JP2639835B2 - 免疫記憶細胞懸濁液の調製方法 - Google Patents

免疫記憶細胞懸濁液の調製方法

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JP2639835B2 JP63300727A JP30072788A JP2639835B2 JP 2639835 B2 JP2639835 B2 JP 2639835B2 JP 63300727 A JP63300727 A JP 63300727A JP 30072788 A JP30072788 A JP 30072788A JP 2639835 B2 JP2639835 B2 JP 2639835B2
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Description

【発明の詳細な説明】
[産業上の利用分野] 本発明は免疫記憶細胞懸濁液の調製方法に関するもの
で,とくに感染症および悪性腫瘍の予防や治療に用いて
有効な免疫記憶細胞懸濁液の調製方法,およびこの調製
方法により得られる免疫記憶細胞懸濁液に係わるもので
ある. [従来の技術] 生体がいったんある種の抗原に反応した場合,つぎに
同種の抗原による刺激を受けたときには強い反応を示
す.生体の免疫現象,とくにその獲得免疫現象におい
て,このような作用は免疫記憶として知られており,上
記のような免疫反応は二次免疫応答ないしは既往反応と
呼ばれている. こうした免疫現象は,前回の抗原刺激に対する反応の
結果,当該抗原に反応しうるリンパ系細胞が過剰に増殖
したことに起因するものである.これらの細胞は一般に
これを免疫学的記憶細胞と称しており,生体のリンパ系
や血管系を循環するリンパや血液中に含まれるリンパ球
の一種である.リンパ球は循環系から胸腺内に移住し
て,胸腺中に存在するシモシンと遭遇することにより成
熟し,免疫能力を獲得していわゆるT細胞(Tリンパ
球)に分化する.これらのT細胞は,これを別称して胸
腺依存性細胞あるいは胸腺由来細胞等ともいうように,
個体の脾臓やリンパ節の副皮質中の後毛細管静脈の周
辺,脾臓白髄の中心動脈等を領域に特に多く分布してい
るほか,ほぼすべての循環系末梢管中に存在しているこ
とが知られている. [発明が解決しようとする課題] 上記のような成熟リンパ球の一種である免疫記憶細胞
については,これまでのところ,前記のように免疫学的
記憶細胞としてもっぱら概念的に認識されているのみで
あって,そうした細胞自体,あるいは少なくともそれを
担っている実体を実際に,すなわちガラス器内に単離な
いし抽出するまでには至っていない.また,そのような
細胞を感染症や悪性腫瘍等の予防や治療等の目的のため
に実用化する展望が具体的に示されたことはなく,また
そのための臨床的はもとより実験的な試みがなされたこ
ともなかった. [課題を解決するための手段] 本発明は,細胞性免疫に関係するT細胞に含まれる免
疫記憶細胞のもつもろもろの特徴や属性を効果的に利用
することにより該細胞を高効率に分離・精製して得られ
た細胞を,新規な組織培養法によりさらに継代培養して
その細胞系を確立する,すなわち該細胞のライン化(株
化)を実現することにより,免疫記憶細胞を大量かつ安
価に,しかも安定して供給することを可能とする免疫記
憶細胞懸濁液の調製方法,およびこれにより得られる免
疫記憶細胞懸濁液を提供することを目的とするものであ
る. このような目的を達成すべく本発明は,所定の病因
体,すなわち所定のウィルスまたは細菌等の病原体ある
いは癌細胞(本発明においてはこれらを総称して病因体
という)に対して免疫感作した個体から採取した細胞群
から得られた免疫記憶細胞懸濁液と,前記個体から採取
した細胞群と同系の正常細胞に放射線を照射して分裂能
を抑制した細胞群と,前記病因体と同種の病因体から採
取した細胞群に放射線を照射して得た不活性抗原とを含
む混合液をインキュベートすることにより得た細胞を含
む細胞懸濁液をもって免疫記憶細胞懸濁液とすることを
特徴とする免疫記憶細胞懸濁液の調製方法を提供するも
のである. さらに本発明においては,前記所定の病因体に対して
免疫感作した個体から採取した細胞群から免疫記憶細胞
懸濁液を得るにあたって,所定の病因体に対して免疫感
作した個体から採取した細胞群から実質的にT細胞のみ
からなる細胞集団を分離し,この細胞集団に所定の組織
適合抗原と特異的に反応する抗体を加えて,該細胞集団
中における前記組織適合抗原が陽性の表面抗原活性を示
す細胞と反応させ,この反応の結果形成された抗原抗体
複合体に適宜の補体を結合させることにより,該抗原活
性が陽性の細胞を破壊,除去して,前記組織適合抗原活
性が陰性を示す免疫記憶細胞群のみを残留させ,かくて
得られた免疫記憶細胞群に該細胞に特有の表面抗原に対
抗する抗体を反応させ,該免疫記憶細胞群のうち前記表
面抗原を有する細胞を分離,採取することとするのが好
ましい. かくして本発明は,所定の病因体に対して免疫感作し
た個体から採取した細胞群から実質的にT細胞のみから
