JP2630431B2 - 新規レクチン及びその製造方法 - Google Patents

新規レクチン及びその製造方法

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Description

【発明の詳細な説明】 [産業上の利用分野] この発明は、新規なレクチン及びその製造方法に関す
る。この発明のレクチンは臨床診断試薬及び分離精製試
薬としての用途を有する。
[従来技術及びその欠点] 従来より、N−アセチル−D−グルコサミン(以下Gl
cNAcと記載する)に特異的に結合する一群のレクチンが
知られている。従来から知られているGlcNAc特異的レク
チンの多くはキチンタイプ(GlcNAcβ1→4)の糖鎖
を識別して結合する。一方、GlcNAcβ1→4GlcNAcは血
清中の糖タンパク質及び細胞膜マーカーの糖鎖の根元部
分の基本構造を形成しており、生体に広く存在する。従
って、従来から知られているGlcNAc特異的レクチンを臨
床診断薬として用いることは行われていない。また、血
清、細胞又は組織に出現する病変が側鎖に存在するGlcN
Acβ1→4以外の結合様式、例えばβ1→6結合やβ1
→3結合に基づく可能性もあるが、これらの結合を検出
することに従来のβ1→4結合特異的レクチンを用いる
ことはできない。
[発明が解決しようとする問題点] 従って、この発明の目的は、GlcNAcに対し高い親和性
を有し、特にGlcNAcβ1→6及びGlcNAcβ1→3に対し
て高い親和性を有し、臨床診断と、これらの構造を有す
る糖鎖の分離に用いることができる新規なレクチン及び
その製造方法を提供することである。
[問題点を解決するための手段] 本願発明者は鋭意研究の結果、ムジナタケ(Psathyre
lla velutina)の子実体から上記目的を達成することが
できる新規なレクチンを見出しこの発明を完成した。
すなわち、この発明はムジナタケの子実体中に存在
し、分子量が約4万ダルトンの単量体であり、GlcNAcに
対する親和定数がK0=6.4×103M-1である結合基を4個
持ち、等電点が9以上であり、GlcNAc>(GlcNAc)
(GlcNAc)、GlcNAcβ1→6,GlcNAcβ1→3>GlcNAc
β1→4、R1→6GlcNAc>R1→3GlcNAc,R1→4GlcNAc(た
だしRはGlcNAc以外の糖を示す)の反応性を有し、下記
表1に示すアミノ酸組成を有する新規レクチン及びその
類似体を提供する。
表1 残基 モル% 残基 モル% Asx 13.7 Met 1.0 Thr 7.6 Ile 5.1 Ser 4.9 Leu 7.4 Clx 6.7 Tyr 2.9 Pro 4.3 Phe 6.5 Gly 11.6 His 2.1 Ala 7.6 Lys 4.5 Cys 0.7 Trp 0.4 Val 6.3 Arg 6.7 (ただし、AsxはAsn及びAsp、GlxはGln及びGluを示
す。) さらにまた、この発明は、ムジナタケの子実体を水系
媒体で抽出し、キチン又はキチンをさらにN−アセチル
化したものを固定化したアフィニティークロマトグラフ
ィーに該抽出物を架け、GlcNAcで溶離し、溶離液を二価
又は三価のアルコールの存在下で限外ろ過することを含
む上記レクチンの製造方法を提供する。
[発明の効果] この発明のレクチンは、GlcNAcに対して従来のレクチ
ンよりも高い親和性を示し、特にGlcNAcβ1→4結合よ
りもGlcNAcβ1→6結合及びGlcNAcβ1→3結合に高い
親和性を有するので、このレクチンを酵素、ビオチン又
は蛍光色素のような適当なマーカーで標識してGlcNAcを
有する特定の糖鎖構造を有する物質の高感度検出用臨床
試薬として用いることができる。さらにまた、この発明
のレクチンを固相化したアフィニティクロマトグラフィ
ーを用いてGlcNAcを有する糖鎖を精製することもでき
る。
[発明の具体的説明] この発明の新規レクチンは、ムジナタケ((Psathyre
lla velutina)の子実体中に存在する。ムジナタケは標
高100mないし1000mの野外裸地地上に生息している。
この発明のレクチンの単量体の分子量は、ゲルろ過
法、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動法のいずれの
方法によって調べても約4万ダルトンである。また、こ
