はいずれも焼結時間が長く
なるとともに増大するが、実施例8では、 100W/m・K
の高い熱伝導率を得るためには1600℃で2時間保持すれ
ばよく、焼結助剤をあらかじめ焼成することなく用いた
比較例8に比べ、焼成時間は約半分であった。また、焼
結助剤を焼成しても、その温度が1300℃と低かった場合
(比較例7)は、焼成時間の短縮効果はほとんど認めら
れなかった。
【0028】
【表1】
【0029】
【発明の効果】本発明方法を適用すれば、窒化アルミニ
ウム焼結体を、1700℃以下の低温で、しかも、従来の方
法に比べ短時間の焼成処理により製造することができ
る。この焼結体は高い熱伝導率と優れた酸・アルカリ耐
食性を有し、半導体用パッケージ材料、絶縁基板などの
素材として好適である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明方法および比較法により製造した窒化ア
ルミニウム焼結体の焼成時間と熱伝導率の関係を示す図
である。

Claims (1)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】カルシウム化合物、イットリウム化合物お
    よびアルミニウム化合物を、CaO 、Y203またはAl2O3
    換算してモル%で下記 (1)〜(3) 式を満足するように混
    合した後あらかじめ1400℃以上の温度域で焼成し、粉砕
    したものを、焼結助剤として、窒化アルミニウム粉末に
    対し 0.5〜10wt%となるように添加し、造粒、加圧成形
    した後、1700℃以下の温度域で焼成することを特徴とす
    る窒化アルミニウム焼結体の製造方法。 25≦CaO ≦55 ・・・ (1) 10≦Y2O3≦20 ・・・ (2) 35≦Al2O3 ≦65 ・・・ (3) ただし、CaO 、Y203、Al2O3 はモル%で、 CaO +Y203+Al2O3 = 100 である。
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