なる細胞集団を分離し,この細胞集団に所定の組織適合
抗原と特異的に反応する抗体を加えて,該細胞集団中に
おける前記組織適合抗原が陽性の表面抗原活性を示す細
胞と反応させ,この反応の結果形成された抗原抗体複合
体に適宜の補体を結合させることにより,前記組織適合
抗原活性が陰性を示す免疫記憶細胞群のみを残留させ,
かくして得られた免疫記憶細胞群に該細胞に特有の表面
抗原に対抗する抗体を反応させ,該免疫記憶細胞群のう
ち前記表面抗原を有する細胞を分離,採取してこれと第
1段階の免疫記憶細胞懸濁液とし,前記個体から採取し
た細胞群と同系の正常細胞に放射線を照射して分裂能を
抑制した細胞群と,前記第1段階の免疫記憶細胞懸濁液
と,前記病因体と同種の病因体から採取した細胞群に放
射線を照射して得た不活性抗原とを含む混合液をインキ
ュベートすることにより得た細胞をもってこれを第2段
階の免疫記憶細胞懸濁液とすることを特徴とする免疫記
憶細胞懸濁液の調製方法を提供するものである. このような本発明による免疫記憶細胞懸濁液の調製方
法においては,前記免疫記憶細胞群のうち前記表面抗原
を有する細胞を分離して採取するにあたっては,抗IgG
抗体を塗布した表面上の該抗IgG抗体層に前記免疫記憶
細胞群を接触・反応させることにより,該免疫記憶細胞
群のうち前記表面抗原を有する細胞を前記表面に付着さ
せ,しかる後この表面に対して付着性の細胞を採取して
これを前記第1段階の免疫記憶細胞懸濁液とするように
するのが好ましい. 前記治癒個体としてマウスを使用する場合には,前記
所定の組織適合抗原はこれをIa抗原とし,これを特異的
に反応する抗Iaモノクロナール抗体を前記細胞集団に加
えて,該細胞集団中におけるIa抗原活性が陽性を示す細
胞との抗原抗体複合体を形成させ,これに前記適宜の補
体を結合させることにより,Ia抗原活性が陽性の細胞を
破壊・除去してIa抗原活性が陰性の免疫記憶細胞のみを
残留させ,これらの免疫記憶細胞に前記表面抗原を抗原
としてこれに対抗する抗体を加えて反応させるようにす
ることができる.なお,周知のようにマウスにおけるIa
抗原は,ヒトの場合の組織適合抗原HLA−R(またはHLA
−DR)に対応するものである. さらに本発明は,所定の病因体に対して免疫感作した
個体から採取した細胞群から得られた免疫記憶細胞懸濁
液から培養された実質的にT細胞のみからなり,これら
のT細胞のうちほぼ98%の細胞が少なくとも1×103
の免疫記憶細胞を含むことを特徴とする免疫記憶細胞懸
濁液を提供するものである. [作用] 本発明による免疫記憶細胞懸濁液は,理論的には,現
に知られているあらゆる感染症や悪性腫瘍からの治癒歴
をもつ個体の循環系胸腺依存域から分離,精製,培養す
ることが可能であり,したがって治癒履歴を有する個体
を入手しうるかぎり,どのような細菌性およびウイルス
性の感染症や悪性腫瘍に対しても免疫効果を発揮するも
のである.細菌性およびウイルス性の感染症として菌
は,例えばサルモネラ感(Salmonella),コリネバクテ
リウム菌(Corynebacterium),シュードモナス属(Pse
udomonas),パスツレラ菌(Pasteurella),連鎖球菌
(Streptococcus),エクトロメリア・ウイルス(ectro
melia virus),センダイウイルス(HVJ)等の病原微生
物に起因する感染症が代表的なものである. さらに本発明による免疫記憶細胞懸濁液は,それによ
る免疫機構が抗原抗体反応による免疫のメカニズムとは
原理的に別異のものであるため,従来から行なわれてい
るような,ワクチンを抗原として用いる感染症予防法に
ともなう副作用等を招くことは,理論的にまったくあり
えないという利点をも有するものである.また,前記第
1段階の免疫記憶細胞懸濁液から集めた培養細胞を前述
のようにして継代培養を行なうことにより,本発明によ
る免疫記憶細胞懸濁液中の免疫記憶細胞の細胞系を確立
して,該免疫記憶細胞を効率よく,安定してかつ安価に
提供することが可能となる. [発明の一般的態様] 上記のような方法により免疫記憶細胞懸濁液を調製す
るために,本発明においてはまず,適宜の癌または何ら
かの細胞性またはウイルス性感染症に対して免疫感作し
た履歴をもつ個体(以下,単に治癒個体という)からリ
ンパ球を含む細胞群を分離する.このリンパ球を含む細
胞群は,これを例えば該治癒個体の心臓や静脈等から採
取した末梢血から抽出するか,あるいは該個体の脾臓組
織から解離して,これらいずれかの細胞群をもって出発
材料として用いるのが簡便である.以下の説明では,こ
れら末梢血または脾臓組織をもって出発材料として用い
るものとする. この出発材料としての末梢血または脾臓組織から分離
したリンパ球含有細胞群から,T細胞を選択的に溶出させ
る固相吸着剤を分離手段としてカラムクロマトグラフィ
法等により,該細胞懸濁液中に含まれている細胞群から
体液性免疫をつかさどるB細胞等の胞を除去して,ほぼ
T細胞のみからなる細胞集団を含む懸濁液を分別溶出さ
せる.このカラムクロマトグラフィ処理に用いる固相吸
着剤としてはナイロンウールを用いるのが好適である.