の発明のレクチンは、等電点が9以上であり、上記表1
に示したアミノ酸組成を有する。
この発明のレクチンは、以下のような結合特異性を有
する。
(1)オリゴ糖を用いた結合反応阻害試験から、GlcNAc
>(GlcNAc)≧(GlcNAc)の順に結合性を有する。
(2)オリゴ等を用いた結合反応阻害試験から、GlcNAc
β1→6,GlcNAcβ1→3>GlcNAcβ1→4の順に結合性
を有する。
(3)オリゴ糖を用いた結合反応阻害試験から、R1→6G
lcNAc>R1→3GlcNAc,R1→4GlcNAc(ただしRはGlcNAc以
外の糖を示す)の順に結合性を有する。
上記3つの結合特異性は従来より知られているGlcNAc
特異的レクチンの結合特異性とは著しく異なるものであ
る。
(4)GlcNAcに対する親和定数がK0=6.4×103M-1であ
る。
(5)同一糖鎖に2つの非還元末端GlcNAcが存在すると
結合が強まる。
(6)いわゆる「zone phenomenon」(zone phenomenon
とは抗体(本願発明の場合はレクチン)又は抗原濃度が
著しく高いときに、抗体(レクチン)と抗原の結合反応
が阻害されることをいう。文献:「免疫化学」山村、石
坂、朝倉書店)を示す。また、GlcNAc特異的で他の糖
(GlcNH2、Glc、Man、GalNAc等)とは見かけ上全く結合
しない。
この発明のレクチンは以下のようにして得ることがで
きる。なお、この発明のレクチンは水溶液中で不溶化し
やすいので、従来からレクチンの精製法において常用さ
れている塩析や透析を適用することができない。以下に
述べるこの発明のレクチンの精製方法は、この問題を解
決するために本願発明者によって開発されたものであ
り、レクチンの精製法として画期的なものである。
まず、ムジナタケの子実体を水系媒体で抽出する。水
系媒体としては生理食塩水にトリス緩衝液やリン酸緩衝
液のような緩衝液を加えたものが好ましい。また、抽出
は、濃度0.1ないし0.2mM程度のフェニルメチルスルフォ
ニルフルオライドの存在下で行うことが抽出液に含まれ
るタンパク分解酵素による自己消化防止のため好まし
い。
一方、キチン又はキチンをN−アセチル化したものを
用いたカラム(キチンカラム)を用意する。キチンは市
販のものを用いることができる。またキチンをさらにN
−アセチル化したキチンカラムは例えば市販キチンを
酸、アルカリで数回洗った後、飽和炭酸水素ナトリウム
液中で無水酢酸を加えることによりN−アセチル化し、
これを適当なガラス製クロマトグラム用カラムに充填す
ることによって調製することができる。
このキチンカラムを前記抽出に用いた溶液で予め平衡
化しておき、上記ムジナタケの抽出液を通す。次に、吸
着されたレクチン画分を例えば50mM程度のGlcNAcで溶離
する。
次に、得られた溶離物を低分子量の二価又は三価のア
ルコールの存在下で限外ろ過し、濃縮する。この際に用
いるアルコールの好ましい例として10%ないし20%のグ
リセリン又はエチレングリコールを挙げることができ
る。限外ろ過は例えば限外ろ過膜Advantec Q0100(商品
名、東洋ロ紙社製)を用いて行うことができる。
このようにして、この発明のレクチンを得ることがで
きるが、レクチンの純度をさらに高めたい場合には、以
下のようにしてさらに精製を進めることができる。な
お、用いる溶液は全て10%グリセリンを含んでいる。
上記濃縮液をDEAE−セファロース(ファルマシア社
製)又はDEAE−セルロースカラムに架けて素通り画分を
集め、CM−セファロース(ファルマシア社製)に吸着さ
せる。カラムから例えば0.4MのNaClで溶出させ、上記と
同様の限外ろ過で濃縮し、上記キチンカラムで再度吸
着、溶出を行い、溶出液を上記限外ろ過法で濃縮し、こ
れに溶離剤(GlcNAc)を含まない生食緩衝液を加えて濃
縮することを4〜5回繰り返して透析の目的を果たす。
このようにして得られるレクチン標品は凍結保存する
ことができる。
上記精製法による精製度は十分安定しており、100gの
ムジナタケから約25mgのこの発明のレクチンを得ること
ができる。
なお、一般に生理活性を有するタンパク質において、
その生理活性を示す構造は一通りに特定されるのではな
く、実質上同一の生理活性を示すためにある範囲の構造
的相違が許容されることは当業者により広く認識されて
いるところである。従って、上記したこの発明のレクチ
ンを構成するアミノ酸の一部が他のアミノ酸に置換さ