ただし,ナイロンウールによる固相吸着剤にはB細胞の
みならずマクロファージや白血球等も吸着されるため,B
細胞自体の吸着効率は相対的に低くなる.したがってこ
のナイロンウールに対するB細胞の吸着効率を高めるた
めには,該ナイロンウールを用いたカラムクロマトグラ
フィ処理に先立って,他の固相吸着剤,好ましくはグラ
スウールによる固相吸着剤を用いたカラムクロマトグラ
フィ処理をあらかじめ行なっておくのがよい.知られて
いるように,グラスウールからなる固相吸着剤に対して
はT細胞およびB細胞はいずれも付着性が小さいが,マ
クロファージや白血球の場合は高い付着性を示す.した
がって,このグラスウールを用いたカラムクロマトグラ
フィ処理を行なうことにより,あらかじめマクロファー
ジや白血球等を吸着除去してから,ナイロンウールを用
いたカラムクロマトグラフィ処理を行なうことによっ
て,T細胞とB細胞の分離を高効率に行なうことが可能と
なる.ただし,このT細胞とB細胞の分離は,上述のよ
うな固相吸着剤を用いたカラムクロマトグラフィのほか
に,それらの細胞にそれぞれ特有の表面抗原の相違を利
用する方法を採用してもよく,その際,前述のように治
癒個体としてマウスを使用する場合は,T細胞を識別する
表面抗原としてThy1抗原を用いてT細胞とB細胞の分離
を行なうことができる. かくて得られた細胞集団は,上記のようにその大部分
がT細胞からなるものであるが,しかしながらなおかつ
免疫能力を欠く未成熟リンパ球を少量含んでいる.した
がって次の処理では,当該細胞集団を抗原とする抗原抗
体反応を該細胞集団に経験させることにより,それらの
未成熟リンパ球を除去することとする. そのためには,所定の組織適合抗原と特異的に反応す
る抗体を当該細胞集団に加えて,細胞集団中における該
組織適合抗原が陽性の表面抗原活性を示す細胞と反応さ
せる.この抗原抗体反応の結果形成された抗原抗体複合
体に適宜の血清(典型的にはウサギ血清)からなる補体
を結合させることにより,該抗原活性が陽性のリンパ球
を破壊・除去して,当該組織適合抗原活性が陰性である
免疫記憶細胞のみを残留させる.治癒個体としてマウス
を使用する場合には,前記所定の組織適合抗原をIa抗原
とし,このIa抗原と特異的に反応する抗Iaモノクローナ
ル抗体を前記細胞集団に加えて,該細胞集団中における
Ia抗原活性が陽性の細胞との抗原抗体複合体を形成さ
せ,これに前記適宜の血清による補体を結合させること
により,Ia抗原活性陽性のリンパ球を破壊・除去してIa
抗原活性が陰性の免疫記憶細胞のみを残留させるように
する.前述のようにマウスにおけるIa抗原は,ヒトの場
合の組織適合抗原HLA−R(またはHLA−DR)に対応する
ものである. 上述のような抗原抗体反応および補体結合反応の結果
得られた細胞に,当該免疫記憶細胞に特有の表面抗原を
抗原としてこれに対抗する例えばラット抗体を加えて反
応させ,このラット抗体により該表面抗原を被覆してお
く.このような処理を施した免疫記憶細胞とは別に,適
宜の抗ラットIgG血清を出発材料として抗ラットIgG抗体
を調製し,この抗IgG抗体により内表面を塗布したガラ
ス器内に上記免疫記憶細胞を懸濁した細胞懸濁液を入れ
て反応させる.これにより,前記抗ラットIgG抗体が前
記表面抗原を被覆しているラット抗体に対する抗体,す
なわち当該反応系における抗原として作用して,抗ラッ
トIgG抗体とラット抗体との間で抗原抗体反応が発生す
るるために,該ラット抗体の被着された細胞が当該ガラ
ス器の内表面に対して付着することとなる.しかして,
このガラス器の内表面に対して非付着性の細胞,すなわ
ち前記表面抗原をもたない細胞を除去した後,該ガラス
器の内表面に対して付着性の細胞群のみを採取し,これ
らの細胞群を含む細胞懸濁液をもって前記第1段階の免
疫記憶細胞懸濁液とする.なお,前記免疫記憶細胞の表
面抗原としては,Thy1抗原,Lyt1抗原,Lyt2抗原,Lyt3抗原
等が知られている. 上記1段階の免疫記憶細胞懸濁液は,前述のようにし
て物理的に分離したT細胞のほぼ0.1%に相当するもの
である.後述するところから明らかなように,本発明者
が行なった各種の実験の結果が示すところから,これら
の細胞の大部分,すなわち該細胞のうちおよそ98%の細
胞は,前記治癒個体としてマウスを用いた場合,それら
の細胞が最小限1×103個あれば,実質的に100%の確率
で免疫記憶の移入が行なわれることが確認されている. 上述のようにして得た第1段階の免疫記憶細胞懸濁液
は,おおむね下記のような操作を行なうことにより,こ
れを効率よく継代培養して前記第2段階の免疫記憶細胞
懸濁液を得ることができる. すなわち,まず前記治癒個体から採取した細胞群と同
系の正常2倍体細胞を培養し,これらの正常2倍体細胞
群にコバルトガンマ線等の放射線を照射して,その分裂
能を抑制した状態,すなわち分裂・増殖活動をいとなむ
ことはできないが生存はしている状態としておく.他
方,前記病因体と同種の病因体を所定の増殖用培地に懸
濁し,この病因体懸濁液に紫外線またはコバルトガンマ
線等,適宜の放射線を照射することによりこれを不活化
して,これを不活化抗原懸濁液とする. 前述のようにして分離・精製した免疫記憶細胞,すな
わち前記第1段階の免疫記憶細胞懸濁液の前記分裂能抑
制状態とした正常2倍体細胞に加える.この混合液に前
記不活加抗原懸濁液を加え,かくて得られた混合懸濁液
をインキュベートする.これらの操作を行なうことによ
り,免疫記憶細胞は,通常5日間でその個数がほぼ3倍
となるような速度で増殖する.このようにして増殖した
免疫記憶細胞を含む懸濁液をもって,前記第2段階の免
疫記憶細胞懸濁液とする. 「作用」 上述のようにして調製した第1段階または第2段階の
免疫記憶細胞懸濁液は,細胞による抗原特異的な免疫機
構すなわち細胞性免疫機構を発現させるものであって,
免疫グロブリンやモノクローナル抗体の産生に寄与する
B細胞がつかさどる抗原抗体反応(体液性免疫反応)に
よる免疫のメカニズムとは原理的に別異のものである.
したがって,本発明による免疫記憶細胞懸濁液は,臨床
的には例えば従来から行なわれているワクチンを抗原と
して用いる感染症予防法等にともなう副作用を招くこと
は,まったくありえない.また,本発明による免疫記憶
細胞懸濁液により得られる免疫効果は,理論的には,治
癒個体が入手しうるかぎりにおいては,現に知られてい
るあらゆる細菌性およびウイルス性の感染症および悪性
腫瘍の予防や治癒に対して有効なものである. [実施例] 次に,このような本発明による免疫記憶細胞懸濁液の
調製方法につき,その具体的な実施例を説明する.
【1】免疫記憶細胞の分離 この実施例においては,癌または細菌性もしくはウイ
ルス性感染症から治癒した履歴をもつマウスを前記治癒
個体として用い,この治癒個体としてのマウスの心臓か
ら末梢血,またはその脾臓組織を採取した. 《1−1》細胞懸濁液の調製 出発材料として末梢血を使用する場合は前処理ための
手順が不要であり,採取した末梢血はこれをただちに5
倍量のハンクス(Hanks)氏液に懸濁した.この混合液
を4℃で15分間,回転数を200rpmとして遠心処理を行な
うことにより解離した細胞を含む細胞懸濁液から,白血
球の集中している最上層を形成する白血層(バッフィー
コート)を静かに吸い上げて分離した. この白血層画分を同じく5倍量のハンクス氏液に懸濁
し,これに対して上記遠心処理と同じく4℃で15分間,
回転数を200rpmとした遠心処理を施した後,上清を除去
した.かくして得た細胞懸濁液に対して,上記と同等の
条件でさらに2回にわたって遠心処理を行ない,かつそ
の都度、上清を除去した.これら都合三回にわたる遠心
処理により洗浄して得た細胞群を,5%に牛胎児血清(FS
C)を含むハンクス氏液中に細胞密度が4×107個/mlと
なるように懸濁して,これをもって本実施例における
「初期の」細胞懸濁液とした. 他方,出発材料として脾臓組織を用いる場合は,まず
前記治癒個体たるマウスの脾臓組織の一部を切取した
後,切取した組織片をステンレス鋼製ストレーナ(メッ
シュ数=Tyler標準スクリーンスケールNo.100)に強く
押しつけ,メッシュ孔を通過した細胞を適当量のハンク
ス氏液に加えて懸濁した.このようにして機械的に解離
した脾臓細胞を含む懸濁液に対して,4℃で15分間,回転
数を2000rpmとして遠心処理を施した. しかる後,上記の洗浄処理の場合と同様の遠心操作
を3回にわたって行ない,これにより得た細胞集団に対
して,5%に牛胎児血清を含むハンスク氏液を細胞密度が
4×107個/mlとなるように加えて,これをもって本実施
例における「初期の」細胞懸濁液とした. 《1−2》T細胞の分離 以上のようにして末梢血または脾臓組織から得た初期
の細胞懸濁液を,まずガラス管(内径2cm,長さ10cm)に
グラスウール10グラムを充填したグラスウールカラムに
滲み込ませ,5%に牛胎児血清を含むハンスク氏液を該カ
ラムの上部に重層した状態で,37℃で45分間インキュベ
ートした.しかる後,カラムの温度を37℃に保持しつつ
上記溶液を静かにカラムに加えながらガラス管下部のコ
ックを開き,分別溶出されてくる細胞懸濁液を遠心管に
集めた.前述のように,T細胞やB細胞はいずれもグラス
ウールに対する付着性が小さく,このため,グラスウー
ルを用いたカラムクロマトグラフィ処理によって,該グ
ラスウールにはT細胞やB細胞以外の細胞,とくにマク
ロファージや白血球等が選択的に付着残留することとな
る.したがって,本処理によってグラスウールカラムか
ら分別溶出した細胞懸濁液中に含まれる細胞群は,実質
的にT細胞およびB細胞のみからなるものである.この
ようにして採取した細胞懸濁液は,当初グラスウールカ
ラムに加えた前記初期の細胞懸濁液中の細胞集団のう
ち,ほぼ30%を含むものである. つづいて,上記遠心管内に採取した細胞懸濁液を4℃
で15分間,回転数を2000rpmとして遠心処理した後,上
清を除去した.かくて得た細胞群を,5%に牛胎児血清を
含むハンクス氏液に細胞密度が4×107個/mlとなるよう
に懸濁し,この細胞懸濁液をガラス管(内径2cm,長さ10
cm)にナイロンウール10グラム(Fenwal Laboratories
社製)を充填したナイロンウールカラムに滲み込ませ,5
%に牛胎児血清を含むハンクス氏液を該カラムの上部に
重層した状態で,再度37℃で45分間インキュベートし
た.しかる後,上記の場合の同様,温度を37℃に保持
しつつ,上記溶液を静かにカラムに加えながら該ガラス
管下部のコックを開き,分別溶出されてくる細胞懸濁液
を集めた.この溶出細胞懸濁液は,ナイロンウールカラ
ムに加えた細胞懸濁液中の細胞群のうち,ほぼ33%を含
むものであり,したがって初めにグラスウールカラムに
加えた細胞集団のうち,ほぼ10%が回収されたこととな
る. 上述のようにして2段階にわたるカラムクロマトグラ
フィ処理により得た細胞群は,そのほとんど,すなわち