れ、除去され又は他のアミノ酸が付加されたタンパク質
でなおこの発明のレクチンの上記結合特異性を有するも
のもこの発明の範囲に含まれる。このようなものを特許
請求の範囲において「類似体」と呼んでいる。また、分
子量4万の単量体であるこの発明のレクチンが複数個重
合したものもこの発明の範囲に含まれる。
この発明のレクチンはGlcNAcを含む糖鎖を有する物質
を検出するための臨床診断試薬及び上記物質を精製する
ための試薬としての用途を有する。この発明のレクチン
はN−ヒドロキシルサクシンイミド基を持つゲル(例え
ばアフィゲル10、米国バイオラッド社製)と常温で反応
させることにより容易にカップリングして固相化でき
る。また、N−ヒドロキシルサクシンイミド化したビオ
チンと常温で反応させることによって容易にカップリン
グしてビオチン標識レクチンを得ることができる。同様
にタンパク質の化学修飾として一般的に知られている蛍
光標識、酵素標識等が可能である。従って、この発明の
レクチンは診断試薬又は分離精製試薬として容易に用い
ることができる。また、この発明のレクチンの結合特性
を利用して糖鎖基部に普遍的なGlcNAcβ1→4構造の存
在にかかわりなく、末端部に露出したGlcNAcβ1→6と
GlcNAcβ1→3構造、R1→6GlcNAc構造を識別すること
に応用することが可能であり、このようなことは本発明
により初めて可能になったことである。
次にこの発明の関する各種特性の測定方法についてま
とめて示す。
(1)分子量(ゲルろ過法) 生化学実験講座1、タンパク質の化学I、日本生化学
学会編、東京化学同人(1976)に記載された原理方法に
基づき、トヨパールHW55(東洋曹達製)をゲルろ過剤と
し、10%グリセリン及び10mM GlcNAcを含む生食緩衝液
を用いて行なった。
(2)分子量(SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動
法) 上記文献に記載された原理方法に基づき、10%ポリア
クリルアミドゲルを作製して行なった。
(3)GlcNAcに対する親和定数K0 3H−GlcNAcを用いた平衡透析の結果をScatchardの式
にあてはめてプロットし、グラフ上から読み取った。
(文献:Pinckard,"Handbook of Experimental Immunolo
gy,Vol.1,Chapter17,Blackwell Scientific Plbl.(197
8) (4)GlcNAcに対する結合基数 GlcNAcに対する結合基数は上記(3)で得られたグラ
フ上から読み取った。(文献は(3)と同じ) (5)等電点 上記生化学実験講座に記載された原理方法に基づき、
ポリアクリルアミドゲル上で等電点電気泳動を行なっ
た。
(6)オリゴ糖を用いた結合阻害反応試験 J.L.Guesdon,T.Ternynck and S.Avrameas,“J.Histoc
hem.Cytochem."27,1131−1139(1979)に記載されたア
ビジン−ビオチン結合反応を利用した酵素抗体法(ELIS
A)を応用して行なった。すなわち、固相化した抗原に
ビオチン化該レクチン、アビジンとビオチン化酵素の混
合溶液、蛍光性酵素基質を逐次加えて、蛍光強度(結合
した該レクチン量に相当)を測定する。このとき、2倍
系列希釈した阻害オリゴ糖(下記表2)と該レクチンと
を反応させてから加えると蛍光強度が変化する。そこ
で、オリゴ糖を含まない対照実験に対する相対蛍光強度
を、オリゴ糖濃度に対してプロットすることにより、該
レクチン結合を50%阻害するのに必要な濃度を知ること
ができる。これは、該レクチンの各種糖鎖構造に対する
結合特性を反映した値で、小さい数ほど結合が強い。
(7)アミノ酸組成 続生化学実験講座2 タンパク質の化学上、日本生化
学会編、東京化学同人、に記載された方法により行なっ
た。すなわち、該レクチンの6M塩酸加水分解物を高速液
体クロマトグラフィー(島津製作所、LC6A)で分離し、
ポストカラム法で同定、定量した。また、トリプトファ
ンについては非加水分解試料の分光学的測定により(文
献Edelhoch,H.1967 Biochemistry1948〜1954)同定、
定量した。
[発明の実施例] レクチンの製造 群馬県榛名山及び赤城山の標高500m〜600mの地上に生
息しているムジナタケの子実体を採取し、これを濃度0.