実験の結果によればおよそ95%がT細胞であり,本発明
において不要の細胞群は,その大部分が上記グラスウー
ルカラムまたはナイロンウールカラム内の繊維に吸着さ
れて該カラム中に残留したこととなる.ただし前述のよ
うに,この段階の細胞群は,なおかつ少量の不要のリン
パ球等を含むものである. 《1−3》T細胞の精製 これら不要のリンパ球等を除去すべく,前記ナイロン
ウールカラムクロマトグラフィ処理により分別溶出した
細胞懸濁液に対して,まず4℃で15分間,回数を2000rp
mとして遠心処理を施した.この遠心処理により得た細
胞懸濁液から上清を除去し,その結果得られた細胞群を
2%に牛胎児血清を含む199培地に,その細胞密度が8
×107個/mlとなるように懸濁した.ついで,この細胞懸
濁液の1量について前記と同等の培地(2%に牛胎児血
清を含む199培地,以下同じ)で30倍に稀釈した抗Iaモ
ノクローナル抗体(シーダーレーンラボラトリーズ=Ce
darlane Laboratories社製)の2量と,同じく前記と同
等の培地で2倍に稀釈したウサギ血清の1量を加えて,3
7℃で30分間反応させた.これにより,当該細胞懸濁液
のIa抗原活性が陽性の細胞と抗Iaモノクローナス抗体と
の抗原抗体複合体が形成され,この抗原抗体複合体にウ
サギ血清による補体が結合して,Ia抗原活性陽性の細胞
が破壊・除去されてIa抗原活性が陰性の免疫記憶細胞の
みが残留することとなる.かくて得られた細胞懸濁液に
対して,4℃で15分間,回転数を2000rpmとして遠心処理
を行なって細胞を集めた. これらの細胞に対して,さらに同等の条件で前記と同
等の培地を用いた遠心処理を3回にわたって行なった
後,前記と同等の培地にその細胞密度が8×107個/mlと
なるように懸濁した. この細胞懸濁液とは別にラット抗体を後述する方法に
より調製して,これを前記と同等の培地で5倍に稀釈し
た.このラット抗体と該細胞懸濁液をそれぞれ同量ずつ
加えて,4℃で60分間反応させた.この処理により,免疫
記憶細胞に特有の抗原に対する抗体としてラット抗体が
該抗原と結合してこれを被覆することとなる.このよう
な抗原抗体複合体を有する免疫記憶細胞群を含む細胞懸
濁液に対して,4℃で15分間,回転数を2000rpmとして遠
心処理を行なって細胞を集めた.これらの細胞群に対し
て,さらに同等の条件で前記と同等の培地を用いた遠心
処理を3回にわたって行ない,しかる後,その細胞密度
が8×106個/mlとなるように前記と同等の培地に懸濁し
た. さらにこの細胞懸濁液とは別に,抗ラットIgGヤギ血
清を前記と同等の培地で30倍に稀釈して,その10mlをプ
ラスチックシャーレ(内径10cm,ベクトン・ディキンス
ン=Becton Dickinson社製)に入れて,これを4℃に一
夜放置した後,余分の抗体を洗浄除去して該シャーレの
内面に抗ラットIgGヤギ抗体を均一に付着・残留させ
た.このように抗ラットIgGヤギ抗体の液膜を内表面に
形成したシャーレに,上記細胞懸濁液を10mlに入れて4
℃で60分間,静かに水平に保持した. しかる後,該シャーレを軽く揺ってシャーレの内表面
上の液膜に対する付着性が比較的低い細胞,すなわち前
記免疫記憶細胞に特有の抗原をもたない細胞を除去し
た.このシャーレの内表面を10%に牛胎児血清を含むRP
MI−1640培地により3回にわたって洗浄し,つづいて該
培地をシャーレの内表面に対して強く吹きつけることに
より,前記付着性が比較的高い細胞を採取して,これを
もって本実施例における第1段階の免疫記憶細胞懸濁液
とした. 以上の操作〜により集めた細胞,すなわち上記本
実施例における第1段階の免疫記憶細胞懸濁液に含まれ
る免疫記憶細胞は,それらの操作を行なう以前の細胞,
すなわち前記ナイロンウールカラムから溶出した細胞懸
濁液中に含まれていたほぼT細胞からなる細胞群のほぼ
0.1%に相当するものである.この0.1%の細胞に対して
本発明者が行なった各種の実験の結果,それらの細胞の
うちおよそ98%の細胞は下記の特性を有するものである
ことが確認された. 球形の小型リンパ球に属する. 記憶細胞特異抗原については陽性の抗原活性を示す. Thy1抗原,Lytl抗原,Lyt2抗原,Lyt3抗原についてはい
ずれも抗原活性が陽性であり,Ia抗原については陰性を
示す. この免疫記憶細胞懸濁液を本例において治癒個体とし
て用いたマウスと同系のマウスに注入した場合,該免疫
記憶細胞懸濁液中に免疫記憶細胞が少なくとも1×103
個含まれていれば,実質的に100%の確率で免疫記憶の
移入が行なわれる. 該免疫記憶細胞を移植した個体は,これにコバルトガ
ンマ線を照射した場合,600レントゲンを照射しても記憶
を失うことはないが,1100レントゲンを照射した場合に
は記憶を喪失する.このことは,当該細胞が放射線に対
して相当な抵抗力を有する細胞群に属するものであるこ
とを示すものである.
【2】免疫記憶細胞の培養および細胞系の確立 次に,上述のようにして分離・精製して得られた免疫
記憶細胞,すなわち本実施例における第1段階の免疫記
憶細胞懸濁液に含まれる細胞を培養して,前記第2段階
の免疫記憶細胞を得た.以下,その培養方法につき説明
する.なお,この培養方法は,前記実施例において分離
・精製された免疫記憶細胞の増殖およびその細胞系の確
立(株化)のみならず,本発明を適用しうる免疫記憶細
胞一般の培養およびライン化に際しても効果的に実施し
うるものである. 《2−1》同系正常細胞の培養および処理 まず,前記治癒個体としてマウスを用いる場合は,当
該免疫記憶細胞が由来するマウスと同系のマウスから採
取した正常2倍体細胞をシャーレに培養し,かくて成長
した細胞がシャーレ内においてほぼ単層を形成した時点
で,照射線量を2000レントゲンとしたコバルトガンマ線
を照射して,分裂能を抑制した状態とした. 《2−2》不活化抗原懸濁液の調製 他方,当該免疫記憶細胞に記憶されている抗原,すな
わち本実施例に用いた治癒個体が罹病した癌細胞あるい
はウイルスまたは細菌等の病因体を不活化して,その抗
原懸濁液を得た.このためには,例えば該病因体として
ウイルスを用いた場合はその密度が1×109個/mlとなる
ように,また病因体として細菌を用いた場合はその密度
が1×107個/mlとなるように,ウイルスまたは細菌を増
殖用培地にそれぞれ懸濁した.このウイルスまたは細菌
の懸濁液に放射照度を3.6×103erg/sec/cm2として紫外
線を5分間照射することにより不活化し,これをもって
不活化抗原懸濁液とした. 上記ウイルスまたは細菌増殖用培地としては,前記RP
MI−1640培地に牛胎児血清10%,炭酸水素ナトリウム
(NaHCO3)2g/,ピルビン酸ナトリウム(NaOOCCOC
H3)0.11g/,イーストオレート0.1%を加えたものを
用いたが,所望に応じて適宜他の培地を使用してもよい
ことはいうまでもない. また癌等の悪性腫瘍細胞を不活化する場合は,まず治
癒個体から切取した癌の組織片をメスまたはハサミ等を
用いて細切し,0.02%にEDTA(エチレンジアミン四酢
酸)を含むリン酸緩衝化生理食塩水中で4℃で60分間撹
拌し,前記ステンレス鋼製ストレーナと同様のストレー
ナ(メッシュ数=TylerスクリーンスケールNo.100)を
用いて濾過した細胞懸濁液を,4℃で5分間回転数を700
ないし800rpmとして遠心処理して細胞を集めた.このよ
うにして集めた細胞を,細胞増殖用培地に2×103個/ml
となるように懸濁し,この細胞懸濁液に照射線量2000レ
ントゲンのコバルトガンマ線を照射することにより該懸
濁液を不活化して,これをもって不活化抗原懸濁液とし
た.なお,この場合の細胞増殖用培地としては,さきに
特定したウイルスまたは細菌の増殖用培地を用いたが,
上記同様の所望に応じて適宜他の培地を使用してもよい
ことはいうまでもない. 《2−3》免疫記憶細胞の培養 ついで,前述の《1−3》における操作〜によっ
て分離した免疫記憶細胞,すなわち本実施例における第
1段階の免疫記憶細胞懸濁液に,その細胞密度が8×10
5個/mlとなるように上記細胞増殖用培地を加えて得た免
疫記憶細胞懸濁液の所定量を,《2−1》で述べた処理
により分裂能抑制状態とした正常細胞を含むシャーレに
静かに入れた.この場合の所定量としては,例えばシャ
ーレの内径が10cm2ならば5ml,6cm2ならば2.5mlとした.
このようにして得た混合懸濁液に対して,《2−2》で
述べた処理により調製した不活化抗原懸濁液を該混合懸
濁液と同量加え,これにより得られた混合液を5%の炭
酸ガスを含む雰囲気中において37℃でインキュベートし
た.かくて培養された細胞を遠心分離により回収し,こ
の初代培養細胞懸濁液をもって,本実施例における第2
段階の免疫記憶細胞懸濁液とした. 上述のようにして得られた第2段階の免疫記憶細胞懸
濁液に対して,前記第1段階の免疫記憶細胞懸濁液に対
する初代培養に用いた操作と同様の操作を施すことによ
り,次世代の免疫記憶細胞を継代培養することができ
る. すなわち,前記第2段階の免疫記憶細胞懸濁液に《2
−3》で述べたようにして,その細胞密度が8×105個/
mlとなるように前記細胞増殖用培地を加えて,前記分裂
能抑制状態とした正常細胞および前記不活化抗原懸濁液
を加えて得られた混合懸濁液を前記の条件下でインキュ
ベートした後遠心分離することにより,免疫記憶細胞の
培養を集める.このようにして回収された免疫記憶細胞
は,前記第1段階の免疫記憶細胞懸濁液中に含まれる免
疫記憶細胞をもって第1世代の免疫記憶細胞とし,また
前記第2段階の免疫記憶細胞懸濁液中に含まれる免疫記
憶細胞をもって第2世代の免疫記憶細胞とした場合,第
3世代の免疫記憶細胞となるものであり,以下第1世代
の免疫記憶細胞から第2世代の免疫記憶細胞を培養する
初代培養と同様の操作を繰り返して行なうことにより,
本発明あるいはその他の方法により分離・精製された免
疫記憶細胞の継代培養を効率よく行なうことができる.