1mMのフェニルメチルスルフォニルフルオライドの存在
下で10倍量のトリス緩衝液(pH7.5)で1時間、4℃で
抽出した。
一方、市販キチン(生化学工業社製)を酸、アルカリ
で数回洗った後、飽和炭酸水素ナトリウム液中で無水酢
酸を加えることによりN−アセチル化し、これを適当な
ガラス製クロマトグラム用カラムに充填することによっ
てキチンをN−アセチル化したものを用いてカラム(キ
チンカラム)を調製した。
このキチンカラムを上記抽出に用いた溶液で予め平衡
化し、ムジナタケの上記抽出液をカラムに通した。カラ
ムに吸着したレクチン画分を50mMGlcNAcで溶出し、レク
チンを含む溶出液を限外ろ過膜(Advantec Q0100東洋ロ
紙社製)を用いた限外ろ過により濃縮した。濃縮液をDE
AE−セファロース(ファルマシア社製)に架け、素通り
画分を集め、CM−セファロース(ファルマシア社製)に
吸着させた。カラムから0.4M NaClで溶出させ、上記限
外ろ過膜を用いて濃縮し、上記キチンカラムを用いて上
記と同様に吸着、溶出を行なった。溶出液を上記限外ろ
過膜で限外ろ過して濃縮し、この濃縮液に溶離剤を含ま
ない溶液を加えてさらに濃縮することにより透析し、こ
の発明のレクチンを得た。
レクチンの物理化学的性質 上記のようにして得られたレクチンの単量体の分子量
を上記したゲルろ過法及びSDS−ポリアクリルアミドゲ
ル電気泳動法でそれぞれ測定したところいずれも約4万
ダルトンであった。また、上記した方法により等電点を
測定したところ9以上であった。さらに、上記方法によ
りアミノ酸組成を調べたところ上記表1に示すアミノ酸
組成を有していた。さらに、上記方法によりGlcNAcに対
する親和定数を測定したところK0=6.4×10-M-1であっ
た。また、アミノ酸分析により、ヘキソサミンを含まな
いこと、及び中性糖含量も痕跡程度であることから、レ
クチンが実質的にアミノ糖を含まないことが確かめられ
た。
レクチンの結合特異性 下記表2に示す種々のオリゴ糖を用い、上記したよう
にして結合反応阻害試験を行なった。結果を同表に示
す。なお、表中の「活性」はレクチン結合を50%阻害
(XVIIは40%)するオリゴ糖の濃度を示す。
この実験から該レクチンの糖結合特性として以下のこ
とがわかる。
(1)実験I、V、IXの比較からGlcNAc>(GlcNAc)
≧(GlcNAc)であること。
(2)実験V、VI、VII、VIII、IX、X、XI、XII、XVII
Iの比較からGlcNAcβ1→6,GlcNAcβ1→3>GlcNAcβ
1→4であること。
(3)実験IV、XIII、XIV、XV、XVIIIの比較からR1→6G
lcNAc>R1→3GlcNAc,R1→4GlcNAc(ただしRはGlcNAc以
外の糖)であること。
(4)実験XVI、XVIIから、同一鎖に2個以上のGlcNAc
が存在すると著しく結合が強まること。

Claims (2)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】ムジナタケの子実体中に存在し、分子量が
    約4万ダルトンの単量体であり、GlcNAcに対する親和定
    数がK0=6.4×103M-1である結合基を4個持ち、アミノ
    糖を含まず、等電点が9以上であり、GlcNAc>(GlcNA
    c)≧(GlcNAc)、GlcNAcβ1→6,GlcNAcβ1→3
    >GlcNAcβ1→4、R1→6GlcNAc>R1→3Glc NAc,R1→4G
    lcNAc(ただしRはGlcNAc以外の糖を示す)の反応性を
    有し、下記アミノ酸組成を有する新規レクチン及びその
    類似体。 残基 モル% 残基 モル% Asx 13.7 Met 1.0 Thr 7.6 Ile 5.1 Ser 4.9 Leu 7.4 Glx 6.7 Tyr 2.9 Pro 4.3 Phe 6.5 Gly 11.6 His 2.1 Ala 7.6 Lys 4.5 Cys 0.7 Trp 0.4 Val 6.3 Arg 6.7 (ただし、AsxはAsn及びAsp、GlxはGln及びGluを示
    す。)
  2. 【請求項2】ムジナタケの子実体を水系媒体で抽出し、
    キチン又はキチンをさらにN−アセチル化したものを用
    いたアフィニティークロマトグラフィーに該抽出物を架
    け、GlcNAcで溶離し、溶離液を二価又は三価のアルコー
    ルの存在下で限外ろ過することを含むレクチンの製造方
    法。
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