この継代培養においては,免疫記憶細胞は5日間でその
個数がほぼ3倍となるような速度で増殖することが実験
により確認されている.このように高い増殖率は,本発
明による免疫記憶細胞懸濁液における免疫記憶細胞の細
胞系を効率よく確立しライン化することが可能であるこ
とを示すものであり,ひいては該免疫記憶細胞を安定し
て,かつ安価に提供することが可能であることを保証す
るものである. なお,前記第1段階の免疫記憶細胞懸濁液から培養さ
れた細胞(第2世代の免疫記憶細胞)は,顕微鏡下での
所見によれば,形態的には全体として略球形で,その大
きさは第1段階の免疫記憶細胞自体にくらべて約3倍程
度であり,かつその核も概して大型となっているが,た
だし膜抗原は当初のものがすべてそのままに保持されて
いるのが観察された.
【3】免疫記憶細胞の罹病予防効果 上述のようにして分離精製した本実施例における第1
段階の免疫記憶細胞,またはこの第1段階の免疫記憶細
胞から増殖させて得た第2段階の免疫記憶細胞を移植し
た個体(移植個体)を,当初の治癒個体が罹病した病因
体と同種の病原微生物または癌細胞により攻撃して,概
免疫記憶細胞の罹病予防効果を評価検定した.治癒個体
としてはマウスを用い,また病因体としては癌細胞,サ
ルモネラ菌,コリネバクテリア,シュードモナス菌,パ
スツレラ菌,連鎖球菌,エクトロメリア・ウイルス,セ
ンダイウイルス(HVJ)を使用した.下表はその結果を
示すものである. マウス感染実験における罹病予防効果
【癌細胞】移植細胞数 予防効果 1×104個 100% 1×103個 100% 6×102個 70% 3×102個 42% 1×102個 34%
【サルモネラ菌】移植細胞数 予防効果 1×104個 100% 1×103個 100% 6×102個 68% 3×102個 34% 1×102個 20%
【コリネバクリア】移植細胞数 予防効果 1×104個 100% 1×103個 100% 6×102個 48% 3×102個 26% 1×102個 14%
【シュードモナス菌】移植細胞数 予防効果 1×104個 100% 1×103個 100% 6×102個 41% 3×102個 23% 1×102個 11%
【パスツレラ菌】移植細胞数 予防効果 1×104個 100% 1×103個 100% 6×102個 78% 3×102個 53% 1×102個 35%
【連鎖球菌】移植細胞数 予防効果 1×104個 100% 1×103個 100% ×102個 44% 3×102個 31% 1×102個 17%
【エクトロメリア・ウイルス】移植細胞数 予防効果 1×104個 100% 1×103個 100% 6×102個 51% 3×102個 27% 1×102個 13%
【センダイウイルス】移植細胞数 予防効果 1×104個 100% 1×103個 100% 6×102個 88% 3×102個 63% 1×102個 29% 上の実験結果から明らかなように,上記病因体のいず
れについても,治癒個体に由来する免疫記憶細胞を1×
103個以上移植した場合には,該免疫記憶細胞を移植し
てない個体(非移植個体)が100%の確率で罹病する量
の細菌性またはウイルス性病原体を感染させるか,また
はその非移植個体が100%の確率で罹病する量の癌細胞
を移植しても,完全にそれらの病原微生物または癌細胞
による発病を抑制しうることが,マウスに関して実験的
に確認されている. さらに上の実験結果から明らかなように,マウスを治
癒個体とした場合,免疫記憶細胞の移植個数が1×103
個以下であっても,対象とする病因体により若干異る
が,6×102個の免疫記憶細胞を移植することによりほぼ5
0%の確率で,また3×102個の免疫記憶細胞を移植する
ことによりほぼ30%の確率で,それぞれ当該病因体に起
因する病気の発症を予防することが可能であることも実
験により確認されている.
【4】抗記憶細胞ラット抗体の調製 《1−3》の処理に用いる前記ラット抗体は,下記
のようにしてこれを調製した. すなわち,まず前述(《1−3》)のようにして集
めた免疫記憶細胞をリン酸緩衝化生理食塩水に懸濁し,
この懸濁液に対して適宜の条件で通常の遠心処理を行な
った.これらの操作を3回にわたって繰り返し行なうこ
とによって得られた細胞を洗浄し,最後に得られた細胞
群をその細胞密度が1×108個/mlとなるように上記リン
酸緩衝化生理食塩水に懸濁した.かくて得られた懸濁液
の0.25mlをウイスタ(Wister)系雌ラットの大腿部皮下
に投与した.さらに,この最初の投与を行なった日から
10日目および20日目に,同数の細胞を当該雌ラットの大
腿部皮下にそれぞれ投与した.また最初の投与を行なっ
た日から30日目および40日目に,上記と同様にして前述
のようにして得られた細胞群をその細胞密度から1×10
9個/mlとなるようにし,前記リン酸緩衝化生理食塩水に
懸濁して,その0.25mlを前記ラットの腹腔内に投与し
た.さらに最初の投与を行なった日から50日ないし55日
目に,当該ラットより全採血した.かくて1匹のラット
から5mlないし6mlの血清が得られた. 上記の処理とは別に,免疫記憶細胞を採取したマウス
と同系でかつ誕生直後のマウスから脾臓組織の一部を切
取した.この切取した組織片を前記と同等のステンレス
鋼製ストレーナに強く押しつけて,メッシュ孔を通過し
た細胞を集めた.このようにして機械的に解離した脾臓
細胞を前記リン酸緩衝化生理食塩水に懸濁し,得られた
細胞懸濁液に対して遠心処理を行なった.このような処
理を3回繰り返し,最後に得られた細胞塊に対して約1.
5倍量のラット血清を加えて充分に撹拌した後,氷中に6
0分間放置し,この間ほぼ15分おきにさらによく撹拌し
た.しかる後,60分が経過した時点で当該懸濁液に対し
て適宜の条件で通常の遠心処理を行ない,かくて得られ
た上清に対して上記と同様の操作を施した.こうした処
理を3回にわたって繰り返し,最終的に得られた上清を
もって目的の抗記憶細胞ラット抗体として,前述した
《1−3》の処理に用いた. [発明の効果] 本発明による免疫記憶細胞懸濁液は,現に知られてい
るあらゆる感染症や悪性腫瘍からの治癒歴をもつ個体の
循環系胸腺依存域から分離,精製,培養することが可能
であり,したがって治癒履歴を有する個体を入手しうる
かぎり,どのような細菌性およびウイルス製の感染症や
悪性腫瘍に対しても免疫効果を発揮するものである. さらに,本発明による免疫記憶細胞懸濁液はそれによ
る免疫機構が抗原抗体反応による免疫のメカニズムとは
原理的に異るものであるため,従来から行なわれている
ワクチンを抗原として用いる感染症予防法にともなう副
作用等を招くことは,まったくありえない.また,前記
第1段階の免疫記憶細胞懸濁液から集めた培養細胞を前
述のようにして継代培養を行なうことにより,前記第2
段階の免疫記憶細胞懸濁液中に免疫記憶細胞の細胞系を
効率よく確立して,該免疫記憶細胞を安定してかつ安価
に提供しうるようにすることが可能である. 以上,本発明の実施例につき記載してきたが,本発明
による方法は,記載の実施例について適宜追加ないし変
更を行なって実施してもよいことはいうまでもない.
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (56)参考文献 Proc.Natl.Acad.Sc i.USA,Vol.82,No.22 (1985)P.7686−7690 Biotherapy,Vol.1, No.2(1987)P.232−238 The Journal of Im munology,Vol.138,No. 4(1987)P.1009−1013 The Journal of Im munology,Vol.139,No. 5(1987)P.1501−1508

Claims (4)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】所定の病因体に対して免疫感作した個体か
    ら採取した細胞群から得られた免疫記憶細胞含有懸濁液
    と、前記個体から採取した細胞群と同系の正常細胞に放
    射線を照射して分裂能を抑制した細胞群と、前記病因体
    と同種の病因体から採取した細胞群に放射線を照射して
    得た不活化抗原とを含む混合液をインキュベートするこ
    とにより得た細胞を含む細胞懸濁液をもって免疫記憶細
    胞懸濁液とすることを特徴とする免疫記憶細胞懸濁液の
    調製方法。
  2. 【請求項2】前記所定の病因体に対して免疫感作した個
    体から採取した細胞群から免疫記憶細胞懸濁液を得るに
    あたっては、 所定の病因体に対して免疫感作した個体から採取した細
    胞群から実質的にT細胞のみからなる細胞集団を分離
    し、 この細胞集団に所定の組織適合抗原と特異的に反応する
    抗体を加えて、該細胞集団中における前記組織適合抗原
    が陽性の表面抗原活性を示す細胞と反応させ、 この反応の結果形成された抗原抗体複合体に適宜の補体
    を結合させることにより、前記組織適合抗原活性が陰性
    を示す免疫記憶細胞群のみを残留させ、 この残留した免疫記憶細胞群の表面抗原に対向する抗体
    を免疫感作されたことのない正常細胞と反応させること
    により記憶細胞に特有の表面抗原に対向する抗体を抽出
    し、 前記免疫記憶細胞群に該記憶細胞に特有の表面抗原に対
    抗する抗体を反応させ、該免疫記憶細胞群のうち前記特
    有の表面抗原を有する記憶細胞を分離、採取することと
    した前記特許請求の範囲第1項に記載の免疫記憶細胞懸
    濁液の調製方法。
  3. 【請求項3】所定の病因体に対して免疫感作した個体か
    ら採取した細胞群から実質的にT細胞のみからなる細胞
    集団を分離し、 この細胞集団に所定の組織適合抗原と特異的に反応する
    抗体を加えて、該細胞集団中における前記組織適合抗原
    が陽性の表面抗原活性を示す細胞と反応させ、 この反応の結果形成された抗原抗体複合体に適宜の補体
    を結合させることにより、前記組織適合抗原活性が陰性
    を示す免疫記憶細胞群のみを残留させ、 この残留した免疫記憶細胞群の表面抗原に対向する抗体
    を免疫感作されたことのない正常細胞と反応させること
    により記憶細胞に特有の表面抗原に対向する抗体を抽出
    し、 前記免疫記憶細胞群に該記憶細胞に特有の表面抗原に対
    抗する抗体を反応させ、該免疫記憶細胞群のうち前記特
    有の表面抗原を有する記憶細胞を分離、採取してこれを
    第1段階の免疫記憶細胞懸濁液とし、 前記個体から採取した細胞群と同系の正常細胞に放射線
    を照射して分裂能を抑制した細胞群と、前記第1段階の
    免疫記憶細胞懸濁液と、前記病因体と同種の病因体から
    採取した細胞群に放射線を照射して得た不活化抗原とを
    含む混合液をインキュベートすることにより得た細胞を
    もってこれを第2段階の免疫記憶細胞懸濁液とすること
    を特徴とする免疫記憶細胞懸濁液の調製方法。
  4. 【請求項4】前記免疫記憶細胞群のうち前記表面抗原を
    有する細胞を分離して採取するにあたっては、抗IgG抗
    体を塗布した表面上の該抗IgG抗体層に前記免疫記憶細
    胞群を接触・反応させることにより、該免疫記憶細胞群
    のうち前記表面抗原を有する細胞を前記表面に付着さ
    せ、しかる後この表面に対して付着性の細胞を採取して
    これを前記第1段階の免疫記憶細胞懸濁液とすることと
    した前記特許請求の範囲第3項に記載の免疫記憶細胞懸
    濁液の調製方法。
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